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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20240531BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240531BHJP
   H01L 23/50 20060101ALI20240531BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20240531BHJP
   H01L 25/18 20230101ALI20240531BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20240531BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H01L23/30 D
H01L23/50 K
H01L25/04 C
H01L27/04 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021525939
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018144
(87)【国際公開番号】W WO2020250592
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019108677
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(72)【発明者】
【氏名】大角 嘉蔵
(72)【発明者】
【氏名】西岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 登茂平
(72)【発明者】
【氏名】大野 常久
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-207714(JP,A)
【文献】特開平05-067708(JP,A)
【文献】特開平07-045755(JP,A)
【文献】特開2005-005638(JP,A)
【文献】特開平06-112370(JP,A)
【文献】特開2017-183695(JP,A)
【文献】特開2015-050222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
H01L 23/50
H01L 25/07
H01L 21/822
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電源電圧が供給される第1半導体チップと、
前記第1の電源電圧よりも電位が高い第2の電源電圧が供給される第2半導体チップと、
前記第1半導体チップが搭載されるチップ搭載面を有する第1リードフレームと、
前記第2半導体チップが搭載されるチップ搭載面を有する第2リードフレームと、
前記第1半導体チップと前記第2半導体チップを電気的に接続する接続ボンディングワイヤと、
前記第1リードフレームと前記第2リードフレームの間を埋め込んで、前記第1半導体チップ、前記第2半導体チップ、及び、前記第1リードフレームと前記第2リードフレームそれぞれの前記チップ搭載面の周囲を覆って配置された封止樹脂と、
前記封止樹脂よりも絶縁破壊電圧が高い材料からなり、前記第1リードフレームと前記第2リードフレームの相互に対向する領域の表面を、前記第1の電源電圧が印加される低電圧側領域と前記第2の電源電圧が印加される高電圧側領域が対向して近接する近接領域に限り前記封止樹脂の内部で覆い、前記接続ボンディングワイヤを除いた前記第1半導体チップに接続するボンディングワイヤの前記接続ボンディングワイヤと対向する領域を前記近接領域に限り覆う絶縁保護膜と
を備える、半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁保護膜が、前記封止樹脂の内部で前記第1半導体チップ及び前記第1リードフレームと前記接続ボンディングワイヤの相互に対向する領域の表面を前記近接領域に限り更に覆う、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記絶縁保護膜の材料が、前記封止樹脂の材料の樹脂よりもフィラーの含有率が相対的に低い樹脂である、請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記絶縁保護膜が、前記封止樹脂よりも硬度が低い材料である、請求項1乃至のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1リードフレームと前記第2リードフレームが相互に対向するそれぞれの対向側面と、前記対向側面と連結する他の側面とがなすコーナー部が、R面取りされている、請求項1乃至のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1リードフレームと前記第2リードフレームが相互に対向するそれぞれの対向側面と、前記対向側面に連結する主面とがなすコーナー部が、R面取りされている、請求項1乃至のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
