(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】静電チャック
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240531BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2020036020
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】菅家 篤
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277545(JP,A)
【文献】特開2005-223185(JP,A)
【文献】特開2005-245106(JP,A)
【文献】特開平09-321128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被吸着面が絶縁体で形成された絶縁性基板を吸着する絶縁性基板吸着用静電チャックであって、
セラミックス基台と、
前記セラミックス基台の一方の主面に形成され、前記絶縁性基板を吸着する吸着面を有する絶縁層と、
前記セラミックス基台と前記絶縁層との間に形成される一対の電極と、を備え、
前記絶縁層は、前記セラミックス基台と同一のセラミックス焼結体であり、
前記絶縁層の厚みDは、0.001mm以上
0.09mm以下であり、
前記一対の電極の電極間の距離Gは、0.3mm以上
1.5mm以下であ
り、
前記一対の電極の電極幅Wは、0.1mm以上0.9mm以下であることを特徴とする絶縁性基板吸着用静電チャック。
【請求項2】
前記絶縁層の吸着面の最大寸法が290mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁性基板吸着用静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性基板を吸着保持する静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造装置等において、ガラス基板などの絶縁性基板を保持する双極型静電チャックが用いられている。絶縁性基板を静電吸着するには、隣り合う電極に異なる電圧を印加することで不均一電界を発生させ、グレーディエント力(gradient力)を発揮させることが有効である。
【0003】
特許文献1は、電極のすぐ上に被吸着基板を設置できるようにすることで、静電チャックの吸着力を高め、更に、電極には耐摩耗性のすぐれたチタン、チタンを含む化合物、酸化チタン、または窒化チタン若しくは炭化チタンなどの導電性のセラミックを用いることで被吸着基板との接触による耐久性と、パーティクルなどの異物に対しての強固さを維持できるようにする双極型静電チャックが開示されている。
【0004】
また、特許文献2は、電極間の距離は0.5mm以上2.0mm以下とし、前記電極の幅Wは1.0mm以上4.0mm以下とし、誘電体層の厚みは0.2mm以上2.0mm以下とし、更に異常放電防止のため誘電体層の体積抵抗率を1015Ω・cm以上とする静電チャックが開示されている。
【0005】
また、特許文献3は、2極以上の電極と、それを覆う誘電層とを備え、真空中で誘電層をガラス基板に接触させて吸着保持する真空貼り合わせ装置用静電チャックにおいて、前記誘電層の厚さ寸法を50~200μm、前記電極が2極の櫛歯型構造であり、この櫛歯型電極の幅寸法を0.5~1.5mm、この櫛歯型電極同士の間隔を0.5~1.5mmにしたことを特徴とする静電チャックが開示されている。
【0006】
また、特許文献4は、製膜粒子と製膜補助粒子を混在させてガス中に分散させたエアロゾルを、電極の幅が300μmより小さな、2極以上の電極を形成させた絶縁性支持プレートに吹き付けて形成させて誘電体層を形成させることで、耐電圧の高い10~50μm層厚の誘電体層とした静電チャックとし、電極間に電位差を与えて不均一電界を発生させ、この不均一電界によって被吸着物である絶縁性の基板をグラジエント力によって強固に吸着することを可能とした静電チャックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-066857号公報
【文献】特開2006-049852号公報
【文献】特開2008-027927号公報
【文献】特開2007-109827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、電極が絶縁層から突出(露出)して配置され、かつ吸着される基板と直に接しているため、周囲の環境の影響を受けやすく吸着時の高電圧印加により、電極間で放電(沿面放電)を起こす危険性がある。特許文献2では、電極を覆う絶縁層の厚みが厚く、ガラス基板の吸着能力が十分ではない。特許文献3は、絶縁層として、有機材料を用いており、クッション性があるため吸着されるガラス基板等を精密な位置に重ねあわせる用途など精密な位置合わせや吸着時のガラス基板の平坦性が必要となる用途には不向きである。
