(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】部分的導電性塗膜及びその製造方法、積層フィルム及びその製造方法、導電性樹脂回路及びその製造方法、並びに回路フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20240531BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240531BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20240531BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240531BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20240531BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B27/00 B
B05D5/12 B
B05D5/12 D
B05D7/24 302F
B05D7/24 302J
G06F3/041 490
G06F3/041 495
G06F3/041 660
G06F3/041 400
C08G61/12
(21)【出願番号】P 2020036280
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/027117(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/022119(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/194051(WO,A1)
【文献】特開2006-176752(JP,A)
【文献】特開2014-240194(JP,A)
【文献】Effect of UV-Ozone treatment on electrical properties of PEDOT:PSS film,Orgaic Electronics,2011年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
C08G 2/00-2/38,61/00-61/12
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の少なくとも一部に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成することと、
前記導電性塗膜の任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層して、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の導電部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分することと、
前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の導電部及び前記1つ以上の絶縁部からなる部分的導電性塗膜を得ることと、を有する部分的導電性塗膜の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記部分的導電性塗膜から前記保護層の少なくとも一部を除去することを有する請求項
1に記載の部分的導電性塗膜の製造方法。
【請求項3】
前記保護層が酸化防止剤を含む、請求項
1又は
2に記載の部分的導電性塗膜の製造方法。
【請求項4】
前記保護層が化学式(1)で表される酸化防止剤を含む、請求項
3に記載の部分的導電性塗膜の製造方法。
【化1】
[化学式(1)中、R
1~R
8は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表し、Xは、硫黄原子、酸素原子、ジスルフィド基(-S-S-)スルホニル基(-S(=O)
2-)、アルキレン基、又は単結合を表す。]
【請求項5】
基材の表面の少なくとも一部に形成された部分的導電性塗膜であって、
前記部分的導電性塗膜は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、
前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、 前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、部分的導電性塗膜。
【請求項6】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成した、導電性フィルムを得ることと、
前記導電性フィルムについて、前記導電性塗膜の任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層することにより、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の導電部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分した、区分フィルムを得ることと、
前記区分フィルムについて、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の導電部及び前記1つ以上の絶縁部からなる部分的導電性塗膜を形成した、積層フィルムを得ることと、を有する、積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
オゾン噴気下で前記区分フィルムを連続的に移送する、請求項
6に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
基材フィルムの少なくとも一方の面に部分的導電性塗膜を備えた積層フィルムであって、
前記部分的導電性塗膜は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、
前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、 前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、積層フィルム。
【請求項9】
基材の表面の少なくとも一部に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成することと、
前記導電性塗膜のうち、回路を形成する任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層して、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の回路部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分することと、
前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の回路部及び前記1つ以上の絶縁部からなる導電性樹脂回路を得ることと、を有する導電性樹脂回路の製造方法。
【請求項10】
基材の表面の少なくとも一部に形成された導電性樹脂回路であって、
前記導電性樹脂回路は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、
前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、 前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、導電性樹脂回路。
【請求項11】
請求項
10に記載の導電性樹脂回路を基材フィルムの少なくとも一方の面に備えた回路フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の製造方法、部分的導電性塗膜及びその製造方法、積層フィルム及びその製造方法、導電性樹脂回路及びその製造方法、並びに回路フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスや樹脂フィルム等の透明基材の表面に透明な回路を形成した回路基板が、タッチパネルやディスプレイに使用されている。透明な回路は、酸化インジウム一酸化スズ(ITO)等の金属酸化物からなる導電層で形成されることがある。ところが、回路の導電性を高める目的で導電層を厚くすると、入射した光が回路基板を透過するときに、回路(導電層)のある導電部と、回路のない非導電部との光の透過率、反射率、屈折率等の差が大きくなり、回路パターンが視認され易くなる「骨見え」と呼ばれる問題が顕著になる。上記問題の解決方法として、例えば特許文献1では、導電層の上に、屈折率が互いに異なる複数のアンダーコート層を積層した導電性積層体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アンダーコート層による多層化は製造コストを押し上げ、回路基板が厚くなり、回路基板の光透過性が低減する等の別の問題が生じていた。
【0005】
本発明は、回路パターンの骨見えが起こり難い導電性樹脂回路及びその製造方法、並びに導電性樹脂回路の製造に適用可能な部分的導電性塗膜、塗膜の製造方法、積層フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。各態様は、本発明者が見出した「π共役系導電性高分子を含む導電性塗膜の所望の領域にオゾンを接触させることにより、その領域の導電性を有意に低下させられること」を利用している。
【0007】
≪1≫ π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜の少なくとも一部にオゾンを接触させることにより、前記導電性塗膜の少なくとも一部を、前記導電性塗膜の導電性よりも低下させた低導電性の塗膜とする、塗膜の製造方法。
<1-1> 前記導電性塗膜が基材の表面に形成されている、前記塗膜の製造方法。
<1-2> 前記導電性塗膜が基材フィルムの少なくとも一方の面に形成されている、前記塗膜の製造方法。
≪2≫ 前記導電性塗膜がさらにバインダ樹脂を含む、≪1≫に記載の塗膜の製造方法。
<2-1> 前記バインダ樹脂が水分散性エマルションである、前記塗膜の製造方法。
<2-2> 前記バインダ樹脂が水分散性ポリエステルである、前記塗膜の製造方法。
≪3≫ 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、≪1≫又は≪2≫に記載の塗膜の製造方法。
<3-1> 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、前記塗膜の製造方法。
【0008】
≪4≫ 基材の表面の少なくとも一部に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成することと、前記導電性塗膜の任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層して、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の導電部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分することと、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の導電部及び前記1つ以上の絶縁部からなる部分的導電性塗膜を得ることと、を有する部分的導電性塗膜の製造方法。
<4-1> 前記導電性塗膜がさらにバインダ樹脂を含む、前記部分的導電性塗膜の製造方法。
<4-2> 前記バインダ樹脂が水分散性エマルションである、前記部分的導電性塗膜の製造方法。
<4-3> 前記バインダ樹脂が水分散性ポリエステルである、前記部分的導電性塗膜の製造方法。
<4-4> 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、前記部分的導電性塗膜の製造方法。
<4-5> 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、前記部分的導電性塗膜の製造方法。
≪5≫ さらに、前記部分的導電性塗膜から前記保護層の少なくとも一部を除去することを有する、≪4≫に記載の部分的導電性塗膜の製造方法。
≪6≫ 前記保護層が酸化防止剤を含む、≪4≫又は≪5≫に記載の部分的導電性塗膜の製造方法。
