(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】ハニカム構造体及び排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20240531BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20240531BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20240531BHJP
C04B 35/195 20060101ALI20240531BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20240531BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20240531BHJP
C04B 41/88 20060101ALI20240531BHJP
F01N 3/027 20060101ALI20240531BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20240531BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
F01N3/24 L ZAB
B01D39/20 D
B01D46/00 302
C04B35/195
C04B37/00 B
C04B38/00 303Z
C04B41/88 S
F01N3/027 C
F01N3/20 D
F01N3/28 301Z
(21)【出願番号】P 2021545111
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2020018451
(87)【国際公開番号】W WO2021049094
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-10-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2019165761
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】市川 周一
(72)【発明者】
【氏名】石原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】青木 良憲
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-13945(JP,A)
【文献】特開2015-178445(JP,A)
【文献】特開2014-117663(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0250631(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
B01D 39/20
B01D 46/00
C04B 35/195
C04B 37/00
C04B 38/00
C04B 41/88
F01N 3/027
F01N 3/20
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個接合して構成されている柱状のハニカム構造体であって、
前記柱状のハニカムセグメントは、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁とを有し、
前記接合材層を構成する接合材が骨材を含有し、
前記骨材は、炭化珪素と磁性体粒子とで構成されており、前記磁性体粒子の含有率が、前記接合材層に対して30~70体積%であり、
前記磁性体粒子は、450℃以上のキュリー点を有し、25℃で20μΩcm以上の固有抵抗値を有し、且つ、1000以上の最大透磁率を有
し、
前記磁性体粒子を含む骨材が、前記ハニカム構造体のガス流路の入り口側の領域に設けられている、または、前記ハニカム構造体のガス流路の出口側の領域に設けられている、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記柱状のハニカム構造体が、更に外周表面にコート層を備え、
前記コート層を構成するコーティング材が、前記磁性体粒子を含む請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記隔壁及び外周壁がセラミックス材料で構成されており、
前記セラミックス材料の熱伝導率が3W/mK以上である請求項1または2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記隔壁及び外周壁がセラミックス材料で構成されており、
前記セラミックス材料の熱膨張係数が3×10
-6以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記隔壁及び外周壁がセラミックス材料で構成されており、
前記セラミックス材料がコージェライト、炭化珪素、珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つである請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及び排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスには、通常は不完全燃焼の結果として一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの有害成分やカーボンなどの微粒子が含まれる。人体への健康被害低減の観点から、自動車排気ガス中の有害ガス成分および微粒子の低減要求が高まっている。
【0003】
