(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】前髪カット用ハサミ
(51)【国際特許分類】
B26B 13/24 20060101AFI20240531BHJP
B26B 13/14 20060101ALI20240531BHJP
B26B 29/04 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B26B13/24
B26B13/14
B26B29/04
(21)【出願番号】P 2019103191
(22)【出願日】2019-05-31
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001454
【氏名又は名称】株式会社貝印刃物開発センター
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100137947
【氏名又は名称】石井 貴文
(74)【代理人】
【識別番号】100105120
【氏名又は名称】岩田 哲幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106725
【氏名又は名称】池田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】小又 夏梨
(72)【発明者】
【氏名】平林 藍
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里英
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-246757(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0079091(US,A1)
【文献】特開2011-083582(JP,A)
【文献】実開昭53-123684(JP,U)
【文献】特開2011-072745(JP,A)
【文献】登録実用新案第3022771(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B 13/24
B26B 13/14
B26B 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前髪カット用ハサミであって、
回動支点を中心に連結された、互いに対をなす、長尺状の第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部を有し、
前記第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部は、前記回動支点を挟んで形成された長尺状の刃部および長尺状の把持部をそれぞれ有し、
前記各刃部は、刃部長尺方向に延在する長尺体としてそれぞれ形成され、互いに対向する金属製のブレードと、前記ブレードよりも先端側に形成されて、カット処理対象となる前髪を選り分けるための櫛部と、を有し、
前記各把持部は、把持部長尺方向に延在する長尺体としてそれぞれ形成され
るとともに、使用者が前記把持部長尺方向に指を伸ばした状態で、前記把持部長尺方向沿って前記指の先の内側部分である腹部ないし側部を面接触させて把持する指伸長把持領域を有し、
前記指伸長把持領域は、
第1指の腹部が面接触する前記第1ハサミ本体構成部の側面部と、
前記第1指の側部が面接触する前記第1ハサミ本体構成部の天井部と、
第3指の腹部が面接触する前記第2ハサミ本体構成部の側面部と、
前記第3指の側部が面接触する前記第2ハサミ本体構成部の天井部と、
第2指の腹部ないし側部が面接触することで前記第1指または前記第3指とともに前記第1ハサミ本体構成部または前記第2ハサミ本体構成部を挟持可能となる上側部と、を含み、
前記使用者が前記把持部長尺方向に指を伸長して前記各指伸長把持領域を把持した状態で、前記各刃部が、作業対象者の額面に向かって交差状に近接することで、前記櫛部による前髪の選別、および選別された前髪に対する前記刃によるカット処理が行われるように構成したことを特徴とする前髪カット用ハサミ。
【請求項2】
請求項
1に記載の前髪カット用ハサミであって、前記各刃部は、前記ブレードの背部を被覆する樹脂製のカバーを更に有することを特徴とする前髪カット用ハサミ。
【請求項3】
請求項
2に記載の前髪カット用ハサミであって、前記櫛部、前記カバーおよび前記把持部は、樹脂による一体成形体として構成されることを特徴とする前髪カット用ハサミ。
【請求項4】
請求項1から
3までのいずれか1項に記載の前髪カット用ハサミであって、使用者が当該前髪カット用ハサミを額面に向かって交差状に近接操作する場合の鉛直方向を上下方向と定義した場合、前記刃部延在方向および前記把持部延在方向は、下方向に向かって所定の鈍角をなすように互いに交差状に形成されていることを特徴とする前髪カット用ハサミ。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項記載の前髪カット用ハサミであって、前記第1ハサミ本体構成部1および第2ハサミ本体構成部には、互いに反発する磁性のマグネットがそれぞれ配置されており、前記各マグネット間に生じる反発力により、前記第1ハサミ本体構成部と第2ハサミ本体構成部間に、前記回動支点回りに、離間方向への回転力が作用するように構成されていることを特徴とする前髪カット用ハサミ。
