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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/18 20060101AFI20240531BHJP
   H01J 37/16 20060101ALI20240531BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240531BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H01J37/18
H01J37/16
H01J37/317 D
H01J37/244
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020111960
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022011074
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏成
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】竹下 琢郎
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-112958(JP,A)
【文献】国際公開第2014/112402(WO,A1)
【文献】特開2006-225705(JP,A)
【文献】特開2007-19033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
C23C 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板の被処理面に対して、該被処理面の任意領域に対向するヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、前記ヘッド部の中心を囲むように複数の環状溝が形成され、前記ヘッド部における、前記複数の環状溝のうち最も内側の前記環状溝よりも内側の領域に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、複数の前記環状溝のうち少なくとも1つの前記環状溝に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記環状溝からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空度にする、差動排気装置と、
前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束イオンビーム光学系を内蔵して集束イオンビームが前記開口部内を通るように出射する集束イオンビームカラムと、
を備え、
最も内側の前記環状溝に原料ガス供給部が連結され、当該環状溝から前記被処理面へ向けて原料ガスを吐出させて、当該被処理面に沿って前記処理用空間へ原料ガスを移動可能とした、
加工装置。
【請求項2】
前記ヘッド部は、ヘッド部本体と、当該ヘッド部本体における前記被処理基板と対向する側の面に取り付けられた溝形成板と、を備え、
前記溝形成板における前記被処理基板と対向する面が前記対向面である、
請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面の輪郭内に前記溝形成板が島状に配置され、
前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面と、前記溝形成板の外周部と、で形成される段差部をテーパ状とした、
請求項2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面の輪郭内に前記溝形成板が島状に配置され、
前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面と、前記溝形成板の外周部と、で形成される段差部の肩部をR面部とした、
請求項2に記載の加工装置。
【請求項5】
前記溝形成板は、前記ヘッド部の中央を囲むように配置される複数の環状板で構成される、
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項6】
前記鏡筒の先端部内に前記集束イオンビームが通過するビーム通過口が形成されたマイクロチャネルプレートを配置し、前記マイクロチャネルプレートにおける前記ビーム通過口の周辺を、前記被処理基板から発生した2次荷電粒子を捕捉可能な検出部とした、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項7】
