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特許7496709精製イオン交換樹脂の製造方法および精製イオン交換樹脂の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】精製イオン交換樹脂の製造方法および精製イオン交換樹脂の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/50 20170101AFI20240531BHJP
   B01J 49/53 20170101ALI20240531BHJP
【FI】
B01J49/50
B01J49/53
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020078268
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2021171717
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 惟
(72)【発明者】
【氏名】市原 史貴
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-181351(JP,A)
【文献】特開2019-111463(JP,A)
【文献】特表2019-509882(JP,A)
【文献】特開2012-167062(JP,A)
【文献】特表2003-535836(JP,A)
【文献】特開2013-023441(JP,A)
【文献】特開2013-023440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J39/00-49/90
C02F1/42
B01D24/00-37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分量が50~80質量%であるイオン交換樹脂を非水溶媒に1時間以上浸漬し、
浸漬後、さらに非水溶媒を前記イオン交換樹脂に通液することを含む、精製イオン交換樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記イオン交換樹脂が、強酸性陽イオン交換樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン交換樹脂が、ゲル型イオン交換樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記非水溶媒が、イソプロピルアルコール(IPA)である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
水分量が50~80質量%であるイオン交換樹脂を充填した容器と、
非水溶媒を前記容器内に供給する非水溶媒供給手段と、
を有し、
前記イオン交換樹脂を前記非水溶媒に1時間以上浸漬させ、浸漬後、さらに非水溶媒を前記イオン交換樹脂に通液する、精製イオン交換樹脂の製造装置。
【請求項6】
前記非水溶媒と前記イオン交換樹脂との接触により気泡が発生しないように、前記容器内の圧力を調整する圧力調整手段をさらに有する、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記容器の前段および/または後段に、微粒子除去フィルターをさらに有する、請求項5または6に記載の装置。
【請求項8】
前記非水溶媒供給手段の前段に、非水溶媒を貯蔵する非水溶媒貯蔵タンクを有し、
前記容器から排出された前記非水溶媒を、前記非水溶媒貯蔵タンクに回収する手段をさらに有する、請求項のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製イオン交換樹脂の製造方法および精製イオン交換樹脂の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体やリチウムイオン電池の製造において、高度に精製された非水溶媒が用いられている。
非水溶媒の精製方法として、蒸留法が知られているが、設備費が大きく、多大なエネルギーが必要である上、高度な精製が難しい等の問題点を有する(特許文献1)。
そこで、近年では、イオン交換樹脂やイオン交換フィルターを用いたイオン交換法により非水溶媒を精製する方法が適用されている(特許文献2)。イオン交換法は、設備費が小さく、省エネルギーで、高度な精製が可能という特長を有する。
ここで、高度に精製された非水溶媒では、非水溶媒中に含まれる微粒子も不純物となるため、イオン交換樹脂を用いて非水溶媒を精製する場合、イオン交換樹脂に含有された微粒子(含有微粒子)が非水溶媒へ流出しないように、イオン交換樹脂から流出する微粒子を低減する前処理が必要になる。イオン交換樹脂の後段に微粒子除去フィルターを設置する場合でも、システムの後段に位置する限外濾過膜の負荷を除去するためにイオン交換樹脂から流出する微粒子を低減する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-69175号公報
