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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】ボルト部材の伸び量の調整方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 29/02 20060101AFI20240531BHJP
   B25B 23/14 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B25B29/02
B25B23/14 610U
B25B23/14 640E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022120106
(22)【出願日】2022-07-28
(65)【公開番号】P2024017462
(43)【公開日】2024-02-08
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 陽平
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第11389916(US,B1)
【文献】米国特許第08739697(US,B1)
【文献】特開2003-025163(JP,A)
【文献】特表2015-501914(JP,A)
【文献】特開2010-054046(JP,A)
【文献】特表2010-501875(JP,A)
【文献】特開2001-225231(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0338699(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0321927(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 29/02
B25B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチジャックボルトテンショナが装着されるボルト部材の伸び量の調整方法であって、
前記マルチジャックボルトテンショナは、
被締結物から突出したボルト部材に螺合する第1ネジ部が形成された第1孔、及び、前記第1孔の周囲に間隔をあけて設けられた複数の第2孔であって、各々に第2ネジ部が形成された複数の第2孔、を有するテンショナ本体と、
前記複数の第2ネジ部にそれぞれ螺合する複数のジャックボルトと、
前記テンショナ本体と前記被締結物との間に配置され、前記ボルト部材が挿通する環状板部材と、を含み、
前記ボルト部材の伸び量の調整方法は、
前記マルチジャックボルトテンショナを前記ボルト部材に装着する装着ステップと、
前記装着ステップの後に、前記複数のジャックボルトの各々を所定のトルクで締め付ける第1締付ステップと、
長さを測定するための計測器を用いて前記第1締付ステップ後の前記ボルト部材の伸び量を取得する第1伸び量取得ステップと、
前記第1伸び量取得ステップにおいて取得した前記ボルト部材の伸び量の目標の伸び量に対する差である不足量を算出する不足量取得ステップと、
前記ジャックボルトのピッチ、前記不足量及び前記ジャックボルトの回転角度が関連付けられた関連付け情報に基づいて、前記ジャックボルトのピッチ及び前記不足量取得ステップにおいて算出された前記不足量から前記不足量に対応する前記ジャックボルトの回転角度を取得する回転角度取得ステップと、
前記回転角度取得ステップにおいて取得した前記ジャックボルトの前記回転角度だけ前記複数のジャックボルトの各々を締め付ける第2締付ステップと、を備え
前記被締結物の前記環状板部材に対向する面、又は前記環状板部材の前記テンショナ本体に対向する面、のいずれかを基準面と定義し、前記基準面から前記テンショナ本体の任意の位置までの長さを基準長さと定義した場合において、
前記第1伸び量取得ステップは、
前記計測器を用いて前記第1締付ステップ前の前記基準長さを測定する第1測定ステップと、
前記計測器を用いて前記第1締付ステップ後の前記基準長さを測定する第2測定ステップと、
を含み、
前記第1測定ステップ及び前記第2測定ステップにおいて測定した前記第1締付ステップ前後の前記基準長さの変化から前記ボルト部材の伸び量を取得する、
ボルト部材の伸び量の調整方法。
【請求項2】
前記第1測定ステップ及び前記第2測定ステップでは、前記環状板部材の前記テンショナ本体に対向する面を前記基準面とし、前記基準面から前記テンショナ本体の前記基準面に近い側の端面までの長さを前記基準長さとして測定が行われる、
請求項に記載のボルト部材の伸び量の調整方法。
【請求項3】
前記第1測定ステップ及び前記第2測定ステップでは、前記被締結物の前記環状板部材に対向する面を前記基準面とし、前記基準面から前記テンショナ本体の前記基準面から離れた側の端面までの長さを前記基準長さとして測定が行われる、
請求項に記載のボルト部材の伸び量の調整方法。
【請求項4】
前記計測器を用いて前記第2締付ステップ後の前記ボルト部材の伸び量を取得する第2伸び量取得ステップをさらに備える、
請求項1乃至の何れか1項に記載のボルト部材の伸び量の調整方法。
【請求項5】
前記第1伸び量取得ステップは、
前記計測器を用いて前記ボルト部材の周方向における第1位置において前記ボルト部材の伸び量を取得する第1位置伸び量取得ステップと、
前記計測器を用いて前記ボルト部材の前記周方向における前記第1位置とは異なる第2位置において前記ボルト部材の伸び量を取得する第2位置伸び量取得ステップと、を含み、
前記不足量取得ステップは、
前記第1位置伸び量取得ステップにおいて取得した前記ボルト部材の伸び量の目標の伸び量に対する差である第1不足量を算出する第1不足量取得ステップと、
前記第2位置伸び量取得ステップにおいて取得した前記ボルト部材の伸び量の目標の伸び量に対する差である第2不足量を算出する第2不足量取得ステップと、を含み、
前記回転角度取得ステップは、
前記第1不足量及び前記ジャックボルトのピッチから前記第1不足量に対応する前記ジャックボルトの第1回転角度を取得する第1回転角度取得ステップと、
