(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】水分散体、該水分散体の製造方法および積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20240530BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240530BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240530BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240530BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20240530BHJP
C09J 123/08 20060101ALI20240530BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08L23/08
B32B27/30 A
C08F2/44 C
C08L33/06
C09J7/35
C09J123/08
C09J133/00
(21)【出願番号】P 2022536391
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 JP2021026283
(87)【国際公開番号】W WO2022014589
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020120508
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 幸次郎
(72)【発明者】
【氏名】楠本 征也
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/076130(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/142997(WO,A1)
【文献】特開2001-206953(JP,A)
【文献】特開2003-276126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
B32B 27/30
C08F 2/44
C08L 33/06
C09J 7/35
C09J 123/08
C09J 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分と、水とを含有する水分散体であって、前記樹脂成分は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含み、
前記不飽和カルボン酸がアクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、
前記2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が12質量%以上30質量%以下であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)と、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が1質量%以上、12質量%未満であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)それぞれ1種以上の混合物であり、
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体の、不飽和カルボン酸に由来する単量体単位の平均含有量が10質量%以上、22質量%以下であ
り、
前記アクリル重合体(B)が(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位のみを含み、
前記複合粒子(D)中の前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の含有量が35質量%以上65質量%以下、前記アクリル重合体(B)の含有量が35質量%以上65質量%以下である、(ただし(A)および(B)の合計量を100質量%とする)、
水分散体。
【請求項2】
前記混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)の含有量が30質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の水分散体。
【請求項3】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)がさらにオレフィン系重合体(c)を含み、
前記混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の総含有量が60質量%以上であ
り、
前記オレフィン系重合体(c)が、低密度ポリエチレン、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体からなる群から選択される少なくとも1つの重合体である、
請求項
1または2に記載の水分散体。
【請求項4】
水存在下で、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含有するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を乳化し、分散液1を得る工程、および
前記分散液1中に、重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を添加して、アクリル重合体(B)を重合して、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含有する分散液2を得る工程、
を含む、請求項
1~3のいずれか1項に記載の水分散体を製造する方法。
【請求項5】
基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、
前記接着剤層が、請求項
1~3のいずれか1項に記載の水分散体の塗布物を乾燥させることにより得られる、積層体。
【請求項6】
前記接着剤層の基材と接する面とは反対の表面に、積層される被着体層をさらに備える、請求項
5に記載の積層体。
【請求項7】
前記基材が、プラスチックフィルム、蒸着フィルム、金属箔、紙、または不織布である、請求項
5または6に記載の積層体。
【請求項8】
前記被着体層が、プラスチックフィルム、蒸着フィルム、金属箔、紙、または不織布である、請求項
6に記載の積層体。
【請求項9】
前記被着体層が、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、またはこれらの混合物から得られるプラスチックフィルムである、請求項
6または8に記載の積層体。
【請求項10】
基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、
前記接着剤層が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含み、
前記不飽和カルボン酸がアクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選ばれる少なく
とも1つであり、
前記2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が12質量%以上30質量%以下であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)と、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が1質量%以上、12質量%未満であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)それぞれ1種以上の混合物であり、
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体の、不飽和カルボン酸に由来する単量体単位の平均含有量が10質量%以上、22質量%以下であ
り、
前記アクリル重合体(B)が(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位のみを含み、
前記複合粒子(D)中の前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の含有量が35質量%以上65質量%以下、前記アクリル重合体(B)の含有量が35質量%以上65質量%以下である、(ただし(A)および(B)の合計量を100質量%とする)、
積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散体、該水分散体の製造方法および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム、蒸着フィルム、金属箔、紙、不織布などの基材と他の被着体または基材同士、を熱および圧力により貼り合わせる(すなわちヒートシールする)手法は、各種産業分野で広く用いられてきている。このヒートシールの手法においては、通常、あらかじめ基材上に熱および圧力により貼り合わせ可能な接着剤層が設けられ、この接着剤層を介し、基材と他の被着体、または基材同士が貼り合わされる。
【0003】
このようなヒートシールに用い得る材料として、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体およびアクリル酸エステル単位を重合単位として有する重合体を有する複合粒子と、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体および前記エチレン・酢酸ビニル系共重合体を有する複合粒子(E)とを含む、水分散体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2018/142997号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の水分散体は、ヒートシール時間が短くとも接着強度に優れる接着剤層が得られ、また該接着剤層の耐ブロッキング性に優れるという点で、非常に優れた水分散体である。
しかし、この水分散体を製造する過程での重合安定性、得られた水分散体の貯蔵安定性に問題がある場合があった。
【0006】
本発明は、水分散体を製造する過程での重合安定性および貯蔵安定性に優れ、ヒートシール強度に優れる接着剤層が得られる水分散体、該水分散体の製造方法、該水分散体の塗布物から得られる接着剤層と基材とを備える積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成の水分散体等によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は以下の通りである。
【0008】
[1]樹脂成分と、水とを含有する水分散体であって、
前記樹脂成分は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含む、水分散体。
【0009】
[2]前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれる不飽和カルボン酸に由来する構造単位の総含有量が、前記混合物(A)に含まれる重合体の単量体に由来する構造単位の総量に対して5質量%以上である、項[1]に記載の水分散体。
【0010】
[3]前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)が、
不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が12質量%以上30質量%以下であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)と、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が12質量%未満であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)を、それぞれ1種以上含み、
前記混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)の含有量が30質量%以上90質量%以下である、項[1]または[2]に記載の水分散体。
【0011】
[4]前記複合粒子(D)中の前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の含有量が20質量%以上80質量%以下、前記アクリル重合体(B)の含有量が20質量%以上80質量%以下である、項[1]~[3]のいずれか1項に記載の水分散体。(ただし(A)および(B)の合計量を100質量%とする)
