(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 17/00 20060101AFI20240530BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240530BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20240530BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240530BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240530BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20240530BHJP
C08K 5/40 20060101ALI20240530BHJP
C08K 5/44 20060101ALI20240530BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B60C17/00 B
B60C1/00 B
B60C1/00 Z
B60C15/06 B
C08L21/00
C08L9/00
C08L7/00
C08K5/40
C08K5/44
C08K3/04
(21)【出願番号】P 2021551452
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2020037436
(87)【国際公開番号】W WO2021066099
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019182506
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019227438
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山縣 千代
(72)【発明者】
【氏名】佐治 俊介
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-263916(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230463(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230464(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
C08K 5/40
C08K 3/04
C08K 5/44
C08L 7/00
C08L 9/00
B60C 1/00
B60C 15/06
B60C 17/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤と
、加硫剤とを含有するゴム組成物の加硫ゴムを、サイド補強ゴム層及びビードフィラーからなる群より選ばれる少なくとも一つの部材に用いたランフラットタイヤであって、
前記加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が65%以上であ
り、
前記ゴム組成物中の、チウラム系加硫促進剤の含有量(A)と、前記加硫剤の合計の含有量(c)との質量比(A/c)が、0.22~0.32であるランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が15~39m
2/gであり、かつ、DBP吸油量が120~180mL/100gであるカーボンブラックを含む充填剤を含有する請求項1に記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が75%以上である請求項1または2に記載のランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物中の軟化剤及び熱硬化性樹脂の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物中の前記軟化剤及び前記熱硬化性樹脂の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以下である請求項4に記載のランフラットタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物
中の、前記加硫促進剤の合計の含有量が、前記加硫剤の合計の含有量よりも少ない請求項1~5のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム組成物中の、前記加硫促進剤の合計の含有量(d)と、前記加硫剤の合計の含有量(c)との質量比(d/c)が、0.55~0.99である請求項6に記載のランフラットタイヤ。
【請求項8】
前記加硫促進剤が、更に、スルフェンアミド系加硫促進剤を含む請求項1~7のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項9】
前記ゴム組成物中の、チウラム系加硫促進剤の含有量(A)と前記スルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(A/b)が0.60~1.25である請求項8に記載のランフラットタイヤ。
【請求項10】
前記ゴム組成物中の、前記テトラベンジルチウラムジスルフィドの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1.0~2.0質量部である請求項1~
9のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項11】
前記ゴム成分が、天然ゴム及びポリブタジエンゴムからなる請求項1~
10のいずれか1項に記載のランフラットタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ、特にランフラットタイヤにおいて、サイドウォール部の剛性向上のために、ゴム組成物単独又はゴム組成物と繊維等の複合体によるサイド補強層が配設されている。
このランフラットタイヤにおいて、例えば、ランフラット耐久性を向上させるために、ゴム成分、補強性充填材、熱硬化性樹脂、チウラム系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤以外の加硫促進剤及び硫黄含有加硫剤を、それぞれ所定の分量で配合してなるゴム組成物を用いて、所定の引っ張り強度を有するサイド補強ゴム層を製造する手法が開示されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
また、ランフラット走行に見合った高弾性率と低発熱性とを兼ね備えつつ、ゴム組成物の押出加工性を向上する観点から、高結晶性シンジオタクチックポリブタジエン含有ポリブタジエンを含むゴム成分と、チウラム系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤を所定の量で配合してゴム組成物を調製する手法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/143755号
【文献】国際公開第2016/143756号
【文献】国際公開第2016/143757号
【文献】特開2005-263916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4に記載の手法で得られるタイヤは、ランフラット耐久性が未だ不十分であり、更なる改良が求められている。
本発明は、ランフラット耐久性に優れたランフラットタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有するゴム組成物の加硫ゴムを、サイド補強ゴム層及びビードフィラーからなる群より選ばれる少なくとも一つの部材に用いたランフラットタイヤであって、前記加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が65%以上であるランフラットタイヤである。
【0007】
<2> 前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が15~39m2/gであり、かつ、DBP吸油量が120~180mL/100gであるカーボンブラックを含む充填剤を含有する<1>に記載のランフラットタイヤである。
【0008】
<3> 前記加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が75%以上である<1>又は<2>に記載のランフラットタイヤである。
【0009】
<4> 前記ゴム組成物中の軟化剤及び熱硬化性樹脂の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載のランフラットタイヤである。
<5> 前記ゴム組成物中の軟化剤及び熱硬化性樹脂の合計含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以下である<4>に記載のランフラットタイヤである。
【0010】
<6> 前記ゴム組成物が、加硫剤を含有し、前記加硫促進剤の合計の含有量が、前記加硫剤の合計の含有量よりも少ない<1>~<5>のいずれか1つに記載のランフラットタイヤである。
<7> 前記ゴム組成物中の、前記加硫促進剤の合計の含有量(d)と、前記加硫剤の合計の含有量(c)との質量比(d/c)が、0.55~0.99である<6>に記載のランフラットタイヤである。
【0011】
<8> 前記加硫促進剤が、更に、スルフェンアミド系加硫促進剤を含む<1>~<7>のいずれか1つに記載のランフラットタイヤである。
<9> 前記ゴム組成物中の、チウラム系加硫促進剤の含有量(A)と前記スルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(A/b)が0.60~1.25である<8>に記載のランフラットタイヤである。
<10> 前記チウラム系加硫促進剤の含有量(A)と、前記加硫剤の含有量(c)との質量比(A/c)が、0.22~0.32である<9>に記載のランフラットタイヤである。
<11> 前記ゴム組成物中の、前記テトラベンジルチウラムジスルフィドの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1.0~2.0質量部である<1>~<10>のいずれか1つに記載のランフラットタイヤである。
【0012】
<12> 前記ゴム成分が、天然ゴム及びポリブタジエンゴムからなる<1>~<11>のいずれか1つに記載のランフラットタイヤである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ランフラット耐久性に優れたランフラットタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のランフラットタイヤの一実施態様の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。
なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(B<Aの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0016】
<ランフラットタイヤ>