【文献】特開2013-023439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン交換樹脂から流出する微粒子を低減する前処理として、イオン交換樹脂に非水溶媒を通液する方法がある。しかしながら、本発明者らの検討によると、イオン交換樹脂に非水溶媒を単に通液する方法でイオン交換樹脂から流出する微粒子を低減しようとした場合、イオン交換樹脂に対して数百倍量もの多量の非水溶媒が必要になることが判明した。
そこで、本発明は、少量の非水溶媒で、流出する微粒子が低減された精製イオン交換樹脂を製造可能な精製イオン交換樹脂の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を鑑みて、本発明者らの鋭意検討の結果、イオン交換樹脂を非水溶媒にあらかじめ浸漬することにより、イオン交換樹脂から流出する微粒子を低減できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、水分量が50~80質量%であるイオン交換樹脂を非水溶媒に1時間以上浸漬し、浸漬後、さらに非水溶媒を前記イオン交換樹脂に通液することを含む、精製イオン交換樹脂の製造方法である。
また、本発明は、水分量が50~80質量%であるイオン交換樹脂を充填した容器と、非水溶媒を前記容器内に供給する非水溶媒供給手段とを有し、前記イオン交換樹脂を前記非水溶媒に1時間以上浸漬させ、浸漬後、さらに非水溶媒を前記イオン交換樹脂に通液する、精製イオン交換樹脂の製造装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、少量の非水溶媒で、流出する微粒子が低減された精製イオン交換樹脂を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の精製イオン交換樹脂の製造装置の一態様を示す概念図である。
図2】実施例、比較例で用いた微粒子測定装置を示す概念図である。
図3】実施例1のイソプロピルアルコール(IPA)で浸漬後のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂からの微粒子溶出測定結果を示す図である。
図4】比較例1のIPAで浸漬していないゲル型強酸性陽イオン交換樹脂からの微粒子溶出測定結果を示す図である。
図5】実施例2のIPAで浸漬後のMR型強酸性陽イオン交換樹脂からの微粒子溶出測定結果を示す図である。
図6】比較例2のIPAで浸漬していないMR型強酸性陽イオン交換樹脂からの微粒子溶出測定結果を示す図である。
図7】イオン交換樹脂を充填したカートリッジの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(イオン交換樹脂)
本発明に用いられるイオン交換樹脂としては、特に限定はないが、例えば、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、キレート樹脂、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂及びキレート樹脂を混合した混床式のイオン交換樹脂等を挙げることができる。
【0009】
また、イオン交換樹脂の母体となる樹脂としては、特に制限はないが、有機高分子を母体とするものが好ましく、例えば、母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂等を挙げることができる。
【0010】
さらに、イオン交換樹脂の官能基としては、特に限定はないが、陽イオン交換樹脂では、例えば陽イオン交換基としてスルホン酸基を有する強酸性のものや、陽イオン交換基としてカルボキシ基を有する弱酸性のものを挙げることができる。また、陰イオン交換樹脂であれば、陰イオン交換基として四級アンモニウム基を有する強塩基性のものや、陰イオン交換基としてアミノ基を有する弱塩基性のものを挙げることができる。キレート樹脂としては、キレート基として、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基等から選ばれる一種以上のアミノ基を有するものを挙げることができる。
【0011】
また、イオン交換樹脂は、ゲル型構造を有するものであってもよいし、マクロレティキュラー型(MR型)構造を有するものであってもよいし、マクロポーラス型(MP型)構造を有するものであってもよいし、ポーラス型構造を有するものであってもよい。
【0012】
本発明に用いられるイオン交換樹脂は、未使用のものでも、既に使用したものでも構わないが、通常は未使用品を使用する。
【0013】
また、イオン交換樹脂は、水で湿潤状態のものであってもよい。水で湿潤状態のイオン交換樹脂の場合、水分量が30~80質量%、好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは30~60質量%のものが用いられる。
