(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】衣類害虫用摂食阻害剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/40 20060101AFI20240531BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A01N37/40
A01P17/00
(21)【出願番号】P 2020092189
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】本岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】大塚 良一
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-033105(JP,A)
【文献】特開昭63-072603(JP,A)
【文献】特表平09-502189(JP,A)
【文献】特開2014-185087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/
A01P 17/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
[式中、R
1は水素原子またはアルカリ金属を示し、R
2は炭素原子数1~22のアルキル基または炭素原子数6~22のアリール基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルを含む、衣類害虫用摂食阻害剤
であって、
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルであり、
対象となる衣類害虫はコイガである、衣類害虫用摂食阻害剤。
【請求項2】
被処理領域または被処理体に、請求項
1に記載の衣類害虫用摂食阻害剤を適用することを含む、衣類害虫による食害を防除する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性に優れるとともに、衣類害虫による繊維製品の食害を阻害する効果に優れた衣類害虫用摂食阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イガ類、カツオブシムシ類ならびにシミ類等の衣類害虫による繊維製品の食害被害(穴あき等)を防止するために、様々な殺虫剤や防虫剤が実用化されてきた。これらの防虫剤等の有効成分としては、ナフタレン、ショウノウやパラジクロロベンゼン等の昇華性防虫成分が使用されていた。しかし、強い刺激性や臭気とともに安全性の問題が指摘されたことから、近年、防虫成分として、エンペントリンやプロフルトリンなどの常温揮発性ピレスロイド系化合物が提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
また、衣類害虫の幼虫が発生しないように、卵に作用する孵化阻害剤(特許文献3)や、成虫に産卵させないように作用する産卵抑制・阻害剤(特許文献4、5)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許2849826号公報
【文献】特許4148552号公報
【文献】特開2007-186526号公報
【文献】特開平11-209203号公報
【文献】特開2009-40714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、常温揮発性ピレスロイド系化合物を用いた防虫剤は、匂い移りの問題があるとともに、衣類害虫に対する効果が十分とは言えないものであった。
【0006】
また、産卵や孵化の抑制には限界があり、発生した幼虫が衣類等に侵入した場合、食害被害が避けられないものであった。
【0007】
本発明の目的は、安全性に優れるとともに、衣類害虫による衣類等の繊維製品の食害被害を阻止する効果に優れた衣類害虫用摂食阻害剤を提供することにある。また、本発明の別の目的は、安全性に優れるとともに、衣類害虫による衣類等の繊維製品の食害被害を阻止する効果に優れた衣類害虫による食害を防除する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の4-ヒドロキシ安息香酸エステルがコイガ等の衣類害虫に対して高い摂食阻害効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
[1]式(1)
【化1】
[式中、R
1は水素原子またはアルカリ金属を示し、R
2は炭素原子数1~22のアルキル基または炭素原子数6~22のアリール基を示す]
で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルを含む、衣類害虫用摂食阻害剤。
[2]R
1は水素原子を示す、[1]に記載の衣類用摂食阻害剤。
[3]R
2は炭素原子数1~8のアルキル基を示す、[1]または[2]に記載の衣類害虫用摂食阻害剤。
[4]式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルからなる群から選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の衣類害虫用摂食阻害剤。
[5]対象となる衣類害虫は、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシおよびシミ類からなる群から選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の衣類害虫用摂食阻害剤。
[6]被処理領域または被処理体に、[1]~[5]のいずれかに記載の衣類害虫用摂食阻害剤を適用することを含む、衣類害虫による食害を防除する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の衣類害虫用摂食阻害剤によれば、安全性に優れるとともに、衣類害虫に対して高い摂食阻害効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の薬剤処理生地の表面状態を示す写真である。
