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特許7496587衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラム
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  • 特許-衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラム 図1
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  • 特許-衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/07 20100101AFI20240531BHJP
【FI】
G01S19/07
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024008350
(22)【出願日】2024-01-23
【審査請求日】2024-01-23
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】723010371
【氏名又は名称】イエローテイル・ナビゲーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂井 丈泰
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/165590(WO,A1)
【文献】特表2011-519421(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112882067(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第116736382(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14,
G01S 19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ受信機を有するユーザ局と,
前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差に関する補正情報を生成するマスタ局を備え,
前記ユーザ局は前記補正情報を用いて測位誤差の補正を行う衛星航法システムにおいて,
前記マスタ局は,
前記航法衛星に関する距離の測定値を用いることなく,
前記航法衛星の時計及び軌道の予測によらない正確な情報として公開されている精密軌道暦を取得して,
前記精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,前記航法衛星が前記測位信号に重畳して送信している自身の時計及び軌道の情報である放送軌道暦から計算した時刻及び位置の,差分として前記補正情報を生成すること
を特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法。
【請求項2】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ受信機を有するユーザ局と,
前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差に関する補正情報を生成するマスタ局を備え,
前記ユーザ局は前記補正情報を用いて測位誤差の補正を行う衛星航法システムにおいて,
前記マスタ局に設けられ,
前記航法衛星に関する距離の測定値を用いることなく,
前記航法衛星の時計及び軌道の予測によらない正確な情報として公開されている精密軌道暦を取得して,
前記精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,前記航法衛星が前記測位信号に重畳して送信している自身の時計及び軌道の情報である放送軌道暦から計算した時刻及び位置の,差分として前記補正情報を生成すること
を特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成する情報処理装置。
【請求項3】
測位信号を送信する複数の航法衛星と,
前記複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ受信機を有するユーザ局と,
前記航法衛星の時計誤差及び位置誤差に関する補正情報を生成するマスタ局を備え,
前記ユーザ局は前記補正情報を用いて測位誤差の補正を行う衛星航法システムにおいて,
前記マスタ局に設けられた情報処理装置にて動作し,
前記航法衛星に関する距離の測定値を用いることなく,
前記航法衛星の時計及び軌道の予測によらない正確な情報として公開されている精密軌道暦を取得して,
前記精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,前記航法衛星が前記測位信号に重畳して送信している自身の時計及び軌道の情報である放送軌道暦から計算した時刻及び位置の,差分として前記補正情報を生成すること