【0012】
[5]前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)がさらにオレフィン系重合体(c)を含み、
前記混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の総含有量が60質量%以上である、項[1]~[4]のいずれか1項に記載の水分散体。
【0013】
[6]前記オレフィン系重合体(c)が、低密度ポリエチレン、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体からなる群から選択される少なくとも1つの重合体を含む、項[5]に記載の水分散体。
【0014】
[7]水存在下で、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含有するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を乳化し、分散液1を得る工程、および
前記分散液1中に、重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を添加して、アクリル重合体(B)を重合して、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含有する分散液2を得る工程、
を含む、項[1]~[6]のいずれか1項に記載の水分散体を製造する方法。
【0015】
[8]基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、
前記接着剤層が、項[1]~[6]のいずれか1項に記載の水分散体の塗布物を乾燥させることにより得られる、積層体。
【0016】
[9]前記接着剤層の基材と接する面とは反対の表面に、積層される被着体層をさらに備える、項[8]に記載の積層体。
[10]前記基材が、プラスチックフィルム、蒸着フィルム、金属箔、紙、または不織布である、項[8]または[9]に記載の積層体。
【0017】
[11]前記被着体層が、プラスチックフィルム、蒸着フィルム、金属箔、紙、または不織布である、項[9]または[10]に記載の積層体。
[12]前記被着体層が、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、またはこれらの混合物から得られるプラスチックフィルムである、項[9]~[11]のいずれか1項に記載の積層体。
【0018】
[13]基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、前記接着剤層が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含む、積層体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水分散体を製造する過程での重合安定性および貯蔵安定性に優れ、ヒートシール強度に優れる接着剤層が得られる水分散体、該水分散体の製造方法、該水分散体の塗布物から得られる接着剤層と基材とを備える積層体等が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
【0021】
本発明の水分散体は、樹脂成分と、その樹脂成分を分散させる水とを含有している。
樹脂成分は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含んでいる。ただし、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)は、アクリル重合体(B)を含まない。
【0022】
<エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)>
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)は、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含んでいる。
【0023】
[エチレン・不飽和カルボン酸共重合体]
前記混合物(A)に含まれる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、それぞれ、エチレンおよび不飽和カルボン酸を含む単量体成分(a')を重合することにより得られる。
【0024】
不飽和カルボン酸は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合とカルボキシ基とを有する単量体である。前記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和結合を有する一塩基酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和結合を有する二塩基酸;などが挙げられる。
【0025】
これら不飽和カルボン酸は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
前記不飽和カルボン酸の中でも、耐水性の観点から、エチレン性不飽和結合を有する一塩基酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸がより好ましい。
【0026】
単量体成分(a')中のエチレンの含有割合は、得られるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有量に応じて適宜設定すればよい。同様に単量体成分(a')中の不飽和カルボン酸の含有割合は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
単量体成分(a')の重合方法は、所望のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が得られる限り特に制限はなく、その重合方法としては、例えば公知の重合方法が挙げられる。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、例えば、高温および高圧条件下で単量体成分(a')を過酸化物などの重合開始剤と接触し重合させることにより得られる。
【0028】
また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、その重合体粒子(樹脂成分)が水に分散されてなる水分散体(ディスパージョン)として得ることができる。このような場合、例えば、特公平7-008933号、特公平5-039975号、特公平4-030970、特公昭42-000275号、特公昭42-023085号、特公昭45-029909号、特開昭51-062890号などに記載の方法により、単量体成分(a')を重合させることができる。なお、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は自己乳化性を有する。
【0029】
また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を重合する際には、重合安定性向上の観点から、必要に応じて、後述する乳化剤(界面活性剤)を添加してもよい。乳化剤の添加割合については、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0030】
また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を重合する際には、重合安定性向上の観点から、例えば、pH調整剤、金属イオン封止剤(例えばエチレンジアミン四酢酸またはその塩)、分子量調節剤(別名:連鎖移動剤;例えば、メルカプタン類、低分子ハロゲン化合物)などの、添加剤を添加してもよい。
【0031】
また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、複合粒子(D)の製造過程での重合安定性の向上、および貯蔵安定性の向上を図る観点から、好ましくは、中和されて用いられる。
【0032】
中和は、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に中和剤である塩基性化合物を添加することにより行われる。例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水分散体に、中和剤としての塩基性化合物を添加することにより、中和することができる。
【0033】
中和剤として用いる塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基性化合物;アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアミン類に代表される有機塩基性化合物;などが挙げられる。
【0034】
これら塩基性化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
これら塩基性化合物の中でも、無機塩基性化合物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0035】
塩基性化合物の添加量は、複合粒子(D)の製造過程での重合安定性の向上、および貯蔵安定性の向上を図る観点から、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体に含まれるカルボキシ基100モルに対して、例えば5モル以上、好ましくは30モル以上、より好ましくは50モル以上であり、例えば200モル以下、好ましくは150モル以下である。
【0036】
塩基性化合物の添加量が上記範囲未満である場合には、複合粒子(D)を製造する際の重合安定性または複合粒子(D)の貯蔵安定性を損なう場合がある。また、塩基性化合物の添加量が上記範囲を超過する場合には、得られる水分散体の高粘度化、または水分散体取り扱い性の低下が起こる場合がある。
【0037】
また、中和のために中和剤をエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に添加した後には、所定温度で所定時間保持することが好ましい。
保持条件としては、保持温度が、例えば40℃以上、好ましくは50℃以上であり、例えば190℃以下、好ましくは180℃以下である。また、保持時間が、例えば30分以上、好ましくは1時間以上であり、例えば12時間以下、好ましくは10時間以下である。
【0038】
上記条件で保持することにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれるカルボキシ基が確実に中和され、複合粒子(D)の製造過程での重合安定性の向上、および複合粒子(D)の貯蔵安定性の向上を図ることができる。
【0039】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が中和される場合、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体として、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和度は、例えば20%以上、好ましくは50%以上であり、例えば200%以下、好ましくは150%以下である。ここで中和度とは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体に含まれるカルボキシ基が、中和剤である塩基性化合物によって中和されているモル%を意味する。
中和度が上記範囲であれば、本発明の水分散体から、優れたヒートシール強度に優れる接着剤層が得られる。なお、中和度は、後述する実施例に準拠して算出される。
【0040】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体それぞれの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で、例えば10,000以上、好ましくは30,000以上であり、例えば200,000以下、好ましくは150,000以下である。
【0041】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体それぞれの融点は、例えば55℃以上、好ましくは65℃以上であり、例えば110℃以下、好ましくは100℃以下である。なお、融点は、DSC(示差走査熱量測定法)により求めることができる。
