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特許7496737導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20240531BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20240531BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20240531BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20240531BHJP
   C08J 7/044 20200101ALI20240531BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240531BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20240531BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240531BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08L33/00
C08L65/00
C08L25/18
C08J7/044 CFD
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020140035
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035597
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/125827(WO,A1)
【文献】特開2018-111763(JP,A)
【文献】特開2016-169261(JP,A)
【文献】特開2012-031256(JP,A)
【文献】特開2008-277172(JP,A)
【文献】特開2019-137815(JP,A)
【文献】特開2020-117577(JP,A)
【文献】特開2011-032382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08J7/04-7/06
H01B1/00-1/24、5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体と、ヒドロキシエチルアクリルアミドと、紫外線硬化型アクリル樹脂と、分散媒とを含有する、導電性高分子含有液であって、
前記紫外線硬化型アクリル樹脂は、紫外線照射によって硬化してアクリル樹脂となる、モノマー又はオリゴマー(重量平均分子量が1万以下の低重合体)であり、
前記ポリアニオンがエポキシ化合物との反応によって修飾されている、導電性高分子含有液(ただし、前記紫外線硬化型アクリル樹脂がヒドロキシエチルアクリルアミドである場合を除く)。
【請求項2】
前記紫外線硬化型アクリル樹脂100質量部に対する、前記ヒドロキシエチルアクリルアミドの含有量が0.01以上20質量部以下である、請求項1に記載の導電性高分子含有液。
【請求項3】
前記ヒドロキシエチルアクリルアミド100質量部に対する、前記導電性複合体の含有量が100質量部以上2000質量部以下である、請求項1又は2に記載の導電性高分子含有液。
【請求項4】
前記ポリアニオンが前記エポキシ化合物及びアミン化合物との反応によって修飾されている、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
【請求項5】
π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリアニオンであるポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体が水系分散媒中に含まれる導電性高分子分散液に、エポキシ化合物及びアミン化合物のうち少なくともエポキシ化合物を添加し、導電性複合体を析出させて、析出した前記導電性複合体を回収することと、
回収した前記導電性複合体に有機溶剤を添加し、さらに紫外線硬化型アクリル樹脂およびヒドロキシエチルアクリルアミドを添加することにより、導電性高分子含有液を得ることとを有する、導電性高分子含有液の製造方法であって、
前記紫外線硬化型アクリル樹脂は、紫外線照射によって硬化してアクリル樹脂となる、モノマー又はオリゴマー(重量平均分子量が1万以下の低重合体)である、導電性高分子含有液の製造方法(ただし、前記紫外線硬化型アクリル樹脂がヒドロキシエチルアクリルアミドである場合を除く)。
【請求項6】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【請求項7】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1~の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。導電性複合体を含有する導電性高分子含有液(導電性高分子分散液ということもある。)をフィルム基材等に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルムを製造することができる。また、導電性高分子含有液のフィルム基材に対する濡れ性を高めたり、形成する導電層の導電性を高めたりする目的で、導電性複合体にエポキシ化合物を反応させることがある。例えば特許文献1には、環式エポキシ化合物を反応させることにより導電性複合体の導電性を向上させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-111650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、導電性が向上した導電層を備えた導電性フィルムとこれを容易に製造できる製造方法、並びに、その製造方法において使用する導電性高分子含有液及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、ヒドロキシエチルアクリルアミドと、紫外線硬化型アクリル樹脂と、分散媒とを含有する、導電性高分子含有液(ただし、前記紫外線硬化型アクリル樹脂がヒドロキシエチルアクリルアミドである場合を除く)。
[2] 前記紫外線硬化型アクリル樹脂100質量部に対する、前記ヒドロキシエチルアクリルアミドの含有量が0.01以上20質量部以下である、[1]に記載の導電性高分子含有液。
[3] 前記ヒドロキシエチルアクリルアミド100質量部に対する、前記導電性複合体の含有量が10質量部以上2000質量部以下である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子含有液。
