(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】混銑車内にて固化した銑鉄塊を除去する銑鉄塊の除去方法
(51)【国際特許分類】
F27D 99/00 20100101AFI20240531BHJP
【FI】
F27D99/00
(21)【出願番号】P 2020140969
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】田村 啓
(72)【発明者】
【氏名】榎田 忠宏
(72)【発明者】
【氏名】大出 哲也
(72)【発明者】
【氏名】征矢 勝秀
(72)【発明者】
【氏名】古長 達廣
(72)【発明者】
【氏名】長尾 浩利
(72)【発明者】
【氏名】松井 悠起夫
(72)【発明者】
【氏名】奧村 裕之
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-126304(JP,A)
【文献】特開2020-002385(JP,A)
【文献】特開2011-153327(JP,A)
【文献】特開2019-108781(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111014819(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 17/00 - 99/00
C21C 1/00 - 3/00、
5/02 - 5/06、
5/52 - 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混銑車の鉄皮の内方に存在する耐火物に取り囲まれて固化した溶銑の塊である銑鉄塊の一部を除去する銑鉄塊の除去方法であって、
前記混銑車の開口を介して、前記銑鉄塊の上面から底部に向って所定の深さまで延びる孔を連続させて上面視で内方の部分である除去対象部分の周囲を全体に亘って取り囲むように形成する工程と、
前記連続させて形成した孔の底部にて前記銑鉄塊の除去対象部分を水平方向にワイヤソーを用いて切断する工程と、
前記銑鉄塊の除去対象部分を前記混銑車に対して引き上げて、前記銑鉄塊の除去対象部分を取り出す工程とを備えることを特徴とする銑鉄塊の除去方法。
【請求項2】
前記連続させて形成した孔を上面視で内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた孔を少なくとも1か所に形成し、前記拡大した孔にプーリを設置して、前記プーリに巻き架けたワイヤによって前記銑鉄塊の除去対象部分を切断することを特徴とする請求項1に記載の銑鉄塊の除去方法。
【請求項3】
前記銑鉄塊の除去対象部分にアンカーを設置し、前記アンカーを用いて前記銑鉄塊の除去対象部分を前記混銑車に対して引き上げることを特徴とする請求項1又は2に記載の銑鉄塊の除去方法。
【請求項4】
前記孔を形成する削孔装置の削孔部の少なくとも一部を、前記銑鉄塊の上面に固定した部材に対して固定して、前記孔を形成することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の銑鉄塊の除去方法。
【請求項5】
前記孔は、当該孔の孔径より小径の孔を隣接する前記孔との間に隙間を開けて形成した後、当該孔を拡径することにより前記隣接する孔と連続させることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の銑鉄塊の除去方法。
【請求項6】
前記連続させて形成した孔を上面視で内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた孔を2か所に形成し、前記拡大した孔にそれぞれ1個のプーリを設置して、各前記プーリに巻き架けたワイヤによって前記銑鉄塊の除去対象部分を前記連続孔の底部によって囲まれる面において2回に分けて切断することを特徴とする請求項2に記載の銑鉄塊の除去方法。
【請求項7】
