(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】さわり調整用山変位装置
(51)【国際特許分類】
G10D 3/14 20200101AFI20240531BHJP
G10D 1/05 20200101ALI20240531BHJP
【FI】
G10D3/14
G10D1/05
(21)【出願番号】P 2020126030
(22)【出願日】2020-07-25
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504008656
【氏名又は名称】安慶名 英之
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】安慶名 英之
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-181093(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 3/14
G10D 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三味線の上駒近傍で該上駒に触れない一の糸だけが触れる山の棹からの突出量を機械的に調整するさわり調整用山変位装置において、
前記山さわりは、その一の糸の張り方向に手動による変位を可能にするため案内するガイドレール付きの山キャリアに摺動可能に支承され、
該山キャリアは、前記山さわりを棹から出入りさせるため、前記棹の裏から表に貫通するガイド筒に沿って回動が拘束された状態で上下動可能に嵌装され、手の指の腹または爪を使って回転されるローレットによる主回動円盤の回動量に応じて、前記山キャリアを前記ガイド筒に沿って上下動させる螺進機構としてのねじプランジャーが設けられ、
棹から突出した山さわりに押し込み力が作用すると、該山さわりを棹内に退避させ、押し込み力が解放されると、該山さわりを直前の突出量に復元させる外力緩衝手段が設けられていることを特徴とするさわり調整用山変位装置。
【請求項2】
前記山キャリアには前記ガイド筒の内面との摺接部位に上下動中の摩擦軽減用の湾曲状フィンが形成され、上動時と下動時の摩擦負荷が略均等でかつガイド筒内面との空気流通隙間を少なくして音質の変動を抑制していることを特徴とする請求項1に記載のさわり調整用山変位装置。
【請求項3】
前記主回動円盤は前記ガイド筒の棹の裏側すなわち非弦張側端を、端部中心域を残して閉鎖するジャーナル軸受付きの固定当て円板の裏面すなわち下面に摺接回動可能に設けられ、前記主回動円盤またはねじプランジャーの一部もしくはその両方が棹から親指幅以上に突出していないことを特徴とする請求項1に記載のさわり調整用山変位装置。
【請求項4】
前記主回動円盤にはその中心部位に角形貫通孔が形成される一方、前記山キャリアの胴部ねじ孔に対する螺着量を変更すべく延びる前記ねじプランジャーが、その角状のヘッドを前記角形貫通孔に軸方向摺動可能に嵌着係合されており、前記角状のヘッドの首下の断面円形部がジャーナル軸受により支承されて前記ねじプランジャーのアライメントが達成されており、前記山さわりに押し込み力が作用したとき山キャリアと共に前記ねじプランジャーが変位し、前記角状のヘッドが前記角形貫通孔から出入りさせる前記外力緩衝手段としてのコイルスプリングが前記山キャリアと前記ジャーナル軸受との対面間に介装されていることを特徴とする請求項1に記載のさわり調整用山変位装置。
【請求項5】
前記ねじプランジャーに代えて、ねじプランジャーとしてはヘッドを有しないねじプランジャーとされ、該ねじプランジャーの基部内には角形またはスプライン式縦孔が形成され、
該縦孔に嵌合する軸体が、その一端を前記主回動円盤の中心部位に一体化されており、
該主回動円盤の回動に応じて軸体がねじプランジャーを回転させて前記山キャリアを上下動させ、該山さわりに押し込み力が作用したときねじプランジャーの縦孔の前記軸体との嵌着量を増大させ、前記山の押し込み力が解除されたとき圧縮されていたコイルスプリングが伸長して山の復元が図られるようになっていることを特徴とする請求項1 に記載のさわり調整用山変位装置。
【請求項6】
手親指の特に爪先で操作される副回動円盤の回動量に応じて、前記山さわりと前記山キャリアとの相対的位置関係を保ったまま、前記山キャリアを一の糸の張り方向に微変位させる山微動手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のさわり調整用山変位装置。