前記被処理基板に形成されたアライメントマークを検出する光学顕微鏡を備える、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項8】
前記ヘッド部の近傍にオフセット距離を隔てて、前記被処理基板の被処理領域を観察するための観察用顕微鏡を備える、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項9】
先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束イオンビームカラムを複数備え、前記被処理基板の前記被処理面を複数に分割した領域に、それぞれの前記集束イオンビームカラムが対向するように配置した、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の加工装置。
【請求項10】
前記被処理基板の位置を固定し、先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束イオンビームカラムを、前記被処理基板に対してX-Y方向に移動可能とした、
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動排気装置を備える加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加工装置としては、集束イオンビームカラムから集束イオンビームを試料表面で走査することにより、発生した集束イオンビームが当たった試料から放出される2次粒子(2次電子、2次イオンなど)を検出して顕微鏡像を観察したり、試料表面に成膜加工を施したりすることができる装置がある。具体的には、集束イオンビーム装置には、試料観察、エッチング(スパッタリング)、CVD(化学気相成長)を行う機能などがある。
【0003】
このような加工装置では、上記の顕微鏡像からの情報に基づき、被修正基板表面の必要箇所に集束イオンビームを照射し、同時に集束イオンビームカラムの外側に別途設けた供給ノズルからCVD用ガスを供給することにより、局所的な成膜を行って加工や修正を行うことができる。
【0004】
近年では、被修正基板の表面に局所的に真空空間を形成する局所排気装置を備えた、大型の真空チャンバを必要としない加工装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この加工装置は、集束イオンビームカラムにおける鏡筒の先端開口部(下端部)に、原料ガスが直接供給されるように原料ガス流路が形成されている(特許文献1の図4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5114960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来の加工装置では、集束イオンビームカラムの鏡筒の先端部に原料ガスを直接供給しても、被修正基板表面の被処理面へ原料ガスが到達しにくく、被修理基板表面へ安定してCVD成膜を形成できないという問題点がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、被処理基板へ確実な成膜処理を行える加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の態様は、被処理基板の被処理面に対して、該被処理面の任意領域に対向するヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、前記ヘッド部の中心を囲むように複数の環状溝が形成され、前記ヘッド部における、前記複数の環状溝のうち最も内側の前記環状溝よりも内側の領域に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、前記複数の環状溝のうち少なくとも1つの環状溝に真空ポンプが連結され、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記環状溝からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空度にする、差動排気装置と、前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束イオンビーム光学系を内蔵して集束イオンビームが前記開口部内を通るように出射する集束イオンビームカラムと、を備える加工装置であって、最も内側の前記環状溝に原料ガス供給部が連結され、当該環状溝から前記被処理面へ向けて原料ガスを吐出させて、当該被処理面に沿って前記処理用空間へ原料ガスを移動可能としたことを特徴とする。
【0009】
上記態様としては、前記ヘッド部は、ヘッド部本体と、当該ヘッド部本体における前記被処理基板と対向する側の面に取り付けられた溝形成板と、を備え、前記溝形成板における前記被処理基板と対向する面が前記対向面であることが好ましい。
