(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】イミドオリゴマー、ワニス、それらの硬化物、並びにそれらを用いたプリプレグ及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240531BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/24 CFG
(21)【出願番号】P 2020125758
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)革新的構造材料、「ポリイミド樹脂の長期耐熱性の改良に関する研究」および「耐熱CFRPの成形プロセス開発と材料特性評価」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】古田 武史
(72)【発明者】
【氏名】古川 誉士夫
(72)【発明者】
【氏名】横田 力男
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄一
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109021234(CN,A)
【文献】国際公開第2010/027020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、イミドオリゴマー:
【化1】
(前記一般式(1)において、
nは2≦n≦100の整数であって、
Qは、芳香族テトラカルボン酸成分(A)に由来する4価の残基を表し、
当該4価の残基は、下記一般式(2)で表される構造単位と下記一般式(3)で表される構造単位とを含み、
当該一般式(2)で表される構造単位のモル量の当該一般式(3)で表される構造単位のモル量に対するモル比(当該一般式(2)で表される構造単位のモル量/当該一般式(3)で表される構造単位のモル量)は
40/
60~
60/
40であり、
【化2】
Yは、芳香族ジアミン成分(B)に由来する2価の残基を表し、
当該2価の残基は、下記一般式(4)で表される構造単位を含み、
【化3】
(前記一般式(4)において、
X
1は、(i)直接結合、または、(ii)エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基および9,9-フルオレニリデン基からなる群から選択される何れか1種の2価の結合基を示し、
(i)R
1~R
5のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、
R
1~R
5の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、
R
1~R
5の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、
R
6~R
10のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、
R
6~R
10の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(ii)R
1~R
5のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、
R
1~R
5の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、
R
6~R
10のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、
R
6~R
10の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、
R
6~R
10の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
Zは、下記一般式(5)で表される構造単位および芳香族ジアミン成分(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位であり、
【化4】
当該Z100モル%中、前記一般式(5)で表される構造単位の含有量は85モル%~100モル%であ
り、
少なくとも1つのYは、非対称かつ非平面構造である構造単位を含み、
少なくとも1つのYは、左右対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分に由来する2価の残基である。)。
【請求項2】
請求項1に記載のイミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニス。
【請求項3】
請求項1に記載のイミドオリゴマーを加熱硬化してなる硬化物。
【請求項4】
請求項2に記載のワニスを加熱硬化してなる硬化物。
【請求項5】
請求項1に記載のイミドオリゴマー、または請求項2に記載のワニスを加熱硬化してなるフィルム形状の硬化物。
【請求項6】
請求項2に記載のワニスを強化繊維に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項7】
請求項6に記載のプリプレグを加熱硬化してなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミドオリゴマー、ワニス、それらの硬化物、並びにそれらを用いたプリプレグ及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは高分子の中で最高レベルの耐熱性を有し、機械的特性および電気的特性などにも優れていることから、航空宇宙および電気電子などの広い分野で素材として使用されている。
【0003】
ポリイミドの末端を付加反応性官能基を含む末端封止剤で封止したイミドオリゴマーは、一般にポリイミドと呼ばれているものに比べて低分子量で溶融流動性に優れ、当該イミドオリゴマーの硬化物は高い耐熱性を示す。そのため、このようなイミドオリゴマーは、成形品または繊維強化複合材料のマトリクス樹脂として従来から用いられている。
【0004】
イミドオリゴマーのなかでも、末端を4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物で封止したイミドオリゴマーは、成形性と耐熱性と機械的特性とのバランスに優れているとされる。例えば、特許文献1には、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とを含む原料化合物から合成され、末端を4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物で変性した末端変性イミドオリゴマー、および、その硬化物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の硬化物は、優れた熱的特性および機械的特性を有している。同時に、特許文献1に記載の硬化物は、熱酸化安定性(TOS)の観点から、更なる改善の余地があると考えられる。また、特許文献1に記載の末端変性イミドオリゴマーを有機溶媒に溶解してなるワニスは、保存安定性の観点から、更なる改善の余地があると考えられる。
【0007】
本発明の一実施形態は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、保存安定性が良好なワニスと優れた熱酸化安定性(TOS)を示す硬化物とを提供し得る、イミドオリゴマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の知見を独自に見出し、本発明を完成させるに至った:芳香族テトラカルボン酸成分に由来する構造単位として特定の構造単位を特定の比率で含むイミドオリゴマーは、保存安定性が良好なワニスと優れた熱酸化安定性(TOS)を示す硬化物とを提供することができる。
【0009】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の態様を含む。
〔1〕下記一般式(1)で表される、イミドオリゴマー:
【0010】
【0011】
(前記一般式(1)において、nは2≦n≦100の整数であって、Qは、芳香族テトラカルボン酸成分(A)に由来する4価の残基を表し、当該4価の残基は、下記一般式(2)で表される構造単位と下記一般式(3)で表される構造単位とを含み、当該一般式(2)で表される構造単位のモル量の当該一般式(3)で表される構造単位のモル量に対するモル比(当該一般式(2)で表される構造単位のモル量/当該一般式(3)で表される構造単位のモル量)は20/80~80/20であり、
【0012】
【0013】
Yは、芳香族ジアミン成分(B)に由来する2価の残基を表し、当該2価の残基は、下記一般式(4)で表される構造単位を含み、
【0014】
【0015】
(前記一般式(4)において、X1は、(i)直接結合、または、(ii)エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基および9,9-フルオレニリデン基からなる群から選択される何れか1種の2価の結合基を示し、(i)R1~R5のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、R1~R5の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R1~R5の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R6~R10の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、(ii)R1~R5のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R1~R5の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、R6~R10の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R6~R10の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
Zは、下記一般式(5)で表される構造単位および芳香族ジアミン成分(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位であり、
【0016】
【0017】
当該Z100モル%中、前記一般式(5)で表される構造単位の含有量は85モル%~100モル%である。)。
〔2〕〔1〕に記載のイミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニス。
〔3〕〔1〕に記載のイミドオリゴマーを加熱硬化してなる硬化物。
〔4〕〔2〕に記載のワニスを加熱硬化してなる硬化物。
〔5〕〔1〕に記載のイミドオリゴマー、または〔2〕に記載のワニスを加熱硬化してなるフィルム形状の硬化物。
〔6〕〔2〕に記載のワニスを強化繊維に含浸させてなるプリプレグ。
〔7〕〔6〕に記載のプリプレグを加熱硬化してなる繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態によれば、保存安定性が良好なワニスと優れた熱酸化安定性(TOS)を示す硬化物とを提供し得る、イミドオリゴマーを提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0020】
〔1.イミドオリゴマー〕
本発明の一実施形態におけるイミドオリゴマーは、下記一般式(1)で表される:
【0021】
【0022】
(前記一般式(1)において、nは2≦n≦100の整数であって、Qは、芳香族テトラカルボン酸成分(A)に由来する4価の残基を表し、当該4価の残基は、下記一般式(2)で表される構造単位と下記一般式(3)で表される構造単位とを含み、当該一般式(2)で表される構造単位のモル量の当該一般式(3)で表される構造単位のモル量に対するモル比(当該一般式(2)で表される構造単位のモル量/当該一般式(3)で表される構造単位のモル量)は20/80~80/20であり、
【0023】
【0024】
Yは、芳香族ジアミン成分(B)に由来する2価の残基を表し、当該2価の残基は、下記一般式(4)で表される構造単位を含み、
【0025】
【0026】
(前記一般式(4)において、X1は、(i)直接結合、または、(ii)エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基および9,9-フルオレニリデン基からなる群から選択される何れか1種の2価の結合基を示し、(i)R1~R5のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、R1~R5の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R1~R5の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R6~R10の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、(ii)R1~R5のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R1~R5の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、R6~R10の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R6~R10の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
