(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】医療用材料
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
A61B17/00 500
(21)【出願番号】P 2020190933
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】奥村 早紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優季
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-6099(JP,A)
【文献】特開2020-141711(JP,A)
【文献】特表2009-532125(JP,A)
【文献】特表2007-535997(JP,A)
【文献】米国特許第3874388(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性を備えた線材を用いた編み目状組織の筒体により形成された医療用材料であって、
前記筒体の略中央部の筒径が他の部分の筒径よりも小さい形状を備え、
前記略中央部を中心にして前記筒体の長手方向の一端である第1の端部側の第1の筒部と他端である第2の端部側の第2の筒部とが形成され、
前記第1の端部と前記第2の端部とが前記略中央部を中心にして離隔して前記他の部分の筒径が縮小されてカテーテルに前記医療用材料が収納された場合に前記第2の端部側が前記カテーテルの先端側となり、
前記医療用材料は、
前記第1の端部において前記編み目状組織に接合された手元接合部と、
前記第2の端部において前記編み目状組織に接合された先端接合部とを含み、
前記手元接合部および前記先端接合部は中空円筒形状を備えるとともに、前記手元接合部と前記先端接合部とが、一体化された状態を維持するロックと、前記一体化された状態を維持しないアンロックと、を選択的に実現でき、
前記手元接合部の内径は、前記カテーテルに内挿されるデリバリーケーブルの外径よりも大きく、
前記先端接合部は、前記デリバリーケーブル先端と接合された接合状態と、接合されていない非接合状態と、を選択的に実現でき、
前記先端接合部と前記デリバリーケーブル先端とが接合されたデリバリーケーブルが、前記第2の端部側から前記略中央部を介して前記手元接合部の中空筒に挿通されて、前記第1の端部側から前記医療用材料の外部へ通すことが可能なように形成され、
前記先端接合部の外径は、前記手元接合部の内径よりも小さく、
前記手元接合部における前記先端接合部側に、弾性変形可能な可撓性を備えた部材が設けられ、前記先端接合部が前記手元接合部に挿入されると前記部材の形状が変化して前記アンロック状態から前記ロック状態へ遷移されることを特徴とする、医療用材料。
【請求項2】
前記先端接合部の外表面に凹部を備え、形状が変化した前記部材が前記凹部に係止されて前記手元接合部と前記先端接合部とが一体化されたロック状態を維持することを特徴とする、請求項1に記載の医療用材料。
【請求項3】
前記部材は、弾性を備えた、薄膜または発泡体であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の医療用材料。
【請求項4】
前記部材には、前記デリバリーケーブルを通すための、小孔または切込みを備えることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれかに記載の医療用材料。
【請求項5】
前記先端接合部は、雌ネジが設けられて前記中空円筒形状を備え、
前記デリバリーケーブル先端に前記雌ネジに螺合する雄ネジが設けられ、
前記雄ネジが、前記雌ネジに螺合することにより前記接合状態を実現し、前記雌ネジとの螺合が解放されることにより前記非接合状態を実現し、
前記手元接合部と前記先端接合部とが一体化されたロック状態で、前記雄ネジと前記雌ネジとの螺合を解放することが可能に形成されていることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれかに記載の医療用材料。
【請求項6】
前記先端接合部により前記デリバリーケーブル先端が前記第2の端部に接合された前記医療用材料の全体が前記カテーテルに収納されている状態で、
前記デリバリーケーブルが操作されて、前記
医療用材料が前記カテーテルの開口部の方向へ進むように前記カテーテルの先端から前記第2の筒部に続いて前記第1の筒部が前記カテーテルの外部へ出されることにより、前記第1の端部と前記第2の端部とが前記略中央部を中心にして接近して、
前記デリバリーケーブルが操作されて、前記手元接合部と前記先端接合部とを一体化させるとともにその状態を維持するようにロックされて前記医療用材料により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで前記他の部分の筒径が拡張された状態が維持されて、
前記デリバリーケーブルが操作されて、前記先端接合部と前記デリバリーケーブル先端とが非接合とされて、前記デリバリーケーブルを内挿したカテーテルが前記デリバリーケーブルとともに前記欠損孔のある部位から離脱される、
ことが可能なように形成されたことを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれかに記載の医療用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織に形成された欠損孔を治療するための医療用材料に関し、特に、カテーテルにセットされて血管内を通じて治療部位まで送り込まれて生体内に留置される医療用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の心臓は中隔という組織で左右の部屋が仕切られており、左右それぞれに心房と心室とがあり、右心房、右心室、左心房、左心室の2心房2心室で構成されている。このような構成の心臓において、胎児期の発達障害により、先天的に欠損孔と呼ばれる穴が、右心房と左心房とを隔てる心房中隔に開いている心房中隔欠損症(ASD:Atrial Septal Defect)という疾患がある。
【0003】
この心房中隔欠損症の治療としては、以下に示す2つの方法がある。ひとつは胸を切って行う外科手術、もうひとつが胸を切らずに、閉鎖栓を使ったカテーテル治療である。
外科手術(パッチ手術)は、人工心肺を使用し、開胸して、欠損孔をパッチにて閉じる。カテーテル治療は、カテーテルに閉鎖栓をセットし、カテーテルを血管内に挿入し、目的の位置(欠損孔)まで送り込んで、その後、閉鎖栓を放出し体内に留置する。このカテーテル治療では胸を切開しないで足の付け根の静脈(大腿静脈)から、細長く折り畳んだ閉鎖栓とよばれる小さな治具(デバイス)を心房中隔に開いた穴の位置まで送り込み、穴を塞ぐものである。このカテーテル治療の長所は、全身麻酔が必要な開胸手術をすることなく、足の付け根(そけい部)という目立たない場所から、ごく小さな皮膚の切開(数ミリ)で治療ができる点である。
【0004】
特表2008-512139号公報(特許文献1)は、心房中隔欠損症のカテーテル治療に用いられるアセンブリ(閉鎖栓)を開示する。このアセンブリは、心臓の通路(欠損孔)を密閉する。このアセンブリは、通路の第一端の近位に配置するために使用される第一アンカー、通路の第二端の近位に配置するために使用される第二アンカー、および通路を通って伸び、第一および第二アンカーに結合するために使用される可撓性延長材を含む心臓の通路を密閉する閉鎖装置からなり、第二アンカーは可撓性延長材に対して移動可能で第一および第二アンカーの間の可撓性延長材の長さを変更し、閉鎖装置を心臓の通路に供給する供給システムからなり、供給装置はガイドカテーテルの内腔の中を移動するように設定され、第二アンカーの可撓性延長材に沿った運動を制御するワイヤーを含む。
【0005】
そして、この特許文献1において、卵円孔開存(PFO:Patent Foramen Ovale)閉鎖装置(閉鎖栓)は、左心房アンカー、右心房アンカー、テザーおよびロックを含み、左心房アンカー、テザーを介して左心房アンカーに結合する右心房アンカーおよびロックは心臓内に残留してPFOを密閉することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パッチ手術の場合には、人工心肺を使用し、また、侵襲性が高いため入院期間が長くなるという問題がある。カテーテル治療の場合には、人工心肺は使用せず、また、侵襲性も低いため入院期間も短く好ましい。