【0042】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)は、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含んでいる。このような2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体がエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a)を用いることにより、複合粒子(D)の製造過程での重合安定性が向上し、また複合粒子(D)の貯蔵安定性が向上する。
【0043】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が12質量%以上30質量%以下であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)と、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が12質量%未満であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)を、それぞれ1種以上を含むことが好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体がエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a)として、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)および(a2)を、それぞれ1種以上用いることにより、複合粒子(D)の製造過程での重合安定性がより向上し、複合粒子(D)を含む水分散体の貯蔵安定性がより向上する。
【0044】
複合粒子(D)の製造過程での重合安定性、または複合粒子(D)の貯蔵安定性の向上を促進する観点から、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)の不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量は、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0045】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)の重量平均分子量は、GPC測定による標準ポリスチレン換算で、例えば10,000以上、好ましくは30,000以上であり、例えば200,000以下、好ましくは150,000以下である。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)の融点は、例えば55℃以上、好ましくは65℃以上であり、例えば110℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0046】
複合粒子(D)の製造過程での重合安定性、または複合粒子(D)の貯蔵安定性の向上を促進する観点から、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)の不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは12質量%未満、より好ましくは11質量%以下である。
【0047】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)の重量平均分子量は、GPC測定による標準ポリスチレン換算で、例えば10,000以上、好ましくは30,000以上であり、例えば200,000以下、好ましくは150,000以下である。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)の融点は、例えば55℃以上、好ましくは65℃以上であり、例えば110℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0048】
複合粒子(D)の製造過程での重合安定性、または複合粒子(D)の貯蔵安定性の向上を促進する観点から、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に含まれる不飽和カルボン酸に由来する構造単位の総含有量(含有量の平均値)は、前記混合物(A)に含まれる重合体の単量体に由来する構造単位の総量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。上述した不飽和カルボン酸に由来する構造単位の総含有量(含有量の平均値)は、中和滴定法により求めることができる。
【0049】
複合粒子(D)の製造過程での重合安定性、または複合粒子(D)の貯蔵安定性の向上を促進し、得られる塗膜の耐水性を向上させる観点から、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a)に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量は、前記混合物(A)に含まれる重合体の単量体に由来する構造単位の全量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは92質量%以下である。
【0050】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のそれぞれの含有量は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はない。
【0051】
例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)として、上述したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)とをそれぞれ1種以上含む場合には、複合粒子(D)の製造過程での重合安定性、または複合粒子(D)の貯蔵安定性の向上を促進する観点からは、その混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1)の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。また上述の場合、その混合物(A)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2)の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0052】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)として不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含ませるために、これら共重合体の混合物を作製する方法は特に制限はない。例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、最も融点の高いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の融点以上、好ましくは150℃以上で、上記共重合体2種以上を溶融混練することによって上記混合物は作製できる。また、前述したように、それぞれのエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含む水分散体として得ていた場合には、これら水分散体を、必要に応じて加熱および加圧して、混合することによって、上記混合物(A)を含む水分散体として作製できる。
【0053】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を、前述したようにエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を中和した物として用いる場合には、例えば、上述したように、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体2種以上を溶融混練して溶融混練物を作製し、得られた溶融混練物を、好ましくは最も融点の高いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の融点以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上に保持した、中和剤および水を含む水溶液中に投入してこれらを混合することにより作製できる。中和剤の具体例および添加量、また混合の際の保持条件などは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を中和した物の作製の部分に記載した内容と同様である。なお、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は自己乳化性を有するため、乳化剤(界面活性剤)の配合量を少なくすることができる。乳化剤の配合量が多いと、接着性に影響を与える場合がある。
【0054】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体としての重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で、例えば10,000以上、好ましくは30,000以上であり、例えば200,000以下、好ましくは150,000以下である。
【0055】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体としての融点は、例えば55℃以上、好ましくは65℃以上であり、例えば110℃以下、好ましくは100℃以下である。
【0056】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体の、不飽和カルボン酸に由来する単量体単位の平均含有量は、例えば8質量%以上、好ましくは10質量%以上であり、例えば25質量%以下、好ましくは22質量%以下である。
【0057】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体全体の、エチレンに由来する単量体単位の平均含有量は、例えば75質量%以上、好ましくは78質量%以上であり、例えば92質量%以下、好ましくは90質量%以下である。不飽和カルボン酸に由来する単量体単位の平均含有量およびエチレンに由来する単量体単位の平均含有量は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)により求められる。
【0058】
[オレフィン系重合体(c)]
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)は、さらに、オレフィン系重合体(c)を含んでいてもよい。ここでオレフィン系重合体(c)とは、オレフィン(c'-1)に由来する構造単位を有する重合体である。ただし、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体はオレフィン系重合体(c)には含まれない。
【0059】
上記オレフィン系重合体(c)としては、下記オレフィン系重合体(c1)~(c3)が挙げられる。
(1)オレフィン(c'-1)のみを重合してなるオレフィン系重合体(c1)。
(2)オレフィン(c'-1)、およびカルボキシ基含有単量体(c'-2)以外のオレフィン(c'-1)と共重合可能な単量体(c'-3)を重合してなるオレフィン系重合体(c2)。
(3)オレフィン(c'-1)、カルボキシ基含有単量体(c'-2)、およびカルボキシ基含有単量体(c'-2)以外のオレフィン(c'-1)と共重合可能な単量体(c'-3)を重合してなるオレフィン系重合体(c3)。ただし、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a)はオレフィン系重合体(c3)には含まれない。
【0060】
前記オレフィン(c'-1)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン等のα-オレフィン;ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン等の共役ジエンまたは非共役ジエン等が挙げられる。これらオレフィンは、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0061】
前記カルボキシ基含有単量体(c'-2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸が挙げられる。これらの中でも、ヒートシール性向上の観点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。これら単量体(c'-2)は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0062】