≪7≫ 前記保護層が化学式(1)で表される酸化防止剤を含む、≪6≫に記載の部分的導電性塗膜の製造方法。
<7-1> 化学式(1)中のXが硫黄原子である、前記部分的導電性塗膜の製造方法。
【0009】
≪8≫ 基材の表面の少なくとも一部に形成された部分的導電性塗膜であって、前記部分的導電性塗膜は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、部分的導電性塗膜。
<8-1> 前記部分的導電性塗膜を目視で観察したときに、前記導電部と前記絶縁部の色が同じである、前記部分的導電性塗膜。
<8-2> 前記導電部と前記絶縁部の全光線透過率の差が1%以下である、前記部分的導電性塗膜。
<8-3> 前記導電部の表面抵抗率Aと、前記絶縁部の表面抵抗率Bの比(B/A)が1000以上である、前記部分的導電性塗膜。
<8-4> 前記導電部の表面に保護層が積層されている、前記部分的導電性塗膜。
<8-5> 前記導電性塗膜がさらにバインダ樹脂を含む、前記部分的導電性塗膜。
<8-6> 前記バインダ樹脂が水分散性エマルションである、前記部分的導電性塗膜。
<8-7> 前記バインダ樹脂が水分散性ポリエステルである、前記部分的導電性塗膜。
<8-8> 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、前記部分的導電性塗膜。
<8-9> 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、前記部分的導電性塗膜。
<8-10> 前記保護層が酸化防止剤を含む、前記部分的導電性塗膜。
<8-11> 前記保護層が化学式(1)で表される酸化防止剤を含む、前記部分的導電性塗膜。
<8-12> 化学式(1)中のXが硫黄原子である、前記部分的導電性塗膜。
【0010】
≪9≫ 基材フィルムの少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成した、導電性フィルムを得ることと、前記導電性フィルムについて、前記導電性塗膜の任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層することにより、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の導電部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分した、区分フィルムを得ることと、前記区分フィルムについて、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の導電部及び前記1つ以上の絶縁部からなる部分的導電性塗膜を形成した、積層フィルムを得ることと、を有する、積層フィルムの製造方法。
<9-1> さらに、前記部分的導電性塗膜から前記保護層の少なくとも一部を除去することを有する、前記積層フィルムの製造方法。
≪10≫ オゾン噴気下で前記区分フィルムを連続的に移送する、≪9≫に記載の積層フィルムの製造方法。
<10-1> 前記導電性塗膜がさらにバインダ樹脂を含む、前記積層フィルムの製造方法。
<10-2> 前記バインダ樹脂が水分散性エマルションである、前記積層フィルムの製造方法。
<10-3> 前記バインダ樹脂が水分散性ポリエステルである、前記積層フィルムの製造方法。
<10-4> 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、前記積層フィルムの製造方法。
<10-5> 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、前記積層フィルムの製造方法。
<10-6> 前記保護層が酸化防止剤を含む、前記積層フィルムの製造方法。
<10-7> 前記保護層が化学式(1)で表される酸化防止剤を含む、前記積層フィルムの製造方法。
<10-8> 化学式(1)中のXが硫黄原子である、前記積層フィルムの製造方法。
【0011】
≪11≫ 基材フィルムの少なくとも一方の面に部分的導電性塗膜を備えた積層フィルムであって、前記部分的導電性塗膜は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、積層フィルム。
<11-1> 前記部分的導電性塗膜を目視で観察したときに、前記導電部と前記絶縁部の色が同じである、前記積層フィルム。
<11-2> 前記導電部と前記絶縁部の全光線透過率の差が1%以下である、前記積層フィルム。
<11-3> 前記導電部の表面抵抗率Aと、前記絶縁部の表面抵抗率Bの比(B/A)が1000以上である、前記積層フィルム。
<11-4> 前記導電部の表面に保護層がさらに積層されている、前記積層フィルム。
<11-5> 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、前記積層フィルム。
<11-6> 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、前記積層フィルム。
<11-7> 前記保護層が酸化防止剤を含む、前記積層フィルム。
<11-8> 前記保護層が化学式(1)で表される酸化防止剤を含む、前記積層フィルム。
<11-9> 化学式(1)中のXが硫黄原子である、前記積層フィルム。
【0012】
≪12≫ 基材の表面の少なくとも一部に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成することと、前記導電性塗膜のうち、回路を形成する任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層して、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の回路部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分することと、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の回路部及び前記1つ以上の絶縁部からなる導電性樹脂回路を得ることと、を有する導電性樹脂回路の製造方法。
<12-1> 前記導電性塗膜がさらにバインダ樹脂を含む、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-2> 前記バインダ樹脂が水分散性エマルションである、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-3> 前記バインダ樹脂が水分散性ポリエステルである、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-4> 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-5> 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-6> 前記保護層が酸化防止剤を含む、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-7> 前記保護層が化学式(1)で表される酸化防止剤を含む、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-8> 化学式(1)中のXが硫黄原子である、前記導電性樹脂回路の製造方法。
<12-9> さらに、前記導電性樹脂回路から前記保護層の少なくとも一部を除去することを有する、前記導電性樹脂回路の製造方法。
【0013】
≪13≫ 基材の表面の少なくとも一部に形成された導電性樹脂回路であって、前記導電性樹脂回路は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、導電性樹脂回路。
<13-1> 前記導電性樹脂回路を目視で観察したときに、前記回路部と前記絶縁部の色が同じである、前記導電性樹脂回路。
<13-2> 前記回路部と前記絶縁部の全光線透過率の差が1%以下である、前記導電性樹脂回路。
<13-3> 前記回路部の表面抵抗率Aと、前記絶縁部の表面抵抗率Bの比(B/A)が1000以上である、前記導電性樹脂回路。
<13-4> 前記回路部の表面に保護層が積層されている、前記導電性樹脂回路。
<13-5> 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、前記導電性樹脂回路。
<13-6> 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、前記導電性樹脂回路。
<13-7> 前記保護層が酸化防止剤を含む、前記導電性樹脂回路。
<13-8> 前記保護層が化学式(1)で表される酸化防止剤を含む、前記導電性樹脂回路。
<13-9> 化学式(1)中のXが硫黄原子である、前記導電性樹脂回路。
≪14≫ ≪13≫に記載の導電性樹脂回路を基材フィルムの少なくとも一方の面に備えた回路フィルム。
【0014】
【化1】
[化学式(1)中、R
1~R
8は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表し、Xは、硫黄原子、酸素原子、ジスルフィド基(-S-S-)スルホニル基(-S(=O)
2-)、アルキレン基、又は単結合を表す。]
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗膜の製造方法にあっては、導電性塗膜の任意の領域にオゾンを接触させることにより、導電性塗膜に含まれる導電性複合体を酸化又は分解し、その領域の導電性を低下させることができる。オゾン処理により、導電性塗膜を物理的に除去することなく、導電性塗膜を化学的に不活化することができる。この結果、導電性塗膜の有無によって生じる骨見えが起こり難く、見た目には均一な塗膜を得ることができる。
【0016】
本発明の部分的導電性塗膜にあっては、単一の塗膜でありながら、導電性の高い導電部と、導電性が低い絶縁部とを備えることができる。
【0017】
本発明の導電性樹脂回路にあっては、単一の塗膜でありながら、導電性の高い導電部と、導電性が低い絶縁部とを備え、前記導電部が1本以上の回路を形成することができる。この結果、塗膜の有無によって生じる骨見えが起こり難く、見た目には均一な塗膜である回路を得ることができる。
【0018】
本発明の積層フィルムの製造方法にあっては、基材フィルムに形成した導電性塗膜の任意の領域にオゾンを接触させることにより、導電性塗膜に含まれる導電性複合体を酸化又は分解し、その領域の導電性を低下させることができる。オゾン処理により、導電性塗膜を物理的に除去することなく、導電性塗膜を化学的に不活化することができる。この結果、導電性塗膜の有無によって生じる骨見えが起こり難く、見た目には均一な塗膜を備えた積層フィルムを得ることができる。
【0019】
本発明の導電性樹脂回路の製造方法にあっては、基材に塗工した導電性塗膜に、形成する予定の回路パターンを有する保護層を積層し、その後、導電性塗膜の露出部及び回路部を覆う保護層の両方に対してオゾンを接触させればよい。これにより、導電性塗膜のうち露出部の導電性は低下し、回路部の導電性は維持されるので、目的の回路パターンを有する導電性樹脂回路を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の部分的導電性塗膜の製造方法の一例を示す模式的な断面図である。(a)は導電性塗膜の形成工程で得た積層体Aの断面図であり、(b)は保護層の形成工程で得た積層体Bの断面図であり、(c)はオゾン処理工程で得た部分的導電性塗膜10の断面図である。
【
図2】本発明の導電性樹脂回路の一例を示す模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪塗膜の製造方法≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜の少なくとも一部にオゾンを接触させることにより、前記導電性塗膜の少なくとも一部を、前記導電性塗膜の導電性よりも低下させた低導電性の塗膜とする、塗膜の製造方法である。
本態様は、次に説明する導電性塗膜の形成工程と、オゾン処理工程とを有していることが好ましい。
【0022】
<導電性塗膜の形成工程>
導電性塗膜(導電層)は、例えば、任意の基材の表面に、前記導電性複合体と分散媒とを含有する導電性高分子分散液を塗布し、乾燥することにより形成することができる。
