(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1046 20160101AFI20240530BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240530BHJP
H01M 8/1004 20160101ALI20240530BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20240530BHJP
H01M 8/1053 20160101ALI20240530BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240530BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240530BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20240530BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240530BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240530BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240530BHJP
【FI】
H01M8/1046
H01M8/10 101
H01M8/1004
H01M8/1018
H01M8/1053
H01M4/90 B
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M4/92
B01J23/42 M
H01B1/06 A
C25B9/23
C25B13/04 301
(21)【出願番号】P 2021534194
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(86)【国際出願番号】 GB2020050093
(87)【国際公開番号】W WO2020148545
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2023-01-04
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】ミスティ、マユアー
(72)【発明者】
【氏名】オマリー、レイチェル
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/115821(WO,A1)
【文献】特開2007-250265(JP,A)
【文献】Lale Isikel Sanli et al.,Development of graphene supported platinum nanoparticles for polymer electrolyte membrane fuel cells: Effect of support type and impregnation-reducion methods,INTERNATIONAL JOURNAL OF HYDROGEN ENERGY,ELSEVIER,2016年01月16日,vol.41,pp.3414-3427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン交換膜と、前記プロトン交換膜の両方の面に適用された電極触媒層と、を含む、触媒コーティング膜であって、
前記プロトン交換膜は、イオン伝導性ポリマーと、担持された再結合触媒とを含むイオン伝導性層
を含み、前記再結合触媒が、グラフェン上に担持されている、
触媒コーティング膜。
【請求項2】
前記担持された再結合触媒が、前記イオン伝導性ポリマー中に分散されている、請求項1に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項3】
前記再結合触媒が、白金、パラジウム、白金を含む合金、パラジウムを含む合金、又はこれらの混合物である、請求項1又は2に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項4】
前記再結合触媒が、グラフェン系プレートレット上に担持されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項5】
前記
プロトン交換膜が、2つ以上のイオン伝導性層を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項6】
前記
プロトン交換膜が、6つ以下のイオン伝導性層を含む、請求項5に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項7】
少なくとも1つのイオン伝導性層が、担持された再結合触媒を含まない、請求項5又は6に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項8】
前記再結合触媒が、前記再結合触媒及び前記グラフェンの総重量の10~90重量%の範囲の量で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項9】
前記
プロトン交換膜が、補強材料を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の
触媒コーティング膜。
【請求項10】
前記電極触媒
層が、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウム)、
(ii)金、
(iii)卑金属、
又はこれらの金属若しくはそれらの酸化物のうちの1つ以上を含む合金又は混合物から選択される
