(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】デッドアクスル構造
(51)【国際特許分類】
B60B 35/04 20060101AFI20240531BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20240531BHJP
B60G 9/04 20060101ALI20240531BHJP
B23K 31/00 20060101ALN20240531BHJP
【FI】
B60B35/04
B23K9/00 501C
B60G9/04
B23K31/00 F
(21)【出願番号】P 2020138948
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真
(72)【発明者】
【氏名】田島 史渉
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119468(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102350596(CN,A)
【文献】特開2017-087935(JP,A)
【文献】特開2011-162009(JP,A)
【文献】特開2010-110793(JP,A)
【文献】特開平04-371387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0215200(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018128657(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/04
B23K 9/00
B60G 9/04
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に配置され両端部にスピンドルが設けられる中空のデッドアクスルケース本体に、懸架装置用取り付け部材及び制動装置用取り付け部材の少なくとも一方が、少なくとも当該デッドアクスルケース本体の中立軸を基準として上方に片寄った位置に溶接部を有する状態で溶接されるデッドアクスル構造であって、
前記懸架装置用取り付け部材は、前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部にブラケットを備え、当該ブラケットは前記中立軸の上方に設けられる前記溶接部で前記デッドアクスルケース本体に溶接され、
前記デッドアクスルケース本体の側部
且つ前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部に、前記中立軸よりも下方であって当該デッドアクスルケース本体の最下部よりも上方に位置する部位にビードオンプレート溶接部が設けられ
、
前記ビードオンプレート溶接部の少なくとも一部は、前記ブラケットの前記溶接部に対し前記デッドアクスルケース本体の長手方向で重複するように前記溶接部の真下に配置されている、ことを特徴とするデッドアクスル構造。
【請求項2】
前記ビードオンプレート溶接部は、前記中立軸よりも下方であって前記懸架装置用取り付け部材の前記溶接部及び前記制動装置用取り付け部材の前記溶接部の少なくとも一方の溶接下端部よりも上方に位置する部位に設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載のデッドアクスル構造。
【請求項3】
前記長手方向で、前記ビードオンプレート溶接部は、前記ブラケットの前記溶接部の全体に重複している、ことを特徴とする請求項1に記載のデッドアクスル構造。
【請求項4】
水平に配置され両端部にスピンドルが設けられる中空のデッドアクスルケース本体に、懸架装置用取り付け部材及び制動装置用取り付け部材の少なくとも一方が、少なくとも当該デッドアクスルケース本体の中立軸を基準として上方に片寄った位置に溶接部を有する状態で溶接されるデッドアクスル構造であって、
前記懸架装置用取り付け部材は、前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部にブラケットを備え、当該ブラケットは前記中立軸の上方に設けられる前記溶接部で前記デッドアクスルケース本体に溶接され、
前記デッドアクスルケース本体の側部
且つ前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部に、鋼板が、前記中立軸よりも下方であって当該デッドアクスルケース本体の最下部よりも上方に位置する部位に溶接ビードを有するように溶接され