本発明のランフラットタイヤは、ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有するゴム組成物の加硫ゴムを、サイド補強ゴム層及びビードフィラーからなる群より選ばれる少なくとも一つの部材に用いたランフラットタイヤであって、加硫ゴムは、全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が65%以上である。
以下、「全スルフィド結合中のモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合」を、「モノ/ジスルフィド結合量」と称することがある。また、「ゴム成分とテトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有するゴム組成物の加硫ゴムであって、モノ/ジスルフィド結合量が65%以上である加硫ゴム」を「本発明の加硫ゴム」と称することがある。更に、ランフラットタイヤを、単にタイヤと称することがある。
【0017】
スルフィド結合は、硫黄原子の数量により、モノスルフィド結合(-S-)、ジスルフィド結合(-S-S-)、トリスルフィド結合(-S-S-S-)、・・・と称されるが、本明細書では、硫黄原子が3つ以上連なるスルフィド結合(-[S]n-;3≦n)を「ポリスルフィド結合」と称する。従って、モノ/ジスルフィド結合量は、次の式(1)により算出される。
式(1):
モノ/ジスルフィド結合量
=100×〔(モノスルフィド結合量+ジスルフィド結合量)/全スルフィド結合量〕
また、全スルフィド結合量は、モノスルフィド結合量+ジスルフィド結合量+ポリスルフィド結合量として算出される。なお、モノ/ジスルフィド結合量、モノスルフィド結合量、ジスルフィド結合量、及びポリスルフィド結合量は、いずれも、全スルフィド結合量に対する量であり、単位は「%」である。各結合量の測定方法は後述する。
【0018】
本発明のランフラットタイヤは、サイド補強ゴム層及びビードフィラーからなる群より選ばれる少なくとも一つの部材に用いた加硫ゴムが、モノ/ジスルフィド結合量が65%以上となる網目構造を形成しており、また、加硫ゴムを構成するゴム組成物が、ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有する。本発明のランフラットタイヤが上記構成であることで、ランフラットタイヤは、ランフラット耐久性に優れる。かかる理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
【0019】
加硫ゴムは、ゴム成分が硫黄架橋により3次元の網目構造を形成しているが、網目構造の結合状況によっては耐熱性が低くなることがあった。タイヤがパンクし、タイヤ内の空気が抜けると、タイヤが撓んで高温になるが、それでも車体を支え走行可能なようにするのがランフラットタイヤである。また、乗り心地、走行性等も考慮すれば、高温(例えば、180℃)で軟化しやすい時点でタイヤが剛性を有していても、タイヤの発熱前後で剛性が変わらないことが好ましい。
特許文献1~3に記載のタイヤは、180℃での引張応力が高いものの、加硫ゴム強度の温度依存性が実証されておらず、タイヤの発熱前後において、タイヤの強度を持続することができなかった。特許文献4には、加硫ゴムの100℃における貯蔵弾性率E’が検証されているに過ぎない。特許文献4に記載の加硫ゴムをランフラットタイヤに適用しても、180℃のような高温での剛性が求められるランフラット耐久性は得られにくいと考えられる。
【0020】
これに対し、本発明のランフラットタイヤには、モノ/ジスルフィド結合量が65%以上となる加硫ゴムが用いられており、高温で軟化しにくいと考えられる。
スルフィド結合は、硫黄原子が3つ以上連なるポリスルフィド結合となるほど、結合が弱くなり、ゴム成分を架橋する架橋網目構造が壊れ易くなると考えられるため、ポリスルフィド結合量を小さく抑え、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合を多くすることで、加硫ゴムの網目破壊が減少し、すると考えられる。
一般に、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合が多いと、加硫ゴムの機械的物性が低下すると言われるが、それに反して、本発明の加硫ゴムは機械的物性の低下も少ないと考えられる。これは、本発明の加硫ゴムが、ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有するゴム組成物の加硫ゴムであるためと推察される。その結果、加硫ゴムの発熱前から発熱し高温に至るまで強度が持続するものと考えられる。
以上より、本発明のランフラットタイヤは、ランフラット耐久性に優れると考えられる。
以下、ランフラットタイヤの詳細について説明する。
【0021】
(モノ/ジスルフィド結合量)
本発明のランフラットタイヤに用いられる加硫ゴムは、モノ/ジスルフィド結合量が65%以上であるが、高温耐軟化性と機械的強度をより向上し、ランフラット耐久性を向上する観点から、モノ/ジスルフィド結合量は、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることが更に好ましい。
【0022】
モノ/ジスルフィド結合量は、膨潤圧縮法により算出することができる。
膨潤圧縮法は、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)及びプロパン-2-チオールとピペリジンの化学特性を利用して、各スルフィド結合量を測定する方法である。
リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)は、加硫ゴムのジスルフィド結合及びポリスルフィド結合を選択的に切断し、モノスルフィド結合は切断しない。一方、プロパン-2-チオールとピペリジンはポリスルフィド結合のみを切断することから、これらの試薬の違いを利用することで、各スルフィド結合の割合を求めることができる。
【0023】
モノスルフィド網目鎖密度をνM〔mol/cm3〕、ジスルフィド網目鎖密度をνD〔mol/cm3〕、ポリスルフィド網目鎖密度をνP〔mol/cm3〕、全スルフィド網目鎖密度をνT〔mol/cm3〕と称する。
全スルフィド網目鎖密度(νT)は、試薬を含まない同一溶媒で加硫ゴムを膨潤させることで求めることができる。
νMと(νM+νD)は後述する方法で直接測定する。
νDは(νM+νD)-νMから算出することができる。
νPはνT-(νM+νD)から算出することができる。
【0024】
全スルフィド結合中のモノスルフィド結合の割合(モノスルフィド結合量)は、全スルフィド網目鎖密度(νT)を100%として、モノスルフィド網目鎖密度(νM)を百分率に換算した値である。同様にして、ジスルフィド結合量をジスルフィド網目鎖密度(νD)から換算し、ポリスルフィド結合量をポリスルフィド網目鎖密度(νP)から換算する。
モノ/ジスルフィド結合量は、既述の式(1):
モノ/ジスルフィド結合量
=100×〔(モノスルフィド結合量+ジスルフィド結合量)/全スルフィド結合量〕
により算出される。
【0025】
νMと(νM+νD)の測定方法は、次のとおりである。
まず、加硫ゴムから、厚さ2mmのシートを切り取り、加硫ゴムシートを得る。加硫ゴムシートをアセトンで24時間抽出後、24時間真空乾燥する。乾燥後の加硫ゴムシートを2mm×2mm四方に裁断して、立方体状の加硫ゴム試料に成形する。次いで、加硫ゴム試料の縦、横、厚さの三方向の寸法を精測する。
【0026】
次に、加硫ゴムの全スルフィド結合量(νT)測定用として溶液(T)、モノスルフィド結合量(νM)測定用として溶液(M)、ポリスルフィド結合量(νP)測定用として溶液(P)を、次のようにして調製する。
ベンゼン(又はトルエン)と、テトラヒドロフラン(THF)を、脱水及び脱酸素し、当該ベンゼン(又はトルエン)と、テトラヒドロフラン(THF)とを、体積基準で、1:1で混合する。混合液を密閉可能な容器に投入し、窒素置換して、溶液(T)とする。溶液(T)の入った前記容器を容器(1)称する。
【0027】
容器(1)に、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)の粉末を窒素置換しながら投入し、2~3日放置する。溶液の上澄みを分取し、これを溶液(M)とする。溶液(M)を分取した容器を容器(2)と称する。
【0028】
プロパン-2-チオール及びピペリジンを脱水及び脱酸素し、当該プロパン-2-チオール及びピペリジンを、等モル採取し、窒素置換しながら容器(2)に投入する。このようにして溶液(P)を得る。
【0029】
三方向の寸法を精測した加硫ゴム試料を、密閉可能な容器3つにそれぞれ投入し、それぞれ1時間真空乾燥してから窒素置換する。その後、加硫ゴム試料の入った容器に、溶液(T)、溶液(M)、溶液(P)を、それぞれ投入し、密閉して、30℃で24時間放置して、加硫ゴム試料を膨潤させる。
次いで、窒素雰囲気下で、各容器から加硫ゴム試料を取り出し、溶液(T)で洗浄し、膨潤した加硫ゴム試料の寸法を精測する。また、膨潤した加硫ゴム試料について、熱機械分析装置(TMA;thermomechanical analyzer)を用い、加硫ゴム試料の膨潤の大小に応じて1~60gまでの荷重を段階的に加え、圧縮応力と歪みの関係を求める。
以上のデータを、Floryの膨潤圧縮と網目鎖密度の理論式に入力して、各スルフィド網目鎖密度を算出する。
加硫ゴム試料が充填剤を含まない純ゴムの場合は、式(2)に測定データを入力し、各スルフィド網目鎖密度を算出する。
【0030】
【0031】
加硫ゴム試料が充填剤を含む充填系の場合は、式(3)に測定データを入力し、各スルフィド網目鎖密度を算出する。
【0032】
【0033】
式(2)及び(3)において、
fは、応力〔N〕を表し、熱機械分析装置で測定した圧縮応力として求まる。
kは、定数を表す。
Tは、測定温度〔K〕を表す。
νは、スルフィド網目鎖密度〔mol/cm3〕であり、溶液(M)で膨潤した加硫ゴム試料においてはνMが、溶液(T)で膨潤した加硫ゴム試料においてはνTが、溶液(P)で膨潤した加硫ゴム試料においてはνPが当てはまる。
V0は、膨潤前の加硫ゴム試料の全体積〔cm3〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
αは、膨潤後の加硫ゴム試料の圧縮又は伸長比であり、α=LS/LS0より求まる。
L0は、膨潤前の加硫ゴム試料の厚さ〔m〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
LS0は、膨潤後の加硫ゴム試料の厚さ〔m〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
LSは、膨潤後の加硫ゴム試料の圧縮又は伸長後の厚さ〔m〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
A0は、膨潤前の加硫ゴム試料の断面積〔m2〕を表し、加硫ゴム試料の寸法測定より求まる。
φは、加硫ゴム試料中の充填剤の体積分率〔%〕を表し、加硫ゴム試料と充填剤の寸法測定より求まる。
【0034】
(ランフラットタイヤの構造)
以下、サイド補強ゴム層を有するランフラットタイヤの構造の一例について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明のランフラットタイヤの一実施態様の断面を示す模式図であり、ビードフィラー7、サイド補強ゴム層8等の各部材の配置を説明するものである。
【0035】