電極触媒を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の触媒コーティング膜。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒コーティング膜を含む、膜電極接合体。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒コーティング膜、又は請求項
11に記載の膜電極接合体を含む、燃料電池。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒コーティング膜、又は請求項
11に記載の膜電極接合体を含む、プロトン交換膜電気分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン交換膜に関する。より具体的には、本発明は、グラフェン上に担持された再結合触媒を含むプロトン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を含む電気化学セルである。燃料、例えば水素、メタノール若しくはエタノールなどのアルコール、又はギ酸が、アノードに供給され、酸化剤(例えば酸素又は空気)がカソードに供給される。電気化学反応は電極で発生し、燃料及び酸化剤の化学エネルギーは、電気エネルギー及び熱に変換される。電極触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化、及びカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は、通常、使用される電解質の性質に応じて分類される。多くの場合、電解質は固体高分子膜であり、この膜は電子的に絶縁性であるがイオン伝導性である。プロトン交換膜燃料電池において、膜はプロトン伝導性であり、アノードで生成されたプロトンは、膜を介してカソードに輸送され、そこで酸素と結合して水を形成する。
【0004】
プロトン交換膜燃料電池の主な構成要素は、本質的に5つの構成要素から構成される膜電極接合体である。中心的な構成要素はプロトン交換膜である。イオン伝導性膜の両側には、特定の電気化学反応用に設計された電極触媒材料を含有する電極触媒層が存在する。最後に、各電極触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電極触媒層に到達できるようにする必要があり、電気化学反応によって生成される電流を伝導する必要がある。したがって、ガス拡散層は多孔質であり、電気伝導性である必要がある。
【0005】
電極触媒層は、一般に、層がアノード又はカソードのどちらにおいて使用されるかに応じて、燃料酸化又は酸素還元反応に好適な金属又は金属合金を含む電極触媒材料を含む。電極触媒は、典型的には、白金又は1つ以上の他の金属と合金化された白金に基づく。白金又は白金合金触媒は、担持されていないナノ粒子(金属ブラック又は他の担持されていない微粒子金属粉末など)の形態であり得るが、より従来的に、白金又は白金合金は、高表面積導電性炭素材料、例えばカーボンブラック又はその熱処理形態上により高表面積のナノ粒子として堆積される。
【0006】
電極触媒層はまた、一般に、プロトン伝導性ポリマーなどのプロトン伝導性材料を含み、アノード触媒から膜への、及び/又は膜からカソード触媒へのプロトンの移動を補助する。
【0007】
従来的に、膜電極接合体は、以下に概説される多くの方法によって構築することができる:
(i)ガス拡散層に電極触媒層を適用して、ガス拡散電極を形成してもよい。イオン伝導性膜の各側にガス拡散電極を配置し、互いに積層して、5層膜電極接合体を形成する。
(ii)イオン伝導性膜の両面に電極触媒層を適用して、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成してもよい。続いて、触媒コーティングされたイオン伝導性膜の各面にガス拡散層を適用する。
(iii)片側に電極触媒層でコーティングされたイオン伝導膜、その電極触媒層に隣接するガス拡散層、及びイオン伝導性膜の反対側のガス拡散電極から、膜電極接合体を形成することができる。
【0008】
典型的には、大部分の用途に十分な電力を提供するには、数十又は数百の膜電極接合体が必要とされるので、燃料電池スタックを作製するための複数の膜電極接合体が組み立てられる。フローフィールドプレートを使用して膜電極接合体を分離する。このプレートは、膜電極接合体に反応物質を供給することと、製品を除去することと、電気的接続を提供することと、物理的担持を提供することと、のいくつかの機能を実行する。
【0009】
燃料電池におけるプロトン交換膜の使用中、クロスオーバーが発生し得る。クロスオーバーは、膜を通る原子、分子、イオン、又は化学種の移動である。例えば、未反応水素は、燃料電池のアノード側から、膜を通ってカソード側に移動することができる。また、酸素は、燃料電池のカソード側から、膜を通ってアノード側に移動することができる。このようなガスクロスオーバーは、燃料電池の性能及び寿命に悪影響を及ぼす。
【0010】
水素を燃料とするプロトン交換膜燃料電池の理論最大電圧は、298Kでの1.23Vの開電流電圧(OCV)によって表される。しかしながら、実際的な条件下では、この理論電圧に到達しない場合がある。プロトン交換膜燃料電池などの低温セルでは、電圧降下は大きくなる可能性がある。カソードへの水素のクロスオーバーは、カソードにおける酸素と化学的に反応し、したがって電流を生成しないため、この電圧降下に寄与し得る。
【0011】
燃料電池の寿命に関しては、燃料電池電極の触媒又は非触媒炭素表面上のクロスオーバーガスの反応によって過酸化水素を生成することができる。次に、過酸化水素は、膜内で分解して、ヒドロペルオキシルラジカル及びヒドロキシルラジカルなどの種を形成することができる。これらの酸化ラジカルは、膜のアイオノマー成分を攻撃し、鎖切断、アンジッピング、及び官能基の損失を引き起こす。酸素及び水素ガスクロスオーバーは、膜の化学的分解の最も基本的な理由である。この化学的分解は、機械的分解及び熱分解と組み合わされる場合と組み合わされない場合があり、膜薄化及びピンホール形成をもたらし、これは更にガスクロスオーバーを促進する。このような分解の影響は、導電率の損失及び後続の性能損失(適度な化学的分解の場合)から個々のセルへの損失、最終的には積層不良まで及ぶ可能性がある。