Zは、下記一般式(5)で表される構造単位および芳香族ジアミン成分(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位であり、
【0027】
【0028】
当該Z100モル%中、前記一般式(5)で表される構造単位の含有量は85モル%~100モル%である。)。
【0029】
本発明の一実施形態におけるイミドオリゴマーは、前記構成を有するため、保存安定性が良好なワニスと優れた熱酸化安定性(TOS)を示す硬化物とを提供することができる、という利点を有する。
【0030】
本明細書において、イミドオリゴマーは、特に断りがない限り、末端変性イミドオリゴマーと同義として使用する。また、本発明一実施形態に係るイミドオリゴマーは、前記一般式(1)で表される複数種のイミドオリゴマーの集合体であってもよい。本明細書では、本発明の一施形態に係るイミドオリゴマーを、前記一般式(1)で表される複数種のイミドオリゴマーの集合体と想定して説明する。
【0031】
本明細書において、「本発明の一実施形態におけるイミドオリゴマー」を「本イミドオリゴマー」と称する場合もあり、「芳香族テトラカルボン酸成分(A)」を「(A)成分」と称する場合もあり、「芳香族ジアミン成分(B)」を「(B)成分」と称する場合もある。本明細書において、「一般式(2)で表される構造単位」、「一般式(3)で表される構造単位」、「一般式(4)で表される構造単位」および「一般式(5)で表される構造単位」を、それぞれ、「構造単位(2)」、「構造単位(3)」、「構造単位(4)」および「構造単位(5)」と称する場合もある。
【0032】
本イミドオリゴマーは、該イミドオリゴマーを溶媒に溶解させることによりワニスを提供できる。本イミドオリゴマーは、当該イミドオリゴマーを加熱して硬化させることにより、硬化物を提供できる。前記ワニスは、当該ワニスを加熱して硬化させることにより、硬化物を提供できる。本明細書において、「本イミドオリゴマーを加熱硬化してなる硬化物」および「本イミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニスを加熱硬化してなる硬化物」を「本イミドオリゴマーから得られる硬化物」と総称する場合もある。
【0033】
<芳香族テトラカルボン酸成分(A)>
前記一般式(1)で表される本イミドオリゴマーにおいて、Qは、(A)成分に由来する4価の残基である。(A)成分に由来する4価の残基とは、(A)成分に由来する単量体単位、(A)成分に由来する構造単位または(A)成分に由来する4価の有機基ともいえる。
【0034】
本明細書において、「芳香族テトラカルボン酸成分」には、芳香族テトラカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸二無水物、並びに、芳香族テトラカルボン酸のエステルおよび塩などの芳香族テトラカルボン酸誘導体が含まれる。
【0035】
(A)成分に由来する4価の残基、すなわちQは、(i)構造単位(2)および構造単位(3)を含み、かつ、(ii)構造単位(2)のモル量の構造単位(3)のモル量に対するモル比(構造単位(2)のモル量/構造単位(3)のモル量)は80/20~20/80である。本イミドオリゴマーは当該構成を有することにより、(i)保存安定性が良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ熱酸化安定性(TOS)に優れる硬化物を提供できる。前記モル比が80/20~20/80の範囲外である場合、(i)イミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニスの保存安定性が十分でない場合、並びに(ii)イミドオリゴマーから得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)および/または熱酸化安定性(TOS)が低くなる場合がある。
【0036】
本明細書において、「ガラス転移温度」を「Tg」と称する場合もある。本明細書において、ワニスの保存安定性、硬化物のガラス転移温度(Tg)および硬化物の熱酸化安定性(TOS)は、それぞれ、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0037】
本明細書において、(A)成分の構造以外の構造が本イミドオリゴマーと共通しているイミドオリゴマーを、イミドオリゴマーSとする。本明細書において、「ワニスの保存安定性が良好である」とは、本イミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニスが、イミドオリゴマーSを溶媒に溶解してなるワニスと比較した場合に、保存安定性が良好である(保存安定性に優れている)ことを意図している。本明細書において、「硬化物が熱酸化安定性に優れる」とは、本イミドオリゴマーから得られる硬化物が、イミドオリゴマーSを加熱硬化してなる硬化物および/またはイミドオリゴマーSを溶媒に溶解してなるワニスを加熱硬化してなる硬化物と比較した場合に、熱酸化安定性に優れていることを意図している。
【0038】
構造単位(2)は、例えば1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物に由来する4価の残基であり、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物に由来する構造単位、単量体単位または4価の有機基ともいえる。本明細書において、「1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物」には、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)、並びに、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸のエステルおよび塩などの1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸誘導体が含まれる。
【0039】
構造単位(3)は、例えば3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物に由来する4価の残基であり、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物に由来する構造単位、単量体単位または4価の有機基ともいえる。本明細書において、「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物」には、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、並びに、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸のエステルおよび塩などの3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸誘導体が含まれる。
【0040】
(A)成分に由来する4価の残基(すなわちQ)において、構造単位(2)のモル量の、構造単位(3)のモル量に対するモル比(構造単位(2)のモル量/構造単位(3)のモル量)は20/80~80/20であり、30/70~70/30であることが好ましく、40/60~60/40であることがより好ましい。当該構成を有するイミドオリゴマーは、(i)保存安定性がより良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)がより高く、かつ熱酸化安定性(TOS)により優れる硬化物を提供できる。
【0041】
前記モル比が20/80であるとは、(A)成分に由来する4価の残基において、構造単位(2)および構造単位(3)の合計100モル%中、構造単位(2)の含有量が20モル%以上であることを意図する。構造単位(2)および構造単位(3)の合計100モル%中、構造単位(2)の含有量が20モル%未満である場合、イミドオリゴマーから得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなるおよび/または熱酸化安定性(TOS)が劣る場合がある。
【0042】
前記モル比が80/20であるとは、(A)成分に由来する4価の残基において、構造単位(2)および構造単位(3)の合計100モル%中、構造単位(3)の含有量が20モル%以上であることを意図する。構造単位(2)および構造単位(3)の合計100モル%中、構造単位(3)の含有量が20モル%未満である場合、イミドオリゴマーから得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなるおよび/または熱酸化安定性(TOS)が劣る場合がある。
【0043】
(A)成分に由来する4価の残基(すなわちQ)は、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、構造単位(2)および構造単位(3)以外の構造単位を含んでいてもよい。換言すれば、(A)成分に由来する4価の残基は、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物以外の芳香族テトラカルボン酸成分に由来する4価の残基を含んでいてもよい。本明細書において、「1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物以外の芳香族テトラカルボン酸成分」を「他の芳香族テトラカルボン酸成分」と称する場合もある。他の芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、4,4’-スルホニルジフタル酸化合物、4,4’-チオジフタル酸化合物、4,4’-オキシジフタル酸化合物、3,4’-オキシジフタル酸化合物、4,4’-イソプロピリデンジフタル酸化合物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸化合物、4,4’-[1,4-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、4,4’-[1,3-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸化合物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸化合物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸化合物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン化合物、などが挙げられる。本発明の一実施形態において、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物に加えて、上述した他の芳香族テトラカルボン酸成分の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本イミドオリゴマーにおいて、(A)成分に由来する4価の残基(すなわちQ)は、当該(A)成分に由来する4価の残基100モル%中、構造単位(2)を20モル%以上含むことが好ましく、30モル%以上含むことがより好ましく、40モル%以上含むことがさらに好ましい。当該構成によると、本イミドオリゴマーは、(i)保存安定性が良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ熱酸化安定性(TOS)に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0045】
本イミドオリゴマーにおいて、(A)成分に由来する4価の残基(すなわちQ)は、当該(A)成分に由来する4価の残基100モル%中、構造単位(3)を20モル%以上含むことが好ましく、30モル%以上含むことがより好ましく、40モル%以上含むことがさらに好ましい。当該構成によると、本イミドオリゴマーは、(i)保存安定性が良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ熱酸化安定性(TOS)に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0046】
本イミドオリゴマーにおいて、(A)成分に由来する4価の残基(すなわちQ)は、当該(A)成分に由来する4価の残基100モル%中、構造単位(2)および構造単位(3)を合計で40モル%以上含むことが好ましく、50モル%以上含むことがより好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、本イミドオリゴマーは、(i)保存安定性がより良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)がより高く、かつ熱酸化安定性(TOS)により優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0047】