前記連続させて形成した孔を上面視で内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた孔を1か所に形成し、前記拡大した孔に2個のプーリを設置して、前記2個のプーリに巻き架けたワイヤによって前記銑鉄塊の除去対象部分を前記連続孔の底部によって囲まれる全面に亘って切断することを特徴とする請求項2に記載の銑鉄塊の除去方法。
【請求項8】
前記銑鉄塊の除去対象部分を除去した後、前記銑鉄塊の残部を溶解して除去することを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の銑鉄塊の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混銑車内にて固化した銑鉄塊を除去する銑鉄塊の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において、溶銑は、トピードカー(TPC)とも称される混銑車によって高炉工場から製鋼工場まで搬送され、搬送中に混銑車内において、脱珪処理、脱燐処理、脱硫処理などの不純物を取り除く予備処理が行われる。
【0003】
地震や落雷などの天災による停電などの際に、安全確保のために製鉄工程の操業を長時間に亘って停止させた場合、内部の銑鉄を放流する対応をとるものの、それでも放流しきれなかったものは混銑車内に収容されている溶銑が固化して銑鉄塊となる。混銑車は、操業工程毎の専用品であるため、製造に長期間を要する。そのため、操業を早期に再開するためには、内部で固化した銑鉄塊を撤去し、修復を行って混銑車を再利用する方策が好ましい。しかし、固化した銑鉄塊を除去することについての知見はなく、行われたことはなかった。
【0004】
固化した銑鉄塊を解体・搬出する技術として、以下の特許文献1,2に開示されている技術が知られている。特許文献1には、高炉の底部に残留固化した残銑(銑鉄塊)などを解体する技術が開示されている。この技術においては、格子状や放射状等の分割ラインに沿って穿孔機を用いて所定の間隔を隔てて分割孔を設けた後に、バックホウのバケットの爪等で分割孔同士の間を破壊して、分割ラインで分割された塊毎に搬出している。
【0005】
また、特許文献2には、高炉の底部に残留固化した残銑を分割して炉外に引き出す技術が開示されている。この技術においては、外周の鉄皮に残銑を搬出するための開口部を設けると共に、残銑の下の耐火物に貫通孔を形成する。そして、ワイヤソーを、この貫通孔に挿通させて残銑の外周に巻き付けた後、走行させて残銑を切断し、切断した残銑を開口部から引き出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-162787号公報
【文献】特許第4758717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、固化した銑鉄塊を除去することにより混銑車を再利用することが望まれていた。なお、上記特許文献1に開示されている技術においては、残銑塊を切断するため、残銑塊を完全に貫通する孔を連続して設ける必要がある。また、上記特許文献2に開示されている技術においては、ワイヤソーの設置や切断した残銑の搬出のために高炉の一部に開口を設ける必要がある。したがって、これらの技術を混銑車に適用することは容易ではない。
【0008】
本発明者は、混銑車の内部で固化した銑鉄塊を除去する方法として、銑鉄塊を溶解して除去する方法を検討した。銑鉄塊を溶解する方法としては、銑鉄塊を燃焼バーナーで加熱する方法、混銑車内に溶銑を投入し、この溶銑の顕熱によって銑鉄塊を溶解する方法が挙げられる。しかし、混銑車の内部は銑鉄塊で充填されているため、燃焼バーナーを用いる方法では、燃焼バーナーの火炎を銑鉄塊のうち混銑車の出銑口(開口)に対向する面にしか当てることができない。このため、銑鉄塊に燃焼バーナーの熱が伝わりにくく、銑鉄塊を溶解するのに長時間を要する可能性がある。一方、後者の方法では、混銑車の内部に溶銑を投入するスペースがほとんどないため、溶銑を少量しか混銑車の内部に投入することができない。このため、銑鉄塊を十分に溶解することができない可能性があるだけでなく、投入した溶銑が固化する可能性もある。