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特許7496557組織応力を使用して眼瞼炎を治療するためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】組織応力を使用して眼瞼炎を治療するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 39/00 20060101AFI20240531BHJP
   A61H 39/04 20060101ALI20240531BHJP
   A61H 39/06 20060101ALI20240531BHJP
   A61H 39/08 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A61H39/00 F
A61H39/00 G
A61H39/04 V
A61H39/04 W
A61H39/04 X
A61H39/06 321
A61H39/06 323
A61H39/06 327
A61H39/06 360
A61H39/08 L
A61H39/08 Q
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021571863
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 IL2020050632
(87)【国際公開番号】W WO2020245833
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】267166
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(31)【優先権主張番号】63/034,620
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512023018
【氏名又は名称】ノヴォクセル リミテッド
【住所又は居所原語表記】43 HeMelacha Street, P.O.Box 8539, Poleg Industrial Zone, Natania, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シャヴィト,ロネン
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0104514(US,A1)
【文献】特表2010-504769(JP,A)
【文献】特表2019-530559(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0060988(US,A1)
【文献】特表2017-503564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 39/00
A61H 39/04
A61H 39/06
A61H 39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目の角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射のうちの少なくとも1つを活性化するべく前記目のまぶたの侵害受容器を活性化するための装置であって、前記装置は、
少なくとも1つの圧力信号を生成するための少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器であって、前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器は、前記まぶたの前記外表面に少なくとも1つの機械的病変も生み出すための少なくとも1つの突起を備える、少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器と、
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器を制御するために前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器に結合された少なくとも1つのコントローラと、
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器及び前記少なくとも1つのコントローラに結合された電源と、
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器及び前記少なくとも1つのコントローラを収容するハウジングと、
を備え、
前記少なくとも1つのコントローラは、前記まぶたの外表面に制御された様態で応力を生じさせるべく前記少なくとも1つの圧力信号を印加するように前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器を制御し、前記少なくとも1つの圧力信号は、前記目の組織凝固なしに前記まぶたの侵害受容器及び前記目の侵害受容器を活性化し、これにより、前記まぶたの角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射のうちの少なくとも1つを活性化する、装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の遠位端を加熱する及び前記少なくとも1つの圧力信号で前記まぶたの前記外表面にさらに熱を加えるための熱発生器をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記熱発生器は、前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の前記遠位端を少なくとも摂氏37度に維持する、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの圧力信号を生成することは、持続時間が2ミリ秒~60ミリ秒の範囲の前記少なくとも1つの圧力信号のパルスを生成することを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコントローラはまた、前記少なくとも1つの圧力信号の第1のパラメータを制御することによって前記少なくとも1つの圧力信号を制御し、前記第1のパラメータは、前記少なくとも1つの圧力信号のタイミング、強度、周波数、持続時間、及び位相からなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコントローラはまた、前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の前記遠位端の温度を制御する、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記熱発生器は、
i.ドライフロー発生器、
ii.無線周波数発生器、
iii.光放出器、及び
iv.熱ヒータ、
からなる群から選択される、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器はさらに、
i.ドライフロー発生器、及び
ii.無線周波数発生器、
からなる群から選択された応力印加発生器を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器は、前記少なくとも1つのコントローラに電気的に結合され、且つ、前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の遠位端に機械的に結合された、アクチュエータを備え、前記アクチュエータは、前記まぶたの前記外表面に応力を生じさせる及び前記目に応力を生じさせるべく前記少なくとも1つの圧力信号を印加するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記アクチュエータは、a)調和脈動運動を用いる前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の動作、及びb)前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の前記遠位端のローラの回転のうちの1つを実行するように構成される、請求項に記載の装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの突起は、前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の前記遠位端に設けられ、且つ、前記まぶたの前記外表面に応力を生じさせるべく前記少なくとも1つの圧力信号を印加するように構成される、請求項に記載の装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの突起に光チャネルが組み込まれ、前記光チャネルもまた、前記まぶたの前記外表面に応力を生じさせるべく前記少なくとも1つの圧力信号を印加するように構成される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器は、複数の加熱される先端部を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記アクチュエータは、
i.電気モータ、
ii.圧電素子、
iii.RF放出器、
iv.油圧ピストン、
v.空気圧ピストン、
vi.磁気ピストン、
vii.圧電ピストン、
viii.ソレノイド・アクチュエータ、及び
ix.ボイスコイル・アクチュエータ、
からなる群から選択される、請求項に記載の装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つのコントローラは、前記まぶたの前記外表面に応力を生じさせるべく前記少なくとも1つの突起の侵入深さを0.05ミリメートル~0.7ミリメートルの範囲の深さに制御する、請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記まぶたの前記外表面への前記少なくとも1つの突起の侵入深さを決定するために、前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器に結合された位置センサをさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項17】
前記位置センサは、
i.エンコーダ、
ii.磁気エンコーダ、
iii.光学エンコーダ、及び
iv.ホール効果センサ、
からなる群から選択される、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記ハウジングは、透明な材料から作製される、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記少なくとも1つの皮膚組織圧力発生器の調和脈動運動の距離を制限するために、前記ハウジングの遠位端に配置された距離ゲージをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
前記距離ゲージは、透明な材料から作製される、請求項19に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される技術は、一般に、眼瞼炎の治療のためのシステム及び方法に関し、特に、まぶたの皮膚組織への永続的な損傷を防ぎながら、まぶたを介して眼反射を誘発するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、最も上の外層の細胞が剥がれ、内側の細胞が皮膚の表面へ移動するので、絶え間なく変化する動的な多層の器官である。身体全体で構造的に一貫しているが、皮膚の厚さは解剖学的部位と個人の年齢によって異なる。解剖学的に言えば、表皮は体内と外部環境との間の物理的及び化学的バリアとして機能する最外層であり、真皮は皮膚の構造的支持を提供するより深い層であり、皮下組織又は下皮は、真皮よりも深い層であり、脂肪の重要な貯蔵庫として機能する。真皮は、疎結合組織で構成される層である。
【0003】
哺乳類の目は、光の意識的知覚、色の区別、及び深さの知覚を含む哺乳類の視覚を可能にする複雑な器官である。目は、大まかには、様々な解剖学的構造を囲む3つの層で構成される。眼球線維膜として知られる最外層は、強膜と角膜で構成される。強膜は、日常語では白目として知られており、目の外表面のほとんどを覆っている。角膜は、光が眼球に入って視神経に到達することを可能にする目の透明な部分である。眼球線維膜の下には、虹彩を含む中間層であるブドウ膜があり、ブドウ膜の下には、視神経につながる最も内側の層である網膜がある。
【0004】
角膜と強膜は、環境及び周囲条件に露出されており、眼瞼と睫毛の助けにより、刺激物及びごみが目に入らないようにする。一般に皮膚と同様に、角膜と強膜は、涙として一般に知られている涙液と呼ばれる体液で潤滑され、涙液は、刺激に反応して目をきれいにする及び潤滑するのにしばしば役立つ。涙液は、哺乳類の頭蓋の眼窩の上部外側領域にある涙腺によって生成される。目がまばたきすると、露出した強膜及び角膜(すなわち、目の表面)全体に涙液が広がり、涙湖として知られる領域で目の内側の隅に集まる。そこから、涙液が涙嚢に排出される。目の表面全体に広がる涙液は、医学的には涙液層又は前角膜と呼ばれ、強膜と角膜を絶えず覆う及び潤滑する。涙液層自体は3つの別個の層を有し、最も外側の脂質層は主に脂を含有し、中間の水層は電解質、アミノ酸、及びタンパク質を含有し、内側の粘液層は主にムチンを含有する。涙液層の脂質層は、マイバム又は皮脂として知られており、瞼板の内側のまぶたの縁にあるマイボーム腺(各目に1つ)によって生成される。脂質層は、水層を覆い、水層の蒸発及び頬の上に溢れ出るのを防ぐ。涙液層の水層は、涙腺(各目に1つ)によって生成され、涙液層の大部分を形成するとともに、目の表面への涙液層の広がりを促進する。粘液層は、結膜杯細胞によって生成され、角膜を直接覆い、目の表面上に涙液層を均一に分布させることができる。
【0005】
ここで、従来技術で公知の概して10及び40で参照される涙液層の生成に関係する器官を示す目の概略図である図1Aを参照する。上のイラスト10は目の断面を示し、下のイラスト40は目の正面図を示している。上のイラスト10を参照すると、瞳孔14及び角膜16を有する眼球12が示されている。角膜16の表面の上には、3つの層を含む涙液層18がある。ボックス20で示されるように、涙液層18の3つの層は、脂質層22、水層24、及び粘液層26を含むことが拡大図で示されている。脂質層22は最外層であり、一方、粘液層26は角膜16の上に直にある。眼球12の上部及び下部はまぶた27A及び27Bによって覆われ、まぶた27A及び27Bから複数の睫毛28が延びている。上まぶた27Aは涙腺30とマイボーム腺32Aを含み、一方、下まぶた27Bはマイボーム腺32Bのみを含む。明示的に示されていないが、まぶた27A及び27Bは、まぶた27A及び27Bの大部分を形成する眼輪筋を含み、これはまぶた27A及び27Bの皮膚(参照されていない)と図1Aに示す腺との間に位置する。眼輪筋は、目を実質的に取り囲み、まぶた27A及び27Bを開閉する役割を担う筋である。したがって、眼輪筋は、まばたきを可能にし、まばたきを引き起こす眼反射が生じると収縮及び弛緩する。結膜34は、まぶた27A及び27Bの内表面を覆い、図のように、涙腺30とマイボーム腺32A及び32Bは、結膜34と結合されている。複数の杯細胞36が結膜34上にある。涙腺30、マイボーム腺32A及び32B、及び複数の杯細胞36のそれぞれは、一緒に、涙液層18を構成する成分を産生する。マイボーム腺32A及び32Bは脂質層22を産生し、涙腺30は水層24を産生し、複数の杯細胞36は粘液層26を産生する。下のイラスト40により詳細に示すように、まばたきとして知られる作用で眼輪筋によりまぶた27A及び27Bが開閉するたびに、涙腺30とマイボーム腺32A及び32Bと複数の杯細胞36によって産生された液体の組み合わせから涙液層18が生成され、角膜の上を移動し、これにより、角膜の表面を流動的に清潔に保つ。
【0006】
ここで、目の正面図である下のイラスト40を参照する。まぶた42、角膜44、及び虹彩46が示されている。皮膚の下に隠れているが下のイラスト40に示されているのは、涙腺48、マイボーム腺50、並びにマイボーム腺50を角膜44の表面に結合する複数の腺房及び腺管52である。図示した目はまた、涙丘54、並びに涙嚢(lacrimal sac)(tear sacとしても知られる)58と結合する2つの涙小管56、及び涙管60を含む。涙腺48は涙液層に水層を供給し、一方、マイボーム腺50は、複数の腺房及び腺管52を介して涙液層に脂質層を提供する。目がまばたきするたびに、まぶた42が矢印62の方向に下向きに動くとき、涙液層をなす涙腺48とマイボーム腺50の分泌物が、角膜44の上で矢印64の方向に涙丘54に向かって広がる。涙液層中の液体は、涙小管56を介して涙嚢58に流れ、次いで、涙管60を介して排出される。涙小管56、涙嚢58、及び涙管60は皮膚の下にあり、普通は見えない。
【0007】
涙液層は眼表面を覆っている。涙液層の機能としては、眼表面の栄養、眼表面の潤滑、及び外部環境への化学的バリアが挙げられる。涙液層は、厚さ約8μmの層を形成し、前述のように、通常、外層又は脂質層と、中央層又は水層と、内側層又はムチン層との3つの層で形成される。涙液層はまた、ほとんどが、全体を通して異なる濃度のムチンを取り込んでいる水相との脂質境界層と考えることができる。マイボーム腺とモール腺は、ワックスエステル、トリグリセリド、遊離脂肪酸、及び中性ジエステルを含む、涙液層の脂質成分を産生する。涙腺は水性成分を産生する。結膜にある杯細胞は、ムチンを分泌し、膜に関連する糖蛋白を含有する。涙液層に含まれるタンパク質は、他の身体プロセスに関与し、例えば、角膜の表面の機械的保護をもたらすだけでなく、抗菌薬、抗炎症薬として機能することができ、外傷後の治癒プロセスでも役立つ。
