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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】加締め装置及び加締め方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/00 20060101AFI20240531BHJP
   B30B 15/14 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B21D39/00 B
B30B15/14 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021153261
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2023045072
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】大平 優作
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-025508(JP,A)
【文献】特開2003-180057(JP,A)
【文献】特開2012-226836(JP,A)
【文献】特開2004-188484(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188257(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 39/00
B30B 15/14
F16B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加締め部材を押し潰すためのパンチと、前記パンチの駆動を制御する制御部とを備え、前記パンチで前記被加締め部材を押し潰した際に生じる塑性流動で、前記被加締め部材に加締め部を形成するための加締め装置において、
前記パンチによる前記被加締め部材の押し潰し時の荷重を測定可能な荷重測定装置をさらに備え、
前記パンチはその先端に前記被加締め部材を押し潰し可能な押し潰し部を有すると共に、前記押し潰し部よりも前記パンチの基端側に位置し、前記被加締め部材のうち前記押し潰し部で押し潰されない領域と当接することで前記押し潰しを規制する規制面とを有し、
前記制御部は、前記荷重測定装置で測定した押し潰し時の荷重に基づいて前記被加締め部材の押し潰し量が前記加締め部を形成するに足る大きさに達したことを検知した場合に、前記パンチの押し潰し方向の駆動を停止するよう制御し、
前記荷重測定装置で測定した押し潰し時の荷重に基づいて前記押し潰し時に前記被加締め部材が前記規制面に当接したことを検知した場合に、前記パンチの押し潰し方向の駆動を停止するよう制御可能に構成されることを特徴とする加締め装置。
【請求項2】
被加締め部材をパンチで押し潰した際に前記被加締め部材に生じる塑性流動で、前記被加締め部材に加締め部を形成するための方法において、
前記パンチの先端に、前記被加締め部材を押し潰し可能な押し潰し部を設けると共に、前記押し潰し部よりも前記パンチの基端側に、前記被加締め部材のうち前記押し潰し部で押し潰されない領域と当接することで前記押し潰しを規制する規制面を設け、
前記パンチによる前記被加締め部材の押し潰し時の荷重を測定可能とし、
前記測定した押し潰し時の荷重に基づいて前記被加締め部材の押し潰し量が前記加締め部を形成するに足る大きさに達したことを検知した場合に、前記パンチの押し潰し方向の駆動を停止し、
前記測定した押し潰し時の荷重に基づいて前記パンチによる前記押し潰し時に前記被加締め部材が前記規制面に当接したことを検知した場合に、前記パンチの押し潰し方向の駆動を停止することを特徴とする加締め方法。
【請求項3】
前記制御部は、前記被加締め部材の硬度が所定のばらつきを示す場合、前記硬度のばらつきの上限値を示す前記被加締め部材の押し潰し量が、前記押し潰し量の許容範囲の下限値以上となるように、前記押し潰し時の荷重を設定すると共に、
前記硬度のばらつきの下限値を示す前記被加締め部材の押し潰し量が、前記押し潰し量の許容範囲の上限値以下となるように、前記規制面の前記押し潰し方向の位置を設定する請求項1に記載の加締め装置。
【請求項4】
