特許 7496738 ワイヤーハーネスの配策構造

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】特許公報(B2)

(11)【特許番号】

(24)【登録日】2024-05-30

(45)【発行日】2024-06-07

(54)【発明の名称】ワイヤーハーネスの配策構造

(51)【国際特許分類】

   H02G 3/30 20060101AFI20240531BHJP

   F16B 19/00 20060101ALI20240531BHJP

   B60R 16/02 20060101ALI20240531BHJP

【ＦＩ】

H02G3/30

F16B19/00 Q

B60R16/02 623A

【請求項の数】 5

(21)【出願番号】P 2020140681

(22)【出願日】2020-08-24

(65)【公開番号】P2022036466

(43)【公開日】2022-03-08

【審査請求日】2023-06-23

(73)【特許権者】

【識別番号】308011351

【氏名又は名称】大和化成工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100131048

【弁理士】

【氏名又は名称】張川 隆司

(74)【代理人】

【識別番号】100174377

【弁理士】

【氏名又は名称】山内 健吾

(74)【代理人】

【識別番号】100215038

【弁理士】

【氏名又は名称】木村 友子

(72)【発明者】

【氏名】加藤 誠

(72)【発明者】

【氏名】平川 勝也

【審査官】北嶋 賢二

(56)【参考文献】

【文献】特開２０１８－００７４９５（ＪＰ，Ａ）

(58)【調査した分野】(Int.Cl.，ＤＢ名)

Ｈ０２Ｇ ３／３０

Ｆ１６Ｂ １９／００

Ｂ６０Ｒ １６／０２

(57)【特許請求の範囲】

【請求項1】

基端側が車体側に設けられた板状部に接続又は係合固定され、先端側が前記板状部の主面に沿って延び、その主面との間に形成される空隙内に、前記先端側から前記基端側へ向けてワイヤーハーネスを収容可能な本体部と、
前記本体部の先端側に設けられ、前記空隙内に収容されたワイヤーハーネスがその空隙内から抜け出ることを阻止可能な抜け止め部と、を備え、
前記抜け止め部は、
前記本体部と接続される回動軸部と、
前記回動軸部と接続される回動体と、を一体に有し、
前記回動体は、
前記回動軸部から前記空隙内へと延びる押さえ片と、
前記回動軸部から前記押さえ片とは反対方向へ延び、前記板状部の主面からの高さ方向において、前記回動軸部よりも上側に位置する回動体上部と、
その回動体上部と一体に接続されて前記回動軸部よりも下側に位置する回動体下部と、を有し、前記回動体上部から前記回動体下部にわたる前記空隙とは逆側の面が、前記板状部の主面と対面するよう傾斜したガイド斜面として設けられており、
前記空隙内にその高さよりも厚みのあるワイヤーハーネスを収容する際には、そのワイヤーハーネスを前記ガイド斜面に押し付けることにより、前記回動体において、前記押さえ片を前記空隙内にて前記本体部側へ、前記回動体上部を前記板状部の主面側へ、前記回動体下部を前記空隙内側へと向かわせる前記回動軸部周りの回転が生じることで、前記ワイヤーハーネスが前記ガイド斜面に押し潰されて高さを減じた形で前記回動体下部と前記板状部の主面との間に入り込み、前記回動体下部を前記押さえ片側へ押し上げることで前記空隙内への進入が可能となり、
その進入の際には、前記押さえ片と前記板状部の主面との間に前記ワイヤーハーネスが入り込むことで、前記押さえ片を前記板状部の主面側へと向かわせる前記回動体の前記回動軸部周りの回転が阻止され、
前記ワイヤーハーネスが前記空隙内に収容された収容状態においては、前記回動体下部が、前記押し上げ状態から解放されて前記空隙への進入口を塞ぐ位置に回り込み、収容された前記ワイヤーハーネスの抜け止め状態が形成される一方、前記押さえ片が、その下側に前記ワイヤーハーネスが入り込んだ状態に維持されて前記回動体の逆戻り回転阻止状態が継続するとともに、前記回動体のこれまでの回転によって前記回動体上部が、当該回転の開始時よりも下側の位置に維持されていることを特徴とするワイヤーハーネスの配策構造。

【請求項2】

前記押さえ片は、前記収容状態において、前記ワイヤーハーネスを下方に押し付けた状態に維持されている請求項１に記載のワイヤーハーネスの配策構造。

【請求項3】

前記空隙内において前記押さえ片と前記主面との間に配置され、前記収容状態において、前記主面と収容された前記ワイヤーハーネスとに挟まれる下敷き部を備える請求項１又は請求項２に記載のワイヤーハーネスの配策構造。