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、固化した銑鉄塊の一部を除去することにより銑鉄塊の残部を容易に除去することができ、ひいては混銑車を再利用することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の方法は、混銑車の鉄皮の内方に存在する耐火物に取り囲まれて固化した溶銑の塊である銑鉄塊の一部を除去する銑鉄塊の除去方法であって、前記混銑車の開口を介して、前記銑鉄塊の上面から底部に向って所定の深さまで延びる孔を連続させて上面視で内方の部分である除去対象部分の周囲を全体に亘って取り囲むように形成する工程と、前記連続させて形成した孔の底部にて前記銑鉄塊の除去対象部分を水平方向にワイヤソーを用いて切断する工程と、前記銑鉄塊の除去対象部分を前記混銑車に対して引き上げて、前記銑鉄塊を取り出す工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の方法によれば、連続孔を外周面として底面がワイヤソーで切断された銑鉄塊の除去対象部分が混銑車から取り出されるので、銑鉄塊の除去対象部分を簡易に取り出すことが可能となる。さらに、銑鉄塊の除去対象部分を切断する際に、混銑車に破損などの不具合が生じないので、銑鉄塊の残部を除去した後に混銑車を良好に再利用することが可能となる。
【0012】
本発明の方法において、前記連続させて形成した孔を上面視で内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた孔を少なくとも1か所に形成し、前記拡大した孔にプーリを設置して、前記プーリに巻き架けたワイヤによって前記銑鉄塊の除去対象部分を切断することが好ましい。
【0013】
この場合、ワイヤソーのプーリを設置するための孔を、連続させて形成した孔を拡大させて形成するので、形成が容易となる。
【0014】
また、本発明の方法において、前記銑鉄塊の除去対象部分にアンカーを設置し、前記アンカーを用いて前記銑鉄塊の除去対象部分を前記混銑車に対して引き上げることが好ましい。
【0015】
この場合、銑鉄塊の除去対象部分を混銑車に対して引き上げる作業の容易化を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明の方法において、前記孔を形成する削孔装置の削孔部の少なくとも一部を、前記銑鉄塊の上面に固定した部材に対して固定して、前記孔を形成することが好ましい。
【0017】
この場合、鉄塊の上面から底部に向って孔を形成する削孔装置の削孔部の少なくとも一部を銑鉄塊の上面付近にて固定した状態とすることができるので、削孔部に振れや折れ曲がりなどの不具合が生じることの防止を図ることが可能となる。
【0018】
また、本発明の方法において、前記孔は、当該孔の孔径より小径の孔を隣接する前記孔との間に隙間を開けて形成した後、当該孔を拡径することにより前記隣接する孔と連続させることが好ましい。
【0019】
この場合、既存の隣接する孔のほうに傾斜して孔が形成されることの防止を図ることが可能となる。
【0020】
また、本発明の方法において、前記連続させて形成した孔を上面視で内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた孔を2か所に形成し、前記拡大した孔にそれぞれ1個のプーリを設置して、各前記プーリに巻き架けたワイヤによって前記銑鉄塊の除去対象部分を前記連続孔の底部によって囲まれる面において2回に分けて切断することが好ましい。
【0021】
この場合、拡大させる孔を1か所だけ形成する場合と比較して、ワイヤの長さの短縮化を図ることが可能となると共に、ワイヤの破断による切断作業の遅延などの抑制を図ることが可能となる。なお、拡大させた孔を3か所以上に形成して、これら孔のうち2つの孔にプーリを順次設置させることにより、銑鉄塊の除去対象部分を連続孔の底部によって囲まれる面において3回以上に分けて切断してもよい。
【0022】
また、本発明の方法において、前記連続させて形成した孔を上面視で内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた孔を1か所に形成し、前記拡大した孔に2個のプーリを設置して、前記2個のプーリに巻き架けたワイヤによって前記銑鉄塊の除去対象部分を前記連続孔の底部によって囲まれる全面に亘って切断することが好ましい。