【0010】
上記態様としては、前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面の輪郭内に前記溝形成板が島状に配置され、前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面と、前記溝形成板の外周部と、で形成される段差部をテーパ状とすることが好ましい。
【0011】
上記態様としては、前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面の輪郭内に前記溝形成板が島状に配置され、前記ヘッド部本体の前記被処理基板と対向する側の面と、前記溝形成板の外周部と、で形成される段差部の肩部をR面部とすることが好ましい。
【0012】
上記態様としては、前記溝形成板は、前記ヘッド部の中央を囲むように配置される複数の環状板で構成されることが好ましい。
【0013】
上記態様としては、前記鏡筒の先端部内に前記集束イオンビームが通過するビーム通過口が形成されたマイクロチャネルプレートを配置し、前記マイクロチャネルプレートにおける前記ビーム通過口の周辺を、前記被処理基板から発生した2次荷電粒子を捕捉可能な検出部とすることが好ましい。
【0014】
上記態様としては、前記被処理基板に形成されたアライメントマークを検出する光学顕微鏡を備えることが好ましい。
【0015】
上記態様としては、前記ヘッド部の近傍にオフセット距離を隔てて、前記被処理基板の被処理領域を観察するための観察用顕微鏡を備えることが好ましい。
【0016】
上記態様としては、先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束イオンビームカラムを複数備え、前記被処理基板の被処理面を複数に分割した領域に、それぞれの前記集束イオンビームカラムが対向するように配置することが好ましい。
【0017】
上記態様としては、前記被処理基板の位置を固定し、先端部に前記差動排気装置を備えた前記集束イオンビームカラムを、前記被処理基板に対してX-Y方向に移動可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被処理基板へ確実な成膜処理を行える加工装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態に係る加工装置の断面説明図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態に係る加工装置を構成する差動排気装置を下方斜めから見た斜視図である。
図3図3は、本発明の第1の実施の形態に係る加工装置を構成する溝形成板を斜め下方から見た斜視図である。
図4図4は、本発明の第1の実施の形態に係る加工装置を構成する溝形成板を斜め上方から見た斜視図である。
図5図5は、本発明の第1の実施の形態の変形例1に係る加工装置の断面説明図である。
図6図6は、本発明の第1の実施の形態の変形例2に係る加工装置の断面説明図である。
図7図7は、本発明の第1の実施の形態の変形例3に係る加工装置を斜め下方から見た部分断面斜視図である。
図8図8は、本発明の第2の実施の形態に係る加工装置の要部断面図である。
図9図9は、本発明の第2の実施の形態の変形例1に係る加工装置を模式的に示す説明図である。
図10図10は、本発明の第3の実施の形態に係る加工装置を示す要部断面図である。
図11図11は、本発明の第4の実施の形態に係る加工装置を示す構成説明図である。
図12図12は、本発明の第5の実施の形態に係る加工装置を示す構成説明図である。
図13図13は、本発明の第6の実施の形態に係る加工装置を示す構成説明図である。
図14図14は、本発明の第7の実施の形態に係る加工装置を示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る加工装置の詳細を図面に基づいて説明する。なお、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率や数、形状などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率や形状が異なる部分が含まれている。
【0021】
[第1の実施の形態]
(加工装置の概略構成)
図1は、第1の実施の形態に係る加工装置1の概略構成を模式的に示している。加工装置1は、差動排気装置2と、集束イオンビームカラム(以下、FIBカラムともいう)3と、基板支持台4と、支持フレーム5と、を備える。基板支持台4は、被処理基板としてのフォトマスク6を載せた状態で支持するようになっている。基板支持台4は、X-Y方向に移動可能なステージである。
【0022】
(差動排気装置の構成)