【請求項4】

前記回動体は、前記ワイヤーハーネスを収容する前の状態において、前記回動体上部が下側へ、前記回動体下部が前記空隙側へ、前記押さえ片が前記本体部側へと向かう回転とは逆向きに回転する逆回転を阻止可能な逆回転阻止部を有する請求項１ないし請求項３のいずれか１項に記載のワイヤーハーネスの配策構造。

【請求項5】

前記本体部は、基端側よりも剛性が低くて撓みやすい本体先端部を有しており、前記回動体下部が前記押し上げ状態となるときには、当該回動体下部と共に撓み変形することが可能である請求項１ないし請求項４のいずれか１項に記載のワイヤーハーネスの配策構造。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明はワイヤーハーネスの配策構造に関する。

【背景技術】

【0002】

車両には、ワイヤーハーネスを車体に固定するために、ワイヤーハーネスを把持する把持部と車体側に組付けるための係合部とを一体に有したクランプが使用される。クランプは、テープ等の結束部材によってワイヤーハーネスと共に結束保持されるとともに、その結束保持された状態において係合部を車体側の固定孔に挿入されて車体側に組付けられる。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【文献】特開２０１７－４４２４３号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

ところで、ワイヤーハーネスは、信号線や電源線等を有した多数の配線からなる配線束であって、テープ等により結束保持され、その断面は略円形をなす。こうしたワイヤーハーネスは、現在の車両において広く利用されており、近年では車室内空間をより広く確保するために、ワイヤーハーネスを車体側に設けられる板状部材に組付けたときに、その板状部材の主面からの高さがより低くなるよう配策されることが望まれている。

【0005】

ところが、例えばワイヤーハーネスを上方から押し潰して横に広げた低背状態とし、この状態で特許文献１のようなベルトクランプを用いて車体側の板状部材に組み付けようとすると、低背状態とされたワイヤーハーネスは、ベルトによって外周を取り囲まれ、外周側から内周側中心部に向けて均一に押し付けられた状態になる。その結果、低背状態とされたワイヤーハーネスは断面が円形をなす元の状態に近づいてしまい、低背状態を維持できない。さらに、特許文献１の場合、ワイヤーハーネスを環状に取り囲んだベルトを固定するバックルが、車体側の板状部材への組付け部位をなす係合部の直下に位置するため、結果としてベルトクランプそのものの高さが増し、ワイヤーハーネスの配策構造全体の低背化を妨げている。

【0006】

本発明の課題は、ワイヤーハーネスを車体側に組み付ける形で配策するワイヤーハーネスの配策構造において、構造全体をより低背化するとともに、ワイヤーハーネスの組み付け作業をより容易化するにことにある。

【課題を解決するための手段及び発明の効果】

【0007】

上記課題を解決するためのワイヤーハーネスの配策構造は、
基端側が車体側に設けられた板状部に接続又は係合固定され、先端側が前記板状部の主面に沿って延び、その主面との間に形成される空隙内に、前記先端側から前記基端側へ向けてワイヤーハーネスを収容可能な本体部と、
前記本体部の先端側に設けられ、前記空隙内に収容されたワイヤーハーネスがその空隙内から抜け出ることを阻止可能な抜け止め部と、を備え、
前記抜け止め部は、
前記本体部と接続される回動軸部と、
前記回動軸部と接続される回動体と、を一体に有し、
前記回動体は、
前記回動軸部から前記空隙内へと延びる押さえ片と、
前記回動軸部から前記押さえ片とは反対方向へ延び、前記板状部の主面からの高さ方向において、前記回動軸部よりも上側に位置する回動体上部と、
その回動体上部と一体に接続されて前記回動軸部よりも下側に位置する回動体下部と、を有し、前記回動体上部から前記回動体下部にわたる前記空隙とは逆側の面が、前記板状部の主面と対面するよう傾斜したガイド斜面として設けられており、
前記空隙内にその高さよりも厚みのあるワイヤーハーネスを収容する際には、そのワイヤーハーネスを前記ガイド斜面に押し付けることにより、前記回動体において、前記押さえ片を前記空隙内にて前記本体部側へ、前記回動体上部を前記板状部の主面側へ、前記回動体下部を前記空隙内側へと向かわせる前記回動軸部周りの回転が生じることで、前記ワイヤーハーネスが前記ガイド斜面に押し潰されて高さを減じた形で前記回動体下部と前記板状部の主面との間に入り込み、前記回動体下部を前記押さえ片側へ押し上げることで前記空隙内への進入が可能となり、
その進入の際には、前記押さえ片と前記板状部の主面との間に前記ワイヤーハーネスが入り込むことで、前記押さえ片を前記板状部の主面側へと向かわせる前記回動体の前記回動軸部周りの回転が阻止され、
前記ワイヤーハーネスが前記空隙内に収容された収容状態においては、前記回動体下部が、前記押し上げ状態から解放されて前記空隙への進入口を塞ぐ位置に回り込み、収容された前記ワイヤーハーネスの抜け止め状態が形成される一方、前記押さえ片が、その下側に前記ワイヤーハーネスが入り込んだ状態に維持されて前記回動体の逆戻り回転阻止状態が継続するとともに、前記回動体のこれまでの回転によって前記回動体上部が、当該回転の開始時よりも下側の位置に維持されていることを特徴とする。