[4] 前記ポリアニオンがアミン化合物との反応によって修飾されている、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[5] 前記ポリアニオンがエポキシ化合物との反応によって修飾されている、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[6] 前記ポリアニオンがエポキシ化合物及びアミン化合物との反応によって修飾されている、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[7] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液。
[8] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が水系分散媒中に含まれる導電性高分子分散液に、エポキシ化合物及びアミン化合物のうち少なくとも一方を添加し、導電性複合体を析出させて、析出した前記導電性複合体を回収することと、回収した前記導電性複合体に有機溶剤を添加し、さらに紫外線硬化型アクリル樹脂およびヒドロキシエチルアクリルアミドを添加することにより、導電性高分子含有液を得ることとを有する、導電性高分子含有液の製造方法(ただし、前記紫外線硬化型アクリル樹脂がヒドロキシエチルアクリルアミドである場合を除く)。
[9] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液を塗工することを含む、導電性フィルムの製造方法。
[10] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性高分子含有液及びこれを用いた導電性フィルムの製造方法によれば、導電性が優れた導電層を備えた導電性フィルムを容易に製造できる。
本発明の導電性高分子含有液の製造方法によれば、上記の導電性高分子含有液を容易に製造できる。
【0007】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪導電性高分子含有液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、ヒドロキシエチルアクリルアミドと、紫外線硬化型アクリル樹脂と、分散媒とを含有する、導電性高分子含有液である。
本態様の導電性高分子含有液において、導電性複合体は、分散状態であってもよいし、溶解状態であってもよい。
【0010】
<π共役系導電性高分子>
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0011】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0012】
<ポリアニオン>
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体を構成する前記ポリアニオンは1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0013】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、後述するようにエポキシ基含有化合物やアミン化合物と反応させる前の状態では、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0014】
本発明のポリアニオンは、ポリアニオンが有するドープに関与しない余剰のアニオン基(以下、「一部のアニオン基」ともいう)と、エポキシ基含有化合物及びアミン化合物の少なくとも何れか一方との反応物であってもよい。すなわち、本発明のポリアニオンは、エポキシ基含有化合物と一部のアニオン基の反応によって形成された置換基(A)と、アミン化合物と一部のアニオン基との反応によって形成された置換基(B)との何れか一方又は両方を有していてもよい。
【0015】
(置換基A)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A1)で示される基、又は下記式(A2)で表される基であると推測される。
【0016】
【化1】
【0017】
[式(A1)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基である。]
【0018】
【化2】
【0019】
[式(A2)中、mは2以上の整数であり、複数のR、複数のR、複数のR、及び複数のRはそれぞれ独立に、水素原子、又は任意の置換基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のRは同一でも異なっていてもよい。]
【0020】
式(A1)及び(A2)において、左端の結合手は、置換基(A)が、アニオン基のプロトンと置換していることを表す。置換されるプロトンを有するアニオン基として、例えば、「-SOH」のように酸素原子に結合した活性なプロトンを有するアニオン基が挙げられる。
【0021】
式(A1)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。例えば、RとRとが前記炭化水素基であり、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基と、Rの1価の炭化水素基の任意の1つの水素原子を除いた2価の炭化水素基とが、前記水素原子が除かれた炭素原子同士で結合して環を形成する場合が挙げられる。
式(A2)において、R、R、R、及びRの任意の置換基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基等が挙げられる。RとRとは結合して置換基を有していてもよい環を形成していてもよい。環を形成する例は、上記と同様である。
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。
mは2以上の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~25がさらに好ましい。mが上記下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなる。mが前記上限値以下であると、疎水性が高くなりすぎたり、導電性が低下したりするのを抑制することができる。
【0022】
エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上有する化合物(エポキシ化合物)である。凝集又はゲル化を防止する点では、エポキシ基含有化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ有する化合物が好ましい。
前記導電性複合体と反応するエポキシ基含有化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0023】
