(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】プラズモン効果を有する光学セキュリティコンポーネント、そのようなコンポーネントの製造、そのようなコンポーネントを備えたセキュリティオブジェクト
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240531BHJP
B42D 25/328 20140101ALI20240531BHJP
【FI】
G02B5/18
B42D25/328 100
(21)【出願番号】P 2021568434
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2020063060
(87)【国際公開番号】W WO2020229415
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-12
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521498058
【氏名又は名称】シュリス
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エス-サイジ,スーカイナ
(72)【発明者】
【氏名】ブレーズ,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】マシアス,デメトリオ
(72)【発明者】
【氏名】ル キャンフ,ロイック
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-275740(JP,A)
【文献】特開2013-174683(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102007061979(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第106255568(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0021660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B42D 25/328
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の屈折率(n
1)を有する、誘電材料の少なくとも1つの透明な第1の層(113)であって、スタンピングワニスの層である前記第1の層と、
厚さが20nm~150nmであって、第2の屈折率(n
2)を有し、誘電材料の前記第1の層と接触している、誘電材料の少なくとも1つの透明な第2の層(114)と、
誘電材料の前記少なくとも1つの第2の層と接触している金属層(115)と、を備え、
少なくとも第1の観察面(100
A)を介して反射において肉眼で検査することが可能なプラズモン効果光学セキュリティコンポーネント(101)であって、
前記第2の屈折率と前記第1の屈折率との差が0.5以上であり、
誘電材料の前記第1の層(113)、誘電材料の前記第2の層、および前記金属層は、第1の誘電体-誘電体-金属二重界面(I)を形成し、
前記第1の誘電体-誘電体-金属二重界面(I)は、第1の誘電体-誘電体界面と第1の誘電体-金属界面とを含み、かつ、少なくとも1つの第1の結合領域(Z
1)において、第1の方向(X)および第2の方向(Y)を有する第1の2次元結合回折格子(C
1)を形成するように構成され、
前記第1の2次元結合回折格子(C
1)は、前記第1の方向に150nm~350nmの第1の周期(p
x)と、前記第2の方向に150nm~350nmの第2の周期(p
y)とを有し、第1の観察面(100
A)は、前記第1の層(113)に対し、前記第1の2次元結合回折格子(C
1)が形成された側とは反対側に位置し、
前記第1の2次元結合回折格子(C
1)は、第1の共鳴スペクトルバンドにおいて前記少なくとも1つの第1の誘電体-金属界面で第1のプラズモン共鳴効果が生じるように決定され、
誘電材料の前記少なくとも1つの第2の層は、前記第1の2次元結合回折格子(C
1)によって前記第1の共鳴スペクトルバンドとは異なる第2の共鳴スペクトルバンドでハイブリッドプラズモン共鳴効果を生じるように、厚さが決定される、
プラズモン効果光学セキュリティコンポーネント。
【請求項2】
第2の誘電体-金属界面が形成されるように前記金属層(115)と接触している誘電材料の透明な第3の層(116)をさらに備え、前記第2の誘電体-金属界面は、前記少なくとも1つの第1の結合領域において、前記第1の2次元結合回折格子のように構成されている、請求項1に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項3】
第3の屈折率(n
3)を有する、誘電材料の透明な第3の層(116)と、
厚さが20nm~150nmであり、第4の屈折率(n
4)を有する、誘電材料の透明な第4の層(117)と、をさらに備え、
前記第4の屈折率と前記第3の屈折率との差が0.5以上であり、
誘電材料の前記第4の層(117)は、前記金属層(115)と接触し、誘電材料の前記第3の層(116)は、誘電材料の前記第4の層(117)と接触し、
誘電材料の前記第3の層、誘電材料の前記第4の層、および前記金属層は、第2の誘電体-誘電体-金属二重界面を形成し、
前記第2の誘電体-誘電体-金属二重界面は、第2の誘電体-誘電体界面と第2の誘電体-金属界面とを含み、かつ、前記少なくとも1つの第1の結合領域において、前記第1の2次元結合回折格子(C
1)のように構成されている、
請求項1に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項4】
前記金属層は、前記金属層(115)のいずれかの側の前記第1の誘電体-金属界面および前記第2の誘電体-金属界面によって支持される表面プラズモンモードと結合して共鳴透過効果を生じさせることができるだけの十分な薄さである、請求項2または3に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項5】
前記少なくとも1つの第1の2次元結合回折格子はディスシンメトリである、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項6】
前記少なくとも1つの第1の2次元結合回折格子の前記第1の周期と前記第2の周期が異なる、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、少なくとも1つの第2の領域(Z
2)において、前記第1の2次元結合回折格子とは異なる構造を形成するように構成され、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記少なくとも1つの第1の結合領域(Z
1)及び前記少なくとも1つの第2の領域(Z
2)を通して連続したまま維持されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項8】
前記少なくとも1つの第2の領域(Z
2)の前記構造は、前記第1の2次元結合回折格子とは異なる第2の結合回折格子(C
2)を含む、請求項7に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項9】
前記光学セキュリティコンポーネントは、前記第1の観察面からの反射において、所与の観察角度で、前記第1の結合領域において第1の色相角で第1の色効果を有するとともに、前記第2の領域において第2の色相角で第2の色効果を有し、前記第2の色相角は、少なくとも20°に等しい値で前記第1の色相角とは異なる、請求項7または8に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記第1の結合領域に隣接する少なくとも1つの領域(Z
3)では構成されておらず、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記少なくとも1つの第1の結合領域及び前記少なくとも1つの領域(Z
3)を通して連続したまま維持されている、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記第1の結合領域を含む、複数の隣接領域を形成するように構成され、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記複数の隣接領域すべてを通して連続したまま維持されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項12】
前記複数の領域のすべての領域は、認識可能なパターンを形成している、請求項11に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項13】
前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記少なくとも1つの第1の結合領域で、前記第1の2次元結合回折格子(C
1)によって変調された回折型の第1の構造を形成するように構成されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネント。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の少なくとも1つの光学セキュリティコンポーネントを含み、例えば価値のあるドキュメントなどのオブジェクトの安全を確保することを意図した、光学セキュリティ要素。
【請求項15】
基材(91)と、
前記基材上に設けられた、請求項14に記載の光学セキュリティ要素(92)または請求項1~13のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネントと、
を含む、例えば価値のあるセキュリティドキュメントなどのセキュリティオブジェクト。
【請求項16】
前記基材は、直交する2本の軸を有する矩形状であり、前記2本の軸は、前記光学セキュリティコンポーネントの前記少なくとも1つの第1の2次元結合回折格子の前記方向と平行でない、請求項15に記載のセキュリティオブジェクト。
【請求項17】
前記基材は、直交する2本の軸を有する矩形状であり、前記2本の軸は、前記光学セキュリティコンポーネントの前記少なくとも1つの第1の2次元結合回折格子の前記方向と平行である、請求項15に記載のセキュリティオブジェクト。
【請求項18】
光学セキュリティコンポーネントを製造するための方法であって、前記光学セキュリティコンポーネントは、請求項1~13のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネントであり、前記方法は、
誘電材料の前記第1の層(113)であって、スタンピングワニスの層である前記第1の層を形成し、
前記少なくとも第1の結合領域に、前記第1の2次元結合回折格子(C
1)を形成するように前記誘電材料の前記第1の層(113)をスタンプによりエンボス加工し、
誘電材料の前記第1の層の上に、誘電材料の前記第2の層(114)を蒸着し、
誘電材料の前記第2の層の上に、前記第1の誘電体-誘電体-金属二重界面を形成するように前記金属層(115)を蒸着することを含む、方法。
【請求項19】
光学セキュリティコンポーネントを認証するための方法であって、前記光学セキュリティコンポーネントは、請求項1~13のいずれか1項に記載の光学セキュリティコンポーネントであり、前記方法は、
前記光学セキュリティコンポーネントに自然光を照射し、直線偏光子を通して、偏光方向に応じた