【0008】

上記本発明の構成によれば、従来のようにワイヤーハーネスが板状部から一定の高さ離れた位置において保持されるのではなく、板状部の直上に載置されるため、配策構造をより低背化できる。また、上記本発明の構成によれば、板状部直上のワイヤーハーネスを跨ぐように延びる本体部は、その先端側に回動体（抜け止め部）が設けられており、この回動体を所定方向に押し付けて回転させることにより、板状部と本体部との間の空隙（ワイヤーハーネスの収容空間）への進入口を形成することができる。このため、ワイヤーハーネスによって回動体を所定方向に押し付けるだけで、ワイヤーハーネスを容易に空隙内に進入させ、収容することができる。そして、その空隙にワイヤーハーネスが収容されたときには、回動体（抜け止め片）が自動的に進入口を塞いで抜け止めするとともに、回動体（押さえ片）が自身のこれまでとは逆方向の回転も阻止された状態となるから、この抜け止め状態を安定して維持することができる。さらに、ワイヤーハーネスによって回動体を所定方向に押し付けるとき、その押し付けがガイド斜面になされることにより、ワイヤーハーネスが下方に押し潰されて容易に低背化され、その低背状態のまま空隙に収容することができる。つまり、ガイド斜面を利用することで、ワイヤーハーネスの低背化と組み付けとが同時に進むため、組み付け作業が非常に容易になる。

【0009】

前記押さえ片は、前記収容状態において、前記ワイヤーハーネスを下方に押し付けた状態に維持されるようにできる。この構成によれば、板状部と本体部との間の空隙内で、ワイヤーハーネスを位置ずれさせることなく安定して収容することができる。また、回動体の逆戻り回転も確実に阻止することができる。

【0010】

前記空隙内において前記押さえ片と前記主面との間に配置され、前記収容状態において、前記主面と収容された前記ワイヤーハーネスとに挟まれる下敷き部を備えるようにできる。この構成によれば、ワイヤーハーネスを、板状部の主面に形成される凹凸から保護した形で、板状部と本体部との間の空隙に収容することができる。

【0011】

前記回動体は、前記ワイヤーハーネスを収容する前の状態において、前記回動体上部が下側へ、前記回動体下部が前記空隙側へ、前記押さえ片が前記本体部側へと向かう回転とは逆向きに回転する逆回転を阻止可能な逆回転阻止部を有するようにできる。この構成によれば、回動体の不要な領域への回転を禁止できるから、不要な回転に伴う破損を防ぐことができる。

【0012】

前記本体部は、基端側よりも剛性が低くて撓みやすい本体先端部を有しており、前記回動体下部が前記押し上げ状態となるときには、当該回動体下部と共に撓み変形することが可能である。板状部と本体部との間の空隙にワイヤーハーネスを収容する際に、回動体下部は、そのワイヤーハーネスによって押し上げられる必要がある。このときに回動体下部そのものが撓んで上方に押し上げられるだけでなく、本体部の先端側も撓んで上方に押し上げられる構造であれば、ワイヤーハーネスの空隙への進入口をより容易に形成することができる。一方で、基端側が高剛性とされていることで、前記隙間の一定の高さを確実に確保することができる。

