(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】硬化性組成物、物品、確認方法および接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/04 20060101AFI20240530BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20240530BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08F290/04
C09J4/02
G01N21/64
(21)【出願番号】P 2022559191
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2021039616
(87)【国際公開番号】W WO2022092140
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020181256
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 千亜紀
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144641(JP,A)
【文献】特開2006-160861(JP,A)
【文献】特開昭56-016561(JP,A)
【文献】特開2007-077321(JP,A)
【文献】特開平07-232424(JP,A)
【文献】特開平05-331438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/04
C09J 4/02
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物(A)と、重合開始剤(B)とを含む
、室温硬化性または熱硬化性であって光硬化性ではない硬化性組成物であって、
当該硬化性組成物の硬化物を、以下測定条件で動的粘弾性測定することで得られる、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が、90℃以上150℃以下であ
り、
前記重合性化合物(A)は、(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格を有する化合物(a1)を含み、前記化合物(a1)の主鎖骨格は、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエンの水素添加物、及びポリイソプレンの水素添加物からなる群から選ばれる1種以上の骨格であり、
前記重合性化合物(A)全体における、前記化合物(a1)の含有比率は、50質量%以上90質量%以下であり、
前記重合性化合物(A)は、さらに、前記化合物(a1)とは異なる成分として、少なくとも水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)を含み、
前記重合性化合物(A)全体における、前記水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)の含有比率は、10質量%以上30質量%以下である硬化性組成物。
[測定条件]
・周波数:1.0Hz
・モード:引張モード
・測定温度範囲:-50℃から200℃
・昇温速度:2℃/min
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性組成物であって、
前記動的粘弾性測定における、損失正接(tanδ)のピークトップ温度における貯蔵弾性率E'が3×10
7Pa以上である硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硬化性組成物であって、
重合性化合物(A)は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含む硬化性組成物。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載の硬化性組成物であって、
前記重合性化合物(A)は、さらに、前記化合物(a1)とは異なる成分として、単官能(メタ)アクリレート(a2)
および多官能(メタ)アクリレート(a3)からなる群より選ばれる1または2以上の重合性化合物を含む硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の硬化性組成物であって、
23℃下、当該硬化性組成物を用いて、冷間圧延鋼板と幅25mmの帆布とを接着して得た試験片の、180°剥離強度が、1kN/m以上である硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の硬化性組成物であって、
さらに蛍光剤(C)を含む硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の硬化性組成物であって、
23℃下、当該硬化性組成物を用いて冷間圧延鋼板同士を接着した試験片の、引張せん断接着試験において0.1MPaの強度が発現するまでの時間が、2分以上1時間未満である硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の硬化性組成物であって、
多孔質材料同士を接着する用途に用いられる硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の硬化性組成物であって、
多孔質材料と金属材料とを接着する用途に用いられる硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の硬化性組成物の硬化物を含む物品。
【請求項11】
請求項
6に記載の硬化性組成物が塗布された被着体に紫外線を照査することにより、組成物の塗布状況を確認する確認方法。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の硬化性組成物を含有する接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、物品、確認方法および接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤などの硬化性組成物については、その工業的重要性から、これまで様々な開発が行われてきている。
【0003】
特許文献1には、下記(1)~(4)を含有する(メタ)アクリレート系の硬化性組成物を、接着剤として用いることが記載されている。
(1)下記(1-1)~(1-4)を含有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー
(1-1)炭素数1~7の飽和炭化水素をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレート
(1-2)炭素数9~12の飽和脂環式炭化水素基をエステル結合を介して有する単官能(メタ)アクリレート
(1-3)水酸基含有(メタ)アクリレート
(1-4)多官能(メタ)アクリレート
