(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】回転力伝達機構
(51)【国際特許分類】
F16D 3/68 20060101AFI20240531BHJP
F16D 3/12 20060101ALI20240531BHJP
F16F 15/136 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
F16D3/68
F16D3/12 A
F16F15/136 Z
(21)【出願番号】P 2020087403
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】織奥 豊
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141120(JP,A)
【文献】実開昭48-110555(JP,U)
【文献】特開2001-311433(JP,A)
【文献】特開2012-219852(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0255943(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/12
3/64- 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における加速/減速走行用の回転力を伝達する回転力伝達機構において、
中心軸の周りで回転可能な軸部材であって、前記中心軸から離れる方向に該軸部材の外周面から突出するとともに前記中心軸に沿った方向に延びる複数の突条部を前記外周面上に有する軸部材と、
前記軸部材を取り囲む態様で前記軸部材と同心状に配置され前記中心軸の周りで回転可能な筒状部材であって、前記軸部材の前記複数の突条部のうちの互いに隣接する2つの突条部の間に広がる前記軸部材の前記外周面に向かって前記筒状部材の内周面からそれぞれ突出するとともに前記中心軸に沿った方向に延びる複数の突条部を前記内周面上に有する筒状部材と、
互いに隣接する前記軸部材の各突条部と前記筒状部材の各突条部との間に配置される弾性部材とを、備え、
前記軸部材および前記筒状部材のうちの一方の部材が、前記中心軸の周りの加速走行用の回転力あるいは該加速走行用の回転力とは反対方向の減速走行用の回転力を受けて、該一方の部材の各突条部を、該各突条部に対し前記回転力の方向の下流側から隣接する前記弾性部材を介して前記軸部材および前記筒状部材のうちの他方の部材の各突条部に圧接させることにより、前記回転力を前記他方の部材に伝達するものであり、
前記弾性部材は、前記中心軸の周りの加速走行用の回転力の方向である順方向の下流側から前記一方の部材の各突条部に隣接する第1弾性部材と、前記順方向の上流側から前記一方の部材の各突条部に隣接する第2弾性部材とが、前記中心軸の周りの周方向に交互に配置されることで構成されたものであり、
前記第2弾性部材は、前記中心軸の周りの周方向についての前記第2弾性部材の中央部分を占める本体部と、前記周方向についての前記本体部の両端部にそれぞれ接続するとともに、前記周方向について前記第2弾性部材に対して外力がかかっていない自然状態では前記本体部の前記両端部から離れる方向にそれぞれ延びる2つの突起部とを有するものであり、
前記2つの突起部は、回転力の非伝達時においては前記本体部の前記両端部にそれぞれ押し付けられており、回転力の伝達時において前記第1弾性部材が前記一方の部材の各突条部により所定のレベル以上に圧縮されると、前記軸部材および前記筒状部材の各突条部への当接状態をそれぞれ保ちながら前記本体部の前記両端部から離れる方向にそれぞれ延びるものであり、
前記2つの突起部は、前記自然状態では、一端部が前記本体部の前記両端部における前記中心軸に近い方の縁部で接続し該一端部を除く残りの突起状の部分が前記本体部から隙間を置きながら前記本体部から離れる方向にそれぞれ延びた形状を有するものであって、回転力の非伝達時においては前記本体部の前記両端部との間に隙間を形成することなく前記本体部の前記両端部にそれぞれ押し付けられており、回転力の伝達時において前記第1弾性部材が前記所定のレベル以上に圧縮されると、前記本体部の前記両端部との間に隙間を形成しつつ前記本体部の前記両端部から離れる方向にそれぞれ延びるものである回転力伝達機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における加速/減速走行用の回転力を伝達する回転力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両における加速/減速走行用の回転駆動力(トルク・以下では説明の簡潔さのため単に回転力と呼ぶ)を伝達する回転力伝達機構が従来から知られている。こうした回転力伝達機構は、たとえば自動車等のクラッチ部やトランスファー部等のように、動力源から得られる回転力を、車輪等の被駆動部位まで伝達するために用いられる(たとえば特許文献1~3参照)。ここで、加速用の回転駆動力や減速用の回転駆動力(トルク)を伝達するために車両で用いられる従来の回転力伝達機構について簡単に説明する。