特許文献1に開示されるように、左心房アンカーおよび右心房アンカーは心臓内に残留する。そして、左心房アンカーおよび右心房アンカーは一つまたはそれ以上のアームを含み、アームはハブから放射状に外側に向かって伸びており、このアームは好適には二成分ニッケルチタン合金の圧延シートから形成されている。そして、これらの左心房アンカーおよび右心房アンカーを生体内で拡張させて欠損孔を塞ぐことになるが、アンカーの拡張を開始させると、容易には元に戻すことはできない。特許文献1に開示されているような、複雑な構造で、かつ、生体外からの操作が難しい、専用の取出し装置を用いてアンカー
を折りたたむことになる。
【0008】
しかしながら、たとえば、アンカーが心房内の生体組織に引っ掛かり傷付ける等の事態になった場合には、このような専用の取出し装置でアンカーを折りたたむだけの時間的余裕がない場合もある。このような場合には、開胸手術に即座に切り換えざるを得ない。これでは、結局、侵襲性が高い開胸手術を受けることになるという問題点がある。
さらに、金属製の欠損孔閉鎖栓が体内に一生涯残存するため、遠隔期の不具合が懸念されるという問題点がある。
【0009】
本発明は、従来技術の上記の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、生体内の治療部位にて放出・留置できる低侵襲のカテーテル治療を、複雑な構造を備えず容易かつ確実な操作で可能となり、体内に残存しても遠隔期の不具合の可能性がほとんどない、医療用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る医療用材料は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明に係る医療用材料は、生体吸収性を備えた線材を用いた編み目状組織の筒体により形成された医療用材料であって、前記筒体の略中央部の筒径が他の部分の筒径よりも小さい形状を備え、前記略中央部を中心にして前記筒体の長手方向の一端である第1の端部側の第1の筒部と他端である第2の端部側の第2の筒部とが形成され、前記第1の端部と前記第2の端部とが前記略中央部を中心にして離隔して前記他の部分の筒径が縮小されてカテーテルに前記医療用材料が収納された場合に前記第2の端部側が前記カテーテルの先端側となり、前記医療用材料は、前記第1の端部において前記編み目状組織に接合された手元接合部と、前記第2の端部において前記編み目状組織に接合された先端接合部とを含み、前記手元接合部および前記先端接合部は中空円筒形状を備えるとともに、前記手元接合部と前記先端接合部とが、一体化された状態を維持するロックと、前記一体化された状態を維持しないアンロックと、を選択的に実現でき、前記手元接合部の内径は、前記カテーテルに内挿されるデリバリーケーブルの外径よりも大きく、前記先端接合部は、前記デリバリーケーブル先端と接合された接合状態と、接合されていない非接合状態と、を選択的に実現でき、前記先端接合部と前記デリバリーケーブル先端とが接合されたデリバリーケーブルが、前記第2の端部側から前記略中央部を介して前記手元接合部の中空筒に挿通されて、前記第1の端部側から前記医療用材料の外部へ通すことが可能なように形成され、前記先端接合部の外径は、前記手元接合部の内径よりも小さく、前記手元接合部における前記先端接合部側に、弾性変形可能な可撓性を備えた部材が設けられ、前記先端接合部が前記手元接合部に挿入されると前記部材の形状が変化して前記アンロック状態から前記ロック状態へ遷移されることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記先端接合部の外表面に凹部を備え、形状が変化した前記部材が前記凹部に係止されて前記手元接合部と前記先端接合部とが一体化されたロック状態を維持するように構成することができる。
さらに好ましくは、前記部材は、弾性を備えた、薄膜または発泡体であるように構成することができる。
【0012】
さらに好ましくは、前記部材には、前記デリバリーケーブルを通すための、小孔または切込みを備えるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記先端接合部は、雌ネジが設けられて前記中空円筒形状を備え、前記デリバリーケーブル先端に前記雌ネジに螺合する雄ネジが設けられ、前記雄ネジが、前記雌ネジに螺合することにより前記接合状態を実現し、前記雌ネジとの螺合が解放されることにより前記非接合状態を実現し、前記手元接合部と前記先端接合部とが一体化されたロック状態で、前記雄ネジと前記雌ネジとの螺合を解放することが可能に形成されているように構成することができる。
【0013】
さらに好ましくは、前記先端接合部により前記デリバリーケーブル先端が前記第2の端部に接合された前記医療用材料の全体が前記カテーテルに収納されている状態で、前記デリバリーケーブルが操作されて、前記欠損孔閉鎖材が前記カテーテルの開口部の方向へ進むように前記カテーテルの先端から前記第2の筒部に続いて前記第1の筒部が前記カテー
テルの外部へ出されることにより、前記第1の端部と前記第2の端部とが前記略中央部を中心にして接近して、前記デリバリーケーブルが操作されて、前記手元接合部と前記先端接合部とを一体化させるとともにその状態を維持するようにロックされて前記医療用材料により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで前記他の部分の筒径が拡張された状態が維持されて、前記デリバリーケーブルが操作されて、前記先端接合部と前記デリバリーケーブル先端とが非接合とされて、前記デリバリーケーブルを内挿したカテーテルが前記デリバリーケーブルとともに前記欠損孔のある部位から離脱される、ことが可能なように形成されたように構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医療用材料によれば、生体内の治療部位にて放出・留置できる低侵襲のカテーテル治療を、複雑な構造を備えず容易かつ確実な操作で可能となる。さらに、本発明の医療用材料によれば、体内に残存しても遠隔期の不具合の可能性がほとんどない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る医療用材料の一例である欠損孔閉鎖材100の全体図(第1の端部と第2の端部との距離が接近状態)である。
【
図2】欠損孔閉鎖材100の全体図(第1の端部と第2の端部との距離が中間状態)である。
【
図3】欠損孔閉鎖材100の全体図(欠損孔閉鎖材の全体がカテーテル300内に収納されて第1の端部と第2の端部との距離が離隔状態)である。
【
図4】欠損孔閉鎖材100の全体図(第2の筒部がカテーテル300外に出されて第1の筒部がカテーテル300内に収納された状態)である。
【
図5】(A)は
図2の状態における欠損孔閉鎖材100の部分的な側面図であって、(B)はそのA-A断面図である。
【
図6】欠損孔閉鎖材100を心房中隔欠損症のカテーテル治療に用いる場合の概念図である。
【
図7】カテーテル治療の手順を示す
図6のB部の拡大図(その1)である。
【
図8】カテーテル治療の手順を示す
図6のB部の拡大図(その2)である。
【
図9】カテーテル治療の手順を示す
図6のB部の拡大図(その3)である。
【
図10】欠損孔閉鎖材100の先端側端部(第2の端部122)に設けられる先端接合部422および手元側端部(第1の端部112)に設けられる手元接合部412ならびに先端接合部422に螺合により接合されるデリバリーケーブル500を含む拡大図(一部は斜視図)である。
【
図11】
図10の欠損孔閉鎖材100の先端側端部(第2の端部122)に設けられる先端接合部422および手元側端部(第1の端部112)に設けられる手元接合部412ならびに先端接合部422に螺合により接合されるデリバリーケーブル500を含む斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る医療用材料を、図面に基づき詳しく説明する。なお、以下においては、本発明に係る医療用材料の一例として、カテーテル治療に用いられる欠損孔閉鎖材について説明するが、その他の開口または通路、たとえば心室中隔欠損、動脈管開存等の心臓のその他の開口、および動静脈瘻等の生体のその他の部位(たとえば胃)の開口または通路の閉鎖にも適している。従って、本発明の実施の形態に係る欠損孔閉鎖材は、心房中隔欠損症の穴を閉鎖するための使用に限定されるものではない。
【0017】
さらに、以下の実施の形態においては、本発明に係る医療用材料の一例である欠損孔閉鎖材(閉鎖栓)100(以下において医療用材料100と記載する場合がある)の編み目状組織は生体吸収性(生分解性および生体分解性と同義である)繊維(線材の一例)を編成したものとして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。生体に形成された欠損孔を閉鎖するカテーテル治療ができる欠損孔閉鎖材であればよく、その編み目状組織も素材も、後述する第1の特徴~第3の特徴を備え第1の作用~第4の作用を発現するものであれば限定されるものではなく、たとえば素材は生体吸収性繊維以外の線材で編成
