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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
C08G63/183
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022039848
(22)【出願日】2022-03-15
(65)【公開番号】P2023117341
(43)【公開日】2023-08-23
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】111104941
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202210124596.0
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595009383
【氏名又は名称】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHANG CHUN PLASTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7F., No.301, Songkiang Rd., Zhongshan Dist Taipei City,Taiwan 104
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】張 采楓
(72)【発明者】
【氏名】林 得順
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-111768(JP,A)
【文献】特開2004-035742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二量体、三量体、四量体及び五量体を含むポリブチレンテレフタレート組成物であって、
該ポリブチレンテレフタレート組成物において、分子量が1000未満であるオリゴマーは、全組成に占める比率が0.20%未満であり、
カルボキシル末端基濃度が15.0ミリ当量/kg未満であり、
固有粘度が1.15デシリットル/g~1.30デシリットル/gであり、
高速液体クロマトグラフィーと質量分析法を組み合わせることにより分析し、前記二量体は、約440から約485までの質量電荷比を有し、前記三量体は、約660から約705までの質量電荷比を有し、前記四量体は、約880から約925までの質量電荷比を有し、前記五量体は、約1100から約1145までの質量電荷比を有し、
前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積は、1%~7%であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項2】
前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積は、1.1%~6.7%であることを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項3】
前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記二量体のクロマトグラフィーピーク面積は、42.0%~55.0%であることを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項4】
多分散度指数が3.0より小さいことを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項5】
多分散度指数が2.0~2.99であることを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項6】
カルボキシル末端基濃度が10.0ミリ当量/kg未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項7】
メルトフローインデックスが10g/10min~30g/10minであることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載のポリブチレンテレフタレート組成物。
【請求項8】
前記二量体の質量電荷比が約440、約441、約458、約463及び約479であり、前記三量体の質量電荷比が約660、約661、約678、約683及び約699であり、前記四量体の質量電荷比が約880、約881、約898、約903及び約919であり、前記五量体の質量電荷比が約1100、約1101、約1118、約1123及び約1139であることを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載のポリブチレンテレフタレート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、樹脂組成物に関し、特に、ポリブチレンテレフタレート(polybutyleneterephthalate,PBT)組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸(terephthalic acid)又はそのエステルとブタンジオール(butanediol)の重合によって作られ、その繰り返しユニットにフェニル基を有し、構造の剛性及び融点を高めることができ、潜在力のある商材である。
【0003】
ポリブチレンテレフタレートは、優れた耐摩耗性、耐衝撃性及び化学的安定性等の長所を有するため、その製品は、高い寸法安定性を有し、ポンプ又は機器の骨格の組成によく使用される。しかしながら、長時間の使用で、ポリブチレンテレフタレートは、オリゴマーが沈殿しやすく、機器の中のエンジンオイル等の油製品の劣化につながり、ひいては、機器の故障問題や当該機器で製造された製品の汚染を招いてしまう。よって、ポリブチレンテレフタレート材料の中のオリゴマーの含有量をどのように減らすかは、緊急に改善することが求められている問題である。
