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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】制振遮音装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/172 20060101AFI20240531BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20240531BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/16 140
G10K11/16 150
G10K11/16 160
F16F15/02 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020074636
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021173779
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石井 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高記
(72)【発明者】
【氏名】樫▲崎▼ 友政
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208534(WO,A1)
【文献】特開平08-050489(JP,A)
【文献】特開2019-012205(JP,A)
【文献】特開2014-182205(JP,A)
【文献】特開2010-026258(JP,A)
【文献】特開2008-215064(JP,A)
【文献】特開2021-144191(JP,A)
【文献】特開2019-031899(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0087407(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/172
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置対象物に設置される制振遮音装置であって、
1以上の振動子を備え、
前記振動子は、
前記設置対象物に設置される筒状の筒部材と、
前記筒部材の中空部を前記筒部材の軸線に対して直交する直交方向に沿って横断するように、前記筒部材に支持される弾性体と、
前記弾性体に設置される錘と、を有し、
互いに規定間隔を開けて配列された複数の前記振動子を備え、
前記弾性体は、前記筒部材に周縁が支持された薄板であり、
前記筒部材は、前記中空部と外部とを連通する連通孔を有する
制振遮音装置。
【請求項2】
設置対象物に設置される制振遮音装置であって、
1以上の振動子を備え、
前記振動子は、
前記設置対象物に設置される筒状の筒部材と、
前記筒部材の中空部を前記筒部材の軸線に対して直交する直交方向に沿って横断するように、前記筒部材に支持される弾性体と、
前記弾性体に設置される錘と、を有し、
前記筒部材の横断面は、前記横断面の中心に位置する前記軸線の位置を中心とする円形状であり、
前記弾性体は、前記筒部材に両端が支持された複数の線部材で形成されており、
前記複数の線部材の各々は、前記筒部材の前記軸線が通る位置で他の前記線部材との交点を有す
振遮音装置。
【請求項3】
設置対象物に設置される制振遮音装置であって、
1以上の振動子を備え、
前記振動子は、
前記設置対象物に設置される筒状の筒部材と、
前記筒部材の中空部を前記筒部材の軸線に対して直交する直交方向に沿って横断するように、前記筒部材に支持される弾性体と、
前記弾性体に設置される錘と、を有し、
前記筒部材の前記軸線に沿った断面の形状は台形であり、
前記台形は、前記弾性体が設置されている端部の方が、前記筒部材における前記設置対象物に設置される端部よりも大径となっている
振遮音装置。
【請求項4】
前記弾性体は、前記筒部材に周縁が支持された薄板である請求項3に記載の制振遮音装置。
【請求項5】
前記筒部材は、前記弾性体よりも高い剛性を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の制振遮音装置。
【請求項6】
前記錘が設置された前記弾性体の固有振動数は、遮音対象の音の振動数に合わせられている請求項1~5のいずれか1項に記載の制振遮音装置。
【請求項7】
互いに規定間隔を開けて配列された複数の前記振動子を備え、
前記規定間隔は、前記設置対象物に生成される曲げ波の波長の半波長の間隔に基づいて規定される請求項1~6のいずれか1項に記載の制振遮音装置。
【請求項8】
前記筒部材の前記直交方向に沿った断面は、前記筒部材の前記軸線の位置を中心とする点対称の形状を有する請求項1~7のいずれか1項に記載の制振遮音装置。