されていても構わない。このような線材としては、欠損孔閉鎖材の形状保持性を備えるために、ある程度の硬度を備える線材であることが好ましい。
【0018】
[基本的構成]
図1に本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100の全体図(第1の端部112と第2の端部122との距離が接近状態)を、
図2にこの欠損孔閉鎖材100の別の全体図(第1の端部112と第2の端部122との距離が中間状態)を、
図3にこの欠損孔閉鎖材100のさらに別の全体図(欠損孔閉鎖材100の全体がカテーテル300内に収納されて第1の端部112と第2の端部122との距離が離隔状態)を、
図4にこの欠損孔閉鎖材100のさらに別の全体図(第2の筒部120がカテーテル300の外に出されて第1の筒部110がカテーテル300内に収納された状態)を、それぞれ示す。なお、この欠損孔閉鎖材100のカテーテル300への収納関係としては、
図3はこの欠損孔閉鎖材100の全体がカテーテル300に収納されている状態を、
図4はこの欠損孔閉鎖材100の半分(第1の筒部110側)がカテーテル300に収納されている状態を、それぞれ示す図である。
【0019】
時間遷移的には、
図3に示すカテーテル300の内部(内壁310により形成される空間)にその全体が収納されている欠損孔閉鎖材100を、第2の筒部120をカテーテル300の開口部320から矢示Y方向に出すと
図4の状態になって、さらに第1の筒部110を矢示Y方向に出すと
図1の状態になる。ここで、
図2に示す欠損孔閉鎖材100の状態は、第1の端部112と第2の端部122との距離が中間状態であって仮想的な状態である。また、
図10は、欠損孔閉鎖材100の先端側端部(第2の端部122)に設けられる先端接合部422および手元側端部(第1の端部112)に設けられる手元接合部412ならびに先端接合部422に螺合により接合されるデリバリーケーブル500を含む拡大図であって、
図11はそれらの斜視図である。なお、「手元」と「根元」とは同義である。
【0020】
これらの図に示すように、この欠損孔閉鎖材100は、大略的には、線材を用いた編み目状組織の筒体により形成され、この筒体の略中央部130の筒径が他の部分の筒径よりも小さい形状を備え、略中央部130を中心にして欠損孔閉鎖材100における筒体長手方向の第1の端部112側の第1の筒部110と他の端部(第2の端部122)側の第2の筒部120とが形成されている。
【0021】
そして特徴的であるのは、第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして離隔して他の部分の筒径が縮小されてカテーテル300に欠損孔閉鎖材100が収納された場合に(
図3に示す状態)第2の端部122側がカテーテル300の先端側となる。この場合において、この欠損孔閉鎖材100は、第1の端部112において編み目状組織に接合された手元接合部412と、第2の端部122において編み目状組織に接合された先端接合部422とを含む。なお、限定されるものではないが、第1の筒部110を形成する生体吸収性繊維150が手元接合部412に設けられた穴部412Hに通されて、このように穴部412Hに通された生体吸収性繊維150が穴部412Hに通されていない生体吸収性繊維150と結ばれること等により第1の端部112において編み目状組織に手元接合部412が接合され、第2の筒部120を形成する生体吸収性繊維150が先端接合部422に設けられた穴部422Hに通されて、このように穴部422Hに通された生体吸収性繊維150が穴部422Hに通されていない生体吸収性繊維150と結ばれること等により第2の端部122において編み目状組織に先端接合部422が接合されている。
【0022】
ここで、先端接合部422は、デリバリーケーブル500先端と接合された接合状態と、接合されていない非接合状態と、を選択的に実現できるように構成されている。先端接合部422とデリバリーケーブル500先端とが接合されたデリバリーケーブル500が、第2の端部122側から略中央部130を介して手元接合部412の中空筒に挿通されて、第1の端部112側から欠損孔閉鎖材100の外部へ通すことが可能なように(たとえば、第1の端部112にデリバリーケーブル500のケーブル本体510が通る穴が)形成されている。
【0023】
手元接合部412および先端接合部422は中空円筒形状を備えるとともに、手元接合部412と先端接合部422とが、一体化された状態を維持するロックと、一体化された状態を維持しないアンロックと、を選択的に実現できるように構成されている。先端接合部422の外径D1(≒D3)は、手元接合部412の内径dよりも小さい。そして、手元接合部412における先端接合部422側に、弾性変形可能な可撓性を備えた部材(より詳しくは薄膜412S)が設けられ、先端接合部422が手元接合部412に挿入されると部材(ここでは薄膜412S)の形状が
図10(A)から
図10(C)へ示すように変化してアンロック状態からロック状態へ遷移される。
【0024】
さらに詳しくは、先端接合部422の外表面に外径D(2)(D(2)<D(1)≒D(3))である凹部(溝部)422Mを備え、形状が変化した部材(手元接合部412における先端接合部422側に設けられた弾性変形可能な可撓性を備えた部材であってここでは薄膜412S)が凹部(溝部)422Mに係止されて手元接合部412と先端接合部422とが一体化されたロック状態を維持することも好ましい。
【0025】
さらに詳しくは、手元接合部412における先端接合部422側に設けられた弾性変形可能な可撓性を備えた部材は、弾性を備えた、薄膜または発泡体(ここでは薄膜412S)であることも好ましい。ここで、このような薄膜412Sは、シートまたはフィルムであれば構わず、デリバリーケーブル500のケーブル本体510および先端接合部422が通過したとき、大きな孔が空いたり裂けたり破損することがないものが好ましく、たとえば、PLACL 50/50から形成されるシートには伸縮性(弾性)を備えるために破損しない点で好ましい。
【0026】
さらに詳しくは、手元接合部412における先端接合部422側に設けられた弾性変形可能な可撓性を備えた部材には、デリバリーケーブルを通すための、小孔(ピンホール)または切込み(小さな十字)を備えることも好ましい。ここでは、デリバリーケーブル500のケーブル本体510の外径D(4)に対応した直径を備えた小孔412SHが設けられている。なお、上述したように、この部材は弾性変形可能な可撓性を備え、デリバリーケーブル500のケーブル本体510および先端接合部422が通過したとき、大きな孔が開いたり裂けたり破損することがないものが好ましいために、これらの小孔または切込みが拡大して部材(ここでは薄膜412S)が破損してしまうことは回避される。
【0027】
ここで、図示した先端接合部422および手元接合部412の長手方向(デリバリーケーブル500のケーブル本体510の長手方向と同じ)の長さは、単なる一例に過ぎず、後述する第1の特徴~第3の特徴を備え第1の作用~第4の作用を発現し、かつ、アンロック状態から容易にロック状態へ遷移することができるものであれば限定されるものではなく、それらの長さは適宜に設定される。ここで、先端接合部422の先端側の端部に穴422Hが設けられて第2の端部122において編み目状組織に先端接合部422が接合されて、手元接合部412の手元側の端部に穴412Hが設けられて第1の端部112において編み目状組織に手元接合部412が接合されている。このため、長手方向の長さについての式「先端接合部422の長さ+手元接合部412の長さ-ロック状態において手元接合部412に先端接合部422が挿入される長さ>
図1に示す厚みt」を満足する必要がある。そうでないと、たとえば、先端接合部422も手元接合部412も長手方向の長さが短いと(
図10に示す手元接合部412が先端接合部422程度の長さしか備えず両方とも短いと)ロック状態において医療用材料100の現実の編み目状組織の厚みを無視して手元接合部412に先端接合部422が挿入されなければならないが、そのようなことは不可能であって、この医療用材料100で欠損孔を閉鎖することができなくなる。すなわち、手元接合部412および先端接合部422の少なくともいずれかが長く、上記の長手方向の長さについての式を満足する必要がある。本実施の形態においては、長手方向の長さについては、手元接合部412を先端接合部422よりも長く設定しており、先端接合部422の(穴部422Hを備える)先端接合先端部422A以外の全てが手元接合部412に挿入されてロック状態になったとしても厚みtに対応する長手方向の長さを手元接合部412が備えている。
