(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】ノズル体
(51)【国際特許分類】
B24C 5/02 20060101AFI20240531BHJP
B24C 5/04 20060101ALI20240531BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B24C5/02 B
B24C5/04 A
B24C1/10 Z
(21)【出願番号】P 2023206176
(22)【出願日】2023-12-06
【審査請求日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2023117727
(32)【優先日】2023-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591205732
【氏名又は名称】マコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】徳長 靖
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 勇雄
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-121424(JP,A)
【文献】特開2004-009283(JP,A)
【文献】特開昭59-209767(JP,A)
【文献】特開2016-101649(JP,A)
【文献】特開2020-019089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C1/00-11/00
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と液体とが混合されたスラリが導入されて一時貯留されるスラリ貯留室と、加圧エアが導入されて一時貯留されるエア貯留室と、前記スラリ貯留室及び前記エア貯留室と連通すると共に、前記スラリと前記加圧エアとが混合された噴射材を噴射口から噴射する通過経路を有するノズル体であって、
前記スラリ貯留室は、前記スラリを導入するスラリ導入口を備え、
前記スラリ導入口は、前記スラリを旋回させる旋回手段
が取り付けられ、
前記旋回手段は、前記旋回手段内部で前記スラリを旋回させることを特徴とするノズル体。
【請求項2】
請求項1に記載のノズル体において、
前記旋回手段は、前記加圧エアの導入方向と交差する方向から前記スラリを導入する導入部と、前記スラリ貯留室内の前記スラリを前記加圧エアの導入方向と略平行な方向に導出する導出部とを備えることを特徴とするノズル体。
【請求項3】
請求項2に記載のノズル体において、
前記旋回手段は、前記導入部と前記導出部とを連絡する旋回部本体を備えることを特徴とするノズル体。
【請求項4】
請求項3に記載のノズル体において、
前記旋回部本体は、前記導出部と略同心円上に配置され、
前記導入部は、前記旋回部本体の接線方向に延設されることを特徴とするノズル体。
【請求項5】
請求項1に記載のノズル体において、
前記噴射口は、ワークの幅方向に沿って延びるスリット状であることを特徴とするノズル体。
【請求項6】
請求項5に記載のノズル体において、
前記スラリ貯留室は、前記加圧エアの導入方向に沿った下端に、前記噴射口に連通すると共に、前記幅方向に沿ってスリット状に開口するスラリ貯留室開口部を備え、
前記スラリ貯留室の内壁に、前記加圧エアの導入方向に沿った高さ及び、前記幅方向に沿った幅寸法が前記スラリ貯留室開口部と重畳しない流路調整手段を備えることを特徴とするノズル体。
【請求項7】
請求項6に記載のノズル体において、
前記流路調整手段は、前記スラリ貯留室に着脱可能に組み付けられるスペーサ部材であることを特徴とするノズル体。
【請求項8】
請求項7に記載のノズル体において、
前記スペーサ部材は、前記スラリ貯留室の前記幅方向の両端にそれぞれ取り付けられ、
前記スラリ貯留室の側壁に取り付けられる基部と、前記基部から前記幅方向に沿って延びる延長部とを備えることを特徴とするノズル体。
【請求項9】
請求項8に記載のノズル体において、
前記延長部の先端は、前記スラリ導入口と重畳しないように形成されると共に、前記スラリ導入口から導入されるスラリの導入方向に対して傾斜した斜面を備えることを特徴とするノズル体。
【請求項10】
