(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】グリース組成物およびそれを用いた電子部品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240530BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20240530BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20240530BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240530BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240530BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240530BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L71/00
C08L33/06
C08K3/013
C08K3/22
C08K3/28
H01L23/36 M
(21)【出願番号】P 2022553329
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037230
(87)【国際公開番号】W WO2022070335
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓真
(72)【発明者】
【氏名】大堀 和彦
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-167429(JP,A)
【文献】特開2018-190911(JP,A)
【文献】特開2017-102291(JP,A)
【文献】特開2012-102301(JP,A)
【文献】特表2005-502776(JP,A)
【文献】特開2011-057734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01L 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状樹脂、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子、及び(C)無機充填材を含有し、
前記(A)液状樹脂が、ポリエステルポリオール、ポリエーテル、及びポリ
テトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記(B)ポリメタクリル酸系有機粒子が、溶解度パラメーター(SP値)(cal/cm
3)
1/2が7.8~10.1の有機溶剤に溶解することを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の平均粒子径が0.1~10.0μmである請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の平均重合度が1,000~50,000である請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記(B)ポリメタクリル酸系有機粒子が、ポリメタクリル酸アルキル粒子、及びアクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記(A)液状樹脂がポリエーテルを含み、前記(A)液状樹脂中のポリエーテルの割合が50~95質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記(C)無機充填材が酸化アルミニウム粒子または窒化アルミニウム粒子を含む請求項1~5のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
加熱によりゲル化した請求項1~6のいずれか1項に記載のグリース組成物。
【請求項8】
発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と前記放熱体との間に配置された請求項1~7のいずれか1項に記載のグリース組成物と、を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グリース組成物およびそれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品のハイパワー化、小スペース化に伴い、部品の発熱による動作不良が生じている。そのため、各電子部品においては、発生した熱を逃がし部品を安定的に動作させるために、放熱体を用いる手法が適用されている。
【0003】
グリース組成物は、発熱体と放熱体との間に介在させることで放熱性を向上させることができる。グリース組成物としては、一般的に熱分解安定性、難燃性等の観点から、シリコーンオイルをベースとして、酸化亜鉛又はアルミナを含む熱伝導性シリコーンパテ組成物(例えば、特許文献1)が知られている。
【0004】
しかしながら、電子部品は発熱と冷却を繰り返すため、発熱体とヒートシンクとの熱膨張差が大きく、高温時にグリースが低粘度化して押し出される現象(ポンプアウト現象)が起こることが知られている。特に、近年のハイパワー化においては150℃域における耐ポンプアウト性が求められている。特許文献1に記載されているようなシリコーングリースは、150℃域における耐ポンプアウト性について十分に検討されていない。また、シリコーングリースは、高温使用時にはシロキサンガスの発生が想定される。シロキサンガスは、電極接点等へ付着して二酸化珪素を生成するため、これが原因となって接点不良を生じる可能性がある。
【0005】
そこで、例えばシリコーングリースの耐ポンプアウト性を改善した非シリコーン系熱伝導性グリース組成物が提案されている(例えば、特許文献2)。これらは、耐熱性オイルに非イオン性界面活性剤を配合することで高温時の粘度低下を低減し、ポンプアウト現象の解決を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-2179号公報
【文献】特開2019-89924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の非シリコーン系熱伝導性グリース組成物は、150℃×100サイクルまでの耐ポンプアウト性の検討があるものの、近年求められるようになった150℃×1000サイクルまでの耐ポンプアウト性の検討はされていない。また、上記グリース組成物では、長期で使用した場合の熱伝導性グリース組成物の熱伝導率の変化についても確認されていない。
【0008】
また、非シリコーン系熱伝導性グリース組成物は、揮発しやすい成分を含む可能性がある。中でも、特許文献2に記載のポンプアウト防止として使用されている非イオン性界面活性剤は水との親和性が高いため、雰囲気中の水分を吸着しやすい。そのため、上記非シリコーン系熱伝導性グリース組成物は、屋外で多用されるインバータ用の半導体パワーモジュール等に用いられた場合、高湿度環境下において容易に水分を吸着する可能性がある。そして、吸湿状態において、半導体素子の温度が上昇した場合、吸着した水分が急激に揮発することでボイドが発生し、放熱性が低下する可能性がある。