【0009】
特許文献4では、電極を覆う絶縁層が、電極の下部に位置する基台とは別の非晶質のセラミック材料で形成されている。緻密な膜で形成するとあるが、一般に非晶質は、結晶体に比べると、高電圧印加時の耐電圧に劣り、絶縁破壊の危険が高くなる。電極間隔が0.2mm以下とあり、特にガラス基板を静電吸着するような電極間に高電圧を必要とする用途では、絶縁破壊のリスクが大きい。また、シリコンウエハ等の導体基板を静電吸着する場合と異なり、ガラス基板など絶縁性基板を静電吸着するにはグレーディエント力を発揮させるため、ガラス基板の厚み全体に不平等電界を生じさせる必要がある。しかし、一般的なガラス基板の厚みが、開示されている電極間隔よりかなり大きいため、ガラス基板の厚み領域(例えば厚みの中間点)では電極間に形成された不平等電界の効果が大きくならず、吸着力が小さくなってしまう。
【0010】
特許文献1から4には上記のような課題があり、そのため、放電のリスクが低減され、絶縁性基板を高い吸着力で精度よく吸着できる絶縁性基板用の静電チャックが求められていた。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、放電のリスクが低減され、絶縁性基板を高い吸着力で精度よく吸着できる絶縁性基板用の静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の絶縁性基板吸着用静電チャックは、少なくとも被吸着面が絶縁体で形成された絶縁性基板を吸着する絶縁性基板吸着用静電チャックであって、セラミックス基台と、前記セラミックス基台の一方の主面に形成され、前記絶縁性基板を吸着する吸着面を有する絶縁層と、前記セラミックス基台と前記絶縁層との間に形成される一対の電極と、を備え、前記絶縁層は、前記セラミックス基台と同一のセラミックス焼結体であり、前記絶縁層の厚みDは、0.001mm以上0.1mm以下であり、前記一対の電極の電極間の距離Gは、0.3mm以上2.5mm以下であることを特徴としている。
【0013】
このように、セラミックス基台と同一のセラミックス焼結体とした絶縁層を所定の厚みとし、かつ、電極間の距離Gを所定の範囲にすることで、ガラス基板などの絶縁性基板に対する十分な吸着力を発揮させると共に、絶縁性基板を静電吸着するグレーディエント力を発揮させるための高電圧に対しての絶縁破壊の虞を低減することができる。これにより、絶縁性基板を高い吸着力で精度よく吸着できるため、絶縁性基板の平坦性精度を向上させることができる。
【0014】
(2)また、本発明の絶縁性基板吸着用静電チャックにおいて、前記一対の電極の電極幅Wは、0.1mm以上2.0mm以下であることを特徴としている。電極幅Wをこのような範囲にすることで、静電チャック全面に配置される電極数を十分多くすることができ、グレーディエント力の発生する領域の密度を増やすことで小さな印加電圧で十分な吸着力を得ることができる。
【0015】
(3)また、本発明の絶縁性基板吸着用静電チャックにおいて、前記絶縁層の吸着面の最大寸法が290mm以上であることを特徴としている。静電チャックの寸法を大きくすると、絶縁層を均一に薄く制御して形成することが困難であったが、本発明のように、絶縁層をセラミックス基台と同一のセラミックス焼結体とし、絶縁層の厚みD、電極間の距離Gを所定の範囲に制御することで、静電チャックの寸法を大きくしても、絶縁層を均一に薄く制御して形成できる。これにより、近年大型化している絶縁性基板に対しても対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る静電チャックの一例を示した部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る静電チャックの電極パターンの一例を示した模式図である。
【
図3】(a)~(d)、それぞれ本発明の静電チャックの製造方法の一例を示した模式的な断面図である。
【
図4】実施例および比較例の条件、および評価を示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0018】
[実施形態]
本発明の実施形態に係る静電チャックについて
図1および
図2を参照して、説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る静電チャックの一例を示した部分断面図である。また、
図2は、本発明の静電チャックの電極パターンの一例を示した模式図である。静電チャック100は、セラミックス基台10と、絶縁層20と、電極30と、を備えている。セラミックス基台10は、アルミナ、窒化アルミニウム等のセラミックス焼結体により略平板状に形成されている。セラミックス基台10は略円板状のほか、多角形板状又は楕円板状などのさまざまな形状であってもよい。