以下に、図2から図4を用いて差動排気装置2の構成を説明する。なお、図2は、差動排気装置2を下方から見た斜視図である。差動排気装置2は、ヘッド部7と、図示しない真空ポンプと、吐出ポンプと、を備える。
【0023】
ヘッド部7は、フォトマスク6の被処理面6Aの面積に比較してごく小さな面積の円盤形状の2つの金属プレートによって構成されている。ヘッド部7は、基板支持台4がX-Y方向に移動することにより、被処理面6Aの任意領域に対向し得るようになっている。
【0024】
図1および図2に示すように、ヘッド部7は、ヘッド部本体8と、ヘッド部本体8におけるフォトマスク6と対向する側の面8Aに取り付けられた溝形成板9と、を備える。溝形成板9は、ヘッド部本体8におけるフォトマスク6と対向する側の面8Aの輪郭内に島状に配置されている。なお、この実施の形態では、溝形成板9をヘッド部本体8にネジ固定しているが、固定手段はこれに限定されるものではない。溝形成板9は、フォトマスク6と直接対向する対向面9Aを有する。
【0025】
図2に示すように、対向面(下面)9Aには、ヘッド部7の中心を囲むように4つの環状溝10A,10B,10C,10Dが形成されている。ヘッド部7における、これら複数の環状溝10A,10B,10C,10Dのうち最も内側の環状溝10Aの内側領域に開口部11が形成されている。この開口部11内は、処理用空間Spが形成されている。この開口部11は、フォトマスク6の被処理面6Aに処理(集束イオンビーム照射による成膜処理など)を可能にしている。ヘッド部本体8の中央には、この開口部11と連通する開口部8Bが形成されている。なお、この説明では、ヘッド部7の中心を取り囲むように形成された溝を「環状溝」と称するが、円形のループ状の溝、方形のループ状の溝、またはループの一部が欠損した例えばC文字形状の溝、間欠的にループ状に並ぶ複数の溝なども含むものと定義する。
【0026】
図1に示すように、この開口部8Bには、後述するFIBカラム3の鏡筒14が連通するように連結されている。また、ヘッド部本体8内には、溝形成板9に形成した環状溝10A,10B,10C,10Dのそれぞれに連通する連通路が形成され、これら連通路にそれぞれ連結パイプ12A,12B,12C,12Dが連結されている。図3および図4に示すように、本実施の形態では、溝形成板9の溝底部に多数の連通孔13A,13B,13C,13Dが溝形成板9を貫通するように形成されている。環状溝10A,10B,10C,10Dは、これら多数の連通孔13A,13B,13C,13Dを通して、ヘッド部本体8内の連通路と連通している。
【0027】
複数の環状溝10A,10B,10C,10Dのうち少なくとも1つ以上(本実施の形態では3つ)の環状溝10B,10C,10Dは、ヘッド部本体8内に形成された連通路を通して連結パイプ12B,12C,12Dに接続されている。これら連結パイプ12B,12C,12Dは、図示しない真空ポンプに接続されている。
【0028】
最も内側の環状溝10Aは、連結パイプ12Aを通してデポガス(原料ガス、CVD用ガス)を供給する図示しない原料ガス供給部に接続されている。ヘッド部7は、被処理面6Aに対向面9Aを対向させた状態で、環状溝10B,10C,10Dからの空気吸引作用により、処理用空間Spを高真空度にする機能を備える。また、ヘッド部7は、このように高真空度に調整された処理用空間Spへ、最も内側の環状溝10Aから原料ガスを確実に供給して、開口部11に対向する被処理面6Aの領域へCVD成膜を行うことを可能にしている。
【0029】
因みに、従来の加工装置では、局所排気装置における原料ガス流路の吹き出し口が鏡筒の先端開口部に隣接して形成されているため、吹き出し口近辺の壁部にCVD生成物が堆積し易いという問題がある。このCVD生成物が堆積する箇所は、鏡筒の先端部であるため、集束イオンビームへ影響を与える恐れがある。このため、従来の加工装置では、局所排気装置のメンテナンスが必要になる。この場合、局所排気装置を集束イオンビームカラムから局所排気装置を取り外して堆積したCVD生成物のクリーニングを行うことが定期的に必要となる。局所排気装置には、排気系のパイプや原料ガスの供給系のパイプなどが接続されているため、取り外し工程、クリーニング工程、取り付け工程に長い時間を要するという課題があった。
【0030】
従来の加工装置では、局所排気装置と被修正基板の設定ギャップが40μm程度と狭い間隔であるため、局所排気装置の下面が被修理基板と接触して交換が必要になる可能性があった。このような交換においても、長い時間と多くの管理コストがかかってしまうと課題あった。
【0031】
(集束イオンビームカラム:FIBカラム)
FIBカラム3は、上記したヘッド部7における対向面9Aと反対側の面側(上面側)に配置され、ヘッド部7の開口部8B,11に先端開口部が連通するように連結されている。
【0032】