前記第2不足量及び前記ジャックボルトのピッチから前記第2不足量に対応する前記ジャックボルトの第2回転角度を取得する第2回転角度取得ステップと、を含み、
前記第2締付ステップは、
前記複数のジャックボルトのうち、前記第2位置よりも前記第1位置に近い第1ジャックボルトを、前記第1回転角度だけ締め付ける第1ジャックボルト締付ステップと、
前記複数のジャックボルトのうち、前記第1位置よりも前記第2位置に近い第2ジャックボルトを、前記第2回転角度だけ締め付ける第2ジャックボルト締付ステップと、を含む、
請求項乃至の何れか1項に記載のボルト部材の伸び量の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチジャックボルトテンショナが装着されるボルト部材の伸び量の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、締め具頭部に螺合するネジ部が形成された中心孔、及び、中心孔の周囲に間隔をあけて設けられた複数の孔であって、各々にネジ部が形成された複数の孔、を有するテンショナ本体と、上記複数の孔に形成されたネジ部にそれぞれ螺合する複数のジャックボルトと、テンショナ本体と締め具頭部との間に配置され、締め具頭部が挿通する座金と、を含むマルチジャックボルトテンショナが開示されている。
【0003】
マルチジャックボルトテンショナは、締め具頭部の締結に係る軸力を、テンショナ本体に取り付けられた複数のジャックボルトに分散させることで、トルクレンチ等の一般的な締め付け工具で締め具頭部の締結を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-054046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マルチジャックボルトテンショナは、規定のトルクにより締め具頭部の締結を行うトルク管理が広く行われているが、締め具頭部が所望の伸び量を有するように締め具頭部の締結を行う伸び量管理が望まれることがある。上記トルク管理では、トルクと伸び量との間に強い相関が無く、また、伸び量調整に対して有効な管理指標もないため、作業者の経験や技量、感覚に依存する伸び量の調整作業が行われることがある。このため、所望の伸び量を確保するために、作業者による伸び量の調整作業を複数回に亘り繰り返すことが頻繁に行われ、これにより、マルチジャックボルトテンショナを用いた締結における伸び量の調整作業の作業性が悪いという問題があった。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも一実施形態は、マルチジャックボルトテンショナが装着されるボルト部材の伸び量の調整作業の作業性を向上することができるボルト部材の伸び量の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係るボルト部材の伸び量の調整方法は、
マルチジャックボルトテンショナが装着されるボルト部材の伸び量の調整方法であって、
前記マルチジャックボルトテンショナは、
被締結物から突出したボルト部材に螺合する第1ネジ部が形成された第1孔、及び、前記第1孔の周囲に間隔をあけて設けられた複数の第2孔であって、各々に第2ネジ部が形成された複数の第2孔、を有するテンショナ本体と、
前記複数の第2ネジ部にそれぞれ螺合する複数のジャックボルトと、
前記テンショナ本体と前記被締結物との間に配置され、前記ボルト部材が挿通する環状板部材と、を含み、
前記ボルト部材の伸び量の調整方法は、
前記マルチジャックボルトテンショナを前記ボルト部材に装着する装着ステップと、
前記装着ステップの後に、前記複数のジャックボルトの各々を所定のトルクで締め付ける第1締付ステップと、
前記第1締付ステップ後の前記ボルト部材の伸び量を取得する第1伸び量取得ステップと、
前記第1伸び量取得ステップにおいて取得した前記ボルト部材の伸び量の目標の伸び量に対する不足量を取得する不足量取得ステップと、
前記ジャックボルトのピッチ及び前記不足量から前記不足量に対応する前記ジャックボルトの回転角度を取得する回転角度取得ステップと、
前記回転角度取得ステップにおいて取得した前記ジャックボルトの前記回転角度だけ前記複数のジャックボルトの各々を締め付ける第2締付ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、マルチジャックボルトテンショナが装着されるボルト部材の伸び量の調整作業の作業性を向上することができるボルト部材の伸び量の調整方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係るボルト部材の伸び量の調整方法に用いられるマルチジャックボルトテンショナの概略斜視図である。
図2図1に示されるマルチジャックボルトテンショナのボルト部材に取り付けられた状態を示す概略断面図である。
図3】一実施形態に係るボルト部材の伸び量の調整方法の一例を示すフロー図である。
図4図2に示されるマルチジャックボルトテンショナのジャックボルト近傍の概略断面図である。
図5】一実施形態に係るボルト部材の伸び量の調整方法の回転角度取得ステップの一例を説明するための説明図である。
図6】一実施形態に係るボルト部材の伸び量の調整方法の第1締付ステップ及び第2締付ステップの一例を説明するための説明図である。
図7】比較例に係るボルト部材の伸び量の測定方法を説明するための説明図である。
図8】一実施形態に係るボルト部材の伸び量の調整方法の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
(マルチジャックボルトテンショナ)
本開示の幾つかの実施形態に係るボルト部材2の伸び量の調整方法1は、マルチジャックボルトテンショナ3が装着されるボルト部材2の伸び量Eを調整するための方法である。図1は、一実施形態に係るボルト部材2の伸び量の調整方法1に用いられるマルチジャックボルトテンショナ3の概略斜視図である。図2は、図1に示されるマルチジャックボルトテンショナ3のボルト部材2に取り付けられた状態を示す概略断面図である。図1及び図2に示されるように、マルチジャックボルトテンショナ3は、テンショナ本体4と、複数のジャックボルト5と、環状板部材6と、を含む。