(2)重合開始剤
(3)還元剤
(4)蛍光剤
【0004】
特許文献1の実施例においては、上記組成物を用いて冷間圧延鋼板(SPCC)同士を貼り合わせた試験片が、大きな引張り剪断接着強さを示すことが記載されている。
【0005】
特許文献2の段落0031には、特定の樹脂エマルジョン、UV光吸収剤、消泡剤および/または防腐剤を含む接着剤が記載されている。
【0006】
特許文献3には、少なくとも1種類のエレクトルミネセント添加物を含有する感圧接着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6297405号公報
【文献】特表2010-530060号公報
【文献】特表2009-530464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、(メタ)アクリレート系の硬化性組成物が、金属同士の接着に好ましく用いられることを記載している。
一方、工業的には、金属の接着だけでなく、例えば紙などの多孔質材料を強く接着することが求められることもある。一例として、スピーカの製造において、スピーカ内の紙製の部材(コーン紙、ダストキャップ紙など)を接着することが求められることがある。
本発明者らは、組成物を多孔質材料の接着に適用する場合、接着強度などの接着性の観点で改善の余地があることを見出した。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、紙などの多孔質材料を強く接着することが可能な硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0011】
本発明によれば、以下の硬化性組成物が提供される。
【0012】
重合性化合物(A)と、重合開始剤(B)とを含む硬化性組成物であって、
当該硬化性組成物の硬化物を、以下測定条件で動的粘弾性測定することで得られる、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が、90℃以上150℃以下である硬化性組成物。
[測定条件]
・周波数:1.0Hz
・モード:引張モード
・測定温度範囲:-50℃から200℃
・昇温速度:2℃/min
【0013】
また、本発明によれば、上記の硬化性組成物の硬化物を含む物品が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記の硬化性組成物(さらに蛍光剤(C)を含む)が塗布された被着体に紫外線を照査することにより、硬化性組成物の塗布状況を確認する確認方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硬化性組成物を用いることで、紙などの多孔質材料を強く接着することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】スピーカの構成例を模式的に示す図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0018】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0019】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」などの類似の表記についても同様である。
【0020】
<硬化性組成物>
本実施形態の組成物は、接着剤組成物として使用することが好ましい。以下、硬化性組成物を接着剤組成物ということもある。
本実施形態の硬化性組成物は、重合性化合物(A)と、重合開始剤(B)とを含む。
本実施形態の硬化性組成物の硬化物を、以下測定条件で動的粘弾性測定することで得られる、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅は、90℃以上150℃以下である。
[測定条件]
・周波数:1.0Hz
・モード:引張モード
・測定温度範囲:-50℃から200℃
・昇温速度:2℃/min
【0021】
本発明者らは、紙などの多孔質材料を強く接着するための硬化性組成物の設計指標として、あらゆる指標を検討した。検討を通じ、本発明者らは、硬化性組成物の硬化物を動的粘弾性測定することで得られる損失正接(tanδ)が、多孔質材料の接着性に関係しているらしいことを知見した。
本発明者らは、この知見に基づきさらに検討を進めた。そして、上述の条件の動的粘弾性測定で得られるtanδのグラフの半値幅の大きさと、多孔質材料の接着性とが相関していることを知見した。この知見に基づき、本発明者らは、重合性化合物(A)と、重合開始剤(B)とを含む硬化性組成物において、硬化物の温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が90℃以上である硬化性組成物を新たに設計した。そして、多孔質材料の接着性を高めることができた。
この半値幅は、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上である。
ちなみに、半値幅は大きければ大きいほどよいが、現実的な組成設計の観点から、本実施形態においては、半値幅の上限を150℃としている。半値幅の上限は、好ましくは130℃、より好ましくは120℃である。
【0022】
硬化物の温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が、多孔質材料の接着性と相関している理由は必ずしも明らかではない。しかし、これについては以下のように説明することができる。
【0023】
紙などの多孔質材料は、大小さまざまな孔やすき間を有している。多孔質材料の接着性を高めるためには、これら大小さまざまな孔やすき間と、硬化性組成物の硬化物とが相互作用することが重要と考えられる。
tanδは、大雑把には、測定対象物の「粘り強さ」を表す指標である。tanδのグラフの半値幅が大きいということは、本実施形態の硬化性組成物の硬化物は、様々な「粘り強さ」を併せ持ち、多孔質材料の小さな孔やすき間、大きな孔やすき間、両方と相互作用しやすいと考えられる。このことが、多孔質材料を強く接着できることに関係していると考えられる。
念のため述べておくと、本実施形態において、半値幅は半値全幅を意味する。つまり、温度Tにおいてtanδが最大値xを示す場合に、温度Tより低温側においてtanδがx/2となる温度をt1とし、温度Tより高温側においてtanδがx/2となる温度をt2としたとき、半値幅はt2-t1となる。
【0024】
温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が90℃以上150℃以下である硬化性組成物は、適切な素材を適量用い、適切な製造方法を選択することにより製造することができる。好ましくは、素材として、以下で説明するジエン系の骨格を有する化合物を比較的多めに用いることなどにより、半値幅が90℃以上150℃以下である硬化性組成物を得ることができる。
【0025】
以下、本実施形態の硬化性組成物の構成成分や、硬化性組成物の性状、物性などについて具体的に説明する。
【0026】
(重合性化合物(A))