、前記第1のプラズモン共鳴効果及び前記ハイブリッドプラズモン共鳴効果によって生じる色効果
の色の変化を観察する工程を含むか、
または、
前記光学セキュリティコンポーネントに直線偏光を照射し、偏光方向に応じた
、前記第1のプラズモン共鳴効果及び前記ハイブリッドプラズモン共鳴効果によって生じる色効果
の色の変化を観察する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、プラズモン共鳴光学セキュリティコンポーネントと、そのようなコンポーネントを製造するための方法とに関する。本明細書による光学セキュリティコンポーネントは、価値のあるオブジェクトの認証を可能にするセキュリティマーク、より正確には、反射および透過の少なくとも一方での観察による肉眼での認証に特に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
価値のあるオブジェクト、特に銀行券や渡航ドキュメント(パスポート、IDカードなどの身分証明書)などの価値のあるドキュメントを認証できるようにする技術、あるいは、ラベルのマーキングによる製品の認証を可能にする多くの技術が知られている。これらの技術は、特徴的かつ検証可能な構成を採用した観測パラメータ(観測軸に対する方向、光源の位置および寸法など)に応じて光学効果を有する光学セキュリティコンポーネントを製造することを目的としている。これらの光学コンポーネントの一般的な目標は、偽造者が再現または模倣することが困難な物理的構成を使用して、差別化された新たな効果を生み出すことにある。
【0003】
これらのコンポーネントの中でも、いわゆる「プラズモン共鳴」を利用した光学セキュリティコンポーネントであるプラズモン共鳴光学セキュリティコンポーネントは、反射または透過で、ナノメートルサイズの金属パターンと入射光波との相互作用時にバルクプラズモンまたは表面プラズモンの励起に起因する色効果を生み出すことができる。このようにして作られた色は「構造的」であると呼ばれ、観測パラメータに応じて変化するという利点があり、これにより認証が容易になる。さらに、例えばホログラムコンポーネントなどの純粋な回折効果に基づく光学セキュリティコンポーネントとは異なり、プラズモン共鳴光学セキュリティコンポーネントには、0次での視覚効果を生む利点があり(鏡面反射または直接透過)、構造の寸法が極めて小さいため再現しにくいが、認証は容易である。
【0004】
このため、本出願人による欧州特許出願公開第2771724号には、可視光下で直接反射での観察を想定し、誘電材料の透明な層と十分な厚さのある連続した金属層とを備え、誘電材料の層と金属-誘電体界面をなす光学セキュリティコンポーネントが記載されている。金属層は、界面において、2つの方向に伸びて各々の方向にサブ波長周期の2次元結合回折格子を形成する2組のコルゲート構造を形成するように構成されている。各方向の周期は、所与のスペクトルバンドで、金属-誘電体界面で伝搬するプラズモンモードに対する入射光波の結合を最適化するように決定される。欧州特許出願公開第2771724号に記載されている光学セキュリティコンポーネントで機能するさまざまな物理的メカニズムを用いると、反射でバンドストップフィルタを形成することができ、結合された放射線は金属層に吸収される。このようにして、本出願人は、特徴的な黄色または紫色の色効果が得られることを示した。
【0005】
本出願人による欧州特許出願公開第2695006号には、プラズモン共鳴光学セキュリティコンポーネントについても記載されているが、このコンポーネントは、透過観察を意図したものである。このように記載された光学セキュリティコンポーネントでは、金属層が誘電材料の2層の間に配置され、2つの誘電体-金属界面を形成している。この例では、金属層は十分に薄く、2つの誘電体-金属界面に支持される表面プラズモンモードを入射光波に結合させることのできるコルゲート構造を形成するように構成されている。結合条件が満たされると、光エネルギーは連続した金属層を通過することができ、結果として、透過ピークが発現する。よって、これは共鳴透過の問題である。
【0006】
本出願人による欧州特許出願公開第3099513号には、反射で、前側と後ろ側に異なる視覚効果を生むプラズモン共鳴光学セキュリティコンポーネントが記載されている。この光学セキュリティコンポーネントは、上述した例と同様に、誘電材料の透明な2層の間に配置されて2つの誘電体-金属界面を形成する金属層を備える。この例では、金属層は、第1の結合領域において、その各方向にディスシンメトリプロファイルを有する第1の結合回折格子を形成し、かつ、第2の結合領域において、その各方向にディスシンメトリプロファイルを有するとともに第1の結合回折格子とは異なる第2の結合回折格子を形成するように構成されている。第2の結合回折格子は、例えば、第1の結合回折格子のネガ型である。そのようなコンポーネントは、第1結合領域および第2の結合領域において、当該第1結合領域および第2の結合領域でどちら側からコンポーネントを観察しても安定した状態に保たれる共鳴透過効果を有する。対照的に、結合回折格子のプロファイルのディスシンメトリ性、および、第1の結合領域と第2の結合領域における第1の結合回折格子と第2の結合回折格子のディスシンメトリプロファイルが異なることから、コンポーネントの一方の側から反射で観察すると、領域に依存して変化する色効果が見られ、コンポーネントを各々の側から観察すると、2つの領域間で色効果が反転するようになっている。
【0007】
同欧州特許出願公開第3099513号には、金属層の上で、例えば認識可能なパターンの形をしたもののような輪郭を描かれたゾーンに、他よりも屈折率が低いかまたは高い誘電材料の層を蒸着することについても記載されている。これにより、上述したゾーンの共鳴透過スペクトルバンドがシフトし、異なる色効果が得られる。
【0008】
本明細書は、特に反射において、従来技術の光学セキュリティコンポーネントで説明されたものと比較して、独自で特徴的な色効果を生み出すプラズモン共鳴光学セキュリティコンポーネントを提供し、訓練を受けていない利用者が、肉眼での認証を含めて、さらに容易かつ信頼性の高い認証を行うことができるようにする。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様によれば、本明細書は、プラズモン効果光学セキュリティコンポーネントに関し、前記コンポーネントは、少なくとも第1の観察面を介した反射において肉眼で検査することが可能なものである。
【0010】
第1の態様による光学セキュリティコンポーネントは、
第1の屈折率を有する、誘電材料の少なくとも1つの透明な第1の層と、
厚さが20nm~150nmであって、第2の屈折率を有する、誘電材料の第2の層であって、誘電材料の前記第1の層と接触している、誘電材料の少なくとも1つの透明な前記第2の層と、
誘電材料の前記少なくとも1つの第2の層と接触している金属層と、を備え、
前記第2の屈折率と前記第1の屈折率との差が0.5以上である。
【0011】
本発明によれば、誘電材料の前記第1の層、誘電材料の前記第2の層および前記金属層は、第1の誘電体-誘電体-金属二重界面を形成し、前記第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、第1の誘電体-誘電体界面と第1の誘電体-金属界面とを含み、かつ、少なくとも1つの第1の結合領域において、第1の方向および第2の方向を有する第1の2次元結合回折格子を形成するように構成され、第1の2次元結合回折格子は、第1の方向に150nm~350nmの第1の周期と、第2の方向に150nm~350nmの第2の周期とを有する。
【0012】
本発明によれば、前記第1の結合回折格子は、第1の共鳴スペクトルバンドにおいて前記少なくとも1つの第1の誘電体-金属界面で第1のプラズモン共鳴効果が生じるように決定され、誘電材料の前記少なくとも1つの第2の層は、前記第1の結合回折格子によって、前記第1のスペクトルバンドとは異なる第2の共鳴スペクトルバンドでハイブリッドプラズモン共鳴効果を生じるように厚さが決定される。
【0013】
本明細書では、誘電材料の前記第1の層を誘電材料の「低屈折率」層とも称し、誘電材料の前記第2の層を誘電材料の「高屈折率」層とも称する。より一般的には、いわゆる誘電材料の「高屈折率」層は、当該誘電材料の層が接触するいわゆる誘電材料の「低屈折率」層との関係においてのみ定義され、誘電材料の高屈折率層の屈折率と誘電材料の低屈折率層の屈折率との差は0.5以上である。
【0014】
本出願人は、誘電材料の高屈折率層に十分な厚さを選択すると、誘電体-金属界面におけるプラズモン共鳴の第1のスペクトルバンドがシフトするだけでなく、第1のスペクトルバンドとは異なる第2スペクトルバンドにおける「ハイブリッド」プラズモン共鳴効果と呼ばれる第2のプラズモン共鳴効果が生じることを示した。本出願人は、(従来技術で説明されている)第1のプラズモン共鳴効果が生じている間は、電磁場が金属の表面に局在することを示した。第2プラズモン共鳴効果が生じている間には、電磁場のエネルギーは金属の表面では最大のままであるが、誘電材料の高屈折率層にも分散するため、「ハイブリッド」効果という用語になる。
【0015】
本明細書の意味の範囲内で、共鳴スペクトルバンドを、光学セキュリティコンポーネントに白色光を垂直入射で照射したときに、そのコンポーネントの正規化反射率曲線に谷が観察される連続した波長範囲と定義することができる。この谷は、正規化反射率の値が厳密に0.2(すなわち20%)より大きい量だけ異なる連続した極大値と極小値によって特徴付けられる。それぞれの共鳴スペクトルバンドごとに、そのスペクトルバンドにおける、正規化反射率が最小値になる波長に対応する中心共鳴波長を定義することが可能である。異なる共鳴スペクトルバンドとは、本明細書で使用する場合、少なくとも50nm離れた共鳴中心波長を有する2つのスペクトルバンドをそれぞれ意味する。
【0016】
2つの異なるスペクトルバンドが存在することで、特に光学セキュリティコンポーネントが反射で観察される場合、独自の色効果、すなわち従来技術で観察されるものと比較して独自の色効果、が得られ、特に、染料または顔料を加えることなく色相角が120°~320°の色が得られる。
【0017】
本明細書では、誘電材料の透明層を、可視スペクトルバンド、すなわち400nm~800nm、に含まれる波長において、透過率が少なくとも70%で好ましくは少なくとも80%を有する層として定義する。
【0018】
本明細書では、2次元回折格子または「交差型」回折格子とは、二方向にのびる2組の周期的なコルゲート構造の重なりによって定義される回折格子である。各組のコルゲート構造について、コルゲート構造に垂直な方向と、周期に反比例するノルムとを有する格子ベクトルを定義することが可能である。
【0019】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第1の2次元回折格子のプロファイルは、それぞれの方向に連続的に変動し、このタイプのプロファイルを用いると、特にプラズモンモードのより良い伝搬が可能になる。例えば、各方向における前記少なくとも1つの第1の回折格子のプロファイルは、正弦波または準正弦波、すなわちデューティ比が0.5以外、である。デューティ比とは、コルゲート構造の1つの谷と1つの山とを含む期間であり、山と谷の平均値よりも高い値を有する長さの、当該期間に対する比率として定義される。
【0020】