を特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星により位置を測定する衛星航法システムはGNSS(Global Navigation Satellite System)と総称され,その代表例は米国によるGPS(Global Positioning System)である。GNSSは一般に,航法衛星と呼ばれる人工衛星が送信する測位信号を受信機により受信し,航法衛星と受信機の間の距離を測定することで,受信機の位置を計算により求める。位置を求めるべき受信機を,ユーザ受信機あるいはユーザ局などと呼ぶ。求められた位置の真の位置に対する誤差を測位誤差といい,測位誤差の統計的な様子を測位精度という。位置を測定することを測位といい,そのための計算処理を測位計算という。
【0003】
ユーザ受信機の位置を計算するためには測位信号を送信している航法衛星の位置を知る必要があるが,このために必要な航法衛星の軌道情報は航法衛星自身が測位信号に重畳して送信する。軌道情報は予測により作成されていることから,これにより計算される航法衛星の位置は数メートル程度までの誤差を含んでおり,これは航法衛星の位置誤差としてユーザ受信機の位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0004】
航法衛星が測位信号を送信するタイミングはあらかじめ決まっており,航法衛星は自身が備える時計の時刻にもとづいて測位信号を送信する。この時計としては高精度な原子時計が使用されるが,ごくわずかな時刻のずれは避けられないため,ユーザ受信機は航法衛星の時計が指す時刻の情報を必要する。この時計の情報は,航法衛星自身が測位信号に重畳して送信する。時計の情報は予測により作成されていることから,これにより計算される測位信号の送信タイミングは距離に換算して数メートル程度までに相当する誤差を含んでおり,これは航法衛星の時計誤差としてユーザ受信機の位置の計算の際に測位誤差の要因になる。
【0005】
航法衛星が送信する自身の時計及び軌道の情報を,放送軌道暦という。ユーザ受信機は,放送軌道暦を用いることで,任意の時点における航法衛星の時計の時刻及び位置を算出できる。
【0006】
測位信号が地上に到達するまでの間には,上空の大気による遅延や反射波の混入など,さまざまな測位誤差の要因による影響を受ける。こうした影響を取り除くため,地上に固定された基準局に受信機を設置して,これにより測定した距離から,さまざまな誤差要因により生じる距離の測定誤差に対する補正情報を生成し,これをユーザに対して提供することで,ユーザ局において測定した距離を補正情報により補正し,ユーザ局における測位誤差を抑制することが行われている。この方式はディファレンシャルGPS(DGPS:Differential GPS)と呼ばれる。DGPSと区別する場合は,補正情報を適用せずにユーザ局の位置を計算する方式を単独測位という。
【0007】
DGPSの具体的な方式はいくつかあるが,その一つは広域ディファレンシャルGPS(WADGPS:Wide Area DGPS)と呼ばれる。この方式では,基準局が測定した距離を用いて,航法衛星の時計誤差と位置誤差のそれぞれについて補正情報を生成し,ユーザ局に提供する。時計誤差と位置誤差は,ユーザ局の位置によって距離の測定誤差としてのあらわれ方が違ってくることから,それぞれについて別々に補正情報を生成することで,広い範囲のユーザに対して有効な補正情報を提供しようとするのがWADGPSの考え方である。
【0008】
WADGPSの実用例としては,航空分野向けにSBAS(Satellite-Based Augmentation System)が規格化され,実用されている。
【0009】
ところで,GNSSの分野においては,航法衛星のそれぞれについて,正確な時計及び軌道の情報として精密軌道暦が作成され,利用されている。精密軌道暦は15分あるいは5分間隔で作成されることが多く,ユーザはこれを補間することで任意の時点における正確な時刻及び位置の情報を得ることができる。精密軌道暦は,例えばIGS(International GNSS Service)という国際機関により作成されたものが公開されており,測量や測地学といった精密測位の分野において利用されている。
【0010】
2024年初頭の時点で利用可能なGNSSには,GPSのほかにも,欧州によるGalileoや中国によるBDS,また日本によるQZSS(Quasi-Zenith Satellite System:準天頂衛星システム)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】北村光教,麻生貴広,坂井丈泰,「次世代SBAS開発と準天頂衛星による放送実験」,平成30年度電子航法研究所研究発表会,p.89~94,2018年6月
【文献】坂井丈泰,北村光教,麻生貴広,「The IGSO SBAS:Augmentation for Arctic Navigation」,IAIN 2018,A4,2018年11月
【文献】「精密暦とは」,国土地理院報道資料,2023年6月(https://www.gsi.go.jp/common/000250683.pdf)
【文献】喬耘,GPS単独測位の高精度化に関する研究,東京海洋大学修士論文,2005年9月(https://www.denshi.e.kaiyodai.ac.jp/wp-content/uploads/pdf/content1/kyo.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