【0028】
さらに、
図1に示す状態において、個体により異なる心房中隔の厚みに応じて略中央部
130の長さ(第1の端部112と第2の端部122との距離でもある)を変更して、さらに、先端接合部422および手元接合部412の長手方向の長さを、心房中隔の厚みが薄い場合には先端接合部422と手元接合部412とがより近づいてロックできるように設定して、心房中隔の厚みが厚い場合には先端接合部422と手元接合部412とがより遠ざかってロックできるように、設定することも考えられる。
【0029】
さらに詳しくは、先端接合部422は、雌ネジ424が設けられた中空筒形状物(たとえば金属製)であっても構わない。先端接合部422における中空円筒形状とは、雌ネジ424が中空状に設けられていることを意味する。この場合において、デリバリーケーブル500先端にこの雌ネジ424に螺合する雄ネジ514が設けられている。なお、デリバリーケーブル500先端とはケーブル本体510先端と同義である。この雄ネジ514が、この雌ネジ424に螺合することにより上述した接合状態を実現し、この雌ネジ424との螺合が解放されることにより上述した非接合状態を実現している。そして、手元接合部412と先端接合部422とが一体化された上述したロック状態で、雄ネジ514と雌ネジ424との螺合を解放することが可能に形成されている。
【0030】
さらに、後述の[使用態様]において詳しく説明するが、この欠損孔閉鎖材100は、先端接合部422によりデリバリーケーブル500先端が第2の端部122に接合された欠損孔閉鎖材100の全体がカテーテル300に収納されている状態で、デリバリーケーブル500が操作されて、欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部の方向へ進むようにカテーテル300の先端から第2の筒部120に続いて第1の筒部110がカテーテル300の外部へ出されることにより、第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして接近する。さらに、デリバリーケーブル500が操作されて、手元接合部412と先端接合部422とを上述したように一体化させるとともにその状態を維持するようにロックされて欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分の筒径が拡張された状態が維持される。さらに、デリバリーケーブル500が操作されて、先端接合部422とデリバリーケーブル500先端とが接合状態から非接合状態へ移行されて、デリバリーケーブル500を内挿したカテーテル300がデリバリーケーブル500とともに欠損孔のある部位から離脱されることが可能に形成されている。
【0031】
さらに、
図5(A)に、この欠損孔閉鎖材100の部分的な側面図を、
図5(B)に
図2および
図5(A)のA-A断面図を、それぞれ示す。なお、
図5(B)は、欠損孔閉鎖材100(より詳しくは第2の筒部120)の断面図であるが、デリバリーケーブル500のケーブル本体510の断面を図示して、矢示A方向から視認できる生体吸収性繊維150の編み目を図示していない。ここで、
図5(B)には、矢示A方向から視認できるデリバリーケーブル500のケーブル本体510に加えて、先端接合部422が表されている。なお、先端接合部422は、略円柱形状であって、デリバリーケーブル500の雄ネジ514側にこの雄ネジ514に螺合する雌ネジ424が中空状に設けられた外径D(3)である先端接合本体部422Bと、外径D(3)と略同じ外径D(1)であって穴部422Hを備える先端接合先端部422Aと、先端接合本体部422Bと先端接合先端部422Aとの間に設けられた外径D(2)(D(2)<D(1)≒D(3)である)である凹部(溝部)422Mとを備える。しかしながら、形状が変化した部材(手元接合部412における先端接合部422側に設けられた弾性変形可能な可撓性を備えた部材であってここでは薄膜412S)が係止されて手元接合部412と先端接合部422とが一体化されたロック状態を維持することができるものであれば、凹部(溝部)に限定されるものではなく、凸部であっても構わない。ただし、凸部を含めた外径は、手元接合部412の内径dを超えることはない。さらに、手元接合部412は、内径d(なお、この内径dはd>D(3)≒D(1)>D(2)である)の略中空円柱形状であって、デリバリーケーブル500のケーブル本体510に接合された先端接合部422が挿入可能に形成されている。また、
図1~
図5において、欠損孔閉鎖材100の内部に位置する手元接合部412および先端接合部422の存在、デリバリーケーブル500のケーブル本体510の存在ならびに生体吸収性繊維150の編み目についての理解を容易にするために紙面奥側に配置された生体吸収性繊維150については図示していないとともに、欠損孔閉鎖材100の外観形状についての理解を容易にするためにこの欠損孔閉鎖材100の外観形状を点線で示している部分があり、さらに、生体吸収性繊維150よりも紙面奥側に存在する手元接合部412、先端接合部422およびデリバリーケーブル500のケーブル本体510について実線で示し生体吸収性繊維150との重なりを点線で示していない部分がある。
【0032】
これらの図(特に
図2)に示すように、この欠損孔閉鎖材100は、生体吸収性材料を用いた編み目状組織の2つの筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)により形成されており、その形状はこのような2つの筒体から構成される、たとえば砂時計型、8の字型、2連の紡錘型(細長い棒状の真ん中が太く両端が細い紡錘形状物が2つ連続した形状)またはピーナッツ型(2粒の実を内包するピーナッツの殻の外観形状)と呼ばれるような形状を備える。このような形状を備える欠損孔閉鎖材100は、筒体の略中央部130の筒径が他の部分の筒径よりも小さくなるように略中央部130が絞られた形状を備える。すなわち、略中央部130を中心にして第1の端部112側の第1の筒部110と第2の端部122側の第2の筒部120とが形成されている。
【0033】
なお、限定されるものではないが、この欠損孔閉鎖材100は、略中央部130の筒径を他の部分の筒径よりも小さい形状になるように、第1の筒部110および第2の筒部120が一体的に編まれて、この欠損孔閉鎖材100の全体形状としては2つの筒体から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成される。
この場合において、このような砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型の型枠(3次元型紙)を用いて、その型枠に合わせて1本の生体吸収性繊維150を編成することによりこの欠損孔閉鎖材100の全体形状が形成される。さらに、限定されるものではないが、この欠損孔閉鎖材100は、第1の筒部110および第2の筒部120が一体的に編まれて略同一径の筒体を編成した後に熱セットすること等により、略中央部130の筒径が他の部分の筒径よりも小さく、かつ、略中央部130の筒径がデリバリーケーブル500のケーブル本体510の直径よりも大きい略中央部130を形成して、この欠損孔閉鎖材100の全体形状としては2つの筒体から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成されるようにしても構わない。
【0034】
そして、詳しくは後述するが、このような形状を編み物で実現することにより、
図3に示すカテーテル300の内部(内壁310により形成される空間)にその全体が収納されている欠損孔閉鎖材100を、第2の端部122側の先端接合部422にその先端部が接合されたデリバリーケーブル500が(欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部320の方向へ進むように)操作されてカテーテル300の先端の開口部320から第2の筒部120がカテーテル300の外部へ引っ張り出すように矢示Y方向に出されることにより、第2の筒部120がカテーテル300の内壁310により形成される空間から解放されて第2の筒部120が
図4に示す状態になって、さらに、デリバリーケーブル500が(欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部320の方向へ(さらに)進むように)操作されてカテーテル300の先端の開口部320から第1の筒部110がカテーテル300の外部へ引っ張り出すように矢示Y方向に出されることにより、第2の筒部120に続いて第1の筒部110もカテーテル300の内壁310により形成される空間から解放されて第1の筒部110(および第2の筒部120)が
