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特許7496654バイオニックコラーゲン水溶液の調製方法ならびに使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】バイオニックコラーゲン水溶液の調製方法ならびに使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20240531BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20240531BHJP
   A61L 26/00 20060101ALI20240531BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A61L27/24
A61L15/32 300
A61L26/00
A61L27/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023504754
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 CN2021125224
(87)【国際公開番号】W WO2022089295
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】202011152941.9
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523025414
【氏名又は名称】杜 明春
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杜 明春
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-077410(JP,A)
【文献】特表2010-528046(JP,A)
【文献】特開2017-095400(JP,A)
【文献】特表2004-515451(JP,A)
【文献】特開2014-103985(JP,A)
【文献】特開平05-192387(JP,A)
【文献】特開平11-137662(JP,A)
【文献】日本ハム中央研究所 コラーゲン,[検索日:令和5年12月18日], インターネット, <URL:https://www.rdc.nipponham.co.jp/pdf/medcollagen2.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)固体コラーゲン材を、水中に入れて攪拌しながら酸性溶液を加えて溶解させ、均一な水溶液とする工程であって、コラーゲン水溶液中のコラーゲンの濃度は、0.1wt.%を超え10wt.%以下である工程
(2)0℃以上5℃以下で、工程(1)で得られたコラーゲン水溶液を攪拌しながら模倣体液組成を加し、解させる工程であって前記模倣体液組成は、コラーゲン水溶液中のK SO 及びKHCO の濃度がそれぞれ0.3wt.%及び0.5wt.%となる量のK SO 及びKHCO からなる工程と
(3)0℃以上5℃以下で、工程(2)で得られたコラーゲン水溶液を、pHが6以上8以下になるようにアンモニア水溶液またはクエン酸溶液で調整し、均一な溶液とする工程と
(4)0℃以上5℃以下で、工程(3)で得られたコラーゲン水溶液に連結分子溶液を加えて均一に攪拌する工程、を順次行うことを特徴とする、
バイオニックコラーゲン水溶液の調製方法。
【請求項2】
記工程(3)において、コラーゲン水溶液を、pHが7.0以上7.5以下になるように調整することを特徴とする、
請求項1に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法。
【請求項3】
工程(1)における前記酸性溶液は、酸、硝酸、硫酸、リン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、酢酸およびギ酸の少なくとも1種を含み、記酸性溶液の濃度は、0.01M以上10M未満であることを特徴とする、
請求項1に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法。
【請求項4】