通常、本明細書における前記少なくとも1つの第1の2次元回折格子は、シンメトリ、アシンメトリまたはディスシンメトリであってもよい。本明細書において、シンメトリとは、観察面を介して見たときの前記少なくとも1つの第1の結合回折格子の外観が、観察面の反対側の面を介して見たときの外観と同一であることである。ディスシンメトリとは、観察面を介して見たときの前記少なくとも1つの第1の結合回折格子の外観が、観察面の反対側の面を介して見たときの外観とは異なることを意味する。そのようなディスシンメトリ格子は、例えば、本出願人による欧州特許第3099513号に記載されている。これは、各方向に中心対称性(つまり、一点を基準とした対称性)を持たないプロファイルが特徴である。アシンメトリとは、一方向に、ある周期で、立ち上がりエッジが立ち下がりエッジとは異なるコルゲート構造を持つ回折格子(いわゆる「ブレーズド」回折格子)を意味する。
【0021】
1つ以上の実施例によれば、結合回折格子の第1の方向および第2の方向は、実質的に直交する。このように、2次元回折格子は、卵箱に似た形状の構造を形成する。実質的に直交とは、第1の方向と第2の方向とが90°±5°の角度をなすことを意味する。正方形のユニットセルの場合、このような光学セキュリティコンポーネントの色効果は、方位回転が0°~90°の間は安定している。長方形の(正方形ではない)ユニットセルの場合、方位回転が0°~90°の間にも色効果の変化を観察可能である。他の実施例によれば、結合回折格子の第1の方向と第2の方向が90°以外の角度をなしていてもよく、例えば30°~60°の角度をなす。
【0022】
1つ以上の実施例によれば、誘電材料の第2の高屈折率層の屈折率と誘電材料の第1の低屈折率層の屈折率との間の差は、0.8以上である。これによって、屈折率の差が0.5の場合に可能な厚さよりも薄い誘電材料の高屈折率層の厚さでハイブリッドモードを励起することが可能である。
【0023】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの誘電材料の第2の高屈折率層は、厚さが20nm~100nmである。具体的には、100nmを超えると、誘電材料の高屈折率層によって非構造化領域に不要な色相が生じるおそれがある。実際には、前記少なくとも1つの誘電材料の第2の高屈折率層の厚さを、40nm~100nmの間に含まれるようにすればよい。
【0024】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの誘電材料の第2の高屈折率層は、例えば、硫化亜鉛(ZnS)、二酸化チタン(TiO2)または窒化ケイ素(Si3N4)の層を蒸着または真空蒸着することによって得られる。誘電材料の高屈折率層を形成することができる材料の他の例が知られており、例えば、米国特許第4856857号に開示されている。
【0025】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの誘電材料の第1の低屈折率層は、例えば接着剤または樹脂など、屈折率がおおむね1.4~1.6である有機層を、例えば蒸着や真空蒸着などによって得られる。誘電材料の低屈折率層を形成することができる材料の例は公知であり、例えば米国特許第4856857号に開示されている。
【0026】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの誘電材料の第2の高屈折率層は、第1および第2共鳴バンドとは別の第3の共鳴バンドにおいて、誘電材料の高屈折率層における導波モードの共鳴効果を可能にするのに十分な厚さである。いくつかの実施例では、他の色相角で色効果を生じさせる目的で、第3の共鳴バンドの存在を求めることができる。対照的に、他の実施例では、前記少なくとも1つの誘電材料の第2の高屈折率層の厚さを制限して、導波モードの共鳴の影響を回避し、色効果が第1のプラズモン共鳴効果とハイブリッドプラズモン共鳴効果だけから生じるようにする。
【0027】
1つ以上の実施例によれば、光学セキュリティコンポーネントは、第2の誘電体-金属界面が形成されるように、誘電材料の第2の高屈折率層と接触する金属層の面とは反対側の面を介して前記金属層と接触している誘電材料の透明な第3の層をさらに備え、この誘電材料の透明な第3の層は、第3の屈折率を有し、前記第2の誘電体-金属界面は、前記少なくとも1つの第1の結合領域において、前記第1の結合回折格子のように構成されている。
【0028】
そして、第1の観察面の反対側にある第2の観察面を通して、第2の誘電体-金属界面でのプラズモン共鳴効果によって生じる色効果を反射で観察することができる。
【0029】
1つ以上の実施例によれば、光学セキュリティコンポーネントは、第3の屈折率を有する誘電材料の透明な第3の層と、厚さが20nm~150nmであり、第4の屈折率を有する、誘電材料の透明な第4の層と、をさらに備え、第4の屈折率と第3の屈折率との差が0.5以上である。誘電材料の前記第4の(高屈折率)層は、誘電材料の第2の層と接触している金属層の面と反対の面を介して金属層と接触し、誘電材料の前記第3の(低屈折率)層は、誘電材料の前記第4の層と接触する。したがって、誘電材料の前記第3の低屈折率層、誘電材料の前記第4の高屈折率層および前記金属層は、第2の誘電体-誘電体-金属二重界面を形成し、第2の誘電体-誘電体-金属二重界面は、第2の誘電体-誘電体界面と第2の誘電体-金属界面とを含み、かつ、前記少なくとも1つの第1の結合領域において、第1の結合回折格子のように構成されている。
【0030】
そうすると、第1の観察面の反対側にある第2の観察面を介して、第2の誘電体-金属界面でのプラズモン共鳴効果による色効果を反射で観察することができ、また、十分に厚い誘電材料の第4の高屈折率層の場合には、ハイブリッドプラズモン共鳴効果を反射で観察することができる。
【0031】
1つ以上の実施例によれば、誘電材料の第4の高屈折率層の厚さは、誘電材料の第2の高屈折率層の厚さとは異なる。したがって、第1の観察面を介してコンポーネントを見た場合と、第1の観察面とは反対側の第2の観察面を介して見た場合とで、見える色が変わるようにすることが可能である。回折格子がディスシンメトリであると、第2の観察面から見た回折格子のプロファイル次第で色が決まる場合もある。
【0032】
1つ以上の実施例によれば、金属層は、入射光を波長に依存する最大残留透過率2%で誘電体-誘電体-金属の二重界面から反射させることができるだけの十分な厚さを持つ「厚い」ものである。この場合、光学セキュリティコンポーネントを透過で観察することはできない。ただし、金属層以外のすべての層が透明であれば、それぞれの観察面を介して反射で観察することができる。
【0033】
1つ以上の実施例によれば、金属層は、この金属層のいずれかの側の第1および第2の誘電体-金属界面によって支持される表面プラズモンモードと結合できるだけの十分な薄さである。反射での色効果に加えて、観察面に関係なく同一である透過での色効果も観察され、この色効果は、共鳴透過効果に起因する。
【0034】
1つ以上の実施例によれば、金属層は、アルミニウム、銀、金、銅、クロムおよびニッケルから選択される金属を含む。金属層を形成することができる材料の他の例は公知であり、例えば、米国特許第4856857号に開示されている。
【0035】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第1の結合回折格子の前記第1の周期と前記第2の周期は異なる。格子の方向が直交する場合、ユニットセルは正方形ではなく長方形になる。本出願人は、ハイブリッド共鳴効果が、格子ベクトルが入射面に直交するような方向の周期に強く依存することを示した。第1の方向と第2の方向の周期が異なるため、正方形のユニットセルでは観察できない色を実現することができる。さらに、(正方形ではない)長方形のユニットセルでは、0°~90°の間でコンポーネントを方位回転させることで、色の変化を観察することができる。
【0036】
したがって、1つ以上の実施例によれば、光学セキュリティコンポーネントは、前記第1の観察面からの反射において、例えば垂直入射などの所与の観察角度で、第1の色相角が所与の第1の方位角にある第1の色効果を有し、かつ、第2の色相角が所与の第2の方位角にある第2の色効果を有し、第2の色相角は、例えば少なくとも20°に等しく、30°であると都合がよい所与の最小値で、第1の色相角とは異なる。第1の方位角は例えば0°であり、第2の方位角は例えば90°である。所与の方向とコンポーネントに垂直な方向とを含む平面に入射面が一致する場合、結合回折格子の前記方向に対して方位角は0°である。
【0037】
1つ以上の実施例によれば、前記第1の結合回折格子の深さと前記第1の周期または前記第2の周期との比(第1の方向および第2の方向の一方におけるアスペクト比)は、10%~80%であり、例えば10%~50%である。
【0038】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、少なくとも1つの第2の領域において、前記第1の結合回折格子とは異なる構造を形成するように構成され、前記少なくとも1つの第1の二重界面は、前記領域すべてを通して連続したまま維持されている。
【0039】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第2の領域は、前記第1の結合領域と隣接している。
【0040】
本明細書において、「連続した」二重界面とは、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属界面を形成するすべての層が、前記領域すべてを通して連続したまま維持される、すなわち中断がないことを意味する。
【0041】
1つ以上の実施例によれば、第2の領域の前記構造は、第1の結合回折格子とは異なる第2の結合回折格子で形成されている。
【0042】
第2の結合回折格子は、格子のプロファイル、方位角方向、格子の深さ、および第1の方向または第2の方向の周期を含む、第2の回折格子のパラメータの少なくとも1つが、第1の結合回折格子の対応するパラメータとは異なる点で、第1の結合回折格子とは異なる。
【0043】
例えば、第2の結合回折格子は、第1の結合回折格子と同様に、第1の方向と第2の方向を有し、第1の方向に150nm~350nmの第1の周期と、第2の方向に150nm~350nmの第2の周期があり、反射で第1の結合回折格子によって生じる第1の色効果とは異なる第2の色効果を生じるように格子パラメータが最適化され、例えば、第2の色は、第1の結合領域で生じた第1の色の色相角から少なくとも30°異なる色相角になる。
【0044】
1つ以上の実施例によれば、第2の領域の前記構造は、入射光を散乱するように構成された構造、あるいは、0次またはより高次で回折する回折構造で形成されている。
【0045】
したがって、少なくとも第1の観察面を介して、特に反射において、2つの領域で異なる色効果を観察することが可能である。領域間の色効果の違いは、印刷ではなく構造の違いによって生じるものであることから、観察者が2つの領域を完全に対応させて観察することができる点が注目に値する。
【0046】
このように、1つ以上の実施例によれば、光学セキュリティコンポーネントは、前記第1の観察面からの反射に、例えば垂直入射などの所与の観察角度で、第1の結合領域において第1の色相角で第1の色効果を有するとともに、前記第2の領域において第2の色相角で第2の色効果を有し、第2の色相角は、例えば少なくとも20°に等しく、30°であると都合がよい値などの所与の最小値だけ、第1の色相角とは異なる。
【0047】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記第1の結合領域に隣接する少なくとも1つの領域では構成されておらず、前記少なくとも1つの第1の二重界面は、前記領域すべてを通して連続したまま維持されている。