図1に示す状態になるという形状の変化(時間遷移的な形状の変化)を実現させることができる。
【0035】
図1に示すように、この欠損孔閉鎖材100がカテーテル300に収納されておらず空間に孤立して存在している場合には、第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして接近して、略中央部130以外の他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が拡張されている。拡張した筒径については、この欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで、(略中央部130以外の他の部分である)第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が拡張されていることが特に好ましい。
【0036】
そして、
図3に示すように、この欠損孔閉鎖材100をカテーテル300に収納すること等により空間に孤立して存在しているのではなく径方向の自由が制限されている場合に
は、第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして離隔して、他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が縮小されている。縮小した筒径については、この欠損孔閉鎖材100が収納されるカテーテル300に対応した大きさまで(略中央部130以外の他の部分である)第1の筒部110および第2の筒部120の筒径が縮小されていることが特に好ましい。
【0037】
なお、デリバリーケーブル500のケーブル本体510の径は、略中央部130の筒径よりも小さい。
このように、この欠損孔閉鎖材100を、たとえば、カテーテル300に収納して径方向の自由を制限したり、カテーテル300から引き出すようにしてカテーテル300の外部に出して径方向の自由を制限しないようにしたりして、欠損孔閉鎖材100における筒体の長手方向の第1の端部112と他の端部である第2の端部122とを離隔させたり(カテーテル300に収納したり)接近させたり(カテーテル300から引き出したり)することができる。この欠損孔閉鎖材100を、たとえばカテーテル300から引き出すようにしてカテーテル300の外部に出して径方向の自由を制限しないと
図1に示すように、第1の端部112と第2の端部122とが接近して、略中央部130の他の部分の筒径(第1の筒部110および第2の筒部120における胴部分の筒径)が拡張され、カテーテル300に収納して径方向の自由を制限すると
図3に示すように、第1の端部112と第2の端部122とが離隔して、略中央部130の他の部分の筒径(第1の筒部110および第2の筒部120における胴部分の筒径)が縮小される。
【0038】
さらに、
図4に示すように、カテーテル300から第2の筒部120を矢示Y方向に引き出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた(径方向の自由が制限されていた)第2の筒部120が自由に形状を変化でき、第2の筒部120における胴部分の筒径だけが拡張される。そして、さらに、カテーテル300から第1の筒部110を矢示Y方向に引き出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた(径方向の自由が制限されていた)第1の筒部110も自由に形状を変化でき、第1の筒部110における胴部分の筒径も拡張される。
【0039】
そして、この欠損孔閉鎖材100においては、第1の筒部110および第2の筒部120は、生体吸収性繊維150の織物(目の粗いもの)、編み物、組み紐状織物、または、筒編み状編み物で構成されており、全体が編み目状組織とされている。ここで確認的に記載するが、この編み目状組織は編成により形成される編み物に限定されるものではなく、上述したように網戸のような目の粗い織り組織により網目状組織が形成されるものを含む。すなわち、編み目状と呼ばれる組織であっても網目状と呼ばれる組織であっても構わない。
【0040】
このように、基本的には、たとえば金属製(たとえばステンレス製またはマグネシウム製)の金属片からなる手元接合部412および先端接合部422(これらを区別する必要がない場合には単に接続部と記載する場合がある)を除いて、第1の筒部110および第2の筒部120は全て生体吸収性材料で構成されているために、接合部を除く欠損孔閉鎖材100の全体が生体吸収性を備える(デリバリーケーブル500は本発明に係る医療用材料を構成するものではなく生体内に残存するものではないので材質は特に問わない)。さらに、欠損孔閉鎖材100の形状が変化することにより欠損孔を閉鎖する治療が行われるわけであるが、欠損孔閉鎖材100のこのように生体内で形状が変化しても生体内組織を損傷することがないような、素材、編み目形状、繊維組織および繊維断面で欠損孔閉鎖材100が、接合部を含めて、形成されている。
【0041】
なお、通常、接合部はたとえばステンレス等が用いられ生体吸収性を備えないが、後述するマグネシウムをベースとする合金を用いて生体吸収性を備えるようにしても構わない。また、マグネシウムをベースとする合金に替えて、生分解性材料(PLACL、PLLA等)であっても構わない。さらに、接合部に、X線(エックスせん、波長が1pm~10nm程度の電磁波)不透過性を備える合金を使用するとレントゲン撮像に反応する点で有利であって、生体吸収性を備える合金または生分解性材料(PLACL、PLLA等)を使用すると金属製部材が体内に一生涯残存しないことになるため遠隔期の不具合が懸念されるという問題点を生じない点で有利である。
【0042】
第1の筒部110および第2の筒部120を構成している生体吸収性繊維150は、たとえば、ポリグリコール酸、ポリラクチド(D、L、DL体)、ポリカプロラクトン、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコール酸-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体、ポリ(p-ジオキサノン)、グリコール酸-ラクチド(D、L、DL体)-ε-カプロラクトン共重合体等から選択される少なくとも1種とされ、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、撚糸、組み紐などのいずれかに加工した形態で使用されるが、モノフィラメント糸の形態で使用されるのが好ましい。
【0043】
さらに、この生体吸収性繊維150の素材は、生体吸収性合金であっても構わない。このような生体吸収性合金の一例として、原材料としてマグネシウムをベースとする合金が挙げられる。
生体吸収性繊維150の直径は、0.001mm~1.5mm程度とされ、適用するカテーテル治療に適切な繊維径および種類が選定される。また、生体吸収性繊維150の断面は、生体内組織を損傷しないことを条件として、円、楕円、その他の異形(たとえば星形)などのいずれであってもよい。さらに、生体吸収性繊維150の表面は、プラズマ放電、電子線処理、コロナ放電、紫外線照射、オゾン処理等により親水化処理してもよい。また、生体吸収性繊維150は、X線不透過材(たとえば、硫酸バリウム、金チップ、白金チップ等)の塗布または含浸処理や、薬剤(たとえば、心房中隔欠損症のカテーテル治療に適した薬剤)の付着処理、コラーゲン、ゼラチン等の天然高分子あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の合成高分子でコーティング処理してもよい。
【0044】
第1の筒部110および第2の筒部120は、生体吸収性繊維150が、たとえば、モノフィラメント糸として所望される外径のシリコーン製ゴム管(図示省略)の回りに複数(たとえば、8口または12口)の給糸口をもつ組紐機を用いて組み紐状織物に製作され、または、丸編機(図示省略)で、略同一径の筒体の編み目状組織に編成される。編成後、上記したように、第1の筒部110および第2の筒部120との2つの筒体から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成される。第1の筒部110および第2の筒部120の筒径は、縮径した場合にカテーテル300の内径よりも小さく、拡径した場合に心房中隔欠損症のカテーテル治療に好適な大きさを備える。たとえば、拡径した場合の第1の筒部110および第2の筒部120の筒径は、5mm~80mm、好ましくは15mm~25mm程度である。また、第1の筒部110および第2の筒部120の長さ、ならびに、欠損孔閉鎖材100の編み目状組織の密度についても、心房中隔欠損症のカテーテル治療に好適な密度を備える。なお、第1の筒部110および第2の筒部120の筒径および長さは、同じである必要はなく、心房中隔欠損症のカテーテル治療に好適なように変更すれば良い。
