(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】浄水処理方法及び浄水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20230101AFI20240531BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20240531BHJP
B01D 21/00 20060101ALI20240531BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C02F1/52 Z
B01D21/30 A
B01D21/00 C
B01D21/01 102
(21)【出願番号】P 2021022129
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】古幡 真祐子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 倫子
(72)【発明者】
【氏名】森 康輔
(72)【発明者】
【氏名】安永 利幸
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-240760(JP,A)
【文献】特開2020-050540(JP,A)
【文献】水質試験年報 第25集 平成27年度,福岡地区水道企業団,2015年,URL,https://www.f-suiki.or.jp/wp-content/uploads/2016/12/e0939377b178a1240ad7910e0766ab2c.pdf [retrieved on 2024.2.29]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/52-56
B01D21/01
G01N21/00-61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、
前記原水中にフロックを形成させて凝集処理を行う凝集手段と、
前記凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過手段と、
前記原水、前記処理水又は前記ろ過水のピコプランクトン数を測定可能な測定手段と、
前記ピコプランクトン数の測定結果に応じて、前記ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤として塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを添加するように、該ポリ塩化アルミニウムの添加量を制御する制御手段と、
を備え
、
前記凝集剤添加手段が、前記凝集剤を添加するための複数の供給経路を備え、前記供給経路のうちの一つが、前記塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを供給するための経路であり、
前記塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを供給するための経路が、前記ろ過手段、前記凝集処理後の処理水を前記ろ過手段へ流入させるための流入配管、又は、前記原水中に形成されたフロックを沈降分離する沈殿槽の少なくともいずれかに接続されており、
前記制御手段が、前記ピコプランクトン数の測定結果が所定値以上であるときに、前記塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを、前記ろ過手段、前記凝集処理後の処理水を前記ろ過手段へ流入させるための流入配管、又は、前記原水中に形成されたフロックを沈降分離する沈殿槽の少なくともいずれかに供給するように、前記複数の供給経路による前記凝集剤の供給を制御することを特徴とする浄水処理装置。
【請求項2】
前記複数の供給経路が、塩基度が60%未満の通常塩基度のポリ塩化アルミニウムを前記凝集手段に添加するための経路を含み、
前記制御手段が、前記ピコプランクトン数の測定結果に応じて、前記通常塩基度のポリ塩化アルミニウムを添加するための経路を介した凝集剤の添加と、前記塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを添加するための経路を介した凝集剤の添加との切替を制御することを含む請求項1に記載の浄水処理装置。
【請求項3】
前記ろ過手段の運転条件、前記ろ過水の水質情報、及び前記測定手段による前記ピコプランクトン数の測定結果との関係とを過去の実績に基づいて分析した分析情報に基づいて、前記ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように、前記凝集剤の添加量を決定する凝集剤添加支援手段
を更に備える請求項
1又は2に記載の浄水処理装置。
【請求項4】
前記ろ過手段の運転条件、前記ろ過水の水質情報、及び前記測定手段による前記ろ過水の前記ピコプランクトン数の測定結果を用いた機械学習を行うことにより将来の前記ピコプランクトン数を予測し、予測結果に基づいて、前記ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように、前記凝集剤の添加量を決定する凝集剤添加支援手段
を更に備える請求項
1又は2に記載の浄水処理装置。
【請求項5】
ピコプランクトンを含む原水に
、複数の供給経路を備える凝集剤添加手段を介して凝集剤を添加し、
前記凝集剤添加後の処理水からろ過水を得るために前記処理水をろ過処理し、
前記原水、前記処理水又は前記ろ過水のピコプランクトン数を測定し、
