(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】眼科装置及び瞳孔状態計測方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/103 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
A61B3/103
(21)【出願番号】P 2023067869
(22)【出願日】2023-04-18
(62)【分割の表示】P 2022001517の分割
【原出願日】2017-09-28
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】中島 将
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-074036(JP,A)
【文献】特開2013-248376(JP,A)
【文献】特開昭61-263437(JP,A)
【文献】特表2016-516541(JP,A)
【文献】特開2005-087548(JP,A)
【文献】特開平05-302868(JP,A)
【文献】特開平06-335453(JP,A)
【文献】特開2004-236688(JP,A)
【文献】特開2004-236689(JP,A)
【文献】特開2003-10122(JP,A)
【文献】特表2017-530476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の被検眼の眼特性を他覚的に測定する眼特性測定部と、
前記眼特性測定部による前記眼特性の測定中に、前記被検眼の前眼部を、
互いに異なる
斜め方向から実質的に同時に撮影する少なくとも2つの撮影部と、
前記少なくとも2つの撮影部により実質的に同時に撮影された画像のうち、少なくとも1つの画像に基づいて前記被検眼の縮瞳の有無又は偏心の有無を含む瞳孔状態を計測する瞳孔状態計測部と、
前記眼特性の測定中に前記被検眼の前眼部の撮影を前記少なくとも2つの撮影部に実行させ、かつ、前記眼特性の測定中に前記少なくとも1つの画像に基づく前記被検眼の瞳孔状態の計測を前記瞳孔状態計測部に実行させる制御部と、
を備え
、
前記眼特性の測定中に、前記少なくとも2つの撮影部の見込み角に基づいて、前記少なくとも1つの画像を射影変換して前記見込み角に起因する前記被検眼の像の歪みを除去する射影変換部を備え、
前記瞳孔状態計測部が、前記射影変換部により射影変換された前記少なくとも1つの画像に基づいて前記瞳孔状態を計測する眼科装置。
【請求項2】
前記眼特性測定部による前記眼特性の測定中における前記被検眼の瞳孔状態に基づいて前記瞳孔状態に関する報知を行うかどうかを判定する判定部と、
前記判定部が前記報知を行うと判定した場合に前記報知を行う報知部と、
を更に備える請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記判定部が、前記瞳孔状態計測部によって計測された少なくとも1つの経線方向における瞳孔径が測定光束の径から決められた第1の閾値以下の場合に、前記報知を行うと判定する、請求項2記載の眼科装置。
【請求項4】
前記判定部が、前記瞳孔状態計測部によって計測された前記被検眼の瞳孔のアライメント基準位置に対する前記被検眼の瞳孔の中心位置のズレが測定光束の径から決められた第2の閾値以上の場合に、前記報知を行うと判定する、請求項2又は3記載の眼科装置。
【請求項5】
被検者の被検眼の眼特性を他覚的に測定する眼特性測定工程と、
前記眼特性の測定中に、少なくとも2つの撮影部を用いて、前記被検眼の前眼部を、
互いに異なる
斜め方向から実質的に同時に撮影する撮影工程と、
前記少なくとも2つの撮影部により実質的に同時に撮影された画像のうち、少なくとも1つの画像を解析して前記被検眼の縮瞳の有無又は偏心の有無を含む瞳孔状態を計測する計測工程と、
前記眼特性の測定中に、前記撮影工程と前記計測工程とを実行する工程と、
を備え
、
前記眼特性の測定中に、前記少なくとも2つの撮影部の見込み角に基づいて、前記少なくとも1つの画像を射影変換して前記見込み角に起因する前記被検眼の像の歪みを除去する射影変換ステップを備え、
前記計測工程では、前記射影変換ステップで射影変換された前記少なくとも1つの画像に基づいて前記瞳孔状態を計測する瞳孔状態計測方法。
【請求項6】
前記眼特性測定工程での前記眼特性の測定中における前記被検眼の瞳孔状態に基づいて前記瞳孔状態に関する報知を行うかどうかを判定する判定工程と、
前記判定工程で前記報知を行うと判定した場合に前記報知を行う報知工程と、
を更に備える請求項5に記載の瞳孔状態計測方法。
【請求項7】
前記判定工程が、前記計測工程によって計測された少なくとも1つの経線方向における瞳孔径が測定光束の径から決められた第1の閾値以下の場合に、前記報知を行うと判定する、請求項6記載の瞳孔状態計測方法。
【請求項8】