【0014】
(微粒子)
本発明により除去される微粒子の成分としては、特に限定はないが、例えば、金属粒子(シリカ粒子を含む)、PSS(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)などを挙げることができる。
【0015】
本発明によりイオン交換樹脂から除去される微粒子の粒径としては、特に制限はないが、例えば、1~10000nmものを挙げることができる。
【0016】
(精製イオン交換樹脂)
本発明において、「精製イオン交換樹脂」とは、流出する微粒子数が精製前のイオン交換樹脂から流出する微粒子数よりも低減されたイオン交換樹脂のことを指す。より詳細には、非水溶媒に浸漬した後のイオン交換樹脂であって、流出する微粒子数が、非水溶媒に浸漬する前のイオン交換樹脂から流出する微粒子数よりも少ないイオン交換樹脂のことを指す。あるいは、非水溶媒に浸漬し、その後に非水溶媒を通液した後のイオン交換樹脂であって、流出する微粒子数が、非水溶媒に浸漬した後、非水溶媒を通液する前のイオン交換樹脂から流出する微粒子数よりも少ないイオン交換樹脂のことを指す。
【0017】
本発明において、イオン交換樹脂から流出する微粒子数としては、特に制限はなく、またイオン交換樹脂の種類によって異なるが、例えば、ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬する前のイオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、非水溶媒の通液初期の場合、非水溶媒1ml中に300個以上10,000個以下、または、500個以上10,000個以下、または、1,000個以上10,000個以下などを挙げることができ、非水溶媒に浸漬した後のイオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、非水溶媒1ml中に10個以上300個以下、または、50個以上200個以下、または、80個以上150個以下などを挙げることができる。
【0018】
さらに、例えば、ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬せずに非水溶媒を通液したのみにおいては、イオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して100倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に100個以上10,000個以下、または、500個以上10,000個以下、または、1000個以上10,000個以下などを挙げることができ、一方、非水溶媒に浸漬した後、非水溶媒を通液した場合においては、イオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して100倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に1個以上500個以下、または、5個以上300個以下、または、10個以上200個以下などを挙げることができる。
【0019】
さらに、例えば、ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬せずに非水溶媒を通液したのみにおいては、イオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して300倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に100個以上10,000個以下、または、200個以上10,000個以下、または、300個以上10,000個以下などを挙げることができ、一方、非水溶媒に浸漬した後、非水溶媒を通液した場合においては、イオン交換樹脂から溶出する粒径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して300倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に1個以上500個以下、または、3個以上300個以下、または、5個以上50個以下などを挙げることができる。
【0020】
また、例えば、MR型強酸性陽イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬する前のイオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、非水溶媒の通液初期の場合、非水溶媒1ml中に100個以上100,000個以下、または、500個以上100,000個以下、または、1,000個以上100,000個以下などを挙げることができ、非水溶媒に浸漬した後のイオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、非水溶媒1ml中に10個以上10,000個以下、または、100個以上10,000個以下、または、1,000個以上10,000個以下などを挙げることができる。
