(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】シリコーン組成物を架橋させるためのタイプII光開始剤系の使用
(51)【国際特許分類】
C08F 299/08 20060101AFI20240531BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20240531BHJP
C08F 4/00 20060101ALI20240531BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20240531BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240531BHJP
C09D 183/05 20060101ALI20240531BHJP
C09D 183/07 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C08F299/08
C08F2/50
C08F4/00
C08L83/07
C09D7/63
C09D183/05
C09D183/07
(21)【出願番号】P 2022064106
(22)【出願日】2022-04-07
(62)【分割の表示】P 2020027376の分割
【原出願日】2016-12-22
【審査請求日】2022-05-06
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507421304
【氏名又は名称】エルケム・シリコーンズ・フランス・エスアエス
【氏名又は名称原語表記】ELKEM SILICONES France SAS
(73)【特許権者】
【識別番号】518221575
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド オート アルザス
【氏名又は名称原語表記】Universite de Haute Alsace
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ピブレ,ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】フランシス,ジャン-マルク
(72)【発明者】
【氏名】アロナス,シャビエル
(72)【発明者】
【氏名】イブラヒム,アーマッド
(72)【発明者】
【氏名】マリヴェルネ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】タイル,ペリーヌ
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111574(JP,A)
【文献】特開昭58-045259(JP,A)
【文献】特開2013-203794(JP,A)
【文献】特開平09-296113(JP,A)
【文献】特表2013-543032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/08
C08F 2/50
C08F 4/00
C08L 83/07
C09D 7/63
C09D 183/05
C09D 183/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 少なくとも1種のラジカル光開始剤Aと;
- ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物から選択される少なくとも1種の共開始剤Bと;
- 少なくとも1個の(メタ)アクリレート基を含む少なくとも1種のオルガノポリシロキサンDと
を含む、200nm~450nmの波長の放射への暴露によって架橋可能であるシリコーン組成物Cであって、
前記ラジカル光開始剤Aが、ジ置換ベンゾフェノン(各芳香環上に1つの置換)および下式(IV):
の化合物
(式中、Rは、
- H;
- Si(R
1)
3基[同一であるかもしくは異なる、R
1基は、(C
1~C
6)アルキル基である];および
- 基OR
2[式中、R
2は、下式(V):
に相当する]
で任意選択的に置換された、(C
1~C
20)アルキル基;
- -C(=O)-R
3基[式中、ラジカルR
3は、線状もしくは分岐(C
1~C
20)アルキル基である];
- -A-CH=CH
2基[式中、ラジカルAは、
○ 共有結合、
○ -C(=O)-基、または
○ 下式(VI):
(ここで、iは、0または1であり、A
1は、(C
1~C
20)アルキレンラジカルを表す)の基
から選択される])
の中から選択され、
前記共開始剤Bが、共開始剤Bの100g当たり少なくとも0.05モルのSi-H官能基を含み、
比(ラジカル光開始剤Aのモル数)/(共開始剤BのSi-H官能基のモル数)が、0.5以上であり、
前記オルガノポリシロキサンDが、
a1)下式(I):
R
aZ
bSiO
(4-a-b)/2 (I)
[式中:
- 同一であるかもしくは異なる、記号Rは、任意選択的に置換された、線状もしくは分岐C
1~C
18アルキル基、またはアルコキシ-OR
4ラジカル(ここで、R
4は、水素原子もしくは1~10個の炭素原子を含む炭化水素ラジカルである)をそれぞれ表し;
- 記号Zは、式-y-(Y’)
n(ここで:
○ yは、ヒドロキシルラジカルで任意選択的に置換された二価のC
1~C
4オキシアルキレンもしくはポリオキシアルキレンラジカルで任意選択的に延長させられた線状もしくは分岐C
1~C
18アルキレン多価ラジカルを表し、
○ Y’は、一価のアルケニルカルボニルオキシラジカルを表し、
○ nは、1、2または3である)
の一価ラジカルであり、
- aは、0、1または2に等しい整数であり、bは、1または2に等しい整数であり、合計a+b=2または3である]
の少なくとも1つの単位と;
a2)任意選択的に、次式(II):
R
aSiO
(4-a)/2 (II)
[式中:
- 同一であるかもしくは異なる、記号Rは、任意選択的に置換された、線状もしくは分岐C
1~C
18アルキル基をそれぞれ表し、
- aは、2または3に等しい整数である]
の単位と
を含むことを特徴とするシリコーン組成物C。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコーン組成物Cにおいて、前記ラジカル光開始剤Aが、次式の化合物(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(7a)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(15)、(16)および(17):
から選択されることを特徴とするシリコーン組成物C。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシリコーン組成物Cにおいて、前記共開始剤Bが、少なくとも1つのシロキサン結合と、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子とを含むことを特徴とするシリコーン組成物C。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cにおいて、前記共開始剤Bが、オルガノ水素ポリシロキサンから選択されることを特徴とするシリコーン組成物C。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cにおいて、前記共開始剤Bが、共開始剤Bの100g当たり少なくとも0.08モルのSi-H官能基を含むことを特徴とするシリコーン組成物C。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cにおいて、Si-H官能基の濃度が、組成物Cの100g当たり0.01モル以下であることを特徴とするシリコーン組成物C。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cにおいて、ラジカル光開始剤Aの濃度が、組成物Cの100g当たり0.0003~0.015モルであることを特徴とするシリコーン組成物C。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cの使用であって、ノンスティック特性のシリコーンフィルムの製造のためであることを特徴とする使用。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cの架橋によって得られるシリコーンエラストマー。
【請求項10】
ノンスティック特性のシリコーンフィルムの製造方法であって、請求項1~
7のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cの架橋工程を備えることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項
10に記載の方法において、前記架橋工程が、空気下でまたは不活性雰囲気下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項
10に記載の方法において、前記架橋工程が、200nm~450nmの波長の放射への暴露によって実施されることを特徴とする方法。
【請求項13】