前記判定工程が、前記計測工程によって計測された前記被検眼の瞳孔のアライメント基準位置に対する前記被検眼の瞳孔の中心位置のズレが測定光束の径から決められた第2の閾値以上の場合に、前記報知を行うと判定する、請求項6又は7記載の瞳孔状態計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科装置及び瞳孔状態計測方法に係り、特に被検眼の瞳孔状態を計測するための眼科装置及び瞳孔状態計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、他覚眼屈折力測定系(30)を備えた眼光学特性測定装置が開示されている。特許文献1では、眼屈折力測定系(30)及び光電検出器(37)により、目標設定位置における被検者の前眼部画像を取得し、この前眼部画像から被検眼の瞳孔径を演算する。そして、この瞳孔径等に基づいて、被検眼に測定光束を投影する投影光学系(2)と、被検眼から反射光を受光する受光光学系(3)の開口絞りの絞り孔を選択し、投影光学系(2)及び受光光学系(3)を介して光電検出器(21)により視標像を取得する(特許文献1の[0046]から[0057])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の眼科装置では、屈折力等の被検眼の光学特性を他覚的に測定する場合に、他覚測定中における被検眼の瞳孔状態を計測することはできなかった。他覚測定の際に被検眼の縮瞳が起こると、測定光束が虹彩により遮られる場合があり、他覚測定中に被検眼の縮瞳が起こると、測定値の正確性を担保することができないという問題があった。さらに、他覚測定において、被検眼の縮瞳に起因するエラーが発生する場合があるが、従来の眼科装置では、このエラーの原因を究明することが困難であった。
【0005】
特許文献1には、被検眼の屈折力の測定と、瞳孔径の演算に用いられる前眼部画像の取得とを同じ光電検出器(37)により行うことが開示されているが、被検眼の屈折力の測定と、屈折力の測定中における前眼部画像の取得とを、同じ光電検出器(37)により同時に行うことはできない。
【0006】
なお、特許文献1には、投影光学系(2)及び受光光学系(3)により前眼部画像の撮影を行ってもよいと記載されている(特許文献1の[0058])。しかしながら、屈折力測定と前眼部の撮影を別々の光学系を用いて行う場合には、複数台のカメラを必要とするため、装置の複雑化、大型化及びコストアップを招くという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、他覚測定の測定結果の正確性を担保することが可能であり、かつ、他覚測定時のエラーの原因の究明に有効な眼科装置及び瞳孔状態計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る眼科装置は、被検者の被検眼の眼特性を他覚的に測定する眼特性測定部と、眼特性測定部による眼特性の測定中に、被検眼の前眼部を、異なる方向から実質的に同時に撮影する少なくとも2つの撮影部と、少なくとも2つの撮影部により撮影された画像のうち、少なくとも1つの画像に基づいて被検眼の瞳孔状態を計測する瞳孔状態計測部と、被検眼の前眼部の撮影を少なくとも2つの撮影部に実行させ、かつ、少なくとも1つの画像に基づく被検眼の瞳孔状態の計測を瞳孔状態計測部に実行させる制御部とを備える。
【0009】
第1の態様によれば、他覚測定中の瞳孔の状態を検出することができるので、他覚測定の測定結果の正確性を担保することが可能になる。さらに、第1の態様によれば、アライメント用に設けられた2つの撮影部を用いて瞳孔状態を計測することにより、装置の複雑化、大型化及びコストアップを回避することが可能になる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る眼科装置は、第1の態様において、2つの撮影部により撮影された画像に基づいて、眼特性測定部と被検眼との間の距離を検出する距離検出部を更に備える。
【0011】
本発明の第3の態様に係る眼科装置は、第1又は第2の態様において、眼特性測定部による眼特性の測定結果と、瞳孔状態計測部による瞳孔状態の計測結果とを記憶する記憶部を更に備える。
【0012】
第3の態様によれば、検眼士(例えば、眼科医師、看護師、視能訓練士等)は、眼特性の測定結果の分析時に、記憶部に記憶された他覚測定中の瞳孔の状態を参照することができる。これにより、眼特性測定時のエラーの発生原因の究明が可能になり、かつ、測定結果の正確性を確保することができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る眼科装置は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、瞳孔状態計測部が、瞳孔状態として、被検眼の各経線方向における瞳孔の直径、及び被検眼の角膜頂点に対する瞳孔の偏心量の少なくとも一方を計測するようにしたものである。
【0014】
本発明の第5の態様に係る眼科装置は、第1から第4の態様のいずれかにおいて、制御部が、眼特性測定部による眼特性の測定中に、少なくとも2つの撮影部による被検眼の前眼部の撮影と、少なくとも2つの撮影部により撮影された画像のうち、少なくとも1つの画像に基づく被検眼の瞳孔状態の計測とを実行させるようにしたものである。
【0015】
第5の態様によれば、眼特性の測定時における瞳孔状態の経時変化を計測することが可能になる。
【0016】