、
前記鋼板は、前記鋼板の上辺及び下辺に設けられて長手方向に延びる前記溶接ビードによって前記デッドアクスルケース本体に溶接され、
前記溶接ビードの少なくとも一部は、前記ブラケットの前記溶接部に対し前記デッドアクスルケース本体の長手方向で重複するように前記溶接部の真下に配置されている、ことを特徴とするデッドアクスル構造。
【請求項5】
前記鋼板は、前記中立軸よりも下方であって前記懸架装置用取り付け部材の前記溶接部及び前記制動装置用取り付け部材の前記溶接部の少なくとも一方の溶接下端部よりも上方に位置する部位に
前記溶接ビードを有するように溶接されている、ことを特徴とする請求項
4に記載のデッドアクスル構造。
【請求項6】
前記長手方向で、前記溶接ビードは、前記ブラケットの前記溶接部の全体に重複している、ことを特徴とする請求項4に記載のデッドアクスル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デッドアクスルケース本体に懸架装置用取り付け部材等が溶接されたデッドアクスル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デッドアクスルケース本体に懸架装置用取り付け部材等が溶接されたデッドアクスル構造としては、
図3(a)に示す如きものが知られている。図示したデッドアクスル構造101は、水平に配置される中空のデッドアクスルケース本体102に、ハブを取り付けるためのスピンドル103、懸架装置を取り付けるための懸架用取り付け部材(例えばトルクロッド用ブラケット104やスプリングシート105)、制動装置を取り付けるための制動用取り付け部材(例えばブレーキフランジ106)等が溶接される。
【0003】
図示したトルクロッド用ブラケット104ように、デッドアクスルケース本体102に取り付けられる部材は、デッドアクスルケース本体102の中立軸C(通常はデッドアクスルケース本体102の中心軸)を基準として上方に片寄った位置で溶接されるものがある。このため、トルクロッド用ブラケット104の溶接部wも中立軸Cを基準として上方に片寄っている。またスプリングシート105やブレーキフランジ106のように、中立軸Cに対してほぼ対称に配置される部材は、使用時に車両から上下荷重(軸重)が加わることでデッドアクスルケース本体102の下部に高い引張応力が生じることを考慮して、
図3(a)の断面F-F図や断面G-G図に示したように、これらの下部では溶接しない(断面F-F図では、下部120°が溶接しない範囲)ことがある。このようにデッドアクスルケース本体102に取り付けられる部材の溶接部wは、デッドアクスルケース本体102の中立軸Cを基準として概ね上方に片寄っている。このため溶接後のデッドアクスルケース本体102は、溶接した部位が凝固する際に収縮することによって生じる溶接歪みに起因して、
図3(b)に示すように全体として下に凸となるように変形することになる。なお
図3(b)では、デッドアクスルケース本体102の変形を誇張して示している。
【0004】
このようなデッドアクスルケース本体102の変形は、左右端部にとりつけたスピンドル103の同軸度を損ねることになる。一方、車両に取り付けられた際に車輪の抵抗を小さくし、かつ車両が真っ直ぐに走行できるようにするため、左右のスピンドル103の同軸度は相当に小さい範囲に収めることが必要である。
【0005】
このため従来は、例えば
図4に示すようなプレス法によって、デッドアクスルケース本体102におけるスピンドル103の近傍の変形を矯正している。プレス法では、図示したようにデッドアクスルケース本体102を上下逆さまの状態で一対の支持台Sに置き(支持台Sは左右のスピンドル103の最大径部分を支持するようにする)、左右何れかのスプリングシート105を上方から加圧する。スプリングシート105はデッドアクスルケース本体102に比して高剛性であるため、デッドアクスルケース本体102に対して溶接歪みによる変形とは逆方向に曲げ変形を与えることができる。この作業を左右のスピンドル103に対して行うことによって、同軸度を調整することができる。しかし矯正量は、デッドアクスルケース本体102の変形が溶接歪みのばらつきによって左右で相違することがあり、また加圧する際の荷重の加え方や支持台Sへのデッドアクスルケース本体102の置き方等によっても変わるため、矯正作業は作業者の熟練度が必要である。また上記のように複数の作業を行わなければならず、作業工数も増えることになる。