基材上のコーティングの製造方法において、以下の工程:
- 請求項1~
7のいずれか一項に記載のシリコーン組成物Cの基材への塗布と、
- 200nm~450nmの波長の放射への暴露による前記組成物の架橋と
を備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、シリコーン組成物の、特にアクリルシリコーン組成物のラジカル架橋のためのタイプII光開始剤系の使用である。
【背景技術】
【0002】
ノンスティックコーティング(剥離コーティング)を生み出すためにシリコーンコーティングの適用のための支持材料としてのプラスチックフィルムの使用は、適切な技術を必要とする。実際に、これらのプラスチックフィルムのほとんどは熱に弱い。したがって、フィルムの寸法変形が、フィルムに課せられる引張力と温度との組み合わせの影響下でのコーティング中におよび熱炉におけるシリコーン層の乾燥中に起こる。紫外(UV)放射線下の官能性シリコーンオイルについての架橋技術は、高温の使用なしで済ますこと、したがって支持体を損傷することなくノンスティック層を架橋させることを可能にする。加えて、この技術は、エネルギー集約的であることなく、かつ、溶媒を使用することなく高い生産性を達成するという利点を有する。プラスチック基材は、多くの用途にとって選り抜きの材料であり、それらの使用は絶えず成長している。また、研究および革新は、UV下でのシリコーンの薄フィルムの架橋の分野において絶対に必要である。
【0003】
シリコーン組成物は一般に、その発光スペクトルが200nmから450nmまで広がるドープ処理または非ドープ処理水銀ランプによって発せられるUVまたは可視放射線下に架橋させられる。特有のUVまたは可視光をもたらす頭字語「LED」でより良く知られる、発光ダイオードなどの光源もまた使用され得る。
【0004】
一般的見地から、照射下の架橋は、光開始剤分子によって促進される。かなりの文献が、光開始剤およびそれらの使用を記載している。アクリルシリコーン組成物のラジカル重合の分野において、一般に使用される光開始剤分子は、いわゆるタイプI光開始剤である。照射下に、これらの分子は分裂し、フリーラジカルを生成する。これらのラジカルは、組成物の硬化をもたらす重合開始反応を誘発する。ノンスティックコーティングを得るためにアクリルシリコーン調合物でのそれらの使用を可能にする特性をタイプI光開始剤が有するように多くの構想が実施されてきた。本出願の全体にわたって、用語「タイプI光開始剤」は、当業者に周知であり、そして分子内均等分裂によってUV励起下に重合のフリーラジカル開始剤を発生させることができる化合物を意味すると理解される。
【0005】
ラジカル光開始剤と共開始剤とを含むタイプII光開始剤系もまた存在する。タイプIIの光開始剤系において、使用される光開始剤は、共開始剤と呼ばれる別の化合物との反応(ここで、この反応は共開始剤から光開始剤への水素の移行を引き起こす)によって重合を開始させるフリーラジカルを発生させることができる。タイプII光開始剤系に使用される光開始剤は、「タイプII光開始剤」と言われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、アクリルシリコーン組成物の重合に有効であるラジカル光開始剤と共開始剤とを含むタイプII光開始剤系はまったく存在しない。本発明の目的は、特に放射線への暴露によって、シリコーン組成物を架橋させるのに好適であるタイプII光開始剤系を含むラジカル重合性または架橋性シリコーン組成物を提供することである。
【0007】
本発明はまた、特に放射線への暴露による、シリコーン組成物の架橋に適しており、シリコーン組成物に混和性であり、かつ、適用について考えられる波長、すなわち、200nm~450nmの波長での光放射線の吸収の良好な特性を提供するタイプII光開始剤系を含むラジカル重合性または架橋性シリコーン組成物を提供することを目指している。
【0008】
本発明はまた、本発明によるラジカル重合性シリコーン組成物から基材上にフィルムまたはコーティングを製造する方法を提供することを目指している。
【0009】
本発明はまた、本発明によるラジカル重合性シリコーン組成物から得られるフィルムまたはコーティングでコートされた基材を提供することを目指している。
【0010】
本発明の別の目的は、(メタ)アクリレート基、特にエステル(メタ)アクリルまたはエポキシアクリレートまたはポリエーテルアクリレート基を含むオルガノポリシロキサンをベースとする、放射線下に、特にUV放射線下に架橋するノンスティックコーティングを得ることを可能にするシリコーン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、
- 少なくとも1種の光開始剤Aと;
- ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物から選択される少なくとも1種の共開始剤Bと;
- 少なくとも1個の(メタ)アクリレート基を含む少なくとも1種のオルガノポリシロキサンDと
を含む、200nm~450nmの波長の放射線への暴露によって架橋可能であるシリコーン組成物Cにおいて、共開始剤Bが、共開始剤Bの100g当たり少なくとも0.05モルのSi-H官能基を含む組成物Cに関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ケイ素原子に結合した水素原子は、Si-H官能基またはSi-H結合を意味する。本発明によれば、共開始剤Bを定義するために、用語「ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物」または「少なくとも1個のSi-H結合を含む化合物」または「少なくとも1個のヒドロゲノシリル官能基を含む化合物」または「少なくとも1個のSi-H官能基を含む化合物」は、区別しないで用いられ得る。
【0013】
本発明はそれ故、ラジカル光開始剤Aと、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物から選択される共開始剤Bとの組み合わせを含む特有のタイプII光開始剤系の使用をベースとする。
【0014】
本出願の全体にわたって、用語「架橋」は、(メタ)アクリレート官能基の重合反応による組成物の硬化を意味すると理解される。
【0015】
用語「放射線への暴露によって架橋可能なシリコーン組成物」は、放射線、特に、200nm~450nmの波長の、UV放射線への暴露によって硬化することができる少なくとも1種のオルガノポリシロキサンを含む組成物を意味する。
【0016】
放射線による光架橋を得るために、組成物は、入射光エネルギーの吸収の影響下に、フリーラジカルを媒体中へ放出するタイプII光開始剤系を含む。これらのラジカルは、(メタ)アクリル官能基のラジカル重合の開始剤として働く。それは組成物の硬化を開始させるので、光開始剤系は、本特許出願の絶対に必要な要素である。
【0017】
ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む共開始剤分子Bとの併用で光開始剤分子Aを含み、そして(メタ)アクリル官能基を持った少なくとも1種のオルガノポリシロキサンDを含む、シリコーン組成物Cへ導入される、本発明によるタイプII光開始剤系は、放射線によって、特にノンスティック特性の架橋フィルムを得ることを可能にする。
【0018】
共開始剤
本発明によれば、使用される共開始剤Bは、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む化合物である。
【0019】
本発明によれば、共開始剤Bは好ましくは、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む有機ケイ素化合物である。
【0020】
一実施形態によれば、本発明によるシリコーン組成物Cは、共開始剤の混合物を含む。
【0021】
ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を含む有機ケイ素化合物の中に、シランSおよびオルガノ水素ポリシロキサンHが挙げられてもよい。
【0022】
シランSの中に、式R3SiH(式中、同一であるかもしくは異なる、基Rは、H、(C1~C20)アルキルラジカルおよび(C6~C10)アリールラジカルからなる群から選択される)の化合物が挙げられてもよい。本発明によれば、基Rはまた、ラジカル-SiR’3(式中、同一であるかもしくは異なる、基R’は、(C1~C10)アルキルラジカルおよび(C6~C10)アリールラジカルから選択される)を表してもよい。
【0023】
特に、Rは、フェニル基またはアルキル基、とりわけメチル、エチルまたはオクダデシルを表してもよい。Rはまた、-SiMe3基を表してもよい。
【0024】
本発明による共開始剤Bとして使用され得るシランSの例として、2-トリエチルシラン、ジメチルフェニルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシランおよびトリス(トリメチルシリル)シランが挙げられてもよい。
【0025】