【図面の簡単な説明】

【0013】

【図1】ワイヤーハーネスの配策構造の実施例を示した正面図。

【図2】図１の配策構造に用いるクランプを示した斜視図。

【図3】図１の配策構造においてクランプが板状部に固定された状態を示した断面図。

【図4】図１の配策構造において、ワイヤーハーネスが収容される前の状態を示した正面図。

【図5】図１の配策構造の形成手順を説明するために、図４の一部分を拡大して示した部分拡大図。

【図6】図５に続く図。

【図7】図６に続く図。

【図8】図１の配策構造の第一変形例であって、ワイヤーハーネスが収容される前の状態を示した正面図。

【図9】図８の配策構造において、ワイヤーハーネスが収容された状態を示した正面図。

【図10】図１の配策構造の第二変形例であって、ワイヤーハーネスが収容される前の状態を示した正面図。

【図11】図１０の配策構造において、ワイヤーハーネスが収容された状態を示した正面図。

【図12】図１の配策構造の第三変形例であって、ワイヤーハーネスが収容される前の状態を示した正面図。

【図13】図１２の配策構造において、ワイヤーハーネスが収容された状態を示した正面図。

【発明を実施するための形態】

【0014】

以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。

【0015】

実施例のワイヤーハーネスＷの配策構造１は、図１に示すように、長手状のワイヤーハーネスＷと、車体に設けられる板状部材１００（板状部）と、基端側が板状部材１００に対し接続又は係合固定され、先端側に向けて該板状部材１００の主面１００ａに沿って延び、その主面１００ａとの間に設けられる空隙Ｓに本体部４の先端側からワイヤーハーネスＷを収容可能な本体部４と、空隙Ｓに収容されたワイヤーハーネスＷの本体部４の先端側からの抜けを阻止する抜け止め部５と、を備える。空隙Ｓに収容されたワイヤーハーネスＷは、その収容に伴い回動する回動部をなす抜け止め部５によって本体部４の先端側で抜け止めされるとともに、その抜け止め部５の逆方向への回転を阻止した状態に維持される。そして、その収容に伴う抜け止め部５の一連の回転によって、配策構造１全体において板状部材１００の主面１００ａから最も高い位置にあった抜け止め部５の部位（回動体上部５３）が、より低い位置に移動することにより、全体が低背化された配策構造１が形成される。

【0016】

ワイヤーハーネスＷは、信号線や電源線等のような、多数の配線からなる可撓性を有した配線束であって円形状断面（図５参照）を有した周知のものである。ワイヤーハーネスＷが図５のように空隙Ｓの高さ幅ｈよりも厚み（高さ）がある場合は、ワイヤーハーネスＷの配策構造１が形成されるとき、即ちワイヤーハーネスＷが空隙Ｓに収容されるときに、押しつぶされて横幅方向に拡がって高さが減じられた低背状態（図１参照）となる。なお、本発明のワイヤーハーネスＷは、空隙Ｓよりも厚み（高さ）があるものに限らず、空隙Ｓよりも高さが低いものでもよい。また、本発明の配策構造１は、ワイヤーハーネスＷに代わって、フラットケーブルや平板状の配線等の長手状の配線部材を適用可能な構造である。

【0017】

まずは、図１に示すワイヤーハーネスＷの配策構造１が形成される前の、ワイヤーハーネスＷが空隙Ｓに収容されていない状態を、図２～図４を用いて説明する。

【0018】

図１の配策構造１には、本体部４と抜け止め部５とを一体に有したクランプ２が用いられる。クランプ２は、図２に示すように、車体に設けられた固定孔１０１に挿入係止される係合部３と共に、本体部４と、抜け止め部５と、を一体に有する。ここでのクランプ２は樹脂射出成形体であり、板状部材１００と本体部４との間でワイヤーハーネスＷを挟む形で保持ことができる。

【0019】

係合部３は、図３に示すように、ここでは車体に設けられた板状部材１００に貫通形成された固定孔１０１に挿入係止される。係合部３は、固定孔１０１に挿入されると、その固定孔１０１の周辺部１０２に対し弾性係止片３１が挿入方向Ｉの奥側から係止して抜け止め状態となり、その周辺部１０２が弾性係止片３１と皿状部３２との間に挟まれる。これにより、クランプ２は板状部材１００に固定された固定状態となる。なお、ここでの係合部３は、本体部４の中央ではなく、その一端側（本体基端部４Ｂ側）に偏った位置に形成されている。

【0020】

本体部４は、板状部材１００に対し係合部３が挿入固定された固定状態において、板状部材１００に対し係合部３の挿入方向Ｉの手前側で該板状部材１００の主面１００ａに沿って延び、主面１００ａとの間に空隙Ｓを形成する。ここでの本体部４は、図４に示すように、係合部３の底部３Ｂ（挿入方向Ｉの逆側の端部）から板状部材１００の主面１００ａに対し離間するよう斜め上方に向けて延びる本体基端部４Ｂと、本体基端部４Ｂから板状部材１００の主面１００ａと所定の高さ幅ｈ（図５参照）を隔てて平行に延びる本体延出部４Ｃと、を有する。なお、本体延出部４Ｃは、主面１００ａとの間に空隙Ｓを形成する形であればよく、主面１００ａと平行である必要はない。

