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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】車上装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/14 20060101AFI20240531BHJP
   B61L 5/18 20060101ALI20240531BHJP
   B60L 15/40 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B61L23/14 C
B61L5/18 Z
B60L15/40 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021200989
(22)【出願日】2021-12-10
(65)【公開番号】P2023086459
(43)【公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】石川 了
(72)【発明者】
【氏名】國分 壯
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-237403(JP,A)
【文献】特開2002-225708(JP,A)
【文献】特開2013-138603(JP,A)
【文献】特開2015-162944(JP,A)
【文献】特表2007-528314(JP,A)
【文献】特開2013-244758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/14
B61L 5/18
B60L 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載される車上装置であって、
前記列車の車輪又は車軸の回転に応じた走行距離を算出することで前記列車の現在走行位置を算出する現在走行位置算出手段と、
内方直近の信号機の現示情報を発信する地上子を検出して当該現示情報を取得する地上子検出手段と、
GNSS(Global Navigation Satellite System)による測位を行う測位手段と、
前記地上子毎に、当該地上子の設置位置に係る地上子経緯度位置情報と、当該地上子の設置位置に係る地上子キロ程設置位置情報と、当該地上子の設置位置から次の地上子の設置位置までの線路距離を示す線路距離情報とを含む属性情報であって、1)内方直近の信号機の前記現示情報に応じた情報、及び、2)線路条件に応じた情報のうちの少なくともどちらかの情報を更に含む属性情報を記憶する属性情報記憶手段と、
前記地上子検出手段による検出がなされた際に前記測位手段から測位位置を取得し、当該測位位置と、前記属性情報記憶手段に記憶されている前記地上子毎の地上子経緯度位置情報と、に基づいて、前記地上子検出手段により検出された地上子を特定地上子として特定する地上子特定手段と、
前記地上子検出手段による検出がなされた際に、検出された地上子の前記属性情報に含まれる前記地上子キロ程設置位置情報と前記線路距離情報とに基づいて、当該検出された地上子の次の地上子の設置位置に係る次地上子キロ程位置を算出する次地上子キロ程位置算出手段と、
を備え、
前記地上子検出手段による新たな検出がなされた場合に、前記地上子特定手段により新たな特定地上子が特定され、且つ、前記現在走行位置と前記地上子検出手段による直前の検出の際に前記次地上子キロ程位置算出手段が算出した前記次地上子キロ程位置との差が所定の許容範囲内であることを特定成功条件として、当該特定成功条件を充足する場合には当該新たな特定地上子に基づい前記地上子毎の前記属性情報から列車制御用の制御情報を取得する車上装置
【請求項2】
前記地上子検出手段による新たな検出がなされ、前記特定成功条件を充足しない場合に、前記列車を停止させる制御を行う、請求項1に記載の車上装置
【請求項3】
前記属性情報は、前記1)の情報を含み、
前記1)の情報は、内方直近の信号機の信号現示が停止現示の場合に当該信号機の手前に停止するために定められた、当該地上子の設置位置から当該信号機に係る停止限界点までの停止限界点距離情報である、
請求項1又は2に記載の車上装置
【請求項4】
前記属性情報は、前記2)の情報を含み、
前記2)の情報は、当該地上子の設置位置から、所定基準に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所に至るまでの距離、及び/又は、線路勾配に係る情報、を少なくとも含む、
請求項1~3の何れか一項に記載の車上装置
【請求項5】
前記所定基準に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所は、a)曲線区間、b)分岐器区間、c)速度を制限している構造物区間、d)線路終端部、e)所定の踏切道、f)所定の下り勾配、のうちの何れかである、
