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特許7496704インバータ装置、制御方法、モータ駆動装置、冷凍空気調和機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】インバータ装置、制御方法、モータ駆動装置、冷凍空気調和機器
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240531BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P27/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020072486
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021170865
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】李 東昇
(72)【発明者】
【氏名】能登原 保夫
(72)【発明者】
【氏名】木下 健
(72)【発明者】
【氏名】田村 正博
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-207753(JP,A)
【文献】特開2013-183475(JP,A)
【文献】特開2011-188674(JP,A)
【文献】特開2011-250671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00- 7/98
H02P 21/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を備えたインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御器と
を含むインバータ装置であって、前記制御器は、
前記スイッチング素子を制御する、変調波信号およびキャリア波信号に基づくパルス信号列を構成する信号区間の幅が基準を下回るか否かを判定する判定部と、
前記幅が前記基準を下回ると判定された信号区間を消去するとともに、前記パルス信号列中の消去する前記信号区間の近隣にあるパルスに関し、前記キャリア波信号の一周期を構成する複数の区間に対応する前記変調波信号の複数の値を修正することにより、前記消去にかかる前記信号区間の前記幅に応じた補正を施す補正部
とを含む、インバータ装置。
【請求項2】
前記信号区間は、オンパルス区間またはオフパルス区間である、請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記信号区間がオフパルス区間である場合、前記近隣にあるパルスは、消去する前記信号区間に先行または後続するオフパルスであり、前記補正により前記オフパルスの幅が広がるように補正される、請求項1または2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記信号区間が、オンパルス区間である場合、前記近隣にあるパルスは、消去する前記オンパルス区間に先行または後続するオンパルスであり、前記オンパルスの幅が広がるように補正される、請求項1~3のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記制御器は、演算回路を用いて、前記パルス信号列の少なくとも2周期分の区間に関する情報に基づいて、前記判定および前記補正を行うことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記制御器は、外部指令または電源電圧の所定の変化に応答して、前記判定部による判定並びに前記補正部による前記消去および前記補正を停止することを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記インバータ装置は、
前記変調波信号を演算する変調波演算部と、
前記キャリア波信号を発生するキャリア波発生器と、
前記変調波信号と、前記キャリア波信号とを比較する比較器と
をさらに含み、
前記判定部は、前記変調波演算部が演算した前記変調波信号の値と、前記キャリア波信号の山または谷の値との関係に基づいて前記判定を行い、
前記補正部は、前記変調波演算部が演算した前記変調波信号の値を修正することにより、前記信号区間の前記消去および前記近隣にあるパルスに対する前記補正を実現する、請求項1~6のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【請求項8】
交流モータが接続されたモータ駆動装置であって、
スイッチング素子を備え、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ回路と、
前記インバータ回路が出力する交流電流を検出する電流検出手段と、
前記インバータ回路を制御する制御器と
を備え、前記制御器は、
前記スイッチング素子を制御する、変調波信号およびキャリア波信号に基づくパルス信号列を構成する信号区間の幅が基準を下回るか否かを判定する判定部と、
前記幅が前記基準を下回ると判定された信号区間を消去するとともに、前記パルス信号列中の消去する前記信号区間の近隣にあるパルスに関し、前記キャリア波信号の一周期を構成する複数の区間に対応する前記変調波信号の複数の値を修正することにより、前記消去にかかる前記信号区間の前記幅に応じた補正を施す補正部
とを含む、モータ駆動装置。
【請求項9】
圧縮機を有する冷凍空気調和機器であって、
請求項8に記載のモータ駆動装置と、
前記圧縮機に内蔵された前記交流モータと
を含む、冷凍空気調和機器。
【請求項10】
スイッチング素子を備えたインバータ回路と前記インバータ回路を制御する制御器とを含むインバータ装置の制御方法であって、制御器が、
前記スイッチング素子を制御する、変調波信号およびキャリア波信号に基づくパルス信号列を構成する信号区間の幅が基準を下回るか否かを判定するステップと、
前記幅が前記基準を下回ると判定された信号区間を消去するとともに、前記パルス信号列中の消去する前記信号区間の近隣にあるパルスに関し、前記キャリア波信号の一周期を構成する複数の区間に対応する前記変調波信号の複数の値を修正することにより、前記消去にかかる前記信号区間の前記幅に応じた補正を施すステップと
とを含む、制御方法。
【請求項11】
前記信号区間がオフパルス区間である場合、前記近隣にあるパルスは、消去する前記信号区間に先行または後続するオフパルスであり、前記補正により前記オフパルスの幅が広がるように補正される、請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
