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特許7496741修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20240531BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20240531BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240531BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20240531BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240531BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20240531BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L25/18
C08K5/17
C08G61/12
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 503B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020146673
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041460
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝則
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057335(JP,A)
【文献】特開2012-144640(JP,A)
【文献】特開2008-115215(JP,A)
【文献】特開2020-097680(JP,A)
【文献】特開2020-097681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 2/00- 2/38
61/00- 61/12
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
H01B 1/00- 1/24
13/00- 13/016
13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水系分散媒とを含む調製液に、アミン化合物を添加し、前記水系分散媒に対して前記アミン化合物の少なくとも一部が溶解しない不均一液相を得ることと、
前記不均一液相において、前記導電性複合体と前記アミン化合物とを反応させ、前記水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を分取することとを含み、
前記ポリアニオンの重量平均分子量が20万~30万であり、前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの質量比が(1:2)~(1:5)であり、
前記水系分散媒に水溶性有機溶剤が含まれ、
前記水溶性有機溶剤は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、及びアリルアルコールからなる群から選択される1種以上であり、
前記アミン化合物は、20℃の前記水系分散媒100gに対する溶解量が1g未満のアミン化合物である、修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項2】
前記アミン化合物は、20℃の前記水溶性有機溶剤100gに対する溶解量が1g未満のアミン化合物である、請求項1記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項3】
前記水系分散媒の総質量に対する前記水溶性有機溶剤の含有量が51質量%以上90質量%以下である、請求項又はに記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性有機溶剤がメタノールである、請求項の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項5】
前記アミン化合物の合計の炭素数が12以上である、請求項1~の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項6】
前記修飾型導電性複合体を分取する方法が、濾過又はデカンテーションである、請求項1~の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項7】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~の何れか一項に記載の製造方法によって修飾型導電性複合体を得て、
前記修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合することを含む、修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の製造方法で修飾型導電性複合体分散液を得て、
フィルム基材の少なくとも一方の面に、前記修飾型導電性複合体分散液を塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。導電性複合体を含有する導電性高分子含有液(導電性高分子分散液ということもある。)をフィルム基材等に塗工することにより、導電層を備えた導電性フィルム等を製造することができる。また、導電性高分子含有液のフィルム基材に対する濡れ性を高めたり、形成する導電層の導電性を高めたりする目的で、導電性複合体にエポキシ化合物やアミン化合物を反応させることがある。例えば特許文献1には、エポキシ化合物及びアミン化合物を反応させた導電性複合体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-97680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、導電性複合体に余分なアミン化合物が付加することを抑制できるため、導電性の低下を抑制することができる。さらに、導電性高分子含有液が付加硬化型シリコーンを含む場合に、付加硬化型シリコーンの効果阻害を抑制することもできる。ただし、特許文献1の方法においてはエポキシ化合物を併用することが必須である。アミン化合物だけを導電性複合体に反応させる場合にも、余分なアミン化合物が導電性複合体に付加することを抑制する新たな方法が求められている。
【0005】
本発明は、従来よりもアミン化合物を穏やかに反応させることが可能な、修飾型導電性複合体の製造方法、修飾型導電性複合体分散液の製造方法、及び導電性フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水系分散媒とを含む調製液に、アミン化合物を添加し、前記水系分散媒に対して前記アミン化合物の少なくとも一部が溶解しない不均一液相を得ることと、前記不均一液相において、前記導電性複合体と前記アミン化合物とを反応させ、前記水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を分取することとを含み、前記ポリアニオンの重量平均分子量が20万~30万であり、前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの質量比が(1:2)~(1:5)である、修飾型導電性複合体の製造方法。