【0003】
図7は、従来の回転力伝達機構1’の構成を表す断面図である。
【0004】
回転力伝達機構1’は、筒状部材2、軸部材3、および弾性部材4’を備えている。筒状部材2および軸部材3は、中心軸Cの周りで同心状に配置されて中心軸Cの周りで回転可能な部材である。軸部材3は、中心軸Cから離れる方向に突出するとともに中心軸Cに沿った方向に延びる複数の突条部31を外周面上に有し、筒状部材2は、軸部材3の外周面に向かってそれぞれ突出するとともに中心軸Cに沿った方向に延びる複数の突条部21を内周面上に有している。ここで、筒状部材2の複数の突条部21は、軸部材3の複数の突条部31のうちの互いに隣接する2つの突条部31の間に配置され、軸部材3の外周面に向かってそれぞれ突出している。弾性部材4’は、互いに隣接する軸部材3の各突条部31と筒状部材2の各突条部21との間に配置されている。ここで、
図7には、回転力の非伝達時における従来の回転力伝達機構1’の様子が示されており、この状態では、弾性部材4’は、互いに隣接する2つの突条部21,31に挟まれた状態で配置されている。
【0005】
加速走行時の回転力の伝達には、軸部材3が、中心軸Cを回転中心とする図の反時計回りの回転方向(以下、順方向と呼ぶ)の回転力を受け、その各突条部31が、各突条部31に対し順方向下流側から隣接する弾性部材4’である第1弾性部材41’を介して筒状部材2の各突条部21に圧接させて筒状部材2に回転力を伝達する。減速時には、軸部材3が、反対方向(時計回りの方向)の回転力を受け、その各突条部31が、各突条部31に対し順方向上流側から隣接する弾性部材4’である第2弾性部材42’を介して筒状部材2の各突条部21に圧接させて回転力を筒状部材2に伝達する。
【0006】
このように互いに隣接する軸部材3の各突条部31と筒状部材2の各突条部21との間に弾性部材4’(第1弾性部材41’および第2弾性部材42’)が介在することで、回転力伝達に伴う衝撃や振動が緩和され、回転力の伝達がスムーズに行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-232164号公報
【文献】特開2018-111390号公報
【文献】特開2019-158100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで車両の走行中には、周囲の状況等に応じて、加速を行った後に瞬時に減速に切り換えることが必要になることがしばしば生じる。このような場合、軸部材3の各突条部31による圧接力の方向が第1弾性部材41’の側から第2弾性部材42’の側に急反転することとなる。
【0009】
図8は、外圧がかかっていない自然状態における
図7の第2弾性部材42’の形状を表した断面図であり、
図9は、加速を行っている状態における従来の回転力伝達機構1’の断面図である。
【0010】
図9に示すように、加速を行っている状態では、図の太線矢印で示す反時計回りの方向(順方向)に大きな回転力が生じ、軸部材3の各突条部31は、第1弾性部材41’に強く圧接して第1弾性部材41’を筒状部材2の各突条部21との間で圧縮する。この状態では、第1弾性部材41’とは反対側から各突条部31に隣接する第2弾性部材42’には軸部材3の各突条部31から大きな力は作用せず、むしろ第2弾性部材42’から軸部材3の各突条部31が離れる傾向が強くなる。この結果、第2弾性部材42’の形状は、
図8に示すような、外圧がかかっていない自然状態における形状に近くなる。特に、加速の程度がきわめて大きい状況では、
図8に示すような第2弾性部材42’の形状では、
図9に示すように第2弾性部材42’が軸部材3の各突条部31から完全に離間してしまうことがある。このような状態で加速から瞬時に減速に転じた場合、軸部材3の各突条部31の圧接力の方向が図の太線矢印とは反対の時計回りの方向に急反転した時の衝撃や振動を第2弾性部材42’が十分に緩和するのが難しくなる。このように弾性部材を用いて軸部材と筒状部材の間の回転力伝達に伴う衝撃や振動を緩和するにあたってはさらなる工夫の余地がある。