前記連結分子は、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシコハク酸イミド、スルホニルクロリド、アルデヒド、エポキシド、ハロゲン化アリール、イミドエステル、カルボジイミド、酸無水物、フルオロフェニルエステル、プロシアニジン、ゲニピンの1種または2種以上の混合物であり、前記バイオニックコラーゲン水溶液中の前記連結分子の最終濃度は、0.0001wt.%以上10wt.%以下であることを特徴とする、
請求項に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法。
【請求項5】
前記バイオニックコラーゲン水溶液中の連結分子の最終濃度は、0.0001wt.%以上1wt.%以下であることを特徴とする、
請求項に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法。
【請求項6】
前記バイオニックコラーゲン水溶液中の連結分子の最終濃度は、0.0001wt.%以上0.1wt.%以下であることを特徴とする、
請求項に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法。
【請求項7】
前記バイオニックコラーゲン水溶液中の連結分子の最終濃度は、0.001wt.%以上0.01wt.%以下であることを特徴とする、
請求項に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法。
【請求項8】
対象における組織の修復および再生を促進するための医薬の製造方法であって、
請求項1~のいずれか1項に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法に従ってバイオニックコラーゲン水溶液を調製することを含み、
前記医薬が、前記バイオニックコラーゲン水溶液を活性成分として含むことを特徴とする、
医薬の製造方法。
【請求項9】
前記バイオニックコラーゲン水溶液が、その調製終了後30分間以内に使用するように調製されることを特徴とする、
請求項に記載の医薬の製造方法。
【請求項10】
前記医薬が、対象の修復前創傷の表面に被覆するためのドレッシング材、または対象の身体に注入する注入剤の形態であることを特徴とする、
請求項に記載の医薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体材料およびその調製方法ならびに使用方法に関し、具体的に、バイオニックコラーゲン水溶液の調製方法ならびに使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、結合組織の主要な構造タンパク質として、人体骨格、皮膚、血管、靭帯、軟骨、筋肉、腱などの組織や臓器に広く分布し、動物の全タンパク質の25%~30%を占めている。これまでに20種類以上のコラーゲンは確認されており、その中でもI型コラーゲンが約90%と最も多く含まれている。皮膚のコラーゲンは真皮に分布しており、その含有量は約70%であり、主にI型(85%)、III型、V型である。しかし、コラーゲンは、イオン組成、イオン強度、pHなどの要因により、組織修復における生体適合性、分解性などの特性を改善する必要がある。
【0003】
例えば、コラーゲン材は、インビボでの分解が容易であり、皮膚の修復効果に影響を与える。インビボでのコラーゲンの分解を遅らせるために、コラーゲン水溶液を、グルタルアルデヒド、ヘキサメチレンジイソシアネート、カルボジイミド、ジフェニルホスホリルアジドなどの化学架橋剤を使って架橋することがよくある。そのうち、グルタルアルデヒドは最も広く使われている試薬である。しかし、多くの実験から、グルタルアルデヒドはコラーゲン分子と速やかに反応し、効果的な架橋を付与できることが証明されているが、グルタルアルデヒドは細胞毒性があり、その投与量の制御が困難である。なお、架橋度が高くなるにつれて、コラーゲン材の吸水力や、膨潤度が低下し、コラーゲン材の使用効果にも影響を与える。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、以上のコラーゲン水溶液の使用における問題点の少なくとも一側面に対して、バイオニックな観点から、(1)高濃度のコラーゲンを用いて修復前組織の組成を模倣し、模倣体液の組成を加えることにより溶液環境(イオン組成、イオン強度など)、さらに溶液のpHを調整し、安定した流動可能なコラーゲン水溶液を形成することによって、修復前組織の微小環境を模倣し、(2)連結分子を加えることにより、周辺組織に対する使用中のコラーゲン水溶液の結合に寄与し、その生体適合性を向上させるとともに、コラーゲン分子の分解性を遅延するバイオニックコラーゲン水溶液を開発するものである。開発された高濃度のバイオニックコラーゲン水溶液は、修復前創傷表面にドレッシング材の形態で被覆するか、または注入により身体に適用して、組織の修復・再生を促進することができる。