前記単量体(c'-3)、すなわち、カルボキシ基含有単量体(c'-2)以外のオレフィン(c'-1)と共重合可能な単量体としては、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸エステル、一酸化炭素が挙げられる。これらの中でも、得られる複合粒子(D)のヒートシール性向上の観点から、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、一酸化炭素が好ましい。これら単量体(c'-3)は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。なお、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを意味する。同様に、(メタ)アクリルは、アクリルおよび/メタクリルを意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0063】
[オレフィン(c'-1)/単量体(c'-2)/単量体(c'-3)の比率]
オレフィン(c'-1)、単量体(c'-2)および単量体(c'-3)の比率は以下のようにすることが好ましい。すなわち、オレフィン(c'-1)、カルボキシ基含有単量体(c'-2)および単量体(c'-3)の合計量を100質量%としたときに、
好ましくは、オレフィン(c'-1)100~35.0質量%、カルボキシ基含有単量体(c'-2)0~65.0質量%、単量体(c'-3)0~50.0質量%であり、
より好ましくは、オレフィン(c'-1)100~50.0質量%、カルボキシ基含有単量体(c'-2)0~50.0質量%、単量体(c'-3)0~40.0質量%である。オレフィン(c'-1)が、35.0質量%未満であると、ヒートシール性が低下する場合がある。
【0064】
前記オレフィン系重合体(c1)としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ3-メチル-1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ3-メチル-1-ペンテン;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ブテン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン・エチレン共重合体等の炭素数1以上のα-オレフィンの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0065】
前記オレフィン系重合体(c2)としては、エチレン・ブタジエン共重合体、エチレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・1,5-ヘキサジエン共重合体等の炭素数1以上のα-オレフィンと共役ジエンまたは非共役等ジエンとの共重合体;エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の炭素数1以上のα-オレフィンと不飽和カルボン酸以外の炭素数1以上のα-オレフィンと共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。
【0066】
例えば、被着体がポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、またはこれらの混合物から得られる物である場合は、複合粒子(D)のヒートシール性向上の観点から、オレフィン系重合体(c)の中でも、低密度ポリエチレン、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びエチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体が好ましい。
【0067】
オレフィン系重合体(c)として、エチレン・酢酸ビニル共重合体を用いる場合、エチレン・酢酸ビニル共重合体中、エチレンに由来する構造単位の含有量は好ましくは50~95質量%であり、酢酸ビニルに由来する構造単位の含有量は、5~50質量%である。
【0068】
エチレン・酢酸ビニル共重合体中、エチレンに由来する構造単位の含有量は、好ましくは52質量%以上、より好ましくは54質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは、85質量%以下であり、複合粒子(D)の接着強度向上の観点から、さらに好ましくは、80質量%以下である。エチレン・酢酸ビニル共重合体中、酢酸ビニルに由来する構造単位の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、複合粒子(D)の接着強度向上の観点から、さらに好ましくは20質量%以上であり、好ましくは48質量%以下、より好ましくは46質量%以下である。
エチレンと酢酸ビニルの共重合比が上記範囲にあると、複合粒子(D)の低温ヒートシール性に優れる傾向にある。
【0069】
エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体においては、一酸化炭素に由来する構造単位の含有量は、その共重合体に含まれる単量体に由来する構造単位の総量に対して、好ましくは2~40質量%、より好ましくは5~30質量%である。
【0070】
エチレン・酢酸ビニル系共重合体のMFR(メルトフローレート)(190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは2~1000g/10min、より好ましくは5~500g/10minである。
【0071】
オレフィン系重合体(c)は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
オレフィン系重合体(c)が含まれる場合、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含むエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と一体になって、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を形成する。その場合、上記2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体とオレフィン系重合体(c)を含んでいれば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の形態は特に制限されず、例えば、コア/シェル構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造、多粒子複合構造、IPN構造などの構造のいずれであってもよい。
【0072】
オレフィン系重合体(c)を含むエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の製造方法は、特に制限されず、例えば公知の製造方法によりオレフィン系重合体(c)を含むエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)は作製できる。例えば、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)に含まれる、最も融点の高い重合体の融点以上、好ましくは150℃以上で、上記混合物(A)の成分として含まれる複数の重合体を溶融混練することによって上記混合物は作製できる。
【0073】
また、それぞれの重合体を、重合体を含む水分散体として得ていた場合には、これら水分散体を、必要に応じて加熱および加圧して、混合することによって、上記混合物(A)を含む水分散体として作製できる。
【0074】
また、2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含むエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a)とオレフィン系重合体(c)とを同時に乳化することにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を含む水分散体を作製してもよい。具体的には、上述したように、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体2種以上を溶融混練して溶融混練物を作製し、得られた溶融混練物を、好ましくは最も融点の高いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の融点以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上に保持した、水中に投入して、これらを混合することにより作製できる。なお、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を、前述したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を中和した物として用いる場合には、得られた溶融混練物を、好ましくは上述の温度以上に保持した、中和剤および水を含む水溶液中に投入してこれらを混合することにより作製できる。中和剤の具体例および添加量、また混合の際の保持条件などは、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を中和した物の作製の部分に記載した内容と同様である。
なお、オレフィン系重合体(c)としては、市販品を用いてもよい。
【0075】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)がオレフィン系重合体(c)を含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体とオレフィン系重合体(c)の総量に対して、オレフィン系重合体(c)の含有量は、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、例えば95質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは40質量%未満である。また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体とオレフィン系重合体(c)の総量に対して、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の総含有量は、例えば5質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上、例えば99質量%以下、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体とオレフィン系重合体(c)との含有量が上記範囲にあることにより、優れた接着強度を有する複合粒子(D)を得ることができる。
【0076】
なお、オレフィン系重合体(c)を含むエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を含む場合、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の総量とオレフィン系重合体(c)の含有量は、原料成分の仕込み比から算出できる。
【0077】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を水分散体として得た場合には、その樹脂成分からなる粒子の重量平均粒子径(測定方法:光散乱測定)は、例えば、0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上であり、例えば10μm以下、好ましくは1μm以下である。
【0078】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を水分散体として得た場合には、その水分散体での固形分濃度(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体等の不揮発分濃度)は、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、例えば60質量%以下、好ましくは50質量%以下である。
【0079】
<アクリル重合体(B)>
アクリル重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を重合して得られる重合体であり、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を有する。