しかしながら、現在、これらの有害成分は、特に、エンジン始動直後という、触媒温度が低く、触媒活性が不十分な期間に排出されている。このため、排気ガス中の有害成分が、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるおそれがある。このような要求に応えるためには、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるエミッションを極力低減させることが必要であり、例えば、誘導加熱技術を利用した対策が知られている。
【0004】
このような技術として、特許文献1には、触媒担体ハニカムとして広く使用されているコージェライトハニカムの一部のセルに、磁性体ワイヤーを挿入する技術が提案されている。当該技術によれば、ハニカム外周のコイルに電流を流し、誘導加熱によりワイヤー温度を上昇させ、その熱でハニカム温度を上昇させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2017/0022868号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、ハニカム構造体のセルの一部に磁性体ワイヤーを挿入すると、磁性体ワイヤーが挿入されたセルは排気ガスを流すための流路が犠牲となるため、それだけ圧力損失が増加するという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、圧力損失を良好に抑制することができ、誘導加熱によるカーボン微粒子などの燃焼除去または、ハニカム構造体に担持させる触媒の加熱が可能なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個接合して構成されている柱状のハニカム構造体において、接合材層を構成する接合材が、磁性体粒子を含む構成とすることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のように特定される。
(1)柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個接合して構成されている柱状のハニカム構造体であって、
前記柱状のハニカムセグメントは、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁とを有し、
前記接合材層を構成する接合材が、磁性体粒子を含むハニカム構造体。
(2)外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記柱状のハニカム構造体が、更に外周壁の表面にコート層を備え、
前記コート層を構成するコーティング材が、磁性体粒子を含むハニカム構造体。
(3)多孔質の外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記柱状のハニカム構造体の外周壁の気孔内に磁性体粒子が充填されているハニカム構造体。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0009】
圧力損失を良好に抑制することができ、誘導加熱によるカーボン微粒子などの燃焼除去または、ハニカム構造体に担持させる触媒の加熱が可能なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態の柱状のハニカム構造体の外観模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態のハニカム構造体の軸方向と垂直な断面模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態のハニカムセグメントの目封止部を有するセル及び隔壁における、セルの軸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態のハニカム構造体の軸方向と平行な断面模式図である。
【
図5】(A)は、本発明の別の一実施形態の柱状のハニカム構造体の外観模式図である。(B)は、(A)のハニカム構造体の軸方向と垂直な断面模式図である。
【
図6】(A)は、本発明の更に別の一実施形態の柱状のハニカム構造体の外観模式図である。(B)は、(A)のハニカム構造体の軸方向と垂直な断面模式図である。
【
図7】本発明の更に別の一実施形態のハニカム構造体の軸方向と平行な断面模式図である。
【
図8】本発明の一実施形態のハニカム構造体が組み込まれた排気ガス浄化装置の排気ガス流路の概略図である。
【
図9】実施例に係るハニカム構造体の加熱試験結果を示すグラフである。
【
図10】本発明の一実施形態のハニカム構造体の軸方向と平行な断面模式図である。
【
図11】本発明の一実施形態のハニカム構造体の軸方向と平行な断面模式図である。
【
図12】本発明の一実施形態のハニカム構造体の軸方向と垂直な断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明のハニカム構造体の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0012】
<1.ハニカム構造体>
図1に、本発明の一実施形態の柱状のハニカム構造体10の外観模式図を示す。
図2に、ハニカム構造体10の軸方向と垂直な断面模式図を示す。ハニカム構造体10は、柱状のハニカムセグメント17が、接合材層18を介して複数個接合して構成されている。ハニカムセグメント17は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する多孔質の隔壁12とを有する。
【0013】
ハニカム構造体10の外形は、特に限定されないが、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体10の大きさは、特に限定されないが、中心軸方向長さが40~500mmが好ましい。また、例えば、ハニカム構造体10の外形が円柱状の場合、その端面の半径が50~500mmであることが好ましい。
【0014】
