(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20240531BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20240531BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20240531BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20240531BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C23C2/06
C21D9/56 101B
C22C18/04
C23C2/02
C23C2/28
(21)【出願番号】P 2022536987
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 KR2020017416
(87)【国際公開番号】W WO2021125630
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】10-2019-0169494
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヒョン-ユン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヨン-ジュ
(72)【発明者】
【氏名】カン、 デ-ヨン
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-170961(JP,A)
【文献】特開平11-323524(JP,A)
【文献】特開2004-068075(JP,A)
【文献】特開2017-066457(JP,A)
【文献】国際公開第2019/132412(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0345584(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0074231(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第108588491(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/56
C22C 18/04
C23C 2/02
2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鉄;及び
前記素地鉄上に形成された溶融合金めっき層を含み、
前記溶融合金めっき層は重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%
、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上を
合計量で0.0005~0.009%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、
前記溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率は10~45面積%であり、
前記MgZn2相はその内部に割れを有し、前記割れは鋼板の厚さ方向への断面を基準
とするときに観察される視野で、前記鋼板の厚さ方向の垂直方向に100μm当たり3~
80個存在する、加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材。
【請求項2】
前記
MgZn2相の内部に存在する割れは、その長さの合計が3~300μmである、請求項1に記載の加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材。
【請求項3】
素地鉄を用意する段階;
前記素地鉄を重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、Be、C
a、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上を合計量で0
.0005~0.009%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に通過さ
せて溶融めっきする段階;及び
前記溶融めっきされた素地鉄をガスワイピング及び冷却して、前記素地鉄上に溶融合金
めっき層を形成させる段階;を含み、
前記冷却は、露点温度が-5~50℃であるガスを付与する第1段階;鋼材と水冷浴槽
との温度差を10~300℃になるようにして冷却する第2段階;及び、調質圧延を適用
する第3段階を含む、加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の製
造方法。
【請求項4】
前記素地鉄を溶融めっきする段階の前に、前記素地鉄を400~900℃で熱処理する
段階をさらに含む、請求項3に記載の加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金
めっき鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理は体積%で、5~20%の水素及び80~95%の窒素からなる還元性雰囲
気で行われる、請求項4に記載の加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっ
き鋼材の製造方法。
【請求項6】
前記めっき浴の温度は400~550℃である、請求項3に記載の加工部耐食性に優れ
たZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記調質圧延時の圧下率は2%以下(0%は除く)である、請求項3に記載の加工部耐