1分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシ基含有化合物としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、2,3-ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2-ブチレンオキサイド、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシテトラデカン、グリシジルメチルエーテル、1,2-エポキシオクタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、エチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシエイコサン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシプロパン、グリシドール、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、ブチルグリシジルエーテル、1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシ-9-デカン、2-(クロロメチル)-1,2-エポキシブタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-トリフルオロブタン、アリルグリシジルエーテル、テトラシアノエチレンオキサイド、グリシジルブチレート、1,2-エポキシシクロオクタン、グリシジルメタクリレート、1,2-エポキシシクロドデカン、1-メチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシシクロペンタデカン、1,2-エポキシシクロペンタン、1,2-エポキシシクロヘキサン、1,2-エポキシ-1H,1H,2H,2H,3H,3H-ヘプタデカフルオロブタン、3,4-エポキシテトラヒドロフラン、グリシジルステアレート、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシコハク酸、グリシジルフェニルエーテル、イソホロンオキサイド、α-ピネンオキサイド、2,3-エポキシノルボルネン、ベンジルグリシジルエーテル、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-[2-(パーフルオロヘキシル)エトキシ]-1,2-エポキシプロパン、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、9,10-エポキシ-1,5-シクロドデカジエン、4-tert-ブチル安息香酸グリシジル、2,2-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、2-tert-ブチル-2-[2-(4-クロロフェニル)]エチルオキシラン、スチレンオキサイド、グリシジルトリチルエーテル、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-フェニルプロピレンオキサイド、コレステロール-5α,6α-エポキシド、スチルベンオキサイド、p-トルエンスルホン酸グリシジル、3-メチル-3-フェニルグリシド酸エチル、N-プロピル-N-(2,3-エポキシプロピル)ペルフルオロ-n-オクチルスルホンアミド、(2S,3S)-1,2-エポキシ-3-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-4-フェニルブタン、3-ニトロベンゼンスルホン酸(R)-グリシジル、3-ニトロベンゼンスルホン酸-グリシジル、パルテノリド、N-グリシジルフタルイミド、エンドリン、デイルドリン、4-グリシジルオキシカルバゾール、7,7-ジメチルオクタン酸[オキシラニルメチル]、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0024】
前記高級アルコールグリシジルエーテルとしては、炭素数10~16の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上が好ましく、炭素数12~14の高級アルコールグリシジルエーテルの1種以上がより好ましく、C12(炭素数12)高級アルコールグリシジルエーテル及びC13(炭素数13)高級アルコールグリシジルエーテルのうち少なくとも1種がさらに好ましく、C12,C13混合高級アルコールグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0025】
1分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ基含有化合物としては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,7-オクタジエンジエポキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジル、イソシアヌル酸トリグリシジル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,2:3,4-ジエポキシブタン、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0026】
エポキシ基含有化合物は、有機溶剤への分散性が高くなることから、分子量が50以上2,000以下であることが好ましい。また、低極性の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤への分散性が高くなることから、エポキシ基含有化合物は、炭素数が4以上120以下のものが好ましく、7以上100以下のものがより好ましく、10以上80以下のものがさらに好ましく、15以上50以下のものが特に好ましい。
【0027】
(置換基B)
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(B)は下記式(B)で表される基であると推測される。
【0028】
-HN111213 ・・・(B)
[式(B)中、R11~R13はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R11~R13のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0029】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO 」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0030】
化学式(B)におけるR11~R13は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。化学式(B)におけるR11~R13は後述するアミン化合物に由来する置換基である。
化学式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0031】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。前記導電性複合体と反応するアミン化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性高分子含有液を容易に製造できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0032】