[2] 前記水系分散媒に水溶性有機溶剤が含まれ、前記水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、前記アミン化合物は、20℃の前記水系分散媒100gに対する溶解量が1g未満のアミン化合物である、[1]に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[3] 前記水系分散媒に水溶性有機溶剤が含まれ、前記水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、前記アミン化合物は、20℃の前記水溶性有機溶剤100gに対する溶解量が1g未満のアミン化合物である、[1]又は[2]に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[4] 前記水系分散媒の総質量に対する前記水溶性有機溶剤の含有量が51質量%以上90質量%以下である、[2]又は[3]に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[5] 前記水溶性有機溶剤がメタノールである、[2]~[4]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[6] 前記アミン化合物の合計の炭素数が12以上である、[1]~[5]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[7] 前記修飾型導電性複合体を分取する方法が、濾過又はデカンテーションである、[1]~[6]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[8] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[7]の何れか一項に記載の修飾型導電性複合体の製造方法。
[9] [1]~[8]の何れか一項に記載の製造方法によって修飾型導電性複合体を得て、前記修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合することを含む、修飾型導電性複合体分散液の製造方法。
[10] [9]に記載の製造方法で修飾型導電性複合体分散液を得て、フィルム基材の少なくとも一方の面に、前記修飾型導電性複合体分散液を塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の修飾型導電性複合体の製造方法にあっては、反応液を不均一液相として、水相に導電性複合体が含まれ、有機相にアミン化合物が含まれる。水相と有機相の界面において、導電性複合体とアミン化合物が穏やかに反応し、水相中に修飾型導電性複合体の析出物が沈殿する。反応が穏やかであるため、保存安定性に優れた形態となる。また、水相中にアミン化合物を溶解させないので、アミン化合物の使用量を低減でき、また、修飾型導電性複合体に余分なアミン化合物が取り込まれることも防止できる。この結果、修飾型導電性複合体を別の有機溶剤に分散させて塗料(修飾型導電性複合体分散液)得るときに、アミン化合物の持ち込み量が減るので、形成する導電層の導電性を高めることができる。さらに、塗料中に付加硬化型シリコーン化合物を添加した場合、アミン化合物による付加硬化型シリコーン化合物の硬化阻害を防止することもできる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪修飾型導電性複合体の製造方法≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水系分散媒とを含む調製液に、アミン化合物を添加し、前記水系分散媒に対して前記アミン化合物の少なくとも一部が溶解しない不均一液相を得ることと、前記不均一液相において、前記導電性複合体と前記アミン化合物とを反応させ、前記水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を分取することとを含み、前記ポリアニオンの重量平均分子量が20万~30万であり、前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの質量比が(1:2)~(1:5)である、修飾型導電性複合体の製造方法である。
【0011】
[調製液]
本態様で用いる調製液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水系分散媒とを含有する。この調製液は、液中の導電性複合体が分散状態にある範囲で、また、前記不均一液相の形成を妨げない範囲で、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0012】
前記有機溶剤は、水溶性有機溶剤であることが好ましい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0013】
前記水系分散媒に水溶性有機溶剤が含まれる場合、前記不均一液相を形成する前記アミン化合物は、20℃の前記水系分散媒100gに対する溶解量が1g未満であることが好ましい。このように前記水系分散媒に対する溶解性が低いアミン化合物を用いることにより、前記水系分散媒に対して前記アミン化合物の少なくとも一部が溶解せず、目的の不均一液相を形成することが容易になる。
【0014】
前記水系分散媒に水溶性有機溶剤が含まれる場合、前記不均一液相を形成する前記アミン化合物は、20℃の前記水溶性有機溶剤100gに対する溶解量が1g未満であることが好ましい。このように水溶性有機溶剤に対する溶解性が低いアミン化合物を用いることにより、前記水系分散媒に対して前記アミン化合物の少なくとも一部が溶解せず、目的の不均一液相を形成することが容易になる。
【0015】
前記水系分散媒の総質量に対する前記水溶性有機溶剤の含有量は、51質量%以上90質量%以下が好ましく、60質量%以上80質量%以下がより好ましく、65質量%以上75質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上の含有量であると、前記導電性複合体と前記アミン化合物との反応を充分に進行させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、前記水系分散媒における前記導電性複合体の分散性を充分に維持することができる。
【0016】
前記水溶性有機溶剤は、前記不均一液相を形成するアミン化合物の種類にもよるが、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記アミン化合物が3つのアルキル基を有する第三級アミンであり、全アルキル基の合計の炭素数が6~30である場合、前記水溶性有機溶剤は、メタノール、エタノール、であることが好ましい。