本実施形態の硬化性組成物は、重合性化合物(A)を含む。
重合性化合物(A)は、好ましくは、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含む。(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、以下の(a1)、(a2)、(a3)、(a4)などを含むことができる。これらについて以下で説明する。
【0027】
・(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格を有する化合物(a1)
本実施形態の硬化性組成物は、好ましくは、(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格を有する化合物(a1)を含む。
化合物(a1)の主鎖骨格は、ジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格である。ジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリブタジエンの水素添加物、及びポリイソプレンの水素添加物からなる群から選ばれる1種以上の骨格が好ましい。これらの中では、接着耐久性が大きい点で、ポリブタジエン及びポリイソプレンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ポリブタジエンがより好ましい。
【0028】
化合物(a1)は、上記主鎖骨格の末端又は側鎖に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。これらの中では、主鎖骨格の両末端に(メタ)アクリロイル基を有するものが好ましい。
【0029】
化合物(a1)としては、ウレタン(メタ)アクリレートも好ましい。
ウレタン(メタ)アクリレートとは、ポリオール化合物(以後、Xで表す)と有機ポリイソシアネート化合物(以後、Yで表す)と水酸基含有(メタ)アクリレート(以後、Zで表す)とを反応(例えば、重縮合反応)させることにより得られる、分子内にウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレートをいう。
【0030】
ポリオール化合物(X)としては、主鎖骨格がジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格を有する点で、ポリジエン系ポリオールが好ましい。ポリジエン系ポリオールとしては、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添共役ジエンポリオール(水素化ポリブタジエンポリオール、水素化ポリイソプレンポリオールなど)などが挙げられる。ポリジエン系ポリオールの中では、ポリブタジエンポリオール、水添共役ジエンポリオールからなる群の1種以上が好ましく、ポリブタジエンポリオールがより好ましい。
【0031】
有機ポリイソシアネート化合物(Y)としては、例えば芳香族系、脂肪族系、環式脂肪族系、脂環式系などのポリイソシアネートが使用できる。これらの中では、芳香族系が好ましい。芳香族系の中では、トリレンジイソシアネート(TDI)が好ましい。
【0032】
水酸基含有(メタ)アクリレート(Z)とは、水酸基を有する(メタ)アクリレートをいう。水酸基含有(メタ)アクリレート(Z)の中では、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、一般式(E)で示される(メタ)アクリル系モノマーなどが挙げられる。
一般式(E):Z-O-(R7O)s-H
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、R7は-C2H4-、-C3H6-、-CH2CH(CH3) -、-C4H8-または-C6H12-を示し、sは1~10の整数を示す。)
【0033】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの中では、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる群のうちの1種以上が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0034】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、1,2-ポリブタジエンジメタクリレート(例えば、日本曹達社製「TE-2000」など)、水添1,2-ポリブタジエンジアクリレート(例えば、日本曹達社製「TEAI-1000」など)などが挙げられる。
日本曹達社製「TE-2000」の構造は以下の通りである。ポリオール化合物は、ポリブタジエンポリオールである1,2-ポリブタジエンポリオールである。有機ポリイソシアネート化合物はトリレンジイソシアネートである。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルメタクリレートである。
日本曹達社製「TEAI-1000」の構造は以下の通りである。ポリオール化合物は、ポリブタジエンポリオールである水添1,2-ポリブタジエンポリオールである。有機ポリイソシアネート化合物はトリレンジイソシアネートである。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレートである。
【0035】
化合物(a1)の主鎖骨格が、ポリイソプレンである場合、イソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化物オリゴマーが好ましい。イソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化物オリゴマーの構造は、下記式(1)で示される。
【0036】
【0037】
式(1)中、
Rは水素原子またはメチル基を表し、
Yはアルキレン基を表し、
mおよびnはそれぞれ独立に、任意の正の整数である。
【0038】
式(1)で表される化合物において、側鎖にある(メタ)アクリロイル基の数は、好ましくは1~10である。
式(1)で表される化合物の分子量は、好ましくは3000~50000である。
【0039】
式(1)において、Yは炭素数1~5個のアルキレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。mは100~1500が好ましい。nは1~20が好ましい。
【0040】
イソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化物オリゴマーとしては、クラレ社製「UC-102M」などが挙げられる。クラレ社製「UC-102M」の構造は以下の通りである。式(1)にてYはエチレン基であり、Rはメチル基である。
【0041】
化合物(a1)は、オリゴマー(a1)であることが好ましい。オリゴマー(a1)の数平均分子量は、500~70000が好ましく、1000~60000がより好ましく、1000~55000がさらに好ましい。数平均分子量がこの範囲であることにより、接着層を形成しやすくなったり、接着の際の作業性が良好になったりする。