【0023】
この場合、拡大させる孔を1か所だけ形成すればよく、また、1回の切断作業によって銑鉄塊を全面に亘って切断することができるので、作業の効率化を図ることが可能となる。
【0024】
また、本発明の方法において、前記銑鉄塊の除去対象部分を除去した後、前記銑鉄塊の残部を溶解して除去することが好ましい。
【0025】
この場合、除去対象部分を除去することで銑鉄塊の内部に大きな空間が形成されている。したがって、銑鉄塊の残部を容易に溶解して除去し、ひいては混銑車を再利用することが可能となる。具体的に説明すると、銑鉄塊の残部を溶解する方法としては、上述したように、燃焼バーナーを用いる方法と溶銑を用いる方法とが挙げられる。前者の方法では、空間内に燃焼バーナーを挿入した後に、燃焼バーナーの火炎を空間の壁面に当てることができる。このため、銑鉄塊の残部に燃焼バーナーの熱が伝わりやすく、ひいては、銑鉄塊の残部をより短時間で溶解することができる。後者の方法では、溶銑を空間内に投入することができるので、より多量の溶銑を混銑車の内部に投入することができる。これにより、銑鉄塊の残部をより短時間かつ確実に溶解することができる。したがって、銑鉄塊の残部を容易に溶解することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の上記観点によれば、固化した銑鉄塊の一部を除去することにより銑鉄塊の残部を容易に除去し、ひいては混銑車を再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る、内部に銑鉄塊が固化した混銑車を示す模式縦断面図。
【
図2】銑鉄塊に連続孔を形成している状態を示す模式縦断面図。
【
図3】中空ロッドを固定治具で固定した状態で連続孔を形成する状態を示す模式上面図。
【
図4】
図3のA-A線に沿った断面を示す模式縦断面図。
【
図5】連続孔及び2個の拡大孔を形成した状態を示す模式上面図。
【
図6】ワイヤソーで切断している状態を示す模式縦断面図。
【
図7】1個の拡大孔に2個のプーリを設置して銑鉄塊を切断する状態を示す模式上面図。
【
図8】銑鉄塊を引き上げる状態を示す模式縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係る方法について図面を参照して説明する。
図1に示すように、混銑車10は、製鉄所において、高炉工場から製鋼工場までによって搬送する際に使用されるものであり、搬送中に、脱珪処理、脱燐処理、脱硫処理などの溶銑から不純物を取り除く予備処理を行う。
【0029】
混銑車10は、溶銑を貯留する容器である炉体11、炉体11内の溶銑を排出する際に炉体を回転させるための回転装置12、及び、炉体11及び回転装置12を支持する台車13などから構成されている。炉体11の外形が魚雷に類似した形状であり、これから、混銑車10は、トピードカーとも称されている。混銑車10は、図示しないが、台車13が図示しない機関車に牽引されることなどによって軌道上を走行する。
【0030】
炉体11は、鋼板を溶接等の方法で接合して外形を形成する鉄皮14と、鉄皮14の内面に内張りされた耐火レンガなどの耐火物15とから主に構成されている。炉体11の端部は回転装置12の軸受に支持されており、回転装置12によって炉体11が長軸回りに回転するように構成されている。炉体11の中央部には、溶銑の注入口及び排出口として機能する上面視で楕円形状の炉口としての開口16が設けられている。
【0031】
製鉄所などが停電などの際に、安全確保のために操業を長期間に亘って停止させた場合、混銑車10の炉体11の内部に収容されている溶銑が固化して、銑鉄塊Aとなる。なお、
図1において2点鎖線で示された銑鉄塊Aの一部(除去対象部分)A1は、後述するようにして切断して除去される部分である。
【0032】
本発明の実施形態に係る方法は、内部に銑鉄塊Aが固化した混銑車10を再生産するために、銑鉄塊Aを混銑車10の内部から除去する方法に関する。本方法は、連続孔形成工程、拡大孔形成工程、切断工程及び引上工程を備えている。