【0004】
また、ポリブチレンテレフタレートが適用される製品は、必然的に高温多湿の過酷な環境で使用される必要があるとき、この場合は、ポリブチレンテレフタレートは、オリゴマーが沈殿しやすいだけではなく、加水分解も発生しやすく、製品の安定性が低下し、ひいては、関連分野におけるポリブチレンテレフタレートの応用及び発展が制限される。
【0005】
従って、現在、ポリブチレンテレフタレートの長時間使用によるオリゴマーの沈殿及び高温多湿環境での安定性の不足等の欠陥を改善することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許第101068848号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の欠陥を鑑み、本願の目的の1つは、従来のポリブチレンテレフタレートを改良し、そのオリゴマーの含有量を減らすことにより、その製品の価値を増やすことである。
【0008】
本願の目的のもう1つは、ポリブチレンテレフタレートの高温多湿環境での安定性を高めることである。
【0009】
上述した目的を実現するために、本願は、二量体、三量体、四量体及び五量体を含むポリブチレンテレフタレート組成物を提供する。当該ポリブチレンテレフタレート組成物は、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、HPLC)と質量分析法(mass spectrometry、MS)を組み合わせることにより分析し、前記二量体は、約440から約485までの質量電荷比を有し、前記三量体は、約660から約705までの質量電荷比を有し、前記四量体は、約880から約925までの質量電荷比を有し、前記五量体は、約1100から約1145までの質量電荷比を有する。なお、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積は、1%~7%である。
【0010】
本願によれば、ポリブチレンテレフタレート組成物の、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の比率を制御することにより、本願のポリブチレンテレフタレート組成物のオリゴマーの含有量を減らし、ポリブチレンテレフタレート組成物の高温多湿環境での安定性を高めることができ、製品の多方面への応用に役に立つ。
【0011】
本願のポリブチレンテレフタレート組成物のオリゴマーの含有量を具体的に減らすことにより、このポリブチレンテレフタレート組成物は、様々なバックエンド製品に適用することができ、優れた効果を得ることができる。 例えば、ポンプや機器の骨格に使用される場合、オリゴマーの沈殿が防げるため、機器の故障又は製品の汚染を避けることができる。食品接触部品に使用される場合、オリゴマーの溶解が防げるため、食品の安全を確保することができる。織物に使用される場合、オリゴマーの残留による織物の汚染、機械洗浄の回数の増加を避けることができるため、織物の品質及び生産効率を高めることができる。フィルムに使用される場合、オリゴマーの沈殿を避けてフィルムの品質及び透明性を高めることができる。
【0012】
具体的には、ポリブチレンテレフタレート組成物の、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積が1%~7%となるように制御することにより、当該ポリブチレンテレフタレート組成物において、分子量が1000未満であるオリゴマーは、全組成に占める比率が0.20%未満となる。ポリブチレンテレフタレート組成物の、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積が1%~3.17%となるように制御することにより、当該ポリブチレンテレフタレート組成物において、分子量が1000未満であるオリゴマーは、全組成に占める比率が0.10%未満となるように更に制御することが好ましい。
【0013】
なお、前記二量体は、環状二量体であり、2つのポリブチレンテレフタレートユニットからなり、その構造がCAS 63440-93-7のようなものである。前記三量体は、環状三量体であり、3つのポリブチレンテレフタレートユニットからなり、その構造がCAS 63440-94-8のようなものである。前記四量体は、環状四量体であり、4つのポリブチレンテレフタレートユニットからなり、その構造がCAS 29278-72-6のようなものである。前記五量体は、環状五量体であり、5つのポリブチレンテレフタレートユニットからなり、その構造がCAS 82298-33-7のようなものである。
【0014】
なお、HPLC分析で異なる保持時間(retention time)のフラクションに対して質量分析を更に行うことにより、得られた各フラクションのメインピーク値は、各オリゴマーの相応する質量電荷比に対応することができる。得られたメインピーク値は、各オリゴマーに結合した、質量分析計に残留した水素イオン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンから由来し、得られた質量電荷比は、それぞれ各オリゴマーの分子量に前述イオンの原子量を加えたものに対応することができる。質量分析計に残留したイオンは、前記イオンに限らず、装置により決められる。また、質量分析後に得られたメインピーク値の信号強度は、装置により異なる。
【0015】
本願は、「約」で質量電荷比を表す。質量分析により得られた質量電荷比は、イオン質量と所持電荷の比であることが理解されたい。 イオン質量は、相対原子質量で測定されるため、通常、整数ではないので、質量分析により得られる質量電荷比は、整数で要約されて表される。