ハニカム構造体10の外形は、ハニカムセグメント17の外径と同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、端面が四角形の柱状のハニカムセグメント17を、接合材層18を介して複数個接合することで、端面が同じく四角形の柱状のハニカム構造体10としてもよい。また、端面が四角形の柱状のハニカムセグメント17を、接合材層18を介して複数個接合して全体で端面が四角形の接合体を形成した後、当該接合体の外周を研削することで、端面が円形の柱状のハニカム構造体10としてもよい。
【0015】
ハニカムセグメント17の隔壁12及び外周壁11の材質については特に制限はないが、多数の細孔を有する多孔質体であることが必要であるため、通常は、セラミックス材料で形成される。例えば、コージェライト、炭化珪素、珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、アルミナ、珪素-炭化珪素系複合材料、炭化珪素-コージェライト系複合材料の、特に珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とする焼結体が挙げられる。本明細書において「炭化珪素系」とは、ハニカムセグメント17が炭化珪素を、ハニカムセグメント17全体の50質量%以上含有していることを意味する。ハニカムセグメント17が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、ハニカムセグメント17が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、ハニカムセグメント17全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、ハニカムセグメント17が炭化珪素を主成分とするというのは、ハニカムセグメント17が炭化珪素(合計質量)を、ハニカムセグメント17全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0016】
ハニカムセグメント17は、セグメント内部まで短時間で加熱させる観点から、熱伝導率が高い方がより好ましい。このための材質としては、炭化珪素、珪素、及び、窒化珪素からなる群から選択される少なくとも1つのセラミックス材料で形成されるのが好ましい。ハニカムセグメント17のセラミックス材料の熱伝導率は、3W/mK以上であることが好ましく、10W/mK以上あることがより好ましい。
【0017】
ハニカムセグメント17は、加熱の際にセラミックス材料と磁性体粒子との熱膨張係数の差異によって発生する熱応力を抑制する観点から、セラミックス材料の熱膨張係数が磁性体粒子の熱膨張係数に値が近い方がより好ましい。このための材質としては、炭化珪素、珪素、及び、窒化珪素からなる群から選択される少なくとも1つ、ムライト、アルミナ等のセラミックス材料で形成されるのが好ましい。ハニカムセグメント17のセラミックス材料の熱膨張係数は、3×10-6以上あることが好ましい。この熱膨張係数は、例えば室温から800℃の範囲で、熱膨張計にて測定される。
【0018】
ハニカムセグメント17のセル15の形状は特に限定されないが、ハニカムセグメント17の中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。
【0019】
ハニカムセグメント17の隔壁12の厚さは、0.10~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.25~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.20mm以上であると、ハニカム構造体10の強度がより向上し、0.50mm以下であると、ハニカム構造体10をフィルタとして用いた場合に、圧力損失をより小さくすることができる。なお、この隔壁12の厚さは、中心軸方向断面を顕微鏡観察する方法で測定した平均値である。
【0020】
また、ハニカムセグメント17を構成する隔壁12の気孔率は、30~70%であることが好ましく、製造の容易さの点で40~65%であることが更に好ましい。隔壁12の気孔率が30%以上であると、圧力損失が減少しやすく、70%以下であると、ハニカム構造体10の強度を維持できる。
【0021】
また、多孔質の隔壁12の平均細孔径は、5~30μmであることが好ましく、10~25μmであることが更に好ましい。5μm以上であると、フィルタとして用いた場合に、圧力損失を小さくすることができ、30μm以下であると、ハニカム構造体10の強度を維持できる。なお、本明細書において、「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0022】
ハニカムセグメント17のセル密度は、5~93セル/cm2の範囲であることが好ましく、5~63セル/cm2の範囲であることがより好ましく、31~54セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。ハニカムセグメント17のセル密度が5セル/cm2以上であると、圧力損失が減少しやすく、93セル/cm2以下であると、ハニカム構造体10の強度を維持できる。
【0023】
図3に示すように、ハニカムセグメント17は、一方の端面側が開口して他方の端面に目封止部38を有する複数のセルAと、セルAとそれぞれ交互に配置され、他方の端面側が開口して一方の端面に目封止部39を有する複数のセルBとを備えてもよい。セルA及びセルBは隔壁12を挟んで交互に隣接配置されており、両端面は市松模様を形成する。セルA及びセルBの数、配置、形状等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。このようなハニカム構造体10は、排気ガスを浄化するフィルタ(ハニカムフィルタ)として用いることができる。なお、ハニカム構造体10は、ハニカムフィルタとして用いない場合は、目封止部38、39を設けなくてもよい。
【0024】
本実施形態のハニカム構造体10は、隔壁12の表面及び/又は隔壁12の細孔内に触媒が担持されたものであってもよい。
【0025】