請求項に記載の車上装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平成17年のJR福知山線脱線事故を契機として鉄道技術基準が改正され、信号機の現示情報、及び、線路の条件に応じて自動的に列車を減速させ、又は停止させる装置の導入が義務化された。これにより、鉄道各社は、信号機の現示情報、及び、線路の条件に応じたATS(Automatic Train Stop)装置(自動列車停止装置ともいう)を導入する必要が生じた。
【0003】
このようなATS装置の一例として、トランスポンダ式の地上子を線路に設置して各種の情報を車上側に送信し、車上側で速度照査パターンを作成して列車の速度制御を行う技術が知られている(例えば、特許文献1の[0004]~[0005]段落を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-138603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランスポンダ式ではない既存の地上子をトランスポンダ式の地上子に置き換えて、ATS装置に係る全般システムを刷新するためには多額のコストが必要となる。そのため、コスト面で導入が困難な鉄道線区が存在する。
【0006】
そこで、内方直近の信号機の現示情報を発信する機能を具備した既存の地上子を利用して、信号機の現示情報、及び、線路の条件に応じて自動的に列車を減速させ、又は停止させることができる列車制御用の制御情報を取得する技術が望まれている。
本発明が解決しようとする課題は、トランスポンダ式の地上子でなくとも、内方直近の信号機の現示情報を発信する機能を具備した地上子を利用して、列車制御用の制御情報を取得可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、列車に搭載される制御情報取得装置であって、内方直近の信号機の現示情報を発信する地上子を検出して当該現示情報を取得する地上子検出手段(例えば、図1等の車上子110)と、GNSS(Global Navigation Satellite System)による測位を行う測位手段(例えば、図4の測位部120)と、前記地上子毎に、当該地上子の設置位置に係る地上子経緯度位置情報を含む属性情報であって、1)内方直近の信号機の前記現示情報に応じた情報、2)線路条件に応じた情報、及び、3)当該地上子の設置位置に係る地上子キロ程位置情報、のうちの少なくとも1つを更に含む属性情報を記憶する属性情報記憶手段(例えば、図1等の地上子属性DB200)、前記地上子検出手段による検出がなされた際に前記測位手段から測位位置を取得し、当該測位位置と、前記属性情報記憶手段に記憶されている前記地上子毎の地上子経緯度位置情報と、に基づいて、前記地上子検出手段により検出された地上子を特定地上子として特定する地上子特定手段(例えば、図4の地上子特定部162)と、を備え、前記地上子特定手段により特定された特定地上子に基づいて、前記地上子毎の前記属性情報から列車制御用の制御情報を取得する制御情報取得装置である。
【0008】
第1の発明によれば、制御情報取得装置において、検出対象の地上子毎に、当該地上子の設置位置に係る地上子経緯度位置情報を含む属性情報を記憶しておく。また、属性情報には、1)内方直近の信号機の前記現示情報に応じた情報、2)線路条件に応じた情報、及び、3)当該地上子の設置位置に係る地上子キロ程位置情報、のうちの少なくとも1つを更に含めることとする。地上子を検出した場合には、制御情報取得装置は、検出時の測位位置と、地上子毎の地上子経緯度位置情報とから、検出された地上子を特定地上子として高精度に特定することができる。そして、制御情報取得装置は、特定地上子に基づいて、地上子毎の属性情報から列車制御用の制御情報を取得することができる。これによれば、トランスポンダ式の地上子でなくとも、内方直近の信号機の現示情報を発信する機能を具備した地上子を利用して、列車制御用の制御情報を取得することが可能となる。
【0009】
また、第2の発明は、前記属性情報が前記1)の情報を含み、前記1)の情報が、内方直近の信号機の信号現示が停止現示の場合に当該信号機の手前に停止するために定められた、当該地上子の設置位置から当該信号機に係る停止限界点までの停止限界点距離情報である、第1の発明の制御情報取得装置である。
【0010】
第2の発明によれば、検出時に取得された内方直近の信号機の現示情報が停止現示を示す場合に、列車制御用の制御情報として、当該地上子の設置位置から内方直近の信号機に係る停止限界点までの停止限界点距離情報を取得することが可能となる。
【0011】
また、第3の発明は、前記属性情報が前記2)の情報を含み、前記2)の情報が、当該地上子の設置位置から、所定基準に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所に至るまでの距離、及び/又は、線路勾配に係る情報、を少なくとも含む、第1又は第2の発明の制御情報取得装置である。
【0012】
第3の発明によれば、列車制御用の制御情報として、所定基準に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所に至るまでの距離や、線路勾配に係る情報を取得することが可能となる。