【0016】
前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積は、1.1%~6.7%であることが好ましい。選択的には、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積は、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%、2.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、・・・・・・、6.6%又は6.7%であっても良い。なお、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積は、前記任意の2つの数値からなる範囲内であっても良いが、これに限らない。
【0017】
1つの実施形態においては、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記二量体のクロマトグラフィーピーク面積は、42.0%~55.0%であっても良い。もう1つの実施形態においては、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記二量体のクロマトグラフィーピーク面積は、43.0%~53.0%であっても良い。
【0018】
1つの実施形態においては、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記三量体のクロマトグラフィーピーク面積は、13.0%~42.0%であっても良い。もう1つの実施形態においては、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記三量体のクロマトグラフィーピーク面積は、15.0%~40.0%であっても良い。
【0019】
1つの実施形態においては、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記四量体のクロマトグラフィーピーク面積は、8.0%~35.0%であっても良い。もう1つの実施形態においては、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記四量体のクロマトグラフィーピーク面積は、10.0%~30.0%であっても良い。
【0020】
前記ポリブチレンテレフタレート組成物の多分散度指数(polydispersity index、PDI)は、3.0未満であることが好ましい。前記ポリブチレンテレフタレート組成物の多分散度指数は、2.0~2.99であることがより好ましい。前記ポリブチレンテレフタレート組成物の多分散度指数は、2.50~2.99であることが更により好ましい。選択的には、前記ポリブチレンテレフタレート組成物の多分散度指数は、2.50、2.55、2.60、2.65、2.70、2.75、2.80、2.85、2.90又は2.95であっても良い。前記ポリブチレンテレフタレート組成物の多分散度指数は、前記任意の2つの数値からなる範囲内であっても良いが、これに限らない。
【0021】
1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、カルボキシル末端基濃度(carboxylic acid end group、CEG)が15.0ミリ当量/kg(meq/kg)未満であっても良い。もう1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、カルボキシル末端基濃度が10.0meq/kg未満であっても良い。もう1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、カルボキシル末端基濃度が3.0meq/kg~10.0meq/kgであっても良い。
【0022】
1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、固有粘度(intrinsic viscosity、IV)が1.15デシリットル/g(dL/g)~1.30dL/gであっても良い。もう1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、固有粘度が1.20dL/g~1.30dL/gであっても良い。
【0023】
本願のポリブチレンテレフタレート組成物は、高温多湿環境において48時間置かれた後、80%以上の固有粘度(固有粘度保持率が80%以上である)を維持することができる。1つの実施形態においては、本願のポリブチレンテレフタレート組成物は、高温多湿環境において48時間置かれた後、その固有粘度が1.00dL/g以上を維持する。上述した内容から分かるように、本願のポリブチレンテレフタレート組成物は、高温多湿の過酷な環境に耐えることができ、優れた安定性を有する。
【0024】
1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、メルトフローインデックス(melt flow index、MI)が10g/10min(g/10min)~30g/10minであっても良い。もう1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、メルトフローインデックスが10g/10min~20g/10minであっても良い。もう1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、メルトフローインデックスが10g/10min~15g/10minであっても良い。
【0025】