前記信号区間が、オンパルス区間である場合、前記近隣にあるパルスは、消去する前記オンパルス区間に先行または後続するオンパルスであり、前記オンパルスの幅が広がるように補正される、請求項10または11に記載の制御方法。
【請求項13】
前記制御方法は、制御器が、
演算された前記変調波信号を取得するステップと、
演算された前記変調波信号の値に対し補正を施すステップと、
前記補正が施された変調波信号の値と、発生された前記キャリア波信号の値とを比較するステップと
をさらに含み、
前記判定するステップでは、制御器が、取得した前記変調波信号の値と、前記キャリア波信号の山または谷の値との関係に基づいて前記判定を行い、
前記補正するステップでは、制御器が、取得した前記変調波信号の値を修正することにより、前記信号区間の前記消去および前記近隣にあるパルスに対する前記補正を実現する
ことを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インバータ技術に関し、より詳細には、インバータ装置、該インバータ装置における制御方法、該インバータ装置を備えるモータ駆動装置、および該モータ駆動装置を備える冷凍空気調和機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気調和機の圧縮機モータやファンモータなどの交流モータを駆動するために、インバータ回路が用いられている。インバータ回路を構成する半導体スイッチング素子は、制御器からのパルス幅変調(PWM, Pulse Width Modulation)信号に従って、オン(導通)およびオフ(非導通)の動作を行うため、スイッチング損失が生じる。
【0003】
このスイッチング損失の低減に関し、例えば、特許第5439352号公報(特許文献1)に開示される技術が知られている。特許文献1は、前回演算された制御周期におけるIGBTの状態と今回演算された次の制御周期におけるIGBTの状態との関係が不連続の関係となった場合に、これらの状態に基づいて、次の制御周期においてIGBTを導通または遮断する制御を追加して行う構成を開示する。
【0004】
また、特許文献2は、出力電圧の誤差補正手段が、上記演算された線間電圧パルス幅の誤差を、上記最小パルス幅制限した相以外の相の相電圧信号のパルス幅で補正するとともに、この相電圧信号のパルス幅補正に伴う線間電圧パルス幅の誤差を、上記最小パルス幅制限が行われた相、および上記パルス幅補正が行われた相の二相以外の相の相電圧信号のパルス幅で補正する構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5439352号公報
【文献】特許第6311401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本開示は、スイッチング損失の低減および出力電圧誤差の抑制が図られたインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示では、上記課題を解決するために、スイッチング素子を備えたインバータ回路と、インバータ回路を制御する制御器とを含み、下記特徴を有するインバータ装置を提供する。本インバータ装置において、制御器は、スイッチング素子を制御するパルス信号列を構成する信号区間の幅が基準を下回るか否かを判定する判定部を含む。本インバータ装置は、さらに、幅が基準を下回ると判定された信号区間を消去するとともに、パルス信号列中の消去する信号区間の近隣にあるパルスに関し、消去にかかる信号区間の幅に応じた補正を施す補正部とを含む。
【0008】
その他、本願が開示する課題、およびその解決方法は、発明を実施するための形態の欄および図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、インバータ装置において、スイッチング損失を低減するとともに出力電圧誤差を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1の実施形態によるインバータ装置の全体構成図である。
図2図2は、第1の実施形態によるインバータ装置における制御器の内部構成図である。
図3図3は、第1の実施形態による制御器におけるパルス幅変調制御器の内部構成図である。
図4図4は、第1の実施形態によるインバータ装置のパルス幅変調信号の生成の仕方を説明するタイムチャートである。
図5図5は、インバータ装置が生成する変調波およびパルス幅変調信号におけるパルス消去およびパルス幅補正の対象となるパルスを説明する図である。
図6図6は、第1の実施形態によるインバータ装置においてパルス消去およびパルス幅補正方法を説明する波形図(ケース1)である。
図7図7は、第1の実施形態によるインバータ装置においてパルス消去およびパルス幅補正方法を説明する波形図(ケース2)である。
図8図8は、第1の実施形態によるインバータ装置においてパルス消去およびパルス幅補正方法を説明する波形図(ケース3)である。
図9図9は、第1の実施形態によるインバータ装置においてパルス消去およびパルス幅補正方法を説明する波形図(ケース4)である。
図10図10は、第1の実施形態によるインバータ装置が実行する制御方法を示すフローチャートである。
図11図11は、第2の実施形態によるモータ駆動装置の構成図である。
図12図12は、第2の実施形態によるモータ駆動装置の制御器の内部構成図である。
図13図13は、第3の実施形態による冷凍空調機器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明の実施形態は、以下に説明する具体的な実施形態に限定されるものではない。なお、図面において、同一符号は、同一または相当部分を示すものとする。
【0012】
本発明の実施形態は、インバータ装置、インバータ装置の制御方法、インバータ装置を含むモータ駆動装置およびモータ駆動装置を備える冷凍空気調和機器を対象とする。本発明の実施形態によるインバータ装置は、インバータ回路を構成するスイッチング素子を制御するパルス信号列において、幅が基準を下回る信号区間(例えばオンパルス区間やオフパルス区間)を消去するとともに、パルス信号列中の消去にかかる信号区間の近隣の少なくとも1つのパルス(例えば先行または後続するオンパルスや先行または後続するオフパルス)に対し、消去した信号区間の幅に応じた補正を施すことを特徴とするものである。これにより、好ましくは広い動作領域において、スイッチング損失の低減および出力電圧誤差の抑制を図ることが可能となる。
【0013】