FIBカラム3は、処理用空間Spに連通する鏡筒14と、鏡筒14内に内蔵された集束イオンビーム光学系15と、を備える。FIBカラム3の先端部からは、開口部11内を通るように集束イオンビームIbを出射するようになっている。このようなFIBカラム3は、支持フレーム5に吊り下げられた状態で支持されている。
【0033】
集束イオンビーム光学系15は、イオンビームIbを発生させるイオン源、発生したイオンビームIbを集束させるコンデンサレンズ、イオンビームIbを走査する偏向器、イオンビームIbを集束させる対物静電レンズなどを備える。イオン源としては、主にガリウム(Ga)イオン源を用いるが、アルゴン(Ar)など希ガスを誘導結合プラズマ(ICP)化したり、ガス電界イオン化したり、希ガスイオン源を用いたりすることも可能である。イオンビームIbのレンズとしては、電界レンズを用いることが好ましい。
【0034】
CVDのデポジション用ガスとしては、W(CO)を用いることができる。基板近傍のW(CO)に集束イオンビームが照射されると、WとCOに分解され、Wが基板上にデポジションされる。
【0035】
(第1の実施の形態に係る加工装置の動作および作用)
本実施の形態に係る加工装置1を用いて加工を行う場合、ヘッド部7の対向面9Aに対してフォトマスク6の被処理面6Aを所定のギャップを保って平行に対向配置させる状態に設定する。
【0036】
次に、図示しない真空ポンプを稼働させて連結パイプ12B,12C,12Dを介して3つの環状溝10B,10C,10Dから吸引を行う。最も内側の環状溝10Aの内側の開口部11で形成される処理用空間Spは、環状溝10B,10C,10Dからの吸引作用によって、高真空となる。
【0037】
このように処理用空間Spが高真空になった状態において、図示しない原料ガス供給部から連結パイプ12Aを通して原料ガス(CVD用ガス)を、最も内側の環状溝10Aに供給する。環状溝10Aが処理用空間Spの近傍にあるため、原料ガスが処理用空間Spに確実に到達する。このとき、原料ガスは、フォトマスク6の被処理面6Aに沿って処理用空間Spへ移動する。すなわち、原料ガスが成膜を行う領域に安定して存在する。
【0038】
この状態で、FIBカラム3から処理用空間Spに向けてイオンビームIbが照射されると、開口部11に対向する被処理面6Aの領域へCVD成膜を行うことができる。
【0039】
(第1の実施の形態に係る加工装置の効果)
本実施の形態に係る加工装置1では、差動排気装置2により局所で高真空度とすることができるため、フォトマスク6の被処理面6A全体を真空中に配置する必要がない。
【0040】
本実施の形態では、差動排気装置2において、最も内側の環状溝10Aに原料ガス供給部が連結されている。この環状溝10Aからフォトマスク6の被処理面6Aに向けて原料ガスを吐出させることにより、この被処理面6Aを経由して開口部11から処理用空間Spに原料ガスが到達する。このため、処理用空間Spに臨む被処理面6Aには、確実に原料ガスが到達して集束イオンビームIbの作用により良質のCVD膜を安定して成膜することができる。
【0041】
また、本実施の形態では、溝形成板9をヘッド部本体8から取り外して交換することを容易に行えるため、FIBカラム3や連結パイプ12A,12B,12C,12D等を取り外す必要がなく、メンテナンスが容易になるという効果がある。
【0042】
(第1の実施の形態の変形例1)
図5に示す加工装置1Aは、上記した第1の実施の形態に係る加工装置1の変形例1である。この加工装置1Aは、ヘッド部7の溝形成板9の外周面、すなわち、ヘッド部本体8の面8Aと溝形成板9の外周部とで形成される段差部の外周面(壁面)を、テーパ面9Bとしている。この変形例1に係る加工装置1Aにおける他の構成は、上記した第1の実施の形態に係る加工装置1と略同様であり、同様の作用および効果を有する。
【0043】
差動排気装置2の対向面9Aとフォトマスク6の被処理面6Aとのギャップが40μm程度の狭ギャップとなると、この狭ギャップの領域に乱流が発生すると振動発生などの要因となってしまう。この変形例1によれば、溝形成板9の外周面をテーパ面9Bとして急峻な段差を緩和したことにより、乱流が発生しにくくなり、振動発生等を抑えることができる。
【0044】
(第1の実施の形態の変形例2)
図6は、上記の第1の実施の形態の変形例2に係る加工装置1Bを示している。この加工装置1Bは、ヘッド部7の溝形成板9の外周部の段差に丸みをつけてR面部9Cとした。この変形例2に係る加工装置1Bにおける他の構成は、上記した第1の実施の形態に係る加工装置1と略同様である。
【0045】
この変形例2によれば、溝形成板9の段差肩部をR面部9Cとしたことにより、上記の変形例1と同様に、対向面9Aと被処理面6Aの間で乱流が発生しにくくなる作用を有し、装置の振動発生等を抑えることができる。この変形例2においても、上記した第1の実施の形態に係る加工装置1と同様の作用および効果を有する。