【0008】
ヒトの涙には、涙液層の安定性と眼表面の完全性に多大な影響を及ぼすタンパク質の複合体が含まれている。少なくとも500種類のタンパク質が涙液層で同定されている。次に、これらのタンパク質は、殺菌活性、殺ウィルス活性、殺真菌活性、特異的及び非特異的免疫能力、脂質輸送能力を含む、様々な機能を備えている。ヒトの涙のタンパク質はまた、自己分解性損傷を最小にし、紫外線B波による影響を減弱し、セリン及びシステインプロテアーゼを阻害し、眼表面の創傷治癒を促進し、角膜及び/又は結膜上皮細胞の増殖、運動性、及び分化を調節する。これらのタンパク質の供給源は、前述のように、涙腺、眼表面上皮、結膜血管、及びマイボーム腺である。
【0009】
涙液層を形成する涙は、角膜を潤滑して乾燥を防ぎ、眼表面から異物を洗い流し、感染を防ぐために免疫グロブリン(IgA及びIgG)と抗菌タンパク質を眼表面に分配する主な機能をもつ分泌物である。角膜の自然免疫系は、上皮細胞、線維芽細胞、及びランゲルハンス細胞を含む多くのタイプの細胞からなる。上皮細胞は、TNF-α、IL-1、IL-6、及びIL-8などのタンパク質の分泌を担っている。マイボーム腺は大きな皮脂腺であり、皮脂腺は、眼以外の環境ではIgA及び炎症促進性サイトカイン(例えばTNF-a及びIL-1a)などの様々なタンパク質を分泌することが知られている。加えて、マイボーム腺は、全分泌メカニズムを通じて分泌する。分泌は、マイボーム腺管の内側を覆う成熟した上皮細胞が崩壊して、タンパク質性脂質分を腺管と眼表面に放出するときに起こる。
【0010】
眼瞼炎は、まぶたの炎症、鱗屑、発赤、及び痂皮形成を特徴とする一般的な眼の症状の総称である。眼瞼炎には様々な種類があり、症状の明らかな原因に応じて分類することができる。ともかく、眼瞼炎は一般に、まぶたの細菌感染、涙液層の水層の涙液産生を減少させることになる涙腺の詰まり、又は皮脂量が不十分なために涙液層の水層が蒸発することになるマイボーム腺の詰まりのいずれかによって引き起こされる。目への皮脂の供給が不十分な場合、眼瞼炎は臨床的にドライアイ症候群(本明細書ではDESと略記する)と呼ばれ、機能不全のマイボーム腺を特徴とする。この症状はまた、マイボーム腺機能不全(本明細書ではMGDと略記する)と呼ばれ、マイボーム腺が十分な皮脂を産生しなくなるマイボーム腺から目の表面へのまぶたの腺房及び/又は腺管の詰まり、又は涙液層の脂質層に十分な量の皮脂が分泌又は産生されなくなるマイボーム腺の別の異常が原因であり得る。MGDがどのように現れるかに関係なく、結果として、涙液層の脂質層の皮脂が不足し、涙液層が蒸発してDESを引き起こすことになる。
【0011】
ここで、従来技術で知られている概して80で参照される表皮のサンプルの断面の概略図である図1Bを参照する。表皮80は重層扁平上皮であり、その主な細胞はケラチノサイトと呼ばれ、タンパク質ケラチンを合成する。ケラチノサイトは、より深い皮膚層から最上部の皮膚層へ常に移行する状態にある。デスモソームと呼ばれるタンパク質のブリッジがケラチノサイトを接続する。表皮80は、ケラチン成熟の様々な段階のケラチノサイトによって形成される4つの別個の層を含む。最も外側の表面からより深い層の順に、表皮の4つの層は、本明細書では角質層82Aと呼ばれる最外層82A、顆粒層82B(顆粒細胞層としても知られている)、有棘層82C(棘層又は有棘細胞層としても知られている)、及び基底層82D(基底細胞層又は胚芽細胞層としても知られている)である。
【0012】
角質層82Aは、角質細胞として知られる六角形の生きていない角質化細胞の層で構成されている。皮膚のほとんどの領域では、10~30層の角質細胞が積み重なっている。各角質細胞は、タンパク質のエンベロープに囲まれており、水分を保持するケラチンタンパク質で満たされている。ケラチンタンパク質の細胞の形状及び配向は角質層82Aに強度を付加する。その細胞を取り囲んでいるのは、脂質二重層の積み重なった層である。結果として生じる角質層82Aの構造は、皮膚の自然な物理的保水バリアを提供する。基底層82Dから角質層82Aなどへの表皮細胞の上方移動は、普通は約28日かかり、表皮通過時間として知られている。
【0013】
DES及びMGDを含む眼瞼炎を治療するための方法及びシステムが当該技術分野で知られている。一般的な治療の1つは、DES及びMGDに苦しむ患者が過ごしている環境を制御することを含む。これには、例えば、煙及び粉塵のあるエリアの回避、ヘアドライヤ、ヒータ、エアコンディショナ、及びファンの使用、特にこのような器具を目に向けることの回避、並びに、乾燥した屋内環境の加湿器の使用による加湿が含まれる。別の一般的な治療は、点眼薬の適用などの、目に潤滑剤を手で適用して水分を補給することを含む。より複雑な治療は、マイボーム腺及び腺管の炎症を軽減するための抗炎症薬のまぶたへの適用を含む。極端なケースではまぶたが完全に開くのを防ぐために手術を用いることもでき、これにより、涙液層の蒸発が軽減し得る。
【0014】
マイボーム腺の腺管の詰まりをなくす方法として加熱システムも提案されている。例えば、Sight Science, Inc.に譲渡されたBadawiの米国特許第9,510,972号は、まぶたが自然にまばたきする状態でマイボーム腺に目標熱エネルギーを送達することができるソフトウェア制御装置に向けられている。このドライアイ治療は一般に、熱又は他の形態のエネルギー、圧力、薬剤、水分など(単独で又は組み合わせて)を下にある皮膚に含まれる1つ以上のマイボーム腺のいずれかに送達するために上まぶた及び/又は下まぶたの皮膚にパッチ又はストリップを貼り付けることを含む。1つ以上の治療ストリップは、被検者がパッチからの制約なしに自然にまばたきできるように、被検者の片方又は両方の目の近傍の皮膚の下にある領域に付着するように構成された、1つ以上のストリップを含む。ストリップは、皮膚の下にある領域にエネルギーを放出するように構成され、皮膚の下にある領域内に含まれるマイボーム腺の位置に従うように形状設定される。
【0015】
TearScience, Inc.に譲渡されたKorb他の米国特許第8,083,787号は、まぶたのマイボーム腺に詰まりがあるために目への自然発生の分泌物の流れが詰まるヒトのドライアイを治療する方法に向けられている。この方法は、まぶたを持ち上げて目から離し、熱エネルギーを適用して詰まりを約37℃~約47℃の温度に加熱することを通じて詰まりを軟化させるステップを含む。この方法はさらに、調整された力をまぶたに適用して軟化した閉塞物をマイボーム腺から押し出すべく、バックプレートと力アプリケータとの間にまぶたを把持するステップを含む。
【0016】
MGD及びDESを治療するための他のシステム及び方法は、https://tearscience.com/patentsで見ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
開示される技術の目的は、まぶたを介して眼反射を積極的に誘発することにより、眼瞼炎、マイボーム腺機能不全(MGD)、及びドライアイ症候群(DES)を治療するための新規な方法及びシステムを提供することである。眼反射の誘発は、皮膚組織の病変の生成によって強化することができる。随意的に、まぶたの炎症治癒プロセスを活性化するために熱を加えることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、開示される技術によれば、組織凝固なしにまぶたの少なくとも外表面に少なくとも1つの圧力点を生成するための皮膚調整装置が提供される。皮膚調整装置は、少なくとも1つの皮膚組織病変発生器と、少なくとも1つのコントローラと、電源と、ハウジングを含む。コントローラは、皮膚組織病変発生器に結合されており、電源は、皮膚組織病変発生器及びコントローラに結合されている。ハウジングは、皮膚組織病変発生器及びコントローラを収容している。コントローラは、少なくとも1つの信号を生成し、まぶたの外層の外表面に応力を生じさせるべく信号を印加するように皮膚組織病変発生器を制御する。応力により組織凝固なしにまぶたに圧力点が生成され、これにより、まぶたの少なくとも1つの侵害受容器が活性化することによって、まぶたの角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射のうちの少なくとも1つが活性化する。
【0019】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、皮膚組織病変発生器は、まぶたの外表面に少なくとも1つの機械的病変を生み出すための少なくとも1つの突起を含む。
【0020】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、コントローラは、まぶたの外表面を加熱するべく信号をさらに印加するように皮膚組織病変発生器を制御する。
【0021】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、皮膚調整装置は、皮膚調整装置の遠位端を少なくとも摂氏37度にする信号を生成する。
【0022】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、皮膚調整装置は、2ミリ秒~60ミリ秒の範囲の持続時間のパルスを有する信号を生成する。
【0023】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、コントローラは、信号の第1のパラメータを制御することによって信号を制御する。第1のパラメータは、信号のタイミング、強度、周波数、持続時間、及び位相からなる群から選択することができる。熱がさらに加えられる場合、第1のパラメータはまた、温度であり得る。
【0024】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、皮膚組織病変発生器は熱発生器を含む。
【0025】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、皮膚組織病変発生器は応力印加発生器を含む。
【0026】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、皮膚組織病変発生器は、皮膚調整装置の遠位端に機械的に結合され、まぶたの外表面に応力を生じさせるべく信号を印加するように構成された、アクチュエータを含む。
【0027】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、皮膚調整装置はさらに、まぶたの外表面への少なくとも1つの突起の深さを決定するために、皮膚組織病変発生器と結合された位置センサを含む。
【0028】
したがって、開示される技術の別の態様によれば、まぶたの少なくとも外表面に少なくとも1つの圧力点を生成するための方法が提供される。この方法は、少なくとも1つのまぶた表皮の外表面に少なくとも1つの圧力点を生成する手順を含む。この方法はまた、目のまぶたに涙反射、手に反応したまばたき反射、及びまばたき反射のうちの少なくとも1つが起こって、マイボーム腺及び涙腺のうちの少なくとも1つの機能が復活するまで、圧力点を継続的に生み出す手順を含む。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、圧力点は、少なくとも1つの病変を生み出し、この病変は、まぶた表皮の厚さの5%~90%の範囲の深さを有する。
【0030】
開示される技術のいくつかの実施形態によれば、方法はさらに、まぶたの免疫系反応を活性化してマイボーム腺及び涙腺の機能をさらに復活させる手順を含む。
【0031】
開示される技術は、図面と併せて行う以下の詳細な説明からより十分に理解及び認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A】従来技術で公知の涙液層の生成に関係する器官を示す目の概略図である。
図1B】従来技術で公知の表皮のサンプルの断面の概略図である。
図2A-2C】開示される技術の一実施形態に従って構築され動作する皮膚調整装置の概略図である。
図3A-3C】総じて、開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、開示される技術の皮膚調整装置の一実施形態の概略図である。
図3D-3E】開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、図3A図3Cの皮膚調整装置による機械的病変治療を受けているまぶた皮膚のサンプルの概略図である。
図4A】開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、図3A図3Cの皮膚調整装置による機械的病変治療を受けた後の皮膚の領域の2つの画像を示す図である。
図4B】開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、図3A図3Cの皮膚調整装置による治療に反応する皮膚の熱波侵入深さを例示するグラフである。
図4C】開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、8ミリ秒のパルス持続時間の図3A図3Cの皮膚調整装置による治療後の、15msにわたる様々な皮膚深度での皮膚の温度を示すグラフである。
図4D】開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、14ミリ秒のパルス持続時間の図3A図3Cの皮膚調整装置による治療後の、30msにわたる様々な皮膚深度での皮膚の温度を示すグラフである。
図4E】開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、一般に図2Aの皮膚調整装置、特に図3Aの皮膚調整装置の加熱段階の適用に反応した、複数の深さでの皮膚の温度を示すグラフである。
図4F】開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、8ミリ秒のパルス持続時間の図3Aの皮膚調整装置による加熱段階中の様々な深さでの皮膚の温度勾配を示す図である。
図5A-5C】開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、光放出器を使用して熱を発生させる、開示される技術の皮膚調整装置の概略図である。
図5D-5E】開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、ドライフローを使用して熱を発生させる、開示される技術の皮膚調整装置の概略図である。
図6A-6B】開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、RF放出器を使用して熱を発生させる、開示される技術の皮膚調整装置の概略図である。
図6C】開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、図6A図6Bの皮膚調整装置による機械的病変治療を受けた後の皮膚の領域の画像である。
図7】開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、皮膚調整装置を動作させる方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
開示される技術は、まぶたを介して眼反射を誘発し、マイボーム腺及び涙腺を活性化することで目の涙液層への皮脂供給を増加させる、眼瞼炎を治療するための新規なシステム、装置、及び方法を提供することによって従来技術の欠点を克服する。特に、開示される技術は、角膜反射、並びに、涙液分泌反射及び威嚇まばたき反射を活性化する。まばたき反射としても知られている角膜反射は、角膜の刺激によって引き起こされるまぶたの不随意のまばたきであり、外部刺激から生じ得る。角膜反射は、主に角膜に触れて入ろうとする異物から目を保護する。涙反射としても知られている涙液分泌反射は、普通はまばたき反射を伴い、目又は目の近傍の刺激物又は異物に反応して不随意に涙を生成する。手に反応したまばたき反射として知られている威嚇まばたき反射は、物体が目に向かって急に動くことに反応するまばたき反射である。これらの反射のすべては眼輪筋を活性化させ、まぶたを迅速に開閉(すなわち、まばたき)させ、これにより、マイボーム腺及び涙腺にかなりの圧力をかける。開示される技術のシステム、装置、及び方法は、身体の炎症治癒プロセスの随意的な活性化によってマイボーム腺の活性化をさらに強化することができる。開示される技術のシステム及び方法は、非侵襲的で非アブレーティブなプロセスを使用する。開示される技術によれば、目の少なくとも1つのまぶた(上まぶた、下まぶた、又はこの両方)に、すなわち、少なくとも1つの圧力点で十分な圧力が加えられ、これにより、まぶたの皮膚の侵害受容器が直接活性化される。十分な圧力が加えられたときのまぶたの皮膚の侵害受容器の活性化はまた、角膜及び強膜の侵害受容器の活性化をもたらし、これにより、眼反射(すなわち、角膜反射、涙液分泌反射、及び威嚇まばたき反射のうちの少なくとも1つ)が活性化し、反射の結果として目がまばたきするときにマイボーム腺及び涙腺に圧力がかかる。開示される技術によれば、まぶたへの圧力はまた、まぶた表皮上に小さな機械的病変を生み出すことで、まぶたを介して目の角膜反射、涙液分泌反射、及び威嚇まばたき反射のうちの少なくとも1つをさらに活性化し、また、涙腺での過剰な涙液生成によって目の免疫系を活性化し得る。これらの眼反射の活性化により、眼輪筋が収縮(すなわち、屈曲)及び弛緩し、マイボーム腺に圧力がかかって皮脂が分泌され、これにより、まぶたの詰まった腺房及び腺管を洗い流すことによって腺機能がリセットされる。
【0034】