1つの実施形態においては、前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、二量体、三量体、四量体及び五量体を含む。前記ポリブチレンテレフタレート組成物は、高速液体クロマトグラフィーと質量分析法を組み合わせることにより分析し、前記二量体の質量電荷比が約440、約441、約458、約463及び約479であり、前記三量体の質量電荷比が約660、約661、約678、約683及び約699であり、前記四量体の質量電荷比が約880、約881、約898、約903及び約919であり、前記五量体の質量電荷比が約1100、約1101、約1118、約1123及び約1139である。なお、前記二量体、前記三量体、前記四量体及び前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する前記五量体のクロマトグラフィーピーク面積は、1%~7%である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、実施例1のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
図2図2は、実施例2のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
図3図3は、実施例3のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
図4図4は、実施例4のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
図5図5は、比較例1のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
図6図6は、比較例2のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
図7図7は、比較例3のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
図8図8は、比較例4のポリブチレンテレフタレート組成物の高速液体クロマトグラフィーである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、幾つかの実施例を挙げてポリブチレンテレフタレート組成物の実施形態を説明し、対照として幾つかの比較例を提供する。当業者は、以下の実施例及び比較例の内容により本願によるメリット及び効果を簡単に理解することができる。本明細書に記載の実施例は、本願の実施形態を例示するためのみに用いられ、本願の範囲を制限しないことが理解されたい。当業者は、本願の内容を実施又は応用するために、通常の知識に基づいて本願の精神から逸脱しない限り、様々な修正、変更を行うことができる。
【0028】
≪ポリブチレンテレフタレート組成物≫
【0029】
実施例1~3
【0030】
実施例1~3のポリブチレンテレフタレート組成物は、殆ど類似する製造プロセスにより製造され、その製造プロセスは、以下のように統一的に説明する。
【0031】
まず、13.5キログラムのポリブチレンテレフタレート原料を秤量し、それを、回転ドラム容積が30リットルである固体重合反応器に加え、当該ポリブチレンテレフタレート原料が60%の回転ドラム容積を占める。
【0032】
次に、回転ドラムバルブを閉じ、回転ドラムの回転速度を10Hzに設定し、加熱温度を209.6℃に設定し、真空ポンプを開き、材料温度が170.0℃に達したら、サンプリングしてそのメルトフローインデックス(melting flow index、MI)を分析することを開始する。測定されたメルトフローインデックスが13.5g/10min未満である場合、それは、反応の終点である。この時、ヒーターをオフにし、窒素システムをオンにして2時間冷却し、ポリブチレンテレフタレート組成物を得る。なお、実施例1~3の加熱時間及び最終材料温度は、それぞれ次の通りに記載する。実施例1~3の加熱時間は、順に1940分間、595分間、455分間であり、実施例1~3の最終材料温度は、順に199.2℃、199.2℃、200.1℃である。
【0033】
実施例1~3のポリブチレンテレフタレート組成物の製造プロセスの違いは、主に、用いられたポリブチレンテレフタレート原料の固有粘度(intrinsic viscosity、IV)、メルトフローインデックス及びカルボキシル末端基濃度(carboxylic acid end group、CEG)である。それぞれの実施形態に用いられたポリブチレンテレフタレート原料の固有粘度、メルトフローインデックス及びカルボキシル末端基濃度は、下の表1に示されている。
【0034】
実施例4
【0035】
実施例4のポリブチレンテレフタレート組成物は、実施例1~3のポリブチレンテレフタレート組成物とは異なり、大量生産レベルの製造プロセスであり、その製造プロセスが以下の記載の通りである。
【0036】
まず、625キログラムのポリブチレンテレフタレート原料を秤量し、それを、回転ドラム容積が2000リットルである固体重合反応器に加え、当該ポリブチレンテレフタレート原料が41.7%の回転ドラム容積を占める。
【0037】
次に、回転ドラムバルブを閉じ、回転ドラムの回転速度を6.6Hzに設定し、加熱温度を200.0℃に設定し、真空ポンプを開き、材料温度が170.0℃に達したら、サンプリングしてそのメルトフローインデックスを分析することを開始する。測定されたメルトフローインデックスが13.5g/10min未満である場合、それは、反応の終点である。この時、ヒーターをオフにし、窒素システムをオンにして8時間冷却し、実施例4のポリブチレンテレフタレート組成物を得る。なお、加熱時間は、全部で1460分間であり、最終材料温度は、189.0℃である。
【0038】
実施例4に用いられたポリブチレンテレフタレート原料の固有粘度、メルトフローインデックス及びカルボキシル末端基濃度は、下の表1に示されている。
【0039】
比較例1~3
【0040】