導電性塗膜を形成する領域は、基材の表面の一部でもよいし、全体でもよい。基材の形状がフィルム状又は板状である場合、基材のフィルム又は板の少なくとも一方の面に導電性塗膜を形成する。導電性塗膜を形成する領域は、導電性高分子分散液を塗布する領域に対応する。
【0023】
[基材]
前記基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム状、板状、その他の任意の立体的形状が挙げられる。以下、フィルム状の基材を基材フィルムという。
前記基材を構成する材料は、プラスチックやガラス等の絶縁性材料であってもよいし、金属等の導電性材料であってもよい。
【0024】
基材フィルムとしては、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成する樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらの樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0025】
基材フィルムの樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
基材フィルムは、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
基材フィルムの表面には、導電性塗膜の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0026】
基材フィルムの平均厚みとしては、例えば、5μm以上500μm以下が挙げられる。
基材フィルムの厚さは、本態様の製造品の用途を含めて考慮される。
基材フィルムの厚さは、その厚さ方向の断面において、任意の10箇所について公知方法により厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0027】
ガラス製の基材(以下、ガラス基材という。)の形状は特に限定されず、例えば板状のガラス板が挙げられる。
ガラス基材を形成するガラス材料としては、例えば、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。ガラス材料にアルカリ成分が含まれると、導電性塗膜の導電性が低下する傾向にあるため、ガラス材料のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ酸化物の含有量が0.1質量%以下のガラスのことである。
【0028】
ガラス板の平均厚さとしては、例えば、10μm以上3000μm以下が挙げられる。
ガラス基材の厚さは、製造品の用途を含めて考慮される。
ガラス基材の厚さは、その厚さ方向の断面において、任意の10箇所について公知方法により厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0029】
ガラス基材は、液晶セルを構成するガラス板であってもよい。ここで、液晶セルは、一対のガラス板と、これら一対のガラス板の間に設けられた一対の透明電極層と、これら一対の透明電極層の間に設けられた液晶層とを備えるものが好ましい。
【0030】
本態様の製造品が光学部材として使用される場合、前記基材は透明であることが好ましい。具体的には、基材の全光線透過率が65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。全光線透過率は、JIS K7136に従って測定した値である。
【0031】
[導電性高分子分散液]
前記基材に塗布する導電性高分子分散液としては、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、分散媒とを含有するものが挙げられる。
【0032】
[導電性複合体]
前記導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
前記ポリアニオンが有するアニオン基のうち、一部のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、残部はドープに関与しない余剰のアニオン基となる。余剰のアニオン基は親水基であるため、未修飾の導電性複合体は水分散性を有する。一方、修飾型導電性複合体は有機溶剤分散性を有する。修飾型導電性複合体は、導電性複合体が有する余剰のアニオン基の少なくとも一部を化学的に修飾して疎水性を高めたものである。
【0033】
前記導電性高分子分散液が含む導電性複合体は、未修飾型導電性複合体であってもよいし、修飾型導電性複合体であってもよい。
分散媒が水を含む水系分散媒である場合、分散液中で導電性複合体を均一に分散して、均一な導電性を有する導電性塗膜を形成する観点から、前記導電性複合体は未修飾型導電性複合体であることが好ましい。
分散媒が有機溶剤である場合、分散液中で導電性複合体を均一に分散して、均一な導電性を有する導電性塗膜を形成する観点から、前記導電性複合体は修飾型導電性複合体であることが好ましい。
【0034】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0035】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0036】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0037】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるから、充分な導電性を確保できる。
【0038】
[修飾型導電性複合体]
前記導電性複合体の余剰のアニオン基を修飾する方法としては、例えば、エポキシ基含有化合物(エポキシ化合物)と前記アニオン基とを反応させる方法、アミン化合物と前記アニオン基を反応させる方法が挙げられる。具体的な修飾方法は公知方法が適用される。
【0039】
(置換基A)
前記余剰のアニオン基がエポキシ化合物と反応したことによって形成され得る置換基Aは、例えば次のような構造式で表される。
修飾された導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0040】
【化2】
[式(A1)中、R
11、R
12、R
13、及びR
14はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0041】
【化3】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR
15、複数のR
16、複数のR
17、及び複数のR
18はそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のR
15は同一でも異なっていてもよく、複数のR
16は同一でも異なっていてもよく、複数のR
17は同一でも異なっていてもよく、複数のR
18は同一でも異なっていてもよい。]
【0042】
式(A1)及び式(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SO3H」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0043】
式(A1)において、R11、R12、R13、及びR14の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R11とR13とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、R11とR13とが前記炭化水素基であり、R11の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、R13の1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
なかでも、式(A1)において、R11が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R12が水素原子であり、R13が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R14が水素原子であることが好ましい。
【0044】
式(A2)において、R15、R16、R17、及びR18の任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。R15とR17とは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
なかでも、式(A2)において、R15が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R16が水素原子であり、R17が水素原子又は炭素数10~16のアルコキシアルキル基であり、R18が水素原子であることが好ましい。
【0045】
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。ただし、2つの酸素原子同士が隣接する場合を除く。
【0046】
式(A2)において、mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0047】
前記エポキシ基含有化合物(エポキシ化合物)は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物である。導電性複合体を修飾する際の凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
エポキシ化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0049】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましく、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0050】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジルネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0051】
エポキシ化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2000以下であることが好ましい。また、低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ化合物は、炭素数が2以上100以下のものが好ましく、5以上80以下のものがより好ましく、10以上50以下のものがさらに好ましい。
【0052】
(置換基B)
前記余剰のアニオン基がアミン化合物と反応したことによって形成され得る置換基Bは、例えば次のような構造式で表される。
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(B)は下記式(B)で表される基であると推測される。
【0053】
-HN+R21R22R23 ・・・(B)
[式(B)中、R21~R23はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R21~R23のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0054】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、活性なプロトンが結合し得る酸素原子を有するアニオン基が挙げられる。
【0055】
式(B)におけるR21~R23は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。式(B)におけるR21~R23はアミン化合物に由来する置換基である。
式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の水素を置換してもよい置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の水素を置換してもよい置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0056】
前記アミン化合物は、第一級アミン(1級アミン)、第二級アミン(2級アミン)及び第三級アミン(3級アミン)よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、導電性複合体を容易に疎水化できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0057】