【0018】
前記ポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープし、導電性を有する導電性複合体を形成している。前記ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有する。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水に対する分散性を有する。なお、本明細書において、導電性複合体等の分散状態と溶解状態とは、特に指定しない限り、区別しない。
【0019】
本態様で用いる調製液に含まれる導電性複合体は分散状態にある。分散状態と析出状態の区別は、簡便には目視で行うことができる。分散状態の分散液の透明性は高く、分散液中に固体の浮遊物は見当たらない。一方、析出状態の液の透明性は低く、液中に固体の浮遊物が観察される。通常、分散状態の導電性複合体は容易には沈殿せず、例えば12時間静置したとしても、沈殿は生じ難い。一方、析出状態の液中の浮遊物は、沈降し易く、例えば12時間程度静置することにより、沈殿を生じ易い。
【0020】
本態様で用いる調製液を、保留粒子径7μmのフィルターに通すと、分散状態の導電性複合体は分散媒とともにフィルターを通過する。一方、析出状態の導電性複合体は上記フィルターに捕捉され得る。
ここで、ろ紙の保留粒子径は目の粗さの目安であり、JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕で規定された硫酸バリウムなどを自然ろ過したときの漏えい粒子径により求められる。
【0021】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0022】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0023】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記導電性複合体を構成する前記ポリアニオンは1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0024】
ポリアニオンの重量平均分子量Mwは、20万以上30万以下である。ここで、重量平均分子量Mwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、既知の重量平均分子量のプルランを標準物質として求めた質量基準の平均分子量(質量平均分子量と呼んでもよい)である。
重量平均分子量Mwが上記の下限値以上であると、形成する導電層の導電性が良好となる。重量平均分子量Mwが上記の上限値以下であると、後述するように修飾型導電性複合体が水系分散媒中に析出することが容易となる。
【0025】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0026】
前記導電性複合体における前記π共役系導電性高分子:前記ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1:2)~(1:5)であり、(1:3)~(1:5)が好ましく、(1:4)~(1:5)がより好ましい。
上記好適な範囲であると、導電性がより優れた導電層を形成することができる。
また、上記範囲の下限値以上であると、ポリアニオンによるドープ効果が充分に発揮され、導電性複合体の分散安定性がより向上する。
また、上記範囲の上限値以下であると、導電性が優れた導電層を形成することができる。
【0027】
<調製液の製造方法>
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体は、例えば、ポリアニオンの水溶液中でπ共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合させて得ることができる。
【0028】
前記化学酸化重合は、公知の触媒及び酸化剤を用いて行うことができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0029】
上記の化学酸化重合を行った反応液を本態様の調製液として使用する前に、前記反応液に添加した触媒及び酸化剤を予め除去することが好ましい。
除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に前記反応液を接触させ、触媒及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、前記反応液を限外ろ過することにより分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0030】
本態様の調製液に含まれる導電性複合体の含有量としては、調製液の総質量に対して、例えば、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、アミン化合物の添加後の修飾型導電性複合体の析出が容易になる。上記範囲の上限値以下であると、調製液における導電性複合体の分散性が高まるので、調製液の保存中に意図しない凝集を防ぎ、アミン化合物の添加後に析出する修飾型導電性複合体の質を均一にすることができる。
【0031】
本態様の調製液を構成する水系分散媒に前記有機溶剤を含ませる場合、前述の好適な範囲で混合することが好ましい。
【0032】
[不均一液相]
調製液にアミン化合物を添加して不均一液相を得る方法は、調製液とアミン化合物とを混合できる方法であればよい。調製液とアミン化合物を混合すると、水相と有機相とに分離した不均一液相が形成される。また、不均一液相を攪拌した後、静置することにより、再び水相と有機相とに分離し得る。
【0033】
調製液100質量部に対するアミン化合物の添加量としては、例えば、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.05質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.1質量部以上1質量部以下がさらに好ましい。
また、調製液が水溶性有機溶剤を含む場合、調製液に含まれる水溶性有機溶剤100質量部に対するアミン化合物の添加量としては、例えば、0.05質量部以上5質量部以下が好ましく、0.1質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.2質量部以上1質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体とアミン化合物との反応がより容易となる。上記範囲の上限値以下であると、水相側へのアミン化合物の拡散が低減され、前記反応を穏やかに進行させることができ、得られる修飾型導電性複合体に対する余分なアミン化合物の取り込みを抑制することができる。
【0034】
