(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】農業機械への架線給電システム
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240531BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20240531BHJP
B60L 5/04 20060101ALI20240531BHJP
B60L 50/10 20190101ALI20240531BHJP
B60L 50/70 20190101ALI20240531BHJP
B60L 53/51 20190101ALI20240531BHJP
B60L 55/00 20190101ALI20240531BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240531BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20240531BHJP
B60L 9/04 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
B60M7/00 Z
B60L5/04
B60L50/10
B60L50/70
B60L53/51
B60L55/00
H02J7/00 P
H02J7/35 K
B60L9/04
(21)【出願番号】P 2023164026
(22)【出願日】2023-09-08
【審査請求日】2023-09-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523365790
【氏名又は名称】川島 悟一
(72)【発明者】
【氏名】川島 悟一
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207328156(CN,U)
【文献】中国実用新案第207360098(CN,U)
【文献】特開平09-294448(JP,A)
【文献】実開昭49-077609(JP,U)
【文献】西独国特許出願公開第03918867(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0332526(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0183478(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 1/00 - 79/02
A01C 1/00 - 23/04
A01D 1/00 - 93/00
B60L 1/00 - 58/40
B60M 7/00
H02J 7/00 - 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場(1)の一部に設置された構造物(2)に設置され、圃場(1)の上に転架された金属棒(2a)から、電動の農業機械(3)に搭載する集電装置(3a)を介して、農業機械(3)に給電を行うシステム。
【請求項2】
前記構造物(2)の上に太陽光発電設備(5)を設置し、前記太陽光発電設備(5)から前記金属棒(2a)に給電することを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記集電装置(3a)のアーム(3b)が、前記金属棒(2a)と接触するように、左右に移動することを特徴とする農業機械を有する請求項1記載のシステム。
【請求項4】
請求項1記載の集電装置(3a)の他、内燃機関電源装置(6a)や燃料電池電源装置(6b)も装着できるようにした着脱機構を有する、請求項1記載のシステムに用いる農業機械。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関電源装置(6a)や燃料電池電源装置(6b)から電力系統に電力を供給する電力系統接続装置(6c)を有する請求項1記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動農業機械への電力供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の代わりに電動機を搭載した電動農業機械が実用化されている。電動機を駆動させるための電力は、蓄電池に蓄えられ、蓄電池に蓄えられた電力量の範囲で、電動農業機械は、農作業が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動トラクタなどの電動農業機械は、実用化されているものの、その使用は限定的なものである。具体的には、蓄電池容量を大きくすれば、連続作業時間は長くなるものの、車体重量が重くなり、耕起等における作業性は低下してしまう。逆に、蓄電池容量を小さくすれば、耕起等における作業性は向上するものの、連続作業時間が短くなってしまう。いずれにせよ、内燃機関に比べ蓄電池が重いため、作業効率が悪く、現状の電動農業機械では、短時間かつ軽負荷な耕起等に限定される。
【0006】
圃場に充電設備を整備し、電動農業機械に逐次充電する方法も考えられるが、充電に時間がかかり、時間当たりの作業効率が低下してしまう。高い電力で充電する急速充電もあるが、それを圃場に整備すれば、規模の大きい受変電設備が必要となり、大きなコスト増加となってしまう。
【0007】
蓄電池を交換する方法も考えられるが、圃場まで交換用の蓄電池を運ぶ必要が生じてしまう。また、交換も蓄電池が重く、交換のための機械が必要か、人力で交換できるように小分けにすれば、蓄電池の個数が増え、交換に時間を要してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシステムは、