シランSとして、N,N-ジエチル-1,1-ジメチルシリルアミン、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、N,N’,N’’-トリ-tert-ブチル-シラントリアミン、ペンタメチルジシランまたはクロロジフェニルシランもまた挙げられてもよい。
【0026】
一実施形態によれば、本発明による共開始剤Bは、トリス(トリメチル-シリル)シラン(TTMSS)、トリフェニルシラン(TPSi)およびオクタデシルシラン(OctaSi)からなる群から選択される。
【0027】
一実施形態によれば、本発明による共開始剤Bは、少なくとも1つのシロキサン結合と、ケイ素原子に結合した少なくとも1個の水素原子とを含む。シロキサン結合とは、≡Si-O-Si≡結合を意味する。一実施形態によれば、本発明による共開始剤Bは、オルガノ水素ポリシロキサンHから選択される。
【0028】
好ましい実施形態によれば、オルガノ水素ポリシロキサンHは、異なるケイ素原子にそれぞれ結合した少なくとも2個の、好ましくは3個の水素原子を含む。
【0029】
好ましい実施形態によれば、オルガノ水素ポリシロキサンHは、
(i) 式(H1):
HdLeSiO(4-(d+e))/2 (H1)
(式中:
○ Lは、水素原子とは異なる一価ラジカルを表し、
○ Hは、水素原子を表し、
○ dおよびeは、整数を表し、ここで、dは、1または2であり、eは、0、1または2であり、(d+e)は、1、2または3である)
の少なくとも2つの単位と;
(ii) 任意選択的に式(H2):
LfSiO(4-f)/2 (H2)
(式中:
○ Lは、上記と同じ意味を有し、
○ fは、0、1、2または3に等しい整数を表す)
の他の単位と
を含む。
【0030】
上の式(H1)および(H2)中、いくつかのL基が存在する場合に、それらは同一であっても異なってもよいことが理解されるべきである。式(H1)中、記号dは優先的には1であってもよい。さらに、式(H1)中および式(H2)中、Lは好ましくは、少なくとも1つのハロゲン原子で任意選択的に置換された、1~8個の炭素原子を有するアルキル基、およびアリール基からなる群から選択される一価ラジカルを表してもよい。Lは有利には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリルおよびフェニルからなる群から選択される一価ラジカルを表してもよい。式(H1)の単位の例は次のとおりである:H(CH3)2SiO1/2、H(CH3)SiO2/2およびH(C6H5)SiO2/2。
【0031】
オルガノ水素ポリシロキサンHは、線状、分岐、環状またはネットワーク構造を有してもよい。線状オルガノ水素ポリシロキサンの場合には、これらは本質的に、
- 式HLSiO2/2(D’単位とも言われる)およびL2SiO2/2の単位から選択されるシロキシル「D」単位、ならびに
- 式HL2SiO1/2(M’単位とも言われる)およびL3SiO2/2の単位から選択されるシロキシル「M」単位
(式中、記号Lは、上記と同じ意味を有し、記号Hは、水素原子を意味する)
からなってもよい。
【0032】
これらの線状オルガノ水素ポリシロキサンHは、1mPa.s~100,000mPa.s、好ましくは1mPa.s~5,000mPa.s、さらにより好ましくは1mPa.s~2,000mPa.sの25℃での動的粘度を有するオイルであってもよい。
【0033】
本明細書で言及される粘度はすべて、「ニュートン(Newtonian)」と呼ばれる25℃での動的粘度量、すなわち、測定粘度が速度勾配と無関係であるために十分に低い剪断速度勾配でBrookfield粘度計を使って、それ自体公知のやり方で、測定される動的粘度に相当する。
【0034】
それが環状オルガノ水素ポリシロキサンに関する場合、これらは、式HLSiO2/2およびL2SiO2/2の単位の中から選択される「D」シロキシル単位から、または式HLSiO2/2のみのシロキシル単位からなってもよい。式L2SiO2/2の単位は、特に、ジアルキルシロキシまたはアルキルアリールシロキシであってもよい。これらの環状オルガノ水素ポリシロキサンは、1mPa.s~5,000mPa.sの25℃での動的粘度を有してもよい。
【0035】
オルガノ水素ポリシロキサンHの例は、
- ヒドロゲノジメチルシリル末端のポリジメチルシロキサン;
- トリメチルシリル末端のポリ(ジメチルシロキサン-co-ヒドロゲノメチルシロキサン);
- ヒドロゲノジメチルシリル末端のポリ(ジメチルシロキサン-co-ヒドロゲノメチルシロキサン);
- トリメチルシリル末端のポリヒドロゲノメチルシロキサン;および
- 環状ヒドロゲノメチルポリシロキサン
である。
【0036】
分岐したまたはネットワークのオルガノ水素ポリシロキサンHの場合には、これらはさらに、
- 式HSiO3/2およびLSiO3/2の単位から選択されるシロキシル「T」単位;
- 式SiO4/2のシロキシル単位「Q」
(式中、記号Hは、水素原子を表し、Lは、上記と同じ意味を有する)
を含んでもよい。
【0037】
一実施形態によれば、共開始剤Bは、共開始剤Bの100g当たり少なくとも0.08モルのSi-H官能基、より好ましくは共開始剤Bの100g当たり0.08モル~2.5モルのSi-H官能基、さらにより優先的には共開始剤Bの100g当たり0.08モル~1.8モルのSi-H官能基を含む。
【0038】
一実施形態によれば、共開始剤Bは、ポリマーの100g当たり少なくとも0.05モルのSi-H官能基、好ましくはポリマーの100g当たり少なくとも0.08モルのSi-H官能基、より好ましくはポリマーの100g当たり0.08モル~2.5モルのSi-H官能基、さらにより好ましくはポリマーの100g当たり0.08モル~1.8モルのSi-H官能基を含むオルガノ水素ポリシロキサンポリマーHである。
【0039】
一実施形態によれば、本発明による架橋性シリコーン組成物C中で、Si-H官能基の濃度は、組成物Cの100g当たり0.01モル以下、好ましくは組成物Cの100g当たり0.006モル未満、より好ましくは組成物Cの100g当たり0.005モル未満である。
【0040】
一実施形態によれば、本発明による架橋性シリコーン組成物Cは、組成物Cの100g当たり0.0001モル~0.01モルのSi-H官能基、とりわけ組成物Cの100g当たり0.0002モル~0.01モルのSi-H官能基、好ましくは組成物Cの100g当たり0.0002モル~0.006モルのSi-H官能基を含む。
【0041】
ラジカル光開始剤A
本発明によれば、使用される光開始剤は、ラジカル光開始剤Aである。
【0042】
好ましくは(メタ)アクリレート基で官能化された、オルガノポリシロキサンを重合させるために、当業者は、タイプII光開始剤系に使用することができ、そして200nm~450nmの波長の光放射を吸収する好適なラジカル光開始剤Aを選択することができるであろう。
【0043】
一実施形態によれば、ラジカル光開始剤Aは、ベンゾフェノンおよびその誘導体、チオキサントンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、ベンゾイルホルメートのエステル、カンファーキノン、ベンジル、フェナントレンキノン、クマリンおよびケトクマリンならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0044】
ベンゾフェノン誘導体とは、置換ベンゾフェノンおよびベンゾフェノンの高分子バージョンを意味する。
【0045】
用語「チオキサントン誘導体」は、置換チオキサントンを意味し、用語「アントラキノン誘導体」は、置換アントラキノンを、特にアントラキノンスルホン酸およびアクリルアミド-置換アントラキノンを意味する。
【0046】
本発明によれば、ベンゾイルホルメートエステルの中に、任意選択的に二官能性の、メチルベンゾイルホルメートが挙げられてもよい。
【0047】
ラジカル光開始剤Aの例として、特に、次の製品が挙げられてもよい:イソプロピルチオキサントン;ベンゾフェノン;カンファーキノン;9-キサンテノン;アントラキノン;1-4 ジヒドロキシアントラキノン;2-メチルアントラキノン;2,2’-ビス(3-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン);2,6-ジヒドロキシアントラキノン;1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン;1,5-ジヒドロキシアントラキノン;1,3-ジフェニル-1,3-プロパン-ジオン;5,7-ジヒドロキシフラボン;ジベンゾイルペルオキシド;2-ベンゾイル安息香酸;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン;2-フェニルアセトフェノン;アントロン;4,4’-ジメトキシベンゾイン;フェナントレンキノン;2-エチルアントラキノン;2-メチルアントラキノン;2-エチルアントラキノン;1,8-ジヒドロキシアントラキノン;ジベンゾイルペルオキシド;2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン;ベンゾイン;2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン;ベンズアルデヒド;4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル)ケトン;ベンゾイル-アセトン;エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィネートおよびそれらの混合物。