【請求項6】
請求項
5に記載の前髪カット用ハサミであって、
当該前髪カット用ハサミに外力が作用しない場合に、前記各マグネット間に生じる反発力により、前記第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部は開状態に維持されるよう構成されていることを特徴とする前髪カット用ハサミ。
【請求項7】
請求項1からの
6までのいずれか1項記載の前髪カット用ハサミであって、
前記第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部が互いに閉じた状態で、前記各刃部を被覆するキャップを更に有し、
前記キャップが装着された状態で、前記キャップと、前記一対の把持部が、流線一体連続状の外郭を構成することを特徴とする前髪カット用ハサミ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理容ないし美容器具、具体的には前髪のカット処理を効果的に行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
頭髪をカット処理するに際しては、例えば特開2018-19746号公報に開示されるように、処理対象となる頭髪の切断作業を容易化するための工夫が施された理容ハサミが知られている。頭髪のなかでも、特に前髪、すなわち処理対象者の額面に延びる頭髪をカット処理する場合、このような公知の理容ハサミでは、安全性の見地より、刃を額面に沿って、すなわち顔面に対して横方から刃を入れることで前髪をカットすることになるが、その場合、特にハサミの使用者が自身の前髪をカット処理するような場合には、「前髪がちらばる」「前髪が逃げる」「使いにくい」「手が疲れる」「作業部位の視認性が確保しにくい」等といった問題が生じ易い。
【0003】
一方、前髪をカット処理するに際しては、例えば特開2007-029697号公報(特許文献2)に開示されるように、カットラインを示した前髪カット用補助具に関する構成が公知であり、かかる補助具を上記理容ハサミに組み合わせて前髪カット処理を行う形態が想定される。
【0004】
上記した前髪カット処理に関する各種技術は、それなりに作業性向上に効果があるものの、とくに前髪カット処理は、顔面に近い領域であって、作業性、視認性、安全性の確保、も含めて、一層の作業性向上技術の構築が要請される。
【文献】特開2018-19746号公報
【文献】特開2007-029697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、前髪カット処理の作業性を向上するのに好適な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、本発明によって解決される。本発明においては、回動支点を中心に連結された、互いに対をなす、長尺状の第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部を有する前髪カット用ハサミが提供される。前記第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部は、前記回動支点を挟んで形成された長尺状の刃部および長尺状の把持部をそれぞれ有する。
【0007】
前記各刃部は、刃部長尺方向に延在する長尺体としてそれぞれ形成され、互いに対向する金属製のブレード(刃ないし刃体とも称呼される)と、前記ブレードよりも先端側に形成されて、カット処理対象となる前髪を選り分けるための櫛部を有する。当該櫛部は、例えば樹脂、あるいはラウンド処理された金属にて成形されることが好ましい。
【0008】
前記各把持部は、把持部長尺方向に延在する長尺体としてそれぞれ形成された指伸長把持領域を有する。そして前記使用者が、把持部長尺方向に指を伸長して前記各指伸長把持領域を把持した状態で、前記各刃部が、作業対象者の額面に向かって交差状に近接することで、前記櫛部による前髪の選り別け、および選別された前髪に対する前記ブレードによるカット処理が行われる。
【0009】
本発明において「前髪」とは、カット処理対象者の額面上に延びる頭髪として定義される。また「櫛部」は、前髪を選り分けて、カット処理対象となる前髪を選別する部材として定義される。また使用者が「指を伸ばした状態」としては、指を完全に伸ばした状態のみならず、多少は指が曲折した状態も好適に包含されるものとする。「曲折」として、例えば、指の第1関節、第2間接等を鈍角の範囲で曲折させることで、掴み易い状態を作出するといった態様がこれに該当する。
【0010】