図1、
図2、
図3に示すように、圃場1に構造物2を設置し、農業機械3が構造物2の下を通過する際に、農業機械3に搭載する集電装置3aが構造物2に敷設した金属棒2fに接触し、農業機械3がその接点から電力を受電するものである。農業機械3が構造物2の下にあるときは、受電した電力がモータ駆動と蓄電池充電に使われ、農業機械3が構造物2の下にないときは、蓄電池に充電された電力を用いて、モータ駆動をさせ、農作業を長時間連続的に実施することができる。金属棒2fには、電気設備群4から電力が供給され、電気設備群4は、電力系統に接続し、電力を受電する。
【0009】
本発明の一実施形態として、
図3に圃場1の一部に構造物2を配置した平面図を示す。圃場1の全部ではなく、一部に構造物2を設置することで、構造物2の規模を小さくし、経済性を向上させることができる。好ましくは、構造物2を圃場1の中央部に配置することで、構造物のない部分の農作業時間を短くすることができる。構造物の大きさは、圃場1の形状、農業機械3に搭載される蓄電池の容量、農作業の負荷によって、計算される。
【0010】
構造物2の一実施形態として、
図4と
図5に示すように、圃場1にスクリュー杭構造とする基礎2aに、支柱2bが固定され、その上に横梁2cが固定され、その上に縦梁2dが固定される。支柱2bと横梁2c及び縦梁2dは、それぞれ斜材2eで固定される。横梁2cに碍子2fが設置され、そこに金属棒2gが転架される。
【0011】
農業機械3の一実施形態として、
図6と
図7に示すように、農業機械に集電装置3aを搭載する。集電装置3aには、伸縮可能及び前後にスイング可能なアーム3bが設置され、アーム3bの上部に設置される2つの金属体3cが、構造物2の金属棒2gと接触できるようになっている。移植機やコンバインなども同様に、集電装置3aを搭載することで、架線給電システムによって稼働させることができる。
【0012】
農業機械3が構造物2の下に位置する場合には、農業機械3の集電装置3aの金属体3cと構造物2の金属棒2gが確実に接触できるよう、集電装置3aに左右可動装置3dとカメラ3eを設置して、カメラ3eによって得られた画像から位置関係を認識し、左右可動装置3dで位置を調整してもよい。もしくは、左右可動装置3dを設置せず、農業機械3自体を自動運転として、その操作によって、位置を調整してもよい。
【0013】
図8のように、左右可動装置3dの左右の可動範囲を広げることで、架線の本数を少なくすることができる。好ましくは、支柱2bの間に1組の架線でも、給電を可能にすることができる。
【0014】
図9は、電気設備の一実施形態である。電力配電設備からの電線を電柱4aで受けて、電力ケーブル4bで送配電事業者の設置する電力量計4cに接続され、遮断器の入るプラボックス4dに接続され、直流ユニット4eに接続される。その先、電力ケーブルによって、金属棒2gにつながれ、直流電力が供給される。
【0015】
図10は、本発明の電気回路の一実施形態である。電力系統の配電線から受電し、電力量計4cと遮断器4dを介して、直流ユニット4eにて、交流電力を直流電力に変換し、構造物2の金属体2gに直流電力を流す。農業機械3の内部では、金属体3cで受電した電力を、DCブレーカ4gを介して、モータを駆動させるため駆動用インバータ4hと蓄電池用のDC/DCコンバータ4jに並列で接続される。農業機械3が構造物2の下に位置する際は、架線から供給された直流電力の一部をモータ駆動用インバータ4hで交流電力に変換して、同期モータ4iを駆動させる。また、架線から供給された直流電力の一部をDC/DCコンバータ4jにて、蓄電池4kに充電できる電圧に変換して、蓄電池4kを充電する。一方、農業機械3が構造物2の下に位置しない際は、蓄電池4kからDC/DCコンバータ4jを介して直流電力を、モータ駆動用インバータ4hに送り、モータ駆動用インバータ4hが交流電力に変換して、同期モータ4iが駆動する。
【0016】
構造物2の電気設備及び農業機械3は、通信装置4m・4nで連携され、直流ユニットの制御コンピュータ4oがAC/DCコンバータ4pを制御し、農業機械3の制御コンピュータ4lがモータ駆動インバータ4h及びDC/DCコンバータ4jを制御する。金属棒2gと金属体3cが接触していないときには、AC/DCコンバータ4pと農業機械3のDCブレーカ4cを開くことで、感電等の事故を軽減できる。
【0017】
構造物2に太陽光発電設備を設置してもよい。この一実施形態として、
図11を示す。
図12は、太陽光発電設備5を設置した場合の電気回路の一実施形態である。
【0018】
図13のように、農業機械3の集電装置3aを着脱式にして、集電装置3aの代わりに内燃機関発電装置6aや燃料電池発電装置6bを装着できるようにしても良い。この場合、構造物2のない圃場においても、農業機械3は、内燃機関発電装置6aや燃料電池発電装置6bを装着することで、農作業ができるようになる。
【0019】
図14のように、内燃機関発電装置6aや燃料電池発電装置6bを、電力系統に接続された系統接続機6cに装着することで、電量系統に電力を供給できるようにしても良い。
図15は、太陽光発電設備5を設置した場合の電気回路の一実施形態である。
【発明の効果】
【0017】
圃場の中で電動農業機械に給電することで、蓄電池の規模を小さく抑え、耕起等の作業性を確保したまま、連続作業時間を伸ばすことができる。また、農協機械3の蓄電池4iに充電することで、構造物2を圃場1の全体ではなく、一部に限って設置することが可能となり、構造物の設置に係るコストを抑えることができる。
【0018】
架線給電で稼働する機械は、電車、路面電車、トロリーバス等で実用化されてきているが、いずれも走行ルートが決められており、架線による給電が容易である。本発明では、走行ルートの決まっていない圃場において、農作業の途中で農業機械に給電を可能にするものである。