【0009】
このように、従来の非シリコーン系熱伝導性グリース組成物は、長期期間の耐ポンプアウト性および熱伝導率を維持することの検討が不十分であった。
【0010】
そこで、本開示は、高温、特には150℃程度でポンプアウトの発生が低減され、熱伝導性が維持され、ボイド発生を低減したグリース組成物および該グリース組成物を発熱体と放熱体との間に配置した電子部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のグリース組成物は、(A)液状樹脂、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子、及び(C)無機充填材を含有し、前記(A)液状樹脂が、ポリオール、ポリエーテル、及びジアミン樹脂から選ばれる少なくとも1種を含み、前記(B)ポリメタクリル酸系有機粒子が、溶解度パラメーター(SP値)が7.8~10.1の有機溶剤に溶解する。
【0012】
本開示の電子部品は、発熱体と、放熱体と、前記発熱体と前記放熱体との間に配置された上記本開示のグリース組成物と、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本開示のグリース組成物は、高温、特には150℃程度でポンプアウトの発生が低減され、熱伝導性が維持され、ボイド発生を低減することができる。
【0014】
本開示の電子部品は、本開示のグリース組成物を、発熱体と放熱体との間に配置することで、発熱体が150℃程度の高温となった場合でも、十分に熱伝導性を発揮することができる。また、本開示の電子部品は、その後の使用においても同等の熱伝導性を維持できることから長期信頼性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の電子部品の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示を一実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
<グリース組成物>
本実施形態のグリース組成物は、(A)ポリオール、ポリエーテル、及びジアミン樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む液状樹脂、(B)溶解度パラメーター(Solubility Parameter:SP値)が7.8~10.1の溶剤に溶解するポリメタクリル酸系有機粒子、及び(C)無機充填材を含む。
【0018】
本明細書において、グリースとは、JIS K 2220:2013に基づき、原料基油中に増ちょう剤を分散して半固体又は固体状にしたものをいう。なお、「固体状」には、系全体として流動性を失ったゲル状を含むものとする。
【0019】
本実施形態のグリース組成物(以下、「本グリース組成物」ともいう。)は、グリースの性状を有する組成物である。本グリース組成物は、半固体状から、後述のとおり加熱により(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の作用により流動性を失ってゲル状になる。以下、本グリース組成物のうち、ゲル化したグリース組成物を「本ゲル状組成物」ともいう。
【0020】
本明細書において、液状樹脂の液状とは、常温において液状であることをいう。具体的には、液状成分とは、25℃におけるE型粘度計(例えば、VISCOMETER TPE-100 TOKISANGYO製)により測定される粘度が200,000mPa・s以下のものをいう。以下、特に断りのない限り、液状の物質の粘度は、25℃におけるE型粘度計(例えば、VISCOMETER TPE-100 TOKISANGYO製)により測定される粘度をいう。
また、本明細書において、常温とは5~40℃を指し、好ましくは15~30℃である。
【0021】
本グリース組成物は、電子部品、例えば、発熱部品において発熱体と放熱体との間に配置されて使用される。その場合、発熱体又は放熱体の少なくとも一方に本グリース組成物が常温で塗布される。その後、グリース組成物を介して、発熱体と放熱体とが配置される。または、所定の距離で配置された発熱体および放熱体との間に本グリース組成物が注入される等の工程により配置される。
本グリース組成物は、グリース性状であり、後述する粘度を有することから、発熱部品において発熱体と放熱体の間に作業性良く塗布又は注入することができ、乾燥等熱処理がいらず、電子部品の組み立てが容易である。
【0022】
本グリース組成物が適用された発熱部品が使用時に高温、例えば、150℃程度になった場合、本グリース組成物は昇温の過程でゲル化して本ゲル状組成物となる。ここで、本グリース組成物における、ゲル化は、本グリース組成物の含有成分のうちの、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子が(A)液状樹脂により膨潤することで達成される。本グリース組成物がゲル化を開始する温度は、(A)液状樹脂および(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の種類によるが、概ね60~130℃である。このようにして、発熱部品が高温、例えば、150℃程度では、本グリース組成物は温度変化に伴い流動性の少ない本ゲル状組成物へと変化する。これにより、発熱体と放熱体との間からポンプアウトすることが殆どない。また、(A)液状樹脂が(B)ポリメタクリル酸系有機粒子内に浸透し、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子を膨潤させることで、(A)液状樹脂中の揮発分が揮発しにくくなる。これにより、本ゲル状組成物はボイドの発生も低減することができる。
【0023】
さらに、本グリース組成物がゲル化して得られる本ゲル状組成物は柔軟性を有することから、発熱体および放熱体が降温により形状変化する場合でも、形状変化への追従性に優れ、低温時でも密着性に優れ、熱伝導性を維持することができる。また、本ゲル状組成物は揮発分の発生も低減することができる。
【0024】
本グリース組成物を発熱部品に用いた場合、上記のような高温状態でゲル化した後は、高温から常温に戻っても、本グリース組成物がゲル化した本ゲル状組成物の状態で、発熱体と放熱体との間に存在する。その後、発熱体が昇温、降温を繰り返しても、本グリース組成物がゲル化した本ゲル状組成物は、温度変化に伴う性状変化が少なく上記効果を持続することが可能である。その結果として、発熱部品は安定した長期使用が可能となる。
【0025】
以下、本グリース組成物が含有する各成分について説明する。
〔(A)液状樹脂〕