制御チップ、及び前記制御チップが出力する電気信号を内部で磁力に変換した後に前記磁力を電気信号に変換して出力するトランスチップを前記第1半導体チップとして有し、 前記トランスチップの出力する電気信号が入力する前記第2半導体チップが、前記制御チップに制御されてスイッチング素子を駆動する駆動チップとして動作する、
請求項1乃至のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記制御チップと前記駆動チップに挟まれた位置に前記トランスチップが配置され、 前記トランスチップの前記駆動チップと対向する表面、及び、前記トランスチップと前記駆動チップを電気的に接続する前記接続ボンディングワイヤの表面が、前記絶縁保護膜に覆われている、請求項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、樹脂封止される半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)や金属/酸化物/半導体接合電界効果トランジスタ(MOSFET)などのスイッチング素子を駆動させるための半導体装置が広く知られている。スイッチング素子を駆動させる半導体装置は、「ゲートドライバ」とも称される。ゲートドライバには、相対的に低い電源電圧で動作する半導体チップ(以下、「低電圧側チップ」という。)と、スイッチング素子を駆動する相対的に高い電源電圧で動作する半導体チップ(以下、「高電圧側チップ」という。)を有するものがある。
【0003】
例えば、接地電位に対して5V程度の電源電圧で動作する低電圧側チップと、接地電位に対して1000V程度の電源電圧で動作し、低電圧側チップに制御されてスイッチング素子を駆動する高電圧側チップを含むゲートドライバが使用されている。このようなゲートドライバに、低電圧側チップの出力する電気信号を磁力に変換し、この磁力を電気信号に変換して高電圧側チップに出力するトランスチップを含む構成が採用されている(特許文献1参照。)。低電圧側チップと高電圧側チップとの間で電気信号を直接に伝搬させないことにより、低電圧側チップが絶縁破壊されることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-80774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体装置は、モールド成型などにより樹脂封止される。モールド成型の工程において、異物が封止樹脂の内部に混入するおそれがある。このとき、低電圧側チップが配置されたリードフレームと高電圧側チップが配置されたリードフレームとを跨いで異物が混入することにより、低電圧側チップの絶縁破壊が生じるおそれがある。また、低電圧側チップや低電圧側チップに接続するボンディングワイヤと高電圧側チップに接続するボンディングワイヤとの間に異物が混入した場合などにも、低電圧側チップの絶縁破壊が生じるおそれがある。
【0006】
本実施形態は、供給される電源電圧が異なる複数の半導体チップが樹脂封止された半導体装置の絶縁破壊を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の一態様によれば、供給される電源電圧が異なる第1半導体チップ及び第2半導体チップと、第1半導体チップが搭載される第1リードフレームと、第2半導体チップが搭載される第2リードフレームと、第1半導体チップと第2半導体チップを電気的に接続する接続ボンディングワイヤと、第1半導体チップ及び第2半導体チップを覆う封止樹脂と、第1リードフレームと第2リードフレームの相互に対向する領域の表面を近接領域に限り覆う、封止樹脂よりも絶縁破壊電圧が高い材料からなり、接続ボンディングワイヤを除いた第1半導体チップに接続するボンディングワイヤの接続ボンディングワイヤと対向する領域を覆う絶縁保護膜を備える半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、供給される電源電圧が異なる複数の半導体チップが樹脂封止された半導体装置の絶縁破壊を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な側面図である。
図2】実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な平面図である。
図3】異物の混入の例を示す模式図である。
図4】実施形態に係る半導体装置における異物の例を示す模式図である。
図5】異物の混入の他の例を示す模式図である。
図6】異物の混入の他の例を示す模式図である。
図7】実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式図である(その1)。
図8】実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式図である(その2)。
図9】実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式図である(その3)。