【0006】
またプレス法では、デッドアクスルケース本体102の中で断面剛性が最も低い部分を変形させて矯正を行っている。
図4に示したデッドアクスルケース本体102では、図示したH-Hの部位(ブレーキフランジ106に対して所定の距離をあけて外側)は断面形状が円形であり、I-Iの部位(ブレーキフランジ106に対して所定の距離をあけて内側)は断面形状が矩形であって、これらの間の形状変化部(角丸変化部)が最も剛性が低くなる部位である。このためデッドアクスルケース本体102をプレス法で矯正する際は、この角丸変化部に変形を与えて左右のスピンドル103の同軸度を調整している。一方、例えばエア式サスペンションを搭載する車両向けのデッドアクスルケース本体は、断面形状が何れの箇所でも円形であって、上記のような角丸変化部が存在しないものがある。このような断面形状が一定になるものは、局部的に低剛性となる部分が存在しないため、プレス法による矯正は困難になる。この場合には、
図5に示すように、溶接順序を変更する方法で対応することがある。この方法ではまず、デッドアクスルケース本体102にトルクロッド用ブラケット104やスプリングシート105等を溶接し、次工程では溶接歪みを矯正することなく、デッドアクスルケース本体102の左右の端部にスピンドル103を圧接するようにしている。この方法によれば、前工程の溶接でデッドアクスルケース本体102に変形が生じていても、左右のスピンドル103の同軸度が確保され、プレス法のような矯正作業は不要となる。しかしこの方法は、溶接順序が既存製品の工程とは異なるため、生産設備の増設や組み立て工程順序の複雑化に伴ってコストアップを招くことになる。
【0007】
なお、溶接による残留応力を緩和する技術として、下記の特許文献1が知られているが、同文献に示された溶接装置は、溶接される第一の部材と第二の部材とを相対的に移動させる機構によって溶接時に生じる変形を逃がすようにし、また変形量を計測して、変形を打ち消すように第一の部材と第二の部材とを相対的に移動させるものである。すなわちこの溶接装置は、アクチュエータやセンサを多数必要とするため、装置全体の構成が複雑になるうえ、コストアップも避けられない。
【0008】
また溶接後の部材の変形を矯正する方法としては、局部加熱矯正法も既知である。局部加熱矯正法では、例えばガスバーナで部材を加熱して(一例として熱を加える部位が約600~700℃になるまで加熱して)、その後冷却することにより、加熱した部位を収縮させて変形を矯正する。しかしこの方法は、加熱によって母材強度の低下をもたらすため、デッドアクスルケース本体102に適用すると、必要となる降伏強度(路面反力からの変形強さ)を保てなくなるおそれがある。また、加熱する部位が所定の温度に達するまでに時間を要するうえ、ガスバーナの火力やトーチの動かし方で入熱量も変化するため、矯正量を安定させることも難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、デッドアクスルケース本体102にトルクロッド用ブラケット104やスプリングシート105等を溶接すると、デッドアクスルケース本体102が変形して左右のスピンドル103の同軸度に影響が及ぶことになる。また、デッドアクスルケース本体102の変形を矯正する従来の方法は、強度低下や品質の安定化が保てない点で難があり、また作業工数や設備費の増加を招いてコストアップが避けられない点でも問題がある。
【0011】
このような点に鑑み、本発明は、デッドアクスルケース本体に懸架装置用取り付け部材等が溶接されたデッドアクスル構造において、設備費の増大を招くことなく従来よりも作業工数を減らしつつも、デッドアクスルケース本体の両端部に設けられるスピンドルの同軸度を安定的に確保することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水平に配置され両端部にスピンドルが設けられる中空のデッドアクスルケース本体に、懸架装置用取り付け部材及び制動装置用取り付け部材の少なくとも一方が、少なくとも当該デッドアクスルケース本体の中立軸を基準として上方に片寄った位置に溶接部を有する状態で溶接されるデッドアクスル構造であって、前記懸架装置用取り付け部材は、前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部にブラケットを備え、当該ブラケットは前記中立軸の上方に設けられる前記溶接部で前記デッドアクスルケース本体に溶接され、前記デッドアクスルケース本体の側部且つ前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部に、前記中立軸よりも下方であって当該デッドアクスルケース本体の最下部よりも上方に位置する部位にビードオンプレート溶接部が設けられ、前記ビードオンプレート溶接部の少なくとも一部は、前記ブラケットの前記溶接部に対し前記デッドアクスルケース本体の長手方向で重複するように前記溶接部の真下に配置されている、ことを特徴とする。