眼輪筋は目の瞼板の外側にある。眼輪筋自体は、目を取り囲む眼窩領域と、まぶたを形成する眼瞼領域に細分することができる。まぶたの端の近くの、眼瞼領域の末端又は辺縁端は、マイボーム腺の末端部分を取り囲むリオラン筋を含む。眼輪筋が収縮してまばたきが生じるときに、リオラン筋も活性化し、これは(閉じたときの)まぶたを近くに並んだ状態に保つのに役立つ。これらの筋、すなわち眼輪筋とリオラン筋の両方の活性化により、マイボーム腺がさらに圧縮され、マイボーム腺の腺房、腺管、及び開口部内の脂又はごみが辺縁脂質貯留部の中に追い出され、そこで最終的には涙液層の脂質層の一部となり得る。目の身体の炎症治癒プロセスの活性化はまた、マイボーム腺を活性化して、角膜の涙液層を損傷から保護するために脂質とタンパク質の組み合わせを含む通常産生される皮脂の生成を増加させる。開示される技術のシステム及び方法によってまぶた及び目に及ぼされる最小限の圧力と随意的な非永続的損傷は、角膜反射、涙液分泌反射、及び威嚇まばたき反射のうちの少なくとも1つを活性化し、角膜への潜在的な危険について免疫系にシグナルを送り、これにより、炎症誘発性タンパク質及び治癒プロセスの一部として涙腺によって産生される免疫系に関連した他のタンパク質の放出を活性化するのに十分である。
【0035】
開示される技術によれば、まぶたの免疫系を潜在的に活性化すること以外に、角膜反射、涙液分泌反射、及び威嚇まばたき反射のうちの少なくとも1つを活性化する1つの方法は、まぶた表皮の侵害受容器の活性化であり、これはまた、まぶたに(例えば、少なくとも1つの圧力点で)加えられた圧力によって角膜及び強膜の侵害受容器を間接的に活性化することができる。開示される技術のシステムは、まぶたに小さな機械的病変を生み出すことによってまぶたにさらに圧力をかけることができる。開示される技術によってまぶたに加えられる圧力は、まぶたへの機械的圧力及び随意的に小さな病変に変換され、まぶた及び間接的に角膜及び強膜の侵害受容器を活性化することになる。まぶたの圧力及び随意的な小さな機械的病変は、まぶた表皮の侵害受容器、ひいては角膜及び強膜の侵害受容器を、異物又は物体が目、目の近傍に入っているかのように、又は物体が目に向かって急に動いているかのように反応させて、中枢神経系が角膜反射、涙液分泌反射、及び/又は威嚇まばたき反射を始めるのに十分でなければならない。侵害受容器の活性化は、開示される技術によるまぶたへの衝撃中に高レベルの痛みを生じない。開示される技術はさらに、組織凝固を引き起こすことなくまぶたに小さな機械的病変を生み出すために用いることができる。
【0036】
開示される技術によれば、少なくとも1つの非侵襲性のまぶた表皮及び/又は表皮/真皮機械的病変生成器と、少なくとも1つのコントローラと、電源と、ハウジングを含む、皮膚調整装置が提供される。コントローラは、まぶたに圧力をかけるために、随意的に、顕著な痛みを生じない(したがって、組織凝固を引き起こさない)、まぶた(まぶたの皮膚を含む)に永続的な損傷を引き起こさない、或いは目、角膜、又は強膜が、角膜反射、涙液分泌反射、及び威嚇まばたき反射のうちの少なくとも1つを誘発する、随意的に、まぶたの損傷した表皮を治癒するまぶた皮膚の炎症治癒プロセスも誘発する小さな病変をまぶたに生み出すように機械的病変生成器を制御するのに用いられる。上記の眼反射の活性化は、まばたき中に眼輪筋がマイボーム腺を圧迫することによってDES及びMGDの軽減をもたらし、結果的に腺から皮脂を分泌させる。まぶたの損傷した表皮及び真皮も治癒する皮膚の炎症治癒プロセスの活性化(例えば、まぶたに小さな病変を生み出すことによる)は、DES及びMGDのさらなる軽減をもたらすことができる。炎症治癒プロセスは、開示される技術によるまぶたへの随意的な熱の適用によるまぶたの熱侵害受容器の活性化によってさらに活性化することができる。開示される技術を使用して眼瞼に適用される機械的応力及び熱の量は、上記の反射がどれだけ長く起こるか(眼輪筋及びリオラン筋の活性化の増加を意味する)、並びに、身体の炎症治癒プロセスがまぶたで特に活性化する時間の長さに影響を及ぼし得る。まぶたに適用される機械的応力及び/又は熱の量の増加は、(ある程度まで)痛みの僅かな増加を引き起こす可能性があり、DES及びMGDの軽減の強化をもたらす可能性がある。開示される技術によれば、加えられる機械的応力及び/又は熱の量は、まぶたへの永続的な損傷の可能性を示す痛みの限界を超えてはならない。熱の適用は、まぶたの熱侵害受容器の活性化に起因して僅かな組織凝固を誘発し、これはさらに、まばたきの増加に起因してDES及びMGDの治療を強化し得る。
【0037】
したがって、開示される技術は、目に触れることなくDES及びMGDを治療するべくまぶた及び目の侵害受容器を活性化することに注目することが重要である。開示される技術の装置及びシステムは、治療中に目自体(例えば、強膜及び/又は角膜)への損傷又は障害が防止されるように、応力及び随意的に熱を適用できる注意深く制御されたメカニズムを通じてこの活性化を達成する。さらに、開示される技術の装置及びシステムの適用により目の眼圧が高まる場合であっても、眼圧の変化は一過性で短期間であり、これにより、網膜及び視神経への損傷を防止する。開示される技術によれば、装置の典型的な治療及び使用は、1つの目につき数秒から数分であり、したがって、眼圧の長期にわたる増加を回避する。
【0038】
開示される技術によれば、涙腺及びマイボーム腺が位置するまぶたの皮膚に、機械的応力、及び随意的に小さい、例えば、深さ50~700ミクロン又は深さ20~1000ミクロンの機械的病変を生み出すシステム及び方法が提供される。まぶたの厚さは、深さ800~1500ミクロンの範囲である。開示される技術によれば、病変は、まぶたの厚さの5%~90%、例えば、20~1000ミクロンの深さを有するように形成され得る。まぶたへの20ミクロンの深さは、実質的に生存可能な表皮の始まり(すなわち、角質層への中途)であり、一方、まぶたへの1000ミクロンの深さは、真皮への深さであり、さらに侵入すると顕著な痛みの閾値に隣接する。病変は、歪みを使用して又は機械的な力によって形成することができる。病変はまた、さらに熱を用いることによって形成することができる。したがって、開示される技術は、皮膚組織の凝固を引き起こすことなく、まぶたに火傷と同様の表皮の病変を引き起こすが、治療後におよそ1~144時間持続する可能性がある比較的長期間の僅かな痛み及び刺激(すなわち、短時間の僅かな痛み又は数日間の僅かな痛み)をもたらす。開示される技術の一実施形態では、僅かな組織凝固を引き起こし得るさらに高い熱が用いられ、まぶたの熱侵害受容器の活性化に起因して、加えられた熱によって引き起こされる僅かな火傷から生じる痛みによってさらなるまばたき反射を引き起こすことにより、まぶたにもたらされるDES及びMGDの軽減を強化し得る。この実施形態においても、痛みは1~144時間持続する可能性がある。開示される技術によってまぶたに加えられた歪み及び/又は機械的な力は、角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射の活性化を引き起こすとともに、表皮に病変を生み出す。これらの反射は、まばたきを引き起こし、例えばリオラン筋の収縮から、マイボーム腺に圧力をかける。表皮の病変はまた、マイボーム腺の腺房及び腺管の上皮成長因子(本明細書ではEGFと略記する)の活性化を誘発する身体の自然な炎症治癒プロセスを活性化し、したがって、腺の機能の再生につながる。同時に、表皮の病変は、加えられる歪み及び/又は機械的な力と共に、涙液層の皮脂の粘度を変化させるには不十分である。これは、強度、時間、力、深さなどに関係するパラメータを含む、開示される技術の皮膚調整装置の動作範囲と、涙液層の皮脂の粘度の変化を含む眼瞼への永続的な損傷を防ぐために、まぶたに加えられる歪み及び/又は機械的な力が一時的に加えられることに起因する。
【0039】
DESのメカニズムを説明する医療モデルは、涙腺により支配される閉ループ制御システムで機能する、EGF、及びタンパク質、ビタミン(ビタミンAなど)、他の成長因子、及びホルモンなどの他の涙液層成分を示すことに留意されたい。涙腺による涙液層の化学組成のバランスをとることにより、マイボーム腺の挙動及び機能を制御することができる。例えば、涙腺による涙液層の化学組成中のビタミンAの増加は、マイボーム腺による皮脂の分泌の減少をもたらす。逆に、涙腺による涙液層の化学組成中のビタミンAの減少は、マイボーム腺による皮脂の分泌の増加及びEGFの量の増加をもたらす。
【0040】
角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射により、眼輪筋(リオラン筋を含む)が収縮及び弛緩し、これにより、まばたきが生じて、涙液が目の露出した強膜及び角膜全体に広がる。眼輪筋の収縮はまた、涙腺及びマイボーム腺に物理的な圧力をかけ、したがって、涙液、皮脂、及びマイバムを排出させる。開示される技術によれば、角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射を積極的に誘発することにより、眼輪筋の収縮及び弛緩によってかかる圧力で、両方の腺の開口部、腺房、及び腺管内が一掃され、これにより、詰まった腺管が清掃され、腺機能がリセットされ、DES及びMGDの治療がもたらされる。
【0041】
身体の反射性の流涙(又は前述の涙液分泌反射)は、涙腺の強い物理的又は感情的刺激によって生じる。このようにして生成された涙には、角膜及び結膜の上皮の増殖と分化のためのビタミンA及びEGFなどの必須成分が含まれる。DES及び/又はMGD中などの、基本的な涙が減少し、眼表面の乾燥が加速するときでも、反射性の涙が存在すれば、適切な上皮の創傷治癒に必要な物質を眼表面上皮に提供することができる。開示される技術によれば、まぶたに機械的病変が生み出されると、身体の反射性の流涙の同じ反応がさらに引き起こされる。反射性の流涙はまばたきにつながり、これは、涙液層が眼表面全体に広がるメカニズムである。開示される技術を使用してまぶたを僅かに損傷させることにより、眼反射が活性化され、まぶた表皮及び真皮で炎症治癒プロセスが生じる。このプロセスでは、涙腺は、前述のように、EGFの増加を含む多くのタンパク質を産生する。EGFの涙液生成は、マイボーム腺の機能に強い影響を及ぼし、開示される技術によれば、涙腺でのEGFの産生は、MGD及びDESを治療することができるマイボーム腺での炎症治癒プロセスにつながる。
【0042】
開示される技術によれば、角膜反射、威嚇まばたき反射、涙液分泌反射、及びまぶたでのEGFの存在の増加により、マイボーム腺はより多くのマイバム及び皮脂を分泌し、これにより、詰まった腺房及び腺管が清掃され、MGD及びDESの症状が軽減される。EGFの存在は、マイバムの適切な産生及び分泌と腺房及び腺管の清掃を含むマイボーム腺の適切な機能を回復させることが示されている。したがって、開示される技術は、涙腺及びマイボーム腺により多くのマイバム及び皮脂を産生させ、非侵襲的且つ非アブレーティブなMGD及びDESの治療を可能にする。開示される技術によれば、目が開いたままの状態で下まぶたのいずれかに、目が閉じた状態で上まぶたに、又は目が閉じた状態で下まぶたと上まぶたの両方に、圧力をかけることができる。開示される技術による下まぶたへの圧力の適用は、(角膜反射及び涙液分泌反射に加えて)威嚇まばたき反射を活性化するのに十分である。前述のように、かけられる圧力の量は制御されており、まぶた及び目の侵害受容器を活性化するのに十分であると同時に、眼圧(網膜及び視神経に損傷を与える可能性がある)に大きな影響を与えない。これは、開示される技術の治療時間を多くとも数秒~数分に制限することによって部分的に達成される。これはまた、開示される技術の装置及びシステムの要素がまぶたを押し下げることができる深さ(ミクロンの大きさ)を正確に制御することによって達成される。随意的に、これはさらに、加熱される要素とまぶたとの接触時間の量を含む、まぶたに与えられる熱の量に関係するパラメータを正確に制御することによって達成される。開示される技術の装置及びシステムが下まぶたの上を動く際に、目が開いたままのとき、開示される技術の移動機構は、潜在的な危険として目に知覚され、これにより、威嚇まばたき反射、まばたき反射、及び涙反射が活性化される。一実施形態では、開示される技術の装置及びシステムの動きの目による知覚は、開示される技術の特定の要素を後述する透明な材料で製造することによって強化され得る。さらに、開示される技術の使用中に、目が一般に開いたままであり得るにもかかわらず、開示される技術のシステムの動きは、まぶたの侵害受容器が、物体が眼に向かって急に動いたかのように威嚇まばたき反射を活性化するように中枢神経系にシグナルを送るのに十分である。開示される技術によれば、まぶたに応力が印加され、機械的病変も形成される実施形態では、まぶた表皮及び/又は真皮だけに外傷を誘発しない小さな病変が生み出される。開示される技術によれば、まぶたの皮膚組織は蒸発せず、無傷のままであることが必要とされる。開示される技術の一実施形態では、EGFの産生を活性化するのに十分な表皮の病変がまぶたに引き起こされる。したがって、身体の炎症治癒プロセスは、MGD及びDESの治療も提供しながら、まぶた表皮及び真皮を修復することができる。
【0043】
皮膚の角質層は、水中で自重の最大3倍吸収することができ、水和するとしなやかな可撓性となるが、含水量が十分に低下すると、角質層は脆くなり、ひび割れしやすくなる。この特性はヒトと動物との両方に当てはまる。開示される技術の一実施形態では、この特性は、まぶたの皮膚組織の細胞の完全性と生存能力を維持しながら、まぶたの皮膚の炎症治癒プロセスを誘発するのに用いられる。開示される技術のこの実施形態によれば、表皮及び/又は真皮は、脆くなるように十分に脱水される。その場合、脆い角質層に応力(すなわち、断面積あたりの力)が印加され、角質層に歪みが生じ、病変が生み出される。歪みは、角質層をアブレートしない状態で複数の病変を形成させる。病変は皮膚の炎症治癒プロセスを誘発する。加えて、上側の皮膚層に形成された病変は、皮膚の外表面に継続的に熱が加わることに反応してより深い皮膚層から水を蒸発させることができる、すなわち、皮膚の表皮層が、表皮層の下の真皮層の一部として同様に脱水される。この実施形態は、開示される技術の随意的な実施形態である。この実施形態は、熱の継続的な適用から僅かな組織凝固を引き起こすことができ、これはまぶたの熱侵害受容器を活性化することによって、開示される技術によって提供されるDES及びMGDの軽減を強化し、長期間にわたるさらなるまばたきにつながる可能性がある。
【0044】
表皮及び/又は真皮の調整は、皮膚に侵入しない、したがって、非侵襲的な、応力印加段階又は機械的な力発生段階を含む。表皮及び/又は真皮の調整は、随意的に、機械的病変形成段階、加熱段階、又はこの両方を含み得る。加熱段階は皮膚の脱水を引き起こし、応力印加段階は皮膚に歪みを引き起こし、結果的に皮膚の表面の変形をもたらし、皮膚の自然な治癒プロセスを誘発する。加熱段階はまた、まぶたの熱侵害受容器の活性化につながる僅かな組織凝固を引き起こし得る。例えば、加えられる熱の量は最低37℃以上であり得る。さらに、応力印加段階は、表皮に侵入しない小さな針のアレイの使用を含み得る。随意的に、小さな針のアレイは、制御及び調整された様態で皮膚に20~1000ミクロン以下まで侵入する、したがって、まぶたの最小厚さの5%~90%まで侵入することができる。前述のように、20ミクロンは、まぶたの生存可能な表皮の始まり(すなわち、角質層の中間)であり、一方、1000ミクロンは、まぶたの真皮の奥深くの、侵入がその深さを越えて進むと患者が顕著な痛みを経験し得る境界である。応力は、皮膚の表面上に十分なだけの量の歪みを生じさせ、外傷を誘発することなく亀裂の形成を引き起こすために印加される。したがって、従来技術とは対照的に、開示される非アブレーティブな技術は、皮膚細胞の最小限の凝固又は変性をもたらす。随意的な組織凝固段階及び非侵襲的な歪み印加段階が、順次に、タンデムに、又はこれらの組み合わせとして適用され得る。加えて、公知の従来技術とは異なり、開示される技術は、皮膚への永続的な損傷なしに修復可能な皮膚の損傷を引き起こし、同時にDES及びMGDの治療も提供する。
【0045】
開示される技術は、ヒトの目及びヒトの眼瞼炎の治療に関連して説明されることにも留意されたい。
【0046】
ここで、開示される技術の一実施形態に従って構築され動作する、概して200で参照される皮膚調整装置の概略図である、図2A図2Bを参照する。図2Aを参照すると、皮膚の領域250の近くに配置された皮膚調整装置200が示されている。皮膚の領域250の層は、角質層252、顆粒層254、有棘層256、及び基底層258として示される。顆粒層254、有棘層256、及び基底層258は、まとめて、より深い皮膚層と呼ぶことができる。図2Aは、角質層252が完全に無傷である、皮膚調整装置200による調整の前の皮膚の領域250を示す。
【0047】
皮膚調整装置200は、ストレッサ206、コントローラ208、及び電源210を含み、これらはすべて、ハウジング212内に格納されている。皮膚調整装置200はまた、随意的にヒータ204を含む。ハウジング212に取り付けられているのはハンドル214である。ストレッサ206、コントローラ208、及び電源210は、それぞれ、有線、光ファイバ、及びソフトウェア(例えば、通信プロトコル)チャネルのいずれかを含む公知の技術を使用してそれらの間でデータを転送する通信バス216を介して互いに電気的に結合される。ヒータ204はまた、使用される場合、通信バス216を介してハウジング212内の他の要素に電気的に結合される。通信バス216は、データをシリアルに、並列に、又はこれらの組み合わせで転送することができる。ストレッサ206は、コントローラ208によって決定される1つ又は複数の応力制御パラメータに従って、皮膚の領域250に印加する応力を発生させる。応力は、機械的応力、空気流によってかかる圧力、機械的な力などであり得る。ストレッサ206は、皮膚調整装置200の遠位端に十分に近接して配置されたときに、ストレッサ206によって生成された応力が皮膚の領域250に印加されるように、皮膚調整装置200の遠位端に結合される。印加された応力は、皮膚の領域250に歪みを生じ、随意的に、複数の亀裂又は病変の形成をもたらすことができる。印加された応力はまた、皮膚250の基底層258を越えて眼輪筋(図示せず)の角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射を生み出す。ストレッサ206は、皮膚組織に、例えば、まぶたに圧力を加えるための、また、随意的に病変を生み出すための機械的病変生成器とみなすことができる。前述のように、ハウジング212は、透明な材料(透明なプラスチックなど)から作製することができ、これにより、皮膚の領域250は、例えば下まぶたの場合、皮膚調整装置200の動きを知覚することができ、これにより、威嚇まばたき反射、及び角膜反射の活性化が強化される。