図1において、本発明のタイヤの好適な実施態様は、一対のビードコア1、1’(1’は図示せず)間にわたってトロイド状に連なり、両端部が該ビードコア1をタイヤ内側から外側へ巻き上げられる少なくとも1枚のラジアルカーカスプライからなるカーカス層2と、該カーカス層2のサイド領域のタイヤ軸方向外側に配置されて外側部を形成するサイドゴム層3と、該カーカス層2のクラウン領域のタイヤ径方向外側に配置されて接地部を形成するトレッドゴム層4と、該トレッドゴム層4と該カーカス層2のクラウン領域の間に配置されて補強ベルトを形成するベルト層5と、該カーカス層2のタイヤ内方全面に配置されて気密膜を形成するインナーライナー6と、一方の該ビードコア1から他方の該ビードコア1’へ延びる該カーカス層2本体部分と該ビードコア1に巻き上げられる巻上部分との間に配置されるビードフィラー7と、該カーカス層のサイド領域の該ビードフィラー7側部からショルダー区域10にかけて、該カーカス層2と該インナーライナー6との間に、少なくとも1枚の、タイヤ回転軸に沿った断面形状が略三日月形のサイド補強ゴム層8と、を具えるタイヤである。
本発明の加硫ゴムをサイド補強ゴム層8及びビードフィラー7から選ばれる少なくとも一つの部材に用いることにより、本発明のランフラットタイヤは、ランフラット耐久性に優れる。
【0036】
本発明のタイヤのカーカス層2は少なくとも1枚のカーカスプライからなっているが、カーカスプライは2枚以上であってもよい。また、カーカスプライの補強コードは、タイヤ周方向に対し実質的に90°をなす角度で配置することができ、補強コードの打ち込み数は、35~65本/50mmとすることができる。また、カーカス層2のクラウン領域のタイヤ径方向外側に、2層の第1ベルト層5aと第2ベルト層5bとからなるベルト層5が配設されているが、ベルト層5の枚数もこれに限られるものではない。なお、第1ベルト層5aと第2ベルト層5bは、撚り合わされることなくタイヤ幅方向に並列に引き揃えられた複数本のスチールコードがゴム中に埋設されてなるものを用いることができ、例えば、第1ベルト層5aと第2ベルト層5bは、層間で互いに交差するように配置されて、交差ベルトを形成してもよい。
【0037】
さらに、本発明のタイヤは、ベルト層5のタイヤ径方向外側には、ベルト補強層(図示しない)が配置されていてもよい。ベルト補強層の補強コードは、タイヤ周方向における引張剛性の確保が目的であるので、高弾性の有機繊維からなるコードを用いることが好ましい。有機繊維コードとしては、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ザイロン(登録商標)(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維)、脂肪族ポリアミド(ナイロン)等の有機繊維コード等を用いることができる。
【0038】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、サイド補強層の外、図示はしないが、インサート、フリッパー等の補強部材を配置してもよい。ここで、インサートとは、ビード部からサイド部にかけて、タイヤ周方向に配置される、複数本の高弾性の有機繊維コードを並べてゴムコーティングした補強材である(図示せず)。フリッパーとは、カーカスプライの、ビードコア1又は1’間に延在する本体部と、ビードコア1又は1’の周りに折り返された折り返し部との間に配設され、ビードコア1又は1’およびそのタイヤ径方向外側に配置されるビードフィラー7の少なくとも一部を内包する、複数本の高弾性の有機繊維コードを並べてゴムコーティングした補強材である。インサートおよびフリッパーの角度は、好ましくは周方向に対して30~60°である。
【0039】
一対のビード部にはそれぞれビードコア1、1’が埋設され、カーカス層2はこのビードコア1、1’の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止されているが、カーカス層2の係止方法についても、これに限られるものでもない。例えば、カーカス層2を構成するカーカスプライのうち、少なくとも1枚のカーカスプライは、ビードコア1、1’の周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返されて、その折返し端がベルト層5とカーカス層2のクラウン部との間に位置する、いわゆるエンベロープ構造としてもよい。さらにまた、トレッドゴム層4の表面には適宜トレッドパターンが形成されていてもよく、最内層にはインナーライナー6が形成されていてもよい。本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を変えた空気、もしくは窒素等の不活性ガスを用いることができる。
次に、本発明の加硫ゴムを構成するゴム組成物について説明する。
【0040】
<ゴム組成物>
本発明の加硫ゴムを構成するゴム組成物は、ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有する。
以下、ゴム成分と、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤とを含有するゴム組成物を、本発明のゴム組成物と称することがある。
本発明のゴム組成物がかかる構成であることで、本発明の加硫ゴムは、高温で軟化しにくいと共に、機械的強度を保ち、サイド補強ゴム層及びビードフィラーに適用されることで、ランフラットタイヤはランフラット耐久性に優れる。
【0041】
〔ゴム成分〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分を含有する。
ゴム成分は、例えば、ジエン系ゴム及び非ジエン系ゴムが挙げられる。
ジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。
合成ジエン系ゴムとして、具体的には、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等が挙げられる。
ジエン系ゴムは、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、及びイソブチレンイソプレンゴムが好ましく、天然ゴム及びポリブタジエンゴムがより好ましい。
【0042】
非ジエン系ゴムとしては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM(EPMとも称する))、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマーとの共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。
【0043】
ゴム成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
ゴム成分は、変性されていてもよいし、未変性でもよく、二種以上のゴム成分を用いる場合は、未変性のゴム成分と変性されたゴム成分を混合して用いてもよい。
ゴム成分は、ジエン系ゴムを含んでもよいし、非ジエン系ゴムを含んでもよいが、高温での耐軟化性及び機械的強度に優れた網目構造の加硫ゴムを得る観点から、少なくともジエン系ゴムを含むことが好ましく、ジエン系ゴムからなることがより好ましい。
また、ジエン系ゴムは、天然ゴムと合成ジエン系ゴムのいずれか一方のみ用いてもよいし、両方を用いてもよいが、引張強度、破壊伸びなどの破壊特性を向上する観点から、天然ゴムと合成ジエン系ゴムを併用することが好ましい。
【0044】
加硫ゴムの発熱抑制の観点からは、ゴム成分は、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含まない(ゴム成分中の含有量が0質量%)であることが好ましい。
よって、タイヤのランフラット耐久性を向上し、かつ、低発熱性を向上する観点から、ゴム成分は、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、及びイソブチレンイソプレンゴムかならなることが好ましく、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、及びポリブタジエンゴムかならなることがより好ましく、天然ゴム及びポリブタジエンゴムかならなることが更に好ましい。なお、既述のように、上記ゴム成分は変性されていても未変性であってもよく、例えば、「天然ゴム及びポリブタジエンゴムかならなる」には、未変性の天然ゴム及び変性されたポリブタジエンゴムを用いた態様、変性された天然ゴム及び変性されたポリブタジエンゴムを用いた態様等を含む。
【0045】
ゴム成分中の天然ゴムの割合は、引張強度、破壊伸びなどの破壊特性をより向上する観点から、10質量%以上が好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0046】
ゴム成分は、加硫ゴムの低発熱性を向上する観点から、変性基を含むゴム(変性ゴムと称することがある)を用いることが好ましく、変性基を含む合成ゴムを用いることがより好ましい。
サイド補強ゴム層の補強性を向上する観点から、ゴム組成物は充填剤を含有しており、充填剤(特に、カーボンブラック)との相互作用を高めるために、ゴム成分は、変性基を含む合成ゴムとして、変性基を含むポリブタジエンゴム(変性ポリブタジエンゴム)を含むことが好ましい。
後述するように、充填剤は少なくともカーボンブラックを含有することが好ましく、変性ポリブタジエンゴムは、カーボンブラックと相互作用する官能基を少なくとも一つ有する変性ポリブタジエンゴムであることが好ましい。カーボンブラックと相互作用する官能基は、カーボンブラックと親和性を有する官能基が好ましく、具体的には、スズ含有官能基、ケイ素含有官能基及び窒素含有官能基からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0047】
変性ポリブタジエンゴムがスズ含有官能基、ケイ素含有官能基及び窒素含有官能基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を少なくとも一つ有する変性ポリブタジエンゴムである場合、変性ポリブタジエンゴムは、スズ含有化合物、ケイ素含有化合物又は窒素含有化合物等の変性剤で変性され、スズ含有官能基、ケイ素含有官能基又は窒素含有官能基等を導入したものであることが好ましい。
ブタジエンゴムの重合活性部位を変性剤で変性するにあたって、使用する変性剤としては、窒素含有化合物、ケイ素含有化合物及びスズ含有化合物が好ましい。この場合、変性反応により、窒素含有官能基、ケイ素含有官能基又はスズ含有官能基を導入することができる。
このような変性用官能基は、ポリブタジエンの重合開始末端、主鎖及び重合活性末端のいずれかに存在すればよい。
【0048】
上記変性剤として用いることができる窒素含有化合物は、置換若しくは非置換のアミノ基、アミド基、イミノ基、イミダゾール基、ニトリル基又はピリジル基を有することが好ましい。該変性剤として好適な窒素含有化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードMDI、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物、4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ジメチルアミノベンジリデンアニリン、4-ジメチルアミノベンジリデンブチルアミン、ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルピロリドンヘキサメチレンイミン等が挙げられる。
【0049】