【0012】
反応ガスを反対側の電極にクロスオーバーさせることにより、寄生反応によるその電極の脱分極によってセル性能を更に低下させる可能性がある。また、反応ガスのクロスオーバーは、反応物質が消費されるが、電気仕事は捕捉されないため、燃料電池の電気効率の直接的な損失をもたらす。
【0013】
したがって、水素及び酸素ガスのクロスオーバーを阻害し、水素及び酸素とカソード又はアノードとの接触をそれぞれ阻害することが、膜の重要な機能である。水素が膜を通過してカソードに達することを防止するために、様々なアプローチが使用されてきた。国際公開第2014/009721号は、反応物質のクロスオーバーを防止するために、膜中にグラフェン系プレートレットを含むバリア層を使用することを提案している。バリア層は、少なくとも80%かつ最大100%のグラフェン系プレートレットを含む必要がある。米国特許出願公開第2007/0072036号は、白金触媒を組み込む膜を開示している。
【0014】
ガスクロスオーバー及びその後の分解に耐性を有するプロトン交換膜に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0015】
したがって、本発明は、イオン伝導性ポリマーと、担持された再結合触媒とを含むイオン伝導性層を含むプロトン交換膜を提供し、この再結合触媒はグラフェン上に担持されている。
【0016】
本発明の驚くべき利点は、膜が低湿度条件下で、及びガスクロスオーバーから生じる低レベルの損傷に起因する高湿度条件下で、高電圧を経時的に維持することである。本発明のプロトン交換膜はまた、引張強度の驚くべき増加を示す。
【0017】
また、本発明の膜と、膜の少なくとも1つの面に適用される電極触媒と、を含む触媒コーティング膜も提供される。
【0018】
また、本発明の膜又は本発明の触媒コーティング膜を含む膜電極接合体も提供される。
【0019】
また、本発明の膜、本発明の触媒コーティング膜、又は本発明の膜電極接合体を含む燃料電池も提供される。
【0020】
また、本発明の膜、又は本発明の触媒コーティング膜を含むプロトン交換膜電気分解装置も提供される。当業者は、このような電気分解装置の膜におけるガスクロスオーバーを防止することも有益であり、したがって、本発明の膜の利益がプロトン交換膜電気分解装置にまで拡大することを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のプロトン交換膜における膜層の例示的な配置を提供する。
【
図2】実施例1及び比較例1~3の膜に対する最大10%のひずみの膜靭性を示すグラフを提供する。
【
図3】100%及び30%の相対湿度における、実施例1及び比較例1~3の膜のOCVを示すグラフを提供する。
【
図4】実施例1及び比較例1~3についての膜の経時的なOCVを示すグラフを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ここで、本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい及び/又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせのいずれかで、組み合わせることができる。
【0023】
再結合触媒は、水素ガスと酸素ガスとの間の反応を触媒して水を形成する触媒である。したがって、本発明のプロトン交換膜で使用される再結合触媒は、水素ガスと酸素ガスとの間の反応を触媒して水を形成することができる任意の触媒であってもよく、したがって、膜を介して水素若しくは酸素のいずれか、又はその両方のクロスオーバーを低減又は防止することができる。
【0024】
担持された再結合触媒は、国際公開第2013/045894A1号に記載されている一般的な方法に従って調製されてもよく、これは、本発明のグラフェン上への触媒の堆積並びに国際公開第2013/045894A1号に記載のカーボンブラック上への触媒の堆積に適用可能である。当業者は、グラフェン上に担持された再結合触媒の提供に適用することができる他の方法を認識するであろう。
【0025】
好適には、再結合触媒は、以下を含むリストから選択される:
i)白金族金属(すなわち、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、及びオスミウムを含む元素群)、
ii)金、
iii)卑金属、
iv)上述の元素のうちの1つ以上を含む合金、
v)上述のいずれかの混合物。
【0026】
好適には、再結合触媒は白金である。あるいは、再結合触媒は、上述の元素のうちの1つ以上との白金合金、例えば白金-パラジウム合金、又は白金-イリジウム合金であってもよい。あるいは、再結合触媒は、鉄、ニッケル、コバルト若しくはクロム、好ましくはニッケル、又は白金とこれらの金属のうちの1つ以上との合金を含んでもよい。
【0027】
再結合触媒は、グラフェン担体上の微細分散粒子として提供されてもよい。したがって、担体上の再結合触媒の粒子は、50nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、又は5nm以下のD50粒径を有し得る。例えば、粒子は、少なくとも1nmのD50粒径を有する。D50粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)における検査によって測定される。
【0028】