【請求項9】
前記錘は、前記筒部材の前記軸線と重なるように前記弾性体に設置される請求項1~8のいずれか1項に記載の制振遮音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遮音材などの設置対象物に設置される制振遮音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機や宇宙、プラント、発電機、艦艇、車などでは、音響加振や騒音の対策のために遮音壁あるいはカバーが用いられている。一般に遮音材における音響透過損失は、面密度(kg/m)が大きくなるほど、あるいは、音の周波数が高くなるほど大きくなる(質量則)。よって、ある周波数(振動数)を有する音を遮音したい場合において遮音効果を高くするためには、遮音壁やカバーなどの重量を大きくする必要がある。しかし、各製品などからの制約から重量の増大には限界があり、特に低周波数域では遮音効果が得られにくい傾向となる。
【0003】
このような課題に対して、特許文献1には、比較的に軽量で、質量則を凌駕する高い遮音性を有する遮音シート部材が開示されている。この遮音シート部材は、ゴム弾性を有するシートと、このシートに設けられる複数の共振部と、を備えている。各共振部は、例えば円柱状などの形状を有したバネとして働く基部と、この基部に支持される錘とを有しており、錘部の質量と基部のバネ定数とにより決定される共振周波数を持つ共振器として機能する。また、複数の共振部は、シートに、格子状に等間隔に配置される他、千鳥状、ランダムなどであっても良いし、規則正しく周期的に配置されていなくても良いとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/135409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究により、遮音壁やカバーなど遮音材の重量増加を抑制しつつ、遮音したい所望の周波数を有する音に対してより効果的に制振遮音を行うことが可能な手法を見出した。例えば、特許文献1が開示する遮音シート部材では、シートに設けられた基部がバネとして働くことから、例えば上下方向や曲げ方向、ねじり方向など様々に基部が変形できる。このため、遮音壁等に複数の振動モードが出現する可能性があるが、本発明者らの手法によれば、所望の音によって生じる遮音壁等の振動をより効果的に抑制することで、遮音性を向上することが可能となる。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、重量増加を抑制しつつ、遮音性能を向上することが可能な制振遮音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る制振遮音装置は、
設置対象物に設置される制振遮音装置であって、
1以上の振動子を備え、
前記振動子は、
前記設置対象物に設置される筒状の筒部材と、
前記筒部材の中空部を前記筒部材の軸線に対して直交する直交方向に沿って横断するように、前記筒部材に支持される弾性体と、
前記弾性体に設置される錘と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、重量増加を抑制しつつ、遮音性能を向上することが可能な制振遮音装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の少なくとも一実施形態に係る複数の振動子を備える制振遮音装置の設置対象物への設置例を示す図である。
図2】本開示の少なくとも一実施形態に係る振動子の構成を概略的に示す図であり、弾性体は薄板である。
図3】本開示の少なくとも一実施形態に係る振動子の構成を概略的に示す図であり、筒部材は、軸線に沿った断面が台形となる形状を有する。
図4】本開示の少なくとも一実施形態に係る振動子の構成を概略的に示す図であり、筒部材は、軸線に沿った断面が図3とは逆の台形となる形状を有する。
図5】本開示の少なくとも一実施形態に係る振動子の構成を概略的に示す図であり、筒部材は連通孔を有する。
図6】本開示の少なくとも一実施形態に係る振動子の構成を概略的に示す図であり、弾性体は複数の線部材を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0011】
図1は、本開示の少なくとも一実施形態に係る複数の振動子2を備える制振遮音装置1の設置対象物9への設置例を示す図である。図2図6は、本開示の少なくとも一実施形態に係る振動子2の構成を概略的に示す図である。図2図6の各図における左側の部分は平面視であり、右側の部分は軸線方向Aに沿った断面視である。上記の軸線方向Aは、後述する筒部材3の軸線lに沿った方向である。この軸線方向Aに直行する方向を直交方向Hと呼ぶとすると、筒部材3の軸線lは、任意の位置で筒部材3(後述)を直交方向Hに沿って切断した際に得られる断面(以下、単に横断面)の中心(重心)を通る、軸線方向Aに沿って延びる仮想線である。以下、この定義に従って、制振遮音装置1を説明する。