本グリース組成物が含有する(A)液状樹脂は、常温において液状の樹脂であり、ポリオール、ポリエーテル、及びジアミン樹脂から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂である。液状の定義は上記のとおりである。(A)液状樹脂は、本グリース組成物が含有する固形成分、具体的には、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子および(C)無機充填材と混合されることで、本グリース組成物をグリース状とする成分である。また、(A)液状樹脂は、加熱により(B)ポリメタクリル酸系有機粒子に浸透し、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子を膨潤させることで、本グリース組成物をゲル化させて本ゲル状組成物とする機能を有する。これにより、本グリース組成物は使用時に温度変化に伴う流動性の増加を低減することができる。
【0026】
(A)液状樹脂の耐熱性は、主に樹脂の骨格に影響を受ける。特に樹脂中の芳香環の有無が高温時の重量減少に影響する。(A)液状樹脂は、このような耐熱性を有することで、長期の信頼性に優れるグリース組成物を提供することができる。また、(A)液状樹脂は、吸湿性の低い樹脂であってもよい。(A)液状樹脂の吸湿性が低いことで、ボイドの発生を低減できる。
(A)液状樹脂は、上記特定の種類の樹脂から選ばれるが、重量減少が少ない耐熱性の樹脂であってもよい。
【0027】
また、(A)液状樹脂が2種以上の樹脂を含む場合、2種以上を混合して得られる混合物が液状であればよい。(A)液状樹脂は、固体の樹脂と液状の樹脂を混合して得てもよい。
【0028】
(A)液状樹脂は、25℃における、E型粘度計、例えばVISCOMETER TPE-100 TOKISANGYO製により測定される粘度が、10~10000mPa・sであってもよく、100~1000mPa・sであってもよい。
【0029】
(A)液状樹脂は、25℃を基準とした150℃での質量減少率が1%未満であってもよい。上記質量減少率の下限は特に定めない。上記質量減少率が1%未満であることにより、例えば、発熱部品に用いる際の発熱体および放熱体の間に本グリース組成物を配置した際に揮発分を低減でき、ボイド発生による放熱特性の低下を低減することができる。
【0030】
上記質量減少率は、(A)液状樹脂を150℃のオーブン内に24時間放置し、加熱前後における質量変化率(減少率)として算出することができる。
【0031】
(A)液状樹脂は、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子を効率よく膨潤させる観点から、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子に対して高い相溶性を有してもよい。具体的には、(A)液状樹脂のSP値と、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子のSP値とが近くてもよい。(A)液状樹脂のSP値は、7.3~11.5であってもよい。
上記SP値は、ヒルデブラント(Hildebrand)によって導入された正則溶液論により定義された値であり、例えば、2つの成分の溶解度パラメーター(SP値)の差が小さいほど溶解度が大となる。
なお、(A)液状樹脂のSP値は、後述する(B)ポリメタクリル酸系有機粒子のSP値の測定方法と同一の方法で測定することができる。
【0032】
なお、(A)液状樹脂が2種以上の樹脂を含む場合、2種以上を混合して得られる混合樹脂のSP値が(B)ポリメタクリル酸系有機粒子のSP値と近ければよい。(A)液状樹脂として2種以上を混合して用いる場合、混合される個々の樹脂において、それぞれのSP値が(B)ポリメタクリル酸系有機粒子のSP値と近くてもよい。
【0033】
以下、さらに(A)液状樹脂として用いられる樹脂について説明する。
【0034】
ポリオールとしては、例えば、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、芳香族ポリオール、脂環族ポリオール、脂肪族ポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ひまし油系ポリオール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。これらは単独でまたは2種類以上混合して使用することができる。
ポリオールとしては、低粘度化および耐熱性の観点から、ポリエステルポリオールであってもよい。
【0035】
ポリエステルポリオールとしては、多価アルコール-多価カルボン酸縮合系のポリオール、環状エステル開環重合体系のポリオール等が挙げられる。
【0036】
ポリエステルポリオールの具体的な商品例としては、例えば、日油(株)製のユニスター(登録商標)HR-32、ユニスター(登録商標)H-809RB等が挙げられる。
【0037】
ポリエーテルとしては、芳香族炭化水素系、フェニルエーテル系がある。ポリエーテルは、単独でもよく、ポリオールまたはジアミン樹脂と混合して使用してもよい。混合する場合の比率は、質量比で、ポリエーテル:ポリオールまたはジアミン樹脂=50~95:50~5であってもよく、耐熱性の観点から70~95:30~5であってもよい。
【0038】
芳香族炭化水素系としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。これらは単独でまたは2種類以上混合して使用することができる。
【0039】
フェニルエーテル系には、フェニルエーテル樹脂とアルキルフェニルエーテル樹脂がある。具体的には、ジフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、モノアルキルトリフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルテール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリ(1-メチルブチレングリコール)パーフルオロポリエーテル、ポリエーテルモノオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテルトリオール等が挙げられる。これらは単独でまたは2種類以上混合して使用することができる。
【0040】
ポリエーテルは、耐熱性の観点から、フェニルエーテルを含むポリエーテルであってもよい。
【0041】
フェニルエーテル系のポリエーテルの具体的な商品例としては、例えば、(株)MORESCO製のLB-100、S-3105、S-3103、S-3101、S-3230等が挙げられる。
【0042】
ジアミン樹脂としては、例えば、p-フェニレンジアミン(PDA)、m-フェニレンジアミン、4,4′-オキシジアニリン(ODA)、3,3′-ビストリフルオロメチル-4,4′-ジアミノビフェニル(TFMB)、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,3′-ジメチル-4,4′-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2-ビス(アニリノ)エタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノベンゾエート、ジアミノジフェニルスルフィド、2,2-ビス(p-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(p-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,5-ジアミノナフタレン、ジアミノトルエン、ジアミノベンゾトリフルオライド、1,4-ビス(p-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(p-アミノフェノキシ)ビフェニル、ジアミノアントラキノン、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシフェニル)ジフェニルスルホン、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