請求項1から9に記載のノズル体を用いてワークの表面に前記スラリを投射することを特徴とするウェットショットピーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射材をワーク等に対して噴射するノズル体に関し、特に噴射材としてスラリとエアとを混合した噴射材を用いるウェットブラスト用のノズル体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体と砥粒とを混合したスラリを準備し、このスラリを圧縮エアを使って被加工物に噴射することにより被加工物の表面を処理するウェットブラスト処理方法が行われている。このウェットブラスト処理は、湿式ブラストや液体ホーニングとも呼ばれている。
【0003】
ここで、ウェットブラスト処理は、均一に且つ高出力でスラリをワーク等に衝突させることが重要となる場合がある。例えば、ワークの表面にスラリに含まれるショット(砥粒など)を衝突させることで、ワークの機械的性質を変化させるピーニング処理を行う場合には、ショットの衝突エネルギが高く且つワークの表面に均一に衝突することができることが要求されている。
【0004】
このようにウェットブラストを広範囲に高出力でかつ均一に噴射することができるノズル体として、特許文献1や特許文献2に記載されたノズル体が知られている。
【0005】
特許文献1に記載されたノズル体は、砥粒と液体とが混合されたスラリが導入されて一時貯溜されるスラリ貯溜室の近傍にエア噴射通路が設けられ、このエア噴射通路を加圧エアが通過することによりスラリ貯溜室から所定長さを有する導出通路を介してスラリが導出され、該スラリと前記加圧エアとが混合室に送られて混合され、この加圧エアとスラリとが混合された噴射材をスリット状の噴射部から噴射するノズル体であって、前記導出通路を、小孔が該導出通路の長さ方向に並設される多孔構造に設けられている。
【0006】
また、特許文献2に記載されたノズル体は、粒体と液体とが混合されたスラリが導入されて一時貯留されるスラリ貯留室が設けられ、また、加圧エアが導入されて一時貯留されるエア貯留室が設けられ、このエア貯留室にはエア噴射通路が連設され、前記エア貯留室に貯留された前記加圧エアが前記エア噴射通路から混合室に導入されることにより前記スラリ貯留室から前記スラリが前記混合室に導出されて該スラリと前記加圧エアとが混合され、この加圧エアとスラリとが混合された噴射材をスリット状噴射口からワークに噴射するノズル体であって、前記スリット状噴射口は前記ワークの長さ方向に短く且つ巾方向に長い開口形状であり、前記混合室と前記スリット状噴射口との間には、前記噴射材が直進可能な通過経路が設けられるとともに、前記エア噴射通路と前記通過経路と前記スリット状噴射口との位置関係は直線状に設定されており、前記エア噴射通路は、小孔を並設した多孔構造に設けられ、前記エア噴射通路の加圧エア通過方向と直交する方向の通路断面積は、前記小孔の加圧エア通過方向と直交する方向の通路断面積の和であり、前記スリット状噴射口の開口面積と、前記エア噴射通路の加圧エア通過方向と直交する方向の通路断面積との比が、2.0乃至1.0:1.0に設定され、更に、前記エア噴射通路の通路断面積と、前記エア貯留室における前記加圧エアの加圧エア通過方向と直交する方向通過断面積との比が、1.0:3.0以上に設定されている。
【0007】
特許文献1に記載されたノズル体は、導出通路を、小孔が該導出通路の長さ方向に並設される多孔構造に設けられているので、非常に長尺なスリット状の噴射口からでも砥粒と液体と加圧エアとを均一な混合状態で噴射することができる。
【0008】
特許文献2に記載されたノズル体は、スリット状噴射口の開口面積、エア噴射通路の通路断面積及びエア貯留室における加圧エアの通過方向と直交する方向通路断面積との比率を適切に設定することで、ピーニング処理において、加圧エアの圧力を高めた場合であっても、ウェットブラストを高出力で且つ均一に噴射することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3540713号公報
【文献】特許第4210076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のノズル体によると、スリット状噴射口を下方に向け、ワークに対して処理を行う場合の他、スリット状噴射口を横方向に向け、スリット状噴射口の開口方向が鉛直方向となるように配置してワークに対して処理を行うと、
図8に示すように、スリット状噴射口の開口方向にスラリの濃度差が生じてしまい、当該濃度差によって開口方向の処理の均一性が損なわれるという課題があった。
【0011】
このような課題は、