前記被加締め部材の硬度が所定のばらつきを示す場合、前記硬度のばらつきの上限値を示す前記被加締め部材の押し潰し量が、前記押し潰し量の許容範囲の下限値以上となるように、前記押し潰し時の荷重を設定すると共に、
前記硬度のばらつきの下限値を示す前記被加締め部材の押し潰し量が、前記押し潰し量の許容範囲の上限値以下となるように、前記規制面の前記押し潰し方向の位置を設定する請求項2に記載の加締め方法。
【請求項5】
被加締め部材をパンチで押し潰した際に前記被加締め部材に生じる塑性流動で、前記被加締め部材に加締め部を形成するための方法において、
前記パンチの先端に、前記被加締め部材を押し潰し可能な押し潰し部を設けると共に、前記押し潰し部よりも前記パンチの基端側に、前記被加締め部材のうち前記押し潰し部で押し潰されない領域と当接することで前記押し潰しを規制する規制面を設け、
前記パンチによる前記押し潰し時に前記被加締め部材が前記規制面に当接したことを検知した場合に、前記パンチの押し潰し方向の駆動を停止することとし、
前記被加締め部材の硬度が所定のばらつきを示す場合、前記硬度のばらつきの上限値を示す前記被加締め部材の押し潰し量が、前記押し潰し量の許容範囲の下限値以上となるように、前記押し潰し時の荷重を設定すると共に、
前記硬度のばらつきの下限値を示す前記被加締め部材の押し潰し量が、前記押し潰し量の許容範囲の上限値以下となるように、前記規制面の前記押し潰し方向の位置を設定することを特徴とする加締め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加締め装置及び加締め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の製造工程では、異種材同士の結合を図るための手段として、一方又は双方の塑性変形により機械的結合を図る加締めが用いられている。ここで、加締め強度は、加締め態様にもよるが、通常、塑性変形量の影響を受けることから、この種の加締め工程においては、加締め時の塑性変形量又はこの変形量に準じたパラメータを管理することが重要となる。
【0003】
例えば特許文献1には、ナットを軸方向に押込んで当該ナットを径方向内側に塑性変形させることによってボルトとの結合を図るに際して、押込み部の押込み方向のストローク量を制御することが記載されている。詳述すると、特許文献1には、所定の条件を満たす加締め深さを決定する工程と、決定した加締め深さ以上となる押込み部のストローク量を所定の関係に基づいて決定する工程と、決定した押込み部のストローク量以上となる駆動部のストローク量を所定の関係に基づいて決定する工程と、決定した駆動部のストローク量以上でかつ予め設定された加締め部(塑性変形部)が破損する駆動部のストローク量未満となる目標制御ストローク量で、駆動部を制御する工程とを備えた加締め方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-198774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際の加締め対象となる部材が、例えばアルミなど一般的な自動車用材料である鉄以外の所定の材料からなる場合、硬度に大きなばらつきが見られることがある。このように被加締め部材の硬度が大きくばらつくと、特許文献1に記載の如き従来の方法(ストローク制御)で加締めを行った際、加締め量(加締め状態にするための塑性変形量)にも大きなばらつきが生じることがある。一方で、加締め量の許容範囲は厳格に(狭く)設定されることが多いため、硬度のばらつきが大きな部材に対してこの種の結合手段を適用した場合、全てのワークについて加締め量を許容範囲内に収めることが難しいといった問題が生じる。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、硬度にばらつきが出やすい部材を加締め対象とする場合においても、加締め量を安定して許容範囲内に収めることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係る加締め装置によって達成される。すなわち、この装置は、被加締め部材を押し潰すためのパンチと、パンチの駆動を制御する制御部とを備え、パンチで被加締め部材を押し潰した際に生じる塑性流動で、被加締め部材に加締め部を形成するための加締め装置において、パンチはその先端に被加締め部材を押し潰し可能な押し潰し部を有すると共に、押し潰し部よりもパンチの基端側に位置し、被加締め部材のうち押し潰し部で押し潰されない領域と当接することで押し潰しを規制する規制面とを有し、制御部は、押し潰し時に被加締め部材が規制面に当接したことを検知した場合に、パンチの押し潰し方向の駆動を停止するよう制御可能に構成される点をもって特徴付けられる。