ジアミン樹脂は、耐熱性の観点から、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートであってもよい。
【0043】
ジアミン樹脂の具体的な商品例としては、例えば、クミアイ化学工業(株)製のエラスマー1000P等が挙げられる。
【0044】
(A)液状樹脂は、耐熱性の観点から、ポリエーテルを含有してもよい。(A)液状樹脂がポリエーテルを含有する場合、その含有量は、(A)液状樹脂中50~95質量%であってもよく、70~95質量%であってもよい。
【0045】
(A)液状樹脂は、必要に応じてポリオール、ポリエーテル、及びジアミン樹脂以外のその他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。
(A)液状樹脂が、その他の樹脂を含有する場合、その含有量は、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。
【0046】
本グリース組成物における(A)液状樹脂の含有量は、本グリース組成物の全量に対して、5~30質量%であってもよく、5~10質量%であってもよい。(A)液状樹脂の含有量が5質量%以上であると本グリース組成物の粘度が高くなり過ぎず、半固体の性状にしやすくなる。また、(A)液状樹脂の含有量が30質量%以下であると本グリース組成物の粘度が低くなり過ぎず、作業性がよくなる。
【0047】
〔(B)ポリメタクリル酸系有機粒子〕
本グリース組成物に用いる(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、常温においては(C)無機充填材とともに(A)液状樹脂と混合されて本グリース組成物の粘度を調整する機能を有する成分である。また、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、所定温度以上に加熱した場合に、本グリース組成物が含有する液状成分、主として(A)液状樹脂が(B)ポリメタクリル酸系有機粒子に浸透し膨潤することで、本グリース組成物をゲル化させる機能を有する。(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、具体的には上記機能を有する有機化合物の粒子である。本グリース組成物において上記所定温度は、(A)液状樹脂と(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の種類によるが、概ね60~130℃である。
【0048】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子を構成する有機化合物は、上記のとおり(A)液状樹脂との相溶性がよくてもよい。具体的には、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子のSP値が(A)液状樹脂のSP値に近くてもよい。(B)ポリメタクリル酸系有機粒子のSP値が(A)液状樹脂のSP値に近いと、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の膨潤性が高くなり、本グリース組成物のゲル化が良好に進行する。
【0049】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、SP値が7.8~10.1である溶剤に溶解するポリメタクリル酸系有機粒子から選ばれる。なお、本明細書の(A)液状樹脂または(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の「SP値が7.8~10.1である溶剤に溶解する」とは、SP値7.8~10.1の溶剤のいずれか1つに溶解すればよいことを意味し、SP値の異なる複数の溶剤に溶解してもよい。溶剤のSP値の測定方法は、Fedorsの方法を用いて算出することができる。SP値が7.8~10.1である溶剤に溶解するか否かは、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0050】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の溶解の可否を判断する溶剤としては、例えば、SP値が7.0~12.7の溶剤を用いることができ、このような特性の溶剤であれば特に限定されない。この溶剤としては、例えば、n-ペンタン(SP値:7.0)、n-ヘキサン(SP値:7.3)、エチルヘキシルアクリレート(SP値:7.8)、シクロヘキサン(SP値:8.9)、エチルベンゼン(SP値:9.0)、メチルエチルケトン(SP値:9.1)、アセトン(SP値:9.9)、酢酸(10.1)、イソプロピルアルコール(IPA)(SP値:11.5)、エタノール(SP値:12.7)等が挙げられる。
【0051】
さらに、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、溶剤への溶解性に関してSP値が7.8~10.1の溶剤全てに溶けてもよい。
【0052】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子を構成する有機化合物としては、アクリル樹脂であってもよく、ポリメタクリル酸エステルであってもよい。なお、アクリル樹脂は、アクリル酸、メタアクリル酸、およびそれらの誘導体を主なモノマーとして重合して得られる樹脂であり、他のビニル基含有モノマーの重合単位を含有してもよい。ポリメタクリル酸エステルは、メタクリル酸エステルを主成分モノマーとして重合して得られる樹脂であり、メタクリル酸エステル以外のモノマーの重合単位を含んでいてもよく、部分架橋物でもよい。膨潤性の観点から、非架橋物であってもよい。
ポリメタクリル酸エステルの具体例として、メタクリル酸アルキル重合体、メタクリル酸アルキル共重合体、メタクリル酸アルキルエステル共重合体、アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル共重合体を主成分とする樹脂が挙げられる。ここで主成分とは、その含有量が50質量%を超える成分をいう。
【0053】