比較例1~3のポリブチレンテレフタレート組成物は、基本的に前記実施例1~3の方法と同じ方法を用い、その製造プロセスの違いが主に比較例1~3で用いられたポリブチレンテレフタレート原料の固有粘度、メルトフローインデックス及びカルボキシル末端基濃度である。各比較例で用いられたポリブチレンテレフタレート原料の固有粘度、メルトフローインデックス及びカルボキシル末端基濃度は、下の表1に示されている。
【0041】
比較例4
【0042】
比較例4のポリブチレンテレフタレート組成物の製造方法は、前記実施例1~4及び比較例1~3のポリブチレンテレフタレート組成物の製造方法とは異なり、テレフタル酸及び1,4-ブタンジオールを原料とし、その製造プロセスが以下に示す通りである。
【0043】
3000キログラムのテレフタル酸及び4880キログラムの1,4-ブタンジオールを、反応釜に加え、連続製造プロセスにより製造し、エステル化温度が230℃~245℃であり、圧力が10.0ミリバール(mbar)未満であり、2時間から4時間の保持後に予備重合を開始し、予備重合反応温度が245℃~260℃であり、圧力が100mbar未満であり、1時間から2時間の保持後に重合を開始し、重合反応温度が245℃~260℃であり、圧力が10.0mbar未満であり、2時間から5時間保持し、比較例4のポリブチレンテレフタレート組成物を得る。
【0044】
【表1】
【0045】
試験例1:高速液体クロマトグラフィー(HPLC-MS)
【0046】
本試験例では、前記実施例1~4及び比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物を測定待ちのサンプルとし、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、HPLC)を質量分析計(mass spectroscopy、MS)と直列し、以下の条件で測定分析を行うことにより、実施例1~4及び比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物の中の各成分のクロマトグラフィーピーク面積の比及びその分子量をそれぞれ得る。
【0047】
40mgの測定待ちのサンプルを25mlの定量ボトルに入れ、0.5mlのヘキサフルオロイソプロパノール(hexafluoroispropanol、HFIP)及び0.5mlのクロロホルム(chloroform)を加え、測定待ちのサンプルが完全に溶解するまで、50℃で60分間加熱する。
【0048】
4mlのクロロホルムを更に加えて攪拌し、前記混合液体を室温まで冷却する。アセトニトリルを定量ボトルのマーキングラインに加えると、この時点で沈殿物が現れる。0.2ミクロンのフィルターでろ過することで測定待ちの清澄液を得る。次に、測定待ちの清澄液をHPLCに注入し分析する。HPLCの機器と分析パラメータは、次の通りである。
【0049】
HPLCの機器と分析パラメータ:
1.ブランド:SHIMADZU、
2.システムコントローラー:SCL-20A、
3.自動インジェクター:SIL-20A、
4.ポンプ:LC-20AT、
5.検出器:紫外線(UV)/可視光(Vis)SPD-20A、
6.検出波長:242ナノメートル(nm)、
7.カラム:Inertsil ODS-2(内径4.6mm、長さ250mm、粒子サイズ5ミクロン)、
8.カラム温度:45℃、
9.移動相:アセトニトリル:水(体積分率)=80:20の溶媒、45分間の分析、
10.移動相の流量:1ミリリットル(mL)/分間(min)
【0050】
MSの機器及び分析パラメータ
1.機器のブランドとモデル:SHIMADZU LCMS-8045、
2.解離源:エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)、
3.噴霧ガス流量(nebulizing gas flow):3L/min、
4.加熱ガス流量(heating gas flow):10L/min
5.界面温度(interface temperature):300℃、
6.脱溶媒チューブ温度(DL temperature):250℃、
7.乾燥ガス温度(heat block temperature):400℃、
8.乾燥ガス流量(drying gas flow):10L/min、
9.質量検出器:3セットの四重極(triple-quadrupole、QqQ)
【0051】
図1図8は、順に前記方法により測定された実施例1~4及び比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物のHLPC図であり、各HLPC図における各クロマトグラフィーピークのフロー分析時間間隔は、下の表3に示され、各クロマトグラフィーピークの面積比は、下の表4に示されている。なお、A成分は、二量体に対応し、B成分は、三量体に対応し、C成分は、四量体に対応し、D成分は、五量体に対応し、A、B、C及びDの成分のクロマトグラフィーピーク面積の合計を100%と設定されている。
【0052】
また、以下、異なる保持時間で収集して得られたフラクションを、質量分析計で分析することにより得られた質量電荷比を説明する。A成分を更に分析して得られた質量電荷比は、約440~約479であり、B成分を更に分析して得られた質量電荷比は、約660~約699であり、C成分を更に分析して得られた質量電荷比は、約880~約919であり、D成分を更に分析して得られた質量電荷比は、約1100~約1139である。具体的には、A成分を分析して得られた質量電荷比は、約440、約441、約458、約463、約479であり、B成分を分析して得られた質量電荷比は、約660、約661、約678、約683、約699であり、C成分を分析して得られた質量電荷比は、約880、約881、約898、約903、約919であり、D成分を分析して得られた質量電荷比は、約1100、約1101、約1118、約1123、約1139である。前記質量電荷比は、それぞれ各成分の分子量、各成分と水素イオンとの組み合わせの分子量、各成分とアンモニウムイオンとの組み合わせの分子量、各成分とナトリウムイオンとの組み合わせの分子量、各成分とカリウムイオンとの組み合わせの分子量に対応する。各成分の質量電荷比の組み合わせは、下の表2のように示されている。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