【0012】
制振遮音装置1は、例えば図1に示すように設置対象物9に設置されることで、設置対象物9の振動や音を低減することが可能な装置である。制振遮音装置1は、音の発生源から設置対象物9を通過して空気中を伝搬する音の遮音や、設置対象物9内を様々な方向に伝搬する曲げ波の干渉による共振により発生する音を低減するために、設置対象物9に設置される。設置対象物9は、制振遮音装置1が設置される対象であり、例えば航空機や宇宙、プラント、発電機、艦艇、車などにおいて音響加振や騒音の対策のために用いられる遮音壁やカバーであっても良い。
【0013】
図1に示す設置対象物9は、音の発生源を囲むカバー部材を想定したものであり、上部と周囲を囲むような5枚の板部材が組み合わされて立方体状の形状を有しており、その内部に音の発生源が存在している。つまり、図1の設置対象物9は、内部から外部へ伝搬していく音を遮音する役割を有している。そして、図1の例示では、設置対象物9が有する面(図1では、地面に設置された1面を除く5面)の各々に、それぞれ、複数の振動子2が設置されている。なお、この設置対象物9は、アルミ製であり、板厚は1mm、1辺が50cmであるが、数m~数十mオーダとなるような大きな物でも良い。
【0014】
そして、制振遮音装置1は、図1に示すように、設置対象物9に設置される複数の振動子2を備えるなど、1以上の振動子2を備える。そして、この振動子2は、図2図6に示すように、設置対象物9に設置される筒状の筒部材3と、この筒部材3における、筒状の形状を形成する壁(筒壁31)によって形成される中空部3rを、筒部材3の軸線lに対して直交する方向(直交方向H)に沿って横断するように、筒部材3に支持される弾性体4と、この弾性体4に設置される錘5と、を備える。
【0015】
上記の筒部材3は、錘5が設置された弾性体4を、入射した音や加えられた振動に従って弾性変形が可能となる状態で設置対象物9に設置するための部材である。筒部材3は、樹脂製あるいは金属製のいずれであっても良いが、筒部材3自体が入射した音や加えられた振動によって弾性変形するように構成したものではない。換言すれば、筒部材3は、弾性体4よりも高い剛性を有しており、設置対象物9の振動を錘5付きの弾性体4に伝える役割を有している。
【0016】
上記の弾性体4は、外部から加えられた力(振動)によって伸縮やたわむ(曲がる)などし、その力が取り除かれると元に戻るといった弾性変形が可能な部材であり、バネの役割を有している。また、錘5は、筒部材3に設置された状態の弾性体4の固有振動数を調整する役割を有する。錘5の形状は任意であり、円柱状でも立方体などでも良いし、中実でも中空でも良い。
【0017】
そして、錘5が設置された弾性体4の固有振動数は、筒部材3に支持された状態において、遮音したい音の周波数(振動数。以下同様)に応じたものとなるように、例えば弾性体4の厚さTや面積、錘5の重さなどを調整するなどしてチューニングされている。より具体的には、錘5が設置された弾性体4は、遮音対象の音の振動数を含む所定の範囲内の固有振動数を有するように調整されている。この所定の範囲は、錘5付きの弾性体4が遮音対象の音に共振する範囲である。
【0018】
これによって、設置対象物9は、例えば振動子2が設置されていない場合にその全体が振動するような振動モードが生じる場合において、振動子2が設置された場合には、錘5付きの弾性体4が振動(共振)することで、設置対象物9の振動が低減(抑制)される。つまり、本発明者らは、振動子2の固有振動数が遮音対象の音の振動数に合わせられることにより、その音による設置対象物9の振動の低減効果が大きくなることを見出している。よって、錘付きの振動子2の固有振動数が遮音対象の音の振動数に合わせられることにより、設置対象物9による、発生源からの音の遮音性能を向上させることが可能となる。
【0019】
上記の筒部材3についてより詳細に説明すると、幾つかの実施形態では、図2図6に示すように、筒部材3は、その軸線lが直線となるような形状を有しても良い。これによって、筒部材3にねじれなどが生じないように図れる。よって、錘5が設置された弾性体4に対して上記のねじれなどの影響による振動モードの発生を防止することができ、遮音したい音の振動数に合わせられた錘5付きの弾性体4の固有振動数とは異なる近傍の振動数で共振が起こらないように図れる。
【0020】