また、上記変性剤として用いることができるケイ素含有化合物としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4,5-ジヒドロイミダゾール、3-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-(1-ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、(1-ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリメトキシ)シラン、3-ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3-ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、2-(トリメトキシシリルエチル)ピリジン、2-(トリエトキシシリルエチル)ピリジン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。これらケイ素含有化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、該ケイ素含有化合物の部分縮合物も用いることができる。
【0050】
更に、上記変性剤としては、下記式(I):
R1
aZXb (I)
[式中、R1は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基及び炭素数7~20のアラルキル基からなる群から選択され;Zは、スズ又はケイ素であり;Xは、それぞれ独立して塩素又は臭素であり;aは0~3で、bは1~4で、但し、a+b=4である]で表される変性剤も好ましい。なお、式(I)の変性剤で変性して得られる変性ポリブタジエンゴムは、少なくとも一種のスズ-炭素結合又はケイ素-炭素結合を有する。
【0051】
式(I)のR1として、具体的には、メチル基、エチル基、n-ブチル基、ネオフィル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。また、式(I)の変性剤として、具体的には、SnCl4、R1SnCl3、R1
2SnCl2、R1
3SnCl、SiCl4、R1SiCl3、R1
2SiCl2、R1
3SiCl等が好ましく、SnCl4及びSiCl4が特に好ましい。
【0052】
変性ポリブタジエンゴムとしては、以上の中でも、加硫ゴムを低発熱化し、耐久寿命を延ばす観点から、窒素含有官能基を有する変性ポリブタジエンゴムであることが好ましく、アミン変性ポリブタジエンゴムであることがより好ましい。
【0053】
(アミン変性ポリブタジエンゴムの変性基)
アミン変性ポリブタジエンゴムは、変性用アミン系官能基として、第1級アミノ基又は第2級アミノ基が好ましく、脱離可能基で保護された第1級アミノ基又は脱離可能基で保護された第2級アミノ基を導入したものがより好ましく、これらアミノ基に加え、さらにケイ素原子を含む官能基を導入したものが更に好ましい。
脱離可能基で保護された第1級アミノ基(保護化第1級アミノ基ともいう。)の例としては、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノ基を挙げることができ、脱離可能基で保護された第2級アミノ基の例としてはN,N-(トリメチルシリル)アルキルアミノ基を挙げることができる。このN,N-(トリメチルシリル)アルキルアミノ基含有基としては、非環状残基、及び環状残基のいずれであってもよい。
上記のアミン変性ポリブタジエンゴムのうち、保護化第1級アミノ基で変性された第1級アミン変性ポリブタジエンゴムが更に好適である。
前記ケイ素原子を含む官能基としては、ケイ素原子にヒドロカルビルオキシ基及び/又はヒドロキシ基が結合してなるヒドロカルビルオキシシリル基及び/又はシラノール基を挙げることができる。
このような変性用官能基は、好ましくはブタジエンゴムの重合末端、より好ましくは同一重合活性末端に、脱離可能基で保護されたアミノ基と、ヒドロカルビルオキシ基及びヒドロキシ基が結合したケイ素原子を1以上(例えば、1又は2)とを有するものである。
【0054】
ブタジエンゴムの活性末端に、保護化第1級アミンを反応させて変性させるには、該ブタジエンゴムは、少なくとも10%のポリマー鎖がリビング性又は擬似リビング性を有するものが好ましい。このようなリビング性を有する重合反応としては、有機アルカリ金属化合物を開始剤とし、有機溶媒中で共役ジエン化合物単独、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とをアニオン重合させる反応か、あるいは有機溶媒中でランタン系列希土類元素化合物を含む触媒による共役ジエン化合物単独、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを配位アニオン重合させる反応が挙げられる。前者は、後者に比較して共役ジエン部分のビニル結合含有量の高いものを得ることができるので好ましい。ビニル結合量を高くすることによって加硫ゴムの耐熱性を向上させることができる。
【0055】
(重合開始剤)
アニオン重合の開始剤として用いられる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好ましい。有機リチウム化合物としては、特に制限はないが、ヒドロカルビルリチウム及びリチウムアミド化合物が好ましく用いられ、前者のヒドロカルビルリチウムを用いる場合には、重合開始末端にヒドロカルビル基を有し、かつ他方の末端が重合活性部位であるブタジエンゴムが得られる。また、後者のリチウムアミド化合物を用いる場合には、重合開始末端に窒素含有基を有し、他方の末端が重合活性部位であるブタジエンゴムが得られる。
【0056】
前記ヒドロカルビルリチウムとしては、炭素数2~20のヒドロカルビル基を有するものが好ましく、例えばエチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-オクチルリチウム、n-デシルリチウム、フェニルリチウム、2-ナフチルリチウム、2-ブチルフェニルリチウム、4-フェニルブチルリチウム、シクロへキシルリチウム、シクロベンチルリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとブチルリチウムとの反応生成物等が挙げられるが、これらの中で、特にn-ブチルリチウムが好適である。
【0057】
一方、リチウムアミド化合物としては、例えばリチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピぺリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジへキシルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウムジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウム-N-メチルピベラジド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド等が挙げられる。これらの中で、カーボンブラックに対する相互作用効果及び重合開始能の点から、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピぺリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド等の環状リチウムアミドが好ましく、特にリチウムヘキサメチレンイミド及びリチウムピロリジドが好適である。
これらのリチウムアミド化合物は、一般に、第2級アミンとリチウム化合物とから、予め調製したものを重合に使用することができるが、重合系中(in-Situ)で調製することもできる。また、この重合開始剤の使用量は、好ましくは単量体100g当たり、0.2~20ミリモルの範囲で選定される。
【0058】
前記有機リチウム化合物を重合開始剤として用い、アニオン重合によってブタジエンゴムを製造する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。
具体的には、反応に不活性な有機溶剤、例えば脂肪族、脂環族、芳香族炭化水素化合物等の炭化水素系溶剤中において、共役ジエン化合物又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を、前記リチウム化合物を重合開始剤として、所望により、用いられるランダマイザーの存在下にアニオン重合させることにより、目的の活性末端を有するブタジエンゴムが得られる。
また、有機リチウム化合物を重合開始剤として用いた場合には、前述のランタン系列希土類元素化合物を含む触媒を用いた場合に比べ、活性末端を有するブタジエンゴムのみならず、活性末端を有する共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物の共重合体も効率よく得ることができる。
【0059】
前記炭化水素系溶剤としては、炭素数3~8のものが好ましく、例えばプロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-へキセン、2-へキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
また、溶媒中の単量体濃度は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。尚、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を用いて共重合を行う場合、仕込み単量体混合物中の芳香族ビニル化合物の含量は55質量%以下の範囲が好ましい。
【0060】
(変性剤)
本発明においては、上記のようにして得られた活性末端を有するブタジエンゴムの活性末端に、変性剤として、保護化第1級アミン化合物を反応させることにより、第1級アミン変性ポリブタジエンゴムを製造することができ、保護化第2級アミン化合物を反応させることにより、第2級アミン変性ポリブタジエンゴムを製造することができる。上記保護化第1級アミン化合物としては、保護化第1級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が好適であり、保護化第2級アミン化合物としては、保護化第2級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が好適である。
【0061】
上記アミン変性ポリブタジエンゴムを得るための変性剤として用いられる保護化第1級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物としては、例えばN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1-トリメチルシリル-2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジメトキシシラン及びN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルメチルジエトキシシラン等を挙げることができ、好ましくは、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン又は1-トリメチルシリル-2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタンである。
【0062】