【0048】
前述のように、随意的に、ヒータ204は、コントローラ208によって決定される1つ又は複数の熱制御パラメータに従って、皮膚の領域250を凝固させる熱を発生させる。ヒータ204は、皮膚調整装置200の遠位端に十分に近接して配置されたときに、ヒータ204によって生成された熱が皮膚の領域250に送達されるように、皮膚調整装置200の遠位端に熱的に結合される。送達された熱により、皮膚の領域250から水が蒸発する。この実施形態では、ヒータ204及びストレッサ206は、皮膚組織に、例えば、まぶたに病変を生み出すための機械的病変生成器とみなすことができる。
【0049】
図2Aに例示するように、皮膚調整装置200による皮膚250の調整の前は、皮膚の領域250の角質層252は、滑らかで完全に無傷であり、顕著な亀裂はない。この状態では、角質層252は、より深い皮膚層254、256、及び258と、皮膚調整装置200の遠位端に面する角質層252の外表面との間にバリアをもたらす。したがって、角質層252は、より深い皮膚層254、256、及び258内の生細胞が外部から適用された溶液を吸収するのを防ぐ。
【0050】
ここで、開示される技術の一実施形態に従って構築され動作する、図2Aのコントローラ208及びストレッサ206と、随意的なヒータ204(図2A)の略ブロック図である、図2Bを参照する。コントローラ208は、少なくとも1つのプロセッサ218、メモリ220、トランシーバ222、及び通信バス224を含む。プロセッサ218、メモリ220、及びトランシーバ222は、通信バス224を介して互いに電気的に結合される。通信バス224は、有線、光ファイバ、及びソフトウェア(例えば、通信プロトコル)チャネルのいずれかを含む公知の技術を使用してデータを転送する。通信バス224は、データをシリアルに、並列に、又はこれらの組み合わせで転送することができる。トランシーバ222は、任意の公知の通信手段、有線、無線、又はこの両方により、赤外線技術、Bluetooth(登録商標)技術、イーサネット技術などを通じて、データを受信する。データは、1つ又は複数のプログラムコード命令、皮膚調整装置200の動作を制御するための1つ又は複数のパラメータなどを含み得る。メモリ220は、1つ又は複数のプログラムコード命令、データ、及び動作パラメータを記憶するように動作するコンピュータ可読媒体である。プロセッサ218は、1つ又は複数のプログラムコード命令を実行するときにパラメータを適用して、図2Aのヒータ204、ストレッサ206、又はこの両方の動作の制御などの、皮膚調整装置200の動作の制御を行う。
【0051】
コントローラ208は、熱及び歪みを皮膚の領域250に順次に、同時に、又はこれらの組み合わせで適用するべくヒータ204及びストレッサ206の動作を制御する。例えば、コントローラ208は、最初にヒータ204による脱水段階の実施を制御し、次いで、ストレッサ206による応力印加及び歪み生成段階の実施を制御する。別の実施形態では、コントローラ208は、脱水段階と応力印加及び歪み生成段階が同時に実施されるように、ヒータ204及びストレッサ206の動作を同期することができる。ヒータ204及びストレッサ206は、一緒に作用してまぶたの皮膚組織に表皮の病変を生み出すことができる。病変は、まぶたへの機械的病変又は小さい火傷とすることができる。
【0052】
ヒータ204は、熱発生器224及び熱放出器226を含む。熱発生器224は、コントローラ208及び電源210に電気的に結合される(図2A)。熱放出器226は、熱発生器224に及び皮膚調整装置200の遠位端に熱的に結合される(図2A)。熱発生器224は、温度(摂氏度℃)、波長(ナノメートルnm)、エネルギー準位(ジュールJ)、タイミング(秒)などの1つ又は複数の熱制御パラメータに従って熱を発生させる。コントローラ208は、熱制御パラメータに従って熱発生器224の動作を制御する。熱放出器226は、皮膚の領域250が皮膚調整装置200の遠位端の近くに位置するときに、熱発生器224によって発生した熱を皮膚調整装置200の遠位端から皮膚の領域250上に放出する。コントローラ208は、角質層252の含水量が10%未満となり、顆粒層254の含水量が70%未満となるように皮膚の領域250を脱水するべく、熱発生器224による熱の発生と、熱放出器226による熱の放出を制御する。例えば、コントローラ208は、熱放出器226による熱の放出のタイミング、周波数、温度、及び強度のいずれかを制御する。コントローラ208は、1つ又は複数のセンサ(図示せず)から皮膚の領域250の状態に関するフィードバックを受信し、熱発生器224による熱の発生及び熱放出器226による熱の放出を適宜調節することができる。
【0053】
開示される技術によれば、ヒータ204を動作させるパラメータを決定するために以下の式が用いられる。一定の熱容量の場合、水を蒸発させるのに必要なエネルギーの量は、以下のように計算することができる:
エネルギー=(質量)×(温度差)×(比熱容量) (1)
【0054】
生きている皮膚組織は一定の熱容量をもたないにもかかわらず、100℃未満のかなり狭い温度範囲では、皮膚組織の熱容量の変化はかなり小さく、一定の熱容量を仮定した場合の誤差はそれに応じて小さくなる。例えば、大気圧では、定圧での比熱容量は、20℃での4.183kJ/(kg・K)から80℃での4.194kJ/(kg・K)に変化し、わずか0.3%の変化である。過熱水などの他の物質の場合、温度及び圧力に対する熱容量の変化は顕著であり得る。350℃(200バール)では、熱容量は8.138kJ/(kg・K)であり、同じ圧力で20℃での熱容量のほぼ2倍である。したがって、生きている皮膚組織から水が蒸発するのに必要な熱の量は、顕熱(Qsh)と潜熱(Qlh)の和として計算することができる。開示される技術との関連での顕熱は、表面温度(普通は32℃)がおよそ100℃になるように組織を加熱するのに必要な熱に関係する。潜熱は、加熱された水の状態が液体から蒸気に変化するのに必要な熱である。したがって、必要な熱QThは、以下のように顕熱と潜熱の和によって与えられる:
Th=Qsh+Qlh (2)
【0055】
顕熱は、水の比熱容量に温度変化を乗算して計算される。潜熱は、水の比潜熱に水の質量として測定される水の量を乗算して計算される。したがって、必要な熱は次のように書き直すことができる:
Th=C(T-T)+mL (3)
ここで、Lは比潜熱であり(水の場合、これは2264.76kJ/(kg・K)である)、mは質量(kg)であり、Cは水の比熱容量(4.2kJ/(kg・K))であり、Tは皮膚の最終温度(℃)であり、Tは皮膚の初期温度(℃)である。皮膚調整装置200の遠位端から皮膚250の様々な層への直接の熱伝達(流れ)は、以下の一般式によって求めることができる:
熱流=熱電位差/熱抵抗 (4)
【0056】
より詳細には、熱電位差は、温度差T-Tに熱伝導率k及び熱伝導面積Aを乗算することによって与えられ、熱抵抗は、皮膚の厚さによって与えられる。したがって、直接の熱伝達は、以下のより具体的な式によって求められる:
【数1】
式中、qは熱流であり、T-Ti-1は各皮膚層内の温度差であり、Δx、Δxは、皮膚層a及びbの厚さであり、Aは、皮膚の熱伝導面積であり、k、kは、それぞれ皮膚層a及びbの熱伝導率である。
【0057】
皮膚の領域250によって吸収される熱の量は、皮膚調整装置200の遠位端に位置する熱放出器228との距離及び皮膚250の熱特性の関数である。皮膚250は皮膚調整装置200の遠位先端部と比べてかなり大きいため、皮膚調整装置200の遠位先端部は、集中質量として分析することができる。集中質量では、内部温度は、熱伝達プロセス全体を通して本質的に均一なままであり、温度(T)は時間(t)だけの関数とみなすことができ、したがってT(t)が得られる。集中質量モデルの熱伝達は、時間間隔dtで皮膚の領域250に伝達される熱であり、これは、時間間隔dtでの皮膚の領域250のエネルギーの増加に相当し、皮膚調整装置200と皮膚の領域250との接触面積(A)にわたる熱伝達係数(h)に、時間間隔dtでの温度差(T-T)を乗算したものとして数学的に表すことができる。これは、皮膚の治療領域250の質量(m)に皮膚250の比熱cpを乗算したものに相当し、次式のように表すことができる:
hA(T-T)dt=mcdT (6)
式中、hは熱伝達係数(W/(m・K))であり、Asは、皮膚調整装置200と皮膚の治療領域250との接触面積であり、Tは、皮膚の領域250の最終温度(℃)であり、Tは、皮膚の領域250の初期温度(℃)であり、mは、皮膚の治療領域250の質量(kg)であり、cは、皮膚の領域250の比熱(Kg・m/(K・s))である。m=ρVであり、ρは皮膚の領域250の密度(kg/m)であり、Vは皮膚の治療領域250の体積(m)であることに留意して、式(5)は次のように書き直すことができる:
【数2】
これは以下のように解くことができる:
【数3】
ここで、
【数4】
である。
【0058】
熱発生器226は、以下の例のように、熱を発生させるための任意の公知の技術を使用して実装することができる:
・熱発生器226は、摩擦により加熱する機械的熱発生器であり得る。
・熱発生器226は、皮膚調整装置200の遠位端に配置された、熱放出器228を形成する熱伝導要素に熱的に結合される熱発生要素であり得る。
・熱発生器226は、熱放出器228を形成する複数のエアチャネルを介して皮膚調整装置200の遠位端に流体的に結合される空気加圧器に結合される熱発生要素であり得る。
・熱発生器226は、熱放出器228に光学的に結合され、皮膚調整装置200の遠位端に配置される複数の光ファイバチャネルとして構成された、赤外線(本明細書ではIR)又は近IRレーザ放出器であり得る。
・熱発生器226は、熱放出器228に電気的に結合され、皮膚調整装置200の遠位端からRF信号を誘導するように構成された、RF信号放出器であり得る。
【0059】
熱がどのように発生するかに関係なく、発生する熱の量は、まぶたの皮膚組織を歪めたり恒久的に損傷したりしないように一時的に(すなわち、継続的にではなく)適用される。これは、熱がどのように発生するかに応じて、熱を断続的に加えることによって達成される。熱が放射により伝達される場合(レーザ又はRF信号の場合など)、パルス繰返し率(例えば、2~60ms)は、個々のパルスが皮膚組織を歪めることはないが皮膚組織に病変を生み出すのに十分に強いようなものである。熱が対流又は伝導により伝達される場合、熱は、オン・オフの切り替え(加圧空気など)により又は皮膚との要素の前進及び後退(加熱要素など)のいずれかを介して(同じく、例えば、2~60msのパルス繰り返し率で)まぶたに一時的に加えられる。前述のように、ヒータ204に関する上記の説明は、機械的応力又は力の適用に加えて、まぶたの皮膚組織に熱が加えられる、開示される技術の一実施形態を表す。しかしながら、開示される技術は、機能するのに熱を必要とせず、後述するように、まぶたの皮膚組織に機械的応力又は力を加えることによってのみ達成することができる。
【0060】
ストレッサ206は、アクチュエータ230と、応力印加器232を含む。アクチュエータ230と応力印加器232は、皮膚の領域250が皮膚調整装置200の遠位端に十分に近接して位置するときに、アクチュエータ230によって生じた力が応力印加器232によって皮膚の領域250上に伝わるように、互いに結合される。例えば、アクチュエータ230は、応力コンベヤ232に機械的に結合、電気的に結合、又は流体的に結合され得る。例示的な実施形態を図5A図5Eでさらに詳細に後述するが、これらの例は、限定することを意図していない。アクチュエータ230は、コントローラ208及び電源210に電気的に結合される(図2A)。アクチュエータ230は、力(ニュートンN)、エネルギー準位(ジュールJ)、周波数(ヘルツHz)、位相(秒)、タイミング(秒)などの1つ又は複数の応力制御パラメータに従って応力を発生させる。アクチュエータ230は、電気モータ(例えば、ブラシ付きDCモータ、ブラシレスDCモータ、リニアモータなど)、圧電素子、RF放出器などの任意の公知の応力アクチュエータとすることができ、その実施形態は図6A図6Bでさらに詳細に後述する。アクチュエータ230はまた、油圧ピストン、空気圧ピストン、磁気ピストン、圧電ピストン、ソレノイド・アクチュエータ(例えば、リニアソレノイド・アクチュエータ、回転ソレノイド・アクチュエータなど)、ボイスコイル・アクチュエータなどの任意の種類のピストン又はアクチュエータとして具体化され得る。開示される技術のいくつかの実施形態において、アクチュエータ230は、要素を小さい距離にわたって正確に動かすための任意の種類のピストン又はアクチュエータとすることができる。コントローラ208は、前述の応力制御パラメータに従ってアクチュエータ230の動作を制御する。応力印加器232は、アクチュエータ230によって生成された応力を皮膚調整装置200の遠位端から皮膚の領域250上に伝える。印加された応力に反応して、皮膚の領域250に歪みが生じ、その結果、複数の病変が形成される。応力印加器232が皮膚の領域250内に延びる深さは、コントローラ208によって制御され、これはさらにモーションコントローラ(図示せず)を含み得る。ストレッサ206はまた、応力印加器232が皮膚の領域250内に延びている深さを判定するための位置センサ(図示せず)を含むことができる。位置センサは、エンコーダ(磁気エンコーダ、光学エンコーダなど)として、又はホール効果センサ(アナログ又はデジタルのいずれか)として具体化され得る。前述のように、図2A及び図2Bの皮膚調整装置は、目が閉じているときに上まぶたに、目が開いているときに下まぶたに、又は目が閉じているときに両まぶた(上及び下)に使用することができる。
【0061】
図2Cを参照すると、皮膚調整装置200による治療後の皮膚の領域250の近くに皮膚調整装置200が示されている。皮膚の領域250は、僅かに損傷しており、脱水された角質層252内に複数の病変260を呈し、より深い皮膚層254の第1の層にまで達している。角質層252は、皮膚調整装置200による治療前よりも治療後に薄くなり得る。複数の病変260は、応力印加器232によって印加された応力に起因して皮膚250に生じた歪みによって生じる。複数の病変260は、熱放出器228によってさらに追加の熱を加えることで増強することができる。複数の病変260のそれぞれは、まぶたでの身体の炎症治癒プロセスをトリガするのに十分な痛みを熱侵害受容器が中枢神経系に報告する十分な損傷を提供するが、顕著な組織凝固が起こるほどではない。特に、皮膚調整装置200による調整後の角質層252及びより深い皮膚層254、256、及び258内の細胞構造は概して無傷のままであり、これにより、最小限の外傷を呈する。まぶたに適用する場合、角質層及びより深い皮膚層の細胞構造は、身体の治癒プロセスを誘発するのに十分な構造的変化を呈し、したがって、DES及びMGDの治療に役立つEGFの産生をもたらす。開示される技術のまぶたに印加される応力は、間接的に、角膜及び強膜の侵害受容器に、異物又は粒子が目の近くにある又は眼に向かって急に動いている可能性を報告させるのに十分であり、したがって、中枢神経系が、角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射のうちのいずれか1つをトリガすることになる。前述のように、これは、小さな病変を生み出すことなく、下まぶた、上まぶた、又はこの両方にストレッサ206で圧力をかけるだけで達成することができる。ストレッサ206はさらにまぶたに小さな病変を生み出すことができ、これにより、上記の反射がさらに活性化し、また、まぶたの炎症治癒プロセスが活性化することになる。炎症治癒プロセスは、随意的にヒータ204でまぶたに熱を加えることによってさらに活性化することができる。したがって、ストレッサ206は、目自体に触れることなくDES及びMGDを治療するべく、まぶた及び目の侵害受容器を活性化する。ストレッサ206は、まぶたの全外表面の10%~80%の範囲でまぶたの外表面を覆うように、まぶたの様々な位置に適用することができる。ストレッサ206は、1~30秒、1~4分、2~3分の範囲、又は数秒~数分の任意の他の時間範囲の総時間にわたって一連のパルスを発生させることができる。したがって、まぶたへのストレッサ206の適用は、一時的又は短時間(比較して言えば)であり、これにより、眼圧の長期にわたる変化を引き起こさず、網膜及び/又は視神経への損傷を防ぐ。
【0062】
コントローラ208は、皮膚の領域250の表面又はより深い層のいずれにも熱損傷を引き起こさずに皮膚の領域250を脱水するのに十分な熱を生成するようにヒータ204を制御することによって、図2A及び図2Cに示された皮膚250の調整を制御する。ヒータ204は、熱を生成し、皮膚250の角質層252の外表面に熱を加え、これにより、そこに蓄えられた水を蒸発させる。一実施形態では、コントローラ208は、角質層252のそれぞれの含水量が約10%未満になるまで及び顆粒層200Bの細胞外基質(本明細書ではECMと略記する)のそれぞれの含水量が約70%未満になるまで、皮膚250の表皮層(例えば、角質層252及びより深い皮膚層254、256、及び258)から水を蒸発させるために、ヒータ204によって生成される熱の温度、強度、及びタイミングを制御する。