<芳香族ジアミン成分(B)>
前記一般式(1)で表される本イミドオリゴマーにおいて、Yは、(B)成分に由来する2価の残基である。(B)成分に由来する2価の残基とは、(B)成分に由来する単量体単位、(B)成分に由来する構造単位または(B)成分に由来する2価の有機基ともいえる。
【0048】
(B)成分に由来する2価の残基、すなわちYは、対称かつ平面構造である構造単位であってもよく、対称かつ非平面構造である構造単位であってもよく、非対称かつ平面構造である構造単位であってもよく、非対称かつ非平面構造である構造単位であってもよい。
【0049】
(B)成分に由来する2価の残基(すなわちY)は、非対称かつ非平面構造である構造単位を含むことが好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは(i)成形性に優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性が良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集が抑えられ、かつ、保存安定性が良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。本明細書において、「イミドオリゴマーの成形性」とは、(i)高温であるイミドオリゴマーの溶融流動性、および(ii)イミドオリゴマーの最低溶融粘度の程度、を包含する概念である。本明細書において、(i)高温であるイミドオリゴマーの溶融流動性が高いほど、および/または、(ii)イミドオリゴマーの最低溶融粘度が低いほど、イミドオリゴマーが成形性に優れることを意図する。本明細書において、「硬化物の可撓性」とは、硬化物に外部から力が加わったときの硬化物の変形のし易さを意図する。本明細書において、硬化物の引張破断伸びが大きいほど、硬化物が可撓性に優れることを意図する。
【0050】
非対称かつ非平面構造である構造単位は、非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分に由来する構造単位であり、当該芳香族ジアミン成分に由来する単量体単位または2価の有機基ともいえる。3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(別名;3,4’-ODA)は、非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分であり、80℃以下の融点を有する、固体である。3,4’-ODAと比較して、3,4’-ODA以外の非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分は、保管および輸送がし易く、かつ反応基への供給がスムーズである等、取り扱い性に優れるという利点を有する。そのため、(B)成分に由来する2価の残基は、3,4’-ODA以外の非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分に由来する構造単位を含むことが好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、非対称かつ非平面構造である構造単位を含むことによる利点に加えて、生産効率に優れるという利点も有する。
【0051】
(B)成分に由来する2価の残基は構成単位(4)を含む。構成単位(4)は、非対称かつ非平面構造である構造単位であるが、3,4’-ODAに由来する構造単位ではない。すなわち、本イミドオリゴマーは(B)成分に由来する2価の残基において構成単位(4)を含むことにより、(i)成形性に優れる、(ii)生産効率に優れる、(iii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性が良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集が抑えられ、かつ、保存安定性が良好なワニスを提供できる、および(iv)可撓性に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0052】
構造単位(4)の好ましい態様としては、一般式(4)のX1およびR1~R10が下記の態様である構造単位が挙げられる:X1がエーテル基であり、(i)R1がフェニル基であり、R3がイミド基の窒素原子と直接結合し、R2、R4およびR5が水素原子であり、かつ、R8がイミド基の窒素原子と直接結合し、R6、R7、R9およびR10が水素原子であるか、または(ii)R3がイミド基の窒素原子と直接結合し、R1、R2、R4およびR5が水素原子であり、かつ、R6がフェニル基であり、R8がイミド基の窒素原子と直接結合し、R7、R9およびR10が水素原子である。このような構成を有する構造単位(4)を、以下、構造単位(4A)と称する場合もある。本イミドオリゴマーが(B)成分に由来する2価の残基において構成単位(4A)を含む場合、当該イミドオリゴマーは(i)成形性により優れる、(ii)生産効率により優れる、(iii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がより良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がより抑えられ、かつ、保存安定性がより良好なワニスを提供できる、および(iv)可撓性により優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0053】
構造単位(4A)は、例えば2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(別名;Ph-ODA)に由来する2価の残基であり、Ph-ODAに由来する構造単位、単量体単位または2価の有機基ともいえる。
【0054】
構造単位(4)は、当該構造単位(4)100モル%中、構造単位(4A)を50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、(i)成形性にさらに優れる、(ii)生産効率にさらに優れる、(iii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がさらに良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がさらに抑えられ、かつ、保存安定性がさらに良好なワニスを提供できる、および(iv)可撓性にさらに優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0055】
(B)成分に由来する2価の残基(すなわちY)は、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、構造単位(4)以外の構造単位を含んでいてもよい。例えば、(B)成分に由来する2価の残基は、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、Ph-ODA以外の芳香族ジアミン成分に由来する2価の残基を含んでいてもよい。本明細書において、「構造単位(4)を提供し得る芳香族ジアミン以外の芳香族ジアミン成分」を「他の芳香族ジアミン成分」と称する場合もある。他の芳香族ジアミン成分としては、(a)左右対称かつ平面構造を有する芳香族ジアミン成分である、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、4,6-ジエチル-2-メチル-1,3-ジアミノベンゼンおよび2,6-ジアミノトルエンなど、(b)左右対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分である、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジエチルアニリン)、ビス(2-エチル-6-メチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(別名;4,4’-ODA)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル(別名;3,3’-ODA)、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(別名;BAFL)、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルおよび4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルなど、(c)左右非対称かつ平面構造を有する芳香族ジアミン成分である、2,6-ジエチル-1,3-ジアミノベンゼン、2,5-ジアミノトルエンおよび2,4-ジアミノトルエンなど、並びに(d)左右非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分である、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(別名;3,4’-ODA)など、が挙げられる。本発明の一実施形態において、構造単位(4)を提供し得る芳香族ジアミン(例えばPh-ODA)に加えて、上述した他の芳香族ジアミン成分の1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(B)成分に由来する2価の残基は、構造単位(4)以外の構造単位として、非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分に由来する2価の残基を含むことが好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、(i)成形性に優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性が良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集が抑えられ、かつ、保存安定性が良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。また、(B)成分に由来する2価の残基は、構造単位(4)以外の構造単位として、非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分であり、かつ3,4’-ODA以外の芳香族ジアミン成分に由来する2価の残基を含むことがより好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、上述した利点に加えて、さらに、生産効率に優れるという利点も有する。
【0057】
本イミドオリゴマーにおいて、(B)成分に由来する2価の残基(すなわちY)は、当該(B)成分に由来する2価の残基100モル%中、構造単位(4)を50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、(i)成形性により優れる、(ii)生産効率により優れる、(iii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がより良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がより抑えられ、かつ、保存安定性がより良好なワニスを提供できる、および(iv)可撓性により優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0058】
本イミドオリゴマーにおいて、(B)成分に由来する2価の残基(すなわちY)は、当該(B)成分に由来する2価の残基100モル%中、構造単位(4A)を50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、(i)成形性にさらに優れる、(ii)生産効率にさらに優れる、(iii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がさらに良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がさらに抑えられ、かつ、保存安定性がさらに良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性にさらに優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0059】
耐熱性が向上することから、(B)成分に由来する2価の残基が、構造単位(4)以外の構造単位として、BAFLに由来する2価の残基を含む態様もまた、好ましい。本イミドオリゴマーにおいて、(B)成分に由来する2価の残基(すなわちY)は、当該(B)成分に由来する2価の残基100モル%中、(i)構造単位(4)を80モル%~95モル%含み、かつBAFLに由来する2価の残基を5モル%~20モル%含むことが好ましく、(ii)構造単位(4)を85モル%~90モル%含み、かつBAFLに由来する2価の残基を10モル%~15モル%含むことがより好ましい。