【0048】
上記と同様に、領域間の違いは印刷ではなく構造の違いによるものであることから、観察者は、色のついた領域と無色の反射領域(構成されていないため無色)を、領域間を完全に対応させて観察することができる。
【0049】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記第1の結合領域を含む、複数の隣接領域を形成するように構成され、前記少なくとも1つの第1の二重界面は、前記領域すべてを通して連続したまま維持されている。複数の領域がなす領域は、例えば、認識可能なパターンを形成する。前記第1の結合領域以外の1つ以上の領域には、少なくとも1つの構造化領域および少なくとも1つの非構造化領域の少なくとも一方が含まれていてもよい。
【0050】
一般に、前記第1の結合領域を含む複数の異なる領域では、所与の一方位角でのみ情報を出現させること、および、前側(第1の観察面を介する観察)と後ろ側(前記第1の観察面とは反対側にある第2の観察面を介する観察)とで異なる情報を出現させること、の少なくとも一方が可能である。例えば、ドキュメントを片面から観察した場合にのみ情報を出現させることが可能である。
【0051】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記少なくとも1つの第1の結合領域で、前記第1の結合回折格子によって変調された第1の微細構造を形成するように構成されている。
【0052】
1つ以上の実施例によれば、前記第1の微細構造は回折構造である。例えば、回折型の第1の微細構造は、例えば本出願人による欧州特許第2567270号に記載されているように、レリーフオブジェクトのレリーフ画像をシミュレートするように構成された、あるいは、例えば本出願人による欧州特許第3129238号または本出願人によるフランス特許第3066954号に記載されているように、例えば光学セキュリティコンポーネントが傾いたときにグラフィック視覚オブジェクトが動いているように見えるなどの動的な視覚効果を生むように構成されたバスレリーフを含む。また、回折型の第1の微細構造には、例えば本出願人によるフランス特許第3051565号に記載されているような、コンピュータで合成されたホログラムなどの回折要素を備えてもよく、より一般的には、回折型の微細構造であればどのようなものであっても備え得る。
【0053】
1つ以上の実施例によれば、前記第1の微細構造は、光散乱効果を生むようにランダムに分布された微細構造を含む。そのような微細構造は、例えば、本出願人による欧州特許第2836371号に記載されている。これにより、光学効果の視錐台が拡大される。
【0054】
1つ以上の実施例によれば、光学セキュリティコンポーネントは、ドキュメントまたは製品のセキュリティを高めるのに適しており、観察面とは反対側の面に、ドキュメントまたは製品にコンポーネントを転写するのに適した層、例えば、永久接着剤の層または反応性接着剤の層をさらに備える。
【0055】
さらに、1つ以上の実施例によれば、光学セキュリティコンポーネントは、観察面の側に、コンポーネントがドキュメントまたは製品に転写された後に剥離されることが想定された支持フィルムも含む。
【0056】
1つ以上の実施例によれば、光学セキュリティコンポーネントは、銀行券のセキュリティを高めるためのセキュリティスレッドの製造に適しており、観察面側および観察面とは反対側の少なくとも一方の面上に、1つ以上の保護層を備える。
【0057】
第1の態様による光学セキュリティコンポーネントは、さらに、用途ごとの必要に応じて、1つ以上の透明な層を追加で備えてもよく、このような追加の層は、需要のある視覚効果には寄与しない。
【0058】
第2の態様によれば、本明細書は、第1の態様による少なくとも1つの光学セキュリティコンポーネントを備え、例えば価値のあるドキュメントなどのオブジェクトのセキュリティを高めることを意図した、光学セキュリティ要素に関する。
【0059】
第3の態様によれば、本明細書は、基材と、前記裏材上に配置され、第1の態様による光学セキュリティコンポーネントまたは第2の態様による前記セキュリティ要素と、を含む、例えば価値のあるドキュメントなどの、セキュリティオブジェクトに関する。
【0060】
価値のあるドキュメントとは、例えば、銀行券、パスポート、ビザ、運転免許証、IDカードまたは任意の身分証明書である。基材は、例えば、ポリカーボネート、PVC、PET、紙、段ボールシートなどを含む。基材には、コンポーネントの2つの面を順に観察することができるような透明な領域が含まれていると都合がよい。
【0061】
また、第1の態様による光学セキュリティコンポーネントを、ブランド品、アルコール飲料または電気部品など、偽造または偽装の対象となりやすい製品に取り付けてもよい。この場合、光学コンポーネントは、当業者に知られているものなどの破壊しようと思えば破壊が可能な粘着ラベルの形で提供されることになるであろう。
【0062】
1つ以上の実施例によれば、基材は、直交する2本の軸を有する矩形状であり、これらの軸は、前記少なくとも1つの第1の結合回折格子の複数の方向と同一直線上にある。他の実施例によれば、これらの軸は、前記少なくとも1つの第1の結合回折格子の複数の方向と同一直線上にはない。
【0063】
回折格子の方向がドキュメントの軸と一致しない場合、ゼロ以外の方位角で観察することになる。そうすると、結合回折格子の方向がドキュメントの軸と同一直線上にある場合よりも、上下の傾斜では、大きな色の変化を伴って色効果が観察される。
【0064】
第4の態様によれば、本明細書は、第1の態様による光学セキュリティコンポーネントを製造するための方法に関する。
【0065】
1つ以上の実施例によれば、第1の態様による光学セキュリティコンポーネントを製造するための方法は、
誘電材料の前記第1の層を形成し、
誘電材料の前記第1の層の上に、誘電材料の前記第2の層を蒸着し、
誘電材料の前記第2の層の上に、前記第1の誘電体-誘電体-金属二重界面を形成するように前記金属層を蒸着することを含み、
前記第1の誘電体-誘電体-金属二重界面は、前記少なくとも第1の結合領域に、前記第1の結合回折格子を形成するように構成されている。
【0066】
1つ以上の実施例によれば、この方法は、例えばスタンピング(例えば、熱間プレスまたは冷間成形後にUVキャスト)によって誘電材料の前記第1の層を構成した後、誘電材料の前記第2の層および前記金属層を蒸着する。
【0067】
いずれの場合も、二重界面を構成することで、異なる色効果を呈する1つ以上の異なる領域を形成することが可能になり、前記領域間で完全な対応関係を得ることができる。このように、本出願人は、すべてのコンポーネントで連続したまま維持される層を重ねることで、印刷を使用せずに0次で多色の画像を生成することが可能であることを示した。
【0068】
1つ以上の実施例によれば、この方法は、誘電材料の保護層を蒸着することをさらに含む。
【0069】
1つ以上の実施例によれば、前記保護層は、第2の誘電体-金属界面を形成するように金属層と接触して蒸着された誘電材料の透明な第3の層であり、前記第2の誘電体-金属界面は、前記少なくとも1つの第1の結合領域において、前記第1の結合回折格子のように構成されている。
【0070】
1つ以上の実施例によれば、この方法は、
前記金属層と接触している誘電材料の透明な第4の層を蒸着することを含み、
前記保護層は、誘電材料の前記第4の層と接触している誘電材料の透明な第3の層を形成し、誘電材料の第4の層の屈折率と誘電材料の第3の層の屈折率との差は0.5以上である。
【0071】
誘電材料の前記第3の(低屈折率)層、誘電材料の前記第4の(高屈折率)層および前記金属層は、第2の誘電体-誘電体-金属二重界面を形成し、当該第2の誘電体-誘電体-金属二重界面は、第2の誘電体-誘電体界面と第2の誘電体-金属界面を備え、かつ、前記少なくとも1つの第1の結合領域において、前記第1の結合回折格子のように構成されている。
【0072】
第3の態様によれば、本明細書は、第1の態様による光学セキュリティコンポーネントを認証するための方法に関し、
前記光学セキュリティコンポーネントに自然光を照射し、直線偏光子を通して、偏光方向に応じた前記色効果の前記色の変化を観察する工程を含むか、
または、
前記光学セキュリティコンポーネントに直線偏光を照射し、偏光方向に応じた前記色効果の前記色の変化を観察する工程を含む。
【0073】
1つ以上の実施例によれば、前記少なくとも1つの第1の結合回折格子は、第1の方向および第2の方向に同一の周期を有し、認証は、例えば15°~60°の観測角度などの垂直入射とは異なる角度で行われる。
【0074】
本発明の他の利点や特徴は、以下の図面によって示される説明を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1A】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例の断面図を示す概略図である。
【
図1B】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例の構成された二重界面の(部分的な)3D図を示す概略図である。
【
図2A】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例により垂直入射で得られる、誘電材料の第2の(高屈折率)層のさまざまな厚さについて、波長に応じた正規化された反射率の曲線を示すグラフである。
【
図2B】
図2Aと同一の光学セキュリティコンポーネントの一例により垂直入射で得られる、誘電材料の第2の(高屈折率)層のさまざまな厚さについて、波長に応じた正規化された透過率の曲線を示すグラフである。
【
図2C】TE偏光およびTM偏光について、
図2Aと同一の光学セキュリティコンポーネントの一例で誘電材料の高屈折率層の厚さを80nm、入射角40°として得られる、波長に応じた正規化された反射率の曲線を示すグラフである。
【
図3A】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例において、第1のプラズモン共鳴効果に対応する第1のスペクトルバンドに含まれる波長での電磁場分布を示す画像である。
【
図3B】
図3Aと同一の光学セキュリティコンポーネントの一例において、ハイブリッドプラズモン共鳴効果に対応する第2のスペクトルバンドに含まれる波長での電磁場分布を示す画像である。
【
図3C】
図3Aと同一の光学セキュリティコンポーネントの一例において、導波モードでの共鳴効果に対応する第3のスペクトルバンドに含まれる波長での電磁場分布を示す画像である。
【
図4A】光学セキュリティコンポーネントの一例である二重界面を上から見た概略図であり、当該二重界面は、認識可能なパターンを形成する複数の隣接領域を形成するように構成されている。
【
図4B】二重界面が
図4Aに示すパターンに従って構成されている、本明細書による光学セキュリティコンポーネントで、第1の観察面から反射で見える第1の色効果を示す概略図である。
【
図4C】
図4Bに示したものと同一の光学セキュリティコンポーネントで、第1の観察面とは反対側の面から反射で見える第2の色効果を示す概略図である。
【
図4D】
図4Bに示したものと同一の光学セキュリティコンポーネントで、透過により見える第3の色効果を示す概略図である。
【
図5A】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例において、結合回折格子が正方形のユニットセルを有する場合に、周期のさまざまな値について、誘電材料の第2の(高屈折率)層の厚さに応じたハイブリッドモードのスペクトル位置を示す曲線を示すグラフである。