【請求項7】
前記副回動円盤は六角棒体のヘッドであり、その首下の六角棒体またはスプライン棒体が固定当て円板の偏心域に形成された挿通孔に緩挿され、前記ガイド筒に平行して固定された副ガイド筒内で回転しうる副回転柱体の六角袋孔またはスプライン袋孔に嵌着され、該副回転柱体の袋孔底に半球状のリンクヘッドが偏心して取り付けられ、
前記副回動円盤の回転に応じて該リンクヘッドが前記副ガイド筒の端部に固着した限定円弧ガイド付き蓋の限定円弧溝に沿って動く間に、リンクの端が前記山さわりの進行面に配備されたマグネット板を介して離反することなく押し引きできるようにしていることを特徴とする請求項6に記載のさわり調整用山変位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はさわり調整用山変位装置に係り、詳しくは三味線の上駒近傍でその上駒に触れない一の糸だけが触れる山の棹からの突出量を機械的に調整するさわり調整用山変位装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図15に示すなどの三味線では、他の弦楽器とは異なり音を響かせることを特徴としており、その余韻が生じて魅力ある演奏ができるようにも配慮されている。そのため、3本の糸巻き4hのある天神31近くに、この響きを生じさせる策が施される。
【0003】
二の糸II、三の糸IIIは上駒4aに乗るが、一の糸Iだけが棹4に直接触れることになる。一の糸は、上駒4aの切り込みで棹から離れる。そして、さわりの山で再び棹に接触する。この仕組みによって、糸が振動すると、基音と同時に高次音が発生する。この高次音が「さわり」であり、この音が出るようになると「さわりがついた」状態となる。さわりをつけるために、「吾妻ざわり」なる特異なデバイスが棹に仕込まれる。
【0004】
「さわり」には「山さわり」と『東(吾妻)さわり』の2種類がある。「山さわり」は上駒が一の糸の部分だけなく、糸の一義的な振動による響かせとなるが、「東さわり』は上駒に代わる山の突出量を変えての響かせとなるので、響き方を変えることができる。
【0005】
三味線の糸の振動を増幅又は減衰させるために、三味線の棹に埋め込んだ角状筒に沿って昇降する山に糸を強く又は弱く接触させ、糸を緩め又は張りを持たせて糸の振幅を調整する東さわりが、特開平9-244630号公報に開示されている。
【0006】
糸を動かす部品を棹の内部に、一の糸に対して60度から80度程度の範囲で斜めに設けることによって、一の糸を動かす部品の上下の動きで、さわりを調節するようにした三味線のさわり調節装置が、特開2000-250531に提案されている。
【0007】
特開平9-244630号公報では、T型台座に駒を上下動させるねじを付けておき、このねじを回転して、糸に強弱加減して押付けた駒にて糸の振動幅を調節している。そのため、ねじはT型台座に対して進退して長いねじの露出部分がT型台座より大きく飛出してしまう。このねじの露出部分が長いと、曲がりやすくなるために、ねじは弱い曲げが作用しても屈曲してしまう。このねじの露出部分を丈夫にしておくと衣服などに引掛けたり、力が加わって変調をきたすとしばしば本体(三味線)自体の交換が余儀なくされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-244630号公報
【文献】特開2000-250531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
三味線の一の糸は詳しくは図示しないが、さわり溝に乗り、窪みを通って山さわりにわずかに接触する。このわずかな接触で「さわり」が発生する。共鳴効果を発揮させるためには、高度の加工精度が要求される。また棹が僅かでも変形した場合は、山さわりとの接触度が変化して、曲想に狂いが生じたり弱すぎるさわりとなったり、接触しすぎて所望したさわりが発生しなくなる場合もある。棹が木製であるから、気温・湿度等の影響で僅かであっても変形する。演奏する際の基準音の設定、使用する駒の高低、使用する糸の太さの違い等の要素により、その都度さわりの状態が変化するので、一定の状態に保つことは容易でない。
【0010】