以下、より具体的な実施形態をもって、スイッチング損失の低減および出力電圧誤差の抑制が可能なインバータ装置、インバータ装置の制御方法、インバータ装置を含むモータ駆動装置およびモータ駆動装置を備える冷凍空気調和機器について説明する。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、図1図10を参照しながら、本発明の第1の実施形態によるインバータ装置100およびその制御方法について説明する。なお、図1図10に示した第1の実施形態は、太陽光発電設備や蓄電池向けの系統連系インバータ装置およびその制御方法に対応するものである。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態によるインバータ装置100の全体構成を示す。図1に示すインバータ装置100は、その交流側で交流電源1に接続され、直流側で直流負荷または直流電源(以下、「直流負荷/直流電源10」と参照する。)に接続されている。
【0016】
インバータ装置100は、交流電源1に直列に接続されたノイズフィルタ2と、リアクトル3と、直流負荷/直流電源10に接続されるインバータ回路4とを含み構成される。インバータ装置100は、さらに、インバータ回路4の直流側の正極/負極間に接続されたコンデンサ5と、交流電源1の交流電圧を検出する電圧検出回路6と、正極/負極間の直流電圧を検出する電圧検出回路7と、インバータ回路4のパルス幅変調(以下、パルス幅変調をPWM(Pulse Width Modulation)と参照する場合がある。)制御を行う制御器8と、交流電源1の交流電流を検出する電流検出回路9とをさらに含み構成されている。
【0017】
以下、インバータ回路4の動作モードについて説明する。インバータ回路4の動作モードには、整流モード(交流/直流変換モード)と、回生モード(直流/交流変換モード)とがある。整流モードは、交流電源1から交流電力を受電して直流負荷/直流電源10に直流電力を供給するモードである。回生モードは、直流負荷/直流電源10からの直流電力を逆変換して交流電源1(交流負荷)へ交流電力を出力するモードである。これら両動作モードの切り替えは、制御器8からの制御信号によって実現される。直流負荷/直流電源10に用いられる直流電源としては、例えば、太陽光発電設備や蓄電池などを挙げることができる。
【0018】
図1に示す交流電源1は、3相交流の電源であり、インバータ回路4は、3相交流電源1に対応して、6個の半導体スイッチング素子11と各半導体スイッチング素子11に逆並列に接続されたダイオード12とによって3相ブリッジ回路が構成されている。なお、各スイッチング素子11に逆並列に接続されたダイオード12は、それぞれのスイッチング素子11のオフ時の転流動作のためのダイオードである。
【0019】
コンデンサ5は、インバータ回路4の直流側の直流電圧のリップル電圧およびサージ電圧を抑制するための要素である。
【0020】
制御器8は、電圧検出回路6、電圧検出回路7および電流検出回路9からの検出信号に基づいて、インバータ回路4の各半導体スイッチング素子11をスイッチング(オン・オフ)制御するためのパルス幅変調(PWM)信号を生成する。制御器8としては、マイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置が用いられ得る。制御器8は、また、サンプリングホールド回路およびA/D(Analog/Digital)変換部を備えており、入力される各電圧・電流の検出信号がデジタル信号に変換される。
【0021】
以下、図2を参照しながら、制御器8の内部構成を説明する。図2は、インバータ装置100における制御器8の内部構成を示す。制御器8は、上述した演算処理装置が所定のプログラムを実行することで、インバータ回路4に対するPWM信号を生成するように動作する。
【0022】
制御器8は、図2に示すように、電源位相演算器21と、電圧制御器22と、3相/2軸変換器23と、2軸/3相変換器24と、PWM制御器25とを含み構成される。
【0023】
電源位相演算器21は、電圧検出回路6が検出した交流電圧検出信号が入力され、電源電圧位相(θ)を演算して、演算された電源電圧位相(θ)を3相/2軸変換器23および2軸/3相変換器24それぞれへ出力する。
【0024】
3相/2軸変換器23は、電流検出回路9が検出した3相交流系統の2相分の交流電流検出信号(I,I)と、電源位相演算器21で演算された電源電圧位相(θ)を用い、下記式(1)および式(2)に基づいて、d軸電流Iとq軸電流Iを演算する。下記式(1)は、3相/2軸変換の演算式を表し、下記式(2)は回転座標系への変換の演算式を表している。
【0025】
【数1】
【0026】
電圧制御器22は、d軸電流指令値I およびq軸電流指令値I と、3相/2軸変換器23で求められたd軸電流検出値Iおよびq軸電流検出値Iの誤差を無くすように、比例積分(PI)制御などを用いて、d軸電圧指令値V 及びq軸電圧指令値V を演算する。
【0027】
また、図2の2軸/3相変換器24は、d軸電圧指令値V およびq軸電圧指令値V と、電源位相演算器21で求められた電源電圧位相(θ)とを用い、下記式(3)および式(4)に基づいて、電圧指令の逆変換を行い、3相電圧指令値(V ,V ,V )を算出してPWM制御器25へ出力する。なお、下記式(3)は、回転座標系から固定座標系への変換の演算式を表す。また、下記式(4)は、2軸/3相変換の演算式を表す。
【0028】
【数2】
【0029】
PWM制御器25は、2軸/3相変換器24からの3相電圧指令値(V ,V ,V )と、直流電圧検出信号Edcと、所定周波数のキャリア波とに基づいてPWM制御信号を生成し、インバータ回路4の各半導体スイッチング素子11をスイッチング動作させ、該インバータ回路4の出力電圧を制御する。
【0030】
PWM制御器25におけるPWM制御の方式としては、特に限定されるものではないが、例えば、マイクロコンピュータの内蔵機能を用いて、三角波または鋸歯状波のキャリア波信号を生成し、各レジスタの出力と比較して、出力信号のレベルを制御する、いわゆる三角波比較方式を採用することができる。以下、三角波のキャリア波信号を用いた三角波比較方式を用いてより具体的に説明する。
【0031】
しかしながら、三角波のキャリア波信号を用いる三角波比較方式は、あくまでも一例であり、鋸歯状波のキャリア波信号を用いてもよい。また、実装の容易性およびハードウェアコストを低減する観点からは、三角波比較方式を採用することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0032】
図3は、制御器8におけるPWM制御器25の内部構成図を示す。なお、図3には、マイクロコンピュータ内部でのPWM制御器25の構成例が示される。なお、図3に示す構成例は、三角波比較方式に基づくものである。
【0033】
PWM制御器25は、タイマ機能を用いて、キャリア波発生器35で、三角波のキャリア波信号を発生させるとともに、山(上に凸部分の頂点)・谷(下に凸部分の頂点)のタイミングを示す山・谷信号を生成する。