【
図2】実施例2の薬剤処理生地の表面状態を示す写真である。
【
図3】比較例1の薬剤処理生地の表面状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の衣類害虫用摂食阻害剤は、有効成分として式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルを含む。
【化2】
[式中、R
1は水素原子またはアルカリ金属を示し、R
2は炭素原子数1~22のアルキル基または炭素原子数6~22のアリール基を示す。]
【0013】
R1がアルカリ金属を示す場合、アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムおよびリチウムが挙げられる。R1は好ましくは水素原子である。
【0014】
R2は、所定の炭素原子数を有するアルキル基またはアリール基を示し、アルキル基を示すことが好ましい。R2がアルキル基を示す場合、炭素原子数1~16を示すことが好ましく、炭素原子数1~12を示すことがより好ましく、炭素原子数1~8を示すことがさらに好ましく、炭素原子数1~6を示すことがよりさらに好ましく、炭素原子数4~6を示すことが特に好ましい。また、R2がアリール基を示す場合、炭素原子数6~16を示すことが好ましく、炭素原子数6~10を示すことがより好ましい。
【0015】
式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルとしては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、4-ヒドロキシ安息香酸オクチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ノニル、4-ヒドロキシ安息香酸デシル、4-ヒドロキシ安息香酸ウンデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ドデシル、4-ヒドロキシ安息香酸トリデシル、4-ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンタデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプタデシル、4-ヒドロキシ安息香酸オクタデシル、4-ヒドロキシ安息香酸ノナデシル、4-ヒドロキシ安息香酸イコシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘンイコシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘンエイコシル、4-ヒドロキシ安息香酸フェニル、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、4-ヒドロキシ安息香酸p-トリル、4-ヒドロキシ安息香酸m-トリル、4-ヒドロキシ安息香酸o-トリル、4-ヒドロキシ安息香酸1-ナフチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸2-ナフチルからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0016】
これらの中でも、衣類害虫に対する摂食阻害効果により優れるという点で、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘプチル、4-ヒドロキシ安息香酸オクチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸エチルヘキシルがより好適に使用される。
【0017】
さらに、衣類害虫に対する摂食阻害効果に特に優れ、かつ害虫忌避効果にも優れるという点で、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ペンチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルが特に好適に使用され、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルが最も好適に使用される。
【0018】
上述した4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本発明で使用される4-ヒドロキシ安息香酸エステルは、市販のものを用いてもよく、また、特開2018-95581号公報や特開2016-210699号公報に記載されるように、触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸または4-ヒドロキシ安息香酸エステルと脂肪族アルコールとを反応させることによって得られたものを用いてもよい。
【0020】
本発明の衣類害虫用摂食阻害剤は、使用目的に応じた形態で用いることができるが、具体的には以下の形態が挙げられる。
(1)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルを単独でそのまま摂食阻害剤として使用する形態。
(2)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルを固体担体に担持させた固体製剤を摂食阻害剤として使用する形態。
(3)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルを溶剤に可溶化または分散させた液体製剤を摂食阻害剤として使用する形態。
(4)式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルを樹脂中に混錬した樹脂組成物を摂食阻害剤として使用する形態。
【0021】
