(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】防水性スライドファスナー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A44B 19/60 20060101AFI20240531BHJP
A44B 19/32 20060101ALI20240531BHJP
A44B 19/36 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A44B19/60
A44B19/32
A44B19/36
(21)【出願番号】P 2022556788
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2020038990
(87)【国際公開番号】W WO2022079873
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-12-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水島 和俊
(72)【発明者】
【氏名】盛本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉良 俊則
(72)【発明者】
【氏名】谷口 和哉
(72)【発明者】
【氏名】三熊 亮
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/077570(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/180758(WO,A1)
【文献】特開2007-215819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/60
A44B 19/32
A44B 19/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水性スライドファスナー(1)であって、
ファスナーエレメント(21,31)が配列された左右のファスナーエレメント列(20,30)が左右の防水性テープ(40,50)の側縁部(41,51)に設けられた左右のファスナーストリンガー(61,62)にして、前記左右の防水性テープ(40,50)それぞれには所定ピッチ(P1)で同一直線上に止孔(91,92)が配列された止孔列(90)が設けられる左右のファスナーストリンガー(61,62)と、
前記防水性スライドファスナー(1)の後端部において前記左右の防水性テープ(40,50)を連結する連結シート(70)と、
前記左右のファスナーエレメント列(20,30)の後方の隣接位置に設けられた後止め(80)を備え、
前記左右の防水性テープ(40,50)それぞれの前記止孔列(90)は、各第1止孔(91)が各ファスナーエレメント(21,31)により充填された一群の第1止孔(91)と、前記一群の第1止孔(91)と比較して後方に設けられる1つ又は複数の第2止孔(92)を含み、
前記連結シート(70)は、前記左右の防水性テープ(40,50)の少なくとも一方の前記1つ又は複数の第2止孔(92)に含まれる少なくとも一つの第2止孔(92)を被覆しないように設けられ、前記後止め(80)は、前記少なくとも一つの第2止孔(92)を充填するように設けられ、
前記後止め(80)は、前記左右の防水性テープ(40,50)の上側及び下側に設けられた上部(81)及び下部(82)を含み、前記上部(81)及び下部(82)が、前記左右の防水性テープ(40,50)の少なくとも一方の
、前記連結シート(70)により被覆されていない、前記少なくとも一つの第2止孔(92)を充填する1以上の充填部(83)のみを介してお互いに連結される、防水性スライドファスナー。
【請求項2】
前記左右の防水性テープ(40,50)の両方の前記1つ又は複数の第2止孔(92)が前記連結シート(70)により被覆されない少なくとも一つの第2止孔(92)を含む、請求項1に記載の防水性スライドファスナーであって、
前記上部(81)及び下部(82)が、前記左右の防水性テープ(40,50)の両方の前記少なくとも一つの第2止孔(92)を充填する合計2以上の充填部(83)のみを介してお互いに連結される、請求項1に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項3】