【0005】
本発明は、バイオニックコラーゲン水溶液およびその調製方法ならびに使用方法を提供する。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下の工程:
(1)固体コラーゲン材を、水中に入れて攪拌しながら酸性溶液を加えて溶解させ、均一な水溶液とし、コラーゲン水溶液の濃度は、0.1wt.%を超え10wt.%以下であり、
(2)低温条件下で、工程(1)で得られたコラーゲン水溶液を攪拌しながら模倣体液組成をゆっくりと添加し、十分に溶解させ、
(3)低温条件下で、工程(2)で得られたコラーゲン水溶液を、pHが6以上8以下になるようにアルカリ性溶液または酸性溶液で調整し、均一な溶液とし、
(4)低温条件下で、工程(3)で得られたコラーゲン水溶液に連結分子溶液を加えて均一に攪拌後調製を終了し、調製後、上記のバイオニックコラーゲン水溶液を低温条件下で保存することを順次含む、バイオニックコラーゲン水溶液の調製方法を提供する。
【0007】
本発明の実施形態において、工程(2)、工程(3)および工程(4)における低温条件の範囲は、0℃以上5℃以下であり、上記の工程(3)において、コラーゲン水溶液を、アルカリ性溶液または酸性溶液でpHが7.0以上7.5以下になるように調整し、上記の工程(4)において、連結分子の溶液を加えて均一に攪拌後、低温条件下でバイオニックコラーゲン溶液を保存する時間は、0分間(min)以上30分間以下である。
【0008】
本発明の実施形態において、工程(1)および工程(3)における上記の酸性溶液は、同じく塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、酢酸およびギ酸の少なくとも1種を含み、上記の工程(3)におけるアルカリ性溶液は、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピリジン、ピペリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アンモニア水、リン酸水素二ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムの少なくとも1種を含み、上記の酸性溶液、アルカリ性溶液の濃度は、0.01M以上10M未満である。
【0009】
本発明の実施形態において、上記の工程(1)における酸性溶液は、固体コラーゲン材を十分に溶解させるために、その中のコラーゲン濃度を大きく変化させずに微量添加され、コラーゲンを溶解して均一な溶液とすることをよりどころとする。
【0010】
本発明の実施形態において、上記の工程(3)におけるアルカリ性溶液または酸性溶液は、コラーゲン水溶液のpHを調整するために、その中のコラーゲン濃度を大きく変化させずに微量添加され、水溶液が所定のpHに達し均一な溶液とすることをよりどころとする。
【0011】
本発明の実施形態において、上記の模倣体液組成は、Na、K、Mg2+、Ca2+、Cl、HCO 、HPO 2-、SO 2-、CO 2-、PO 3-、HPO の1種または2種以上の組み合わせを含む。模倣体液組成は、コラーゲン水溶液のイオン環境を修復前組織の微小環境に適応させるために、その中のコラーゲン濃度を大きく変化させずに微量添加される。バイオニックコラーゲン水溶液において、各イオンの最終イオン濃度の範囲は0.1~500mM、最終総イオン濃度範囲は0.1~1000mMである。
【0012】
本発明の実施形態において、連結分子は、イソチオシアネート、イソシアネート、アシルアジド、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHSエステル)、スルホニルクロリド、アルデヒド、エポキシド、ハロゲン化アリール、イミドエステル、カルボジイミド、酸無水物、フルオロフェニルエステル、プロシアニジン、ゲニピンの1種または2種以上の混合物である。連結分子は、コラーゲン分子を修復前組織に結合させるために添加され、その溶液の添加は、その中のコラーゲン濃度を大きく変化させることがなく、上記のバイオニックコラーゲン水溶液中のその最終濃度は、0.0001wt.%以上10wt.%以下である。
【0013】
本発明の実施形態において、上記のバイオニックコラーゲン水溶液中の連結分子の最終濃度は、0.0001wt.%以上1wt.%以下である。