図8に示すように、スラリが低濃度(例えば、7.5Vol%)の場合は、高濃度(例えば、27.5Vol%)の場合比較して開口方向(測定位置)における処理時間の相違が大きいことが確認できる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、スラリを噴射するノズル体であって、如何なる方向に噴射口を向けて処理を行った場合であっても、開口方向に処理が均一となるノズル体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明に係るノズル体は、砥粒と液体とが混合されたスラリが導入されて一時貯留されるスラリ貯留室と、加圧エアが導入されて一時貯留されるエア貯留室と、前記スラリ貯留室及び前記エア貯留室と連通すると共に、前記スラリと前記加圧エアとが混合された噴射材を噴射口から噴射する通過経路を有するノズル体であって、前記スラリ貯留室は、前記スラリを導入するスラリ導入口を備え、前記スラリ導入口は、前記スラリを旋回させる旋回手段が取り付けられ、前記旋回手段は、前記旋回手段内部で前記スラリを旋回させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るノズル体において、前記旋回手段は、前記加圧エアの導入方向と交差する方向から前記スラリを導入する導入部と、前記スラリ貯留室内の前記スラリを前記加圧エアの導入方向と略平行な方向に導出する導出部とを備えると好適である。
【0015】
また、本発明に係るノズル体において、前記旋回手段は、前記導入部と前記導出部とを連絡する旋回部本体を備えると好適である。
【0016】
また、本発明に係るノズル体において、前記旋回部本体は、前記導出部と略同心円上に配置され、前記導入部は、前記旋回部本体の接線方向に延設されると好適である。
【0017】
また、本発明に係るノズル体において、前記噴射口は、ワークの幅方向に沿って延びるスリット状であると好適である。
【0018】
また、本発明に係るノズル体において、前記スラリ貯留室は、前記加圧エアの導入方向に沿った下端に、前記噴射口に連通すると共に、前記幅方向に沿ってスリット状に開口するスラリ貯留室開口部を備え、前記スラリ貯留室の内壁に、前記加圧エアの導入方向に沿った高さ及び、前記幅方向に沿った幅寸法が前記スラリ貯留室開口部と重畳しない流路調整手段を備えると好適である。
【0019】
また、本発明に係るノズル体において、前記流路調整手段は、前記スラリ貯留室に着脱可能に組み付けられるスペーサ部材であると好適である。
【0020】
また、本発明に係るノズル体において、前記スペーサ部材は、前記スラリ貯留室の前記幅方向の両端にそれぞれ取り付けられ、前記スラリ貯留室の側壁に取り付けられる基部と、前記基部から前記幅方向に沿って延びる延長部とを備えると好適である。
【0021】
また、本発明に係るノズル体において、前記延長部の先端は、前記スラリ導入口と重畳しないように形成されると共に、前記スラリ導入口から導入されるスラリの導入方向に対して傾斜した斜面を備えると好適である。
【0022】
また、本発明に係るウェットショットピーニング方法は、上記ノズル体を用いてワークの表面に前記スラリを投射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るノズル体によれば、スラリを導入する導入口にスラリを旋回させる旋回手段を備えているので、スラリ貯留室内でスラリが旋回することによって撹拌されてスラリ貯留室内でのスラリの濃度が均一となり、ノズル体が例えば水平方向に投射するように配置された場合であっても噴射口の如何なる位置においてもスラリの濃度を均一にすることができ、処理品質の低下を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るノズル体を用いたウェットブラスト処理装置の斜視図。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るノズル体の分解斜視図。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るノズル体の
図3に対応した断面図。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係るノズル体のスリット幅方向の各測定位置におけるエリアカバレージ100%までの処理時間を示すグラフ。
【
図9】本発明の第1の実施形態に係るノズル体のインテンシティの処理時間特性を示すグラフ。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係るノズル体のスリット幅方向の各測定位置におけるエリアカバレージ100%までの処理時間を示すグラフ。
【
図11】本発明の第2の実施形態に係るノズル体のインテンシティの処理時間特性を示すグラフ。
【