再結合触媒は、再結合触媒及び担体の総重量の少なくとも10重量%、好適には少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、典型的には少なくとも40重量%の量で存在してもよい。再結合触媒は、再結合触媒及び担体の総重量の90重量%以下、好適には80重量%以下、好ましくは70重量%以下、典型的には60重量%以下の量で存在してもよい。したがって、再結合触媒は、再結合触媒及び担体の総重量の10~90重量%、好適には20~80重量%、好ましくは30~70重量%、典型的には40~60重量%の範囲の量で存在してもよい。誤解を回避するために、この文脈における重量%は、([再結合触媒の重量]/[再結合触媒+担体の重量])x100である。
【0029】
合金再結合触媒中の白金の原子百分率は、特に限定されず、当業者は好ましい比を決定することができる。例えば、再結合触媒が白金族金属を有する白金の合金である場合、白金は、少なくとも30原子%、好適には少なくとも40原子%、好ましくは少なくとも45原子%の量で合金中に存在してもよい。例えば、白金は、80原子%以下、好適には70原子%以下、好ましくは60原子%以下の量で合金中に存在してもよい。したがって、白金は、30~80原子%、好適には40~70原子%、好ましくは45~60原子%、例えば約50原子%の範囲で合金中に存在してもよい。あるいは、再結合触媒が、白金と卑金属との合金である場合、卑金属は、典型的には、20原子%以下、好適には10原子%以下の量で存在する。
【0030】
担持された再結合触媒(すなわち、触媒を含む担体の粒子)は、少なくとも0.1ミクロン、好適には少なくとも0.3ミクロン、好ましくは少なくとも0.5ミクロン、典型的には少なくとも0.75ミクロンのD50粒径を有し得る。担持された再結合触媒は、20ミクロン以下、好適には10ミクロン以下、好ましくは5ミクロン以下、典型的には3ミクロン以下のD50粒径を有し得る。担持された再結合触媒は、0.1~20ミクロン、好適には0.3~10ミクロン、好ましくは0.5~5ミクロン、典型的には0.75~3ミクロンの範囲のD50粒径を有し得る。例えば、担持された再結合触媒は、約1ミクロンのD50粒径を有してもよい。D50粒径は、マルバーン・マスターサイザー(Malvern Mastersizer)(RTM)を使用して動的光散乱によって測定される。
【0031】
再結合触媒は、グラフェン上に担持される。したがって、本明細書で使用される用語「担持された再結合触媒」は、グラフェン上に担持された再結合触媒を意味する。用語「担持される」は、当業者によって容易に理解されるであろう。例えば、用語「担持される」は、物理的又は化学的結合によってグラフェンに結合又は固定されている再結合触媒を含むことが理解されるであろう。例えば、再結合触媒は、イオン結合若しくは共有結合、又はファンデルワールス力などの非特異的相互作用によってグラフェンに結合又は固定されてもよい。
【0032】
当業者は、用語「グラフェン」が六方格子に配置された炭素原子の単一層、すなわち、IUPACによって定義される黒鉛構造の単一の炭素層からなる炭素の同素体を含む材料を指すことを理解するであろう。単一層グラフェンに加えて、グラフェンという用語は、グラフェンナノプレートレット、ナノシート、ナノフレーク、マイクロシートなどを含む、数層グラフェン(例えば、2~10層)及び超微細/薄グラファイト(例えば、約10グラフェンシートを超えるがナノメートルの厚さ(例えば、100nmを下回る))などのグラフェン系材料が挙げられる。用語に関係なく、炭素原子の単一及び複数の平面層の両方が本明細書で意図される。外部表面上に官能基(酸素(酸化物)、スルホン(スルホン化)、硫黄(硫化物)など)を含むグラフェンもまた、本明細書で意図される。グラフェン及びグラフェン系材料についての提案された命名法は、Carbon,65(2013),1-6に見出すことができ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
したがって、本発明の担体は、グラフェン材料として特徴付けられる任意の材料であってもよい。グラフェンは、グラフェン系プレートレット(例えば、ナノ小板)、ナノシート、ナノフレーク、マイクロシート、及び他の利用可能な形態として存在してもよい。グラフェン系プレートレットは、x:yアスペクト比が0.1~10、x:zアスペクト比が、少なくとも10及びy:zアスペクト比が、少なくとも10のウェハ様形状を有する。用語「グラフェン系プレートレット」とは、単一又は複数のグラフェン層(複数可)からなる構造を有するプレートレットを意味する。好適には、担体は、極薄グラファイトとして知られている、グラフェン系プレートレットであってもよい。グラフェン系プレートレットの例は、XG Sciencesから入手可能なxGnP(登録商標)ナノプレートレットであり、これにはxGnP(登録商標)ナノプレートレットグレードCが挙げられる。
【0034】
グラフェンは、ISO 9277:2010によるBET法により測定したときに、少なくとも200m2/g、好適には少なくとも300m2/g、好ましくは少なくとも400m2/g、典型的には少なくとも500m2/gの表面積を有し得る。グラフェンは、BET法により測定したとき、1300m2/g以下、好適には1200m2/g以下、好ましくは1100m2/g以下、典型的にはm2/g以下の表面積を有し得る。したがって、グラフェンは、BET法により測定したとき、200~1300m2/g、好適には300~1200m2/g、好ましくは400~1100m2/g、典型的には500~1000m2/gの範囲の表面積を有し得る。
【0035】
本発明のプロトン交換膜は、1つ以上のイオン伝導性層からなる。本発明のプロトン交換膜の層(複数可)は、プロトン伝導性アイオノマーであるイオン伝導性ポリマーを含む。アイオノマーは、イオン化されイオン結合を形成することができる官能基を含むポリマー材料を含むことが理解されよう。
【0036】
