(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】グラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法およびグラファイトシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240530BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20240530BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240530BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240530BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240530BHJP
C08K 3/18 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C01B32/205
C08G73/10
C08J5/18 CFG
C08K3/013
C08K3/18
(21)【出願番号】P 2023513300
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 KR2021011276
(87)【国際公開番号】W WO2022045728
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】10-2020-0108602
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ヒョン-ソプ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン, ドン-ヨン
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136721(JP,A)
【文献】特開2017-114098(JP,A)
【文献】国際公開第2019/164067(WO,A1)
【文献】特表2021-515076(JP,A)
【文献】特開2019-089688(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0144286(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0312638(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
C01B 32/205
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸溶液を用意し、
前記ポリアミック酸溶液にゼータ電位が+30mV~+40mVまたは-40mV~-30mVの昇華性無機充填剤溶液を添加してポリイミドフィルム用前駆体組成物を製造し、
前記昇華性無機充填剤溶液中の前記昇華性無機充填剤の平均粒径(D
50
)が2μm~10μmであり、かつ
前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップを含む、
グラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミック酸溶液は、溶媒中にジアミン単量体と二無水物単量体を反応させて製造され、
前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-oxydianiline)、3,4’-オキシジアニリン、p-フェニレンジアミン(p-phenylene diamine)、m-フェニレンジアミン、4,4’-メチレンジアニリン、3,3’-メチレンジアニリン、またはこれらの組み合わせを含み、
前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(pyromellitic dianhydride)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法。
【請求項3】
前記昇華性無機充填剤は、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法。
【請求項4】
前記ポリアミック酸100重量部を基準として前記昇華性無機充填剤を0.1重量部~0.3重量部で添加することである、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法。
【請求項5】
前記前駆体組成物は、脱水剤およびイミド化剤をさらに含み、
前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップは、前記前駆体組成物を支持体上にキャストし乾燥してゲルフィルムを製造し、かつ前記ゲルフィルムを熱処理するステップを含む、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムは、ISO 1997基準に基づいて測定した粗さ(Ra)が10nm~15nmである、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項
6のいずれかに記載のポリイミドフィルムを製造し、かつ