【0021】
さらに、例えば、MR型強酸性陽イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬せずに非水溶媒を通液したのみにおいては、イオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して100倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に10個以上10,000個以下、または、50個以上10,000個以下、または、100個以上10,000個以下などを挙げることができ、一方、非水溶媒に浸漬した後、非水溶媒を通液した場合においては、イオン交換樹脂から流出する径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して100倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に1個以上1000個以下、または、5個以上500個以下、または、10個以上500個以下などを挙げることができる。
【0022】
さらに、例えば、MR型強酸性陽イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬せずに非水溶媒を通液したのみにおいては、イオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して300倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に10個以上10,000個以下、または、30個以上10,000個以下、または、50個以上10,000個以下などを挙げることができ、一方、非水溶媒に浸漬した後、非水溶媒を通液した場合においては、イオン交換樹脂から流出する粒径50nmを超える微粒子の数として、イオン交換樹脂に対して300倍量の非水溶媒を通液した場合、非水溶媒1ml中に1個以上100個以下、または、3個以上100個以下、または、5個以上80個以下などを挙げることができる。
【0023】
(非水溶媒)
本発明に用いられる非水溶媒としては、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ブチルカルビトール(BDG)、モノエタノールアミン(MEA)、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、エトキシメトキシエタン等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0024】
イオン交換樹脂から流出する微粒子を低減する過程で、浸漬や通液に使用する非水溶媒に含まれる金属がイオン交換樹脂のイオン交換基を消費し、交換容量を低下させてしまうことを防ぐために、非水溶媒中の各金属不純物の含有量が少ないものを使用することが望ましい。含有金属量は特に制限されないが、通常、100質量ppb~1質量ppt程度である。金属不純物として、例えば、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、As、Sr、Ag、Cd、Ba、Pb等を含有する。
【0025】
(イオン交換樹脂の非水溶媒への浸漬)
イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬する場合は、全てのイオン交換樹脂が完全に非水溶媒に沈む程度に、非水溶媒を供給することが好ましい。この場合、イオン交換樹脂を充填した容器に非水溶媒を供給することができる。イオン交換樹脂を充填する容器としては、例えば、イオン交換樹脂塔、イオン交換樹脂カートリッジ(以下、カートリッジと適宜称する)等が挙げられる。また、イオン交換樹脂を充填したカートリッジをイオン交換樹脂ハウジング(以下、ハウジングと適宜称する)に装填し、非水溶媒を供給するようにしても良い。
図7は、イオン交換樹脂を充填したカートリッジの構成例を示す図である。図7に示すように、イオン交換樹脂をカートリッジ20aに充填し、カートリッジ20aに非水溶媒を供給してイオン交換樹脂を非水溶媒中に浸漬して処理することにより、浸漬処理後の精製イオン交換樹脂を充填したカートリッジをそのまま使用することができる。また、浸漬処理後の精製イオン交換樹脂をカートリッジから容易に取り出すこともできる。
【0026】
図7に示すように、カートリッジ20aは、イオン交換樹脂1aが充填される筒部2と、非水溶媒の通過孔(流入孔)7が形成されており、筒部2の上端に設けられる上蓋3と、非水溶媒の通過孔(流出孔)8が形成されており、筒部2の下端に設けられる下蓋4とを有する。筒部2の内側の上端側には、上端側管径縮小部11が形成されており、且つ、筒部2の内側の下端側には、下端側管径縮小部12が形成されている。そして、イオン交換樹脂1aが筒部2から外に流出するのを防ぐために、イオン交換樹脂の充填領域の上端には、メッシュ9が、上端側管径縮小部11と上蓋3との間に、外縁部が挟み込まれることにより付設される。同様に、イオン交換樹脂の充填領域の下端には、メッシュ10が、下端側管径縮小部12と上蓋4との間に、外縁部が挟み込まれることにより付設されている。なお、メッシュ9及びメッシュ10には、非水溶媒を透過し且つイオン交換樹脂1aを透過させない程度の大きさの孔部が形成されている。