【0021】

また、本体部４は、図４に示すように、本体基端部４Ｂから本体延出部４Ｃの途中区間までにかけての基端側が、それより先に位置する本体先端部４ＣＡよりも高剛性となるよう形成されている。ここでは、リブ４Ｌが形成される本体部４の基端側の剛性が高く、リブ４Ｌが非形成の本体先端部４ＣＡは当該基端側よりも剛性が低くて撓みやすい。

【0022】

抜け止め部５は、本体部４の先端側と接続する回動軸部５００と、回動軸部５００と接続する回動体５０と、を一体に有する。

【0023】

回動軸部５００は、回動体５０を回動させるときの回転支点となる部位であり、ここでは本体部４の先端に接続し、クランプ２全体において最も撓みやすく形成された撓み接続部として形成される。この回動軸部５００は、図４に示すように、本体部４の延出方向Ｙの先端から、その延出方向Ｙに向けて斜め下方に直線状に延び、その長さ区間の中で撓み変形するよう設けられており、その撓み変形を生じさせることによって回動体５０を回動可能にする。ただし、撓みによって生じる回動であるため、撓みの状態に応じて回転軸線の位置が回動の前後及びその途中で僅かにずれる可能性がある。なお、回動軸部５００は、そうしたずれが生じないよう回動体５０を予め定められた固定位置に回転軸線を設定してその周りを回転させるものであってもよい。

【0024】

なお、本発明において、回動体５０を回動軸部５００の周りで回転させるとは、本実施例のように回動軸部５００の長さ方向の中で任意に生じる撓みにより回動体５０を回転させることを含み、このときに生じうる回転軸線の多少の位置ずれは許容されるものとする。一方で、予め定められた固定位置に回転軸線が設定され、その固定位置の回転軸線の周りで回動体５０を回転させることも含むものとする。

【0025】

回動体５０は、回動軸部５００側から空隙Ｓ内へと延びる押さえ片５１と、空隙Ｓにおける本体部４の先端側に位置する抜け止め片５２と、板状部材１００の主面１００ａからの高さ方向Ｚにおいて本体部４及び回動軸部５００よりも上側（高い位置）に位置する回動体上部５３と、を一体に有する。

【0026】

押さえ片５１は、ここでは上記した板状部材１００に対する固定状態において回動軸部５００から本体部４の基端側に向かって斜め下方に延び、板状部材１００の主面１００ａに対し当接又は近接するとともに、そこから屈曲して主面１００ａに平行をなすように本体部４の基端側に向かって直線状に延びる弾性片として形成される。屈曲部５１Ｂは、薄肉化され、押さえ片５１の長さ方向における他区間よりも撓みやすく形成されている。

【0027】

抜け止め片５２は、ここでは上記した板状部材１００に対するクランプ２の固定状態において、押さえ片５１よりも延出方向Ｙの奥側に位置し、回動軸部５００よりも延出方向Ｙの奥側から手前側に向けて、板状部材１００の主面１００ａに対し当接又は近接（ここでは当接）するよう斜め下方に延びる弾性片として形成される。

【0028】

回動体上部５３は、ここでは上記した板状部材１００に対する固定状態において、押さえ片５１と抜け止め片５２とを高さ方向Ｚにおける高い位置（上側）にて接続する接続部として形成され、本体部４及び回動軸部５００よりも高い位置にある。この回動体上部５３は、押さえ片５１の回動軸部５００側から本体部４の先端側（延出方向Ｙの奥側）に向けて斜め上方に延び、本体部４及び回動軸部５００よりも高い位置（上側）に達するとともに、その下側において回動体下部をなす抜け止め片５２と接続している。

【0029】

また、回動体５０は、回動体上部５３から抜け止め片５２にかけての空隙Ｓ側とは逆側の面５ｇが、主面１００ａと対面するよう傾斜したガイド斜面５ｇとして設けられる。ここでのガイド斜面５ｇは、本体部４及び回動軸部５００よりも高い位置（上側）から、主面１００ａに対し鋭角をなす形で斜め下方に下る平坦面として形成されている。

【0030】

また、回動体５０は、ワイヤーハーネスＷを収容する前の状態（図４参照）において、回動体上部５３が下側へ、抜け止め片５２が空隙Ｓ側へ、押さえ片５１が本体部４側へと向かう回転とは逆向きに回転する逆回転を阻止する逆回転阻止部５４を有する。ここでの逆回転阻止部５４は、回動軸部５００に対し本体部４の先端側（延出方向Ｙの奥側）で近接対向するよう、回動体上部５３から突出する形で設けられる。