【0048】
本発明によるラジカル光開始剤Aの市販製品の例としては、ベンゾフェノン誘導体の中に、Esacure(登録商標)TZT、Speedcure(登録商標)MBP、Omnipol(登録商標)BP製品が、チオキサントン誘導体の中に、Irgacure(登録商標)907、Omnipol(登録商標)TXおよびGenopol(登録商標)TX-1製品が挙げられてもよい。
【0049】
一実施形態によれば、本発明によるラジカル光開始剤Aは、ベンゾフェノン、置換ベンゾフェノン、チオキサントン、置換チオキサントン、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0050】
置換もしくは非置換の、チオキサントンの中に、例えば、次の化合物:
が挙げられてもよい。
【0051】
置換ベンゾフェノンの中に、ジ置換ベンゾフェノン(各芳香環上に1つの置換)および下式(IV):
の化合物が挙げられてもよく、
式中、Rは、
- H;
- Si(R
1)
3基[同一であるかもしくは異なる、R
1基は、(C
1~C
6)アルキル基である];および
- 基OR
2[式中、R
2は、下式(V):
に相当する]
で任意選択的に置換された、(C
1~C
20)アルキル基;
- -C(=O)-R
3基[式中、ラジカルR
3は、線状もしくは分岐(C
1~C
20)アルキル基である];
- -A-CH=CH
2基[式中、ラジカルAは、
○ 共有結合、
○ -C(=O)-基、または
○ 下式(VI):
(ここで、iは、0または1であり、A
1は、好ましくは線状の、(C
1~C
20)アルキレンラジカルを表す)
の基
から選択される]
の中から選択される。
【0052】
式(IV)の化合物の中に、次の化合物(3)~(13)および(15)~(17):
が挙げられてもよい。
【0053】
本発明により有用であるベンゾフェノンの別の例として、化合物(14):
が挙げられてもよい。
【0054】
この化合物は、製品Ebecryl P36(CAS:85340-63-2)に相当する。
【0055】
好ましくは、ラジカル光開始剤Aは、ベンゾフェノン、2-メチルベンゾフェノン、3-メチルベンゾフェノン、2,5-ジメチルベンゾフェノン、3,4-ジメチルベンゾフェノン、2,4-ジメチルベンゾフェノン、4-イソプロピルベンゾフェノンおよび2-トリメチルシリルオキシベンゾフェノンならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0056】
一実施形態によれば、組成物C中の光開始剤Aのモル数と、共開始剤BのSi-H官能基のモル数との間の比は、0.5以上、好ましくは0.5~20、さらにより好ましくは1~10である。
【0057】
好ましい実施形態によれば、組成物C中の光開始剤Aのモル数と、共開始剤BのSi-H官能基のモル数との間の比は、1~5である。
【0058】
一実施形態によれば、本発明による架橋性シリコーン組成物Cは、組成物Cの100g当たり少なくとも0.0003モルのラジカル光開始剤A、好ましくは組成物Cの100g当たり少なくとも0.0005モルのラジカル光開始剤Aを含む。好ましくは、本発明の組成物C中のラジカル光開始剤Aのモル含有量は、組成物Cの100g当たり0.0003~0.015モル、さらにより好ましくは組成物Cの100g当たり0.0005~0.015モルである。
【0059】
オルガノポリシロキサンD
本発明によれば、本発明による架橋性シリコーン組成物Cは、少なくとも1個の(メタ)アクリレート基を含む少なくとも1種のオルガノポリシロキサンDを含む。
【0060】
シリコーンによって支えられた、そして本発明に特に好適な(メタ)アクリレート官能基の代表として、Si-C結合によってポリシロキサン鎖に結合したアクリレート誘導体、メタクリレート、(メタ)アクリレートのエーテルおよび(メタ)アクリレートのエステルがより特に挙げられてもよい。
【0061】
一実施形態によれば、オルガノポリシロキサンDは、
a1)下式(I):
RaZbSiO(4-a-b)/2 (I)
[式中:
- 同一であるかもしくは異なる、記号Rは、好ましくはハロゲン原子で、任意選択的に置換された、線状もしくは分岐C1~C18アルキル基、C6~C12アリールもしくはアラルキル基、またはアルコキシ-OR4ラジカル(ここで、R4は、水素原子もしくは1~10個の炭素原子を含む炭化水素ラジカルである)をそれぞれ表し;
- 記号Zは、式-y-(Y’)n(ここで:
○ yは、ヒドロキシルラジカルで任意選択的に置換された二価のC1~C4オキシアルキレンもしくはポリオキシアルキレンラジカルで任意選択的に延長させられた線状もしくは分岐C1~C18アルキレン多価ラジカルを表し、
○ Y’は、一価のアルケニルカルボニルオキシラジカルを表し、
○ nは、1、2または3である)
の一価ラジカルであり、
- aは、0、1または2に等しい整数であり、そして一方、bは、1または2に等しい整数であり、合計a+b=1、2または3である]
の少なくとも1つの単位と;
a2)任意選択的に、式(II):
RaSiO(4-a)/2 (II)
[式中:
- 同一であるかもしくは異なる、記号Rは、好ましくはハロゲン原子で、任意選択的に置換された、線状もしくは分岐C1~C18アルキル基、C6~C12アリールもしくはアラルキル基をそれぞれ表し、
- aは、0、1、2または3に等しい整数である]
の単位と
を含む。
【0062】
上の式(I)および(II)中、記号Rは有利には、メチル、エチル、プロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、キシリル、トリルおよびフェニルからなる群から選択される一価ラジカルを表してもよい。
【0063】
オルガノポリシロキサンDは、線状、分岐、環状またはネットワーク構造を有してもよい。線状オルガノポリシロキサンの場合には、これらは本質的に、
- 式R2SiO2/2、RZSiO2/2およびZ2SiO2/2の単位から選択されるシロキシル「D」単位;
- 式R3SiO1/2、R2ZSiO1/2、RZ2SiO1/2およびZ3SiO1/2の単位から選択されるシロキシル「M」単位
からなってもよく;
- 記号RおよびZは、式(I)において上で定義されたとおりである。
【0064】
一実施形態によれば、上の式(I)において、上述のアルケニルカルボニルオキシラジカルY’の中に、アクリルオキシ[CH2=CH-CO-O-]ならびにメタクリルオキシラジカル:[(CH3)CH=CH-CO-O-]および[CH2=C(CH3)-CO-O-]が挙げられてもよい。
【0065】
式(I)の単位における記号yの例示として、ラジカル:
-CH2-;
-(CH2)2-;
-(CH2)3-;
-CH2-CH(CH3)-CH2-;
-(CH2)3-NH-CH2-CH2-;
-(CH2)3-OCH2-;
-(CH2)3-[O-CH2-CH(CH3)-]-;
-(CH2)3-O-CH2-CH(OH)(-CH2-);
-(CH2)3-O-CH2-C(CH2-CH3)[-(CH2)2-]2;および
-(CH2)2-C6H9(OH)-
が挙げられてもよい。
【0066】
好ましくは、オルガノポリシロキサンDは、次式(III):
[式中:
- 同一であっても異なってもよい、記号R
1は、好ましくはハロゲン原子で、任意選択的に置換された、線状もしくは分岐C
1~C
18アルキル基、C
6~C
12アリールもしくはアラルキル基、またはアルコキシ-OR
4ラジカル(ここで、R
4は、水素原子もしくは1~10個の炭素原子を含む炭化水素ラジカルである)をそれぞれ表し、
- 同一であるかもしくは異なる、記号R
2およびR
3は、ラジカルR
1か、または式Z=-w-(Y’)n(ここで:
○ wは、ヒドロキシルラジカルで任意選択的に置換されたC
1~C
4二価オキシアルキレンもしくはポリオキシアルキレンラジカルで任意選択的に延長させられた線状もしくは分岐C
1~C
18アルキレン多価ラジカルを表し、
○ Y’は、一価のアルケニルカルボニルオキシラジカルを表し、
○ nは、1、2または3である)
の一価ラジカルかのどちらかをそれぞれ表し、
- 式中、a=0~1000、b=0~500、c=0~500、d=0~500、そしてa+b+c+d=0~2500であり、
- ただし、少なくとも1つの記号R
2またはR
3は、式Zの一価ラジカルを表す]
を有する。
【0067】
好ましい実施形態によれば、上の式(III)において:
- c=0、d=0、a=1~1000、b=1~250であり、式中、記号R2は、式Zの一価ラジカルを表し、そして一方、記号R1およびR3は、上記と同じ意味を有する。
【0068】
さらにより好ましくは、上の式(III)において:
- c=0、d=0、a=1~500、b=1~100であり、式中、記号R2は、式Zの一価ラジカルを表し、記号R1およびR3は、上記と同じ意味を有する。
【0069】
一実施形態によれば、本発明によるオルガノポリシロキサンDは、次式:
(式中:
- xは、1~1000であり;