図12】従来のノズル体のスリット幅方向の各測定位置におけるエリアカバレージ100%までの処理時間を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0026】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るノズル体を用いたウェットブラスト処理装置の斜視図であり、
図2は、本発明の第1の実施形態に係るノズル体の分解斜視図であり、
図3は、
図1におけるA-A断面図であり、
図4は、
図3におけるB-B断面図であり、
図5は、
図4におけるC-C断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係るノズル体10は、ウェットブラスト処理装置1に好適に用いられる。ウェットブラスト処理装置1は、保持部2が保持したワークWの表面に噴射材5を噴射してワークWに表面処理を施す。ノズル体10は、ワークWの幅方向に延びるスリット状噴射口11から噴射材5を帯状に噴射する。
【0028】
なお、本実施形態に係るノズル体10が適用されるウェットブラスト処理装置1は、従来周知の種々の処理を行うために用いることができるが、例えば、ウェットショットピーニング処理に用いると好適である。
【0029】
噴射材5は、液体と砥粒とを混合した混合物であるスラリを用いると好適である。スラリに含まれる液体は、後述する砥粒を被加工物の表面に運ぶ役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であれば、引火性のある物質を除きいかなる液体をも用いることができる。具体的には、環境面への配慮やコストの関係から水を用いることが好ましい。
【0030】
砥粒は、上記液体によって被加工物表面に運ばれ、被加工物表面に対し所望の加工を施す役割を果たすものである。したがってこの役割を果たすことが可能であればいかなる砥粒をも用いることができる。
【0031】
具体的には、砥粒の材質としては、セラミックス、樹脂、および金属などを挙げることができ、より具体的には、アルミナ、ガラス、ジルコニア、およびステンレスなどを挙げることができる。また、砥粒の形状としては、多角形状、球形状、真球形状などを挙げることができる。また、砥粒の大きさとしては、1μm程度から300μm程度のものを適宜選択して用いることができる。なお、本実施形態に係るノズル体10においては、高比重(例えば6以上)の砥粒を用いると好適であり、砥粒の径は、例えば250μm程度のものを用いると好適である。
【0032】
また、硬度の高い被加工材(高い硬度を有する被加工材)に、より高い圧縮残留応力を付与するためには、被加工材にスラリに含まれる投射材を衝突させたときの衝突エネルギーを高くすることが必要である。しかしながら、被加工材の硬度が高くなるにともない、被加工材にスラリに含まれる投射材を衝突させたときの衝突エネルギーにエネルギーロスが生じやすく、このエネルギーロスにより、被加工材に十分な圧縮残留応力を付与できないといった問題が生じうる。また、衝突エネルギーを高くするべく、スラリの投射圧力(噴射圧力)を高くしていった場合には、投射材が破砕するといった問題が生じうる。
【0033】
そこで、このような場合のウェットショットピーニング方法では、投射材として、イットリア安定化ジルコニアを使用する。換言すれば、本実施形態に係るノズル体10を用いるウェットショットピーニング方法では、液体とイットリア安定化ジルコニアを混合したスラリを使用する。本願明細書でいうイットリア安定化ジルコニアとは、イットリアによって結晶構造が安定化されたジルコニアを意味する。
【0034】
砥粒のスラリ全体に対する含有割合についても特に限定されることはなく、被加工物の材質や加工面積、さらには所望する加工の程度などに応じて適宜設計可能である。たとえば、スラリ全体の体積に対して30Vol%(72重量%)以上の高濃度とすると好適である。この場合、ワークWに対しより効果的かつ効率的に応力を付与することができる。
【0035】
また、スラリは、上記液体および砥粒の他に、種々の機能を有する混合材を用いることができ、例えば、防錆剤を含有することも可能である。ウェットブラスト加工方法において用いられるスラリ中に防錆剤を含有することにより、被加工物の表面に従来通りのウェットブラスト加工を施すと同時に、防錆効果をも付与することが可能となる。また、防錆剤に変えて、各成分の作用効果を阻害しない程度において、各種添加剤を添加してしてもよい。
【0036】