【0060】
<末端封止剤(C)>
前記一般式(1)で表される本イミドオリゴマーにおいて、Zは、(i)構造単位(5)および芳香族ジアミン成分(B)に由来する構造単位からなる群から選択される構造単位である。具体的に、本イミドオリゴマーは、一般式(1)に示される2つのZのうち、(i)2つのZが共に構造単位(5)であるか、(ii)いずれか1つのZが構造単位(5)であり、かつ他の1つのZが芳香族ジアミン成分(B)に由来する構造単位であるか、(iii)2つのZが共に芳香族ジアミン成分(B)に由来する構造単位である。
【0061】
構造単位(5)は、フェニルエチニル基を含む末端封止剤(C)に由来する構造単位である。本明細書において、「末端封止剤(C)」を「(C)成分」と称する場合もある。本イミドオリゴマーにおけるZが構造単位(5)を含む場合、当該イミドオリゴマーは、少なくとも何れかも一方の末端が(C)成分によって封止されている(変性されている)ともいえる。
【0062】
構造単位(5)は、例えば4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物に由来する構造単位であり、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物に由来する構造単位または単量体単位ともいえる。本明細書において、「4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物」には、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物(PEPA)、並び、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸のエステルおよび塩などの4-(2-フェニルエチニル)フタル酸誘導体が含まれる。
【0063】
本イミドオリゴマーは末端に構造単位(5)を含むことにより、当該イミドオリゴマーから得られる硬化物が優れた耐熱性および優れた機械的特性を有するという利点を有する。本明細書において、「硬化物の機械的特性」とは、硬化物の引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸びなど硬化物の引張物性、を包含する概念である。なお、本明細書において、引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸びとは、それぞれ、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0064】
本イミドオリゴマーは、Z100モル%中、構造単位(5)の含有量が85モル%~100モル%であり、87モル%~100モル%であることが好ましく、90モル%~100モル%であることがより好ましく、92モル%~100モル%であることがさらに好ましく、95モル%~100モル%であることが特に好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーから得られる硬化物がより優れた耐熱性および機械的特性を示すという利点を有する。
【0065】
<イミドオリゴマーの組成および物性>
前記一般式(1)で表される本イミドオリゴマーにおいて、nは、(A)成分と(B)成分とが反応して生成する繰り返し構造単位の数を表す整数であり、重合度nと称する場合もある。重合度nは、2≦n≦100あり、2≦n≦75が好ましく、2≦n≦50がより好ましく、2≦n≦30がさらに好ましく、2≦n≦10が特に好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、(i)成形性に優れる、および(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性が良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集が抑えられ、かつ、保存安定性が良好なワニスを提供できる、という利点を有する。イミドオリゴマーの重合度nは、イミドオリゴマーの分子量にも影響を与え得る。
【0066】
本イミドオリゴマーは、重合度nまたは分子量の異なるイミドオリゴマーを含む混合物であってもよい。また、本イミドオリゴマーは、本イミドオリゴマーと、本イミドオリゴマー以外のイミドオリゴマー、ポリイミド、可溶性ポリイミドおよび/または熱可塑性ポリイミドとの混合物であってもよい。本イミドオリゴマー以外のイミドオリゴマー、ポリイミド、可溶性ポリイミドまたは熱可塑性ポリイミドは、具体的には市販品であってもよく、種類などについて特に限定はない。本イミドオリゴマーと、本イミドオリゴマー以外のイミドオリゴマー、ポリイミド、可溶性ポリイミドおよび/または熱可塑性ポリイミドとの量比についても、特に限定はない。
【0067】
本イミドオリゴマーは、室温(例えば15℃~30℃)の溶媒に対する溶解性が良好である。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、γ-ブチロラクトン(GBL)およびシクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0068】
本イミドオリゴマーは、室温の溶媒に対して、20重量%以上溶解可能であることが好ましく、30重量%以上溶解可能であることがより好ましい。本イミドオリゴマーは、室温のNMPに対して、20重量%以上溶解可能であることが好ましく、30重量%以上溶解可能であることがより好ましい。当該構成によると、イミドオリゴマーは、保存安定性が良好なワニスを提供できるという利点を有する。なお、溶解度に関してここに記載した「重量%」は、溶媒とイミドオリゴマーとの混合物100重量%中のイミドオリゴマーの重量%を意図する。
【0069】
本イミドオリゴマーの最低溶融粘度は、300~400℃の間において、10000Pa・s以下が好ましく、5000Pa・s以下がより好ましく、1000Pa・s以下がさらに好ましく、300Pa・s以下が特に好ましい。最低溶融粘度が前記範囲内である場合、イミドオリゴマーは成形性に優れるという利点を有する。また、最低溶融粘度が前記範囲内である場合、イミドオリゴマーを用いた繊維強化複合材料の成形過程において、高温条件下でプリプレグ中に含まれる溶媒が系外に除去された後に、残存したイミドオリゴマーが溶融して繊維間に含浸されるという利点も有する。なお、本明細書において、最低溶融粘度とは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0070】
〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの製造方法は、特定の芳香族テトラカルボン酸成分(A)、特定の芳香族ジアミン成分(B)および特定の末端封止剤(C)を用いることを除き、特に限定されず、任意の方法であってもよい。例えば、本イミドオリゴマーは、特定の芳香族テトラカルボン酸成分(A)、特定の芳香族ジアミン成分(B)および特定の末端封止剤(C)を用いることを除き、公知の任意の方法を用いて得ることができる。
【0071】
本明細書において、「本発明の一実施形態におけるイミドオリゴマーの製造方法」を「本製造方法」と称する場合もある。
【0072】
本製造方法の一例について以下に説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、〔1.イミドオリゴマー〕の項の記載を援用する。
【0073】
本製造方法は、(i)芳香族テトラカルボン酸成分(A)、芳香族ジアミン成分(B)および末端封止剤(C)を混合する混合工程、および(ii)得られた混合物を加熱する加熱工程、を有し得る。混合工程で使用した各成分が100%消費される場合、混合工程で使用した各成分に由来する構造単位を、混合工程で使用した各成分の使用量に相当する量含む、イミドオリゴマーを得ることができる。
【0074】
混合工程では、(A)成分として、少なくとも、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を使用することが好ましい。当該構成によると、(A)成分に由来する4価の残基において構造単位(2)および構造単位(3)を含むイミドオリゴマーを得ることができる。混合工程では、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物の使用量(モル)の、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の使用量(モル)に対する比(1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物の使用量(モル)/3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の使用量(モル))が、20/80~80/20であることが好ましく、30/70~70/30であることがより好ましく、40/60~60/40であることがさらに好ましい。当該構成によると、(A)成分に由来する4価の残基において構造単位(2)および構造単位(3)を含み、かつ構造単位(2)のモル量の構造単位(3)のモル量に対するモル比(構造単位(2)のモル量/構造単位(3)のモル量)が20/80~80/20であるイミドオリゴマーを得ることができる。それ故、当該構成によると、(i)保存安定性がより良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)がより高く、かつ熱酸化安定性(TOS)により優れる硬化物を提供し得るイミドオリゴマーを得ることができる。
【0075】
(A)成分は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むことがより好ましい。
【0076】
混合工程では、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の合計使用量(100モル%)中、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物の使用量が、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。当該構成によると、(i)保存安定性がより良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)がより高く、かつ熱酸化安定性(TOS)により優れる硬化物を提供し得るイミドオリゴマーを得ることができる。
【0077】
混合工程では、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の合計使用量(100モル%)中、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の使用量が、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。当該構成によると、(i)保存安定性がより良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)がより高く、かつ熱酸化安定性(TOS)により優れる硬化物を提供し得るイミドオリゴマーを得ることができる。
【0078】
混合工程では、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物以外の芳香族テトラカルボン酸成分、すなわち他の芳香族テトラカルボン酸成分を使用してもよい。他の芳香族テトラカルボン酸成分としては、〔1.イミドオリゴマー〕の項に記載の他の芳香族テトラカルボン酸成分を使用できる。
【0079】
混合工程では、芳香族テトラカルボン酸成分(A)の総使用量(100モル%)中、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物の使用量が、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。当該構成によると、(i)保存安定性がより良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)がより高く、かつ熱酸化安定性(TOS)により優れる硬化物を提供し得るイミドオリゴマーを得ることができる。
【0080】
混合工程では、芳香族テトラカルボン酸成分(A)の総使用量(100モル%)中、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の使用量が、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。当該構成によると、(i)保存安定性がより良好なワニス、並びに(ii)ガラス転移温度(Tg)がより高く、かつ熱酸化安定性(TOS)により優れる硬化物を提供し得るイミドオリゴマーを得ることができる。
【0081】
混合工程では、芳香族テトラカルボン酸成分(A)の総使用量(100モル%)中、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の合計使用量が、40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0082】