数平均分子量については、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した、ポリスチレン換算の数平均分子量を採用することができる。具体的には、数平均分子量は、下記の条件にて、溶剤としてテトラヒドロフランを用い、GPCシステム(東ソー社製SC-8010)を使用し、市販の標準ポリスチレンで検量線を作成して求めることができる。
【0042】
[条件]
流速:1.0ml/min
設定温度:40℃
カラム構成:東ソー社製「TSKguardcolumn MP(×L)」6.0mmID×4.0cm1本、及び東ソー社製「TSK-GELMULTIPOREHXL-M」
7.8mmID×30.0cm(理論段数16,000段)2本、計3本(全体として理論段数32,000段)
サンプル注入量:100μl(試料液濃度1mg/ml)
送液圧力:39kg/cm2
検出器:RI検出器
【0043】
化合物(a1)としては、イソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化物化合物(クラレ社製「UC-203」など)、日本曹達社製「TEAI-1000」(末端アクリル変性した水素添加1,2-ポリブタジエン化合物)、日本曹達社製「TE-2000」(末端アクリル変性した1,2-ポリブタジエン化合物)などが挙げられる。
【0044】
重合性化合物(A)が化合物(a1)を含む場合、1のみの化合物(a1)を含んでもよいし、2以上の化合物(a1)を含んでもよい。
重合性化合物(A)が化合物(a1)を含む場合、重合性化合物(A)全体における化合物(a1)の含有比率は、好ましくは40質量%以上90質量%以下、より好ましくは50質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは55質量%以上80質量%以下である。重合性化合物(A)全体における化合物(a1)の含有比率が十分に大きいことにより、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅を90℃以上150℃以下に設計しやすく、その結果として多孔質材料の接着性を高めやすい。
【0045】
・単官能(メタ)アクリレート(a2)
本実施形態の硬化性組成物は、上記化合物(a1)とは異なる成分として、単官能(メタ)アクリレート(a2)を含むことが好ましい。
単官能(メタ)アクリレート(a2)は、炭素数1~7の飽和炭化水素基(アルキル基やシクロアルキル基など)を有する単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
単官能(メタ)アクリレート(a2)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、炭素数1~4の飽和炭化水素基を有する単官能(メタ)アクリレートが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0046】
重合性化合物(A)が単官能(メタ)アクリレート(a2)を含む場合、1のみの単官能(メタ)アクリレート(a2)を含んでもよいし、2以上の単官能(メタ)アクリレート(a2)を含んでもよい。
重合性化合物(A)が単官能(メタ)アクリレート(a2)を含む場合、重合性化合物(A)全体における単官能(メタ)アクリレート(a2)の含有比率は、好ましくは3質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上10質量%以下である。
【0047】
・多官能(メタ)アクリレート(a3)
本実施形態の硬化性組成物は、上記化合物(a1)とは異なる成分として、多官能(メタ)アクリレート(a3)を含むことが好ましい。
多官能(メタ)アクリレートとしては、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-シクロヘキサンジ(メタ)アクリレートなどの脂環式構造を有する多官能(メタ)アクリレートや、エチレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレートなどの芳香族環構造を有する多官能(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの脂肪族分岐構造を有する多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中では、脂肪族分岐構造を有する多官能(メタ)アクリレートが好ましく、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0048】
重合性化合物(A)が多官能(メタ)アクリレート(a3)を含む場合、1のみの多官能(メタ)アクリレート(a3)を含んでもよいし、2以上の多官能(メタ)アクリレート(a3)を含んでもよい。
重合性化合物(A)が多官能(メタ)アクリレート(a3)を含む場合、重合性化合物(A)全体における多官能(メタ)アクリレート(a3)の含有比率は、好ましくは3質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上10質量%以下である。
【0049】
・水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)
本実施形態の硬化性組成物は、上記化合物(a1)とは異なる成分として、水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)を含むことが好ましい。なお、本明細書において、水酸基を有する単官能または多官能(メタ)アクリレートは、上記(a2)や(a3)ではなく(a4)に分類される。
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中では、水酸基含有単官能(メタ)アクリレートが好ましい。水酸基含有単官能(メタ)アクリレートの中では、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0050】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、一般式(E)で示される(メタ)アクリル系モノマーなどが挙げられる。
一般式(E) :Z-O-(R7O)s-H
(式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、R7は-C2H4-、-C3H6-、-CH2CH(CH3) -、-C4H8-又は-C6H12-を示し、sは1~10の整数を示す。)
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの中では、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートからなる群のうちの1種以上が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0051】