【0011】
上記の事情を鑑み、本発明では、回転力伝達に伴う衝撃や振動の緩和に適した回転力伝達機構を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の回転力伝達機構を提供する。
【0013】
[1] 車両における加速/減速走行用の回転力を伝達する回転力伝達機構において、中心軸の周りで回転可能な軸部材であって、前記中心軸から離れる方向に該軸部材の外周面から突出するとともに前記中心軸に沿った方向に延びる複数の突条部を前記外周面上に有する軸部材と、前記軸部材を取り囲む態様で前記軸部材と同心状に配置され前記中心軸の周りで回転可能な筒状部材であって、前記軸部材の前記複数の突条部のうちの互いに隣接する2つの突条部の間に広がる前記軸部材の前記外周面に向かって前記筒状部材の内周面からそれぞれ突出するとともに前記中心軸に沿った方向に延びる複数の突条部を前記内周面上に有する筒状部材と、互いに隣接する前記軸部材の各突条部と前記筒状部材の各突条部との間に配置される弾性部材とを、備え、前記軸部材および前記筒状部材のうちの一方の部材が、前記中心軸の周りの加速走行用の回転力あるいは該加速走行用の回転力とは反対方向の減速走行用の回転力を受けて、該一方の部材の各突条部を、該各突条部に対し前記回転力の方向の下流側から隣接する前記弾性部材を介して前記軸部材および前記筒状部材のうちの他方の部材の各突条部に圧接させることにより、前記回転力を前記他方の部材に伝達するものであり、前記弾性部材は、前記中心軸の周りの加速走行用の回転力の方向である順方向の下流側から前記一方の部材の各突条部に隣接する第1弾性部材と、前記順方向の上流側から前記一方の部材の各突条部に隣接する第2弾性部材とが、前記中心軸の周りの周方向に交互に配置されることで構成されたものであり、前記第2弾性部材は、前記中心軸の周りの周方向についての前記第2弾性部材の中央部分を占める本体部と、前記周方向についての前記本体部の両端部にそれぞれ接続するとともに、前記周方向について前記第2弾性部材に対して外力がかかっていない自然状態では前記本体部の前記両端部から離れる方向にそれぞれ延びる2つの突起部とを有するものであり、前記2つの突起部は、回転力の非伝達時においては前記本体部の前記両端部にそれぞれ押し付けられており、回転力の伝達時において前記第1弾性部材が前記一方の部材の各突条部により所定のレベル以上に圧縮されると、前記軸部材および前記筒状部材の各突条部への当接状態をそれぞれ保ちながら前記本体部の前記両端部から離れる方向にそれぞれ延びるものである回転力伝達機構。
【0014】
[2] 前記2つの突起部は、前記自然状態では、一端部が前記本体部の前記両端部における前記中心軸に近い方の縁部で接続し該一端部を除く残りの突起状の部分が前記本体部から隙間を置きながら前記本体部から離れる方向にそれぞれ延びた形状を有するものであって、回転力の非伝達時においては前記本体部の前記両端部との間に隙間を形成することなく前記本体部の前記両端部にそれぞれ押し付けられており、回転力の伝達時において前記第1弾性部材が前記所定のレベル以上に圧縮されると、前記本体部の前記両端部との間に隙間を形成しつつ前記本体部の前記両端部からそれぞれ離れる方向にそれぞれ延びるものである[1]に記載の回転力伝達機構。
【0015】
[3] 前記2つの突起部は、前記自然状態では、前記本体部から離れる方向にそれぞれ膨らんだ延びた形状を有するものであって、回転力の非伝達時においては膨らみがつぶれて前記本体部の前記両端部にそれぞれ押し付けられており、回転力の伝達時において前記第1弾性部材が前記所定のレベル以上に圧縮されると、膨らみながら前記本体部の前記両端部から離れる方向にそれぞれ延びるものである[1]に記載の回転力伝達機構。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、加速走行用の回転力の伝達時において第1弾性部材が所定のレベル以上に圧縮されると、第2弾性部材の2つの突起部は、軸部材の突条部および筒状部材の突条部への当接状態をそれぞれ保ちながら第2弾性部材の本体部の両端部からそれぞれ離れる。
このため、第2弾性部材が、隣接する突条部から完全に離間することが避けられており、加速後に瞬時に減速に切り換わった場合であっても、回転力伝達に伴う衝撃や振動が緩和される。この結果、本発明では回転力伝達に伴う衝撃や振動の緩和に適した回転力伝達機構が実現している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の回転力伝達機構の構成を表す断面図である。
【
