(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】温度インジケータ
(51)【国際特許分類】
G01K 11/12 20210101AFI20240531BHJP
A47J 36/02 20060101ALI20240531BHJP
A47J 37/10 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
G01K11/12 A
A47J36/02 B
A47J37/10
(21)【出願番号】P 2021522128
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(86)【国際出願番号】 EP2019067616
(87)【国際公開番号】W WO2020007800
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-07
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】594034072
【氏名又は名称】セブ ソシエテ アノニム
(73)【特許権者】
【識別番号】505045610
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンヌ テシエ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル フォンテーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ ジョビク
(72)【発明者】
【氏名】イザベル ジョウタン
(72)【発明者】
【氏名】エルバン レイスール デ ロエロ
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー ル ブリ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ワク
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-58268(JP,A)
【文献】特表2017-527652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00 - 19/00
A47J 36/00 - 36/42
A47J 37/10 - 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの機能性装飾層(20)を含むコーティング(2)であって、
-前記装飾層(20)が、前記コーティング(2)が部分的または全体的に低温と高温との間の温度変化にさらされたときに、光学的および/または比色特性の可逆的変化を示す熱変色性組成物を含み、前記低温が0℃から40℃の間に含まれ、前記高温が80℃から400℃の間に含まれ、
-前記熱変色性組成物が、少なくとも1つのハロゲン化銀ファミリーの熱変色性化合物を含み、
前記装飾層(20)が、前記熱変色性組成物に加えて、少なくとも1つの
耐熱性結合剤を含み、
前記少なくとも1つの耐熱性結合剤がフルオロカーボン樹脂を含み、前記熱変色性組成物の乾燥含有量の、前記
耐熱性結合剤の乾燥含有量に対する比が、
2.27未満である、ことを特徴とする、コーティング(2)。
【請求項2】
前記熱変色性化合物が、臭化銀、ヨウ化銀の中から選択することができる、請求項1に記載のコーティング(2)。
【請求項3】
前記高温が、120から280℃の間に含まれる、請求項1または2に記載のコーティング(2)。
【請求項4】
前記熱変色性組成物が、少なくとも1つの別の熱変色性化合物および/または少なくとも1つの耐熱性顔料を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のコーティング(2)。
【請求項5】
前記結合剤が、少なくとも1つのエナメル、少なくとも1つのフルオロカーボン樹脂、少なくとも1つの樹脂接着剤、少なくとも1つのゾル/ゲル法によって合成された無機または有機-無機ハイブリッドポリマー、少なくとも1つのラッカー、少なくとも1つの縮合型タンニンを含む、請求項1に記載のコーティング(2)。
【請求項6】
-熱変色性組成物であって、コーティング(2)が部分的または全体的に低温と高温との間の温度変化にさらされたときに、光学的および/または比色特性の可逆的な変化を示し、前記低温が0℃から40℃の間に含まれ、前記高温が80℃から400℃の間に含まれる、熱変色性組成物と、
-少なくとも1つの
耐熱性結合剤と、
を含み、前記熱変色性組成物が、少なくとも1つのハロゲン化銀ファミリーの熱変色性化合物を含み、
前記少なくとも1つの耐熱性結合剤が、フルオロカーボン樹脂を含み、