【0063】
コントローラ208はまた、角質層252に外部から印加されたときに角質層252に歪みを生じさせ、これにより、目の角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射を活性化する、応力を生成するようにストレッサ206を制御する。随意的にヒータ204を使用する場合、ストレッサ206によって生成された応力はさらに、脱水された角質層に亀裂を生じるのに十分な歪みを、脱水された角質層252に生じることができる。ストレッサ206は、応力を生成し、応力を角質層252に侵入することなく角質層252の外表面に印加する。ストレッサ206はまた、角質層の外表面に侵入する応力を生成することができ、これにより、複数の病変260が形成され、免疫反応がトリガされる。したがって、皮膚調整装置200による皮膚250の調整は非侵襲的又は最小限の侵襲である。複数の病変260のサイズ及び深さは、深さ20~1000ミクロンの範囲であり、最大で約700ミクロンの直径を有し得る。前述の深さは、まぶたの皮膚組織の最小厚さの約5%~90%に対応する。調整された角質層252での非病変組織に対する病変組織の割合は、1%~30%の範囲であり得る。この割合は、例えば、角質層252の無傷の領域の幅に対する複数の病変260の幅の割合であり得る。開示される技術の別の実施形態では、ストレッサ206は、皮膚250へ前進及び後退することができる複数の加熱される先端部として具体化され得る。この実施形態では、複数の加熱される先端部は、制御及び調整された様態で角質層及び顆粒層を20~1000ミクロンの深さまで穿刺するのに用いられる。複数の加熱される先端部は、加熱される針のアレイとして具体化され得る。これは図3A図3Cでさらに詳細に後述する。一般に、まぶたに皮膚調整装置200を使用する場合、ハウジング212を睫毛のラインから3ミリメートル上に配置することができる。
【0064】
ここで、総じて、開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、概して300で参照される開示される技術の皮膚調整装置の一実施形態の概略図である、図3A図3Cを参照する。以下の説明では、皮膚調整装置300は、図2A図2Cの皮膚調整装置200に関して前述した手順及び/又は機能のいずれかを実行するように動作可能であると理解される。図3Aを参照すると、皮膚調整装置300は、コントローラ308、電源310、通信バス316A、316B、及び316C、ハウジング312の遠位端に薄い要素として示される熱発生器326及び皮膚調整装置300の遠位端に一組のピラミッド形の歯の熱伝導面として示される熱放出器328を含むヒータ304、アクチュエータ330、シャフト334、アクチュエータ先端部332、及び距離ゲージ336を含む。図3Aを参照しながら図2A図2Bに戻って参照すると、コントローラ308はコントローラ208に対応し、電源310は電源210に対応し、ヒータ304、熱発生器326、及び熱放出器328は、それぞれ、ヒータ204、熱発生器226、及び熱放出器228に対応し、アクチュエータ330及びアクチュエータ先端部332は、それぞれ、アクチュエータ230及び応力印加器232に対応する。したがって、一緒に、ヒータ304、熱発生器326、熱放出器328、アクチュエータ330、及びアクチュエータ先端部332は、表皮の病変生成器とみなすことができる。
【0065】
コントローラ308、アクチュエータ330、及び電源310は、通信バス316Aを介して電気的に結合される。コントローラ308及び電源310は、それぞれ通信バス316B及び316Cを介して熱発生器326に電気的に結合される。アクチュエータ330は、シャフト334を介してアクチュエータ先端部332に機械的に結合される。アクチュエータ330は、応力パラメータに従って皮膚調整装置300の縦軸(Y)と位置合わせされた状態で、アクチュエータ先端部332を、距離ゲージ336を越えて遠位に伸長させる、及び、アクチュエータ先端部332を距離ゲージ336の後ろに近位に後退させるように動作するリニアモータである。アクチュエータ先端部332のより詳細な説明は以下の図3Bで行う。
【0066】
ヒータ304は、アクチュエータ先端部332の近位の、皮膚調整装置300の遠位端に配置される。ヒータ304は、当該技術分野では公知の任意の適切な技術を使用して具体化され得る。例えば、ヒータ304の熱発生器326は、セラミックヒータなどの熱ヒータであり得る。代替的に、ヒータ304の熱発生器326は、レーザ光源であり得る。ヒータ304は、皮膚調整装置300の遠位端に一定の熱を提供する。一実施形態では、熱放出器328は、アクチュエータ先端部332上の熱伝導性コーティングであり、ゆえに、熱放出器328は、アクチュエータ先端部332と共に皮膚調整装置300の遠位端を形成する。この実施形態では、ヒータ304の熱発生器326は、熱発生器326を熱放出器328の近位ベースに押し当ててアクチュエータ先端部332を確実に熱的に整合させるばね(図示せず)を使用することによって、又は代替的に、熱伝導性接着剤を使用することによって熱放出器328に熱的に結合される。コントローラ308は、皮膚調整装置300の動作中に熱放出器328をおよそ600℃の一定の有効温度に維持するべくヒータ304の熱発生器326の動作を制御する。開示される技術の別の実施形態では、熱放出器328の温度は、皮膚調整装置300の動作中に少なくとも37℃の一定の有効温度に維持される。まぶたの場合、動作中の少なくとも37℃の有効温度は、身体の自然な治癒プロセスを誘発するのに十分な火傷をまぶたに引き起こすが、それでもなお、まぶたへの永続的な損傷及び外傷を回避する。より高い温度は、まぶたの熱侵害受容器の活性化により、(まぶたへの永続的な損傷又は外傷なしに、目自体を損傷せずに)組織凝固を誘発することができる。熱放出器328のより高い温度はまた、熱も用いられる開示される技術の実施形態では、アクチュエータ先端部332がまぶたとより短い時間接触することを可能にし得る。一般に、アクチュエータ先端部332は、まぶたに熱を一時的に伝達することに留意されたい。開示される技術によれば、まぶたは、定常状態の熱伝達メカニズムによってではなく、一時的な(すなわち、時間に依存する)熱伝達によって皮膚で調整される。これは、前進して後退する、したがって、一時的な熱伝達を引き起こす、アクチュエータ先端部の調和振動の動きによって達成される。前述のように、まぶたへの熱の適用は随意的なものであり、開示される技術は、主に、まぶたへの機械的応力又は力を使用して、熱を必要としない角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射を誘発する。まぶたへの熱の使用は、開示される技術によるDES及びMGDの治療を強化し得る。
【0067】
図3Bを参照すると、皮膚調整装置300が斜視図で示されている。アクチュエータ先端部332は、皮膚調整装置300の遠位端に配置される。アクチュエータ先端部332は、皮膚調整装置300の縦軸(Y)と位置合わせされるピラミッド形の突起338のアレイを含む。図3Bでは、突起338は、正方形の底部を有するピラミッド形の突起として示されている。突起338は様々な幾何学的形態及び形状を有することができるので、これは単なる例である。例えば、突起338の底部の形状は、三角形、円形、卵形、並びに他の公知の幾何学的形状とすることができる。突起338はまた、コーンの形状、ロッドの形状、長方形の形状などを有することができる。突起338のアレイの頂点は皮膚調整装置300の遠位端を形成する。図のように、突起338の頂点は鋭利である。しかしながら、開示される技術の別の実施形態では、突起338の頂点(すなわち、遠位端)は、例えば、鈍い、平坦な表面又は丸みのある表面を有することができ、突起338の各遠位端は、0.01~5mmの領域を覆う。一実施形態では、アクチュエータ先端部332は、およそ1cmの領域を覆う9×9グリッドの突起338のアレイを含む。突起338のアレイのそれぞれの高さは、およそ1.25mmである。各突起338の遠位端の表面積(例えば、角質層252(図2A)と接触する表面積)は、およそ1.27×10-4である。皮膚250の接触領域とアクチュエータ先端部332の突起338のアレイとの間隔は、任意の時点で突起338のアレイのいずれか1つとの皮膚250の接触領域のいずれか1つの温度が突起338のアレイのうちの1つのみによって熱的に影響を受けるのに十分である。したがって、突起338のアレイと接触する皮膚250の領域間に、治療の全体を通して通常の体温(すなわち、37℃)のままの領域が存在する。突起338は、金でコーティングされたチタン、タングステン、タンタル、又は金でコーティングされたステンレス鋼などの、生物適合性、熱伝導性、及び熱弾性の材料で作製することができる。開示される技術の一実施形態では、突起338の熱伝導率は、金でコーティングされた銅の熱伝導率よりも低く、角質層252(図2A)を十分に加熱して、皮膚の領域250(図2A)の生組織をアブレーションすることなく脱水することができる。突起338のアレイの位置に関して、まぶたに皮膚調整装置300を使用する場合、突起338のアレイの縁を睫毛のラインから3mm上に配置することができる。
【0068】
身体(ヒト又は動物)と接触する皮膚調整装置300のすべての材料は生物適合性である必要があることに留意されたい。生体適合性は温度に依存する可能性があるので(特定の材料は閾値温度を超えると生体適合性を失うため)、身体と接触する開示される技術での材料は、皮膚調整装置300を使用することができる温度範囲内、例えば、37℃~600℃で生体適合性を維持するようなものである必要がある。ヒータ304がレーザとして具体化される場合、皮膚調整装置300はさらに高い温度を用いることができることに留意されたい。
【0069】
皮膚調整装置300の距離ゲージ336は、皮膚調整装置300のそれぞれの遠位端に配置される。距離ゲージ336は、皮膚調整装置300を使用していないとき、突起338のアレイを収容する。治療中に、アクチュエータ330は、突起338の遠位端が距離ゲージ336を越えておよそ400マイクロメートル(本明細書ではμmと略記する)だけ遠位に延びるように、アクチュエータ先端部332を遠位に前進させる。開示される技術の別の実施形態では、アクチュエータ330は、突起338の遠位端が距離ゲージ336を越えておよそ20~1000μmだけ遠位に延びるように、アクチュエータ先端部332を遠位に前進させる。アクチュエータ330は、コントローラ308によって制御される際に、所定のパルス持続時間及び治療ごとの所定のパルス数に従って、調和脈動運動でアクチュエータ先端部332を前進及び後退させるように動作し、角質層252への応力に加えて摩擦熱を生じる。例えば、調和脈動運動は、アクチュエータ先端部332を十分に前進及び後退させるために持続時間が2~60ミリ秒であり得る。開示される技術の一実施形態では、距離ゲージ336は、目を開けたままの状態でアクチュエータ先端部332が下まぶたに適用されるときに目がアクチュエータ先端部332(又は皮膚調整装置300の他の任意の可動要素)の前進及び後退をより容易に知覚できるように透明な材料から作製することができることに留意されたい。アクチュエータ先端部332の動きに関する目の知覚の向上は、目に向かって動いている物体を目がより容易に知覚するので、威嚇まばたき反射(すなわち、手に反応したまばたき反射)及び角膜反射(すなわち、まばたき反射)の活性化を強化し得る。開示される技術の別の実施形態では、ハウジング312(図3A)は、同じ効果を達成するために透明な材料から作製される。
【0070】
複数の突起338と皮膚の領域250の接触中に、突起338のアレイの遠位端は、角質層252(図2A)に侵入せずに皮膚250の表面を押し下げる。複数の突起338は、皮膚250の表面を非侵襲的な様態で押し下げる。押し下げの深さは、0.1ミリメートル(mm)~1mm、又は0.05~1.2mm、又は0.2mm~0.8mm、又は0.3mm~0.7mm、又は0.4~0.6mm、又は0.05mm~0.7mmの範囲である。したがって、皮膚調整装置300による皮膚250の調整は非侵襲的である。突起338と皮膚250の接触時間は、1~20ミリ秒(本明細書ではmsと略記)の間で変化して突起338のアレイと皮膚250の十分な熱伝達を可能にし、実質的な凝固又は火傷なしに皮膚250の実質的な脱水を引き起こす。典型的なパルス持続時間は、8ms~14ms、又は5ms~20ms、又は10ms~15ms、又は5ms~15ms、又は6ms~16ms、又は2ms~60msの範囲であり得る。一実施形態では、アクチュエータ先端部332の調和脈動運動の距離は、皮膚調整装置300の縦軸に沿って0.02mm~1.50mmの範囲であり得る。前述のように、アクチュエータ先端部332の脈動運動は、治療中に、短くて数秒間、長くて数分間、持続し得る。アクチュエータ先端部332の脈動運動とヒータ304による加熱との組み合わせにより、皮膚の領域250が急速に加熱され、皮膚250の表面から水が蒸発するとともに、角質層252に亀裂が生じる。さらに、角質層252に亀裂が生じると、ヒータ304による熱の継続的な適用により、より深い皮膚層254、256、及び258(図2A)から水が蒸発する。一実施形態では、距離ゲージ336は、突起338が角質層252内に延びる距離を正確に決定するために、コントローラ308及びアクチュエータ330と結合された、ハウジング312(図2A及び図2Bで前述したように)内の位置センサと置き換えられ得ることに留意されたい。
【0071】
ここで、図3Aの皮膚調整装置300の遠位端の別の実装の概略図である図3Cを参照する。ヒータ304(図3A)は、アクチュエータ先端部332の近位に位置する熱発生器326を含む。熱発生器326は、インテンス・パルス・ライト(本明細書ではIPLと略記する)光源、IR、又は近IR光源、ソリッドステートレーザダイオードなどの光放出器とすることができ、熱放出器328は、熱発生器326からの光を皮膚調整装置300の遠位端に誘導する、複数の突起338内に組み込まれた複数の光チャネルを含む。したがって、熱発生器326は、放射を放出することによって熱を発生させることができる。熱発生器326は、組織侵入深さ25μm、50μm、又は100μmのフラクショナルCOレーザとして実装され得る。熱発生器326は、水の最大吸収ピークに対応する2.94μmの波長の光を放出することができる。代替的に、熱放出器328の光チャネルは、突起338のアレイに隣接して外部に配置され得る。コントローラ308(図3B)は、アクチュエータ先端部332の調和脈動運動を、熱発生器326による光の放出と同期させる。例えば、コントローラ308は、突起338のアレイが皮膚の領域250と物理的に接触したときにのみIRレーザが放出されるように熱発生器326によるIRレーザの放出を制御することができる。これにより、装置が皮膚の領域250の表面と物理的に接触していない限りIRレーザの放出を防ぐ安全対策を提供することができる。代替的に、センサ(図示せず)は、アクチュエータ先端部332と皮膚の領域250との接触を感知し、熱発生器326を作動させるようにコントローラ308に通知することができる。センサは、同様に、アクチュエータ先端部332と皮膚の領域250との間に接触が検出されないときに熱発生器326の作動を停止するようにコントローラ308に通知することができる。熱発生器326はまた、放射を放出しない加熱装置として具体化することができ、対流又は伝導により熱を伝達することができる。
【0072】
ここで、開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、概して300で参照される、図3A図3Cの皮膚調整装置による機械的病変治療を受けているまぶた皮膚のサンプルの概略図である図3D図3Eを参照する。図3Dは、皮膚調整装置300による調整前の皮膚の領域250を示し、図3Eは、皮膚調整装置300による調整後の皮膚の領域250を示す。図3Dを参照すると、皮膚250の表面温度は37℃(通常の皮膚温度)であり、皮膚250は十分に水和されている。角質層252は無傷であり、皮膚250の外表面とより深い皮膚層254、256、及び258の間のバリアとして機能する。図3Eを参照すると、皮膚250が損傷している。角質層252とより深い皮膚層254は、目の角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射を活性化する、及び随意的に身体の炎症治癒プロセスを誘発するように機能する複数の病変260を呈している。
【0073】
一実施形態では、この皮膚の領域250の調整を達成するために、コントローラ308は、皮膚調整装置300の遠位端の温度を最高600℃まで上昇させるように熱発生器326を制御する。温度はまた、最低37℃に上げることもできる。皮膚調整装置300の遠位端のより高い温度は、遠位端と皮膚250の接触時間の減少を可能にし得る。コントローラ308は、2ms~60msの範囲のパルスでアクチュエータ先端部332を駆動するアクチュエータ330に制御信号を送信する。このパルスの範囲は単なる例であり、パルス範囲は2ms~60msで変化し得る。開示される技術によれば、応力パルスの持続時間と皮膚調整装置300の遠位端の表面温度は、熱波侵入深さと皮膚の領域250の熱特性とでの以下の式に従って計算され、式(6)~(9)で上記に与えられた集中システム分析を用いて分析される:
【数5】
式中、δは熱波侵入深さ(メートル)であり、αは、熱拡散係数(単位m/s)であり、tは、時間(秒)であり、kは熱伝導率(単位W/m・°K)であり、ρは密度(単位Kg/m)であり、Cは、定圧での熱容量(単位J/(Kg・°K)である。