前記(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、ポリメタクリル酸アルキル粒子、ポリメタクリル酸アルキルエステル粒子、及びアクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0054】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、膨潤性が良好となる観点から、その平均重合度は1,000~50,000であってもよく、3,000~40,000であってもよく、4,000~30,000であってもよい。上記平均重合度が1,000以上であれば、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子が十分に膨潤し、本グリース組成物または本ゲル状組成物において、耐ポンプアウト性を有する。上記平均重合度が50,000以下であると、本ゲル状組成物の柔軟性が良好となり、クラックまたは剥離の発生を低減することができる。
【0055】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、平均粒子径が0.1μm以上10.0μm以下であってもよく、0.3μm以上5.0μm以下であってもよい。なお、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定した、体積基準の累積平均粒子径D50である。(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の平均粒子径が0.1μm以上であると、膨潤した時に(B)ポリメタクリル酸系有機粒子が(C)無機充填材の間を埋めて熱伝導性を高める。また、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の平均粒子径が10.0μm以下であると本グリース組成物中で十分に分散する。
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子はコアシェル型の粒子であってもよい。(B)ポリメタクリル酸系有機粒子は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の市販品としては、アイカ工業(株)製のゼフィアックF301、F303、F320、F325、F340MおよびF351等が挙げられる。
【0057】
本グリース組成物における(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の含有量は、(A)液状樹脂100質量部に対して、5~30質量部であってもよく、7~25質量部であってもよい。(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の含有量が5質量部以上であると、得られるグリース組成物を加熱した際に十分にゲル化し、粘度低下によるポンプアウトを低減することができる。また、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子の含有量が30質量部以下であると、本ゲル状組成物の柔軟性が良好となり、クラックまたは剥離の発生を低減することができる。
【0058】
〔(C)無機充填材〕
本グリース組成物に用いる(C)無機充填材は、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子とともに本グリース組成物をグリース状の粘度に調整する成分である。(C)無機充填材は、電子部品に用いる無機充填材であれば特に限定はないが、熱伝導性を有する無機充填材であってもよい。(C)無機充填材として、熱伝導性を有する無機充填材を用いることで、本グリース組成物に熱伝導性を付与することができる。熱伝導性を有する無機充填材としては、熱伝導率が10W/m・K以上の金属酸化物、金属窒化物、窒化化合物、金属、黒鉛、炭化珪素、珪素化合物等が挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミニウムであってもよい。特に高熱伝導性の観点から、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムであってもよい。(C)無機充填材は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0059】
(C)無機充填材の形状は、特に制限されないが、球状または不定形形状であってもよい。(C)無機充填材の大きさは、本グリース組成物が均一なグリース状の性状を得る観点から、平均粒子径で0.1~40μmであってもよく、0.2~30μmであってもよい。
【0060】
(C)無機充填材は、平均粒子径が異なる無機充填材、例えば、平均粒子径の大きい無機充填材(Ca)と平均粒子径の小さい無機充填材(Cb)とを組み合わせて用いてもよい。異なる平均粒子径の無機充填材を組み合わせることで、本グリース組成物における(C)無機充填材の充填率を高めることが可能となる。なお、無機充填材(Ca)および(Cb)の平均粒子径は、その材質に応じて好適な範囲を決定することができる。
【0061】
例えば、(C)無機充填材が、窒化アルムニウム粒子の場合、平均粒子径が20~40μmの窒化アルムニウム粒子(Ca-1)と平均粒子径が1~10μmの窒化アルムニウム粒子(Cb-1)とを組み合わせて用いてもよい。窒化アルムニウム粒子(Ca-1)と窒化アルムニウム粒子(Cb-1)とを組み合わせることで、本グリース組成物における(C)無機充填材の充填率を高めることが可能となる。
窒化アルムニウム粒子(Ca-1)と窒化アルムニウム粒子(Cb-1)とを組み合わせて用いた場合、これらの混合物の合計を100としたときの質量比で、窒化アルムニウム粒子(Ca-1):窒化アルムニウム粒子(Cb-1)として、10:90~80:20の範囲であってもよく、50:50~80:20の範囲であってもよい。該混合割合が10:90~80:20の範囲内であると良好な最密充填が得られ熱伝導率が向上する。
【0062】
また、例えば、(C)無機充填材が、酸化アルミニウム粒子の場合、平均粒子径が7~40μmの酸化アルミニウム粒子(Ca-2)と平均粒子径が0.5~5μmの酸化アルミニウム粒子(Cb-2)とを組み合わせることで、本グリース組成物における(C)無機充填材の充填率を高めることが可能となる。酸化アルミニウム粒子(Ca-2)と酸化アルミニウム粒子(Cb-2)とを組み合わせて用いた場合、これらの混合物の合計を100としたときの質量比で、酸化アルミニウム粒子(Ca-2):酸化アルミニウム粒子(Cb-2)として、40:60~95:5の範囲であってもよく、50:50~90:10の範囲であってもよい。該混合割合が40:60~95:5の範囲内であると良好な最密充填が得られ熱伝導率が向上する。
【0063】
本グリース組成物における(C)無機充填材の含有量は、(A)液状樹脂100質量部に対して、350~2000質量部であってもよく、500~1800質量部であってもよく800~1500質量部であってもよい。(C)無機充填材の含有量が350質量部以上であると、得られるグリース組成物は、所望の粘性を得ることができる。また、(C)無機充填材の含有量が2000質量部以下であると、本グリース組成物を製造する際の加工性がよく、該グリース組成物は適度な流動性を有する。そのため、本グリース組成物は、発熱部品に塗布または注入により配置しやすい。
【0064】
また、本グリース組成物における(C)無機充填材の含有量は、本グリース組成物の全量に対して、70~95質量%であってもよく、80~95質量%であってもよい。
【0065】