混合工程では、(B)成分として、少なくとも、非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分を使用することが好ましい。当該構成によると、得られるイミドオリゴマーは、(i)成形性に優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性が良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集が抑えられ、かつ、保存安定性が良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0083】
混合工程では、(B)成分として、少なくとも、3,4’-ODA以外の非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分を使用することが好ましい。当該構成によると、得られるイミドオリゴマーが非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分を使用することによる利点を有することに加えて、製造方法が生産効率に優れるという利点も有する。
【0084】
混合工程では、(B)成分として、少なくとも、下記一般式(6)で表される化合物を使用することが好ましい:
【0085】
【0086】
(一般式(6)中、X2は、(i)直接結合、または、(ii)エーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、六フッ素化イソプロピリデン基および9,9-フルオレニリデン基からなる群から選択される何れか1種の2価の結合基を示し、(i)R1~R5のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、R1~R5の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R1~R5の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R6~R10の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、(ii)R1~R5のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R1~R5の残りの4つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つはアリール基およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、R6~R10の他のいずれか1つはイミド基の窒素原子との直接結合を表し、R6~R10の残りの3つはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基およびアルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)。
【0087】
本明細書において、「一般式(6)で表される化合物」を「化合物(6)」と称する場合もある。化合物(6)は、非対称かつ非平面構造を有するが、3,4’-ODAは含まない。混合工程において、使用する(B)成分が化合物(6)を含むことにより、製造方法は生産効率に優れるものとなる。混合工程において、使用する(B)成分が化合物(6)を含むことにより、(B)成分に由来する2価の残基において構成単位(4)を含むイミドオリゴマーを得ることができる。それ故、当該構成によると、得られるイミドオリゴマーは(i)成形性に優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性が良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集が抑えられ、かつ、保存安定性が良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0088】
化合物(6)の好ましい態様としては、化合物(6)のX2およびR1~R10が下記の態様である化合物が挙げられる:X2がエーテル基であり、(i)R1がフェニル基であり、R3がイミド基の窒素原子と直接結合し、R2、R4およびR5が水素原子であり、かつ、R8がイミド基の窒素原子と直接結合し、R6、R7、R9およびR10が水素原子であるか、または(ii)R3がイミド基の窒素原子と直接結合し、R1、R2、R4およびR5が水素原子であり、かつ、R6がフェニル基であり、R8がイミド基の窒素原子と直接結合し、R7、R9およびR10が水素原子である。このような構成を有する化合物(6)を、以下、化合物(6A)と称する場合もある。混合工程において、使用する(B)成分が化合物(6A)を含むことにより、製造方法は生産効率により優れるものとなる。混合工程において、使用する(B)成分が化合物(6A)を含むことにより、(B)成分に由来する2価の残基において構成単位(4A)を含むイミドオリゴマーを得ることができる。それ故、当該構成によると、得られるイミドオリゴマーは(i)成形性により優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がより良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がより抑えられ、かつ、保存安定性がより良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性により優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0089】
化合物(6A)としては、例えば、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(別名;Ph-ODA)が挙げられる。
【0090】
化合物(6)は、当該化合物(6)100モル%中、化合物(6A)を50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、80モル%以上含むことがさらに好ましく、90モル%以上含むことが特に好ましい。当該構成によると、製造方法は生産効率にさらに優れるものとなる。当該構成によると、さらに、得られるイミドオリゴマーは、(i)成形性にさらに優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がさらに良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がさらに抑えられ、かつ、保存安定性がさらに良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性にさらに優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0091】
混合工程では、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、(B)成分として、化合物(6)以外の芳香族ジアミン成分(他の芳香族ジアミン成分)を使用してもよい。他の芳香族ジアミン成分としては、〔1.イミドオリゴマー〕の項に記載の他の芳香族ジアミン成分を使用できる。
【0092】
混合工程では、(B)成分として、少なくとも、化合物(6)以外の芳香族ジアミン成分であり、かつ非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分を使用することが好ましい。当該構成によると、得られるイミドオリゴマーは、(i)成形性に優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性が良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集が抑えられ、かつ、保存安定性が良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性に優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。また、混合工程では、(B)成分として、少なくとも、化合物(6)以外の芳香族ジアミン成分であり、かつ、3,4’-ODA以外の非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分を使用することがより好ましい。当該構成によると、得られるイミドオリゴマーが上述した利点を有することに加えて、さらに、製造方法が生産効率に優れるという利点も有する。
【0093】
混合工程では、芳香族ジアミン成分(B)の総使用量(100モル%)中、化合物(6)の使用量が、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。当該構成によると、製造方法は生産効率により優れるものとなる。当該構成によると、さらに、得られるイミドオリゴマーは、(i)成形性により優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がより良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がより抑えられ、かつ、保存安定性がより良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性により優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0094】
混合工程では、芳香族ジアミン成分(B)の総使用量(100モル%)中、化合物(6A)の使用量が、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。当該構成によると、製造方法は生産効率にさらに優れるものとなる。当該構成によると、さらに、得られるイミドオリゴマーは、(i)成形性にさらに優れる、(ii)当該イミドオリゴマーの溶媒への溶解性がさらに良好となり、溶液中でイミドオリゴマー分子間の凝集がさらに抑えられ、かつ、保存安定性がさらに良好なワニスを提供できる、および(iii)可撓性にさらに優れる硬化物を提供できる、という利点を有する。
【0095】
混合工程では、(B)成分として、化合物(6)およびBAFLを使用する態様もまた、好ましい。混合工程では、芳香族ジアミン成分(B)の総使用量(100モル%)中、(i)化合物(6)の使用量が80モル%~95モル%であり、かつBAFLの使用量が5モル%~20モル%であることが好ましく、(ii)化合物(6)の使用量が85モル%~90モル%であり、かつBAFLの使用量が10モル%~15モル%であることがより好ましい。
【0096】
混合工程では、(C)成分として、少なくとも、フェニルエチニル基を含む化合物を使用することが好ましい。混合工程では、(C)成分として、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物を使用することがより好ましい。当該構成によると、Zにおいて構造単位(5)を含むイミドオリゴマーを得ることができる。それ故、当該構成によると、得られるイミドオリゴマーは、耐熱性および機械的特性に優れる硬化物を提供できるという利点を有する。
【0097】
混合工程では、末端封止剤(C)の総使用量(100モル%)中、(i)4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物の使用量が85モル%~100モル%であることが好ましく、87モル%~100モル%であることがより好ましく、90モル%~100モル%であることがより好ましく、92モル%~100モル%であることがさらに好ましく、95モル%~100モル%であることが特に好ましい。当該構成によると、得られるイミドオリゴマーは、耐熱性および機械的特性により優れる硬化物を提供できるという利点を有する。
【0098】
混合工程では、例えば、芳香族テトラカルボン酸成分(A)として芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン成分(B)として芳香族ジアミン、および末端封止剤(C)として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物を、全成分中の酸無水基の全量とアミノ基の全量とがほぼ等量になるように使用することが好ましい。混合工程では、例えば、(i)芳香族テトラカルボン酸成分(A)として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、(ii)芳香族ジアミン成分(B)としてPh-ODA、並びに(iii)末端封止剤(C)として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物を、全成分中の酸無水基の全量とアミノ基の全量とがほぼ等量になるように使用することがより好ましい。
【0099】