WADGPSでは,補正情報を生成するために基準局を設置して,基準局が測定した距離を用いて,航法衛星の時計誤差及び位置誤差を算出する。この基準局はWADGPSのサービス対象地域におおむね数百キロメートルから1,000キロメートル程度の間隔で分布させる必要があることから,WADGPS全体では大規模なシステムにならざるを得ない課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
非特許文献1においては,WADGPS内部における補正情報の生成方法が詳細に述べられている。これによれば,多数の基準局の存在を前提として,それらが測定した距離を用いて航法衛星の時計誤差及び位置誤差を算出することが可能である。
【0014】
非特許文献2においては,WADGPSの実験例が報告されている。これによれば,実際に多数の基準局による測定データを用いて,WADGPSを構成することが可能であることが実証されている。航法衛星の時計及び位置の補正値については,当該文献のスライド13に表示されている通り,マスタ局内部における計算処理の収束に時間を要している。
【0015】
しかしながら,非特許文献1及び非特許文献2に記載の技術内容は,いずれも多数の基準局を用いることが前提とされているから,本発明が解決しようとする課題を解決するものではない。
【0016】
非特許文献3及び段落[0009]に記載の通り,航法衛星の正確な時計及び軌道の情報として精密軌道暦が作成されており,一般に利用できるよう公開されている。精密軌道暦は,高精度な情報である代わりにリアルタイムには提供されず,利用可能になるのは数日から数週間の後である。
【0017】
また,放送軌道暦は航法衛星が送信するものであるが,例えばIGSでは地上で受信した放送軌道暦を保存しており,これも一般に利用できるよう公開されている。
【0018】
WADGPSが提供する補正情報は航法衛星の時計誤差及び位置誤差の補正を行うものであるから,航法衛星の正確な時計及び軌道の情報があるならば,それらを利用して補正情報を作成することが考えられる。すなわち,精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,放送軌道暦から計算した時刻及び位置の差分として,補正情報を生成することが考えられる。
【0019】
ところが,WADGPSは移動体の航法に利用されることを想定するものが普通であり,リアルタイムに提供されない精密軌道暦を利用する構成は考えられたことがなかった。しかしながら,補正情報をリアルタイムに提供しなくてもよいのであれば,精密軌道暦を利用してWADGPSの補正情報を生成しても差支えないものと考えられる。
【0020】
なお,WADGPSの補正情報を生成する際には放送軌道暦も必要となる。これを航法衛星から受信するために少数の基準局を設置することにしてもよいが,精密軌道暦をIGSから取得するのであれば,同じIGSが保存及び公開している放送軌道暦を利用することにしてよい。
【0021】
一方で,精密軌道暦が利用できるのであれば,非特許文献4で報告されているように,ユーザ局において精密軌道暦を利用して測位計算処理を行うことも考えられる。このような技術は精密単独測位と呼ばれ,DGPSによらない高精度測位方式とされている。このような構成にするならばWADGPSによる補正情報は必要なくなるのであるが,その代わりにユーザ局内部における計算処理が複雑になり,精密軌道暦に対応したものに変更する必要があるうえ,ユーザ局自身が通信回線により精密軌道暦を取得する必要を新たに生じてしまう。
【0022】
本発明は,精密軌道暦を利用してWADGPSの補正情報を生成することで,前記の課題を解決する。
【0023】
請求項1に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,航法衛星の時計誤差及び位置誤差に関する補正情報を生成するマスタ局を備え,ユーザ局はこの補正情報を用いて測位誤差の補正を行う衛星航法システムにおいて,マスタ局は,航法衛星に関する距離の測定値を用いることなく,航法衛星の時計及び軌道の予測によらない正確な情報として公開されている精密軌道暦を取得して,この精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,航法衛星が測位信号に重畳して送信している自身の時計及び軌道の情報である放送軌道暦から計算した時刻及び位置の,差分として補正情報を生成することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報の生成方法である。
【0024】
請求項2に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,航法衛星の時計誤差及び位置誤差に関する補正情報を生成するマスタ局を備え,ユーザ局はこの補正情報を用いて測位誤差の補正を行う衛星航法システムにおいて,マスタ局に設けられ,航法衛星に関する距離の測定値を用いることなく,航法衛星の時計及び軌道の予測によらない正確な情報として公開されている精密軌道暦を取得して,この精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,航法衛星が測位信号に重畳して送信している自身の時計及び軌道の情報である放送軌道暦から計算した時刻及び位置の,差分として補正情報を生成することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成する情報処理装置である。