【0045】
以上のように、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100は、以下の特徴を備える。
(第1の特徴)略中央部130において絞られた第1の筒部110および第2の筒部120から構成される砂時計型、8の字型、2連の紡錘型またはピーナッツ型に形成されている。
(第2の特徴)第1の端部112側から略中央部130を介して第2の端部122側まで通された操作ワイヤー500を接合する先端接合部422を第2の端部122側(カテーテル300の先端側)に備え、このデリバリーケーブル500を第1の端部112側から欠損孔閉鎖材100の外部へ通すことが可能なように形成されている。
【0046】
そして、第1の特徴および第2の特徴により、カテーテル300に収納されたこの欠損孔閉鎖材100に対して、カテーテル300から第2の筒部120をカテーテル300の外部へ出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第2の筒部120が自由に形状を変化できて第2の筒部120における胴部分の筒径だけが拡張され、さらに、カテーテル300から第1の筒部110をカテーテル300の外部へ出すとカテーテル300の内壁310により形状が規制されていた第1の筒部110も自由に形状を変化できて第1の筒部110における胴部分の筒径も拡張される。そして、この欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで胴部分の筒径が拡張される。
【0047】
(第3の特徴)手元接合部412および先端接合部422は中空円筒形状を備えるとともに、手元接合部412と先端接合部422とが、一体化された状態を維持するロックと、一体化された状態を維持しないアンロックと、を選択的に実現できるように構成されている。先端接合部422の外径D1(≒D3)は、手元接合部412の内径dよりも小さい。そして、手元接合部412における先端接合部422側に、弾性変形可能な可撓性を備えた部材(より詳しくは薄膜412S)が設けられ、先端接合部422が手元接合部412に挿入されると部材(ここでは薄膜412S)の形状が
図10(A)から
図10(C)へ示すように変化してアンロック状態からロック状態へ遷移される。先端接合部422は、デリバリーケーブル500先端と接合された接合状態と、接合されていない非接合状態と、を選択的に実現できるように構成されている。先端接合部422とデリバリーケーブル500先端とが接合されたデリバリーケーブル500が、第2の端部122側から略中央部130を介して手元接合部412の中空筒に挿通されて、第1の端部112側から欠損孔閉鎖材100の外部へ通すことが可能なように(たとえば、第1の端部112にデリバリーケーブル500のケーブル本体510が通る穴が)形成されている。そして、たとえば、先端接合部422に雌ネジ424が設けられ、かつ、デリバリーケーブル500先端にこの雌ネジ424に螺合する雄ネジ514が設けられ、これらを螺合することにより上述した接合状態を実現し、これらの螺合が解放されることにより上述した非接合状態を実現し、そして、手元接合部412と先端接合部422とが一体化された上述したロック状態で、雄ネジ514と雌ネジ424との螺合を解放して非接合状態を実現できることが可能に形成されている。
特に、この欠損孔閉鎖材100は、以下の作用を発現する点で、心房中隔欠損症のカテーテル治療に適している。
【0048】
(第1の作用)第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして離隔させて(第1の端部112と第2の端部122とが離隔するように互いに逆方向へ引っ張って)、他の部分である第1の筒部110および第2の筒部120の筒径を縮小させることにより、欠損孔閉鎖材100の筒径をカテーテル300の内径よりも細くして、カテーテル300にセットすることができる。
(第2の作用)第2の端部122側に先端接合部422が設けられ、この先端接合部422にデリバリーケーブル500の先端部が接合されているので、第2の筒部120も第1の筒部110も押し出されるようにカテーテル300の外部へ出されるのではなく、引っ張られるようにカテーテル300の外部へ出されるために、押し出す場合には欠損孔閉鎖材100が捻れてしまい第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして適切に接近できずに欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分の筒径が適切に拡張しなくなることを抑制して、引っ張ることによりこのように欠損孔閉鎖材100が捻れることが抑制されて第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして適切に接近して欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分の筒径が適切に拡張させることができる。これにより、右心房側に配置された第1の筒部110と左心房側に配置された第2の筒部120とが略中央部130を中心にして接近して、心房中隔に開いた穴を塞ぐことができる。
【0049】
(第3の作用)この欠損孔閉鎖材100を構成する素材(接合部を除く場合がある)は全て生体吸収性材料であるので、最終的に生体内に吸収されるので遠隔期の不具合の可能性がほとんどなくなる。
(第4の作用)上述した第2の作用が発現した後において、すなわち、第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして接近した後において、さらにデリバリーケーブル500が操作されて、手元接合部412と先端接合部422とを上述したように一体化させるとともにその状態を維持するようにロックされて欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分の筒径が拡張された状態が維持される。そして、手元接合部412と先端接合部422とが一体化された上述したロック状態で、デリバリーケーブル500が操作されて、先端接合部422とデリバリーケーブル5
00先端とが非接合とされて、デリバリーケーブル500を内挿したカテーテル300がデリバリーケーブル500とともに欠損孔のある部位から離脱させることができる。このため、右心房側に配置された第1の筒部110と左心房側に配置された第2の筒部120とが略中央部130を中心にして接近した状態(欠損孔閉鎖材100の形状)を確実に維持して、心房中隔に開いた穴を確実に塞ぐことができる。しかも、アンロック状態において、生体外においてデリバリーケーブル500を引くことにより(より詳しくは、デリバリーケーブル500を引くという極めて簡単な操作のみにより)、先端接合部422が手元接合部412に挿入されて弾性変形可能な可撓性を備えた部材(ここでは薄膜412S)の形状が
図10(A)から
図10(C)へ示すように変化してアンロック状態からロック状態へ遷移される。このような生体外でデリバリーケーブル500を引くという極めて簡単な操作のみにより、アンロック状態からロック状態へ遷移させることができるので、操作性が極めて優れる。
【0050】
以下において、主として
図10および
図11を参照して、さらに、本発明の好ましい形態について詳しく説明する。ここで、
図10(A)はアンロック状態を示し、
図10(C)がデリバリーケーブル500のケーブル本体510を操作して(生体外でケーブル本体510を引くように操作して)移行させたロック状態を示し、
図10(B)は薄膜412Sを設ける一例を容易に理解するために、先端側から見た斜視図である。なお、アンロック状態を示す
図10(A)においては、
図10(C)に示すロック状態への移行を容易に理解するために、デリバリーケーブル500先端の雄ネジ514と先端接合部422の雌ネジ424とは螺合させていない。また、
図11(B)がアンロック状態を示し、
図11(C)がデリバリーケーブル500のケーブル本体510を操作して(生体外でケーブル本体510を引くように操作して)移行させたロック状態を示す。なお、
図11(A)は、
図11(B)に示すアンロック状態から
図11(C)に示すロック状態への移行を容易に理解するための図であって、デリバリーケーブル500先端の雄ネジ514と先端接合部422の雌ネジ424とは螺合させていない。また、
図11(D)は薄膜412Sの状態を容易に理解するために、手元側からの斜視図である