本イミドオリゴマーの重合度nおよび分子量は、当該イミドオリゴマーの製造で使用する(例えば混合工程で使用する)芳香族テトラカルボン酸成分(A)の使用量(モル)と芳香族ジアミン成分(B)の使用量(モル)との比率を適宜調整することで調節できる。(A)成分の使用量(モル)に対する(B)成分の使用量(モル)は化学量論的に過剰量、等量、もしくは不足量のいずれでも構わないが、化学量論的に過剰モル量であることが好ましい。(B)成分の使用量(モル)は(A)成分の使用量(モル)に対して、1.01倍~1.50倍の範囲内の量(得られるイミドオリゴマーの重合度nが平均として2~100に相当する量)であることが好ましく、1.02倍~1.50倍の範囲内の量(得られるイミドオリゴマーの重合度nが平均として2~50に相当する量)であることがより好ましい。当該構成によると、得られるイミドオリゴマーは成形性に優れ、かつ溶媒への溶解性に優れるという利点を有する。
【0100】
アミン末端のアミド酸オリゴマーを得るために、(B)成分を(A)成分に対して化学量論的に過剰モル量使用することが好ましい。(B)成分の使用量(モル)は(A)成分の使用量(モル)に対して、1.01~1.50倍の範囲内であることが好ましく、1.02~1.50倍の範囲内であることがより好ましい。アミド酸オリゴマーについては後述する。
【0101】
本明細書において、「(B)成分の使用量(モル)と(A)成分の使用量(モル)との差に相当するモル量」を、「(B)成分と(A)成分との差分量」と称する場合もある。(C)成分の使用量(モル)は、(B)成分と(A)成分との差分量の1.7倍~5.0倍であることが好ましく、1.9倍~4.0倍であることがより好ましく、1.95倍~2.0倍であることがさらに好ましい。(C)成分の使用量(モル)が(B)成分と(A)成分との差分量の1.7倍以上である場合、得られるイミドオリゴマーにおいて、未封止のアミン末端がイミドオリゴマー中に多量に残存することがない。その結果、当該イミドオリゴマーは熱酸化安定性(TOS)に優れる硬化物を提供できる。(C)成分の使用量(モル)が(B)成分と(A)成分との差分量の5.0倍以下である場合、得られるイミドオリゴマーにおいて、未反応の(C)成分が多量に残存することが無い。その結果、得られるイミドオリゴマーの硬化物の加熱成形中、あるいは繊維強化複合材料の加熱成形中に、残存した(C)成分が多量に揮発することが無いため、欠陥(ボイド)のない硬化物または繊維強化複合材料を得ることができる。
【0102】
前記加熱工程は、さらにアミド酸オリゴマー調製工程およびイミドオリゴマー調製工程を有し得る。前記アミド酸オリゴマー調製工程では、混合工程で得られた混合物を溶媒中で、例えば約100℃以下、好ましくは80℃以下の温度で反応させる。これにより、アミド-酸結合を有するオリゴマーであるアミド酸オリゴマー(アミック酸オリゴマーともいう)を調製する。次いで、イミドオリゴマー調製工程では、(i)例えば約0℃~140℃にてアミド酸オリゴマーに化学イミド化剤を添加するか、または(ii)140~275℃の高温にアミド酸オリゴマーを加熱する。これらの操作によってアミド酸オリゴマー調製工程にて調製されたアミド酸オリゴマーを脱水および環化させることにより、イミドオリゴマーを得ることができる。
【0103】
本製造方法の特に好ましい態様としては、例えば、(i)芳香族テトラカルボン酸成分(A)および芳香族ジアミン成分(B)を反応させる第一の反応工程、(ii)得られた混合物と末端封止剤(C)とを反応させる第二の反応工程、および(iii)得られた生成物をイミド化反応させる第三の反応工程、を有する態様である。第一の反応工程は、さらに以下(1)~(3)を含んでいてもよい:(1)(B)成分(好ましくはPh-ODAを含む)を溶媒中に均一に溶解させて(B)成分溶液を得る;(2)(A)成分(好ましくは1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む)を(B)成分溶液中に加える;(3)得られた溶液を例えば約5℃~60℃で反応させるとともに、(A)成分を均一に溶解させ、第一の反応溶液を得る。第二の反応工程は、さらに以下(1)および(2)を含んでいてもよい:(1)第一の反応工程にて得られた第一の反応溶液に、(C)成分(好ましくは4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物を含む)加える;(2)得られた溶液を例えば約5℃~60℃で反応させることにより、前記のアミド酸オリゴマーを含む溶液を調製する。第三の反応工程では、アミド酸オリゴマーを含む溶液を例えば140℃~275℃で5分間~24時間攪拌してアミド酸オリゴマーをイミド化反応させることにより、イミドオリゴマー(イミドオリゴマーを含む溶液)を調製する。ここで、必要であれば、イミドオリゴマーを含む溶液を室温付近まで冷却してもよい。これにより本イミドオリゴマーを得ることができる。前記第一の反応工程~第三の反応工程において、全ての反応工程あるいは一部の反応工程を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性のガスの雰囲気あるいは真空中で行うことが好適である。
【0104】
前記溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、γ-ブチロラクトン(GBL)およびシクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの溶媒の選択に関しては、可溶性ポリイミドについての公知技術を適用することができる。
【0105】
前記のようにして得られたイミドオリゴマーを含む溶液は、そのまま、あるいは適宜濃縮または希釈するかして、本イミドオリゴマーとして使用することができる。また、必要に応じて、イミドオリゴマーを含む溶液を水またはアルコールなどの貧溶媒、あるいは非溶媒などの中に注ぎ込むことにより、イミドオリゴマーを粉末状の生成物として単離できる。本イミドオリゴマーは、粉末状として使用してもよく、あるいは、必要であれば、その粉末状の生成物を溶媒に溶解して溶液として使用することもできる。
【0106】
〔3.ワニス〕
本発明の一実施形態に係るワニスは、(i)〔1.イミドオリゴマー〕の項に記載の本イミドオリゴマー、または(ii)〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕の項に記載の製造方法により製造される本イミドオリゴマー、を溶媒に溶解してなる。本発明の一実施形態に係るワニスは、上述のように粉末状の本イミドオリゴマーを溶媒に溶解して得ることができる。本発明の一実施形態に係るワニスは、また、〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕に記載の製造方法において、本イミドオリゴマーを粉末状とする前の溶液を、そのままか、または適宜濃縮もしくは希釈するかして、イミドオリゴマーの溶液組成物として得てもよい。溶媒としては、〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕に記載の溶媒が使用できる。
【0107】
本発明の一実施形態に係るワニスは、前記構成を有するため、保存安定性に優れるものである。そのため、本発明の一実施形態に係るワニスは、プリプレグおよび繊維強化複合材料の製造に好適に利用できる。本明細書において、「ワニスが保存安定性に優れる」とは、ワニスが長期間流動性を保ち、安定に保存できることを表す。
【0108】
本発明の一実施形態に係るワニスは、室温環境(例えば15℃~30℃)において保存する場合、保存開始から流動性が喪失(ゲル化)するまでの時間が24時間以上であることが好ましく、2日以上であることがより好ましく、3日以上であることがさらに好ましく、5日以上であることが特に好ましく、7日以上であることが最も好ましい。当該構成によると、室温環境での保存時間が24時間以上であってもワニスの流動性が喪失しないため、ワニスを繊維へ含浸させるプロセスにおいて簡便な取り扱いが可能となる。その結果、当該ワニスは、プリプレグおよび繊維強化複合材料を手間をかけずに高収率および低コストで提供できるという利点を有する。本明細書において、「ワニスの流動性が喪失している」とは、ワニスを入れた容器を180°傾け、その状態で30秒間保持したときに、ワニスが流れ落ちてこない状態であることを意図する。
【0109】
ワニスを長時間保存する場合には、0℃以下でワニスを保存することが好ましく、-10℃以下でワニスを保存することがより好ましい。
【0110】
ワニスを長期間保存する場合に流動性喪失(ゲル化)を防ぐ観点から、本発明の一実施形態に係るワニスの製造に用いる溶媒は、イミドオリゴマーの溶解性に優れる溶媒を用いることが好ましく、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系溶媒を用いることが好ましい。
【0111】
〔4.硬化物〕
本発明の一実施形態に係る硬化物は、(i)〔1.イミドオリゴマー〕の項に記載の本イミドオリゴマー、(ii)〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕の項に記載の製造方法により製造される本イミドオリゴマー、または(iii)〔3.ワニス〕の項に記載の本発明の一実施形態に係るワニス、を加熱硬化してなる。本明細書において「イミドオリゴマーを加熱硬化する」または「ワニスを加熱硬化する」とは、イミドオリゴマーを加熱することでイミドオリゴマーを硬化させること、または、ワニスを加熱することでワニスに含まれるイミドオリゴマーを硬化させること、を意図する。なお、本イミドオリゴマーまたは本発明の一実施形態に係るワニスを加熱すると、イミドオリゴマーの末端に有するZ(特に構造単位(5))が他のイミドオリゴマーと反応することによって高分子量となるとともに、イミドオリゴマーが硬化する。なお、その反応においては、構造単位(5)が有する三重結合、並びにその三重結合に由来する二重結合および単結合が関連すると考えられており、反応後のイミドオリゴマーの構造は非常に複雑となる。
【0112】
本発明の一実施形態に係る硬化物は、前記構成を有するため、熱酸化安定性(TOS)に優れるものである。また、本発明の一実施形態に係る硬化物は、前記構成を有するため、ガラス転移温度(Tg)が高く、かつ、可撓性、耐熱性および機械的特性に優れるという利点を有する。
【0113】
本発明の一実施形態に係る硬化物の形状は、特に限定されない。本イミドオリゴマーまたは本発明の一実施形態に係るワニスを任意の方法で所望の形状に成形すればよい。本発明の一実施形態に係る硬化物の形状としては、例えば、フィルム状、シート状などの2次元的形状、または、直方体状、棒状などの3次元的形状、などが挙げられる。例えば、フィルム形状に成形する場合について説明する。この場合、本発明の一実施形態に係るワニスを支持体に塗布し、得られた塗布物を260℃~500℃で5分間~200分間、加熱硬化することによりフィルム形状の硬化物とすることができる。
【0114】
すなわち、本発明の一実施形態には、(i)〔1.イミドオリゴマー〕の項に記載の本イミドオリゴマー、(ii)〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕の項に記載の製造方法により製造される本イミドオリゴマー、または(iii)〔3.ワニス〕の項に記載の本発明の一実施形態に係るワニス、を加熱硬化してなるフィルム(フィルム形状の硬化物)も包含される。
【0115】
本発明の一実施形態に係る硬化物は、以下のようにして得ることもできる:(1)粉末状の本イミドオリゴマーを金型などの型内に充填し、10℃~330℃、かつ0.1MPa~100MPaで1秒間~100分間程度の圧縮成形を行うことによって予備成形体を形成する;(2)当該予備成形体を280℃~500℃で10分間~40時間程度加熱硬化することによって硬化物を得る。なお、本明細書における圧力の値は全てサンプルにかかる実圧の値である。
【0116】
本発明の一実施形態に係る硬化物のガラス転移温度(Tg)は、250℃以上であることが好ましく、290℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。当該構成によると、硬化物が高温においても軟化しにくく機械的特性を維持することができるという利点を有する。
【0117】
本発明の一実施形態に係る硬化物の引張弾性率は、2.60GPa以上であることが好ましく、2.90GPa以上であることがより好ましい。引張弾性率が上述の範囲である硬化物を提供し得るイミドオリゴマーは、優れた圧縮特性を示す繊維強化複合材料を提供できるという利点を有する。
【0118】
本発明の一実施形態に係る硬化物の引張破断強度は、110MPa以上であることが好ましく、120MPa以上であることがより好ましい。引張破断強度が上述の範囲である硬化物を提供し得るイミドオリゴマーは、90度方向の機械的特性に優れる繊維強化複合材料を提供できるという利点を有する。なお繊維強化複合材料における「90度方向」とは、繊維の方向と直行する方向を意図する。
【0119】
本発明の一実施形態に係る硬化物の引張破断伸びは5.0%以上であることが好ましく、6.5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。当該構成によると、硬化物が外部からの力に対し追従して変形しやすいため壊れにくいという利点を有する。
【0120】
〔5.プリプレグ〕