【0027】
具体的なイオン交換樹脂と非水溶媒との質量比としては、イオン交換樹脂:非水溶媒=1:2~1:10が好ましい。イオン交換樹脂が水を含んでいる場合は、見かけの質量に対する質量比でかまわない。
【0028】
イオン交換樹脂を非水溶媒で浸漬する時間としては、特に限定はないが、1~200時間、好ましくは1~100時間、更に好ましくは1~24時間を挙げることができる。
【0029】
また、イオン交換樹脂を非水溶媒で浸漬する回数としては、特に制限はないが、1~10回を挙げることができる。非水溶媒で複数回浸漬する場合は、イオン交換樹脂内部の水分濃度と浸漬させる非水溶媒の水分濃度が平衡状態に達した時点で、新しい非水溶媒に入れ替えるのが好ましい。
【0030】
(イオン交換樹脂への非水溶媒の通液)
イオン交換樹脂に非水溶媒を浸漬した後、さらに非水溶媒をイオン交換樹脂に通液することにより、より効率的にイオン交換樹脂から流出する微粒子を低減することができる。
【0031】
具体的には、イオン交換樹脂を容器に充填して非水溶媒に浸漬させた後、容器から非水溶媒を排出する。その後、容器に非水溶媒を供給し、連続的に通液する。通液の速度としては、特に制限はないが、好ましくはSV(流量/イオン交換樹脂体積比)1~100L/L-樹脂/h、より好ましくはSV1~50L/L-樹脂/h、さらに好ましくはSV1~20L/L-樹脂/hで通液する。
【0032】
通液する非水溶媒としては、特に制限はないが、浸漬に用いた非水溶媒と同一のものを用いることが好ましい。
【0033】
イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬させた後に、非水溶媒を通液した場合は、例えば、非水溶媒を300倍量通液したとき、非水溶媒1mL中に50nm以上の微粒子が、100個未満、好ましくは50個未満、より好ましくは30個未満検出される。
【0034】
(イオン交換樹脂から流出する微粒子の除去装置)
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る精製イオン交換樹脂の製造装置について説明するが、本発明は、図面に記載されたものに限定されない。
【0035】
図1は、イオン交換樹脂を充填した容器35と、非水溶媒を貯蔵した非水溶媒貯蔵タンク32と、非水溶媒貯蔵タンク32から非水溶媒を容器35内に供給する手段(非水溶媒供給手段:ポンプ)30と、を有する精製イオン交換樹脂の製造装置を示している。
【0036】
ポンプ30の吸込口には吸込管39の一端側が接続されている。吸込管39の他端側は貯蔵タンク32(具体的には、貯蔵タンク32に貯蔵された非水溶媒)内まで伸びている。ポンプ30の吐出口には吐出管40の一端側が接続されている。吐出管40の他端側は容器35の入口に接続されている。
【0037】
容器35の出口には、容器35から排出された非水溶媒を装置の外部に排出するための排出管33が接続されている。排出管33における容器35の出口付近には圧力調整手段(背圧弁)34が設けられている。圧力調整手段34は、容器35に非水溶媒を供給する際、非水溶媒とイオン交換樹脂との接触により気泡が発生しないように、容器35内の非水溶媒にかかる圧力を調整するものである。イオン交換樹脂と非水溶媒が接触すると、気泡が発生し、片流れの原因となる場合がある。非水溶媒を下降流で容器35に供給する場合には、容器35の後段に圧力調整手段34を設けることが好ましい。
【0038】
図1に示す形態では、容器35の出口には、容器35から排出された非水溶媒を非水溶媒貯蔵タンク32に戻して回収するための回収管36の一端側が接続されている。回収管36の他端側は貯蔵タンク32内まで伸びている。回収管36における容器35の出口付近にも、容器内の非水溶媒にかかる圧力を調整する圧力調整手段(背圧弁)34が設けられている。
なお、容器の入口側における壁面には、エア抜き用の孔部(不図示)を形成してもよい。
【0039】
図1の形態では、容器35の前段に非水溶媒用の微粒子除去フィルター38が設置されている。微粒子除去フィルター38は、容器35に通液する非水溶媒中の微粒子を除去するためのものであるが、微粒子等の不純物を含有しない綺麗な非水溶媒を供給することができる場合には、必ずしも設置する必要はない。
【0040】
図1の形態では、排出管33の圧力調整手段34及び回収管36の圧力調整手段34を閉位置とし、ポンプ30を駆動して貯蔵タンク32から容器35に下降流で非水溶媒を供給すると、容器35内に非水溶媒が溜まり、イオン交換樹脂が非水溶媒で浸漬されていく。それと同時に、容器35の入口側に形成されたエア抜き用の孔部からエアが抜けていく。なお、容器35内における非水溶媒の高さは、エア抜き用の孔部よりも下方となる。