調製液に対するアミン化合物の添加量は、調製液に含まれる導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下が好ましく、10質量部以上5000質量部以下がより好ましく、50質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、修飾型導電性複合体の疎水性が充分に高くなり、有機溶剤に対する分散性が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、水相側へのアミン化合物の拡散が低減され、前記反応を穏やかに進行させることができ、得られる修飾型導電性複合体に対する余分なアミン化合物の取り込みを抑制することができる。
【0035】
不均一液相における導電性複合体とアミン化合物との反応を促進する観点から、不均一液相は40℃以上100℃以下に加熱することが好ましく、50℃以上70℃以下に加熱することが好ましい。また、前記反応を促進する観点から、不均一液相を撹拌することが好ましい。
【0036】
不均一液相における反応終了の目安は、水相に析出した修飾型導電性複合体の量で判断することができ、例えば、1時間以上24時間以下で反応を完了させることができる。
【0037】
前記反応時に加熱した不均一液相を、反応終了後に20~30℃程度に冷却して静置すると、反応により形成された修飾型導電性複合体が水系分散媒中に析出して沈殿し易くなるので好ましい。
【0038】
(アミン化合物)
不均一液相の有機相に含まれるアミン化合物は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
導電性複合体を構成するポリアニオンの一部のアニオン基にアミン化合物が反応して得られた修飾型導電性複合体は、導電性複合体と比べて疎水化されており、有機溶剤に対する分散性が高い。
前記ポリアニオンのドープに関与しない余剰のアニオン基にアミン化合物が付加した置換基(B)の構造は、下記式(B)で表される基であると推測される。
【0039】
-HN111213 ・・・(B)
[式(B)中、R11~R13はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R11~R13のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0040】
置換基(B)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO 」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0041】
化学式(B)におけるR11~R13は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。化学式(B)におけるR11~R13は後述するアミン化合物に由来する置換基である。
化学式(B)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0042】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。前記導電性複合体と反応するアミン化合物は1種類でもよいし、2種以上でもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、本態様の導電性高分子含有液を容易に製造できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0043】
得られた修飾型導電性複合体の有機溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、6以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがさらに好ましい。また、アミン化合物が有する炭素数の合計は、12以上が好ましく、16以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。
【0044】
[修飾型導電性複合体の析出と分取]
不均一液相の水相、すなわち水系分散媒に析出した修飾型導電性複合体を分取する(回収する)方法は特に制限されず、例えば、濾過、デカンテーション、遠心分離、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
なかでも、不均一液相の水相に含まれる修飾型導電性複合体以外の成分と修飾型導電性複合体とを分離することが容易であることから、濾過又はデカンテーションが好ましい。ここで、濾過とは、不均一液相の水相を通過させたフィルターに、修飾型導電性複合体を捕捉する操作である。また、デカンテーションとは、析出した修飾型導電性複合体を沈殿させ、上澄み液を除去する操作である。
濾過で分取する場合にはフィルターの目詰まりに対処する必要がある。また、フィルター上で修飾型導電性複合体の固形物が濾過圧により圧縮されるので、濾過で分取した修飾型導電性複合体は、デカンテーションで分取した場合よりも固い状態となり易い。デカンテーションで得た修飾型導電性複合体は比較的柔らかいパウダー状態で得られるので、後で分散媒に容易に分散させることができる。
一方、デカンテーションで分取する場合、修飾型導電性複合体が前記水相中で沈殿するまで待つ必要がある。修飾型導電性複合体の製造速度を高める観点からすると、濾過で分取することが好ましい。
【0045】
不均一液相を構成する水系分散媒の総質量に対する前記水溶性有機溶剤の含有量が51質量%以上90質量%以下であるとき、前記反応を行い、水系分散媒中に修飾型導電性複合体を得た後、前記水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を分取する前に、前記水系分散媒の総質量に対する水の含有量を、51質量%以上99質量%以下に調整することが好ましく、55質量%以上95質量%以下に調整することがより好ましく、60質量%以上90質量%以下に調整することがさらに好ましい。このように、修飾型導電性複合体の貧溶媒である水含有量を高めることにより、析出した修飾型導電性複合体の形態(分子状態)を水系分散媒から分取することが容易な形態にすることができる。
具体的な方法としては、例えば、水系分散媒中に析出した修飾型導電性複合体を沈殿させて、上澄み液をデカンテーションで除去した後、水を添加する方法が好ましい。この方法によれば、単に水を添加する場合に比べて、添加する水の量が少なくても水の含有率を高めることができる。
【0046】
分取した修飾型導電性複合体は、修飾型導電性複合体を溶解し難い有機溶剤又は水を用いて洗浄することが好ましい。具体的には、例えば、修飾型導電性複合体を捕捉したフィルターに水をかけ流してもよいし、デカンテーション後に容器の底に残った修飾型導電性複合体に水を添加し、攪拌した後、再度デカンテーション等により分取してもよい。
分取した修飾型導電性複合体に付着した水等を乾燥して除去することにより、修飾型導電性複合体の乾燥体を得ることができる。
【0047】
<作用効果>
本発明の修飾型導電性複合体の製造方法によれば、調製液に含ませた導電性複合体100質量部に対して、90~100質量部の導電性複合体を析出物として回収することができる。つまり、本態様の修飾型導電性複合体の製造方法は、90~100質量%という高い収率を示し得る。