また、上記アミン変性ポリブタジエンゴムを得るための変性剤としては、N-メチル-N-トリメチルシリルアミノプロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-メチル-N-トリメチルシリルアミノプロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(ヘキサメチレンイミン-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(ヘキサメチレンイミン-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピロリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピロリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピペリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(ピペリジン-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(イミダゾール-2-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(イミダゾール-2-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシラン、N-トリメチルシリル(4,5-ジヒドロイミダゾール-5-イル)プロピル(メチル)ジメトキシシラン、N-トリメチルシリル(4,5-ジヒドロイミダゾール-5-イル)プロピル(メチル)ジエトキシシランなどの保護化第2級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物;N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1-メチルエチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-エチリデン-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(4-N,N-ジメチルアミノベンジリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(シクロヘキシリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンなどのイミノ基を有するアルコキシシラン化合物;3-ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3-ジメチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン、3-ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3-ジエチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン、2-ジメチルアミノエチル(トリエトキシ)シラン、2-ジメチルアミノエチル(トリメトキシ)シラン、3-ジメチルアミノプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3-ジブチルアミノプロピル(トリエトキシ)シランなどのアミノ基を有するアルコキシシラン化合物なども挙げられる。
これらの変性剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。またこの変性剤は部分縮合物であってもよい。
ここで、部分縮合物とは、変性剤のSiOR(Rはアルキル基等)の一部(全部ではない)が縮合によりSiOSi結合になったものをいう。
【0063】
前記変性剤による変性反応において、該変性剤の使用量は、好ましくは0.5~200mmol/kg・ブタジエンゴムである。同使用量は、さらに好ましくは1~100mmol/kg・ブタジエンゴムであり、特に好ましくは2~50mmol/kg・ブタジエンゴムである。ここで、ブタジエンゴムとは、製造時又は製造後、添加される老化防止剤等の添加剤を含まないブタジエンゴムの質量を意味する。変性剤の使用量を前記範囲にすることによって、充填材、特にカーボンブラックの分散性に優れ、加硫ゴムの耐破壊特性及び低発熱性が改良される。
なお、前記変性剤の添加方法は、特に制限されず、一括して添加する方法、分割して添加する方法、あるいは、連続的に添加する方法等が挙げられるが、一括して添加する方法が好ましい。
また、変性剤は、重合開始末端や重合終了末端以外に重合体主鎖や側鎖のいずれに結合させることもできるが、重合体末端からエネルギー消失を抑制して低発熱性を改良しうる点から、重合開始末端あるいは重合終了末端に導入されていることが好ましい。
【0064】
(縮合促進剤)
本発明では、前記した変性剤として用いる保護化第1級アミノ基を有するアルコキシシラン化合物が関与する縮合反応を促進するために、縮合促進剤を用いることが好ましい。
このような縮合促進剤としては、第三アミノ基を含有する化合物、又は周期律表(長周期型)の3族、4族、5族、12族、13族、14族及び15族のうちのいずれかの属する元素を一種以上含有する有機化合物を用いることができる。さらに縮合促進剤として、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ビスマス(Bi)、アルミニウム(Al)、及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも一種以上の金属を含有する、アルコキシド、カルボン酸塩、又はアセチルアセトナート錯塩であることが好ましい。
ここで用いる縮合促進剤は、前記変性反応前に添加することもできるが、変性反応の途中及び又は終了後に変性反応系に添加することが好ましい。変性反応前に添加した場合、活性末端との直接反応が起こり、活性末端に保護された第一アミノ基を有するヒドロカルビロキシ基が導入されない場合がある。
縮合促進剤の添加時期としては、通常、変性反応開始5分~5時間後、好ましくは変性反応開始15分~1時間後である。
【0065】
縮合促進剤としては、具体的には、例えば、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトラ-n-プロポキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、テトラ-n-ブトキシチタニウム、テトラ-n-ブトキシチタニウムオリゴマー、テトラ-sec-ブトキシチタニウム、テトラ-tert-ブトキシチタニウム、テトラ(2-エチルヘキシル)チタニウム、ビス(オクタンジオレート)ビス(2-エチルヘキシル)チタニウム、テトラ(オクタンジオレート)チタニウム、チタニウムラクテート、チタニウムジプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムジブトキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムトリブトキシステアレート、チタニウムトリプロポキシステアレート、チタニウムエチルヘキシルジオレート、チタニウムトリプロポキシアセチルアセトネート、チタニウムジプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムトリプロポキシエチルアセトアセテート、チタニウムプロポキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムトリブトキシアセチルアセトネート、チタニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、チタニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムジアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ビス(2-エチルヘキサノエート)チタニウムオキサイド、ビス(ラウレート)チタニウムオキサイド、ビス(ナフテネート)チタニウムオキサイド、ビス(ステアレート)チタニウムオキサイド、ビス(オレエート)チタニウムオキサイド、ビス(リノレート)チタニウムオキサイド、テトラキス(2-エチルヘキサノエート)チタニウム、テトラキス(ラウレート)チタニウム、テトラキス(ナフテネート)チタニウム、テトラキス(ステアレート)チタニウム、テトラキス(オレエート)チタニウム、テトラキス(リノレート)チタニウム、テトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン等のチタニウムを含む化合物を挙げることができる。
【0066】
また、例えば、トリス(2-エチルヘキサノエート)ビスマス、トリス(ラウレート)ビスマス、トリス(ナフテネート)ビスマス、トリス(ステアレート)ビスマス、トリス(オレエート)ビスマス、トリス(リノレート)ビスマス、テトラエトキシジルコニウム、テトラ-n-プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム、テトラ-sec-ブトキシジルコニウム、テトラ-tert-ブトキシジルコニウム、テトラ(2-エチルヘキシル)ジルコニウム、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ビス(2-エチルヘキサノエート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ラウレート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ナフテネート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ステアレート)ジルコニウムオキサイド、ビス(オレエート)ジルコニウムオキサイド、ビス(リノレート)ジルコニウムオキサイド、テトラキス(2-エチルヘキサノエート)ジルコニウム、テトラキス(ラウレート)ジルコニウム、テトラキス(ナフテネート)ジルコニウム、テトラキス(ステアレート)ジルコニウム、テトラキス(オレエート)ジルコニウム、テトラキス(リノレート)ジルコニウム等のビスマスまたはジルコニウムを含む化合物を挙げることができる。
【0067】
また、例えば、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム、トリ(2-1エチルヘキシル)アルミニウム、アルミニウムジブトキシステアレート、アルミニウムジブトキシアセチルアセトネート、アルミニウムブトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムジブトキシエチルアセトアセテート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、トリス(2-エチルヘキサノエート)アルミニウム、トリス(ラウレート)アルミニウム、トリス(ナフテネート)アルミニウム、トリス(ステアレート)アルミニウム、トリス(オレエート)アルミニウム、トリス(リノレート)アルミニウム等のアルミニウムを含む化合物を挙げることができる。
【0068】
上述の縮合促進剤の内、チタン化合物が好ましく、チタン金属のアルコキシド、チタン金属のカルボン酸塩、又はチタン金属のアセチルアセトナート錯塩が特に好ましい。
この縮合促進剤の使用量としては、前記化合物のモル数が、反応系内に存在するヒドロカルビロキシ基総量に対するモル比として、0.1~10となることが好ましく、0.5~5が特に好ましい。縮合促進剤の使用量を前記範囲にすることによって縮合反応が効率よく進行する。
なお、縮合反応時間は、通常、5分~10時間、好ましくは15分~5時間程度である。縮合反応時間を前記範囲にすることによって縮合反応を円滑に完結することができる。
また、縮合反応時の反応系の圧力は、通常、0.01~20MPa、好ましくは0.05~10MPaである。