また、幾つかの実施形態では、図2図6に示すように、上記の筒部材3の横断面(筒壁31の断面形状)は、その横断面の中心に位置する軸線lの位置を中心とする点対称の形状を有しても良い。この場合、筒壁31の横断面の形状は、円形(円環形状)、多角形(正多角形)、または楕円形など、点対称で、かつ、線対称の形状を有しても良い。多角形は、例えば三角形や、正方形や長方形といった四角形であっても良いし、それ以上の角を有しても良い。これによって、設置対象物9の振動時に、振動子2にねじれがでずに、錘5が設置された弾性体4が上下に動く振動モード以外を生じにくくすることができ、振動子2の固有振動数のチューニングの容易化を図ることが可能となる。
【0021】
筒部材3の横断面の面積については、幾つかの実施形態では、軸線方向Aに沿って一定であっても良いし(図2図5図6の右側参照)、軸線方向Aに沿って一定ではなく、軸線方向Aの一方側に沿って大きくあるいは小さくなっても良い(図3図4の右側参照)。図3図4に示す実施形態では、各図の右側に示すように、筒部材3の軸線l(軸線方向A)に沿った断面の形状は台形(等脚台形)である。図3に示す実施形態では、右側に示すように、筒部材3における設置対象物9に設置される端部の方が、弾性体4が設置されている端部よりも小径となっている。逆に、図4に示す実施形態では、右側に示すように、筒部材3における設置対象物9に設置される端部の方が、弾性体4が設置されている端部よりも大径となっている。
【0022】
これによって、設置対象物9における筒部材3と重なる領域(設置面積)を小さく、あるいは、大きく調整でき、設置対象物9に対する振動子2の設置の自由度をより高くすることが可能となる。また、筒部材3に支持された状態の弾性体4の面積の調整が可能となり、弾性体4の固有振動数の調整の自由度をより高くすることが可能となる。
【0023】
なお、筒部材3における設置対象物9に設置される端部側(設置側端部)は、開放されていても良いし、筒壁31と同じ材料などで閉塞されていても良い。図2図6では、設置側端部は開放されており、振動子2の重量のさらなる軽量化を図っている。なお、設置側端部を閉塞すれば、設置対象物9に筒部材3が接着される場合などにより強固な固定が図れる。
【0024】
上記の弾性体4については、弾性体4は、後述するように、例えば弾性変形が可能な薄板41(膜)であっても良いし、各々が弾性変形の可能な複数の線部材42で形成されても良い。また、弾性体4は、遮音対象の音によって弾性変形する厚さT(軸線方向Aに沿った膜厚や線部材42の太さ)を有しており、例えば0.5mmなど、1mm以下であっても良い。また、弾性体4は、筒部材3の端部で支持されても良いし、筒部材3の両端部の間(筒壁31の内側)において、筒部材3に支持されても良い。
【0025】
上記の錘5については、図2図6に示すように、錘5は、筒部材3の軸線lと重なるように弾性体4に設置されても良い。換言すれば、錘5は、一定の外形を有する錘5の外形あるいは外形よりも内側を軸線lが通過するように、弾性体4に設置されても良い。例えば、錘5は、軸線lが錘5の重心を通過するように、弾性体に設定されても良い。また、図示は省略するが、錘5は、複数の錘部材の集合であっても良い。この場合には、複数の錘部材の集合において最も外側に位置する各錘部材の一部の形状同士を連ねて形成される外形の内側を軸線lが通過する。例えば、錘5が、例えば3個などの複数の錘部材で構成されている場合には、複数の錘部材によって囲まれる内側の空間を軸線lが通過しても良く、この場合でも錘5は、軸線lと重なるように設置されているものとする。これによって、設置対象物9の振動時に、振動子2にねじれがでずに、錘5が設置された弾性体4が上下に動く振動モード以外を生じにくくすることができ、振動子2の固有振動数のチューニングの容易化を図ることが可能となる。
【0026】
また、錘5は、弾性体4が有する面の少なくとも一方に設置される。錘5は弾性体4に接着されるなどして、設置されても良い。例えば図2図6に示すように、錘5は、弾性体4の上面にのみ設置されても良い。あるいは、図示は省略するが、錘5は、弾性体4の下面にのみ設置されても良い。錘5が複数の錘部材を含む場合などには、弾性体4の上面および下面の両方に錘部材が設置されても良く、この場合には、上面側の錘部材と下面側の錘部材が磁力によりくっついていても良い。
【0027】
図1図6に示す実施形態では、筒部材3は、横断面が円形で、かつ、筒部材3の軸線lが直線となる形状を有している。弾性体4の周縁は、筒部材3の端部(端面32)で固定されており、弾性体4は、その一方の面(対向面)が筒部材3の中空部3rに面するように、筒部材3に支持されている。また、錘5は、1つの錘部材で構成されており、弾性体4の対抗面の反対側の面の中央に設置されている。そして、筒部材3における設置側端部が設置対象物9に例えば接着剤などで固定されることで、振動子2は設置対象物9に設置されるようになっている。
【0028】