【0031】

次に、図１のワイヤーハーネスの配策構造の形成手順を、図１及び図５～図７を用いて説明する。

【0032】

ワイヤーハーネスＷを空隙Ｓに収容する際には、図５に示すように、そのワイヤーハーネスＷをガイド斜面５ｇに空隙Ｓへ向けて押し付けて回動体５０を回動軸部５００の周りで回転させる。これにより、回動体上部５３を下側へ、抜け止め片５２を空隙Ｓ側へ、押さえ片５１を空隙側斜め上方側へと向かうよう回動体５０が回動する。その際に、ワイヤーハーネスＷは、図６に示すように、ガイド斜面５ｇに押し潰されて高さを減じた形に変形し、図７に示すように、抜け止め片５２と主面１００ａとの間に入り込む。このとき、抜け止め片５２が撓み変形（弾性変形）する形で押し上げられた押し上げ状態となることにより、空隙Ｓ内への進入口Ｅを形成可能であり、形成された進入口Ｅから空隙Ｓ内へとワイヤーハーネスＷの進入が可能となる。

【0033】

なお、抜け止め片５２が押し上げ状態（図７参照）となるときには、本体部４においてリブ４Ｌが設けられていない本体先端部４ＣＡも、当該抜け止め片５２と共に撓み変形することができる。これにより、進入口Ｅを高さ方向Ｚにおいてより広く確保することができる。

【0034】

進入口ＥにワイヤーハーネスＷが進入する際には、図７に示すように、回動体５０の回転によって本体部４側へと上昇した押さえ片５１の下側にそのワイヤーハーネスＷが入り込む。これにより、回動体５０がこれまでとは逆方向の回転（逆戻り回転）をしようとしても、押さえ片５１がその逆戻り回転方向側に位置しているワイヤーハーネスＷに当接することで、それ以上の逆戻り回転を阻止できる状態となる。

【0035】

なお、ここでの押さえ片５１は、その先端が本体部４に押し付けられ、屈曲部５１Ｂの屈曲角度を拡げる形に撓んだ状態に維持される。このため、押さえ片５１が本体部４とワイヤーハーネスＷとの間で挟圧状態に維持される形で、さらにいえば押さえ片５１がワイヤーハーネスＷを下方に押し付けた状態に維持される形で、回動体５０の逆戻り回転を阻止した状態となっている。

【0036】

空隙ＳにワイヤーハーネスＷが完全に収容された収容状態においては、図１に示すように、抜け止め片５２が、図７に示す押し上げ状態から解放（押し上げ状態の解除）されて空隙Ｓへの進入口Ｅを塞ぐ位置に回り込み、収容されたワイヤーハーネスＷの抜け止め状態が形成される。一方で、押さえ片５１が、その下側にワイヤーハーネスＷが入り込んだ状態に維持されて回動体５０の逆戻り回転阻止状態が継続する。このため、ワイヤーハーネスＷの抜け止め状態が維持された状態となる。

【0037】

なお、この収容状態においても、ここでの押さえ片５１は、本体部４とワイヤーハーネスＷとの間で挟圧状態に維持されている。つまり、押さえ片５１は、ワイヤーハーネスＷを下方に押し付けた状態に維持されており、回動体５０の逆戻り回転を阻止するとともに、収容されたワイヤーハーネスＷの位置ずれを抑制している。

【0038】

また、この収容状態（図１参照）においては、回動体５０のこれまでの回転によって下側に移動した回動体上部５３が、当該回転の開始時（図５参照）より低い下側の位置に維持される。具体的にいえば、これまでの回転によって下側に移動した回動体上部５３が、高さ方向Ｚにおいて本体部４及び回動軸部５００の一方又は双方と同じ位置、あるいはそれらの一方又は双方よりも低い位置（下側）に維持される。ここでの回動体上部５３は、本体部４の最も高い位置（リブ４Ｌ）よりも高い位置（高さｈ０：図５参照）にあった状態から、回動体５０の回転によってその最も高い位置（リブ４Ｌ）よりも低い位置（高さｈ１：図７参照）へと移動しており、回動軸部５００とほぼ同じ高さの位置となっている。これにより、図１に示すワイヤーハーネスＷの配策構造１は、ワイヤーハーネスＷが収容される前（回動体５０の回転の開始前）よりもクランプ２が低背化された状態となっている。

【0039】

なお、この収容状態の回動体５０において最も高い位置にある部位は、図１に示すように、逆回転阻止部５４の先端であり、この先端も、高さ方向Ｚにおいて本体部４及び回動軸部５００の一方又は双方と同じ位置、あるいはそれらの一方又は双方よりも低い位置に維持されている。つまり、本体部４及び回動軸部５００よりも高い位置にあった回動体上部５３を含む回動体５０全体が、上記の収容状態となることによって、本体部４及び回動軸部５００の少なくとも一方と同じ高さ、あるいはそれらの少なくとも一方よりも低い位置になり、クランプ２を低背化させている。