好適には、本発明の膜のイオン伝導性材料としては、ペルフルオロスルホン酸などのアイオノマー(例えば、Nafion(登録商標)(Chemours Company)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymer)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.)、又は、FuMA-Tech GmbHからfumapem(登録商標)P、E又はKシリーズの製品として入手可能なもの、JSR Corporation、Toyobo Corporationから入手可能なものなどの、部分フッ素化若しくは非フッ素化炭化水素スルホン化又はホスホ化ポリマーに基づくアイオノマーが挙げられる。好適には、アイオノマーは、ペルフルオロスルホン酸、特にSolvayから入手可能なAquivion(登録商標)製品群、特にAquivion(登録商標)790EWである。
【0037】
担持された再結合触媒を含む層(複数可)において、担持された再結合触媒は、イオン伝導性ポリマー全体にわたって好適に分散され、好ましくは均一に分散される。したがって、本発明の担持された再結合触媒を含む層は、担持された再結合触媒が全体にわたって均一に分散される層として定義され得る。プロトン交換膜はまた、本発明の担持された再結合触媒を含まない層を含んでもよい。好適には、均一に分散された再結合触媒を含む層と、担持された再結合触媒を含まない層との間の境界は、再結合触媒の均一な分散が終了する部分によって定義される。
【0038】
例示として、膜は、2つ以上、3つ以上、4つ以上、又は5つ以上の層から形成されてもよい。好適には、膜は、10層以下、好ましくは8層以下、典型的には6層以下を有する。例えば、膜は5層を含んでもよい。層は、少なくとも1つの層が担持された再結合触媒を含むという条件で、互いに同じ組成を有してもよく、又は互いに異なっていてもよい。
図1の膜1Aは、本発明の担持された再結合触媒を含む単一層を含む膜である。
図1の膜1B~1Fは、本発明の担持された再結合触媒を含まない層を含む。
【0039】
層は任意の順序で配置されてもよい。一例が
図1に提供されている。好適には、本発明による膜は、本発明の担持された再結合触媒を含む2つの層(Cによって表される)と、本発明の担持された再結合触媒を含まない1つの層(Uで表される)とを含む3つの層を含んでもよい。層は、最終膜の所望の特性に応じて、例えばCCU又はCUC(
図1、1C~1E)など、3つの方法のいずれかで配置されてもよい。膜は、4層、5層、又は6層を含み得る。好適には、膜は、2つのC層及び3つのU層を含む5層を含む。5層が配置される例は、UCCCU、UUCCC、CUCUC、UCCUC、UCUCC、CCUUCである。
【0040】
本発明の担持された再結合触媒を、カソードに隣接して又はカソードの近くに含む層を有することが有益である。例えば、膜の層は、UUC、UCC、CCC、UUUC、UUCC、UCCC、UUUUC、UUUCC、UUUCU、UCCCC等の順序で配置されてもよく、配置の右側は、膜のカソード側である。カソードに隣接するか、又はカソードに近いC層は、膜を通る水素の流束が、膜層を通る酸素の流束よりも高いので、カソードに最も近い膜の側でより高い程度で再結合が生じることを意味することから、特に有利である。
【0041】
本発明の膜の厚さは特に限定されず、膜の意図される用途に依存する。例えば、典型的な燃料電池膜は、少なくとも5μm、好適には少なくとも8μm、好ましくは少なくとも10μmの厚さを有する。典型的な燃料電池膜は、50μm以下、好適には30μm以下、好ましくは20μm以下の厚さを有する。したがって、典型的な燃料電池膜は、5~50μm、好適には8~30μm、好ましくは10~20μmの範囲の厚さを有する。
【0042】
膜の各層の最大厚さは特に限定されず、各層の厚さは、膜の全体の厚さ及び膜内の層の数に依存する。一例として、膜の各層は、少なくとも1μm、好適には少なくとも2μm、好ましくは少なくとも3μmの厚さを有することができる。典型的な層は、7μm以下、好適には6μm以下、好ましくは5μm以下の厚さを有する。例えば、各層は、1~7μm、好適には2~6μm、好ましくは3~5μmの範囲の厚さを有する。膜の各層は、必ずしも他の層のいずれと同じ厚さである必要はなく、各層は、膜の他の層と同じ又は異なる厚さを有し得ることが理解されよう。
【0043】
プロトン交換膜は、プロトン交換膜の総重量に対して、少なくとも0.01重量%、好適には少なくとも0.05重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%の本発明の担持された再結合触媒を含んでもよい。プロトン交換膜は、プロトン交換膜の総重量に対して、少なくとも10重量%以下、好適には少なくとも5重量%以下、好ましくは少なくとも3重量%以下の本発明の担持された再結合触媒を含んでもよい。したがって、プロトン交換膜は、0.01~10重量%、好適には0.05~5重量%、好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.1~3重量%の範囲の量の本発明の担持された再結合触媒を含んでもよい。誤解を回避するために、この文脈における重量%は、([再結合触媒+担体の重量]/[再結合触媒+担体の重量]+[プロトン交換膜全体の重量])×100を意味する。各層における担持された再結合触媒の量は、特に限定されず、膜の全体量及び膜内の層の数に依存するであろう。
【0044】
本発明の膜の層は、過酸化物分解触媒及び/又はセリアなどのラジカル分解触媒などの追加の構成成分を含んでもよい。層はまた、引裂き抵抗の増大及び水和並びに脱水における寸法変化の低減などの膜の改善された機械的強度を提供するために、膜の厚さ内に埋め込まれた平坦な多孔質材料(例えば、USRE37307号に記載されている膨張ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE))などの補強材料を含んでもよく、これにより、膜電極接合体の耐久性及び本発明の膜を組み込んだ燃料電池の寿命を更に増加させる(例えば、
