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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】mRNAワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240531BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240531BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240531BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240531BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240531BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240531BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A61K39/00 G
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P43/00 105
A61P37/04
A61K9/127
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021539044
(86)(22)【出願日】2020-01-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 EP2020050072
(87)【国際公開番号】W WO2020141212
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】19150349.9
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19163486.4
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520265930
【氏名又は名称】イーザアールエヌーエー イムノセラピーズ エンヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】デ コケル,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ビャウコフスキ,ウカシュ
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0056939(US,A1)
【文献】特表2016-514097(JP,A)
【文献】国際公開第2018/204234(WO,A1)
【文献】SAFETY OF INTRANODAL ECI-006 IN MELANOMA PATIENTS,CLINICALTRIALS.GOV,2018年01月09日,PAGE(S):1-5,https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT03394937,NCT03394937
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 48/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性免疫賦活タンパク質CD40L、CD70及びcaTLR4(構成的活性TLR4)の全てをコードする1つ以上のmRNA分子と、
大腸癌特異的抗原をコードする1つ以上のmRNA分子と
PD-1に対するナノボディ、PD-1に対するアンタゴニスト抗体;PDL1に対するナノボディ、PDL1に対するアンタゴニスト抗体を含むリストから選択されるPD-1経路阻害剤と、
を含み、前記1つ以上のmRNA分子が静脈内投与製剤の形態である、大腸癌の治療のための組合せ
【請求項2】
前記PD-1経路阻害剤が前記PD-1経路阻害剤をコードするmRNAの形態である、請求項1に記載の組合せ
【請求項3】
前記PD-1に対するアンタゴニスト抗体がニボルマブ(BMS-936558/MDX1106)、ピディリズマブ(CT-011)、ペムブロリズマブ(MK-3475)を含むリストから選択される、請求項1に記載の組合せ
【請求項4】
前記mRNA分子がナノ粒子に包まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の組合せ
【請求項5】
前記ナノ粒子が脂質ナノ粒子である、請求項4に記載の組合せ剤。
【請求項6】
前記脂質ナノ粒子が、イオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質の組合せを含む、請求項5に記載の組合せ剤。