重合性化合物(A)が水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)を含む場合、1のみの水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)を含んでもよいし、2以上の水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)を含んでもよい。
重合性化合物(A)が水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)を含む場合、重合性化合物(A)全体における水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)の含有比率は、好ましくは10質量%以上50質量%以下、より好ましくは15質量%以上45質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上40質量%以下である。
【0052】
(重合開始剤(B))
本実施形態の硬化性組成物は、重合開始剤(B)を含む。
重合開始剤(B)は、重合性化合物(A)を重合させることが可能なものである限り特に限定されない。
重合開始剤(B)としては、有機過酸化物を好ましく挙げることができる。有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエートなどが挙げられる。これらの中では、安定性の点で、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
ちなみに、重合開始剤(B)と、後述の還元剤(D)とを併用することで、硬化性を一層高めうる。
【0053】
重合開始剤(B)の量は、重合性化合物(A)100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.4~10質量部がより好ましい。適度に多い量の重合開始剤(B)を用いることで、硬化速度を十分に早くすることができる。一方、重合開始剤(B)の量が多すぎないことにより、十分な貯蔵安定性を得ることができる。
【0054】
(蛍光剤(C))
本実施形態の硬化性組成物は、好ましくは、蛍光剤(C)を含む。硬化性組成物が蛍光剤(C)を含むことにより、硬化性組成物の被着体への塗布状況を確認しやすくなる。
蛍光剤(C)としては、例えば、紫外線の照射により発光する化合物が挙げられる。蛍光剤(C)としては、クマリン誘導体、オキサゾール誘導体、スチルベン誘導体、イミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ローダミンなどが挙げられる。市販の蛍光剤としては、Kayalightシリーズ(日本化薬製)、Hakkolシリーズ(昭和化学工業社製)、ローダミンB(富士フィルム和光純薬社製)などが挙げられる。蛍光剤(C)としては、硬化性組成物中の他成分と反応しない物が好ましい。特に、クマリン誘導体及び/又はオキサゾール誘導体が好ましい。クマリン誘導体としては、商品名「Hakkol P」(昭和化学工業社製)などが挙げられる。
【0055】
本実施形態の硬化性組成物が蛍光剤(C)を含む場合、1のみの蛍光剤(C)を含んでもよいし、2以上の蛍光剤(C)を含んでもよい。
本実施形態の硬化性組成物が蛍光剤(C)を含む場合、その量は、重合性化合物(A)100質量部に対して0.001~5質量部が好ましく、0.005~1.0質量部がより好ましく、0.01~0.5質量部がさらに好ましく、0.05~0.3質量部が特に好ましい。ある程度多くの量の蛍光剤(C)を用いることで、硬化性組成物の被着体への塗布状況を十分に確認しやすくなる。一方、蛍光剤(C)の量が多すぎないことで、接着性などの他性能を維持しつつ蛍光剤(C)の効果を得ることができる。
【0056】
(還元剤(D))
本実施形態の硬化性組成物は、好ましくは、還元剤(D)を含む。還元剤(D)としては、重合開始剤(B)と反応し、ラジカルを発生する公知の還元剤を挙げることができる。還元剤(D)としては、例えば、第3級アミン、チオ尿素誘導体、遷移金属塩などが挙げられる。
【0057】
第3級アミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン及びN,N-ジメチルパラトルイジン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンなどが挙げられる。第3級アミンの中では、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンが好ましい。チオ尿素誘導体としては、2-メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、アセチル-2-チオ尿素、ベンゾイルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素などが挙げられる。チオ尿素誘導体の中では、エチレンチオ尿素が好ましい。遷移金属塩としては、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、バナジルアセチルアセトネートなどが挙げられる。遷移金属塩の中では、オクチル酸コバルトが好ましい。これらの1種以上を使用しても良い。これらの中では、第3級アミン及び/又は遷移金属塩が好ましく、チオ尿素誘導体と遷移金属塩の併用がより好ましい。第3級アミンと遷移金属塩を併用する場合、その使用割合は、第3級アミンと遷移金属塩の合計100質量部中、質量比で、第3級アミン:遷移金属塩=5~45:55~95が好ましく、10~30:70~90がより好ましい。
【0058】
還元剤(D)を用いる場合、その使用量は、硬化速度向上と貯蔵安定性のバランスから、重合性化合物(A)100質量部に対して0.05~15質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。
【0059】
(パラフィン(E))
本実施形態の硬化性組成物は、パラフィン(E)を含んでもよい。具体的には、空気に接している部分の硬化を迅速にするために各種パラフィン類を使用することができる。パラフィン(E)としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、蜜ろう、ラノリン、鯨ろう、セレシン及びカンデリラろうなどが挙げられる。
【0060】
本実施形態の硬化性組成物がパラフィン(E)を含む場合、1のみのパラフィンを含んでもよいし、2以上のパラフィンを含んでもよい。
本実施形態の硬化性組成物がパラフィン(E)を含む場合、その量は、重合性化合物(A)100質量部に対して、0.01~3質量部が好ましく、0.5~2質量部がより好ましい。ある程度多くの量のパラフィン(E)を用いることで、硬化迅速化の効果を十分に得ることができる。一方、パラフィン(E)の量が多すぎないことにより、十分な接着性を得つつ、硬化迅速化の効果を得ることができる。
【0061】
(その他成分)
本実施形態の硬化性組成物は、上記以外の任意成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