前記熱変色性組成物の乾燥含有量の、前記
耐熱性結合剤の乾燥含有量に対する比が、
2.27未満である、ことを特徴とする、機能性装飾層組成物。
【請求項7】
前記熱変色性化合物が、臭化銀、ヨウ化銀の中から選択することができる、請求項
6に記載の機能性装飾層組成物。
【請求項8】
前記高温が、120℃から280℃の間に含まれる、請求項
6または
7に記載の機能性装飾層組成物。
【請求項9】
前記熱変色性組成物が、少なくとも1つの別の熱変色性化合物および/または少なくとも1つの耐熱性顔料を含む、請求項
6~
8のいずれか一項に記載の機能性装飾層組成物。
【請求項10】
前記結合剤が、少なくとも1つのエナメル、少なくとも1つのフルオロカーボン樹脂、少なくとも1つの樹脂接着剤、少なくとも1つのゾル/ゲル法により合成された無機または有機-無機ハイブリッドポリマー、少なくとも1つのラッカー、少なくとも1つの縮合型タンニンを含む、請求項
6~
9のいずれか一項に記載の機能性装飾層組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの請求項1~
5のいずれか一項に記載のコーティング、または少なくとも1つの請求項
6~
10のいずれか一項に記載の機能性装飾層組成物を含む物品。
【請求項12】
請求項1~
5のいずれか一項に記載のコーティング(2)、または請求項
6~
10のいずれか一項に記載の機能性装飾層組成物の、温度インジケータとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、少なくとも1つの機能性装飾層を含むコーティング、機能性装飾層の組成物、そのようなコーティングおよび組成物を含む物品、ならびにそのようなコーティングおよび組成物の温度インジケータとしての使用に関する。
【0002】
「装飾層」とは、本発明の意味において、装飾を含む物品の使用者を使用中にガイドすることを可能にする装飾を意味する。
【0003】
本発明は、加熱機器の分野、特に小型家庭用加熱機器の分野に関する。
【0004】
「加熱機器」は、本発明の意味において、使用中に温度が上昇する物品を意味する。そのような物品は、それ自体に加熱システムを備えた物品、または外部加熱システムによって加熱される物品のいずれかとすることができる。さらに、そのような物品は、加熱システムによって供給される発熱エネルギーを、当該物品と接触している別の材料または物体に伝達することができる。
【0005】
「小型家庭用加熱機器」とは、本発明の意味において、調理器具および小型家電を意味する。
【0006】
この物品が加熱された場合、物品の使用中にその物品の温度変化を見ることは使用者にとって不可欠である。調理器具の場合、食品を調理するときの適切な温度制御は、健康上および風味上の理由から(例えば、鉄板またはフライパンでステーキに焦げ目をつけるときに)必要とされるが、調理器具のコーティングを劣化させる偶発的な過熱を防ぐためにも必要である。過熱の頻度が少なければ材料は長持ちするであろう。より低温で調理された食品は、より健康的な官能特性を有するであろう。さらに、ちょうど必要最低限の温度で調理することは、エネルギー消費量を削減し、したがって、環境への影響を減らすことに貢献する。
【背景技術】
【0007】
本出願人の仏国特許発明第1388029号明細書(特許文献1)は、温度に応じて可逆的に色が変化する感熱体からなる温度インジケータを備えた調理器具を記載しており、この温度インジケータは焦げ付き防止コーティング、特にポリテトラフルオロエチレンから構成された焦げ付き防止コーティングに配合されている。熱感受性インジケータの相対的な色の変化、したがって温度変化を評価することを可能にするための参照として、調理器具に熱安定性顔料を組み込むこともできる。しかし、耐熱性顔料と感熱性顔料とを単に組み合わせただけでは、温度変化を明確に区別することはできない。
【0008】
次に、これらの問題を解決するために、出願人は熱変色性顔料に基づく温度インジケータを開発し、これは欧州特許第1121576号明細書(特許文献2)に記載されている。この温度インジケータは、少なくとも2つのパターンを含む装飾であり、一方は温度が上がると暗くなる熱変色性酸化鉄顔料をベースとし、他方は温度が上がると明るくなる熱変色性顔料をベースとしており、ペリレンレッドとブラックスピネルとのブレンドを含む。その結果、所定の温度では、両者のパターンに由来する色が混同し、これが、使用者が所定の温度を確認する1つの方法である。
【0009】