食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき処理した鋼材は、酸化電位がさらに高い亜鉛が素地鉄より先に溶解する犠牲防食作用及び緻密に形成された亜鉛の腐食生成物が腐食を遅延させる腐食抑制作用などによって鋼材を腐食から保護する。しかし、日々悪化する腐食環境や資源及び省エネの側面を考慮して耐食性の向上に多くの努力を払っている。
【0003】
一例として、亜鉛にアルミニウムを5重量%または55重量%添加した亜鉛-アルミニウム合金めっきが検討されている。しかし、上記亜鉛-アルミニウム合金めっきは、耐食性には優れるが、アルカリ条件では、アルミニウムが亜鉛より溶解しやすいため、長期耐久性の側面では不利であるという欠点がある。上述しためっき以外にも様々な合金めっきが検討されている。
【0004】
最近、このような努力の成果としてめっき浴にMgを添加して耐食性を大幅に向上させる成果を得ている。特許文献1は、Mg:0.05~10.0%、Al:0.1~10.0%、及び残部:Zn及び不可避不純物からなるZn-Mg-Al合金めっき層を特徴とするコンクリート構造用鋼材に関するものであって、粗大めっき組織の形成により加工部で大きな割れが発生して、鉄の腐食を効果的に抑制することができないという問題がある。
【0005】
特許文献2は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板及びアルミニウム鋼板などの素地鋼板の一面に高分子ポリエステル系塗料を塗布して塗膜割れを吸収する構造を有することを特徴とするカラー鋼板に関するものであって、加工により素地鋼板のめっき層に生じた割れが一定サイズ以上であると、塗膜から割れが吸収できず、素地鋼板が露出して塗装鋼板の腐食を効果的に保護できないという問題がある。
【0006】
特許文献3は、めっき層内のCr成分で金属間化合物を制御し、AlCr2相の形成を介してめっき層の剥離及びめっき皮膜の割れの減少に伴う加工後の耐食性を確保し、Mg2Si合金相及び酸化皮膜を形成することを特徴とする亜鉛-アルミニウム系合金めっき鋼板に関するものであって、Cr及びSi成分の添加によりめっき浴成分の管理が困難であり、再生が難しいドロスが生成されて、生産管理及び生産費用が増加するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本公開特許公報第1999-158656号
【文献】韓国公開特許公報第2002-0004231号
【文献】韓国公開特許公報第2014-0018098号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面は、加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、素地鉄;及び、上記素地鉄上に形成された溶融合金めっき層を含み、上記溶融合金めっき層は、重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、上記溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率は10~45面積%であり、上記MgZn2相はその内部に割れを有し、上記割れは鋼板の厚さ方向への断面を基準とするときに観察される視野で、上記鋼板の厚さ方向の垂直方向に100μm当たり3~80個存在する加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を提供する。
【0010】
本発明の他の実施形態は、素地鉄を用意する段階;上記素地鉄を重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に通過させて溶融めっきする段階;及び上記溶融めっきされた素地鉄をガスワイピング及び冷却して、上記素地鉄上に溶融合金めっき層を形成させる段階;を含み、上記冷却は露点温度が-5~50℃のガスを付与する第1段階;鋼材と水冷浴槽との温度差を10~300℃になるように冷却する第2段階;及び、調質圧延及びテンションレベリングを適用する第3段階を含む加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によると、加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を提供することができ、腐食環境に構造物の寿命を延ばすという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を加工した後の加工部の様子を示した模式図である。
【
図2】従来のZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を加工した後の加工部の様子を示した模式図である。
【
図3】曲げ加工された発明例17の断面を電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図4】曲げ加工された発明例17の断面を電子顕微鏡で観察した写真である。
【
図5】曲げ加工された比較例1の断面を電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材について説明する。
【0014】
本発明の溶融合金めっき鋼材は素地鉄;及び、上記素地鉄上に形成された溶融合金めっき層を含む。
【0015】
本発明では、上記鉄鉄鋼の種類について特に限定せず、例えば、熱延鋼板、熱延酸洗鋼板、冷延鋼板などの鋼板や線材または鋼線などを用いることができる。さらに、本発明の素地鉄は、当技術分野で鋼材として分類されるあらゆる種類の合金組成を有することができる。
【0016】