【0069】
加硫ゴムの低発熱性及び高温耐軟化性を向上する観点から、ゴム成分中の変性ゴムの含有量は、10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%がより好ましい。
【0070】
〔充填剤〕
本発明のゴム組成物は、加硫ゴムの剛性を高め、高温での耐軟化性を得る観点から、充填剤を含有することが好ましい。
充填剤としては、例えば、アルミナ、チタニア、シリカ等の金属酸化物、クレー、炭酸カルシウム及びカーボンブラック等補強性充填剤が挙げられ、シリカ及びカーボンブラックが好ましく用いられる。タイヤ内の空気が抜け、サイド補強ゴム層、ビードフィラー等が撓んで、これらの部位を構成する加硫ゴムが発熱した場合でも、加硫ゴムの発熱を抑制する観点から、低発熱性の充填剤を用いることが好ましい。かかる観点から、本発明のゴム組成物は、窒素吸着比表面積が15~39m2/gであり、かつ、DBP吸油量が120~180mL/100gであるカーボンブラックを含む充填剤を含有することが好ましい。
【0071】
(カーボンブラック)
ゴム組成物がカーボンブラックを含むことで、加硫ゴムの強度を向上することができる。更に、既述のように、加硫ゴムの低発熱性の観点から、カーボンブラックは、窒素吸着比表面積が15~39m2/gであり、かつ、DBP吸油量(ジブチルフタレート吸油量)が120~180mL/100gであることが好ましい。
カーボンブラックのDBP吸油量は、カーボンブラックの凝集体構造の発達度合(「ストラクチャー」と称することがある)を表す指標として用いられ、DBP吸油量が大きいほど凝集体が大きくなる傾向にある。
本明細書においては、窒素吸着比表面積が39m2/g以下であるカーボンブラックを、大粒径のカーボンブラックと称し、DBP吸油量が120mL/100g以上であるカーボンブラックを、高ストラクチャーのカーボンブラックと称する。
【0072】
一般に、カーボンブラックは、粒径が大きくなるほどストラクチャーが低くなるものであるが、大粒径であっても高ストラクチャーのカーボンブラックを用いることで、発熱性をより抑制し、かつ引張強度及び圧縮強度をより向上することができるので、ランフラットタイヤの高温での耐軟化性をより向上することができる。
【0073】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積が39m2/g以下であることで、カーボンブラックに起因する発熱を抑制して、加硫ゴムの発熱を抑制することができる。窒素吸着比表面積が15m2/g以上であることで、加硫ゴムの補強性を向上することができる。加硫ゴムの低発熱性と補強性を向上してタイヤのランフラット耐久性を向上する観点から、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、18~37m2/gであることがより好ましく、21~35m2/gであることが更に好ましい。
【0074】
カーボンブラックのDBP吸油量が120mL/100g以上であることで、加硫ゴムの引張強度及び耐圧縮性を向上し、タイヤのランフラット耐久性を向上することができる。DBP吸油量が180mL/100g以下であることで、発熱を抑制することができ、ランフラット耐久性を向上することができる。
カーボンブラックのDBP吸油量は、122~170mL/100gであることがより好ましく、125~165mL/100gであることが更に好ましい。
【0075】
カーボンブラックは、トルエン着色透過度が50%以上であることが好ましい。
トルエン着色透過度が50%以上であることで、カーボンブラック表面に存在するタール分、特に芳香族成分が抑制され、ゴム成分を充分に補強することができ、加硫ゴムの耐摩耗性等を向上することができる。カーボンブラックのトルエン着色透過度は、60%以上であることがより好ましく、75%以上であることが更に好ましい。カーボンブラックのトルエン着色透過度は100%でもよいが、通常、100%未満である。
トルエン着色透過度は、JIS K 6218:1997の第8項B法に記載の方法により測定され、純粋なトルエンとの百分率で表示される。
【0076】
ゴム組成物中のカーボンブラックの含有量は、加硫ゴムの高温での耐軟化性をより向上し、ランフラット耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、30~100質量部であることが好ましく、35~80質量部であることがより好ましく、40~70質量部であることが更に好ましい。
【0077】
(シリカ)
シリカは特に限定されず、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロウダルシリカ等が挙げられる。シリカは、市販品でもよく、例えば、東ソー・シリカ株式会社のNIPSIL AQ(商品名)、ローディア社のZeosil 1115MP(商品名)、エボニックデグッサ社のVN-3(商品名)として、入手することができる。
また、充填剤としてシリカを用いる場合、シリカ-ゴム成分間の結合を強化して補強性を高めた上で、ゴム組成物中のシリカの分散性を向上させるために、ゴム組成物は、更に、シランカップリング剤を含んでいてもよい。
【0078】
充填剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、充填剤は、カーボンブラック及びシリカのいずれか一方を含んでもよいし、両方を含んでもよいが、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましく、カーボンブラックを1種単独で、又は2種以上を混合して用いることがより好ましい。
本発明のゴム組成物中の充填剤の含有量(全合計量)は、加硫ゴムの高温での耐軟化性をより向上し、ランフラット耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して、30~100質量部であることが好ましく、30~100質量部であることが好ましく、35~80質量部であることがより好ましく、40~70質量部であることが更に好ましい。
【0079】
〔加硫剤〕
本発明のゴム組成物は、加硫剤を含有することが好ましい。
加硫剤は、特に制限はなく、通常、硫黄を用い、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等を挙げることができる。
更に、本発明のゴム組成物は、加硫促進剤の合計の含有量が、加硫剤の合計の含有量よりも少ないことが好ましい。より具体的には、加硫促進剤の合計の含有量(d)と、加硫剤の合計の含有量(c)との質量比(d/c)が、0.55~0.99であることが好ましい。
一般に、加硫ゴムの網目構造におけるモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合を高めるには、加硫促進剤の合計の含有量を、加硫剤の合計の含有量よりも多くするが、本発明では、反対に、加硫促進剤の合計の含有量を、加硫剤の合計の含有量よりも少なくすることが好ましい。更に、チウラム系の加硫促進剤を用い、モノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合が多い加硫ゴムは、耐熱性に優れる一方で、機械的強度が低下すると言われることがある。しかし、本発明においては、高温での耐軟化性と機械的強度を両立することができる。かかる理由は定かではないが、本発明では、加硫促進剤として、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含むことに起因して、高温での耐軟化性と機械的強度を両立することができると考えられる。
質量比(d/c)は、タイヤのランフラット耐久性をより向上する観点から、0.55~0.95であることがより好ましく、0.55~0.90であることが更に好ましく、0.55~0.85であることがより更に好ましい。
【0080】
ゴム組成物中の加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2~12質量部が好ましい。この含有量が2質量部以上であることで加硫を充分に進行させることができ、12質量部以下をとすることで、加硫ゴムの耐老化性を抑制することができる。
ゴム組成物中の加硫剤の含有量はゴム成分100質量部に対して、3~10質量部であることがより好ましく、4~8質量部であることが更に好ましい。
【0081】
〔加硫促進剤〕
ゴム組成物は、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含む加硫促進剤を含有する。
既述のように、本発明の加硫ゴムはモノ/ジスルフィド結合量が多く、加硫ゴムの耐熱性に優れる。従来、モノ/ジスルフィド結合量の多さに伴い、加硫ゴムは機械的強度が低下すると言われてきたことに反し、本発明の加硫ゴムは機械的強度を保ち、高温で軟化しにくい。これは、ゴム組成物が、加硫促進剤として、テトラベンジルチウラムジスルフィドを含むためと考えられる。
タイヤのランフラット耐久性を向上する観点から、テトラベンジルチウラムジスルフィドのゴム組成物中の含有量(a)は、ゴム成分100質量部に対して1.0~2.0質量部であることが好ましい。
トラベンジルチウラムジスルフィドのゴム組成物中の含有量(a)が、ゴム成分100質量部に対して1.0質量部以上であることで、十分なランフラット耐久性が得られ、含有量(a)が2.0質量部以下であることで、ゴム焼けが生じにくく、加硫ゴムの機械的強度の低下を抑制することができる。
タイヤのランフラット耐久性をより向上する観点から、含有量(a)は、1.2~1.8質量部であることがより好ましく、1.3~1.7質量部であることが更に好ましい。
【0082】
既述のように、一般的には、加硫剤を少なく用い、チウラム系加硫促進剤を多く用いてモノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合を高める技術が用いられるが、本発明においては、加硫剤を多く用い、チウラム系加硫促進剤を少なく用いて、モノスルフィド結合及びジスルフィド結合の割合を高めることが好ましい。
具体的には、チウラム系加硫促進剤の含有量(A)と、加硫剤の含有量(c)との質量比(A/c)が、0.22~0.32であることが好ましい。質量比(A/c)が上記範囲であることで、加硫ゴムが高温での耐軟化性に優れ、ランフラット耐久性に優れる。
質量比(A/c)は、0.25~0.32であることがより好ましく、0.27~0.32であることが更に好ましい。
【0083】
加硫促進剤の合計の含有量を、加硫剤の合計の含有量よりも少なくする成分組成において、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合を増やして、加硫ゴムの高温での耐軟化性を上げながら、機械的強度も向上する観点から、チウラム系加硫促進剤はテトラベンジルチウラムジスルフィドからなることが好ましい。
テトラベンジルチウラムジスルフィドの含有量(a)と、加硫剤の含有量(c)との質量比(a/c)は、0.22~0.32であることが好ましく、0.25~0.32であることがより好ましく、0.27~0.32であることが更に好ましい。
【0084】
(スルフェンアミド系加硫促進剤)
ゴム組成物は、更に、スルフェンアミド系加硫促進剤を含むことが好ましい。
本発明のゴム組成物が、スルフェンアミド系加硫促進剤を含むことで、タイヤのランフラット耐久性をより向上することができる。