【0013】
また、第4の発明は、前記所定基準に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所が、a)曲線区間、b)分岐器区間、c)速度を制限している構造物区間、d)線路終端部、e)所定の踏切道、f)所定の下り勾配、のうちの何れかである、第3の発明の制御情報取得装置である。
【0014】
第4の発明によれば、列車制御用の制御情報として、当該地上子の設置位置から、a)曲線区間、b)分岐器区間、c)速度を制限している構造物区間、d)線路終端部、e)所定の踏切道、f)所定の下り勾配、のうちの何れかの速度制限箇所までの距離を取得することが可能となる。
【0015】
また、第5の発明は、前記属性情報が前記2)の情報を含み、前記3)の情報が、線路の起点から当該地上子の設置位置までの線路距離、及び/又は、当該地上子の設置位置から次の地上子の設置位置までの線路距離の情報である、第1~第4の何れかの発明の制御情報取得装置である。
【0016】
第5の発明によれば、列車制御用の制御情報として、線路の起点から当該地上子の設置位置までの線路距離や、当該地上子の設置位置から次の地上子の設置位置までの線路距離の情報を取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車上装置を含む全体システムを示す図。
図2】属性情報のデータ構成例を示す図。
図3】地上子特定処理を説明する図。
図4】車上装置の構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、制御情報取得装置の機能を備え、制御情報取得装置でもある車上装置について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0019】
図1は、本実施形態における車上装置10を含む全体システムを示す図である。本実施形態の車上装置10は、信号の現示及び線路の条件に応じて自動的に列車1を減速させ、又は停止させる装置である。車上装置10は、列車1に搭載され、線路3に沿って設置された地上子5を検出して、列車1の速度制御を行う。
【0020】
具体的には、地上子5は、当該地上子5の設置位置から内方直近の信号機(以下「内方直近信号機」ともいう)の現示情報を発信する。図1の地上子5aであれば、信号機7aの現示情報を発信する。一方、列車1には、車体底部に車上子110が設けられている。車上装置10は、車上子110が地上子5に接近したときに当該地上子5から現示情報を取得することで、列車1が当該地上子5の設置位置を通過したことを検出する。
【0021】
また、車上装置10は、列車1の位置を測位する測位部120(図4を参照)と、線路3上の走行位置(現在走行位置)を随時算出する走行位置算出部161(図4を参照)と、を備える。現在走行位置は、線路の起点からの距離であるキロ程によって示される位置である。
【0022】
測位部120は、GPS(Global Positioning System)に代表されるGNSS(Global Navigation Satellite System)による測位を行う。例えば、測位部120は、GPS衛星9からの信号を受信するGPSモジュールやGPS受信機等によって実現できる。GPS以外のGalileoや北斗衛星測位システム(BeiDou)を利用することとしてもよい。後述する地上子特定処理では、車上装置10は、測位部120により得られる位置座標(緯度・経度・高度)を、測位位置として取得する。取得した測位位置は、測位位置情報193(図4を参照)として記憶される。
【0023】
走行位置算出部161は、車輪又は車軸の回転に応じた走行距離を算出することで、線路3上の列車1の現在走行位置を随時算出する。例えば、走行位置算出部161は、車輪又は車軸の回転を検出するパルスジェネレータや速度発電機等の回転検出器13の検出信号から列車1の走行距離を算出し、線路3上の位置に換算して現在走行位置を随時算出する。算出した現在走行位置は、走行位置情報195(図4を参照)として随時更新・記憶される。
【0024】
また、車上装置10には、地上子5(列車1が走行する線路3上の全ての地上子5)毎に、当該地上子5の位置から内方の線路の条件を含む属性情報210を登録した地上子属性DB200が記憶されている。そして、車上装置10は、車上子110による地上子5の検出のたびに、1)当該地上子5が検出対象の地上子5のうちの何れに該当するのかを特定する地上子特定処理と、2)特定された地上子(特定地上子)5の設置位置に基づいて列車1の現在走行位置を補正する走行位置補正処理と、3)検出時に取得された現示情報(つまり、特定地上子5の内方直近信号機の現示情報)と、列車1の現在走行位置と、特定地上子5の属性情報210と、に基づいて列車1の速度制御を行う速度制御処理と、を実行する。
【0025】
1.属性情報について