有機溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、6以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがさらに好ましい。
【0033】
ポリアニオンが置換基(A)及び置換基(B)を有する場合、[置換基(A)]:[置換基(B)]で表される質量比(以下、A/B比ともいう)は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、25:75~75:25がさらに好ましい。A/B比が上記範囲内であると、分散性、導電性のバランスを取りやすくなる。なお、[置換基(A)]の質量は、[(エポキシ基含有化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)-(エポキシ基含有化合物と反応させる前の導電性複合体の質量)]で算出することができる。また、[置換基(B)が結合したアニオン基]の質量は、[(前記反応物Aとアミン化合物とを反応させて得られる反応物Bの質量)-(エポキシ基含有化合物と導電性複合体とを反応させて得られる反応物Aの質量)]から算出することができる。
【0034】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられ、アニオン基にエポキシ基含有化合物やアミン化合物を反応させる際に疎水性に容易に変換できる。
【0035】
導電性高分子含有液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.2質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。
【0036】
<ヒドロキシエチルアクリルアミド>
本態様の導電性高分子含有液に含まれるヒドロキシエチルアクリルアミドは、N-(2ヒドロキシエチル)アクリルアミドである。
【0037】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるヒドロキシエチルアクリルアミドの含有量は、前記ヒドロキシエチルアクリルアミド100質量部に対して、前記導電性複合体の含有量が10質量部以上2000質量部以下となる割合が好ましく、前記導電性複合体の含有量が50質量部以上1000質量部以下となる割合がより好ましく、前記導電性複合体の含有量が100質量部以上600質量部以下となる割合がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の含有割合低下による導電性低下を抑制することができる。
上記範囲の上限値以下であると、後述する導電層の導電性をより向上させることができる。
【0038】
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対するヒドロキシエチルアクリルアミドの含有量は、0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、0.1質量%以上12.5質量%以下がより好ましく、0.25質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、形成する導電層の導電性をより高めることができる。
【0039】
<分散媒>
本態様の導電性高分子含有液に含まれる分散媒は、前述した導電性複合体を分散又は溶解する液剤である。本明細書において、分散と溶解とを区別せずに単に分散ということがあり、分散媒と溶媒とを区別せずに単に分散媒ということがある。よって、前記分散媒を溶媒と言い換えてもよい。
【0040】
前記分散媒は、水及び有機溶剤のうちの少なくとも一方を含む。
導電性高分子含有液に含まれる導電性複合体は、前述したように疎水化されていてもよいし、疎水化されていなくてもよい。疎水化されている場合には、分散媒として有機溶剤を用いることが好ましい。疎水化されていない場合には、分散媒として水系分散媒を用いることが好ましい。また、ヒドロキシエチルアクリルアミドを溶解する観点から、前記分散媒は有機溶剤を含むことが好ましい。
【0041】
(有機溶剤)
本態様における有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0042】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電性高分子含有液のフィルム基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤、ケトン系溶剤又はエステル系溶剤が好ましい。
【0043】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
非水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶剤のなかでも、本態様における導電性高分子含有液を容易に製造できる点では、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0044】
本態様の導電性複合体が前記置換基(A)又は前記置換基(B)を有し、疎水化されている場合、導電性高分子含有液の総質量に対する有機溶剤の含有量は、50質量%超であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上99.9質量%以下であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲であると、疎水化された導電性複合体を容易に分散させることができ、容易に導電層を形成するこができる。
【0045】
(水系分散媒)
水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%以上であり、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0046】
(エステル系溶剤)
前記エステル系溶剤は、エステル基(-C(=O)-O-)を有するエステル基含有化合物である。
本態様の導電性高分子含有液がエステル系溶剤(エステル基含有化合物)を含む場合、導電性複合体の分散性を高める観点から、下記式E1で表される1種類以上のエステル基含有化合物を含むことが好ましい。
式E1:R21-C(=O)-O-R22
[式中、R21は水素原子、メチル基又はエチル基を表し、R22は炭素数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。]
【0047】
本態様の導電性複合体の分散性を高める観点から、R21はメチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、R22の炭素数は2~5が好ましく、2~4がより好ましい。
【0048】
前記エステル基含有化合物の好適な具体例としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等が挙げられる。
【0049】