上で開示されたさわり調整装置ではさわり特有の効果を発現させることができるが、以下の問題やもの足りなさが残る。一つは、ねじ式であるゆえに、ねじ棒の存在は避けられず、ねじ軸やねじヘッドが棹の裏側に飛び出させざるを得ない。このねじ軸やねじヘッドが時として衣装に引っ掛けたり、周囲の物に当てたりぶつけたりして、怪我の原因になったり、破損による動作不良を招いたりする。二つには、緩んだ糸を糸巻きで調節し直す際に、さわりの調整も同時にすることができない不便さがある、三つには、さわり山の糸接触部位はさわり山を予め手で動かせて所望する響きの出る位置を探すのであるが、さわり山の突出量を維持したままその糸との接触部位を微妙に変更することができない。
【0011】
本発明はこれらの問題点に鑑みなされたもので、ねじ軸やねじヘッドが棹の裏側に飛び出させない、すなわち、衣装に引っ掛けたりせず、周囲の物に当てたりぶつけたりするほどには飛び出していない構造にしておくことができること、緩んだ糸を糸巻きで調節し直す際に、さわりの調整も同時にできることを、実現したさわり調整用山変位装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、三味線の上駒近傍でその上駒に触れない一の糸だけが触れる山さわりの棹からの突出量を機械的に調整するさわり調整用山変位装置に適用される。その特徴とするところは、主として
図1を参照して、山さわり1は、その一の糸の張り方向に手動による変位を可能にするため案内するガイドレール2付きの山キャリア3に摺動可能に支承され、
その山キャリア3は、山さわり1を棹4から出入りさせるため、棹4の裏から表に貫通するガイド筒5に沿って回動が拘束された状態で上下動可能に嵌装され、
手の指の腹または爪を使って回転される主回動円盤6の回動量に応じて、山キャリア3をガイド筒5に沿って上下動させる螺進機構7としてのねじプランジャー8が設けられ、
棹4から突出した山さわり1に押し込み力が作用すると、その山さわり1を棹4内に退避させ、押し込み力が解放されると、その山さわり1を直前の突出量に復元させる外力緩衝手段9が設けられていることである。
【0013】
図4および
図9に示すように、山キャリア3にはガイド筒5の内面との摺接部位に上下動中の摩擦軽減用の湾曲状フィン3aが形成され、上動時と下動時の摩擦負荷が略均等でかつガイド筒5内面との空気流通隙間を少なくして音質の変動を抑制している。
【0014】
主回動円盤6はガイド筒5の棹4の裏側(非弦張側)端を、端部中心域を残して閉鎖するジャーナル軸受10a付きの固定当て円板10の裏面(下面)10bに摺接回動可能に設けられ、主回動円盤6またはねじプランジャー8の一部もしくはその両方が棹4から親指32の幅以上に突出していないことである。
【0015】
主回動円盤6にはその中心部位に角形貫通孔6aが形成される一方、山キャリア3の胴部ねじ孔3bに対する螺着量を変更すべく延びるねじプランジャー8が、その角状のヘッド8aを角形貫通孔6aに軸方向摺動可能に嵌着係合されており、角状のヘッド8aの首下の断面円形部8bがジャーナル軸受10aにより支承されてねじプランジャー8のアライメントが達成されており、山さわり1に押し込み力が作用したとき山キャリア3と共にねじプランジャー8が変位し、角状のヘッド8aが角形貫通孔6aから出入りさせる外力緩衝手段9としてのコイルスプリング9aが山キャリア3とジャーナル軸受10aとの対面間に介装されている。
【0016】
図13に示すように、ねじプランジャー8に代えて、ねじプランジャーとしてはヘッドを有しないねじプランジャー8Aとされ、そのねじプランジャー8Aの基部内には角形またはスプライン式縦孔8cが形成され、その縦孔8cに嵌合する軸体6cが、その一端を主回動円盤6の中心部位に一体化されており、その主回動円盤6の回動に応じて軸体6cがねじプランジャー8Aを回転させて山キャリア3を上下動させ、その山さわり1に押し込み力が作用したときねじプランジャー8Aの縦孔8cの軸体6cとの嵌着量を増大させ、山の押し込み力が解除されたとき圧縮されていたコイルスプリング9aが伸長して山の復元が図られるようになっている。
【0017】
図4に示すように、手親指の特に爪先で操作される副回動円盤16の回動量に応じて、山さわり1と山キャリア3との相対的位置関係を保ったまま、山キャリア3を一の糸の張り方向に微変位させる山微動手段30が設けられている。
【0018】
副回動円盤16は六角棒体17のヘッド18であり、その首下の六角棒体(またはスプライン棒体)17が固定当て円板10の偏心域に形成された挿通孔19に緩挿され、ガイド筒5に平行して固定された副ガイド筒15内で回転しうる副回転柱体20の六角袋孔(またはスプライン袋孔)20aに嵌着され、その副回転柱体20の袋孔底20bに半球状のリンクヘッド21が偏心して取り付けられ、
