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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】ブレーキ圧変化を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20240531BHJP
   B60T 8/174 20060101ALI20240531BHJP
   B60T 8/88 20060101ALI20240531BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B60T8/172 Z
B60T8/174 C
B60T8/88
B60T8/171 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022573790
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2021056801
(87)【国際公開番号】W WO2021244784
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】102020206837.2
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】シャバク,ラミ
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0055511(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0029568(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/172
B60T 8/174
B60T 8/88
B60T 8/171
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動過程を最適化するために車両の車輪に対してブレーキ圧変化を決定する方法において、
前記車輪の現時点での車輪状態(210)を提供するステップであって、前記車輪状態(210)が複数の状態パラメータを有している前記ステップと、
目標車輪状態(310)から値がずれている少なくとも1つの状態パラメータを決定するステップと、
前記少なくとも1つの状態パラメータの前記目標車輪状態からのずれに依存して前記ブレーキ圧変化の変化方向を決定するステップと、
前記ブレーキ圧変化の値を決定するためのブレーキ圧特性マップ(250a,250b,251a,251b)を提供するステップであって、前記ブレーキ圧特性マップ(250a,250b,251a,251b)は、1つのブレーキ圧変化を複数の前記状態パラメータに関係づけ、且つ前記ブレーキ圧変化の決定された前記変化方向に対し特有のものである前記ステップと、
前記現時点での車輪状態(210)と、提供された前記ブレーキ圧特性マップ(250a,250b,251a,251b)とを用いて、前記ブレーキ圧変化の値を決定するステップと、
を含んでおり、
前記ブレーキ圧特性マップ(250a,250b,251a,251b)を決定する方法において、
現時点での車輪状態(210)を提供するステップであって、前記車輪状態(210)が複数の状態パラメータを有している前記ステップと、
強化学習方法のためのリワードルールを提供するステップと、
前記リワードルールと前記現時点での車輪状態(210)とを用いてリワードを決定するステップと、
前記強化学習方法のための前記リワードが決定された限りにおいては、
最後に行われたブレーキ圧変化を、値と変化方向と関連付けられた前記ブレーキ圧特性マップ(250a,250b,251a,251b)とに関して決定するステップと、
前記関連付けられた前記ブレーキ圧特性マップ(250a,250b,251a,251b)に対する修正値を、前記強化学習方法に対応して決定するステップと、
を含んでいる方法。
【請求項2】