触媒の種類については特に制限はなく、ハニカム構造体10の使用目的や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、貴金属系触媒又はこれら以外の触媒が挙げられる。貴金属系触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)といった貴金属をアルミナ細孔表面に担持し、セリア、ジルコニア等の助触媒を含む三元触媒や酸化触媒、又は、アルカリ土類金属と白金を窒素酸化物(NOx)の吸蔵成分として含むNOx吸蔵還元触媒(LNT触媒)が例示される。貴金属を用いない触媒として、銅置換又は鉄置換ゼオライトを含むNOx選択還元触媒(SCR触媒)等が例示される。また、これらの触媒からなる群から選択される2種以上の触媒を用いてもよい。なお、触媒の担持方法についても特に制限はなく、従来、ハニカム構造体に触媒を担持する担持方法に準じて行うことができる。
【0026】
ハニカム構造体10は、隔壁12の表面の少なくとも一部において、通気性を有する表面層を有してもよい。ここで、通気性を有するとは、表面層のパーミアビリティーが、1.0×10-13m2以上であることをいう。圧力損失をさらに低減する観点から、パーミアビリティーが、1.0×10-12m2以上であることが好ましい。表面層が通気性を有することで、表面層に起因するハニカム構造体10の圧力損失を抑制することができる。
【0027】
また、本明細書において「パーミアビリティー」は、下記式(1)により算出される物性値をいい、所定のガスがその物(隔壁12)を通過する際の通過抵抗を表す指標となる値である。ここで、下記式(1)中、Cはパーミアビリティー(m2)、Fはガス流量(cm3/s)、Tは試料厚み(cm)、Vはガス粘性(dynes・sec/cm2)、Dは試料直径(cm)、Pはガス圧力(PSI)を示す。なお、下記式(1)中の数値は、13.839(PSI)=1(atm)であり、68947.6(dynes・sec/cm2)=1(PSI)である。
【0028】
【数1】
パーミアビリティーを測定する際には、表面層つきの隔壁12を切り出し、この表面層つきの状態で、パーミアビリティーを測定した後、表面層を削りとった状態でのパーミアビリティー測定を行い、表面層と隔壁基材の厚さの比率と、これらのパーミアビリティー測定結果から、表面層のパーミアビリティーを算出する。
【0029】
表面層の気孔率は、50%以上であることが好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。50%以上の気孔率を有することで、圧力損失を抑えることができる。ただし、気孔率が高すぎると表面層が脆くなり、はがれやすくなるので、90%以下とすることが好ましい。
【0030】
水銀圧入法により表面層の気孔率を測定する方法として、表面層と基材とを有するサンプルでの水銀ポロシカーブと、表面層のみを削って取り除いた基材のみの水銀ポロシカーブの差を表面層の水銀ポロシカーブとみなし、削りとった質量と水銀ポロシカーブとから表面層の気孔率が算出される。SEM画像撮影を行い、表面層部分の画像解析により、空隙部と個体部の面積比率から表面層の気孔率を算出しても良い。
【0031】
また、表面層の平均細孔直径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、4μm以下であることがさらに好ましく、3μm以下であることが特に好ましい。平均細孔直径を10μm以下とすることで、高い粒子捕集効率を達成することができる。ただし、表面層の平均細孔直径が小さすぎると圧力損失が増加してしまうので、0.5μm以上とすることが好ましい。
【0032】
水銀圧入法により表面層の平均細孔直径を測定する方法として、水銀ポロシメータでのピーク値という形にして、表面層つきでの水銀ポロシカーブ(細孔容積頻度)と表面層のみを削って取り除いた基材のみの水銀ポロシカーブの差を表面層の水銀ポロシカーブとし、そのピークを平均細孔直径とする。また、ハニカム構造体10の断面のSEM画像を撮影し表面層部分の画像解析により、空隙部と個体部の2値化を行い、ランダムに20以上の空隙を選択してその内接円の平均を平均細孔直径としても良い。
【0033】
また、表面層の厚みは特に限定されない。ただし、表面層の効果をより顕著に得るためには、表面層の厚みが10μm以上であることが好ましい。一方、圧力損失の増加を回避する観点から、表面層の厚みが80μm以下であることが好ましい。表面層の厚みはより好ましくは50μm以下である。表面層の厚みの測定方法として、例えば表面層が形成されたハニカム構造体10を、セル15が伸びる方向に垂直な方向に切断して、その断面から表面層の厚みを測定し、任意の5点の厚みの測定値の平均を取ることができる。
【0034】
図4は、ハニカム構造体10の軸方向と平行な断面模式図である。ハニカム構造体10は、接合材層18を構成する接合材が、磁性体粒子21を含んでいる。このような構成によれば、ハニカム外周のコイルに電流を流し、誘導加熱により磁性体粒子21の温度を上昇させ、その熱でハニカム温度を上昇させることができる。また、ハニカム構造体10は、磁性体粒子21が、セル15内ではなく、接合材層18内の接合材の構成成分として含まれているため、圧力損失に影響を及ぼさない。
【0035】
ハニカムセグメント17を複数個接合する接合材層18を構成する接合材は、骨材22を含有し、骨材22の少なくとも一部が磁性体粒子21で構成されていてもよい。このような構成によれば、接合材層の体積を増加させることなく磁性体を接合材層へ設けることができ、また、製造効率が良好となる。また、骨材22の40~100体積%が磁性体粒子21で構成されていているのが好ましく、60~100体積%で構成されているのがより好ましい。磁性体粒子が上記40~100体積%であると、渦電流損への寄与が十分に得られ、より良好な加熱特性が得られる。
【0036】