【0019】
絶縁層20は、セラミックス基台10の一方の主面に形成され、絶縁性基板を吸着する吸着面22を有する。絶縁性基板とは、少なくとも被吸着面が絶縁体で形成された基板をいう。絶縁性基板は、例えば、ガラス基板や、ガラス基板の被吸着面と対向する面に導電体層が形成された基板である。絶縁層20は、セラミックス基台10と同一のセラミックス焼結体である。また、絶縁層20は、セラミックス基台10と一体的に焼成され、形成されることが好ましい。絶縁層20は、焼成後に所定の厚みや平面度にするために研削、研磨加工等がされることが好ましい。
【0020】
絶縁層20の厚みDは、電極間の(沿面)放電、絶縁破壊等が回避される厚みであれば十分であり、電極間に電位差が維持され、グレーディエント力により静電吸着が可能となる。絶縁層20を備えることで、環境に影響を受けやすい雰囲気、例えば大気中や特定の真空度の真空中などで効果がある。そのため、放電を回避するために1μm以上の絶縁層(絶縁性薄膜)を形成しておけば一定の耐電圧向上効果が認められる。しかし、更に高い耐電圧を得るにはセラミックス基台の上に新たな絶縁層を形成するより、セラミックス基台と同じ焼成体で絶縁層を形成することが好ましい。セラミックス基台と絶縁層が強固に一体化し絶縁破壊のリスクが低減するためである。その結果、より高い静電力を発揮させることができる。同時に絶縁層はセラミックス基台と同一の焼成体からなり一体化するため、外形が精密に加工できるとともに絶縁性基板を吸着する際に絶縁層が変形することなく高い精度で絶縁性基板を静電吸着することができる。
【0021】
絶縁層20の厚みDは、0.001mm以上0.1mm以下である。また、0.05mm以上0.10mm以下であることが好ましい。0.001mm未満である場合、十分な耐電圧が得られない虞がある。また、0.01mmより小さいと絶縁層を均一に機械加工することが難しくなり手加工による調整加工が必要となり製造コストが増大する。0.05mm以上であれば絶縁層の均質な研削加工が可能になり実用性が向上する。また、0.1mmより大きい場合、ガラス基板に働く不平等電界の効果が大きくならず吸着力が小さくなる。
【0022】
なお、絶縁層20の厚みDは、吸着面22上の所定の複数の点において、渦電流式膜厚計、または超音波探傷装置により測定した値の平均値である。測定する点の数は、吸着面22全面の平均値となるように、吸着面22全面に分散する8点以上であることが好ましい。なお、測定する点は、測定の仕様により例外的に電極の幅が広くなっている場合がある。また、静電チャック100を吸着面22に垂直な複数の面で切断し、切断面をSEMや顕微鏡によって観察し、吸着面22から垂直に引いた等間隔の複数の直線で、吸着面22上の点から電極30が配置された電極層32の上層までの距離を測定した値の平均値を絶縁層20の厚みDとしてもよい。十分な数の所定の複数の点において、渦電流式膜厚計、または超音波探傷装置により測定した値の平均値は、切断面において十分な数測定した値の平均値と精度よく一致する。
【0023】
絶縁層20の吸着面22の最大寸法は、290mm以上であることが好ましい。静電チャックの寸法を大きくすると、絶縁層20を均一に薄く制御して形成することが困難であったが、本発明のように、絶縁層20をセラミックス基台10と同一のセラミックス焼結体とし、絶縁層20の厚みD、電極30間の距離Gを所定の範囲に制御することで、静電チャック100の寸法を大きくしても、絶縁層20を均一に薄く制御して形成できる。これにより、近年大型化している絶縁性基板に対しても対応できる。なお、絶縁層20の吸着面22の最大寸法とは、吸着面22の外周上の2点間の最大距離をいう。例えば、吸着面が円形の場合は直径(外径)であり、吸着面が矩形の場合は対角線の長さである。
【0024】
電極30は、セラミックス基台10と絶縁層20との間に形成される。電極30は、例えば、
図2に示されるように、異なる電圧が印加される一対の電極30a、30bにより構成され、電極30aと電極30bとが交互に配置される。なお、
図2の電極パターンは一例であり、電極30aと電極30bとが交互に配置されていれば、これとは異なる様々なパターンにすることができる。例えば、セラミックス基台10に形成された切り欠きや貫通孔などの構造を避けるように配置することもできる。
【0025】
一対の電極30a、30bの電極間の距離Gは、0.3mm以上2.5mm以下である。また、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。一対の電極30a、30bの電極間の距離Gとは、端子取り出し位置や測定点などの例外的な個所を除き、隣接し異なる電圧が印加される電極30aと電極30bとの間隙の距離である。
【0026】