また前髪カット処理の「作業対象者」としては、本発明に係る前髪カット用ハサミの使用者が、自己の前髪をカット処理する態様、他者の前髪をカット処理する態様の双方が好適に包含される。また使用者の額面に「交差状に近接」とは、額面と直交状ないし略直交状にアプローチする態様はもちろん包含されるが、人間の身体的構造には人種差、男女差、年齢差等の様々な相違があることを考慮して、ある程度の傾斜状の近接態様も好適に包含されるものとする。
【0011】
本発明によれば、刃部の先端側に形成された櫛部により、カット対象となる前髪を選別する際に、額面の受傷リスクないし恐怖感を生じさせることを効果的に抑止可能とされる。そして、前髪カット用ハサミの使用者は、把持部長尺方向に指を伸ばした状態で指伸長把持領域を把持し、刃部を作業対象者の額面に向かって交差状に近接させることができるので、作業処理対象者の正面側から前髪にアプローチして、櫛部による前処理(選別処理)、および刃によるカット処理を、安全性および視認性を確実に確保しながら遂行することができる。
【0012】
特に、かかる指伸長把持領域による把持を基本として、額面に向かって交差状に近接して作業を遂行することができる特徴的構成により、櫛部および刃部を作業対象者の顔の左右方向(側方向)に動作させることができ、前髪の散らばりや逃げを効果的に抑制しつつカット処理ができる。このため、とくに前髪カット用ハサミの使用者が自己の前髪をカット処理する場合の作業性が著しく向上することになる。
【0013】
すなわち、本発明に係る前髪カット用ハサミによれば、高い作業性と視認性を確保しながらの作業環境を付与することにより、「使い易い」「疲れにくい」という直接的な作業性向上効果のみならず、刃物を扱う際の、使用者および作業対象者の恐怖心を著しく低減することによる「安全」「安心」という間接的な作業性向上効果も確保され、人間工学的に優れた前髪カット処理技術が構築されることになる。
【0014】
本発明は前髪カット用ハサミとして構成されているが、作業対象者の顔面に交差状に近接アプローチする作業態様、例えば、睫毛、鼻毛、耳毛、髭のトリミングないしカット処理に対しても好適に適用可能である。
【0015】
本発明の好ましい形態として、前記各把持部の前記指伸長把持領域は、前記把持部長尺方向に延在状に形成されるとともに、伸長した状態の使用者の手指の側部上に載置可能な天井部をそれぞれ有することができる。
【0016】
このように構成することで、使用者は、前髪カット用ハサミを伸長した状態の手指の上に載せる状態で使用することができる。すなわち、当該前髪カット用ハサミを「落とさないように保持する」という意識的動作を要することなく、自然に保持体制を維持することができる。この結果、作業時の疲労が更に少なく、人間工学的に優れた前髪カット用ハサミが構築可能である。
【0017】
本発明の好ましい態様として、前記各刃部は、ブレードの背部を被覆する樹脂製のカバーを更に有することができる。
このように構成することで、作業対象者の額部近傍で作業する場合の安全性を更に向上し、使用者および作業対象者に与える恐怖心を、一層効果的に軽減することができる。
【0018】
更に本発明の好ましい態様として、前記櫛部、前記カバーおよび前記把持部については、樹脂による一体成形体として構成することができる。
このように構成することで、前髪カット用ハサミの製造過程における樹脂成型の生産合理性を高めるとともに、樹脂成形部分に外観上の一体感を付与することによってデザインの趣向性を増大することが可能となる。
【0019】
更に本発明の好ましい態様として、使用者が当該前髪カット用ハサミを額面に向かって交差状に近接操作する場合の鉛直方向を上下方向と定義した場合に、前記刃部延在方向および前記把持部延在方向が、下方向に向かって所定の鈍角をなすように互いに交差状に形成されることができる。
【0020】
このように構成することで、刃部を作業対象者の額部に向かって正面側から水平(ないし略水平)に近接させる場合、把持部は、水平よりも下方に向かって傾斜状に延在する関係となるので、使用者が把持部を把持するのに、それほど肘を高く挙げる必要がなくなり、作業のために無理な体勢をとる必要がなくなる。これにより、更に人間工学的に優れた前髪カット処理作業が遂行可能とされる。
【0021】
更に本発明の好ましい態様として、前記第1ハサミ本体構成部1および第2ハサミ本体構成部には、互いに反発する磁性のマグネットがそれぞれ配置されており、前記各マグネット間に生じる反発力により、前記第1ハサミ本体構成部と第2ハサミ本体構成部間に、前記回動支点回りに、離間方向への回転力が作用するように構成することができる。
【0022】
このように構成することで、使用者が前髪をカットした後、特に格別の操作を行わなくても、第1ハサミ本体構成部と第2ハサミ本体構成部が、自動的に離間(開く)可能とされ、次の作業のための初期位置設定が自動で行われることになる。これにより、使用者は、作業に伴う疲労蓄積を極小化しつつ、櫛部による前髪の選別およびカット処理に集中することができ、さらに高次元の人間工学的作業環境の付与が可能になる。
【0023】