- nは、1~100である)
を有する。
【0070】
本発明による架橋性シリコーン組成物Cは、少なくとも1つの添加物をさらに含んでもよい。添加物として、
(i) 有機(メタ)メタクリレート誘導体、および
(ii) (メタ)アクリレート官能基を持ったシリコーン
から選択される、シリコーン/接着剤界面のノンスティック力を制御するための少なくとも1つの添加物が、組成物中に含められてもよい。
【0071】
特に好適な有機(メタ)アクリレート誘導体は、エポキシ化(メタ)アクリレート、(メタ)アクリログリセロポリエステル、(メタ)アクリロウレタン、(メタ)アクリロポリエーテル、(メタ)アクリロポリエステル、および(メタ)アクリロアクリル化合物である。トリメチロールプロパントリアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートがより特に好ましい。
【0072】
本発明の好ましい変形によれば、使用される添加物は、(メタ)アクリレート官能基を持ったシリコーンである。シリコーンによって支えられた、そして本発明に特に好適な(メタ)アクリレート官能基の代表として、Si-C結合によってポリシロキサン鎖に結合したアクリレート、メタクリレート、(メタ)アクリレートエーテルおよび(メタ)アクリレートエステル誘導体がより特に挙げられてもよい。そのようなアクリレート誘導体は、特に、特許欧州特許第0 281 718号明細書、仏国特許第2,632,960号明細書および欧州特許第0 940 458号明細書に記載されている。
【0073】
チオールまたは芳香族アミンなどの他の添加物が、組成物の架橋を加速するために添加されてもよい。
【0074】
一実施形態によれば、組成物Cは、白金を含まない。
【0075】
本発明はまた、ノンスティック特性のシリコーンフィルムの製造のための、本発明による組成物Cの使用に関する。
【0076】
好ましくは、これらのシリコーンフィルムを製造するために、光開始剤Aのモル数と、共開始剤BのSi-H官能基のモル数との間の比が、0.5~20、好ましくは1~5であり、共開始剤Bが、100g当たり少なくとも0.08モル、好ましくは0.1モル~2.5モルのSi-H官能基を好ましくは含む、上で定義されたような組成物Cが使用される。
【0077】
本発明はまた、上で定義されたような架橋性組成物Cを架橋させることによって得られるシリコーンエラストマーに関する。
【0078】
本発明はまた、上で定義されたような架橋性組成物Cを架橋させる工程を含む、ノンスティック特性のシリコーンフィルムの製造方法に関する。
【0079】
好ましくは、本発明による方法において、ラジカル光開始剤Aのモル数と、共開始剤BのSi-H官能基のモル数との間の比が、0.5~20、好ましくは1~5であり、共開始剤Bが、共開始剤Bの100g当たり少なくとも0.08モル、好ましくは0.1モル~2.5モルのSi-H官能基を好ましくは含む、上で定義されたような、組成物Cが使用される。
【0080】
本発明の方法の一実施形態によれば、架橋工程は、空気下でまたは不活性雰囲気下で実施される。好ましくは。この架橋工程は、不活性雰囲気下で実施される。
【0081】
一実施形態によれば、本発明による方法の架橋工程は、好ましくは不活性雰囲気下で、200nm~450nmの波長の放射線によって実施される。
【0082】
本発明はまた、次の工程:
- 上で定義されたような架橋性組成物Cの基材への塗布
- 200nm~450nmの波長の放射線への暴露による組成物Cの架橋
を含む、コーティングを基材上に製造する方法に関する。
【0083】
UV放射線は、その発光スペクトルが200nmから450nmまで広がるドープ処理または非ドープ処理水銀ランプによって発せられてもよい。特有のUVまたは可視光をもたらす頭字語「LED」でより良く知られる、発光ダイオードなどの光源もまた使用され得る。
【0084】
本発明の好ましい実施形態によれば、放射線は、400ナノメートル未満の波長を有する紫外光である。
【0085】
本発明の好ましい実施形態によれば、放射線は、200ナノメートル超の波長の紫外光である。
【0086】
照射時間は、短くてもよく、一般に1秒未満であり、低いコーティング厚さについては、約2~3百分の1秒のものである。得られる架橋は、いかなる加熱もなしでさえも優れている。
【0087】
一実施形態によれば、架橋工程は、10℃~50℃、好ましくは15℃~35℃の温度で実施される。
【0088】
もちろん、硬化速度は、使用されるUVランプの数、UV暴露時間、および組成物とUVランプとの間の距離によって特に調整され得る。
【0089】
溶媒なしの、すなわち、非希釈の本発明による組成物Cは、少量の液体を、一様に、堆積させることができるデバイスを用いて塗布され得る。この目的のために、例えば、2つの重ね合わされたシリンダーを特に含む、「スライディング・ヘリオ(sliding helio)」と呼ばれるデバイスが用いられてもよく:ここで、組成物が入れられているコーティングタンク中に漬けられた、最も低く置かれたシリンダーの役割は、1つの非常に薄いコーティングを最も高く置かれたシリンダーに含浸させることであり、そして一方、後者のシリンダーの役割はそのとき、それが含浸している組成物の所望量を紙上に堆積させることであり、ここで、そのような用量は、互いに反対方向に回転している2つのシリンダーのそれぞれの速度を調節することによって得られる。
【0090】
支持体上に堆積される組成物Cの量は、可変であり、一般に処理表面の1m2当たり0.1~5gの範囲である。これらの量は、支持体の種類および所望のノンスティック特性に依存する。それらはほとんどの場合、非多孔質支持体について0.5~1.5g/m2である。
【0091】
この方法は、織物、紙、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンまたは不織ガラス繊維でできた可撓性支持体である基材上にノンスティックシリコーンコーティングを製造するのに特に好適である。
【0092】
これらのコーティングは、ノンスティックソリューションの分野でのそれらの使用に特に好適である。
【0093】
本発明はしたがってまた、上で定義されたような方法によって得られる被覆基材に関する。上に示されたように、基材は、織物、紙、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンまたは不織ガラス繊維の可撓性支持体であってもよい。
【0094】
被覆基材は、ノンスティック、撥水性を有するか、または滑りやすさ、汚染抵抗もしくは柔らかさなどの改善された表面特性を可能にする。
【0095】
本発明の別の目的は、次の化合物(2)、(4)、(5)、(6)、(7)、(7a)、(9)、(15)、(16)および(17):
に関する。
【0096】
本発明はまた、ラジカル光開始剤としての上記の化合物(2)、(4)、(5)、(6)、(7)、(7a)、(9)、(15)、(16)および(17)の使用、好ましくはシリコーン組成物の架橋のためのラジカル光開始剤としての、上記の化合物(2)、(4)、(5)、(6)、(7)、(7a)、(9)、(15)、(16)および(17)の使用に関する。
【0097】
以下の実施例は、例示的な、非限定的な目的のために示される。それらは、特に、本発明のより良い理解を可能にし、その利点をすべて明らかにする。
【実施例】
【0098】
以下の実施例では、様々な光開始剤、共開始剤およびアクリルシリコーンを本発明に従って使用したが、それらの構造を下の表に示す。
【0099】
これらの光開始剤の中で、化合物(2)、(4)、(8)、(9)、(15)、(16)および(17)は、以下に説明されるプロトコルに従って合成した。
【0100】
化合物(4)の合成
40.4ミリモル(6.67g)のブロモヘキサンおよび20.2ミリモル(2.79g)の炭酸カリウムを、100mlの2口フラスコ中10mlのアセトニトリルに導入する。溶液を次に沸騰させ、その後30mlのアセトニトリル中の10.1ミリモル(2g)の4-ヒドロキシベンゾフェノンの溶液を滴加する。溶液は、無色から黄色に変わる。反応は、溶液が再び無色になったときに完了する。
【0101】
反応が完了したとき、Celite(商標)を通して混合物を濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮する。
【0102】
生成物を次に、90/10のシクロヘキサン/酢酸エチル溶離剤を使ってシリカカラムで精製する。生成物を2日間羽根型ポンプ真空下に置いて痕跡のブロモヘキサンを除去する。
【0103】
得られた生成物は、70.7%の収率で白色結晶性固体である。
【0104】
化合物(5)、(6)、(7)、(7a)、および(8)の合成
固体の水酸化カリウム(1ヒドロキシル官能基当たり4当量)を、無水ジメチルスルホキシド(DMSO)(1ヒドロキシル官能基の1ミリモル当たり2mL)に添加する。5分間攪拌した後、5ミリモルの4-ヒドロキシベンゾフェノンおよび各化合物について異なるハロゲン化化合物(1ヒドロキシル官能基当たり2当量)を反応混合物に滴加する。混合物を次に、攪拌しながらアルゴン下に周囲温度で一晩そのままにする。混合物に次に20mlの水を添加し、ジクロロメタン(1抽出当たり20ml)で3回抽出する。有機相を次に、水(1洗浄当たり10ml)で10 5回洗浄する。有機相をMgSO4上で乾燥させる。溶媒を次に、ロータリーエバポレーターで、次に羽根型ポンプ真空下で蒸発させる。