上記の構成によれば、制振遮音装置1を構成する振動子2は、設置対象物9に設置される中空の筒部材3に支持される、錘5が設置された例えば薄板41(薄膜)や線部材42の集合などとなる弾性体4を備えている。これによって、音の発生源からの音によって設置対象物9に生じる、上記の錘5付きの弾性体4が有する固有振動数付近の振動をより効果的に抑制することができ、その音に対する設置対象物9の遮音性能を向上させることができる。よって、例えば錘5付きの弾性体4が有する固有振動数を低周波数の音に合わせれば、低周波数域の音の遮音性能をより向上することができる。また、振動子2は設置対象物9に対して小型であり、振動子2の筒部材3を中空とすることで、中実とするよりも軽量化することができる。よって、制振遮音装置1の設置による設置対象物9の重量増加を抑制しつつ、設置対象物9による遮音性能を向上さえることができる。
【0029】
ここで、図1に示すように、設置対象物9には、通常は、上述した振動子2を複数設置することで、より高い遮音効果が得られる。つまり、図1に示すように、制振遮音装置1は、互いに規定間隔を開けて配列された複数の振動子2を備える。ただし、本発明者らは、上述した複数の振動子2をただ闇雲に並べるだけでは適切な低減効果が得られないことを見出していると共に、さらに、設置対象物9に生成される曲げ波の腹部分に相当する位置にそれぞれ振動子2を設置すると適切な低減効果が得られることを、実験や数値解析により見出している。
【0030】
そこで、幾つかの実施形態では、図1に示すように、制振遮音装置1が備える複数の振動振2は、設置対象物9に生成される曲げ波の波長の半波長の間隔に基づいて規定された規定間隔Lを開けて配列される。具体的には、設置対象物9の厚さ(板厚)をt、そのヤング率をE、そのポアソン比ν、その密度をρ、αを2以上の定数、遮音したい周波数をfとすると、規定間隔Lは、L=√[π/(αf)√{tE/(12(1-ν)ρ)}]となる。
【0031】
なお、振動子2は、上記の規定間隔Lの間隔で設置対象物9に設置されるように、筒部材3の直径は規定間隔Lよりも短く、小型の形状を有している。
【0032】
上記の構成によれば、制振遮音装置1は複数の振動子2を備えている。そして、これらの複数の振動子2は、設置対象物9に生成される曲げ波(設置対象物9を伝わるの横波)の波長の半波長の間隔など、曲げ波の腹の部分にそれぞれ位置するように、設置対象物9に設置される。これによって、設置対象物9をより効果的に制振することができ、設置対象物の遮音性能を向上することができる。
【0033】
次に、上述した弾性体4に関する幾つかの実施形態について説明する。
幾つかの実施形態では、図2図5に示すように、弾性体4は、薄板41(薄膜)であっても良い。この場合、薄板41の周縁が筒部材3に支持される。具体的には、薄板41の周縁が、筒部材3の端面32などの端部に支持されても良い。つまり、薄板41の周縁の少なくとも一部が端面32上まで延びており、これらの周縁と端面32とが例えば接着剤や固定具などにより固定されても良い。また、薄板41の周縁の少なくとも一部が端面32を超えて延在し、端面32の外側に筒壁31側に折り返されると共に、折り返された先で筒壁31(外周面側)に固定されても良い。さらにこの場合には、薄板41の周縁が、筒壁31および端部の両方で支持されても良い。
【0034】
または、薄板41の周縁が、筒部材3の内壁面に支持されても良いし、筒部材3の筒壁31の内部で支持されても良い。後者については、筒部材3を二つの筒状の部材を固定して構成する際に、その間に薄板41を挟み込むことが考えられる。この場合、薄膜の周縁の少なくとも一部が二つの筒状の部材の互いに対面する端面(対向面)を超えて延在することで、上述したのと同様に筒部材3の外周面側に固定されても良いし、さらに対向面で固定されても良い。
【0035】
また、この実施形態おいて、幾つかの実施形態では、図5に示すように、上述した筒部材3は、中空部3rと外部とを連通する連通孔34を有しても良い。この連通孔34は、筒壁31を貫通するように形成される。連通孔34の数は1以上であれば良い。図5に示す実施形態では、筒部材3は2つの連通孔34を有している。また、2つの連通孔34は、軸線lを挟んで対抗する位置に形成されているが、複数の連通孔34の位置は任意であり、対抗する位置に設けられていなくても良い。
【0036】
上記の構成によれば、弾性体4は薄板41(薄膜)である。これによって、設置対象物9の制振を適切に行うことができる。また、筒部材3が連通孔34を有する場合には、弾性体4に対して、錘5が設置された弾性体4が振動している際に連通孔34を出入りする空気による減衰を付加することができる。
【0037】
他の幾つかの実施形態では、図6に示すように、弾性体4は、筒部材3に両端が支持された複数の線部材42で形成されても良い。この場合、上記の複数の線部材42の各々は、同じく弾性体4を形成する他の線部材42との交点42pを有する。複数の線部材42が交点42pを有することで、錘5を支持する土台の役割を果たすことが可能となる。また、各々の線部材42の両端は、それぞれ、筒部材3の端面32、内壁面、または外壁面のいずれかに固定されれば良い。固定の態様は、弾性体4が薄板41である場合と同様であっても良く、詳細は省略する。