【0034】
PWM制御器25は、2軸/3相変換器24からの3相電圧指令値(V ,V ,V )を、変調波演算器30で、直流電圧検出信号Edcを用いて正規化し、変調波信号に変換する。
【0035】
PWM制御器25は、変調波演算器30で演算された変調波信号に対し、狭パルス消去補正器31で、PWM信号においてパルス区間の幅が所定基準以下となるパルスを消去するための補正処理を行う。
【0036】
狭パルス消去補正器31の出力は、バッファレジスタ32に入力され、山・谷信号に従って、キャリア波の山または谷の時点で、比較用レジスタ33へ転送される。比較器34は、比較用レジスタ33の出力(変調波信号)と、キャリア波発生器35で発生されたキャリア波信号と比較を比較し、PWM信号を生成する。
【0037】
図4は、インバータ装置100におけるPWM信号の生成の仕方を説明する。図4には、三角波および1相分の電圧指令のレジスタ更新のタイムチャートが示されている。狭パルス消去補正器31からの変調波41は、所定のタイミングでバッファレジスタ32に入力されるが、キャリア波の山・谷時点で比較用レジスタ33に転送され、その出力が変調波42となる。比較器34は、比較用レジスタ33からの出力である変調波42とキャリア波43と比較して、PWM信号44を生成する。
【0038】
PWM信号44は、キャリア波信号が、比較用レジスタ33に転送された変調波42のレベルを下から上へ横切るタイミングで、HIGH状態からLOW状態へ遷移する。一方で、PWM信号44は、キャリア波が変調波42のレベルを上から下へ横切るタイミングで、LOW状態からHIGH状態へ遷移する。
【0039】
以下、狭パルス消去補正器31が実行する処理内容について、より詳細に説明する。
【0040】
変調波42がキャリア波の山あるいは谷に近づくと、PWM信号44のオンおよびオフの区間が狭くなる。オンおよびオフの区間の狭いPWM信号に対応する出力電圧の変化分が小さいため、PWM信号におけるこのような狭いパルス区間を消去することができれば、半導体スイッチング素子11のスイッチング動作の回数を低減することができ、インバータ損失を低減することができると期待される。一方で、このような狭いパルス区間を単純に消去してしまうと、消去するパルス区間の幅がある程度ある場合は特に、インバータ回路4の交流電圧に微小な誤差が発生し、電流制御誤差などが発生してしまう可能性がある。
【0041】
そこで、消去する狭いパルス区間の誤差分を補正するために、本実施形態においては、PWM信号において、消去する狭いパルス区間に隣接する他のパルスの幅を補正ないし調整するよう構成される。
【0042】
再び図3を参照すると、図3には、狭パルス消去補正器31のより詳細な構成が示されている。図3に示すように、狭パルス消去補正器31は、判定部36と、補正部37とを含み構成される。
【0043】
判定部36は、スイッチング素子11を制御するパルス信号列であるPWM信号を構成する信号区間の幅が所定基準を下回るか否かを判定する。所定基準を下回る信号区間は、後述するように、補正部37により消去されることになる。以下の説明では、2レベルのインバータであるものとして説明を行い、信号がHIGH状態にある区間をオンパルス区間と参照し、信号がLOW状態の区間をオフパルス区間と参照する。オンパルス区間およびオフパルス区間の両方が、上記判定にかかる信号区間となり得る。
【0044】
信号区間の幅に対する上記所定基準は、例えば、幅に対する閾値であってよく、閾値としては、所定幅の値で指定され得る。例えば、所定幅として、5~30μsecの範囲の値が指定され得る。ただし、消去することが望ましいパルスの幅は、キャリア波の周期などに依存するため、キャリア波の周期に対する所定割合の値で指定されてもよい。例えば、キャリア周期に対する所定割合として、5~15%の範囲の値が指定され得る。キャリア周波数が例えば100~200μs程であった場合、5~15%の範囲の割合に対応して、5~30μsecの所定幅が得られる。
【0045】
補正部37は、判定部36により幅が基準を下回ると判定されたオンパルス区間またはオフパルス区間を消去するとともに、PWM信号中の消去するオンパルス区間またはオフパルス区間の近隣にあるパルスに対し、消去にかかるオンパルス区間またはオフパルス区間の幅に応じた補正を施す。
【0046】
なお、ここで、パルス区間の消去には、LOW状態からHIGH状態への遷移およびHIGH状態からLOW状態への遷移を含む区間(オンパルス)を消去し、区間中LOWレベルで遷移が無い状態とすること、および、HIGH状態からLOW状態への遷移およびLOW状態からHIGH状態への遷移を含む区間(オフパルス)を消去し、区間中HIGHレベルで遷移が無い状態とすることを含み得る。
【0047】
オフパルス区間を消去の対象とする場合、上記近隣の補正対象となるパルスは、消去するオフパルス区間に隣接するオフパルスとすることができ、近隣のオフパルスの幅が広がるように補正される。隣接するオフパルスとしても、消去するオフパルス区間に先行する、または後続するオフパルスとすることができる。オンパルス区間を消去の対象とする場合、上記近隣の補正対象となるパルスは、消去するオンパルス区間に隣接するオンパルスとすることができ、該近隣のオンパルスの幅が広がるように補正される。隣接するオンパルスとしても、消去するオンパルス区間に先行する、または後続するオンパルスとすることができる。
【0048】
なお、判定部36による判定、並びに、補正部37によるPWM信号におけるパルス区間の消去およびパルス区間の幅の補正ないし調整は、本実施形態において、狭パルス消去補正器31により行われる。そして、狭パルス消去補正器31は、PWM信号を入力として、これに対しパルス区間の消去およびパルス区間幅を調整する修正を加えるという方法ではなく、PWM信号を発生させるための変調波の電圧指令値に対し補正を施す形で、上述した狭いパルスの消去および隣接パルスの補正を実現する。
【0049】
すなわち、判定部36は、変調波演算器30が演算した変調波信号のレベル値と、キャリア波発生器35で発生されたキャリア波信号の基準点(三角波の山または谷の頂点)のレベル値との関係、より具体的には差分、に基づいて上記判定を行う。補正部37は、変調波演算部が演算した変調波信号の値を修正することにより、上述したパルス区間の消去および近隣にあるパルスに対する補正を実現する。
【0050】
なお、上記判定部36による判定および上記補正部37による補正は、演算回路を用いて、PWM信号における2周期分のパルス区間に関する情報に基づいて行うことができる。また、好ましくは、制御器8は、外部指令または電源電圧の所定の変化に応答して、判定部36による判定並びに補正部37による消去および補正を停止することができる。