【請求項7】
前記PD-1経路阻害剤が非経口投与用に配合される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組合せ
【請求項8】
前記PD-1経路阻害剤が静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組合せ剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組合せを含むワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、機能性免疫賦活タンパク質をコードするmRNA分子とPD-1経路阻害剤との組合せに関する。特に、本発明は、CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される少なくとも1つの機能性免疫賦活タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と、任意に同様にmRNA分子の形態のPD-1経路阻害剤との組合せに関する。本発明は、かかる組合せを含むワクチン、並びに人間医学又は獣医学、特に細胞増殖性障害の予防及び/又は治療における本発明の組合せ及びワクチンの使用に更に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞を認識し、死滅させることが可能な強力な細胞傷害性CD8 T細胞応答の誘導が、あらゆる治療用癌ワクチンの主要目標である。かかる細胞溶解性T細胞応答を誘発するワクチンの能力は、ワクチンと、最も強力な抗原提示細胞であり、T細胞免疫の扇動因子(instigators)である樹状細胞(DC)との間の初期相互作用に大きく左右される。タンパク質ベースのワクチンとは対照的に、mRNAワクチンでは、抗原プロセシング及びCD8 T細胞への抗原の提示の自然な経路である、DCのサイトゾルにおけるmRNAによってコードされる抗原の発現が可能となる。
【0003】
加えて、T7等のウイルスポリメラーゼによって産生されるin vitro転写mRNAは、部分的にウイルスRNAに類似しているため、自然免疫センサーによって認識され、mRNAに内因性アジュバント特性を与える(非特許文献1、非特許文献2)。それにもかかわらず、IVT mRNAによるDCの活性化は最適以下であり、免疫賦活タンパク質CD40L、CD70及びcaTLR4をコードする3つのmRNAの混合物であるTriMix mRNAの同時送達によって更に増強され得る(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。腫瘍抗原をコードするmRNAへのTriMix mRNAの付加は、前臨床モデルにおいてT細胞応答の大きさ及びその抗腫瘍効果を強く増強することが実証されており、現在臨床研究において調査されている。したがって、本発明者らは、in vivo又はin vitroのいずれかで免疫賦活因子CD40L、CD70及びcaTLR4の1つ以上をコードするmRNA又はDNA分子の混合物の形態の特異的分子アジュバントを加えることによって、APCのT細胞刺激能が大幅に増強され得ることを以前に立証した。上記の免疫賦活因子による刺激は、in vivo(in situ)では、上記の1つ以上の免疫賦活因子をコードするmRNA又はDNA分子、及び任意に腫瘍抗原mRNA、DNA又はタンパク質の静脈内、腫瘍内、皮内、腹腔内、筋肉内又は節内(intranodal)投与によって行うことができる。上記mRNA又はDNAは、裸であっても又は下記のように保護されていてもよい。上記mRNA又はDNAを、例えば静脈内投与する際に保護してもよい。
【0004】
免疫グロブリンスーパーファミリーに属するPD-1遺伝子は、55 kDaのI型膜貫通タンパク質をコードする。マウスPD-1及びヒトPD-1は、どちらも288アミノ酸からなり、N末端にシグナルペプチド(20アミノ酸)、中央部に膜貫通領域である疎水性領域を有する。
【0005】
胸腺では、PD-1は、胸腺細胞でのCD4-/CD8-段階からCD4+/CD8+段階への移行期に発現される。末梢では、PD-1は、抗原受容体を介して活性化されたT細胞及びB細胞、並びにマクロファージ等の活性化骨髄系列細胞で発現される。
【0006】
PD-1は、その細胞内領域にITIM(免疫受容抑制性チロシンモチーフ)を有するため、PD-1は、免疫応答における負の調節因子とみなされる。
【0007】