本態様の導電性高分子含有液に含まれるエステル基含有化合物の含有量は、前記分散媒の総質量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がより一層好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が最も好ましく、100質量%であってもよい。エステル基含有化合物の含有量が上記範囲内であると、導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0050】
本態様の導電性高分子含有液がエステル系溶剤を含む場合、エステル系溶剤以外の有機溶剤がさらに1種類以上含まれていても構わない。
【0051】
本態様の導電性高分子含有液がエステル系溶剤を含む場合、前記導電性複合体の分散性を高める観点から、前記導電性複合体は前記置換基(A)及び前記置換基(B)を有することが好ましい。
【0052】
<紫外線硬化型アクリル樹脂>
本態様の導電性高分子含有液は、紫外線硬化型アクリル樹を含む。前記紫外線硬化型アクリル樹脂は、導電層形成時の紫外線照射によって硬化してアクリル樹脂となる、モノマー又はオリゴマー(重量平均分子量が1万以下の低重合体)である。ただし、前記紫外線硬化型アクリル樹脂はヒドロキシエチルアクリルアミド以外の化合物である。
本態様の導電性高分子含有液に含まれる前記紫外線硬化型アクリル樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0053】
前記紫外線硬化型アクリル樹脂は、多官能(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート及び/又はメタクリレート」を、「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を、「(メタ)アクリル樹脂」とは「アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂」を、「(メタ)アクリロイル基」とは「アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基」を、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは「アクリロイルオキシ基及び/又はメタクリロイルオキシ基」を意味する。
【0054】
多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーあれば、特に制限されない。例えば、2官能(メタ)アクリレート(a1)、3官能(メタ)アクリレート(a2)、4~6官能(メタ)アクリレート(a3)及び7~10官能(メタ)アクリレート(a4)が挙げられる。
【0055】
2官能(メタ)アクリレート(a1)としては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸のエステル化物[例えば、グリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのジ(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1,5-ペンタンジオールのジ(メタ)アクリレート及び2-ヒドロキシ-2-エチル-1,3-プロパンジオールのジ(メタ)アクリレート];多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸のエステル化物[例えばトリメチロールプロパンのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート及びグリセリンのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート];水酸基含有両末端エポキシアクリレート;多価アルコールと(メタ)アクリル酸とヒドロキシカルボン酸のエステル化物[例えばヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート]等が挙げられる。
ここで、多価アルコールの水酸基のすべてを(メタ)アクリル酸やアルキレンオキサイド付加物等と反応させる必要はなく、未反応の水酸基が残っていてもよい。
【0056】
3官能(メタ)アクリレート(a2)としては、グリセリンのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパンのエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
4~6官能(メタ)アクリレート(a3)としては、ペンタエリスリトールのテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのエチレンオキサイド付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのエチレンオキサイド付加物のペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのプロピレンオキサイド付加物のペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
7~10官能の(メタ)アクリレート化合物(a4)としては、例えばジペンタエリス
リトールペンタ(メタ)アクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応により得られる化合物等のジイソシアネート化合物と水酸基含有多官能(メタ)アクリレート化合物との反応物等が挙げられる。
【0059】
本態様の導電性高分子含有液における前記紫外線硬化型アクリル樹脂の含有量は、前記紫外線硬化型アクリル樹脂100質量部に対して、前記ヒドロキシエチルアクリルアミドの含有量が0.01以上20質量部以下となる割合が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下となる割合がより好ましく、0.2質量部以上1質量部以下となる割合がさらに好ましい。
上記範囲であると、形成する導電層の導電性を向上させつつ、導電層の膜強度をより高めることができる。
【0060】
本態様の導電性高分子含有液の総質量に対する前記紫外線硬化型アクリル樹脂の含有量は、10質量%以上80質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下が好ましく、30質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、形成する導電層の膜強度をより高めることができる。
上記範囲の上限値以下であると、形成する導電層に含まれる導電性複合体及びヒドロキシエチルアクリルアミドの含有量を高められるので、前記導電層の導電性をより高めることができる。
【0061】
本態様の導電性高分子含有液には、前記紫外線硬化型アクリル樹脂の硬化を促進する触媒を含むことが好ましい。例えば、紫外線照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0062】
(その他の添加剤)
本態様の導電性高分子含有液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