〔(D)シランカップリング剤〕
本グリース組成物は、(D)シランカップリング剤を含有してもよい。(D)シランカップリング剤は、(C)無機充填材の表面性状を改質するために用いられ、この種の組成物における公知のシランカップリング剤を用いることができる。
【0066】
(D)シランカップリング剤の種類としては、アミノ基、フェニル基、エポキシ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基、チタネート基、酸無水物等を含むものであれば特に制限なく使用可能である。本グリース組成物が(D)シランカップリング剤を含有する場合、これらの1種を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。(D)シランカップリング剤を使用する場合、(C)無機充填材に直接処理を行った後、(A)液状樹脂と(B)ポリメタクリル酸系有機粒子を混合してもよく、または、(A)液状樹脂、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子、(C)無機充填材、および(D)シランカップリング剤を共に混合してもよい。
【0067】
本グリース組成物における(D)シランカップリング剤の含有量は、(C)無機充填材100質量部に対して0.02~5質量部であってもよく、0.03~2質量部であってもよい。
【0068】
本グリース組成物においては、以上の各成分の他、必要に応じて、酸化防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、沈降防止剤、分散剤、顔料、帯電防止剤、難燃剤等の添加剤を適宜添加することが可能である。これらの各添加剤はいずれも1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0069】
本グリース組成物における、これらの各添加剤の含有量は、本グリース組成物の全量に対して、各添加剤について、および添加剤の合計量として、0.05~15質量%程度とすることができ、0.2~10質量%であってもよい。
【0070】
本グリース組成物中、(A)液状樹脂、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子、及び(C)無機充填材の合計含有量は、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。
【0071】
本グリース組成物は、上記した(A)液状樹脂、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子、および(C)無機充填材と、必要に応じて配合される(D)シランカップリング剤、および各種添加剤とを各々上記の含有量となるように計量して配合し、混合撹拌することで製造することができる。このような混合撹拌の方法は特に制限されるものではなく、各成分の種類、粘度、含有量により適宜選定することができる。具体的には、ディゾルバーミキサー、ホモミキサー等の撹拌機を用いる方法が挙げられる。
【0072】
また、このようにして混合撹拌されたものを必要に応じて、例えば未分散の成分の固まりを除去するために濾過してもよい。このような濾過を行うことで、均質なグリース組成物が得られる。また、このような混合撹拌を行う際に組成物中に生じる気泡は減圧下で脱泡してもよい。このような脱泡を行うことで、得られるグリース組成物に気泡の発生を低減することが可能となる。
【0073】
本グリース組成物は、グリース性状を有する。すなわち、本グリース組成物は、25℃における粘度が100~1000Pa・s程度であり、110~600Pa・sであってもよく、120~500Pa・sであってもよい。
上記粘度は、レオメーターにより測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0074】
本グリース組成物は、概ね60~130℃でゲル化を開始して本ゲル状組成物となる。したがって、本グリース組成物は、温度変化を伴う用途で使用する場合、昇温時にゲル化開始温度を超えれば、その後は本ゲル状組成物として使用される。一般的に樹脂組成物は温度上昇に伴い流動性が増加するが、本ゲル状組成物は系全体として流動性を失った若しくはわずかに流動する程度に流動性が低減された性質を有するものである。本ゲル状組成物は、150℃における粘度が190~10000Pa・s程度であり、200~5000Pa・sであってもよく、210~3000Pa・sであってもよい。
上記粘度は、レオメーターにより測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0075】
本グリース組成物の性状変化を評価する指標として、粘度比(V150℃/V25℃)を用いることができる。粘度比(V150℃/V25℃)は、レオメーターにより、25℃における粘度値(V25℃)および150℃における粘度値(V150℃)を測定し、得られたV25℃およびV150℃の値から算出することができる。本グリース組成物の粘度比(V150℃/V25℃)が1.05以上であれば、ゲルの性状を示す。
【0076】
なお、本明細書においてレオメーターにより測定される粘度Vは、レオメーター(例えば、キネクサスpro+、スペクトリス(株)製)を用い、所定の温度まで昇温させたときのその所定温度において測定された値である。例えば、V150℃は、温度範囲:25~200℃、昇温速度:10℃/min、降温速度:10℃/min、周波数:1Hz(一定)、せん断強度:10Pa(一定)の条件下で150℃において測定した値である。
【0077】
粘度比(V150℃/V25℃)が1.05以上である本グリース組成物を発熱部品に用いた場合、発熱部品が高温になると本グリース組成物がゲル化して本ゲル状組成物になる。本ゲル状組成物は、該発熱部品から流出(ポンプアウト)しにくくすることができる。
【0078】
本グリース組成物における熱伝導率(W/m・K)は、1W/m・K以上であってもよく、2W/m・K以上であってもよい。また、本グリース組成物を-40~150℃、1000サイクルの設定条件にて冷熱サイクルを実施した後、本グリース組成物は本ゲル状組成物となっているが、本ゲル状組成物の熱伝導率(W/m・K)は、1W/m・K以上であってもよく、2W/m・K以上であってもよい。なお、本グリース組成物をゲル化したゲル状組成物は、本グリース組成物に比べて熱伝導率(W/m・K)が高まる傾向にある。
【0079】
<電子部品>
図1は、本電子部品の一実施形態の概略構成を示す模式図である。
本実施形態の電子部品(以下、「本電子部品」ともいう。)10は、
図1に示すように、発熱体1と、放熱体2と、発熱体1と放熱体2との間に配置された本グリース組成物3と、を有する。発熱体1は基板4上に設けられていてもよい。また、発熱体1が設けられた基板4と放熱体2とがネジ5で固定されていてもよい。
【0080】
電子部品としては、例えば、電子機器、インバータ等が挙げられ、電子機器であってもよい。本電子部品が電子機器の場合、発熱体としては、ICチップ、CPUチップ、GPUチップ等が挙げられる。本電子部品がインバータの場合、発熱体としては、IGBT等が挙げられ、放熱体としてはヒートシンク等が挙げられる。