本発明の一実施形態に係るプリプレグは、〔3.ワニス〕の項に記載の本発明の一実施形態に係るワニスを強化繊維に含浸させてなる。本発明の一実施形態に係るプリプレグは、例えば、本発明の一実施形態に係るワニスを強化繊維に含浸させた後、必要により、強化繊維から溶媒の一部を加熱などで蒸発除去させることによっても得られる。また、本発明の一実施形態に係るプリプレグは、後述するセミプレグから得ることもできる。
【0121】
本発明の一実施形態に係るプリプレグは、例えば、以下のようにして得ることもできる:(1)まず、粉末状の本イミドオリゴマーを溶媒に溶解するか、イミドオリゴマーを含む反応溶液をそのまま用いるか、あるいは当該反応溶液を適宜濃縮もしくは希釈するかして、イミドオリゴマーの溶液組成物(すなわちワニス)とする;(2)次に、適度にイミドオリゴマーの濃度を調整したワニスを、例えば平面状に一方向に引き揃えた強化繊維あるいは強化繊維織物などに含浸させる;(3)続いて、強化繊維あるいは強化繊維織物などを20~180℃の乾燥機中で1分間~20時間乾燥させることによりプリプレグを得る。
【0122】
本発明の一実施形態に係るプリプレグにおいて、繊維あるいは繊維織物などに付着している樹脂含有量は10~60重量%が好ましく、20~50重量%がより好ましい。なお、本明細書において、「樹脂含有量」とは、イミドオリゴマー(樹脂)の重量と繊維あるいは繊維織物などの重量とを合わせた重量に対する、繊維あるいは繊維織物などに付着しているイミドオリゴマー(樹脂)の重量を意図する。
【0123】
本発明の一実施形態に係るプリプレグにおいて、繊維あるいは繊維織物などに付着している溶媒の量は、プリプレグ全体の重量(100重量%)に対して1重量%~30重量%であることが好ましく、5重量%~25重量%であることがより好ましく、5重量%~20重量%であることがさらに好ましい。繊維あるいは繊維織物などに付着している溶媒の量が前記範囲内である場合、(i)プリプレグの積層時の取り扱いが簡便となる利点、および(ii)高温での繊維強化複合材料の成形過程においてプリプレグからのイミドオリゴマー(樹脂)の流出を阻止することができるため、優れた機械強度を発現する繊維強化複合材料を作製することができるという利点を有する。
【0124】
前記強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維およびセラミック繊維などの無機繊維、並びにポリアミド繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維およびノボロイド繊維などの有機合成繊維などが挙げられる。これらの強化繊維は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0125】
特に、プリプレグから作製される繊維強化複合材料に優れた機械的特性および高い耐熱性を発現させることができることから、前記強化繊維は炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維としては、炭素の含有率が85重量%~100重量%の範囲内にあり、少なくとも部分的にグラファイト構造を有する連続した繊維形状を有する材料であることが好ましい。このような炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、リグニン系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維などが挙げられる。これら炭素繊維の中でも、汎用的かつ安価であり、高い強度を備えていることから、PAN系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維などがより好ましい。
【0126】
一般的に、前記炭素繊維には、サイジング処理が施されている。サイジング処理が施されている炭素繊維をそのまま用いても良い。必要に応じて、サイジング剤使用量の少ない炭素繊維を用いてもよく、または有機溶剤処理もしくは加熱処理などの既存の方法にてサイジング処理が施されている炭素繊維からサイジング剤を除去することも出来る。
【0127】
サイジング剤の使用量は、炭素繊維に対して0.5重量%以下とすることが好ましく、0.2重量%以下とすることがより好ましい。通常、炭素繊維に使用されているサイジング剤はエポキシ樹脂用のものであるため、本発明の一実施形態におけるイミドオリゴマーを加熱硬化する温度(例えば280℃以上)では当該サイジング剤が分解する場合がある。炭素繊維に対しするサイジング剤使用量を前記範囲とすることにより、サイジング剤の分解物の揮発が原因となる欠陥(ボイド)などが低減された、良品質の繊維強化複合材料を得ることができる。
【0128】
また、あらかじめ炭素繊維の繊維束をエアーまたはローラーなどを用いて開繊し、炭素繊維の単糸間にイミドオリゴマー(樹脂)またはワニス(樹脂溶液)を含浸させるような処理を炭素繊維に施してもよい。炭素繊維の繊維束を開繊することによりイミドオリゴマー(樹脂)の含浸距離が短くなり、ボイドなどの欠陥がより低減されるか、あるいは無くなった繊維強化複合材料を得易くなる。
【0129】
本発明の一実施形態に係るプリプレグを構成する強化繊維材料の形態としては、UD(一方向材)、織物(平織、綾織、朱子織など)、編物、組物、不織布などの構造体が挙げられ、特に限定されるものでない。前記強化繊維材料の形態は、その目的に応じ適宜選択すれば良い。特定の形態を有する強化繊維材1種を単独で使用してもよく、異なる形態を有する複数種の強化繊維材料を組み合わせて用いることができる。
【0130】
本発明の一実施形態に係るプリプレグは、その両面のどちらか一方、あるいはそれぞれを、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂シート、あるいは紙などの被覆シートにより被覆した状態で保存または輸送することが好ましい。このような被覆状態にあるプリプレグは、ロール状態、あるいはロールから切り出されたシート状態などで保存と輸送がなされるため、取り扱いが容易であるという利点を有する。
【0131】
〔6.繊維強化複合材料〕
本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材料は、〔5.プリプレグ〕の項に記載の本発明の一実施形態に係るプリプレグを加熱硬化してなる。本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材料は、本発明の一実施形態に係るプリプレグを積層し、得られた積層体を加熱硬化して得られるものであってもよい。
【0132】
本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材料は、例えば以下のようにして得ることができる:(1)本発明の一実施形態に係るプリプレグを所望のサイズに切断し、所定枚数重ねて、積層体を得る;(2)得られた積層体をオートクレーブまたはホットプレスなどを用いて、280℃~500℃の温度かつ0.1MPa~100MPaの圧力で10分間~40時間程度加熱硬化して、繊維強化複合材料を得る。なお、前記(2)(すなわちプリプレグの加熱硬化)の前に必要であれば、得られた積層体をオートクレーブまたはホットプレスなどを用いて、200℃~310℃で常圧または減圧下で5分間~40時間程度加熱して乾燥させてもよい。その後、前記(2)において、乾燥した積層体を用いてもよい。
【0133】
本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材料は、ガラス転移温度(Tg)が300℃以上であることが好ましく、325℃以上であることがより好ましい。
【0134】
また、フィルム形状の硬化物(フィルム形状の本イミドオリゴマーの成形体)、本イミドオリゴマーの粉末またはプリプレグを繊維強化複合材料と異種材料または同種材料との間に挿入して積層体を得、得られた積層体を加熱溶融して一体化することにより、繊維強化複合材料構造体を得てもよい。ここで、異種材料としては特に限定されず、この分野で常用されるものをいずれも使用できる。異種材料としては、例えば、ハニカム形状などの金属材料およびスポンジ形状などのコア材料などが挙げられる。
【0135】
〔7.用途〕
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマー、ワニス、硬化物、プリプレグおよび繊維強化複合材料などは、航空機部材、宇宙産業用機器部材、車輌部材(例えば車輌用エンジン(周辺)部材)、搬送用アーム部材、ロボットアーム部材、ロール材、摩擦材、軸受けなどの摺動性部材などの一般産業用途をはじめとした易成形性、高い耐熱性および高い熱酸化安定性が求められる広い分野で好適に利用可能である。航空機部材であれば、エンジンのファンケース、インナーフレーム、動翼(ファンブレードなど)、静翼(構造案内翼(SGV)など)、バイパスダクト、各種配管などが好ましく挙げられる。車輌部材であれば、ブレーキ部材、エンジン部材(シリンダー、モーターケース、エアボックスなど)、エネルギー回生システム部材などが好ましく挙げられる。
【0136】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0137】
以下に本発明を説明するための実施例および比較例を示す。これら実施例は本発明を限定するものではない。まず、各物性の測定条件は次のとおりとした。
【0138】
〔試験方法〕
(1)イミドオリゴマーのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対する溶解性
室温(約23℃)で、溶媒である23℃のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)にイミドオリゴマーの粉末を溶解させ、溶け残りがなく均一溶解するイミドオリゴマーの濃度を測定した。イミドオリゴマーの濃度は、得られる溶液の重量(100重量%)中の、イミドオリゴマーの重量%で示した。
【0139】
(2)イミドオリゴマーの最低溶融粘度
DISCOVERY HR-2型レオメーター(TAインスツルメンツ社製)を用いて、25mmパラレルプレートで昇温速度5℃/min、角周波数6.283rad/s(1.0Hz)およびひずみ0.1%の条件により、イミドオリゴマーの溶融粘度を測定した。当該条件にて測定されたイミドオリゴマーの溶融粘度の最低値を、当該イミドオリゴマーの最低溶融粘度とした。
【0140】
(3)ワニスの保存安定性
各実施例および比較例にて得られたイミドオリゴマーを、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に、30重量%(実施例1および比較例1)または35重量%(実施例2および比較例2)の濃度となるように溶解させ、ワニスを得た。得られたワニスを室温で静置保存し、保存から当該ワニスの流動性が保持されるまでの期間(ワニスの流動性が喪失するまでの期間)を目視で評価した。具体的に、ワニスを入れた容器を180°傾け、その状態で30秒間保持したときに、(a)ワニスが流れ落ちてくる状態を「ワニスの流動性が保持されている」とし、(b)ワニスが流れ落ちてこない状態となったとき「ワニスの流動性が喪失した」と評価した。
【0141】
(4)硬化物の熱酸化安定性(TOS)
硬化物を60℃以上の温度環境下かつ真空状態で24時間以上乾燥させた。その後、硬化物の重量を測定し、得られた値を基準重量とした。続いて、恒温器(PHH-201M(エスペック社製))を用いて、300℃かつ空気循環雰囲気下で1000時間、硬化物を熱に暴露した。その後、硬化物の重量を測定し、得られた値を熱暴露後重量とした。続いて、以下の式に基づき、硬化物の熱への暴露による重量減少率(%)を算出した。
重量減少率(%)=(熱暴露後重量-基準重量)/基準重量×100。
【0142】
各実施例および比較例あたり2つの硬化物について、重量減少率を算出し、それらの平均値を各実施例および比較例における硬化物のTOS値(熱酸化安定性)とした。重量減少率即ちTOS値が0に近いほど、熱酸化安定性に優れることを意図する。
【0143】
(5)硬化物のガラス転移温度(Tg)
硬化物について、Q100型示差走査熱量測定装置(DSC、TAインスツルメンツ社製)を用い、窒素気流下(50mL/min)かつ昇温速度20℃/minの条件でDSC曲線を測定した。得られたDSC曲線の変曲点の前後それぞれにおいて、DSC曲線に対する接線を引いた。接線の交点の温度を硬化物のガラス転移温度とした。
【0144】
(6)硬化物の引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸び
硬化物について、引張試験機TENSILON/UTM-II-20(オリエンテック社製)を用いて引張試験を実施した。試験温度は室温、引張速度は5mm/min、並びに試験片形状は長さ30mmおよび幅3mmとした。
【0145】
〔原料化合物〕
以下に記載する実施例および比較例において、各原料化合物および溶媒は下記の表示により示した。
<(A)成分>
PMDA:1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(融点の文献値:286℃)
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(融点の文献値:303℃)