【0033】
まず、
図2及び
図3を参照して、開口16を介して、削孔装置20を用いて、銑鉄塊Aに上面視で内方の部分(除去対象部分である銑鉄塊A1)の周囲を全体に亘って取り囲むように連続した連続孔31を形成する連続孔形成工程について説明する。
【0034】
この連続孔形成工程においては、開口16を介して上面が露出する銑鉄塊Aに対して、削孔装置20を用いて、銑鉄塊Aの上面から底部に向って所定の深さまで垂直方向に延びる孔を順次、連続して形成する。この際、隣り合う孔が部分的に重なり合って連続するように形成する。これにより上面視で内方の部分の周囲を全体に亘って取り囲む連続孔31が形成される。連続孔31は、炉体11の底部に位置する耐火物15を損傷しない程度に銑鉄塊Aの底部付近まで達するような同じ所定の深さに形成する。
【0035】
ここでは、連続孔31は、銑鉄塊Aに上面視で円環状に形成されている。ただし、連続孔31は、上面から見て円環状である場合に限定されず、例えば、開口16などに沿った楕円環状でもよく、さらに多角形の環状などの他の形状であってもよい。
【0036】
なお、それぞれの孔は、1回の削孔によって、すなわち後述するビット28の外径を変更することなく、全体を形成してもよいが、2回以上の削孔によって形成してもよい。例えば、最初は小径のビット28を用いて孔を所定の深さまで形成した後、この孔をガイドとして大径のビット28を用いて孔を拡径してもよい。この場合、小径のビット28を用いて孔を形成する際には、既存の隣接する孔との間に隙間を開けて形成することが好ましい。これにより、既存の孔の側に傾斜して孔が形成されることを防止することが可能となる。また、小径のビット28を用いて孔を途中の深さまで形成した後、この孔をガイドとして大径のビット28を用いて孔を拡径し、かつ所定の深さまで深くなるように孔を形成してもよい。これらの場合、拡径した孔同士は、一部が既存の拡径した孔と部分的に重なり合うが、大径のビット28の先端部が小径のビットの形成した孔に嵌合しているため、隣接する既存の孔の側に傾斜することを防止することができる。なお、このような孔の拡径は、後述する拡大孔32,33を形成する際にのみ用いてもよい。
【0037】
また、開口16の付近に存在する鉄皮14の一部や耐火物15を除去することにより、開口16を拡げたうえで、この開口を介して、連続孔31を形成してもよい。この場合、開口16を構成する円筒状の鉄皮14よりも開口16の中心部側に存在する鉄皮14の一部や耐火物15を上下方向全体に亘って除去すればよい。これにより、引上工程において除去することが可能な銑鉄塊A1の容積を大きくすることが可能となるが、除去した鉄皮14の一部や耐火物15を補修する必要が生じる。
【0038】
削孔装置20として、例えば、固化した銑鉄や鋼鉄を削孔するための公知の削孔装置20を使用することが好ましい。削孔装置20は、例えば、混銑車10の上端と同程度の高さの作業架台を走行可能に設置すればよい。
【0039】
削孔装置20は、クローラー式の走行体21に穿孔装置22を搭載したものである。ここでは、走行体21に設置された旋回アーム23の先端に案内支柱24が取り付けられており、この案内支柱24に沿って、回転力によって穿孔する穿孔機25が進退するように構成されている。
【0040】
そして、穿孔機25は、案内支柱24に摺動可能に設けられたモータ26を備えており、このモータ26は、中空ロッド27を回転させる機構を有すると共に、供給される圧縮空気が中空ロッド27を経てその先端のビット28の空気吐出口から排出される。これにより、ビット28の回転力により銑鉄塊Aを穿孔すると共に、銑鉄塊Aとの摩擦で熱くなったビット28を圧縮空気で冷却しながら粉砕粉を吹き飛ばす。また同時に、銑鉄塊Aとの摩擦で高温になるビット28を冷却して、穿孔性能を維持する。
【0041】
なお、
図3及び
図4に示すように、穿孔機25の案内支柱24の先端から銑鉄塊Aまでの距離が長いので、ビット28の振れや中空ロッド27の折れ曲がりなどの不具合を防止するために、中空ロッド27を銑鉄塊Aに対して固定する固定治具35を設置することが好ましい。なお、中空ロッド27は、本発明の削孔部の少なくとも一部に相当する。