骨材22としては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカムセグメント17と同材質であることがより好ましい。骨材が導電性を有していることで渦電流損による加熱特性への寄与があることや、熱膨張において磁性体粒子との差が比較的小さいことをふまえ、骨材としては炭化珪素がより好ましい。
【0037】
接合材層18を構成する接合材は、骨材同士を接着するために、無機バインダを含有するのが好ましい。無機バインダとしては、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナのようなコロイダル粒子が好適に用いられる。
【0038】
接合材層18を構成する接合材は、磁性体粒子21を含む骨材22の他に、例えば、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、無機バインダ、有機バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスファイバーの添加は応力緩和の機能付与に有効であり、REACH規制対応の観点からアルミナファイバー、マグネシウムシリケートファイバー等が好適に用いられる。有機バインダとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)などを挙げることができる。
【0039】
ハニカム構造体10の接合材層18は、全ての、隣接するハニカムセグメント17の間に設けられているが、これらすべての接合材層18が磁性体粒子21を含むのが好ましい。このような構成によれば、ハニカム構造体10の誘導加熱効率がより良好となる。また、隣接するハニカムセグメント17の間の全ての接合材層18が磁性体粒子21を含む必要はなく、所望の誘導加熱効率に応じて適宜設計することができる。
【0040】
また、ハニカム構造体10の接合材層18は、ハニカム構造体10の軸方向に沿うように設けられているが、磁性体粒子21を含む骨材22を、当該ハニカム構造体10の軸方向において、全体に設けてもよく、一部の領域に設けてもよい。磁性体粒子21を含む骨材22を、ハニカムセグメント17の軸方向の全体に設けると、ハニカムセグメント17の誘導加熱効率がより良好となる。磁性体粒子21を含む骨材22を、ハニカムセグメント17の軸方向の一部の領域に設ける場合、例えば、ハニカムセグメント17のガス流路の入り口側の領域に設けると、ガス流れの開始位置で加熱されたガスがハニカムセグメント17の出口側まで進むため、ハニカムセグメント17全体を効率よく加熱することができる。また、ハニカムセグメント17のガス流路の出口側はススが溜まりやすいため、磁性体粒子21を含む骨材22を当該出口側の領域に設けると、より効果的にハニカムセグメント17内に溜まるススを除去することができる。また、磁性体粒子21を含む骨材22を、ハニカムセグメント17の軸方向の一部に設けると、ハニカム構造体10を排気ガス浄化装置として用いたときに、ハニカム構造体10の外周に設けるコイルをコンパクトにすることができる。
【0041】
ハニカム構造体10の接合材層18は、
図4に示す形態では、磁性体粒子21と骨材とが均等に混ざり合うように設けられているが、これに限られない。すなわち、
図10に示すように、接合材層18において、ハニカム構造体10の軸方向に沿って、磁性体粒子21と骨材22とがそれぞれ片側に偏在して設けられていてもよい。
【0042】
磁性体粒子21の含有率が、接合材層18に対して30~70体積%であるのが好ましい。磁性体粒子21の含有率が、接合材層18に対して30体積%以上であると、ハニカム構造体10の誘導加熱効率がより良好となる。磁性体粒子21の含有率が、接合材層18に対して70体積%以下であると、接合強度や応力緩和の効果を発現しやすくなり、好ましい。
【0043】
磁性体粒子21は、450℃以上のキュリー点を有するのが好ましい。磁性体粒子21が450℃以上のキュリー点を有すると、ハニカム構造体10に担持させる触媒を加熱させることが可能になるのはもちろん、セル15内に捕集されたPM(粒子状物質)を燃焼除去してハニカム構造フィルタを再生させることが容易となる。450℃以上のキュリー点を有する磁性体材料としては、例えば、残部Co-20質量%Fe、残部Co-25質量%Ni-4質量%Fe、残部Fe-15~35質量%Co、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-18質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-27質量%Co-1質量%Nb、残部Fe-20質量%Co-1質量%Cr-2質量%V、残部Fe-35質量%Co-1質量%Cr、純コバルト、純鉄、電磁軟鉄、残部Fe-0.1~0.5質量%Mn、残部Fe-3質量%Si、残部Fe-6.5質量%Si、残部Fe-18質量%Cr、残部Ni-13質量%Fe-5.3質量%Mo,残部Fe-45質量%Ni等がある。ここで、磁性体材料のキュリー点は、強磁性の特性を失う温度を指す。
【0044】
磁性体粒子21は、25℃で20μΩcm以上の固有抵抗値を有するのが好ましい。このような構成によれば、誘導加熱による発熱量をより高くすることができる。25℃で20μΩcm以上の固有抵抗値を有する磁性体材料としては、例えば、残部Fe-18質量%Cr、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-20質量%Cr-2質量%Si-2質量%Mo、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、残部Fe-18質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-18質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo等がある。
【0045】