前記ピコプランクトン数の測定結果に応じて、前記凝集剤の添加量を制御すること
を含み、
前記複数の供給経路のうちの一つが、塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを供給するための経路であり、前記塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを供給するための経路が、前記ろ過処理を行うためのろ過手段、前記凝集剤添加後の処理水を前記ろ過手段へ流入させるための流入配管、又は、前記原水中に形成されたフロックを沈降分離する沈殿槽の少なくともいずれかに接続されており、
前記ピコプランクトン数の測定結果が所定値以上であるときに、前記ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤として、塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを
、前記処理水の前記ろ過処理を行うためのろ過手段、前記凝集剤添加後の前記処理水を前記ろ過手段へ流入させるための流入配管、又は、前記原水中に形成されたフロックを沈降分離する沈殿槽の少なくともいずれかに添加することを特徴とする浄水処理方法。
【請求項6】
前記複数の供給経路が、塩基度が60%未満の通常塩基度のポリ塩化アルミニウムを前記原水に添加する凝集手段へ添加するための経路を含み、
前記ピコプランクトン数の測定結果に応じて、前記通常塩基度のポリ塩化アルミニウムを添加するための経路を介した凝集剤の添加と、前記塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを添加するための経路を介した凝集剤の添加とを切り替えることを含む請求項5に記載の浄水処理方法。
【請求項7】
前記ろ過処理の運転条件と、前記ろ過水の水質情報と、前記ピコプランクトン数の測定結果との関係とを過去の実績に基づいて分析した分析情報に基づいて、ピコプランクトン数の将来の測定結果を予測し、予測結果に基づいて、前記ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように前記凝集剤の添加量を決定すること
を更に含む請求項
5又は6に記載の浄水処理方法。
【請求項8】
前記ろ過処理の運転条件、前記ろ過水の水質情報、及び前記ろ過水の前記ピコプランクトン数の測定結果を用いた機械学習を行うことにより将来の前記ピコプランクトン数を予測し、予測結果に基づいて、前記ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように、前記凝集剤の添加量を決定すること
を更に含む請求項
5~
7のいずれか1項に記載の浄水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川水や地下水等の原水中に含まれるピコプランクトンを除去する浄水処理方法及び浄水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水や地下水等の原水の水処理では、凝集沈殿処理や砂ろ過処理などの固液分離技術によって不溶解性成分である濁度成分や藻類等を除去する処理が行われている。原水を凝集ろ過するプロセスでは、種々の要因によって凝集阻害を起こす場合があるが、その一因として、ピコプランクトンの存在が近年問題になっている。ピコプランクトンは、0.2~2μmの大きさを持つプランクトンであり、ろ過水の濁度を上昇させる要因となることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
ピコプランクトンは、栄養摂取の仕組みから2つのグループに分類される。1つは、有機物を分解して、栄養源とする細菌が主体の従属栄養ピコプランクトンであり、もう1つは光合成を行う植物ピコプランクトンである。ピコプランクトンは、クロロフィルなどの色素を持ち、蛍光顕微鏡にて観察が可能であり、浄水処理の原水または処理水中に存在していることが確認されている。
【0004】
近年、厚生労働省は、水道水を介して発生したクリプトスポリジウムによる感染症への対応としてろ過水濁度0.1度以下での管理を指導してきている(非特許文献2参照)。そのため、各地の水道事業者は、ろ過水濁度を常時0.1度以下に管理することが、最も重要な水質管理項目の一つであると位置づけている。
【0005】
しかしながら、最近の全国各地の水道水源では、富栄養化に起因するピコプランクトンの大発生が頻発してきている。ピコプランクトンは、大きさが0.2~2μmと微小であるため、ろ過池より漏出して、ろ過水濁度を0.1度以上に上昇させる原因となる。水道事業体ではその処理対策に苦慮しているところである。
【0006】
処理対策として、ピコプランクトンは、生物由来の濁質であるため、塩素注入が有効な手段とされていた。しかしながら、塩素注入は、副生成物として発生するトリハロメタンが発がん性物質として健康問題となっていることから、塩素注入に替わるより安全な除去方法が求められている。
【0007】
例えば、特開2014-240760号公報(特許文献1)には、水中に含まれる藻類の種類別の個数を計算する生物粒子計数方法及び生物粒子計数器が記載されている。しかしながら、特許文献1には、一般的な濁度の除去方法しか記載されておらず、ピコプランクトンやその除去に関する記載はない。
【0008】
特開2011-110504号公報(特許文献2)には、浄水処理自動連続式監視装置から得られた沈殿水濁度及びろ過水濁度の情報に基づき、浄水処理不良原因が微小プランクトンによるろ過障害か否かを判断し、微小プランクトンによるろ過障害と判断された時、凝集処理工程において凝集剤の自動注入を行う浄水プロセスの連続制御システムが開示されている。しかしながら、特許文献2には、微小プランクトンによるろ過障害の対処手段として凝集剤を自動注入する技術しか開示されていない。