【0014】
本発明の実施形態において、上記のバイオニックコラーゲン水溶液中の連結分子の最終濃度は、0.0001wt.%以上0.1wt.%以下である。
【0015】
本発明の実施形態において、上記のバイオニックコラーゲン水溶液中の連結分子の最終濃度は、0.001wt.%以上0.01wt.%以下である。
【0016】
本発明の別の一態様によれば、前述の実施形態のいずれか1種に記載のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法に従って調製されるバイオニックコラーゲン水溶液の使用方法を提供する。
【0017】
本発明の実施形態において、バイオニックコラーゲン水溶液の調製終了後30分間以内に、修復前創傷表面にドレッシング材の形態で被覆するか、または注入により身体に適用する。
【0018】
本発明の実施形態のバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法では、連結分子の添加により、バイオニックコラーゲン水溶液の未使用前に、コラーゲン分子が連結分子と反応する恐れがあるため、コラーゲン溶液の流動性に影響を与え、その使用、特に身体への注入の適用に不利になる。同時に、高濃度のコラーゲンは、中性条件下で流動性のないハイドロゲル構成も形成しやすい。従って、本発明の実施形態の調製方法では、連結分子を加えた場合に、バイオニックコラーゲン水溶液の保存時間は、その流動性や使用効果に影響を与えないように、0分間以上30分間以下とする。
【0019】
本発明の実施形態は、使用中の高濃度のコラーゲン溶液の生体適合性が悪いという問題に対して、バイオニックの観点から提案された対策である。本発明は、高濃度のコラーゲンの生体適合性を高めるために、主に以下のように、(1)修復前組織体液中のイオンの組成、含有量およびpH環境に応じて、溶液に模倣体液組成を添加し、溶液環境(イオン強度、浸透圧など)、さらにpHを調整することにより、コラーゲン溶液を修復前組織の微小環境に適合させること、(2)本発明のコラーゲン溶液に、コラーゲン溶液中のコラーゲン分子と修復前組織中のコラーゲン組成の両方と同時に反応でき、かつ反応が穏やかである連結分子組成を添加しているため、コラーゲン分子の修復前組織への結合を促進させる最適化ことを行う。
【0020】
本発明のバイオニックコラーゲン水溶液は、溶液環境が修復前組織の微小環境により近く、従来のコラーゲン溶液よりも生体適合性が優れ、連結分子の添加によりコラーゲン分子の分解性を遅らせ、その生物学的活性を発揮させ、組織の修復・再生を促進する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例に係るバイオニックコラーゲン水溶液における生細胞/死細胞染色効果プロファイルを示す図である(図1Aは実施例1のサンプル、図1Bは実施例2のサンプル、図1Cは実施例3のサンプル、図1Dは実施例4のサンプル、図1Eは比較例1のサンプル、図1Fは比較例の2サンプルである)。
図2】本発明の実施例に係るバイオニックコラーゲン水溶液をラットに移植した場合のHE染色(ヘマトキシリン-エオジン染色)効果プロファイルを示す図である(図2Aは実施例1のサンプル、図2Bは実施例2のサンプル、図2Cは実施例3のサンプル、図2Dは実施例4のサンプル、図2Eは比較例1のサンプル、図2Fは比較例2のサンプルである)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の技術的解決策は、さらに、実施例により、添付の図面に合わせて具体的に説明する。本明細書において、同一または同様の参照番号は、同一または同様の要素を示す。添付図面を参照した本発明の実施形態の以下の説明は、本発明の一般的な発明概念を説明するためのものであり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0023】
以下の工程:
(1)脱イオン100gにコラーゲン材2gを入れ、攪拌しながら0.01Mの酢酸溶液を加えて溶解し、均一な水溶液とし、
(2)0℃で、工程(1)で得られたコラーゲン水溶液を攪拌しながら1gのNaHPOと0.2gのKHPOをゆっくりと添加し、十分に溶解させ、
(3)5℃で、工程(2)で得られたコラーゲン水溶液を、0.1MのNaOH溶液または0.01Mの酢酸溶液でpH7.4に調整し、均一な溶液とし、