(2)の固体担体に担持させた固体製剤を摂食阻害剤とする形態において、使用する固体担体としては、例えば、カオリン、タルク、ベントナイト、クレー、珪藻土、炭酸カルシウム、シリカ、ゼオライト等の鉱物質又は無機質粉末;木粉、大豆粉、小麦粉、澱粉粉等の植物質粉末;フェノール樹脂、ポリアミド、アクリル、ポリプロピレン、ポリエステル等のプラスチック;該プラスチックからなる合成繊維;ポリブタジエン等のゴムまたはその粉末;樟脳、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、トリオキサン、シクロドデカン、アダマンタン等の昇華性粉末;リンター、パルプ等の天然繊維;羊毛、綿、絹などの動植物性繊維;レーヨンなどの再生繊維等が挙げられ、またガラス繊維、石綿などの無機繊維などから得られる紙、不織布等が挙げられる。
【0022】
(3)の溶剤に溶解または分散させた液体製剤を摂食阻害剤とする形態において、使用する液体としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ケロシン、パラフィン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;および酢酸エチル、ラウリン酸ヘキシル等のエステル類などが挙げられる。
【0023】
(4)の樹脂中に練り込んだ樹脂組成物を摂食阻害剤とする形態において、使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム類が挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超分子量ポリエチレン、プラストマーなどのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・メタアクリル酸共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル、塩化ビニデン単独重合体等の塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂などのスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチルなどのメタクリル樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂、PSU(ポリサルホン)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)樹脂、変性PPE樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂、PVF(ポリフッ化ビニル)樹脂などのフッ素樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂などのポリエーテルケトン系樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、熱可塑性ポリイミド、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー樹脂、加水分解性樹脂、水和分解型樹脂、吸水性樹脂が挙げられる。
【0025】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、グアナミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリパラ安息香酸樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。
【0026】
ゴム類としては、ブチルゴム、イソプレンゴム、SBR(スチレンブタジエンゴム),NIR(ニトリルイソプレンゴム),NBR(ニトリルブタジエンゴム),ウレタンゴム、クロロプレンゴム、EPDM(エチレンプロピレンジエン共重合体ゴム),EPM(エチレンプロピレン共重合体ゴム),ブタジエンゴム、アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、プロピレンオキサイドゴム、エチレン・アクリルゴム、ノルボルネンゴム、水素化ニトリルゴム、ポリエーテル系ゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、クロロスルホン化ゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
【0027】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂およびゴム類は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、ポリマーアロイ化して使用してもよく、ブレンドして使用してもよく、あるいはそれぞれの樹脂層を積層して使用してもよい。
【0028】
上記(1)~(4)の使用形態において、いずれの場合も、必要により他の剤、例えば防虫剤、殺虫剤、抗菌剤、殺菌剤、抗黴剤、防藻剤、殺藻剤等を併用してもよい。併用してもよい他の剤としては、例えば、ナフタレン、樟脳、パラジクロロベンゼン、イカリジン、DEETなどの蒸散系化合物、ピレトリン、エムペントリン、プロフルトリンなどのピレスロイド系化合物、カルバクロール、ヌートカトン、エモフィラン、p-メンタン-3,8-ジオールなどのテルペン系化合物などが挙げられる。また、他の剤と併用する場合、その使用量(質量)は、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルの使用量(質量)と同量以下とすることが、安全性の観点から好ましい。
【0029】
上述した形態の摂食阻害剤は、スプレー剤、エアゾール剤、ポンプ剤、液剤、塗布剤、貼付剤、マット剤、シート剤、テープ剤、粉剤、顆粒剤、ゲル剤、クリーム剤、フィルム、容器、塗料等の剤型に調製することができる。
【0030】
本発明の摂食阻害剤において、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルの含有量は、摂食阻害剤の剤型や適用方法、適用場所に応じて適宜決定することができる。
【0031】