【0012】
テンショナ本体4は、図2に示されるように、被締結物10から突出したボルト部材2に螺合する第1ネジ部42が形成された第1孔41、及び、第1孔41の周囲に間隔をあけて設けられた複数の第2孔43、を有する。複数の第2孔43の各々には、ジャックボルト5に螺合する第2ネジ部44が形成されている。第1孔41及び複数の第2孔43の各々は、テンショナ本体4の軸線LAに沿って延在する。
【0013】
複数のジャックボルト5の各々は、複数の第2ネジ部44のうちの一つの第2ネジ部44に螺合するようになっている。環状板部材6は、テンショナ本体4と被締結物10との間に配置され、ボルト部材2が挿通するようになっている。
【0014】
以下、テンショナ本体4の軸線LAが延在する方向(図1図2中上下方向)をテンショナ本体4(マルチジャックボルトテンショナ3)の軸方向と定義し、軸線LAに直交する方向をテンショナ本体4(マルチジャックボルトテンショナ3)の径方向と定義し、軸線LA回りの周方向をテンショナ本体4(マルチジャックボルトテンショナ3)の周方向と定義する。また、上記軸方向のうち、環状板部材6に対してテンショナ本体4が位置する側(図1図2中上側)を第1側と定義し、上記軸方向のうち、テンショナ本体4に対して環状板部材6が位置する側(図1図2中下側)を第2側と定義する。
【0015】
(被締結物、ボルト部材)
被締結物10は、図2に示されるように、第1被締結部材11と、第1被締結部材11よりも上記軸方向の第2側に配置され、第1被締結部材11に当接する第2被締結部材12と、を含む。第1被締結部材11は、第1側の端面111と、上記軸方向において第1側の端面111とは反対側に位置し、第2被締結部材12の第1側の端面121に当接する第2側の端面112と、を有する。第1被締結部材11には、第1側の端面111から第2側の端面112までに亘り延在する貫通孔113が形成されている。
【0016】
ボルト部材2は、図2に示されるように、第1被締結部材11の貫通孔113を挿通する軸部21と、第1被締結部材11の第2側の端面112よりも第2側に突出し、第2被締結部材12に係止される第2側の端部22と、を有する。
【0017】
図2に示される実施形態では、第2被締結部材12の第1側の端面121には、第2側に向かって延在する孔部122が形成されている。孔部122の上記軸方向の少なくとも一部の内周面には、ネジ部123が形成されている。第2側の端部22は、上記軸方向の少なくとも一部の外周面に、第2被締結部材12のネジ部123に螺合するネジ部23が形成されている。ボルト部材2は、ネジ部23を第2被締結部材12のネジ部123に螺合させることで、第2被締結部材12に固定される。
【0018】
ボルト部材2は、図2に示されるように、第1被締結部材11(被締結物10)の第1側の端面111よりも第1側に突出する第1側の端部24をさらに有する。第1側の端部24は、上記軸方向の少なくとも一部の外周面に、テンショナ本体4の第1ネジ部42に螺合するネジ部25が形成されている。軸部21、第2側の端部22及び第1側の端部24の各々は、ボルト部材2の軸線LBに沿って延在する。第2側の端部22及び第1側の端部24の各々は、軸部21と一体的に構成されている。第2側の端部22及び第1側の端部24の各々は、軸部21と同軸上に形成されることが好ましい。
【0019】
(環状板部材)
環状板部材6は、図2に示されるように、第1側の端部24を挿通させる中心孔61を有する円環板状に形成されている。環状板部材6は、例えば、平座金であってもよい。環状板部材6は、板厚方向の一方側の端面である第1側の端面62と、板厚方向の他方側の端面である第2側の端面63と、を有する。環状板部材6は、ボルト部材2に装着された際に、第2側の端面63の少なくとも一部(外周縁)が、第1被締結部材11の第1側の端面111に当接するようになっている。
【0020】
(テンショナ本体)
テンショナ本体4は、図1及び図2に示されるように、上記軸方向の第1側の端面45と、上記軸方向の第2側の端面46と、を有する。第1孔41は、第2側の端面46に形成され、第1側に向かって延在する。第1孔41の上記軸方向の少なくとも一部の内周面には、ボルト部材2のネジ部25に螺合する上述した第1ネジ部42が形成されている。なお、第1孔41は、図1及び図2に示されるように、第2側の端面46から第1側の端面45までに亘り延在する貫通孔であってもよい。
【0021】
第1孔41は、テンショナ本体4の径方向における中央部に形成され、テンショナ本体4の軸線LAが通過する位置に形成されている。第1孔41は、テンショナ本体4の中心孔であってもよい。すなわち、第1孔41の軸線が軸線LAと同軸となっていてもよい。テンショナ本体4は、第1ネジ部42をボルト部材2のネジ部25に螺合させることで、ボルト部材2に装着される。テンショナ本体4は、ボルト部材2に装着された際に、第2側の端面46が環状板部材6の第1側の端面62に対向するようになっている。
【0022】
複数の第2孔43の各々は、第1側の端面45から第2側の端面46までに亘り延在する貫通孔である。複数の第2孔43の各々は、該第2孔43の上記軸方向の少なくとも一部の内周面に、ジャックボルト5のネジ部54に螺合する上述した第2ネジ部44が形成されている。複数の第2孔43の各々は、第1孔41よりも孔径が小さく、テンショナ本体4の軸線LA回りの周方向に沿って互いに間隔をあけた位置に形成されている。複数の第2孔43は、第2孔43の軸線LCの第1孔41の軸線(例えば、軸線LA)からの距離が互いに同じになっていてもよい。
【0023】
(ジャックボルト)