【0041】
図1の形態では、排出管33及び回収管36の圧力調整手段34を閉位置とし、ポンプ30を駆動して貯蔵タンク32から容器35に下降流で非水溶媒を供給する場合を説明したが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、排出管33の圧力調整手段34を閉位置、回収管36の圧力調整手段34を開位置とし、ポンプ(不図示)を駆動して回収管36から容器35に上向流で非水溶媒を供給するように構成してもよい。この場合も、容器35の入口側に形成されたエア抜き用の孔部からエアが抜けていく。
【0042】
容器35におけるイオン交換樹脂の浸漬が終了し、イオン交換樹脂から流出する微粒子を含む非水溶媒は、排出管33から排出されたり、回収管36を介して貯蔵タンク32に戻される。
【0043】
また、更にイオン交換樹脂から流出する微粒子を低減する場合は、イオン交換樹脂を非水溶媒に浸漬させた後、さらに貯蔵タンク32からイオン交換樹脂ハウジング35に非水溶媒を供給して通液させるとよい。具体的には、排出管33及び回収管36の圧力調整手段34の圧力値を所定の範囲に設定し、ポンプ30を駆動して非水溶媒貯蔵タンク32から容器35に非水溶媒を供給して、イオン交換樹脂に非水溶媒を通液させる。なお、「所定の範囲」とは、イオン交換樹脂間の気泡が抜ける程度に容器35内に圧がかかるような範囲である。
【0044】
容器35でイオン交換樹脂に通液された非水溶媒は、排出管33から排出されたり、回収管36を介して貯蔵タンク32に戻される。
【0045】
なお、図1に示す形態では、容器35の出口に回収管36を接続しているが、回収管36は必ずしも設ける必要はなく、容器35に供給された非水溶媒の全部を排出管33から排出するようにしてもよい。この場合、非水溶媒の供給源があれば、非水溶媒貯蔵タンク32は必ずしも設ける必要はない。
また、図1に示す形態では、容器35の出口に排出管33を接続しているが、排出管33は必ずしも設ける必要はなく、容器35に供給された非水溶媒の全部を非水溶媒貯蔵タンク32に戻すようにしてもよい。
【0046】
図1に示す形態では、容器35の前段に微粒子除去フィルター38が設置されているが、必ずしもこの構成に限定されない。微粒子除去フィルター38は、容器35の後段に設置されていてもよいし、容器35の前段及び後段に設置されていてもよい。例えば、容器35に供給された非水溶媒の全部を排出管33から排出する場合には、容器35の前段に微粒子除去フィルター38を設置する。容器35に供給された非水溶媒の全部を非水溶媒貯蔵タンク32に戻す場合には、微粒子除去フィルター38は、容器35の前段又は後段に設置したり、容器35の前段及び後段に設置する。また、微粒子除去フィルターは1個に限らず、2個以上設置しても良い。
【0047】
図1に示す形態では、イオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂塔を容器35とし、イオン交換樹脂塔に非水溶媒を供給して浸漬や通液を行うことができる。また、前述したように、イオン交換樹脂を充填したカートリッジ20aをハウジングに装填したものを容器35とし、非水溶媒を供給して浸漬や通液を行うこともできる。
【実施例
【0048】
次に、実施例を挙げて本発明の効果を説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0049】
実施例および比較例における試験条件は、以下の通りとした。
・非水溶媒:イソプロピルアルコール(IPA)(トクヤマ社製:トクソーIPA XE)
・微粒子除去フィルター:孔径5nm(インテグリス社製オプチマイザーD LE、)
・ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製:ORLITE DS-1)(官能基:スルホン酸基、母体:スチレン系樹脂、水分量:50質量%)
・MR型強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製:ORLITE DS-4)(官能基:スルホン酸基、母体:スチレン系樹脂、水分量:53質量%)
・イオン交換樹脂への非水溶媒の通液速度:10L/L-樹脂/h
・カラムサイズ:φ26mm×750mm
【0050】
(実施例1)
図2に示すシステムを用いて、未使用の水湿潤状態であるゲル型強酸性陽イオン交換樹脂360mlを非水溶媒イソプロピルアルコール(IPA)1440ml(4倍量に相当)に一週間程度浸漬させた後にカラムに充填し、微粒子除去フィルターにより微粒子を除去したIPAを、イオン交換樹脂量に対して450倍量通液し、出口液の微粒子数を測定した。微粒子数の測定には液中パーティクルカウンター(リオン社製:KS-18F)を使用した。結果を図3に示す。
本実施例では、IPAに浸漬させたのみにおいて、イオン交換樹脂から流出した50nmを超える微粒子数は初期(IPAの通液開始時)で100個/ml程度であった。