【0080】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの、炭素数1~12のアルキルを有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0081】
これら(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸iso-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルがより好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸ブチルがさらに好ましい。
【0082】
また、上記(メタ)アクリル酸エステルの中でも、耐水性の観点からは、メタクリル酸エステルを使用することが望ましい。
これら(メタ)アクリル酸エステルは、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
アクリル重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体に由来する構造単位を含有してもよい。
【0083】
(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体しては、例えば、官能基含有ビニル単量体、ビニルエステル類、芳香族ビニル単量体、N-置換不飽和カルボン酸アミド、複素環式ビニル化合物、ハロゲン化ビニリデン化合物、α-オレフィン類、ジエン類などが挙げられる。
【0084】
官能基含有ビニル単量体としては、例えば、カルボキシ基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体、アミノ基含有ビニル単量体、グリシジル基含有ビニル単量体、シアノ基含有ビニル単量体、スルホン酸基含有ビニル単量体およびその塩、アセトアセトキシ基含有ビニル単量体、リン酸基含有化合物、アミド基含有ビニル単量体などが挙げられる。
【0085】
カルボキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などが挙げられる。
水酸基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルなどが挙げられる。
【0086】
アミノ基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(N-メチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルなどが挙げられる。
【0087】
グリシジル基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
シアノ基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタリロニトリルなどが挙げられる。
【0088】
スルホン酸基含有ビニル単量体としては、例えば、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸などが挙げられる。また、その塩としては、上記スルホン酸基含有ビニル単量体の、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、例えば、アンモニウム塩などが挙げられる。具体的には、スルホン酸基含有ビニル単量体の塩としては、例えば、アリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0089】
アセトアセトキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アセトアセトキシエチルなどが挙げられる。
リン酸基含有化合物としては、例えば、2-メタクロイロキシエチルアシッドフォスフェートなどが挙げられる。
【0090】
アミド基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタリルアミドなどが挙げられる。
ビニルエステル類としては、例えば、プロピオン酸ビニルなどが挙げられる(但し、酢酸ビニルを除く)。
【0091】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
N-置換不飽和カルボン酸アミドとしては、例えば、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0092】
複素環式ビニル化合物としては、例えば、ビニルピロリドンなどが挙げられる。
ハロゲン化ビニリデン化合物としては、例えば、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0093】
α-オレフィン類としては、例えば、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
ジエン類としては、例えば、ブタジエンなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体として、架橋性ビニル単量体を用いてもよい。
【0094】
架橋性ビニル単量体としては、例えば、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコール鎖含有ジ(メタ)アクリレートなど、2つ以上のビニル基を含有する化合物などが挙げられる。
【0095】
(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体の中でも、芳香族ビニル単量体が好ましく、スチレンがより好ましい。
これら(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0096】
アクリル重合体(B)中、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合は、単量体に由来する構造単位の総量に対して、例えば40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは77質量%以上であり、例えば100質量%以下である。アクリル重合体(B)中、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体に由来する構造単位の含有割合は、単量体に由来する構造単位の総量に対して、例えば60質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは23質量%以下であり、例えば0質量%以上である。
【0097】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体に由来する構造単位の含有量が上記範囲であれば、優れた接着強度および耐ブロッキング性を有する複合粒子(D)が得られる。
【0098】
すなわち、アクリル重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位のみを含んでいてもよく、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。アクリル重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位のみを含んでいてるか、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体に由来する構造単位を上記含有割合で含んでいることが好ましい。
【0099】
また、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体として、カルボキシ基含有ビニル単量体が用いられる場合、複合粒子(D)の製造安定性の観点から、アクリル重合体(B)中、カルボキシ基含有ビニル単量体に由来する構造単位の含有割合は、単量体に由来する構造単位の総量に対して、例えば5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。なお、好ましくは、カルボキシ基含有ビニル単量体に由来する構造単位は、アクリル重合体(B)に含有されない。
【0100】
(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の重合方法は特に制限されず、例えば、公知の重合方法が挙げられる。例えば、水中に、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体、および重合開始剤を添加して、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体が重合される。
【0101】
重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、過酸化水素;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過酸化水素、過硫酸塩、有機過酸化物またはアゾ化合物等の酸化剤と、鉄イオン等の金属イオンを生成する物質、ナトリウムスルホキシレート、ホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダ、亜硫酸水素ナトリウム、L-アスコルビン酸、またはロンガリット等の還元剤との組み合わせによるレドックス開始剤などが挙げられる。これら重合開始剤は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0102】
また、重合開始剤の使用量は、目的および用途に応じて適宜設定されるが、アクリル重合体(B)の製造に用いられる(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の総量に対して、例えば0.1質量%以上であり、例えば5質量%以下である。
また、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の重合の際に、必要に応じて、分子量調節剤を添加してもよい。
【0103】
分子量調節剤としては、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のアリル化合物またはこれらアリル化合物のナトリウム塩などが挙げられる。これら分子量調節剤は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。分子量調節剤の添加量は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0104】
(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の重合は、通常常圧下で行う。(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の重合温度は、例えば30℃以上、好ましくは50℃以上であり、例えば95℃以下、好ましくは85℃以下である。(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の重合時間は、例えば1時間以上、好ましくは2時間以上であり、例えば30時間以下、好ましくは20時間以下である。
【0105】
(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の重合の際には、重合安定性を向上する観点から、必要に応じて、乳化剤(界面活性剤)を添加してもよい。
乳化剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0106】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウムジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t-オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩などが挙げられる。
【0107】
非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t-オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノールなどが挙げられる。
【0108】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
これら乳化剤の中でも、アニオン系界面活性剤が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0109】
これら乳化剤は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