少なくとも1つの以前の車輪状態を提供し、少なくとも1つの提供された前記ブレーキ圧特性マップ(250a,250b,251a,251b)は、値が目標車輪状態(310)からずれている前記少なくとも1つの状態パラメータの変化方向に依存している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの状態パラメータのグラジエントを、少なくとも前記状態パラメータの以前の値と現時点での値とを用いて決定し、付加的に前記グラジエントを用いて前記ブレーキ圧変化の前記変化方向の特定を決定する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ブレーキ圧変化の前記変化方向の特定を、多数の状態パラメータを用いて決定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ブレーキ圧変化の前記変化方向の特定を、前記ブレーキ圧変化に対する全システムのデッドタイムに依存して決定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの状態パラメータを、多数の前記状態パラメータから優先順位に応じて決定する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
複数の前記状態パラメータが、車輪スリップおよび/または車輪の加速度および/または前記スリップのグラジエントおよび/または車輪の加速度および/または車輪のジャークおよび/または前記車両の加速度に対する相対的な車輪加速度を有している、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記リワードルールは、リワードを、車輪のスリップに対する限界値を下回ることに依存して、および/または、前記スリップの値がゼロを下回ることに依存して、および/または、前記ブレーキ圧変化の修正頻度に依存して決定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を、車輪においてブレーキ圧をコントロールするために使用する使用方法
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を、車両の車輪に対するブレーキ圧コントロールのパフォーマンスを最適化するために使用する使用方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の決定したブレーキ圧変化に基づいて、少なくとも部分的に自動化された車両を起動するための制御信号を提供し、および/または、前記決定したブレーキ圧変化に基づいて、車両乗員に警告するための警告信号を提供する方法
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を実施するために設置されているブレーキシステム
【請求項13】
コンピュータによってコンピュータプログラムを実施する際に、前記コンピュータをして請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実施させる命令を含んでいるコンピュータプログラム
【請求項14】
請求項13に記載の前記コンピュータプログラムが記憶されている、機械読み取り可能な記憶媒体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動過程を最適化するために車両の車輪に対しブレーキ圧変化を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば強い雨、雪または氷のようなハイドロプレーニングまたは冬期の諸条件のもとで車両車輪と車道との間で最大摩擦値を越えると、車道に対する車両車輪のグリップロスのために不安定な走行状況になる恐れがある。多くのドライバーアシストシステムにとっては、および、部分自動化車両にとっては、常に安定な走行状態を保証するために、または、場合によっては自動運転機能を終了させるために、最大摩擦値を越えないことが重要である。
【0003】
最近の自動車は、ドライブダイナミックコントロール(ESP,lektronisches tabilitaetsrogramm)のようなコントロール装置を有している。その際、電子スタビリティプログラムは実質的にスリップコントロールシステムである。この場合、危険な走行状況が発生すると、たとえばアンチロックブレーキシステム(ABS)またはトラクションコントロールシステム(TCS)のような安全システムが介入する。
【0004】
このようなシステムはアンチロックコントロール(ALC)をベースにしており、すなわち車輪のロックに反作用して制動距離を短縮させるためにブレーキの増圧、減圧、保持を行うブレーキ圧コントロールをベースにしている。最新のALCは、種々の車両に対し最適なパフォーマンスを達成できるような可能性をアプリケーションエンジニアに与えるために多数のパラメータを有している。しかし、これらのパラメータにとって最適な値を見つけるには非常にコストを要する。