【0008】
このように、本発明に係る加締め装置では、被加締め部材を押し潰すためのパンチに、パンチの先端に設けた押し潰し部よりもパンチの基端側に位置し、被加締め部材のうちパンチで押し潰されない領域と当接することで押し潰しを規制する規制面を設けた。そのため、この規制面を設けたパンチを用いて加締めを行うことで、被加締め部材の一定量を超える押し潰しが規制面によって規制される。また、この規制面を有するパンチを用いて加締めを行う際、被加締め部材が規制面に当接したことを検知した場合に、パンチの押し潰し方向の駆動を停止可能とすることによって、押し潰し量が一定の大きさに達した時点でパンチの押し潰し潰し動作を確実に停止することができる。よって、硬度のばらつきが大きな被加締め部材を加締め対象とする場合であっても、安定した加締め量を安定して許容範囲内に収めることが可能となる。
【0009】
あるいは、前記課題の解決は、本発明に係る加締め方法によっても達成される。すなわち、この方法は、被加締め部材をパンチで押し潰した際に被加締め部材に生じる塑性流動で、被加締め部材に加締め部を形成するための方法において、パンチの先端に、被加締め部材を押し潰し可能な押し潰し部を設けると共に、押し潰し部よりもパンチの基端側に、被加締め部材のうち押し潰し部で押し潰されない領域と当接することで押し潰しを規制する規制面を設け、パンチによる押し潰し時に被加締め部材が規制面に当接したことを検知した場合に、パンチの押し潰し方向の駆動を停止する点をもって特徴付けられる。
【0010】
このように、本発明に係る加締め方法では、被加締め部材を押し潰すためのパンチに、パンチの先端に設けた押し潰し部よりもパンチの基端側に位置し、被加締め部材のうちパンチで押し潰されない領域と当接することで押し潰しを規制する規制面を設けたパンチを用いて加締めを行うようにした。そのため、本発明に係る加締め装置と同様、被加締め部材の一定量を超える押し潰しが規制面によって規制される。また、この規制面を有するパンチを用いた加締め時に被加締め部材が規制面に当接したことを検知した場合に、パンチの押し潰し方向の駆動を停止することによって、押し潰し量が一定の大きさに達した時点でパンチの押し潰し動作を確実に停止することができる。よって、硬度のばらつきが大きな被加締め部材を加締め対象とする場合であっても、安定した加締め量を得ることが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る加締め方法においては、被加締め部材の硬度が所定のばらつきを示す場合、硬度のばらつきの上限値を示す被加締め部材の押し潰し量が、押し潰し量の許容範囲の下限値以上となるように、押し潰し時の荷重を設定すると共に、硬度のばらつきの下限値を示す被加締め部材の押し潰し量が、押し潰し量の許容範囲の上限値以下となるように、規制面の押し潰し方向の位置を設定してもよい。
【0012】
本発明に係る加締め方法によれば、たとえ硬度にばらつきがある被加締め部材のうち硬度のばらつきの下限値を示す被加締め部材であっても、規制面により必要以上の押し潰しを防止して、安定した加締め量を得ることが可能となる。加えて、上述のように、硬度のばらつきの上限値を示す被加締め部材の押し潰し量が、押し潰し量の許容範囲の下限値以上となるように、押し潰し時の荷重を設定すると共に、硬度のばらつきの下限値を示す被加締め部材の押し潰し量が、押し潰し量の許容範囲の上限値以下となるように、規制面の押し潰し方向の位置を設定することで、硬度のばらつきの下限値を示す被加締め部材だけでなく硬度のばらつきの上限値を示す被加締め部材についても所望の加締め量を得ることができる。すなわち、たとえ硬度のばらつきが大きな被加締め部材であっても、硬度の大小に関係なく、加締め量を安定して所望の範囲内に収めることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、硬度にばらつきが出やすい部材を加締め対象とする場合においても、加締め量を安定して許容範囲内に収めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る加締め装置の全体構成を示す正面図である。