複数のジャックボルト5の各々は、頭部51と、頭部51の底面52に長手方向の一端が接続された軸部53と、を有する。軸部53の長手方向の少なくとも一部の外周面に、上述したネジ部54が形成されている。複数のジャックボルト5の各々は、ネジ部54を第2ネジ部44に螺合させることで、テンショナ本体4を介してボルト部材2に装着される。複数のジャックボルト5の各々は、ボルト部材2に装着された際に、頭部51がテンショナ本体4の第1側の端面45よりも第1側に位置する。また、複数のジャックボルト5の各々は、ボルト部材2に装着された際に、軸部53の頭部51に接続される一端側とは反対側の他端側の端面(先端面)55が、環状板部材6の第1側の端面62に当接するようになっている。
【0024】
マルチジャックボルトテンショナ3は、ボルト部材2の締結に係る軸力を、テンショナ本体4に取り付けられた複数のジャックボルト5に分散させることで、トルクレンチ等の一般的な締め付け工具でボルト部材2の締結を可能とする。
【0025】
(ボルト部材の伸び量の調整方法)
図3は、一実施形態に係るボルト部材2の伸び量の調整方法1の一例を示すフロー図である。幾つかの実施形態に係るボルト部材2の伸び量の調整方法1は、図3に示されるように、装着ステップS1と、第1締付ステップS2と、第1伸び量取得ステップS3と、を少なくとも備える。
【0026】
装着ステップS1では、マルチジャックボルトテンショナ3(テンショナ本体4、複数のジャックボルト5及び環状板部材6)をボルト部材2に装着することが行われる。装着ステップS1において、テンショナ本体4を介してボルト部材2に装着された複数のジャックボルト5の各々は、軸部53の先端面55が、環状板部材6の第1側の端面62に当接している。
【0027】
第1締付ステップS2は、装着ステップS1の後に行われる。第1締付ステップS2では、複数のジャックボルト5の各々を所定のトルク(目標トルク)で締め付けることが行われる。すなわち、第1締付ステップS2では、トルク管理による複数のジャックボルト5の締め付けが行われる。複数のジャックボルト5の各々を、テンショナ本体4に対して所定のトルクで締め付けることで、ボルト部材2の伸び量が、第1締付ステップS2を行う前よりも増加する。
【0028】
第1締付ステップS2では、トルクレンチをジャックボルト5の頭部51に取り付け、テンショナ本体4に対してジャックボルト5を締め付ける方向に向かって頭部51を回転させることで、複数のジャックボルト5の各々を所定のトルクで締め付けてもよい。第1締付ステップS2における所定のトルク(目標トルク)は、第1締付ステップS2よりも前に予め設定されている。この目標トルクは、過去のボルト部材2の伸び量の調整方法の実績値、又は、ボルト部材2の伸び量の数値解析結果、の少なくとも一方に基づいて設定されたものであってもよい。
【0029】
第1伸び量取得ステップS3は、少なくとも一部が第1締付ステップS2の後に行われる。第1伸び量取得ステップS3では、第1締付ステップS2後のボルト部材2の、第1締付ステップS2前のボルト部材2に対する伸び量E(ボルト部材2の軸方向長さの締め付けによる増加量)を取得することが行われる。
【0030】
図4は、図2に示されるマルチジャックボルトテンショナ3のジャックボルト5近傍の概略断面図である。図4に示されるように、被締結物10の環状板部材6に対向する面(第1側の端面111)、又は環状板部材6のテンショナ本体4に対向する面(第1側の端面62)、のいずれかを基準面RPと定義し、基準面RPからテンショナ本体4の任意の位置までの長さを基準長さRLと定義する。図3に示されるように、上述した第1伸び量取得ステップS3は、第1締付ステップS2前の基準長さ(第1基準長さ)RLを測定する第1測定ステップS31と、第1締付ステップS2後の基準長さ(第2基準長さ)RLを測定する第2測定ステップS32と、を含んでいてもよい。この場合には、第2基準長さの第1基準長さに対する差を、第1締付ステップS2後のボルト部材2の伸び量Eとしてもよい。
【0031】
図3に示されるように、第1伸び量取得ステップS3において取得したボルト部材2の伸び量Eと目標の伸び量TEとの比較を行い(比較ステップS33)、第1伸び量取得ステップS3において取得したボルト部材2の伸び量Eが目標の伸び量TE以上である場合には(S33で「NO」)、伸び量管理による複数のジャックボルト5の締め付けが適切に行われたため、ボルト部材2に対する増し締め(後述するステップS4~S6)が不要である。目標の伸び量TEは、比較ステップS33よりも前に予め設定されている。この目標の伸び量TEは、過去のボルト部材2の伸び量の調整方法の実績値、又は、ボルト部材2の伸び量の数値解析結果、の少なくとも一方に基づいて設定されたものであってもよい。
【0032】
反対に、第1伸び量取得ステップS3において取得したボルト部材2の伸び量Eが目標の伸び量TEに満たない場合には(S33で「YES」)、ボルト部材2の伸び量Eを目標の伸び量TE以上とするための、ボルト部材2に対する増し締め(後述するステップS4~S6)が必要となる。
【0033】
幾つかの実施形態に係るボルト部材2の伸び量の調整方法1は、図3に示されるように、不足量取得ステップS4と、回転角度取得ステップS5と、第2締付ステップS6と、をさらに備える。
【0034】
不足量取得ステップS4は、第1伸び量取得ステップS3や比較ステップS33の後に行われる。不足量取得ステップS4では、第1伸び量取得ステップS3において取得したボルト部材2の伸び量Eの目標の伸び量TEに対する不足量ΔE(図5参照)を取得することが行われる。不足量ΔEは、目標の伸び量TEに対するボルト部材2の伸び量Eの差であり、ボルト部材2の伸び量Eと目標の伸び量TEとから、計算機などにより算出してもよい。
【0035】
回転角度取得ステップS5は、不足量取得ステップS4の後に行われる。回転角度取得ステップS5では、ジャックボルト5のネジ部54のピッチP(図4参照)、及び、不足量取得ステップS4において取得した不足量ΔE、から不足量ΔEに対応するジャックボルト5の回転角度TRAを取得することが行われる。回転角度TRAは、ボルト部材2の伸び量Eを目標の伸び量TEとするための、ジャックボルト5の目標増し締め角度である。
【0036】