【0046】
(第1の実施の形態の変形例3)
図7は、第1の実施の形態の変形例3に係る加工装置1Cを示す部分断面斜視図である。この変形例3では、溝形成板9が、5つの環状板9D,9E,9F,9G,9Hを同心円状に配置して形成されている。これら環状板9D,9E,9F,9G,9Hの互いに隣接する同士の間に、環状溝10A,10B,10C,10Dが形成されている。この変形例3に係る加工装置1Cの他の構成は、上記の第1の実施の形態の構成と略同様である。
【0047】
この変形例3によれば、溝形成板9を構成する環状板9D,9E,9F,9G,9Hのそれぞれの厚みを僅かに変えて、差動排気機能の調整を可能とすることができる。また、環状板9D,9E,9F,9G,9Hのうち、損傷が生じた部分だけを交換すればよいため、メンテナンスコストを抑えることができる。このため、取り外して交換することが容易に行える。
【0048】
(第2の実施の形態)
図8は、第2の実施の形態に係る加工装置1Dを示す要部断面図である。本実施の形態では、ヘッド部7における最も外側の環状溝10Dから被処理面6Aに向けて、不活性ガスとしての窒素ガス(N)を吹き付けてガスカーテンが生じるようにしている。このように、不活性ガスを使用することで、鏡筒14内を不活性ガスでパージ可能とし、環境改善となる。また、不活性ガスの吹き付けにより、差動排気による真空圧を相殺する効果がある。なお、本実施の形態では、ヘッド部7が単一の金属板で構成されている。
【0049】
(第2の実施の形態の変形例1)
図9は、本発明の第2の実施の形態の変形例1に係る加工装置1Eの断面説明図である。図9に示すように、この加工装置1Eは、差動排気装置2のヘッド部7の対向面9Aの外側に、この対向面9Aの外周縁に沿って浮上パッド16が周回して一体に設けられている。この浮上パッド16は、不活性ガスとしての窒素ガス(N)を供給する図示しない吐出ポンプに連結パイプ12Eで接続されている。この浮上パッド16は、扁平な環状のパイプ形状であり、下面に複数のスリット状または円形状の開口16Aが形成され、この開口から不活性ガスを吐出するようになっている。本実施の形態に係る加工装置1Eの他の構成は、上記した第2の実施の形態に係る加工装置1Dと略同様である。
【0050】
浮上パッド16は、被処理面6Aへ向けて不活性ガスを吹き付けてガスカーテンを形成する。このため、浮上パッド16は、ヘッド部7を被処理面6Aから離れる方向へ付勢する。このように、不活性ガスを使用することで、鏡筒14内を不活性ガスでパージ可能とし、環境改善できる。また、不活性ガスの吹き付けにより、差動排気による真空圧を相殺する効果がある。
【0051】
[第3の実施の形態]
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る加工装置1Fを模式的に示す説明図である。この加工装置1Fは、鏡筒14の先端部内に集束イオンビーム光学系15の対物静電レンズ15Aと、マイクロチャネルプレート17と、を備えている。マイクロチャネルプレート17は、対物静電レンズ15Aよりもビーム下流側(鏡筒14の先端に近い位置)に配置されている。マイクロチャネルプレート17は、図10に示すように、中央にイオンビーム通過口17Aが開けられおり、その周辺部は、フォトマスク6から発生した2次荷電粒子Pを捕捉可能な検出部17Bとしている。
【0052】
なお、この加工装置1Fを用いて、フォトマスクの被処理面6Aを観察する場合は、デポガス(原料ガス)の供給を停止させた状態で集束イオンビームIbを照射する。そして、集束イオンビームIbがイオンビーム通過口17Aを通過して被処理面6Aに入射させる。すると、被処理面6Aから発生した2次荷電粒子Pが検出部17Bに入射して電子が生じる。このように、生じた電子をアバランシェ電流により増幅して被処理面6Aの表面の情報を得ることが可能となる。したがって、本実施の形態の加工装置1Fによれば、被処理面6Aの状態を高感度で検出することができる。
【0053】
本実施の形態に係る加工装置1Fによれば、対物静電レンズ15Aのワーキングディスタンス(WD)を短くさせることが可能となり、従来のように真空チャンバ内において、集束イオンビーム光学系から離れた位置にシンチレータを配置して検出する方法に比べて2次荷電粒子Pの捕捉効率を向上できる。
【0054】
このように対物静電レンズ15Aのワーキングディスタンスを短くすると鏡筒14の先端部近傍にデポガス(原料ガス)のノズルなどの構造物を別途配置しにくくなる。しかし、本実施の形態では、環状溝10Aが開口部11の近傍の被処理面6Aへデポガスを吐出している。このため、被処理面6Aを経由して処理用空間Spへデポガスを導くことができる。したがって、本実施の形態では、ワーキングディスタンスが短くなることに起因してデポガスの供給がしにくくなるという問題は発生しない。本実施の形態では、処理用空間Spに臨む被処理面6Aへ確実に原料ガスが到達して良質で安定したCVD成膜を行うことができる。