【0019】
左右可動装置3dによって、金属体3cの位置を動かすことで、農業機械3は、農作業の必要があるルートを走行することが可能である。好ましくは、左右可動装置3dの可動範囲を大きくすることで、架線の本数を削減でき、コスト削減することができる。
【0020】
構造物2に太陽光発電設備を設置することで、発電による収益が追加され、構造物の投資回収が早まる。また、日照のある間に、農業機械3での農作業を行うことで、電力系統からの購入電力量を抑制し、農業の事業性も向上する。
【0021】
集電装置3aを着脱式にすることで、構造物3のない圃場においては、ガソリン、軽油、植物油などの液体燃料を燃料とする内燃機関発電装置6aを装着し、農業機械3を稼働させることができる。また、将来、水素がエネルギー媒体として流通するようになれば、水素を燃料とする燃料電池発電装置6bにしてもよい。
【0022】
内燃機関発電装置6aや燃料電池発電装置6bを系統接続装置に装着することで、電力系統の需給ひっ迫時に、内燃機関や燃料電池を使って発電した電力を電力系統に供給しても良い。その売電によって副収入が得られ、農業の経営状況が向上する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明である農業機械への架線給電システムの側面図である。
【
図2】農業機械への架線給電システムの正面図である。
【
図3】圃場への架線給電システムの設置例の平面図である。
【
図4】給電用架線を敷設した構造物の側面図である。
【
図5】給電用架線を敷設した構造物の正面図である。
【
図6】集電装置を搭載した農業機械の側面図である。
【
図7】集電装置を搭載した農業機械の背面図である。
【
図8】架線の本数を減らした構造物と農業機械の背面図である。
【
図9】受電及び電力変換機器の設置例の立面図である。
【
図11】太陽光発電設備を付加した構造物の側面図である。
【
図12】太陽光発電設備を追加した架線給電システムの電気回路図である。
【
図13】着脱式の多様な電源ユニット及び農業機械の側面図である。
【
図14】電源ユニットから電力系統に送電する装置の側面図である。
【
図15】電源ユニットから電力系統に送電するシステムの電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、
図3のように、圃場1の長辺方向に対して中央部に、構造物2を設置する。農業機械2は、圃場1の長辺方向に走行して、耕起等の農作業を行う。構造物2の下を通過する際に、農業機械3が集電装置3aを動かし、2つの金属体3aが2構造物の2つの金属体2aに接して、電力を受電する。
【0025】
農業機械3が保管される倉庫等と圃場の間の移動が必要であるが、本発明の農業機械3は、蓄電池を搭載しており、そこに充電された電力によって、架線のない一般道や農道での移動が可能である。圃場での農作業と違い、一般道や農道の移動は、負荷が小さいため、架線給電がなくても、圃場よりも長い距離の走行が可能である。
【0026】
農業機械の自動運転技術が進んでおり、一部実用化されている。本発明においても、自動運転との組み合わせが好ましい。特に、農業機械を操作する人にとって、構造体2の支柱2bが邪魔なものであるが、自動運転となれば、それは無関係となる。さらには、自動運転の農業機械に搭載されたカメラやレーザースキャナ等によって、支柱の位置を正確に把握することで、より正確な操作も可能となる。
【0027】
農業機械3の左右可動装置3dの可動範囲を大きくすることで、架線の本数を少なくすることができる。左右可動装置3dの可動範囲が小さければ、片道で耕起等の農作業ができる幅に対して、1組の架線が必要となるが、左右可動装置3dの可動範囲が農作業できる幅を超えれば、農作業できる幅2つに対して、1組の架線で受電できるようになる。
【0028】
図11と
図12のように、構造物2に太陽光発電システム5を搭載することができる。太陽光発電5を搭載することで、農業機械3への電力供給以外に発電事業が可能となり、構造物2や電力系統からの受電設備も有効活用でき、システム全体での経済性が高められる。
【0029】
図13のように、集電装置3aを農業機械3と着脱可能にする方式もある。農業機械3に装着できる電源装置しては、内燃機関発電装置6aや燃料電池発電装置6bなど多様な電源がある。こうした着脱可能にすることで、例えば、架線給電システムのない圃場では、内燃機関装置6aを農業機械3に装着し、圃場の耕起等の作業が可能となる。
【0030】
図14と
図15のように、内燃機関発電装置6a及び燃料電池発電装置6bを、電力系統に接続できる系統接続装置に装着させて、発電機として電力系統に給電することも良い。
【符号の説明】
【0031】
1 圃場
2 構造物
2a 基礎
2b 支柱
2c 横梁
2d 縦梁
2e 斜材
2f 碍子
2g 金属棒
3 農業機械
3a 集電装置
3b アーム
3c 金属体
3d 左右可動装置
3e カメラ
4 電気設備群
4a 電柱
4b 電力ケーブル
4c 電力量計
4d プラボックス
4e 直流ユニット
5 太陽光発電設備
5a 架台
5b 太陽光発電モジュール
6a 内燃機関発電ユニット
6b 燃料電池発電ユニット
6c 系統接続装置
【要約】
【課題】電動農業機械の軽量化と長い連続作業時間によって、電動農業機械の作業性を向上させる。
【解決手段】圃場1に構造物2を設置し、その下を電動の農業機械3が通過する際に、農業機械3に搭載された集電装置3aが、構造物2に敷設された金属棒2fに接触することで、電力が供給され、農業機械3に搭載する蓄電池容量を最小化しつつ、長時間の連続作業を可能にする。
【選択図】
図1