PD-1とPD-L1との間の阻害シグナルを阻止する、ニボルマブ及びペムブロリズマブ等のPD-1阻害剤が承認されている。これらの薬物は、一部の患者において持続的応答を増強したが、これらの薬物の単剤療法としての奏効率は低かった。特に、これらの薬物は、療法の成功が腫瘍床における既存の抗腫瘍T細胞の存在に大きく左右されるため、殆どの患者における臨床的有用性の欠如に直面する。さらに、治療用癌ワクチンとの関連では、上記の抗腫瘍T細胞のT細胞枯渇又は麻痺が生じることが多い。特に、腫瘍内免疫調節物質は、腫瘍特異的T細胞応答を開始/増幅することができるが、これらのT細胞は、特にPD1シグナル伝達によって生じる免疫抑制性腫瘍微小環境によって「麻痺」することが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kariko et al., 2005
【文献】Yoneyama et al., 2010
【文献】Bonehill et al., 2008
【文献】Van Lint et al. 2012
【文献】Van Lint et al., 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、PD-1阻害剤をベースとした、より強力な抗癌組成物を提供することであった。本発明者らは今回、驚くべきことに、PD-1阻害剤と本発明の免疫賦活因子(CD40L、CD70及び/又はcaTLR4)との組合せが、上記の組合せを抗癌ワクチン接種及び治療との関連で非常に好適なものとする大きな免疫賦活効果をもたらすことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の番号付けされた記述によって記載される。
【0011】
1. CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される少なくとも1つの機能性免疫賦活タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と、
特にPD-1によって開始されるシグナル伝達を阻止又は遮断するPD-1経路阻害剤と、
を含む組合せ。
【0012】
2. 上記の1つ以上のmRNA分子が、CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される機能性免疫賦活タンパク質の全てをコードする、記述1に記載される組合せ。
【0013】
3. 上記のPD-1経路阻害剤が上記のPD-1経路阻害剤をコードするmRNAの形態である、記述1に記載される組合せ。
【0014】
4. 上記のPD-1経路阻害剤が、PD-1に対するナノボディ、PD-1に対するアンタゴニスト抗体;PDL1に対するナノボディ、PDL1に対するアンタゴニスト抗体;又はそれらの誘導体;より特にはPD-1に対するアンタゴニスト抗体を含むリストから選択される、記述1に記載される組合せ。
【0015】
5. 上記のPD-1に対するアンタゴニスト抗体がニボルマブ(BMS-936558/MDX1106)、ピディリズマブ(CT-011)、ペムブロリズマブ(MK-3475)を含むリストから選択される、記述4に記載される組合せ。
【0016】
6. 標的特異抗原;より特には腫瘍関連抗原をコードする1つ以上のmRNA分子を更に含む、記述1~5のいずれか一項に記載される組合せ。
【0017】
7. 上記の標的特異抗原(をコードするmRNA分子)が、標的細胞(複数の場合もある)から単離された全mRNA、1つ以上の標的特異mRNA分子、標的細胞(複数の場合もある)のタンパク質溶解物、標的細胞(複数の場合もある)に由来する特異タンパク質、合成標的特異ペプチド又はタンパク質、及び標的特異抗原又はその誘導ペプチド(複数の場合もある)をコードする合成mRNA又はDNAを含むリストから選択される、記述6に記載される組合せ。
【0018】
8. 上記の標的特異抗原が腫瘍抗原である、記述7に記載される組合せ。
【0019】
9. 上記1つ以上のmRNA分子が非経口投与用、より特には静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される、記述1~3のいずれか一項に記載される組合せ。
【0020】
10. 上記mRNA分子が静脈内投与用に配合され、ポリマーナノ粒子又は脂質ナノ粒子等のナノ粒子に包まれる、記述1~3のいずれか一項に記載される組合せ。
【0021】
11. 上記mRNA分子が腫瘍内又は節内投与用に配合され、リンガー乳酸バッファー(Ringer Lactate buffer)等の好適な注射用バッファー中の裸のmRNA分子の形態である、記述1~3のいずれか一項に記載される組合せ。
【0022】
12. 上記のPD-1経路阻害剤が非経口投与、より特には静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される、記述1~3のいずれか一項に記載される組合せ。
【0023】
13. 記述1~12のいずれか一項に記載される組合せを含むワクチン。
【0024】
14. 上記のワクチンが非経口投与、より特には静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、腹腔内、筋肉内又は節内投与用に配合される、記述12に記載されるワクチン。