【0055】
本実施の形態によれば、結果的には、対物静電レンズ15Aのワーキングディスタンスを短くできるので、集束イオンビーム光学系15の集束効率も向上し、微細な集束イオンビームIbを照射することも可能となる。
【0056】
また、本実施の形態では、集束イオンビームIbによる被処理面6Aの状態の観察を行うフォトマスク6の位置と、CVD成膜を行うときのフォトマスク6の位置は同じであるため、フォトマスク6を移動させる必要がない。このため、フォトマスク6の移動に伴って処理位置がずれるという問題を回避できる。
【0057】
[第4の実施の形態]
図11は、本発明の第4実施の形態に係る加工装置1Gを示している。加工装置1Gは、X-Y精密ステージ25を備える。X-Y精密ステージ25は、少なくとも四隅の下部のそれぞれに、支持脚26が設けられている。X-Y精密ステージ25の上には、X-Y精密ステージ25に駆動されてX-Y方向に移動する基板支持台4が設けられている。この基板支持台4の上には、フォトマスク6が載せられる。
【0058】
図11に示すように、X-Y精密ステージ25の上には、支持フレーム20が架設されている。支持フレーム20の中央には、FIBカラム3が吊り下げられている。FIBカラム3の下端には、差動排気装置2が一体に設けられている。なお、FIBカラム3と差動排気装置2の構成は、上述の第1の実施の形態に係る加工装置1の構成と略同様である。
【0059】
FIBカラム3には真空ポンプ27が接続され、真空ポンプ27には真空ポンプ制御電源28が接続されている。また、X-Y精密ステージ25には、ステージ制御電源29が接続されている。
【0060】
特に、本実施の形態では、X-Y精密ステージ25上の所定位置に配置されたフォトマスク6の四隅に形成されたアライメントマーク6Bに対応する上方位置に、それぞれ光学アライメント顕微鏡30が設けられている。
【0061】
本実施の形態では、差動排気装置2を使用して局所真空空間を実現したことにより、処理を行う領域以外は大気圧であるため、光学アライメント顕微鏡を容易に設置できる。本実施の形態では、フォトマスクの四隅のアライメントマーク6Bを用いてアライメントを行い、光学アライメント顕微鏡30の位置と、FIBカラム3による処理位置と、の相対関係で座標を確定させることができる。
【0062】
このため、本実施の形態の加工装置1Gによれば、X-Y精密ステージ25によるアライメントのためのストロークが不要となる。加えて、この加工装置1Gによれば、アライメントのための移動時間を短くできる。
【0063】
[第5の実施の形態]
図12は、本発明の第5の実施の形態に係る加工装置1Hを示している。本実施の形態の加工装置1Hは、FIBカラム3にオフセット距離を設定して光学顕微鏡の31を設置した構成である。なお、本実施の形態では、上記第4の実施の形態に係る加工装置1Gのような光学アライメント顕微鏡30を備えていないが、付加しても勿論よい。
【0064】
従来の加工装置においては、集束イオンビームが照射されたフォトマスクから放出される2次電子や2次イオンを、FIBカラムの外側に設置した電荷粒子検出器にて検出し、その強度の変化を見て被処理基板の表面形状をイオン像として観察していた。一般的には、このイオン像を使用して照射位置確認などを行っていた。しかし、2次荷電粒子は被処理基板の表面形状(傾斜角度)に依存しているため、表面形状のみイオン像として検出される。そのため、表面形状に起伏が少ない場合はコントラストの低いイオン像となってしまって照射位置を確認しづらくなり、位置精度が低下することがあった。
【0065】
図12に示すように、本実施の形態に係る加工装置1Hでは、差動排気装置2により局所で高真空度とすることができるため、フォトマスク6全体を真空中に配置する必要がない。このためFIBカラム3の近傍に光学顕微鏡31を設置することができる。したがって、集束イオンビームにより処理すべきフォトマスク6の被処理面6Aから、高分解能の光学顕微鏡31により表面の起伏情報だけでなく、色などの情報も取得できる。このため、本実施の形態では、集束イオンビームにより処理すべき位置を容易に確認することできる。なお、本実施の形態では、光学顕微鏡31に代えてレーザ顕微鏡などを用いることができる。
【0066】
このような光学顕微鏡31にて確認した位置に対してイオンビーム照射位置の位置オフセットをあらかじめ確認しておけば、処理すべき位置の光学像で位置確認してすぐにイオンビーム照射位置へフォトマスク6をセットすることができる。このように、本実施の形態では、起伏の少ないフォトマスク6の表面でも照射位置を特定でき、高精度に集束イオンビーム照射をすることが可能となる。
【0067】
[第6の実施の形態]