図2】外圧がかかっていない自然状態における
図1の第2弾性部材の形状を表した断面図である。
【
図3】加速を行っている状態における回転力伝達機構の断面図である。
【
図4】外圧がかかっていない自然状態における形状が
図2の第2弾性部材の形状とは異なる第2弾性部材が採用されている別の実施形態で加速を行っている状態における回転力伝達機構の構成を表す断面図である。
【
図5】外圧がかかっていない自然状態における形状が
図3の第2弾性部材の形状や
図4の第2弾性部材の形状とは大きく異なる第2弾性部材が採用されている別の実施形態で加速を行っている状態における回転力伝達機構の構成を表す断面図である。
【
図6】外圧がかかっていない自然状態における
図5の第2弾性部材の形状を表した断面図である。
【
図7】従来の回転力伝達機構の構成を表す断面図である。
【
図8】外圧がかかっていない自然状態における
図7の第2弾性部材の形状を表した断面図である。
【
図9】加速を行っている状態における従来の回転力伝達機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
本実施形態の回転力伝達機構は、加速用の回転駆動力(トルク)や減速用の回転駆動力(トルク)を伝達するために車両に設けられた回転力伝達機構である。以下では、説明の簡潔さのため、回転駆動力(トルク)を単に回転力と呼ぶ。
【0020】
図1は、本実施形態の回転力伝達機構1の構成を表す断面図である。
【0021】
図1には、中心軸Cに垂直な断面での従来の回転力伝達機構1の構成が示されており、上述の
図7の回転力伝達機構1’と同一の構成要素については同一の符号が付されている。
図1には、回転力の非伝達時(回転力の伝達が行われていない時)における本実施形態の回転力伝達機構1の様子が示されており、この図に示すように、回転力伝達機構1は、筒状部材2、軸部材3、および弾性部材4を備えている。以下、これらの構成要素について説明する。
【0022】
軸部材3は、上述したように、中心軸Cの周りで回転可能な部材であり、中心軸Cから離れる方向に軸部材3の外周面から突出するとともに中心軸Cに沿った方向に延びる複数の突条部31を外周面上に有している。
図1では、4つの突条部31が一例として示されている。なお、軸部材3は、外見が軸(シャフト)状の部材であり、金属棒のように中心軸Cを含む中身まで構成材料で占められている軸状の部材であってもよいし、金属管のように筒状の外郭部分以外は中空となっている軸状の部材であってもよい。
【0023】
筒状部材2は、上述したように、軸部材3を取り囲む態様で軸部材3と同心状に配置され中心軸Cの周りで回転可能な部材であり、筒状部材2の内周面から突出するとともに中心軸Cに沿った方向に延びる複数の突条部を内周面上に有している。これら複数の突条部21は、軸部材3の複数の突条部31のうちの互いに隣接する2つの突条部31の間に配置され、軸部材3の外周面に向かってそれぞれ突出している。
図1では、軸部材3の4つの突条部31の間にそれぞれ存在する筒状部材2の4つの突条部21が一例として示されている。
【0024】
弾性部材4は、互いに隣接する軸部材3の各突条部31と筒状部材2の各突条部21との間に配置されている部材であり、
図1に示すように回転力の非伝達時には、互いに隣接する2つの突条部21,31によって両側から挟まれている。弾性部材4は、第1弾性部材41と第2弾性部材42の2種類の弾性部材で構成されており、第1弾性部材41と第2弾性部材42とは、中心軸Cを中心とする周方向に沿って交互に配置されている。
図1のように回転力の非伝達時における第2弾性部材42の形状は、
図7の従来の回転力伝達機構1’での回転力の非伝達時における第2弾性部材42’の形状とそれほど大きくは変わらない。しかしながら、後述するように、外圧がかかっていない自然状態での第2弾性部材42の形状は、
図7の従来の回転力伝達機構1’での同状態における第2弾性部材42’の形状とは大きく異なっている(
図2参照)。
図1では、この点を明確化するため、
図1の第2弾性部材42において、点線で、
図2の隙間420a,420bが第2弾性部材42両側からの圧縮によりつぶれた部分が示されている。
【0025】
ここで、回転力伝達機構1では、軸部材3および筒状部材2のうちの一方の部材が、中心軸Cの周りの加速走行用の回転力あるいはこの加速走行用の回転力とは反対方向の減速走行用の回転力を受けて、その一方の部材の各突条部を、その各突条部に対し回転力の方向の下流側から隣接する弾性部材4を介して他方の部材の各突条部に圧接させることにより、回転力を他方の部材に伝達する。すなわち、上記の一方の部材が駆動側の部材であり、上記の他方の部材が上記の一方の部材の回転に従動して回転する従動側の部材となる。