【0038】
図6に示す実施形態では、弾性体4は、4本の直線状の線部材42で形成されており、軸線lが通る位置で4本の線部材42が互いに交差するように、筒部材3に支持されている。そして、錘5は、この交点42pにその重心がくるように、弾性体4に設置されている。これによって、錘5は、1つの交点42pと、線部材42の一部とが重なるように配置される。また、4本の線部材42は、45度間隔で筒部材3に設置されており、錘が5設置された弾性体4が上下に動く振動モード以外が生じにくくなるように図っている。
【0039】
ただし、本実施形態に本発明は限定されない。軸線lの位置を囲むように交点42pが位置するように複数の線部材42が設置されても良い。例えば、5本の線部材42で星型を描くようにすれば、合計で5つの交点42pが五角形の角に配置される。これによって、錘5は、5つの交点42pと、この5つの交点42間に位置する部分を含む線部材42の一部とが重なるように配置される。
【0040】
上記の構成によれば、弾性体4は、複数の線部材42で形成されると共に、各々の線部材42は、他の線部材42との交点42pを有するように設置される。これによって、設置対象物9の制振を適切に行うことができる。
【0041】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0042】
(付記)
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る制振遮音装置(1)は、
設置対象物(9)に設置される制振遮音装置(1)であって、
1以上の振動子(2)を備え、
前記振動子(2)は、
前記設置対象物(9)に設置される筒状の筒部材(3)と、
前記筒部材(3)の中空部(3r)を前記筒部材(3)の軸線(l)に対して直交する直交方向(H)に沿って横断するように、前記筒部材(3)に支持される弾性体(4)と、
前記弾性体(4)に設置される錘(5)と、を有する。
【0043】
上記(1)の構成によれば、制振遮音装置(1)を構成する振動子(2)は、設置対象物(9)に設置される中空の筒部材(3)に支持される、錘(5)が設置された例えば薄板(41)(薄膜)や線部材(42)の集合などとなる弾性体(4)を備えている。これによって、音の発生源からの音によって設置対象物(9)に生じる、上記の錘(5)付きの弾性体(4)が有する固有振動数付近の振動をより効果的に抑制することができ、その音に対する設置対象物(9)9の遮音性能を向上させることができる。よって、例えば錘(5)付きの弾性体(4)が有する固有振動数を低周波数の音に合わせれば、低周波数域の音の遮音性能をより向上することができる。また、振動子(2)は設置対象物(9)に対して小型であり、振動子(2)の筒部材(3)を中空とすることで、中実とするよりも軽量化することができる。よって、制振遮音装置(1)の設置による設置対象物(9)の重量増加を抑制しつつ、設置対象物(9)による遮音性能を向上させることができる。
【0044】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記筒部材(3)は、前記弾性体(4)よりも高い剛性を有する。
上記(2)の構成によれば、筒部材(3)は入射した音や加えられた振動によって弾性変形しないように構成されている。これによって、設置対象物(9)の振動を錘(5)付きの弾性体(4)に適切に伝えることができる。
【0045】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)~(2)の構成において、
前記錘(5)が設置された前記弾性体(4)の固有振動数は、遮音対象の音の振動数に合わせられている。
【0046】
上記(3)の構成によれば、錘(5)付き弾性体(4)の固有振動数が、遮音対象の音の振動数に共振するような範囲の振動数に合わせられている。本発明者らは、振動子(2)の固有振動数が、例えば遮音対象の音の振動数に一致させられるなどして合わせられることにより、その音による設置対象物(9)の振動の低減効果が大きくなることを見出している。よって、錘(5)付きの振動子(2)の固有振動数が遮音対象の音の振動数に合わせられることにより、設置対象物(9)による、発生源からの音の遮音性能を向上させることができる。
【0047】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)~(3)の構成において、
互いに規定間隔(L)を開けて配列された複数の前記振動子(2)を備え、
前記規定間隔(L)は、前記設置対象物(9)に生成される曲げ波の波長の半波長の間隔に基づいて規定される。
【0048】