【0074】
以下の表1は、皮膚の領域250の熱伝導特性を示す。
【表1】
【0075】
アクチュエータ先端部332から皮膚の領域250への熱伝達は、以下の式に従って計算することができる:
【数6】
【0076】
式(11)は、皮膚の領域250のそれぞれの突起338のアレイのそれぞれの熱流束を表している。式(11)に従って、熱流束は、各突起338と表面皮膚250との接触表面積Aにわたる突起338あたりの熱流束を積分することによって計算される。したがって、皮膚の領域250から伝達されるエネルギーの総量は、以下の式によって表すことができる:
【数7】
【0077】
この式は、持続時間tのパルスごとに各突起338から皮膚250に伝達されるエネルギーの量を表し、これは、パルス持続時間tにわたる、上記の式(11)で計算された突起338あたりの熱流束を積分することによって計算される。
【数8】
【0078】
この式は、パルスごとにアクチュエータ先端部332から皮膚250に伝達されるエネルギーの量を表し、パルスごとに突起338あたりに伝達されるエネルギーの量に、突起338の数nを乗算することによって計算され、図3Bに示した実施形態では81である。複数の突起338は、必要に応じて配列することができる。例えば、複数の突起338は、4×6アレイ、12×12アレイ、10×10アレイ、15×15アレイ、10×15アレイなどとして配列することができる。
【0079】
以下の表2は、式(6)~(9)で前述したように皮膚調整装置300の有限要素解析から求められる、それぞれパルス持続時間8ms及びパルス持続時間14msでのアクチュエータ先端部332から皮膚250に伝達される熱の量と、熱侵入深さを示す。
【表2】
【0080】
前述のように、複数の病変260はまた、熱を加えずに十分な機械的応力及び力を使用して突起338を角質層252内に所定の深さまで単に前進及び後退させることによって形成され得る。
【0081】
ここで、熱が加えられる開示される技術の実施形態を使用した、パルス持続時間8ms及び14msでの図3A~3Eの皮膚調整装置300による治療への皮膚250の反応を例示する図4A図4Dを参照する。数値結果は、上記の式(6)~(9)を使用して皮膚の有限要素解析から得られた。図4Aを参照すると、開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、概して250で参照される図3A図3Eの皮膚調整装置による機械的病変治療を受けた後の皮膚の領域の2つの画像が示されている。図4Aに示された画像は単なる例であり、図示した例はブタ皮膚からのものであることに留意されたい。角質層252、顆粒層254を通して部分的に有棘層256内に延びる病変を有する皮膚250が示されている。図のように、病変260Aは、幅172.56μm及び深さ156.15μmであり、病変260Bは、幅297.81μm及び深さ212.04μmである。病変260A及び260Bの幅及び深さは単なる例であり、開示される技術によれば、例えば、深さ20~1000μm及び幅最高700μmのより深くより広い病変が可能である。皮膚250は突起338(図3B)に機械的に侵入される。皮膚250はまた、脱水と、皮膚調整装置300(図3A~3E)によって角質層252に加えられる非侵襲的圧縮荷重/応力と、この応力に起因して生じる角質層252の歪みとの組み合わせによって調整することもできる。
【0082】
上記に提示した皮膚組織に機械的病変を生み出すヒータのパラメータを決定するための熱モデルは、図4Aに(及び以下の図6Cにも)示すように、実際の病変の深さ及び幅と比べて異なる結果をもたらし得ることにも留意されたい。モデルに用いられる熱特性の変動は、これらの差異を説明することができる。したがって、開示される技術によれば、上記に提示した熱モデルを使用して、まぶたの皮膚組織に病変を生み出すヒータのパラメータを決定するとき、まぶたの皮膚組織の熱特性と、開示される技術の皮膚調整装置に用いられる実際の材料の熱特性を考慮に入れ、適切に調整する必要がある。
【0083】
図4Bを参照すると、開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、概して400で参照される図3A図3Cの皮膚調整装置による治療に反応する皮膚の熱波侵入深さを例示するグラフが示されている。グラフ400は、マイクロメートルの組織深度を示す横軸402と、摂氏度の温度を示す縦軸404を含む。曲線406は、パルス持続時間8msでの皮膚調整装置300(図3A図3C)による治療に反応した皮膚250の熱波侵入深さを示し、一方、曲線408は、パルス持続時間14msでの皮膚調整装置300による治療に反応した皮膚250の熱波侵入深さを示す。パルス持続時間8msの曲線406に関して、それぞれ、深さ0μmで皮膚250の温度は400℃に達し、深さ5μmで皮膚250の温度は350℃に達し、深さ10μmで皮膚250の温度は300℃に達し、深さ30μmで皮膚250の温度は150℃に達する。パルス持続時間14msの曲線408に関して、それぞれ、深さ0μmで皮膚250の温度は400℃に達し、深さ5μmで皮膚250の温度は360℃に達し、深さ10μmで皮膚250の温度は320℃に達し、深さ30μmで皮膚250の温度は180℃に達する。曲線406及び408から分かるように、最も顕著な温度上昇は深さ0μmの皮膚250の表面で起こる。皮膚250のより深い層、例えば、図3D図3Eの層254、256、及び258の温度は、急な傾きで劇的に低下し、温度低下は約50μmのあたりから徐々に緩やかな傾きになる。この特徴は、より深い皮膚層でのアブレーション及び組織の損傷を防ぎ、これらの細胞の生存能力を維持する。
【0084】
ここで、開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、概して420で参照される、パルス持続時間8msにわたる図3A図3Cの皮膚調整装置による治療後の、15msにわたる様々な皮膚深度での皮膚の温度を示すグラフである、図4Cを参照する。グラフ420は、ミリ秒の時間を示す横軸422と、摂氏度の温度を示す縦軸424を含む。426で参照される一番上の曲線は、装置300によって8msのパルスで治療されるときの、15msにわたる皮膚250、言い換えれば、角質層252の外側の表面温度の変化を示している。パルスの開始時に、皮膚250の表面温度は急上昇し、1ms以内に400℃のピーク温度に達する。角質層252の表面は、パルスの持続時間8msの間、400℃の一定温度に維持され、その後、温度は低下し始め、10ms後に320℃に達し、15ms後におよそ260℃に達する。
【0085】
参照される曲線428は、皮膚調整装置300によって8msのパルスで治療されるときの、角質層252の中央領域に対応する深さ5μmでの15msにわたる皮膚250の温度の変化を示している。パルスの開始時に、温度は最初の2msの間に急上昇しておよそ300℃に達し、その後、温度はゆっくりと上昇し続け、8msでほぼ350℃のピーク温度に達する。8ms後に、温度はかなり急に低下し、10msで約250℃に下がり、15ms後に160℃以下に低下し続ける。
【0086】
参照される曲線430は、皮膚調整装置300によって8msのパルスで治療されるときの、角質層252と顆粒層254との境界に対応する深さ10μmでの15msにわたる皮膚250の温度の変化を示している。パルスの開始時に、温度は最初の3msの間に急上昇して260℃に達し、その後、温度はゆっくりと上昇し続け、8msでほぼ300℃のピーク温度に達する。8ms後に、温度はかなり急に低下し、10msで約240℃に下がり、15ms後に160℃以下に低下し続ける。曲線430(10μm)及び428(5μm)は約12ms後に収束する。参照される曲線432は、皮膚調整装置300によって8msのパルスで治療されるときの、基底層258のすぐ下(皮膚の表皮層と真皮層との境界)に対応する深さ30μmでの15msにわたる皮膚250の温度の変化を示している。パルスの開始時に、温度は、ほぼ直線的に上昇し、8ms後にほぼ150℃に達する。8ms後に、温度はかなり直線的に、しかし上昇よりもゆっくりと低下し、15ms後に120℃に達する。
【0087】
参照される曲線434は、皮膚調整装置300によって8msのパルスで治療されるときの、深さ100μmでの15msにわたる皮膚250の下の組織の温度の変化を示している。パルスの開始時に、深部組織の温度は、は、通常の体温である37℃からほとんど変化せず、15ms後に40℃に達する。
【0088】
グラフ420から分かるように、曲線426によって表される皮膚250の表面温度だけが、パルスの持続時間全体を通して400℃に維持され、顕著な脱水及び亀裂の形成を可能にする。曲線428及び430によって表される、それぞれ深さ5μm及び10μmでのより深い皮膚層254及び256の温度は、若干上昇して、生細胞に損傷を与えることなく脱水を可能にする。しかしながら、それぞれ曲線432及び434によって表される、その下の30μmから100μmまでの深部組織の温度は、穏やかにしか上昇せず、これらの領域への損傷を防ぐ。
【0089】
ここで、開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、概して440で参照される14msのパルス持続時間の図3A図3Cの皮膚調整装置による治療後の30msにわたる様々な皮膚深度での皮膚の温度を示すグラフである図4Dを参照する。グラフ440は、ミリ秒の時間を示す横軸442と、摂氏度の温度を示す縦軸444を含む。446で参照される一番上の曲線は、皮膚調整装置300(図3A図3C)によって14msのパルスで治療されるときの、30msにわたる皮膚250、すなわち、角質層252の外側の表面温度の変化を示している。パルスの開始時に、皮膚250の表面温度は急上昇し、1ms以内に400℃のピーク温度に達する。角質層252の表面は、パルスの持続時間14msの間、400℃の一定温度に維持され、その後、温度は低下し始め、15ms後に370℃に達し、30ms後に260℃をわずかに下回る。
【0090】
参照される曲線448は、皮膚調整装置300によって14msのパルスで治療されるときの、角質層252の中央領域に対応する深さ5μmでの30msにわたる皮膚250の温度の変化を示している。パルスの開始時に、温度は最初の3msの間に急上昇しておよそ320℃に達し、その後、温度はゆっくりと上昇し続け、14msでほぼ360℃のピーク温度に達する。14ms後に、温度はかなり急に低下し、17msで約240℃に下がり、30ms後に120℃以下に低下し続ける。
【0091】
参照される曲線450は、皮膚調整装置300によって14msのパルスで治療されるときの、角質層252と顆粒層254との境界に対応する深さ10μmでの30msにわたる皮膚250の温度の変化を示している。パルスの開始時に、温度は最初の3msの間に急上昇して260℃に達し、その後、温度はゆっくりと上昇し続け、17msでおよそ310℃のピーク温度に達する。14ms後に、温度はかなり急に低下し、17msで約240℃に下がり、30ms後に120℃以下に低下し続ける。10μm曲線450及び5μm曲線448は約17ms後に収束する。
【0092】
参照される曲線452は、皮膚調整装置300によって14msのパルスで治療されるときの、すぐ下の基底層258に対応する深さ30μmでの30msにわたる皮膚250の温度の変化を示している。パルスの開始時に、温度は、パルスの持続時間全体にわたってさらに徐々に上昇し、14msでほぼ180℃のピーク温度に達し、その後、温度は徐々に低下し、30msで110℃をわずかに下回るまで低下する。
【0093】
参照される曲線454は、皮膚調整装置300によって14msのパルスで治療されるときの、深さ100μmでの30msにわたる皮膚250の下の組織の温度の変化を示している。パルスの開始時に、深部組織の温度は、通常の体温である37℃からほとんど変化せず、30ms後に45℃をわずかに下回る。
【0094】
グラフ440から分かるように、温度の上昇及び低下のパターンはグラフ420(図4C)の場合と同様である。曲線446によって表される皮膚250の表面温度だけが、パルスの持続時間全体にわたって400℃に維持され、角質層の顕著な脱水及び亀裂の形成を可能にする。曲線448及び450によって表される、それぞれ深さ5μm及び10μmでのより深い皮膚層254及び256の温度は、若干上昇して、その中の生細胞に損傷を与えることなく部分的な脱水を可能にする。しかしながら、それぞれ曲線452及び454によって表される、その下の30μmから100μmまでの深部組織の温度は、穏やかにしか上昇せず、これにより、これらの領域への損傷を防ぐ。
【0095】
一般に、皮膚調整装置300(図3A)による、より一般には皮膚調整装置200(図2A)による皮膚250への加熱段階の適用は、角質層252及びより深い皮膚層254、256、及び258の脱水を引き起こす。脱水の結果として、続いて皮膚250の外表面、及び脱水された角質層252、及びより深い皮膚層254、256、及び258に導入される溶液間に濃度勾配が生じる。この濃度勾配は、皮膚調整装置200によって治療されなかった皮膚250の他の領域に存在するどの濃度勾配よりも大きい。皮膚調整装置200による皮膚250の調整によって生じる濃度勾配は、角質層252を通ってより深い皮膚層254、256、及び258にある生細胞に導入される溶液の吸収の加速を支援する。さらに、角質層252が脱水されるとき、皮膚の角質層252の外部の濃度勾配はかなり大きくなる。例えば、溶液は、75%~100%、又は80%~90%、又は60%~100%の範囲の含水量を有することができ、脱水された角質層252の含水量は、0%~10%、又は5%~15%、又は10%~20%の範囲であり得る。それに対して、角質層252の内部の濃度勾配はそれほど大きくない。例えば、顆粒層254は、熱侵入深さに対応する70%、又は75%、又は65%、又は80%の含水量に達するまで脱水され得る。顆粒層254の含水量レベルは、脱水された角質層252からの距離が減少するにつれて、すなわち、部分的に脱水された顆粒層254から上に移行するにつれて、このレベルから徐々に低下し、50%、40%、30%、及び20%の含水量レベルに移行して、0%~10%又は5%~15%の範囲の含水量の脱水された角質層252に達する。この皮膚250の外部の濃度勾配と皮膚250の内部の濃度勾配との差は、外部から適用された溶液の吸収をさらに加速し得る。
【0096】
加えて、治療中に皮膚調整装置300(図3A)によって、より一般には皮膚調整装置200(図2A)によって皮膚250に加えられる熱エネルギーの総量は比較的小さい。加えられる熱エネルギーは、一般に、皮膚調整装置200の物理的寸法及び設計の関数である。皮膚調整装置300(図3A)の特定のケースでの加えられた熱エネルギーを表す熱伝達分析を式11~13で前述している。熱伝達分析は、アクチュエータ先端部332のサイズ、形状、及び材料と、さらに、コントローラ308が熱パラメータ(例えば、8ms及び14msのパルス、アクチュエータ先端部を400℃に加熱するなど)に従って熱放出器328による熱の適用を制御する方法を考慮に入れている。しかしながら、このような分析は、図3A図3Eの実施形態に限定されることを意図していない。当該技術分野では公知の熱伝達分析に従って、本明細書で開示される実施形態のそれぞれについ同様の熱伝達分析を行って、過度の凝固を引き起こすことなく角質層252に亀裂を生じる、皮膚250への所望の熱エネルギー伝達を達成することができることが理解される。
【0097】
したがって、皮膚調整装置300(図3A)、一般に皮膚調整装置200(図2A)によって治療される皮膚250内の凝固した組織の量は、従来技術と比べて顕著に減少している。この皮膚凝固の低減は、従来技術で治療されている皮膚80(図1B)と、皮膚調整装置300(図3A)、より一般には皮膚調整装置200(図2A)によって治療されている皮膚250(図4A)を比較すると明らかである。これらの画像を比較すると分かるように、皮膚80に存在する凝固(図1B)は、皮膚250に存在する凝固(図4A)よりも顕著に大きい。この組織凝固の低減により、このような組織凝固によって生じる障壁が低減し、より深い皮膚層254、256、及び258の生細胞による導入された溶液の吸収能力がさらに高まる。
【0098】
ここで、開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、一般に皮膚調整装置200(図2A)、特に皮膚調整装置300(図3A)のいずれかによる加熱段階の適用に反応した複数の深さでの皮膚の温度を示す概して471で参照されるグラフである図4Eを参照する。加えられた熱は、℃で測定される「温度」として縦軸472に示され、皮膚深度は、μmで測定される「皮膚深度」として横軸474に示される。曲線476Aは、深さ0ミクロン(μm)に対応する表面での皮膚250の温度を示し、曲線476Bは、深さ5μmでの皮膚250の温度を示し、曲線476Cは、深さ10μmでの皮膚250の温度を示す。曲線476A、476B、及び476Cは角質層252に関連している。したがって、角質層252の温度は、加熱段階に反応して劇的に上昇し、400℃~340℃の範囲の高い温度に維持される。曲線476Dは、深さ30μmでの皮膚250の温度を示す。この深さでは、皮膚の温度は、かなりゆっくりと上昇し、250℃を超えない。曲線476Eは、深さ100μmでの皮膚250の温度を示す。この深さでは、皮膚の温度はほとんど上昇せず、50℃に達する。
【0099】