上述の第1弾性部材41は、中心軸の周りの加速走行用の回転力の方向である順方向の下流側から上記の一方の部材の各突条部に隣接する弾性部材4であり、加速走行用の回転力伝達に伴う衝撃や振動を緩和する役目を担っている。一方、上述の第2弾性部材42は、順方向の上流側から上記の一方の部材の各突条部に隣接する弾性部材4であり、減速走行時における減速走行用の回転力伝達に伴う衝撃や振動を緩和する役目を担っている。
【0026】
以下では、説明の簡潔さの観点から、軸部材3が駆動側の部材であり、筒状部材2が従動側の部材であって、加速走行用の回転力の方向(順方向)は、
図1において中心軸Cを中心とする反時計回りの方向であるとして説明を行う。なお、以下ではこのように軸部材3が駆動側の部材であり筒状部材2が従動側の部材であるとして説明するが、本発明では、逆に、軸部材3が従動側の部材であって筒状部材2が駆動側の部材であってもよい。
【0027】
一般に、加速を行った後に瞬時に減速に切り替えた場合等においては、
図7~
図9で説明したように、駆動側の部材の突条部と弾性部材との間に離間が生じて弾性部材による衝撃や振動が十分に緩和されない事態が危惧される。本実施形態の回転力伝達機構1では、このような事態を避ける工夫が凝らされている。以下この工夫について説明する。
【0028】
図2は、外圧がかかっていない自然状態における
図1の第2弾性部材42の形状を表した断面図であり、
図3は、加速を行っている状態における回転力伝達機構1の断面図である。
【0029】
図3に示すように、加速を行っている状態では、図の太線矢印で示す反時計回りの方向(順方向)に大きな回転力が生じ、軸部材3の各突条部31は、第1弾性部材41に強く圧接して第1弾性部材41を筒状部材2の各突条部21との間で圧縮する。
【0030】
この状態では、第1弾性部材41とは反対側から各突条部31に隣接する第2弾性部材42’には軸部材3の各突条部31から大きな力は作用せず、むしろ第2弾性部材42から軸部材3の各突条部31が離れる傾向が強くなる。この結果、第2弾性部材42の形状は、
図2に示すような、外圧がかかっていない自然状態における形状に近くなる。
【0031】
図2に示すように第2弾性部材42は、本体部421と2つの突起部422,423を有している。本体部421は、
図3の中心軸Cの周りの周方向についての第2弾性部材42の中央部分を占める部分である。一方、2つの突起部422,423は、周方向についての本体部421の両端部421a,421bにそれぞれ接続するとともに、
図2のように周方向について第2弾性部材42に対して外力がかかっていない自然状態では、本体部421の両端部から離れる方向にそれぞれ延びている。具体的には、
図2の右側の突起部422は、本体部421の右側の端部421aに接続するとともに、自然状態ではその右側の端部421aから離れる矢印A方向に延びている。一方、
図2の左側の突起部423は、本体部421の左側の端部421bに接続するとともに、自然状態ではその左側の端部421bから離れる矢印B方向に延びている。このような2つの突起部422,423により、第2弾性部材42の形状は、加速していない状態では
図1のように圧縮された状態となっており、加速時に
図2の形状に戻ろうとする。
【0032】
ここで、2つの突起部422,423は、回転力の非伝達時においては、
図1に示すように第2弾性部材42に隣接する軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21により本体部421の両端部421a,421bにそれぞれ押し付けられている。この状況で加速等の大きな加速走行用の回転力の伝達により第1弾性部材41が軸部材3の各突条部31により所定のレベル以上に圧縮されると、第1弾性部材41の両側の軸部材3の突条部31と筒状部材2の突条部21との間の距離が狭まった結果、相対的に第2弾性部材42の両側の軸部材3の突条部31と筒状部材2の突条部21との間の距離が広くなる。この状態では、2つの突起部422,423は、
図3に示すように、軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21への当接状態をそれぞれ保ちながら本体部421の両端部421a,421bから離れる方向にそれぞれ延びる。
【0033】