【0025】
15. 人間医学又は獣医学において使用される、記述1~12のいずれか一項に記載される組合せ又は記述13若しくは14に記載されるワクチン。
【0026】
16. 細胞増殖性障害の治療において使用される、記述1~12のいずれか一項に記載される組合せ又は記述13若しくは14に記載されるワクチン。
【0027】
17. 被験体において腫瘍に対する免疫応答を誘発するのに使用される、記述1~12のいずれか一項に記載される組合せ又は記述13若しくは14に記載されるワクチン。
【0028】
これより図面を具体的に参照するが、示される記述は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明との関連で考え得る投与経路を示す図である。
図2】腫瘍増殖に対するIN投与されるTrimix及び抗原とIP投与される抗PD-1との組合せの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書において上で既に詳述したように、本発明は、
CD40L、CD70及びcaTLR4を含むリストから選択される少なくとも1つの機能性免疫賦活タンパク質をコードする1つ以上のmRNA分子と、
PD-1経路阻害剤、特にPD-1によって開始されるシグナル伝達を阻止又は遮断するPD-1経路阻害剤と、
を含む組合せに関する。
【0031】
本発明全体を通して、「TriMix」という用語は、CD40L、CD70及びcaTLR4免疫賦活タンパク質をコードするmRNA分子の混合物を意味する。
【0032】
本明細書で使用又は言及されるmRNA又はDNAは、裸のmRNA若しくはDNAであっても又は保護されたmRNA若しくはDNAであってもよい。DNA又はmRNAの保護は、その安定性を増大させた上で、mRNA又はDNAをワクチン接種目的で使用する能力を維持する。mRNA及びDNAの両方の保護の非限定的な例は、リポソームカプセル化、プロタミン保護、(カチオン性)脂質リポプレックス化(Lipoplexation)、脂質のカチオン性又はポリカチオン性組成物、マンノシル化リポプレックス化、バブルリポソーム化(Bubble Liposomation)、ポリエチレンイミン(PEI)保護、リポソーム負荷マイクロバブル保護等であり得る。
【0033】
本明細書全体を通して使用される「標的」という用語は、本明細書に記載され得る具体的な例に限定されない。ウイルス、細菌又は真菌等の任意の感染因子を標的とすることができる。加えて、任意の腫瘍又は癌細胞を標的とすることができる。
【0034】
本明細書全体を通して使用される「標的特異抗原」という用語は、本明細書に記載され得る具体的な例に限定されない。本発明が、提示される標的特異抗原にかかわらず、APCにおける免疫賦活の誘導に関することが当業者には明らかである。提示される抗原は、被験体において免疫応答を誘発することを意図する標的のタイプによって決まる。標的特異抗原の典型的な例は、腫瘍、細菌及び真菌細胞、又は特定のウイルスタンパク質若しくはウイルス構造に特異的な発現又は分泌されたマーカーである。本発明の保護範囲を限定することを望むものではないが、考え得るマーカーの幾つかの例を下に挙げる。
【0035】
本明細書全体を通して使用される「抗原提示細胞」という用語は、全てのAPCを含む。非限定的な具体例は、DC、樹状細胞株、B細胞又はB細胞株である。DC又はB細胞は、患者又は健常な被験体の血液から単離又は生成することができる。患者又は被験体は、以前のワクチン接種の被験体であっても又はそうでなくてもよい。
【0036】
本明細書全体を通して使用される「新生物」、「癌」及び/又は「腫瘍」という用語は、例示され得るタイプの癌又は腫瘍に限定されることを意図するものではない。それゆえ、この用語は、全ての増殖性障害、例えば、新生物、形成不全症、前悪性又は前癌性の病変、異常細胞増殖、良性腫瘍、悪性腫瘍、癌又は転移を包含し、癌は白血病、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、CNS癌、悪性黒色腫、卵巣癌、腎癌、前立腺癌、乳癌、神経膠腫、結腸癌、膀胱癌、肉腫、膵癌、大腸癌、頭頸部癌、肝癌、骨肉腫、骨髄癌、胃癌、十二指腸癌、食道癌、甲状腺癌、血液癌、及びリンパ腫の群から選択される。癌に特異的な抗原は、例えば、MelanA/MART1、癌-生殖細胞抗原、gp100、チロシナーゼ、CEA、PSA、Her-2/neu、サバイビン、テロメラーゼであり得る。
【0037】
CD40LとcaTLR4との組合せの使用は、可溶性CD40L及びLPSの付加によるCD40及びTLR4のライゲーションについて示されているように、成熟したサイトカイン/ケモカイン分泌性DCを生じる。
【0038】
DCへのCD70の導入は、活性化T細胞アポトーシスを阻害し、T細胞増殖を支持することによってCD27+ナイーブT細胞に対する共刺激シグナルをもたらす。
【0039】