装飾の隣接する領域でこれら2つの熱変色性顔料を同時に使用することにより、調理器具の表面温度の変化の視覚的による知覚を改善することが可能である。しかし、この種の温度インジケータは、どちらの領域も赤で、室温で似たクロマチックバリュー(chromatic value)を有するため、使用者が把握するのは、始めは依然として困難である。さらに、パターンの色は、少なくとも50℃の温度範囲内で混ざる。これにより、特に訓練を受けていない人にとって、温度変化を読み取って評価することは困難である。したがって、使用者はこの温度インジケータによって提供される情報を見落としがちである。
【0010】
したがって、例えば、色ベースの温度インジケータの場合に明らかに異なる色を示すことにより(例えば、黄から橙への変化)、温度変化がある場合に色および/または光学特性を明確に変化させる温度インジケータを提供できることには利点がある。
【0011】
これらのタイプの顔料は、仏国特許発明第2891844号明細書(特許文献3)の主題であり、CuMoW酸化物は、温度変化があった場合、および/または機械的応力、例えば105Paを超える圧力にさらされた場合に、可逆的な色の変化を示した。しかし、これらの酸化物は、相変化の結果として色が変化するが、特にサイクル性に影響されやすい。したがって、5サイクル以上の後、アルファ準安定相に戻ることができず、その結果低温で緑色に着色した。そのような顔料は、食品を調理する場合など、繰り返し使用するための着色温度インジケータとしては実用的な関心を引くものではない。
【0012】
さらに、温度が上昇すると、白-黄-橙-赤-黒の順で段階的な色の変化を示す性質を有する半導体(SC)も知られている。「熱変色性半導体(thermochromic semiconductor、SC)」とは、温度が上昇すると色が変化する半導体化合物を意味する。これらの半導体化合物の段階的で完全に可逆的な熱変色性は、材料の膨張による半導体の禁制帯の幅の減少によるものである。この温度範囲では、SCの色の変化はほとんどなく、ほとんど目立たず、次の変化に限定される:淡黄色から明黄色(Bi2O3)、明黄色から橙黄色(BiVO4)、橙黄色から橙赤色(V2O5)、橙赤色から非常に暗い赤(Fe2O3)などである。したがって、赤以外の色に到達することが可能であっても、熱変色性の効果の知覚は依然として困難で不正確であることが分かる。
【0013】
欧州特許第0287336号明細書(特許文献4)および欧州特許第1405890号明細書(特許文献5)は、熱変色性が強化された複合体組成物を得るために、1つまたは複数の熱変色性半導体と、1つまたは複数の安定な顔料を含むブレンドの開発を開示している。より具体的には、欧州特許第1405890号(特許文献5)において、(熱変色性)酸化ビスマスBi2O3を、15:1の比率でCoAl2O4(耐熱性、青色)と組み合わせ、それらの顔料をケイ酸カリウムにより結合する。このブレンドを含むコーティングは、室温では青色であり、400℃では橙に変わる。しかし、酸化ビスマスは容易に使用することができず、高温の油に影響されやすいことが認められており、これは顔料の黒変を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】仏国特許発明第1388029号明細書
【文献】欧州特許第1121576号明細書
【文献】仏国特許発明第2891844号明細書
【文献】欧州特許第0287336号明細書
【文献】欧州特許第1405890号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
先行技術で知られている機能性コーティングの問題を改善するために、本発明は、問題のコーティングが施される物品の使用者を支援およびガイドすることを可能にする、少なくとも1つの装飾的機能性層を含むコーティングを使用者に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明は、少なくとも1つの装飾的機能性層を含むコーティングに関し、
-装飾層が、コーティングが部分的または全体的に低温と高温との間の温度変化にさらされたときに、光学的および/または比色特性の可逆的変化を示す熱変色性組成物を含み、低温が0℃から40℃の間に含まれ、高温が80℃から400℃の間に含まれ、
-熱変色性組成物が、少なくとも1つのハロゲン化銀ファミリーの熱変色性化合物を含む。
【0017】
「熱変色性化合物」または「熱変色性顔料」は、本発明の意味において、温度が上昇または低下したときに光学的および/または比色特性が変化し、この変化が可逆的である、有機または鉱物化合物を意味する。
【0018】
「熱変色性組成物」は、本発明の意味において、温度に応じて光学的および/または比色特性を変化させ、この変化が可逆的である組成物を意味する。
【0019】
有利には、熱変色性化合物は、臭化銀、ヨウ化銀の中から選択することができる。
【0020】