低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、前記アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有することがより好ましい。
【0058】
(置換基C)
前記余剰のアニオン基と反応したアミン化合物が、複素環式芳香族アミンである場合、これと反応したことによって形成された置換基Cは、例えば次のような構造式で表される。
【0059】
-HN+R24 ・・・(C)
[式(C)中、N+R24は、プロトンが付加したことにより正に帯電した窒素原子を含む、複素環式芳香族アミンを表す。]
ここで、複素環式芳香族アミンとは、芳香環を構成する窒素原子を含む環式のアミン化合物を意味し、そのアミン化合物に結合する水素原子は任意に置換されていてもよい。
【0060】
式(C)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、複素環式芳香族アミンの正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、活性なプロトンが結合し得る酸素原子を有するアニオン基が挙げられる。
【0061】
複素環式芳香族アミンの塩基性が強すぎると、修飾された導電性複合体の導電性が低下することがあるため、複素環式芳香族アミンのうち、塩基性が弱い、イミダゾール系アミンが好ましい。ここで、イミダゾール系アミンとは、イミダゾール環を有する化合物を意味し、そのイミダゾール環に結合する水素原子は任意に置換されていてもよい。
【0062】
イミダゾール環の水素原子を任意に置換してもよい置換基としては、例えば、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基が挙げられる。これらの置換基を構成する水素原子は水酸基又はシアノ基によって置換されていてもよい。また、これらの置換基を構成する2価又は3価の基は、-C(=O)-、-C(=O)-O-、-N=、等に置換されていてもよい。また、イミダゾール環の水素原子を置換する置換基を2つ以上有する場合、これらの置換基同士が結合して環を形成していてもよい。
【0063】
イミダゾール系アミンとしては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシエチル) イミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1-アセチルイミダゾール、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノ-1-メチルベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール等が挙げられる。
なかでも、導電性複合体のアニオン基との反応性が良好であり、安価であることから、イミダゾールが好ましい。
【0064】
(導電性複合体の含有量)
導電性高分子分散液の総質量に対する、導電性複合体の含有量は、分散性を高めて均一な導電性塗膜を形成する観点から、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0065】
導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体は、前述したように疎水化されていてもよいし、疎水化されていなくてもよい。疎水化されている場合には、分散媒として有機溶剤を用いることが好ましい。疎水化されていない場合には、分散媒として水系分散媒を用いることが好ましい。
【0066】
(有機溶剤)
前記有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0067】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本工程における前記塗料の塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤が好ましい。
【0068】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
非水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶剤のなかでも、本態様における導電性高分子分散液を容易に製造できる点では、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0069】
本態様の導電性複合体が疎水化された修飾型導電性複合体である場合、導電性高分子分散液の総質量に対する有機溶剤の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上99質量%以下であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲であると、修飾型導電性複合体を均一に分散させることができ、均一な導電性塗膜を形成するこができる。
【0070】
(水系分散媒)
水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超であり、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0071】
本態様の導電性複合体が疎水化されてない未修飾型導電性複合体である場合、導電性高分子分散液の総質量に対する水系分散媒の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上99質量%以下であることがさらに好ましい。水系分散媒の含有割合が上記範囲であると、未修飾型導電性複合体を均一に分散させることができ、均一な導電性塗膜を形成するこができる。
【0072】
[バインダ成分]
前記導電性高分子分散液はバインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分を含んだ導電性高分子分散液を基材に塗布することによって、バインダ樹脂を含んだ導電性塗膜を形成することができる。
【0073】
バインダ成分は、π共役系導電性高分子及びポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電性塗膜形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
導電性高分子分散液の分散媒が水系分散媒である場合、含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0075】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、導電性塗膜の強度が高くなり、基材及び後述する保護層に対する密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0076】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。水溶性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0077】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。
【0078】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0079】
バインダ樹脂は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂であり、熱可塑性樹脂、導電性塗膜の形成時に硬化する硬化性樹脂等が挙げられる。
バインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
バインダ樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0080】
バインダ樹脂は、前記基材に含まれる樹脂と同じ種類の樹脂であることが好ましい。例えば、前記基材にポリエステル樹脂が含まれる場合、前記バインダ樹脂はポリエステル樹脂を含むことが好ましい。前記導電性塗膜と前記基材に同じ種類の樹脂が含まれると、前導電性塗膜と前記基材との密着性を向上させることができる。
【0081】
導電性高分子分散液に含まれるバインダ成分の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、導電性塗膜の強度が高まり、前記上限値以下であれば、塗工性が高まる。ただし、バインダ成分を含有させると、導電性塗膜に含まれる導電性複合体の含有割合が低下するため、導電性が低下することがある。
【0082】
[高導電化剤]
前記導電性高分子分散液は高導電化剤を含んでいてもよい。高導電化剤を含んだ導電性高分子分散液を基材に塗布することによって、高導電化剤を含んだ導電性塗膜を形成することができる。ここで、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、及び前記バインダ成分は、高導電化剤に分類されない。
【0083】
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基及び1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
前記高導電化剤としては、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物(ジオール)が好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
前記導電性高分子分散液に含まれる高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0084】
導電性高分子分散液に含まれる高導電化剤の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、塗工性が高まる。
【0085】
[その他の添加剤]
導電性高分子分散液はその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤を含んだ導電性高分子分散液を基材に塗布することによって、その他の添加剤を含んだ導電性塗膜を形成することができる。ここで、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、前記バインダ成分、前記高導電化剤は、その他の添加剤に分類されない。
ただし、その他の添加剤は、形成した導電性塗膜に対するオゾン処理を阻害しない範囲で含まれることが好ましい。
【0086】
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。ただし、酸化防止剤は前記オゾン処理を阻害する可能性があるので、使用する場合には含有量を慎重に検討する必要がある。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0087】
導電性高分子分散液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0088】
導電性高分子分散液は、上記の各成分を常法により混合して調製される。
【0089】
[塗布方法]
前記導電性高分子分散液を基材の表面に塗布(塗工)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
前記導電性高分子分散液の基材への塗布量は特に制限されないが、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0090】
前記導電性高分子分散液の塗膜を乾燥することにより、目的の導電性塗膜(導電層)を形成することができる。
前記導電性高分子分散液の塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの常法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、揮発させる分散媒の種類に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記温度で乾燥する場合の乾燥時間としては、例えば、30秒以上3分以下とすることができる。