本発明の修飾型導電性複合体の製造方法にあっては、不均一液相における水相と有機相の界面において、導電性複合体とアミン化合物が穏やかに反応し、水相中に修飾型導電性複合体の析出物が沈殿する。反応が穏やかであるため、保存安定性に優れた形態となる。また、水相中にアミン化合物を溶解させないので、アミン化合物の使用量を低減でき、また、修飾型導電性複合体に余分なアミン化合物が取り込まれることも防止できる。
また、不均一液相での反応後、未反応で余った有機相に含まれるアミン化合物はそのまま回収して次の不均一液相を形成する材料として使用することもできる。
【0048】
≪修飾型導電性複合体分散液の製造方法≫
本発明の第二態様は、第一態様の製造方法によって修飾型導電性複合体を得て、修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合することを含む、修飾型導電性複合体分散液の製造方法である。
第一態様で得た修飾型導電性複合体は有機溶剤に対する分散性が高いので、有機溶剤に容易に分散させることができる。
本態様で用いる修飾型導電性複合体は、第一態様の製造方法により分取した後、乾燥して保存されていてもよいし、保存を経ずに直ちに使用されてもよい。
【0049】
(有機溶剤)
本態様の製造方法で用いる有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0050】
上記有機溶剤のなかでも、プラスチックフィルム基材に対する修飾型導電性複合体分散液の濡れ性が高くなり、また、比較的極性の高いバインダ成分を容易に可溶化できる点では、ケトン系溶剤又はアルコール系溶剤が好ましい。また、ケトン系溶剤のなかでも、修飾型導電性複合体の分散性が良好であることから、メチルエチルケトンが好ましい。また、アルコール系溶剤のなかでも、修飾型導電性複合体の分散性が良好であることから、イソプロパノールが好ましい。
【0051】
有機溶剤の含有割合は、修飾型導電性複合体分散液の総質量に対し、50質量%以上99.5質量%以下が好ましく、70質量%以上99質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲内であると、修飾型導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0052】
本態様において、修飾型導電性複合体と有機溶剤とを混合する方法は特に制限されず、高圧ホモジナイザーで混合しつつ、分散させる方法が好ましい。
【0053】
本態様の修飾型導電性複合体分散液の総質量に対する、修飾型導電性複合体の含有量としては、例えば、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、修飾型導電性複合体をより安定に分散させることができる。
【0054】
(バインダ成分)
本態様の修飾型導電性複合体分散液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層(導電膜)形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
【0056】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0057】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シリコーン等が挙げられる。
本態様の修飾型導電性複合体分散液が含有するバインダ樹脂としては、有機溶剤に対する分散性が良好であることから、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物(アクリル化合物)、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、又は付加硬化型シリコーンが好ましい。
【0058】
本態様の修飾型導電性複合体分散液におけるバインダ成分の含有割合は、修飾型導電性複合体100質量部に対して、500質量部以上50000質量部以下であることが好ましく、1000質量部以上20000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、本態様の修飾型導電性複合体分散液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。バインダ成分の含有割合が前記上限値以下であれば、修飾型導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0059】
(高導電化剤)
本態様の修飾型導電性複合体分散液は、高導電化剤を含んでいてもよい。
ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、有機溶剤及びバインダ成分は、高導電化剤に分類されない。ただし、前記アミン化合物は、ここで説明する高導電化剤に該当していてもよい。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上の水酸基を有する化合物、1個以上の水酸基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
好適な高導電化剤として、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミドが挙げられる。
本態様の修飾型導電性複合体分散液に含有される高導電化剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0060】
高導電化剤の含有割合は導電性複合体の100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。
高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0061】
(その他の添加剤)
本態様の修飾型導電性複合体分散液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。ただし、添加剤は、前記π共役系導電性高分子、ポリアニオン、有機溶剤、バインダ成分以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
本態様の修飾型導電性複合体分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、修飾型導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0062】
<作用効果>
本発明の修飾型導電性複合体分散液の製造方法は、第一態様の製造方法によって得られた、余分なアミン化合物の持ち込みが少ない修飾型導電性複合体を使用するので、余分なアミン化合物の少ない修飾型導電性複合体分散液が得られる。一般に、アミン化合物は、付加硬化型シリコーン化合物を重合させる白金触媒の触媒毒になるが、本態様の修飾型導電性複合体分散液に含まれる余分なアミン化合物は少ないので、付加硬化型シリコーン化合物を修飾型導電性複合体分散液に添加しても、その硬化阻害が起きにくい。よって、本発明の修飾型導電性複合体分散液には付加硬化型シリコーン化合物を含有させることができる。
【0063】
≪導電性フィルムの製造方法≫