図2に示すように、ノズル体10は、ワークWの幅方向(左右方向、処理を実施する際の移動方向と直交する方向)に長く前後方向(処理を実施する際の移動方向)に短い長尺部材20と、この長尺部材20の下部に垂設状態で連設されると共に、下端にスリット状噴射口11を有する幅方向に長く肉薄の長尺の板状部材30と、長尺部材20の上部に被嵌状態に連設されるブロック状の被嵌部材40とから構成されている。
【0037】
図3に示すように、長尺部材20の内部には所定の間隔で形成された孔状の貫通経路21が複数設けられている。貫通経路21は、例えば、φ2.5程度に形成されていると好適であり、その上部には後述する前体41に形成され、該貫通経路21に加圧エアを導入するエア噴射通路43が隣接して設けられている。
【0038】
また、長尺部材20の側方(後述する後体42との対向面側)には、板状部材30に形成された通過経路31の上端に鉛直方向に対して斜めに交差する合流経路22が形成されている。合流経路22の傾斜角度は、30°から60°に形成されると好適であり、さらにより好適には、45°程度に形成されるとよい。なお、合流経路22は、貫通経路21と異なり幅方向に長いスリット状に形成されていると好適である。さらに、長尺部材20の下方には、側方から垂下して延びる一対の係合部23が形成されている。
【0039】
板状部材30は、下端に形成されたスリット状噴射口11に連通し且つ噴射材5が直進可能な通過経路31が設けられている。また、板状部材30の上端には、長尺部材20に形成された一対の係合部23,23と係合する凸部32が形成されている。さらに、板状部材30の側方には、一対の係合凸部33が形成されている。
【0040】
なお、エア噴射通路43の開口部、貫通経路21、通過経路31及びスリット状噴射口11との位置関係は直線状に設定されている。
【0041】
被嵌部材40は、前体41及び後体42とから形成されており、長尺部材20及び板状部材30を幅方向と直交する方向に挟持している。また、被嵌部材40の前体41及び後体42のそれぞれには、板状部材30に形成された係合凸部33と係合する突起部44,44が形成されている。
【0042】
前体41は、加圧エアが導入されて一時貯留されるエア貯留室45と、当該エア貯留室45に加圧エアを導入するエア導入口46並びに、エア貯留室45と連通するエア噴射通路43が形成されている。
【0043】
図2に示すように、エア貯留室45は、前体41の幅方向に延設して形成されており、エア導入口46は、前体41の概略中央に単一に形成されている。なお、
図4に示すように、被嵌部材40の幅方向両端には、蓋体12がシール部材13を介して取り付けられており、当該蓋体12によってエア貯留室45は幅方向に閉塞されている。
【0044】
また、エア噴射通路43は、基端側がエア貯留室45の後体42側の側壁から後体42に向かって貫通する貫通路として形成されており、より好適には、エア噴射通路43は、エア貯留室45の上方端から接線方向に延設されると好適である。また、エア噴射通路43の先端側は、後体42と組み合わせた際に、長尺部材20の貫通経路21と連通している。
【0045】
後体42は、スラリが導入されて一時貯留されるスラリ貯留室47と、当該スラリ貯留室47にスラリを導入するスラリ導入口48並びに、スラリ貯留室47と連通するスラリ貯留室開口部49が形成されている。また、スラリ導入口48には、後述する旋回手段60が取り付けられている。
【0046】
図2に示すように、スラリ貯留室47は、後体42の幅方向に延設して形成されており、スラリ導入口48は、後体42の概略中央に単一に形成されている。なお、
図4に示すように、被嵌部材40の幅方向両端には、蓋体12がシール部材13を介して取り付けられており、当該蓋体12によってスラリ貯留室47は幅方向に閉塞されている。
【0047】
また、スラリ貯留室開口部49は、基端側がスラリ貯留室47の前体41側の側壁から前体41に向かって貫通する貫通路として形成されている。また、スラリ貯留室開口部49は、スラリ貯留室47の下端から接線方向に延びて形成され、先端側が長尺部材20の合流経路22と連通している。なお、本実施形態に係るノズル体10は、スラリ貯留室開口部49と合流経路22とによってスラリ合流経路50を構成している。
【0048】
また、上記各構成のうち、スラリの通過する経路(スラリ貯留室47の内壁、スラリ貯留室開口部49の内壁等)には、ウレタンゴム等からなる保護層が形成されている。この保護層は、スラリ(特に粒体)により該スラリの通過する経路が研磨されてしまうことを防止するものであり、この保護層の存在によってノズル体10の寿命が数倍に延びることが確認されている。
【0049】
また、
図4に示すように、スラリ貯留室開口部49は、幅方向に長いスリット状に形成されており、スラリ貯留室47の幅方向の両端部には、スペーサ部材51が取り付けられ、スラリ導入口48から導入されたスラリがスラリ貯留室47内で滞留することを防止している。