ここで、開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、8msのパルスでの皮膚調整装置300(図3A)の突起338(図3A)による加熱段階中の様々な深さでの皮膚250の概して478で参照される温度勾配を示す図4Fを参照する。皮膚調整装置300(図3A)のそれぞれの皮膚250への効果が示されているが、これは、限定する意味ではなく、皮膚調整装置200による加熱段階を適用することによって皮膚250に同様の効果がもたらされることが理解される。破線482は、角質層252とより深い皮膚層254、256、及び258との境界を示す。皮膚深度の表示は、単なる例示を意図しており、縮尺どおりではない。破線482の上の領域の熱勾配は、図4Eの曲線476A、476B、及び476Cに対応する。破線482の下の領域の熱勾配は、図4Eの曲線476D及び476Eに対応する。したがって、加熱段階は、皮膚250への2つの効果を有する。角質層252は、曲線476A、476B、及び476C(図4F)で示されるように、比較的高温に加熱され、その弾性に影響が及ぶ。加熱段階の前の角質層252の相対湿度が100%のとき、印加された応力に反応したその伸長は200%である。しかしながら、加熱段階の後の角質層252の相対湿度が0%に近いとき、印加された応力に反応したその伸長は10%未満に減少する。それに対して、より深い皮膚層254、256、及び258は、曲線476D及び476E(図4E)で示されるように、より低い温度に加熱される。
【0100】
ここで、開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、概して500で参照される、光放出器を使用して熱を発生させる開示される技術の皮膚調整装置の概略図である図5A図5Cを参照する。皮膚調整装置500は、光放出器を使用して熱を発生させ、皮膚の表面(図示せず)の上を転がって皮膚に歪みを生じるように動作可能な回転可能なシリンダの使用によって応力が生じる。以下の説明では、皮膚調整装置500は、皮膚調整装置200(図2A図2E)の少なくともハードウェアコンポーネントを含むと理解され、皮膚250に対して前述した手順及び機能を行うように動作可能である。前述のように、皮膚調整装置500は、熱を発生させることなく、回転可能なシリンダの使用によって生成された応力だけを介して機能することができ、まぶたに小さな機械的病変を生み出す必要はない。皮膚調整装置500は、コントローラ(図示せず)と電源(図示せず)、アクチュエータ530とローラ532、並びに熱発生器526と熱放出器528を含む。コントローラと電源は、コントローラ208と電源210(両方とも図2Bから)に対応する。熱発生器526と熱放出器528は、熱発生器226と熱放出器228(両方とも図2Bから)に対応する。アクチュエータ530とローラ532は、アクチュエータ230と応力コンベヤ232(両方とも図2Bから)に対応する。コントローラ、電源、及びヒータ526は、皮膚調整装置500の本体内に一体化することができる。
【0101】
ローラ532は、皮膚調整装置500の遠位端を形成する回転可能なシリンダであり、皮膚250に直接接触する及び触れるように動作可能である。アクチュエータ530は、電源及びコントローラに電気的に結合される。アクチュエータ530は、シャフト534を介してローラ532に機械的に結合される。シャフト534は、皮膚調整装置500の長手方向のy軸に直交する向きにされ、ローラ532の皮膚調整装置のx軸に平行な中心回転軸を通るように配置され、これにより、ローラ532はシャフト534を中心として回転することができる。皮膚調整装置の軸ガイド540を図5A~5Cに示す。アクチュエータ530は、シャフト534を中心としてローラ532を回転させるように動作可能な、回転可能なモータとして具体化することができる。
【0102】
熱放出器528は、熱発生器526をローラ532によって形成された皮膚調整装置500の遠位端に結合する、複数のチャネルで形成される。熱発生器526は、ローラ532の内部などの皮膚調整装置500内の任意の適切な場所に配置することができる。熱放出器528のチャネルは、ローラ532の表面を覆う平行リング542を形成する複数の列に配列することができる。ローラ532は、熱放出器528を形成するチャネルの1、2、3…n個の平行リング542と共に配置することができる。リング間の距離は、0.05mm、0.2mm、又は1mmなどの数十マイクロメートル~ミリメートルの範囲であり得る。チャネルのいずれか2つの間の距離は、0.1mm~0.5mm、0.5mm~1mm、1mm~1.5mm、1.5mm~2mm、2mm~2.5mm、又は2.4mm~3mmの範囲であり得る。これらのすべての距離は単なる例である。
【0103】
図5A図5Bを参照すると、図3Cに関して前述したように生きている組織から水を蒸発させるのに適した光を発するように動作可能な光放出器として構成された熱発生器526を備えた皮膚調整装置500が示されている。熱発生器526は、皮膚組織自体の蒸発又は凝固を引き起こさない。熱発生器526は、IPL光源、IR光源、又はソリッドステートレーザダイオードとすることができ、およそ2.94μmの波長のレーザを放出することができる。熱放出器528は、熱発生器526によって放出された光信号を皮膚調整装置500の遠位端にあるローラ532の外表面に伝達するように構成された複数の光チャネルで形成される。熱放出器528によって放出された光信号は、皮膚250から水を蒸発させる。熱発生器526がIPL光源又はIR光源であるとき、1つ又は複数の反射器(図示せず)を熱発生器526と熱放出器528との間に取り付けて、放出された光を、熱放出器528の各チャネルの直径のほぼ2倍の範囲のより細いビームにすることができる。熱発生器526がソリッドステートレーザであるとき、熱発生器526は、それぞれ熱放出器528の光チャネルのうちの1つにマウントされる複数の小直径レーザ(図示せず)を含む。熱放出器528は、熱発生器526及びローラ532とともに、表皮の病変生成器とみなすことができる。
【0104】
図5Aを参照すると、熱放出器528は、ローラ532を覆う複数の突起538内に組み込まれた複数の光チャネルとして構築される。皮膚調整装置500の熱発生器526及び熱放出器528は、皮膚調整装置300(図3C)の熱発生器326(図3C)及び熱放出器328(図3C)と実質的に同様であるが、熱発生器526及び熱放出器528がローラ532の表面上に配置されているという注目すべき違いがある。突起538は、突起338のアレイ(図3B)に関して前述したように、任意の適切な生物適合性、熱伝導性、及び熱弾性の材料で形成することができる。同様に、突起538の寸法、形状、及び材料、並びに突起538間の距離は、皮膚調整装置300の突起338に対応し得る。複数の突起538は、シャフト534を中心としたローラの回転と同期して、皮膚250の表面を非侵襲的な様態で押し下げる。突起338は、皮膚調整装置500で治療するときに皮膚250に侵入しないように十分に鈍く、皮膚250を0.1ミリメートル(mm)~1mm、又は0.05mm~1.2mm、又は0.2mm~0.8mm、又は0.3mm~0.7mm、又は0.4mm~0.6mmの範囲、或いは、0.025mm~0.05mm又は0.05mm~0.7mmなどの任意の他の適切な範囲の深さまで押し下げる。しかしながら、複数の突起538による皮膚250の表面の押し下げは、まぶたに使用したときに角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射の活性化を引き起こすのに十分である。まぶたの上での複数の突起538の急な動きは、まぶたの侵害受容器の活性化を引き起こし、角膜及び/又は強膜の侵害受容器の間接的な活性化により、角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射のいずれかをトリガすることができる。別の実施形態では、突起338は、皮膚調整装置500で治療するときに皮膚250に侵入して、まぶたに小さな機械的病変を生み出すのに十分に鋭利であり得る。一実施形態では、突起338の各アレイの直径は、0.05mm、0.1mm、0.15mmから最高1.0mmの範囲であり得る。突起338の高さは、ローラ532の外周から測定したとき、0.05mm、0.1mm、0.15mmから最高1.0mmの範囲であり得る。突起338は、図5A図5Bではピンとして示されているが、それらは、図3A図3Cに関して前述したピラミッド形又は複数の蒸発針として、皮膚に応力を印加するのに適切な任意の形状を有し得る。
【0105】
図5Bを参照すると、熱放出器528は、突起538間のローラ532の表面に直接組み込まれた複数の光チャネルとして構成される。したがって、治療中に、熱放出器528と角質層の表面との間に、突起538の高さに対応する参照番号544で示される小さい距離がある。図5A図5Bに示した実施形態は、例示を目的とすることを意図している。したがって、皮膚調整装置500のハンドル及びハウジングなどの特徴は、概念図としてのみ示されている。一方、図5Aの皮膚調整装置500の熱放出器528を形成する光チャネルは複数の突起538内に組み込まれており、図5Bの皮膚調整装置500の熱放出器528を形成する光チャネルは、複数の突起538間のローラ532の表面上に配置される。したがって、図5Aの熱放出器528によって直接影響を受ける皮膚の領域は、複数の突起538によって直接影響を受ける皮膚の領域に対応する。さらに、図5Aの皮膚調整装置500の熱放出器528は皮膚と直接接触する。それに対して、図5Bの皮膚調整装置500の熱放出器528によって直接影響を受ける皮膚の領域は、複数の突起538によって直接影響を受ける皮膚の領域間にある。さらに、熱放出器528は、複数の突起538の高さに対応する距離だけ、皮膚と直接接触することはできない。
【0106】
ここで、開示される技術の実施形態に従って構築され動作する、皮膚調整装置500のさらなる実施形態を示す図5Cを参照する。皮膚調整装置500に関するこの実装では、応力印加器232(図2B)に対応する応力印加器552は、ローラ532の幅にわたる複数の細長いリッジとして形成される。熱放出器528は、ローラ532に直接組み込まれ、ローラ532の幅にわたる列554に配列された、複数の光チャネルから形成される。熱放出器528の列554は、応力印加器552のリッジと交互に配置される。ローラ532の幅は、0.5cm~4cmの範囲であり得る。熱放出器528を形成するチャネルの列554は、細長いリッジ552間に配置される。リッジ552の高さは、ローラ532の表面から0.5mm~2mmの範囲であり得る。一実施形態では、図5Cのリッジ552の高さは、図3Bの突起538の寸法と同様に、およそ1.25mmであり得る。同様に、図5Cのリッジ552は、突起338(図3B)として適切な熱伝導性及び生物適合性の材料で作製することができる。
【0107】
アクチュエータ530によるローラ532の回転は、熱発生器526によって放出された光への皮膚の領域250の露出時間を決定する。したがって、皮膚の表皮脱水レベルは、ローラ532の回転周波数、並びに、熱発生器526によって放出された光信号の出力及び波長の関数である。コントローラ(図示せず)は、開示される技術によれば、アブレーションを回避しながら皮膚を脱水するべく、シャフト534を中心としたローラ532の回転速度、並びに、熱発生器526によって放出された光のパルス持続時間及び強度を制御する。熱発生器526がIPL又はソリッドステートレーザとして具体化される場合、コントローラは、皮膚の領域250との見通し内にある状態で熱放出器528の光チャネルからのみ光が放出されるように、ヒータ526によって放出される光パルスをアクチュエータ538の回転速度と同期させることができる。コントローラ508は、皮膚の上のローラ532の速度を制御する。例えば、速度は、1mm/s~5mm/sの範囲であり得る。図5A図5Bに関して、ローラ532上の熱放出器528の光チャネルの間隔と、コントローラによって制御されるローラ532の回転周波数との組み合わせは、任意の所与の時点で、突起538のいずれか1つとの皮膚250の接触領域の温度が突起538のうちの1つによって実質的に影響を受けるように較正され、ゆえに、突起538と接触する皮膚の領域間に通常のヒトの体温37℃のままの領域が存在する。同様に、図5Cに関して、ローラ532上の熱放出器528の光チャネルの間隔と、コントローラによって制御されるローラ532の回転周波数との組み合わせは、任意の所与の時点で、リッジ552のいずれか1つとの皮膚250の接触領域の温度がリッジ552のうちの1つによって実質的に影響を受けるように較正され、ゆえに、リッジ552と接触する皮膚の領域間に通常のヒトの体温37℃のままの領域が存在する。
【0108】
タイマ、センサなどによって決定され得る皮膚の脱水後に、コントローラは、突起538(図5A図5B)又は代替的にリッジ552(図5C)のいずれかが脱水された皮膚に非侵襲的圧縮荷重又は応力を印加することで皮膚に歪みが生じて複数の亀裂が形成されるようにローラ532の回転を制御する。コントローラは、皮膚を穿刺又は侵入しないように、ローラ532の回転速度と、それに続く、突起538(図5A図5B)又は代替的にリッジ552(図5C)によって皮膚にかかる圧力を較正及び制御する。結果として、皮膚調整装置500による皮膚250の調整は非侵襲的である。皮膚調整装置500による皮膚の脱水と皮膚への応力の印加は、コントローラによって制御される際に同時に又は順次に行われ得ることに留意されたい。アクチュエータ530でローラ532の回転を駆動することと、ヒータ526の動作を制御することにより、コントローラは、その後の皮膚に歪みを生じさせ、角質層に亀裂を生じる、皮膚への熱と応力の組み合わせの適用を制御する。前述のように、開示される技術は、皮膚調整装置500による皮膚への応力の印加のみを含み得る。
【0109】
ここで、開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、概して550で参照される、ドライフローを使用して熱を発生させる開示される技術の皮膚調整装置の概略図である、図5D図5Eを参照する。皮膚調整装置550は、皮膚調整装置200(図2A図2E)の少なくともハードウェアコンポーネントを含むと理解され、皮膚250に対して前述した手順及び機能を行うように動作可能である。皮膚調整装置550は、前述のように動作するローラ532及びアクチュエータ530を有する図5A図5Cの皮膚調整装置500と実質的に同様である。皮膚調整装置550は、マニホルド560を介して結合される熱発生器556及び熱放出器558を含む。マニホルド560は、熱発生器556及び熱放出器558とともに、熱発生器556からの本明細書では「ドライフロー」と呼ばれる乾燥した空気又はガスの流れを皮膚調整装置550の遠位端から皮膚250に向けて排出させるように動作する。ドライフローは、角質層とより深い皮膚レベルの両方を脱水し、さらに、定常流体圧力として応力を印加し、皮膚に歪みを生じさせることで角質層に亀裂を生じさせるという2つの目的を果たす。ローラ532、熱発生器556、及び熱放出器558による脱水と応力の印加の組み合わせにより、角質層の剥離を引き起こし、さらに、より深い皮膚層の脱水に寄与し、その後、親水性溶液、脂肪親和性溶液、又は疎水性溶液のいずれかを吸収するようにそこに存在する生細胞を調整することができる。
【0110】
熱放出器558は、熱発生器556によって発生したドライフローを、マニホルド560を介してローラ532の外表面に誘導する、ローラ532の表面上の複数の穿孔で形成される。熱発生器556は、例えば、空気を20℃~600℃の範囲の温度に加熱する空気乾燥機を使用することによってドライフローを発生させる。複数の管として例示されるマニホルド560は、熱発生器556からのドライフローをローラ532に誘導し、そこでドライフローは、ローラ532の表面上の穿孔(ラベル無し)として示される熱放出器558から排出される。いくつかの実施形態では、マニホルド560のサイズは、0.5mmである、及び0.6mmから最高3mmの範囲であり得る。ローラ532の外表面上の熱放出器558の穿孔直径は、0.1mm~0.5mmから最高1mmの範囲であり得る。熱放出器558の穿孔は、複数の平行な列又は平行なリングとしてローラ532の表面上で位置合わせされる。列内の穿孔間の距離は、0.1mmから最高3mmの範囲であり得る。列間の距離は、0.5mmから最高3mmの範囲であり得る。
【0111】
ドライフローから皮膚にかかる圧力に加えて、ローラ532は、皮膚の表面に圧力を加えるように動作可能である。したがって、皮膚にかかる応力は、ドライフローとローラ532からの圧力との組み合わせである。コントローラは、ドライフローのタイミング、温度、及び圧力、並びに、シャフト534を中心としたローラ532の回転速度を制御し、これにより、皮膚に送達される熱及び応力のレベル、結果的に皮膚に生じる歪みを制御する。熱のレベルは、上記の式6~13で与えられる熱計算で説明されるように、外傷を誘発することなく皮膚の十分な脱水を引き起こして亀裂を生じさせるように較正される。
【0112】
図5Eを参照すると、開示される技術の一実施形態に従って構築され動作する、皮膚調整装置550の別の実施形態が示されている。皮膚調整装置550に関するこの実施形態では、ローラ532はさらに、図5Cに関して前述したように、ローラ532の幅にわたる1つ又は複数のリッジ562を備える。熱放出器558を形成するチャネルの列は、細長いリッジ562間に配置される。いくつかの実施形態では、皮膚の上のローラ532の速度は、1mm/s~5mm/sの範囲であり得る。皮膚調整装置500から放出されるドライフローの温度は、10℃~50℃の範囲であり得る。皮膚調整装置550から放出されるドライフローの湿度は、湿度0%~10%の範囲であり得る。
【0113】