caTLR4の代替として、他のToll様受容体(TLR)が使用され得る。それぞれのTLRについて構成的活性型が知られ、宿主免疫応答を誘発するためにDCに導入し得る可能性がある。しかしながら、本発明者らの見解では、caTLR4が最も強力な活性化分子であり、したがって好ましい。
【0040】
本発明のワクチンの好ましい実施形態では、mRNA又はDNA分子(複数の場合もある)が、CD40L及びCD70免疫賦活タンパク質をコードする。本発明のワクチンの特に好ましい実施形態では、mRNA又はDNA分子(複数の場合もある)は、CD40L、CD70及びcaTLR4免疫賦活タンパク質をコードする。
【0041】
免疫賦活タンパク質をコードする上記のmRNA又はDNA分子は、単一mRNA又はDNA分子の一部であってもよい。好ましくは、上記の単一mRNA又はDNA分子は、2つ以上のタンパク質を同時に発現することが可能である。一実施形態では、免疫賦活タンパク質をコードするmRNA又はDNA分子は、単一mRNA又はDNA分子において内部リボソーム侵入部位(IRES)又は自己切断性2aペプチドをコードする配列によって隔てられる。
【0042】
特定の実施形態では、上記の本発明のmRNA分子の1つ以上が翻訳エンハンサー及び/又は核内係留要素(nuclear retention element)を更に含有し得る。好適な翻訳エンハンサー及び核内係留要素は、国際公開第2015071295号に記載されているものである。
【0043】
本明細書で使用される場合、「PD-1阻害剤」という用語は、例えばPD-1若しくはその天然リガンドであるPD-L1/PD-L2の発現(すなわち転写及び/又は翻訳)、又はPD-1活性を低下させることによって、PD-1の調節に直接的又は間接的に影響を及ぼすことが可能な任意の化合物を含む。これには細胞内PD-1阻害剤(例えば、SHP-1及びSHP-2等のPD-1関連シグナル伝達分子又は経路を遮断する作用物質)及び細胞外PD-1阻害剤が含まれる。限定されるものではないが、かかる阻害剤には、siRNA、アンチセンス分子、タンパク質、ペプチド、小分子、抗体等が含まれる。
【0044】
このため、特定の実施形態では、上記のPD-1経路阻害剤は、PD-1に対するナノボディ、PD-1に対するアンタゴニスト抗体;PDL1に対するナノボディ、PDL1に対するアンタゴニスト抗体;又はそれらの誘導体を含むリストから選択される。抗体の誘導体としては、例えばscFV、二重特異性抗体等を挙げることができる。
【0045】
一実施形態では、上述のPD-1阻害剤は、PD-1とPD-1リガンド(例えばPD-L1、PD-L2)との間の相互作用を遮断/阻害する。かかる阻害剤は、例えばPD-1及び/又はPD-L1及び/又はPD-L2のIgVドメイン、例えば上で論考されるように相互作用に関与する残基の1つ以上を標的とし得る。
【0046】
一実施形態では、上述のPD-1阻害剤は、抗PD-1又は抗PD-L1/PD-L2抗体等の遮断抗体である。抗PD-1及び/又は抗PD-L1/PD-L2遮断抗体は、当該技術分野で既知である。当業者は、上で論考されるように、PD-1とPD-L1/PD-L2との間の相互作用の既知のドメインに基づいて他の遮断抗体を容易に特定し、作製することができる。例えば、PD-1又はPD-L1/PD-L2のIgV領域(又はこの領域の一部)に対応するペプチドが、当該技術分野で既知の方法を用いて遮断抗体を開発するための抗原として使用され得る。
【0047】
本発明との関連での「抗PD-1抗体」又は「抗PD-L1」又は「抗PD-L2」は、PD-1、PD-L1若しくはPD-L2タンパク質又はPD-1、PD-L1若しくはPD-L2タンパク質フラグメントを検出/認識する(すなわち、それに結合する)ことが可能な抗体を意味する。一実施形態では、上述の抗体は、PD-1-PD-L1/PD-L2相互作用又はPD-1媒介T細胞阻害等のPD-1の生物活性を阻害する。別の実施形態では、PD-1又はPD-L1/PD-L2タンパク質フラグメントは、PD-1又はPD-L1/PD-L2の細胞外ドメイン(例えばIgVドメイン)である。
【0048】
「PD-1レベル」という用語は、本明細書で使用される場合、T細胞上でのPD-1の発現レベル、又はCD4+若しくはCD8+細胞の総数に対するパーセントとして表される、CD4+若しくはCD8+でもあるPD-1陽性T細胞の割合を意味する。T細胞上でのPD-1の発現レベルは、任意の標準方法によって決定することができる。例えば、このレベルは、フローサイトメトリーによって決定し、平均蛍光強度(MFI)として測定することができる。
【0049】
一実施形態では、本開示は、個体に1つ以上の免疫賦活因子及びPD-1の阻害剤を投与することを含む、個体の併用療法の方法を提供する。1つ以上の免疫賦活因子及びPD-1阻害剤を、単一の組成物若しくは別個の組成物として同時に(simultaneously or contemporaneously)投与してもよく、又は1つ以上の免疫賦活因子及びPD-1阻害剤を異なる時点で投与してもよい。