【0040】

また、ここでのワイヤーハーネスＷは、図５に示すような、空隙Ｓの高さ幅ｈよりも厚みのあるものを用いたが、空隙Ｓの高さ幅ｈよりも厚みの無いものもガイド斜面５ｇを利用して、上記と同様、空隙Ｓに収容した配策構造を形成できる。ただし、収容状態となったときに、そのワイヤーハーネスＷに一定以上の厚みがある場合には、収容状態において、押さえ片５１に押し付けられた逆戻り回転阻止状態を形成できるが、一定以上の厚みが無い場合には、押さえ片５１による逆戻り回転阻止状態が形成されるものの、押さえ片５１に押し付けられた状態にならないことがあり得る。

【0041】

このように、上記実施例のワイヤーハーネスＷの配策構造１は、基端側が車体側に設けられる板状部材１００（板状部）に接続又は係合固定され、先端側が板状部材１００の主面１００ａに沿って延び、その主面１００ａとの間に形成される空隙Ｓ内に、先端側から基端側へ向けてワイヤーハーネスＷを収容可能な本体部４と、本体部４の先端側に設けられ、空隙Ｓ内に収容されたワイヤーハーネスＷがその空隙Ｓ内から抜け出ることを阻止可能な抜け止め部５と、を備える。抜け止め部５は、本体部４と接続される回動軸部５００と、回動軸部５００と接続される回動体５０と、を一体に有し、回動体５０は、回動軸部５００から空隙Ｓ内へと延びる押さえ片５１と、回動軸部５００から押さえ片５１とは反対方向へ延び、板状部材１００の主面１００ａからの高さ方向において、回動軸部５００よりも上側に位置する回動体上部５３と、その回動体上部５３と一体に接続されて回動軸部５００よりも下側に位置する回動体下部（ここでは抜け止め片５２）と、を有し、回動体上部５３から回動体下部（抜け止め片５２）にわたる空隙Ｓとは逆側の面５ｇが、板状部材１００の主面１００ａと対面するよう傾斜したガイド斜面５ｇとして設けられている。空隙Ｓ内にその高さよりも厚みのあるワイヤーハーネスＷを収容する際には、そのワイヤーハーネスＷをガイド斜面５ｇに押し付けることにより、回動体５０において、押さえ片５１を空隙Ｓ内にて本体部４側へ、回動体上部５３を記板状部材１００の主面１００ａ側へ、回動体下部（抜け止め片５２）を空隙Ｓ内側へと向かわせる回動軸部５００周りの回転が生じることで、ワイヤーハーネスＷがガイド斜面５ｇに押し潰されて高さを減じた形で回動体下部（抜け止め片５２）と板状部材１００の主面１００ａとの間に入り込み、回動体下部（抜け止め片５２）を押さえ片５１側へ押し上げることで空隙Ｓ内への進入が可能となる。その進入の際には、押さえ片５１と板状部材１００の主面１００ａとの間にワイヤーハーネスＷが入り込むことで、押さえ片５１を記板状部材１００の主面１００ａ側へと向かわせる回動体５０の回動軸部５００周りの回転が阻止される。ワイヤーハーネスＷが空隙Ｓ内に収容された収容状態においては、回動体下部（抜け止め片５２）が、上記の押し上げ状態から解放されて空隙Ｓへの進入口Ｅを塞ぐ位置に回り込み、収容されたワイヤーハーネスＷの抜け止め状態が形成される一方、押さえ片５１が、その下側にワイヤーハーネスＷが入り込んだ状態に維持されて回動体５０の逆戻り回転阻止状態が継続するとともに、回動体５０のこれまでの回転によって回動体上部５３が、当該回転の開始前（開始時）よりも高さ方向Ｚにおいて下側の位置（低い位置）、具体的にいえば、高さ方向Ｚにおいて本体部４及び回動軸部５００の一方又は双方と同じ位置、あるいはそれらの一方又は双方よりも下側の位置（低い位置）に維持されている。これらの構成により、ワイヤーハーネスＷの配策構造１の低背化が実現されている。

【0042】

以上、本発明の一実施例を説明したが、これはあくまでも例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、追加及び省略等の種々の変更が可能である。

【0043】

以下、上記した実施例とは別の実施例やそれら実施例の変形例について説明する。なお、上記実施例と共通の機能を有する部位には同一符号を付して詳細な説明を省略する。また、上記実施例と、下記変形例及び別実施例とは、技術的な矛盾を生じない範囲において適宜組み合わせて実施できる。