図2図1に示す加締め装置のA部を拡大した図である。
図3】被加締め部材の硬度と押し潰し量との関係を示すグラフの一例である。
図4】加締め時における制御の流れを示すフローチャートである。
図5】加締め動作の概念を説明するための要部拡大図で、(a)加締め開始時の要部拡大図と、(b)加締め完了時の要部拡大図である。
図6】(a)(b)ともに加締め時における押し潰し量と荷重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る加締め装置及び加締め方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る加締め装置10の全体構成を示している。すなわち、本実施形態に係る加締め装置10は、パンチ11と、パンチ11を駆動する駆動部12と、駆動部12の制御を行う制御部13とを具備する。以下、各要素の詳細を説明する。
【0017】
なお、本実施形態では、加締め相手となるシャフト部1の外周面1aに嵌合穴2aが嵌合した状態にある被加締め部材2の端部2bを押し潰すことで、被加締め部材2に加締めを施す場合を例にとって説明を行う。
【0018】
パンチ11は、被加締め部材2の端部2bを押し潰し可能とするもので、被加締め部材2の端部2bと正対する向きに配置される。また、パンチ11はその先端に円環状の押し潰し部14を有し(図2を参照)、同じく円環状をなす被加締め部材2の端部2bを全周にわたって軸方向に押し潰し可能に構成される。
【0019】
また、パンチ11は、押し潰し部14よりもパンチ11の基端側(図1でいえば上側)に、被加締め部材2の押し潰しを規制するための規制面15を有する。本実施形態では、規制面15は平坦な形状をなし、押し潰し部14の外周に位置している。また、押し潰し部14の端面14aよりも被加締め部材2との接触面積が大きくなるように、規制面15の径方向寸法が設定されている。規制面15の押し潰し方向の位置(本実施形態では規制面15の押し潰し部14の端面14aからのパンチ11基端側への後退量R)については、後述する。
【0020】
駆動部12は、パンチ11を被加締め部材2の押し潰し方向に沿って駆動可能とするもので、例えば直線的に往復動可能に構成される。また、駆動部12は、パンチ11の押し潰し方向の位置、及びパンチ11が被加締め部材2から受ける反力を検知可能に構成される。なお、駆動部12としては、パンチ11を上述した態様で駆動可能な限りにおいて任意の手段が採用可能であり、例えば高精度な荷重制御を可能とするサーボシリンダが好適である。
【0021】
制御部13は、駆動部12の制御を可能とするもので、例えば後述するようにパンチ11が被加締め部材2から受けた反力の大きさに基づいてパンチ11の駆動を制御可能としている。言い換えると、制御部13は、パンチ11の駆動を荷重制御可能としている。
【0022】
次に、加締め時の設定荷重(押し潰し時荷重)について説明すると共に、規制面15の押し潰し方向の位置について説明する。
【0023】
図3は、被加締め部材2の硬度Hと、被加締め部材2の加締め時における押し潰し量Cとの関係を示している。すなわち、図3中の太線ラインで示すように、少なくとも本実施形態に係る加締め態様においては、硬度Hと押し潰し量Cとの間に一定の相関がみられる。すなわち、硬度Hが大きくなるにつれて押し潰し量Cは減少し、硬度Hが小さくなるにつれて押し潰し量Cは増加する傾向がみられる。また、この場合、双方のパラメータH,Cの関係を示す太線ラインが、加締め時の荷重(押し潰し時の荷重)によって全体的にシフト(平行移動)する傾向がみられる。すなわち、押し潰し時荷重が大きいほど上記太線ラインは上方にシフトし、押し潰し時荷重が小さいほど上記太線ラインは下方にシフトする傾向がみられる。以上の点を踏まえて、例えば被加締め部材2の硬度Hが、図3に示すように、下限値H1から上限値H2まで所定のばらつきを示す場合、硬度Hのばらつきの上限値H2を示す被加締め部材2の押し潰し量Cが、当該押し潰し量Cの許容範囲内に収まるように、押し潰し時荷重の大きさが設定される。すなわち、押し潰し量Cの許容範囲の下限値がC1、上限値がC2である場合、硬度Hが上限値H2を示す被加締め部材2の押し潰し量Cが、少なくとも押し潰し量Cの許容範囲の下限値C1以上となるように、パンチ11による被加締め部材2の押し潰し時荷重の大きさが設定される。一例として、硬度Hが上限値H2を示す被加締め部材2の押し潰し量Cを許容範囲の下限値C1より大きな所定の値C3とする場合、硬度Hと押し潰し量Cとの関係を示す太線ライン(一点鎖線)が押し潰し量C3と硬度H2との交点を通過するように、押し潰し時荷重の大きさが設定される。