前記導電性高分子分散液の塗膜が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合、乾燥後の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電性塗膜の形成速度を速くできる。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は、導電性塗膜を充分に硬化させる観点から、100mW/cm2以上が好ましい。また、導電性塗膜を充分に硬化させる観点から、積算光量は50mJ/cm2以上が好ましい。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0091】
[導電性塗膜]
前記基材の表面に形成した導電性塗膜の厚さは、例えば、10nm以上100μm以下であることが好ましく、20nm以上50μm以下であることがより好ましく、30nm以上10μm以下であることがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であれば、用途に応じて充分な導電性を得られる。
上記範囲の上限値以下であれば、後段のオゾン処理工程により、その導電性を容易に低下させることができる。
導電性塗膜の厚さは、その厚さ方向の断面において、任意の10箇所について公知の膜厚測定方法により厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0092】
導電性塗膜の良好な導電性の目安として、例えば、縦(20mm以上25mm以下)×横(100mm以上110mm以下)×厚さ(10μm以上20μm以下)の導電性塗膜を備えた試験片において、導電性塗膜の横方向の両末端に幅5mmの銀ペーストの接点を形成し、その両末端間の抵抗値をデジタルマルチメータで測定した場合、その抵抗値は、10Ω以上1000,00Ω未満であることが好ましく、10Ω以上10,000Ω以下であることがより好ましく、10Ω以上5,000Ω以下であることがさらに好ましい。
【0093】
導電性塗膜の単位面積当たりの抵抗である表面抵抗率A(単位:Ω/□)は、10以上50000以下が好ましく、20以上10000以下がより好ましく、30以上5000以下がさらに好ましい。
【0094】
導電性塗膜に含まれる導電性複合体は、水分散性を有する未修飾型の導電性複合体であってもよいし、有機溶剤分散性を有する修飾型の導電性複合体であってもよい。
【0095】
導電性塗膜に含まれる導電性複合体の含有量としては、例えば、導電性塗膜の総質量に対して、1質量%以上90質量%以下が好ましく、5質量%以上50質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性塗膜の導電性をより高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性塗膜にバインダ樹脂等の任意成分を含有させることができる。
【0096】
導電性塗膜に基材を構成する樹脂と同じ種類の樹脂がバインダ樹脂として含まれると、導電性塗膜と基材との密着性を向上させることができる。
【0097】
導電性塗膜に任意に含まれるバインダ樹脂の含有量としては、例えば、導電性塗膜の総質量に対して、1質量%以上99質量%以下が好ましく、10質量%以上90質量%以下がより好ましく、20質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、基材及び後述する保護層に対する導電性塗膜の密着性を向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性塗膜に含まれる導電性複合体の相対的な含有量を増加させることができ、導電性塗膜の導電性を高められる。
【0098】
導電性塗膜に任意に含まれる高導電化剤の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、例えば、1質量部以上100,000質量部以下とすることができ、100質量部以上1,000質量部以下が好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮される。
上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0099】
導電性塗膜に任意に含まれるその他の添加剤の含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0100】
<オゾン処理工程>
導電性塗膜にオゾンを接触させると、オゾンを接触させた領域に含まれる導電性複合体を酸化又は分解することができる。この結果、前記領域の導電性を低下させることができる。この導電性の低下に際して、前記領域の導電性塗膜が前記基材から剥離したり、前記領域の導電性塗膜の膜厚が減じたり、前記領域の導電性塗膜が変色したりする必要はない。
【0101】
前記導電性塗膜のうち、オゾンを接触させる領域は、前記導電性塗膜の全部でもよいし、一部でもよい。例えば、後述する保護層を前記導電性塗膜の一部のみに積層した後、オゾン雰囲気下に置くと、保護層を積層せずに露出していた領域は、オゾンが接触して導電性が低下した塗膜(絶縁性塗膜)となる。一方、保護層を積層して露出していなかった領域には、オゾンが接触せず、導電性を維持した導電性塗膜が残る。
【0102】
導電性塗膜にオゾンを接触させる方法としては、オゾンガスを接触させる方法、オゾンを含む溶液を接触させる方法が挙げられる。なかでも、オゾンガスを接触させる方法は簡便であり、接触させた領域の導電性以外の特性が変化し難く、膜減りや変色が起こり難いので好ましい。
【0103】
導電性塗膜に接触させるオゾンガスの濃度としては、例えば、1ppm以上100ppm以下が挙げられる。導電性塗膜に接触させるオゾンガスを構成するオゾン以外の気体は、空気でもよいし、窒素ガス等の不活性ガスでもよい。
【0104】
前述した好適な膜厚の導電性塗膜に上記濃度のオゾンガスを接触させる場合、その接触時間としては、例えば、1分以上60分以下とすることができる。このような接触時間であれば、導電性を充分に低下させた塗膜(絶縁性塗膜)を形成し、保護層により露出を防いだ導電性塗膜の導電性の低下を充分に抑制することができる。
以上のオゾン処理工程は、20℃程度の常温で実施することができる。
【0105】
本工程のオゾン処理により、導電性塗膜を絶縁性塗膜に変化させたとき、導電性塗膜の単位面積当たりの抵抗である表面抵抗率A(単位:Ω/□)と、絶縁性塗膜の単位面積当たりの抵抗である表面抵抗率B(単位:Ω/□)と、の(表面抵抗率B/表面抵抗率A)で表される比率は、10以上でもよいし、100以上でもよいし、1000以上でもよいし、測定不能な程度に無限大であってもよい。
【0106】
絶縁性塗膜の導電性の低さの目安として、例えば、縦(20mm以上25mm以下)×横(100mm以上110mm以下)×厚さ(10μm以上20μm以下)の絶縁性塗膜を備えた試験片において、絶縁性塗膜の横方向の両末端に幅5mmの銀ペーストの接点を形成し、その両末端間の抵抗値をデジタルマルチメータで測定した場合、その抵抗値は、例えば、100,000Ω以上であってもよいし、1000,000Ω以上であってもよいし、測定不能な程度に無限大であってもよい。
【0107】
絶縁性塗膜の単位面積当たりの抵抗である表面抵抗率B(単位:Ω/□)は、100,000以上が好ましく、1000,000以上がより好ましく、測定不能な程度に大きいことがさらに好ましい。
【0108】
本態様の製造方法によれば、基材の表面の少なくとも一部に形成された塗膜(絶縁性塗膜)であって、前記塗膜の少なくとも一部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体の酸化物又は分解物を含有した、導電性の低い塗膜が得られる。
なお、前記塗膜が低いながらも導電性を有することに着目する場合、絶縁性塗膜を低導電性塗膜と呼び換えてもよい。
【0109】
絶縁性塗膜の厚さは、オゾン処理前の導電性塗膜の厚さとほぼ同等であり、例えば、10nm以上100μm以下であることが好ましく、20nm以上50μm以下であることがより好ましく、30nm以上10μm以下であることがさらに好ましい。
絶縁性塗膜の厚さは、その厚さ方向の断面において、任意の10箇所について公知の膜厚測定方法により厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0110】
≪部分的導電性塗膜の製造方法≫
本発明の第二態様は、導電性塗膜の形成工程と、保護層の形成工程と、オゾン処理工程と、を有する、部分的導電性塗膜の製造方法である。
導電性塗膜の形成工程は、基材の表面の少なくとも一部に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成することを含む。
保護層の形成工程は、前記導電性塗膜の任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層して、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の導電部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分することを含む。
オゾン処理工程は、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の導電部及び前記1つ以上の絶縁部からなる部分的導電性塗膜を得ることを含む。
以下、各工程を順に説明する。
【0111】
<導電性塗膜の形成工程>
本態様の導電性塗膜は、第一態様で説明した導電性塗膜の形成工程と同様の方法で形成することができる。第一態様の好適な実施形態が本態様においても適用され得るので、ここでは重複する説明を省略する。
【0112】
<保護層の形成工程>
保護層の形成方法としては、導電性塗膜の所望の領域に、バインダ成分を含む保護層形成用塗料を塗布し、乾燥や硬化させることにより保護層を積層する方法が好ましい。
後段のオゾン処理工程において、オゾンが保護層を透過し難く、保護層直下の導電性塗膜にオゾンが接触し難いことが重要である。この保護機能を果たすことが可能であれば、保護層を構成するバインダ樹脂の種類は特に制限されない。
【0113】
[バインダ成分]
バインダ成分は、π共役系導電性高分子及びポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、保護層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0114】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
保護層形成用塗料の分散媒が水系分散媒である場合、含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0115】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、保護層形成用塗料の塗膜の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。導電性塗膜に対する保護層の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0116】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。水溶性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0117】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。
【0118】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0119】
[分散媒]
保護層形成用塗料は、バインダ成分のみから形成されていてもよいし、バインダ成分を分散する分散媒を含んでいてもよい。分散媒の種類は、バインダ成分によって適宜選択され、前述の有機溶剤でもよいし、前述の水系分散媒でもよい。
保護層形成用塗料の分散媒は、導電性塗膜を溶解し難いものであることが好ましい。導電性塗膜に未修飾型導電性複合体が含まれる場合、保護層形成用塗料の分散媒は有機溶剤であることが好ましい。導電性塗膜に修飾型導電性複合体が含まれる場合、保護層形成用塗料の分散媒は水系分散媒であることが好ましい。
【0120】
(バインダ成分の含有量)