乳化剤の添加割合は、特に制限されないが、複合粒子(D)を後述する方法により製造する際の安定性の観点からは、アクリル重合体(B)を製造するための(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体の総量に対して、例えば0.02質量%以上、例えば5質量%以下である。
【0110】
また、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を重合する際には、重合安定性向上等の観点から、pH調整剤、エチレンジアミン四酢酸またはその塩などの金属イオン封止剤などの添加剤を適宜の割合で添加してもよい。
【0111】
アクリル重合体(B)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算で、例えば5,000以上、好ましくは10,000以上であり、例えば1000,000以下、好ましくは500,000以下である。
【0112】
アクリル重合体(B)のガラス転移温度は、例えば-28℃以上、好ましくは-10℃以上であり、例えば80℃以下、好ましくは60℃以下である。アクリル重合体(B)のガラス転移温度が上記範囲であれば、優れた接着強度および耐ブロッキング性を有する複合粒子(D)を得ることができる。
接着強度の向上を図る観点から、アクリル重合体(B)のガラス転移温度は、好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下である。
【0113】
耐ブロッキング性の向上を図る観点から、アクリル重合体(B)のガラス転移温度は、好ましくは、0℃を超過し、さらに好ましくは、10℃以上である。なお、アクリル重合体(B)のガラス転移温度は、例えば、上述した、単量体の組み合わせ、単量体の含有割合、重量平均分子量等により所望の値とすることができる。
【0114】
<複合粒子(D)>
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)およびアクリル重合体(B)を、複合粒子(D)は含んでいる。複合粒子(D)は、上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)およびアクリル重合体(B)を含んでいれば、その形態は特に制限されず、例えば、コア/シェル構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造、多粒子複合構造、IPN構造などが挙げられる。
特にエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の連続相中にアクリル重合体(B)からなる相が分散した構造が好ましい。
【0115】
このような複合粒子(D)の製造方法は特に制限されず、例えば以下の方法(1)~(3)により複合粒子(D)は製造できる。なお、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、上記方法により個別に製造することができ、あるいはこれら2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は市販品として入手してもよい。
【0116】
方法(1):不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体、および必要に応じてオレフィン系樹脂(c)を混合してエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を作製する工程、および
前記混合物(A)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を上記方法により重合して、アクリル重合体(B)を作製する工程、を含む複合粒子(D)の製造方法。
方法(2):水存在下で、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体および必要に応じてオレフィン系樹脂(c)を含むエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)を乳化しての分散液1を得る工程、および
前記分散液1中に、重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を添加して、アクリル重合体(B)を重合して、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する複合粒子(D)を含有する分散液2を得る工程、を含む複合粒子(D)の製造方法。
方法(3):(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を上記方法により重合して、アクリル重合体(B)を作製する工程、
得られたアクリル重合体(B)(例えば、アクリル重合体(B)の水分散体)の存在下、上記方法により、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を個別に製造する工程、および
さらに必要に応じてオレフィン系樹脂(c)を添加する工程を含む、複合粒子(D)の製造方法。
【0117】
これら方法(1)~(3)の中でも、所望の特性を有する複合粒子(D)を確実に製造できる観点から、方法(2)が好ましい。
なお、分散液1を得る工程の具体的な条件、態様などについては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の製造に関して記載した条件、態様など、特にエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の水分散体の製造に関して記載した条件、態様などを適用できる。また分散液2を得る工程のアクリル重合体(B)を重合する際の具体的な条件、態様などについては、アクリル重合体(B)の重合に関して記載した条件、態様など、特に、水中に、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体、および重合開始剤を添加して、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を重合する際の、条件、態様などを適用できる。
【0118】
複合粒子(D)中の前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)の含有量は、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは30質量%以上75質量%以下である。
複合粒子(D)中の前記アクリル重合体(B)の含有量は、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは25質量%以上70質量%以下である。
複合粒子(D)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)およびアクリル重合体(B)の含有量が前記範囲にあることにより、優れた接着強度を有する複合粒子(D)が得られる。
【0119】
なお、複合粒子(D)中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)およびアクリル重合体(B)の含有量は、原料成分の仕込み比から算出することができる。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)およびアクリル重合体(B)の含有量が上記範囲にあることにより、優れた接着強度を有する複合粒子(D)が得られる。
【0120】
複合粒子(D)の重量平均粒子径(測定方法:光散乱測定)は、例えば10nm以上であり、例えば10μm以下、好ましくは1μm以下である。
また、電子顕微鏡により観察される複合粒子(D)の体積平均粒子径は、例えば50nm以上、好ましくは60nm以上、より好ましくは80nm以上であり、例えば300nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは120nm以下である。
【0121】
平均粒子径が上記範囲であれば、複合粒子(D)の水分散体の保存安定性の向上を図ることができ、また、積層体(後述)の透明性や耐水性を良好とすることができる。
また、本発明により得られる水分散体は、上記樹脂成分以外に、添加剤を含有してもよい。
【0122】
添加剤としては、例えば、上記した乳化剤、硬化剤、架橋剤、造膜助剤、消泡剤、ハジキ防止剤、レベリング剤、粘着付与剤、硬度付与剤、防腐剤、増粘剤、凍結防止剤、分散剤、無機顔料、有機顔料などが挙げられる。これら添加剤は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。これら添加剤の添加量およびその添加の時期等は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0123】
本発明により得られる水分散体の固形分濃度は、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、例えば60質量%以下、好ましくは50質量%以下である。なお、水分散体の固形分とは、水分散体の揮発性成分を加熱等により除去した際に残存する樹脂成分を含む成分である。
本発明により得られる水分散体のpHは、例えば7以上、好ましくは8以上であり、例えば11以下、好ましくは10以下である。
【0124】
本発明により得られる水分散体は、積層体の接着剤層(ヒートシール層)の形成に好適に用いることができる。かかる接着剤層を備える積層体は接着強度に優れる。そのため、本発明の水分散体は、接着剤組成物として好適である。
【0125】
本発明の積層体は、基材と、前記基材の少なくとも一方の表面に積層される接着剤層とを備え、
前記接着剤層が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)と、アクリル重合体(B)とを有する前記複合粒子(D)を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A)が、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる2種以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含む。上記積層体は、前述した、基材および複合粒子(D)を含む接着剤層を有すればよく、他の層を有していてもよい。
【0126】
上記積層体の接着剤層は、例えば、前述した本発明で得られる水分散体の塗布物を乾燥させることにより得られる。
本発明の積層体において、前記接着剤層は、基材の片面に存在していてもよく、両面に存在していてもよい。また、前記接着剤層は、基材の全面に存在していてもよく、一部に存在していてもよい。
【0127】
前記基材としては、例えば、セロハン、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル共重合体、およびこれらの混合物などのプラスチック材料からなるプラスチックフィルム;これらプラスチックフィルム上に、アルミ、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、チタン、コバルト、インジウム、クロム等の金属、または酸化アルミニウム、酸化珪素の無機酸化物等の蒸着物をプラスチックフィルムに蒸着した蒸着フィルム;アルミニウム箔等の金属箔、紙、不織布などが挙げられる。
【0128】
上記積層体の基材となり得る紙については、特に制限はなく、パルプを主成分とする公知の紙を用いることができる。紙の主成分となるパルプとしては、例えば、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)等の化学パルプ;GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)等の機械パルプ;DIP(脱インキパルプ)等の木材パルプ;ケナフ、バガス、竹、コットン等の非木材パルプ;などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。例えば、パルプとして、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)を90~100質量%含むパルプが使用できる。
【0129】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、パルプには合成繊維が含まれていてもよい。
環境保全の観点から、パルプの中でも、ECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、TCF(Total Chlorine Free)パルプ、古紙パルプ、植林木から得られるパルプが好ましい。