本発明の第6の態様に係る眼科装置は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、眼特性測定部による眼特性の測定中における被検眼の瞳孔状態に基づいて瞳孔状態に関する報知を行うかどうかを判定する判定部と、判定部が報知を行うと判定した場合に報知を行う報知部とを更に備える。
【0017】
本発明の第7の態様に係る眼科装置は、第6の態様において、判定部が、瞳孔状態計測部によって計測された少なくとも1つの経線方向における瞳孔径が測定光束の径から決められた第1の閾値以下の場合に、報知を行うと判定するようにしたものである。
【0018】
本発明の第8の態様に係る眼科装置は、第6又は第7の態様において、判定部が、瞳孔状態計測部によって計測された被検眼の瞳孔のアライメント基準位置に対する被検眼の瞳孔の中心位置のズレが測定光束の径から決められた第2の閾値以上の場合に、報知を行うと判定するようにしたものである。
【0019】
本発明の第9の態様に係る眼科装置は、第1から第8の態様のいずれかにおいて、眼特性測定部による眼特性の測定開始前における被検眼の瞳孔径に基づいて測定を行うかどうかを判定する判定部を更に備え、制御部が、眼特性測定部による眼特性の測定を中止させるようにしたものである。
【0020】
本発明の第10の態様に係る眼科装置は、第9の態様において、判定部が測定中止と判定した場合に、測定中止の旨を報知する報知部を更に備える。
【0021】
本発明の第11の態様に係る瞳孔状態計測方法は、被検者の被検眼の眼特性を他覚的に測定する眼特性測定工程と、眼特性の測定中に、少なくとも2つの撮影部を用いて、被検眼の前眼部を、異なる方向から実質的に同時に撮影する撮影工程と、少なくとも2つの撮影部により撮影された画像のうち、少なくとも1つの画像を解析して被検眼の瞳孔状態を計測する計測工程と、眼特性の測定中に、撮影工程と計測工程とを実行する工程とを備える。
【0022】
本発明の第12の態様に係る瞳孔状態計測方法は、第11の態様において、眼特性の測定結果と、瞳孔状態の計測結果とを記憶部に記憶する記憶工程を更に備える。
【0023】
本発明の第13の態様に係る瞳孔状態計測方法は、第11又は第12の態様において、眼特性の測定中に、撮影工程と計測工程とを繰り返し実行するようにしたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、他覚測定中の瞳孔の状態を検出することができるので、他覚測定の測定結果の正確性を担保することが可能になる。さらに、本発明によれば、アライメント用に設けられた2つの撮影部を用いて瞳孔状態を計測することにより、装置の複雑化、大型化及びコストアップを回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る眼科装置を示す外観図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る検眼部の光学系を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る眼科装置を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、ステレオカメラをミラーに対してそれぞれ鏡映変換した状態を示す図である。
【
図5】
図5は、被検眼と鏡映変換後のステレオカメラとの間の位置関係を示す上面図である。
【
図6】
図6は、被検眼と鏡映変換後のステレオカメラとの間の位置関係を示す側面図である。
【
図7】
図7は、被検眼を撮影した画像を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係る瞳孔状態計測方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に従って本発明に係る眼科装置及び瞳孔状態計測方法の実施の形態について説明する。
【0027】
[眼科装置の概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る眼科装置を示す外観図である。
【0028】
本実施形態に係る眼科装置10は、検眼部100(100L及び100R)により被検者の眼に対する他覚的な測定と、自覚的な検眼の両方を行うことが可能な装置である。以下の説明では、被検者と検眼士を「操作者」ともいう。
【0029】
図1に示すように、本実施形態に係る眼科装置10は、検眼テーブル12と、検眼部100(100L及び100R)と、ユーザインターフェイス(UI)200とを含む。
【0030】
検眼テーブル12は、被検者の体型等に応じて高さが調節可能なテーブルである。
【0031】
検眼テーブル12には、柱状の支持部14が検眼テーブル12の表面に対して略垂直に取り付けられている。支持部14は、伸縮可能に構成されている。被検者の体型等に応じて支持部14を伸縮させることにより、検眼部100L及び100Rの高さを調節することが可能になっている。
【0032】
支持部14の上端部には、腕部16が取り付けられている。腕部16は、支持部14の周りを回動可能となっている。腕部16には、吊り下げ部18が取り付けられており、吊り下げ部18には、検眼部100L及び100Rが吊り下げられている。被検者又は検眼士は、検眼部100L及び100Rを支持部14に対して回動させることにより、検眼部100L及び100Rを被検者に正対させることができる。