磁性体粒子21は、1000以上の最大透磁率を有するのが好ましい。このような構成によれば、ハニカム構造体10を誘電加熱した際、水分が気化する温度(約100℃)まで、さらには触媒が活性化する温度(約300℃)まで、短時間に温度を上昇させることができる。1000以上の最大透磁率を有する磁性体材料としては、例えば、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、49質量%Co-49質量%Fe-2質量%V、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni、残部Fe-35質量%Cr、残部Fe-18質量%Cr等がある。
【0046】
磁性体粒子21は、磁場により磁化され、磁場の強さにより磁化の状態も変わる。これを表したものが「磁化曲線」である。磁化曲線は、横軸には磁場Hを目盛り、縦軸には、磁束密度Bを目盛る場合(B-H曲線)がある。磁性材料に全く磁場が加えられていない状態を消磁状態といい原点Oで表す。磁場を加えていくと、原点Oから、磁束密度が増加していき飽和する曲線を描く。この曲線が「初磁化曲線」である。初磁化曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾きが「透磁率」である。透磁率は、磁場が浸透するといったような意味合いで、磁性材料の磁化のしやすさの目安となる。原点付近の磁場が小さい所での透磁率が「初透磁率」であり、初磁化曲線上で最大となる透磁率が「最大透磁率」である。
【0047】
ハニカム構造体10は、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、外周表面にコート層32を備えても良い。コート層32を構成する材料は特に限定されず、種々の公知のコーティング材を適宜使用することができる。コーティング材は、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0048】
ハニカム構造体10は、コート層32を構成するコーティング材が、磁性体粒子21を含んでもよい。より好ましくは、コーティング材が、磁性体粒子を含む接合材である。このような構成によれば、ハニカム構造体10の誘導加熱効率がより良好となる。コート層32を構成するコーティング材に用いる当該接合材は、接合材層18を構成する接合材として上述したものと同様の材料を用いることができる。
【0049】
図6(A)に、本発明の別の一実施形態の柱状のハニカム構造体20の外観模式図を示す。
図6(B)に、ハニカム構造体20の軸方向と垂直な断面模式図を示す。ハニカム構造体20は、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する多孔質の隔壁12とを有する。ハニカム構造体20は、更に外周壁11の表面にコート層42を備えている。コート層42を構成するコーティング材が、磁性体粒子21を含んでいる。このような構成によれば、ハニカム構造体20のハニカム外周のコイルに電流を流し、誘導加熱により磁性体粒子21の温度を上昇させ、その熱でハニカム温度を上昇させることができる。また、ハニカム構造体20は、磁性体粒子21が、セル15内ではなく、コート層42内のコーティング材の構成成分として含まれているため、圧力損失を良好に抑制することができる。
【0050】
図7に、ハニカム構造体20の軸方向と平行な断面模式図を示す。ハニカム構造体20のコート層42を構成するコーティング材は、上述のハニカム構造体10で用いた接合材層18の接合材と同様に、骨材22を含有し、骨材22の少なくとも一部が磁性体粒子21で構成されていてもよい。また、コート層42において、磁性体粒子21は、ハニカム構造体20の軸方向に均一に分布していても良く、またハニカム構造体20の軸方向の一部の領域に設けてもよい。磁性体粒子21を含む骨材22を、ハニカム構造体20の軸方向の全体に設けると、ハニカム構造体20の誘導加熱による加熱効率がより良好となる。磁性体粒子21を含む骨材22を、ハニカム構造体20の軸方向の一部の領域に設ける場合、例えば、ハニカム構造体20のガス流路の入り口側の領域に設けると、ガス流れの開始位置で加熱されたガスがハニカム構造体20の出口側まで進むため、ハニカム構造体20全体を効率よく加熱することができる。また、ハニカム構造体20のガス流路の出口側はススが溜まりやすいため、磁性体粒子21を含む骨材22を当該出口側の領域に設けると、より効果的にハニカム構造体20内に溜まるススを除去することができる。また、磁性体粒子21を含む骨材22を、ハニカム構造体20の軸方向の一部に設けると、ハニカム構造体10を排気ガス浄化装置として用いたときに、ハニカム構造体20の外周に設けるコイルをコンパクトにすることができる。このような構成によれば、コート層42の体積を増加させることなく磁性体をコート層42へ設けることができ、また、製造効率が良好となる。
【0051】
ハニカム構造体20のコート層42は、
図7に示す形態では、磁性体粒子21と骨材とが均等に混ざり合うように設けられているが、これに限られない。すなわち、
図11に示すように、コート層42において、ハニカム構造体20の軸方向に沿って、磁性体粒子21と骨材22とがそれぞれ片側に偏在して設けられていてもよい。これによりハニカム構造体20を排気ガス浄化装置として用いたときに、ハニカム構造体20の外周に設けるコイルをコンパクトにすることができる。
【0052】
<2.ハニカム構造体の製造方法>
本発明の実施形態におけるハニカム構造体10の製造方法について詳細に説明する。まず、多孔質の隔壁を有し、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を作製する。例えば、コージェライトからなるハニカム構造体を作製する場合には、まず、坏土用材料としてコージェライト化原料を用意する。コージェライト化原料は、コージェライト結晶の理論組成となるように各成分を配合するため、シリカ源成分、マグネシア源成分、及びアルミナ源成分等を配合する。このうちシリカ源成分としては、石英、溶融シリカを用いることが好ましく、更に、このシリカ源成分の粒径を100~150μmとすることが好ましい。
【0053】