図10】実施形態に係る半導体装置のリードフレームの形状の例を示す模式図である。
図11】実施形態に係る半導体装置のリードフレームの形状の他の例を示す模式図である。
図12】実施形態に係る半導体装置を用いた回路例である。
図13】実施形態に係る半導体装置のトランスチップの構成を示す模式的な断面図である。
図14】トランスチップの上部コイルの構成を示す模式的な平面図である。
図15】トランスチップの下部コイルの構成を示す模式的な平面図である。
図16】トランスチップの電極の配置を示す模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部の厚みの比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0011】
また、以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、構成部品の形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この実施形態は、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0012】
実施形態に係る半導体装置1は、図1に示すように、第1の電源電圧が供給されて動作する第1半導体チップ11と、第1の電源電圧よりも電位が高い第2の電源電圧が供給されて動作する第2半導体チップ12を備える。第1半導体チップ11は、例えば接地電位に対して5V~20V程度の電源電圧で動作する低電圧側チップである。一方、第2半導体チップ12は、例えば接地電位に対して600V~1000V程度の電源電圧で動作する高電圧側チップである。以下において、相対的に電位の低い第1の電源電圧が印加される領域を「低電圧側領域」という。また、相対的に電位の高い第2の電源電圧が印加される領域を「高電圧側領域」という。
【0013】
図1に示した半導体装置1は、第1半導体チップ11として制御チップ111とトランスチップ112を有する。トランスチップ112は、制御チップ111から出力された電気信号を磁力に変換した後、その磁力を電気信号に変換する。そして、トランスチップ112は、磁力から変換した電気信号を第2半導体チップ12に出力する。第2半導体チップ12は、制御チップ111の出力する電気信号により動作を制御され、高い電源電圧で動作するスイッチング素子を駆動する。つまり、半導体装置1は、第2半導体チップ12がスイッチング素子を駆動する駆動チップとして動作するゲートドライバである。
【0014】
トランスチップ112は、図1に示すように制御チップ111と第2半導体チップ12に挟まれた位置に配置されている。トランスチップ112は、接続ボンディングワイヤ30によって第2半導体チップ12と電気的に接続されている。
【0015】
トランスチップ112には、例えば、制御チップ111の出力する電気信号を磁力に変換する受信側インダクタと、この磁力を第2半導体チップ12に出力する電気信号に変換する送信側インダクタを有する構造などが採用される。制御チップ111と第2半導体チップ12との間で電気信号を直接に伝搬させないことにより、第2半導体チップ12に供給される高い電圧によって制御チップ111が絶縁破壊されることが防止される。
【0016】
第1半導体チップ11は、第1リードフレーム21のチップ搭載面に搭載されている。制御チップ111及びトランスチップ112は、ダイアタッチ60によって第1リードフレーム21に固着されている。第2半導体チップ12は、第2リードフレーム22のチップ搭載面に搭載されている。第2半導体チップ12は、ダイアタッチ60によって第2リードフレーム22に固着されている。ダイアタッチ60の材料には、銀ペーストなどが好適に使用される。
【0017】
制御チップ111から出力された電気信号は、連結ボンディングワイヤ315を介してトランスチップ112に入力される。そして、トランスチップ112から出力される電気信号が、接続ボンディングワイヤ30を介して第2半導体チップ12に伝送される。
【0018】
図1に示す半導体装置1は、封止樹脂40によって樹脂封止されている。封止樹脂40は、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の間を埋め込んで、第1半導体チップ11、第2半導体チップ12、及び、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22のチップ搭載面の周囲を覆っている。また、制御チップ111と第1リードフレーム21を電気的に接続する第1ボンディングワイヤ311、及び、第2半導体チップ12と第2リードフレーム22を電気的に接続する第2ボンディングワイヤ321が、封止樹脂40によって樹脂封止されている。以下において、低電圧側領域において第1半導体チップ11との電気的接続に使用されるボンディングワイヤ(連結ボンディングワイヤ315、第1ボンディングワイヤ311など)を、「低電圧側ボンディングワイヤ31」という。また、高電圧側領域において第2半導体チップ12との電気的接続に使用されるボンディングワイヤ(接続ボンディングワイヤ30、第2ボンディングワイヤ321など)を、「高電圧側ボンディングワイヤ32」という。