【0005】
というのは、アプリケーションエンジニアは、パフォーマンスを改善するために種々のALC操作を果たし、フルブレーキでALCを起動させ、測定を査定し、多くのパラメータのうちどのパラメータを適合させるべきかを評価し、これを目標パフォーマンスが達成されるまで何度も繰り返さなければならないからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、アンチロックコントローラを適合させるためのパラメータ探索を簡略化することである。車両の車輪を安定に保持し、同時に可能な限り短い制動距離を実現するために、コントローラが自動的に最善のブレーキ圧力変化を学習することを企図する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の観点によれば、独立請求項の構成による、制動過程を最適化するために車両の車輪に対しブレーキ圧変化を決定する方法と、ブレーキ圧特性マップを決定する方法と、本方法を使用する使用方法と、起動方法と、装置と、コンピュータプログラムと、機械読み取り可能な記憶媒体とが提案され、これらは上記の課題を少なくとも部分的に解決する。有利な構成は、従属項および以下の説明の対象である。
【0008】
本発明の本明細書全体において、一連の方法ステップは、方法を容易に再現できるように示されている。しかし当業者であれば、これら方法ステップの多くは他の順序でも実施できて、同じ結果または対応する結果に至ることを認識するだろう。この意味で、方法ステップの順序を適当に変えることができる。
【0009】
1つの観点によれば、制動過程を最適化するために車両の車輪に対してブレーキ圧変化を決定する方法において、以下のステップを有する方法が提案される。
方法の1つのステップで、車輪の現時点での車輪状態を提供し、この場合車輪状態は複数の状態パラメータを有している。更なるステップで、目標車輪状態から値がずれている少なくとも1つの状態パラメータを決定する。更なるステップで、少なくとも1つの状態パラメータの目標車輪状態からのずれに依存してブレーキ圧変化の変化方向を決定する。更なるステップで、ブレーキ圧変化の値を決定するためのブレーキ圧特性マップを提供し、この場合ブレーキ圧特性マップは、1つのブレーキ圧変化を複数の状態パラメータに関係づけ、且つブレーキ圧変化と状態パラメータ変化の決定された変化方向に対し特有のものである。更なるステップで、現時点での車輪状態と提供されたブレーキ圧特性マップとを用いてブレーキ圧変化の値を決定する。
【0010】
その際、たとえば車輪のスリップまたは加速度のような複数の状態パラメータは、たとえば慣性センサまたは回転数センサのような車両のセンサによって発生される信号を用いて決定する。すなわち、車輪状態はたとえば車輪のスリップおよび加速度の関数であってよい。
車輪状態=f(スリップ,a車輪)
ブレーキ圧により車輪のブレーキトルクを変化させることができ、この場合ブレーキ圧は、ブレーキ圧変化の累積によって調整することができる。その際、ブレーキ圧変化は車輪状態の関数であってよい。
【0011】
なお、ずれという概念は、少なくとも1つの状態パラメータの目標車輪状態からのずれに依存してブレーキ圧変化の変化方向が決定されることに関連して、幅広く理解されるべきであり、特に距離という意味での量的なずれと、グラジエントに対応して時間的に変化するずれとの双方を含んでいる。
【0012】
さらに以下で説明するように、ブレーキ圧特性マップは、強化学習方法(英語名 reinforcement learning)を用いて、種々の車輪状態を経験する際にその都度のブレーキ圧特性マップの値を修正することによって、よりいっそう最適化させることができる。これら種々の車輪状態は、適当なドライブモードでそれぞれの車両のアプリケーションエンジニアによって調整することができ、この場合強化学習方法のエージェントは、リワードルール(ポリシー)から対応的にブレーキ圧の変化に関して最善のアクションを学習する。このとき、この最善のアクションは対応するブレーキ圧特性マップに記憶させることができて、ブレーキ圧変化を調整するために提供することができる。
したがって、有利な態様では、ブレーキ圧変化を決定するこの方法に対して、アンチロックコントローラを適合させるためのパラメータ探索を簡単に実施できる方法が得られる。その際、ブレーキ圧変化を決定する方法は、アプリケーションエンジニアがたとえば1つのブレーキ圧特性マップ内で値を変化させることによってコントロール方法の変更を手動で行うことができるように簡潔に構成されている。