上記溶融合金めっき層は、重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むことが好ましい。上記Alは溶湯製造時にMgを安定化し、また腐食環境で初期腐食を抑制する腐食障壁の役割を果たす。上記Alが8%以下である場合には、溶湯製造時にMgが安定化できず、溶湯表面にMg酸化物が生成するという欠点があり、25%を超過する場合には、めっき浴の温度を上昇させて、めっき浴に設けられた各種設備の溶食がひどく発生するという問題がある。したがって、上記Alの含有量は8%超過~25%であることが好ましい。上記Al含有量の下限は10%であることがより好ましい。上記Al含有量の上限は20%であることがより好ましい。Mgは耐食性を発現する組織を形成する役割を果たす。上記Mgが4%以下である場合には耐食性の発現が十分でなく、12%を超過する場合には、めっき浴の温度を上昇させるだけでなく、Mg酸化物を形成させて材質劣化や費用上昇などの様々な問題を引き起こす。したがって、上記Mgの含有量は4%超過~12%であることが好ましい。上記Mg含有量の下限は5%であることがより好ましい。上記Mg含有量の上限は、10%であることがより好ましい。
【0017】
上記溶融合金めっき層は、Mg安定化のために、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上を合計量で0.0005~0.009%の範囲でさらに含んでもよい。上記追加合金元素の含有量が0.0005%未満である場合には、実質的にMg安定化の効果が奏されず、0.009%を超過する場合には、溶融めっき層が遅く凝固して、優先腐食が起こることによって耐食性を損ない、費用も増加させるという問題がある。したがって、上記Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上の合計量は、0.0005~0.009%の範囲であることが好ましい。上記追加合金元素の合計量の下限は0.003%であることがより好ましい。上記合金元素の合計量の上限は0.008%であることがより好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態によるZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材は、溶融合金めっき層内に様々な凝固相を含む。上記凝固相は、固溶相、共晶相、金属間化合物などの様々な相を含むことができる。上記単一相は、固溶Al相、固溶Mg相、固溶Zn相であってもよく、上記共晶相は、上記Al、Mg及びZnを含む2元共晶相又は3元共晶相であってもよく、上記金属間化合物は、MgZn2、Mg2Zn11、Mg32(Al、Zn)49などを含むことができる。また、Mg安定化のために、追加的に添加され得るBe、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上が上記溶融合金めっき層に含まれる場合には、上記Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYのうち1種以上の元素が上記固溶相、共晶相または金属間化合物に含まれることができる。
【0019】
上記溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率は、10~45面積%であることが好ましい。上記MgZn2相は耐食性の発現及び高硬度を示す相であり、その分率が10%未満である場合には、水分環境及び塩水環境で耐食性が十分でなく、応力分散で割れが生成されないという欠点がある。上記MgZn2相の分率が45%までは耐食性が増加するが、45%を超過する場合には過大割れ発生によって加工部耐食性に却って悪影響を与えるという問題がある。したがって、上記溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率は10~45面積%であることが好ましい。上記MgZn2相の分率の下限は20%であることがより好ましい。上記MgZn2相の分率の上限は35%であることがより好ましい。
【0020】
一方、本発明の一実施形態に係るZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材は、様々な加工を介して用いられることができる。一例として、パイプ造管、曲げ加工、プレス加工などを介して室内外用建築資材、家電及び自動車用などの素材に適用可能である。しかし、このような加工時に形成される加工部では、溶融合金めっき層が延伸限界を超過する場合、割れが発生する。このとき、発生した割れは加工部の耐食性を劣化させ、上記割れの間隔が大きいと、これ以上母材が保護できなくなって腐食する。
【0021】
したがって、本発明者らはZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の加工時に形成される加工部の耐食性を向上させるために研究した結果、上記亜鉛合金めっき層の割れを微細な間隔に制御することで耐食性を向上させることができるということが分かった。より具体的には、溶融合金めっき層内に存在する様々な相のうち、硬度が高い組織であるMgZn2相に微細な割れを事前に保有させる方法であり、このために、上記MgZn2相の内部に割れを有させて、上記割れは鋼板の厚さ方向への断面を基準とするときに観察される視野で、上記鋼板の厚さ方向の垂直方向に100μm当たり3~80個存在させる。ここで、上記で言及された観察される視野とは、鋼板の断面を顕微鏡で観察した写真を意味する。上記割れ数が100μm当たり3個未満である場合には、加工時に溶融合金めっき層に粗大な割れが発生して、加工部の耐食性を効果的に向上させ難く、80個を超過する場合には割れによってめっき層が分離することで、結局はめっき層が素地鋼板から脱落するため、却って耐食性に悪影響を与える。また、上記MgZn2相の内部に存在する割れは、その長さの合計が3~300μmであり得る。上記割れの長さの合計が3μm未満である場合には、加工時の加工部の割れ間隔が粗大となって耐食性が低下することがあり、300μmを超過する場合には、横方向の割れが多くなってめっき層が実質的に粉体に変わる。これによって、商業的に活用が困難であるという問題がある。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を加工した後の加工部の様子を示した模式図であり、