前記後止め(80)の下部(82)には前記連結シート(70)に到達するまで延びるピン孔(85)が設けられることを特徴とする請求項2に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項4】
前記連結シート(70)には、前記左右の防水性テープ(40,50)の少なくとも一方の前記1つ又は複数の第2止孔(92)を被覆しないように凹部又は切り欠き(76)が設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項5】
前記凹部又は切り欠き(76)は、前記後止め(80)により完全に充填されることを特徴とする請求項4に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項6】
前記凹部又は切り欠き(76)は、前記左右のファスナーストリンガー(61,62)が閉状態の時、前記左右の防水性テープ(40,50)の境界(B1)を跨がないように設けられることを特徴とする請求項4又は5に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項7】
前記少なくとも一つの第2止孔(92)は、前記止孔列(90)において最後端に位置し、前記少なくとも一つの第2止孔(92)の後方には他の貫通孔が形成されていないことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項8】
前記左右の防水性テープ(40,50)それぞれにおける前記第2止孔(92)の個数は1つであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項9】
前記後止め(80)は、前記左右のファスナーエレメント列(20,30)の後端にある左右のファスナーエレメント(21,31)を少なくとも部分的に包含するように設けられることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項10】
前記連結シート(70)にはゲート痕があることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項11】
前記後止め(80)には前記連結シート(70)とは別のゲート痕があることを特徴とする請求項10に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項12】
前記後止め(80)は、前記左右のファスナーエレメント列(20,30)の後端にある左右のファスナーエレメント(21,31)の少なくとも一つの全体を包含するように設けられることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の防水性スライドファスナー。
【請求項13】
防水性スライドファスナー(1)の製造方法であって、
ファスナーエレメント(21,31)が配列されたファスナーエレメント列(20,30)が防水性テープ(40,50)の側縁部(41,51)に設けられたファスナーストリンガー(61,62)を製造する工程と、
前記ファスナーストリンガー(61,62)の対を含むファスナーチェーンに連結シート(70)を形成する工程と、
前記ファスナーチェーンに射出成形で後止め(80)を形成する工程を含み、
左右の防水性テープ(40,50)それぞれには所定ピッチ(P1)で同一直線上に止孔が配列された止孔列(90)が設けられ、
各止孔列(90)は、一群の第1止孔(91)と、前記一群の第1止孔(91)と比較して後方に設けられる1つ又は複数の第2止孔(92)を含み、
前記連結シート(70)は、前記左右の防水性テープ(40,50)の少なくとも一方の前記1つ又は複数の第2止孔(92)に含まれる少なくとも一つの第2止孔(92)を被覆しないように射出成形により形成され、前記後止め(80)は、前記少なくとも一つの第2止孔(92)を充填するように射出成形により形成され、
前記後止め(80)は、前記左右の防水性テープ(40,50)の上側及び下側に設けられた上部(81)及び下部(82)を含み、前記上部(81)及び下部(82)が、前記左右の防水性テープ(40,50)の少なくとも一方の
、前記連結シート(70)により被覆されていない、前記少なくとも一つの第2止孔(92)を充填する1以上の充填部(83)のみを介してお互いに連結される、防水性スライドファスナーの製造方法。
【請求項14】
前記左右の防水性テープ(40,50)の両方の前記1つ又は複数の第2止孔(92)が前記連結シート(70)により被覆されない少なくとも一つの第2止孔(92)を含む、請求項13に記載の防水性スライドファスナーの製造方法であって、