【0051】
図5は、インバータ装置100が生成する変調波信号およびPWM信号における処理対象となるパルスを説明する。図5には、変調波42、キャリア波43およびPWM信号44とが示されている。
【0052】
図5に示す51は、変調波42のレベルが極大値を迎えて減少し始める局面を示し、幅が狭いオフパルス区間と、それに後続する幅が広めのオフパルスとを含む部分を示す。図5に示す52は、変調波42のレベルが増加し極大値を迎える局面を示し、幅が狭いオフパルス区間と、それに先行する幅が広めのオフパルスとを含む部分を示す。
【0053】
図5に示す53は、変調波42のレベルが極小値を迎えて増加し始める局面を示し、幅が狭いオンパルス区間と、それに後続する幅が広めのオンパルスとを含む部分を示す。図5に示す54は、変調波42のレベルが減少し極小値を迎えた局面を示し、幅が狭いオンパルス区間と、それに先行する幅が広めのオンパルスを含む部分を示す。
【0054】
本実施形態においては、狭パルス消去補正器31は、所定の基準を満たす幅が狭い方のパルス区間を消去するとともに、幅が広い方のパルスの幅をより広げるように補正を実施する。
【0055】
図6図9は、第1の実施形態によるインバータ装置においてパルスの消去および補正方法について、上述した4つのケースについてより詳細に説明する。図6図9は、各ケースでの補正処理前後のキャリア波、変調波およびPWM信号の波形図を示す。図6図9において、上段は、補正処理前の波形を示し、下段は、補正処理後の波形を示す。
【0056】
まず、図6を参照して、第1のケースについて説明する。第1のケースは、幅が所定基準を下回るオフパルスを消去し、消去した分だけ後続するオフパルスの幅を広げる補正を行うケースである。
【0057】
図6の上部に示すように、補正処理前のPWM信号44には、幅Aと幅Bの2つの連続したオフパルスがある。幅Aは、所定値より狭く、幅Aのオフパルスの消去を行うものとする。また、消去に伴い、消去したオフパルスの幅Aの分だけ、幅Bのオフパルスに補正(幅を加算)する。PWM信号44上での幅Bのオフパルスへの補正を行うため、狭パルス消去補正器31は、変調波42における幅Bのオフパルスを生成するための電圧指令値を補正する。
【0058】
図6の下部には補正処理後の波形を示す。図6には、幅Aのオフパルスが消去され、幅Bのオフパルスが補正された後の幅Cのオフパルスが示されている。補正後の幅Cのオフパルスの幅は、幅Aと幅Bの合計となっている。さらに、出力平均電圧を維持する観点からは、幅Cのオフパルスの位置は、元の幅Aのオフパルスと幅Bのオフパルスとの加重平均位置に移動したほうが望ましいところ、キャリア波を変更せずに同様の効果を得るため、図6の下部に示すように、幅Cのオフパルスの立ち上がりエッジを、対応するキャリア波の山に一致するタイミングに移動している。
【0059】
以下、計算式を用いて、パルス区間の消去と消去するパルスに隣接するパルスの補正を実現するための変調波の調整方法について説明する。
【0060】
ここで、補正処理前の変調波42の各タイミング(山-谷または谷-山の区間)でのレベルをMa_up、Ma_dw、Mb_upおよびMb_dwとし、キャリア波の山の頂点の高さをTh、キャリア波の谷の頂点の高さを0、所定幅(狭いパルスであるかの判定値)に対応する変調波におけるレベルをTminとする。まずは、幅Aまたは幅Bが所定幅より狭くなるか否かを、下記式(5)および式(6)を用いて判定する。
【0061】
【数3】
【0062】
上記式(5)と式(6)のいずれかが成立する場合、消去および補正処理を実施する。ただし、上記式(5)と式(6)の両方とも成立する場合は、狭い方のオフパルスを消去して、広い方のオフパルスを広げる補正するものとする。
【0063】
そして、図6上部に示す第1のケースのように幅Aのオフパルスを消去して、後続する幅Bのオフパルスを補正する場合、各変調波の調整は、下記式(7)のように行う。
【0064】
【数4】
【0065】
また、図7は、幅が所定基準を下回るオフパルスを消去し、消去した分だけ、先行するオフパルスの幅を広げる補正を行う第2のケースを示す。図7に示すケースでは、幅Bのオフパルスを消去して幅Aのオフパルスを広げる補正を行う場合であり、各変調波の調整は、下記式(8)のように行う。
【0066】
【数5】
【0067】
以下、図8および図9を参照して、オンパルスを消去する第3および第4のケースについて説明する。図8図9に示すように、変調波42がキャリア波43の谷に近づくと、幅が狭いオンパルスが発生する。図8の第3のケースは、幅が所定基準を下回るオンパルスを消去し、消去した分だけ、後続するオンパルスの幅を広げる補正を行うケースである。一方、図9の第4のケースは、幅が所定基準を下回るオンパルスを消去し、消去した分だけ、先行するオンパルスの幅を広げる補正を行うケースである。
【0068】
この狭いオンパルスに対する判定および消去補正処理は、幅Aと幅Bが所定幅より狭くなるか否かを、下記式(9)および式(10)を用いて判定する。
【0069】
【数6】
【0070】
上記式(9)と式(10)のいずれかが成立する場合、消去および補正処理を実施する。ただし、上記式(9)と式(10)の両方とも成立する場合は、狭い方のオンパルスを消去して、広い方のオンパルスを広げるように補正する。
【0071】
そして、図8の上部に示す第3のケースのように幅Aのオンパルスを消去して幅Bのオンパルスを補正する場合、各変調波の調整は、下記式(11)のように行う。
【0072】
【数7】
【0073】
また、図9に示すケースでは、幅Bのオンパルスを消去して、先行する幅Aのオンパルスを広げる補正を行う場合であり、各変調波の調整は、下記式(12)のように行う。
【0074】
【数8】
【0075】
なお、上述した狭パルス消去補正器31の処理には、前後2周期のキャリア波分の変調波情報が用いられる。このために、例えば、変調波のバッファを設けて、バッファに保存した前回の変調波と、今回演算した変調波とを使用するように構成することができる。このとき、バッファレジスタに入力する変調波は処理した後の前回値であるため、一回のキャリア周波数分の遅延が発生し得るところ、この処理の遅延の影響が無視できない場合は、一時的に狭パルス消去補正器31の処理を停止して、今回演算した変調波をそのまま使用することで、処理遅延の影響を抑制できる。なお、例えば、大きな変化を生じさせる外部指令または電源電圧の所定の変化(例えば急変)がある場合などに、影響が無視できない場合に該当する。
【0076】
以下、図10を参照しながら、上述した狭いパルスの消去および前後で隣接するパルスの補正を実現する制御方法について説明する。図10は、第1の実施形態によるインバータ装置100が実行する制御方法を示すフローチャートである。