- 化合物(5)は、89%の収率で、4-ヒドロキシベンゾフェノンおよびブロモデカンから得られ;
- 化合物(6)は、71%の収率で、4-ヒドロキシベンゾフェノンおよびブロモドデカンから得られ;
- 化合物(7)は、63%の収率で、4-ヒドロキシベンゾフェノンおよび1,5-ジブロモペンタンから得られ;
- 化合物(7a)は、40%の収率で、4-ヒドロキシベンゾフェノンおよび1,10-ジブロモデカンから得られ;
- 化合物(8)は、67%の収率で、5ミリモルの4-ヒドロキシベンゾフェノンおよびブロモメタンから得られた。
【0105】
化合物(9)の合成
0.25ミリモルの臭化マグネシウムのジエチルエーテラートを、5ミリモルのアルコールと3ミリモルのヘキサメチルジシラザンとの混合物に添加する。反応混合物を周囲温度で4時間攪拌する。
【0106】
反応媒体に10mlの水を添加し、ジエチルエーテル(1抽出につき10ml)で3回抽出する。合わせたエーテル相を次に水で洗浄し、次にMgSO4上で乾燥させる。溶媒をロータリーエバポレーターで、次に羽根型ポンプ真空下に蒸発させる。
【0107】
この化合物は、5ミリモルの4-ヒドロキシベンゾフェノンから20%の収率で得られた。
【0108】
化合物(2)の合成
0.1ミリモルのルテニウム触媒(RuH2(CO)(P(C6H5)3)3)を10mlのトルエンに添加する。反応混合物を、還流下でArの不活性雰囲気下に135℃で15分間(触媒を活性化するための、そして溶液の色が赤色になるための時間)攪拌する。5ミリモルのチオキサントンおよび10ミリモルのトリメチルビニルシランを反応混合物に添加する。反応混合物を、Ar下に135℃で72h攪拌し続ける。化合物(2)を回収し、シリカカラム上のクロマトグラフィー(9:1シクロヘキサン/酢酸エチル溶離剤)によって精製する。収率は90%超である。
【0109】
化合物(15)の合成
化合物(15)、BP-OHexa-アクリレートは、以下に記載されるように2工程で合成する。
【0110】
工程1:Br-Hexa-アクリレートの合成
12mlのCH2Cl2を含有する100mlの2口フラスコに0℃で、24.85ミリモルのトリエチルアミンおよび触媒量のDMAP(4-(ジメチルアミノ)ピリジン)とともに16.57ミリモルの6-ブロモヘキサン-1-オールを添加する。滴加漏斗に、2mLのジクロロメタンとともに18.22ミリモルのアクリレートクロリドを添加する。この後者の混合物を、フラスコ中で調製された溶液に滴加する。全体を1週間そのままにして反応させる。
【0111】
反応が完了するとすぐに、反応混合物をCH
2Cl
2で抽出し、次に1NのHCl、水および塩水で洗浄し、その後無水硫酸マグネシウム上で乾燥させる。有機相を次に、ロータリーエバポレーターで濃縮する。得られた生成物を次に、90/10シクロヘキサンエーテル溶離剤を使ってシリカのカラムによって精製する。収率は65%である。
反応:
【0112】
工程2:BP-O Hexa-アクリレートの合成
手順
100mLの単口フラスコに、12ミリモルの純K2CO3とともに30mLのアセトン中の8.26ミリモルの4-ヒドロキシベンゾフェノンを導入する。混合物に、8.20ミリモルのBr-Hex-アクリレート(工程1)を攪拌しながら添加する。混合物を24時間攪拌しながら60℃にする。
【0113】
反応が完了したとき、アセトンを蒸発させ、反応混合物を30mLの2N HCl溶液で2回、次に30mLの重炭酸ナトリウムの1N溶液で2回、30mLの水で2回洗浄する。有機相を次に硫酸マグネシウム上で乾燥させ、次に蒸発させる。得られた生成物を次に、90/10シクロヘキサンエーテル溶離剤を使ってシリカのカラムによって精製する。化合物(15)BP-O Hexa-アクリレートの収率は25%である。
【0114】
化合物(16)(BP-O-CO-Neodeca)の合成
12mLの無水ジクロロメタン中の15ミリモル(3g)の4-ヒドロキシ-ベンゾフェノン、22.5ミリモル(4.29g)のネオデカン酸クロリドを含有する0℃での溶液に、22.5ミリモル(2.27g)のトリエチルアミン、触媒量のDMAPを添加し、1晩攪拌しながら周囲温度で反応させる。反応が完了するとすぐに、反応媒体を20mlのジエチルエーテルに希釈し、有機相を引き続いて、HClの2N溶液、水、および塩水で洗浄し、その後無水硫酸マグネシウム上で乾燥させる。有機相を次にロータリーエバポレーターで濃縮する。得られた生成物を次に、90/10のシクロヘキサンエーテル溶離剤を使ってシリカのカラムによって精製する。収率は66%である。
【0115】
化合物(17)(BP-OC6H12O-BP)の合成
100mLの1口フラスコに、50mLのDMSO中の24.6ミリモル(4.876g)の4-ヒドロキシベンゾフェノンを添加し、次に98.4ミリモル(5.520g)の水酸化カリウムを導入する。8.20ミリモル(2g)の1,6-ジブロモヘキサンを次に、攪拌しながら、アルゴン下で滴々導入する。反応物を6日間反応させる。
【0116】
反応が完了したとき、100mlの水を導入する。反応混合物を次に、40mlのジクロロメタンで3回抽出し、次に水で洗浄する。有機相を次に硫酸ナトリウム上で乾燥させ、その後蒸発させる。
【0117】
得られた生成物を次に、2日間羽根型ポンプ真空下で乾燥させて純生成物を得る。それは、結晶性の白色固体である。得られた収率は94%である。
【0118】
化合物S1、S2およびS3はシランである。
【0119】
化合物H1~H10は、線状メチル水素シロキサンであり、ここで、Si-H官能基は、シリコーン鎖中に、シリコーン鎖の末端(鎖の末端)に、または両方にあってもよい。
【0120】
化合物H11は、式SiO4/2のシロキシル単位「Q」と式H(CH3)2SiO1/2のシロキシル単位「M」とを含む樹脂である。
【0121】
アクリルシリコーン(表3)
使用されるアクリルシリコーンA1およびA2は、上述の式(III)を有し、式中:
である。
【0122】
実施例1:アクリルシリコーンアクリル官能基の重合の監視
この実施例は、アクリルシリコーン(上の表3に記載される、A1およびA2)の重合を開始させるために、ベンゾフェノン光開始剤との併用で共開始剤としてのH3オイル(上の表2を参照されたい)の使用に関する。
【0123】
さらに、比較試験のために、タイプI光開始剤、すなわち、次の構造:
のIrgacure(登録商標)1173(CAS #:7473-98-5)をまた使用した。
【0124】
調製物は次のとおり得られる:ベンゾフェノンを秤量し、A1またはA2樹脂へ導入し、混合物を、均質な生成物が得られるまで(約30分)攪拌した。
【0125】
最後に、秤量後に、オルガノ水素ポリシロキサンH3を導入した。
【0126】
このようにして得られた調製物を次に、365nmでの反射体付き水銀-キセノンランプのUV放射線下に架橋させた。UVランプの出力を510mW.cm-2に設定した。
【0127】
本手順は、空気下で、または酸素による反応性化学種のいかなる抑制作用をも克服するために積層して実施された。本手順が積層して実施される場合、調合物をポリプロピレンの2つのシート間に、次にCaF2の2つのペレット間に置く。
【0128】
重合反応速度論の監視は、リアルタイムフーリエ変換赤外(Real-Time Fourier Transform Infra-Red)(Brucker Optik製のRT-FTIR、Vertex 70)によって実施する。この分光技術は、アクリル官能基のC=C結合の特性帯である、1636cm-1でのIRスペクトルの変化を追跡するために光および赤外線に同時に試料を暴露することからなる。
【0129】
重合中のC-CへのC=Cの転化率は、次式に従って1636cm-1で計算されるピーク下の面積の減少に直接関係している:転化率(%)=(A0-At)/A0×100(式中、A0は、照射前のピーク下の面積であり、そして一方、Atは、照射の各瞬間tでのピーク下の面積である)。
【0130】
時間に対してプロットすると、最終転化率への、しかしまた、最大変換速度((Rp/[M]0)×100)などの、他の重要なパラメータへのアクセスが可能になる。後者は、その変曲点での曲線転化率(%)=f(t)の勾配によって求められる。
【0131】
積層下のアクリルシリコーンA1およびA2に関するタイプII系の下塗り効率の実証
次の表(表4)は、2gのA1またはA2樹脂をベースとして製造された混合物を表す。データは重量%で表す。この手順は、積層下に実施した。
【0132】
Cで示される例は、比較例に相当し、そして一方、他の例(5および10)は、本発明による組成物に相当する。
【0133】
これらの試験は、光開始剤(ベンゾフェノン)または共開始剤(H3)が重合開始剤として個別に有効ではないことを明らかに示す(試験3Cおよび4Cならびに試験8Cおよび9C)。
【0134】
他方で、本発明によるタイプII光開始剤系を構成するための2成分の組み合わせは有効である(試験5対3Cおよび4Cならびに試験10対8Cおよび9C)。
【0135】
得られた転化率は、タイプI光開始剤Irgacure(登録商標)1173と比べるとかなり説得のいくものである(試験5対2Cおよび試験10対7C)。