図2は、地上子属性DB200に記憶された属性情報210のデータ構成例を示す図である。地上子属性DB200には、検出対象の全ての地上子について、属性情報210が記憶される。図2に示すように、1つの属性情報210は、該当する地上子を識別するための地上子番号211と、当該地上子の地上子経緯度位置情報213と、内方直近信号機の現示情報に応じた情報215と、線路条件に応じた情報217と、地上子キロ程位置情報219と、を含む。
【0026】
地上子経緯度位置情報213は、当該地上子の絶対位置を示す緯度及び経度である設置位置経緯度を格納する。
【0027】
内方直近信号機の現示情報に応じた情報215は、内方直近の信号機の信号現示が停止現示の場合に当該信号機の手前に停止するために定められた、当該地上子の設置位置から当該信号機に係る停止限界点までの停止限界点距離情報である。本実施形態では、内方直近信号機の現示情報に応じた情報215は、信号機の現示「停止」と対応付けて、当該地上子の設置位置から当該地上子の内方直近信号機までの距離(図1の地上子5aの例では内方直近信号機7aまでの距離D11)と、当該地上子の設置位置から当該地上子の内方直近信号機に係る停止限界点までの距離(図1の地上子5aの例では内方直近信号機7aに係る停止限界点P1までの距離D13)と、を格納する。
【0028】
線路条件に応じた情報217は、当該地上子の設置位置から、所定基準である鉄道技術基準第57条の解釈基準5に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所に至るまでの距離、及び/又は、線路勾配に係る情報、を少なくとも含む。
【0029】
所定基準(鉄道技術基準第57条の解釈基準5)に基づく線路の条件に応じた速度制限箇所は、a)曲線区間、b)分岐器区間、c)速度を制限している構造物区間、d)線路終端部、e)所定の踏切道、f)所定の下り勾配、のうちの何れかである。線路条件に応じた情報217には、当該地上子について内方にa)~f)の何れかの速度制限箇所があるときは、当該速度制限箇所毎に、当該速度制限箇所に係る情報が設定される。e)の所定の踏切道は、当該地上子について内方に踏切道がある場合であって、「踏切遮断機の遮断動作が終了していない踏切道に進入するおそれのある場合」に該当する踏切道である。該当する踏切道がある場合には、速度制限箇所に係る情報として、当該踏切道の箇所の情報が設定される。
【0030】
例えば、図2の例では、線路条件に応じた情報217には、1つの速度制限箇所に係る情報2171と、線路勾配に係る情報2172と、が設定されている。速度制限箇所に係る情報2171は、当該速度制限箇所に至るまでの距離を含む。
【0031】
具体的には、速度制限箇所に係る情報2171は、当該速度制限箇所の速度制限速度と、当該地上子の設置位置から当該速度制限箇所の始端(速度制限始端)に至るまでの距離と、当該地上子の設置位置から当該速度制限箇所の終端(速度制限終端)に至るまでの距離と、を格納する。線路勾配に係る情報2172は、線路勾配の値と、当該地上子の設置位置から当該線路勾配の始端(線路勾配始端)までの距離と、当該地上子の設置位置から当該線路勾配の終端(線路勾配終端)までの距離と、を格納する。
【0032】
地上子キロ程位置情報219は、線路の起点から当該地上子の設置位置までの線路距離と、当該地上子の設置位置から次の地上子の設置位置までの線路距離(図1の地上子5aの例では次の地上子5bまでの距離D15)と、を格納する。
【0033】
2.地上子特定処理について
図3は、地上子特定処理を説明するための説明図であり、列車1が走行する線路3上の地上子の設置位置P21,P23を「×」印で示すとともに、設置位置P21の地上子の検出時における測位位置P3を示している。
【0034】
地上子特定処理では、車上装置10は、車上子110による地上子の検出がなされた際に、測位部120から測位位置を取得する。そして、車上装置10は、取得した測位位置と、地上子属性DB200に記憶されている地上子毎の設置位置と、に基づいて、検出された地上子を特定地上子として特定する。
【0035】
具体的には、車上装置10は、検出対象の地上子のうちの、取得した測位位置からの距離が所定の近距離条件を満たす設置位置の地上子を特定地上子として(つまり、検出された地上子が当該設置位置の地上子であるとして)特定する。例えば、図3中に破線で示すように、測位位置P3との距離が所定の距離Da以内である設置位置P21の地上子を、特定地上子として特定する。ここで、近距離条件を満たす(つまり、設置位置が測位位置から距離Da以内である)地上子が2つ以上存在する場合は、検出された地上子を特定できないことになる。そこで、本実施形態では、そのような事態の発生を抑制するため、隣り合う地上子間の最小距離に基づいて距離Daを設定する。例えば、隣接する地上子間の最小距離が40m程度であれば、その半分以下の「20m」を距離Daとする。
【0036】
3.走行位置補正処理について