【0044】

本発明において、本体部４と主面１００ａとの間に設けられる空隙Ｓとは、必ずしも本体部４と主面１００ａとが対面し、それらによって直接挟まれた空間である必要は無く、高さ方向Ｚにおける本体部４と主面１００ａとの間の区間内において、ワイヤーハーネスＷを収容可能に形成された空間であればよい。例えば本体部４と主面１００ａとの間を上下に分断するものが存在していたとしても、その上下いずれかに空隙Ｓが存在していればよい。

【0045】

また、本発明において、係合部３を設ける場合、その形成位置は本体部４と接続する位置とすることができる。そして、その接続位置は、本体部４における基端部となる。

【0046】

また、本発明において、板状部材１００（板状部）と、係合部３と、本体部４と、抜け止め部５と、さらには後述する下敷き部６といった配策構造１の構成要素が、それぞれ別部材として存在していてもよいし、一体をなして構成されていてもよい。例えば本体部４と、抜け止め部５と回動軸部５００を介して回動自在に係合組み付けされる構成としてもよい。

【0047】

本発明における板状部は、車体側に設けられる板状部であり、その意味には、上記実施例の板状部材１００のような車体に設けられる板状部だけでなく、車体に組み付けられたパーツの板状部あるいは車体に組み付けられる予定のあるパーツの板状部（例えば配線を保護する部品であるプロテクタやドア室内側の内張り部品であるドアトリム等）も含まれる。

【0048】

上記実施例の第一変形例について、図８及び図９を用いて説明する。第一変形例では、ワイヤーハーネスＷの配策構造１が、空隙Ｓ内において押さえ片５１と主面１００ａとの間に配置される下敷き部６を備えており、その下敷き部６が、収容状態において主面１００ａと収容されたワイヤーハーネスＷとに挟まれて位置する。第一変形例の場合は、図９に示すように、下敷き部６が本体基端部４Ｂから空隙Ｓ内に向けて延び、主面１００ａに載置された形で配置される。ワイヤーハーネスＷが空隙Ｓに進入する際には、抜け止め片５２を押し上げるワイヤーハーネスＷが、主面１００ａ上から下敷き部６上へと乗り上げ、乗り上げた状態で空隙Ｓに収容される。

【0049】

上記実施例の第二変形例について、図１０及び図１１を用いて説明する。第二変形例では、ワイヤーハーネスＷの配策構造１において、係合部３が省略され、本体部４と抜け止め部５とが板状部材１００（板状部）の一部をなすように構成されている。この場合、本体部４は、例えば板状部材１００に対し溶接あるいは溶着させる等して固定して一体化されたものとすることができ、クランプ２のような板状部材１００とは別となる部材が存在しない。第二変形例の場合、本体部４は、基端側（４Ｂ）が板状部材１００に対し接続し、板状部材１００から上方に立ち上がるとともにその先で屈曲し、先端側に向けて該板状部材１００の主面１００ａに沿って延びる形状をなす。

【0050】

上記実施例の第三変形例について、図１２及び図１３を用いて説明する。第三変形例では、ワイヤーハーネスＷの配策構造１の本体部４が、Ｕ字を横倒しした形状をなす。Ｕ字の一方の直線区間部とＵ字の底部（図中の本体部４の左端部）とが本体部４の本体基端部４Ｂとして板状部材１００（板状部）の主面１００ａ側に位置し、それに対向するようＵ字の底部から延びる他方の直線区間部が本体部４の本体延出部４Ｃとして主面１００ａに沿って延びる。本体延出部４Ｃの先端には抜け止め部５が設けられている。なお、Ｕ字の一方の直線区間部をなす本体基端部４Ｂは、第一変形例における下敷き部６としての役割も有しており、双方の役割を担う部位となっている。

【0051】

以上の実施例及び各変形例において、それらを示す各図はある程度は模式的に示されたものである。特にワイヤーハーネスＷ内の配線数及びその配置・配列・断面形状については整然と描画されすぎているところがあり、必ずしも正確に描画されたものではない。

【符号の説明】

【0052】

１ ワイヤーハーネスの配策構造
１００ 板状部材（板状部）
１００ａ 主面
４ 本体部
４Ｂ 本体基端部
４Ｃ 本体延出部
４ＣＡ 本体先端部
４Ｌ リブ
５ 抜け止め部
５００ 回動軸部
５０ 回動体
５１ 押さえ片
５２ 抜け止め片
５３ 回動体上部
５４ 逆回転阻止部
５ｇ ガイド斜面
６ 下敷き部
Ｅ 空隙Ｓ内への進入口
Ｓ 空隙
Ｙ 延出方向
Ｗ ワイヤーハーネス
Ｚ 高さ方向

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】