保護層形成用塗料におけるバインダ成分の含有割合は、塗布することが容易な粘度、硬化後の保護層の厚み等を勘案して適宜設定すればよい。例えば、保護層形成用塗料の総質量に対するバインダ成分の不揮発分の質量は、1質量%以上50質量%以下の範囲で調整することができる。
【0121】
[酸化防止剤]
保護層形成用塗料には、酸化防止剤の1種以上が含まれていることが好ましい。酸化防止剤を含んだ保護層形成用塗料を導電性塗膜に塗布することによって、酸化防止剤を含んだ保護層を積層することができる。保護層が酸化防止剤を含んでいることにより、オゾンが保護層を透過して、直下の導電性塗膜に到達することをより確実に防止することができる。また、オゾン処理により保護層自身が劣化することも防止できる。
【0122】
酸化防止剤は、公知の樹脂成形品に添加される公知の酸化防止剤が適用でき、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
【0123】
[フェノール系酸化防止剤]
保護層がオゾンの透過を抑止する特性(オゾン遮蔽性)がより高くなることから、保護層形成用塗料には、フェノール系酸化防止剤の1種以上が含まれていることが好ましい。フェノール系酸化防止剤とは、フェノール系水酸基を有する芳香族化合物である。好適なフェノール系酸化防止剤は、フェノール系水酸基を2つ以上有する。
【0124】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、化学式(1)で表される化合物(以下、芳香族化合物(1)ということがある。)が好ましい。
保護層に芳香族化合物(1)等のフェノール系酸化防止剤が含まれていると、保護層のオゾン遮蔽性をより向上させることができる。
【0125】
【化4】
[化学式(1)中、R
1~R
8は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表し、Xは、硫黄原子、酸素原子、ジスルフィド基(-S-S-)スルホニル基(-S(=O)
2-)、アルキレン基、又は単結合を表す。]
【0126】
前記任意の置換基としては、例えば、炭素数1~14のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、炭素数1~14のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、水酸基、アミノ基、カルボキシ基等が挙げられる。これらの置換基が有する水素原子は、さらに別の置換基(例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、カルボキシ基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、トリアルコキシシリル基、ハロゲン(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)等)に置換されていてもよい。
【0127】
前記任意の置換基は、水酸基であっても構わないが、水酸基以外の基であることが好ましい。すなわち、芳香族化合物(1)が有する水酸基は4位及び4’位に結合する2つの水酸基のみであることがより好ましい。このより好ましい化合物であると、保護層のオゾン遮蔽性をさらにより一層向上させることができる。
【0128】
保護層形成用塗料は、化学式(1)の前記Xが硫黄原子若しくはスルホニル基である化合物を含むことが好ましく、前記Xが硫黄原子である化合物を含むことがより好ましい。これらの好ましい化合物であると、保護層のオゾン遮蔽性をより一層向上させることができる。前記Xがアルキレン基である場合、その炭素数は1~3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
【0129】
芳香族化合物(1)の好適な具体例としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニルスルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2’-ジ-tert-ブチル-5,5’-ジメチル-4,4’-チオジフェノール、及び2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-p-クレゾール)からなる群が挙げられる。
保護層のオゾン遮蔽性をより一層向上させる観点から、保護層形成用塗料は、上記群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0130】
別の好適なフェノール系酸化防止剤として、ガリック酸(没食子酸)及びガリック酸エステルが挙げられる。ガリック酸のエステルとしては、ガリック酸の炭素数1~3のアルキルエステル、具体的には、ガリック酸のメチルエステル、ガリック酸のエチルエステル、ガリック酸のプロピルエステルが挙げられる。
【0131】
保護層形成用塗料に含まれる酸化防止剤の含有割合は、バインダ成分100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、1質量部以上5質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、保護層のオゾン遮蔽性をより一層向上させることができる。上記範囲の上限値以下であると、保護層に含まれるバインダ樹脂の相対的な含有量が増加するので、保護層の導電性塗膜に対する密着性を向上させることができる。
【0132】
[その他の添加剤]
保護層形成用塗料はその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤を含んだ保護層形成用塗料を導電性塗膜上に塗布することによって、その他の添加剤を含んだ保護層を積層することができる。
【0133】
添加剤としては、例えば、界面活性剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0134】
保護層形成用塗料が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、バインダ成分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0135】
保護層形成用塗料は、上記の各成分を常法により混合して調製される。
【0136】
[塗布方法]
保護層形成用塗料を導電性塗膜の所望の領域に塗布(塗工)する方法としては、導電性高分子分散液の塗布方法として例示したコーターを用いた方法、噴霧器を用いた方法、浸漬方法等の他、印刷法が挙げられる。
具体的な印刷方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、凸版印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。なかでも、形成する保護層を厚くすることが容易であることから、スクリーン印刷が好ましい。
【0137】
保護層形成用塗料の導電性塗膜への塗布量は、含有するバインダ成分に応じて適宜設定され、形成する保護層の厚さがオゾン遮蔽性を発揮し得る程度の厚さとなるように検討する。例えば、固形分として、0.1g/m2以上10.0g/m2以下の範囲とすることができる。
【0138】
保護層形成用塗料の塗膜を乾燥させることにより、目的の保護層が形成される。
保護層形成用塗料の塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの常法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、揮発させる分散媒の種類に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記温度で乾燥する場合の乾燥時間としては、例えば、30秒以上3分以下とすることができる。
保護層形成用塗料の塗膜が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合、乾燥後の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電性塗膜の形成速度を速くできる。
活性エネルギー線の照射方法は、導電性高分子分散液の塗膜に活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が含まれる場合と同様の方法が適用される。
【0139】
[保護層]
導電性塗膜の任意の1つ以上の領域に積層した保護層の厚さは、例えば、0.1μm以上 100μm以下が好ましく、0.5μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上10 μm以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であれば、保護層直下の導電性塗膜に対するオゾン遮蔽性が充分に得られ易い。
上記範囲の上限値以下であれば、保護層直下の導電性塗膜に対する密着性が充分に得られ易い。
保護層の厚さは、その厚さ方向の断面において、任意の10箇所について公知の膜厚(層厚)測定方法により厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0140】
保護層に含まれる酸化防止剤の含有割合は、例えば、保護層に含まれるバインダ樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、1質量部以上5質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、保護層のオゾン遮蔽性をより一層向上させることができる。上記範囲の上限値以下であると、保護層に含まれるバインダ樹脂の相対的な含有量が増加するので、保護層の導電性塗膜に対する密着性を向上させることができる。
【0141】
本工程により、前記導電性塗膜の任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層して、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の導電部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分することができる。
各導電部の面積や形状は、任意であり、互いに同じでもよいし、各々独立に異なっていてもよい。
各露出部の面積や形状は、任意であり、互いに同じでもよいし、各々独立に異なっていてもよい。
【0142】
<オゾン処理工程>
本態様のオゾン処理は、第一態様で説明した導電性塗膜のオゾン処理工程と同様の方法で行うことができる。第一態様の好適な実施形態が本態様においても適用され得るので、ここでは重複する説明を省略する。
【0143】
本工程において、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させると、各露出部を構成する導電性塗膜を絶縁性塗膜に変化させることができる。つまり、前記1つ以上の露出部を、導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させることができる。
一方、オゾン処理の際に、前記保護層が積層した1つ以上の導電部を構成する導電性塗膜には、オゾンが接触しないので、導電性が維持された導電部として残る。
この結果、前記1つ以上の導電部(導電性塗膜)及び前記1つ以上の絶縁部(絶縁性塗膜)からなる部分的導電性塗膜が得られる。
ここで、導電性塗膜と絶縁性塗膜の説明は、第一態様の導電性塗膜と絶縁性塗膜の説明と同じであるので重複する説明は省略する。
【0144】
オゾン処理において、露出部を構成する導電性塗膜が絶縁部を構成する絶縁性塗膜に変化する際、膜減りは基本的に生じない。このため、保護層形成工程後の各導電部と各露出部の膜厚が同じである場合、オゾン処理工程後の各導電部と各絶縁部の膜厚も同じである。
【0145】
以下、
図1を参照して本態様の製造方法の一実施形態を例示する。
まず、導電性塗膜の形成工程において、任意の基材1の表面の少なくとも一部に導電性塗膜2を形成した積層体Aを得る(
図1(a))。
次に、保護層の形成工程において、積層体Aの導電性塗膜2のうち、1つ以上の任意の領域に、バインダ樹脂を含む保護層3を積層した積層体Bを得る(
図1(b))。積層体Bの導電性塗膜2は、保護層3が積層した1つ以上の導電部Qと、保護層3が積層せずに露出した1つ以上の露出部Wとに区分けされている。