【0136】
空気中でのアクリルシリコーンA1およびA2に関するタイプII系の下塗り効率の実証
次の表(表5)は、2gのA1またはA2樹脂をベースとして製造された混合物を表す。データは重量%で表す。これらの手順は、空気下に行った。
【0137】
Cで示される例は、比較例に相当し、そして一方、実施例12および14は、本発明による組成物に相当する。
【0138】
これらの試験は、本発明によるタイプII光開始剤系が、よりロバストであるとして知られるタイプI系と比べて空気下で効果的な重合をまた可能にすることを実証する(試験11C対12および試験13C対14)。
【0139】
実施例2:他の光開始剤の使用
ベンゾフェノンをベンゾフェノン誘導体またはイソプロピルチオキサントン誘導体と置き換えることによって実施例1を再現する。
【0140】
共開始剤は、H1オイル(表2を参照されたい)である。
【0141】
試験は、1.2×10-4モルの光開始剤および8.05×10-5モルの-Si-H結合を使用して実施した。
【0142】
実施例1のように、2gのアクリルシリコーン(A1)を使用した。
【0143】
試験された光開始剤は、それらの構造が表1に記載されているBP-OH、BP-OMe、BP-OHexa、BP-OTMeSi、TX-TMVSi、BP-アクリレート、BP-OHexa-アクリレート、BP-O-CO-NeodecaおよびBP-O-C6H12-O-BPである。
【0144】
【0145】
それ故、ベンゾフェノン以外の、試験された光開始剤が、オルガノ水素ポリシロキサンとの併用で、試験されたアクリルシリコーンの重合をまた可能にすることが分かった。
【0146】
実施例3:他のシラン共開始剤の使用
重合試験は、共開始剤の種類を変更したが、実施例1の条件と同じ条件下に実施した。この実施例では、オルガノ水素ポリシロキサンオイルを、表2に記載されるS1、S2またはS3から選択されるシランで置き換えた。
【0147】
使用される光開始剤は、実施例1のように、ベンゾフェノン(BP)、またはイソプロピルチオキサントン(ITX)である。
【0148】
試験は、積層下で1.2×10-4モルの共開始剤および8.05×10-5モルの-Si-H結合を使用して実施した。
【0149】
実施例1のように、2gのアクリルシリコーン(A1またはA2)を使用した。
【0150】
【0151】
このようにして、試験されたシランが、ベンゾフェノンとのまたはイソプロピルチオキサントンとの併用で、試験されたアクリルシリコーンの重合をまた可能にすることが分かった。
【0152】
以下の実施例では、本発明によるシリコーン組成物を可撓性支持体上にコートし、次に放射線への暴露によって架橋させた。このようにして得られた支持体のノンスティック性能を評価した。これを行うために、実施例5~9に記載される様々な構成要素を混合することによって調合物を調製し、次に様々な実施例に記載される条件下に異なる支持体上にロトメック(Rotomec)パイロットコーティングでコートする。
【0153】
シリコーンノンスティックコーティングでコートされた基材に関して実施される試験
堆積:ケイ素のX線蛍光分析(Oxford Lab-X 3000)による表面上にコートされるシリコーン堆積物の制御。X線管がケイ素原子の電子層を励起し、それは、励起ケイ素の量に比例したX線放出を引き起こす。パスのこの値または数は、(較正線を用いる)計算によってケイ素の量に変換される。
【0154】
スミア:次のとおりフィンガープリント法による表面重合の定性的制御:
- 平坦な、剛体表面上に試験されるべきシリコーン被覆支持体試料を置き;
- 適度に、しかし明らかに押し付けることによって指先でトレースを作り;そして
- 好ましくは低角度の光で、このように作られたトレースを肉眼で検討する。
我々はこのようにして、表面の光沢の相違によって(たとえ非常にわずかでも)トレースの存在を見ることができる。
【0155】
この評価は定性的である。「スミア」は、以下の格付けで定量化される:
A:非常に良好、指のトレースはまったくなし
B:少し悪い、辛うじて見えるトレース
C:明らかなトレース
D:表面の非常に明らかなトレースおよび油のような外観、辛うじて重合した生成物、
すなわち、AからDまでの、最良の結果から最悪の結果までの格付け。
【0156】
擦り減り:次のとおり指を前後に擦ることによってシリコーンが可撓性支持体に接着する能力をチェックする:
- 平坦な、剛体表面上に試験されるべきシリコーン被覆支持体試料を置き、ここでシリコーンは上面上にあり;
- 適度に、しかし明らかに押し付けながら(約10センチメートル長さの)指先での前後に10回の移動を行い;
- 擦り減りの出現を肉眼で検討する。擦り減りは、指下に転がる微細な白色粉末または小さなボールを出現させる。
【0157】
この評価は定性的である。擦り減りは、以下の格付けで定量化される:
・ 10:非常に良好、10回のA-R後に擦り減りの出現はまったくなし
・ 1:非常に悪い、第1パスから擦り減り。
【0158】
この格付けは、その後に擦り減りが出現する前後移動(1~10回)の数を反映している。
すなわち、1~10の評点、最悪の結果から最良の結果まで。
【0159】
ディウェッティング:標準表面張力インクを使用するコーティングと接触した接着剤へのシリコーンの移行を評価することによるシリコーン層の重合度の評価。本方法は、次のとおりである:
- 巻き戻しの方向(縦方向)に採取された、試験されるべきシリコーン被覆紙の約20×5cmの試料を選択し;
- 約15cmの長さの接着テープを切り取り、次にそれを、しわなしに、試験されるべき紙上に接着剤側で置き、接着テープ(3M Scotchテープ、参照番号610、幅:25mm)の長さに沿って指を滑らせることによって10回圧力をかけ;
- 接着テープを取り除き、それを平坦な、接着剤側を上にして置き;
- テープの接着剤側上に、(使い捨ての)綿棒を使って、約10cm長さのインク(表面張力=約30ダイン/cmおよび粘度 2~4mPa/sのSHERMANまたはFERARINIおよびBENELI銘柄インク)のトレースを設置する。直ちにストップウォッチを始動させ;
- 我々は、インク・ストロ-クが外観を変えるときにディウェッティング現象の段階が始まると考え;そのときタイマーを停止し;
- テープの接着剤側からのインクの除去は、シリコーンコーティング後2分以内に達成されなければならず;
- 得られる結果が10秒未満である場合、接着剤上でシリコーン移行があると、そして重合は完全ではないと推定され;
- 0~10の格付けは、ディウェッティング現象の観察前に秒単位で経過する時間に応じて与えられ;
- 得られる結果が10秒である場合、重合は完全であると推定される。この場合には、結果が非常に良好であることを意味する10の評点が与えられ;
- 得られた格付けおよび使用されたインク(名前、銘柄、表面張力、粘度)に留意されたい。
【0160】
抽出可能物:
重合中に形成されたネットワークにグラフトされていないシリコーンの量の測定。これらのシリコーンを、最低24時間MIBK中への機械出口からの試料の浸漬によってフィルムから抽出する。これをフレーム吸光分析によって測定する。
【0161】
自己接着性多層物品の製造
多層物品を形成するために、標準化接着剤被覆支持体TESA7475(支持体=PET-接着剤=アクリル)を、上で製造されたシリコーンライナー(=UV下の架橋によって得られたシリコーンコーティングでコートされた支持体)上で複合化する。熟成前後の剥離力ならびにその後の接着およびループタック値を測定するために、けん引力試験を実施する。これらの試験は、以下に記載する。
【0162】
得られた多層物品に関して行われる試験
その後の接着(または「SubAd」)
当業者に公知のFINAT 11(FTM 11)試験に従ってシリコーンコーティングと接触していた接着剤(TESA 7475)の接着性の保持を検証するための測定。この試験では、対照検体はPETであり、接着剤は、70℃で1日間および70℃で7日間試験されるべきシリコーン表面と接触したままである。
【0163】
結果は、対照テープの%接着強度保持率:CA=%単位での(Fm2/Fm1)×100
(式中:
Fm2=20時間シリコーン支持体と接触後の平均テープノンスティック力であり;
Fm1=シリコーン支持体との平均(非接触)テープノンスティック力である)
で表される。
【0164】
ループタック:ループタップ試験は、圧力なしで標準材料と接触して置かれた接着剤(TESA 7475)のループを、300mm/分で、分離するために必要とされる力を測定することを含む。23℃で1日間のクリーン接着剤と複合化接着剤との間の結果の比は、当業者に公知のFINAT9試験(FTM9)に従って接着性の損失を評価することを可能にする。
【0165】
最終結果は、N/インチ単位(単位:1インチ=2.54cm)で表される3つの測定結果の平均である。
【0166】
ノンスティック:剥離力の測定は、標準化接着剤TESA 7475を使って実施した。多層物品(シリコーン表面と接触した接着剤)の検体を、必要とされる圧力条件下に23℃で1日間、70℃で1日間、および70℃で7日間保ち、次に当業者に公知であるFINAT3(FTM3)試験に従って低い剥離速度で試験した。