現時点での車輪状態は、以下でさらに列挙されているような他の状態パラメータによっても特徴づけることができる。
【0013】
ブレーキ圧変化の変化の方向は、すなわちブレーキ圧変化に基づいてブレーキ圧を上昇させるべきか、減少させるべきかどうかは、たとえばモードデシジョンモジュールによって、目標車輪状態に対応する車輪状態が可能な限り迅速に達成されるように、または、維持されるように決定することができる。
その際、このような目標車輪状態を車両の各車軸に対し設定してよく、この目標車輪状態は、たとえば最小および最大スリップ、および/または、最小または最大車輪加速度のような状態パラメータに依存して、ブレーキシステム全体のパフォーマンスが最適化されるように設定することができる。
このような目標車輪状態は走行状態、カーブ半径または路床などに応じて動的に設定してもよい。
【0014】
この変化方向を決定するため、たとえば状態パラメータの1つを多数の状態パラメータから選定してよい。このような選定は、予め決定されたルールに従って行ってよい。たとえば、このために、該当する車輪のスリップを関連付けてよい。典型的には、ブレーキ圧の増大の場合には車輪のスリップが増して、車輪がさらに減速され、すなわち車輪に対し負の加速を行う。
ブレーキ圧の減少は、典型的には結果的にスリップの減少と車輪のブレーキングの低下とを生じさせ、すなわち車輪の加速を生じさせる。
【0015】
この方法のために、たとえば4つの特性マップを創り出すことができ、これらの特性マップはスリップおよび車輪加速度のような2つの状態パラメータの相対変化によって区別され、すなわち状態パラメータの増大または減少によって区別される。その際、正のブレーキ圧変化の場合には、すなわち結果的にブレーキ圧が増大する場合には、車輪加速度に関係している2つの特性マップを使用できる。対応的に、負のブレーキ圧変化の場合には、状態パラメータであるスリップに関係する2つの特性マップを使用できる。以下で使用する強化学習の方法を使用する前に、シミュレーションに由来する複数の値を持った対応する特性マップを算出することができる。それぞれの特性マップは、演算を用いてブレーキ圧変化を決定するために、ブレーキ圧変化を対応的にその都度の状態パラメータにダイレクトに割り当てるか、或いは因数を提示することができる。その際、それぞれの因数は、その都度の状態パラメータが現時点で増大している場合にはその因数を乗じることができ、その都度の状態パラメータが現時点で減少している場合にはその因数で割ることができる。
つまり、現時点で増大しているスリップに対しては、すなわち以前のスリップが現時点でのスリップよりも小さい場合には、
dpTarget=-KSl増*スリップ値
となり、現時点で減少しているスリップに対しては、
dpTarget=-KSl減/スリップ値
となる。
対応的に、現時点で増大している車輪加速度に対しては、
dpTarget=Ka増*車輪加速度
となり、現時点で減少している車輪加速度に対しては、対応的に
dpTarget=Ka減/車輪加速度
となる。
なお、その都度のブレーキ圧変化dpTargetに対して、パラメータKSl増またはKSl減はスリップ値の増大または減少を表すものであり、Ka増またはKa減は車輪加速度の増大または減少を表わすものである。
すなわち、状態パラメータの現時点での変化に依存してその都度のブレーキ圧変化をこのように決定することにより、状態パラメータの変化のその都度の方向に依存した、積極性の程度が異なるコントロールが行われる。
このことは、スリップまたは車輪加速度の減少する値に対しては比例制御が行われないことを意味している。これに対して、スリップまたは車輪加速度の値が増大する場合には、比例制御が行われる。
【0016】
有利な態様では、アンチロックコントロールを備えている車両に対し本方法を使用できる。本方法は、すべての機能に対し、たとえばトラクションコントロール(英語名 Traction control)で使用されるような車輪コントローラを使用できる。その際、車輪を場合によっては車両基準速度よりも速くさせるという変更された課題を実現できるようにするため、目標車輪状態を対応的に適合させてよい。
【0017】
1つの観点によれば、少なくとも1つの以前の車輪状態を提供し、ブレーキ圧特性マップが、ブレーキ圧変化の決定された変化方向と、少なくとも1つの状態パラメータの変化とに特有のものであることが提案される。