続いて、オゾン処理工程において、積層体Bをオゾン雰囲気下に置き、保護層3及び露出部Wにオゾンを接触させると、露出部Wを構成する導電性塗膜2の導電性が低下し、絶縁性塗膜4からなる絶縁部Rに変化する。この間、導電部Qを構成する導電性塗膜2にはオゾンが接触しないので、導電部Qの導電性が維持される。この結果、基材1の表面に、1つ以上の導電部Qと、導電部Qに隣接する1つ以上の絶縁部Rとを備えた目的の部分的導電性塗膜10が得られる(
図1(c))。
【0146】
本態様の製造方法において、導電性塗膜に形成する導電部の形態は、導電性塗膜を平面視したときの保護層の形態に沿う。
部分的導電性塗膜を形成した後、必要に応じて保護層を除去しても構わない。保護層の少なくとも一部を除去する方法としては、物理的に剥離する方法や、化学的に溶解する方法等が挙げられる。
また、部分的導電性塗膜を形成した後、保護層及び絶縁部のうち少なくとも一方に別の層(例えば、任意の樹脂層)を形成してもよい。
【0147】
≪部分的導電性塗膜≫
本発明の第三態様は、基材の表面の少なくとも一部に形成された部分的導電性塗膜であって、前記部分的導電性塗膜は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、部分的導電性塗膜である。
本態様の部分的導電性塗膜は、第二態様の製造方法によって製造することができる。
【0148】
部分的導電性塗膜が有する各導電部の厚さ、面積及び形状は、任意であり、互いに同じでもよいし、各々独立に異なっていてもよい。
部分的導電性塗膜が有する各絶縁部の厚さ、面積及び形状は、任意であり、互いに同じでもよいし、各々独立に異なっていてもよい。
【0149】
部分的導電性塗膜が有する導電性塗膜と絶縁性塗膜の説明は、第一態様の導電性塗膜と絶縁性塗膜の説明と同じであるので重複する説明は省略する。
部分的導電性塗膜の導電部の上には保護層が形成されていてもよい。保護層の説明は、第二態様の保護層の説明と同じであるので重複する説明は省略する。
【0150】
通常、前述のオゾン処理によって導電性塗膜の厚さを減少させずに済む。つまり、オゾン処理の前後で導電性塗膜から絶縁性塗膜に変化する際に、その膜厚を殆ど変化させないことが可能である。
したがって、部分的導電性塗膜において、1つ以上の前記導電部と1つ以上の前記絶縁部の膜厚の差は±1%以下とすることができる。
【0151】
通常、前述のオゾン処理によって導電性塗膜の光学特性を殆ど変化させずに済む。つまり、オゾン処理の前後で導電性塗膜から絶縁性塗膜に変化する際に、その色を殆ど変化させないことが可能である。
したがって、部分的導電性塗膜を目視で観察したときに、1つ以上の前記導電部と1つ以上の前記絶縁部の色が同じであってもよい。例えば、π共役導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(略称:PEDOT)は青色を呈するので、これを含む導電部は、基本的には薄青色を呈する。この導電部について前述のオゾン処理で形成した絶縁部は、導電部と同じ薄青色を呈する。この場合、部分的導電性塗膜を平面視したときに、導電部と絶縁部を色で見分けることは難しい。なお、保護層が積層されていれば、保護層の直下に導電部があることを知ることができる。
【0152】
通常、前述のオゾン処理によって導電性塗膜の光学特性を殆ど変化させずに済む。つまり、オゾン処理の前後で導電性塗膜から絶縁性塗膜に変化する際に、その全光線透過率を殆ど変化させないことが可能である。
したがって、部分的導電性塗膜において、1つ以上の前記導電部と1つ以上の前記絶縁部の全光線透過率の差は1%以下であってもよい。
ここで、前記導電部及び前記絶縁部の全光線透過率は、JIS K7136に準拠して測定した値である。
【0153】
部分的導電性塗膜において、1つ以上の前記導電部の単位面積当たりの抵抗である表面抵抗率A(単位:Ω/□)は、10以上50,000以下が好ましく、20以上10,000以下がより好ましく、30以上5000以下がさらに好ましい。
【0154】
部分的導電性塗膜において、1つ以上の前記絶縁部の単位面積当たりの抵抗である表面抵抗率B(単位:Ω/□)は、100,000以上が好ましく、1000,000以上がより好ましく、測定不能な程度に大きいことがさらに好ましい。
【0155】
部分的導電性塗膜において、1つ以上の前記導電部の表面抵抗率A(単位:Ω/□)と、1つ以上の前記絶縁部の表面抵抗率B(単位:Ω/□)と、の(表面抵抗率B/表面抵抗率A)で表される比率は、10以上でもよいし、100以上でもよいし、1000以上でもよいし、測定不能な程度に無限大であってもよい。
【0156】
≪積層フィルムの製造方法≫
本発明の第四態様は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成した、導電性フィルムを得ることと、前記導電性フィルムについて、前記導電性塗膜の任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層することにより、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の導電部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分した、区分フィルムを得ることと、前記区分フィルムについて、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の導電部及び前記1つ以上の絶縁部からなる部分的導電性塗膜を形成した、積層フィルムを得ることと、を有する、積層フィルムの製造方法である。
【0157】
本態様の製造方法は、基材として基材フィルムを用い、第二態様の製造方法と同様に実施することができる。本態様の製造方法によれば、基材フィルムの少なくとも一方の表面の少なくとも一部に、第三態様の部分的導電性塗膜を備えた積層フィルムが得られる。
【0158】
本発明の各態様の製造方法において、前記基材として基材フィルムを使用する場合、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に前記導電性塗膜及び前記保護層を形成した後、オゾン噴気下で連続的に基材フィルムを移送する方法を適用することができる。
移送する基材フィルムは、短尺の基材フィルムであってもよいし、長尺フィルムであってもよい。例えば、複数の短尺フィルムを吊るした状態又はベルトコンベヤに載置した状態でオゾン噴気室に連続的に移送する方法や、ロールトゥロール方式により1つながりの長尺フィルムをオゾン噴気室に連続的に移送する方法等が挙げられる。
【0159】
≪積層フィルム≫
本発明の第五態様は、基材フィルムの少なくとも一方の面に部分的導電性塗膜を備えた積層フィルムであって、前記部分的導電性塗膜は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、積層フィルムである。
本態様の積層フィルムは、第四態様の製造方法によって製造することができる。
本態様の積層フィルムが有する部分的導電性塗膜の説明は、第三態様の部分的導電性塗膜の説明と同じであるので重複する説明を省略する。
【0160】
≪導電性樹脂回路の製造方法≫
本発明の第六態様は、導電性塗膜の形成工程と、保護層の形成工程と、オゾン処理工程と、を有する、導電性樹脂回路の製造方法である。
導電性塗膜の形成工程は、基材の表面の少なくとも一部に、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する導電性塗膜を形成することを含む。
保護層の形成工程は、前記導電性塗膜のうち、回路を形成する任意の1つ以上の領域にバインダ樹脂を含む保護層を積層して、前記導電性塗膜を、前記保護層が積層した1つ以上の回路部と、前記保護層が積層せずに露出した1つ以上の露出部とに区分することを含む。
オゾン処理工程は、前記1つ以上の露出部にオゾンを接触させることにより、前記1つ以上の露出部を導電性が低下した1つ以上の絶縁部に変化させて、前記1つ以上の回路部及び前記1つ以上の絶縁部からなる導電性樹脂回路を得ることを含む。
【0161】
<導電性塗膜の形成工程>
本態様の導電性塗膜の形成工程は、第二態様の導電性塗膜の形成工程と同様に実施することができる。第二態様の好適な実施形態が本態様においても適用され得るので、ここでは重複する説明を省略する。
【0162】
<保護層の形成工程>
本態様の保護層の形成工程は、第二態様の保護層の形成工程と同様に実施することができる。第二態様の好適な実施形態が本態様においても適用され得るので、ここでは重複する説明を省略する。なお、第二態様の「導電部」が本態様の「回路部」に相当する。
【0163】
<オゾン処理工程>
本態様のオゾン処理工程は、第二態様のオゾン処理工程と同様に実施することができる。第二態様の好適な実施形態が本態様においても適用され得るので、ここでは重複する説明を省略する。
【0164】
以下、
図2を参照して本態様の製造方法の一実施形態を例示する。
まず、導電性塗膜の形成工程において、任意の基材1の表面の少なくとも一部に導電性塗膜2を形成した積層体(
図1の積層体Aに相当)を得る。
次に、保護層の形成工程において、前記積層体の導電性塗膜2のうち、回路を形成する1つ以上の任意の領域に、バインダ樹脂を含む保護層3を積層した積層体を得る(
図1の積層体Bに相当)。ここで、前記積層体の導電性塗膜2は、保護層3が積層した1つ以上の回路部(
図1の導電部Qに相当)と、保護層3が積層せずに露出した1つ以上の露出部(
図1の露出部Wに相当)とに区分けされている。
続いて、オゾン処理工程において、前記積層体をオゾン雰囲気下に置き、保護層3及び露出部にオゾンを接触させると、露出部を構成する導電性塗膜2の導電性が低下し、絶縁性塗膜4からなる絶縁部(
図1の絶縁部Rに相当)に変化する。この間、回路部を構成する導電性塗膜2にはオゾンが接触しないので、回路部の導電性が維持される。この結果、基材1の表面に、1つ以上の回路部と、回路部に隣接する1つ以上の絶縁部とを備えた目的の導電性樹脂回路20が得られる。
図2のA-Aの矢視に沿う断面は、
図1に示す断面と同様である。
【0165】
本態様の製造方法において、導電性塗膜に形成する回路部の形態は、導電性塗膜を平面視したときの保護層の形態に沿う。
導電性樹脂回路を形成した後、必要に応じて保護層を除去しても構わない。また、導電性樹脂回路を形成した後、保護層及び絶縁部のうち少なくとも一方に別の層(例えば、任意の樹脂層)を形成してもよい。
【0166】
≪導電性樹脂回路≫
本発明の第七態様は、基材の表面の少なくとも一部に形成された導電性樹脂回路であって、前記導電性樹脂回路は、1つ以上の導電部と、前記導電部よりも導電性が低い1つ以上の絶縁部とを有し、前記導電部は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有し、前記絶縁部は、前記導電性複合体の酸化物又は分解物を含有している、導電性樹脂回路である。
本態様の導電性樹脂回路は、第六態様の製造方法によって製造することができる。
本態様の導電性樹脂回路における、基材、導電性塗膜、保護層、回路部、及び絶縁部の説明は、第三態様の部分的導電性塗膜における、基材、導電性塗膜、保護層、導電部、及び絶縁部の説明と同じであるので重複する説明を省略する。
【0167】
≪回路フィルム≫
本発明の第八態様は、第七態様の導電性樹脂回路を基材フィルムの少なくとも一方の面に備えた回路フィルムである。
本態様の基材フィルムの説明は、第一態様の基材フィルムの説明と同じであるので重複する説明は省略する。
【実施例】
【0168】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0169】
(製造例2)π共役系導電性高分子とポリアニオンを含む導電性高分子分散液の合成
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次いで、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)水分散液を得た。
【0170】
(実施例1)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液50gと、メタノール40gと、プロピレングリコール5gと、プラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)5gとを混合して、#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布し、150℃で1分間乾燥し、導電性塗膜を形成した。得られた導電性フィルムを縦20mm×横110mmの大きさに切り取り、その両横の末端5mmの部分に銀ペーストで接点を形成し、試験片を得た。次いで、試験片の両末端にある接点をセロテープ(登録商標)でマスクした。マスクがない領域の全体に薄青色の導電性塗膜が露出した状態とした。