回転角度取得ステップS5では、回転角度取得ステップS5の前に予め用意されたピッチP、不足量ΔE及び回転角度TRAが関連付けられた関連付け情報に基づいて、不足量取得ステップS4において取得した不足量ΔEから、回転角度TRAを算出してもよい。上記関連付け情報は、ピッチP、不足量ΔE及び回転角度TRAの間の対応関係を示すものであり、入力情報であるピッチP及び不足量ΔEから、ピッチP及び不足量ΔEに対応する回転角度TRAを出力情報として取得できるものであればよい。上記関連付け情報は、数式、図や表、データマップであってもよい。
【0037】
図5は、一実施形態に係るボルト部材2の伸び量の調整方法1の回転角度取得ステップS5の一例を説明するための説明図である。図5には、ボルト部材2の伸び量Eを横軸とし、回転角度TRAを縦軸とするグラフが示されている。図5中のA1は、ボルト部材2の伸び量Eと回転角度TRAとの関係を示す近似直線である。近似直線A1の傾きは、ジャックボルト5のネジ部54の形状及びピッチPから算出できるネジ部54のリードと回転角度TRAの比により規定されていてもよい。例えば、回転角度TRAを360°としたときに、ジャックボルト5が軸方向にリード分(例えば、ピッチP分)だけ移動し、それに伴いボルト部材2の伸び量Eが上記リード分だけ増加するものとし、近似直線A1から不足量ΔEに対応する回転角度TRAを求めてもよい。
【0038】
第2締付ステップS6は、回転角度取得ステップS5の後に行われる。第2締付ステップS6では、複数のジャックボルト5の各々を、回転角度取得ステップS5で取得した回転角度TRA(所定の回転角度)だけ締め付けることが行われる。すなわち、第2締付ステップS6では、角度管理による複数のジャックボルト5の締め付けが行われる。複数のジャックボルト5の各々を、テンショナ本体4に対して回転角度TRAだけ締め付けることで、ボルト部材2の伸び量Eが、第2締付ステップS6を行う前よりも増加する。
【0039】
図6は、一実施形態に係るボルト部材2の伸び量の調整方法1の第1締付ステップS2及び第2締付ステップS6の一例を説明するための説明図である。第1締付ステップS2では、例えば、不図示のトルクレンチを用いて複数のジャックボルト5の各々を一つずつ
締め付けることが行われる。第2締付ステップS6では、角度レンチ13(図6参照)をジャックボルト5の頭部51に取り付け、テンショナ本体4に対してジャックボルト5を締め付ける方向に向かって頭部51を回転させることで、複数のジャックボルト5の各々を一つずつ回転角度TRAだけ締め付けてもよい。
【0040】
上記の方法によれば、第1締付ステップS2におけるトルク管理による複数のジャックボルト5の締め付けでは、機械的張力によるボルト部材2の伸び量Eが目標の伸び量TEに対して不足する場合がある。この場合において、第2締付ステップS6における角度管理による複数のジャックボルト5の増し締めにより、機械的張力によるボルト部材2の伸び量Eが目標の伸び量TEとなるように調整できる。
【0041】
上記の方法によれば、ジャックボルト5のピッチP及び不足量ΔEから取得される不足量ΔEに対応する回転角度TRAを、ボルト部材2の伸び量E調整の管理指標とすることで、作業者の経験や技量、感覚に依存せずに、ボルト部材2の伸び量Eの調整作業が可能となる。上記管理指標があることで、ボルト部材2の伸び量Eの調整作業に対して経験や技量を有さない作業者も、ボルト部材2の伸び量Eの調整作業を迅速に行うことが可能となる。また、上記管理指標があることで、従来の作業者の経験や技量、感覚に依存する伸び量の調整作業に比べて、ボルト部材2の伸び量Eの調整作業の繰り返しやボルト部材2を締め直す作業を低減でき、これによりボルト部材2の伸び量Eの調整作業の作業性を向上することができる。
【0042】
(第2伸び量調整ステップ)
幾つかの実施形態では、図3に示されるように、上述したボルト部材2の伸び量の調整方法1は、第2伸び量取得ステップS7をさらに備えていてもよい。第2伸び量取得ステップS7では、第2締付ステップS6後のボルト部材2の伸び量Eを取得することが行われる。
【0043】
第2伸び量取得ステップS7は、第2締付ステップS6の後に行われる。第2伸び量取得ステップS7では、第2締付ステップS6後のボルト部材2の、第1締付ステップS2前のボルト部材2に対する伸び量E(ボルト部材2の軸方向長さの締め付けによる増加量)を取得することが行われる。
【0044】
図3に示されるように、上述した第2伸び量取得ステップS7は、第2締付ステップS6後の基準長さ(第3基準長さ)RLを測定する第3測定ステップS71を含んでいてもよい。この場合には、第3基準長さの第1基準長さに対する差を、第2締付ステップS6後のボルト部材2の伸び量Eとしてもよい。第2伸び量取得ステップS7において取得したボルト部材2の伸び量Eと目標の伸び量TEとの比較を行い、第2伸び量取得ステップS7において取得したボルト部材2の伸び量Eが、目標の伸び量TE以上であるか否かの確認が行われる。
【0045】
上記の方法によれば、第2伸び量取得ステップS7において、機械的張力によるボルト部材2の伸び量Eが目標とする伸び量TEになっているか否かを確認できる。第2伸び量取得ステップS7においてボルト部材2の伸び量Eを確認することで、適切なボルト部材2の伸び量管理が行われる。なお、第2伸び量取得ステップS7において取得したボルト部材2の伸び量Eが、目標の伸び量TEに満たない場合には、上述したステップS4~S7を再度行うようにしてもよい。
【0046】
(比較例に係るボルト部材の伸び量の測定箇所、測定方法)
図7は、比較例に係るボルト部材2の伸び量Eの測定方法を説明するための説明図である。比較例に係るボルト部材2の伸び量Eの測定方法は、図7に示されるような、ボルト部材2の伸び量Eの測定に専用計測器(伸び計測用ダイヤルゲージ14、伸び計測用ロッド15及び伸び計測用スリーブ16)が用いられる。ボルト部材2には、ボルト部材2の軸線LBに沿って貫通する貫通孔26が形成されている。伸び計測用ロッド15は、その長手方向の一端(第1側端)が伸び計測用ダイヤルゲージ14の測定子に接続され、その長手方向の他端(第2側端)が貫通孔26に挿入されている。伸び計測用ダイヤルゲージ14は、伸び計測用スリーブ16に支持され、ボルト部材2よりも第1側に配置されている。図示される実施形態では、伸び計測用スリーブ16は、ボルト部材2の第1側の端面上に立設している。