【
図5B】
図5Aで使用したものと同一の光学セキュリティコンポーネントの一例において、誘電材料の第2の(高屈折率)層の厚さの異なる値について、結合回折格子の周期を変化させて得られる色を示すグラフである。
【
図6A】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例の第1の二重界面および第2の二重界面を3Dで(部分的に)示す概略図である。
【
図6B】
図4Aに示されるパターンに従って第1の二重界面および第2の二重界面が構成されている、本明細書による光学セキュリティコンポーネントで、第1および第2の二重界面で第1の観察面から反射で見える第1の色効果を示す概略図である。
【
図6C】
図6Bに示したものと同一の光学セキュリティコンポーネントで、第1の観察面とは反対側の面から反射で見える第2の色効果を示す概略図である。
【
図6D】
図6Bに示したものと同一の光学セキュリティコンポーネントで、透過により見える第3の色効果を示す概略図である。
【
図7A】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例において、第1の方向と第2の方向で周期が異なる結合回折格子を上から見た概略図である。
【
図7B】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例において、一方向の結合回折格子の周期の所与の値と、他の方向の結合回折格子の周期のさまざまな値について、波長に応じた正規化された反射率を示す曲線を示すグラフである。
【
図8】本明細書による光学セキュリティコンポーネントと従来技術による光学セキュリティコンポーネントにおける色相角のヒストグラムを示す概略図である。
【
図9】本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例を組み込んだセキュリティ要素を有するセキュリティドキュメントの概略図である。
【
図10】1976年に国際照明委員会(CIE)によって採用され、ISO11664-4規格に従って定義されたCIE Lab球を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
図面において、見やすくするために各要素を拡大縮小して示しているわけではない。
【0077】
図1Aは、本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例の(部分)断面図を示す概略図である。
【0078】
図1Aに示す光学セキュリティコンポーネント101は、例えば、ドキュメントまたは製品に転写して当該ドキュメントまたは製品のセキュリティを高めることを目的とした光学セキュリティコンポーネントである。この例では、光学セキュリティコンポーネント101には、例えばポリマーフィルムなどの支持フィルム111と、例えば天然ワックスまたは合成ワックスなどで製造された(任意の)剥離層112を備える。ポリマーフィルムは、例えばポリエチレンテレフタレート(PTET)で製造され、厚さが数十ミクロン、通常15~100μmのフィルムである。剥離層は、セキュリティが強化されるべきドキュメントまたは製品に光学コンポーネントを転写した後、ポリマー支持フィルム111を取り除くことができる。
【0079】
また、光学セキュリティコンポーネント101には、「低屈折率」であるとされる誘電材料の第1の層113と、「高屈折率」であるとされる誘電材料の第2の層114も備える。誘電材料の第1の層113は、可視光域で透明であって、第1の屈折率n1を有し、誘電材料の第2の層114は、可視光域で透明であって、低屈折率の第1の層113と接触し、第2の屈折率n2を有する。第2の屈折率と第1の屈折率との差が0.5以上であることから、誘電材料の第1の層113を「低屈折率」層、誘電材料の第2の層114を「高屈折率」層と称している。光学セキュリティコンポーネント101は、誘電材料の第2の高屈折率層114と接触している金属層115も備える。
【0080】
図1Aでは、誘電材料の第1の低屈折率層113、誘電材料の第2の高屈折率層114および金属層115が、第1の連続した誘電体-誘電体-金属二重界面Iを形成しており、これは、第1の誘電体-誘電体界面と第1の誘電体-金属界面を備える。二重界面Iは、少なくとも1つの第1の結合領域Z
1において、第1の2次元結合回折格子C
1を形成するように構成されている。その一例を
図1Bに示し、詳細については後述する。連続した二重界面とは、二重界面Iのすべての構成層113、114、115が、上述した第1の結合領域を備える少なくとも1つのゾーンで、連続的に、すなわち途切れることなく、蒸着されていることを意味する。より正確には、
図1Aの場合、詳細については後述するように、二重界面Iは、第1の結合領域Z
1を含む複数の隣接した領域Z
1、Z
2、Z
3を形成するように構成され、かつ、当該複数の領域全体で層113、114、115がいずれも連続したまま維持されている。
【0081】
図1Aの例では、光学セキュリティコンポーネント101は、金属層115と接触している誘電材料の保護層116も備える。この保護層116は、接着層または保護層をさらに形成してもよい。さらなる詳細については後述するように、可視光域で透明であって、第3の屈折率n
3を有し、第2の誘電体-金属界面を形成する誘電材料の第3の層を、誘電材料の保護層116で形成してもよく、当該第2の誘電体-金属界面は、連続して、二重界面Iと同じように構成されている。
【0082】
光学セキュリティコンポーネントは、例えば、誘電材料の保護層116が接着層を形成していない場合の接着層や、光学セキュリティコンポーネントを製品またはドキュメントに転写するための感熱接着層など、光学的に機能するものではないが用途に応じた1以上の層(
図1Aには図示せず)をさらに備えてもよい。
【0083】
実施形態の1つの特定の例によれば、剥離層112は、例えばラベルを形成する観点から、連続しないものであってもよい。さらに、接着層の接着力が永久的な接着力を有する場合もあるため、中間に裏材を使用して、保護対象となるドキュメントまたは製品に付す前に当該コンポーネントを取り扱うことができるようにする。
【0084】
実際には、以下で詳述するように、支持フィルム111上に層を重ねて光学セキュリティコンポーネントを製造することができ、こうして得られるコンポーネントを、接着層によって、セキュリティが強化されるべきドキュメント/製品に転写する。
任意で、例えば剥離層112によって、支持フィルム111をその後剥がしてもよい。そのため、光学セキュリティコンポーネントの主観察面100A(すなわち第1の観察面)は、層113のエッチングされた面とは反対側である第1の層113の片側上に配置される。
【0085】
他の例では、光学セキュリティコンポーネントが、銀行券のセキュリティを向上させることを目的としている場合がある。これは、例えばホットメルト接着剤で接着されるトラックの問題や、銀行券の製造時に用紙に埋め込まれるセキュリティスレッドの一部の問題である。これらの他の例では、光学セキュリティコンポーネントには、上述したように、セキュリティスレッド用の保護フィルムとしても機能する支持フィルム111(厚さ12~25μm)が含まれるが、剥離層は設けられていない。また、光学セキュリティコンポーネントには、これらの他の例において、保護層116に加えて、例えば保護層、第2のポリマーフィルムまたはワニスなどの任意の層が含まれていてもよい。上述した例のように、支持フィルム111上に層を重ねて製造することが可能である。
【0086】
上述した各々の例において、用途の必要性に応じて可視スペクトル域で光学的に機能することがない他の層を追加してもよいことは、当業者には自明であろう。光学的に機能しない追加の層、例えば接着層あるいはコントラストおよび保護の少なくとも一方用の層、が可視域で透明な場合であって、かつ、転写先の基材にも同じことが当てはまる場合、光学セキュリティコンポーネントが両側から見えることになる。
【0087】
本明細書によれば、上述した少なくとも1つの第1の結合回折格子C
1は、その一例を
図1Bの3次元図に示すが、第1の方向Xと第2の方向Yを有する2次元回折格子であり、第1の方向に150nm~350nmの第1のサブ波長周期p
xを有し、第2の方向に150nm~350nmの第2のサブ波長周期p
yを有する。本明細書によれば、第1の結合回折格子C
1は、上述した少なくとも1つの第1の誘電体-金属界面において、第1の共鳴スペクトルバンドで第1のプラズモン共鳴効果を発生させるように決定される。
【0088】
図1Bには、誘電材料の高屈折率層114と金属層115だけを示してある。この例では、結合回折格子は、X、Yの二方向に延びて2次元構造を形成する二組のコルゲート構造によって形成されている。この例では、2つの方向は直交している。この回折格子は、各組のコルゲート構造のX方向とY方向の各々におけるピッチ(すなわち周期)、コルゲート構造の深さすなわち振幅(山と谷との間の高さとして定義される)、各方向における回折格子のプロファイル、および各方向におけるデューティ比によって特徴付けられる。回折格子の深さは、回折格子のピッチの10%~80%の間であると都合がよく、10%~50%の間であると都合がよい。コルゲート構造のプロファイルは、例えば、正弦波または準正弦波であるか、より一般的には
図1Bに示すように連続的に変動する。この種のプロファイルにより、プラズモンモードをより良く伝搬できるようになり、フォトリソグラフィを用いる製造方法との併用も可能である。もちろん、回折格子がシンメトリ、ディスシンメトリ、アシンメトリのいずれであるかを問わず、他の2次元結合回折格子プロファイルにすることも可能である。
【0089】
一般に、例えば金属などの導電性材料と屈折率n
dの誘電材料との間の界面では、表面プラズモンと呼ばれる、表面における電荷密度の振動に付随する電磁表面波の伝搬が可能であることが知られている。この効果は、例えば、H.Raetherによる書籍(「Surface Plasmons」、Springer-Verlag、Berlin Heidelberg)に記載されている。さまざまな方法、特に、例えば
図1Bを参照して説明したような結合回折格子などの結合回折格子を形成するように界面を構成することによって、入射光波をプラズモンモードに結合することができる。
【0090】
結合回折格子のそれぞれの方向に、回折格子の線に垂直な方向でノルムがそれぞれkgx=2π/pxおよびkgy=2π/pyで規定される格子ベクトルkgx、kgyを定義することができる。
【0091】
本出願人による欧州特許EP2771724号に記載されているように、このような構造では、入射波の偏光次第で応答が異なる。そこで、まず、波長λでTM偏光である入射波(TM波)、すなわち、入射波の波数ベクトルk
0とコンポーネントに垂直な方向Zとを含む平面(
図1Aにおける図の平面)として定義される入射面XZに対して磁場Hが垂直になる入射波について考える。TM偏光の波は、格子ベクトルk
gxによって定義される回折格子に対して方位角0°で、かつ回折格子の平面に垂直な軸Zに対して層113への入射角θで、回折格子にさらに入射する。比誘電率ε
dの誘電体媒質に入射する波とプラズモンモードとの間のエネルギーの移動、すなわち結合が生じるためには、以下の等式が満たされなければならないことが示されている(前出のH.Raetherによる著書を参照のこと)。
【0092】
[数1]
ksp=ndk0sinθ+m.kgx
ここで、mはエバネッセント回折次数、k0はk0=2π/λで定義される波数、kspはksp=nspk0で定義され、nspは次式で与えられるプラズモンの実効屈折率である。