【0019】
図1に示した近接領域Aは、低電圧側領域と高電圧側領域が対向して近接する領域である。半導体装置1では、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の相互に対向する領域の表面が、封止樹脂40の内部で絶縁保護膜50によって覆われている。即ち、近接領域Aにおいて、第1リードフレーム21の第2リードフレーム22と対向する領域の表面と、第2リードフレーム22の第1リードフレーム21と対向する領域の表面が、絶縁保護膜50によって覆われている。更に、近接領域Aにおいて、第1半導体チップ11及び第1リードフレーム21と接続ボンディングワイヤ30との相互に対向する領域の表面が、絶縁保護膜50によって覆われている。このように、半導体装置1では、近接領域Aにおいて導電性の部材の表面が絶縁保護膜50によって覆われている。絶縁保護膜50は、封止樹脂40よりも絶縁破壊電圧が高い材料からなる。
【0020】
封止樹脂40には、例えば、エポキシ系樹脂やシリコーン系樹脂などを採用可能である。一方、絶縁保護膜50には、例えば、基本分子構造に芳香族炭化水素を含む熱可塑性芳香族ポリエーテルアミドイミドなどを採用可能である。半導体装置の封止樹脂として一般的に使用されるエポキシ系樹脂の絶縁破壊電圧が40V/mm程度であるのに対し、熱可塑性芳香族ポリエーテルアミドイミドの絶縁破壊電圧は230kV/mm程度である。
【0021】
また、封止樹脂40にフィラーが混入した樹脂を採用し、絶縁保護膜50にフィラーが混入していない樹脂若しくは封止樹脂40よりもフィラーの含有率が少ない樹脂を採用してもよい。フィラーと樹脂の界面に電荷が蓄積することにより、フィラーを含有する樹脂の絶縁破壊電圧が低下する。このため、封止樹脂40よりフィラーの含有率が相対的に低い樹脂を絶縁保護膜50に採用することにより、絶縁保護膜50を封止樹脂40よりも絶縁破壊電圧が高い材料とすることができる。
【0022】
更に、絶縁保護膜50には、封止樹脂40よりも硬度が低い、柔らかい材料が好ましい。更に、封止樹脂40との密着性の高い材料を絶縁保護膜50に使用することが好ましい。
【0023】
図2に、実施形態に係る半導体装置1の平面図を示す。図2に示す半導体装置1は、封止樹脂40の内部に一方の端部が配置され、他方の端部が封止樹脂40から露出する低電圧側リード端子71及び高電圧側リード端子72を有する。複数の低電圧側リード端子71が、第1接続ボンディングワイヤ312を介して制御チップ111とそれぞれ電気的に接続されている。また、複数の高電圧側リード端子72が、第2接続ボンディングワイヤ322を介して第2半導体チップ12とそれぞれ電気的に接続されている。
【0024】
第1リードフレーム21、第2リードフレーム22、低電圧側リード端子71、高電圧側リード端子72の材料には、例えば銅(Cu)などが使用される。また、ボンディングワイヤの材料には、例えば金(Au)やアルミニウム(Al)などが使用される。
【0025】
封止樹脂40は、モールド成型などにより形成される。このとき、封止樹脂40の内部に異物が混入されることがある。例えば、図3に示すように導電性の異物100が封止樹脂40の内部に混入し、低電圧側領域の第1リードフレーム21と高電圧側領域の第2リードフレーム22が異物100によって短絡される。その場合、第2リードフレーム22に高い電源電圧が供給されると、第1リードフレーム21に搭載された第1半導体チップ11が絶縁破壊されるおそれがある。
【0026】
しかし、実施形態に係る半導体装置1では、図4に示すように、封止樹脂40よりも絶縁破壊電圧が高い材料からなる絶縁保護膜50が、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の相互に対向するそれぞれの領域の表面を覆っている。このため、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22を跨いで導電性の異物100が封止樹脂40の内部に混入しても、第1半導体チップ11が絶縁破壊されることが抑制される。
【0027】
なお、低電圧側領域と高電圧側領域が異物100によって完全に短絡されない場合でも、低電圧側領域と高電圧側領域の間に異物100が混入することにより、低電圧側領域と高電圧側領域の距離が狭くなり第1半導体チップ11が絶縁破壊されるおそれがある。しかし、低電圧側領域と高電圧側領域の対向するそれぞれの表面が絶縁保護膜50によって覆われていることにより、第1半導体チップ11の絶縁破壊が抑制される。
【0028】
また、異物100が導電体ではなくとも、第1リードフレーム21や第2リードフレーム22に異物100が付着することにより、第1リードフレーム21や第2リードフレーム22と封止樹脂40との密着性が低下する。密着性が低下することにより絶縁性も低下する。しかし、第1リードフレーム21や第2リードフレーム22の表面を絶縁保護膜50で覆うことにより、第1半導体チップ11の絶縁破壊が抑制される。
【0029】