【0050】
図3から5に示すように、旋回手段60は、旋回部本体60aと、該旋回部本体60aからスラリ導入口48に向かって延びると共に、内部に導出部64が形成された接続部61と、旋回部本体60aに形成された旋回部62と、旋回部62に連続する導入部63とを備えている。
【0051】
旋回部本体60aは、ブロック状の部材であって、鉛直方向に貫通する断面円形の旋回部62が形成されている。旋回部62は、旋回部本体60aの上方から略鉛直方向に延びる円環部62aと、円環部62aの下端と導出部64とを連絡する傾斜状のテーパ部62bとを備えている。また、
図5に示すように、旋回部62と導出部64とは略同心円上に配置されている。
【0052】
また、
図4に示すように、旋回部本体60aの側方には、導入部63が取り付けられ、当該導入部63にスラリを供給するホースなどが取り付けられる。導入部63は、旋回部62の円環部62aと略直交するように旋回部本体60aの側方に形成される。また、
図5に示すように、導入部63は、旋回部62の接線方向に延びるように取り付けられている。このように、導入部63は、スラリをノズル体に導入するスラリ導入口48の開口方向と略直交する方向に交差し、導出部64は、スラリ導入口48の開口方向と略平行な方向に配置されている。
【0053】
このように構成されたノズル体10は、スラリ貯留室47に導入されるスラリが旋回手段60によって旋回されてスラリ貯留室47内で撹拌されるので、スラリ貯留室47の濃度が均一となることで、ノズル体10を水平方向にスラリを投射するなど、どの向きで噴射したとしても、処理品質の低下を抑えることが可能となる。
【0054】
また、本実施形態に係るノズル体10は、旋回手段60の旋回部62の接線方向に導入部63が延びるように配置されているので、導入部63から導入したスラリを旋回部62の内壁に沿って旋回させながら導出部64へ導出するので、スラリに確実な旋回運動を付与することができる。
【0055】
また、本実施形態に係るノズル体10は、旋回部62に導入されたスラリがテーパ部62bを介して導出部64へ導出するので、円環部62aの接線方向から導入されたスラリに与えられた旋回力が減衰することがない。
【0056】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態に係るノズル体10では、スラリ貯留室47の幅方向の両端部にスペーサ部材51が取り付けられた実施形態について説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係るノズル体10aは、第1の実施形態とは異なる形態を有するスラリ貯留室47の実施例について説明を行うものである。なお、上述した第1の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して説明を省略する。
【0057】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るノズル体の
図3に対応した断面図であり、
図7は、
図6におけるD-D断面図である。
【0058】
図6に示すように、本実施形態に係るノズル体10aは、スラリ貯留室47の内壁に沿って流路調整手段(スペーサ部材70)が取り付けられている。
図7に示すように、スペーサ部材70は、スラリ貯留室47のスラリ導入口48側の内壁面(スラリ貯留室47の上部)に沿って幅方向に沿って延設されている。
【0059】
スペーサ部材70は、スラリ貯留室47の両端面からそれぞれ中央に向かって対向して延びる一対のスペーサ部材片71,71とから構成されている。スペーサ部材片71は、ノズル体10aの蓋体12やシール部材13と共締め固定されていると好適であり、
図7における左右に配置されたスペーサ部材片71は、それぞれ同一の形状を有していると好適である。
【0060】
スペーサ部材片71は、スラリ貯留室47の側壁に取り付けられる基部71aと、基部71aからスラリ貯留室47の幅方向に沿って延びる延長部71bとを有している。また、延長部71bの先端は、先端部同士がスラリ導入口48の開口を閉塞しないように、配置され、スラリ導入口48に対して鉛直方向反対端に、斜面72が形成され、スラリ導入口48から連続する流路が末広がり形状に形成されている。
【0061】
図6及び