上記パルプの叩解度は、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、例えば、200~700mlCSF、好ましくは、450~620mlCSFである。
【0130】
基材となる紙として、填料を含有する紙も使用できる。填料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウムが挙げられる。紙中の填料含有量は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、例えば、1~30質量部である。填料として軽質炭酸カルシウムを含む場合は、パルプの乾燥質量100質量部に対して、軽質炭酸カルシウムを、例えば1~10質量部含むとよい。
【0131】
また、前記紙には、パルプ以外に、各種公知の製紙用添加剤が含まれていてもよい。製紙用添加剤としては、例えば、サイズ剤、湿潤紙力増強剤等の内添紙力増強剤;嵩高剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、蛍光消色剤、ピッチコントロール剤が挙げられる。
また、基材となる紙は、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子が塗布された紙であってもよい。
【0132】
基材となる紙の抄紙方法は特に制限はなく、例えば、長網抄紙機、長網多層抄紙機、円網抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの各種抄紙機により紙を製造できる。また、本発明の積層体で用いる紙は単層抄きでも多層抄きでもよく、あるいは複数層の貼合品であってもよい。
【0133】
積層体中に含まれる接着剤層のヒートシール性により優れるという観点から、これら基材の中でも、金属箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
これら基材は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0134】
本発明の積層体に含まれる接着剤層は、例えば、前記基材の少なくとも一方の表面に、本発明で得られる複合粒子(D)を含む水分散体を塗布(塗工)し、この塗布物からなる層を乾燥して、少なくとも一部の前記水分散体に含まれる水等の揮発分を除去することにより得られる。
【0135】
本発明で得られる水分散体の塗布(塗工)方法としては、特に制限されず、例えば、ダイコート法、フローコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、キスリバースコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ロッドコート法、ロールドクターコート法、エアナイフコート法、コンマロールコート法、リバースロールコート法、トランスファーロールコート法、キスロールコート法、カーテンコート法、印刷法などが挙げられる。
【0136】
水分散体の塗布物からなる層の乾燥条件としては、水分散体に由来する水分などの揮発成分を除去できる条件であれば特に制限されず、乾燥温度が、例えば100~200℃であり、乾燥時間が、例えば10秒~30分である。
【0137】
前記接着剤層の厚みは、所望の用途等に応じ適宜設定すればよいが、例えば0.2μm以上、好ましくは1μm以上であり、また、例えば100μm以下、好ましくは20μm以下である。
【0138】
また、上記積層体中の基材と接着剤層との密着性の向上などを目的に、接着剤層を設ける前に、基材に対して、プライマー(チタネートやポリエチレンイミンなど)処理、コロナ放電処理、化成処理などの前処理を施してもよい。
【0139】
本発明の積層体の基材として紙を用いる場合には、上記接着剤層以外に、塗工層が1層以上設けられていてもよい。かかる塗工層としては、例えば、顔料と接着剤とを含有する塗工液から得られる顔料塗工層が挙げられる。
【0140】
顔料塗工層に含まれる顔料としては、一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の顔料を用いることができ、例えば、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等)、カオリン(クレーを含む)、焼成クレー、タルク、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪藻土、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機顔料;アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロン、これら樹脂を構成する単量体を共重合して得られる樹脂等の有機顔料(いわゆるプラスチックピグメント);が挙げられる。
顔料塗工層に用いる顔料としては、例えば、20~40質量部のカオリンと60~80質量部の重質炭酸カルシウムとの組み合わせが使用できる。
【0141】
また、顔料塗工層に用いる接着剤としても、一般の印刷用塗工紙の塗工層に使用される公知の接着剤を用いることができ、例えば、ブタジエン系共重合ラテックス、架橋剤変性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン性澱粉、両性澱粉等の澱粉類;ゼラチン、カゼイン、大豆タンパク、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子;酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、の合成樹脂類;が挙げられる。
顔料塗工層中の顔料と接着剤との配合割合は特に限定されるものではないが、顔料100質量部に対し、好ましくは接着剤5~50質量部である。例えば、顔料100質量部に対して、1~5質量部のリン酸エステル化澱粉および5~15質量部のスチレンブタジエンラテックスの接着剤の組み合わせを使用できる。
【0142】
顔料塗工層には、本発明の効果を損なわない限り、各種助剤が含まれていてもよく、例えば、粘度調節剤、柔軟剤、光沢付与剤、耐水化剤、分散剤、流動変性剤、紫外線吸収剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、pH調節剤、消泡剤、可塑剤、防腐剤が含まれていてもよい。
また、このような顔料塗工層を作製する塗工液の塗工量としては、例えば、基紙の片面あたり、固形分換算で、2~40g/m2である。
【0143】
本発明の紙を基材とする積層体(例えば包装用紙)の実施形態の一つとして、本発明の水分散体から得られる接着剤層は紙の上に設けられた前記顔料塗工層の上に設けられてもよく、別の実施形態として、紙の一方の面のみに顔料塗工層が設けられており、他方の顔料塗工層が設けられていない面に前記接着剤層が設けられていてもよい。
【0144】
本発明の積層体では、複合粒子(D)を含む接着剤層を有している。この接着剤層はヒートシール強度に優れる。また、本発明の積層体に含まれる接着剤層は、通常、複合粒子(D)を有する水分散体から作製される。かかる水分散体から接着剤層が作製される場合、接着剤層に残留する有機溶媒量は少なく、前記接着剤層中の残留有機溶剤量は好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下とできる。
【0145】
本発明で得られる積層体は、各種産業分野で、ヒートシール用材料として好適に用いられる。
ヒートシールすることにより、本発明の積層体に含まれる基材と、被着体層とが、前記接着剤層を介して貼着される。前記被着体層は、本発明の積層体に含まれていてもよく、あるいは本発明の積層体とは別の物品に含まれる層であってもよい。
【0146】
前記被着体層の具体例としては、プラスチックフィルム、蒸着フィルム、金属箔、紙、不織布など、積層体に含まれる基材と同様の物が挙げられる。
積層体中に含まれる接着剤層のヒートシール性により優れるという観点から、これら基材の中でも、プラスチックフィルムが好ましく、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、またはこれらの混合物から得られるプラスチックフィルムがより好ましい。
これら被着体層は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0147】
また、本発明の積層体は、基材および接着剤層に加えて、前記被着体層を含むものであってもよい。その場合、接着剤層を介して、基材と被着体層等が貼着され得る。貼着された場合、本発明の積層体では、前記接着剤層の基材と接する面とは反対の表面に、被着体層が積層されることになる。
【0148】
基材と被着体層とをヒートシールする方法としては、特に制限されない。例えば、積層体に含まれる基材と被着体層とを、接着剤層を介して重ね合わせ、その後、加熱および加圧することにより、ヒートシールできる。
また、前記被着体層が、さらに上記複合粒子(D)を含む接着剤層(2)を有している場合には、本発明の積層体に含まれる接着剤層と、この接着剤層(2)とを重ね合わせ、その後、加熱および加圧することによりヒートシールしてもよい。
【0149】
ヒートシールする際の加熱温度は、例えば80℃以上、好ましくは100℃以上であり、例えば250℃以下、好ましくは200℃以下である。また、ヒートシールする際の圧力は、例えば50kPa以上、好ましくは100kPa以上であり、例えば500kPa以下、好ましくは300kPa以下である。
【0150】
本発明の積層体に含まれる基材と被着体層との接着強度は、前記基材と被着体層との剥離強度により評価できる。加熱温度170℃、圧力2kg/cm2の条件で、0.5秒間熱圧着した後の、180度剥離の基材と被着体層との剥離強度が好ましくは8N以上である。
【0151】
なお、このようにして積層体に含まれる接着剤層の少なくとも一方の表面に被着体層が積層された積層体(換言すれば、積層体に含まれる接着剤層の少なくとも一方の表面に被着体層が積層された積層体)は、そのヒートシール状態(つまり、ヒートシールの前後)に関わらず、本発明の積層体に含まれる。
【0152】
本発明で得られる積層体は、ヒートシール強度に優れるため、各種産業分野において、包装材料として好適に用いられる。
本発明の積層体を含む包装材料により包装される被包装物としては、特に制限されず、例えば、菓子、茶葉、香辛料などの食品類;煙草、香木などの芳香物;医薬品、紙類などの種々の産業製品が挙げられる。
【0153】
本発明の積層体を含む包装材料はヒートシール強度に優れる。そのため、ヒートシールされた被包装物が変質することを抑制する効果などが期待される。また、接着剤層を作製するために本発明の水分散体を用いた場合には、環境への負荷が小さい。
【実施例】
【0154】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0155】
実施例1-1~1-13および比較例1-1~1-3で使用した重合体は以下のとおりである。
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1-1):EMAA(エチレン・メタクリル酸共重合体);エチレンに由来する構造単位の含有量:80質量%、メタクリル酸に由来する構造単位の含有量:20質量%
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1-2):EMAA;エチレンに由来する構造単位の含有量:85質量%、メタクリル酸に由来する構造単位の含有量:15質量%
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1-3):EAA(エチレン・アクリル酸共重合体);エチレンに由来する構造単位の含有量:82質量%、アクリル酸に由来する構造単位の含有量:18質量%
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2-1):EMAA;エチレンに由来する構造単位の含有量:90質量%、メタクリル酸に由来する構造単位の含有量:10質量%
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2-2):EMAA;エチレンに由来する構造単位の含有量:92質量%、メタクリル酸に由来する構造単位の含有量:8質量%
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2-3):EMAA;エチレンに由来する構造単位の含有量:96質量%、メタクリル酸に由来する構造単位の含有量:4質量%