【0009】
特開2004-195304号公報(特許文献3)には、ろ過池出口における被処理水(ろ過水)の濁度を測定し、検出された濁度に応じてろ過池入口に凝集剤を添加する凝集剤注入制御装置が開示されている。しかしながら、濁度の検出結果によるろ過池への凝集剤注入する技術であり、ピコプランクトンやその除去手段に関しては記載されていない。
【0010】
特開2016-059867号公報(特許文献4)には、紫外線照射により、ピコプランクトン増殖を防止する浄水場における処理方法及びその設備の技術が開示されている。しかしながら、この発明では、紫外線照射をするための工程及び装置が必要となるため工数及びコストが増えるという問題がある。
【0011】
特開2006-007086号公報(特許文献5)には、凝集沈殿水処理方法及び装置に関する発明であり、凝集改良剤(凝集助剤)の特性と処理方法について記載されている。しかしながら、特許文献5には、ピコプランクトンやその除去手段についての記載はない。
【0012】
特開2012-228673号公報(特許文献6)には、凝集改良剤(凝集助剤)による良好な微フロック形成について記載されている。しかしながら、ピコプランクトンやその除去手段については記載されていない。
【0013】
特許第3225266号公報(特許文献7)には、藻類を含む湖沼、河川水より工業用水等の清澄な水を得る方法について記載されており、ポリ塩化アルミニウムとポリジメチルジアリルアンモニウムクロライドとの混合物が一般の濁質成分と共に藻類の除去に顕著な効果を有することが記載されている。しかしながら、特許文献7には、ろ過池より漏出してろ過水濁度を上昇させる原因となるピコプランクトンに関する記載はなく、特許文献7の方法では、ピコプランクトンのような微細な粒子径を持つ藻類の除去効果は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2014-240760号公報
【文献】特開2011-110504号公報
【文献】特開2004-195304号公報
【文献】特開2016-059867号公報
【文献】特開2006-007086号公報
【文献】特開2012-228673号公報
【文献】特許第3225266号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】日本水道協会、生物障害を起こさないための浄水処理の手引き 平成18年3月、第57頁
【文献】厚生労働省告示、薬生水発0529第1号、「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」、別紙2、第3頁、令和元年5月29日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、従来の処理技術のいずれも、原水中に含まれるピコプランクトンの発生による濁度上昇対策についてはまだ十分な検討がなされていないのが現状である。
【0017】
上記課題に鑑み、本発明は、ろ過水の濁度を上昇させる要因の一つとなるピコプランクトンを安全かつ効率良く除去することができ、安定して濁度の低いろ過水を得ることが可能な浄水処理方法及び浄水処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、原水又はろ過水のピコプランクトン数に応じてピコプランクトン数を低減させるための所定の凝集剤を添加することが有効であるとの知見を得た。
【0019】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は、一側面において、ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加し、凝集剤添加後の処理水からろ過水を得るために処理水をろ過処理し、原水、処理水又はろ過水のピコプランクトン数を測定し、ピコプランクトン数の測定結果に応じて、凝集剤の添加量を制御することを含み、ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤として、塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを添加する浄水処理方法である。
【0020】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は一実施態様において、凝集剤として、2種類以上の凝集剤を添加することを含み、少なくとも1種類の凝集剤がポリ塩化アルミニウムを含み、ピコプランクトン数に応じて、添加する凝集剤の種類及び供給を制御することを更に含む。
【0021】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は別の一実施態様において、ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤を、ろ過処理に流入する処理水に対して添加することを含む。
【0022】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法は更に別の一実施態様において、ろ過処理の運転条件と、ろ過水の水質情報と、ピコプランクトン数の測定結果との関係とを過去の実績に基づいて分析した分析情報に基づいて、ピコプランクトン数の将来の測定結果を予測し、予測結果に基づいて、ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように凝集剤の添加量を決定することを更に含む。