【0042】
例えば、銑鉄塊Aの表面に設置したアンカー36を用いて鋼板などからなるベース37を固定し、このベース37に固定治具35を固定すればよい。ただし、なお、アンカー36は、後述する引上工程において用いるアンカー51と同じであっても異なっていてもよい。また、アンカー36を設置するための孔は、アンカー51を設置するための孔と同じであっても異なっていてもよい。なお、ベース37は、本発明の銑鉄塊の上面に固定した部材に相当する。
【0043】
そして、固定治具35の固定する部位をベース37の外周部に沿って移動させながら削孔装置20により連続して孔を形成することにより、ベース37の外周部の外側に全周に亘って連続孔31を形成することが可能となる。
【0044】
固定治具35は、例えば、2つの部材35A,35Bがボルト・ナットなどを用いた締付機構35Cによって締付けられて中空ロッド27を保持することにより、中空ロッド27を固定箇所を変更して固定することが容易なように構成されている。そして、2つの部材35A,35Bの少なくも一方の部材が、ブルマン(万力)治具などの締結器具38を用いてベース37の外周部に着脱可能に固定される。固定治具35は、ベース37の外周端と形成する孔までの距離に応じて、締結器具38による固定位置と保持する中空ロッド27との距離が異なるものを複数個用意するか、長さを調節する機構を設けておくことが好ましい。
【0045】
次に、
図5及び
図6に示すように、銑鉄塊Aに形成された連続孔31の少なくとも2か所に、上面視で円環状の内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた拡大孔32を形成する拡大孔形成工程が行われる。これら拡大孔32は、後述するワイヤソー40のプーリ42A,42Bがそれぞれ挿入することが可能な大きさである。ここでは、拡大孔32は、上面視で円環状の連続孔31の中心点を点対称の中心とする2点を中心に形成されているが、このような位置に形成されることに限定されない。
【0046】
拡大孔32は、ここでは、孔31よりも直径が大きい上面視で円状に形成されている。このような拡大孔32は、孔31を形成した際に用いた穿孔機25のビット28などを大径のものに取り換えて削孔することにより形成することができる。ただし、孔31を形成した際に用いた削孔装置20をビット28なども含めて同じものと用い、複数個の孔を連続的に開けることによって、上面視で円状ではなく矩形状などの拡大孔32を形成してもよい。
【0047】
次に、
図6に示すように、2か所の拡大孔32の底部にそれぞれワイヤソー40のプーリ42A,42Bが設置され、ワイヤソー40が連続孔31の上部から底部に挿入された後、連続孔31の底部にて銑鉄塊A(より詳細には、除去対象部分である銑鉄塊A1)を水平方向にワイヤソー40を用いて切断する切断工程が行われる。
【0048】
ワイヤソー40は、主に、被切断物を切断するためのワイヤ(高張力鋼線)41、ワイヤ41を巻き架けた2個のプーリ(溝付き滑車)42A,42B、プーリ42A,42Aの上流側と下流側にそれぞれ配置されワイヤ41に張力を付与するテンションローラ43A,43B、及びワイヤ41を循環運動又は往復運動させるワイヤ運動機構44を備えている。
【0049】
このようなワイヤソー40を用いて、2か所の拡大孔32の底部にそれぞれ設置したプーリ42A,42Bにワイヤ41を巻き架け、このワイヤ41を、作業架台に設置したワイヤ運動機構44によって循環運動又は往復運動させることにより、銑鉄塊A(より詳細には、除去対象部分である銑鉄塊A1)の底部を半分ずつ切断する。
【0050】
具体的には、最初は、プーリ42A,42Bに巻き架けられたワイヤ41は、連続孔32の底部の一方側に沿って半円弧状に位置している。この状態でワイヤ41を循環運動又は往復運動させると、ワイヤ41が銑鉄塊Aの底部を順次中心側に向って水平方向に切断する。これにより、2つの拡大孔32を直径の両端とした半円状に銑鉄塊Aの底部が切断される。
【0051】