図5A図5Eに示された皮膚調整装置のそれぞれは、まぶたに使用して、まぶた表皮及び/又は真皮に病変を生み出し、これにより、身体の角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射を誘発し、さらに、身体の炎症治癒プロセスを誘発することができる。図5A図5Eに示された皮膚調整装置のいずれかにおける熱発生器及び熱放出器(両方とも随意的な要素である)は、図示したローラとともに、表皮及び/又は皮膚病変生成器を構成することができる。表皮に生じた病変又は僅かな火傷は、EGFの産生を活性化する軽度の凝固を引き起こすのに十分である。前述のように、まぶたの角質層のどの穿通又は侵入も、この実施形態では20~1000μmを超えず、およそ700μmの最大幅を有する。穿通の深さは、表皮に入る皮膚調整装置の先端部、針、又は蒸発要素の深さが20~1000μmを確実に超えないように、センサ、スペーサ、又は他のメカニズム(図3Aで前述したように)によって制御及び調節される。さらに、表皮の病変又は僅かな火傷を引き起こすためにまぶた表皮に加えられる熱の量は、熱が用いられる実施形態では少なくとも37℃である必要がある。開示される技術の皮膚調整装置のまぶたへの適用は非侵襲的でありながら、身体の角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射、並びに身体の自然な炎症治癒プロセスを誘発するのに最小限の外傷を生じる。前述の反射により眼輪筋が収縮及び弛緩し、これにより、目がまばたきし、まぶたの涙腺及びマイボーム腺に物理的な圧力がかかり、DES及びMGDを治療することができる。身体の自然な炎症治癒プロセスは、マイバムの生成と目の涙液層への皮脂供給を増加させ、マイボーム腺から目の表面へのまぶたの腺房及び腺管の詰まりをなくすことによってDES及びMGDを治療することができる、EGFの産生を含む。この実施形態で開示される技術の皮膚調整装置は、まぶたにのみ使用されるべきであり、目の表面(すなわち、強膜)と接触してはならない。
【0114】
開示される技術によってまぶたに生み出される機械的病変に関して、皮膚の治癒プロセスは十分に回復するのに約3か月かかる場合があることに留意されたい。したがって、開示される技術により誘発される炎症治癒プロセスの治療効果は少なくとも数週間持続し得ると結論付けることができる。
【0115】
ここで、開示される技術の別の実施形態に従って構築され動作する、それぞれ概して600A及び600Bで参照される、RF放出器を使用して熱を発生させる開示される技術の皮膚調整装置の概略図である、図6A図6Bを参照する。図6Aは、単極電極を使用する一実施形態を例示しており、図6Bは、一組の双極電極を使用する一実施形態を例示している。以下の説明では、皮膚調整装置600は、図2A図2Eの装置200の少なくともハードウェアコンポーネントを含むと理解され、皮膚250に対して前述の手順及び機能のいずれかを行うように動作可能である。特に、皮膚調整装置600A及び66Bは、それぞれ、ハウジング620、コントローラ608、電源610、リニアモータ630、RF発生器626、単一の電極628A(図6A)又は一対の電極628B(図6B)のいずれか、及び通信バス616を含む。コントローラ608はコントローラ208(図2B)に対応し、電源610は電源210(図2A)に対応し、リニアモータ630はアクチュエータ230(図2B)に対応し、RF発生器626は熱発生器(図2B)に対応し、図6Aの単一電極628は熱放出器228(図2B)に対応し、対電極628B(図6B)は熱放出器228(図2B)に対応する。コントローラ608、電源610、モータ630、及びRF発生器626は、それぞれの皮膚調整装置600A及び600Bのハウジング620内に一体化される。図6Aの電極628Aは単極電極であり、一方、図6Bの電極628Bは一組の双極電極である。コントローラ608、電源610、モータ630、及びRF発生器626は、通信バス616を介して電気的に結合される。
【0116】
図6Aを参照すると、電極628Aは、皮膚調整装置600Aのモータ630及びRF発生器626に電気的に結合される。電極628Aは、皮膚調整装置600Aの遠位端に配置される。モータ630は、電極628Aを皮膚250に軽く押し当てるように動作するリニアモータであり、これにより、脱水された皮膚250に応力を印加して歪みを生じさせ、皮膚250の表面上に亀裂を生じさせる。RF発生器626は、角質層252及びより深い皮膚層254、256、及び258内のイオンを攪拌する高周波交流電流を生成し、破線領域623Aで示されるように、そこに蓄えられた水を摩擦熱で加熱する。組織からの水の蒸発が70℃の組織温度から始まり、組織温度が104℃に達するときに組織水分量のほぼ半分が失われることを示す実験結果により、コントローラ608は、皮膚250を最高100℃の温度に加熱するべく、RF発生器626による角質層252及びより深い皮膚層254、256、及び258の加熱を制御する。コントローラ608は、RF発生器604Aによって放出されるRF信号のパルス持続時間を30~50秒に制御する。このレートでは、皮膚250の予想される温度上昇は実質的に低い。皮膚250に送達される最高出力は、周波数レンジ460KHzでおよそ25W/m・°Kである。単一の電極が用いられるとき、熱は、狭くて深い領域に侵入する、すなわち有棘層256に達する。正確に制御された加熱と応力の印加の組み合わせは、皮膚250の既存の免疫及び無傷の状態を実質的に損ねる又は変えることなく、角質層252に亀裂を生じさせる。
【0117】
図6Bを参照すると、電極628Bは、皮膚調整装置600Bのモータ630及びRF発生器626に電気的に結合される。電極628Bは、皮膚調整装置600Bの遠位端に配置される。モータ630は、電極628Bを皮膚250に軽く押し当てるように動作するリニアモータであり、これにより、脱水された皮膚250に応力を印加して歪みを生じさせ、皮膚250の表面上に亀裂を生じさせる。正確に制御された加熱と応力の印加の組み合わせは、皮膚250の既存の免疫及び無傷の状態を実質的に損ねる又は変えることなく、角質層252に亀裂を生じさせる。RF発生器626は、角質層252及びより深い皮膚層254、256、及び258内のイオンを攪拌する高周波交流電流を生成し、破線領域623Bで示されるように、そこに蓄えられた水を摩擦熱で加熱する。コントローラ608は、皮膚250を最高100℃の温度に加熱するべく、RF発生器626による角質層252及びより深い皮膚層254、256、及び258の加熱を制御する。コントローラ608は、RF発生器604Aによって放出されるRF信号のパルス持続時間を30~50秒に制御する。このレートでは、皮膚250の予想される温度上昇は実質的に低い。皮膚250に送達される最高出力は、周波数レンジ460KHzでおよそ25W/m・°Kである。2つの電極が用いられるとき、図6Bに示すように、熱は、広くて浅い領域に侵入する、すなわち、熱は顆粒層254を越えて侵入しない。正確に制御された加熱と応力の印加の組み合わせは、皮膚250の既存の免疫及び無傷の状態を実質的に損ねる又は変えることなく、角質層252に亀裂を生じさせる。
【0118】
ここで、開示される技術のさらなる実施形態に従って構築され動作する、概して640で参照される図6A図6Bの皮膚調整装置による機械的病変治療を受けた後の皮膚の領域の画像である、図6Cを参照する。上記の図4Aに示された皮膚の領域と同様に、図6Cに示されているのは、幅100.02μm及び深さ168.25μmの、したがって、有棘層の上側領域に延び、炎症反応を引き起こすのに十分に深い、病変642である。図6Cは、図4Aと同様に単なる例であり、ブタの皮膚にRFエネルギーによって生成された病変を示す。
【0119】
開示される技術の一部は、極端な温度及び圧力、及び損傷に関連する化学物質を検出することによって皮膚に潜在的に損傷を与える刺激をヒトに警告する特殊な末梢感覚ニューロンである侵害受容器による身体の侵害受容プロセスに依存していることに留意されたい。侵害受容器は、これらの刺激を長距離に達する電気信号に変換し、これを高次脳中心にリレーする。機能的に別個の皮膚侵害受容器群の活性化と、それらが伝達する情報の処理は、痛みの質の豊富な多様性をもたらす。開示される技術では、角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射の活性化は、まぶたの皮膚の侵害受容器によってトリガされる角膜及び強膜の侵害受容器によってトリガされる。さらに、免疫系の炎症反応の活性化は、まぶた皮膚の侵害受容器によってトリガされる。しかしながら、この治療を受ける患者の観点からは、組織凝固(すなわち、まぶた表皮のアブレーション)を防ぐために、用いられるパルス持続時間が極めて短く(2~60ms)、用いられるエネルギーが低いので、結果として生じる痛みが少ない。
【0120】
ここで、開示される技術の別の実施形態に従って動作する、皮膚調整装置を動作させる方法の概略図である図7を参照する。手順700において、少なくとも1つのまぶた表皮の外表面に圧力が加えられる。圧力は、まぶた表皮に機械的病変が生じないように鈍い先端部又は表面で加えられる、又は圧力は、図3Bで前述したようにまぶた表皮に機械的病変を生じるのに十分に鋭い少なくとも1つの先端部、突起、及び/又は針で加えられる。機械的病変は、まぶた表皮又は表皮と真皮に影響を及ぼすように生成され得る。圧力は、図5A図5E及び図6A図6Bで前述した装置のいずれかを使用して加えることができる。機械的病変は、図5A図5E及び図6A図6Bで前述したように直接の接触によって生み出すことができる。開示される技術に係る機械的病変は、1000μmの最大深さと、まぶたの外表面の10~100%を覆う700μmの最大幅を有するべきである。前述のように、機械的病変生成器(熱、又はアクチュエータ先端部、針、及び/又は突起を伴うストレッサなど)は、睫毛のラインから少なくとも3mmのところに配置される。したがって、開示される技術の装置とマイボーム腺及び/又は涙腺のいずれか1つとの間に直接の接触はない。開示される技術の装置は、下まぶた、上まぶた、又はこの両方に適用することができる。
【0121】
図2Aを参照すると、コントローラ208は、ヒータ204及びストレッサ206による少なくとも1つの信号の生成を制御する。コントローラ208は、少なくとも1つの信号のタイミング、強度、温度、周波数、持続時間、及び位相のいずれかを制御する。一実施形態では、ヒータ204とストレッサ206は別個のコンポーネントである。一実施形態では、ヒータ204は皮膚調整装置200に含まれない。図3Aを参照すると、コントローラ308は、ヒータ304による熱の発生を制御し、コントローラ308はまた、ストレッサ306による応力の発生を制御する。ヒータ304は、皮膚調整装置300の遠位端を摂氏600度に維持し得る。ストレッサ306は、8ミリ秒(ms)~14ms、又は6ms~16ms、又は5ms~20ms、又は8ms~20ms、又は2ms~60msの範囲の持続時間のパルスを生成し得る。別の実施形態では、ヒータ204とストレッサ206は、単一のコンポーネントとして実装される。図5D図5Eを参照すると、コントローラ508は、熱発生器556によるドライフローの発生を制御する。
【0122】
手順702において、涙反射(すなわち、涙液分泌反射)、手に反応したまばたき反射(すなわち、威嚇まばたき反射)、及びまばたき反射(すなわち、角膜反射)が生じるまで圧力が継続的に加えられる。すべての涙液生成は、いくつかの外部刺激又は内部刺激によって明らかに開始される。まぶた表面への圧力の継続的な適用は、眼輪筋の収縮及び弛緩を誘発するための外部刺激として作用する。これは、涙反射だけでなくまばたき反射も引き起こし、マイボーム腺と涙腺との両方を刺激する。
【0123】
前述のように、反射性の流涙は、涙腺の強い物理的及び感情的刺激によって生じる。このようにして生成された涙には、角膜及び結膜の上皮の増殖と分化のためのビタミンA及びEGFなどの必須成分が含まれる。前述のように、開示される技術によれば、EGFの産生は、マイボーム腺への以下の効果につながる。インビトロ細胞培養からの証拠に基づいて、EGFは、マイボーム腺の形態形成を調節することができる。培養された不死化ヒトマイボーム腺上皮細胞にEGFを添加すると、細胞周期、DNA複製、リボソーム、翻訳の遺伝子の調節による時間依存性の顕著な細胞増殖と、細胞分化、組織発達、脂質代謝プロセス、及びペルオキシソーム増殖因子活性化受容体シグナル伝達に関連するものの顕著な減少がもたらされる。
【0124】
さらに、まぶたへの治療の効果は、マイボーム腺の皮脂の粘度、或いは機械的又は化学的手段(すなわち、温度又は振動)による涙液生成に影響を及ぼさないことに留意されたい。角膜及び涙液層の構造を保護するべく、目の涙液分泌、威嚇まばたき反射、及び角膜反射を活性化することにより、マイボーム腺及び涙腺によって生成される上涙液層の脂質及びタンパク質が増加する。前述の目の反射の活性化は、マイボーム腺及び涙腺の機能を復活させるのに十分であり、これにより、DES及びMGDの軽減及び治療を提供する。
【0125】
手順702で加えられる圧力はまた、目の涙液分泌、威嚇まばたき反射、及び角膜反射をさらに活性化する小さな機械的病変を生み出し得る。小さな機械的病変の生成はまた、まぶたの炎症治癒プロセスを活性化し得る。
【0126】
随意的な手順である手順704において、免疫系(すなわち、炎症治癒プロセス)を活性化することでマイボーム腺及び涙腺の機能をさらに復活させる。まぶたに機械的病変を生み出すことによる免疫系の活性化は、涙反射及びまばたき反射を引き起こすことに加えて、マイボーム腺及び涙腺を活性化する。免疫系はまた、まぶたに機械的病変を生み出すべく熱を加えることによって活性化することができる。一緒に、これらはさらに、それ以上ではないにしても少なくとも2週間はマイボーム腺及び涙腺の機能を復活させる。
【0127】
前述のように、応力信号の生成によって圧力を加えることができ、機械的病変を生み出すことができ、応力信号の生成は、ドライフローの生成、無線周波数(本明細書ではRFと略記する)信号の生成、一連の機械的パルスの生成、及び機械的回転の生成のいずれかを実行することを含む。応力は、角質層の外表面を押し下げるために非侵襲的に印加される。いくつかの実施形態において、角質層の外表面は、0.1ミリメートル~1ミリメートル、又は0.05mm~1.2mm、又は0.2mm~0.8mm、又は0.3mm~0.7mm、又は0.4mm~0.6mm、又は0.025mm~0.05mm、又は0.05mm~0.7mmの範囲の深さに押し下げられる。機械的病変は、例えば20℃~600℃の熱を加えることでさらに増強することができる。図5D図5Eを参照すると、熱発生器556は、角質層252に応力を印加するドライフローを発生させる。図6A図6Bを参照すると、RF発生器626は、角質層252に応力を印加する高周波交流電流を生成する。図3A図3Cを参照すると、アクチュエータ330は、コントローラ308によって制御される際に、所定のパルス持続時間及び治療ごとの所定のパルス数に従って、調和脈動運動でアクチュエータ先端部332を前進及び後退させる。複数の突起338は、脈動運動と同期して、皮膚250の表面を非侵襲的な様態で押し下げる。押し下げる深さは、0.1ミリメートル(mm)~1mm、又は0.05mm~1.2mm、又は0.2mm~0.8mm、又は0.3mm~0.7mm、又は0.4mm~0.6mm、又は0.025mm~0.05mm、又は0.05mm~0.7mmの範囲である。図5D図5Eを参照すると、アクチュエータ530は、シャフト534を介してローラ532に機械的に結合される。アクチュエータ530は、ローラ532をシャフト534の周りで回転させる回転可能なモータである。複数の突起538は、シャフト534を中心としたローラの回転と同期して、皮膚250の表面を非侵襲的な様態で押し下げる。
【0128】
開示される技術のいくつかの実施形態において、少なくとも1つの信号を生成することはさらに、少なくとも1つの信号のタイミング、強度、温度、周波数、持続時間、及び位相のいずれかを制御することを含む。図2Aを参照すると、コントローラ208は、ヒータ204及びストレッサ206のいずれかによって生成される信号のタイミング、強度、温度、周波数、持続時間、及び位相のいずれかを制御する。
【0129】
前述のように、開示される技術は、DES及びMGDを治療するためにまぶたに使用することができる。加えて、いくつかの実施形態では、開示される技術はさらに、皮膚のバリア機能をそのまま保ちながら、溶液の適用のために角質層を開放することができる。前述のように、開示される技術を用いてまぶたに歪みを生じさせる(及び随意的に熱を加える及び随意的に小さな機械的病変を生み出す)と、身体の角膜反射、威嚇まばたき反射、及び涙液分泌反射が誘発されるが、それでも、まぶたに外傷又は永続的な損傷を引き起こさない。随意的な熱の適用と小さな機械的病変の生成はまた、まぶたに外傷又は永続的な損傷を引き起こさずに、身体の炎症治癒プロセスを誘発することができる。眼輪筋の収縮及び弛緩を引き起こし、また、身体の炎症治癒プロセスを誘発することにより、EGFの産生が増加し、これにより、マイバム及び皮脂の流れが増加して、マイボーム腺及び涙腺の腺房及び腺管の詰まりがなくなり、これにより、DES及びMGDが治療される。
【0130】
本明細書で上記に開示された様々な実施形態は例示を意図していることが当業者には理解されるであろう。開示される技術は、前述の要素の特定の組み合わせ及び並び順に限定されない。特に、ヒータ、熱発生器、熱放出器、ストレッサ、アクチュエータ、及び応力印加器のさらなる実施形態を、当該技術分野では公知のように、開示される技術を達成するために任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0131】
開示される技術は、上記で特に示され説明されたものに限定されないことが当業者には理解されるであろう。むしろ、開示される技術の範囲は、以下の請求項によってのみ定義される。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図7