【0018】
1つの観点によれば、少なくとも1つの以前の車輪状態を提供し、少なくとも1つの提供されたブレーキ圧特性マップは、値が目標車輪状態からずれている少なくとも1つの状態パラメータの変化方向に依存していることが提案される。
【0019】
このような目標車輪状態は、その都度の状態パラメータと車両の各車軸、すなわち前車軸および後車軸とに対する最大値および最小値とを用いて、可能な限り高性能のブレーキシステムに対応して設定することができる。たとえば、このような目標車輪状態は、状態パラメータであるスリップおよび車輪加速度の次のような値範囲によって定義されていてよい。スリップ_最小=5%;スリップ_最大=10%;車輪加速度_最小=-20m/s2;車輪加速度_最大=-15m/s2。
もし目標車輪状態を動的に選定するならば、このときスリップ_最大を1つの車軸に対して特定の時間ゼロよりも小さく選定することにより、必要な際に車両基準速度を裏づけることができる。すなわち車輪が、車両基準速度の妥当性をチェックして、必要な場合には修正するために、車両基準速度よりも速くなろうと試みることを企図する。
さらに、砂質の路床上を車両が走行する際には、前車軸でより高いスリップを持つのが望ましい場合があり、このことから、目標スリップ値に対してたとえば次の値を設定することができる。スリップ_最小=25%;スリップ_最大=35%
【0020】
1つの観点によれば、少なくとも1つの状態パラメータのグラジエントを、少なくとも状態パラメータの以前の値と現時点での値とを用いて決定し、付加的にグラジエントを用いてブレーキ圧変化の変化方向の特定を決定することが提案される。
有利な態様では、将来を見通して可能な限り適時にブレーキ圧が調整されるように、決定されたグラジエントがその都度のブレーキ圧変化を、車輪状態を可能な限り迅速に目標車輪状態へもたらしてそこで保持するために決定することを可能にする。
その際、グラジエントの決定のために更なる以前の状態パラメータを使用してもよく、すなわち時間的に一連の少なくとも1つの状態パラメータをグラジエントの決定のために使用してよく、および/または、以下に列挙したような複数の状態パラメータをグラジエントの決定のために使用してよい。
グラジエントのこのような決定は、ブレーキ圧変化の方向を決定するためにデッドタイムを考慮することを可能にし、デッドタイムは、将来を見通してブレーキ圧変化を決定するために必要なものである。というのは、たとえば30msのデッドタイムと、たとえば5msの間隔での車輪状態の決定とによるブレーキ圧変化の影響は、後になって初めて作用を及ぼすからである。
【0021】
1つの観点によれば、ブレーキ圧変化の変化方向の特定を、多数の状態パラメータを用いて決定することが提案される。
このような状態パラメータの例は、車輪スリップおよび/または車輪の加速度および/またはスリップのグラジエントおよび/または車輪の加速度(a車輪)および/または車輪のジャーク(Jerk(車輪))および/または車両の加速度に対する相対的な車輪加速度(a車両に対する相対的なa車輪)である。
【0022】
1つの観点によれば、ブレーキ圧変化の変化方向の特定を、ブレーキ圧の変化に対する全システムのデッドタイムに依存して決定することが提案される。
【0023】
1つの観点によれば、少なくとも1つの状態パラメータを、多数の状態パラメータから優先順位に応じて決定することが提案される。
たとえば、状態パラメータであるスリップの値は、目標車輪状態からずれていると決定された状態パラメータの設定に対しより高い優先権を持つことができる。というのは、車輪のロックは避けるべきであり、その目的のために、それぞれの車輪が目標車輪状態を用いて得られるよりも小さなスリップを持つまでの間、ブレーキ圧を低下させることができるからである。
【0024】
1つの観点によれば、複数の状態パラメータが、車輪スリップおよび/または車輪の加速度および/またはスリップのグラジエントおよび/または車輪の加速度および/または車輪のジャークおよび/または車両の加速度に対する相対的な車輪加速度を有していることが提案される。
【0025】