【0047】
伸び計測用ロッド15の軸線LBに沿った動きが伸び計測用ダイヤルゲージ14に読み取られ、伸び計測用ダイヤルゲージ14に表示される。伸び計測用ダイヤルゲージ14により、伸び計測用ロッド15の基準長さを取得できる。この基準長さのボルト部材2の締め付け前後の変化を、ボルト部材2の伸び量Eとしてもよい。例えば、ボルト部材2の第1側の端面を基準位置として、該基準位置から孔部122の底面までの伸び計測用ロッド15の長さを、伸び計測用ロッド15の基準長さとすることができる。
【0048】
(ボルト部材の伸び量の測定箇所、測定方法)
幾つかの実施形態では、図3に示されるように、上述した第1伸び量取得ステップS3は、第1基準長さを測定する上述した第1測定ステップS31と、第2基準長さを測定する上述した第2測定ステップS32と、を含む。
【0049】
上記の方法によれば、第1測定ステップS31および第2測定ステップS32において測定した第1締め付けステップS2前後のボルト部材2の基準長さRL(の変化)からボルト部材2の伸び量Eを取得できる。ボルト部材2の基準長さRLの測定には、専用計測器(伸び計測用ダイヤルゲージ14、伸び計測用ロッド15及び伸び計測用スリーブ16)が不要であり、すきまゲージ(シックネスゲージ)、デプスゲージ又はレーザーを用いる非接触式の寸法測定装置などの一般的な計測器を用いることができる。また、ボルト部材2の基準長さRLの測定は、専用計測器を用いた伸び量の測定に比べて、作業者が容易且つ迅速に行うことができる。これにより、第1伸び量取得ステップS3を作業者が容易且つ迅速に行うことができる。また、上記の方法によれば、ボルト部材2に貫通孔26を形成しなくてもよい。
【0050】
幾つかの実施形態では、上述した第1測定ステップS31及び第2測定ステップS32では、図4に示されるように、環状板部材6のテンショナ本体4に対向する面(第1側の端面)62を基準面RPとし、上記軸方向における基準面RPからテンショナ本体4の基準面RPに近い側の端面(第2側の端面)46までの長さL1を基準長さRLとして測定が行われる。
【0051】
上記の方法によれば、上記基準長さRL、すなわち、環状板部材6のテンショナ本体4に対向する面62とテンショナ本体4の環状板部材6側の端面46との間の長さL1は、すきまゲージなどの一般的な計測器を用いて、作業者が容易且つ迅速に測定できる。なお、上述した第3測定ステップS71でも、上述した長さL1を基準長さRLとして測定が行われてもよい。
【0052】
幾つかの実施形態では、上述した第1測定ステップS31及び第2測定ステップS32では、図4に示されるように、被締結物10の環状板部材6に対向する面(第1側の端面)111を基準面RPとし、上記軸方向における基準面RPからテンショナ本体4の基準面RPから離れた側の端面(第1側の端面)45までの長さL2を基準長さRLとして測定が行われる。
【0053】
上記の方法によれば、上記基準長さRL、すなわち、被締結物10の環状板部材6に対向する面111とテンショナ本体4の環状板部材6から離れた側の端面45との間の長さL2は、デプスゲージなどの一般的な計測器を用いて、作業者が容易且つ迅速に測定できる。なお、上述した第3測定ステップS71でも、上述した長さL2を基準長さRLとして測定が行われてもよい。
【0054】
(ボルト部材の周方向における伸び量の分布の均一化)
図8は、一実施形態に係るボルト部材2の伸び量Eの調整方法1の一例を説明するための説明図である。上述した幾つかの実施形態では、ボルト部材2の周方向における任意の一位置における機械的張力によるボルト部材2の伸び量E、不足量ΔE、不足量ΔEに対応する回転角度TRAを取得し、この回転角度TRAだけテンショナ本体4に取り付けられた複数のジャックボルト5の各々に対して増し締めを行っているが、ボルト部材2の周方向における複数位置(第1位置P1、第2位置P2)における機械的張力によるボルト部材2の伸び量E、不足量ΔE、不足量ΔEに対応する回転角度TRAを取得してもよい。
【0055】
幾つかの実施形態では、上述した第1伸び量取得ステップS3は、ボルト部材2の周方向における第1位置P1(図8参照)においてボルト部材2の伸び量Eを取得する第1位置伸び量取得ステップと、ボルト部材2の周方向における第1位置P1とは異なる第2位置P2(図8参照)においてボルト部材2の伸び量Eを取得する第2位置伸び量取得ステップと、を含む。テンショナ本体4の軸線LAを中心とする第1位置P1と第2位置P2の間の角度差をθと定義する。角度差θは、第1位置P1と第2位置P2とがテンショナ本体4の軸線LAに対してなす二つの角度のうち、小さい方の角度である。この角度差θは、大きい方が好ましい。或る実施形態では、角度差θは、90°≦θ≦180°の条件を満たす。
【0056】
上述した不足量取得ステップS4は、第1位置伸び量取得ステップにおいて取得したボルト部材2の伸び量Eの目標の伸び量TEに対する不足量ΔEである第1不足量を取得する第1不足量取得ステップと、第2位置伸び量取得ステップにおいて取得したボルト部材2の伸び量Eの目標の伸び量TEに対する不足量ΔEである第2不足量を取得する第2不足量取得ステップと、を含む。上述した回転角度取得ステップS5は、第1不足量ΔE及びジャックボルト5のピッチPから第1不足量ΔEに対応するジャックボルト5の第1回転角度TRAを取得する第1回転角度取得ステップと、第2不足量ΔE及びジャックボルト5のピッチPから第2不足量ΔEに対応するジャックボルト5の第2回転角度TRAを取得する第2回転角度取得ステップと、を含む。
【0057】
上述した第2締付ステップS6は、複数のジャックボルト5のうち、第2位置P2よりも第1位置P1に近い第1ジャックボルト5A(図8参照)を、第1回転角度TRAだけ締め付ける第1ジャックボルト締付ステップと、複数のジャックボルト5のうち、第1位置P1よりも第2位置P2に近い第2ジャックボルト5B(図8参照)を、第2回転角度TRAだけ締め付ける第2ジャックボルト締付ステップと、を含む。ここで、「第2位置P2よりも第1位置P1に近い」とは、ボルト部材2の周方向において、第1ジャックボルト5Aの第1位置P1に対する周方向角度差が、第1ジャックボルト5Aの第2位置P2に対する周方向角度差よりも小さいことを意味する。同様に、「第1位置P1よりも第2位置P2に近い」とは、ボルト部材2の周方向において、第2ジャックボルト5Bの第2位置P2に対する周方向角度差が、第2ジャックボルト5Bの第1位置P1に対する周方向角度差よりも小さいことを意味する。