【0023】
本発明の実施の形態は別の一側面において、ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段と、原水中にフロックを形成させて凝集処理を行う凝集手段と、凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過手段と、原水、処理水又はろ過水のピコプランクトン数を測定可能な測定手段と、ピコプランクトン数の測定結果に応じて、ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤として塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを添加し、その添加量を制御する制御手段とを備えた浄水処理装置である。
【0024】
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置は一実施態様において、凝集剤添加手段が、2種類以上の凝集剤を添加するための複数の供給経路を備え、供給経路のうちの一つがポリ塩化アルミニウムを供給するための経路であり、制御手段が、ピコプランクトン数の測定結果に応じて、複数の供給経路による凝集剤の供給の切り替えを制御することを含む。
【0025】
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置は別の一実施態様において、ポリ塩化アルミニウムを供給するための経路が、ろ過手段、固液分離後の処理水をろ過手段へ流入させるための流入配管、又は、原水中に形成されたフロックを沈降分離する沈殿槽の少なくともいずれかに接続されていることを含む。
【0026】
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置は更に別の一実施態様において、ろ過手段の運転条件、ろ過水の水質情報、及び測定手段によるろ過水のピコプランクトン数の測定結果を用いた機械学習を行うことにより将来のピコプランクトン数を予測し、予測結果に基づいて、ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように、凝集剤の添加量を決定する凝集剤添加支援手段を更に備える。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ろ過水の濁度を上昇させる要因の一つとなるピコプランクトンを、安全かつ効率良く除去することができ、安定して濁度の低いろ過水を得ることが可能な浄水処理方法及び浄水処理装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施の形態に係る浄水処理方法の一例を表す概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る浄水処理装置の一例を表す概略図である。
【
図3】本発明の実施の形態の変形例に係る浄水処理装置を表す概略図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る機械学習を利用した凝集剤添加支援手段の構成例を表すブロック図である。
【
図5】凝集剤添加支援手段の取得部が取得するデータ例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0030】
(凝集処理方法)
本発明の第1の実施の形態に係る浄水処理方法は、
図1に示すように、ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加し、凝集剤添加後の処理水からろ過水を得るために処理水をろ過処理し、原水、処理水又はろ過水のピコプランクトン数を測定し、ピコプランクトン数の測定結果に応じて、凝集剤の添加量を制御することを含む。
【0031】
[凝集剤添加工程]
凝集剤添加工程では原水に凝集剤が添加される。原水としては、浄水処理に利用可能な原水であれば特に限定されない。例えば、水道原水として利用される河川水、湖沼水、貯留池水、雨水、伏流水、地下水、井戸などが、本実施形態に係る原水として好適に利用可能である。例えば、原水の濁度が100度以下、より典型的には20度以下、より更に典型的には2~10度程度の原水が利用される。原水は、典型的には、沈砂池や着水井を経て、凝集沈殿処理される。
【0032】
本実施形態では、原水に添加される凝集剤として、原水中のピコプランクトン数を低減させるための凝集剤を用いる。ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤としては、塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液が用いられる。
【0033】
ピコプランクトンの除去に用いられるPAC溶液の塩基度は、高いほど原水中における荷電中和能力を高くすることができ、微粒子の捕捉効果をより向上させることができる。また、同じ処理能力を維持する場合に、PAC溶液の塩基度が高いほど、添加率を低減させることができるため、処理効率が良く、経済的にも利点がある。本実施形態では、塩基度が65%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは75%以上のPAC溶液を、原水に添加する凝集剤として利用することが好ましい。PAC溶液の塩基度は、高すぎると凝集性や凝集剤の安定性が損なわれる場合もある。塩基度の上限値に制限はないが、より安定した処理を行う上では、PAC溶液の塩基度は、90%以下、更には85%以下とすることが好ましい。
【0034】