(4)2℃で、工程(3)で得られたコラーゲン水溶液にプロシアニジン溶液0.001wt.%とイソシアネート0.02wt.%を加えて、均一に攪拌することを順次含む、バイオニックコラーゲン水溶液の調製方法を実施した。
【0024】
上記の調製方法に従って調製され、上記のバイオニックコラーゲン水溶液を5分間調合後、火傷した皮膚の表面にドレッシング材の形態で均一に被覆することを含む、バイオニックコラーゲン水溶液の使用方法を実施した。
【実施例2】
【0025】
以下の工程:
(1)脱イオン200gにコラーゲン材5gを入れ、攪拌しながら0.1Mの塩酸溶液を加えて溶解し、均一な水溶液とし、
(2)4℃で、工程(1)で得られたコラーゲン水溶液を攪拌しながら1gのKClと3gのNaHPOをゆっくりと添加し、十分に溶解させ、
(3)4℃で、工程(2)で得られたコラーゲン水溶液を、1MのKOH溶液または1Mのギ酸溶液でpH6に調整し、均一な溶液とし、
(4)0℃で、工程(3)で得られたコラーゲン水溶液にグリオキザール1wt.%とNHSエステル溶液2wt.%を加えて、均一に攪拌することを順次含む、バイオニックコラーゲン水溶液の調製方法を実施した。
【0026】
上記の調製方法に従って調製され、上記のバイオニックコラーゲン水溶液を0分間調合後、軟組織の修復のために注入により使用することを含むバイオニックコラーゲン水溶液の使用方法を実施した。
【実施例3】
【0027】
以下の工程:
(1)脱イオン200gにコラーゲン材3gを入れ、攪拌しながら1Mの酒石酸溶液を加えて溶解し、均一な水溶液とし、
(2)5℃で、工程(1)で得られたコラーゲン水溶液を攪拌しながら2gのNaHPOと1gのKClをゆっくりと添加し、十分に溶解させ、
(3)5℃で、工程(2)で得られたコラーゲン水溶液を、2Mの水酸化カリウム溶液または1Mのギ酸溶液でpH8に調整し、均一な溶液とし、
(4)4℃で、工程(3)で得られたコラーゲン水溶液にイソチオシアネート溶液2wt.%を加えて、均一に攪拌することを順次含むバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法を実施した。
【0028】
上記の調製方法に従って調製され、上記のバイオニックコラーゲン水溶液を30分間調合後、軟組織の修復のために注入により使用することを含むバイオニックコラーゲン水溶液の使用方法を実施した。
【実施例4】
【0029】
以下の工程:
(1)脱イオン1000gにコラーゲン材1gを入れ、攪拌しながら0.1Mのシュウ酸溶液を加えて溶解し、均一なコラーゲン水溶液とし、
(2)3℃で、コラーゲン水溶液を攪拌しながら3gのKSOと5gのKHCOをゆっくりと添加し、十分に溶解させ、
(3)0℃で、コラーゲン水溶液を、2Mのアンモニア水溶液または5Mのクエン酸溶液でpH7.0に調整し、均一な溶液とし、
(4)5℃で、コラーゲン水溶液にエチレンオキシド溶液10wt.%とゲニピン溶液0.5wt.%を加えて、均一に攪拌することを順次含むバイオニックコラーゲン水溶液の調製方法を実施した。
【0030】
上記の調製方法に従って調製され、上記のバイオニックコラーゲン水溶液を15分間調合後、やけどした皮膚の表面にドレッシング材の形態で均一に被覆することを含むバイオニックコラーゲン水溶液の使用方法を実施した。
【実施例5】
【0031】
バイオニックコラーゲン水溶液の効果比較試験
I.対照コラーゲン水溶液の調製
【0032】
比較例1:
以下の工程:
脱イオン200gにコラーゲン材2gを入れ、攪拌しながら1M酒石酸溶液を加えて溶解し、均一な水溶液とし、
上記の調製されたコラーゲン水溶液を軟組織の修復のために注入の形態で適用することを順次含むコラーゲン水溶液の調製およびその使用方法を実施した。
【0033】
比較例2:
以下の工程:
脱イオン1000gにコラーゲン材1gを入れ、攪拌しながら0.1Mの酢酸溶液を加えて溶解し、均一な水溶液とし、
上記の調製されたコラーゲン水溶液を火傷した皮膚の表面にドレッシング材の形態で適用することを順次含むコラーゲン水溶液の調製およびその使用方法であった。
【0034】
II.効果試験の比較
(1)三次元細胞培養の比較試験:
実施例1~4および比較例1~2の調製方法に従ってコラーゲン水溶液を調製し、それぞれ2mLを採取し、7×10個のラット血管内皮細胞(上海細胞バンク、中国科学院)と混合して、コラーゲンハイドロゲル内包細胞を37℃の条件で形成して、三次元培養実験に供した。培地は、10%(v/v%)の牛胎児血清と1%のストレプトマイシンとペニシリンを含む高グルコースDMEM(HyClone)培地であり、1日1回交換した。インキュベーター(STERI371、ThermoElectron Corporation)は、5%(v/v%)のCOを含む湿った空気で37℃に設定されている。7日間(d)の培養後、ハイドロゲル内の細胞を生細胞/死細胞で染色処理し、染色液は2mmol/Lのカルセイン-AM(カルセインアセトキシメチルエステル溶液、Sigma)(生細胞染色用、緑色蛍光を発する)と2mmol/LのEthD-1溶液(エチジウムホモダイマー1、Sigma)(死細胞染色用、赤色蛍光を発する)であって、サンプルはA1共焦点レーザー顕微鏡(Nikon)で、緑色励起光の波長を488nm、赤色励起光の波長を562nmとして観察された。コラーゲンハイドロゲルにおける生細胞/死細胞の染色を図1に示す。図1から分かるように、実施例1~4のコラーゲン溶液は、体内組織微小環境により近いため、それらが形成するコラーゲンハイドロゲルは細胞の増殖に適しており、実施例のサンプルの図1のA~図1のDでは、生細胞を表す蛍光シグナル(例えば、緑色蛍光シグナル)がより強く、これらのコラーゲン溶液中で細胞が適切に増殖できることと材料の生体適合性がより高いことを示している。しかし、比較例1~2では、コラーゲンハイドロゲルは細胞の増殖に適しておらず、比較例のサンプルの図1のEと図1のFでは、死細胞を表す蛍光シグナル(例えば、赤色蛍光シグナル)がより強く、これらのコラーゲン溶液中で細胞が適切に増殖できず、材料の生体親和性が悪いことを示している。したがって、本開示の実施例では、模倣体液組成の添加やpHの調整がより細胞の増殖に寄与し、コラーゲン溶液もより優れた生体適合性を示している。
【0035】
(2)組織適合性の比較試験:実施例1~4および比較例1~2の調製方法に従って調製されたコラーゲン水溶液を、それぞれラットの筋肉に移植し、1ヶ月後に実験ラットを処分し、そこから移植物を取り出し、4wt.%のパラホルムアルデヒド固定液で固定し、HE染色を行った。
【0036】
具体的な工程は次の通りであった。
(1)サンプルをパラフィン包埋機で包埋し、スライサーでスライスし、カットした切片を60℃の水槽に入れ、切片に近い水中にスライドガラスを慎重に挿入し、浮いたパラフィン切片をスライドグラスに移し、ブリスターがあれば針で摘み取った。
(2)キシレンで2回、各5分間脱水し、100%アルコール、95%アルコール、85%アルコール、70%アルコール、50%アルコールで順次洗浄し、水道水ですすぎ、次に、ヘマトキシリンで5分間染色し、再度水道水ですすいで青色に発色させた。
(3)1%塩酸エタノール溶液に浸し、2~10秒(s)退色させた後、色は赤く、薄くなり、次に水道水ですすぎ、青色に戻した。
(4)その後、それぞれ50%アルコール、70%アルコール、80%アルコールに入れ、5分間保持し、次に0.5%エオジンアルコール溶液で対比染色を1~3分間行った。
(5)切片を95%アルコールで洗浄し、余分な赤色を除去した後、100%アルコールに3~5分間入れ、余分なアルコールを吸収紙で吸い取り、キシレンIとIIにそれぞれ3~5分間入れた。
(6)中性バルサムでシールし、固定した。
【0037】
異なるサンプルのHE染色結果を図2に示している。図2から、実施例(図2のA~図2のD)のコラーゲン水溶液は、ラットの体内組織微小環境により近いため、材料は移植後速やかに周辺組織と融合することができ、少数の炎症細胞しか見られないのに対し、比較例(図2のE~図2のF)では多数の炎症細胞が見られ、材料の組織適合性が低いことがわかる。したがって、本開示の実施例において、模倣体液組成の添加、pHの調整、および連結分子の添加により、コラーゲン溶液の体内組織適合性を大幅に向上させることができる。
【0038】
上記試験から、実施例1~4を比較例1~2と比較すると、比較例1~2ではコラーゲン材が強酸環境に溶解しており、その使用や組織修復の効果に寄与していない。一方、実施例1~4ではコラーゲン材の使用環境は、pH環境、イオン組成、イオン強度などの体内微小環境の変化に応じて調整できるため、体内組織修復へのコラーゲン材の使用に有益であり、同時に、連結分子の添加により、溶液中のコラーゲン分子を、連結分子を介して周辺組織と強固に結合させ、コラーゲン材の組織修復効果を促進させることがわかった。
【0039】
以上、上述した実施例は、本発明の好ましい実施形態を説明したものに過ぎず、本発明の設計の精神から逸脱することなく、当業者によって本発明の技術的解決策に対してなされたあらゆる種類の変形および改善は、本発明の特許請求の範囲によって定義される保護範囲に含まれるものとする。
図1
図2