【0024】
また、規制面15の押し潰し方向に沿った位置に関し、硬度Hのばらつきの下限値H1を示す被加締め部材2の押し潰し量Cが、当該押し潰し量Cの許容範囲内に収まるように、押し潰し部14の端面14aに対する規制面15の位置が設定される。すなわち、硬度Hが下限値H1を示す被加締め部材2の押し潰し量Cが、押し潰し量Cの許容範囲の上限値C2以下となるように、押し潰し部14の端面14aに対する規制面15の位置(すなわち押し潰し部14の端面14aからの規制面15の後退量R)が設定される。一例として、硬度Hが下限値H1を示す被加締め部材2の押し潰し量Cを許容範囲の上限値C2より小さな所定の値C4とする場合、当該所定の値C4と等しい大きさになるように、押し潰し部14の端面14aに対する規制面15の位置(後退量R)が設定される。
【0025】
次に、上記構成の加締め装置10を用いた加締め方法の一例を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0026】
まず、制御部13が駆動部12に指令を送り、押し潰し方向(図1の下向き)にパンチ11を駆動させる。この場合、パンチ11の移動速度は所定の大きさに設定される。そして、駆動開始後、駆動部12は一定時間ごとにパンチ11が被加締め部材2から受ける反力を検知する。実際には、パンチ11の押し潰し部14が被加締め部材2の端部2bと当接することで所定の反力が検知可能となり(図5(a)を参照)、押し潰しの進行(パンチ11の下降)に伴って反力が増加していく(図6(a)を参照)。
【0027】
そして、上述のように反力を検知する度に、制御部13は、検知した反力が予め設定した閾値T以上であるか否かを判定する。ここで、被加締め部材2が例えば硬度Hのばらつきの上限値H2側の値を示すものである場合、押し潰し量Cの値が許容範囲の下限値C1より大きな値C3となるような押し潰し時荷重に等しい値を閾値Tとする。そして、検知した反力が閾値T未満であると判定した場合、パンチ11の押し潰し方向の駆動を継続する(図4を参照)。あるいは、検知した反力が閾値T以上であると判定した場合、被加締め部材2の端部2bが軸方向に寸法C3分だけ押し潰され、押し潰された領域の内側に必要な大きさの加締め部3が形成されたものとみなして(図5(b)を参照)、パンチ11の押し潰し方向の駆動を停止する。
【0028】
一方、被加締め部材2が硬度Hのばらつきの下限値H1側の値を示すものである場合、硬度Hのばらつきの上限値H2側の値を示す場合と比べて、より小さな荷重(反力)で圧し潰し量Cが増加する(図6(b)を参照)。そして、規制面15の後退量Rに等しい大きさの押し潰し量C4に達した時点で、被加締め部材2の押し潰されない領域、すなわち端部2bよりも半径方向外側の領域が規制面15と当接する(図5(b)を参照)。そのため、パンチ11と被加締め部材2との接触面積が急激に増加し、パンチ11が被加締め部材2から受ける反力も急激に増加する(図6(b)を参照)。これにより、検知した反力が閾値T以上であると判定した場合、被加締め部材2の端部2bが十分に押し潰されかつ被加締め部材2がパンチ11の規制面15と当接したものとみなして、パンチ11の押し潰し方向の駆動を停止する。これにより、被加締め部材2の許容範囲の上限値C2を超える押し潰しが防止される。
【0029】