このような塩基度の高いPAC溶液(以下「高塩基度PAC」ともいう)は、例えば、Al2O3濃度5~17%、Cl/Al2O3(モル比)=1.80~3.60、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.35でかつ塩基度が40~63%の塩基性塩化アルミニウム溶液を用意する。そして、この塩基性塩化アルミニウム溶液に、85℃以下の温度下で、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の化合物を、M/Al2O3(モル比)=0.08~1.40(但し、Mはアルカリ金属のモル数および/又はアルカリ土類金属のモル数の2倍のモル数を表す。)となるように添加し、必要に応じてアルミニウム原料を更に添加して、65~85℃で0.5~2時間熟成を行うことによって製造することができる。
【0035】
本実施形態によれば、凝集剤として塩基度が60%以上のPAC溶液を利用することにより、塩基度50%程度の一般的なPAC溶液を利用する場合に比べ、0.2~2μm程度の微細なピコプランクトンをより効果的に凝集させて原水から除去することができる。
【0036】
凝集剤としては、2種類以上の凝集剤を原水に添加することが好ましい。凝集剤としては、上述の高塩基度のPAC溶液(以下「高塩基度PAC」ともいう)以外に、例えば、塩基度が50~55%程度の一般的なPAC、硫酸アルミニウム(硫酸ばん土)、ポリ硫酸鉄等を、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これら凝集剤は、水中の懸濁粒子やコロイド状物質の荷電を中和し、集塊して、フロックを形成させる架橋能力を有する薬剤である。
【0037】
凝集処理におけるフロックの沈降分離性および急速ろ過池での捕捉性を改善し、径が大きく緻密で強固なフロックを形成させるための凝集助剤とよばれる薬剤を本実施形態に係る凝集剤として更に添加することもできる。このような凝集助剤としては、フロック形成助剤、アルカリ剤、活性ケイ酸、アルギン酸、有機凝集助剤、高分子凝集剤、凝集改良剤などが使用できる。高分子凝集剤は、重液中の粒子の表面電荷等を考慮し、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、及びノニオン系高分子凝集剤のいずれか又は複数を適宜選択して使用することが好ましい。
【0038】
凝集剤の添加量は、選択された凝集剤の塩基度に応じて適宜選択される。通常は、凝集剤の添加量は1~50mg/Lである。後述する制御工程においては、この範囲で凝集剤の添加量及び種類の制御を行うことができる。
【0039】
[凝集処理工程]
凝集剤が添加された原水は、凝集処理される。例えば、原水に凝集剤が添加され、混和槽で撹拌混合してフロックを形成させた後、フロック形成槽で原水中に形成されたフロックを粗大化させる。凝集処理で得られた処理水は、必要に応じて沈殿池においてフロックを固液分離した後に、ろ過工程へ送られる。
【0040】
[ろ過工程]
ろ過工程では、凝集剤が添加された処理水をろ過処理する。ろ過処理の方法は、従来から行われている方法を使用することができ、一般に、砂ろ過が使用される。
【0041】
[微粒子測定工程]
微粒子測定工程では、原水およびろ過水に含まれる微粒子数を測定することにより、微粒子に含まれるピコプランクトン数を測定する。本実施形態において、微粒子とは、粒径0.1μm~数百μmである粒子をいう。微粒子測定工程では、その微粒子のうち粒径0.2μm~2.0μmのピコプランクトンの数を測定する。ピコプランクトンは、微小プランクトン、植物プランクトン、小型プランクトン、小型藻類、藻類の生物粒子などを総称する用語である。
【0042】
本実施形態において、ピコプランクトンの粒径は、ピコプランクトンの最小長さをいう。また、あらゆるサイズの微粒子の中から0.2μm~2.0μmのピコプランクトンのみを抽出する方法として、0.2μmの開口サイズを有するフィルター及び2.0μmの開口サイズを有するフィルターを使用し、それらに原水またはろ過水を通すことによって行うことができる。
【0043】
微粒子測定工程においてピコプランクトン数を計測するために使用される方法としては、例えば、蛍光顕微鏡による蛍光測定を使用することができる。蛍光測定では、ピコプランクトンに含まれるクロロフィルが発する蛍光を測定することによって、ピコプランクトンの存在が確認され、その存在数をカウンターによって計数する。微粒子測定工程では、ピコプランクトン数の計測と同じタイミングで原水及びろ過水の濁度の測定を行うことがより好適である。濁度の測定は、従来から使用されている濁度計で行うことができる。
【0044】
[制御工程]
制御工程では、微粒子測定工程において測定されたピコプランクトン数に基づいて、凝集剤の添加量を調節する制御を行う。例えば、原水、処理水またはろ過水中のピコプランクトン数が107~103cells/mLの範囲内の所定値以上である時に、凝集剤の添加量を増加させるような添加量の制御を行うことが好ましい。凝集剤の添加量を増加させた結果ピコプランクトン数の測定結果が減少した場合、凝集剤の添加量を減少させるなどの制御をすることも好ましい。本実施形態において「cells/mL」という単位は、原水またはろ過水1mL当たりのピコプランクトン数を指す。
【0045】
更に具体的には、原水、処理水またはろ過水中のピコプランクトン数107~2×103cells/mLの範囲内で、且つ、濁度が0.1度以下のろ過水が得られるピコプランクトン数を閾値として設定し、ピコプランクトン数の測定結果が閾値以上の時に、ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤の添加量を増加させる制御が行われることが好ましい。