本発明の第三態様の導電性フィルムの製造方法は、第二態様の製造方法で修飾型導電性複合体分散液を得て、これをフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法である。
【0064】
本態様において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、形成する導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0065】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書におけるフィルム基材の厚さは、無作為に選択される10箇所の断面について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0066】
(塗工工程)
修飾型導電性複合体分散液をフィルム基材に塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
前記分散液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、良好な導電性を得る観点から、固形分として、0.1g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0067】
前記塗膜は、フィルム基材の表面の全面に塗工されてもよいし、一部のみに形成されてもよく、フィルム基材上において任意のパターンを形成してもよい。前記パターンとしては、例えば、電極、配線、電気回路等が挙げられる。印刷によって塗工することにより、パターン形成がより容易になる。
【0068】
(乾燥工程)
フィルム基材に形成された塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記温度で乾燥する場合の乾燥時間としては、例えば、30秒以上5分以下とすることができる。
【0069】
≪導電性フィルム≫
本発明の第四態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第二態様の製造方法で得た修飾型導電性複合体分散液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルムである。本態様の導電性フィルムは、第三態様の製造方法によって製造することができる。
【0070】
本態様により得られる導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。導電層は、第一態様の修飾型導電性複合体を含有する。
【0071】
本態様の導電性フィルムが有する導電層の平均厚さとしては、例えば、10nm以上30μm以下であることが好ましく、30nm以上10μm以下であることがより好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、フィルム基材に対する導電層の密着性が向上する。
導電層の厚さは、任意に選択される箇所の導電層の断面について、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて測定した値である。
導電層は、フィルム基材の表面にパターン状に形成されていてもよいし、フィルム基材の全面に形成されていてもよい。
【0072】
本態様の導電性フィルムの導電層の表面抵抗値は、例えば、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下が好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下がより好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下がさらに好ましい。
【実施例
【0073】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸(Mw.20万)の合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した6.18gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、ポリスチレンスルホン酸含有溶液を得た。続いて、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法により約2000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
得られたポリスチレンスルホン酸についてGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)システムを用いて、昭和電工製プルランを標準物質として重量平均分子量を測定した結果、その重量平均分子量は20万であった。
【0074】
(製造例2)ポリスチレンスルホン酸(Mw.30万)の合成
過硫酸アンモニウム酸化剤溶液の濃度を2.06g/10mlに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリスチレンスルホン酸を得た。その重量平均分子量は30万であった。
【0075】
(製造例3)ポリスチレンスルホン酸(Mw.40万)の合成
過硫酸アンモニウム酸化剤溶液の濃度を1.03g/10mlに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリスチレンスルホン酸を得た。その重量平均分子量は40万であった。
【0076】
(製造例4)ポリスチレンスルホン酸(Mw.10万)の合成
過硫酸アンモニウム酸化剤溶液の濃度を20.6g/10mlに変更した以外は、製造例1と同様にしてポリスチレンスルホン酸を得た。その重量平均分子量は10万であった。
【0077】
(製造例5)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:3)の合成
5gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、15gの製造例1のポリスチレンスルホン酸(Mw.20万)を1100mlのイオン交換水に溶かした溶液とを混合させた。
これにより得た混合溶液を30℃に保ち、掻き混ぜながら、3gの硫酸第二鉄と11gの過硫酸アンモニウムをそれぞれ50mlのイオン交換水に溶かした酸化触媒溶液をゆっくり加え、6時間撹拌して反応させた。
これにより得られた反応液に陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂をそれぞれ100g用いて3回処理し、ポリスチレンスルホン酸がドープしたポリチオフェン樹脂(PEDOT-PSS)を得た。得た溶液にイオン交換水を添加して、PEDOT-PSSの濃度が1.3質量%になるように調整した導電性高分子分散液を得た。
【0078】
(製造例6)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:5)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸(Mw.20万)15gを、製造例1のポリスチレンスルホン酸25gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0079】