マグネシア源成分としては、例えば、タルク、マグネサイト等を挙げることができる。これらの中でも、タルクが好ましい。タルクは、コージェライト化原料中37~43質量%含有させることが好ましい。タルクの粒径(平均粒子径)は、5~50μmであることが好ましく、10~40μmであることが更に好ましい。また、マグネシア(MgO)源成分は、不純物としてFe2O3、CaO、Na2O、K2O等を含有していてもよい。
【0054】
アルミナ源成分としては、不純物が少ないという点で、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの少なくとも一種を含有するものが好ましい。また、コージェライト化原料中、水酸化アルミニウムは10~30質量%含有させることが好ましく、酸化アルミニウムは0~20質量%含有させることが好ましい。
【0055】
次に、コージェライト化原料に添加する坏土用材料(添加剤)を用意する。添加剤として、少なくともバインダと造孔剤を用いる。そして、バインダと造孔剤以外には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。
【0056】
造孔剤としては、コージェライトの焼成温度以下において酸素と反応して酸化除去可能な物質、又は、コージェライトの焼成温度以下の温度に融点を有する低融点反応物質等を用いることができる。酸化除去可能な物質としては、例えば、樹脂(特に、粒子状の樹脂)、黒鉛(特に、粒子状の黒鉛)等を挙げることができる。低融点反応物質としては、鉄、銅、亜鉛、鉛、アルミニウム、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の金属、これらの金属を主成分とする合金(例えば、鉄の場合には炭素鋼や鋳鉄、ステンレス鋼)、又は、二種以上を主成分とする合金を用いることができる。これらの中でも、低融点反応物質は、粉粒状又は繊維状の鉄合金であることが好ましい。更に、その粒径又は繊維径(平均径)は10~200μmであることが好ましい。低融点反応物質の形状は、球状、巻菱形状、金平糖状等が挙げられ、これらの形状であると、細孔の形状をコントロールすることが容易となるため好ましい。
【0057】
バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。また、分散剤としては、例えば、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸を挙げることができる。なお、添加剤は、一種単独又は二種以上用いることができる。
【0058】
次に、コージェライト化原料100質量部に対して、バインダを3~8質量部、造孔剤を3~40質量部、分散剤を0.1~2質量部、水を10~40質量部の割合で混合し、これら坏土用材料を混練し、坏土を調製する。
【0059】
次に、調製した坏土を、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等でハニカム形状に成形し、生のハニカム成形体を得る。連続成形が容易であり、例えばコージェライト結晶を配向させることができることから、押出成形法を採用することが好ましい。押出成形法は、真空土練機、ラム式押出成形機、2軸スクリュー式連続押出成形機等の装置を用いて行うことができる。
【0060】
次に、ハニカム成形体を乾燥させて所定の寸法に調整してハニカム乾燥体を得る。ハニカム成形体の乾燥は、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等で行うことができる。なお、全体を迅速且つ均一に乾燥することができることから、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥と、を組み合わせて乾燥を行うことが好ましい。
【0061】
次に、ハニカム乾燥体を焼成してハニカム焼成体を作製する。次に、このハニカム焼成体のそれぞれをハニカムセグメントとして利用し、複数のハニカムセグメントの側面同士を、磁性体粒子を含む接合材からなる接合材層で接合して一体化し、複数のハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体とする。ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体は、例えば以下のように製造することができる。
【0062】
まず、各ハニカムセグメントの両底面に接合材付着防止用マスクを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。接合材は、磁性体粒子を含む骨材の他に、例えば、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製することができる。
【0063】
次に、これらのハニカムセグメントを、ハニカムセグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するハニカムセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するハニカムセグメントの側面同士が接合材層によって接合されたハニカム構造体を作製する。
【0064】
接合材付着防止用マスクの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、マスクは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。接合材付着防止用マスクとしては、例えば厚みが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0065】
また、得られたハニカム構造体は、その外周面に外周壁が形成された状態で作製される場合には、その外周面を研削し、外周壁を取り除いた状態としてもよい。このようにして外周壁を取り除いたハニカム構造体の外周に、後の工程にて、コーティング材を塗布してコート層を形成する。また、外周面を研削する場合には、外周壁の一部を研削して取り除き、その部分に、コーティング材によってコート層を形成してもよい。それ以外の手段として、