<(B)成分>
Ph-ODA:2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(融点の文献値:115℃)
BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(融点の文献値:236℃)
<(C)成分>
PEPA:4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物(融点の文献値:149~154℃)
<溶媒>
NMP:N-メチル-2-ピロリドン。
【0146】
〔実施例1〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶に(B)成分であるPh-ODA3.8008g(0.01375モル)と溶媒であるNMP12.8879gとを投入した。続いて、室温(約23℃)で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA1.2000g(0.00550モル)およびs-BPDA1.6197g(0.00551モル)と溶媒であるNMP12.2323gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、瓶内の溶液を室温(約23℃)で18時間攪拌して(A)成分が均一に溶解している溶液を得た。さらに、(C)成分であるPEPA1.3657g(0.00550モル)と溶媒であるNMP4.8346gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、瓶内の溶液を室温で(約23℃)で30分間攪拌することにより、アミド酸オリゴマーが均一に溶解している溶液(アミド酸オリゴマー溶液)を得た。
【0147】
続いて、窒素導入管、温度計および攪拌子を備えた三口ナスフラスコにアミド酸オリゴマー溶液を移し、窒素気流下かつ197℃下で5時間、アミド酸オリゴマー溶液を攪拌することによりイミド化反応を行い、イミドオリゴマーを含む溶液(イミドオリゴマー溶液)を得た。続いて、イミドオリゴマー溶液を室温まで冷却後、イミドオリゴマー溶液を、溶液中のイミドオリゴマー量が10重量%となるまで希釈した。次いで、希釈液を1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を230℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。
【0148】
得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱することによりイミドオリゴマーを硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。得られたフィルムのサイズは長さ約100mm、幅約50mm、厚み約0.09~0.1mmであった。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0149】
〔比較例1〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶に(B)成分であるPh-ODA4.7509g(0.01719モル)と溶媒であるNMP19.9848gとを投入した。続いて、室温(約23℃)で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA3.0000g(0.01375モル)と溶媒であるNMP11.2325gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、瓶内の溶液を室温(約23℃)で47.5時間攪拌して(A)成分が均一に溶解している溶液を得た。さらに(C)成分であるPEPA1.7071g(0.00688モル)と溶媒であるNMP4.4020gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、瓶内の溶液を室温で(約23℃)で1時間攪拌することにより、アミド酸オリゴマーが均一に溶解している溶液(アミド酸オリゴマー溶液)を得た。
【0150】
続いて、窒素導入管、温度計および攪拌子を備えた三口ナスフラスコにアミド酸オリゴマー溶液を移し、窒素気流下かつ196℃下で5時間、アミド酸オリゴマー溶液を攪拌することによりイミド化反応を行い、イミドオリゴマーを含む溶液(イミドオリゴマー溶液)を得た。続いて、イミドオリゴマー溶液を室温まで冷却後、イミドオリゴマー溶液を、溶液中のイミドオリゴマー量が10重量%となるまで希釈した。次いで、希釈液を1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を230℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。
【0151】
得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱することによりイミドオリゴマーを硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。得られたフィルムのサイズは長さ約100mm、幅約50mm、厚み約0.09~0.1mmであった。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0152】
〔実施例2〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶に(B)成分であるPh-ODA2.8506g(0.01032モル)およびBAFL0.3995g(0.00115モル)と溶媒であるNMP16.2317gとを投入した。続いて、室温(約23℃)で瓶内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA1.0000g(0.00459モル)およびs-BPDA1.3487g(0.00458モル)と溶媒であるNMP6.1921gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、瓶内の溶液を室温(約23℃)で2.5時間攪拌して(A)成分が均一に溶解している溶液を得た。さらに、(C)成分であるPEPA1.1381g(0.00459モル)と溶媒であるNMP2.8886gとを瓶内に投入した。続いて、瓶を窒素で封入した。その後、瓶内の溶液を室温で(約23℃)で30分間攪拌することにより、アミド酸オリゴマーが均一に溶解している溶液(アミド酸オリゴマー溶液)を得た。
【0153】
続いて、窒素導入管、温度計および攪拌子を備えた三口ナスフラスコにアミド酸オリゴマー溶液を移し、窒素気流下かつ196℃下で5時間、アミド酸オリゴマー溶液を攪拌することによりイミド化反応を行い、イミドオリゴマーを含む溶液(イミドオリゴマー溶液)を得た。続いて、イミドオリゴマー溶液を室温まで冷却後、イミドオリゴマー溶液を、溶液中のイミドオリゴマー量が10重量%となるまで希釈した。次いで、希釈液を1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を230℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。
【0154】
得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱することによりイミドオリゴマーを硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。得られたフィルムのサイズは長さ約100mm、幅約50mm、厚み約0.09~0.1mmであった。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0155】
〔比較例2〕
攪拌子を備えた三口ナスフラスコに、(B)成分であるPh-ODA4.2758g(0.01547モル)およびBAFL0.5992g(0.00172モル)と溶媒であるNMP13.8187gとを投入した。続いて、室温(約23℃)でナスフラスコ内の原料を攪拌して(B)成分が均一に溶解している溶液を得た。次いで(A)成分であるPMDA3.0001g(0.01375モル)と溶媒であるNMP4.9647gとをナスフラスコ内に投入した。続いて、ナスフラスコを窒素で封入した。その後、ナスフラスコ内の溶液を室温(約23℃)で40時間攪拌して(A)成分が均一に溶解している溶液を得た。さらに、(C)成分であるPEPA1.7071g(0.00688モル)と溶媒であるNMP2.1296gとをナスフラスコ内に投入した。続いて、ナスフラスコを窒素で封入した。その後、ナスフラスコ内の溶液を室温で(約23℃)で2.5時間攪拌することにより、アミド酸オリゴマーが均一に溶解している溶液(アミド酸オリゴマー溶液)を得た。
【0156】
続いて、ナスフラスコに窒素導入管と温度計とを取り付けた。その後、窒素気流下かつ197℃下で5時間、アミド酸オリゴマー溶液を攪拌することによりイミド化反応を行い、イミドオリゴマーを含む溶液(イミドオリゴマー溶液)を得た。続いて、イミドオリゴマー溶液を室温まで冷却後、イミドオリゴマー溶液を、溶液中のイミドオリゴマー量が10重量%となるまで希釈した。次いで、希釈液を775mLのメタノールに投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末をさらに400mLのメタノールで45分洗浄した。洗浄後の粉末を120℃~150℃で10時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。
【0157】
得られたイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱することによりイミドオリゴマーを硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。得られたフィルムのサイズは長さ約100mm、幅約50mm、厚み約0.09~0.1mmであった。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0158】
【0159】
表1において、設定重合度nとは、使用した各成分の量に基づき、得られるイミドオリゴマーが理論的に有する重合度nを意図する。
【0160】
〔結果の説明〕
(A)成分として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、(B)成分として2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを、(C)成分として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物を用いた実施例1は、(A)成分として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物のみを用いた比較例1よりもワニスの保存安定性および硬化物の熱酸化安定性(TOS)が優れている。このことから、(A)成分として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を併用することが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。
【0161】
(A)成分として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、(B)成分として2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを、(C)成分として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物を用いた実施例2は、(A)成分として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物のみを用いた比較例2よりもワニスの保存安定性および硬化物の熱酸化安定性(TOS)が優れている。このことから、(A)成分として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を併用することが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。
【0162】
なお、硬化物の引張物性(引張試験の結果)については、(A)成分の組成のみが異なる実施例1と比較例1の間、および実施例2と比較例2、の間で同程度の結果あるいは改善を示していることがわかる。すなわち、実施例1および2では、それぞれ比較例1および2と比較して、機械的特性が損なわれることなく、ワニスの保存安定性および硬化物の熱酸化安定性(TOS)が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の一実施形態によると、保存安定性が良好なワニスと優れた熱酸化安定性(TOS)を示す硬化物とを提供し得る、イミドオリゴマーを提供することができる。それ故、本発明の一実施形態は、航空機、宇宙産業用機器、一般産業用途および車輌用エンジン(周辺)部材をはじめとした易成形性、高い耐熱性および高い熱酸化安定性が求められる広い分野で好適に利用可能である。