【0025】
請求項3に係る発明は,測位信号を送信する複数の航法衛星と,複数の航法衛星が送信する測位信号を受信してそれらとの間の距離を測定するユーザ局と,航法衛星の時計誤差及び位置誤差に関する補正情報を生成するマスタ局を備え,ユーザ局はこの補正情報を用いて測位誤差の補正を行う衛星航法システムにおいて,マスタ局に設けられた情報処理装置にて動作し,航法衛星に関する距離の測定値を用いることなく,航法衛星の時計及び軌道の予測によらない正確な情報として公開されている精密軌道暦を取得して,この精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,航法衛星が測位信号に重畳して送信している自身の時計及び軌道の情報である放送軌道暦から計算した時刻及び位置の,差分として補正情報を生成することを特徴とする,衛星航法システムにおける補正情報を生成するプログラムである。
【発明の効果】
【0026】
本発明においては,精密軌道暦を利用してWADGPSの補正情報を生成することにしたので,基準局を用いることなくWADGPSを構成できるから,WADGPSのシステム規模を小さくできる。また,基準局の地理的配置による制約を受けることのないWADGPSを構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】この発明の実施例を示すもので,この発明の衛星航法システムにおける補正情報の生成及び適用の様子を説明するための模式図である。
図2】この発明の実施例における発明の効果を説明するための図で,WADGPSによる補正情報を適用しない場合の電子基準点「亘理」局における測位誤差を表示している。
図3】この発明の実施例における発明の効果を説明するための図で,WADGPSによる補正情報を適用する場合の電子基準点「亘理」局における測位誤差を表示している。
図4】この発明の実施例における発明の効果を説明するための図で,WADGPSにより生成された補正情報を表示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下,本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例
【0029】
この発明の実施例を,図1に基づいて詳細に説明する。図1は,この実施例の衛星航法システムにおける補正情報の生成及び適用の様子を説明するための模式図である。
【0030】
図1において,航法衛星1(1a,1b・・・)は,それぞれ測位信号を送信する。
【0031】
ユーザ局2の内部にあるユーザ受信機3は,航法衛星1(1a,1b・・・)が送信した測位信号を受信して,ユーザ局と航法衛星の間の距離を測定する。これと同時に,ユーザ受信機3は,航法衛星1(1a,1b・・・)の放送軌道暦を受信する。
【0032】
本実施例と対比して説明するために,まず補正情報を用いない場合について説明する。この場合は,ユーザ局2が計算に用いる距離RR(i)及び航法衛星iの位置RX(i),RY(i),RZ(i)は,次式により求められる。ここで,MR(i)はユーザ受信機3が測定したユーザ局と航法衛星iの間の距離,BC(i)は放送軌道暦による航法衛星iの時計が指す時刻(測位信号が送信されるべきタイミングを基準とする。以下も同様),またBX(i),BY(i),BZ(i)は放送軌道暦による航法衛星iの位置である。
【0033】
(数1)
RR(i)=MR(i)+BC(i)
RX(i)=BX(i)
RY(i)=BY(i)
RZ(i)=BZ(i)
【0034】
本実施例では,ユーザ局は補正情報を利用する。このために,マスタ局6は,精密軌道暦4と放送軌道暦5を得て,これらの差分として補正情報7を作成する。精密軌道暦による航法衛星iの時計が指す時刻をPC(i),位置をPX(i),PY(i),PZ(i)とするとき,当該航法衛星の時計が指す時刻に関する補正値CC(i)及び位置に関する補正値CX(i),CY(i),CZ(i)は,次式により求める。なお,BC(i)は放送軌道暦による航法衛星iの時計が指す時刻,またBX(i),BY(i),BZ(i)は放送軌道暦による航法衛星iの位置であり,これらはユーザ局が受信するものと共通である。
【0035】
(数2)
CC(i)=PC(i)-BC(i)
CX(i)=PX(i)-BX(i)
CY(i)=PY(i)-BY(i)
CZ(i)=PZ(i)-BZ(i)
【0036】
ユーザ局2は,衛星位置及びユーザ受信機が測定した距離に対して,補正情報7を適用して補正することで,補正済みの衛星位置及び距離8を得る。ユーザ受信機が測定した距離はMR(i)であるから,ユーザ局が計算に用いる距離RR'(i)及び航法衛星iの位置RX'(i),RY'(i),RZ'(i)は,次式により求められる。
【0037】
(数3)
RR'(i)=MR(i)+BC(i)+CC(i)
RX'(i)=BX(i)+CX(i)
RY'(i)=BY(i)+CY(i)
RZ'(i)=BZ(i)+CZ(i)
【0038】
ユーザ局は,補正済みの衛星位置及び距離8を用いて位置の計算を行い,計算結果を位置情報9として出力する。このとき,補正情報の適用により,補正済みの衛星位置及び距離8は次式のような量になっているから,ユーザ局は精密軌道暦にもとづく時計の時刻及び衛星位置を計算処理に用いることになる。すなわち,補正情報を用いない場合である段落[0033]の記載と比較すると,BC(i),BX(i),BY(i),BZ(i)がそれぞれPC(i),PX(i),PY(i),PZ(i)に置き換わっているから,放送軌道暦に代えて精密軌道暦が用いられることが分かる。