【0081】
発熱体と放熱体との間に本グリース組成物を配置する方法としては、上記した、塗布または注入が挙げられる。塗布または注入は、一般的にグリース製品が塗布または注入されるのと同類の方法で行うことができる。本電子部品において発熱体と放熱体との間に本グリース組成物が塗布または注入された場合、発熱体が高温、例えば150℃程度になった際に、その過程で本グリース組成物はゲル化して本ゲル状組成物となり、その後の使用においては、発熱体と放熱体との間に本ゲル状組成物として存在する。
【0082】
発熱体と放熱体との間に配置される本グリース組成物または本ゲル状組成物の厚みは、耐ポンプアウト性および放熱性の向上の観点から、いずれも5~500μmであってもよく、50~400μmであってもよい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例および比較例に基づいて本開示を具体的に説明するが、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
[各成分]
実施例および比較例の組成物の調製に用いた材料を以下に示す。
【0085】
(A)液状樹脂
A-1:アルキルジフェニルエーテル((株)MORESCO製、LB-100、25℃における粘度:200mPa・s、酸化:<0.1mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:7.3~9.1)
A-2:ペンタフェニルエーテル((株)MORESCO製、S-3105、25℃における粘度:570mPa・s、酸化:<0.1mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:7.3~9.1)
A-3:テトラフェニルエーテル((株)MORESCO製、S-3103、25℃における粘度:240mPa・s、酸化:<0.1mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:7.3~9.1)
A-4:モノアルキルテトラフェニルエーテル((株)MORESCO製、S-3101、25℃における粘度:470mPa・s、酸化:<0.1mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:7.3~9.1)
A-5:ジアルキルテトラフェニルエーテル((株)MORESCO製、S-3230、25℃における粘度:800mPa・s、酸化:<0.1mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:7.3~9.1)
A-6:ポリエステルポリオール(日油(株)製、ユニスター(登録商標)HR-32、25℃における粘度:480mPa・s、酸化:0.1mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:7.3~9.1)
A-7:ポリエステルポリオール(日油(株)製、ユニスター(登録商標)H-609BR、25℃における粘度:900mPa・s、酸化:0.1mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:7.3~9.9)
A-8:ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート(クミアイ化学工業(株)製、エラスマー1000P、25℃における粘度:8000mPa・s、アミン価:84.4mgKOH/g、質量減少率:<0.1%、SP値:8.9~11.5)
【0086】
(A)液状樹脂の25℃における粘度は、E型粘度計(VISCOMETER TPE-100 TOKISANGYO製)により測定した。
【0087】
(A)液状樹脂の質量減少率は、(A)液状樹脂30gを150℃のオーブン内に24時間放置し、加熱前後における質量変化率(減少率)として算出した。
【0088】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子
B-1:メタクリル酸アルキル重合体(アイカ工業(株)製、ゼフィアックF320、平均粒子径:2μm、平均重合度:30,000)
B-2:メタクリル酸アルキル共重合体(アイカ工業(株)製、ゼフィアックF340M、平均粒子径:1μm、平均重合度:30,000)
B-3:メタクリル酸アルキル重合体(アイカ工業(株)製、ゼフィアックF325、平均粒子径:1μm、平均重合度:40,000)
B-4:メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アイカ工業(株)製、ゼフィアックF303、平均粒子径:2μm、平均重合度:20,000)
B-5:メタクリル酸アルキルエステル共重合体(アイカ工業(株)製、ゼフィアックF301、平均粒子径:2μm、平均重合度:20,000)
B-6:アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル共重合体(アイカ工業(株)製、ゼフィアックF351、平均粒子径:0.5μm、平均重合度:40,000)
【0089】
(B)ポリメタクリル酸系有機粒子以外の粒子
樹脂粒子1:メタクリル酸メチル架橋物((株)日本触媒製、エポスター(登録商標) MA1002、平均粒子径:2μm)
樹脂粒子2:メタクリル酸メチル架橋物((株)日本触媒製、エポスター(登録商標) MA1004、平均粒子径:4μm)
樹脂粒子3:シリコーンゴム(信越化学工業(株)製、KMP-597、平均粒子径:1μm、平均重合度:30,000)
樹脂粒子4:フッ素系粒子(AGC(株)製、L-173JE、平均粒子径:2μm、平均重合度:30,000)
【0090】
メタクリル酸エステル共重合体(液状)(東亞合成(株)製、UH-2190、平均重合度:<1,000)
【0091】
(C)無機充填材
Ca-1:窒化アルミニウム粒子(古河電気工業(株)製、FAN-f30、平均粒子径:30μm)
Cb-1:窒化アルミニウム粒子(古河電気工業(株)製、FAN-f05、平均粒子径:5μm)
Ca-2:酸化アルミニウム粒子(住友化学(株)製、AA-18、平均粒子径:20μm)
Cb-2:酸化アルミニウム粒子(住友化学(株)製、AA-1.5、平均粒子径:1.5μm)
【0092】
(D)シランカップリング剤
・D-1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(エボニック ジャパン(株)製、Dynasylan(登録商標) GLYMO)
【0093】
(A)液状樹脂、(B)ポリメタクリル酸系有機粒子および(B)ポリメタクリル酸系有機粒子以外の樹脂粒子1~4の溶解性を調べた。表1に示した10種類の溶剤を用意し、それらSP値の異なる溶剤5gに対し、(A)成分、(B)成分および樹脂粒子1~4をそれぞれ0.1g加え、室温(25℃)の環境下にて、スターラーを適用し1時間撹拌した。撹拌後、それらの溶解性を確認した。
溶解性は、撹拌した後、透明となっているものを十分に溶解しているものとして「A」、半透明又は白濁しているものを十分に溶解していないものとして「C」として評価した。評価結果を表1に示した。
【0094】
【0095】