【0046】
ピコプランクトン数の閾値は、浄水場で得られるろ過水の濁度との関係に応じて設定することができる。例えば、ある浄水場では、ろ過水のピコプランクトン数が2×105cells/mLである場合に、濁度が0.1度以下となることが既知であるとする。このような場合、凝集剤を添加するためのピコプランクトンの閾値を2×105cells/mLとし、測定されたピコプランクトン数が閾値以上の場合に、凝集剤の添加量を増加させる制御を行うことで、ろ過水の濁度を0.1度以下に管理することが容易となる。
【0047】
ピコプランクトン数の測定は、原水、処理水またはろ過水のいずれ1か所以上を測定すればよいが、中でも特に、ろ過水の微粒子数を測定することが好ましい。ろ過水の濁度の変化に直接影響し得るろ過水のピコプランクトン数を直接測定することで、ろ過水中の濁度を安定して低い値に維持するという目標を確実に達成することができる。
【0048】
制御工程では、凝集剤の添加量の制御に加え、凝集剤の種類及び供給を、ピコプランクトン数の測定結果に応じて制御することがより好ましい。例えば、上述の高塩基度PACと併用して、通常塩基度のPAC、フロック形成助剤、アルカリ剤、活性ケイ酸、アルギン酸、有機凝集助剤、高分子凝集剤、凝集改良剤などを添加するとともに、これら凝集剤の種類を、原水、処理水またはろ過水の性状に応じて、適宜組み合わせて使用することもできる。
【0049】
例えば、通常運転時は、通常塩基度のPACを1~50mg/Lを使用し、ろ過水の濁度が高濁度の時にはそれ以上の添加量で添加する。微粒子測定工程で、難凝集性のピコプランクトン濃度が上昇する傾向にあることが分かった場合には、塩基度が60%以上の高塩基度PACを所定の添加量となるように更に添加する。或いは、凝集剤の供給を切り替え、通常塩基度のPACの代わりに同様な添加量で高塩基度PACを添加する。
【0050】
制御工程では、凝集剤の添加位置も制御することができる。例えば、ピコプランクトン数の増減に応じて、凝集剤を、凝集処理前だけでなく凝集処理後のろ過池の流入配管やろ過池上部等の任意の位置、或いは沈殿槽等に添加するように制御することができる。これにより、ピコプランクトンの低減をより効果的に行うことができる。
【0051】
本発明の実施の形態に係る浄水処理方法によれば、ピコプランクトン数の測定結果に応じて、ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤として、塩基度が60%以上のポリ塩化アルミニウムを添加する。そのため、急激な原水の性状変動により、富栄養化に起因するピコプランクトンの大発生が生じたとしても、ピコプランクトンを安全かつ効率良く除去することができ、安定して濁度の低いろ過水を得ることが可能となる。
【0052】
(浄水処理装置)
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置は、
図2に示すように、ピコプランクトンを含む原水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段1と、原水中にフロックを形成させて凝集処理を行う凝集手段2と、凝集処理後の処理水をろ過処理してろ過水を得るろ過手段3と、原水、処理水又はろ過水のピコプランクトン数を測定可能な測定手段4と、制御手段5とを備える。
【0053】
凝集剤添加手段1は、原水、凝集処理後の処理水、またはろ過水に凝集剤を添加することが可能な装置である。凝集剤添加手段1は、原水に2種類以上の凝集剤を添加するための複数の供給経路11、12を備えることが好ましい。供給経路11、12の数は、凝集剤の種類に応じて適宜変更できる。但し、供給経路11、12のうちの一の供給経路12が、高塩基度PACを供給するための経路であることが好ましい。
【0054】
高塩基度PACを供給するための供給経路12は、ろ過手段3に、又は、凝集手段2からの処理水をろ過手段3へ流入させるための流入配管31に接続されることが好ましい。供給経路12がろ過手段3又は流入配管31に接続されることにより、凝集後の原水に比べて濁度の低い処理水に対して、ピコプランクトンを効果的に低減させるための処理を重点的に行うことができるため、ろ過水の濁度をより効果的に低減することができる。供給経路12は沈殿槽22に接続されてもよい。
【0055】
凝集手段2は、典型的には、混和槽及びフロック形成槽等から構成される凝集槽21と、原水中に形成されたフロックを沈降分離するための沈殿池等から構成される沈殿槽22とを備えることができるが、上述の構成に限らない。例えば、凝集処理を複数槽に分けずに、単一槽の凝集槽で実施するような構成でもよい。固液分離が不要な場合は沈殿槽22を省略できる。ろ過手段3としては、典型的には、砂ろ過装置を用いることができるが、膜濾過装置等の公知の他のろ過装置を利用することができる。
【0056】
測定手段4としては、粒径0.2μm~2.0μmのピコプランクトン数を測定可能な機器であれば特に限定されない。例えば、蛍光測定を利用した蛍光顕微鏡等を用いることでピコプランクトン数をより簡易且つ正確に測定することが可能となる。例えば、測定対象とする原水、処理水又はろ過水に対し、植物ピコプランクトンを含む生物粒子を測定可能なカウンタを利用することができる。なお、図示していないが、測定手段4として、原水、処理水、ろ過水の濁度、水温、pH等の水質を測定するための測定装置を更に備え、原水、処理水、ろ過水の測定結果が制御手段5へ出力されるように構成されていることが好ましい。
【0057】