【0077】
図10に示す制御は、ステップS100から開始する。ステップS101では、狭パルス消去補正器31は、キャリア波2周期の変調波情報として、補正処理前の変調波のレベル(Ma_up、Ma_dw、Mb_upおよびMb_dw)を取得する。
【0078】
ステップS102では、狭パルス消去補正器31は、上記式(5)が成立したか否かを判定する。上述したように、上記式(5)は、変調波42が第1周期目のキャリア波の山に近づき、基準を下回る幅を有するオフパルスであるかを判定するために用いられる。ステップS102で、上記式(5)が成立した場合は、ステップS103へ処理が分岐される。ステップS103では、狭パルス消去補正器31は、さらに上記式(6)が成立したか否かを判定する。上述したように、上記式(6)は、変調波42が第2周期目のキャリア波の山に近づき、基準を下回る幅を有するオフパルスであるかを判定するために用いられる。
【0079】
ステップS103で、上記式(6)が成立していない場合は、ステップS105へ処理が分岐される。一方、ステップS103で、さらに上記式(6)が成立した場合は、ステップS104へ処理が分岐される。これは、上述した上記式(5)と式(6)の両方とも成立する場合に対応し、ステップS104では、狭パルス消去補正器31は、上記式(5)の左辺が上記式(6)の左辺より小さいか否かを判定し、狭い方のオフパルスを求める。ステップS104で、上記式(5)の左辺が上記式(6)の左辺より小さいと判定された場合は、ステップS105へ処理が分岐される。この場合は、先行する第1周期目のオフパルスの方が幅が狭いということになる。
【0080】
ステップS105では、狭パルス消去補正器31は、上記式(7)に基づいて、変調波のレベル(Ma_up、Ma_dw、Mb_upおよびMb_dw)を修正し、ステップS115で、修正された変調波のレベル(Ma_up’、Ma_dw’、Mb_up’およびMb_dw’)を出力し、処理を終了する。変調波の出力が継続する場合は、ステップS101から次のサイクルについて処理が再度開始される。ステップS105では、先行する幅の狭いオフパルスが消去されて、後続する広い幅のオフパルスが広げられる。
【0081】
一方、ステップS102で、上記式(5)が成立していない場合は、ステップS106へ処理が分岐される。ステップS106では、狭パルス消去補正器31は、上記式(6)が成立したか否かを判定する。ステップS106で、上記式(6)が成立した場合は、ステップS107へ処理が進められる。また、ステップS104で、上記式(5)の左辺が上記式(6)の左辺より小さくはないと判定された場合も、ステップS107へ処理が分岐される。
【0082】
ステップS107では、狭パルス消去補正器31は、上記式(8)に基づいて、変調波のレベル(Ma_up、Ma_dw、Mb_upおよびMb_dw)を修正し、ステップS115で、修正された変調波のレベル(Ma_up’、Ma_dw’、Mb_up’およびMb_dw’)を出力し、処理を終了する。ステップS107では、後続する幅の狭いオフパルスが消去されて、先行する広い幅のオフパルスが広げられる。
【0083】
一方、ステップS106で、上記式(6)が成立していない場合は、ステップS108へ処理を分岐させる。この場合は、変調波42がキャリア波の山に近づいていないということになる。
【0084】
ステップS108では、狭パルス消去補正器31は、上記式(9)が成立したか否かを判定する。上述したように、上記式(9)は、変調波42が第1周期目のキャリア波の谷に近づき、基準を下回る幅を有するオンパルスであるかを判定するために用いられる。ステップS108で、上記式(9)が成立した場合は、ステップS109へ処理が分岐される。ステップS109では、狭パルス消去補正器31は、さらに上記式(10)が成立したか否かを判定する。上述したように、上記式(10)は、変調波42が第2周期目のキャリア波の谷に近づき、基準を下回る幅を有するオンパルスであるかを判定するために用いられる。
【0085】
ステップS109で、上記式(10)が成立していない場合は、ステップS112へ処理が分岐される。一方、ステップS109で、さらに上記式(10)が成立した場合は、ステップS110へ処理を分岐させる。これは、上述した上記式(9)と式(10)の両方とも成立する場合に対応し、ステップS110では、狭パルス消去補正器31は、上記式(9)の左辺が上記式(10)の左辺より小さいか否かを判定し、
狭い方のオンパルスを求める。ステップS110で、上記式(9)の左辺が上記式(10)の左辺より小さいと判定された場合は、ステップS112へ処理が分岐される。この場合は、先行する第1周期目のオンパルスの方が幅が狭いということになる。
【0086】
ステップS112では、狭パルス消去補正器31は、上記式(11)に基づいて、変調波のレベル(Ma_up、Ma_dw、Mb_upおよびMb_dw)を修正し、ステップS115で、修正された変調波のレベル(Ma_up’、Ma_dw’、Mb_up’およびMb_dw’)を出力し、処理を終了する。ステップS112では、先行する幅の狭いオンパルスが消去されて、後続する広い幅のオンパルスが広げられる。
【0087】
ステップS108で、上記式(9)が成立していない場合は、ステップS111へ処理を分岐させる。ステップS111では、狭パルス消去補正器31は、上記式(10)が成立したか否かを判定する。ステップS111で、上記式(10)が成立した場合は、ステップS113へ処理を進める。また、ステップS110で、上記式(9)の左辺が上記式(10)の左辺より小さくはないと判定された場合も、ステップS113へ処理を分岐させる。
【0088】
ステップS113では、狭パルス消去補正器31は、上記式(12)に基づいて、変調波のレベル(Ma_up、Ma_dw、Mb_upおよびMb_dw)を修正し、ステップS101へ戻り、ステップS115で、修正された変調波のレベル(Ma_up’、Ma_dw’、Mb_up’およびMb_dw’)を出力し、処理を終了する。ステップS113では、後続する幅の狭いオンパルスが消去されて、先行する広い幅のオンパルスが広げられる。
【0089】
一方、ステップS111で、上記式(10)が成立していない場合は、ステップS114で、入力された変調波のレベルをそのまま、出力する変調波のレベル(Ma_up’、Ma_dw’、Mb_up’およびMb_dw’)とし、ステップS115でそれを出力し、処理を終了する。この場合は、変調波42がキャリア波の谷に近づいていないということになり、さらに、図10に示すフローではステップ106からの分岐を経由しているので、キャリア波の山にも近づいていないということになるので、変調波のレベルの修正は不要となる。
【0090】