【0050】
本発明の組成物は概して、PD-1阻害剤を1つ以上の免疫賦活因子と組み合わせて含む。PD-1は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、T細胞及びpro-B細胞上で発現される細胞表面受容体である。PD-1は、PD-L1及びPD-L2の2つのリガンドに結合する。PD-1は、T細胞の活性化を阻止することで免疫系の下方調節において重要な役割を果たし、これにより自己免疫が低下し、自己寛容が促進される。PD-1の阻害効果は、リンパ節内の抗原特異的T細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を促進し、同時にTregのアポトーシスを減少させる二重機構によって達成される。本開示の組成物に使用するのに適したPD-1阻害剤としては、ニボルマブ(BMS-936558/MDX1106)、ピディリズマブ(CT-011)、ペムブロリズマブ(MK-3475)及びそれらの組合せが挙げられる。代替的には、PD-L1阻害剤であるアテゾリズマブを本発明との関連で適切に使用することもできる。
【0051】
PD-1阻害剤の好適な投与量は、例えば個体の年齢及び体重、治療を要する少なくとも1つの正確な病態、病態の重症度、組成物の性質、投与経路、並びにそれらの組合せを含む多数の要因によって決まる。最終的に、好適な投与量は、例えば医師、獣医師、科学者、並びに他の医療及び研究の専門家等の当業者によって容易に決定され得る。例えば、当業者は、低い投与量から始めて、これを所望の治療転帰又は結果に達するまで増加させることができる。代替的には、当業者は、高い投与量から始めて、これを所望の治療転帰又は結果を達成するのに必要とされる最低の投与量に達するまで減少させることができる。
【0052】
また、本発明は、上記のmRNA分子が静脈内投与用に配合され、(脂質)ナノ粒子に包まれる、本明細書で記載される組合せを提供する。脂質ナノ粒子(LNP)は、異なる脂質の25の組合せで構成されるナノサイズ粒子として一般に知られている。多くの異なるタイプの脂質がかかるLNPに含まれ得るが、本発明のLNPは例えば、イオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質の組合せで構成され得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、30の粒子を特に核酸の全身投与、特に静脈内投与に適したものにする直径を有し、通例1000ナノメートル(nm)未満の直径を有する任意の粒子を指す。
【0054】
代替的な実施形態では、本発明は、上記のmRNA分子が腫瘍内又は節内投与用に配合され、リンガー乳酸バッファー等の好適な注射用バッファー中の裸のmRNA分子の形態である、本明細書で記載される組合せを提供する。本発明はまた、人間医学又は獣医学に使用され、特に細胞増殖性障害の治療に使用され、より特には被験体において腫瘍に対する免疫応答を誘発するのに使用される、本明細書で記載される組合せ及びワクチンを提供する。
【0055】
最後に、本発明は、治療を必要とする被験体に本発明の組合せ又はワクチンを投与する工程を含む、細胞増殖性障害を治療する方法を提供する。
【実施例
【0056】
実施例1:Trimix、抗原及び抗PD-1の組合せ
本実施例の範囲は、Trimixを単剤療法として又は抗PD-1と組み合わせて使用した場合の所定のTAAに対するT細胞免疫応答を誘発することである。この設定の利点として以下が挙げられる:
TAAを組み込む能力
Trimix mRNAは、TAAに対するT細胞応答を増強するアジュバントとして作用する
図1に示されるように、2つの投与経路が調査される(節内(IN)及び静脈内(IV))
IV投与は、より免疫原性であることが示されたが、同時に付加的な配合物、例えばLNPの使用を必要とする。
【0057】
Balb/C雌性マウスに1×106個のCT26腫瘍細胞を0日目に注射した。5日目、10日目及び15日目に、GP70-Trimix mRNA(1成分当たり10 μg)を節内投与した。モノクローナル抗PD-1抗体(10 mg/kg)を5日目に腹腔内投与し、3日間隔で計5回繰り返した。40日目に腫瘍がない場合に完全奏効者(Complete responders)(CR)とみなした。
【0058】
本実施例の結果を図2に示す。図2から、単独で使用した場合の腫瘍増殖に対する抗PD-1(6匹のうち2匹の完全奏効者)及びGP70-Trimix(8匹のうち4匹の完全奏効者)の両方の有益な効果が明らかに実証される。さらに、GP70-Trimixと抗PD-1との併用は、腫瘍増殖に対する効果の更なる増大を示し、8匹のマウスのうち7匹が40日目に完全に腫瘍がないという結果になる。
図1
図2