本態様の導電性高分子含有液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0063】
≪導電性高分子含有液の製造方法≫
本発明の第二態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体が水系分散媒中に含まれる導電性高分子分散液に、エポキシ化合物及びアミン化合物のうち少なくとも一方を添加し、導電性複合体を析出させて、析出した前記導電性複合体を回収すること(析出回収工程)と、回収した前記導電性複合体に溶剤を添加し、さらに紫外線硬化型アクリル樹脂およびヒドロキシエチルアクリルアミドを添加することにより、導電性高分子含有液を得ること(添加工程)とを有する、導電性高分子含有液の製造方法である。
本態様の製造方法により、第一態様の導電性高分子含有液を製造することができる。
【0064】
本態様の製造方法は、析出回収工程と添加工程との間に洗浄工程をさらに有してもよい。
【0065】
[析出回収工程]
析出回収工程は、導電性高分子分散液にエポキシ化合物及びアミン化合物のうち少なくとも一方を添加し、導電性複合体を析出させて析出物を得た後、前記析出物を濾過又はデカンテーションにより回収する工程である。
【0066】
導電性高分子分散液にエポキシ化合物を添加すると、エポキシ化合物のエポキシ基が、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(A)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
エポキシ化合物の添加の際には反応促進のために加熱してよい。加熱温度は、40℃以上100℃以下とすることが好ましい。
エポキシ化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、500質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のエポキシ化合物による導電性低下を防止できる。
【0067】
導電性高分子分散液にエポキシ化合物を添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性有機溶剤とは、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。添加する有機溶剤は、1種類でもよいし、2種以上でもよい。
【0068】
導電性高分子分散液にアミン化合物を添加すると、アミン化合物がポリアニオンの一部のアニオン基と反応する。これにより置換基(B)が形成されて導電性複合体が疎水性になるため、水系分散液中での安定的な分散が困難になり、析出して析出物となる。
アミン化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、50質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、未反応のアミン化合物による導電性低下を防止できる。
【0069】
析出回収工程において、エポキシ化合物及びアミン化合物を添加する場合、両者を添加する順序は特に限定されない。合成中間体の取り扱いが容易であることから、導電性高分子分散液にエポキシ化合物を添加して、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応させた後、アミン化合物を添加してポリアニオンの一部のアニオン基と反応させることが好ましい。
【0070】
本態様で用いる導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる分散液である。
ここで、水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水系分散媒に含まれる水溶性有機溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0071】
導電性高分子分散液は、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、導電性高分子分散液は市販のものを使用してもよい。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0072】
析出回収工程によって得られる析出物の水分量はできるだけ少ないことが好ましく、水分を全く含まないことが最も好ましいが、実用の観点からは、水分を10質量%以下の範囲で含んでもよい。
水分量を少なくする方法としては、例えば、有機溶剤で析出物を洗い流す方法、析出物を乾燥する方法等が挙げられる。
【0073】
[洗浄工程]
析出回収工程と添加工程との間の洗浄工程は、洗浄用有機溶剤で前記析出物を洗浄する工程である。この洗浄工程によって、残留する水、未反応のエポキシ化合物、未反応のアミン化合物、エポキシ化合物とアミン化合物との反応物、及び、エポキシ化合物の加水分解物を除去する。
洗浄用有機溶剤は、析出物を溶解せずに洗浄可能なものが好適に使用される。したがって、洗浄用有機溶剤としては、アルコール系溶剤が好ましい。洗浄用有機溶剤に含まれる有機溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、析出物の上から洗浄用有機溶剤をかけ流して析出物を洗浄してもよいし、洗浄用有機溶剤中で析出物を攪拌して析出物を洗浄してもよい。
【0074】
[添加工程]
添加工程は、前記析出物に有機溶剤を添加して、さらに紫外線硬化型アクリル樹脂およびヒドロキシエチルアクリルアミドを添加することにより、目的の導電性高分子含有液を得る工程である。ここで、前記紫外線硬化型アクリル樹脂はヒドロキシエチルアクリルアミド以外の化合物である。
有機溶剤は、第一態様で説明した有機溶剤が挙げられる。析出物に有機溶剤を添加して得た調製液を攪拌して分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)を用いて攪拌してもよい。
【0075】
次に、前記調製液に、前記紫外線硬化型アクリル樹脂およびヒドロキシエチルアクリルアミドを添加する。本工程において、前記紫外線硬化型アクリル樹脂およびヒドロキシエチルアクリルアミドとともに任意のその他の添加剤を添加してもよい。
【0076】
≪導電性フィルム及びその製造方法≫
本発明の第三態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子含有液を塗工し、塗膜を形成する工程を含む、導電性フィルムの製造方法である。
【0077】
本発明の第四態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第一態様の導電性高分子含有液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルムである。本態様の導電性フィルムは、第三態様の製造方法によって製造することができる。
【0078】
(導電性フィルム)