図2は、従来のZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を加工した後の加工部の様子を示した模式図である。上述のように提供される本発明のZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材100は、加工時に素地鉄10上に形成された溶融合金めっき層20に存在する微細割れ30により素地鉄が外部環境から露出することを防止して耐食性を向上させることができる。一方、従来のZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材100’は、加工時に素地鉄10’上に形成された溶融合金めっき層20’に粗大割れ30’が発生し、これによって上記溶融合金めっき層上に形成される被覆層40にも粗大割れが発生するようになるため、素地鉄が外部環境に露出して素地鉄の腐食が発生する。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る加工部耐食性に優れたZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の製造方法について説明する。
【0024】
まず、素地鋼板を用意する。上記素地鋼板の用意時にオイルなどの鋼板表面に付着している不純物を除去することで、上記素地鋼板の表面清浄化のために、脱脂、洗浄又は酸洗工程を行うことができる。
【0025】
この後、上記素地鋼板は溶融めっき前に、当該技術分野で通常的に行われる熱処理を行うことができる。これによって、本発明では上記熱処理条件について特に限定しない。但し、例えば、熱処理温度は400~900℃であることができる。また、例えば、雰囲気ガスとしては、水素、窒素、酸素、アルゴン、一酸化炭素、二酸化炭素、水分などを用いることができ、5~20体積%の水素及び80~95体積%の窒素ガスなどを用いることができる。
【0026】
この後、上記素地鋼板を重量%で、Al:8%超過~25%、Mg:4%超過~12%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に通過させて溶融めっきする。上記めっき浴は、Be、Ca、Ce、Li、Sc、Sr、V及びYからなる群から選択された1種以上を合計量で0.0005~0.009%の範囲でさらに含むことができる。一方、本発明ではめっき浴温度について特に限定せず、当該技術分野で通常的に用いられるめっき浴温度を用いることができ、例えば、通常のめっき浴の温度は、400~550℃であることができる。
【0027】
この後、上記溶融めっきされた素地鋼板をガスワイピング及び冷却して、上記素地鋼板上に溶融合金めっき層を形成させる。上記ガスワイピングを介してめっき付着量を制御することで得ようとする厚さの溶融合金めっき層を形成させることができる。一方、本発明では、上記冷却時に、下記説明される3段階にわたる工程を行うことで、本発明が得ようとする微細割れが形成された溶融合金めっき層を形成させることを特徴とする。下記3段階の工程に符合しない場合には、微細割れが形成されないだけでなく、これによって耐食性が十分に確保できず、作業環境が劣化し、製造費用が増加し、表面欠陥の発生が増加するという欠点がある。
【0028】
まず、露点温度が-5~50℃であるガスを付与する第1段階を行う。上記ガスの露点温度が-5℃未満である場合には、MgZn2相に割れが十分に発生せず、50℃を超過する場合には、MgZn2相に割れ生成が飽和して、作業環境が悪くなるという問題がある。上記露点温度の下限は0℃であることがより好ましい。上記露点温度の上限は30℃であることがより好ましい。
【0029】
この後、鋼材と水冷浴槽との温度差を10~300℃になるように冷却する第2段階を行う。上記めっきを介して、溶融合金めっき層がある程度凝固すると、上記溶融合金めっき層が形成された鋼材を水冷浴槽に浸漬し、このとき、上記鋼材と水冷浴槽との温度差を10~300℃になるようにすることが好ましい。上記温度差が10℃未満である場合には、MgZn2相に割れ生成が飽和し、300℃を超過する場合には、表面品質が劣化するという問題がある。上記温度差の下限は30℃であることがより好ましい。上記温度差の上限は150℃であることがより好ましい。
【0030】
この後、上記溶融合金めっき層が形成された鋼材に調質圧延を適用する第3段階を行う。通常、粗質圧延は鋼板の厚さ調整を目的とせず、鋼板の表面のみに影響を与えるレベルで圧延を行うものであり、連続変形、表面粗さ付与及び鋼板形状の校正などの効果が得られることが知られている。上記調質圧延は、上記のような効果を得るために商業生産用連続溶融めっき工程に含まれて行われる。本発明では、上記調質圧延を適用するだけでも本発明が得ようとする十分な効果が得られ、連続変形、表面粗さ付与及び形状校正の効果が得られるのであれば、具体的な条件について特に限定しない。上記調質圧延を適用しない場合には、降伏点の延伸が発生し、表面粗さが所望のレベルに調整されず、キャンバーやウェーブなどの形状不良が生じることがあって、商業用製品として適切な品質が得られなくなる。一方、上述したように、本発明では上記粗質圧延の条件について特に限定しないが、例えば、2%以下(0%は除く)の圧下率を適用することができる。2%を超過する場合には、めっき層がロールに付着して表面欠陥を引き起こす可能性がある。上記調質圧延の圧下率の下限は0.5%であることがより好ましく、上記粗質圧延の延伸率の上限は1.5%であることがより好ましい。また、上記調質圧延と本発明との間の関連性はまだ明らかにされていないが、以下のように推定される。亜鉛合金めっき層を調質圧延するとめっき層内のMgZn2相の内部に割れが集中的に形成されるが、これはMgZn2相が高い硬度値を有し、六方晶系結晶構造を有するためであると推定される。また、上記第1段階及び第2段階の処理は、調質圧延の作用が容易に受けられる有利な溶融合金めっき組織の形成を誘導するようになり、上記粗質圧延効果を上昇させると推定される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示してより詳細に説明するためのもので、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0032】