前記ポリイミドフィルムを炭化および黒鉛化してグラファイトシートを得るステップを含む、グラファイトシートの製造方法。
【請求項8】
前記グラファイトシートは、厚さが20μm~40μmであり、熱伝導度が1,400W/m・K以上である、請求項
7に記載のグラファイトシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
グラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法およびグラファイトシートの製造方法に関するものであり、より詳しくは、熱伝導度に優れたグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法およびグラファイトのシート製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器は、軽量化、小型化、薄型化、高集積化しており、これによって電子機器には多くの熱が発生している。このような熱は製品の寿命を短くするか、故障や誤動作などを引き起こす可能性がある。そのため、電子機器に対する熱管理が重要な課題となっている。
【0003】
グラファイトシートは、銅やアルミニウムなどの金属シートよりも高い熱伝導率を有しており、電子機器の放熱部材として注目されている。このようなグラファイトシートは様々な方法で製造することができ、例えば、高分子フィルムを炭化および黒鉛化して製造することができる。特に、ポリイミドフィルムは、これらの優れた機械的・熱的寸法安定性、化学的安定性などによって、グラファイトシート製造用高分子フィルムとして脚光を浴びている。
【0004】
ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートの物性は、ポリイミドフィルムの物性の影響を受けることが知られている。したがって、様々なグラファイトシート用ポリイミドフィルムの開発が行われているが、より高い熱伝導度を有するグラファイトシートを製造できるポリイミドフィルムが依然として必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱伝導率に優れたグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法およびグラファイトシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.一様態によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法が提供される。前記方法は、ポリアミック酸溶液を用意し、前記ポリアミック酸溶液にゼータ電位が+30mV~+40mVまたは-40mV~-30mVの昇華性無機充填剤溶液を添加してポリイミドフィルム用前駆体組成物を製造し、かつ前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップを含んでもよい。
【0007】
2.前記1.において、前記ポリアミック酸溶液は、溶媒中にジアミン単量体と二無水物単量体を反応させて製造され、前記ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-oxydianiline)、3,4’-オキシジアニリン、p-フェニレンジアミン(p-phenylene diamine)、m-フェニレンジアミン、4,4’-メチレンジアニリン、3,3’-メチレンジアニリン、またはこれらの組み合わせを含み、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(pyromellitic dianhydride),3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0008】
3.前記1.または2.において、前記昇華性無機充填剤溶液中の前記昇華性無機充填剤の平均粒径(D50)は、2μm~10μmであってもよい。
【0009】
4.前記1.~3.のいずれかにおいて、前記昇華性無機充填剤は、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0010】
5.前記1.~4.のいずれかにおいて、前記ポリアミック酸100重量部を基準として前記昇華性無機充填剤を0.1重量部~0.3重量部で添加してもよい。
【0011】
6.前記1.~5.のいずれかにおいて、前記前駆体組成物は、脱水剤およびイミド化剤をさらに含み、前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップは、前記前駆体組成物を支持体上に製膜し乾燥してゲルフィルムを製造し、かつ前記ゲルフィルムを熱処理するステップを含んでもよい。
【0012】
7.前記1.~6.のいずれかにおいて、前記ポリイミドフィルムは、ISO 1997基準に基づいて測定した粗さ(Ra)が10nm~15nmであってもよい。
【0013】
8.他の様態によれば、グラファイトシートの製造方法が提供される。前記方法は、前記1.~7.のいずれかに記載のポリイミドフィルムを製造し、かつ前記ポリイミドフィルムを炭化および黒鉛化してグラファイトシートを得るステップを含んでもよい。
【0014】