続いて、バイロン240(東洋紡社製ポリエステル樹脂、固形分10質量%、メチルエチルケトン溶剤)を、上記試験片のマスクがない領域の全体に、#8のバーコーターを用いて塗布し、150℃で1分間乾燥することにより、ポリエステル樹脂からなる保護層を導電性塗膜の上に積層した積層フィルムを得た。
積層フィルムの両末端にあるセロテープのマスクを剥がして銀ペーストの接点を露出させ、デジタルマルチメータ(CUTTOM社製、CDM-17D)を用いて導電性塗膜の初期の抵抗値(単位:Ω)を測定した。
次に、オゾンガスを充満させた集気びんに上記積層フィルムを入れて5分間静置した後、導電性塗膜のオゾン処理後の抵抗値(単位:Ω)を測定した。また、保護層下にある導電性塗膜の薄青色の外観が、集気びんに入れたことにより変化するか否かを目視にて評価した。以上の結果を表1に示す。
【0171】
(実施例2)
実施例1と同様にして導電性フィルムの試験片を得て、デジタルマルチメータを用いて、導電性塗膜の初期の抵抗値を測定した。その後、保護層を形成せずに、オゾンガスを充満させた集気びんに上記試験片を入れて5分間静置した後、導電性塗膜のオゾン処理後の抵抗値を測定した。また、露出した状態にある導電性塗膜の薄青色の外観が、集気びんに入れたことにより変化するか否かを目視にて評価した。以上の結果を表1に示す。
【0172】
(実施例3)
実施例1と同様にして導電性フィルムの試験片を得て、試験片の両末端にある接点をセロテープでマスクし、マスクがない領域の全体に薄青色の導電性塗膜が露出した状態とした。
続いて、ペンタエリスリトールトリアクリレート10g、イルガキュア184 0.4gメチルエチルケトン89.6gの混合液を、#8のバーコーターを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥し400mJの紫外線照射をすることにより、アクリル樹脂からなる保護層を導電性塗膜の上に積層した積層フィルムを得た。
得た積層フィルムについて、実施例1と同様にして、抵抗値および外観変化の有無を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0173】
(実施例4)
実施例1と同様にして導電性フィルムの試験片を得て、試験片の両末端にある接点をセロテープでマスクし、マスクがない領域の全体に薄青色の導電性塗膜が露出した状態とした。
続いて、バイロン240(東洋紡社製ポリエステル樹脂、固形分50質量%、メチルエチルケトン溶剤)を、上記試験片のマスクがない領域の全体に、350メッシュ(紗厚:36μm、開口率:60%)のスクリーン版を用いて塗布し、150℃で1分間乾燥することにより、ポリエステル樹脂からなる保護層を導電性塗膜の上に積層した積層フィルムを得た。
得た積層フィルムについて、実施例1と同様にして、抵抗値および外観変化の有無を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0174】
(実施例5)
実施例1と同様にして導電性フィルムの試験片を得て、試験片の両末端にある接点をセロテープでマスクし、マスクがない領域の全体に薄青色の導電性塗膜が露出した状態とした。
続いて、バイロン240(東洋紡社製ポリエステル樹脂、固形分10質量%、メチルエチルケトン溶剤)100gに、酸化防止剤としてビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド0.3gを添加した塗料を得て、上記試験片のマスクがない領域の全体に、#8のバーコーターを用いて塗布し、150℃で1分間乾燥することにより、ポリエステル樹脂からなる保護層を導電性塗膜の上に積層した積層フィルムを得た。
得た積層フィルムについて、実施例1と同様にして、抵抗値および外観変化の有無を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0175】
(実施例6)
実施例1と同様にして導電性フィルムの試験片を得て、試験片の両末端にある接点をセロテープでマスクし、マスクがない領域の全体に薄青色の導電性塗膜が露出した状態とした。
続いて、バイロン240(東洋紡社製ポリエステル樹脂、固形分10質量%、メチルエチルケトン溶剤)100gに、酸化防止剤としてガリック酸メチル0.3gを添加した塗料を得て、上記試験片のマスクがない領域の全体に、#8のバーコーターを用いて塗布し、150℃で1分間乾燥することにより、ポリエステル樹脂からなる保護層を導電性塗膜の上に積層した積層フィルムを得た。
得た積層フィルムについて、実施例1と同様にして、抵抗値および外観変化の有無を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0176】
(比較例1)
実施例1と同様に積層フィルムを作製し、同様の方法で評価した。ただし、集気びんに満たす気体は、オゾンガスではなく、空気に変更した。これらの結果を表1に示す。
【0177】
(比較例2)
実施例2と同様に導電性フィルムを作製し、同様の方法で評価した。ただし、集気びんに満たす気体は、オゾンガスではなく、空気に変更した。これらの結果を表1に示す。
【0178】
【0179】
(実施例7)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液50gと、メタノール40gと、プロピレングリコール5gと、プラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)5gとを混合して、#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布し、150℃で1分間乾燥し、導電性塗膜を形成した。得られた導電性フィルムを縦60mm×横110mmの大きさに切り取り、その両横の末端5mmの部分に銀ペーストで接点を形成した。各接点において、縦方向に見て20mmごとにカッターを用いて銀ペーストに切り込みを入れ、3等分に区切った銀ペースト間の導通がないようにして、試験片を得た。次いで、試験片の両末端にある接点をセロテープでマスクした。マスクがない領域の全体に薄青色の導電性塗膜が露出した状態とした。
続いて、バイロン240(東洋紡社製ポリエステル樹脂、固形分50質量%、メチルエチルケトン溶剤)を、上記試験片のマスクがない領域の中心の縦20mm×横100mmの領域に、350メッシュ(紗厚:36μm、開口率:60%)のスクリーン版を用いて塗布し、150℃で1分間乾燥した。これにより、帯状のポリエステル樹脂からなる保護層を、導電性塗膜の中心領域にのみ積層した積層フィルムを得た。
【0180】
積層フィルムが備える導電性塗膜の上記マスクがない領域の全体は、3つの帯状の領域に区切られている。各帯の長手方向は導電性塗膜の横方向に沿う。3つの領域は、保護層が積層された中心領域と、その両側で中心領域を挟み、導電性塗膜が露出した上部領域及び下部領域と、からなる。
【0181】
積層フィルムの両末端にあるセロテープのマスクを剥がして銀ペーストの接点を露出させ、デジタルマルチメータ(CUTTOM社製、CDM-17D)を用いて、導電性塗膜の上部領域と中心領域と下部領域の初期の抵抗値(単位:Ω)を測定した。
次に、オゾンガスを充満させた集気びんに上記積層フィルムを入れて5分間静置した後、導電性塗膜の上部領域と中心領域と下部領域のオゾン処理後の抵抗値(単位:Ω)を測定した。また、導電性塗膜の上部領域と中心領域と下部領域の薄青色の外観が、集気びんに入れたことにより変化するか否かを目視にて評価した。以上の結果を表2に示す。
【0182】
【0183】
(実施例8)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液50gと、メタノール40gと、プロピレングリコール5gと、プラスコートRZ-105(互応化学社製、水分散性ポリエステル、固形分25質量%)5gとを混合して、#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布し、150℃で1分間乾燥し、導電性塗膜を形成した。得られた導電性フィルムを縦20mm×横110mmの大きさに切り取り、その両横の末端5mmの部分に銀ペーストで接点を形成し、試験片を得た。次いで、試験片の両末端にある接点をセロテープでマスクした。マスクがない領域の全体に薄青色の導電性塗膜が露出した状態とした。
続いて、セロテープを、上記試験片のマスクがない領域の全体に、貼り付け、粘着剤とセロハンからなる保護層を導電性塗膜の上に積層した積層フィルムを得た。
積層フィルムの両末端にあるセロテープのマスクを剥がして銀ペーストの接点を露出させ、デジタルマルチメータ(CUTTOM社製、CDM-17D)を用いて導電性塗膜の初期の抵抗値(単位:Ω)を測定した。
次に、オゾンガスを充満させた集気びんに上記積層フィルムを入れて5分間静置した後、導電性塗膜のオゾン処理後の抵抗値(単位:Ω)を測定した。また、保護層下にある導電性塗膜の薄青色の外観が、集気びんに入れたことにより変化するか否かを目視にて評価した。
次に、導電性塗膜上のセロテープを剥離し、剥離後の抵抗値(単位:Ω)を測定した。以上の結果を表3に示す。
【0184】
【0185】
<結果>
各例で同じPEDOT-PSS水分散液を用いて導電性塗膜を形成しているので、各例の導電性塗膜の初期抵抗値(Ω)は同じであった。なお、この際に用いた導電性塗膜の表面抵抗値をロレスタ(三菱化学アナリテック社製)で測定したところ400(Ω/□)であった。
実施例1,3においては、導電性塗膜が保護層で被覆されており、オゾンガス中に置かれても、導電性塗膜にオゾンガスが接触しないので、ガス処理の前後で抵抗値は変化しなかった。また、導電性塗膜に含まれるPEDOT-PSSに由来する薄青色はガス処理の前後で変化しなかった。
実施例2においては、導電性塗膜が保護層で被覆されておらず、オゾンガス中に置かれると、導電性塗膜にオゾンガスが接触したことにより、導電性塗膜の抵抗値が50倍以上に上昇した絶縁性塗膜に変化した。ただし、導電性塗膜に含まれるPEDOT-PSSに由来する薄青色は、絶縁性塗膜になった後でも変化しなかった。
実施例4においては、スクリーン印刷によって保護層を形成し、実施例1と同様の結果となった。
実施例5,6においては、保護層に酸化防止剤を含むので、保護層下の導電性塗膜をオゾンガスによる酸化から確実に保護することができた。
比較例1~2においては、空気に接触した導電性塗膜の導電性は変化せず、導電性塗膜の薄青色の外観も変化しなかった。
【0186】
実施例1及び実施例3~6では導電性塗膜の全体に保護層を積層したが、例えばスクリーン印刷等の印刷による塗工方法であれば、所望のパターンで保護層を形成することができる。例えば、回路パターンのうち、回路配線を形成する領域(印刷領域)のみに保護層を形成すれば、回路配線を形成しない領域(非印刷領域)の導電性塗膜を露出した状態とすることができる。この状態でオゾンガスを接触させることにより、保護層の直下の導電性塗膜の導電性を維持しつつ、保護層の無い非印刷領域の導電性を低下させることができ、結果として保護層の直下に回路配線(相対的に導電性が良い領域)を形成することができる(実施例7参照)。また、このように回路配線を形成した導電性塗膜の外観は変わらず、配線領域と非配線領域の目視レベルでの違いはない。このため、タッチパネル等の光透過面に本発明に係る導電性回路を設置すると、光透過面に回路パターンが投影されず、いわゆる「骨見え」の問題が生じず、均一な光透過面が得られる(実施例7参照)。
【0187】
実施例8では、オゾン処理時に保護層を積層しておき、保護層直下の導電性塗膜の導電性や光学特性を維持し、オゾン処理後に保護層を剥離した後においても、導電性塗膜の導電性塗膜や光学特性が維持できることが確認された。この結果から、導電性塗膜に所望の回路を形成した後、保護層を剥離することにより、見た目には均一な(保護層も積層されていない)導電性塗膜であって、実際には所望の回路が形成されている導電性樹脂回路を製造できることが確認された。
なお、実施例1~6,8は参考例である。
【符号の説明】
【0188】
1…基材、2…導電性塗膜、3…保護層、4…絶縁性塗膜、10…部分的導電性塗膜
Q…導電部、R…絶縁部、20…導電性樹脂回路