前記上部(81)及び下部(82)が、前記左右の防水性テープ(40,50)の両方の前記少なくとも一つの第2止孔(92)を充填する合計2以上の充填部(83)のみを介してお互いに連結される、請求項13に記載の防水性スライドファスナーの製造方法。
【請求項15】
前記連結シート(70)には、前記左右の防水性テープ(40,50)の少なくとも一方の前記1つ又は複数の第2止孔(92)を被覆しないように凹部又は切り欠き(76)が設けられることを特徴とする請求項13又は14に記載の防水性スライドファスナーの製造方法。
【請求項16】
前記凹部又は切り欠き(76)は、前記後止め(80)により完全に充填されることを特徴とする請求項15に記載の防水性スライドファスナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防水性スライドファスナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防水性スライドファスナーは、非防水性スライドファスナーと比較して製造工程数が多く、製造コストが高い問題がある。従来、特許文献1の
図4から理解されるように、ファスナーテープの下面(特に、そこの防水層)に対してシート部材を高周波溶着技術を用いて貼り合わせ、次に、ファスナーテープ及びシート部材を貫通する透孔を形成し、この透孔が設けられた場所に射出成形により止め具を形成していた。
【0003】
特許文献2には、上述の方法とは異なり、シート部材も含めて止め具を射出成形することが開示されている。具体的には、スライダーを停止させるための止具本体部と、止具本体部から延出する延出部を有する止め具が開示されている。同文献においては、ファスナーエレメントに対応して第1貫通孔を設け、止め具に対応して第2貫通孔を設けることが記載されている(同文献の
図3参照)。
【0004】
特許文献3にもシート部材も含めて止め具を射出成形により形成することが開示されている(例えば、同文献の
図6及び段落0042参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-215819号公報
【文献】国際公開第2013/114529号公報
【文献】国際公開第2019/180758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
左右のファスナーテープを連結するべく左右のファスナーテープに亘って連結シートを貼り合わせる場合、この貼り合わせ工程後、後止めの射出成形のために上下キャビティー間で溶融樹脂を流動させるための孔(端的には、ファスナーテープと連結シートを貫通する孔(特許文献1の
図4参照))を形成する孔明け工程が必要になる。この点は、ファスナーエレメントの射出成形のために形成した孔がファスナーテープに残存している場合でも同じである。なぜなら、シート部材の貼り合わせ時にシート部材により孔が閉鎖されるためである。シート部材の貼り合わせ工程に起因して必要になる孔明け工程が防水性スライドファスナーのコスト増の一因になっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る防水性スライドファスナーは、ファスナーエレメントが配列された左右のファスナーエレメント列が左右の防水性テープの側縁部に設けられた左右のファスナーストリンガーにして、左右の防水性テープそれぞれには所定ピッチで同一直線上に止孔が配列された止孔列が設けられる左右のファスナーストリンガーと、防水性スライドファスナーの後端部において左右の防水性テープを連結する連結シートと左右のファスナーエレメント列の後方の隣接位置に設けられた後止めを備える。左右の防水性テープそれぞれの止孔列は、各第1止孔が各ファスナーエレメントにより充填された一群の第1止孔と、一群の第1止孔と比較して後止め寄りに設けられる1つ又は複数の第2止孔を含む。連結シートは、左右の防水性テープの少なくとも一方の少なくとも一つの第2止孔を被覆しないように設けられ、後止めは、少なくとも一つの第2止孔を充填するように設けられる。
【0008】
幾つかの実施形態では、後止めは、左右の防水性テープの上側及び下側に設けられた上部及び下部を含み、上部及び下部が、左右の防水性テープそれぞれの1つ又は複数の第2止孔を個別に充填する複数の充填部のみを介してお互いに連結される。後止めの下部には連結シートに到達するまで延びるピン孔が設けられ得る。
【0009】