図7に示すように、スペーサ部材片71は、スラリ貯留室47の幅方向に沿って延設されているが、スラリ貯留室開口部49を閉塞しないように構成されている。これにより、スラリ導入口48から導入されたスラリがスラリ貯留室47で滞留することを防止して、スラリの流速低下を抑制することができる。また、スラリの流速低下を抑制することで、本実施形態に係るノズル体10aを水平方向に向けて配置し、水平方向にスラリを投射する場合でもノズル体10aの幅方向の均一性を向上させることができる。
【0062】
[実施例]
次に、実施例を参照して本発明についてさらに詳しく説明を行う。
図8は、本発明の第1の実施形態に係るノズル体のスリット幅方向の各測定位置におけるエリアカバレージ100%までの処理時間を示すグラフであり、
図9は、本発明の第1の実施形態に係るノズル体のインテンシティの処理時間特性を示すグラフであり、
図10は、本発明の第2の実施形態に係るノズル体のスリット幅方向の各測定位置におけるエリアカバレージ100%までの処理時間を示すグラフであり、
図11は、本発明の第2の実施形態に係るノズル体のインテンシティの処理時間特性を示すグラフである。
【0063】
まず、第1の実施形態に係るノズル体10を水平方向に配置し、比重6の投射材を用いて濃度を9.1Vol%及び22.9Vol%に設定したスラリをそれぞれ噴射して、スリット状の噴射口のスリット幅方向の位置における衝突痕の割合であるエリアカバレージが100%となるまでの処理時間を測定した。テストの条件は以下のとおりである。エア圧:0.40MPa、スラリ圧:0.24MPaとした。また、水平方向に配置したノズル体10は、幅が60mmであり、測定位置が-24mm側を下方に、+24mm側を上方に配置してスラリの投射を行った。また、測定位置は、噴射口の開口端から12mm間隔で5点を測定位置とした。
【0064】
なお、
図8において、エリアカバレージが100%となるまでの処理時間を用いた理由は、以下の通りである。ブラスト処理における「処理品質/強度」は、「投射材のエネルギー(速度×質量)」×「投射材粒子数(濃度)」によって決まる。ここで、投射材の粒子径と比重を均一とすると、「質量」は一定となる。
【0065】
また、「速度」は、圧縮エアの圧力と流量に依存する。特許文献1及び2に記載されているような従来のエアの流路構造では、ノズル幅方向にわたって圧力と流量が一定となり、この構造は、本実施形態に係るノズル体にも適用されている。
【0066】
「濃度」すなわち、スラリ内の投射材の量は、従来のノズル体の構造では特に水平方向に投射する場合に重力の影響を受けやすく、ノズル幅方向に濃度の差が生じる。本実施形態に係るノズル体は、スラリ流路において重力により生じる濃度差を低減・抑制するものである。
【0067】
上述したように、「処理時間」とは、任意の処理状態/品質(今回においては「エリアカバレージ100%」)が得られるのに要する時間(投射時間)であり、「等しい(一定の)速度を持った投射材粒子が、同じ(一定の)数、被加工材表面に衝突するまでの時間」である。
【0068】
本実施形態におけるノズル体においては、ノズルの幅方向にわたって「速度」は一定(均一)であるため、「処理時間」は、「投射材濃度」に置き換えることができる。本来、ノズル幅方向の均一性を示すには、ノズル幅方向における濃度を示すことがベストであるが、ノズル幅方向の局所的な濃度を計測することは困難である。したがって、
図8においては、処理品質/強度を示す値として、「エリアカバレージ100%に達するまでの」処理時間」を用いた。
【0069】
図8に示すように、本実施形態に係るノズル体10を水平方向に投射した場合は、測定位置が如何なる箇所であっても処理時間が均一となっていることが確認でき、
図12に示すような従来のノズル体と比較して、噴射口の開口方向の処理のばらつきが抑えられていることが確認できた。
【0070】
また、
図9に示すように、インテンシティの処理時間特性についても、加工面が叩き延ばされる高さであるアークハイトが測定位置によらず、均一であることが確認できた。なお、インテンシティの処理時間特性の測定は、比重6の投射材(TZ-B250)を用い、濃度を23.0Vol%に設定して行った。ノズル体10の噴射の向きや測定位置については、上述したエリアカバレージの測定条件と同一の条件とした。
【0071】
このように構成された本実施形態に係るノズル体10は、ノズル体10を水平方向に配置し、ワークに対して鉛直下方以外の方向でスラリを噴射した場合であっても、処理品質を低下させることがないことが確認できた。
【0072】
なお、本実施形態に係るノズル体10は、幅広い処理面に対して均一な処理を可能とすることができるので、例えば、ガラス面にスラリを投射して、透明粗化の前処理に用いると好適である。
【0073】