熱変色性化合物としてヨウ化銀を使用することにより、約147℃の鋭い転移温度で顕著な熱変色を得ることができる。この熱変色性化合物の他の利点は、特にフルオロカーボン樹脂またはゾル/ゲル材料との高い適合性、および、例えば酸化ビスマス誘導体の場合のように、保護ケーシングの使用を抑えるその耐油性である。
【0021】
本発明によるコーティングの装飾層は、コーティングが部分的または全体的に、低温(0℃から40℃の間に含まれる)と高温(80℃から400℃の間に含まれる)の間の温度変化にさらされたときに、光学的および/または比色特性の可逆的変化を示す熱変色性組成物を含む。
【0022】
有利には、この高温は、120℃から280℃の間に含まれてもよい。
【0023】
熱変色性組成物において、色相の変化の知覚を改善し、最終結果が人間の目の感度範囲内にあり、使用者がより読み取りやすい装飾を得られるように、利用可能な色相の範囲を拡大するために、ハロゲン化物ファミリーの熱変色性化合物を他の熱変色性化合物および/または耐熱性顔料と組み合わせることができる。
【0024】
有利には、本発明による熱変色性組成物はまた、少なくとも1つの別の熱変色性化合物を含むことができる。例えば、当該熱変色性組成物はまた、少なくとも1つの熱変色性半導体を含むことができ、それはBi2O3、Fe2O3、VO2、V2O5、WO3、CeO2、In2O3、パイロクロア半導体Y1,84Ca0,16Ti1,84V0,16O1,84、BiVO4、およびそれらの混合物の中から選択することができる。
【0025】
有利には、本発明による熱変色性組成物はまた、少なくとも1つの別の耐熱性顔料を含むことができる。
【0026】
「耐熱性顔料」は、本発明の意味において、所定の温度範囲内で温度の上昇または低下にさらされたとき、色相のごくわずかな変化を示すか、もはや色が変化しない、有機または鉱物化合物を意味する。
【0027】
好ましくは、耐熱性顔料は、二酸化チタン、スピネル、酸化鉄、ペリレンレッド、ジオキサジンパープル、混合アルミニウムおよびコバルト酸化物(アルミン酸コバルト(CoAl2O4)など)、カーボンブラック、酸化クロムおよび酸化銅、チタン酸クロム、アンチモン、チタン酸ニッケル、アルミノシリケート、結晶スピネル構造を持つさまざまな金属ベースの無機顔料、並びにそれらの混合物の中から選択することができる。
【0028】
本発明によるコーティングの第1の実施形態によれば、装飾層は、結合剤を含まなくてもよい。
【0029】
本発明によるコーティングの第2の実施形態によれば、装飾層は、熱変色性組成物に加えて、少なくとも1つの結合剤、好ましくは耐熱性結合剤を含むことができる。
【0030】
本発明の意味において、「耐熱性結合剤」とは、少なくとも200℃に耐えることができる結合剤を意味する。
【0031】
結合剤は、エナメル、フルオロカーボン樹脂、樹脂接着剤、ゾル/ゲル法によって合成された無機または有機-無機ハイブリッドポリマー(ゾル/ゲル材料)、ラッカー、縮合型タンニンのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0032】
結合剤は、少なくとも1つのエナメル、少なくとも1つのフルオロカーボン樹脂、少なくとも1つの樹脂接着剤、少なくとも1つのゾル/ゲル法によって合成された無機または有機-無機ハイブリッドポリマー(ゾル/ゲル材料)、少なくとも1つのラッカー、少なくとも1つの縮合型タンニンを含むことができる。
【0033】
有利には、結合剤は、1つのフルオロカーボン樹脂および少なくとも1つの樹脂接着剤および/または少なくとも1つの縮合型タンニンを含むことができる。
【0034】
フルオロカーボン樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルとのコポリマー(MFAなど)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルとのコポリマー(PFAなど)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(PFAなど)、およびそれらの混合物を含む群から選択することができる。
【0035】
樹脂接着剤は、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリベンズイミダゾール(PBI)を含む群から選択することができる。
【0036】
縮合型タンニンは、その基本パターンとして、1つまたは複数のフラバン-3-オールおよび/またはフラバン-3,4-ジオールおよび/またはフロロタンニンモノマー単位を有することができる。
【0037】
有利には、結合剤は、縮合型タンニンを含むことができ、好ましくは、基本パターンとして、1つまたは複数のフラバン-3-オールおよび/またはフラバン-3,4-ジオールおよび/またはフロロタンニンモノマー単位を有する。