例えば、粘度や流動性を調整する目的でクロロスルホン化ポリエチレン、ポリウレタン、スチレン-アクリロニトリル共重合体及びポリメチルメタクリレートなどの熱可塑性高分子、並びに、微粉末シリカなども使用してもよい。
【0062】
(各種特性)
・貯蔵弾性率E'
前述の動的粘弾性測定における、損失正接(tanδ)のピークトップ温度における貯蔵弾性率E'は、好ましくは3×107Pa以上、より好ましくは4×107Pa以上、さらに好ましくは5×107Pa以上である。この貯蔵弾性率E'の上限は特に無いが、現実的な組成設計の観点から、上限は例えば5×108Pa、具体的には1×108Paである。
損失正接のピークトップ温度(ガラス転移温度に相当)での貯蔵弾性率E'が大きいということは、硬化性組成物(硬化物)中に架橋構造が十分に発達していることを表していると考えられる。すなわち、貯蔵弾性率E'が一定値以上であることにより、硬化物がより強くなり、その結果として接着性が一層高まると考えられる。
ちなみに、損失正接のピークトップ温度自体は、通常50~150℃、好ましくは50~140℃、より好ましくは70~130℃である。
【0063】
・多孔質材料と金属との接着性
前述のように、本実施形態の硬化性組成物を用いることで、紙などの多孔質材料を強く接着することが可能である。
定量的には、23℃下、本実施形態の硬化性組成物を用いて、冷間圧延鋼板(SPCC)と幅25mmの帆布とを接着して得た試験片の、180°剥離強度は、例えば1kN/m以上、好ましくは2kN/m以上である。この剥離強度は基本的には大きければ大きいほどよく、上限は特に無いが、現実的な観点から、上限は例えば10kN/mである。
【0064】
・金属同士の接着性
また、本実施形態の硬化性組成物を用いることで、金属同士を十分に強く接着することもできる。
定量的には、23℃下、本実施形態の硬化性組成物を用いて冷間圧延鋼板同士を接着した試験片の、引張せん断接着試験により求められる引張せん断接着強度は、好ましくは10MPa以上である。この接着強度の上限は基本的には大きければ大きいほどよく、上限は特に無いが、現実的な観点から、上限は例えば40MPa、具体的には30MPa、より具体的には20MPaである。
【0065】
・硬化時間(接着力が発現するまでの時間)
本実施形態の硬化性組成物は、好ましくは、加熱をせずとも、室温で徐々に硬化する。具体的には、重合開始剤(B)の種類や量、還元剤(D)の種類や量などを調整することで、硬化性を調整することができる。
定量的には、23℃下、本実施形態の硬化性組成物を用いて冷間圧延鋼板同士を接着した試験片の、引張せん断接着試験において0.1MPaの強度が発現するまでの時間は、好ましくは2分以上1時間未満、より好ましくは2分以上30分以下、さらに好ましくは2分以上20分以下である。
接着強度が発現するまでの時間がある程度長いことで、硬化性組成物の塗布から接着までの時間に変動があったとしても、一定の接着強度を得ることができる。このような性質は大量の物品を流れ作業で接着する際に好ましい性質である。また、接着強度が発現するまでの時間が長すぎないことにより、生産効率性を高めることができる。
【0066】
(一剤型/二剤型)
本実施形態の硬化性組成物は、いわゆる一剤型であってもよいし、二剤型(別々の容器に充填された2の剤を、使用直前に混合して用いる硬化性組成物)であってもよい。
二剤型の場合、重合開始剤(B)が第一剤に、還元剤(D)が第二剤に、それぞれ含まれるようにして、重合開始剤(B)と還元剤(D)が硬化性組成物の使用直前まで接触しないことが好ましい。また、第3級アミンは、第一剤に含まれることが好ましく、チオ尿素誘導体や遷移金属塩は第二剤に含まれることが好ましい。蛍光剤(C)は、重合開始剤(B)との反応を避ける点で、第二剤に混合されることが好ましい。その他の成分は適宜第一剤および/または第二剤に混合することができる。使用直前に第一剤と第二剤とを混合して用いればよい。
ちなみに、本実施形態の硬化性組成物が二剤型である場合、第一剤と第二剤を混合した後の硬化性組成物が、上述の各成分の好適含有量の範囲で各成分を含むように、第一剤および第二剤中の各成分の量を調整することが好ましい。
【0067】
<物品/硬化性組成物の適用用途>
本実施形態の硬化性組成物は、例えば、接着剤、被覆剤、注入剤、補修剤などとして利用可能である。本実施形態の硬化性組成物を用いることで、その硬化物を含む物品を製造することができる。
中でも、本実施形態の硬化性組成物は、接着剤組成物として有用である。換言すると、本実施形態の接着剤組成物は、上述の硬化性組成物を含有する。
特に、本実施形態の硬化性組成物は、すでに述べたように、多孔質材料の接着に好ましく用いられる。
【0068】
以下、本実施形態の硬化性組成物の硬化物を含む物品の例として、スピーカを説明する。
図1は、スピーカの構成例を模式的に示す図(断面図)である。
本実施形態の硬化性組成物は、例えば、コーン紙1とダストキャップ紙2の接着に好ましく用いられる。
図1においては、コーン紙1とダストキャップ紙2が、硬化性組成物の硬化物4Aにより接着されている。つまり、本実施形態の硬化性組成物は、多孔質材料同士の接着に用いられる。
また、本実施形態の硬化性組成物は、例えば、コーン紙1と、ボイスコイル3(通常アルミニウム製)との接着に用いられる。
図1においては、コーン紙1とボイスコイル3が、硬化性組成物の硬化物4Bにより接着されている。つまり、本実施形態の硬化性組成物は、多孔質材料と金属材料とを接着する用途にも好ましく適用可能である。
【0069】
本実施形態の硬化性組成物は、特に、上述のような、スピーカの製造に好ましく用いられる。詳細は不明であるが、本実施形態の接硬化性組成物の動的粘弾性が上述のようであることにより、コーン紙1、ダストキャップ紙2、ボイスコイル3などの振動を、硬化性組成物(硬化物)が適切に吸収すると考えられる。本実施形態の硬化性組成物を用いてスピーカを製造することで、スピーカの音質を高めたり、スピーカ寿命を長くしたりすることができると考えられる。
【0070】
<確認方法>
本実施形態の硬化性組成物が蛍光剤(C)を含む場合、その硬化性組成物が塗布された被着体に紫外線を照査することにより、硬化性組成物の塗布状況を確認することができる。
例えば、硬化性組成物や、硬化性組成物を塗布した被着体に、紫外線を照射することにより、硬化性組成物が可視状態となり、塗布位置や塗布量といった塗布状態が確認できる。また、蛍光剤を含有する硬化性組成物から発する蛍光を、目視又はカメラで確認し、これを画像処理することで硬化性組成物の塗布の合否を判断することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
重合性化合物(A)と、重合開始剤(B)とを含む硬化性組成物であって、
当該硬化性組成物の硬化物を、以下測定条件で動的粘弾性測定することで得られる、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が、90℃以上150℃以下である硬化性組成物。
[測定条件]
・周波数:1.0Hz
・モード:引張モード
・測定温度範囲:-50℃から200℃
・昇温速度:2℃/min
2.