上記(4)の構成によれば、制振遮音装置(1)は複数の振動子(2)を備えている。そして、これらの複数の振動子(2)は、設置対象物(9)に生成される曲げ波(設置対象物(9)を伝わる横波)の波長の半波長の間隔など、曲げ波の腹の部分にそれぞれ位置するように、設置対象物(9)に設置される。本発明者らは、適切な固有振動数を有する振動子(2)をただ闇雲に並べるだけでは適切な低減効果が得られず、上記のように設置することで、適切な低減効果が得られることを見出している。上記のように複数の振動子(2)を設置対象物(9)に配置することで、設置対象物(9)をより効果的に制振することができ、設置対象物(9)の遮音性能を向上することができる。
【0049】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)~(4)の構成において、
前記弾性体(4)は、前記筒部材(3)に周縁が支持された薄板(41)である。
上記(5)の構成によれば、弾性体(4)は薄板(41)(薄膜)である。これによって、設置対象物(9)の制振を適切に行うことができる。
【0050】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
前記筒部材(3)は、前記中空部(3r)と外部とを連通する連通孔(34)を有する。
上記(6)の構成によれば、筒部材(3)は、1以上の連通孔(34)を有する。これによって、弾性体(4)に対して、錘(5)が設置された弾性体(4)が振動している際に連通孔(34)を出入りする空気による減衰を付加することができる。
【0051】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)~(4)の構成において、
前記弾性体(4)は、前記筒部材(3)に両端が支持された複数の線部材(42)で形成されており、
前記複数の線部材(42)の各々は、他の前記線部材(42)との交点(42p)を有する。
【0052】
上記(7)の構成によれば、弾性体(4)は、複数の線部材(42)で形成されると共に、各々の線部材(42)は、他の線部材(42)との交点(42p)を有するように設置される。これによって、設置対象物(9)の制振を適切に行うことができる。
【0053】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)~(7)の構成において、
前記筒部材(3)の前記直交方向(H)に沿った断面は、前記筒部材(3)の前記軸線(l)の位置を中心とする点対称の形状を有する。
【0054】
上記(8)の構成によれば、筒部材(3)の断面形状は、例えば円形、四角形、正多角形など、筒部材(3)の軸線(l)の任意位置を対称の中心として点対称の形状を有する。これによって、設置対象物(9)の振動時に、振動子(2)にねじれがでずに、錘(5)が設置された弾性体(4)が上下に動く振動モード以外を生じにくくすることができ、振動子(2)の固有振動数のチューニングの容易化を図ることができる。
【0055】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)~(8)の構成において、
前記筒部材(3)の前記軸線(l)に沿った断面の形状は台形である。
【0056】
上記(9)の構成によれば、設置対象物(9)における筒部材(3)と重なる領域(設置面積)を小さく、あるいは、大きく調整でき、設置対象物(9)に対する振動子(2)の設置の自由度をより高くすることができる。また、筒部材(3)に支持された状態の弾性体(4)の面積の調整が可能となり、弾性体(4)の固有振動数の調整の自由度をより高くすることができる。
【0057】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)~(9)の構成において、
前記錘(5)は、前記筒部材(3)の前記軸線(l)と重なるように前記弾性体(4)に設置される。
【0058】
上記(10)の構成によれば、例えば錘(5)の重心が筒部材(3)の軸線(l)上にあるなど、弾性体(4)は、筒部材(3)の軸線(l)に重なるように設置される。これによって、設置対象物(9)の振動時に、振動子(2)にねじれがでずに、錘(5)が設置された弾性体(4)が上下に動く振動モード以外を生じにくくすることができ、振動子(2)の固有振動数のチューニングの容易化を図ることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 遮音装置
2 振動子
3 筒部材
3r 中空部
31 筒壁
32 端面
34 連通孔
4 弾性体
41 薄板
42 線部材
42p 交点
5 錘
9 設置対象物
A 軸線方向
H 直交方向
l 軸線
L 規定間隔
T 弾性体の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6