制御手段5は、測定手段4及び凝集剤添加手段1に接続されており、測定手段4及び凝集剤添加手段1を制御するための制御信号を出力するように構成されている。制御手段5は、ピコプランクトン数の測定結果に応じて、ピコプランクトン数を低減させるための凝集剤として添加される高塩基度PAC、およびその他の凝集剤の添加量の制御、添加位置の制御及び添加する凝集剤の切り替え制御を行う。
【0058】
本発明の実施の形態に係る浄水処理装置によれば、原水、処理水又はろ過水のピコプランクトン数を測定可能な測定手段4と、ピコプランクトン数の測定結果に応じて、凝集剤の添加量を制御する制御手段5とを備えることにより、ろ過水の濁度を上昇させる要因の一つとなるピコプランクトンをより適切に検知できるため、ピコプランクトンの増加による濁度の上昇が生じ得る場合に適切な処理を行うことができる。その結果、安定して濁度の低いろ過水を得ることができる。
【0059】
(変形例)
本発明の実施の形態の変形例に係る浄水処理装置は、
図3に示すように、将来の原水、処理水又はろ過水のピコプランクトン数を予測し、予測結果に基づいて凝集剤の添加量を決定する凝集剤添加支援手段6を更に備える点が、
図2に示す浄水処理装置と異なる。
【0060】
凝集剤添加支援手段6は、測定手段4及び制御手段5に接続されている。凝集剤添加支援手段6は必ずしも制御手段5と隣接して配置される必要はなく、ネットワーク等を介して
図3の浄水処理装置とは異なる場所に設置されていてもよいし、汎用のコンピュータ内に、プログラム等の形式で格納されていてもよい。
【0061】
凝集剤添加支援手段6は、ろ過処理の運転条件と、ろ過水の水質情報と、ピコプランクトン数の測定結果との関係とを、過去の実績に基づいて分析した分析情報に基づいて、ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように凝集剤の添加量を決定する。
【0062】
ろ過処理の運転情報には、原水又は流入水(凝集水)の水質情報(温度、導電率、pH、有機物濃度、濁度等)、ろ過装置の装置運転条件(ろ材の材質、粒径、ろ層の高さ、圧力、流量、ろ過時間、ろ過抵抗等)が含まれる。ろ過処理の運転情報には、ろ過装置の洗浄タイミング等のメンテナンス情報等が含まれているとなおよい。
【0063】
ろ過水の水質情報には、水の水温、pH、アルミなどの金属類の濃度、COD、BOD等の有機物の情報、透過水の導電率、ピコプランクトン数等の情報が含まれる。ろ過処理の運転状況とろ過水の水質条件とに加えて、凝集剤の注入制御データがろ過処理の運転情報に含まれることが好ましい。
【0064】
沈殿池での平均的なピコプランクトンの除去率は70%程度であるといわれており、ピコプランクトンの発生数によってはろ過処理で除去しきれない場合がある。例えば、水温が20℃を超え、濁度が10度未満、原水pHが7.5を超えるような場合に、原水中のピコプランクトン濃度が高くなっている場合がある。そのため、一般的な浄水処理では、ろ過水中のピコプランクトンが除去しきれず、ピコプランクトンの増加によるろ過水の濁度の上昇の可能性が高くなる場合もある。操作者は、例えば、過去の原水の濁度、水温、有機物濃度、ピコプランクトン数と、ろ過水の濁度、水温及びピコプランクトン数のデータを用いて、凝集剤の種類及び注入率の関係に基づいて、ろ過水のピコプランクトン数を予測するための分析情報を作製し、ろ過水のピコプランクトン数の測定結果に応じた凝集剤の添加率を決定するための関係式を予め作製しておく。例えば、将来ピコプランクトンの増加が予測されるような条件、例えば、上述の温度、濁度、原水pHの少なくともいずれかが一定時間以上続く場合に、凝集剤の添加率を段階的に増加させていくような関係式を作製する。そして、関係式とろ過水のピコプランクトン数の測定結果を凝集剤添加支援手段6が利用することで、ろ過水の濁度が基準値以下を安定して維持するように、凝集剤の添加量を決定することができる。
【0065】
ピコプランクトン数の予測は、人工知能(AI)を用いた機械学習機能を利用することによって更に精度良く予測することができる。例えば、凝集剤添加支援手段6は、浄水処理装置の運転制御に必要な情報を記憶可能な記憶装置と、入力装置と、出力装置と、通信手段とを備えるコンピュータシステムで構成され、ネットワークを介して、別の浄水処理装置又はサーバと通信可能に接続されてもよい。そして、凝集剤添加支援手段6が作製する学習済みモデル、或いはサーバ又は別の浄水処理装置に記録された各種情報を互いに共有できるように構成されていてもよい。
【0066】
例えば、
図4に示すように、凝集剤添加支援手段6は、取得部61と、学習部62と、モデル記憶部63と、予測部64と、決定部65と、出力部66とを備えることができる。取得部61は、例えば
図5に示すように、過去の原水の水質情報を示す原水水質データ、凝集剤の種類及びその注入率を示す凝集剤注入データ、ろ過時間、ろ過抵抗、流量、導電率、温度等を含む運転データ、pH、濁度、COD、ピコプランクトン数などのろ過水水質情報を含むろ過水データを取得する。取得部61は更に、水処理装置の運転時に得られる各測定装置(時間、温度計、pH計、ろ過抵抗圧力計、流量計、導電率計等)の測定結果を取得することにより、浄水処理装置の運転情報を取得する。
【0067】
学習部62は、取得部61が取得した情報に基づき、所定の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により、本浄水処理装置の学習済みモデルを作製する。機械学習アルゴリズムとしては、例えば、PCR法(主成分回帰法)、PLS法(部分最小二乗法)、SVR法(サポートベクター回帰法)、ARIMA、LSTM、ニューラルネットワーク(ANNやRNN)法、ランダムフォレスト法、又は決定木法等を用いた解析ツールを適宜選択して使用することができる。