(製造例7)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:1)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例2のポリスチレンスルホン酸(Mw.30万)5gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSSを得ようと試みたが、反応生成物が沈殿したため、以降の試験を中止した。
【0080】
(製造例8)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:2)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例2のポリスチレンスルホン酸(Mw.30万)10gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0081】
(製造例9)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:3)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例2のポリスチレンスルホン酸(Mw.30万)15gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0082】
(製造例10)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:4)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例2のポリスチレンスルホン酸(Mw.30万)20gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0083】
(製造例11)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:5)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例2のポリスチレンスルホン酸(Mw.30万)25gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0084】
(製造例12)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:6)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例2のポリスチレンスルホン酸(Mw.30万)30gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0085】
(製造例13)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:3)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例3のポリスチレンスルホン酸(Mw.40万)15gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0086】
(製造例14)導電性高分子(PEDOT:PSS=1:3)の合成
製造例1のポリスチレンスルホン酸15gを、製造例4のポリスチレンスルホン酸(Mw.10万)15gに変えたこと以外は、製造例5と同様にしてPEDOT-PSS濃度1.3質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0087】
[実施例1]
製造例5で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:3、PSSのMw.20万)100gを撹拌機付きガラス容器に投入し、撹拌しながらメタノール200gを混合し、調製液を得た。次いでトリオクチルアミン1.3gを投入した。ここで、トリオクチルアミンが調製液中に浮遊し、溶解しておらず、不均一液相が形成されたことを確認した。なお、20℃のメタノール100gに対するトリオクチルアミンの溶解量は1g未満であり、前記調製液を構成する水系分散媒100gに対するトリオクチルアミンの溶解量も1g未満である。
次に、50℃で6時間撹拌後、30℃まで冷却して、その後静置することで、トリオクチルアミンが付加した導電性複合体(修飾型導電性複合体)が沈殿した。続いて上澄み200gをデカンテーションで除去した後、200gのイオン交換水を投入し、1時間攪拌した。
次に、濾紙(アドバンテック社製、No.5A、保留粒子径:7μm)を用いて濾過し、黒色粉体を得た。得られた粉体をイソプロピルアルコール中に濃度0.4質量%となるように混合し、高圧ホモジナイザーにて分散し、修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液(修飾型導電性複合体分散液)を得た。
得られた溶液を#4のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)に塗布し、100℃で1分間乾燥して導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。また、得られた溶液を25℃にて7日間保存したときの状態を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例6で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:5、PSSのMw.20万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
【0089】
[実施例3]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例8で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:2、PSSのMw.30万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
【0090】
[実施例4]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例9で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:3、PSSのMw.30万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
【0091】
[実施例5]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例10で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:4、PSSのMw.30万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
【0092】