インバータ回路において、インバータの変調率(インバータ出力電圧指令と直流電圧との比)が高い領域(>0.8)では、インバータの各相の出力電圧において、狭いパルス(例えばキャリア周波数が100~200μsecとして約10μs未満)が頻発する。このような狭いパルスを消去すれば、インバータ回路のスイッチング損失を低減できるところ、該当相の出力電圧の誤差の発生を防止し、電流ひずみを防止することが望ましい。1μs程度のパルスを消去しても大きな出力電圧の誤差は生じないが、10μs程度のパルスを消去した場合、キャリア周波数が100~200μsであるとすると、10~5%程度の変化となり、出力電圧の誤差を無視できなくなる。
【0091】
上述した実施形態では、狭パルス消去補正器31が、インバータの各相の出力電圧において発生する所定閾値(例えば10μs)未満の狭いパルスを消去するとともに、パルス信号列中の消去にかかる信号区間(例えばオンパルス区間やオフパルス区間)の近隣の少なくとも1つのパルス(例えばオンパルス、オフパルス)に対し、消去したパルス信号区間の幅に応じた補正を施すことを特徴とする。狭パルス消去補正器31の追加により、好ましくは広い動作領域において、インバータ回路4のスイッチング損失の低減および出力電圧誤差の抑制を実現できる。
【0092】
なお、説明する実施形態では、2レベルのインバータ回路であるとして説明した。しかしながら、他の実施形態では、3レベルなどのマルチレベルのインバータ回路に対して適用してもよい。マルチレベルのインバータ回路の場合も、狭い所定レベルのパルス区間を消去対象として検出し、その近隣の他のパルスの幅を調整することができる。
【0093】
<第2の実施形態>
以下、図11および図12を参照しながら、上述したインバータ回路を備える、第2の実施形態によるモータ制御装置について説明する。
【0094】
図11は、第2の実施形態によるモータ駆動装置200の全体構成を示す図である。図11に示すように、モータ駆動装置200には、交流電源201とモータ210が接続されており、主に、整流回路202、平滑コンデンサ203、インバータ回路204、電流検出回路206、直流電圧検出回路207および制御器208を備えている。
【0095】
整流回路202は、交流電源201に接続され、交流電源201からの交流電圧を直流電圧に変換する。平滑コンデンサ203は、整流回路202の直流出力端子に接続され、整流回路202の出力である直流電圧を平滑する。インバータ回路204は、制御器208から入力されたPWM信号に従って、IGBTやパワーMOSなどの半導体スイッチング素子211をオン・オフ動作させ、平滑コンデンサ203の出力である直流電圧を交流電圧に変換して出力し、モータ210の回転数を制御する。
【0096】
なお、交流電源201に代え、蓄電池などの直流電源から給電する場合は、整流回路202を省略し、直流電源の出力をインバータ回路204に入力する構成としても良い。
【0097】
また、電流検出回路206は、平滑コンデンサ203とインバータ回路204との間に設けられたシャント抵抗により、インバータ回路204の直流電流(母線電流)を検出する。直流電圧検出回路207は、平滑コンデンサ203の両端の直流電圧を検出する。
【0098】
制御器208は、電流検出回路206および直流電圧検出回路207の出力に基づいてインバータ回路204を制御するPWM信号を生成する。なお、制御器208は、マイクロコンピュータもしくはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)などの半導体演算素子を用いて実装することができる。
【0099】
図12は、第2の実施形態によるモータ駆動装置200の制御器208の内部構成を示す。図12は、制御器208は、モータ210に印加する電圧指令信号を演算し、インバータ回路204を制御するPWM制御信号を生成する。制御器208は、より具体的には、速度制御器220と、d軸電流指令発生器221と、電圧制御器222と、2軸/3相変換器223と、速度位相推定器224と、3相/2軸変換器225と、電流再現演算器226と、PWM制御器227とを備える。
【0100】
電流再現演算器226は、電流検出回路206が出力する母線電流信号Ishと、2軸/3相変換器223が出力する3相電圧指令値V ,V ,V を用いて、インバータ回路204の出力電流I、I、Iを再現する。なお、図12では、コスト低減のために、母線電流信号Ishから3相電流を再現する方式を採用しているが、電流センサなどの電流検出手段を用いてインバータ回路204の出力である交流電流を検出しても良い。この場合は、電流検出手段が検出した3相電流を3相/2軸変換器225に入力することになる。図12に示すモータ制御に関係する電圧制御器222は、公知技術を採用することができ、詳細な説明は、省略する。
【0101】
PWM制御器227は、第1の実施形態で説明したPWM制御器25と同様の構成を備え、2軸/3相変換器223からの3相指令電圧(V 、V 、V )と、直流電圧検出回路207からの直流電圧検出信号Edcを用いて、インバータ回路204のPWM信号を作成する。
【0102】
第1の実施形態について説明した通り、PWM制御器227は、図3と同様な内部構成を備えており、狭パルス消去補正器31を用いて、PWM信号中の狭いオフパルスおよびオンパルスを消去するとともに、隣接するパルスを補正するよう構成されている。
【0103】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、インバータ回路204のスイッチング損失の低減および出力電圧誤差の抑制を実現した、モータ駆動装置200を提供することが可能となる。モータ駆動装置200は、スイッチング損失が低減されているため、消費電力を削減することが可能となる。
【0104】
<第3の実施形態>
以下、図13を参照しながら、上述したインバータ回路を備える、第3の実施形態による冷凍空調機器300について説明する。ここで、冷凍空調機器(冷凍空気調和機器)とは、エアーコンディショナーや、冷蔵庫、冷凍庫など、冷媒および冷凍サイクルを利用した機器を総称するものである。冷凍空気調和機器の例としては、より具体的には、ルームエアコンやガスエンジンヒートポンプエアコンなど空気調和機、冷凍機やチリングユニットなどの熱源機器、ショーケースや冷凍冷蔵庫、ユニットクーラー、製氷機など業務用冷凍機、カーエアコンなどの輸送用冷凍機器、ヒートポンプ給湯機などが含まれ得る。
【0105】
図13は、第3の実施形態における冷凍空調機器300の構成を示す。冷凍空調機器300は、空気の温度を調和する装置であり、室内機300Aと室外機300Bとが冷媒配管306により接続されて構成される。
【0106】