幾つかの実施形態では、連結シートには、左右の防水性テープの少なくとも一方の1つ又は複数の第2止孔を被覆しないように凹部又は切り欠きが設けられる。凹部又は切り欠きは、後止めにより完全に充填され得る。凹部又は切り欠きは、左右のファスナーストリンガーが閉状態の時、左右の防水性テープの境界を跨がないように設けられ得る。
【0010】
幾つかの実施形態では、1以上の第2止孔は、止孔列において最後端に位置する。左右の防水性テープそれぞれにおける第2止孔の個数は1つであり得る。後止めは、左右のファスナーエレメント列の後端にある左右のファスナーエレメントを少なくとも部分的に包含するように設けられ得る。連結シートにはゲート痕があり得る。後止めには連結シートとは別のゲート痕があり得る。
【0011】
本開示の別態様に係る防水性スライドファスナーの製造方法は、ファスナーエレメントが配列されたファスナーエレメント列が防水性テープの側縁部に設けられたファスナーストリンガーを製造する工程と、ファスナーストリンガーの対を含むファスナーチェーンに連結シートを形成する工程と、ファスナーチェーンに射出成形で後止めを形成する工程を含む。左右の防水性テープそれぞれには所定ピッチで同一直線上に止孔が配列された止孔列が設けられる。各止孔列は、一群の第1止孔と、一群の第1止孔と比較して後止め寄りに設けられる1つ又は複数の第2止孔を含む。連結シートは、左右の防水性テープの少なくとも一方の少なくとも一つの第2止孔を被覆しないように射出成形により形成される。後止めは、少なくとも一つの第2止孔を充填するように射出成形により形成される。
【0012】
幾つかの実施形態では、後止めは、左右の防水性テープの上側及び下側に設けられた上部及び下部を含み、上部及び下部が、左右の防水性テープそれぞれの1つ又は複数の第2止孔を個別に充填する複数の充填部のみを介してお互いに連結される。
【0013】
幾つかの実施形態では、連結シートには、左右の防水性テープの少なくとも一方の1つ又は複数の第2止孔を被覆しないように凹部又は切り欠きが設けられる。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、後止めを設ける前に連結シートを設ける場合でも、後止めの射出成形のための孔明け工程を省略し、又は、仮にこの孔明け工程を行うとしても貫通孔の個数を低減することができ、防水性スライドファスナーのコスト低減を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の一態様に係る防水性スライドファスナーの概略的な上面図である。
【
図2】防水性スライドファスナーの後端部を示す概略的な下面図である。
【
図3】左側ファスナーストリンガーの概略的な部分上面図であり、破線円がファスナーテープに一定ピッチで形成された止孔を示す。
【
図4】
図3の一点鎖線IV-IVに沿う概略的な断面図である。
【
図5】スライドファスナーの後端部を示す概略的な下面図であり、第1及び第2止孔、連結シート、下止めの関係を模式的に示す。
【
図6】
図5の一点鎖線VI-VIに沿う概略的な断面図である。
【
図7】
図5の一点鎖線VII-VIIに沿う概略的な断面図である。
【
図8】
図5の一点鎖線VIII-VIIIに沿う概略的な断面図である。
【
図9】防水性テープの製造工程図であり、押出し成形工程を示す。
【
図10】止孔列を形成するための孔明け工程を示す。
【
図11】ファスナーエレメントの形成のための射出成形工程を示す。
【
図14】ファスナーエレメントが形成された状態を示す参考図である。
【
図15】連結シートが形成された状態を示す参考図である。
【
図16】後止めが形成された状態を示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、様々な実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本願に開示された防水性スライドファスナー及びその製造方法にのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々な防水性スライドファスナー及びその方法にも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0017】
以下、前後方向は、スライダーの移動方向に基づいて理解される。左右方向は、前後方向に直交し、ファスナーテープが存在する平面に対して平行である。上下方向は、前後方向及び左右方向に直交する。ここで定義した方向は、以下の記述に照らして異なるように定義可能であるものとする。