スルフェンアミド系加硫促進剤は、ゴム組成物中のチウラム系加硫促進剤の含有量(A)と、ゴム組成物中のスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(A/b)が0.60~1.25となる範囲で用いることが好ましい。質量比(A/b)が0.60以上であることで、加硫ゴムの高温時の耐軟化性が得られ易く、タイヤはランフラット耐久性に優れる。また、質量比(A/b)が1.25以下であることで破壊特性を確保することができる。
タイヤのランフラット耐久性をより向上する観点から、質量比(a/b)は、0.62~1.22であることが好ましく、0.64~1.20であることがより好ましい。
【0085】
より具体的には、ゴム組成物中のスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.80~3.33質量部であることが好ましい。スルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、ランフラット耐久性をより向上する観点から、ゴム成分100質量部に対して1.00~3.00質量部であることがより好ましく、1.10~2.80質量部であることが更に好ましい。
【0086】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-メチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-エチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-プロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-2-エチルヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-デシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-ステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジメチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジエチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジペンチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジヘプチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジオクチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシルベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジドデシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジステアリル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。
スルフェンアミド系加硫促進剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0087】
スルフェンアミド系加硫促進剤は、以上の中でも、加硫ゴムの高温での耐軟化性と機械的強度を両立し、ランフラット耐久性をより向上する観点から、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド及びN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドが好ましく、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドがより好ましい。
【0088】
本発明のゴム組成物は、テトラベンジルチウラムジスルフィド以外のチウラム系加硫促進剤の他、グアジニン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系、ザンテート系等の加硫促進剤を更に含んでいてもよい。
しかし、加硫促進剤の合計の含有量を、加硫剤の合計の含有量よりも少なくする成分組成において、モノスルフィド結合とジスルフィド結合の割合を増やして、加硫ゴムの高温での耐軟化性を上げながら、機械的強度も向上する観点から、加硫促進剤は、テトラベンジルチウラムジスルフィド及びスルフェンアミド系加硫促進剤からなることが好ましい。
【0089】
加硫ゴムの高温時の耐軟化性を向上し、優れたランフラット耐久性を有するタイヤを得る観点から、テトラベンジルチウラムジスルフィドの含有量(a)とスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量(b)の質量比(a/b)が0.60~1.25であることが好ましく、0.62~1.22であることがより好ましく、0.64~1.20であることが更に好ましい。
【0090】
(加硫遅延剤)
本発明のゴム組成物は、加硫遅延剤を含有していてもよい。ゴム組成物が加硫遅延剤を含むことで、ゴム組成物の調製時にゴム組成物の過加熱に起因するゴム焼けを抑制することができる。また、ゴム組成物のスコーチ安定性を良好にして、ゴム組成物の混練機からの押し出しを容易にすることができる。
本発明のゴム組成物は、ムーニー粘度(ML1+4,130℃)が、好ましくは40~100、より好ましくは50~90、更に好ましくは60~85である。ムーニー粘度が上記範囲であることで、製造加工性を損なわずに、耐破壊特性を始めとする加硫ゴム物性が十分に得られる。
加硫遅延剤としては、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、N-ニトロソジフェニルアミン、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド(CTP)、スルホンアミド誘導体、ジフェニルウレア、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト等が挙げられる。加硫遅延剤は市販製品を用いてもよく、例えば、モンサント社製、商品名「サントガードPVI」〔N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド〕等が挙げられる。
以上の中でも、加硫遅延剤は、N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド(CTP)が好ましく用いられる。
加硫遅延剤を用いる場合、加硫反応を妨げずにゴム組成物のゴム焼けを抑制し、スコーチ安定性を良好にする観点から、ゴム組成物中の加硫遅延剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1~1.0質量部であることが好ましい。
【0091】
〔軟化剤、熱硬化性樹脂〕
本発明のゴム組成物は、軟化剤及び熱硬化性樹脂を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、軟化剤及び熱硬化性樹脂のそれぞれの含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以下であることが好ましく、軟化剤及び熱硬化性樹脂の合計含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以下であることがより好ましく、合計含有量が1質量部以下であることが更に好ましく、軟化剤及び熱硬化性樹脂を含まない(軟化剤及び熱硬化性樹脂の合計含有量が、ゴム成分100質量部に対して0質量部である)ことが特に好ましい。
【0092】
(軟化剤)
ゴム組成物が軟化剤を実質的に含まないことにより、加硫ゴムの、室温での弾性率に対する高温(例えば、180℃)での弾性率の比を高くすることができる。従って、加硫ゴムをタイヤのサイド補強ゴムに適用した場合、タイヤのサイドウォールのたわみを抑制することができる。よって、このランフラット走行時の耐久性の向上の観点からは、軟化剤を含まないことが好ましい。
軟化剤としては、プロセスオイル、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
プロセスオイルは、例えば、鉱物由来のミネラルオイル、石油由来のアロマチックオイル、パラフィンオイル、ナフテンオイル、天然物由来のパームオイル等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、高温時に軟化又は液体状となり、加硫ゴムを柔軟にする樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、C5系(シクロペンタジエン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂を含む)、C9系、C5/C9混合系等の各種石油系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等の粘着付与剤(硬化剤を含まない)等が挙げられる。
【0093】
(熱硬化性樹脂)
ゴム組成物が熱硬化性樹脂を実質的に含まないことにより、加硫ゴムが柔軟となり、本発明のゴム組成物を用いたランフラットタイヤの静的縦バネ定数が小さくなるので、ランフラットタイヤの乗り心地性が良好となる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。フェノール樹脂の硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。
【0094】
本発明のゴム組成物には、上記成分と共に、通常のゴム組成物に配合され使用される配合剤を含有させることができる。例えば、加硫促進助剤亜鉛華(酸化亜鉛)、ステアリン酸、老化防止剤、相容化剤、作業性改善剤、滑剤、粘着付与剤、分散剤、均質化剤などの一般的に配合される各種配合剤を挙げることができる。
【0095】
老化防止剤としては、公知のものを用いることができ、特に制限されないが、フェノール系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、アミン系老化防止剤などを挙げることができる。これら老化防止剤の配合量は上記ゴム成分100質量部に対し、通常0.5~10質量部、好ましくは1~5質量部である。
【0096】
〔ゴム組成物の製造方法〕
このように、本発明のゴム組成物は、既述の成分を混練することにより得られる。混練方法は、当業者が通常実施する方法に従えばよい。混練に際してはロール、インターナルミキサー、バンバリーローター等の混練機を用いることができる。更に、シート状、帯状等に成形する際には、押出成形機、プレス機等の公知の成形機を用いればよい。
例えば、硫黄、加硫促進剤(必要に応じて、更に加硫遅延剤)、及び酸化亜鉛以外の全成分を、100~200℃で混練した後、硫黄、加硫促進剤、及び酸化亜鉛(必要に応じて、更に加硫遅延剤)を添加して、混練ロール機等を用い、60~130℃で混練すればよい。
【0097】
〔ランフラットタイヤの製造方法〕
本発明のランフラットタイヤは、本発明の加硫ゴムを、ビードフィラー7及びサイド補強ゴム層8のいずれか一方又は両方に用いて、通常のランフラットタイヤの製造方法によって製造される。
すなわち、各種薬品を含有させたゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、ランフラットタイヤが得られる。
【実施例】
【0098】
<実施例1~3、比較例1~5>
〔ゴム組成物の調製〕
下記表1及び2に示す配合組成で各成分を混練し、ゴム組成物を調製した。なお、表1に示す比較例3と表2に示す比較例4は、ゴム組成物の内容は同じであるが、後述するランフラット耐久性評価に用いたタイヤサイズが異なるため、別番号としている。