オレフィン系重合体(c-1):EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体);エチレンに由来する構造単位の含有量:72質量%、酢酸ビニルに由来する構造単位の含有量:28質量%
オレフィン系重合体(c-2):EBR(エチレン・1-ブテン共重合体);エチレンに由来する構造単位の含有量:93モル%
オレフィン系重合体(c-3):LDPE(低密度ポリエチレン);密度918kg/m3
【0156】
表1および2に記載の各実施例および比較例でアクリル重合体の作製に使用した単量体は以下のとおりである。
MMA:メタクリル酸メチル
nBMA:メタクリル酸n-ブチル
nBA:アクリル酸n-ブチル
ST:スチレン
【0157】
(実施例1-1)
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1-1)50質量部、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a1-2)25質量部、およびエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a2-1)25質量部を、一軸押出機に投入して、150℃で溶融混練し、樹脂混合物100質量部を得た。
【0158】
得られた樹脂混合物100質量部、48質量%水酸化カリウム水溶液6.3質量部、および脱イオン水158質量部を反応容器1に仕込み、撹拌しながら窒素気流下で150℃まで昇温し、撹拌条件下150℃で4時間保持して、不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量の異なる3種のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を含有するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A-1)を含む原料水分散体(α1)を得た。得られた原料水分散体(α1)の中和度は、下記方法により測定した。
【0159】
ついで、得られた混合物(A-1)を含む原料水分散体(α1)278質量部、および脱イオン水80質量部を別の反応容器2に仕込み、窒素気流下で80℃に昇温し、過硫酸カリウム0.3質量部(重合開始剤)を添加した。
【0160】
別途、メタクリル酸n-ブチル79質量部、アクリル酸n-ブチル21質量部、およびn-ドデシルメルカプタン(分子量調節剤)0.2質量部を、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)0.4質量部を添加して、脱イオン水40質量部中で乳化させ、乳化混合物(β-1)を得た。
【0161】
得られた乳化混合物(β-1)を2時間かけて、80℃に保持した反応容器2に滴下し、さらに、80℃で2時間保持して重合反応を完結させ、その後重合反応を停止した。これにより(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を含むアクリル重合体(B-1)を作製し、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A-1)とアクリル重合体(B-1)とを有する複合粒子(D-1)を含む水分散体を得た。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A-1)の中和度、水分散体製造時の重合安定性、および得られた水分散体の貯蔵安定性を下記方法により評価した。
【0162】
(実施例1-2~1-8および比較例1-1~1-3)
実施例1-2~1-8および比較例1-1~1-3では、用いるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の種類およびその添加量を表1および2に記載のとおりに変更し、水酸化カリウムの添加量および脱イオン水の添加量を、表1および2に記載の中和度および固形分濃度となるように変更し、アクリル重合体(B)を製造するための単量体の種類およびその添加量を表1および2に記載のとおりに変更する以外は、実施例1-1と同様にして、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物の原料水分散液作製(比較例1~3ではエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の原料水分散液)およびアクリル重合体の重合を行い、複合粒子を含む水分散液を作製した。原料分散体に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物、またはエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の中和度、水分散体製造時の重合安定性、および得られた水分散体の貯蔵安定性を下記方法により評価した。
【0163】
(実施例1-9~1-13)
実施例1-9~1-13では、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物(A-1)に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(a)およびオレフィン系重合体(c)の種類および添加量を、表2に記載のとおりに置き換え、水酸化カリウムの添加量および脱イオン水の添加量を、表1および2に記載の中和度および固形分濃度となるように変更する以外は、実施例1-1と同様に、溶融混練して樹脂混合物100質量部を作製し、アクリル重合体(B)を製造するための単量体の種類およびその添加量を表2に記載のとおりに変更する以外は、実施例1-1と同様にして、アクリル重合体の重合を行い、複合粒子を含む水分散液を作製した。原料分散体に含まれるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物の中和度、水分散体製造時の重合安定性、および得られた水分散体の貯蔵安定性を下記方法により評価した。
【0164】
<中和度>
実施例1-1~1-13および比較例1-1~1-3でそれぞれ使用したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物全体またはエチレン不飽和カルボン酸共重合体の中和度は以下のように測定した。
各実施例および比較例で得られた水分散体から塗膜を作製し、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によりその塗膜の赤外吸収スペクトルを測定し、カルボキシ基に相当する1700cm-1の吸収のピーク高さを求め、この高さをピーク高さaとした。
【0165】
実施例で使用したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体混合物または比較例で使用したエチレン不飽和カルボン酸共重合体を塩酸と接触させて、水分散体の樹脂成分に含まれるの金属イオンを除去(脱メタル化)し、金属イオンを含まないエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を得た。この共重合体から上述と同様の試料を作製し、同様に赤外吸収スペクトルを測定し、1700cm-1の吸収のピーク高さを求め、この高さをピーク高さbとした。
【0166】
これら得られた値から、下記の式により、中和度(%)が求められた。
中和度(%)=100-100×(ピーク高さa)/(ピーク高さb)
なお、ピーク高さaは、共重合体混合物または共重合体中の金属イオンと結合していないカルボキシ基の数に対応する。また、ピーク高さbは、共重合体混合物または共重合体に含まれるすべてのカルボキシ基の数に対応する。
【0167】
<重合安定性>
実施例1-1~1-13および比較例1-1~1-3における、アクリル重合体の重合体後の複合粒子の水分散体の状態より、以下の基準に従って評価した。なお、凝集物量は下記の方法により求めた。
◎:凝集物量が500ppm未満
○:凝集物量が500ppm以上2000ppm未満であり、流動性が保たれていた。
△:凝集物量が2000ppm以上と多く発生しているが、液の流動性は保たれていた。
×:多量の凝集物が発生し、液の流動性が失われていた。
【0168】
(凝集物量測定方法)
上記実施例および比較例で得られた複合粒子の水分散体約100g程度を秤取して、この水分散体の質量(a(g))を測定した。ステンレスメッシュ(Φ51mm×300mesh)の質量(b(g))を事前に測定し、このステンレスメッシュを用いて秤取した水分散体を濾過し、濾過物をステンレスメッシュと共に150℃、40分間乾燥した後放冷し、メッシュと濾過物の乾燥物の質量(c(g))を測定した。
これら得られた測定値から、下記の式により、凝集物量(ppm)を求めた。
凝集物量(ppm)=(c-b)×1,000,000/a
【0169】
<貯蔵安定性>
上記実施例および比較例で得られた複合粒子の分散体を40℃下で3ヶ月間保管し、保管後の水分散体の状態を以下の基準に従って評価した。
◎:液の分離が無い。
×:液が2層に分離し、液の上部に固形物の層が生成している。
【0170】
【0171】
【0172】
下記表3に記載の実施例2-1~2-10で使用した基材フィルムは以下のとおりである。
AL:硬質アルミニウム箔(厚み:20μm)
紙:片艶クラフト紙(坪量:80g/m2)
【0173】
下記、表3に記載の剥離強度の試験で用いた、被着体フィルムは以下のとおりである。
AL(1):実施例2-1で作製された、基材フィルムAL(硬質アルミニウム箔)上に実施例1-1で得られた複合粒子(D)の水分散体から作製された接着剤層を有する積層フィルム
AL(2):実施例2-2で作製された、基材フィルムAL上に実施例1-3で得られた複合粒子(D)の水分散体から作製された接着剤層を有する積層フィルム
紙(1):実施例2-3で作製された、基材フィルム紙の非艶面上に実施例1-6で得られた複合粒子(D)の水分散体から作製された接着剤層を有する積層フィルム
PVC:ポリ塩化ビニルフィルム(厚み:200μm)
PVDC:PVC/PVDC(ポリ塩化ビニリデン)積層フィルム(厚み:320μm;PVC 厚み250μm+PVDC 厚み70μm;PVDC層が接着剤層と重なりあう面)
APET:非晶性ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:300μm)
AL:硬質アルミニウム箔(厚み:20μm)
【0174】
(実施例2-1~2-10)
<水分散体の塗工方法>
下記表3に記載の上記実施例で得られた複合粒子(D)を含む水分散体を、下記表3に記載の基材フィルムに、塗工量が4g/m2となるようにワイヤーバーで塗布し、塗布物から揮発分を除去するために、乾燥して(乾燥条件 120℃、15秒)、基材フィルム上に、複合粒子(D)からなる接着剤層を有する積層体を得た。なお、紙については非艶面上に接着剤層を形成している。
得られた積層体について、下記方法により透明性、基材密着性、耐ブロッキング性、および剥離強度を評価した。
【0175】
(透明性)
基材フィルムとしてAL(硬質アルミニウム箔)を用いた実施例について、得られた積層体の基材フィルム上に形成された複合粒子(D)からなる接着剤層の透明性を目視により下記三段階で評価した。
◎:透明
〇:透明だが少し白濁
×:激しい白濁
【0176】
(基材密着性)
各実施例で得られた積層体に含まれる複合粒子(D)からなる接着剤層の表面に粘着テープを貼り、手で粘着テープを剥がした際の接着剤層の基材フィルムからの剥離度合いを下記三段階で評価した。
◎:塗膜の剥離が無い、あるいは基材破壊が発生(紙基材の場合)
〇:部分的に塗膜の剥離を確認
×:塗膜が完全に剥離
【0177】
(耐ブロッキング性)
各実施例で得られた積層体から縦横5×5cmの正方形の試験片を2つ切り出した。これら2つの試験片を複合粒子(D)からなる接着剤層同士が重なるように重ね合わせ、重ね合わせた2つの試験片の上から250g/cm2の荷重をかけ、40℃下、24時間静置し、静置後の2つの試験片の剥離を行い、下記三段階の基準に従い、耐ブロッキング性を評価した。
◎:重ね合わせた接着剤層の間が、抵抗なく剥離
〇:接着剤層同士の一部に貼り付きを確認
×:接着剤層同士の全面に貼り付きを確認
【0178】
(剥離強度)
各実施例で得られた積層体を一昼夜常温で放置した後、その積層体から15mm幅の短冊状の試験用フィルムを切り出し、この試験用フィルムの複合粒子(D)からなる接着剤層の表面を、下記表3に記載された被着体フィルムと重ね合わせ、170℃、圧力2kg/cm2の条件で0.5秒ヒートシールして試験片を得た。得られた試験片を用い、実施例1-3および1-6で得られた積層体を用いた実施例では、引張速度50mm/秒でT字剥離を行い、その他の実施例では引張速度200mm/秒で180度剥離を行い、剥離強度を測定した。
【0179】