図1、1Fを参照されたい)。強化された膜を形成するための他のアプローチとしては、補強材が、多数の細孔が形成された後、PFSAアイオノマーで充填されるポリイミドなどの剛性ポリマーフィルムである、米国特許第7,807,063号及び米国特許第7,867,669号に開示されているものが挙げられる。イオン伝導性ポリマー層(再結合触媒を含まない)中に分散されたグラフェン粒子もまた、補強材料として使用されてもよい。
【0045】
存在する任意の補強は、膜の厚さ全体にわたって延びてもよく、又は膜の厚さの一部のみにわたって延びてもよい。膜の厚さは、膜の面に垂直に延び、例えば、貫通面z方向に延びることが理解されよう。膜の第1の表面及び第2の表面の外側部分を膜の第1の表面及び第2の表面の中央面よりも大きい程度に補強することが更に有利であり得る。逆に、膜の第1の表面又は第2の表面の中央を膜の第1の表面又は第2の表面の外側縁部よりも大きい程度に補強することが望ましい場合がある。
【0046】
例えば、膜は、本発明の再結合触媒を含まない2つの層、及び本発明の再結合触媒を含む3つの層を含んでもよく、中央(すなわち、第3の)層は、本発明の担持された再結合触媒及び補強材料を含む。層は、CUC
RUCの順序で配置され、C
Rは層の補強を表す(
図1Fを参照されたい)。
【0047】
膜は、例えば、キャスティング法を使用して、当業者に既知の従来の方法を使用して調製される。膜は、担持された再結合触媒及びイオン伝導性ポリマーの分散体、又はイオン伝導性ポリマーの分散体を、取り外し可能な担体(例えば、ポリマーバッキングフィルム)上に提供して(例えば、キャストして)、層を形成することによって製造されてもよい。層を提供した後、後続の層が提供される前に、室温で乾燥させる。例えば、分散層(複数可)は、室温で少なくとも20分間の時間にわたって乾燥させてもよい。任意の第2の層及び後続の層が、以前に提供された乾燥層上に提供される(例えば、キャストされる)。
【0048】
分散体の層(複数可)を提供した後、得られた複合層を、例えば、100℃を超える温度のオーブン内で、少なくとも5分、好適には20分以下の時間にわたって加熱することによって更に乾燥させることができる。次いで、乾燥させた層又は複合層をアニールして、本発明の膜を提供する。例えば、アニーリングは、少なくとも175℃の温度、典型的には250℃以下の温度で、少なくとも10分、典型的には30分以下の時間にわたって加熱することを含んでもよい。
【0049】
Aquivion(登録商標)790EWのようなペルフルオロスルホン酸アイオノマーなどの、本発明で典型的に使用されるイオン伝導性ポリマーは、典型的には固体分散体として提供され、これは水中にあってもよい。例えば、分散体は、少なくとも20重量%、好適には30重量%以下、好ましくは25重量%のポリマー固体を含んでもよい。プロパノールなどの有機溶媒を、そのままのポリマー分散液に添加することが有益であり得る。例えば、有機溶媒は、このように形成されたポリマー分散体の少なくとも20重量%、好適には少なくとも30重量%、好ましくは50重量%以下を構成するように添加されてもよい。
【0050】
本発明の担持された再結合触媒を含む層を提供するためのイオン伝導性ポリマーの分散体を調製するために、担持された再結合触媒は、好適な溶媒、例えば水又は水とプロパノールとの混合物中に分散されてもよい。担持された再結合触媒は、担持された再結合触媒及び溶媒の総重量の少なくとも0.1重量%、好適には少なくとも1.0重量%、好ましくは少なくとも2重量%、典型的には少なくとも5重量%以下の量で存在してもよい。任意選択的に、担持された再結合触媒を含む分散体は、担持された再結合触媒の粒径分布を制御するプロセスに供されてもよい。例えば、担持された再結合触媒を含む分散体は、マイクロフルイダイザーを通過してもよい。次いで、溶媒中の担持された再結合触媒の分散体を、イオン伝導性ポリマー分散液と混合する。層内に存在し得る上記の他の材料を添加してもよい。ePTFEなどの補強構成要素を追加するために、分散体を補強構成要素上に配置する。別の言い方をすれば、補強構成要素は、膜のキャスティング中に同時に層に配置されてもよい。
【0051】
したがって、本発明による膜は、本発明の担持された再結合触媒を含む第1の分散層と、アイオノマー固体とを提供する工程と、層を乾燥させる工程と、乾燥させた層をアニールする工程と、を含むプロセスによって提供され得る。あるいは、本発明による膜は、本発明の担持された再結合触媒及びアイオノマー固体を含む第1の分散層を提供する工程と、分散層を乾燥させる工程と、乾燥させた第1の分散層上に第2の分散層を提供する工程と、第1及び第2の分散層を乾燥させ、任意選択的に、層の乾燥させた複合体をアニールする前に、第3、第4、及び第5の分散層を連続的に提供する工程と、を含むプロセスによって提供され得る。
【0052】
また、本発明によるプロトン交換膜と、膜の一方又は両方の面に適用された電極触媒層と、を含む触媒コーティング膜も提供される。電極触媒層は、1つ以上の電極触媒を含む。1つ以上の電極触媒は、独立して、微粉化した非担持金属粉末、又は担持された電極触媒であり、小粒子(例えば、ナノ粒子)は、導電性微粒子炭素担体上に分散されている。電極触媒金属は、好適には、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウム)、
(ii)金又は銀、
(iii)卑金属、
又はこれらの金属若しくはその酸化物のうちの1つ以上を含む合金又は混合物から選択される。
【0053】
使用される正確な電極触媒は、触媒することが意図される反応に依存するであろうし、その選択は当業者の能力の範囲内である。好ましい電極触媒金属は、他の貴金属又は卑金属と合金化され得る白金である。本明細書で使用するとき、用語「貴金属」は、金属白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、金、及び銀が含まれると理解されよう。