【0058】
上記の方法によれば、ボルト部材2の周方向における複数位置(第1位置P1、第2位置P2)における機械的張力によるボルト部材2の伸び量E、不足量ΔE、不足量ΔEに対応する回転角度TRAを取得し、第1ジャックボルト締付ステップ及び第2ジャックボルト締付ステップにおける角度管理によるジャックボルト5A、5Bの増し締めにより、ボルト部材2の周方向の広い範囲に亘り、ボルト部材2の伸び量Eが目標の伸び量TEとなるように調整できるとともに、ボルト部材2の周方向における伸び量Eの分布を十分に均一化できる。
【0059】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0060】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0061】
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握されるものである。
【0062】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係るボルト部材(2)の伸び量の調整方法(1)は、
マルチジャックボルトテンショナ(3)が装着されるボルト部材(2)の伸び量の調整方法であって、
前記マルチジャックボルトテンショナ(3)は、
被締結物(10)から突出したボルト部材(2)に螺合する第1ネジ部(42)が形成された第1孔(41)、及び、前記第1孔(41)の周囲に間隔をあけて設けられた複数の第2孔(43)であって、各々に第2ネジ部(44)が形成された複数の第2孔(43)、を有するテンショナ本体(4)と、
前記複数の第2ネジ部(44)にそれぞれ螺合する複数のジャックボルト(5)と、
前記テンショナ本体(4)と前記被締結物(10)との間に配置され、前記ボルト部材(2)が挿通する環状板部材(6)と、を含み、
前記ボルト部材(2)の伸び量の調整方法(1)は、
前記マルチジャックボルトテンショナ(3)を前記ボルト部材(2)に装着する装着ステップ(S1)と、
前記装着ステップ(S1)の後に、前記複数のジャックボルト(5)の各々を所定のトルクで締め付ける第1締付ステップ(S2)と、
前記第1締付ステップ(S2)後の前記ボルト部材(2)の伸び量(E)を取得する第1伸び量取得ステップ(S3)と、
前記第1伸び量取得ステップ(S3)において取得した前記ボルト部材(2)の伸び量(E)の目標の伸び量(TE)に対する不足量(ΔE)を取得する不足量取得ステップ(S4)と、
前記ジャックボルト(5)のピッチ(P)及び前記不足量(ΔE)から前記不足量(ΔE)に対応する前記ジャックボルト(5)の回転角度(TRA)を取得する回転角度取得ステップ(S5)と、
前記回転角度取得ステップ(S5)において取得した前記ジャックボルト(5)の前記回転角度(TRA)だけ前記複数のジャックボルト(5)の各々を締め付ける第2締付ステップ(S6)と、を備える。
【0063】
上記1)の方法によれば、第1締付ステップ(S2)におけるトルク管理によるジャックボルト(5)の締め付けでは、機械的張力によるボルト部材(2)の伸び量(E)が目標の伸び量(TE)に対して不足する場合がある。この場合において、第2締付ステップ(S6)における角度管理によるジャックボルト(5)の増し締めにより、機械的張力によるボルト部材(2)の伸び量(E)が目標の伸び量(TE)となるように調整できる。上記1)の方法によれば、ジャックボルト(5)のピッチ(P)及び不足量(ΔE)から取得される不足量(ΔE)に対応する回転角度(TRA)を、ボルト部材(2)の伸び量(E)調整の管理指標とすることで、作業者の経験や技量、感覚に依存せずに、ボルト部材(2)の伸び量(E)の調整作業が可能となる。上記管理指標があることで、ボルト部材(2)の伸び量(E)の調整作業に対して経験や技量を有さない作業者も、ボルト部材(2)の伸び量(E)の調整作業を迅速に行うことが可能となる。また、上記管理指標があることで、従来の作業者の経験や技量、感覚に依存する伸び量の調整作業に比べて、ボルト部材(2)の伸び量(E)の調整作業の繰り返しやボルト部材(2)を締め直す作業を低減でき、これによりボルト部材(2)の伸び量の調整作業の作業性を向上することができる。
【0064】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載のボルト部材(2)の伸び量の調整方法(1)であって、
前記被締結物(10)の前記環状板部材(6)に対向する面(111)、又は前記環状板部材(6)の前記テンショナ本体(4)に対向する面(62)、のいずれかを基準面(RP)と定義し、前記基準面(RP)から前記テンショナ本体(4)の任意の位置までの長さを基準長さ(RL)と定義した場合において、
前記第1伸び量取得ステップ(S3)は、
前記第1締付ステップ(S2)前の前記基準長さ(RL)を測定する第1測定ステップ(S31)と、
前記第1締付ステップ(S2)後の前記基準長さ(RL)を測定する第2測定ステップ(S32)と、を含む。
【0065】
上記2)の方法によれば、第1測定ステップ(S31)および第2測定ステップ(S32)において測定した第1締め付けステップ(S2)前後のボルト部材(2)の基準長さ(RL)からボルト部材(2)の伸び量(E)を取得できる。ボルト部材(2)の基準長さ(RL)の測定には、専用計測器が不要であり、すきまゲージ(シックネスゲージ)、デプスゲージ又はレーザーを用いる非接触式の寸法測定装置などの一般的な計測器を用いることができる。また、ボルト部材(2)の基準長さ(RL)の測定は、専用計測器を用いた伸び量の測定に比べて、作業者が容易且つ迅速に行うことができる。これにより、第1伸び量取得ステップ(S3)を作業者が容易且つ迅速に行うことができる。