走行位置補正処理では、車上装置10は、地上子特定処理の結果、地上子が特定された場合(つまり、検出対象の地上子の中に近距離条件を満たす地上子が1つ存在し、地上子の特定に成功した場合)に、列車の現在走行位置を補正する。具体的には、車上装置10は、特定された地上子(以下適宜「特定地上子」という)の属性情報210におけるキロ程位置情報219を参照し、線路起点から当該地上子までの距離で現在走行位置を書き換えて走行位置情報195を更新することで、現在走行位置の補正を行う。
【0037】
4.速度制御処理について
車上装置10は、地上子特定処理の結果、地上子の特定に成功した場合に、速度制御処理を実行する。速度制御処理では、車上装置10は、先ず、特定地上子と、検出時に取得された内方直近信号機の現示情報と、に基づいて列車制御用の制御情報を取得する。本実施形態では、車上装置10は、地上子属性DB200から、特定地上子の地上子番号211と対応付けられた属性情報210である地上子経緯度位置情報213、内方直近信号機の現示情報に応じた情報215、線路条件に応じた情報217(速度制限箇所に係る情報2171や線路勾配に係る情報2172)、及び地上子キロ程位置情報219を読み出して、列車制御用の制御情報を取得する。そして、車上装置10は、取得した列車制御用の制御情報と、現在走行位置と、に基づいて、速度照査パターンを作成する。
【0038】
例えば、車上装置10は、内方直近信号機の現示情報が停止現示を示す場合には、読み出した特定地上子の属性情報210の内方直近信号機の現示情報に応じた情報215を、列車制御用の制御情報として取得する。そして、車上装置10は、列車制御用の制御情報(内方直近信号機の現示情報に応じた情報215)と、現在走行位置と、に基づいて、列車を内方直近信号機に係る停止限界点で停止させるための速度照査パターンを作成する。また、車上装置10は、読み出した特定地上子の属性情報210が線路条件に応じた情報217(速度制限箇所に係る情報2171や線路勾配に係る情報2172)を含む場合には、当該線路条件に応じた情報217を列車制御用の制御情報として取得する。そして、車上装置10は、速度制限箇所に係る情報2171と、現在走行位置と、に基づいて、該当する速度制限箇所での速度制限に対応した速度照査パターンを作成する。またその際に、車上装置10は、線路勾配に係る情報2172に基づき必要なブレーキ力を算定し、速度照査パターンの作成に用いる。
【0039】
そして、車上装置10は、作成した速度照査パターンに基づいて列車の速度制御を行い、現在の走行速度が速度照査パターンの速度を超えないように常用ブレーキを作動させるブレーキ制御を行う。
【0040】
なお、地上子特定処理では、検出対象の地上子の中から近距離条件を満たす地上子を特定できず、地上子の特定に失敗する事態も発生し得る。地上子の特定に失敗した場合には、車上装置10は、例えば、常用最大ブレーキで列車を停止させる。
【0041】
5.車上装置の構成について
図4は、車上装置10の構成例を示すブロック図である。図4に示すように、車上装置10は、車上子110と、測位部120と、操作入力部130と、表示部140と、通信部150と、車上制御部160と、車上記憶部190とを備えて構成される。
【0042】
操作入力部130は、例えば、スイッチやボタン等を有する入力装置であり、操作入力に応じた操作信号を車上制御部160に出力する。表示部140は、例えば液晶表示装置等で実現され、車上制御部160からの表示信号に応じた表示を行う。
【0043】
通信部150は、外部装置との間でデータ通信を行う。例えば、無線通信機、モデム、TA(ターミナルアダプタ)、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等によって実現できる。
【0044】
車上制御部160は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の電子部品によって実現され、装置各部との間でデータの入出力制御を行う。そして、車上制御部160は、所定のプログラムやデータ、車上子110を介して地上子から取得した現示情報、測位部120による測位位置等に基づいて各種の演算処理を行い、車上装置10の動作を制御する。この車上制御部160は、走行位置算出部161と、地上子特定部162と、走行位置補正部163と、速度制御部167と、特定失敗時速度制御部169と、を含む。これらの機能部は、プログラムを実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックであってもよいし、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって実現される回路ブロックであってもよい。本実施形態では、車上制御部160が列車制御プログラム191を実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックとして説明する。
【0045】
地上子特定部162は、地上子特定処理を実行する機能部であり、図3を参照して説明した要領で、車上子110によって検出された地上子を特定地上子として特定する。具体的には、地上子特定部162は、車上子110による地上子の検出がなされた際に、測位部120による検出時の測位位置と、地上子属性DB200に記憶されている地上子毎の設置位置と、に基づいて、検出された地上子を特定地上子として特定する。