以上述べたように、本実施形態に係る加締め装置10及び加締め方法では、被加締め部材2を押し潰すためのパンチ11に、パンチ11の先端に設けた押し潰し部14よりもパンチ11の基端側に位置し、被加締め部材2のうちパンチ11で押し潰されない領域と当接することで押し潰しを規制する規制面15を設けたパンチ11を用いて加締めを行うようにした。そのため、被加締め部材2の一定量を超える押し潰しが規制面15によって規制される。また、この規制面15を有するパンチ11を用いた加締め時に被加締め部材2が規制面15に当接したことを検知した場合に、パンチ11の押し潰し方向の駆動を停止することによって、押し潰し量Cが一定の大きさに達した時点でパンチ11の押し潰し動作を確実に停止することができる。よって、硬度Hのばらつきが大きな被加締め部材2を加締め対象とする場合であっても、安定した加締め量を得ることが可能となる。
【0030】
また、本実施形態では、被加締め部材2の硬度Hが所定のばらつきを示す場合において、硬度Hのばらつきの上限値H2(図3を参照)を示す被加締め部材2の押し潰し量Cが、押し潰し量Cの許容範囲の下限値C1以上となるように押し潰し時の荷重を設定すると共に、硬度Hのばらつきの下限値H1を示す被加締め部材2の押し潰し量Cが、押し潰し量Cの許容範囲の上限値C2以下となるように規制面15の位置(押し潰し方向の位置)を設定した。このように押し潰し時の荷重Cを設定すると共に、規制面15の押し潰し方向の位置を設定することで、硬度Hのばらつきの下限値H1を示す被加締め部材2だけでなく硬度Hのばらつきの上限値H2を示す被加締め部材2についても所望の加締め量を得ることができる。すなわち、たとえ硬度Hのばらつきが大きな(H2-H1が大きな)被加締め部材2であっても、硬度Hの大小に関係なく、加締め量を安定して所望の範囲内に収めることが可能となる。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る加締め装置及び加締め方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態では、規制面15を平坦な円盤状とした場合を例示したが、もちろん規制面15の形状はこれには限られない。パンチ11による被加締め部材2の押し潰しを規制可能な限りにおいて、規制面15の形状、姿勢、並びにサイズは任意であり、例えば被加締め部材2の被押し潰し領域(ここでは端部2b)以外の領域の形状などを考慮して、設定するのがよい。
【0033】
また、上記実施形態では、規制面15をパンチ11の一部として設けた場合を例示したが、もちろんこれ以外の形態もとり得る。例えば規制面15を有する部材をパンチ11とは別体に作製し、これをパンチ11の外周に取り付けることで、被加締め部材2の押し潰しを規制可能としてもよい。別体とすることで、例えば押し潰し部14の摩耗に起因するパンチ11の交換時期とは関係なく、規制面15の押し潰し方向の位置を簡便に変更できる。
【0034】
また、上記実施形態では、パンチ11の押し潰し方向の位置と、パンチ11による被加締め部材2の押し潰し時荷重の反力としてパンチ11が被加締め部材2から受ける力を、駆動部12により検知可能とした場合を例示したが、もちろんこれ以外の形態をとることも可能である。駆動部12とは別個に設けたレーザー変位計などの位置測定装置や、荷重を測定可能な荷重測定装置で、パンチ11の押し潰し方向の位置や押し潰し時荷重を直接的に又は間接的に測定してもかまわない。
【0035】
また、上記実施形態では、硬度Hがばらつきの上限値H2を示す被加締め部材2に加締めを施した際、押し潰し量Cのばらつきの下限値C1に近い値C3となるように押し潰し時荷重を設定して、被加締め部材2に加締めを施す場合を例示したが(図6(a)を参照)、もちろんこれ以外の条件で加締めを施してもよい。すなわち、図示は省略するが、硬度Hがばらつきの上限値H2を示す被加締め部材2に加締めを施した際、被加締め部材2の押し潰されない領域と規制面15とが当接するように、押し潰し時荷重を設定してもよい。このように設定することで、常に同じ閾値でパンチ11の押し潰し方向の駆動及び停止を制御できるので、制御態様が非常に簡便となる。
【符号の説明】
【0036】
1 シャフト部
1a 外周面
2 被加締め部材
2a 嵌合穴
2b 端部
3 加締め部
10 加締め装置
11 パンチ
12 駆動部
13 制御部
14 押し潰し部
14a 端面
15 規制面
C1 押し潰し量の許容範囲の下限値
C2 押し潰し量の許容範囲の上限値
H1 硬度のばらつきの下限値
H2 硬度のばらつきの上限値
R 押し潰し部の端面からの後退量
T 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6