ここで室外機300Bは、冷媒と空気の熱交換を行う室外熱交換器302と、室外熱交換器302に空気を送風するファン304と、冷媒を圧縮して循環させる圧縮機305とを備える。
【0107】
また、圧縮機305は、内部に永久磁石同期モータを備えた圧縮機用モータ308を有する。モータ駆動装置307により圧縮機用モータ308を駆動することで、圧縮機305が駆動される。モータ駆動装置307は、交流電源の交流電圧を直流電圧に変換して、直流電圧をモータ駆動用インバータに提供し、圧縮機用モータ308を駆動する。
【0108】
圧縮機305としては、ロータリ圧縮機やスクロール圧縮機などの種々の方式のものを採用することができる。圧縮機305は、内部に圧縮機構部を備えており、この圧縮機構部は、圧縮機用モータ308により駆動される。圧縮機構部は、スクロール圧縮機であれば、固定スクロールおよび旋回スクロールにより構成される。固定スクロールに対し旋回スクロールが旋回運動を行うことで、スクロール間に圧縮室が形成される。
【0109】
モータ駆動装置307として、第2の実施形態によるモータ駆動装置200を使用することにより、インバータ回路のスイッチング損失の低減と出力電圧誤差の抑制により、より高効率の冷凍空気調和機器として、製品の消費電力の低減ができる。
【0110】
以上説明したように、本開示によれば、スイッチング損失の低減および出力電圧誤差の抑制が図られたインバータ装置、該インバータ装置における制御方法、該インバータ装置を備えるモータ駆動装置、および該モータ駆動装置を備える冷凍空気調和機器を提供することが可能となる。
【0111】
本実施形態によるインバータ装置、モータ駆動装置および冷凍空気調和機器におけるインバータ回路においては、スイッチング素子のスイッチング回数が削減され、スイッチング損失の低減が図られる。特に、空気調和機の圧縮機など定格負荷条件付近の運転時間が長い装置において、好適に、モータ駆動用インバータ回路の損失を低減することにより、空調機など装置の省エネ性能を向上できる。
【0112】
上述した特許文献1の従来技術では、出力電圧誤差および電流ひずみが発生してしまう可能性がある。これに対し、本実施形態によれば、パルスの消去に応じてパルスの幅が補正されるため、出力電圧誤差の抑制が図られる。また、特許文献2の従来技術では、過変調制御時に、2相分の電圧指令が上限値と下限値に貼り付けた状態の区間では、その電圧指令の補正ができなくなる可能性がある。これに対し、本実施形態によれば、パルスの消去およびパルス幅の補正は、同相の隣接するパルス区間内で行われるので、比較的に広い動作領域において、スイッチング損失を低減することができる。
【0113】
なお、本発明の実施形態は、上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれ得る。例えば、上記した実施形態は、分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0114】
また上記の各構成、機能、処理部、処理手段等の一部または全部は、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。さらに、上記の各構成、機能等の一部または全部は、アセンブラ、C、C++、C#、Java(登録商標)などのレガシープログラミング言語やオブジェクト指向プログラミング言語などで記述された、プロセッサがそれぞれの機能を実現するコンピュータ実行可能なプログラムにより実現でき、各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイルなどの情報は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)ROM、EEPROM、EPROM、フラッシュメモリなどの記憶装置、フレキシブルディスク、CD-ROM、CD-RW、DVD-ROM、DVD-RAM、DVD-RW、ブルーレイディスク、SD(登録商標)カード、MOなど装置可読な記録媒体に格納して、あるいは電気通信回線を通じて頒布することができる。
【0115】
また、さらに、上記の各構成、機能等の一部または全部は、例えばフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)などのプログラマブル・デバイス(PD)上に実装することができ、上記機能部をPD上に実現するためにPDにダウンロードする回路構成データ(ビットストリームデータ)、回路構成データを生成するためのHDL(Hardware Description Language)、VHDL(Very High Speed Integrated Circuits Hardware Description Language)、Verilog-HDLなどにより記述されたデータとして記録媒体により配布することができる。また制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。また以上の説明で例示した各種のデータの形式は、例えば、CSV(Comma-Separated Values)、XML(eXtensible Markup Language)、バイナリ(binary)などにより構成することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0116】
100…インバータ装置、1…交流電源、2…ノイズフィルタ、3…リアクトル、4…インバータ回路、5…コンデンサ、6…電圧検出回路、7…電圧検出回路、8…制御器、9…電流検出回路、10…直流負荷/直流電源、11…スイッチング素子、12…ダイオード、21…電源位相演算器、22…電圧制御器、23…3相/2軸変換器、24…2軸/3相変換器、25…PWM制御器、30…変調波演算器、31…狭パルス消去補正器、32…バッファレジスタ、33…比較用レジスタ、34…比較器、35…キャリア波発生器、36‥判定部、37…補正部、41…変調波、42…変調波、43…キャリア波、44…PWM信号、200…モータ駆動装置、201…交流電源、202…整流回路、203…平滑コンデンサ、204…インバータ回路、206…電流検出回路、207…直流電圧検出回路、208…制御器、210…モータ、211…スイッチング素子、220…速度制御器、221…d軸電流指令発生器、222…電圧制御器、223…2軸/3相変換器、224…速度位相推定器、225…3相/2軸変換器、226…電流再現演算器、227…PWM制御器、300…冷凍空調機器、300A…室内機、300B…室外機、302…室外熱交換器、304…ファン、305…圧縮機、306…冷媒配管、307…モータ駆動装置、308…圧縮機用モータ
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