なお、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の間だけでなく、図5に示すように、接続ボンディングワイヤ30と第1半導体チップ11の間に異物100が混入した場合にも、第1半導体チップ11が絶縁破壊されるおそれがある。
【0030】
しかし、半導体装置1では、第1半導体チップ11と接続ボンディングワイヤ30との相互に対向する領域の表面が、絶縁保護膜50に覆われている。更に、第1半導体チップ11と同様に、近接領域Aにおいてはダイアタッチ60の表面も絶縁保護膜50に覆われている。このため、第1半導体チップ11と接続ボンディングワイヤ30が異物100を介して短絡することが防止される。その結果、第1半導体チップ11の絶縁破壊が抑制される。
【0031】
また、図6に示すように、接続ボンディングワイヤ30と第1半導体チップ11に接続する低電圧側ボンディングワイヤ31の間に異物100が混入した場合にも、第1半導体チップ11が絶縁破壊されるおそれがある。
【0032】
しかし、半導体装置1では、接続ボンディングワイヤ30を除いた第1半導体チップ11に接続するその他のボンディングワイヤと接続ボンディングワイヤ30との相互に対向する領域の表面が、絶縁保護膜50に覆われている。つまり、近接領域Aにおいて、連結ボンディングワイヤ315の接続ボンディングワイヤ30に近接する領域、及び、接続ボンディングワイヤ30の連結ボンディングワイヤ315に近接する領域が、絶縁保護膜50に覆われている。このため、異物100の混入に起因する接続ボンディングワイヤ30と低電圧側ボンディングワイヤ31の短絡が防止され、第1半導体チップ11の絶縁破壊が抑制される。
【0033】
また、封止樹脂40の形成工程においてボンディングワイヤが屈曲し、ボンディングワイヤが相互に接触することも考えられる。半導体装置1によれば、接続ボンディングワイヤ30と低電圧側ボンディングワイヤ31が変形して接触した場合にも短絡することを抑制できる。
【0034】
以下に、図1に示した半導体装置1の製造方法を説明する。なお、以下に述べる半導体装置の製造方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能である。
【0035】
先ず、図7に示すように、ダイアタッチ工程とワイヤボンディング工程を実施する。即ち、ダイアタッチ工程により、第1リードフレーム21のチップ搭載面に、制御チップ111とトランスチップ112をダイアタッチ60により固着する。また、第2リードフレーム22のチップ搭載面に、第2半導体チップ12をダイアタッチ60により固着する。そして、ワイヤボンディング工程により、第1リードフレーム21と制御チップ111を第1ボンディングワイヤ311で接続し、第2リードフレーム22と第2半導体チップ12を第2ボンディングワイヤ321で接続する。更に、制御チップ111とトランスチップ112を連結ボンディングワイヤ315で接続し、トランスチップ112と第2半導体チップ12を接続ボンディングワイヤ30で接続する。
【0036】
次に、図8に示すように、近接領域Aに含まれる所定の部材の表面に絶縁保護膜50を形成する。即ち、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の相互に対向する領域の表面や、第1半導体チップ11及び第1リードフレーム21と接続ボンディングワイヤ30の相互に対向する領域の表面を覆うように、絶縁保護膜50を形成する。例えば、液状の絶縁保護膜50を近接領域Aに滴下した後、絶縁保護膜50を硬化させる。
【0037】
次いで、図9に示すように、モールド成型により半導体装置1の所定の領域に封止樹脂40を形成する。即ち、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の間を埋め込んで、第1半導体チップ11、第2半導体チップ12、及び、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22のチップ搭載面の周囲を覆うように、封止樹脂40を形成する。以上により、図1に示した半導体装置1が完成する。
【0038】
なお、図10に示すように、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の相互に対向するそれぞれの対向側面と、対向側面と連結する他の側面とがなすコーナー部が、チップ搭載面の面法線方向から見てR面取りされていることが好ましい。第1リードフレーム21と第2リードフレーム22のコーナー部を曲面とすることにより、コーナー部での電界の集中が緩和される。これにより、半導体装置の絶縁耐圧を向上させることができる。なお、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22のコーナー部がC面取りされてもよい。
【0039】
また、図11に示すように、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22の相互に対向するそれぞれの対向側面と、対向側面に連結する主面とがなすコーナー部が、R面取りされていることが好ましい。つまり、半導体チップが搭載される上面と対向側面とがなすコーナー部がR面取りされ、上面に対向する下面と対向側面とがなすコーナー部がR面取りされていることが好ましい。これにより、第1リードフレーム21と第2リードフレーム22のコーナー部での電界の集中が緩和され、半導体装置の絶縁耐圧を向上させることができる。