このため、回転力伝達機構1では、第2弾性部材42が、隣接する軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21から完全に離間することが避けられており、加速後に瞬時に減速に切り換わった場合であっても、回転力伝達に伴う衝撃や振動が緩和される。この結果、回転力伝達機構1では、回転力伝達に伴う衝撃や振動の緩和に適した回転力伝達機構が実現している。
【0034】
ここで、2つの突起部422,423が、自然状態では、
図2に示すように一端部422b,423bが本体部421の両端部421a,421bの中心軸Cに近い方の縁部で接続し、その一端部422b,423bを除く残りの突起状の部分422a,423aが本体部421から隙間420a,420bを置きながら本体部421から離れるA方向およびB方向にそれぞれ延びた形状を有するものであって、回転力の非伝達時においては
図1に示すように本体部421の両端部421a,421bとの間に隙間を形成することなく本体部421の両端部421a,421bにそれぞれ押し付けられており、加速走行用の回転力の伝達時において第1弾性部材41が所定のレベル以上に圧縮されると、
図3に示すように、本体部421の両端部421a,421bとの間に隙間420a,420bを形成しつつ本体部の両端部421a,421bからそれぞれ離れる方向にそれぞれ延びるものであることが好ましい。
【0035】
このような形態によれば、2つの突起部422,423が、自然状態よりも本体部421の側に圧縮されたときに、周方向に広がって自然状態(
図2参照)に戻ろうとする弾性力が発生しやすい形状が実現する。このため、隣接する軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21から2つの突起部422,423が離間しにくく、加速後に瞬時に減速に切り換わった場合であっても衝撃や振動が十分に緩和される。
【0036】
以上では、外圧がかかっていない自然状態における第2弾性部材の形状が、
図2に示す第2弾性部材42の形状となる実施形態について説明したが、衝撃や振動を緩和する同様の効果を発揮する第2弾性部材の形状としては、他にも色々なものが考えられる。以下、第2弾性部材の形状が
図2に示す第2弾性部材42の形状とは異なるいくつかの実施形態について説明する。
【0037】
図4は、外圧がかかっていない自然状態における形状が
図2の第2弾性部材42の形状とは異なる第2弾性部材42Aが採用されている別の実施形態で加速を行っている状態における回転力伝達機構1Aの構成を表す断面図である。
【0038】
図4には、加速を行っている状態における回転力伝達機構1Aの様子が示されており、回転力伝達機構1Aにおける第2弾性部材42Aの形状は、加速により第2弾性部材42Aに大きな外圧がかかっていないためほぼ自然状態の形状となっている。ここで、
図4には、
図1~
図3の実施形態における構成要素と同じ構成要素については同一の符号が付されており、その構成要素についての重複説明は省略する。
図4の回転力伝達機構1Aは、
図1~
図3の回転力伝達機構1の第2弾性部材42と比べ、異なる第2弾性部材42Aが用いられている点を除き、
図1~
図3の回転力伝達機構1と同様の構成を有し、同様の効果を有する。このため、以下では、第2弾性部材42Aに焦点を絞って説明を行う。
【0039】
第2弾性部材42Aは、中心軸Cの周りの周方向についての第2弾性部材42の中央部分を占める本体部421Aと、その両端部にそれぞれ接続する2つの突起部422A,423Aを有している。本体部421Aは、
図1~
図3の回転力伝達機構1の第2弾性部材42における本体部421と比べ、周方向の幅が少し短くなっている。一方、2つの突起部422A,423Aは、自然状態では、
図4に示すように本体部421Aの両端部から離れる方向にそれぞれ延び、回転力の非伝達時においては、本体部421Aの両端部にそれぞれ押し付けられ
図1の2つの突起部422,423と同じ状態となっている。そして、第1弾性部材41が軸部材3の各突条部31により所定のレベル以上に圧縮されると、2つの突起部422A,423Aは、
図4に示すように、軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21への当接状態をそれぞれ保ちながら本体部421の両端部からそれぞれ離れる方向にそれぞれ延びる。この結果、
図4の回転力伝達機構1Aでは、
図1~
図3の回転力伝達機構1の第2弾性部材42と同様、第2弾性部材42Aが、隣接する軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21から完全に離間することが避けられており、衝撃や振動の緩和に適した回転力伝達機構が実現している。
【0040】
さらに