図9も参照して、副回動円盤16の回転に応じてそのリンクヘッド21が副ガイド筒15の端部に固着した限定円弧ガイド付き蓋22の限定円弧溝22aに沿って動く間に、リンク24の端が山さわり1の進行面に配備されたマグネット板25を介して離反することなく押し引きできるようにしている。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、山キャリア、ガイド筒、主回動円盤、螺進機構、外力緩衝手段を備え、山さわり1が山キャリア3に摺動可能に支承されているので、一の糸の張り方向に手動による山キャリア3のガイドレール2により案内して変位させることができる。また、山さわり1をガイド筒5に沿って回動が拘束された状態で棹4の裏から表に上下動して、棹4から出入りさせることができる。
【0020】
これは、主回動円盤6を手の指の腹または爪を使って回転させ、その回動量に応じて、山キャリア3を螺進機構7のねじプランジャー8の回動により、ガイド筒5に沿って上下動させることができるからである。棹4から突出した山さわり1に何らかの押し込み力が作用しても、外力緩衝手段9により、山さわり1を棹4内に退避させ、押し込み力が解放されると直前の突出量に復元させることができる。
【0021】
山キャリア3にはガイド筒5の内面との摺接部位に湾曲状フィン3aが形成されているので、上下動中の摩擦軽減がなされ、上動時と下動時の摩擦負荷が略均等でかつガイド筒5内面との空気流通隙間を少なくして音質の変動が抑制される。
【0022】
主回動円盤6はガイド筒5の棹4の裏側(非弦張側)端を、端部中心域を残して閉鎖するジャーナル軸受10a付きの固定当て円板10の裏面(下面)10bに摺接回動可能に設けられている。したがって、主回動円盤6またはねじプランジャー8の一部もしくはその両方が棹4から親指幅以上に突出することはなく、棹から怪我の原因になったり、周囲の物に引っ掛けるほどの異物の突出を抑制しておくことができる。
【0023】
主回動円盤6の中心部位に角形貫通孔6aが形成され、一方、山キャリア3の胴部ねじ孔3bに対する螺着量を変更すべく延びるねじプランジャー8が、その角状のヘッド8aを角形貫通孔6aに軸方向摺動可能に嵌着係合されているから、角状のヘッド8aの首下の断面円形部8bがジャーナル軸受10aにより支承されてねじプランジャー8のアライメントが達成されている。山さわり1に押し込み力が作用したとき山キャリア3と共にねじプランジャー8が変位し、外力緩衝手段9としてのコイルスプリング9aが山キャリア3とジャーナル軸受10aとの対面間に介装されているので、角状のヘッド8aが角形貫通孔6aから出入りさせることができる。
【0024】
ヘッドを有しないねじプランジャー8Aがねじプランジャーとして代用され、そのねじプランジャー8Aの基部内には角形またはスプライン式縦孔8cが形成される。この縦孔8cに嵌合する軸体6cが、その一端を主回動円盤6の中心部位に一体化されており、この主回動円盤6の回動に応じて軸体6cがねじプランジャー8Aを回転させることができるから、山キャリア3を上下動させることができる。この山さわり1に押し込み力が作用したときねじプランジャー8Aの縦孔8cの軸体6cとの嵌着量を増大させ、山の押し込み力が解除されたとき圧縮されていたコイルスプリング9aが伸長して山の復元が図られる。
【0025】
山微動手段30が設けられ、手親指の特に爪先で操作される副回動円盤16の回動量に応じて、山さわり1と山キャリア3との相対的位置関係を保ったまま、山キャリア3を一の糸の張り方向に微変位させることができる。
【0026】
副回動円盤16は六角棒体17のヘッド18であり、その首下の六角棒体(またはスプライン棒体)17が固定当て円板10の偏心域に形成された挿通孔19に緩挿され、ガイド筒5に平行して固定された副ガイド筒15内で回転しうる副回転柱体20の六角袋孔(またはスプライン袋孔)20aに嵌着され、この副回転柱体20の袋孔底20bに半球状のリンクヘッド21が偏心して取り付けられているので、副回動円盤16の回転に応じてこのリンクヘッド21が副ガイド筒15の端部に固着した限定円弧ガイド付き蓋22の限定円弧溝22aに沿って動く間に、リンク24の端が山さわり1の進行面に配備されたマグネット板25を介して離反することなく押し引きできるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るさわり調整用山変位装置の代表例の糸に垂直な方向から見た断面の全体構造図。