【0093】
[数2]
ここでは、金属層の厚さが無限であり、ε
mは金属の誘電率、ε
dは誘電材料の誘電率の場合である。
【0094】
このようにして、所与の入射角θ0でコンポーネントを観察するための中心結合波長λ0xを定義することができる。
【0095】
[数3]
λ0x=(px/m)*(nsp-nd*sin(θ0))
中心結合波長を中心とするスペクトルバンドでは、誘電体媒質に入射する光エネルギーがプラズモンモードと結合し、そのエネルギーが金属層で吸収されることになる。その結果、反射される光エネルギーのスペクトルが変化する。このため、TMモードの入射光の場合、光学セキュリティコンポーネントは、色に対して、帯域遮断フィルターのように動作する。
【0096】
ここで、入射角は同じであるがTE偏光である入射波(TE波、すなわち、
図Xの図の平面である入射面XZに対して電場Eが垂直になる波)と、格子ベクトルk
gxに対して90°のベクトル格子k
gy(
図1B)を有する回折格子について考えてみる。この場合、入射波が以下の結合条件を満たせば、プラズモン励起が可能となる。
【0097】
[数4]
ksp=((k0*nd*sin(θ0))2+(m*kgy)2)1/2
新たな中心結合波長λ0yは、偏光が逆であることから最初の結合波長から独立しており、これを次のように定義することができる。
【0098】
[数5]
λ0y=(py/|m|)*(nsp
2-nd
2*sin2θ0)1/2
このように、偏光していない入射波では、入射放射の一部分が一方向の一組のコルゲート構造によってプラズモンモードに結合され、入射放射の別の部分が別の方向の一組のコルゲート構造によってプラズモンモードに結合される。その結果、金属層では、上述したさまざまな結合波長での結合の結果として、第1のスペクトルバンドに吸収が生じる。
【0099】
さらに、本出願人による欧州特許EP2695006号に記載されているように、金属層の厚さが有限であって、その厚さがプラズモンモードの電磁場が金属に侵入する深さ(約1/(k
0(n
sp
2+Re(|ε
m|))
1/2))と同一次数である場合、金属層の上側の界面におけるプラズモンモードの電磁場が下側の界面も「見る」ことになるため、この下側の界面での磁場境界の条件も満たさなければならない。したがって、金属層に沿って伝搬可能なプラズモンモードは2つあり、どちらも金属層の上下の界面で電場が最大になるということになる。一方のプラズモンモード(「長距離」プラズモンモードと呼ばれる)では、横磁場Hが偶結合(したがって、電荷密度の縦振動の原因となる縦電場は奇結合であり、金属層での交差はゼロ)であり、他方のプラズモンモード(「短距離」プラズモンモードと呼ばれる)では、場Hは奇結合であり、金属によってより強く吸収される。これらのモードは、金属層が薄すぎない場合(例えば、15nmより厚い場合)これらの実効屈折率が近似し、白熱灯や自然光などのあまり空間的および時間的にコヒーレントではない光源から入射波が発生した場合には、どちらのモードも回折格子の存在下で結合される。このため、結合条件が満たされると、結合された(すなわち「励起された」)2つのプラズモンモードの場は金属層の下側の界面で最大になる。したがって、回折格子が存在することで、透過媒質(レイヤー116、
図1A)に放射し、光エネルギーが連続した金属層を通過できるようにして、透過ピークを発生させる。このことから、共鳴透過という用語が用いられている。
【0100】
本明細書による光学セキュリティコンポーネントでは、プラズモンの実効屈折率(上記の式(2))は、誘電材料の第1の低屈折率層113の屈折率n1のみならず、誘電材料の第2の高屈折率層114の屈折率n2によっても決まる。このように、誘電材料の高屈折率層が存在することで、単一の誘電体-金属界面に対して、第1のスペクトルバンドのシフトが生じることになる。
【0101】
上述したプラズモン効果と比較して、本出願人はさらに、セキュリティ分野で初めて、誘電材料の高屈折率層に起因する追加の効果であって、独自の色効果、特に従来技術の光学セキュリティコンポーネントでは観察されない色相角を生む追加の効果を実証した。
【0102】
より正確には、上述した第1のスペクトルバンドとは異なる第2の共鳴スペクトルバンドでハイブリッドのプラズモン共鳴効果を発生させるように、特に材料の性質および結合回折格子の特性に応じて、通常は20nm~150nmである誘電材料の第2の高屈折率層114の厚さを決定する。
【0103】
この効果は、例えば、
図2Aに示す曲線によって示される。これらの曲線は、
図1Aに示すタイプの光学セキュリティコンポーネントの結合領域Z
1に、垂直入射(θ
0=0)および方位角0で入射する非偏光の光波の波長に応じた正規化反射率R
0を示している。その反射を、第1の観察面100
Aの側から観察した。結合回折格子C
1は、各方向の周期が280nmであり、深さ42nmの正弦波プロファイルを有する2次元回折格子であった(アスペクト比0.15)。誘電材料の透明層113、116の屈折率は1.5であり、金属層は25nmのアルミニウムの層であり、2つの金属-誘電体界面114/115および115/116でのプラズモンモードの結合を可能にすることで、共鳴透過効果が生じた。これらの曲線は、誘電材料の高屈折率層なし(曲線21
R)、屈折率2.4(ZnS)で厚さ30nmの誘電材料の高屈折率層(114、
図1A)(曲線22
R)、屈折率2.4で厚さ60nmの誘電材料の高屈折率層(114、
図1A)(曲線23
R)、屈折率2.4で厚さ90nmの誘電材料の高屈折率層(114、
図1A)(曲線24
R)のそれぞれについて計算されたものである。
【0104】
これらの曲線の計算には、市販のソフトウェアパッケージであるMC Grating Software(c)を使用した。
【0105】
図2Aに見られるように、曲線21
Rは、正規化反射率曲線の谷(符号210)に対応する単一の第1の共鳴スペクトルバンドを示している。これは、単一の誘電体-金属界面におけるプラズモン効果に起因する従来の正規化反射曲線である。誘電材料の高屈折率層を導入すると(曲線22
R)、プラズモンモードの実効屈折率が変化し、結果として第1の共鳴スペクトルバンドのシフト(谷220)が観察される。誘電材料の高屈折率層が十分に厚い場合(曲線23
R)、第1のスペクトルバンドのシフト(谷231)に加えて、第2の共鳴スペクトルバンドに対応する、正規化反射率曲線の第2の谷(232)の出現が観察される。誘電材料の高屈折率層の厚さをさらに増すと(曲線24
R)、第1のスペクトルバンドのシフト(谷241)と第2の共鳴スペクトルバンドに対応する第2の谷(242)とに加えて、第3の共鳴スペクトルバンドに対応する第3の谷(243)の出現が観察される。
【0106】
本出願人は、第2の共鳴スペクトルバンドが生じるのは、金属の表面では電磁場のエネルギーが最大のままであるが、誘電材料の高屈折率層にも電磁場のエネルギーが広がる「ハイブリッド」プラズモンモードによることを示した。第3の共鳴スペクトルバンドは、誘電材料の高屈折率層におけるガイドモードの共鳴に起因する。これらの効果は、
図3A~
図3Cに示す画像で実証されている。これらの画像は、それぞれ、
図2Aの正規化反射曲線24
Rの谷241、242、243によって証明される共鳴スペクトルバンドの中心波長に対応する波長での誘電材料の高屈折率層の電磁場の強度を示す。
図3A~
図3Cは、近接場で決定された電場の係数、より正確には電場の成分EyすなわちY軸に電場を投影した画像を示している。これらの計算には、ソフトウェアパッケージであるMC Grating Software(c)を使用した。
【0107】
近接場計算により、システムに存在するさまざまな共鳴の特定の特性を明らかにすることができる。これにより、場のエネルギーがどこに集中しているかを知ることができる。特に、ハイブリッドモード(
図3B)のエネルギーは、純粋なプラズモンモード(
図3A)のエネルギーと比較して金属の表面には集中していないことがわかる。これは、ハイブリッドモードでは純粋なプラズモンモードよりも実効屈折率が低いことを意味する。上述したように、ハイブリッドモードは、誘電材料の第2の高屈折率層に依存し、誘電材料の第2の高屈折率層が十分に厚い場合にのみ存在して効率的に結合することができる。
【0108】
さらに、誘電材料の第2の高屈折率層が非常に厚い場合(
図3C)、ハイブリッドモードに加えて、(金属の表面ではなく)誘電材料の第2の高屈折率層の厚さ方向に導波モードが現れるのが観察される。導波モードでの実効屈折率は、ハイブリッドモードとプラズモンモードの実効屈折率よりもさらに低くなる。
【0109】
各モードの実効屈折率を求めることができる解析式はないが、本出願人が実施した電磁場シミュレーションにより、誘電材料の第2の高屈折率層の厚さが増すにつれて出現するさまざまなモードを明らかにすることができた。
【0110】
特に、第2の共鳴スペクトルバンドが出現することで、反射において、0次で、従来技術のプラズモン構造では得られない色相角を有する、独自の色による色効果を出現させることができるようになる。
【0111】
このため、例えば、正規化された反射率曲線の2つの谷にそれぞれ対応する2つの共鳴スペクトルバンドの2つの中心共鳴波長λ1=430nmおよびλ2=580nmで特徴付けられるシアンに似た色を、反射および垂直入射で得たいと仮定する。また、回折格子については、正方形のユニットセル(二方向で同一の周期)を有する2次元結合回折格子であると仮定する。
【0112】
例えば、さまざまな種類の構造について回折効率を計算できる市販のソフトウェアパッケージであるMC Grating Software(c)を使用する。S4またはS4(Stanford Stratified Structure Solver)ソフトウェアパッケージ、またはLumerical(c)社によって開発されたソフトウェアパッケージなど、他にも使用できるソフトウェアパッケージがある。
【0113】
それぞれの方向の回折格子のプロファイルについては、フーリエ高調波などを用いて定義する。次に、誘電材料の低屈折率層113、116(
図1A)に対応する2つの半無限媒体を定義する。その屈折率は、例えば1.5である。さらに、回折格子の周期と誘電材料の高屈折率層(114、
図1A)の厚さを選択してハイブリッド共鳴およびプラズモンのスペクトル位置を調整し、最初に設定した波長λ
1およびλ
2に近づける。これらのスペクトル位置の決定は、0次で反射される回折効率の計算結果に基づいてなされる。最後に、回折格子の深さと金属(例えば、アルミニウム)層の厚さを選択して共鳴の振幅を調整し、可能な限り最も効率的な結合、すなわち、0に傾きやすい共鳴スペクトルバンドに対応する最小の谷と最大の谷の振幅を得るようにする。
【0114】
図2Bに、
図1Aに示すタイプの光学セキュリティコンポーネントの結合領域Z
1に垂直入射(θ
0=0)および0方位角で入射する非偏光の光波の波長に応じた正規化された透過率T
0を表す曲線を示す。コンポーネントを面100
Aの側から照射した場合は第2の観察面100
Bの側、面100
Bの側から照射した場合は観察面100
Aの側から、透過を観察した。条件については、
図2Aに示す曲線を決定するのに使用した条件と同一とした。曲線21
T、22
T、23
T、24
Tは、それぞれ、誘電材料の高屈折率層なし、屈折率2.4(ZnS)で厚さ30nmの誘電材料の高屈折率層、屈折率2.4で厚さ60nmの誘電材料の高屈折率層、屈折率2.4で厚さ90nmの誘電材料の高屈折率層の場合に計算された曲線に対応する。
【0115】