図13は、本発明の第6実施の形態に係る加工装置1Iを示している。加工装置1Iは、X-Y精密ステージ25と、X-Y精密ステージ25の少なくとも四隅の下部のそれぞれに設けられた支持脚26と、基板支持台4と、支持フレーム20と、この支持フレーム20に吊り下げられた4つのFIBカラム3と、FIBカラム3の下端に設けられた差動排気装置2と、備える。
【0068】
それぞれのFIBカラム3は真空ポンプ27が接続され、真空ポンプ27には真空ポンプ制御電源28が接続されている。また、X-Y精密ステージ25には、ステージ制御電源29が接続されている。
【0069】
特に、本実施の形態では、4つのFIBカラム3がフォトマスクを4つに分割した領域に対応するように配置されている。1枚のフォトマスクに対して1つのFIBカラム3を使用した場合、基板面積の4倍のストロークが基板支持台4に必要であった。これに対して、本実施の形態では、4つのFIBカラム3を設置したことにより、X-Y精密ステージ25を稼働して基板支持台4の可動ストロークを低減することができ、装置のフットプリントを小さく抑えることができる。
【0070】
[第7の実施の形態]
図14は、本発明の第7実施の形態に係る加工装置1Jを示している。この加工装置1Jは、基板支持台4が固定された基板ステージ32を備える。基板ステージ32は、少なくとも四隅の下部のそれぞれに、支持脚26が設けられている。
【0071】
図14に示すように、基板ステージ32の上には、X-Yガントリステージ33が架設されている。X-Yガントリステージ33には、可動ブロック34がX-Y方向に移動可能に設けられている。可動ブロック34には、FIBカラム3と光学アライメント顕微鏡30とが固定されている。FIBカラム3の下端には、差動排気装置2が一体に設けられている。なお、FIBカラム3と差動排気装置2の構成は、上述の第1の実施の形態に係る加工装置1の構成と略同様である。
【0072】
FIBカラム3は、真空ポンプ27が接続されている。また、可動ブロック34は、ステージ制御電源35が接続されている。
【0073】
特に、本実施の形態では、X-Yガントリステージ33に可動ブロック34をX-Y方向に移動可能に設けたことにより、フォトマスク6の位置を固定した状態で、可動ブロック34に設けたFIBカラム3と光学アライメント顕微鏡30を移動させることができる。このようにフォトマスク6の位置を固定できるため、装置のフットプリントを小さくできる。
【0074】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明によれば、ヘッド部7の処理用空間Spの高真空を確実に維持できるため、この処理用空間での処理作業の質を高めることができる。また、ヘッド部7の対向面9Aにおいて、中央の開口部11を囲む最も内側の環状溝10Aから原料ガスを吐出させるようにしているため、フォトマスク6上に確実な成膜処理が行える。
【0075】
また、本発明では、ヘッド部7に溝形成板9を取り付けたことにより、溝形成板9のみを交換したり、クリーニングしたりすればよいため、メンテナンスが容易となり、設備コストならびに管理コストを削減できる。
【0076】
[その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0077】
上記の実施の形態において、差動排気装置に形成する環状溝の数は、4本に限定されるものではなく、少なくとも排気と吹き出しを行う2本以上を備えればよい。また、ガス供給用の溝および排気用の溝として、円形のループ状の環状溝10A,10B,10C,10Dを形成したが、これに限定されるものではなく、例えば四角形状のループ状の溝などを形成してもよい。
【0078】
上記の実施の形態においては、被処理基板としてフォトマスク6を適用して説明したが、配線欠陥を観察して成膜処理を必要とする各種のディスプレイ基板などにも勿論適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
Ib 集束イオンビーム
Sp 処理用空間
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J 加工装置
2 差動排気装置
3 集束イオンビームカラム(FIBカラム)
4 基板支持台
6 フォトマスク
6A 被処理面
7 ヘッド部
8 ヘッド部本体
8B 開口部
9 溝形成板
9A 対向面
9B テーパ面
9C R面部
9D,9E,9F,9G,9H 環状板
10A,10B,10C,10D 環状溝
11 開口部
14 鏡筒
15 集束イオンビーム光学系
16 浮上パッド
17 マイクロチャネルプレート
17A イオンビーム通過口
17B 検出部
30 光学アライメント顕微鏡
31 光学顕微鏡
33 X-Yガントリステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14