【0013】
上記のデッドアクスル構造において、前記ビードオンプレート溶接部は、前記中立軸よりも下方であって前記懸架装置用取り付け部材の前記溶接部及び前記制動装置用取り付け部材の前記溶接部の少なくとも一方の溶接下端部よりも上方に位置する部位に設けられていることが好ましい。
また、上記のデッドアクスル構造において、前記長手方向で、前記ビードオンプレート溶接部は、前記ブラケットの前記溶接部の全体に重複していることが好ましい。
【0014】
また本発明は、水平に配置され両端部にスピンドルが設けられる中空のデッドアクスルケース本体に、懸架装置用取り付け部材及び制動装置用取り付け部材の少なくとも一方が、少なくとも当該デッドアクスルケース本体の中立軸を基準として上方に片寄った位置に溶接部を有する状態で溶接されるデッドアクスル構造であって、前記懸架装置用取り付け部材は、前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部にブラケットを備え、当該ブラケットは前記中立軸の上方に設けられる前記溶接部で前記デッドアクスルケース本体に溶接され、前記デッドアクスルケース本体の側部且つ前記デッドアクスルケース本体の長手方向の中央部に、鋼板が、前記中立軸よりも下方であって当該デッドアクスルケース本体の最下部よりも上方に位置する部位に溶接ビードを有するように溶接され、前記鋼板は、前記鋼板の上縁及び下縁に設けられて長手方向に延びる前記溶接ビードによって前記デッドアクスルケース本体に溶接され、前記溶接ビードの少なくとも一部は、前記ブラケットの前記溶接部に対し前記デッドアクスルケース本体の長手方向で重複するように前記溶接部の真下に配置されている、ことを特徴とするものでもある。
【0015】
上記のデッドアクスル構造において、前記鋼板は、前記中立軸よりも下方であって前記懸架装置用取り付け部材の前記溶接部及び前記制動装置用取り付け部材の前記溶接部の少なくとも一方の溶接下端部よりも上方に位置する部位に溶接ビードを有するように溶接されていることが好ましい。
また、上記のデッドアクスル構造において、前記長手方向で、前記溶接ビードは、前記ブラケットの前記溶接部の全体に重複していることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、デッドアクスルケース本体に懸架装置用取り付け部材等が溶接されたデッドアクスル構造において、設備費の増大を招くことなく従来よりも作業工数を減らしつつも、スピンドルの同軸度を安定的に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るデッドアクスル構造の一実施形態を模式的に示した図である。
【
図2】本発明に係るデッドアクスル構造の他の実施形態を模式的に示した図である。
【
図3】従来のデッドアクスル構造とその変形例を模式的に示した図である。
【
図5】従来の矯正方法を回避する方法を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明に係るデッドアクスル構造を具現化した一例について説明する。
【0019】
図1は、本発明に係るデッドアクスル構造の一実施形態を模式的に示した図である。本実施形態のデッドアクスル構造1は、デッドアクスルケース本体2、スピンドル3、トルクロッド用ブラケット4、スプリングシート5、ブレーキフランジ6を備えている。またデッドアクスルケース本体2には、ビードオンプレート溶接部7が設けられている。
【0020】
デッドアクスルケース本体2は、例えば板金をプレス加工することによって形成されるものであり、中空状をなすように形作られている。本実施形態のデッドアクスルケース本体2は、
図3に示した従来のデッドアクスルケース本体2と同様に、図示したA-Aの部位(ブレーキフランジ6に対して所定の距離をあけて外側)は断面形状が円形であり、B-Bの部位(ブレーキフランジ6に対して所定の距離をあけて内側)は断面形状が矩形であって、これらの間(角丸変化部)では断面形状が円形から矩形に変化する。このように本実施形態のデッドアクスルケース本体2は、長手方向に沿って断面形状が変わるものであるが、断面形状は中心軸に対して対称であって、中立軸Cは中心軸に一致する。