本態様の導電性フィルムが備える導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、前記紫外線硬化型アクリル樹脂を含有する。塗布した導電性高分子含有液に含まれていたヒドロキシエチルアクリルアミドは、前記紫外線硬化型アクリル樹脂が重合する際に、前記紫外線硬化型アクリル樹脂に取り込まれて共重合していると考えられる。
【0079】
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、優れた導電性を示し、前記上限値以下であれば、フィルム基材から剥離し難い導電層となる。
導電層の平均厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0080】
本態様の製造方法において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0081】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0082】
(塗工工程)
導電性高分子含有液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
前記導電性高分子含有液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0083】
(乾燥工程)
塗工工程で形成した塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
前記導電性高分子含有液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分(例えば、前記紫外線硬化型アクリル樹脂)を含有する場合には、前記乾燥工程後に、乾燥した導電性高分子の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線照射工程を有する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm以上が好ましい。照度が100mW/cm未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【実施例
【0084】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0085】
(製造例2)
0.5gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、1.5gのポリスチレンスルホン酸を15.0gのイオン交換水に溶かした溶液を20℃で混合した。次に、イオン交換水89.5gを添加した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、0.03gの硫酸第二鉄を4.97gのイオン交換水に溶かした酸化剤溶液と、1.1gの過硫酸アンモニウムを8.9gのイオン交換水に溶かした触媒溶液とをゆっくり添加し、得られた反応液を24時間攪拌して反応させた。
上記反応により、π共役系導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸を含む導電性複合体(PEDOT-PSS)と、分散媒である水とを含む導電性高分子分散液を得た。
この導電性高分子分散液にデュオライトC255LFH(住化ケムテックス社製、陽イオン交換樹脂)13.2gとデュオライトA368S(住化ケムテックス社製、陰イオン交換樹脂)13.2gを加え、濾過してイオン交換樹脂を除き、前記酸化剤及び前記触媒が除去された導電性高分子分散液(導電性複合体濃度は約1.8質量%)を得た。
【0086】
(製造例3)
製造例2で得た導電性高分子分散液100gに、イソプロパノール50gとトリオクチルアミン10gを添加し、1時間攪拌して、トリオクチルアミンが反応した導電性複合体を析出させた。このとき、すべての導電性複合体が溶液上層に浮遊していることを確認した。次に、析出した導電性複合体をろ取して、2.0gの導電性複合体を回収した。回収した導電性複合体にイソプロパノール498gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して導電性複合体のイソプロパノール分散液500gを得た。
【0087】
(製造例4)
製造例2で得た導電性高分子分散液100gに、イソプロパノール50gとトリブチルアミン10gを添加し、1時間攪拌して、トリブチルアミンが反応した導電性複合体を析出させた。このとき、すべての導電性複合体が溶液上層に浮遊していることを確認した。次に、析出した導電性複合体をろ取して、1.8gの導電性複合体を回収した。回収した導電性複合体にイソプロパノール498.2gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して導電性複合体のイソプロパノール分散液500gを得た。
【0088】
(製造例5)
製造例2で得た導電性高分子分散液100gに、メタノール200gとエポライトM1230(C12,13混合高級グリシジルエーテル)25gを添加し、60℃で4時間攪拌して、エポライトM1230が反応した導電性複合体を析出させた。このとき、すべての導電性複合体が溶液下層に沈降していることを確認した。次に、析出した導電性複合体をろ取して、1.6gの導電性複合体を回収した。回収した導電性複合体にメチルエチルケトン248.4gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して導電性複合体のメチルエチルケトン分散液300gを得た。
【0089】
(製造例6)
製造例2で得た導電性高分子分散液100gに、メタノール200gとブチルグリシジルエーテル25gを添加し、60℃で4時間攪拌して、ブチルグリシジルエーテルが反応した導電性複合体を析出させた。このとき、すべての導電性複合体が溶液下層に沈降していることを確認した。次に、析出した導電性複合体をろ取して、1.5gの導電性複合体を回収した。回収した導電性複合体にメチルエチルケトン248.5gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して導電性複合体のメチルエチルケトン分散液300gを得た。
【0090】
(製造例7)
製造例2で得た導電性高分子分散液100gに、メタノール200gとエポライトM1230(C12,13混合高級グリシジルエーテル)25gを添加し、60℃で4時間攪拌した。次に、トリオクチルアミン1.0gとイソプロパノール100g添加して、室温で1時間攪拌して、エポライトM1230及びトリオクチルアミンが反応した導電性複合体を析出させた。このとき、すべての導電性複合体が溶液下層に沈降していることを確認した。次に、析出した導電性複合体をろ取して、1.7gの導電性複合体を回収した。回収した導電性複合体に酢酸エチル798.3gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散して導電性複合体の酢酸エチル分散液800gを得た。
【0091】
(実施例1)