【0018】
図1及び
図2に示すように、防水性スライドファスナー1(以下、単にスライドファスナー1と呼ぶ)は、前後方向に長尺で左右方向に幅狭な帯状体であり、衣類や鞄等の開口部に取り付けられて開口部の開閉を可能にする。スライドファスナー1が防水性であるため、通常、スライドファスナー1が閉じていれば、スライドファスナー1を介して内部に水が浸入することはない。スライドファスナー1は、典型的には、熱圧着、熱溶着、又は縫着といった方法で衣類や鞄等の開口部に取り付けられる。
【0019】
スライドファスナー1は、左右のファスナーエレメント列20,30が左右の防水性テープ40,50の側縁部41,51に設けられた左右のファスナーストリンガー61,62と、左右のファスナーエレメント列20,30の左右のファスナーエレメント21,31を結合するべく前進し、左右のファスナーエレメント21,31を結合解除するべく後進するスライダー11を有する。
【0020】
スライダー11は、樹脂製又は金属製であり、上翼板、下翼板、これらを連結する連結柱を有する。スライダー11は通常採用されるものであり、その構成について更なる詳細な説明は省略する。スライダー11が前進してスライドファスナー1が閉じられる時、左右の防水性テープ40,50の側縁部41,51同士がお互いに圧迫して接触し、スライドファスナー1の水密性が確保される。
【0021】
スライドファスナー1の前端部(左右のファスナーエレメント列20,30の前方の隣接位置)に前止め12が設けられる。スライドファスナー1の後端部(左右のファスナーエレメント列20,30の後方の隣接位置)に後止め80が設けられる。前止め12及び後止め80は、熱可塑性の樹脂材料(例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート)の射出成形により形成される。前止め12は、例えば、特許文献3に開示のように構成される。後止め80の構成については後述する。前止め12と後止め80は、スライダー11の移動を阻止するのみではなく、左右の防水性テープ40,50を連結して水密性を確保する役割も担う。
【0022】
防水性テープ40,50は、テープ主体部42,52を含み、この上下面にはエンボス模様が形成される(
図3参照)。側縁部41,51は、テープ主体部42,52の左右方向内側に設けられる。防水性テープ40,50は、テープ基布43が防水層44で被覆されたものである(
図4参照)。テープ基布43は、織組織又は編組織又はこれらが混在した組織を持つように形成される。テープ基布43を被覆するように防水層44が形成されて防水性が付与される。防水層44は、例えば、熱可塑性エラストマーから成る。
【0023】
左右の防水性テープ40,50それぞれには所定ピッチP1で同一直線上に止孔91,92が配列された止孔列90が設けられる(
図3及び
図5参照)。各止孔列90には、各第1止孔91が各ファスナーエレメント21,31により充填された一群の第1止孔91が含まれる(
図3参照)。また、各止孔列90には、一群の第1止孔91と比較して後止め80寄りに設けられる1つ又は複数の第2止孔92が含まれる(
図5参照)。第1止孔91が個々のファスナーエレメントに対応して設けられ、第2止孔92が後止め80に対応して設けられ、従って、第1止孔91の個数が第2止孔92の個数よりも多い。第1及び第2止孔91,92は、同一の開口形状を有し、かつ同一の開口径を有する。典型的には、第2止孔は、止孔列の最後端に位置し、及び/又は、第2止孔の個数は、1つである。
【0024】
ファスナーエレメント21,31は、熱可塑性の樹脂材料(例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート)の射出成形を介して形成され、この樹脂材料により第1止孔91が充填される。ファスナーエレメント21,31が防水性テープ40,50に密着し、第1止孔91を回転中心として容易には回転しない。一つのファスナーエレメントが一つの第1止孔に対応して設けられる。従って、各ファスナーエレメント列20,30ではファスナーエレメント21,31が止孔91,92のピッチと同一の所定ピッチP1で配列される。
【0025】
ファスナーエレメント21,31は、基部22、頭部23、及び基部22と頭部23の間に設けられた首部24を有する(
図3参照)。頭部23の先端面には前後方向に延びる溝21jが設けられ、溝21jの底部から防水性テープ40,50の(左右方向内側の)端部が突出して設けられる(