以下のステップを有する、上述した方法のためのブレーキ圧特性マップ決定方法が提案される。1つのステップで、現時点での車輪状態を提供し、この場合車輪状態は複数の状態パラメータを有している。更なるステップで、強化学習方法(英語名 Reinforcement Learning)のためのリワードルールを提供する。更なるステップで、リワードルールと現時点での車輪状態とを用いてリワードを決定し、そして強化学習方法のためのリワードが決定された限りにおいては、最後に行われた圧力変化を、値と変化方向と関連付けられたブレーキ圧特性マップとに関して決定するとともに、関連付けられたブレーキ圧特性マップに対する修正値を、強化学習方法に対応して決定する。
このようなリワードルールは、目標車輪状態からの車輪状態のずれのような任意の挙動変化或いは観察の際に、リワード(Reward)を最大限にするために、または、ペナルティを最小限にするために、たとえばブレーキ圧変化のようなどのようなアクションを学習環境(Environment)から実施すべきかを示している。
この強化学習方法を実行するエージェントは、たとえば状態パラメータであるスリップが常に所定の閾値以下になるまで、ブレーキ圧特性マップを用いて決定した圧力変化をその都度の状態パラメータに依存して修正できる。この修正は、設定した百分率変化によって行ってよく、或いは、偶然で行ってよい。
【0026】
有利な態様では、このように制御されるブレーキシステムにより最適なパフォーマンスが達成されるように特性マップを適合させるため、ブレーキ圧特性マップを決定する方法を使用することができる。その際、リワードルールは、目標パフォーマンスを達成できるように定義される。
【0027】
リワードルールに従って、対応するペナルティルールをも含むことができるリワードを決定する場合、リワードまたはペナルティの原因となる何らかの車輪状態で行われたブレーキ圧変化または対応するパラメータを修正する。
強化学習方法のエージェントは、その都度の車輪状態における対応するブレーキ圧特性マップからブレーキ圧の変化の値が更なるリワードを決定させられなくなるまで、偶然の変化または百分率変化を用いてパラメータまたはブレーキ圧変化を修正する。これは、その後に車輪状態が目標車輪状態の範囲内にあり得ることを意味する。たとえば、その後に、状態パラメータであるスリップは常に最大値および最小値の内側にあることができる。
さらに、たとえば、スリップの高いグラジエントにつながる何らかの車輪状態での圧力変化には、リワードルールを科すことができる。
【0028】
本方法においては、有利な態様では、強化学習方法を実行するそのエージェントは、当該エージェントがその都度のブレーキ圧特性マップを適合させ、アプリケーションエンジニアが適当な走行挙動により環境を、すなわち種々の車輪状態を設定するコントロール方法の最適化を担っている。これによって、ブレーキコントロールシステムをその都度の車両に適合させようとする努力が簡略化される。
【0029】
1つの観点によれば、ブレーキ圧特性マップを決定する方法においては、車輪の少なくとも1つの以前の車輪状態を提供し、現時点での車輪状態および/または少なくとも1つの以前の車輪状態を用いてリワードを決定することが提案される。
【0030】
1つの観点によれば、リワードルールは、リワードを、スリップに対する限界値を下回ることに依存して、および/または、スリップの値がゼロを下回ることに依存して、および/または、圧力変化の修正頻度に依存して決定することが提案される。
【0031】
ブレーキ圧変化を決定するための上述の方法を、車輪においてブレーキ圧をコントロールするために使用することが提案される。
【0032】
ブレーキ圧特性マップを決定するための方法を、車両の車輪に対するブレーキ圧コントロールのパフォーマンスを最適化するために使用することが提案される。
【0033】
決定したブレーキ圧変化に基づいて、少なくとも部分的に自動化された車両を起動するための制御信号を提供すること、および/または、決定したブレーキ圧変化に基づいて、車両乗員に警告するための警告信号を提供する方法が提案される。
【0034】
これにより、たとえば車両の制御器はトラクションコントロール(TCS:traction control system)を実現でき、該制御器においてたとえば氷結した路床を一時的に与えられている車輪が制動され、または、制動過程時に、制動距離が与えられた状況の下で最小になるようにすべての車輪が制動される。
【0035】
「に基づいて」という概念は、制御信号が決定されたブレーキ圧変化に基づいて提供されるという構成要件に関連して幅広く理解すべきである。決定されたブレーキ圧変化は制御信号のすべての決定または演算のために考慮されると理解すべきであり、この場合制御信号のこのような決定のためにさらに他の入力量をも考慮することを除外しない。対応することは、警告信号の提供に対しても対応的に適用される。