【0054】
電極触媒が担持触媒である場合、炭素担体材料上の金属粒子の充填量は、得られる電極触媒の重量の10~90重量%、好適には15~75重量%の範囲であり得る。
【0055】
電極触媒層は、有機若しくは水性のいずれか、又は有機及び水性の混合物のいずれか(ただし、好ましくは水性)のインクとして、膜の第1の面及び/又は第2の面に好適に適用される。インクは、層内のイオン伝導性を改善するために含まれる、欧州特許第0731520号に記載されているようなイオン伝導性ポリマーなどの他の構成要素を好適に含んでもよい。あるいは、電極触媒層は、予め調製された電極触媒層のデカール転写によって適用することができる。
【0056】
電極触媒層はまた、追加の構成要素を含んでもよい。このような構成成分としては、プロトン伝導体(例えば、ペルフルオロスルホン酸(PFSA)ポリマー(例えば、Nafion(登録商標))、炭化水素プロトン伝導性ポリマー(例えば、スルホン化ポリアリーレン)又はリン酸);水輸送を制御するための疎水性(表面処理を伴う又は伴わない、PTFE若しくは無機固体などのポリマー)又は親水性(酸化物などのポリマー若しくは無機固体)添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、電極触媒層はまた、更なる触媒材料を含んでもよく、これは本発明の電極触媒材料と同じ機能を有しても、又は有さなくてもよい。例えば、本発明の電極触媒材料が酸素還元触媒として用いられる場合、追加の触媒材料を、酸素発生反応を触媒することによって、始動/シャットダウンサイクルの繰り返しにより生じる分解を緩和するために添加してもよい(並びに、例えば、ルテニウム及び/又はイリジウム系金属酸化物を含む)。更なる例では、追加の触媒は、過酸化水素の分解を促進し得る(及び、例えば、セリア又は二酸化マンガンを含む)。
【0057】
また、本発明の膜又は本発明の触媒コーティング膜を含む膜電極接合体も提供される。
【0058】
膜電極接合体は、以下を含み得る:
(i)本発明のプロトン交換膜は、2つのガス拡散電極(1つのアノード及び1つのカソード)の間に挟まれてもよく、
(ii)一方の側に電極触媒層を有する本発明による触媒コーティング膜は、ガス拡散層とガス拡散電極との間に挟まれてもよく、ガス拡散層が、電極触媒層をその上に有する膜の側に接触する、又は、
(iii)両側に電極触媒層を有する本発明の触媒コーティング膜は、2つのガス拡散層の間に挟まれてもよい。
【0059】
ガス拡散層は、好適には、従来のガス拡散基材をベースとするものである。典型的な基材としては、炭素繊維のネットワーク及び熱硬化性樹脂結合剤を含む不織布紙若しくはウェブ(例えば、東レから入手可能な炭素繊維紙のTGP-Hシリーズ、若しくはFreudenberg FCCT KG(Germany)から入手可能なH2315シリーズ、若しくはSGL Technologies GmbH(Germany)から入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ、若しくはAvCarb Material SolutionsからのAvCarb(登録商標)シリーズ、又は炭素繊維布が挙げられる。炭素紙、ウェブ、又は布を更に処理した後、MEAに組み込んで、湿潤性(親水性)又は耐湿性(疎水性)のいずれかを高めることができる。任意の処理の性質は、燃料電池の種類及び使用される動作条件により異なる。基材は、液体懸濁液からの含浸による非晶質カーボンブラックなどの材料を組み込むことにより、より湿潤性にすることができる、又はPTFE若しくはポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)などのポリマーのコロイド懸濁液で基材の細孔構造を含浸させ、続いてポリマーの融点又は流動点を超えて乾燥及び加熱することによって、より疎水性にすることができる。PEMFCなどの用途の場合、典型的には、電極触媒層に接触する面上のガス拡散基材に微多孔質層が適用される。微多孔質層は、典型的には、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマーとの混合物を含む。
【0060】
膜電極接合体は、例えば、国際公開第2005/020356号に記載されているように、膜電極接合体の縁部領域を封止及び/又は補強する構成要素を更に含んでもよい。膜電極接合体は、当業者に既知の従来の方法によって組み立てられる。
【0061】
本発明の膜、本発明の触媒コーティング膜、又は本発明の膜電極接合体を含む燃料電池も提供される。燃料電池は、好適には、プロトン交換膜燃料電池である。
【0062】
プロトン交換膜燃料電池で使用されることに加えて、本発明のプロトン交換膜は、このようなイオン伝導性ポリマー膜、例えば電気分解装置を必要とする任意の電気化学デバイスにおける使用を見出すことができる。当業者であれば、アノード及びカソード触媒層が、燃料電池内のそれらの電極と比較して、電気分解装置内のこれらの電極で起こる異なる反応を考慮に入れるために、燃料電池に対して改質されることを認識するであろう。ガスクロスオーバーに対する耐性は、水素の過剰なクロスオーバーが、酸素中の5~95%水素の広範な爆発範囲に起因して、重大な安全上の危険性を示す潜在的に爆発的な混合物である分子水素と分子酸素との組み合わせをもたらすため、電気分解装置にとって有益である。電気分解装置における本発明の膜の使用は、膜を厚くする必要なくガスクロスオーバーを制限し得る。膜を厚くすることは、ガスクロスオーバーを低減する従来の方法であるが、膜を厚くすると、性能に悪影響を及ぼすイオン抵抗も増加する。
【0063】
プロトン交換膜電気分解装置用の典型的な膜は、少なくとも50μm、好適には少なくとも110μm、好ましくは少なくとも120μmの厚さを有する。典型的な層は、200μm以下、好適には180μm以下、好ましくは150μm以下の厚さを有する。したがって、典型的な電気分解装置用の膜は、50~200μm、好適には110~180μm、好ましくは120~150μmの範囲の厚さを有する。