図4参照)。更に、ファスナーエレメント21,31は、首部24の前後両側に設けられた薄厚の肩部25と、基部22から左右方向外側に延びる薄厚のフィン部26を有する。肩部25は、係合相手のファスナーエレメントの頭部23の溝21jに挿入される。フィン部26は、スライダー11の上下フランジ(不図示)間に挿入される。
【0026】
スライドファスナー1が閉じられる時、ファスナーエレメント21の頭部23が、前後で隣接したファスナーエレメント31の頭部の間で挟まれる。同様、ファスナーエレメント31の頭部が、前後で隣接したファスナーエレメント21の頭部23の間で挟まれる。このように左右のファスナーエレメント21,31が結合する時、防水性テープ40の端面41cと防水性テープ50の端面が圧迫して接触する。これらの端面は、テープ合わせ端面と呼ばれ得る。
【0027】
ファスナーエレメント21,31は、防水性テープ40,50の上下に設けられるエレメント上部27及び下部28、並びに、第1止孔91を充填する充填部29を有する(
図4参照)。エレメント上部及び下部27,28が単一の充填部29のみを介してお互いに連結される。なお、エレメント上部27は、頭部上半分、首部上半分、基部上半分を含むものである。同様、エレメント下部28は、頭部下半分、首部下半分、基部下半分を含むものである。
【0028】
図5乃至
図8を参照してスライドファスナー1の後端部の構成について説明する。後止め80に加えて、スライドファスナー1の後端部(左右のファスナーエレメント列20,30の後方の隣接位置)には連結シート70が設けられる。連結シート70は、後止め80と同一又は異なる樹脂材料(例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネートなどの熱可塑性樹脂)から成る。連結シート70の樹脂材料として、防水性テープに追従して連結シート70が変形する(例えば、曲がり、撓む)ことができる適切な材料が選択される。適切な材料選択により、連結シート70は、適度な柔軟性を具備することができる。幾つかの場合、連結シート70の柔軟性が後止め80のものよりも高いが、必ずしもこれに限られない。連結シート70は、左右の防水性テープ40,50の境界B1を跨ぎ、かつ左右の防水性テープ40,50の下面を被覆するように設けられる。
【0029】
後止め80の樹脂材料としては、スライダー11との繰り返しの衝突又は接触に耐えることができる適切な材料が選択される。適切な材料選択により、後止め80は、十分な硬さと機械的強度を具備することができる。幾つかの場合、後止め80の硬さ又は機械的強度は、連結シート70のものよりも高いが、必ずしもこれに限られない。後止め80が連結シート70と同等又は連結シート70よりも高い柔軟性を持つ形態も想定される。
【0030】
後止め80は、左右の防水性テープ40,50の上側及び下側に設けられた上部81及び下部82を含む。上部81及び下部82が、左右の防水性テープ40,50における1つ又は複数の第2止孔92を充填する複数の充填部83を介してお互いに連結される。後止め80は、左右のファスナーエレメント列20,30の後端にある左右のファスナーエレメント21,31を少なくとも部分的に包含するように設けられる。これにより、左右のファスナーテープのテープ合わせ端面の露出を抑制することができる。後止め80の下部82が連結シート70を被覆し、後止め80と連結シート70の間の隙間が無い。
【0031】
連結シート70及び後止め80は、別々の又は二段階の射出成形工程で形成される。連結シート70と後止め80のために上述したように異なる適切な材料を用いることができる。また、連結シート70と後止め80には、別々のゲート痕が形成される。なお、ゲート痕は、成形キャビティーとゲートの間で固化した樹脂を切断して生じたものである。ゲート痕を見えにくくするための処置(例えば、研磨)を施しても良い。高周波溶着技術を用いて連結シート70を防水性テープに貼り合わせる場合、連結シート70の位置によっては連結シート70により第2止孔92が閉鎖されてしまうおそれがある。連結シート70を射出成形により形成する場合、金型上における位置決めにより第2止孔92が意図せずに閉鎖されてしまうことが回避又は抑制される。
【0032】