【0068】
機械学習モデルのパラメータ、例えばニューラルネットワーク法における層の数及び各層のニューロンの数については特に限定されないが、例えば、各層のニューロンの数を1~50、更には1~30とすることができ、層の数を1以上、更には1~4層とすることができる。このようにして作製された学習済みモデルは、所定の説明変数を受け取り、所定の目的変数を出力するように構成される。
【0069】
例えば、ニューラルネットワーク法を利用する場合は、過去の原水の水質情報を示す原水水質データ、凝集剤の種類及びその注入率を示す凝集剤注入データ、ろ過時間、ろ過抵抗、流量、導電率、温度等を含む運転データ、pH、濁度、COD、ピコプランクトン数などのろ過水水質情報を含むろ過水データ、過去の気温を含む気象条件データと、過去のピコプランクトン数の測定結果を入力層に入力し、所定時間後(例えば数分から数時間)の将来のろ過水のピコプランクトン数を含む微粒子数を、出力層から出力するように構成する。これら入力層に入力するデータと出力層から出力するデータとが紐づけられたデータを用いた教師あり学習によってニューラルネットワークのニューロン間の重み付け係数を最適化していく。学習済みモデルは、モデル記憶部63に記憶される。
【0070】
予測部64は、学習部62が作製した学習済みモデルを用いて、浄水処理システムの原水、処理水又はろ過水の将来のピコプランクトン数を少なくとも予測する。例えば、予測部64は、取得部61が取得した水処理装置の運転時に得られる各測定装置の測定結果を学習モデルの入力層に入力し、所定時間後のろ過水のピコプランクトン数を出力層から出力する。
【0071】
決定部65は、予測部64の予測結果に従い、ろ過水の濁度が基準値以下を維持するように、過去のデータに基づいて、最適な凝集剤の添加量を決定する。出力部66は、決定部65が決定した最適な凝集剤の組み合わせ及びその添加量の制御情報を、制御手段5に出力する。
【0072】
本発明の実施の形態の変形例に係る浄水処理方法によれば、原水、処理水又はろ過水のピコプランクトン数を測定し、所定時間経過後のピコプランクトン数を予測することにより、その予測結果に基づいて、ピコプランクトン数が増加する場合にはピコプランクトン数を低減させるための適切な凝集剤を添加することができる。これにより、ろ過水の濁度を上昇させる要因の一つとなるピコプランクトンを、安全かつ効率良く除去することができ、安定して濁度の低いろ過水を得ることができる。
【0073】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できることは勿論である。
【実施例】
【0074】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0075】
(実施例1)
図6に示す処理フローに沿って浄水処理を行った。凝集槽へは通常塩基度のPACを添加し、沈殿槽で固液分離して得られた処理水に対して砂ろ過処理を行い、ろ過水を得た。凝集槽の通常塩基度のPAC添加量が30mg/Lのとき、ろ過池の濁度は0.08度、ピコプランクトン濃度が10
6cells/mLまで上昇したため、ろ過池の前段で塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液を5mg/L添加する制御を実施したところ、24時間後のろ過水の濁度は0.02度、ピコプランクトン濃度が10
4cells/mLまで低下した。
【0076】
(参考例1)
ろ過池の前段で塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液を添加する制御を実施しない以外は、実施例1と同条件で処理を行った。凝集槽の通常塩基度のPAC添加量は30mg/Lのとき、ろ過池の濁度は0.08度、ピコプランクトン濃度が106cells/mLまで上昇した。この状態を継続したところ、24時間後の濁度は0.20度、ピコプランクトン濃度が107cells/mLまで増加した。
【0077】
(実施例2)
図7に示す処理フローに沿って浄水処理を行った。過去2年分のろ過水の微粒子数及びピコプランクトン数の測定データのトレンド、ろ過水の濁度データのトレンド、pH、水量データ、ろ過装置の運転条件として、ろ過時間、ろ過抵抗、流量、導電率、温度等を含む運転データを説明変数として学習させる。予測部は、学習データによって作成されたろ過水のピコプランクトン数を予測するモデルが組み込まれ、学習データをセンシングしデータを入力することで、1時間後のろ過水中の濁度を予測するように構成する。
【0078】
凝集槽の通常塩基度のPAC添加量は30mg/Lのとき、ろ過池の濁度は0.08度、ピコプランクトン濃度が106cells/mLまで上昇した。AI予測による予測結果は、1時間後のろ過水の濁度が0.12度となった。そのため、ろ過池の前段で塩基度が65%以上85%以下のポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液を5mg/L添加する制御を実施したところ、1時間後の濁度は0.06度に低下し、濁度0.1度を超えない運転をすることができた。
【0079】
このように、本開示によれば、ろ過水の濁度を上昇させる要因の一つとなるピコプランクトンを安全かつ効率良く除去することができ、安定して濁度の低いろ過水を得ることができる。
【符号の説明】
【0080】
1…凝集剤添加手段
2…凝集手段
3…ろ過手段
4…測定手段
5…制御手段
6…凝集剤添加支援手段
11、12…供給経路
21…凝集槽
22…沈殿槽
31…流入配管
61…取得部
62…学習部
63…モデル記憶部
64…予測部
65…決定部
66…出力部