【0046】
走行位置補正部163は、走行位置補正処理を実行する機能部であり、地上子特定部162によって特定された特定地上子の属性情報210において地上子経緯度位置情報213から線路起点からの距離(キロ程に基づく位置)を読み出して、走行位置算出部161が算出している現在走行位置を補正する。
【0047】
速度制御部167は、検出された地上子の特定に成功した場合に速度制御処理を実行する機能部であり、特定地上子と、検出時に取得された内方直近信号機の現示情報と、に基づいて、地上子属性DB200に登録されている地上子毎の属性情報210から列車制御用の制御情報を取得する。そして、車上装置10は、取得した列車制御用の制御情報と、現在走行位置と、に基づいて、列車の速度制御を行う。具体的には、速度制御部167は、上記した要領で、速度照査パターンの作成と、当該速度照査パターンを用いたブレーキ制御と、を行う。
【0048】
特定失敗時速度制御部169は、検出された地上子の特定に失敗した場合に、常用最大ブレーキで列車を停止させる制御を行う。
【0049】
車上記憶部190は、IC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク、光学ディスク等の記憶媒体により実現されるものである。この車上記憶部190には、車上装置10を動作させ、車上装置10が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。本実施形態では、車上記憶部190には、列車制御プログラム191と、測位位置情報193と、走行位置情報195と、地上子属性DB200と、が記憶される。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、車上装置10において、検出対象の地上子毎に、当該地上子の設置位置に係る地上子経緯度位置情報と、内方直近の信号機の現示情報に応じた情報と、線路条件に応じた情報と、当該地上子の設置位置に係る地上子キロ程位置情報と、を含む属性情報210を記憶しておく。そして、車上装置10は、地上子が検出された場合には、当該時点で測位された測位位置と、地上子毎の地上子経緯度位置情報とから、検出された地上子を高精度に特定することができる。また、車上装置10は、特定地上子に基づいて、地上子毎の属性情報から列車制御用の制御情報を取得することができる。これによれば、トランスポンダ式の地上子でなくとも、内方直近の信号機の現示情報を発信する機能を具備した地上子を利用して、列車制御用の制御情報を取得することが可能となる。
【0051】
また、本実施形態によれば、車上装置10は、取得した列車制御用の制御情報と、現在走行位置とに基づいて、検出した地上子からの現示情報に応じた列車の速度制御を行うことができる。また、車上で随時算出している現在走行位置を特定地上子の設置位置で補正することができるため、正確性の高い現在走行位置に基づく速度制御を実現することができる。したがって、既存の地上子を利用した安全性の高い列車の速度制御を実現することが可能となる。
【0052】
なお、車上装置10は、列車制御用の制御情報として取得した地上子キロ程位置情報219を、次の地上子の検出時において当該地上子を特定する際に用いる構成としてもよい。例えば、車上装置10は、地上子キロ程位置情報219の線路の起点から当該地上子の設置位置までの線路距離に、当該地上子の設置位置から次の地上子の設置位置までの線路距離を加算して、次の地上子のキロ程位置を算出する。そして、車上装置10は、次の地上子を検出し、当該地上子を特定した場合には、そのときの現在走行位置と、算出したキロ程位置との差が所定の許容範囲内であることを条件に、特定成功として特定地上子を確定するようにしてもよい。許容範囲外の場合は、特定失敗とする。これによれば、より高精度に地上子を特定することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態では、属性情報210に、現示情報に応じた情報215と、線路条件に応じた情報217と、地上子キロ程位置情報219とが含まれることとして説明したが、このうちの少なくとも1つの情報を含めることとしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 車上装置、110 車上子、120 測位部、130 操作入力部、140 表示部、150 通信部、160 車上制御部、161 走行位置算出部、162 地上子特定部、163 走行位置補正部、167 速度制御部、169 特定失敗時速度制御部、190 車上記憶部、191 列車制御プログラム、193 測位位置情報、195 走行位置情報、200 地上子属性DB、210 属性情報、1 列車、5 地上子
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図2
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