連結シート70により被覆されない第2止孔92が確保できる限りにおいて、高周波溶着技術を用いて連結シート70を防水性テープに貼り合わせても構わない。しかしながら、ファスナーチェーン上における連結シート70の位置決めのための所要時間が長くなるおそれがある。また、所定寸法の連結シート70を製造保管する過程において連結シート70が収縮して寸法にずれが生じるおそれがある。また、仮に凹部を有する連結シート70を用意するとしても溶着時に変形して意図しない形状変化が生じ得、狙い通りに連結シート70を溶着することに困難が生じ得る。また、高周波溶着は、高周波電源の管理及び運用に専門知識及び経験を必要とするため、製造担当の作業者の教育負担も生じる。
【0033】
本実施形態においては、連結シート70は、左右の防水性テープ40,50の少なくとも一方の少なくとも一つの第2止孔92を被覆しないように設けられ、後止め80は、その少なくとも一つの第2止孔92を充填するように設けられる。これにより後止め80とは別に連結シート70を設ける場合においても、止孔列90に含まれる一部の止孔を第2止孔92として後止め80に割り当てることができ、後止め80のために行われる孔明け工程を省略し、又は、仮にこの孔明け工程を行うとしても貫通孔の個数を低減することができる。
【0034】
連結シート70には、左右の防水性テープ40,50の少なくとも一方の少なくとも1つの第2止孔92を被覆しないように凹部又は切り欠き76が設けられる(
図5参照)。ファスナーエレメント列20,30に対してできる限り接近して連結シート70を配置することができ、左右のファスナーエレメント列20,30と連結シート70の間において防水性テープ40,50の境界B1で水漏れする可能性が低減される。
【0035】
凹部又は切り欠き76は、後止め80(後止め80の樹脂材料)により完全に充填され、スライドファスナー1の外観に現れることがない。後止め80は、凹部又は切り欠き76を充填する充填部84を有し、これが第2止孔92を充填する充填部83に連結される(
図6参照)。なお、凹部又は切り欠き76が後止め80外に露出すると、水漏れが誘発されることが懸念される。
【0036】
凹部又は切り欠き76は、左右のファスナーストリンガー61,62が閉状態の時の左右の防水性テープ40,50の境界B1を跨がないように設けられる。これにより、境界B1に凹部又は切り欠き76を設けることによる境界B1での水漏れの可能性が低減される。
【0037】
後止め80の下部82には防水性テープ40,50又は連結シート70に到達するまで延びるピン孔85が設けられる。オプションとして、後止め80の上部81には防水性テープ40,50に到達するまで延びるピン孔85が設けられる。後止め80の射出成形時の防水性テープ40,50のばたつきを抑制することができる。
【0038】
なお、連結シート70を設けた後、防水性テープ40,50と連結シート70の積層体を貫通する貫通孔を形成して後止め80の射出成形のためのキャビティー連絡路として用いても構わない。この場合においても、連結シート70により被覆されない第2止孔92のおかげで新たに形成する貫通孔の個数を低減することができ、孔明け用治具の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0039】
以下、
図9乃至
図16を参照してスライドファスナー1の製造方法について説明する。まず、
図9に示すように、押出成形により防水性テープを製造する。具体的には、金型装置101にテープ基布43を供給し、金型装置101の供給路に充填された溶融エラストマーでテープ基布43の上下面及び端面41cを被覆する。エラストマーが硬化して防水層44になる。
【0040】
次に、
図10に示すように、防水性テープに孔明けをする。具体的には、防水性テープを孔明けパンチ102の直下に供給し、孔明けパンチ102が下降して第1及び第2止孔91,92が形成される。防水性テープは、押圧ロール104と駆動ロール105の間で挟まれ、駆動ロール105の回転に応じて下流側に送られる。防水性テープを下流側に所定長だけ送ることに同期して孔明けパンチ102が下降し、所定ピッチP1で止孔が形成される。安定した孔明けのため、パンチ102が挿入される円柱状孔が設けられたステージ103が採用される。孔明け工程で発生するゴミは、ステージ103下方の箱に収集される。
【0041】
次に、
図11に示すように、射出成形によりファスナーエレメントを形成する。具体的には、第1及び第2止孔91,92が形成された防水性テープを下型106と上型107の間に挟み、これらにより画定される成形キャビティー108に流路(スプール、ランナー、ゲート)を介して溶融樹脂を供給してファスナーエレメントを形成する。下型106及び上型107を冷却することにより成形キャビティー108内の溶融樹脂が硬化する。このようにして第1止孔91を充填するファスナーエレメント、及びこれらが定ピッチで設けられたファスナーストリンガーが得られる。