さらに、ワイヤ41が存在する位置を連続孔31の反対側の半円弧状の底部に沿って位置させる。そして、この状態でワイヤ41を循環運動又は往復運動させると、2つの拡大孔32を直径の両端とした半円状に銑鉄塊Aの反対側の底部が切断される。
【0052】
このようにして、銑鉄塊Aの底面が半円状ずつ2回に分けて切断され、円筒状の銑鉄塊A1がその周りの銑鉄塊A2から分離される。このように2回に分けて切断することにより、拡大孔32を1か所だけ形成する場合と比較して、ワイヤ41の長さの短縮化を図ることが可能となると共に、ワイヤ41の破断による切断作業の遅延などの抑制を図ることが可能となる。
【0053】
なお、ワイヤソー40による切断時において、ワイヤ41の上下は銑鉄塊Aに挟まれることになるが、切断時に発生する切断粉が切断面の間に存在するので、ワイヤ41による切断ができない程度にワイヤ41の運動が不可能になることはない。なお、ワイヤソー40による切断がある程度進行した後に、銑鉄塊Aの底部に形成された隙間にスペーサなどを挿入してもよい。
【0054】
この場合、例えば、銑鉄塊Aの上面からワイヤソー40による切断面下端までの距離より長い棒材の先端にスペーサを直角に設置したものを用いる。スペーサの長手方向を連続孔による円弧方向に沿わせるようにして挿入し、切断面の底部に達した段階で棒材を90度回転させることで、スペーサをワイヤソー40による切断面の間に挿入する。このようなスペーサを数か所設けることにより、ワイヤソー40の切断部分を外側から支持することができる。
【0055】
さらに、銑鉄塊Aの底部はワイヤソー40によって半円状に2回に亘って切断されるが、切断終了時に、中央部に切断されずに残存する部分があってもよい。この場合、上面側削穴、切削するなどを行うことによって除去すればよい。また、拡大孔32を3か所以上に形成して、これら拡大孔32のうちの2か所の底部に順次プーリ42A,42Bを設置して、銑鉄塊Aの底部を3回以上に分けて切断してもよい。
【0056】
なお、
図7に示すように、銑鉄塊Aに形成された連続孔31の1か所に、上面視で円環状の内外の少なくとも何れかの方向に拡大させた拡大孔33を形成する拡大孔形成工程が行われてもよい。この拡大孔33は、ワイヤソー40の2個のプーリ42A,42Bが挿入することが可能な大きさである。
【0057】
この場合、拡大孔33の底部にワイヤソー40の2個のプーリ42A,42Bが設置され、ワイヤソー40が連続孔31の上部から底部に挿入された後、連続孔31の底部にて銑鉄塊Aを水平方向にワイヤソー40を用いて切断する切断工程が行われる。
【0058】
このようなワイヤソー40を用いて、拡大孔33の底部に設置した2個のプーリ42A,42Bにワイヤ41を巻き架け、このワイヤ41を、作業架台に設置したワイヤ運動機構44によって循環運動又は往復運動させることにより、銑鉄塊Aの連続孔31の底部によって囲まれる全面に亘って切断する。
【0059】
具体的には、最初は、プーリ42A,42Bに巻き架けられたワイヤ41は、連続孔32の底部の略全周に亘って位置している。この状態でワイヤ41を循環運動又は往復運動させると、
図7に2点鎖線で示すように、ワイヤ41が順次拡大孔33側に向って移動して、銑鉄塊Aの底部を水平方向に切断する。これにより、銑鉄塊Aの底部が全面に亘って切断され、円筒状の銑鉄塊A1がその周りの銑鉄塊(銑鉄塊の残部)A2から分離される。これにより、上述したように2か所の拡大孔32にそれぞれプーリ42A,42Bを設置して銑鉄塊Aを切断する場合と比較して、作業の効率化を図ることが可能となる。
【0060】
次に、
図8に示すように、切断した円筒状の銑鉄塊A1を混銑車10に対して引き上げる引上工程が行われる。この引上工程においては、連続孔形成工程において外周側面を全面に亘って切断され、且つ切断工程において底面が全面に亘って切断された円筒状の銑鉄塊A1を、この銑鉄塊A1の外側に残存した銑鉄塊A2を有する混銑車10に対して引き上げることによって、分離させる。
【0061】
なお、引上工程の開始時には、切断された銑鉄塊A1の底面と混銑車10の底部の上面に残存した銑鉄塊A2との間に一部が切断されていない部分が少しであれば残存していてもよい。この残存した銑鉄塊Aの部分が引きちぎれる、又は引き裂かれるなどによって破断するように、銑鉄塊A1を大型クレーンなどの引上装置40を用いて引き上げる。