【0021】
スピンドル3は、車両に取り付けられた際に車輪を支持するものである。本実施形態のスピンドル3は、円筒状に形成されていて、デッドアクスルケース本体2の左右の端部に対して溶接によって取り付けられている。
【0022】
トルクロッド用ブラケット4は、懸架装置を構成するトルクロッドを取り付けるために使用されるものである。本実施形態のトルクロッド用ブラケット4は、略U字状に形成されていて、デッドアクスルケース本体2を水平に配置した状態で中立軸Cよりも上方で溶接によって取り付けられている。
図1においては、デッドアクスルケース本体2にトルクロッド用ブラケット4を溶接した溶接部Wを太線で示す。図示したようにトルクロッド用ブラケット4の溶接部Wは、中立軸Cよりも上方に位置している。
【0023】
スプリングシート5は、懸架装置を構成するスプリングを取り付けるために使用されるものである。本実施形態のスプリングシート5は、
図3のスプリングシート105と同様に矩形状に形成されていて、デッドアクスルケース本体2に対して溶接によって取り付けられている。スプリングシート5を溶接するにあたっては、使用時に上下荷重(軸重)が加わることでデッドアクスルケース本体2の下部に高い引張応力が生じることを考慮して、スプリングシート5の下部は溶接されておらず、その溶接部Wは図示したように中立軸Cを基準として上方に片寄っている。なお、スプリングシート5における溶接部Wの溶接下端部WL(
図1の断面B-B図を参照)は、図示した基準ラインL上に位置している。
【0024】
ブレーキフランジ6は、制動装置を取り付けるために使用されるものである。本実施形態のブレーキフランジ6は、リング状に形成されていて、デッドアクスルケース本体2に対して溶接によって取り付けられている。ブレーキフランジ6に対しても、スプリングシート5と同様に下部に溶接しない部位が設けられている。本実施形態では、断面A-A図に示すように下部120°の範囲が溶接しない部位であって、溶接部Wは中立軸Cを基準として上方に片寄っている。ここで、ブレーキフランジ6における溶接部Wの溶接下端部WL(
図1の断面A-A図を参照)は、上述した基準ラインL上にあって、スプリングシート5の溶接下端部WLと同じ高さに位置している。
【0025】
ビードオンプレート溶接部7は、置きビードとも称されるものであって、デッドアクスルケース本体2の側部に対して溶接棒や溶接ワイヤー等の溶加材を肉盛溶接することによって形成される。ビードオンプレート溶接部7は、中立軸Cよりも下方であって、デッドアクスルケース本体2の最下部PL(
図1の断面A-A図を参照)よりも上方に位置する部位に設けられるものである。本実施形態のビードオンプレート溶接部7は、図示したように複数本設けられているが、その全ては中立軸Cよりも下方であって基準ラインLよりも上方に位置する部位に設けられている。また本実施形態においては、トルクロッド用ブラケット4の下方において、
図1の断面C-C図に示すようにデッドアクスルケース本体2の表面に3本のビードオンプレート溶接部7設けられ、更にこれらに重なるようにして2本のビードオンプレート溶接部7が設けられている(1層目に3本、2層目に2本のビードオンプレート溶接部7が設けられている)。また、トルクロッド用ブラケット4とスプリングシート5の間にも、上下方向に間隔をあけて2本のビードオンプレート溶接部7が設けられている。
【0026】
本実施形態のデッドアクスルケース本体2には、トルクロッド用ブラケット4、スプリングシート5、及びブレーキフランジ6の溶接部Wが、中立軸Cを基準として上方に片寄って位置している。このため、これらを溶接した後のデッドアクスルケース本体2は、
図3(b)に示したデッドアクスルケース本体102と同様に、溶接した部位が収縮する溶接歪みによって、全体として下に凸となるように変形する。一方、本実施形態のデッドアクスル構造1においては、中立軸Cの下方にビードオンプレート溶接部7を設けているため、中立軸Cの下方でも溶接歪みが生じることになる。すなわち、ビードオンプレート溶接部7が溶接部Wによる溶接歪みを打ち消すように作用するため、溶接部Wによるデッドアクスルケース本体2の変形をビードオンプレート溶接部7によって矯正することができる。なお、ビードオンプレート溶接部7の長さや本数、層数、上下方向の位置、左右方向の位置等はデッドアクスルケース本体2の変形量に応じて適宜設定すればよく、図示したものに限られない。