図4の回転力伝達機構1Aでは、2つの突起部422A,423Aは、
図1~
図3の回転力伝達機構1と同様に、自然状態では、本体部421Aの両端部の中心軸Cに近い方の縁部に接続する一端部を除く残りの突起状の部分が本体部421Aとの間に隙間を形成しつつ延びている(
図4参照)。一方、回転力の非伝達時においてはこのような隙間は形成されない(図示省略)。この結果、
図1~
図3において説明した好ましい形態が
図4の回転力伝達機構1Aでも実現しており、加速後に瞬時に減速に切り換わった場合であっても衝撃や振動が十分に緩和される。
【0041】
図5は、外圧がかかっていない自然状態における形状が
図3の第2弾性部材42の形状や
図4の第2弾性部材42Aの形状とは大きく異なる第2弾性部材42Bが採用されている別の実施形態で加速を行っている状態における回転力伝達機構1Bの構成を表す断面図であり、
図6は、外圧がかかっていない自然状態における
図5の第2弾性部材42Bの形状を表した断面図である。
【0042】
図5には、加速を行っている状態における回転力伝達機構1Bの様子が示されており、回転力伝達機構1Bにおける第2弾性部材42Bの形状は、加速により第2弾性部材42Bに大きな外圧がかからないため、
図6に示す自然状態の形状に近い形状となっている。ここで、
図5には、
図1~
図3の実施形態における構成要素と同じ構成要素については同一の符号が付されており、その構成要素についての重複説明は省略する。
図5の回転力伝達機構1Bは、
図1~
図3の回転力伝達機構1の第2弾性部材42と比べ、異なる第2弾性部材42Bが用いられている点を除き、
図1~
図3の回転力伝達機構1と同様の構成を有し、同様の効果を有する。このため、以下では、第2弾性部材42Bに焦点を絞って説明を行う。
【0043】
図6に示すように、第2弾性部材42Bは、中心軸Cの周りの周方向についての第2弾性部材42の中央部分を占める本体部421Bと、その両端部にそれぞれ接続する2つの突起部422B,423Bを有している。
図2および
図3の第2弾性部材42や
図4の第2弾性部材42Aとは大きく異なり、2つの突起部422B,423Bは、自然状態では、本体部421の両端部421c,421dから離れる方向にそれぞれ膨らんで延びた形状を有している。
【0044】
一方、回転力の非伝達時においては、2つの突起部422B,423Bは、膨らみがつぶれて本体部421Bの両端部421c,421dにそれぞれ押し付けられている。このため、第2弾性部材42Bの全体的な形状は、
図1の第2弾性部材42と同じような形状となっている。そして、第1弾性部材41が軸部材3の各突条部31により所定のレベル以上に圧縮されると、2つの突起部422B,423Bは、
図5に示すように、軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21への当接状態をそれぞれ保ちつつ、膨らみながら本体部421Bの両端部421c,421dから離れる方向にそれぞれ延びる。この結果、
図5の回転力伝達機構1Bでは、
図1~
図3の回転力伝達機構1の第2弾性部材42と同様、第2弾性部材42Bが、隣接する軸部材3の突条部31および筒状部材2の突条部21から完全に離間することが避けられており、衝撃や振動の緩和に適した回転力伝達機構が実現している。
【0045】
以上が本実施形態の説明である。
【0046】
以上の実施形態の説明では、第1弾性部材と第2弾性部材とのうち第2弾性部材のみが従来とは異なる特定の形状を有するものとして説明したが、本発明では、第1弾性部材についても第2弾性部材と同様に特定の形状を有するものが採用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、回転力伝達時における衝撃や振動の緩和に有用である。
【符号の説明】
【0048】
1:回転力伝達機構、
1A:回転力伝達機構、
1B:回転力伝達機構、
1’:回転力伝達機構、
2:筒状部材、
3:軸部材、
4:弾性部材、
4’:弾性部材、
21:突条部、
31:突条部、
41:第1弾性部材、
42:第2弾性部材、
42B:第2弾性部材、
42’:第2弾性部材、
420a:隙間、
420b:隙間、
421:本体部、
421a:端部、
421B:本体部、
421b:端部、
421c:端部、
421d:端部、
422:突起部、
422A:突起部、
422a:残りの突起状の部分、
422B:突起部、
422b:一端部、
423:突起部、
423A:突起部、
423a:残りの突起状の部分、
423B:突起部、
423b:一端部、
A:方向、
B:方向、
C:中心軸。