【
図3】代表例の糸に延びる方向で見た断面における山さわりに意図しない外力が作用して山さわりが退避した状態図。
【
図5】山微動手段におけるリンクヘッドとリンクの可動状態説明図。
【
図7】固定当て板と主回動円盤との取り合い関係図。
【
図8】副回動円盤と副ガイド筒との取り合い関係図。
【
図9】山キャリアと山微動手段におけるリンクヘッドとの取り合い関係図。
【
図10】山キャリアと副回転柱体との取り合い関係図。
【
図11】ガイド筒と副回転柱体との取り合い関係図。
【
図12】さわり調整用山変位装置の代表例の部品分解斜視図。
【
図13】第2例におけるさわり調整用山変位装置の全体構造図。
【
図15】さわり調整用山変位装置が天神近くの棹に装着されている斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を用いて、本発明に係るさわり調整用山変位装置40の実施の形態を詳細に説明する。これは、三味線の上駒近傍でその上駒に触れない一の糸だけが触れる山の棹からの突出量を機械的に調整する
図15中で破線で示す位置に取り付けられる装置である。本発明は構造が複雑なので、まず
図12に分解構造を示すが要所については模式図を基に説明する。
【0029】
図1、
図2に示すように、山さわり1は、その一の糸の張り方向に手動による変位を可能にするため案内するガイドレール2付きの山キャリア3に摺動可能に支承され、
その山キャリア3は、山さわり1を棹4から出入りさせるため、棹4の裏から表に貫通するガイド筒5に沿って回動が拘束された状態で上下動可能に嵌装されている。手の指32(
図4を参照)の腹または爪を使って回転される主回動円盤6(これは、10円硬貨よりやや小さい程度の径であるが)の回動量に応じて、山キャリア3をガイド筒5に沿って上下動させる螺進機構7としてのねじプランジャー8が設けられ、棹4から突出した山さわり1に押し込み力(
図3を参照)が作用すると、山さわり1を棹4内に退避させ、押し込み力が解放されると、山さわり1を直前の突出量に復元させる外力緩衝手段9が設けられている。
【0030】
山キャリア3にはように、ガイド筒5の内面との摺接部位に上下動中の摩擦軽減用の
図9に示す湾曲状フィン3aが多数形成され、上動時と下動時の摩擦負荷が略均等でかつガイド筒5内面との空気流通隙間を少なくして音質の変動を抑制している。
【0031】
図1に戻って、主回動円盤6はガイド筒5の棹4の裏側(非弦張側)端を、端部中心域を残して閉鎖するジャーナル軸受10a付きの固定当て円板10の裏面(下面)10bに摺接回動可能に設けられ、主回動円盤6またはねじプランジャー8の一部もしくはその両方が棹4から親指幅以上に突出しない。
【0032】
主回動円盤6にはその中心部位に角形貫通孔6aが形成される一方、山キャリア3の胴部ねじ孔3bに対する螺着量を変更すべく延びるねじプランジャー8が、その角状のヘッド8aを角形貫通孔6aに軸方向摺動可能に嵌着係合されている。角状のヘッド8aの首下の断面円形部8bがジャーナル軸受10aにより支承されてねじプランジャー8のアライメントが達成されている。
図3に示すように、山さわり1に押し込み力が作用したとき山キャリア3と共にねじプランジャー8が変位し、角状のヘッド8aが角形貫通孔6aから出入りさせる外力緩衝手段9としてのコイルスプリング9aが山キャリア3とジャーナル軸受10aとの対面間に介装されている。これは、
図2、および
図3から把握できるとおりである。
【0033】
図4に示すように、手親指の特に爪先で操作される副回動円盤16の回動量に応じて、山さわり1と山キャリア3との相対的位置関係を保ったまま、山キャリア3を一の糸の張り方向に微変位させる山微動手段30が設けられる。
【0034】
上記構成に加えて、副回動円盤16は六角棒体17のヘッド18であり、その首下の六角棒体(またはスプライン棒体)17が固定当て円板10の偏心域に形成された挿通孔19に緩挿され、ガイド筒5に平行して固定された副ガイド筒15内で回転しうる副回転柱体20の六角袋孔(またはスプライン袋孔)20aに嵌着され、この副回転柱体20の袋孔底20bに半球状のリンクヘッド21が偏心して取り付けられ、副回動円盤16の回転に応じてこのリンクヘッド21が副ガイド筒15の端部に固着した限定円弧ガイド付き蓋22の限定円弧溝22aに沿って動く間に、リンク24の端が山さわり1の進行面に配備されたマグネット板25(