【0027】
このように本実施形態のデッドアクスル構造1によれば、デッドアクスルケース本体2の変形が矯正できるため、左右のスピンドル3の同軸度を確保することができる。またビードオンプレート溶接部7を設ける際の溶接時間は、上述した局部加熱矯正法よりも短く、かつ、局部的な加熱で済むため、デッドアクスルケース本体2の強度を低下させることがない。なお、ビードオンプレート溶接部7を形成する際の溶加材として高強度のものを選定すれば、ビードオンプレート溶接部7によってデッドアクスルケース本体2の強度を向上させる効果も得られる。更に、ビードオンプレート溶接部7は、使用する溶加材の外径や溶接時の条件(電流、電圧等)、溶接量(溶接長さ、本数、層数)が変わらなければ基本的に安定した品質が発揮できるため、矯正量を安定させることができる。また製造工程において部材取り付け順を変更する必要もなく、上述したプレス法のように後工程でデッドアクスルケース本体2の矯正を行う必要もないため、設備費の増大を招くことなく従来よりも作業工数を減らすことができる。なおデッドアクスルケース本体2は、断面形状が円形から矩形に変わる角丸変化部を有するものであったが、デッドアクスルケース本体2の形状はこれに限られず、断面形状が何れの箇所でも円形であって角丸変化部が存在しないものでもよい。
【0028】
また上記の効果は、ビードオンプレート溶接部7を、中立軸Cよりも下方であってデッドアクスルケース本体2の最下部PLよりも上方に位置する部位に設ければ実現可能であるが、中立軸Cよりも下方であって、スプリングシート5の溶接部W及びブレーキフランジ6の溶接部Wの少なくとも一方の溶接下端部WLよりも上方に位置する部位に設ける場合は、使用時にデッドアクスルケース本体2に上下荷重(軸重)が加わることで懸念されるビードオンプレート溶接部7からの破損を防止することができる。特に本実施形態のように、ビードオンプレート溶接部7を、中立軸Cよりも下方であって、スプリングシート5の溶接部W及びブレーキフランジ6の溶接部Wの両方の溶接下端部WLよりも上方に位置する部位に設ける場合は、ビードオンプレート溶接部7からの破損がより確実に防止できる。
【0029】
本発明に係るデッドアクスル構造は、
図2に示すように具現化することも可能である。
図2(a)に示したデッドアクスル構造11は、上述したデッドアクスル構造1と同様にデッドアクスルケース本体2、スピンドル3(
図2では不図示)、トルクロッド用ブラケット4、スプリングシート5、ブレーキフランジ6を備える一方、ビードオンプレート溶接部7に替えて、鋼板12をデッドアクスルケース本体2の側部に溶接したものである。そして、鋼板12を溶接した際の溶接ビード13は、中立軸Cよりも下方であってデッドアクスルケース本体2の最下部PLよりも上方に位置する部位に設けられる。これにより、上述したビードオンプレート溶接部7と同様の効果が得られる。更にデッドアクスル構造11によれば、鋼板12によってデッドアクスルケース本体2の強度を向上させる効果も得られる。また本実施形態においては、鋼板12の上部を溶接した溶接ビード13が、スプリングシート5の溶接部W及びブレーキフランジ6の溶接部Wの少なくとも一方の溶接下端部WLよりも上方に位置する部位に設けられていれば、使用時にデッドアクスルケース本体2に上下荷重(軸重)が加わることで懸念される溶接ビード13からの破損を防止することができる。
【0030】
なお取り付ける鋼板12の数や位置、溶接ビード13の数や長さ、位置等は、デッドアクスルケース本体2の変形に応じて適宜設定すればよい。また鋼板12は、
図2(a)のように平板状になるものに限られず、形状は任意に設定すればよい。また
図2(b)に示す鋼板14のように、穴(ねじ穴)を設けてもよく、この場合は配管や配線を行う際の取り付け部材として利用することが可能である。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0032】
1、11:デッドアクスル構造
2:デッドアクスルケース本体
3:スピンドル
4:トルクロッド用ブラケット(懸架装置用取り付け部材)
5:スプリングシート(懸架装置用取り付け部材)
6:ブレーキフランジ(制動装置用取り付け部材)
7:ビードオンプレート溶接部
12、14:鋼板
13:溶接ビード
C:中立軸
PL:最下部(デッドアクスルケース本体の最下部)
W:溶接部
WL:溶接下端部