9.前記8.において、前記グラファイトシートは、厚さが20μm~40μmであり、熱伝導度が1,400W/m・K以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、熱伝導度に優れたグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法およびグラファイトシートの製造方法を提供する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中の単数の表現は、文脈上明らかに別に意味しない限り、複数の表現を含む。
【0017】
「~上」、「~上部に」、「~下部に」、「~側に」などで2つの部分の位置関係が説明される場合、「直」または「直接」が使用されない限り、2つの部分の間に1つ以上の他の部分が位置してもよい。
【0018】
本明細書中の「含む」または「有する」などの用語は、明細書に記載された特徴または構成要素が存在することを意味するものであり、1つ以上の他の特徴または構成要素が付加される可能性を予め排除するものではない。
【0019】
構成要素を解釈する際には、別途の明示的な記載がなくても誤差範囲を含むものと解釈する。
【0020】
本明細書中で数値範囲を示す「a~b」において、「~」は、≧aであり、≦bであるものと定義する。
【0021】
本発明の一様態によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法(以下、「ポリイミドフィルム製造方法」)が提供される。前記方法は、ポリアミック酸溶液を用意し、前記ポリアミック酸溶液にゼータ電位が+30mV~+40mVまたは-40mV~-30mVの昇華性無機充填剤溶液を添加してポリイミドフィルム用前駆体組成物を製造し、かつ前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップを含んでもよい。
【0022】
以下、各ステップをより詳細に説明する。
【0023】
まず、ポリアミック酸溶液を用意する。
【0024】
ポリアミック酸溶液は、当該技術分野における公知の通常の方法を使用して用意することができる。例えば、ポリアミック酸溶液は、溶媒中にジアミン単量体と二無水物単量体を反応させて製造することができ、このとき、用いられる溶媒、ジアミン単量体および二無水物単量体の種類および数は、特に限定されない。
【0025】
溶媒は、ポリアミック酸を溶解できるものであれば、特に限定されない。例えば、溶媒は非プロトン性極性溶媒(aprotic polar solvent)を含んでもよい。非プロトン性極性溶媒の例としては、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチル-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて用いられてもよい。場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を用いてポリアミック酸の溶解度を調節してもよい。
【0026】
ジアミン単量体としては、本発明の目的を損なわない範囲内で当該技術分野における公知の様々なジアミン単量体が制限なく用いられてもよい。例えば、ジアミン単量体は、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-oxydianiline:ODA)、3,4’-オキシジアニリン、p-フェニレンジアミン(p-phenylene diamine:PPD)、m-フェニレンジアミン、4,4’-メチレンジアニリン、3,3’-メチレンジアニリン、またはこれらの組み合わせを含んでもよく、このような場合、分子配向に有利なポリイミドフィルムの形成が可能であり、炭化、黒鉛化時に優れた熱伝導度を有するグラファイトシートを形成することができる。
【0027】
二無水物単量体としては、本発明の目的を損なわない範囲内で当該技術分野における公知の種々の二無水物単量体を制限なく用いられてもよい。例えば、二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物(pyromellitic dianhydride:PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、またはこれらの組み合わせを含んでもよく、このような場合、分子配向に有利なポリイミドフィルムの形成が可能であり、炭化、黒鉛化時に優れた熱伝導率を有するグラファイトシートを形成することができる。
【0028】
ジアミン単量体と二無水物単量体とは実質的に等モルになるように溶媒中に含まれるが、ここで、「実質的に等モル」とは、ジアミン単量体全体のモル数を基準として二無水物単量体が99.8モル%~100.2モル%で含まれることを意味する。ジアミン単量体と二無水物単量体とを実質的に等モルで反応させることは、例えば、
(a)溶媒中にジアミン単量体(または、二無水物単量体)全部を投入し、実質的に等モル量で二無水物単量体(または、ジアミン単量体)を投入して反応させる方法、
(b)溶媒中にジアミン単量体(または、二無水物単量体)の一部を投入し、ジアミン単量体(または、二無水物単量体)に対して95モル%~105モル%の割合で二無水物単量体(または、ジアミン単量体)を投入した後、実質的に等モル量となるようにジアミン単量体および/または二無水物単量体を投入して反応させる方法、