【0167】
剥離力は、cN/インチ単位で表し、周囲温度(23℃)または加速老化試験のためのより高い温度(一般に70℃)のどちらかで試料を加圧した後動力計で測定する。
【0168】
実施例4:
この実施例では、ベンゾフェノンを光開始剤として、および共開始剤として、化合物H9(表2を参照されたい)を使用した。様々な調合物を下の表11に記載する。タイプI光開始剤系、すなわち、エチル(1,4,6-トリエチルベンゾイル)フェニルホスフィネート(PA I)をまた試験した。
【0169】
コーティング条件:
- 線速度:50m/分 - UVランプ:100W/cmでのHoenle
- コロナ:1000W - ランプ下の残留O2:20ppm未満。
【0170】
コーティング支持体は、87g/m2のLDPEである。コーティングは、支持体の外側面上に実施する。ターゲット堆積は、0.8~1.0g/m2である。
【0171】
機械出口での、実施された結果を次の表9に提示する。
【0172】
この実施例は、タイプII光開始剤について、最良の結果は、シリコーン組成物中のSi-H官能基の低い濃度で得られ(実施例A1およびA2)、それはタイプI光開始剤で得られるものに匹敵することを示す。シリコーン組成物が0.012モルSi-H/100gを含む、実施例A3は、高レベルの抽出可能物、ディウェッティング試験でのより不十分な性能および70℃で7日後の高いノンスティック特性をもたらす。
【0173】
実施例5:光開始剤および共開始剤濃度の影響
この実施例では、コーティング組成物中のSi-Hのモル含有量および光開始剤のモル含有量をコーティング組成物において変えた。このために、対照としてタイプI PA I光開始剤系を使って、3つのモル濃度の異なるSi-H官能基(シリコーン組成物の100g当たり0.001-0.002および0.003モル)ならびに、それぞれについて、4つのモル濃度の光開始剤(シリコーン組成物の100g当たり0.0017-0.0033-0.0064および0.0129モル)を使用した。使用される光開始剤は、Genocure(登録商標)LBPである。
【0174】
コーティング条件:
- 線速度:50m/分 - UVランプ:200W/cmでのHoenle
- コロナ:1000W - ランプ下の残留O2:20ppm未満。
【0175】
コーティング支持体は、23g/m2のLDPEであり、そして一方、コーティングは、その外側面上に達成される。ターゲット堆積は、0.8~1.0g/m2である。
【0176】
次の表10は、使用された異なるシリコーン組成物、ならびに上述の試験で得られた結果をまとめる。
【0177】
上の表10から、すべてのこれらの試験について、能力試験および抽出可能物測定に関する結果は満足できることが観察された。組成物中のSi-H官能基の濃度を増やすとともに、抽出可能物含有量が増加することが分かる。特に、低濃度のSi-H官能基を使用することが特に有利であることが分かった。
【0178】
実施例6:共開始剤のSi-H官能基含有量の影響
この実施例では、出発組成物中のSi-H官能基の一定濃度で、しかし可変のSi-H官能基含有量のオルガノ水素ポリシロキサンオイルを使用して試験を実施した。オイルH4、H9、H8およびH5を使用した(表2を参照されたい)。一定濃度のGenocure(登録商標)LBP光開始剤を使用した。
【0179】
これらの調合物を、低いコーティング速度および高いランプ出力で試験した。
【0180】
コーティング条件:
- 線速度:50m/分 - UVランプ:200W/cmでのHoenle
- コロナ:1000W - ランプ下の残留O2:20ppm未満。
【0181】
コーティング支持体は、23g/m2のLDPEである。コーティングは、その外側面上に実施される。ターゲット堆積は、0.8~1.0g/m2(0.90±0.10)である。
【0182】
次の表11は、使用された組成物、ならびに上述の試験後に得られた結果をまとめる。
【0183】
ディウェッティングは、Si-H官能基の最低含有量(0.0228モル/100g)を有するオイルH5(実施例C4)で悪化することが観察される。
【0184】
0.0646モル/100gのSi-H官能基含有量のH8(実施例C3)オイルは、共開始剤H4およびH9で得られたもの(実施例C1およびC2)よりも24%高い抽出可能物のレベルを有し、そして一方、ノンスティック値は、70℃で1日および7日後に激しく増加する。
【0185】
この実施例はそれ故、100g当たり少なくとも0.05モルのSi-H官能基、好ましくは100g当たり少なくとも0.08モルのSi-H官能基を含むオルガノ水素ポリシロキサンを共開始剤として使用することが好ましいことを示す。
【0186】
実施例7:Si-H官能基の含有量およびSi-H単位の位置による異なるオイルでのコーティング試験
この実施例は、共開始剤の種類および、特に、Si-H単位の位置(鎖の末端、鎖中、または両方)の重合への影響の研究に関する。
【0187】
コーティング条件:
- 線速度:50m/分 - UVランプ:200W/cmでのHoenle
- コロナ:1000W - ランプ下の残留O2:20ppm未満。
【0188】
コーティング支持体は、白色LDPE GLD3 28g/m2である。コーティングは、その外側面上に実施される。ターゲット堆積は、0.8g/m2~1.0g/m2である。
【0189】
光開始剤として、Genocure(登録商標)LBPを使用した(表1)。共開始剤は、異なる構造および異なる含有量のSi-H官能基の異なるオイルまたは樹脂(表2を参照されたい)から選択する。
【0190】
次の表12は、使用された異なる組成物ならびに前述の試験後に得られた結果をまとめる。
【0191】
スミアは、全体シリーズについてA-B~Aで格付けする。擦り減りは、9~10である。ディウェッティングは10である。コートされた組成物の重合はそれ故、調合物すべてについて良好であり、使用された共開始剤の種類によっても、鎖中のSi-H単位の位置取りによっても有意に影響を受けない。すべての抽出可能物値は、2.4%~3.1%である。これは、Si―H単位の位置がどうであっても重合が良好であるという事実を確認するものである。
【0192】
多層物品の特性評価およびノンスティック値の結果はすべて、同じく満足できるものである。
【0193】
この実施例はまた、共開始剤が0.05モル/100g以上のSi-H含有量を有する場合に非常に良好な結果が得られることを確認するものである。
【0194】
実施例8:A1とA2との混合物を使ったコーティング試験
この実施例では、オルガノポリシロキサン官能化アクリレートの混合物を使用した。Genocure(登録商標)LBPを光開始剤として、およびH9オイルを共開始剤として使用した。
【0195】
コーティング条件:
- 線速度:50m/分 - UVランプ:200W/cmでのHoenle
- コロナ:1000W - ランプ下の残留O2:20ppm未満。
【0196】
コーティング支持体は、東レ製のPET 30.01/30 Transparent 30g/m
2である。コーティングは、その外側面上に実施される。ターゲット堆積は、0.8g/m
2~1.0g/m
2である。次の表13は、使用された異なる組成物ならびに前述の試験後に得られた結果をまとめる。
【0197】
実施例9:
新しいシリーズの試験を、シリコーン組成物中のより低い濃度の光開始剤および共開始剤を試験するために実施した。Genocure(登録商標)LBPおよびGenocure(登録商標)LBP-2を光開始剤として、およびH9オイルを共開始剤として使用した。
【0198】
コーティング条件:
- 線速度:50m/分 - UVランプ:100W/cmでのHoenle
- コロナ:1000W - ランプ下の残留O2:20ppm未満。
【0199】
コーティング支持体はLDPEである。コーティングは、その外側面上に実施される。ターゲット堆積は、0.8g/m2~1.0g/m2である。
【0200】
次の表14は、使用された異なる組成物ならびに前述の試験後に得られた結果をまとめる。
【0201】
これらの結果は、試験された組成物すべてについて満足できるものである。実施例F3は、低濃度の光開始剤(組成物の100g当たり0.0008モル)および共開始剤(組成物の100g当たり0.005モル)が満足できる結果を達成できることを試験するものである。
【0202】
実施例10:
この実施例では、修飾ベンゾフェノンを光開始剤として、および共開始剤として、化合物H9(表2を参照されたい)を使用した。異なる調合物を次の表15に記載する。ベンゾフェノンGenocure LBPおよびエチル(1,4,6-トリエチルベンゾイル)フェニルホスフィネート(PA I)であるタイプI光開始剤系をまた試験した。
【0203】
コーティングをコロナの不在下で実施したので、タック添加物を調合物すべてに添加した。
【0204】
コーティング条件:
- 線速度:50m/分 - UVランプ:200W/cmでのHoenle
- ランプ下の残留O2:20ppm未満。
【0205】
コーティング支持体はグラシンである。
【0206】
コーティングを支持体の外側面上で実施する。ターゲット堆積は、0.8~1.0g/m2である。
【0207】
機械出口で、実施された試験の結果を次の表15に提示する。