【0038】
有利には、結合剤は、金属アルコキシド型ゾル/ゲル前駆体を加水分解し、水および酸または塩基性触媒を導入し、次いで縮合することによって得られるゾル/ゲル組成物を含むことができる。
【0039】
金属アルコキシド型ゾル/ゲル前駆体は、以下の化合物を含む群の中から選択することができる:
- 一般式M1(OR1)nに相当する前駆体、
- 一般式M2(OR2)(n-1)R2’に対応する前駆体、および
- 一般式M3(OR3)(n-2)(R3’)2’に対応する前駆体
であって、式中、
- R1、R2、R3またはR3’はアルキル基を意味し、
- R2’は、任意選択的に官能化されたアルキル基または任意選択的に官能化されたフェニル基を意味し、nは、M1、M2またはM3の最大原子価に対応する整数であり、
- M1、M2、またはM3は、Si、Zr、Ti、Sn、Al、Ce、V、Nb、Hf、Mg、またはランタニド(Ln)の中から選択される元素である。
【0040】
好ましくは、金属アルコキシド型ゾル/ゲル前駆体は、アルコキシシランとすることができ、これは、メチルメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、および(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(GLYMO)、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)並びにそれらの混合物を含む群から選択することができる。
【0041】
有利には、結合剤は、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カリウムの中から選択されるフラックスと混合された、主に酸化ケイ素および酸化チタンを含むことができるエナメルを含むことができる。
【0042】
有利には、結合剤は、シリコーン、ポリエステル、シリコーン-ポリエステルラッカーの中から選択することができるエナメルを含むことができる。
【0043】
有利には、熱変色性組成物の乾燥含有量の、結合剤の乾燥含有量に対する比は、3未満、好ましくは2.25未満、好ましくは2以下、好ましくは1以下とすることができる。
【0044】
装飾層におけるそのような熱変色性組成物/結合剤の比は、ヨウ化銀の色の安定性に著しく影響すると考えられる。
【0045】
有利には、結合剤は、少なくとも1つのフルオロカーボン樹脂を含むことができる。
【0046】
装飾層におけるフルオロカーボン樹脂、特にPTFEの使用は、熱または熱油などのストレスから熱変色性化合物を保護する効果をもたらすと考えられる。
【0047】
有利には、結合剤は、少なくとも1つのフルオロカーボン樹脂を含むことができ、熱変色性組成物の乾燥含有量の、フルオロカーボン樹脂の乾燥含有量に対する比は、3未満、好ましくは2.25未満、好ましくは2以下、好ましくは1以下とすることができる。
【0048】
装飾層におけるそのような熱変色性組成物/フルオロカーボン樹脂の比は、ヨウ化銀の色の安定性に著しく影響すると考えられる。
【0049】
「層」は、本発明の意味において、連続層または不連続層を意味する。連続層(モノリシック層としても知られる)は、それが施される表面を完全に覆う、完全に無地の色を形成する単一の全体である。不連続層(または非モノリシック層)は複数の要素を含むことができるため、単一の全体ではない。
【0050】
有利には、本発明による装飾層は、連続的または不連続的とすることができる。当然ながら、装飾層は、同心円、文字、または描画など、任意の形状にすることができる。装飾層は、連続的な場合、支持体の表面全体を覆うことができる。
【0051】
本発明によるコーティングはまた、装飾の別の層を含むことができる。このように作成された装飾は、少なくとも2つのパターンを含むことができる。第1の変形例によれば、2つのパターンの1つは、温度の上昇および低下に伴い暗くなる化合物を含有し、他方のパターンは、温度の上昇および低下に伴い明るくなる化合物を含有する。したがって、2つのパターン間に生じるコントラストにより、温度変化をより正確に確認することができる。また別の変形例によれば、2つのパターンのうちの一方は、少なくとも1つの熱変色性化合物を含み、他方のパターンは、少なくとも1つの耐熱性顔料を含む。
【0052】
これらの他の装飾層は、結合剤の有無にかかわらず、少なくとも1つの熱変色性化合物および/または少なくとも1つの耐熱性顔料を含むことができる。
【0053】
有利には、本発明によるコーティングは、焦げ付き防止コーティングとすることができる。「焦げ付き防止(non-stick)」または「非粘着性(non-adhesive)」という用語は、本明細書では無差別に使用される。