【0062】
切断された銑鉄塊A1が除去された混銑車10は、特に鉄皮14には破損などの不具合などがないので、残存する銑鉄塊A2を除去したうえで良好に再利用することができる。ここで、銑鉄塊Aの残部である銑鉄塊A2を除去する方法について説明する。銑鉄塊A2を除去する方法としては、燃焼バーナーを用いる方法と溶銑を用いる方法とが挙げられる。つまり、これらの方法では、銑鉄塊A2を溶解して除去する。前者の方法では、空間内に燃焼バーナーのノズルを挿入した後に、燃焼バーナーの火炎を空間の壁面に当てることができる。このため、銑鉄塊A2に燃焼バーナーの熱が伝わりやすく、ひいては、銑鉄塊A2をより短時間で溶解することができる。後者の方法では、溶銑を空間内に投入することができるので、より多量の溶銑を混銑車10の内部に投入することができる。これにより、銑鉄塊A2をより短時間かつ確実に溶解することができる。なお、これらの方法を組み合わせてもよい。例えば、燃焼バーナーで銑鉄塊A2を予熱した後、空間内に溶銑を投入してもよい。この方法では、より短時間で銑鉄塊A2が溶解することが期待できる。このように、本実施形態では、銑鉄塊Aから銑鉄塊A1(すなわち除去対象部分)が除去されることで、銑鉄塊Aに大きな空間が形成されている。この空間を利用することで、銑鉄塊Aの残部である銑鉄塊A2を容易に溶解して除去し、ひいては混銑車を再利用することが可能となる。なお、銑鉄塊A2を除去する方法は必ずしも上述した方法に限られず、例えば、手持ち式の溶融切断装置(ランスなど)や銑鉄用ドリルなどを用いるなどの適宜な方法で行ってもよい。
【0063】
なお、銑鉄塊A1にアンカー51を設置して、このアンカー51を利用して引上装置50で銑鉄塊A1を引き上げることが好ましい。アンカー51は、例えば、銑鉄塊A1に穴に形成し、この穴に溶剤の入ったカプセルを挿入し、アンカー51によってカプセルを破壊することにより、溶剤の化学反応を起こしてアンカー51を固定させるケミカルアンカー(登録商標)を用いて銑鉄塊Aにアンカー51を設置すればよい。
【0064】
本実施形態の方法によれば、上述したように、連続孔31を外周面として底面がワイヤソー40で切断された銑鉄塊A1が混銑車10から取り出されるので、この部分の銑鉄塊Aを簡易に取り出すことが可能となる。さらに、この部分の銑鉄塊A1を切断する際に、混銑車10に破損などの不具合が生じないので、銑鉄塊Aの残部を除去した上で混銑車10を良好に再利用することが可能となる。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施形態に具体的に記載した方法に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。例えば、穿孔装置20は、穿孔機25のみでもよい。また、中空ロッド27を経由してビット28に圧縮空気を供給するのではなく水を供給してもよく、この場合、効果は同様である。さらに、ビット28はドリル状のものである必要はなく、筒状の本体の先端部に超硬チップを埋め込んだコアカッタを用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…混銑車、 11…炉体、 12…回転装置、 13…台車、 14…鉄皮、 15…耐火物、 16…開口、 20…削孔装置、 21…走行体、 22…穿孔装置、 23…旋回アーム、 24…案内支柱、 25…穿孔機、 26…モータ、 27…中空ロッド(削孔部)、 28…ビット、 31…連続孔(連続させて形成した孔)、 32,33…拡大孔(拡大した孔)、 35…固定治具、 35A,35B…部材、 35C…締付機構、 36…アンカー、 37…ベース(銑鉄塊の上面に固定した部材)、 38…締結器具38、 40…ワイヤソー、 41…ワイヤ、 42A,42B…プーリ、 43A,43B…テンションローラ、 44…ワイヤ運動機構、 50…引上装置、 51…アンカー、 A…銑鉄塊、 A1…切断した円筒状の銑鉄塊、 A2…残存した銑鉄塊。