【0066】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載のボルト部材(2)の伸び量の調整方法(1)であって、
前記第1測定ステップ(S31)及び前記第2測定ステップ(S32)では、前記環状板部材(6)の前記テンショナ本体(4)に対向する面(62)を前記基準面(RP)とし、前記基準面(RP)から前記テンショナ本体(4)の前記基準面(RP)に近い側の端面(46)までの長さ(L1)を前記基準長さ(RL)として測定が行われる。
【0067】
上記3)の方法によれば、上記基準長さ(RL)、すなわち、環状板部材(6)のテンショナ本体(4)に対向する面(62)とテンショナ本体(4)の環状板部材(6)側の端面(46)との間の長さ(L1)は、すきまゲージなどの一般的な計測器を用いて、作業者が容易且つ迅速に測定できる。
【0068】
4)幾つかの実施形態では、上記2)に記載のボルト部材(2)の伸び量の調整方法(1)であって、
前記第1測定ステップ(S31)及び前記第2測定ステップ(S32)では、前記被締結物(10)の前記環状板部材(6)に対向する面(111)を前記基準面(RP)とし、前記基準面(RP)から前記テンショナ本体(4)の前記基準面(RP)から離れた側の端面(45)までの長さ(L1)を前記基準長さ(RL)として測定が行われる。
【0069】
上記4)の方法によれば、上記基準長さ(RL)、すなわち、被締結物(10)の環状板部材(6)に対向する面(111)とテンショナ本体(4)の環状板部材(6)から離れた側の端面(45)との間の長さ(L1)は、デプスゲージなどの一般的な計測器を用いて、作業者が容易且つ迅速に測定できる。
【0070】
5)幾つかの実施形態では、上記1)から4)までの何れかに記載のボルト部材(2)の伸び量の調整方法(1)であって、
前記第2締付ステップ(S6)後の前記ボルト部材(2)の伸び量(E)を取得する第2伸び量取得ステップ(S7)をさらに備える。
【0071】
上記5)の方法によれば、第2伸び量取得ステップ(S7)において、機械的張力によるボルト部材(2)の伸び量(E)が目標とする伸び量(TE)になっているか否かを確認できる。第2伸び量取得ステップ(S7)においてボルト部材(2)の伸び量(E)を確認することで、適切なボルト部材(2)の伸び量管理が行われる。
【0072】
6)幾つかの実施形態では、上記2)から4)までの何れかに記載のボルト部材(2)の伸び量の調整方法(1)であって、
前記第1伸び量取得ステップ(S3)は、
前記ボルト部材(2)の周方向における第1位置(P1)において前記ボルト部材(2)の伸び量(E)を取得する第1位置伸び量取得ステップと、
前記ボルト部材(2)の前記周方向における前記第1位置(P1)とは異なる第2位置(P2)において前記ボルト部材(2)の伸び量(E)を取得する第2位置伸び量取得ステップと、を含み、
前記不足量取得ステップ(S4)は、
前記第1位置伸び量取得ステップにおいて取得した前記ボルト部材(2)の伸び量(E)の目標の伸び量(TE)に対する不足量(ΔE)である第1不足量を取得する第1不足量取得ステップと、
前記第2位置伸び量取得ステップにおいて取得した前記ボルト部材(2)の伸び量(E)の目標の伸び量(TE)に対する不足量(ΔE)である第2不足量を取得する第2不足量取得ステップと、を含み、
前記回転角度取得ステップ(S5)は、
前記第1不足量(ΔE)及び前記ジャックボルト(5)のピッチ(P)から前記第1不足量(ΔE)に対応する前記ジャックボルト(5)の第1回転角度(TRA)を取得する第1回転角度取得ステップと、
前記第2不足量(ΔE)及び前記ジャックボルト(5)のピッチ(P)から前記第2不足量(ΔE)に対応する前記ジャックボルト(5)の第2回転角度(TRA)を取得する第2回転角度取得ステップと、を含み、
前記第2締付ステップ(S6)は、
前記複数のジャックボルト(5)のうち、前記第2位置(P2)よりも前記第1位置(P1)に近い第1ジャックボルト(5A)を、前記第1回転角度(TRA)だけ締め付ける第1ジャックボルト締付ステップと、
前記複数のジャックボルト(5)のうち、前記第1位置(P1)よりも前記第2位置(P2)に近い第2ジャックボルト(5B)を、前記第2回転角度(TRA)だけ締め付ける第2ジャックボルト締付ステップと、を含む。
【0073】
上記6)の方法によれば、ボルト部材(2)の周方向における複数位置(第1位置P1、第2位置P2)における機械的張力によるボルト部材(2)の伸び量(E)、不足量(ΔE)、不足量(ΔE)に対応する回転角度(TRA)を取得し、第1ジャックボルト締付ステップ及び第2ジャックボルト締付ステップにおける角度管理によるジャックボルト(5A、5B)の増し締めにより、ボルト部材(2)の周方向の広い範囲に亘り、ボルト部材(2)の伸び量(E)が目標の伸び量(TE)となるように調整できるとともに、ボルト部材(2)の周方向における伸び量(E)の分布を十分に均一化できる。
【符号の説明】
【0074】
1 ボルト部材の伸び量の調整方法
2 ボルト部材
3 マルチジャックボルトテンショナ
4 テンショナ本体
5,5A,5B ジャックボルト
6 環状板部材
10 被締結物
11 第1被締結部材
12 第2被締結部材
13 角度レンチ
14 伸び計測用ダイヤルゲージ
15 伸び計測用ロッド
16 伸び計測用スリーブ
41 第1孔
42 第1ネジ部
43 第2孔
44 第2ネジ部
A1 近似直線
E,TE 伸び量
LA,LB,LC 軸線
P ピッチ
P1 第1位置
P2 第2位置
RL 基準長さ
RP 基準面
S1 装着ステップ
S2 第1締付ステップ
S3 第1伸び量取得ステップ
S4 不足量取得ステップ
S5 回転角度取得ステップ
S6 第2締付ステップ
S7 第2伸び量取得ステップ
S31 第1測定ステップ
S32 第2測定ステップ
S33 比較ステップ
S71 第3測定ステップ
TRA 回転角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8