【0036】
ブレーキ圧変化を決定するための上述の方法の1つを実施するために設置されたブレーキシステムが提案される。このような装置を用いると、対応する方法を種々のシステムに簡単に組み込むことができる。
【0037】
更なる観点によれば、コンピュータによってコンピュータプログラムを実施する際に、コンピュータをして上述の方法の1つを実施させる命令を含んでいるコンピュータプログラムが提示される。このようなコンピュータプログラムは、説明した方法を種々のシステムで使用することを可能にする。
【0038】
上述のコンピュータプログラムが記憶されている機械読み取り可能な記憶媒体が提案される。
【0039】
ここで使用している車両という概念は、一般的に、移動式で少なくとも部分的に自動化されたシステムであってよいモバイルプラットホームおよび/または、ドライバーアシストシステムと理解されてもよい。一例は、少なくとも部分的に自動化された車両、または、ドライバーアシストシステムを備えた車両であってよい。すなわち、これに関連して、少なくとも部分的に自動化されたシステムは、少なくとも部分的に自動化された機能性に関してモバイルプラットホームを内包しているが、しかしモバイルプラットホームは、ドライバーアシストシステムを含んだ車両および他の移動機をも内包している。モバイルプラットホームの更なる例は、複数のセンサを備えたドライバーアシストシステム、たとえばロボット掃除機または芝刈り機のような移動型マルチセンサロボット、マルチセンサ監視システム、船、飛行機、製造機械、パーソナルアシスタント、或いは、アクセスコントロールシステムであってよい。これらシステムのいずれも完全にまたは部分的に自律的なシステムであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明のいくつかの実施形態が図1ないし図9に関して図示されており、以下に詳細に説明する。
図1】スリップ値および対応する車輪速度の時間的な経過を示す図である。
図2】ブレーキシステムを示す図である。
図3】一連の状態値を含む状態グラフである。
図4】状態パラメータを含むグラフである。
図5】特性マップの値の変化に対するマトリックスを併せて示した特性マップである。
図6】変化した特性マップ値を示す図である。
図7】状態パラメータと時間との関係を示すグラフである。
図8】特性マップの値の変化に対するリストを併せて示した特性マップである。
図9】多数の状態パラメータと時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、スリップ値120の時間的経過と、スリップ値Sが存在するであろう境界範囲Smax,Sminとをグラフ100で例示している。なお、曲線160は参照速度vを示し、曲線140は観察している車輪の速度を示している。
【0042】
図2は、制動過程を最適化するためにブレーキ圧変化を決定する方法を実施するべく設置されているブレーキシステム200を示している。
車輪センサと他の車両センサとを用いて車輪の現時点での車輪状態210が提供され、この場合車輪状態210は、たとえばスリップsおよび車輪加速度aのような複数の状態パラメータを有している。ブレーキシステム200のモジュール220で、目標車輪状態からずれた値を持つ少なくとも1つの状態パラメータを決定し、ブレーキ圧変化の変化方向を、少なくとも1つの状態パラメータの目標車輪状態からのずれに依存して決定する。択一的に、ブレーキ圧を一定に保持してもよい。決定したこの変化方向p↓またはp↑を用いて、ブレーキ圧変化の値を特定するために提供されるブレーキ圧特性マップ250a,250b,251a,251bを選択し、この場合ブレーキ圧特性マップは、ブレーキ圧変化を、複数の状態パラメータであるスリップsまたは車輪加速度a或いはブレーキングに対するDに関係づけており、ブレーキ圧変化および状態パラメータの変化の決定した変化方向に対して特有である。すなわち、状態パラメータの変化の方向に依存してブレーキ圧特性マップが選出される。したがって、車輪加速度の増大に対し特有のブレーキ圧特性マップ250bと、車輪加速度の減少に対し特有のブレーキ圧特性マップ250aとが存在する。対応的に、状態パラメータであるスリップに対しては、スリップの増大に対しブレーキ圧特性マップ251aが適用され、スリップの減少に対しブレーキ圧特性マップ251bが適用される。その際、ブレーキ圧特性マップ250a,250bはポジティブなブレーキ圧変化に割り当てられ、ブレーキ圧特性マップ251a,251bはネガティブなブレーキ圧変化に割り当てられる。これにより、ブレーキ圧変化の値Dpを、現時点での車輪状態および対応する提供されたブレーキ圧特性マップとを用いて決定することができて、特に車輪用ブレーキシステムに転送することができる。モジュール240には状態パラメータの値と圧力変化の値とが転送され、その結果上述の強化学習方法を用いて、対応するブレーキ圧特性マップを修正することができる。