次に、第2の実施形態に係るノズル体10aを水平方向に配置し、比重6の投射材を用いて濃度を5.7Vol%に設定したスラリを噴射して、スリット状の噴射口のスリット幅方向の位置における衝突痕の割合であるエリアカバレージが100%となるまでの処理時間を測定した。テストの条件は以下のとおりである。エア圧:0.40MPa、スラリ圧:0.24MPaとした。また、水平方向に配置したノズル体10aは、第1の実施形態に係るノズル体10よりも幅広に設定し、具立的には幅が100mmとした。また、測定位置は、-44mm側を下方に、+44mm側を上方に配置してスラリの投射を行った。また、測定位置は、噴射口の開口端から22mm間隔で5点を測定位置とした。
【0074】
図10に示すように、本実施形態に係るノズル体10aを水平方向に投射した場合は、測定位置が如何なる箇所であっても処理時間が均一となっていることが確認でき、
図12に示すような従来のノズル体と比較して、噴射口の開口方向の処理のばらつきが抑えられていることが確認できた。また、第1の実施形態に係るノズル体10は、投射材の濃度を下げると均一性が不安定になる場合があったが、本実施形態に係るノズル体10aによれば、ノズル幅をより広げたり、投射材の濃度を下げた場合であっても均一性に関して、十分な性能を有していることが確認できた。
【0075】
また、
図11に示すように、インテンシティの処理時間特性についても、加工面が叩き延ばされる高さであるアークハイトが測定位置によらず、均一であることが確認できた。なお、インテンシティの処理時間特性の測定は、比重6の投射材(TZ-B250)を用い、濃度を5.7Vol%に設定して行った。ノズル体10aの噴射の向きや測定位置については、上述したエリアカバレージの測定条件と同一の条件とした。
【0076】
このように構成された第1実施形態に係るノズル体10及び第2の実施形態に係るノズル体10aは、ノズル体10,10aを水平方向に配置し、ワークに対して鉛直下方以外の方向でスラリを噴射した場合であっても、処理品質を低下させることがないことが確認できた。
【0077】
また、第1及び第2の実施形態に係るノズル体10,10aは、噴射口をスリット状とした形態のノズル体について説明を行ったが、噴射口の形状はスリット状に限らず、種々の噴射口を適用しても構わない。また、被嵌部材40にエア導入口46やスラリ導入口48をそれぞれ1つずつ形成した場合について説明を行ったが、エア導入口46やスラリ導入口48の数はこれに限らず、適宜増加させても構わない。このとき、旋回手段60は、スラリ導入口48の数に応じて増加させても構わない。
【0078】
また、第2の実施形態に係るノズル体10aでは、スラリ貯留室47内にスペーサ部材70を取り付けた場合について説明を行ったが、スラリ貯留室47の容積を縮小し、スペーサ部材70を取り付けた状態と略同一の形状にスラリ貯留室47を形成することで、流路調整手段を後体42と一体に形成しても構わない。さらに、第2の実施形態に係るノズル体10aは、スラリ導入口48に直接スラリを導入する形態について説明を行ったが、第1の実施形態に係るノズル体10のように、スラリ導入口48に旋回手段60を取り付けても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0079】
1 ウェットブラスト処理装置, 2 保持部, 5 噴射材, 10 ノズル体, 11 スリット状噴射口, 12 蓋体, 20 長尺部材, 21 貫通経路, 22 合流経路, 23 係合部, 30 板状部材, 31 通過経路, 32 凸部, 33 係合凸部, 40 被嵌部材, 41 前体, 42 後体, 43 エア噴射通路, 44 突起部, 45 エア貯留室, 46 エア導入口, 47 スラリ貯留室, 48 スラリ導入口, 49 スラリ貯留室開口部, 50 スラリ合流経路, 51,70 スペーサ部材, 60 旋回手段, 60a 旋回部本体, 61 接続部, 62 旋回部, 62a 円環部, 62b テーパ部, 63 導入部, 64 導出部, 71, スペーサ部材片, 71a 基部, 71b 延長部, 72 斜面 W ワーク。
【要約】
【課題】スラリを噴射するノズル体であって、如何なる方向に噴射口を向けて処理を行った場合であっても、開口方向に処理が均一となるノズル体を提供する。
【解決手段】砥粒と液体とが混合されたスラリが導入されて一時貯留されるスラリ貯留室と、加圧エアが導入されて一時貯留されるエア貯留室と、前記スラリ貯留室及び前記エア貯留室と連通すると共に、前記スラリと前記加圧エアとが混合された噴射材を噴射口から噴射する通過経路を有するノズル体であって、前記スラリ貯留室は、前記スラリを導入するスラリ導入口を備え、前記スラリ導入口は、前記スラリを旋回させる旋回手段を備える。
【選択図】
図3