1.に記載の硬化性組成物であって、
前記動的粘弾性測定における、損失正接(tanδ)のピークトップ温度における貯蔵弾性率E'が3×10
7
Pa以上である硬化性組成物。
3.
1.または2.に記載の硬化性組成物であって、
重合性化合物(A)は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含む硬化性組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の硬化性組成物であって、
前記重合性化合物(A)は、(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、ジエン系又は水素添加されたジエン系の骨格を有する化合物(a1)を含む硬化性組成物。
5.
4.に記載の硬化性組成物であって、
前記重合性化合物(A)全体における、前記化合物(a1)の含有比率が、50質量%以上90質量%以下である硬化性組成物。
6.
4.または5.に記載の硬化性組成物であって、
前記重合性化合物(A)は、さらに、前記化合物(a1)とは異なる成分として、単官能(メタ)アクリレート(a2)、多官能(メタ)アクリレート(a3)および水酸基含有(メタ)アクリレート(a4)からなる群より選ばれる1または2以上の重合性化合物を含む硬化性組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の硬化性組成物であって、
23℃下、当該硬化性組成物を用いて、冷間圧延鋼板と幅25mmの帆布とを接着して得た試験片の、180°剥離強度が、1kN/m以上である硬化性組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の硬化性組成物であって、
さらに蛍光剤(C)を含む硬化性組成物。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の硬化性組成物であって、
23℃下、当該硬化性組成物を用いて冷間圧延鋼板同士を接着した試験片の、引張せん断接着試験において0.1MPaの強度が発現するまでの時間が、2分以上1時間未満である硬化性組成物。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の硬化性組成物であって、
多孔質材料同士を接着する用途に用いられる硬化性組成物。
11.
1.~9.のいずれか1つに記載の硬化性組成物であって、
多孔質材料と金属材料とを接着する用途に用いられる硬化性組成物。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載の硬化性組成物の硬化物を含む物品。
13.
7.に記載の硬化性組成物が塗布された被着体に紫外線を照査することにより、組成物の塗布状況を確認する確認方法。
14.
1.~11.のいずれか1つに記載の硬化性組成物を含有する接着剤組成物。
【実施例】
【0072】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0073】
<硬化性組成物の調製>
後掲の表に記載の各成分を、表に記載された量比(単位:質量部)で均一に混合して、硬化性組成物を調製した。
実施例1と比較例1の硬化性組成物は、第1剤と第2剤の2剤型とした。その他の実施例の硬化性組成物は1剤型とした。
【0074】
一部成分について、詳細を補足しておく。
TE-2000(日本曹達社製):ウレタンメタクリレート。ポリオール化合物は、ポリブタジエンポリオールである1,2-ポリブタジエンポリオールである。有機ポリイソシアネート化合物はトリレンジイソシアネートである。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルメタクリレートである。数平均分子量2500。
TEAI-1000(日本曹達社製):ウレタンアクリレート。ポリオール化合物は、ポリブタジエンポリオールである水添1,2-ポリブタジエンポリオールである。有機ポリイソシアネート化合物はトリレンジイソシアネートである。ヒドロキシ(メタ)アクリレートは2-ヒドロキシエチルアクリレートである。数平均分子量2000。
UC-102M(クラレ社製):イソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化物オリゴマー。式(1)にてYはエチレン基であり、Rはメチル基である。数平均分子量17000。
MU3603(MIWON社製):ウレタンアクリレート。数平均分子量3300。
Hakkol P(昭和化学工業社製):クマリン誘導体。
【0075】
<動的粘弾性測定>
まず、動的粘弾性測定用の、硬化性組成物の硬化物(試験片)を作製した。具体的には以下(1)~(3)のようにして試験片を作成した。
(1)後掲の表に記載の通り配合し得た硬化性組成物(2剤型の硬化性組成物については、2剤混合後のもの)を、PETフィルムの表面に塗布して塗布膜を形成した。ちなみに、このPETフィルムの表面の一部には、硬化物の膜厚調整のため、スペーサーとして、予め0.5mm厚のテープを張り付けておいた。