【0054】
有利には、本発明によるコーティングは耐熱性とすることができる。
【0055】
本発明の意味において、耐熱性コーティングとは、少なくとも200℃に耐えることができるコーティングである。
【0056】
有利には、本発明によるコーティングは、機能性装飾層に加えて、以下を含むことができる:
- アンダーコートまたはタックコートまたはプライマーコートまたはプライマーとして知られる、支持体に直接塗布される少なくとも1つの第1の層。
好ましくは、この層は、支持体に十分に接着し、その機械的特性のすべて(例えば、硬度、耐引っかき性など)に貢献するであろう;および/または
- 仕上げコートまたは仕上げとして知られる、少なくとも1つの連続的かつ透明な表面層であり、この層は、摩耗から保護する一方で、機能性装飾層を完全に可視化する。この層はまた、その焦げ付き防止性をコーティングに与えることができる。
【0057】
本発明によるコーティングは、有機鉱物コーティングまたは完全鉱物コーティングとすることができる。
【0058】
「有機鉱物コーティング」は、本発明の意味において、本質的に無機ネットワークを有するが、特に使用される前駆体およびコーティングが焼成された温度に起因する、または有機物負荷(organic loads)の組み込みに起因する有機基を含むコーティングを意味する。
【0059】
「完全鉱物コーティング」とは、本発明の意味において、いかなる有機基も含まない、完全に無機材料で作られたコーティングを意味する。このようなコーティングは、少なくとも400℃の焼成温度でのゾル/ゲル法によって、または400℃未満でもよい焼成温度でテトラエトキシシラン(TEOS)前駆体から得ることができる。
【0060】
結合剤は、アンダーコートまたは機能性装飾コートまたは仕上げコートのいずれか、もしくは3つすべてのコートまたは3つのうち2つのコートに存在することが想定される。
【0061】
好ましくは、これらの様々な層(したがって、それらのそれぞれの結合剤)は、互いに互換性がある。しかし、すべての層の結合剤が同一であることが絶対に不可欠というわけではない。したがって、アンダーコートおよび/または仕上げコートをゾル/ゲル材料とする一方で、機能性装飾層にシリコーン樹脂結合剤を有することが可能である。
【0062】
本発明はまた、
- 機能性装飾層が部分的または全体的に低温と高温との間の温度変化にさらされたときに、光学的および/または比色特性の可逆的変化を示し、低温は0℃から40℃の間に含まれ、高温は80℃から400℃の間に含まれ、少なくとも1つのハロゲン化銀ファミリーの熱変色性化合物を含む、熱変色性組成物と、
- 少なくとも1つの結合剤と、
を含む機能性装飾層組成物に関する。
【0063】
本発明による熱変色性化合物、高温、別の熱変色性化合物、熱安定顔料、装飾層組成物の結合剤は、本発明によるコーティングに関して定義されたとおりである。
【0064】
有利には、本発明による装飾層組成物の結合剤は、少なくとも1つのフルオロカーボン樹脂を含むことができる。
【0065】
有利には、熱変色性組成物の乾燥含有量の、結合剤の乾燥含有量に対する比は、3未満、好ましくは2.25未満、好ましくは2以下、好ましくは1以下とすることができる。
【0066】
有利には、結合剤は、少なくとも1つのフルオロカーボン樹脂を含むことができ、熱変色性組成物の乾燥含有量の、フルオロカーボン樹脂の乾燥含有量に対する比は、3未満、好ましくは2.25未満、好ましくは2以下、好ましくは1以下とすることができる。
【0067】
本発明はまた、少なくとも1つの本発明によるコーティング、または少なくとも1つの本発明による機能性装飾層組成物を含む物品に関する。
【0068】
有利には、物品は、反対の2つの面を有する支持体を含むことができ、その少なくとも1つは、本発明によるコーティングで覆われている。
【0069】
本発明による様々なタイプの小型家庭用加熱機器は、様々な形状を有し、および様々な材料で作られることが想定される。
【0070】
したがって、使用条件および必要な熱処理に応じて、支持体は、金属材料で作られた支持体、ガラス支持体、セラミック支持体、陶器支持体、プラスチック支持体の中から選択することができる。
【0071】
本発明で使用することができる金属支持体の有利な例は、陽極酸化または非陽極酸化アルミニウム製の支持体(任意選択的に研磨、ブラシ仕上げ、やすりがけ、ビーズブラスト処理またはサンドブラスト処理される)、陽極酸化または非陽極酸化アルミニウム合金支持体(任意選択的に研磨、ブラシ仕上げ、やすりがけまたはサンドブラスト処理される)、スチール支持体(任意選択的に研磨、ブラシ仕上げ、やすりがけ、ビーズブラスト処理またはサンドブラスト処理される)、ステンレス鋼支持体(任意選択的に研磨、ブラシ仕上げ、やすりがけまたはサンドブラスト処理される)、強化鋼、アルミニウムまたは鉄の支持体、銅支持体(任意選択的にハンマー加工または研磨される)が挙げられる。