図12に示すように、ハニカム構造体の外周から、後の工程にて磁性体粒子をスラリーとして含侵させることにより、多孔質の外周壁とその近傍のセルの隔壁の気孔内に磁性体粒子が充填された状態としてもよい。これにより、柱状のハニカム構造体の外周壁の気孔内に磁性体粒子が充填されているハニカム構造体30を作製することができる。
【0066】
コーティング材を調製する場合には、例えば、2軸回転式の縦型ミキサーを用いて調製することができる。また、コーティング材には、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0067】
ハニカム構造体の外周面に、コーティング材を塗布し、塗布したコーティング材を乾燥させて、コート層を形成する。このように構成することによって、乾燥・熱処理時のコート層のクラックの発生を効果的に抑制することができる。また、コーティング材として、接合材層を形成した接合材と同様の磁性体粒子を含んだ材料を用いることで、コート層を構成するコーティング材が磁性体粒子を含むハニカム構造体を作製してもよい。
【0068】
コーティング材の塗工方法としては、例えば、ハニカム構造体を回転台の上に載せて回転させ、コーティング材をブレード状の塗布ノズルから吐出させながらハニカム構造体の外周部に沿うように塗布ノズルを押し付けて塗布する方法を挙げることができる。このように構成することによって、コーティング材を均一な厚さで塗布することができる。また、形成した外周コーティングの表面粗さが小さくなり、外観に優れ、且つ熱衝撃によって破損し難い外周コーティングを形成することができる。
【0069】
塗布したコーティング材を乾燥する方法については特に制限はないが、例えば、乾燥クラック防止の観点から、室温にて24時間以上保持することでコーティング材中の水分の25%以上を乾燥させた後、電気炉にて600℃で1時間以上保持することで水分及び有機物を除去する方法を好適に用いることができる。
【0070】
ハニカム構造体に触媒を担持する場合、当該触媒の担持方法については特に制限はなく、従来のハニカム構造体の製造方法にて行われている触媒担持の方法に準じて行うことができる。
【0071】
<3.排気ガス浄化装置>
上述した本発明の実施形態に係るハニカム構造体を用いて排気ガス浄化装置を構成することができる。
図8は、例として、ハニカム構造体10が組み込まれた排気ガス浄化装置50の排気ガス流路の概略図を示している。排気ガス浄化装置50は、ハニカム構造体10とハニカム構造体10の外周を螺旋状に周回するコイル配線54とを有する。また、排気ガス浄化装置50は、ハニカム構造体10及びコイル配線54を収容する金属管52を有する。金属管52の拡径部52aに排気ガス浄化装置50を配置することができる。コイル配線54は固定部材55によって金属管52内に固定されてもよい。固定部材55は、セラミック繊維等の耐熱性部材であることが好ましい。ハニカム構造体10は触媒を担持してもよい。
【0072】
コイル配線54は、ハニカム構造体10の外周に螺旋状に巻かれる。2以上のコイル配線54が用いられる形態も想定される。スイッチSWのオン(ON)に応じて交流電源CSから供給される交流電流がコイル配線54に流れ、この結果として、コイル配線54の周囲には周期的に変化する磁界が生じる。なお、スイッチSWのオン・オフが制御部53により制御される。制御部53は、エンジンの始動に同期してスイッチSWをオンさせ、コイル配線54に交流電流を流すことができる。なお、エンジンの始動とは無関係に(例えば、運転手により押される加熱スイッチの作動に応じて)制御部53がスイッチSWをオンする形態も想定される。
【0073】
本開示においては、コイル配線54に流れる交流電流に応じた磁界の変化に応じてハニカム構造体10が昇温する。これによりハニカム構造体10により捕集されるカーボン微粒子などが燃焼する。また、ハニカム構造体10が触媒を担持する場合、ハニカム構造体10の昇温は、ハニカム構造体10に含まれる触媒担体より担持された触媒の温度を高め、触媒反応が促進される。端的には、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、炭化水素(CH)が、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、水(H2O)に酸化又は還元される。
【実施例】
【0074】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1>
42mm角、長さ85mm、隔壁厚さが0.1mm、隔壁間距離が約1mmの柱状のコージェライト製ハニカムセグメントを準備した。次に、平均粒径8μmの磁性体粉末(組成:残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo)と平均粒径6μmの炭化珪素粉末とを、質量比率2:1で混合し、さらにコロイダルシリカ、平均長さ200μmのアルミナファイバー、カルボキシメチルセルロース、水を混合して接合材を調製した。上記ハニカムセグメントを、この接合材で接着し、接合体を得た。得られた接合体を、直径82mmの円柱形状になるように外周を加工し、ハニカム構造体を得た。
次に、誘導加熱装置を用いて、直径100mmの誘導加熱コイルで当該ハニカム構造体の加熱試験を行い、ハニカム構造体の端面の温度を赤外線温度計で測定した。投入電力は、14kWとし、誘導加熱周波数は30kHzで、ハニカム構造体の昇温性能を測定した。
図9に、時間(秒)-温度(℃)の関係を表したグラフを示す。
【符号の説明】
【0076】
10、20、30 ハニカム構造体
11 外周壁
12 隔壁
15 セル
17 ハニカムセグメント
18 接合材層
21 磁性体粒子
22 骨材
32、42 コート層
38、39 目封止部
50 排気ガス浄化装置
52 金属管
53 制御部
54 コイル配線
55 固定部材