これらの曲線から、誘電材料の第2の高屈折率層を追加すると、透過率にも影響することがわかる。誘電体-誘電体-金属二重界面の存在下において、誘電材料の第2の高屈折率層が十分な厚さである場合、従来技術(曲線21T)のような単一の誘電体-金属界面で観察される色とは異なる透過色が観察される。
【0116】
図2Cに、正規化反射率に対する偏光の影響を示す。パラメータについては、入射波が偏光(TM偏光またはTE偏光)であり、入射角θ
0=40°で入射することを除いて、
図2Aおよび
図2Bに示す曲線の計算に使用したものと同一とした。誘電材料の層の厚さは80nmとした。
【0117】
図2Cに示すように、TM偏光では、TE偏光の正規化反射率曲線(曲線28)とは異なる正規化反射率曲線(曲線27)が観察される。この偏光依存性により、自然光の下で、肉眼による認証以外の方法で光学セキュリティコンポーネントを認証することができる。
【0118】
例えば、光学セキュリティコンポーネントに自然光を照射し、偏光子を通して、偏光方向に応じた色効果の色の変化を観察したり、光学セキュリティコンポーネントに直線偏光を照射し、偏光方向に応じた色効果の色の変化を観察したりすることができるであろう。
【0119】
図2Cの例では、結合回折格子は正方形のユニットセル(二方向で周期が同一)を持つように選択されているため、ゼロ以外の入射で偏光の影響を見ることができる。長方形のユニットセルの場合や、より一般的には二方向の周期が異なるユニットセルの場合、垂直入射で認証を行うこともできる。
【0120】
このように、ユニットセルが正方形である第1の結合回折格子を備える少なくとも1つの第1の結合領域と、ユニットセルが(正方形ではない)長方形である第2の結合回折格子を備える少なくとも1つの第2結合領域と、を有するように構成された少なくとも1つの第1の二重界面を有する光学セキュリティコンポーネントを設計することができた。この構成では、垂直入射での偏光に基づく検査により、偏光の変化に伴う色の変化を第2の結合領域でのみ観察することができる。また、第1の結合領域では、観察角度によって色が変化したりしなかったりする2通りの性質での偏光に基づく検査を実施することも可能である。なお、偏光分析による認証は、上述したように肉眼で行ってもよいし、自動検査機(例えば、パスポートチェックまたは銀行券の検査に使用されるタイプのドキュメントリーダー等)、あるいは白色光源、偏光フィルター、センサーおよびデータ処理ユニットを組み込んだ他の検査機器などの機器を使用して行ってもよい。
【0121】
図4A~
図4Cに、実施形態の一例による光学セキュリティコンポーネント42の認証を示すが、当該コンポーネント42は、セキュリティドキュメント40の基材41上に配置されている。認証については、無偏光の白色光において肉眼で実施する。
【0122】
この例では、光学セキュリティコンポーネントは、
図1Aを参照して説明したようなコンポーネントであり、このコンポーネントでは、二重界面Iが3つの隣接した領域Z
1、Z
2、Z
3で構成されている。第1の領域Z
1は第1の結合回折格子C
1で構成され、第2の領域Z
2は第1の結合回折格子とは異なる第2の結合回折格子C
2で構成され、領域Z
3は構成されていない。3つの領域は隣接しており、
図4Aに示すような例えば「R」などの認識可能なパターンを形成するように配置されている。
図2Bに示すように、金属層115には、共鳴透過効果が得られるように十分に薄いものを想定している。
【0123】
図4B、
図4Cおよび
図4Dは、それぞれ、第1の観察面100
Aからの反射、第1の観察面とは反対側の第2の観察面100
Bからの反射、および透過での観察を示している。これらの図では、光源の位置をSRCと称し、光源に対する観察者の位置を目OBSで表す。
【0124】
主観察面(面100
A、
図1A)の側では、
図4Bに概略的に示すように、結合領域Z
1およびZ
2にそれぞれ対応する2つの異なる色を観察することができる。これらの結合領域では、低屈折率層、高屈折率層、金属層および各結合回折格子は、別々の共鳴スペクトルバンドでハイブリッドプラズモンモードが得られるように決定される。このため、領域Z
1およびZ
2では、色相角の異なる独自の強い色が反射で観察される。
【0125】
念のため、1976年に国際照明委員会(CIE)によって採用され、ISO11664-4規格に基づいて定義されたCIE Lab球を示す概略図を、
図10に示す。色相角h
abは色を示し、赤(角度0°)から黄色(90°)、さらに緑(180°)、青(270°)と変化する。この球では、明度Lはy軸に表示され、最も明るい(L=100)から最も暗い(L=0)まで色が変化する。球の中心からの距離Cは、クロマ彩度(またはサチュレーション彩度)を示し、次の値に等しい。
【0126】
[数6]
実際には、本出願人は、光学セキュリティコンポーネントによって、任意の色相角、特に、120°~320°の色相角すなわち緑と紫との間であって、シアンに近い青の色調が得られることを示した。これらの色は、従来技術のプラズモンコンポーネントでは得られなかったものである。
【0127】
図4Bに示すように、領域Z
3は構成されていないため、反射しているように見える。
【0128】
3つの領域Z
1、Z
2、Z
3と、それに対応する視覚効果は、ある材料(例えば、顔料または染料など)の追加の層を局所的に蒸着することによるものではなく、さまざまな領域の構造に起因するものであるため、これらを極めて正確に特定することができる(
図1Aにおける領域間接合部118)ことが注目に値する。具体的には、例えば印刷によって追加の層を局所的に蒸着するには、色の異なる2つのゾーン間の距離を最小にする必要がある。
【0129】
このように、例えばピクセルで形成された画像であって、各ピクセルが1つの領域に対応し、肉眼では見えないように例えば寸法が300μm未満であるか、逆に
図4A~
図4Cの例のように肉眼で識別できる大きめの領域に対応する、画像など、多色画像を形成することが可能になる。
【0130】
図4Cは、同一の光学セキュリティコンポーネント42によってセキュリティを高めてある、上記と同一のドキュメントを、第2の観察面100
Bの側から反射で見た状態を、概略的に示す。こちら側から見ると、色効果は、単一の誘電体-金属界面(115/116、
図1A)でのプラズモン効果によって生じる。そのため、結合領域Z
1、Z
2で観察される色は、主観察面100
Aを介して観察される各色とは異なる。ここでも領域Z
3は構成されていないため、反射しているように見える。
【0131】
また、
図4Dは、同一の光学セキュリティコンポーネント42によってセキュリティを高めてある、上記と同一のドキュメントを、透過して見た状態で、概略的に示す。領域Z
1、Z
2における色効果は、
図2Bの各曲線で示すように、共鳴透過効果によって生じるものである。領域Z
3は構成されていないため、透明ではなく黒く見える。
図4B~
図4Dの例の場合のように、薄い金属層を用いて共鳴透過効果を観察すると、反射の効果は、厚い金属層を使用した場合の反射の効果と実質的に同一であることに留意されたい。特に、色相は変化しないが、明度すなわち色の明暗が変わる。
【0132】
上述したように、当業者であれば、所望の色効果を選択するために、既知のソフトウェアパッケージを使用して、構造の特性(材料の選択、層の厚さ、結合回折格子のパラメータまたはさまざまな領域の回折格子)を決定することができる。
【0133】
図5Aは、本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例において、結合回折格子が正方形のユニットセルを有する場合に、周期のさまざまな値について、誘電材料の第2の(高屈折率)層の厚さに応じたハイブリッドモードのスペクトル位置を示す曲線を示すグラフである。観察については、垂直入射での反射で行った。
【0134】
これらの曲線を計算するために、材料としてZnS(屈折率2.4)を選択し、金属層は厚さ25nmのアルミニウム層とし、低屈折率層(113、116、
図1A)の屈折率は1.5であり、結合回折格子は、各々の方向に正弦波プロファイルを有し、アスペクト比は一定の0.15であり、各方向に周期が200nm(曲線51)、240nm(曲線52)、280nm(曲線53)および320nm(曲線54)の正方形のユニットセルを有するものであった。
【0135】
これらの異なる曲線からわかるように、誘電材料の高屈折率層の厚さの異なる値(114、
図1A)に対する周期を選択することで、ハイブリッドモードのスペクトル位置(正規化反射率の谷)に影響を与えることが可能になる。この例から、ハイブリッドモードを観察するには、最小厚45nmのZnSが必要であることがわかるであろう。
【0136】
図5Bは、
図5Aで使用したものと同一の光学セキュリティコンポーネントでZnSの厚さが60nm(曲線57)である例において、結合回折格子の周期を220nm~350nmの間で変化させることで得られる色を示すグラフである(ab表現、
図10を参照)。この曲線を、ZnSなしで得られた曲線(曲線55)およびZnSの厚さを20nmにして得られた曲線(曲線56)と比較する。
【0137】
図5Bに見られるように、コンポーネントにハイブリッドプラズモンモードが存在する、本明細書による光学セキュリティコンポーネントで得ることができる色相角(曲線57)は、従来技術による光学セキュリティコンポーネントで得られたもの(曲線55)あるいは高屈折率層の厚さが薄すぎてハイブリッドモードが得られない光学セキュリティコンポーネントで得られたもの(曲線56)とは異なる。
【0138】
上記の各図によって説明した例では、光学セキュリティコンポーネントは、単一の第1の誘電体-誘電体-金属二重界面を備える。
【0139】
他の実施例では、光学セキュリティコンポーネントは、
図6Aの3D部分図に示されているように、第2の誘電体-誘電体-金属二重界面を備える。
【0140】
この例では、光学セキュリティコンポーネントは、上述した誘電材料の層113、114、116に加えて、誘電材料の第2の層114と接触している側とは反対側で金属層115と接触している誘電材料の第4の層117を備える。この例では、誘電材料の第3の層116(
図6Aには図示せず)は、上述した誘電材料の層117と接触する。例えば、誘電材料の第3の層116は、第3の屈折率n
3を有し、誘電材料の第4の層117は、n
4とn
3との屈折率の差が0.5よりも大きくなるような第4の屈折率n
4を有する。そして、誘電材料の第3の層116は、第2の「低屈折率」層を形成し、誘電材料の第4の層117は、第2の「高屈折率」層を形成する。
【0141】
この例では、特に誘電材料の第4の「高屈折率」層117の厚さを適切に選択することによって、第1の観察面(100
A、
図1A)とは反対側の第2の観察面(100
B、
図1A)からも上述したようなハイブリッドプラズモン共鳴効果を得ることが可能であり、よって、注目に値する色効果を得ることが可能である。
【0142】
図6Bに、セキュリティドキュメント60の基材61上に光学セキュリティコンポーネント62が配置され、この光学セキュリティコンポーネントが第1の二重界面および第2の二重界面を有し、当該二重界面は
図4Aに示したものと同一のパターンで構成されている状態における、第1の観察面からの反射で見える第1の色効果を示す概略図を示す。上述したように、金属層は、透過時にプラズモン共鳴効果を観察できるだけの十分な薄さのものとする。
【0143】
したがって、
図6Bに示すように、主観察面(面100
A、
図1A)の側では、結合領域Z
1およびZ
2にそれぞれ対応する2つの異なる色を観察がされる。これらの結合領域では低屈折率層(113、