【0039】
(数4)
RR'(i)=MR(i)+BC(i)+CC(i)=MR(i)+PC(i)
RX'(i)=BX(i)+CX(i)=PX(i)
RY'(i)=BY(i)+CY(i)=PY(i)
RZ'(i)=BZ(i)+CZ(i)=PZ(i)
【0040】
次に,作用動作について図1図4に基づいて説明する。
【0041】
図1において,ユーザ受信機3が測定した航法衛星1(1a,1b・・・)からユーザ局2までの距離には,航法衛星の時計誤差及び位置誤差による影響が含まれているから,補正情報を適用せずにこの距離を用いてユーザ局の位置を計算すると,測位誤差となってあらわれる。
【0042】
図2のプロットは,国土地理院の電子基準点「亘理」(宮城県亘理郡,識別番号950179)における距離の測定データを用いて,補正情報を用いることなく,当該局をユーザ局2に見立ててその位置を計算した結果である。補正情報が用いられていないことから,2.33メートル程度(水平測位誤差の95%値)の測位誤差を生じている様子が分かる。なお,ここで使用した測定データの取得日時は2022年8月7日09:00~8月8日09:00(日本時間)である。
【0043】
WADGPSによる補正を行うため,本発明の方法により,すなわち,精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,放送軌道暦から計算した時刻及び位置の差分として,補正情報を生成した。この補正情報の生成にはIGSの精密軌道暦を用いており,GPS及びGalileoの全衛星を対象としてある。
【0044】
図3のプロットは,図2の場合と同じ測定データを用いて,本発明の方法により生成した補正情報を用いたうえで,当該局をユーザ局2に見立ててその位置を計算した結果である。補正情報を用いたことで,測位誤差が0.93メートル程度(水平測位誤差の95%値)に抑えられている様子が分かる。
【0045】
図2及び図3の処理内容と同様の処理を,電子基準点「稚内」(北海道稚内市,識別番号940001),「高山」局(岐阜県高山市,識別番号940058),「古賀」(福岡県古賀市,識別番号940087)及び「石垣1」(沖縄県石垣市,識別番号960749)に対して実行した結果を,表1にまとめて示す。表1より,本実施例はWADGPSによる補正情報を適用していることから,日本国内の各地においておおむね同等の測位精度が得られることを確認できる。
【0046】
【表1】
【0047】
図4のグラフは,PRN01として識別されるGPS衛星について,最初の120分間の具体的な補正値を表示しているものである。同図の最上段には航法衛星の時計,また第2段から第4段にはそれぞれ航法衛星のX座標,Y座標及びZ座標に関する補正値を表示してある(時計については光速を乗じて距離に換算してある)。いずれの補正値も滑らかな変化を呈しており,これは航法衛星の時計及び位置の変化の物理的性質に符合する。補正値が不連続となっている部分は,補正の対象とする航法衛星の放送軌道暦の切替えによる影響であり,使用中の放送軌道暦にあわせて補正情報が正常に生成されていることをあらわしている(放送軌道暦には有効期間があることから,このような切替えが必要になる)。
【0048】
非特許文献2に示されているように,補正値の生成に際してはマスタ局内部における計算処理の収束に時間を要することがあるが,本実施例においては,航法衛星について測定された距離の情報を補正情報の生成に使用しないことから,収束のための時間を要することなく補正値が生成されている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
この発明の衛星航法システムにおける補正情報の生成方法,補正情報を生成する情報処理装置及びプログラムを利用することにより,基準局を用いることなくWADGPSを構成できる。また,本発明によれば基準局の地理的配置による制約を受けることのない補正情報を生成できるから,全世界のどこにおいても利用可能なWADGPSを構成できる。
【符号の説明】
【0050】
1(1a,1b・・・) 航法衛星
2 ユーザ局
3 ユーザ受信機
4 精密軌道暦
5 放送軌道暦
6 マスタ局
7 補正情報
8 補正済みの衛星位置及び距離の情報
9 位置出力
【要約】
【課題】 基準局を用いることなく広域ディファレンシャルGPSを構成する。
【解決手段】 米国によるGPSや日本の準天頂衛星システムを含む衛星航法システムにおいて,航法衛星の時計誤差及び位置誤差を補正する広域ディファレンシャルGPSについて,航法衛星の時計及び軌道の予測によらない正確な情報として公開されている精密軌道暦を取得して,この精密軌道暦から計算した時刻及び位置と,航法衛星が測位信号に重畳して送信している航法衛星自身の時計及び軌道の情報である放送軌道暦から計算した時刻及び位置の,差分として補正情報を生成し,ユーザ局はこの補正情報を適用して計算処理を行うことで,基準局を用いることなく広域ディファレンシャルGPSを構成する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4