【0072】
有利には、支持体は、フェライト系ステンレス鋼/アルミニウム/オーステナイト系ステンレス鋼の層を含む支持体、ステンレス鋼/アルミニウム/銅/オーステナイト系ステンレス鋼の層を含む支持体、ステンレス鋼の外底で裏打ちされた、アルミニウム鋳物、アルミニウムまたはアルミニウム合金から作られた鉢、ロール圧接支持体、例えば、ステンレス鋼層(例えば、物品の内側が意図される)および陽極酸化または非陽極酸化されたアルミニウムまたはアルミニウム合金層(例えば、物品の外側が意図される)を含む二層ロール圧接支持体などの中から選択することができる。
【0073】
有利には、物品は、加熱物品、特に小型家庭用加熱機器の物品とすることができる。
【0074】
本発明による小型家庭用加熱機器の物品は、特に、調理器具または小型機器、例えばアイロン、ヘアケアツール、断熱ポット(例えば、コーヒーポット)またはミキシングボウルなどとすることができる。
【0075】
本発明による小型家庭用加熱機器の物品は、特に調理器具、特に支持体の2つの反対の面の一方が内側であり、任意選択的に凹面であり、物品の中または上に入れられ得る食品に隣接して配置されることを意図されており、他方の面は外面であり、任意選択的に凸型であり、熱源の近くに配置されることを意図される。
【0076】
本発明による調理器具の非限定的な例は、鍋およびフライパン、中華鍋およびスキレット、シチュー鍋および釜、クレープパン、ワッフルアイロン、グリドル、焼き型およびベーキングシート、プランチャ、バーベキューグリルおよびトレイ、ラクレットまたはフォンデュ鍋、炊飯器、ジャム調理器、パン焼き機の容器、ミキシングボウルなどの調理器具を含む。
【0077】
本発明による小型家庭用加熱機器は、特に、スチームアイロンまたはスチームアイロンユニットなどの衣類用アイロンとすることができ、本発明にしたがいコーティングされた支持体は、アイロンの底面である。
【0078】
本発明による小型家庭用加熱機器は、特に、カーリングアイロンまたはスムージングアイロンなどのヘアケアツールとすることができ、本発明にしたがいコーティングされた支持体は、ヘアケアツールの加熱プレートの支持体である。
【0079】
本発明はまた、本発明によるコーティングまたは本発明による機能性装飾層組成物の温度インジケータとしての、特に加熱物品上の温度インジケータとしての使用に関する。
【0080】
本発明はまた、支持体の少なくとも1つの面に、本発明によるコーティングを作成するための方法に関し、以下のステップを含むことを特徴とする:
a)ハロゲン化銀ファミリーの熱変色性化合物を含む熱変色性組成物を調製するステップ;
b)熱変色性組成物を含む機能性装飾層組成物を調製するステップ;
c)支持体の面に装飾層組成物を塗布して機能性装飾層を形成するステップ;および
d)焼成するステップ。
【0081】
有利には、機能性装飾層組成物はまた、結合剤、好ましくは耐熱性結合剤を含むことができる。
【0082】
有利には、本発明によるコーティングを作成するための方法はまた、ステップc)とd)との間に、装飾層上への少なくとも1つの仕上げコートの塗布を含んでもよい。
【0083】
有利には、ステップc)で装飾層組成物を塗布する支持体の面は、少なくとも1つのアンダーコートで事前にコーティングされていてもよい。
【0084】
装飾層は、当業者に知られている任意の適切な方法を使用して、特に、スクリーン印刷、噴霧、ローラーの使用、パッド印刷、スクリーンまたはデジタル印刷の手段により、支持体に塗布することができる。
【0085】
「デジタル印刷」とは、本発明の意味において、コンピュータと印刷機との間を連続的に流れるコンピュータデータを使用して直接実施される印刷を意味する。
【0086】
有利には、本発明による耐熱性コーティングのデジタル印刷は、インクジェット法を用いて実施される。
【0087】
本発明の他の利点および特別な特徴は、以下の説明に示されるが、これは、非限定的な例として提供され、本明細書に添付された図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【
図1】
図1は、本発明によるフライパンの一実施形態の例の概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明による単層コーティングの例を備える、
図1のフライパンの概略断面図である。
【
図3】
図3は、本発明による多層コーティングの例を備える、