[実施例1~23、比較例1~5]
上記した材料を、表2-1~表2-3に示す組成となるように調製し、実施例1~23および比較例1~5のグリース組成物を得た。なお、表2-1~表2-3において空欄は配合なしを表す。さらに、各例で得られたグリース組成物を用いて以下の評価を行った。結果を表2-1~表2-3に併せて示す。
【0096】
(1)レオメーターによる測定粘度
グリース組成物の5~10gをレオメーター(キネクサスpro+、スペクトリス(株)社製)を用いて、温度範囲:25~200℃、昇温速度:10℃/min、周波数:1Hz(一定)、せん断強度:10Pa(一定)の条件下で測定した。25℃における粘度をV25℃とし、150℃における粘度をV150℃とした。また、V25℃およびV150℃の値から粘度比(V150℃/V25℃)を算出した。
【0097】
(2)耐ポンプアウト性
グリース組成物の0.5~1.0gを150μmのスペーサーを設けたスライドガラス上の略中心に滴下し、スペーサーの無い(短辺26mm×長辺76mm×厚み1.3mm)スライドガラスでグリース組成物を挟み込み、該グリース組成物を直径10mmの円形にした。この時、グリース組成物がスライドガラスからはみださないようにした。スライドガラス/グリース組成物/スライドガラスの3層体の両サイドをクリップで止めた。クリップのクランプ力は2.5kgを適用した。3層体を長辺側が下になるように縦置きにし、-40~150℃、1000サイクル(保持時間:30分間、昇温時間:10℃/秒、降温時間:10℃/秒、)の設定条件にて冷熱サイクル試験機(商品名:TSA-100S-W、エスペック(株)製)により冷熱サイクル試験を実施した。該冷熱サイクル試験後、3層体を取り出し、スライドガラス間のグリース組成物またはそのゲル化物の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0098】
A:液だれが3mm未満である。
C:液だれが3mm以上である。
【0099】
(3)ボイドの発生
グリース組成物の0.5~1.0gを150μmのスペーサーを設けたスライドガラス上の略中心に滴下し、スペーサーの無い(短辺26mm×長辺76mm×厚み1.3mm)スライドガラスでグリース組成物を挟み込み、該グリース組成物を直径10mmの円形にした。この時、グリース組成物がスライドガラスからはみださないようにした。スライドガラス/グリース組成物/スライドガラスの3層体の両サイドをクリップで止めた。クリップのクランプ力は2.5kgを適用した。
クリップで止めたサンプルを150℃に調整したホットプレート上に平置きにし、1分間加熱を行った。加熱1分後の様子をマイクロスコープ(nano. capture PRO、サイトロン製)にて画像を取り込み、画像処理ソフトImage-Jにより2値化処理を実施した。2値化処理後の画像を適用し、下記の式よりボイド率を算出し、以下の基準で評価した。なお、下記評価において、AおよびBを合格とする。
ボイド率(%)=空隙部の面積(mm2)/グリース直径10mmの面積(mm2)
【0100】
A:ボイド率が3%未満
B:ボイド率が3%以上6%未満
C:ボイド率が6%以上
【0101】
(4)熱伝導率(冷熱サイクル試験前後、150℃連続加熱後)
拡散率測定装置(LFA467、ネッチ・ジャパン(株)製)を用いて、熱伝導率の測定を行った。直径12.7mmのアルミニウム製のカップ容器に、グリース組成物を入れ、直径9mmのアルミニウム製の蓋で覆い3層構成とした。グリース組成物の厚みは、350μm±50μmになるようグリース組成物を調整し、液状測定用ホルダーに設置した。キセノンフラッシュ法にて得られた熱拡散率に対し、補正処理を行い、アルミニウムの熱拡散率を除外した、界面熱抵抗を含む熱拡散率を得た。得られた界面熱抵抗を含む熱拡散率と、グリース組成物の密度、比熱を下記式(1)に導入し熱伝導率を算出し、冷熱サイクル試験前の熱伝導率とした。密度の測定は、高精度電子比重計(SD-200L、アルファーミラジュ(株)製)を使用して測定した。比熱測定は、示差走査熱量計(DSC-6200、セイコーインスツルメンツ(株)製)を使用して測定した。
熱伝導率(W/m・K)=熱拡散率(mm2/s)×密度(g/cm3)×比熱(J/(kg・K))・・・(1)
【0102】
上記耐ポンプアウト性の評価で冷熱サイクル試験を実施した後の3層体から、スライドガラスの間のグリース組成物またはそのゲル化物を取り出し、上記(4)と同一の方法で熱伝導率を算出し、冷熱サイクル試験後の熱伝導率とした。
【0103】
グリース組成物50gを50ccガラス管に入れ、150℃の加熱乾燥炉にて1000時間加熱を行い、ゲル化物を得た。得られたゲル化物を常温(25℃)まで冷却した後、上記(4)と同一の方法で熱伝導率を算出し、150℃連続加熱後の熱伝導率とした。
【0104】
(5)質量減少率(%)
グリース組成物50gを50ccガラス管に入れ、-40~150℃、1000サイクルの設定条件にて冷熱サイクル試験機により冷熱サイクル試験を実施した。グリース組成物の、冷熱サイクル試験前の質量W1および該冷熱サイクル試験後の質量W2から質量減少率(変化率)を算出した。
【0105】
(6)熱抵抗値
Infineon製の半導体パワーモジュール部品(縦106mm×横61mm×厚み30mm、素子のTjMAX:150℃)は、該部品の金属ベース基板側にグリース組成物を厚み150μmとなるように塗布し、縦210mm×横60mm×厚み10mmの銅板に設置した。設置は、ねじ穴6点にねじを設置し、締め付けトルク200cN/cmにて固定した。半導体パワーモジュールを設置した銅板は縦置きにし、半導体パワーモジュールの端子に電圧を印加することで部品内部の素子が発熱した。電圧のON/OFF(保持時間:3秒間)を5000サイクル行い、5000サイクル後の熱抵抗を評価した。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
表2-1~表2-3に示した結果から明らかなように、本開示のグリース組成物は、25℃における粘度が110~590Pa・sであるため、加工性がよく、流動性がよく発熱部品への塗布がし易いものである。また、界面の濡れ性、追随性がよいため低熱抵抗を実現できる。さらに、発熱部品の発熱により該グリース組成物はゲル化して本ゲル状組成物となりポンプアウトし難いものである。冷熱サイクル試験後においては熱伝導率が0.5W/m・K以上向上する。
【産業上の利用可能性】
【0110】
以上説明したように、本グリース組成物は、発熱部品に塗布し易く、また塗布後、その発熱部品が高温、例えば150℃程度になったとしても、ゲル化して粘度低下が抑えられることで、ポンプアウトがし難くい。その上、本グリース組成物は、熱伝導率が0.5W/m・K以上向上するため、長期の使用における部品の劣化に伴う放熱性の低下を補うことができ、安定した性能を発現できる。
【0111】
したがって、本グリース組成物は、電子機器等の発熱部品、例えば、局部発熱するICチップ、CPUチップ、GPUチップ、IGBT等からの発熱をヒートシンク等の放熱部位に熱伝達させるために使用するグリースとして有用である。
【符号の説明】
【0112】
1 発熱体
2 放熱体
3 グリース組成物
4 基板
5 ネジ
10 電子部品