(c)溶媒中にジアミン単量体(または、二無水物単量体)の一部および二無水物単量体(または、ジアミン単量体)の一部のいずれかが過量になるように投入して第1組成物を形成し、別の溶媒中にジアミン単量体(または、二無水物単量体)の一部および二無水物単量体(または、ジアミン単量体)の一部のいずれかが過量になるように投入して第2の組成物を形成し、第1の組成物と第2の組成物を混合して反応させるが、このとき、第1組成物でジアミン単量体(または、二無水物単量体)が過量である場合、第2の組成物では二無水物単量体(または、ジアミン単量体)を過量にする方法などが挙げられる。前記(a)~(c)において、ジアミン単量体および二無水物単量体は、1種以上(例えば、1種または2種)のジアミン単量体および二無水物単量体を意味する。
【0029】
一具現例によれば、ポリアミック酸は、ポリアミック酸溶液100重量部を基準として5重量部~35重量部で含まれてもよい。前記範囲でポリアミック酸溶液は、フィルムを形成するのに適した分子量および粘度を有することができる。例えば、ポリアミック酸は、ポリアミック酸溶液100重量部を基準として5重量部~30重量部、他の例としては、15重量部~20重量部で含まれてもよいが、これに限定されるものではない。
【0030】
一具現例によれば、ポリアミック酸溶液は、23℃、せん断速度1s-1で粘度が100,000cP~500,000cPであってもよい。前記範囲でポリアミック酸が所定の分子量を有するようにしながらも、ポリイミドフィルム製膜時での工程性に優れる。ここで、「粘度」は、HAAKE Mars Rheometerを用いて測定してもよい。例えば、ポリアミック酸溶液の粘度は23℃、せん断速度1s-1で150,000cP~450,000cP、他の例としては、200,000cP~400,000cP、さらに他の例としては、250,000cP~350,000cPであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0031】
一具現例によれば、ポリアミック酸は、重量平均分子量が100,000g/mol~500,000g/molであってもよい。前記範囲でより優れた熱伝導率を有するグラファイトシートを製造するために有利である。ここで、「重量平均分子量」は、ゲルクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレンを標準試料として用いて測定してもよい。例えば、ポリアミック酸の重量平均分子量は150,000g/mol~500,000g/mol、他の例としては、100,000g/mol~400,000g/molであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0032】
次いで、ポリアミック酸溶液にゼータ電位が+30mV~+40mVまたは-40mV~-30mVの昇華性無機充填剤溶液を添加してポリイミドフィルム用前駆体組成物を製造する。
【0033】
「昇華性無機充填剤」とは、グラファイトシートの製造時に炭化および/または黒鉛化工程中に熱によって昇華する無機充填剤を意味する。ポリイミドフィルムが昇華性無機充填剤を含む場合、グラファイトシート製造時に、昇華性無機充填剤の昇華を通じて発生する気体によってグラファイトシートに空隙を形成されることもある。これは、グラファイトシート製造時に発生する昇華ガスの排気を円滑にして、良質のグラファイトシートが得られるようにするだけでなく、グラファイトシートの柔軟性を向上させ、終局的にグラファイトシートの取り扱い性および成形性を向上させることができる。昇華性無機充填剤の例としては、第2リン酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明の発明者は、昇華性無機充填剤溶液のゼータ電位を+30mV~+40mVまたは-40mV~-30mVに制御してポリアミック酸溶液に添加した後、ポリイミドフィルムを製造する場合、昇華性無機充填剤がポリイミドフィルム内で適正な大きさ、均一な粒度分布を有しながら均一に分散することができ、その結果、熱伝導度に優れたグラファイトシートの製造が可能であることを見出し、本発明を完成した。ここで、「ゼータ電位」は、ゼータ電位測定機器を用いて、ISO 13099-2(colloidal systems-methods for zeta-potential determination-part 2:optical methods)に基づいて測定してもよい。一具現例によれば、昇華性無機充填剤溶液のゼータ電位は、+32mV~+40mVまたは-40mV~-32mVであってもよい。他の具現例によれば、昇華性無機充填剤溶液のゼータ電位は、+35mV~+40mVまたは-35mV~-40mVであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0035】
ゼータ電位制御方法は、特に制限されず、当該技術分野における通常の技術者に公知の様々な方法を使用してもよい。例えば、昇華性無機充填剤溶液のゼータ電位は、昇華性無機充填剤含有溶液に界面活性剤を添加するか、電荷を帯びた高分子を添加するか、昇華性無機充填剤含有溶液のpHを調節するなどの方法で制御することができる。
【0036】
昇華性無機充填剤溶液は、溶媒および昇華性無機充填剤を含んでもよい。昇華性無機充填剤溶液に含まれる溶媒に関する説明は、ポリアミック酸溶液に含まれる溶媒に関する説明を参照する。
【0037】