【0043】
図3は、2つの状態パラメータであるスリップsと車輪加速度aとの多数の組み合わせを含むグラフ300を図示したもので、一連の状態値の概要を示している。その際、状態区画のための目標車輪状態310は太枠で特徴づけられている。もしこのグラフ300において右上に配置されている車輪状態でもって方法を開始すると、二重にハッチングした区画314を介して一連の状態区画が特徴づけられていてよく、これらの区画ではそれぞれたとえば5msの所定の時間間隔でその都度の状態が決定され、この事例では、目標車輪状態310がダイレクトに達成されることなく、特にたとえば30msのデッドタイムに基づいてポジティブなブレーキ圧変化が行われる。黒く特徴づけた区画310は、ネガティブなブレーキ圧変化が行われる状態区画を表している。
【0044】
ブレーキ圧変化は、グラフ300で次のように車輪状態の変化に影響する。
スリップ(X軸) a車輪(Y軸)
圧力増大 より大 より小
圧力減少 より小 より大
【0045】
図4は、たとえば上限値および下限値の外側の領域440にある一連の時間的なスリップ値s430を含むグラフ400を図示している。なお、曲線420は付属の状態値Sを表し、曲線410は累積ブレーキ圧変化に対応して結果するブレーキ圧pの経過を表し、且つ領域450の概要を示しており、領域450の、領域440の時間範囲に先行しているブレーキ圧変化は、領域450でスリップ値430を越えるための原因として想定することができる。したがって、所定限界値内でのスリップが存続されるようなコントロールを達成するために、強化学習を用いて適当なブレーキ圧特性マップを状態420に対して適合させることができる。
【0046】
図5は、増大する圧力変化に対する特性マップ520の概要を示すもので、この特性マップでは、状態パラメータは車輪の加速のために減少し、或いは、制動が強くなっている。
【0047】
図6は、状態パラメータである車輪加速度aおよびスリップsに依存して記載した変更特性マップ値を図示したものであり、すなわちこれら状態パラメータに依存してブレーキ圧pをいかに変化させるべきかを図示したものである。
【0048】
図7は、状態パラメータであるスリップs720と時間との関係を示すグラフ700を示しており、領域725でスリップsが所定最小スリップ値以下であることが見て取れる。加えて、このグラフ700には、ブレーキ圧pの時間的経過715が記載されている。強化学習方法はこの最後に行われたブレーキ圧変化を識別して、付属のブレーキ圧特性マップを対応的に修正することで、対応する車輪状態に対するスリップの低下を将来的に回避することができる。
【0049】
図8は、車輪加速度が減少する際または制動を増す際のポジティブなブレーキ圧変化に関係づけられている特性マップであって、この特性マップの値の変化に対するリストを用いて車輪状態に依存して実現される前記特性マップを示しており、この場合リストは強化学習方法を用いて決定されたものである。
【0050】
図9は、多数のパラメータおよび状態パラメータと時間との関係を示すグラフであり、すなわちスリップ946、迅速な圧力上昇944、緩速な圧力上昇945、一定に保持される圧力943、迅速な圧力減少941、緩速な圧力減少942、状態インデックス947、目標ブレーキ圧948と時間との関係を示すグラフである。迅速な一連のスリップの変化を特徴づけている領域930において、この変化は、領域920で特徴づけられている車輪状態を持つ曲線948における先行する目標ブレーキ圧変化に起因させることができる。スリップの変化の高頻度は回避すべきなので、圧力変化の修正頻度を強化学習方法のリワードルールに組み込んでよい。
【符号の説明】
【0051】
210 現時点での車輪状態
250a,250b,251a,251b ブレーキ圧特性マップ
310 目標車輪状態
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9