試験例2:固有粘度(IV)
【0057】
本試験例では、前記実施例1~4及び比較例1~3の製造プロセスに用いられたポリブチレンテレフタレート原料と実施例1~4及び比較例1~4のリブチレンテレフタレート組成物を測定待ちのサンプルとし、ASTM D2857標準法に基づき、ガラスキャピラリー粘度計で測定と分析を行う。
【0058】
測定前に、測定待ちのサンプルを2-クロロフェノール(2-chlorophenol)で溶解し、濃度が1.2グラム/デシリットル(g /dL)である試験溶液に調製し、その固有粘度を35℃で測定し、実施例1~4及び比較例1~3の製造プロセスで用いられるポリブチレンテレフタレート原料の固有粘度を得て、上の表1に示し、実施例1~4及び比較例1~4のポリテレフタレート組成物の固有粘度(IVo)を得て下の表5に示す。
【0059】
試験例3:プレッシャークッカー試験(pressure cooker test,PCT)
【0060】
本試験例では、前記実施例1~4及び比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物を測定待ちのサンプルとし、5グラムの測定待ちのサンプルを、容積が4.24リットルである反応釜に入れ、相対湿度が100%であり、温度が121℃であり、圧力が2気圧である環境で48時間反応させた後、試験例2の固有粘度標準法で測定待ちのサンプルの、プレッシャークッカー試験後の固有粘度を測定し、加水分解後の固有粘度(以下、PCT IVと略称される)を得る。
【0061】
高温多湿環境における各測定待ちのサンプルの耐加水分解性を更に分析するために、以下の式により、各測定待ちのサンプルに対してプレッシャークッカー試験を行った後の固有粘度保持率を得る。IV保持率=(PCT IV)/(IVo)×100%であり、その結果は、下の表5に示されている。
【0062】
試験例4:メルトフローインデックス(MI)
【0063】
本試験例では、前記実施例1~4及び比較例1~3の製造プロセスに用いられるポリブチレンテレフタレート原料と実施例1~4及び比較例1~4のポリテレフタレート組成物を測定待ちのサンプルとし、ISO 1133-1:2011(E)標準法に基づき、メルトフローインデックスアナライザー(モデル:LMI5000)で測定と分析を行う。
【0064】
測定前に、測定待ちのサンプルを、熱風循環オーブンに3時間入れ、温度を140±2℃に設定することにより、測定待ちのサンプルに水分が付着しないことを確保する。 その後、6g~8gの測定待ちのサンプルを250℃の加熱管に入れ、予熱完了後、おもりを加える。おもりと圧縮棒の合計重量は、2.16kgであり、10分間を計ってからサンプリングして重さを秤量し、各測定待ちのサンプルを2回測定し、その平均値を計算し、その結果は、上の表1及び下の表5に示されている。
【0065】
試験例5:カルボキシル末端基濃度(CEG)
【0066】
本試験例では、前記実施例1~4及び比較例1~3の製造プロセスで用いられるポリブチレンテレフタレート原料と、実施例1~4及び比較例1~4のポリテレフタレート組成物を測定待ちのサンプルとし、725 DOSIMAT 滴定装置(メーカー:Metrohm)で測定と分析を行う。
【0067】
本試験例では、約1.0g~2.0gの測定待ちのサンプルを、予備乾燥された100mlのサンプルボトルに入れ、30ml~50mlのo-クレゾール(o-cresol)を加える。 当該サンプルボトルを加熱攪拌機に置き、110±5℃に加熱し、完全に溶解するまで約60分間攪拌を続け、当該測定待ちの溶液を室温まで冷却して滴定の準備をする。
【0068】
3mlの0.01N塩化カリウム(potassium chloride,KCI)水溶液を、前記測定待ちの溶液に加え、約1分間攪拌し、滴定剤の濃度、ブランク値及び滴定パラメータを確認し、それらを機器に設定し、電極を測定待ちの溶液に浸し、滴定開始を押し、0.03N水酸化カリウム水溶液で電位滴定を行い、6.6のpH値を滴定の終点とし、その結果は、上の表1及び下の表5に示されている。
【0069】
試験例6:オリゴマーの含有量と多分散度指数(polydispersity index、PDI)
【0070】
本試験例では、前記実施例1~4及び比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物を測定待ちのサンプルとし、ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography,GPC)で測定と分析を行う。
【0071】
10.0mgの測定待ちのサンプルを、0.2mlのクロロホルムとヘキサフルオロイソプロパノールの混合液(体積比が1:1である)に加え、1時間放置する。測定待ちのサンプルが完全に溶解した後、1.5mlのクロロホルムを加えて希釈し、孔径が0.2ミクロンであるフィルター(材質:ヘキサフルオロイソプロパノール)でろ過することで測定待ちのろ液を得て、測定待ちのろ液をGPCに注入し分析する。GPCの機器と分析パラメータは、以下の通りである。
【0072】
GPCの機器及び分析パラメータ:
1.ブランド:SHIMADZU、
2.システムコントローラー:SCL-10A、
3.自動インジェクター:SIL-10A、
4.ポンプ:LC-20AT、
5.検出器:SPD-10A、
6.検出波長:254nm、