なお、かかる第1ハサミ本体構成部と第2ハサミ本体構成部間の離間方向への回転力の付与については、例えば両構成部材間に、バネ、ゴムなどの有体性の弾性要素、あるいは減衰要素を介在させることでも実現可能であるが、これらの場合、外観上の付加要素を加えることに起因して、前髪カット用ハサミのデザインへの悪影響が懸念される。また、これらの有体性の機能部材の場合、経時的な損耗に起因する離間回転力の低下が懸念される。本発明におけるマグネットを用いた構成によれば、このような懸念を未然に払拭することができる。
【0024】
更に本発明の好ましい態様として、前髪カット用ハサミに外力が作用しない場合に、前記各マグネット間に生じる反発力により、前記第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部は開状態に維持されるよう構成することができる。
このように構成することで、第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部が互いに開いた状態を初期位置として設定することができ、使用者による作業性が更に向上することになる。
【0025】
更に好ましい態様として、前記第1ハサミ本体構成部および第2ハサミ本体構成部が互いに閉じた状態で、前記各刃部を被覆するキャップを更に有し、前記キャップが装着された状態で、前記キャップと、前記一対の把持部が、流線一体連続状の外郭を構成することができる。
このように構成することで、各刃部を被覆するキャップと一対の把持部からなる前髪カット用ハサミの外郭に優れたデザイン性を付与することが可能となり、当該前髪カット用ハサミの趣向性を向上し、所有者の満足度を高めることが可能とされる。
【0026】
なお当該キャップは、寸法上、安全上、ないし外観デザイン上の観点から、第1ハサミ本体構成部と第2ハサミ本体構成部が互いに閉じた状態で、各刃部を被覆する構成とすることが好ましい。
また当該キャップについては、各刃部のみならず、各把持部も被覆する構成、すなわち前髪カット用ハサミの全体を被覆する収容体として構成することも考えられる。しかし、この場合には、収容器としての外寸が不必要に大きくなってしまう可能性があるが、本発明は、そのような懸念を払拭することができる。
【0027】
本発明によれば、上記各構成により、前髪カット処理の作業性を向上するのに好適な技術を提供されることとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の実施形態について
図1~
図5に基づいて説明する。本発明の実施形態に係る前髪カット用ハサミ1は、
図1に示すように、回動支点13回りに互いに相対回動可能に連接された第1ハサミ本体構成部11および第2ハサミ本体構成部21を主体として構成されている。
【0029】
第1ハサミ本体構成部11および第2ハサミ本体構成部21は、それぞれ長尺状に形成されるとともに、回動支点13を挟んで、刃部110,210、把持部120、220を有する。
【0030】
刃部110,210は、それぞれ刃部長尺方向BLへと伸長する長尺体として構成されるとともに、互いに対向する金属製の刃体であるブレード113、213と、当該ブレード113,213よりも先端側に形成された樹脂製の櫛部115,215と、ブレード113,213の背部を被覆する樹脂製のカバー117,217を有する。
【0031】
櫛部115,215は、例えばABS等による樹脂で形成されており、カット処理対象となる前髪を選り分けるために用いられる。なお当該櫛部115,215については、金属で成型するとともに、先端をラウンド処理する形態も好適に採用可能である。
カバー117,217は、例えばABS等による樹脂で形成されており、ブレード113,213の背部を被覆することで、使用者および前髪カット処理作業対象者に対する安全性を確保するとともに、心理的な安心感を付与している。
【0032】
把持部120、220は、それぞれ、例えばABS等による樹脂製で形成され、それぞれ把持部長尺方向HLに延びる長尺体として形成されるとともに、指伸長把持領域123,223を有する。
【0033】
上記櫛部115,215と、カバー117,217、および把持部120,220は、前髪カット用ハサミ1製造時に、樹脂射出成型によって一体成形によって形成され、同材質、同配色にて統一的な外観が付与されている。
【0034】
指伸長把持領域123、223の、それぞれ互いに対向する面にはマグネット129,229が埋め込み状に配置されている。マグネット129、229は、互いに反発する磁性のものが用いられており(双方ともN極、あるいは双方ともS極)、把持部120,220および指伸長把持領域123,223が回動支点13回りに、互いに離間する方向、すなわち互いに開く方向への回転力が作用するように構成されている。
【0035】
一方、特に図示しない回り止めが互いに当接することにより、第1ハサミ本体構成部11と第2ハサミ本体構成部21は、互いに最大回動角にて開状態に維持される。
図1においては、最大回動角での開状態に置かれた当該前髪カット用ハサミ1が示されている。
【0036】