【0042】
次に、
図12に示す下型111と上型112を用いて連結シート70を射出成形で形成する。具体的には、上述のようにして得られたファスナーストリンガーを組み合わせてファスナーチェーンとし、下型111の上面の凹部に配置する。上型112を下型111上に積層することにより連結シート70の成形のための成形キャビティー70’が画定される。成形キャビティー70’に流路(スプール、ランナー、ゲート)を介して溶融樹脂を供給し、続いて下型111及び上型112を冷却することで連結シート70が形成される。連結シート70を射出成形で形成することで連結シート70により第2止孔92が閉鎖されてしまうことをより確実に回避することができる。
【0043】
次に、
図13に示す下型113と上型114を用いて後止め80を射出成形で形成する。具体的には、連結シート70により左右のファスナーストリンガーが連結されたファスナーチェーンを下型113の上面の凹部に配置する。上型114を下型113上に積層することにより後止め80の成形のための成形キャビティー80’が画定される。成形キャビティー80’に流路(スプール、ランナー、ゲート)を介して溶融樹脂を供給し、続いて下型113及び上型114を冷却することで後止め80が形成される。
【0044】
成形キャビティー80’は、後止め80の上部81を成形するための第1空間81’と後止め80の下部82を成形するための第2空間82’を含む。これらの第1及び第2空間81’,82’は、(キャビティー連絡路として機能する)第2止孔92を介して空間的に連通している。従って、下型及び上型の一方のみにゲートを設けるとしても、溶融樹脂は、第2止孔92を介して第1及び第2空間の間で流動することができる。
【0045】
上述のように連結シートを射出成形で形成することにより、ファスナーチェーンにおいて左右の防水性テープ40,50が連結される(
図14及び
図15参照)。連結シート70は、左右の防水性テープ40,50の第2止孔92を閉鎖しないように設けられる。従って、防水性テープ及び連結シートを貫通する貫通孔を形成する孔明け工程を省略し、又は仮に孔明け工程を行うとしても貫通孔の個数を低減することができる。
【0046】
上述のように後止め80を射出成形で形成することにより、後止め80は、左右のファスナーエレメント列20,30の後端にある左右のファスナーエレメント21,31を少なくとも部分的に包含するように設けられる(
図16参照)。また、後止め80の下部82は、連結シート70の前端部を被覆するように設けられる。更には、後止め80の下部82には連結シート70に到達するまで延びるピン孔85が設けられる。
【0047】
以下、本開示の特徴に関するバリエーションを説明する。
図17に示すように連結シート70に切り欠き76を設けても良い。このような形態においても上述のものと同様の効果が得られる。切り欠き76は、連結シート70の前端部に段差を形成するように設けられる。切り欠き76は、左右の防水性テープ40,50の境界B1を跨がず、左右の防水性テープ40,50が強固に連結される。
【0048】
図18に示すように連結シート70に切り欠き76を設けても良い。このような形態においても上述のものと同様の効果が得られる。切り欠き76は、連結シート70の前端部にV字溝を形成するように設けられる。切り欠き76は、左右の防水性テープ40,50の境界B1を跨ぐが、後止め80により完全に充填される。従って、防水性テープ40,50の所定程度の防水性が確保される。
【0049】
図19に示す場合、上述の形態では第2止孔92として用いられていた一方の止孔92’が連結シート70により閉鎖される。後止め80は、ただ一つの第2止孔92を充填するように設けられる。
【0050】
図20に示す場合、止孔列に含まれる第1及び第2止孔以外の第3止孔93を被覆又は充填するように連結シート70が設けられる。但し、防水性テープ40,50に無意味に孔を明けることは防水性能の低下に繋がるおそれがあるため望ましいものではない。
【0051】
上述の教示を踏まえ、当業者は、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 防水性スライドファスナー
20,30 ファスナーエレメント列
21,31 ファスナーエレメント
40,50 防水性テープ
61,62 ファスナーストリンガー
70 連結シート
80 後止め
81 上部
82 下部
83 充填部
90 止孔列
91 第1止孔
92 第2止孔