例えば、溶剤に溶解または分散させた液体製剤、樹脂との混錬により得られた樹脂組成物ならびに固体担体に担持させた固体製剤として使用する場合、いずれも式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステルの割合が、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは1~30質量%、更に好ましくは3~20質量%となるように含有させるのがよい。
【0032】
本発明の衣類害虫用摂食阻害剤により摂食阻害すべき対象とされる衣類害虫としては、イガ、コイガなどのヒロズコガ科、ノシメマダラメイガなどのメイガ科などのガ類、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシなどのカツオブシムシ科、およびシミ類などが挙げられる。
【0033】
本発明の衣類害虫用摂食阻害剤は、これを衣類害虫により食害され得る被処理領域または被処理体に適用し、衣類害虫による食害を防徐することができる。すなわち、本発明は、被処理領域または被処理体に、前記の衣類害虫用摂食阻害剤を適用することを含む、衣類害虫による食害を防除する方法にも関する。
【0034】
被処理領域または被処理体への適用手段としては、例えば、タンス、引き出し、クローゼットや衣類収納箱内の所定部位に前記の衣類害虫用摂食阻害剤を配置する方法、繊維製品、例えばスーツ、ワイシャツ、Tシャツ、ポロシャツ、ブラウス、スラックス、スカート、帽子、靴、靴下などの衣類に対してスプレー等を用いて前記の衣類害虫用摂食阻害剤を噴霧する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない(実施例2~4は参考例)。
実施例および比較例に用いた摂食阻害成分および衣類害虫を以下に示す。
【0036】
<摂食阻害成分>
摂食阻害成分A:4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル(上野製薬株式会社製)
摂食阻害成分B:4-ヒドロキシ安息香酸ブチル(上野製薬株式会社製)
摂食阻害成分C:4-ヒドロキシ安息香酸メチル(上野製薬株式会社製)
摂食阻害成分D:4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル(上野製薬株式会社製)
摂食阻害成分E:フェニル酢酸p-クレジル(東京化成工業株式会社製)
摂食阻害成分F:安息香酸イソブチル(東京化成工業株式会社製)
【0037】
<衣類害虫(供試虫)>
コイガ(Tinea bissllinella)幼虫
【参考例(ブランク生地の作成)】
【0038】
アセトン0.25mLを、3cm×3cmに裁断したウール生地(オガワテキスタイル株式会社製 100%ウール生地、品番4880)の片面全体に万遍なく滴下し、ドラフト内にて1時間風乾燥して、ブランク生地を作製した。
【実施例1】
【0039】
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシル5.5%(質量基準)に調整したアセトン溶液0.25mLを、3cm×3cmに裁断したウール生地(オガワテキスタイル株式会社製 100%ウール生地、品番4880)の片面全体に万遍なく滴下し、ドラフト内にて1時間風乾燥して、薬剤処理生地を作製した。
【0040】
850mLのTSカップに、薬剤処理生地およびブランク生地を各1枚設置し、生地以外の部分に供試虫20頭を入れた後、カップに蓋をして暗幕を被せて全暗条件にし、室温下(約25℃)に静置した。
【0041】
8日後に生地を回収し、生地に対する供試虫の摂食度合(摂食阻害効果)および営巣度合(忌避効果)を目視で確認しそれぞれ以下のように評価した。結果を表1および
図1に示す。
【0042】
(食害度合の評価)
食害指数0:食害なし
食害指数1:ウール生地外周部分に少し食害あり
食害指数2:食害によりウール生地に部分的に穴があく
食害指数3:ウール生地全体に食害あり
【0043】
(営巣度合の評価)
営巣指標0:営巣なし
営巣指標1:営巣領域が生地全体の10%未満
営巣指標2:営巣領域が生地全体の20%未満
営巣指標3:営巣領域が生地全体の20%以上
【実施例2】
【0044】
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルを4-ヒドロキシ安息香酸ブチルに変更した以外は実施例1と同様にして摂食度合および営巣度合を評価した。結果を表1および
図2に示す。
【実施例3】
【0045】
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルを4-ヒドロキシ安息香酸メチルに変更した以外は実施例1と同様にして摂食度合および営巣度合を評価した。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0046】
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルを4-ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルに変更した以外は実施例1と同様にして摂食度合および営巣度合を評価した。結果を表1に示す。
【比較例1】
【0047】
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルをフェニル酢酸p-クレジルに変更した以外は実施例1と同様にして摂食度合および営巣度合を評価した。結果を表1および
図3に示す。
【比較例2】
【0048】
4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルを安息香酸イソブチルに変更した以外は実施例1と同様にして摂食度合および営巣度合を評価した。結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
表1および
図1~3から明らかなように、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸エステル(実施例1~4)は、衣類害虫に対する摂食阻害効果および忌避効果に優れ、摂食阻害剤として有用であることが理解される。