前髪カット用ハサミ1の側面視である
図2に示すように、刃部110、210と、把持部120,220は、刃部長尺方向BLおよび把持部延在方向HLが、下方側において、互いに所定の鈍角θ(本実施の形態では略120°)で交差するように構成されている。
そして使用者は、その手指F(本実施の形態では第1指F1(親指)、第2指F2(人差し指)、第3指F3(中指))を把持部延在方向Hに沿うように伸長した状態で、把持部120,220を把持するように構成される。
【0037】
また
図2におけるA―A線での断面図である
図3に示すように、指伸長把持領域123,223は、使用者が手指を伸ばした状態で、当該手指を面接触させて把持するための側面部125、225
、天井部127,227
、および上側部128、228を有する。側面部125,225および天井部127、227は、円滑かつ一体状の連続曲面として形成されており、使用者の手指の腹部ないし側部にフィットする構成とされている。
上側部128、228は、使用時に鉛直方向上側に位置する部分であり、断面図である図3において平面状に示された部分である。
【0038】
図3に示すように、使用者は、第1ハサミ本体構成部11の指伸長把持領域123における側面部125に第1指F1(親指)の腹部FBを面接触状に当接させ、天井部127に伸長状態の第1指F1の側部FSを面接触状に当接させる。一方、第2ハサミ本体構成部21の指伸長把持領域223における側面部225に、伸長状態の第2指F2(人差し指)ないし第3指F3(中指)の腹部FBを面接触状に当接させ、天井部227に第2指F2ないし第3指F3の側部FSを面接触状に当接させる。
好ましくは、第2ハサミ本体構成部21の側面部225および天井部227に伸長状態の第3指F3(中指)の腹部FBおよび側部FSをそれぞれ面接触状に当接させ、第1ハサミ本体構成部11の上側部128または第2ハサミ本体構成部21の上側部228に伸長状態の第2指F2(人差し指)の腹部ないし側部を面接触状に当接させ、これによって第1指F1と第2指F2とで第1ハサミ本体構成部11を挟持し、または第3指F3と第2指F2とで第2ハサミ本体構成部21を挟持する(図4参照)。なお
図3における各手指は、それぞれの断面を模式的に示している。
【0039】
(前髪カット用ハサミ1の使用態様)
上記の通り構成される前髪カット用ハサミ1につき、その使用態様について説明する。本実施の形態では、使用の一例として、前髪カット用ハサミ1の使用者が、自らの前髪をカット処理する態様、すなわち使用者と前髪カット処理対象者が同一の場合について説明を行う。
【0040】
図1、
図2および
図4に示すように、使用者Uは、把持部長尺方向HLへと手指Fを伸ばした状態で、前髪カット用ハサミ1の把持部120,220における指伸長把持領域123,223を把持する。具体的には、把持部120の指伸長把持領域123を、把持部長尺方向HLへと伸ばした状態の親指F1で把持し、把持部220の指伸長把持領域223を、伸ばした状態の人差し指F2(あるいは中指F3)で把持する(把持部220側の構成については、併せて
図1参照)。
好ましくは、図4に示すように、把持部220の指伸長把持領域223を、伸ばした状態の中指F3で把持し、把持部120の指伸長把持領域123の上側部128または把持部220の指長把持領域223の上側部228に人差し指F2を乗せる。これによって、人差し指F2と親指F1とで把持部120を挟持し、または人差し指F2と中指F3とで把持部220を挟持する。このとき、人間の身体構造上、手指の関節部における多少の曲折はあるものの、本実施の形態においては、かかる状態は手指Fを伸ばした状態として定義される
【0041】
使用者Uは、前髪カット用ハサミ1を自己の額の額面FSに向かって交差状に近接させて、当該前髪カット用ハサミ1を自己の前髪Hに到達させる。
そして櫛部115,215を用いて、カット処理対象となる前髪を選り分けて保持するとともに、伸ばした手指Hを用いて把持部120,220を閉じ方向に操作し、選別された前髪Hを刃部110,210に設けられたブレード113,213によってカット処理する(前髪カット用ハサミ1の詳細な構造については
図1、
図2参照)。
【0042】
この場合、使用者は、手指を伸長した状態で把持した前髪カット用ハサミ1を、その額面FSに向かって交差状に近接して作業を遂行することで、櫛部115,215および刃部110,210を作業対象者の顔の左右方向(側方向)に動作させることができ、前髪の「散らばり」や「逃げ」を効果的に抑制しつつカット処理ができる。
【0043】
しかも
図3で説明したように、使用者は、前髪カット用ハサミ1を、伸長した状態の手指F1、F2ないしF3の上に載せる状態で使用することができ、前髪カット用ハサミ1を「落とさないように保持する」という意識的動作を要することなく、自然に保持体制を維持することができる。この結果、作業時の疲労を極力低減することができる。
【0044】
また本実施の形態に係る前髪カット用ハサミ1では、上述のように刃部長尺方向BLと把持部長尺方向HLが下方側に鈍角θで交差するように構成されているので(