図1A)、高屈折率層(114)、金属層(115)および各結合回折格子は、別々の共鳴スペクトルバンドでハイブリッドプラズモンモードが得られるように決定される。このため、領域Z
1およびZ
2では、色相角の異なる独自の強い色が反射で観察される。上記同様、領域Z
3は構成されていないため、反射しているように見える。
【0144】
図6Cは、同一の光学セキュリティコンポーネント62によってセキュリティを高めてある、上記と同一のドキュメントを、第2の観察面100
B(背面側)の側から反射で見た状態を、概略的に示す。本例では、例えば誘電材料の高屈折率層114、117の厚さと屈折率が同一になるように選択されているため、色効果は、こちら側から見ても主観察面の側(前方側)で観察されるものと同じである。しかしながら、別の誘電材料の高屈折率層114、117を選択することも可能であり、その場合、結合領域Z
1、Z
2で観察される各色は、主観察面100
Aを通して観察される各色とは異なる。これとは対照的に、構成されていない領域Z
3は、常に、反射して見え無色のように見える。
【0145】
また、
図6Dは、同一の光学セキュリティコンポーネント62によってセキュリティを高めてある、上記と同一のドキュメントを、透過して見た状態で、概略的に示す。領域Z
1、Z
2における色効果は、
図2Bの曲線で示すように、共鳴透過効果によるものであるが、第2の高屈折率層117の影響を受けている。領域Z
3は構成されていないため、透明ではなく黒く見える。
【0146】
上述したように、前述の少なくとも1つの第1の結合回折格子について、各方向の周期が異なる結合回折格子を選択することも可能である。
【0147】
このため、
図7Aに、本明細書による光学セキュリティコンポーネントの一例における、第1の方向Xと第2の方向Yとで異なる周期p
x、p
yの結合回折格子C
3の概略上面図を示す。
図7Aの例では、これらの方向は互いに直交しているが、2つの方向が、例えば30°~60°など直角以外の角度を有することも可能である。
【0148】
図7Bは、一方向の結合回折格子周期が所与の値(p
x=280nm)であり、他方向の周期p
yがさまざまな値である2次元結合回折格子で構成された二重界面について、主観察面(前方側)から垂直入射する波長に応じた正規化された反射率R
0を表す曲線を示すグラフである。この例では、X軸は入射面に含まれ、Y軸は入射面に垂直である。これらの曲線は、
図7Aに示すタイプの2次元回折格子、すなわち、それぞれの方向に正弦波プロファイルを有し、Y軸に沿ったアスペクト比(周期に対する深さ)が0.15に等しい2次元回折格子に対して計算された。二重界面は、厚さ25nmのアルミニウム金属層と、厚さ80nmの誘電材料の高屈折率ZnS(屈折率2.4)の層で構成されたものであった。低屈折率の層113、116(
図1A)の屈折率は1.5であった。
【0149】
より正確には、曲線74、75、76は、py=240nm(曲線74)、py=280nm(曲線75)、py=320nm(曲線76)の周期についてそれぞれ計算したものである。
【0150】
これらの曲線から、第1のスペクトルバンドに対応し、かつプラズモン共鳴効果に起因する正規化反射率曲線の谷(それぞれ符号741、751、761で示す、長めの波長での谷)は周期pyで一定のままであるのに対し、第2のスペクトルバンドに対応し、かつハイブリッドプラズモン共鳴効果に起因する正規化反射率曲線の谷(それぞれ符号742、752、762で示す、短めの波長での谷)は周期pyで変動している点が注目に値する。
【0151】
これらの曲線は、ハイブリッドモードが周期pyに依存していることを示している。したがって、(明らかに、高屈折率層の厚さがゆえにハイブリッドモードを励起させられる場合にのみ)正方形のユニットセルでは達成できない色を得ることが可能である。
【0152】
図8に、本明細書による光学セキュリティコンポーネント(ヒストグラム82)および従来技術による光学セキュリティコンポーネント(ヒストグラム81)における色相角のヒストグラムを概略図で示す。
【0153】
より正確には、ヒストグラム82は、
図1Aに示すタイプの構造(正方形ユニットセルの2次元結合回折格子)について、0°~350°の各色相角に対する構造の出現度数を示している。より正確には、ヒストグラム82は、周期を230nm~300nmで、回折格子の深さを40nm~120nmで、(アルミニウム)金属層の厚さを10nm~35nmで、誘電材料の高屈折率層の厚さを50~140nmで、変化させることによって得られた。回折格子のプロファイルは、各方向に正弦波であり、誘電材料の低屈折率層の屈折率は1.5、誘電材料の高屈折率層の屈折率は2.4であった。
【0154】
比較のために、ヒストグラム81は、ヒストグラム81を得るのに使用したものと同様の構造で、誘電材料の高屈折率層の厚さが0~40nmである場合の各色相角に対する構造の出現度数を示している。他のパラメータについては、ヒストグラム82の場合と同様に変更した。
【0155】
ヒストグラム81(従来技術)では、0~120°と320~350°の間の色相角のみが観察される。対照的に、本明細書による光学セキュリティコンポーネントで得られたヒストグラム82では、色相角の均一な分布が観察され、特に、構造によっては120°~320°の間の色相角を得られることがわかる。
【0156】
本明細書による光学セキュリティコンポーネントを製造するための方法には、以下の工程を含むようにすると都合がよい。
【0157】
上述した少なくとも1つの第1の結合回折格子から形成されるか、上述した少なくとも1つの第1の結合回折格子によって変調された微細構造から形成される光学構造を、フォトリソグラフィまたは電子ビームリソグラフィによってフォトレジストに記録する。電気めっき工程により、例えばニッケル系材料などの耐性材料に光学構造を転写して、光学構造を含む金属マスターを作成することができる。そして、光学セキュリティコンポーネントの製造には、複製工程が含まれる。例えば、複製を行うには、一般に厚さ数ミクロンのスタンピングワニスである、屈折率n
1の誘電材料の第1の層113(
図1A)(低屈折率層)を(誘電体のホットエンボス加工によって)スタンピングしてもよい。層113は、PET(ポリエチレンテレフタレート)などのポリマー材料で作られた、厚さ12μm~100μmのフィルムなどである支持フィルム111によって支持されていると都合がよい。あるいは、乾燥前にスタンピングワニスの層を成形した後、UVキャスティングすることによって、複製を行ってもよい。特に、UVキャスティングによる複製を用いることで、振幅が深い構造の再現が可能になり、より忠実な複製を得ることができるようになる。一般に、従来技術で知られている他のどの高解像度複製方法であっても、複製工程で使用することができる。次に、このようにエンボス加工された層の上に、他のすべての層、特に誘電材料の第2の層114(高屈折率層)、金属層115、例えば保護層116を含む任意の他の層、を蒸着する。上述の製造過程の例から明らかなように、ホログラムコンポーネントの製造に従来から使用されている回折格子ベースの構造がセキュリティドキュメントに存在していても、まったく問題なく本明細書による光学セキュリティコンポーネントを同じドキュメントに含めることができる。特に、上述したような1つ以上のプラズモンコンポーネントと、従来技術で知られている1つ以上の他のタイプの光学セキュリティコンポーネント(例えば、ホログラフィック光学セキュリティコンポーネント)とを備える光学セキュリティ要素を製造することが可能である。
【0158】
この目的のために、さまざまな光学セキュリティコンポーネントに対応するさまざまなパターンをフォトレジストに記録し、この工程に電気めっき工程を続けることで、マスターを製造することになるであろう。その後、このマスターを使用してスタンピングを行い、エンボス加工用のポリマーフィルムにさまざまな微細構造を転写すればよい。また、本明細書によるプラズモン効果の光学セキュリティコンポーネントが得られるように厚さが設定された金属層および誘電材料の高屈折率層の少なくとも一方を、フィルム全体に蒸着するか、本明細書による光学セキュリティコンポーネントに選択的に蒸着することになるであろう。反射(金属および高屈折率)層を選択的に蒸着することで、例えば、本明細書に記載された上記コンポーネントの光学的効果をさらに強調することや、セキュリティの強化対象となるドキュメントまたはオブジェクトの基材を覆わずに残し、この覆われていない部分に非反射パターンを形成したりすること、の少なくとも一方が可能になる。構造化フィルム全体上に金属層(それぞれ高屈折率層)を蒸着する第1の工程、次に部分的な非金属化(それぞれ、高屈折率層の部分的な除去)により上述した非金属化領域(それぞれ、高屈折率層のない領域)を形成することで、選択的な金属化(それぞれ高屈折率層の選択的な蒸着)を得ることが可能である。
【0159】
図9に、価値があるがゆえに本明細書による光学セキュリティコンポーネント93を備えるセキュリティ要素92が付された、例えば銀行券タイプの価値のあるドキュメントなどの、セキュリティドキュメント90を示す。
【0160】
セキュリティ要素92は、一般に15mm幅の帯状の形態をとり、ドキュメント90の基材91に添付されている。セキュリティ要素92は、既知の手段によって基材に取り付けられている。例えば、セキュリティ要素を添付するには、保護層116にあらかじめ塗布した透明な接着層を反応させるホットメルト転写を用いればよい。この場合、スタンピングワニス113とPET支持フィルム111との間に(例えばワックス)剥離層112を塗布してもよい(
図1A)。セキュリティ要素は、プラズモンコンポーネントが透明な領域に面し配置されている状態で、ドキュメント上のセキュリティ要素をホットプレスすることによってドキュメントに転写される。転写時、接着フィルムはドキュメントの基材91に接着し、剥離層や支持フィルムを除去してもよい。基材91では、本明細書によるプラズモンコンポーネントを透過して視認できるようにすることが想定されているのであれば、上述したコンポーネントと同じ水平位置に透かし窓を設けてもよい。透かし窓が透明な基材に対応している場合、上述したように、支持フィルムを実際に除去してもよいことに留意されたい。透かし窓が紙の穴に対応している場合、セキュリティ要素を接着し、支持フィルムを保持する。
【0161】
このようにして得られたセキュリティドキュメントは、経験の浅い使用者が、白色光の下で、肉眼で最も容易に検査することができるものであり、信頼性も高い。このため、自然光下を含み、セキュリティドキュメントを視覚的に認証することが可能である。この認証は、反射時と場合によっては透過時の視覚効果に基づいており、特に簡単に実現することができる。
【0162】
記載された効果は偏光に依存するため、光学セキュリティコンポーネントに直線偏光を照射するか、光学セキュリティコンポーネントに自然光を照射して直線偏光子を通して観察することでも認証が可能である。
図2Cを参照して上述したように、偏光の変化は色の変化を引き起こす。
【0163】
例えばスマートフォンによる検査などの機械による検査も可能である。具体的には、光学セキュリティコンポーネントによって得ることが可能な色相角が非常に異なるため、例えば、2つの結合領域に対応する2つの色相角の角度差が本来あるべき状態であるか否かを判断することが可能であろう。
【0164】
以上、いくつかの実施例を通して説明したが、本明細書による光学セキュリティコンポーネントには、当業者には明らかであると思われるさまざまな変形、改変および改良を含み、これらのさまざまな変形、改変および改良は、以下の特許請求の範囲によって規定されるような本発明の範囲に包含されるものであることが理解される。