(2)上記塗布膜の上から、別のPETフィルムを張り合わせた。そして、1cm厚のガラス板で両面を挟み、重りを乗せて圧締した。この状態で、温度23℃、相対湿度50RH%の室内にて24時間養生した。その後、圧締を解除し、PETフィルムを剥がした。このようにして、0.5mm厚のシート状硬化物を得た。
(3)上記のシート状硬化物を切断して、寸法0.5×5×40mmの短冊状の試験片を得た。
【0076】
得られた試験片の動的粘弾性特性を、動的粘弾性測定装置(DMS7100、SII社製)を使用して、周波数:1.0Hz、モード:引張モード、測定温度範囲:-50℃から200℃、昇温速度:2℃/minの条件で測定し、データを取得した。得られたデータに基づき、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅や、損失正接(tanδ)のピークトップ温度における貯蔵弾性率E'などを求めた。
【0077】
<多孔質の接着評価:金属と帆布との剥離強度>
まず、以下のようにして、剥離強度測定用試料を作製した。
具体的には、一枚の試験片(100mm×25mm×5mmのSPCC、アセトン脱脂処理済)の片面の、80mm×25mmの領域に、硬化性組成物(2剤型のものは2剤混合後のもの)を塗布した。
その後直ちに、硬化性組成物を塗布した部分に、帆布を重ね合わせて貼り合わせ、クリップで留めた。そして、室温(23℃)で24時間養生した。このようにして剥離強度測定用試料を得た。この際、帆布としては、以下のものを用いた。
[使用した帆布]
品名:帆布生成9号(「9号」とは、旧JIS L 3102で規定されていた基準を意味する)
寸法:縦200mm×横(幅)25mm×厚み0.7mm
材質:綿
はっ水処理の有無:なし
購入先:マルホン社
【0078】
剥離強度の測定は、温度23℃、湿度50%の環境下、JIS K 6854-2:1999に準拠した180°剥離により行った。この際、引張速度は50mm/分とし、装置としてはInstron社製万能試験機「Model 5569」を用いた。
得られた剥離チャートより、最初の25mmを除いた少なくとも100mmの長さの剥離長さにわかって、力-つかみ移動距離曲線から平均はく離力(N)を求めた。これを試験片幅である25mmで除することにより、180°剥離強度を算出した。
【0079】
<金属同士の接着評価>
JIS K 6850に準拠して評価した。
具体的には、一枚の試験片(100×25×5mmのSPCC、サンドブラスト処理後にアセトン脱脂処理を実施)の片面に硬化性組成物(二剤型のものは二剤混合後のもの)を塗布し、もう一方の試験片(100×25×5mmのSPCC)と直ちに重ね合わせて貼り合わせた。その後、室温(23℃)で24時間養生した。このようにして引張り剪断接着強さ測定用試料を得た。尚、硬化性組成物層の厚さを均一化するため、粒径100μmのガラスビーズを硬化性組成物に微量添加した。
引張り剪断接着強さは、温度23℃、湿度50%の環境下で。引張速度10mm/分で、Instron社製万能試験機「Model 5569」を用いて測定した。
【0080】
<硬化時間(接着力が発現するまでの時間)>
室温(23℃)での24時間の養生を行わなかったこと以外は、上記<金属同士の接着評価>と同様にして、2枚のSPCCを貼り合わせた試験片(引張り剪断接着強さ測定用試料)を作製した。以下の複数回の試験用に、複数個の試験片を作製した。
作製後に一定時間、室温(23℃)で養生した試験片の引張り剪断接着強さを測定した。貼り合わせたときの時間を基準(0分)として、0.1MPa以上の強度が発現するまでの時間を求めた。
【0081】
各種情報をまとめて下表に示す。
【0082】
【0083】
表1に示されるとおり、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が90℃以上150℃以下である硬化性組成物を用いることで、多孔質と金属とを強い強度で接着することができた。一方、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値幅が90℃未満である比較例1の硬化性組成物を用いた場合、多孔質と金属とを満足に接着することができなかった。
実施例をより詳細に見ると、実施例4とその他の実施例との対比より、損失正接(tanδ)のピークトップ温度における貯蔵弾性率E'が大きいほうが、より大きな接着力が得られていることが理解される。
本実施形態の組成物を多孔質材料の接着に適用した場合、接着強度などの接着性が、特許文献1より優れる。
実施例1~5の硬化性組成物を用いて被着体へ塗布したところ、硬化性組成物の被着体への塗布状況を容易に確認できた。これは、硬化性組成物が蛍光剤を含有するためである。
【0084】
この出願は、2020年10月29日に出願された日本出願特願2020-181256号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0085】
1 コーン紙
2 ダストキャップ紙
3 ボイスコイル
4A 硬化性組成物の硬化物
4B 硬化性組成物の硬化物