一対の電極30a、30bの電極幅Wは、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。電極幅Wをこのような範囲にすることで、静電チャック全面に配置される電極数を十分多くすることができ、グレーディエント力の発生する隣り合う電極間の領域の密度を増やすことで小さな印加電圧で十分な吸着力を得ることができる。電極幅Wが2.0mmより大きくなると静電チャック全面に配置される電極数が少なく、吸着力が発現する領域が減少し吸着力が小さくなる。一対の電極30a、30bの電極幅Wとは、電極が延在する方向に垂直な方向の幅を指す。
【0027】
このように、本発明の静電チャック100は、セラミックス基台10と同一のセラミックス焼結体とした絶縁層20を所定の厚みとし、かつ、電極30間の距離Gを所定の範囲にすることで、ガラス基板などの絶縁性基板に対する十分な吸着力を発揮させると共に、絶縁性基板を静電吸着するグレーディエント力を発揮させるための高電圧に対しての絶縁破壊の虞を低減することができる。これにより、絶縁性基板を高い吸着力で精度よく吸着できるため、絶縁性基板の平坦性精度を向上させることができる。
【0028】
[静電チャックの製造方法]
本発明の静電チャックは、従前に知られたセラミック静電チャックの製法(グリーンシート積層法、粉末ホットプレス焼成法等)が適用できるが、とりわけグリーンシート積層法が好適である。以下では、グリーンシート積層法による製造方法を説明する。
図3(a)~(d)は、それぞれ本発明の静電チャックの製造方法の一例を示した模式的な断面図である。なお、
図3(a)~(d)は、それぞれ下面が静電チャックの吸着面である。
【0029】
まず、
図3(a)に示すグリーンシート積層体を作製する。最初に、純度92%以上、平均粒子径0.5μm~4μmのアルミナ粉末に有機バインダー、可塑剤、分散剤、溶剤を混合してスラリーを調製する。次に、ドクターブレード法により厚み0.3mm~2mmのグリーンシートを成形する。次に、所定のシートに導電性ペーストを印刷する。導電性ペーストは、焼成後に一対の電極となる印刷パターンで、焼成後の電極間の距離および電極幅が所定の範囲内になるように印刷する。導電性ペーストの印刷は、スクリーン印刷法、インクジェット法等により行うことができる。導電性ペーストは、例えば、タングステンペースト、モリブデンペースト等を使用することができる。次に、所定の厚みになるまで、グリーンシートの積層を繰り返す。導電性ペーストを印刷した後に積層する所定のグリーンシートには、ビアホールを形成する。このとき、ビアホールは、導電性ペーストが塗布され電極と連通している。
【0030】
次に、
図3(b)に示す凹部が形成されたグリーンシート積層体を作製する。
図3(a)に示すグリーンシート積層体に端子を接続する凹部を形成する。このとき、凹部は、導電性ペーストが塗布されビアホールと連通している。
【0031】
次に、
図3(c)に示す焼成体を作製する。
図3(b)に示す凹部が形成されたグリーンシート積層体を還元雰囲気で焼成することで一対の電極からなる電極層が埋設されたセラミックス焼結体を作製する。焼成時間は0.5時間以上10時間以下であることが好ましい。また、焼成温度は、1500℃以上1700℃以下であることが好ましい。次に、凹部に端子をロウ付けするための金属層をメッキする。金属層は、例えば、ニッケルにより形成することができる。
【0032】
次に、
図3(d)に示す静電チャックを作製する。
図3(c)に示す焼成体の絶縁層の厚みおよび平面度が所定の範囲内になるように調整する。厚みおよび平面度の調整は、研削、研磨等により行うことができる。そして、凹部に端子をロウ付けする。このようにして、本発明の静電チャックを製造することができる。
【0033】
[実施例および比較例]
純度92.0%、平均粒子径0.5μmのアルミナ粉末に有機バインダー、可塑剤、分散剤、溶剤を混合してスラリーを調製した。次に、ドクターブレード法により厚み0.65mmのグリーンシートを成形した。グリーンシートは適宜裁断後、所定のシートにタングステンペーストを印刷し、その後積層および必要な加工を施した後、還元雰囲気で焼成した。焼成後、絶縁層の厚みを調整し、端子を設けて、実施例および比較例の静電チャックを完成させた。電極パターンは特定のシートに所定のパターンをスクリーン印刷により形成した。電極パターンは
図2を参照して、電極幅、電極間隔を各々設定したものを実施例、比較例とした。したがって、実施例および比較例の電極パターンの電極幅、電極間隔、および電極の本数は、
図2とは異なる場合がある。
【0034】
(評価方法)
(1)耐電圧評価
真空チャンバ(真空度1Pa以下)内で、実施例および比較例の静電チャックの電極間に5.0kV印加し、放電または絶縁破壊の有無を調べた。
(2)静電吸着力評価