(実施例)
厚さが0.8mmである低炭素鋼冷延鋼板を用意した後、上記冷延鋼板を脱脂し、この後、10vol%水素-90vol%窒素からなる還元性雰囲気で800℃に焼鈍熱処理した。この後、上記熱処理された素地鋼板を下記表1に記載された450℃のめっき浴に沈積して溶融めっきした後、溶融合金めっき層の厚さが約10μmになるようにガスワイピングを介してめっき付着量を制御し、ガス冷却、水冷却及び調質圧延(SPM)してZn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を製造した。このとき、上記ガス冷却及び水冷却時に、下記表1に記載された条件を用いた。上記Zn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材にエポキシ系列の被覆を10μmの厚さで被覆した。このように製造された上記Zn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材について溶融合金めっき層の合金組成を測定した後、その結果を下記表1に示した。また、上記Zn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材を曲率半径5R、90°に曲げ加工した後、溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率及び割れ数、被覆層の割れ発生有無、加工部耐食性などを評価した後、その結果を下記表2に示した。
【0033】
溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率は、XRDを用いて測定した。
【0034】
溶融合金めっき層内のMgZn2相の割れ数は、Zn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の断面をSEMを用いて2000倍に拡大して観察した。上記割れ数は、鋼板の厚さ方向への断面を基準とするときに観察される視野で、上記鋼板の厚さ方向の垂直方向に100μm当たり存在する個数を測定した。
【0035】
被覆層の割れ発生有無は、Zn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材の断面をSEMを用いて2000倍に拡大した後、以下の基準で評価した。
○:被覆層割れ及びめっき層割れによって素地鉄が外部環境に露出する
×:被覆層に割れが発生せず、素地鉄が外部環境に露出しない
【0036】
加工部耐食性は塩水噴霧試験を行った後、以下の基準で評価した。この時、塩水噴霧試験条件は塩度:5%、温度:35℃、pH:6.8、塩水噴霧量:2ml/80cm2・1Hrで噴霧した。
○:10日経過後の観察時に腐食生成物の生成無し
×:10日経過後の観察時に腐食生成物が生成有り
【0037】
【0038】
【0039】
上記表1及び2から分かるように、本発明が提案する溶融合金めっき層の合金組成、溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率、上記MgZn2相内の割れ数及び製造条件を満たす発明例1~19の場合には、加工部耐食性が優れたレベルであることが分かる。
【0040】
比較例1は、本発明の溶融合金めっき層のAl及びMg含有量を満たさない場合であって、本発明が提案する溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率、上記MgZn2相内の割れ数を満たさないため、加工部耐食性が良好でないことが分かる。
【0041】
比較例2は、本発明の溶融合金めっき層のMg含有量を満たさない場合であって、本発明が提案する溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率、上記MgZn2相内の割れ数を満たさないため、加工部耐食性が良好でないことが分かる。
【0042】
比較例3は、本発明の溶融合金めっき層のLi含有量を満たさない場合であって、加工部耐食性が良好でないことが分かる。
【0043】
比較例4は、本発明の製造条件のうち、第1段階~第3段階の処理工程を満たさない場合であって、本発明が提案する溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率、上記MgZn2相内の割れ数を満たさないため、加工部耐食性が良好でないことが分かる。
【0044】
比較例5は、本発明の製造条件のうち、第1段階及び第2段階の処理工程を満たさない場合であって、本発明が提案する溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率、上記MgZn2相内の割れ数を満たさないため、加工部耐食性が良好でないことが分かる。
【0045】
比較例6は、本発明の製造条件のうち、第3段階の処理工程を満たさない場合であって、本発明が提案する溶融合金めっき層内のMgZn2相の分率、上記MgZn2相内の割れ数を満たさないため、加工部耐食性が良好でないことが分かる。
【0046】
図3及び
図4は、曲げ加工された発明例17の断面を電子顕微鏡で観察した写真であり、
図5は、曲げ加工された比較例
1の断面を電子顕微鏡で観察した写真である。
図3~5から分かるように、発明例1の場合には、溶融合金めっき層内に微細割れが発生していることが確認できるが、比較例1の場合には、溶融合金めっき層内に割れが形成されていないことが確認できる。
【符号の説明】
【0047】
10、10’ 素地鉄
20、20’ 溶融合金めっき層
30、30’ 粗大割れ
40 被覆層
100、100’ Zn-Al-Mg系溶融合金めっき鋼材