【0040】
実施形態に係る半導体装置1を用いた回路例を図12に示す。図12に示した回路例では、第1トランジスタT1と第2トランジスタT2が電源電圧Vgtと接地電位の間で縦続接続されている。第1トランジスタT1に接続する電源電圧Vgtは、600V~1000Vである。第1トランジスタT1と第2トランジスタT2のオンオフ状態により、第1トランジスタT1と第2トランジスタT2の接続点である出力端子の電位Voutが設定される。第1トランジスタT1及び第2トランジスタT2は、例えばIGBTやMOSFETである。
【0041】
第2トランジスタT2の動作は、半導体装置2によって制御される。半導体装置2の第2基準電位Vs2は接地電位であり、第2電源電圧Vg2が半導体装置2に供給される。第2電源電圧Vg2の電位は、5V~20V程度である。
【0042】
半導体装置1は、第1トランジスタT1の動作を制御する。半導体装置1は、第1基準電位Vs1が出力端子の電位Voutに設定されて、第1電源電圧Vg1が供給される。第1基準電位Vs1と第1電源電圧Vg1の電位差は、例えば5V~20V程度である。第2トランジスタT2がオン動作し、第1トランジスタT1がオフ状態であるときの第1基準電位Vs1は低い。一方、第1トランジスタT1がオン動作して第2トランジスタT2がオフ状態であるときの第1基準電位Vs1は、電源電圧Vgtに応じて600V~1000V程度の高い電位である。このように、第1トランジスタT1を駆動する第2半導体チップ12に供給される電源電圧は高い。
【0043】
図12に示した回路例において、半導体装置1により、例えば1000Vの電源電圧Vgtに接続された第1トランジスタT1が駆動される。このとき、電気信号と磁力を変換するトランスチップ112を介して、第1半導体チップ11と第2半導体チップ12の間での電気信号の伝送が行われる。このため、第1半導体チップ11の絶縁破壊を抑制することができる。
【0044】
トランスチップ112には、受信側インダクタと送信側インダクタからなる一対のインダクタ(コイル)を誘導結合させることで、絶縁状態による電気信号の伝送を行うインダクタ結合型絶縁素子が好適に使用される。インダクタ結合型絶縁素子では、受信側インダクタにより電気信号を磁力に変換し、この磁力を送信側インダクタにより電気信号に変換する。
【0045】
図13に、トランスチップ112の構成例を示す。トランスチップ112は、半導体基板200に複数の絶縁層210が積層された構成を有する。半導体基板200は、例えばシリコン基板や炭化ケイ素基板である。図13では、半導体基板200に12層の絶縁層210が積層された例を示した。ただし、絶縁層210の層数は12層に限られない。絶縁層210の層数は、トランスチップ112に要求される絶縁耐圧などに応じて設定される。
【0046】
絶縁層210のそれぞれは、エッチングストッパ膜211を下層とし層間膜212を上層として、エッチングストッパ膜211と層間膜212を積層した構成である。エッチングストッパ膜211は、例えば窒化ケイ素(SiN)膜や炭化ケイ素(SiC)膜などである。層間膜212は、例えば二酸化ケイ素(SiO2)膜である。ただし、最下層の絶縁層210は、エッチングストッパ膜211がなく、層間膜212が直接に半導体基板200の主面に配置されている。SiN膜からなるエッチングストッパ膜211は引張応力を有する。SiO2膜からなる層間膜212は圧縮応力を有する。また、エッチングストッパ膜211により、後述するCu配線材料に含まれるCuが層間膜212に拡散することが防止される。
【0047】
トランスチップ112の内部には、図13に示すように、上部コイル221と下部コイル222を一組としたコイル220が配置されている。上部コイル221と下部コイル222とは、複数層の絶縁層210を介して対向している。上部コイル221及び下部コイル222は導電体からなり、平面視で楕円状の渦巻き形状に形成されている。
【0048】
図14に示すように、上部コイル221の中心に、上部コイル221の内側の端部に接続する上部コイル内側配線221Aが配置されている。上部コイル221の外側に、上部コイル221の外側の端部に接続する上部コイル外側配線221Bが配置されている。また、図15に示すように、下部コイル222の中心に、下部コイル222の内側の端部に接続する下部コイル内側配線222Aが配置されている。下部コイル222の外側に、下部コイル222の外側の端部に接続する下部コイル外側配線222Bが配置されている。
【0049】
図13に示すように、上部コイル221及び下部コイル222は、絶縁層210の一つの層を膜厚方向に貫通している。図13に示した例では、半導体基板200側から数えて4層目の絶縁層210に下部コイル222が配置され、11層目の絶縁層210に上部コイル221が配置されている。上部コイル221及び下部コイル222には、例えばCuを主成分とするCu配線材料が使用される。上部コイル221及び下部コイル222の側面に、タンタル(Ta)/窒化タンタル(TaN)/タンタル(Ta)の積層膜などをバリアメタル層として形成してもよい。バリアメタル層により、Cu配線材料に含まれるCuが層間膜212に拡散することが防止される。