さらに、IPAをイオン交換樹脂の100倍量通液することで、イオン交換樹脂から流出した50nmを超える微粒子数は20個/ml程度、300倍量通液することで10個/ml程度まで低減された。
【0051】
(比較例1)
未使用の水湿潤状態のゲル型イオン交換樹脂360mlをIPAに浸漬させることなく、カラムに充填し、イオン交換樹脂に対してIPAを500倍量通液し、出口液の微粒子数を実施例1と同様に測定した。結果を図4に示す。
本比較例では、IPAに浸漬させず、IPAの通液のみを行った場合、イオン交換樹脂から流出する50nmを超える微粒子数が、初期で1000個/ml程度であった。
また、IPAをイオン交換樹脂の100倍量通液して1500個/ml程度、300倍量通液しても400個/ml程度の流出が見られた。
このように、ゲル型強酸性陽イオン交換樹脂では、イオン交換樹脂をIPA(非水溶媒)に浸漬させることで、イオン交換樹脂から微粒子を流出させる(つまり、イオン交換樹脂の含有微粒子を低減させる)ことができ、精製イオン交換樹脂から流出する微粒子数を低減することができる。そして、イオン交換樹脂をIPAに浸漬させた後、イオン交換樹脂にIPAを通液することで、イオン交換樹脂から微粒子をより流出させる(つまり、イオン交換樹脂の含有微粒子をより低減させる)ことができ、精製イオン交換樹脂から流出する微粒子数を更に低減することができる。この場合、イオン交換樹脂をIPAに浸漬させてイオン交換樹脂から微粒子を流出させている分、イオン交換樹脂から流出する微粒子数を設定値(目標値)まで低減させるために必要なIPA通液量は、イオン交換樹脂をIPAに浸漬させない場合に比べて少量で済む。
これにより、イオン交換樹脂の前処理に必要な非水溶媒量を削減することができ、短時間かつ経済的にイオン交換樹脂の前処理を行うことができる。
【0052】
(実施例2)
未使用の水湿潤状態であるMR型強酸性陽イオン交換樹脂300mlを非水溶媒イソプロピルアルコール(IPA)1200ml(4倍量に相当)に一週間程度浸漬させた後にカラムに充填し、微粒子除去フィルターにより微粒子を除去したIPAを、イオン交換樹脂量に対して500倍量通液し、実施例1と同様に出口液の微粒子数を測定した。結果を図5に示す。
本実施例では、IPAに浸漬させたのみにおいて、イオン交換樹脂から流出した50nmを超える微粒子数は初期で5000個/ml程度であった。
さらに、IPAをイオン交換樹脂の100倍量通液することで、イオン交換樹脂から流出した50nmを超える微粒子数は50個/ml程度、300倍量通液するとことで20個/ml程度まで低減された。
【0053】
(比較例2)
未使用の水湿潤状態のMR型イオン交換樹脂300mlをIPAに浸漬させることなく、カラムに充填し、イオン交換樹脂に対してIPAを500倍量通液し、出口液の微粒子数を実施例1と同様に測定した。結果を図6に示す。
本比較例では、IPAに浸漬させず、IPAの通液のみを行った場合、イオン交換樹脂から流出する50nmを超える微粒子数が、初期で10,000~100,000個/ml程度であった。
また、IPAをイオン交換樹脂の100倍量通液して300個/ml程度、300倍量通液しても100個/ml程度の流出が見られた。
このように、MR型強酸性陽イオン交換樹脂においても、イオン交換樹脂をIPAに浸漬させることで、イオン交換樹脂から微粒子を流出させる(つまり、イオン交換樹脂の含有微粒子を低減させる)ことができ、精製イオン交換樹脂から流出する微粒子数を低減することができる。そして、イオン交換樹脂をIPAに浸漬させた後、イオン交換樹脂にIPAを通液することで、イオン交換樹脂から微粒子をより流出させる(つまり、イオン交換樹脂の含有微粒子をより低減させる)ことができ、精製イオン交換樹脂から流出する微粒子数を更に低減することができる。この場合、イオン交換樹脂をIPAに浸漬させてイオン交換樹脂から微粒子を流出させている分、イオン交換樹脂から流出する微粒子数を設定値(目標値)まで低減させるために必要なIPA通液量は、イオン交換樹脂をIPAに浸漬させない場合に比べて少量で済む。
これにより、イオン交換樹脂の前処理に必要な非水溶媒量を削減することができ、短時間かつ経済的にイオン交換樹脂の前処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、少量の非水溶媒で、イオン交換樹脂から流出する微粒子を低減した精製イオン交換樹脂を製造することができる。
【符号の説明】
【0055】
1a:イオン交換樹脂
2:筒部
3:上蓋
4:下蓋
8:通過孔
9:メッシュ
10:メッシュ
11:上端側管径縮小部
12:下端側管径縮小部
20a:カートリッジ
30:ポンプ
32:非水溶媒貯蔵タンク
33:排出管
34:圧力調整手段(背圧弁)
35:イオン交換樹脂ハウジング
36:回収管
38:微粒子除去フィルター
39:吸込管
40:吐出管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7