製造例3のイソプロパノール分散液30gに、ペンタエリスリトールトリアクリレート50gと、ジアセトンアルコール17.9gと、ヒドロキシエチルアクリルアミド0.1gと、イルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)2gと、を添加して塗料を得た。
得られた塗料を#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布して100℃で1分間乾燥した後、400mJの紫外線を照射して導電性フィルムを得た。得られたフィルムの表面抵抗を測定した結果を表1に示す。
【0092】
(実施例2~9)
ヒドロキシエチルアクリルアミドの添加量を表1のように増加させ、その分のジアセトンアルコールの添加量を表1のように減少させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
ヒドロキシエチルアクリルアミドを添加せず、その分のジアセトンアルコールの添加量を表1のように増加させたこと以外は、実施例1と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0094】
(実施例10)
製造例4のイソプロパノール分散液30gに、ペンタエリスリトールトリアクリレート50gと、ジアセトンアルコール17.9gと、ヒドロキシエチルアクリルアミド0.1gと、イルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)2gと、を添加して塗料を得た。
得られた塗料を#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布して100℃で1分間乾燥した後、400mJの紫外線を照射して導電性フィルムを得た。得られたフィルムの表面抵抗を測定した結果を表1に示す。
【0095】
(実施例11~18)
ヒドロキシエチルアクリルアミドの添加量を表1のように増加させ、その分のジアセトンアルコールの添加量を表1のように減少させたこと以外は、実施例10と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0096】
(比較例2)
ヒドロキシエチルアクリルアミドを添加せず、その分のジアセトンアルコールの添加量を表1のように増加させたこと以外は、実施例10と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0097】
(実施例19)
製造例5のメチルエチルケトン分散液30gに、ペンタエリスリトールトリアクリレート50gと、ジアセトンアルコール17.9gと、ヒドロキシエチルアクリルアミド0.1gと、イルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)2gと、を添加して塗料を得た。
得られた塗料を#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布して100℃で1分間乾燥した後、400mJの紫外線を照射して導電性フィルムを得た。得られたフィルムの表面抵抗を測定した結果を表2に示す。
【0098】
(実施例20~27)
ヒドロキシエチルアクリルアミドの添加量を表2のように増加させ、その分のジアセトンアルコールの添加量を表2のように減少させたこと以外は、実施例19と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0099】
(比較例3)
ヒドロキシエチルアクリルアミドを添加せず、その分のジアセトンアルコールの添加量を表2のように増加させたこと以外は、実施例19と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0100】
(実施例28)
製造例6のメチルエチルケトン分散液30gに、ペンタエリスリトールトリアクリレート50gと、ジアセトンアルコール17.9gと、ヒドロキシエチルアクリルアミド0.1gと、イルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)2gと、を添加して塗料を得た。
得られた塗料を#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布して100℃で1分間乾燥した後、400mJの紫外線を照射して導電性フィルムを得た。得られたフィルムの表面抵抗を測定した結果を表2に示す。
【0101】
(実施例29~36)
ヒドロキシエチルアクリルアミドの添加量を表2のように増加させ、その分のジアセトンアルコールの添加量を表2のように減少させたこと以外は、実施例28と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0102】
(比較例4)
ヒドロキシエチルアクリルアミドを添加せず、その分のジアセトンアルコールの添加量を表2のように増加させたこと以外は、実施例28と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0103】
(実施例37)
製造例7の酢酸エチル分散液30gに、ペンタエリスリトールトリアクリレート50gと、ジアセトンアルコール17.9gと、ヒドロキシエチルアクリルアミド0.1gと、イルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)2gと、を添加して塗料を得た。
得られた塗料を#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)上に塗布して100℃で1分間乾燥した後、400mJの紫外線を照射して導電性フィルムを得た。得られたフィルムの表面抵抗を測定した結果を表3に示す。
【0104】
(実施例38~45)
ヒドロキシエチルアクリルアミドの添加量を表3のように増加させ、その分のジアセトンアルコールの添加量を表3のように減少させたこと以外は、実施例37と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表3に示す。
【0105】
(比較例5)
ヒドロキシエチルアクリルアミドを添加せず、その分のジアセトンアルコールの添加量を表3のように増加させたこと以外は、実施例37と同様にして塗料を作製し、導電性フィルムを得て、表面抵抗を測定した。その結果を表3に示す。
【0106】
[表面抵抗値の測定]
各例で作製した導電性フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック株式会社製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表中、「1.0E+08」は「1.0×10」を意味し、他も同様である。表中の測定値の単位は、Ω/□である。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
<結果>
ヒドロキシエチルアクリルアミドと紫外線硬化型アクリル樹脂の両方を含む各実施例の導電性高分子含有液を用いて作製した導電性フィルムの導電性は向上した。
各比較例では、紫外線硬化型アクリル樹脂を含むがヒドロキシエチルアクリルアミドを含まないため、導電性が劣っていた。
なお、実施例1~18は参考例である。