一具現例によれば、昇華性無機充填剤溶液中の昇華性無機充填剤の平均粒径(D50)は、2μm~10μmであってもよい。前記範囲で昇華性無機充填剤がポリイミドフィルム内で適正な大きさ、均一な粒度分布を有しながら均一に分散することができ、その結果、熱伝導度に優れたグラファイトシートの製造が可能である。ここで、「平均粒径(D50)」は、昇華性無機充填剤溶液を25℃で5分間超音波分散させた後、粒度分析器(laser diffraction particle size analyzer)(SALD-2201,Shimadzu)を用いて測定されてもよい。例えば、昇華性無機充填剤溶液中の昇華性無機充填剤の平均粒径(D50)は、3μm~8μm、他の例としては、4μm~7μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0038】
一具現例によれば、昇華性無機充填剤は、ポリアミック酸100重量部を基準として0.05重量部~0.3重量部で添加されてもよい。前記範囲で昇華性無機充填剤がポリイミドフィルム内で適正な大きさ、均一な粒度分布を有しながら均一に分散することができ、その結果、熱伝導度に優れたグラファイトシートの製造が可能である。例えば、昇華性無機充填剤は、ポリアミック酸100重量部を基準として0.10重量部~0.28重量部、他の例としては、0.12重量部~0.26重量部で添加してもよいが、これに限定されるものではない。
【0039】
その後、前駆体組成物からポリイミドフィルムを得る。
【0040】
前駆体組成物からポリイミドフィルムを得る方法は、特に制限されず、当該技術分野における通常の技術者に公知の様々な方法を使用してもよい。例えば、ポリイミドフィルムは、熱イミド化法、化学イミド化法、または熱イミド化法と化学イミド化法とを併用した複合イミド化法を使用して得ても良い。
【0041】
熱イミド化法は、脱水剤、イミド化剤などを用いずに加熱のみでイミド化反応を進行させる方法であり、例えば、前駆体組成物を支持体上に塗布した後、40℃~400℃(例えば、40℃~300℃)の温度範囲で徐々に昇温させ、1時間~8時間熱処理してポリイミドフィルムを得る方法である。
【0042】
化学イミド化法は、前駆体組成物に脱水剤および/またはイミド化剤を適用してポリアミック酸のイミド化を促進する方法である。
【0043】
複合イミド化法は、前駆体組成物に脱水剤およびイミド化剤を投入し、支持体上に塗布した後、80℃~200℃(例えば、100℃~180℃)で加熱して脱水剤およびイミド化剤を活性化し、部分的に硬化した後、200℃~400℃で5秒~400秒間加熱することによってポリイミドフィルムを得る方法である。
【0044】
一具現例によれば、前駆体組成物は、脱水剤およびイミド化剤をさらに含み、前記前駆体組成物からポリイミドフィルムを得るステップは、前記前駆体組成物を支持体上に塗布(例えば、キャスト)し乾燥してゲルフィルムを製造し、かつ前記ゲルフィルムを熱処理するステップを含んでもよい。昇華性無機充填剤溶液と脱水剤およびイミド化剤の添加順序は、特に限定されず、ポリアミック酸溶液に昇華性無機充填剤溶液、脱水剤およびイミド化剤を同時に添加するか、ポリアミック酸溶液に昇華性無機充填剤溶液を添加した後に、脱水剤およびイミド化剤を添加してもよい。
【0045】
「脱水剤」とは、ポリアミック酸に対する脱水作用を通じて閉環反応を促進するものである。脱水剤の例としては、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して用いてもよい。そのなかでも、入手の容易性およびコストの観点から、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、乳酸無水物などの脂肪族酸無水物を用いてもよい。
【0046】
「イミド化剤」とは、ポリアミック酸に対する閉環反応を促進するものである。イミド化剤の例としては、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミンなどが挙げられる。そのなかでも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンを用いてもよい。複素環式3級アミンの例としては、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどがあり、これらは単独でまたは2種以上混合して用いられてもよい。
【0047】
脱水剤およびイミド化剤の添加量は、特に限定されるものではないが、脱水剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して0.5モル~7モル(他の例として、1モル~6モル)の割合で用いられてもよく、イミド化剤はポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、0.05モル~3モル(他の例としては、0.2モル~2モル)の割合で用いられてもよい。前記範囲でイミド化が十分であり、フィルム状にキャストすることが容易である。
【0048】
ゲルフィルム製造ステップで用いられる支持体としては、ガラス板、アルミニウム箔、無端(endless) ステンレスベルト、ステンレスドラムなどが挙げられ、乾燥温度は40℃~300℃(例えば、80℃~200℃)、乾燥時間は1分~10分(例えば、3分~7分)であってもよいが、これに限定されるものではない。ここで、ゲルフィルムはポリアミック酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有する。