ゴム組成物の調製に用いた変性ポリブタジエンゴムは、次の方法により製造した。
【0099】
〔第1級アミン変性ポリブタジエンゴムPの製造〕
(1)未変性ポリブタジエンの製造
窒素置換された5Lオートクレーブに、窒素下、シクロヘキサン1.4kg、1,3-ブタジエン250g、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン(0.285mmol)シクロヘキサン溶液として注入し、これに2.85mmolのn-ブチルリチウム(BuLi)を加えた後、攪拌装置を備えた50℃温水浴中で4.5時間重合を行なった。1,3-ブタジエンの反応転化率は、ほぼ100%であった。この重合体溶液の一部を、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.3gを含むメタノール溶液に抜き取り重合を停止させた後、スチームストリッピングにより脱溶媒し、110℃のロールで乾燥して、変性前のポリブタジエンを得た。得られた変性前のポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定した結果、ビニル結合量は30質量%であった。
【0100】
(2)第1級アミン変性ポリブタジエンゴムPの製造
上記(1)で得られた重合体溶液を、重合触媒を失活させることなく、温度50℃に保ち、第1級アミノ基が保護されたN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1129mg(3.364mmol)を加えて、変性反応を15分間行った。
この後、縮合促進剤であるテトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン8.11gを加え、更に15分間攪拌した。
最後に反応後の重合体溶液に、金属ハロゲン化合物として四塩化ケイ素242mgを添加し、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒及び保護された第1級アミノ基の脱保護を行い、110℃に調温された熟ロールによりゴムを乾燥し、第1級アミン変性ポリブタジエンゴムPを得た。
得られた変性ポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定した結果、ビニル結合量は30質量%であった。
【0101】
また、ゴム組成物の調製に用いた変性ポリブタジエンゴム(第1級アミン変性ポリブタジエンゴムP)以外の各成分の詳細は以下のとおりである。
(1)ゴム成分
天然ゴム:RSS#1
【0102】
(2)充填剤
カーボンブラック1:旭カーボン社製、商品名「旭#52」
〔窒素吸着法比表面積28m2/g、DBP吸油量128ml/100g、トルエン着色透過度=65%〕
カーボンブラック2:旭カーボン社製、商品名「旭#60」
〔窒素吸着法比表面積40m2/g、DBP吸油量114ml/100g、トルエン着色透過度=80%〕
カーボンブラック3:東海カーボン社製、商品名「Seast FY」
〔窒素吸着法比表面積29m2/g、DBP吸油量152ml/100g、トルエン着色透過度=80%〕
カーボンブラック4:Cabot社製、商品名「SP5000A」
〔窒素吸着法比表面積28m2/g、DBP吸油量120ml/100g、トルエン着色透過度=99%〕
【0103】
(3)樹脂
熱硬化性樹脂:フェノール樹脂、住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジンPR-50731」
硬化剤:ヘキサメトキシメチルメラミン、富士フイルム和光純薬社製
【0104】
(4)加硫促進剤、加硫剤、加硫遅延剤
加硫促進剤1(TOT):テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー TOT-N」
加硫促進剤2(TBzTD):テトラベンジルチウラムジスルフィド、三新化学工業社製、商品名「サンセラー TBzTD」
加硫促進剤3(NS):N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラー NS」
加硫遅延剤(PVI):モンサント社製、商品名「サントガードPVI」〔N-(シクロヘキシルチオ)-フタルイミド〕
硫黄:鶴見化学工業社製、商品名「粉末硫黄」
【0105】
(5)各種成分
ステアリン酸:新日本理化社製、商品名「ステアリン酸50S」
亜鉛華:ハクスイテック社製、商品名「3号亜鉛華」
老化防止剤(6C):N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」
【0106】
〔ランフラットタイヤの製造、加硫ゴムの物性測定及び評価〕
(A)サイズAのタイヤ製造
得られたゴム組成物を、
図1に示すサイド補強ゴム層8及びビードフィラー7に配設し、それぞれタイヤサイズ255/65F18のサイズ(サイズA)の乗用車用ラジアルランフラットタイヤを定法に従って製造した。なお、各試作タイヤのサイド補強ゴム層の最大厚みは14.0mmとし、サイド補強ゴム層の形状は、いずれも同一とした。
【0107】
(B)サイズBのタイヤ製造
得られたゴム組成物を、
図1に示すサイド補強ゴム層8及びビードフィラー7に配設し、それぞれタイヤサイズ235/65R17のサイズ(サイズB)の乗用車用ラジアルランフラットタイヤを定法に従って製造した。なお、各試作タイヤのサイド補強ゴム層の最大厚みは11.8mmとし、サイド補強ゴム層の形状は、いずれも同一とした。
【0108】
1.モノ/ジスルフィド結合量及びポリスルフィド結合量
得られたゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムから、厚さ2mmのシートを切り取り、加硫ゴムシートを得た。加硫ゴムシートをアセトンで24時間抽出後、24時間真空乾燥した。乾燥後の加硫ゴムシートを2mm×2mm四方に裁断して、立方体状の加硫ゴム試料に成形した。次いで、加硫ゴム試料の縦、横、厚さの三方向の寸法を精測した。
【0109】
次に、ベンゼンと、テトラヒドロフラン(THF)を、脱水及び脱酸素し、当該ベンゼンと、テトラヒドロフラン(THF)とを、体積基準で、1:1で混合した。混合液を密閉可能な容器に投入し、窒素置換して、溶液(T)とした。
溶液(T)の入った前記容器を容器(1)に、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)の粉末を窒素置換しながら投入し、2日放置した。溶液の上澄みを分取し、これを溶液(M)とした。
プロパン-2-チオール及びピペリジンを脱水及び脱酸素し、当該プロパン-2-チオール及びピペリジンを、等モル採取し、溶液(M)を分取した容器を容器(2)に、窒素置換しながら投入して溶液(P)を得た。
【0110】
三方向の寸法を精測した加硫ゴム試料を、密閉可能な容器3つにそれぞれ投入し、それぞれ1時間真空乾燥してから窒素置換した。その後、加硫ゴム試料の入った容器に、溶液(T)、溶液(M)、溶液(P)を、それぞれ投入し、密閉して、30℃で24時間放置して、加硫ゴム試料を膨潤させた。
次いで、窒素雰囲気下で、各容器から加硫ゴム試料を取り出し、溶液(T)で洗浄し、膨潤した加硫ゴム試料の寸法を精測した。また、膨潤した加硫ゴム試料について、熱機械分析装置(NETZSCH社製、商品名「TMA 4000SA」)を用い、加硫ゴム試料の膨潤の大小に応じて1~100gまでの荷重を段階的に加え、圧縮応力と歪みの関係を求めた。
【0111】
得られたデータを、既述の式(2)に入力し、モノスルフィド網目鎖密度(νM)と、モノスルフィド網目鎖密度及びジスルフィド網目鎖密度の合計量(νM+νD)〔mol/cm3〕を求めた。
ジスルフィド網目鎖密度(νD)〔mol/cm3〕を(νM+νD)-νMから算出し、ポリスルフィド網目鎖密度(νP)〔mol/cm3〕をνT-(νM+νD)から算出した。
【0112】
更に、全スルフィド網目鎖密度(νT)を100%として、モノスルフィド網目鎖密度(νM)、ジスルフィド網目鎖密度(νD)、ポリスルフィド網目鎖密度(νP)を百分率に換算し、モノスルフィド結合量、ジスルフィド結合量及びポリスルフィド結合量を算出した。得られた結果を既述の式(1)に当てはめ、モノ/ジスルフィド結合量を算出した。
【0113】
2.ランフラット耐久性
表1の実施例1~3及び比較例1~3では、サイズAの試作タイヤを用い、また、表2の比較例4及び5では、サイズBの試作タイヤを用い、内圧非充填状態でドラム走行(速度80km/h)させ、タイヤが走行不能になるまでのドラム走行距離をランフラット走行距離とした。
表1(実施例1~3及び比較例1~3)では、ランフラット走行距離を、比較例3のランフラットタイヤのランフラット走行距離を100とした指数で表わした。
表2(比較例4及び5)では、ランフラット走行距離を、比較例4のランフラットタイヤのランフラット走行距離を100とした指数で表わした。
指数が大きいほど、ランフラットタイヤのランフラット耐久性に優れる。
【0114】
3.低発熱性
実施例1~3、比較例2~5のゴム組成物を加硫して得られた加硫ゴムについて、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度60℃、歪5%、周波数15Hzでtanδを測定した。
表1(実施例1~3、比較例2、及び比較例3)では、tanδを、比較例3のtanδを100とした指数で表わした。
発熱性指数=(各加硫ゴムのtanδ/比較例3の加硫ゴムのtanδ)×100
【0115】
表2(比較例4及び5)では、tanδを、比較例4のtanδを100とした指数で表わした。
発熱性指数=(各加硫ゴムのtanδ/比較例4の加硫ゴムのtanδ)×100
【0116】
比較例1のゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムについて、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度60℃、歪5%、周波数15Hzでtanδを測定する。
比較例1のtanδは、比較例3のtanδを100とした指数で表わす。
【0117】
発熱性指数が小さいほど、加硫ゴムは低発熱性に優れ、該加硫ゴムを用いたランフラットタイヤは低発熱性に優れるといえる。許容範囲は83以下である。
【0118】
【0119】
【0120】
表1と2から、ゴム組成物が加硫促進剤2(テトラベンジルチウラムジスルフィド)を含み、加硫ゴムのモノ/ジスルフィド結合量が65%以上である実施例1~3のタイヤは、いずれもランフラット耐久性の指数が100を超えていることがわかる。このことから、本発明のタイヤは、ランフラット耐久性に優れることがわかる。
また、実施例1~3の加硫ゴムはいずれも低発熱性指数が83以下であり、かかる加硫ゴムを用いたタイヤは発熱しにくく、タイヤの撓みを抑制し易いと考えられる。
一方、比較例1~5の加硫ゴムは低発熱性指数が83を超え、低発熱性が実施例に比べ優れないことがわかる。また、比較例1~5のタイヤは、ランフラット耐久性の指数が100以下であり、ランフラット耐久性が実施例に比べ優れないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の加硫ゴムは、高温で軟化しにくく、かつ、機械的強度に優れるため、各種タイヤ、特に、ランフラットタイヤのサイド補強ゴム及びビードフィラーに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0122】
1 ビードコア
2 カーカス層
3 サイドゴム層
4 トレッドゴム層
5 ベルト層
6 インナーライナー
7 ビードフィラー
8 サイド補強ゴム層
10 ショルダー区域