図11(A)において先端側から先端接合部422および手元接合部412を見た斜視図である。
【0051】
・先端接合部422
これらの
図10および
図11に示すように、先端接合部422は、略円柱形状であって、デリバリーケーブル500の雄ネジ514側にこの雄ネジ514に螺合する雌ネジ424が中空状に設けられた外径D(3)である先端接合本体部422Bを主体的に備える。そして、外径D(3)と略同じ外径D(1)であって穴部422Hを備える先端接合先端部422Aと、先端接合本体部422Bと先端接合先端部422Aとの間に設けられた外径D(2)(D(2)<D(1)≒D(3)である)である凹部(溝部)422Mとを備える。先端接合先端部422Aには、穴部422Hが設けられている。
【0052】
ここで、これらの先端接合本体部422Bと、先端接合先端部422Aと、凹部(溝部)422Mとは一体的に形成されており、たとえば、略中実円筒形状(いわゆる棒材)の生体吸収性を備えたマグネシウム合金を用いて、凹部(溝部)422Mを切削して、穴部422Hを開けて、下穴を開けた後に雌ネジを切って雌ネジ424を形成する金属加工により実現される。凹部(溝部)422Mには、形状が変化した部材(手元接合部412における先端接合部422側に設けられた弾性変形可能な可撓性を備えた部材であってここでは薄膜412S)が係止されて手元接合部412と先端接合部422とが一体化されたロック状態を維持することができる。
【0053】
・手元接合部412
これらの
図10および
図11に示すように、手元接合部412は、内径d(内径dはd>D(3)≒D(1)>D(2))の略中空円柱形状を備えた手元接合本体部412N(後述する外筒側の短筒体412Gに対する内筒側)を主体的に備え、デリバリーケーブル500のケーブル本体510に接合された先端接合部422が挿入可能に形成されている。手元接合本体部412Nには穴部412Hが設けられている。
【0054】
そして、手元接合部412における先端接合部422側には、弾性変形可能な可撓性を
備えた部材であって小孔412SHが設けられた薄膜412Sが設けられる。限定されるものではないが、この薄膜412Sは、たとえば、径が異なる略中空円筒部材の間に予め挟み込むことにより手元接合部412における先端接合部422側に設けられる。より詳しくは、手元接合本体部412Nを内筒側として、この手元接合本体部412Nの外径に対応する(薄膜412Sを挟持するためにわずかに大きな)内径を備えた薄い肉厚(肉厚が厚いと短筒体412Gの外径が大きくなり過ぎて、カテーテル300内に収まらなくなったり、略中央部130の筒径よりも大きくなって
図1の状態を実現できなくなったりする)の外筒側の短筒体412Gを準備して、
図10(B)に示すように(薄膜412Sの外形は円形でなくても構わない)、薄膜412Sを外筒側の短筒体412Gと手元接合本体部412Nとの間で挟持するように、手元接合本体部412Nに薄膜412Sを被せた状態で短筒体412Gを被せることにより、薄膜412Sが手元接合部412における先端接合部422側に設けられる。ここで、
図1に示すように、手元接合部412および先端接合部422において最大外径となる短筒体412Gの外径は、略中央部130の筒径よりも小さい。
【0055】
なお、このような弾性変形可能な可撓性を備えた部材の他の一例として発泡体が挙げられるが、先端接合部422が手元接合部412に挿入されると部材(ここでは発泡体)の形状が変化してアンロック状態からロック状態へ遷移することができることを条件として、立体的な発泡体は、手元接合部412における先端接合部422側に詰め込むようにして設けることができる。
この欠損孔閉鎖材100を心房中隔欠損症のカテーテル治療に使用した場合について、
図6~
図9を参照して説明する。
【0056】
[使用態様]
図6にこの欠損孔閉鎖材100を心房中隔欠損症のカテーテル治療に用いる場合の概念図を、
図7~
図9にこのカテーテル治療の手順を示す
図6のB部の拡大図を、それぞれ示す。なお、以下においては、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100の使用態様に特有の事項についてのみ説明し、一般的な事項については、公知の心房中隔欠損症のカテーテル治療と同じ説明であるのでここでの詳細な説明は繰り返さない。
【0057】
図6に示すように、人間の心臓200は、上大静脈および下大静脈に接続され全身から静脈血を受け入れる右心房210、肺動脈および三尖弁260を介して右心房210に接続され肺へ静脈血を送り出す右心室220、肺静脈に接続され肺からの動脈血を受け入れる左心房230、大動脈および僧帽弁270を介して左心房230に接続され全身へ動脈血を送り出す左心室240の2心房2心室で構成されている。心房中隔欠損症は、右心房210と左心房230とを隔てる心房中隔250に欠損孔252が開いているという疾患である。なお、
図6においては、理解しやすくするために、カテーテル300の先端側(B部における破断線より先端側)を仮想線で示すことによりカテーテル300に収納された欠損孔閉鎖材100を実線にて示している。
【0058】
まず、生体外において、欠損孔252に対して適切な大きさまで拡張する欠損孔閉鎖材100の第1の端部112と第2の端部122とが離隔する方向へ引っ張って欠損孔閉鎖材100の筒径がカテーテル300の内径よりも細くして、カテーテル300にセットする。大腿静脈より欠損孔閉鎖材100が収納されたカテーテル300を挿入して(
図3参照)、(欠損孔閉鎖材100が収納された)カテーテル300を(収納された欠損孔閉鎖材100とともに)矢示X(1)方向)へ移動させて、右心房210側より欠損孔252を通して左心房230側に欠損孔閉鎖材100が収納されたカテーテル300を近づける。
【0059】
図6および
図7に示すように、欠損孔閉鎖材100の略中央部130が欠損孔252付近に対応するような位置で、欠損孔閉鎖材100を収納したカテーテル300を停止させる。デリバリーケーブル500が(欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部320の方向へ進むように)操作されて、生体内においては、先端側の先端接合部422にデリバリーケーブル500の先端部が接合されているのでカテーテル300から第2の筒部120が押し出されるようにカテーテル300の外部へ出されるのではなく、第2の筒部120が引っ張られるようにしてカテーテル300からカテーテル300の外部方向である矢示Y方向へ出される。そうすると、カテーテル300の内壁310により(径方向の)形状が規制されていた第2の筒部120が自由に形状を変化できて第2の筒部120における胴部分の筒径だけが、
図8に示すように拡張される。
【0060】
そして、さらに、デリバリーケーブル500が(欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部320の方向へ(さらに)進むように)操作されて、生体内においては、先端側の先端接合部422にデリバリーケーブル500の先端部が接合されているのでカテーテル300から第1の筒部110が押し出されるようにカテーテル300の外部へ出されるのではなく、第2の筒部120に続いて第1の筒部110が引っ張られるようにしてカテーテル300からカテーテル300の外部方向である矢示Y方向へ出される。そうすると、カテーテル300の内壁310により(径方向の)形状が規制されていた第1の筒部110も自由に形状を変化できて第1の筒部110における胴部分の筒径だけが、
図9に示すように拡張される。
【0061】
すなわち、この欠損孔閉鎖材100の略中央部130が欠損孔252付近に対応するような位置で、デリバリーケーブル500を(欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部320の方向へ進むように)操作すると、左心房側に配置された第2の筒部120が先に拡張して、次いで右心房側に配置された第1の筒部110が後で拡張する。その結果、右心房210側に配置された第1の筒部110と左心房230側に配置された第2の筒部120とが略中央部130(欠損孔252)を中心にして接近するとともに、第1の筒部110および第2の筒部120が拡張する。最終的には、
図9に示すように、第1の筒部110および第2の筒部120により心房中隔250をその両側から挟み込み、欠損孔閉鎖材100により、心房中隔250に開いた欠損孔252を塞ぐことができる。なお、後述するように、この
図9に示す状態は、
図9の拡大図にも示すように先端接合部422が手元接合部412の内部へ挿入されていないアンロック状態であるとする。
【0062】
図9に示す状態は、