【実施例】
【0064】
グラフェン上のPtの調製
グラフェン上のPtは、グラフェン源としてXGnP(登録商標)グラフェンナノプレートレットC-Grade GNP-C-500(XG Sciences)及びを白金源としてK2[PtCl4]用いて、カーボンブラック上のPtについて国際公開第2013/045894A1号に記載の方法を適用することにより調製した。
【0065】
実施例1-本発明による膜
プロパン-1-オール(90.3g)と、50%のPt/グラフェン(0.524g)とを合わせ、1時間撹拌した後、マイクロフルイダイザーを通過させて添加剤の粒径を減少させた。
【0066】
次いで、得られた混合物を、そのままのAquivion(登録商標)790EW(Solvay Specialty Polymer)(209.7g、水中25重量%のアイオノマー固体)アイオノマー分散体に添加し、磁気撹拌子を使用して一晩撹拌した。
【0067】
公称厚さ17ミクロンの膜を、5パスコーティングプロセスを使用して、担持ポリマーフィルム上に生成した。再結合触媒及びアイオノマー固体を含む分散層を使用して、層2、3及び4を提供し、一方、アイオノマーのみの分散体を使用して層1及び5を提供した。このパスがコーティングされて配置UCCRCUを有する膜を形成するため、商業的に取得されたePTFEフィルムを第3の層に同時に置いた。
【0068】
各分散層を室温で20分間乾燥させた後、後続の分散層を添加した。最終的な5パス複合分散層を120℃で10分間オーブン乾燥した後、オーブンを200℃で15分間アニールした。使用前に、最終膜をポリマー担持バッキングフィルムから取り外した。
【0069】
比較例1
比較例1を、触媒が50%のPt/グラフェンである代わりに、触媒がXC72R(Vulcan(登録商標)から入手可能なカーボンブラック)上の40%のPtであったこと、すなわち、担体がグラフェンではなくカーボンブラックであったことを除いて、実施例1と同じ方法で調製した。
【0070】
比較例2
比較例2を、50%のPt/グラフェンを、Ptを含まないグラフェンに置き換えたこと、すなわち再結合触媒は存在しなかったことを除いて、実施例1と同じ方法で調製した。
【0071】
比較例3
比較例3を、いずれの層も担持された再結合触媒を含まなかった(すなわち、層の全てがアイオノマーから構成されていた)ことを除いて、実施例1と同じ方法で調製した。
【0072】
膜試験
引張試験
Hounsfield張力計(Tensometer)を使用して、膜の機械的試験を実施した。周囲実験室条件(すなわち、名目上20℃、50%RH)下で、50mm/分の自動ジョー速度を使用して、15mm×100mmの膜ストリップに力を加えた。
【0073】
機械方向(MD)及び横断方向(TD)における異なる膜の引張特性を、最大10%ひずみまでの膜靭性、すなわち、0~10%ひずみの応力-ひずみ曲線下面積を分析することによって比較した。
【0074】
図2は、本発明による膜が、比較例1~3と比較して、機械方向及び横断方向の両方において、優れた靭性(すなわち、より高い引張強度)を有することを示す。膜がグラフェンを含むが、触媒成分を含まない比較例2は、横断方向では同様の膜靭性を示したが、機械方向の靭性は劣っていた。本発明の膜では、膜靭性は、再結合触媒が非グラフェン炭素担体状に提供される場合(比較例1)、再結合触媒を含まないグラフェンが使用される場合(比較例2)、又は担持された再結合触媒若しくは炭素が全く存在しない場合(比較例3)と比べると、機械方向で実質的に高い。したがって、本発明の膜は、驚くべきことに、再結合触媒を含まないグラフェンを含有する膜よりも機械方向に強靭であり、したがって、より大きな引張強度を有する。
【0075】
電気化学試験
予備形成された電極を、デカール法を用いて膜に移し、0.1mg/cm2の60重量%のPt/Cアノード層(80%のSolvay 790EWアイオノマーを有する高表面積の炭素上の60%のPt)及び0.4mg/cm2の50重量%のPt/Cカソード(炭素上50%のPt、80%のAciplex 800EWアイオノマー)層を有する触媒コーティング膜(CCM)を得た。ウィンドウフレーム型ガスケットを加えて、217cm2の活性領域を有するCCMを作製した。CCMを、試験用のSGL(登録商標)からのSigracet(登録商標)10BBガス拡散層と組み合わせ、試験固定具の構築によって与えられた圧縮によってのみCCMに結合した。
【0076】
最初に2時間、500mA/cm2で保持、100%RHアノード/カソード、周囲圧力、1.5/2.0化学量論比のアノード/カソード、続いて17カソード欠乏工程を採用することによって、膜電極接合体を調整した。膜電極接合体の性能を、一連の3つの温度及び湿度試験条件(i)80℃、30%RH、50kPaゲージ、H2/空気1.5/2.0化学量論比、(ii)80℃、100%RHアノード/カソード、100kPaゲージ、H2/空気1.5/2.0化学量論比、及び(iii)1時間延長、開回路電圧(OCV)で保持、65℃、50%RHアノード/カソード、周囲、H2/空気1.5/2.0化学量論比を用いて評価した。
【0077】
図3は、上記の試験条件(i)及び(ii)の下での、比較例1~3のものに対する本発明の膜を含む膜電極接合体の優れた開回路電圧(OCV)を示す(実施例の繰り返し項目は、繰り返し試験を表す)。高湿度及び特に低湿度条件下では、本発明の膜を含む膜電極接合体は、優れたOCV値を示すことは明らかである。
【0078】
本発明の膜は、より高いOCVを有するだけではないことが示されている。加えて、高OCVは、長期使用時にも減少しない(上記の試験条件(iii)で実施された
図4を参照されたく、実施例の繰り返し項目は、繰り返し試験を表す)。