図5を参照)を介して離反することなく押し引きできるようにしている。
【0035】
その詳細は
図8、
図9、
図10、
図11にある構造となっている。なお、
図9中の3つの磁石33は、鉄製のリンク24が挙動する際の姿勢保持用であり、
図10のごとく、副回転柱体20の端面に埋設されている。28は、リンクヘッド21の支持軸28aを回転柱体20に開口させた凹陥穴29から支えさせるための固定ナットである。
【0036】
以上の構成により。ローレット6tに爪を立てて副回動円盤16を回すと、六角棒体17が回る。その角体で噛み合う副回転柱体20も回転する。半球状のリンクヘッド21が限定円弧ガイド付き蓋22の限定円弧溝22aに案内されて周回する。その周回運動がリンク24の先端を往復運動させる。その先端が山さわり1の側面をマグネット板25を介して押し引きする。その際にリンク24の先端と山さわり1の側面との角度変化が生じるが、磁石26が姿勢を変えて角度変化を吸収し、リンク24と山さわり1との一体性を維持する。それのみならず、リンク24が後退するとき磁石26の吸着力により牽引も確保される。なお、マグネット板25は山さわり1の側面に接着されており、リンク24は、半球状のリンクヘッド21には球面継手式接続状態にあって、適度に揺動する。よって、衣服や衣装を引っ掛けたりせず、緩んだ糸を糸巻きで調節し直す際に、さわりの微調整も同時にできるようになる。上で触れた磁石26はその磁力のみでその左右部品の連接を実現しているのであるが、
図3のように外力を受けて山さわり1が退避したときに生じる山キャリア3と副回転柱体20とのずれも、磁石26の姿勢変化で吸収される。
【0037】
ちなみに、
図12中の6u、6n、6sは主回動円盤6の背部に設けた凹みにはめたり、覆ったりする蓋や化粧キャップである。
図5や
図10に示すように、リンク24の端部とマグネット板25の間には磁石片26が介装され、山に押し込み力が作用したとき山キャリアに変位が生じても押引き用の磁気的接続が保持されるようになっていることは、上で述べた。
【0038】
次に、
図13を参照して述べる装置は
図1の装置の代替機構であり、ねじプランジャー8に代えて、ねじプランジャーとしてはヘッドを有しないねじプランジャー8Aとされ、このねじプランジャー8Aの基部内には角形またはスプライン式縦孔8cが形成され、この縦孔8cに嵌合する軸体6cが、その一端を主回動円盤6の中心部位に一体化されており、その主回動円盤6の回動に応じて軸体6cがねじプランジャー8Aを回転させて山キャリア3を上下動させ、
図3のように。この山さわり1に押し込み力が作用したときねじプランジャー8Aの縦孔8cの軸体6cとの嵌着量を増大させ、山の押し込み力が解除されたとき圧縮されていたコイルスプリング9aが伸長して山の復元が図られるようになっている。
【0039】
図14に示すように、外力緩衝手段はコイルスプリングに代えて、固定当て端円板のジャーナル軸受と山キャリアの下端との間にあって、同極を対向させた上下一対(図では左右一対)のマグネットの磁気ダンパー(磁気ばね)27とすることもできる。
【0040】
図示しないが、外力緩衝手段は、山の支持部のガイドレール上に設けた弾発性脚部としてもよい。
【0041】
ちなみに、本発明に係るさわり調整用山変位装置を既存のさわり調整装置を適用することもできる。すなわち、さわり調整装置を除去し、その角孔を利用して新たなガイド筒5M(
図12を参照)の装着することもできる。その場合、図中のフィッティング10f,10sを導入などすればよい。
【符号の説明】
【0042】
40:さわり調整用山変位装置、1:山さわり、2:ガイドレール、3:山キャリア、3a:湾曲状フィン、3b:胴部ねじ孔、4:棹、4a:上駒、5:ガイド筒、6:主回動円盤、6a:角形貫通孔、6c:軸体、7:螺進機構、8,8A:ねじプランジャー、8a:角状のヘッド、8b:断面円形部、8c:スプライン式縦孔、9:外力緩衝手段、9a:コイルスプリング、10:固定当て円板、10a:ジャーナル軸受、15:副ガイド筒、16:副回動円盤、17:六角棒体(またはスプライン棒体)、18:ヘッド、19:挿通孔、20a:六角袋孔(またはスプライン袋孔)20:副回転柱体、20b:袋孔底、21:半球状のリンクヘッド、22:限定円弧ガイド付き蓋、22a:限定円弧溝、24:リンク、25:マグネット板、26:磁石片、28:固定ナット、28a:支持軸、30:山微動手段、I:一の糸、II:二の糸、III:三一の糸。