図1のフライパンの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
図1は、本発明による調理器具の例を示し、フライパン1は、ハンドル4を備えた浅いボウルとして示されている支持体3を含む。支持体3は、フライパン1に置かれ得る食品に向けられた面である内面31と、外部熱源の近くに配置されるべき外面32とを含む。支持体3は、その内面31に、本発明によるコーティング2を含む。
【0090】
図2は、本発明による単層コーティング2の例を備える、
図1のフライパンの概略断面図である。コーティング2は、少なくとも1つのハロゲン化銀ファミリーの熱変色性成分を含む装飾層20を含む。
【0091】
図3は、本発明による多層コーティング2の例を備える、
図1のフライパンの概略断面図である。コーティング2は、アンダーコート22、仕上げコート21、および少なくとも1つのハロゲン化銀ファミリーの熱変色性成分を含む装飾層20を含む。
【実施例】
【0092】
以下の実施例において、本発明をより詳細に説明する。
【0093】
実施例1:耐熱性結合剤を含まないAgIベースの装飾層組成物の調製
耐熱性結合剤を含まない装飾的AgIベース層組成物を、以下に列挙した成分から調製する。
【0094】
【0095】
まず、AgIを水に分散させることにより、装飾ペーストを調製する。
次に、装飾ペーストを他の成分と混合することにより、装飾層組成物を調製する。
【0096】
実施例2:耐熱性結合剤を含まないAgIベースの装飾層組成物の調製
AgIを含み、耐熱性結合剤を含まない装飾層組成物は、以下に列挙する成分から調製される。
【0097】
【0098】
まず、AgIを水に分散させることにより、装飾ペーストを調製する。
次に、装飾ペーストを他の成分と混合することにより、装飾層組成物を調製する。
【0099】
実施例3:耐熱性結合剤を含むAgIベースの装飾層組成物の調製
耐熱性結合剤、PTFEを含む装飾的AgIベース層組成物を、以下に列挙した成分から調製する。
【0100】
【0101】
まず、AgIを水に分散させることにより、装飾ペーストを調製する。
次に、装飾ペーストを他の成分と混合することにより、装飾層組成物を調製する。
【0102】
実施例4:AgIを含む少なくとも1つの装飾層を含むフルオロカーボン樹脂ベースコーティングの調製
様々な装飾層組成物が調製された。これらの組成物は、特に溶媒、水および増粘剤を含む共通のベース配合物を有する。AgIおよびPTFEを、以下に詳述するそれぞれの比率でこのベース配合物に添加した。装飾層組成物は、まずAgIを水に分散させ、次に、得られたペーストを他の成分と混合することにより得られる。
【0103】
【0104】
これらの組成物のそれぞれを、支持体上に付着させたPTFEベースのプライマー上に、パッド印刷により、1層または3層または5層に塗布した。
【0105】
次に、透明なPTFEベースの仕上げを重ねて、コーティングを430℃で11分間焼成した。
【0106】
得られたコーティングは、黒色の背景(アンダーコートに対応)に室温(20℃)で緑青色(vert-de-gris)の装飾を有する。装飾層組成物が単層に形成されたコーティングは、装飾層組成物が複数層に形成されたコーティングよりも明るい緑青色の装飾を有する。
【0107】
得られたコーティングに対して様々な老化試験を実施した。
【0108】
色変化試験:コーティングされた試料を250℃まで焼いた。加熱中に、装飾の色が最初の緑青色から黄/橙へ徐々に変化することが観察され、黒い背景の比色特性は変化しないままであった。色の変化のコントラストは、装飾がPTFEを含む場合に最も顕著である。サンプルを室温まで放冷した。冷却中に黄/橙から最初の緑青色への段階的な色の変化が観察され、黒い背景の比色特性は変化しないままであった。
【0109】
250℃でのピーナッツ油テスト:コーティングされた試料を、250℃まで加熱したピーナッツ油に15時間浸漬した。試験の前後に、パッド印刷領域の外観を調べた。3層および5層構成では、パッド印刷領域に明確な黄変があった。さらに、3層および5層構成のPTFEなしおよびPTFE含有量1(AgI/PTFE比=2.27)のパッド印刷領域上に、特定の汚れが観察された。AgI/PTFE比<2.27を含む装飾層組成物は汚れから保護された。
【0110】
82℃での水試験:コーティングされた試料を82℃の水に48時間浸漬した。試験の前後に、パッド印刷領域の外観を調べた。PTFEを含まない構成およびPTFE含有量1(AgI/PTFE比=2.27)の構成において、均一な白色化が観察された。AgI/PTFE比<2.27を含む装飾層組成物は、この影響から保護されているようであり、対応するパッド印刷領域の色は、欠陥がなく均一であった。