図11(B)に示す状態(まだアンロック状態)であるとして説明する。すなわち、上述したように、デリバリーケーブル500が(欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部320の方向へ進むように)操作されて(生体外でケーブル本体510が押されて)、第2の筒部120に引き続いて第1の筒部110も展開して、それらの展開により先端接合部422が手元接合部412へ十分に接近しているが、
図9の拡大図に示すように、先端接合部422が手元接合部412の内部に挿入されていない状態(アンロック状態)であるとする。
【0063】
このアンロック状態から
図11(C)に示す状態(ロック状態)へ、デリバリーケーブル500のケーブル本体510を操作して(生体外でケーブル本体510を引くように操作して)移行させる。
図11(B)に示すアンロック状態において、デリバリーケーブル500のケーブル本体510を矢示S方向へ移動させる操作により、ケーブル本体510に螺合された先端接合部422を手元接合部412の内部に挿入させる。この場合において、
手元接合部412の内径d、
先端接合部422の先端接合先端部422Aの外径D(1)、
先端接合部422の凹部(溝部)422Mの外径D(2)、
先端接合部422の先端接合本体部422Bの外径D(3)として、
内径d>外径D(3)≒外径D(1)>外径D(2)が成立する。ここで、上述したように、手元接合部412における短筒体412Gの外径(手元接合部412および先端接合部422における最大外径)は、略中央部130の筒径よりも小さい。
【0064】
この状態で、
図11(B)に示すアンロック状態において、デリバリーケーブル500のケーブル本体510を矢示S方向へ移動させる操作により、先端接合部422が手元接合部412側へ移動して、先端接合部422が手元接合部412の内部へ挿入されて、薄膜412Sが先端接合部422により押されて弾性変形して薄膜412Sの形状が
図10(A)から
図10(C)へ示すように変化してアンロック状態からロック状態へ遷移される。このとき、先端接合部422の外表面に外径D(2)である凹部(溝部)422Mを
備えるために、形状が変化した部材(手元接合部412における先端接合部422側に設けられた弾性変形可能な可撓性を備えた部材であってここでは薄膜412S)が凹部(溝部)422Mに係止されて手元接合部412と先端接合部422とが一体化されたロック状態を好適に維持することができる。
【0065】
このように、先端接合部422に段差として凹部(溝部)422Mが存在して、その段差に弾性変形可能な可撓性を備えた部材(ここでは薄膜412S)が変形して係止されてロック状態を維持する。このように係止されている状態であって段差に変形した薄膜412Sが引っ掛かって止まっており、かつ、この薄膜412Sは先端接合部422が通過しても大きな孔が空いたり裂けたり破損することなく薄膜412Sは単に弾性変形しているに留まっているために、デリバリーケーブル500のケーブル本体510を押し戻すことによりロック状態からアンロック状態へ戻すことも可能に構成することも、第1の筒部110または第1の筒部110に加えて第2の筒部120の拡張をやり直すことが可能になる点で好ましい。
【0066】
その後、体内において、雄ネジ514が雌ネジ424に螺合する方向とは逆方向に雄ネジ514が回転(自転)するようにケーブル本体510を回転(自転)させて、この螺合による欠損孔閉鎖材100とデリバリーケーブル500との接合を解放する。このとき、欠損孔252を塞ぐように設けられた欠損孔閉鎖材100は回転(自転)することはなく、手元接合部412と先端接合部422とが一体化されたロック状態であるために、
図9に示すように、第1の筒部110および第2の筒部120により心房中隔250をその両側から挟み込み、欠損孔閉鎖材100により、心房中隔250に開いた欠損孔252が塞がれた状態を安定にかつ確実に維持できる。
【0067】
その後、矢示X(2)方向へ(デリバリーケーブル500を収納した)カテーテル300を移動させて、カテーテル300(およびデリバリーケーブル500)を生体外に取り出して治療が完了する。これにより、生体内には(正確には欠損孔252付近)には、全て生体吸収性材料から構成された欠損孔閉鎖材100(接合部を除く場合がある)が留置される。このように生体内に留置された欠損孔閉鎖材100の素材は全て生体吸収性材料であるので(接合部を除く場合がある)、最終的に生体内に吸収されるので遠隔期の不具合の可能性がほとんどない。
【0068】
そして、このような使用態様において、操作ワイヤー500でカテーテル300から第1の筒部110を第2の筒部120に続けて矢示Y方向へ押し出す場合には欠損孔閉鎖材100が捻れてしまい第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして適切に接近できずに欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分の筒径が適切に拡張しない場合があるが、引っ張る場合にはこのような欠損孔閉鎖材100が捻れることが抑制されて第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして適切に接近して欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分の筒径が適切に拡張することができる。
【0069】
さらに、手元接合部412と先端接合部422とが一体化されていないアンロック状態から一体化されたロック状態への移行を実現することができるために、そのロック状態へ移行した後においては第1の筒部110および第2の筒部120により心房中隔250をその両側から挟み込み、欠損孔閉鎖材100により、心房中隔250に開いた欠損孔252が塞がれた状態を安定にかつ確実に維持できる。
【0070】
以上のようにして、本実施の形態に係る欠損孔閉鎖材100によると、その全てが生体吸収性材料から構成されており(接合部を除く場合がある)最終的に体内に吸収されるため、遠隔期の不具合の可能性がほとんどない。また、カテーテル300から欠損孔閉鎖材100を押し出す場合には欠損孔閉鎖材100が捻れてしまい第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして適切に接近できずに欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分の筒径(第1の筒部110および第2の筒部120)が適切に拡張しない場合があるが、第2の端部122側に先端接合部422が設けられ、この先端接合部422にデリバリーケーブル500の先端部が接合されて引っ張るようにしてカテーテル300から欠損孔閉鎖材100を出す場合にはこのような欠損孔閉鎖材100が捻れることが抑制されて第1の端部112と第2の端部122とが略中央部130を中心にして適切に接近して欠損孔閉鎖材100により閉鎖される欠損孔に対応した大きさまで他の部分(第1の筒部110および第2の筒部120)の筒径を適切に拡張させることができる。さらに、手元接合部412と先端接合部422とが一体化されていないアンロック状態から一体化されたロック状態への移行を、生体外でデリバリーケーブル500を引くという極めて簡単な操作のみにより実現することができる。そして、そのロック状態へ移行した後においては第1の筒部110および第2の筒部120により心房中隔250をその両側から挟み込み、欠損孔閉鎖材100により、心房中隔250に開いた欠損孔252が塞がれた状態を安定にかつ確実に維持できる。その結果、欠損孔の位置にて、欠損孔閉鎖材100がカテーテル300の開口部320の方向へ進むようにデリバリーケーブル500を操作するだけで、欠損孔閉鎖材100の筒径を2つの筒体(第1の筒部110および第2の筒部120)が接近するように容易に変化させることができ、かつ、その形態を容易に固定することができて、欠損孔閉鎖材100により、心房中隔250に開いた欠損孔252が塞がれた状態を安定にかつ確実に維持できる。
【0071】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、生体組織に形成された欠損孔を治療するためにカテーテルにセットされる医療用材料に好適であり、治療部位にて放出・留置できて低侵襲の治療が可能で、医療用材料が体内に残存しても遠隔期の不具合の可能性がほとんどない点、および、操作性が好ましい点で、特に好ましい。
【符号の説明】
【0073】
100 医療用材料(閉鎖栓)
110 第1の筒部
112 第1の端部
120 第2の筒部
122 第2の端部
130 略中央部
150 生体吸収性繊維
200 心臓
250 心房中隔
252 欠損孔
300 カテーテル
412 手元接合部
422 先端接合部
500 デリバリーケーブル(操作ワイヤー)