図2参照)、刃部112,210を額面FSに向かって交差状に近接させる場合に、使用者は、肘ELをあまり持ち上げる必要がなく、作業時における疲労を更に低減することが可能である。
【0045】
本実施の形態においては、上記構成の前髪カット用ハサミ1を用いることにより、使用者Uは、手指Fをカット処理対象者(すなわち使用者自身)の額面FSに向かって交差状に伸ばしながら近接操作できるので、人間の身体の構造に照らして操作性が非常に良好である。また額面FSに向かって交差状に近接する刃部110,210(具体的には櫛部115,215の先端)を目視し易く、自己の前髪をカット処理するような場合でも、良好な作業性を維持することができる。
【0046】
また、前髪カット用ハサミ1を額面FSに向かって交差状に近接させる場合、通常は、刃物が顔(特に目に近い領域)に近づくことで恐怖感が生じ易いが、本実施の形態では、ブレード113,213よりも先端側には樹脂製の櫛部115,215が設けられており、しかもブレード113,213の背部は、樹脂製のカバー117,217で被覆されているため、鋭利な金属による受傷の心配・恐怖感を有さずに作業に集中することができる。
【0047】
また上述したように、指伸長把持領域123、223にそれぞれ互いに反発し合うマグネット129,229が配置され、これにより指伸長把持領域123,223が、回動支点13回りに、互いに離間する方向、すなわち互いに開く方向への回転力が作用するように構成されている。このため、使用者が前髪をカット処理した後、手指による外力付加を解除することで、第1ハサミ本体構成部11および第2ハサミ本体構成部21は、自動的に最大開度へと付勢されて開状態が維持されることになり、わざわざ使用者が手動操作しなくても、次の作業のための初期状態が自動で確保されることになる。
【0048】
また、かかる第1ハサミ本体構成部11と第2ハサミ本体構成部21間の離間方向への回転力の付与について、埋設式のマグネット129,229を採用することにより、前髪カット用ハサミ1の外観に余計な要素を加えることが回避可能であり、さらに経時的耐久性の点においても良好な手段が確保できる。
【0049】
(収納・デザイン性・携帯性)
さらに
図5に示すように、本実施の形態に係る前髪カット用ハサミ1は、第1ハサミ本体構成部11および第2ハサミ本体構成部21が互いに閉じた状態で、各刃部110,210を被覆するキャップ15を更に有する。そして前髪カット用ハサミ1は、キャップ15が装着された状態で、当該キャップ15と、各把持部120,220が、流線状、一体連続状の外郭を構成する。キャップ15は、把持部120,220と同じ材料(本実施の形態ではABS樹脂で製造されるとともに、把持部120,220と同配色、同色調とされ、デザイン的な一体性が訴求されている。
【0050】
かかる構成により、各刃部110,210を被覆するキャップと把持部120,220により、前髪カット用ハサミ1の外郭構造に、デザイン性に優れた外観が付与されることになり、所有者の満足度を高めることが可能とされる。
【0051】
またキャップ15装着時には、第1ハサミ本体構成部11および第2ハサミ本体構成部12は互いに閉じた状態とされ、しかもキャップ15と把持部120,220が一体連続状の外郭を呈することから、前髪カット用ハサミ1を例えばバッグ等に収納して携帯するような場合に、他の収納物によって破損されるリスクを最小化することが可能とされる。この点、機能性に加えて優れたデザイン性・携帯性を有する見地より、本実施形態に係る前髪カット用ハサミ1は、特に美容器具として好適に適用可能である。
【0052】
本実施の形態に係る前髪カット用ハサミ1によれば、前髪カット処理の作業性を向上するのに好適な技術が提供されることとなった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明の実施形態に係る前髪カット用ハサミの全体構成を示す模式的斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る前髪カット用ハサミの側面模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る前髪カット用ハサミの使用態様を示す模式図である。
【
図5】キャップ15が取り付けられた状態の前髪カット用ハサミの構成を示す側面模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1 前髪カット用ハサミ
11 第1ハサミ本体構成部
21 第2ハサミ本体構成部
13 回動支点
15 キャップ
110,210 刃部
113,213 ブレード
115,215 櫛部
117、217 カバー
120,220 把持部
123,223 指伸長把持領域
125、225 側面部
127,227 天井部
129,229 マグネット
U 使用者
FS 額面
F 手指
F1 第1指(親指)
F2 第2指(人差し指)
F3 第3指(中指)
H 前髪
EL 肘