[実施例6]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例11で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:5、PSSのMw.30万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
【0093】
[実施例7]
製造例5で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:3、PSSのMw.20万)100gを撹拌機付きガラス容器に投入し、撹拌しながらメタノール200gを混合し、調製液を得た。次いでトリブチルアミン0.7gを投入した。ここで、トリブチルアミンが調製液中に浮遊し、溶解しておらず、不均一液相が形成されたことを確認した。なお、20℃のメタノール100gに対するトリブチルアミンの溶解量は1g未満であり、前記調製液を構成する水系分散媒100gに対するトリブチルアミンの溶解量も1g未満である。
次に、50℃で6時間撹拌後、30℃まで冷却して、その後静置することで、トリブチルアミンが付加した導電性複合体(修飾型導電性複合体)が沈殿した。続いて上澄み200gをデカンテーションで除去した後、200gのイオン交換水を投入し、1時間攪拌した。続けて行う濾過は、実施例1と同様にして行い、修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液(修飾型導電性複合体分散液)を得た。
得られた溶液を用い、実施例1と同様にして、導電性フィルムを作製するとともに、上記溶液について25℃、7日間にて保存したときの状態を評価した。
【0094】
[比較例1]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例12で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:6、PSSのMw.30万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして検討を行った。しかし、導電性複合体の沈殿物を回収する際、濾紙が詰まり、濾過が行えなかったため、回収を断念し、以降の検討を中止した。
【0095】
[比較例2]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例13で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:3、PSSのMw.40万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして検討を行った。しかし、導電性複合体の沈殿物が形成されず、濾過の際に導電性複合体が全て濾紙を通過してしまったため、回収を断念し、以降の検討を中止した。
【0096】
[比較例3]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例14で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:3、PSSのMw.10万)100gに変えたこと以外は実施例1と同様にして修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
得られた溶液を用い、実施例1と同様にして、導電性フィルムを作製するとともに、上記溶液について25℃、7日間にて保存したときの状態を評価した。
【0097】
[比較例4]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを撹拌機付きガラス容器に投入し、撹拌しながらイソプロパノールを200g混合し、調製液を得た。次いでトリオクチルアミンを1.3g投入した。ここでトリオクチルアミンが調製液中にすべて溶解し、不均一液相が形成されず、均一な溶液となっていることを確認した。
次に、50℃で6時間撹拌後、30℃まで冷却して、その後静置することで、トリオクチルアミンが付加した導電性複合体(修飾型導電性複合体)が沈殿した。続いて上澄み200gをデカンテーションで除去した後、200gのイオン交換水を投入し、1時間攪拌した。続けて行う濾過は、実施例1と同様にして行い、修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
得られた溶液を用い、実施例1と同様にして、導電性フィルムを作製するとともに、上記溶液について25℃、7日間にて保存したときの状態を評価した。
【0098】
[比較例5]
製造例5で得た導電性高分子分散液100gを、製造例9で得た導電性高分子分散液(PEDOT:PSS=1:3、PSSのMw.30万)100gに変えたこと以外は比較例4と同様にして試験を行った。しかし、トリオクチルアミンが付加した修飾型導電性複合体の沈殿物を回収する際、濾紙が詰まり、濾過が行えなかったため、回収を断念し、以降の検討を中止した。
【0099】
[比較例6]
トリオクチルアミン1.3gを、トリブチルアミン0.7gに変えたこと以外は比較例4と同様にして試験を行った。トリブチルアミンが付加した修飾型導電性複合体を濾過により得て、修飾型導電性複合体のイソプロピルアルコール溶液を得た。
得られた溶液を用い、実施例1と同様にして、導電性フィルムを作製するとともに、上記溶液について25℃、7日間にて保存したときの状態を評価した。
【0100】
[表面抵抗値]
各例の導電性フィルムの表面抵抗値は、抵抗率計(日東精工アナリテック社製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとして測定した。その測定結果を表1に記載する。なお、表中の「Ω/□」はオームパースクエアの意味であり、「1.0E+04」は「1.0×10」を表し、他も同様である。
【0101】
【表1】
【0102】
<結果>
本発明に係る実施例1~7の不均一液相におけるアミンと導電性複合体との反応は、有機相(アミン相)と水相の界面で穏やかに進行するので、反応生成物である修飾型導電性複合体が濾過によって回収しやすい形態で析出し、有機溶剤に分散させた後の分散液中での保存安定性も優れていた。不均一液相を構成する水分散液中にメタノールが含まれていることにより、上記反応がより容易に進行した。
一方、比較例1ではPEDOT:PSSの質量比が1:6であったため、ゲル状の沈殿となり、濾過による回収が困難であった。
比較例2では、PEDOT:PSSの質量比が1:3であったが、PSSの分子量が40万であったため、導電性複合体の親水性が非常に高く、アミンと反応しても沈殿を形成しなかった。
比較例3では、PEDOT:PSSの質量比が1:3であったが、PSSの分子量が10万と小さかったため、導電性が不良であった。
比較例4,6では、アミンが付加した修飾型導電性複合体を有機溶剤に分散させた後の分散液中での保存安定性が悪く、比較例5では修飾型導電性複合体がゲル状の沈殿となり回収できなかった。この原因として、均一な液相中で導電性複合体とアミンとが反応したため、急速に反応が進行し、アミンが付加した修飾型導電性複合体の形態が悪くなったためであると考えられる。