大気中で無アルカリガラス基板(φ300mm、厚み0.7mm)を、実施例または比較例の静電チャックの表面に載置し、電極間に±2.0kVを印加した。20秒経過後にガラス基板側面にプッシュプルゲージを押し当て、ガラス基板が動き出したときのゲージの値を吸着力とした。評価は、1.0kgf以上で良好とし、3.0kgfでも動き出さなかったものを特に良好とした。
【0035】
図4は、実施例および比較例の各種条件、およびその評価結果を示した表である。絶縁層の厚みDが0.001mm以上0.1mm以下であり、一対の電極の電極間の距離Gが0.3mm以上2.5mm以下であり、一対の電極の電極幅Wが0.1mm以上2.0mm以下である実施例1~9、および12は、耐電圧評価において、いずれも放電または絶縁破壊されなかった。また、静電吸着力評価において、特に良好であった。
【0036】
また、絶縁層の厚みDが0.001mm以上0.1mm以下であり、一対の電極の電極間の距離Gが0.3mm以上2.5mm以下であり、一対の電極の電極幅Wが2.0mmより大きい実施例10および11は、耐電圧評価において、いずれも放電または絶縁破壊されなかった。また、静電吸着力評価において、いずれも良好となった。実施例10または11のように、電極幅Wが2.0mmより大きくなると、チャック全面に配置される電極数が少なく、吸着力が発現する領域が減少し吸着力が小さくなったと考えられる。しかし、±2.0kV程度の比較的高い印加電圧を印加する場合、十分吸着可能であることが示された。
【0037】
比較例1は、絶縁層の厚みDが0.05mm、一対の電極の電極間の距離Gが0.1mm、一対の電極の電極幅Wが0.3mmの試料である。比較例1は、電極間隔Gが小さすぎたため、耐電圧不良が生じた。
【0038】
比較例2は、絶縁層の厚みDが0.05mm、一対の電極の電極間の距離Gが0.2mm、一対の電極の電極幅Wが0.3mmの試料である。比較例2は、耐電圧評価において、放電または絶縁破壊されなかったが、静電吸着力評価において、良好とはならなかった。比較例2は、電極間隔Gが、吸着する基板の厚みに比べ小さすぎて電界が有効に働かなかったため、吸着力が小さくなったと考えられる。
【0039】
比較例3~5は、絶縁層の厚みDが0.17mm以上0.30mm以下、一対の電極の電極間の距離Gが0.5mm、一対の電極の電極幅Wが0.9mmの試料である。また、比較例6は、絶縁層の厚みDが0.15mm、一対の電極の電極間の距離Gが1.5mm、一対の電極の電極幅Wが0.9mmの試料である。また、比較例7は、絶縁層の厚みDが0.15mm、一対の電極の電極間の距離Gが2.5mm、一対の電極の電極幅Wが2.0mmの試料である。比較例3~7は、耐電圧評価において、放電または絶縁破壊されなかったが、静電吸着力評価において、いずれも非常に小さな値となった。比較例3~7は、絶縁層が厚すぎて基板に電界が有効に働かないため、吸着力が小さくなったと考えられる。
【0040】
比較例8は、絶縁層の厚みDが0.10mm、一対の電極の電極間の距離Gが3.0mm、一対の電極の電極幅Wが2.0mmの試料である。比較例8は、耐電圧評価において、放電または絶縁破壊されなかったが、静電吸着力評価において、良好とはならなかった。比較例8は、電極間隔Gが大きすぎてチャック全面に配置される電極数が少なくなり、吸着力が発現する領域が減少したため、吸着力が小さくなったと考えられる。
【0041】
以上の実施例および比較例により、電極間隔Gは0.3mm以上であれば、耐電圧は十分であることが分かった。また、絶縁層厚みDは0.01mm以上0.10mm以下で吸着力が十分高くなり、0.10mmを超えると吸着力が急激に減少することが分かった。これは絶縁性基板の厚み領域(例えば厚みの中間点)までの距離が大きくなり、電極間で形成される不平等電界の効果が絶縁性基板に有効に働かないことと、絶縁層厚みDが小さいほど電圧印加と同時に絶縁性基板が静電チャックの基板載置面にすばやくなじんで平面矯正されるのに対して、絶縁層厚みDの値が大きくなると絶縁性基板が吸着面になじむまでの時間がかかり局所的に接触し全面で吸着されないためと推定される。
【0042】
電極幅Wは0.1mm以上、4.0mmまで評価した。0.1mm未満は印刷でのパターンが不可能で電極が形成できなかったため実施していない。Wが2.0mmより大きくなるとチャック全面に配置される電極数が少なく、吸着力が発現する領域が減少し吸着力が小さくなった。しかし、印加電圧が高い場合は、十分吸着可能であることが分かった。
【0043】
以上の結果により、本発明の静電チャックは、放電のリスクが低減され、絶縁性基板を高い吸着力で精度よく吸着できることが分かった。
【0044】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0045】
10 セラミックス基台
20 絶縁層
22 吸着面
30、30a、30b 電極
32 電極層
100 静電チャック