【0049】
場合によっては、最終的に得られるポリイミドフィルムの厚さおよび大きさを調節し、配向性を向上させるためにゲルフィルムを延伸するステップをさらに含んでいてもよく、延伸は、MD(machine direction)およびTD(transverse direction)のうち少なくとも1つの方向に行なわれてもよい。
【0050】
ゲルフィルムの熱処理温度は、例えば、50℃~700℃、他の例としては、150℃~600℃、別の例としては、200℃~600℃であってもよく、熱処理時間は、例えば、1分~10分(例えば、3分~7分)であってもよいが、これに限定されるものではない。ゲルフィルムの熱処理によってゲルフィルムに残存する溶媒などが除去され、残っているほとんどのアミック酸基がイミド化してポリイミドフィルムを得ても良い。
【0051】
場合によっては、このようにして得られたポリイミドフィルムを400℃~650℃の温度で5秒~400秒間加熱仕上げして、ポリイミドフィルムをさらに硬化してもよく、選択的に得られたポリイミドフィルムに残留し得る内部応力を緩和するために、所定の張力下で加熱仕上げを行ってもよい。
【0052】
一具現例によれば、ポリイミドフィルムは、ISO 1997基準に基づいて測定された粗さ(Ra)が10nm~15nmであってもよい。前記範囲でポリイミドフィルムからグラファイトシート製造時に熱伝導度が上昇する効果があり得るが、これに限定されるものではない。
【0053】
前述のポリイミドフィルム製造方法で製造されたポリイミドフィルムは、昇華性無機充填剤がポリイミドフィルムに適正な大きさ、均一な粒度分布を有しながら均一に分散することができ、その結果、熱伝導度に優れたグラファイトシートを製造することができる。
【0054】
他の態様によれば、前述のポリイミドフィルムからグラファイトシートを製造する方法が提供される。前記方法は、前述の方法によってポリイミドフィルムを製造し、前記ポリイミドフィルムを炭化および黒鉛化してグラファイトシートを得るステップを含んでもよい。
【0055】
「炭化」は、ポリイミドフィルムの高分子鎖を熱分解して非晶質炭素体、非晶質炭素体および/または非晶質炭素体を含むプレグラファイトシートを形成する工程であり、例えば、ポリイミドフィルムを減圧下または非活性気体雰囲気下で常温から最高温度である1,000℃~1,500℃の範囲の温度まで、10時間~20時間にわたって昇温および保持するステップを含んでもよいが、これに限定されるものではない。選択的に、炭素の高配向性のために炭化時にホットプレスなどを用いてポリイミドフィルムに圧力を加えてもよく、このときの圧力は、例えば、5kg/cm2以上、他の例としては、15kg/cm2以上、別の例としては、25kg/cm2以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0056】
黒鉛化は、非晶質炭素体、アモルファス炭素体および/または無定形炭素体の炭素を再配列してグラファイトシートを形成する工程であり、例えば、予備グラファイトシートを、選択的に非活性気体雰囲気下で常温から最高温度である2,500℃~3,000℃の範囲の温度まで、20時間~30時間にわたって昇温および保持するステップを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。選択的に、炭素の高配向性のために黒鉛化時にホットプレスなどを用いて予備グラファイトシートに圧力を加えてもよく、このときの圧力は、例えば、100kg/cm2以上、他の例としては、200kg/cm2以上、別の例としては、300kg/cm2以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0057】
一具現例によれば、グラファイトシートは、厚さが20μm~40μm(例えば、22μm~32μm)であり、熱伝導率が1,400W/m・K以上であってもよい。本発明の一具現例によるグラファイトシートは、昇華性無機充填剤が適正な大きさ、均一な粒度分布を有しながら均一に分散しているポリイミドフィルムを用いて製造されるため、優れた熱伝導度を有することができる。例えば、グラファイトシートの熱伝導度は、1,500W/m・K以上、他の例としては1,600W/m・K以上、別の例としては1,700W/m・K以上、さらに別の例としては1,800W/m・K以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明することにする。ただし、これは本発明の好ましい例として提示されたものであり、いかなる意味でも本発明が限定されるものと解釈されてはならない。
【0059】
実施例1
二無水物単量体として、ピロメリット酸二無水物15g、ジアミン単量体として、4,4’-オキシジアニリン15g、溶媒として、ジメチルホルムアミド100gを混合して反応させ、粘度が300,000cPであるポリアミック酸溶液を用意した。
【0060】