7.カラム:Styragel HT3 THF 7.8×300mm、Styragel HT4 THF 7.8×300mm、Styragel HT5 THF 7.8×300mm(上述した3つのカラムは、順に直列に接続されている)、
8.カラム温度:35℃、
9.洗浄液:クロロホルム:ヘキサフルオロイソプロパノール(体積パーセント)=9:1の溶媒、40分間の分析時間、
10.洗浄液の流量:0.8mL/min、
【0073】
各測定待ちのサンプルで得られたGPC分析結果の中の、分子量が1000未満であるオリゴマーが全組成に占める含有率は、表5に示されている。
【0074】
各測定待ちのサンプルで得られた結果に対しては、その多分散度指数を更に計算し、即ち、各測定待ちのサンプルの、重量平均分子量と数平均分子量の比を更に計算する。各測定待ちのサンプルの多分散度指数は、下の表5に示されている。
【0075】
【表5】
【0076】
上の表5から分かるように、実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物の固有粘度は、1.15dL/g~1.30dL/gである。実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物のメルトフローインデックスは、10g/10min~30g/10minである。
【0077】
上の表5から分かるように、実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物は、加水分解後の固有粘度が1.00dL /g~1.15dL / gであり、固有粘度保持率が全て80%以上である。対照的には、比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物は、加水分解後の固有粘度が全て1.00dL /gより低く、固有粘度保持率が全て78%より低い。よって、本願のポリブチレンテレフタレート組成物は、高温多湿環境での劣化が少なく、優れた耐加水分解性と安定性を有するので、成形品に用いられた場合、耐用年数が比較的長い。
【0078】
上の表5から分かるように、実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物は、カルボキシル末端基濃度が15.0meq/kg未満であり、比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物は、カルボキシル末端基濃度が全て16.0meq/kgより大きい。実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物は、多分散度指数が3.0未満であり、比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物は、多分散度指数が全て3.0より大きい。
【0079】
上の表5から分かるように、実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物の中の、分子量が1000未満であるオリゴマーが全組成に占める含有率は、0.20%未満であり、比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物の中の、分子量が1000未満であるオリゴマーが全組成に占める含有率は、全て0.25%より大きい。
【0080】
≪実験結果討論≫
【0081】
本願の五量体のクロマトグラフィーピーク面積比とポリブチレンテレフタレート組成物の中の、分子量が1000未満であるオリゴマーの含有量、IV保持率との関係を強調するために、試験例1、試験例3及び試験例6の結果を整理し、下の表6に示す。
【0082】
【表6】
【0083】
上の表6から分かるように、実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物の中の五量体のクロマトグラフィーピーク面積比は、全て1%~7%の範囲内にあり、このようなポリブチレンテレフタレート組成物は、オリゴマーの割合を0.20%以下に制御することができ、固有粘度保持率が80%以上に達することができる。比較例1~4を見ると、比較例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物の中の五量体のクロマトグラフィーピーク面積比は、7.5%以上と高く、その結果、このようなポリブチレンテレフタレート組成物は、オリゴマーの割合が0.25%以上と高く、固有粘度保持率が78%に達していない。このことから分かるように、比較例1~4に比べ、実施例1~4のポリブチレンテレフタレート組成物は、比較的低いオリゴマーの含有量を有し、高温多湿環境で比較的優れた安定性を有することができる。
【0084】
上の表6から分かるように、実施例1の五量体のクロマトグラフィーピーク面積比は、実施例2の五量体のクロマトグラフィーピーク面積比より低く、実施例1のオリゴマーの割合も、実施例2のオリゴマーの割合より低く、実施例2の五量体のクロマトグラフィーピーク面積比は、実施例3の五量体のクロマトグラフィーピーク面積比より低く、実施例2のオリゴマーの割合も、実施例3のオリゴマーの割合より低い。これにより、本願のポリブチレンテレフタレート組成物のオリゴマーの割合は、確かに五量体のクロマトグラフィーピーク面積比と高度に相関していることを証明することができる。
【0085】
上述したように、ポリブチレンテレフタレート組成物の、二量体、三量体、四量体及び五量体のクロマトグラフィーピーク面積の合計に対する五量体のクロマトグラフィーピーク面積を、1%~7%に制御することにより、本願のポリブチレンテレフタレート組成物のオリゴマーの含有量を減らし、高温多湿環境での安定性を高めることができ、製品の多方面への応用に役に立つ。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8