【0050】
下部コイル222が配置された絶縁層210の下方の絶縁層210に低電圧電極層241が配置されている。下部コイル内側配線222Aと低電圧電極層241は、中間に位置する絶縁層210を貫通する柱状の第1低電圧配線251により電気的に接続されている。低電圧電極層241は、接地配線260を介して半導体基板200と電気的に接続されている。
【0051】
また、下部低電圧配線242が、下部コイル222が配置された絶縁層210に配置されている。低電圧電極層241と下部低電圧配線242は、中間に位置する絶縁層210を貫通する柱状の第2低電圧配線252により電気的に接続されている。また、上部低電圧配線243が、上部コイル221が配置された絶縁層210に配置されている。下部低電圧配線242と上部低電圧配線243は、中間に位置する絶縁層210を貫通する柱状の第3低電圧配線253により電気的に接続されている。
【0052】
トランスチップ112の上面には、保護絶縁膜290が配置されている。保護絶縁膜290は、パッシベーション膜291の上面にコイル保護膜292を配置した積層構造である。保護絶縁膜290に設けた開口部に露出した最上層の絶縁層210の表面に、低電圧電極240Aと高電圧電極250Aが相互に離間して配置されている。低電圧電極240A及び高電圧電極250Aの材料には、例えばアルミニウム(Al)が用いられる。パッシベーション膜291には、例えば二酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜の積層構造である。コイル保護膜292は、例えばポリイミド膜である。コイル保護膜292はコイル220の上方に配置され、平面視でコイル220はコイル保護膜292によって覆われている。
【0053】
低電圧電極240Aは、下方に配置された上部低電圧配線243と、中間に位置する絶縁層210を貫通する柱状の第4低電圧配線254により電気的に接続されている。つまり、低電圧電極240Aは、上部低電圧配線243、下部低電圧配線242及び低電圧電極層241と、第1低電圧配線251~第4低電圧配線254を介して、下部コイル内側配線222Aと電気的に接続されている。
【0054】
一方、高電圧電極250Aは、下方に配置された上部コイル内側配線221Aと、中間に位置する絶縁層210を貫通する柱状の高電圧配線261により電気的に接続されている。
【0055】
また、図13に示すように、シールド層270が、コイル220、及びコイル220と低電圧電極240Aや高電圧電極250Aを接続する配線を囲んで配置されている。シールド層270の下端と半導体基板200は、シールド接地配線275によって電気的に接続されている。トランスチップ112の内部に配置された配線やシールド層270は、例えばコイル220と同様にCuとバリアメタル層の積層構造を用いる。
【0056】
図16は、トランスチップ112の電極の配置例を示す平面図である。図16に示した低電圧電極240Bは、図示を省略するが、下部コイル内側配線222Aと低電圧電極240Aを接続するのと同様に、トランスチップ112の内部に配置された配線を介して、下部コイルと電気的に接続する。また、高電圧電極250Bは、図示を省略するが、上部コイル内側配線221Aと高電圧電極250Aを接続するのと同様に、トランスチップ112の内部に配置された配線を介して、上部コイルと電気的に接続する。
【0057】
半導体装置1の動作時に、トランスチップ112の低電圧電極240A及び低電圧電極240Bに、制御チップ111から出力される電気信号が入力される。この電気信号は、トランスチップ112の内部に形成された下部コイル222によって磁力に変換される。この磁力は、下部コイル222に対向して配置された上部コイル221によって電気信号に変換される。変換された電気信号は、トランスチップ112の高電圧電極250A及び高電圧電極250Bを介して、第2半導体チップ12に出力される。
【0058】
このように、トランスチップ112において、下部コイル222が受信側インダクタとして機能し、上部コイル221が送信側インダクタとして機能する。したがって、制御チップ111と第2半導体チップ12との間で電気信号が直接に伝搬しない。これにより、第2半導体チップ12に供給される高い電圧により制御チップ111が絶縁破壊されることを防止できる。
【0059】
上記のように、本実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本実施形態を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本実施形態はここでは記載していない様々な実施形態などを含む。
図1
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図12
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図14
図15
図16