前記ポリアミック酸溶液にゼータ電位が+40mVに制御され、昇華性無機充填剤として、第2リン酸カルシウム(平均粒径(D50:5μm))10g、溶媒として、ジメチルホルムアミド200gを含む昇華性無機充填剤溶液を添加した後、脱水剤として、酢酸無水物、イミド化剤として、β-ピコリンをポリアミック酸のアミック酸基1モルに対してそれぞれ5モル比、1モル比で添加して前駆体組成物を製造した。このとき、前駆体組成物中のポリアミック酸100重量部当たりの昇華性無機充填剤は0.14重量部であった。ここで、ゼータ電位は、ゼータ電位測定機器(Zeta-potential & Particle size Analyzer ELSZ-2000ZS、Photo OTSUKA ELECTRONICS)を用いて、ISO 13099-2(Colloidal systems-Methods for zeta-potential determination-Part 2:Optical methods)に基づいて測定した。
【0061】
前記前駆体組成物は、ドクターブレードを用いてSUS板(100SA、Sandvik社)上に80μm厚さでキャストし、100℃で5分間乾燥してゲルフィルムを製造した。前記ゲルフィルムをSUS板と分離した後、300℃で5分間熱処理して60μm厚さを有するポリイミドフィルムを製造した。
【0062】
実施例2~8および比較例1~4
下記表1に記載のゼータ電位を有する昇華性無機充填剤溶液を用いた点を除いては、実施例1と同一の方法を使用してポリイミドフィルムを製造した。
【0063】
評価例1
実施例および比較例で製造したポリイミドフィルムに対してISO 1997に基づいて表面粗さ測定機器(SE600,Kosaka laboratory Ltd.)を用いて粗さ(Ra)(単位:nm)を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0064】
【0065】
前記表1から、本発明のゼータ電位を有する昇華性無機充填剤溶液を用いて製造された実施例1~8のポリイミドフィルムの粗さが、そうでない比較例1~4の粗さより低いことが分かり、これに基づいて実施例1~8のポリイミドフィルムに昇華性無機充填剤がより均一に分散していることを予測することができる。
【0066】
評価例2
実施例1、2および比較例2で製造したポリイミドフィルムの表面をプラズマ表面エッチング方法でエッチングして試片を作製した。エッチングは、K1050X RF Plasma Etcher(EMITECH社)装備を用いて、100Wで30分間行い、エッチングに用いた気体は空気であった。その後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、試片の表面を1,000倍率で互いに重複しない位置10か所を選定して撮影し、前記10か所で撮影された昇華性無機充填剤粒子の粒径を全て測定した。
【0067】
測定結果、実施例1の場合、測定された全昇華性無機充填剤のうち、粒径が2μm以下の無機充填剤が54%を占め、5μm以上の無機充填剤が8%を占めた。
【0068】
実施例2の場合、測定された全昇華性無機充填剤のうち、粒径が2μm以下の無機充填剤が45%を占め、5μm以上の無機充填剤が16%を占めた。
【0069】
比較例2の場合、測定された全昇華性無機充填剤のうち、粒径が2μm以下の無機充填剤が33%を占め、5μm以上の無機充填剤が52%を占めた。
【0070】
これに基づいて、本発明のゼータ電位を有する昇華性無機充填剤溶液を用いて製造された実施例ポリイミドフィルムは、そうでない比較例のポリイミドフィルムよりも均一な昇華性無機充填剤分布を有することが分かる。
【0071】
実施例9
実施例1で製造したポリイミドフィルムを、電気炉を用いてアルゴン気体下で2.0℃/分の速度で1,500℃まで昇温した後、前記温度で1時間保持して炭化させた。その後、炭化したポリイミドフィルムをアルゴン気体下で2.5℃/分の速度で2,900℃まで昇温した後、前記温度で1時間保持して黒鉛化して30μmの厚さを有するグラファイトシートを製造した。
【0072】
実施例10~16および比較例5~8
下記表2に記載のポリイミドフィルムを用いた点を除いては、実施例9と同一の方法を使用してグラファイトシートを製造した。
【0073】
評価例3
実施例および比較例で製造したグラファイトシートに対して熱拡散率測定装置(LFA 467、Netsch社)を用いてレーザーフラッシュ法で平面方向の熱拡散率を測定し、前記熱拡散率測定値に密度(重量/体積)および比熱(DSCを用いた比熱測定値)を掛けて熱伝導度を算出し、その結果を下記表2に示した。
【0074】
【0075】
前記表2から、本発明の製造方法を使用して製造されたポリイミドフィルムから製造された実施例9~16のグラファイトシートが、そうでない比較例5~8に比べて熱伝導度に優れたことが分かる。
【0076】
これまで、本発明について実施例を中心に検討した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で変形された形態で具現できることが理解されるだろう。したがって、開示された実施例は限定的な観点ではなく、説明的な観点から考慮されるべきである。本発明の範囲は、前述の説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にある全ての相違点は本発明に含まれるものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、熱伝導度に優れたグラファイトシート用ポリイミドフィルム製造方法およびグラファイトシートの製造方法を提供する効果を有する。