【0033】
吊り下げ部18は、検眼部100L及び100Rを移動させるための第1駆動部20(
図3参照)を内蔵している。操作者は、UI200を用いて第1駆動部20を操作することにより、検眼部100L及び100Rを移動させることができる。操作者は、第1駆動部20により、被検者の左右の眼の位置及び間隔に応じて、検眼部100L及び100Rの角度及び間隔を調節することができる。
【0034】
検眼部100(100L及び100R)は、それぞれ被検者の左右の眼を測定、検査するための光学系を含んでおり、両眼同時他覚屈折測定及び自覚検眼機能を有する。被検者が顔支持部24(
図3参照)に顔を支持させると、検眼部100L及び100Rの検眼窓に左右の被検眼を正対させて、各種の測定を行うことができるようになっている。
【0035】
UI200は、操作者からの操作入力を受け付けるための操作部と、眼科装置10による測定結果を表示するための表示部とを含む。
図1に示す例では、UI200として、タッチパネルディスプレイ202及びコントローラ204が図示されている。
【0036】
タッチパネルディスプレイ202は、操作受け付け用のグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)、眼科装置10による測定結果等を表示する表示画面を備えており、表示画面の表面には、操作者の操作を受け付けるためのタッチパネルが設けられている。タッチパネルは、マトリクス・スイッチ、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式及び静電容量方式のいずれの方式であってもよい。
【0037】
コントローラ204は、操作者の操作を受け付ける操作部材(操作ボタン、スイッチ等)を備えている。
【0038】
なお、UI200の種類は、タッチパネルディスプレイ202及びコントローラ204に限定されるものではない。UI200は、これらに代えて又はこれらに加えて、マウス等のポインティングデバイス、文字入力のためのキーボード等を備えていてもよい。
【0039】
次に、本実施形態に係る検眼部100L及び100Rの構成について説明する。なお、検眼部100L及び100Rは左右対称であるため、以下では、右眼用の検眼部100Rについて説明し、左眼用の検眼部100Lについては説明を省略する。
【0040】
図2は、本実施形態に係る検眼部100Rの光学系を示す図である。以下の説明では、X方向を水平方向(横方向)、Y方向を鉛直方向(縦方向)、Z方向をXY方向に垂直な方向とする3次元直交座標系を用いる。ここで、Z方向は、視線方向と略一致する。
【0041】
図2に示すように、検眼部100Rは、ミラー(偏向部材)104、アライメント光学系106、ステレオカメラ108(カメラ(撮影部)108A及び108B)、対物レンズ110及び測定光学系112を含む。これらの構成は、それぞれ検眼部筐体102の中に収容されている。
【0042】
検眼部筐体102には、略円形の検眼窓102Aが形成されている。検眼窓102Aには、光を透過する板状の部材(例えば、白板ガラス等の透明度が比較的高い部材)が嵌め込まれていてもよい。
【0043】
ミラー104(偏向部材)は、検眼窓102Aに対して奥側(-Z側)に配置されている。ミラー104は、被検者が被検眼Eを検眼窓102Aに正対させたときに正面に位置するように配置されており、右側(+X側)の端部が検眼窓102Aに対して奥側(-Z側)になるように傾斜している。なお、本実施形態では、偏向部材として、ミラー104を用いたが、ミラー104に代えて、光を偏向可能なプリズム等の光学部材を用いてもよい。
【0044】
アライメント光学系106は、測定光学系112内に配置され、光源(例えば、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode))と、投光レンズとを含む。この光源から出射した光は、対物レンズ110を通して平行光としてミラー104に照射される。ミラー104に照射された光は、ミラー104によって反射されて被検眼Eに照射される。これにより、被検眼Eにアライメント指標像が投影される。
【0045】
ステレオカメラ108は、検眼部100Rにおいて、相互に異なる箇所に取り付けられた2以上のカメラを含む。被検眼Eの前眼部を異なる方向から実質的に同時に撮影する。ステレオカメラ108によって撮影された2以上の前眼部画像中の特徴点の位置(特徴部位)を解析することにより、被検眼Eと検眼部100Rとの間の位置関係を求めることができ、被検眼Eに対する検眼部100Rのアライメントを行うことができる。
【0046】
ここで、前眼部上の特徴点は、前眼部の角膜に投影された指標光束の角膜反射像(プルキンエ像)が用いられるが、これに限らず、瞳孔中心などを用いてもよい。
【0047】
図2に示す例では、ステレオカメラ108は、2のカメラ108A及び108Bにより構成されているが、カメラの個数及び設置箇所は、
図2に示す例に限定されるものではない。カメラ108A及び108Bのうちの一方は、測定光学系112の中に配置されていてもよい。また、ステレオカメラ108が3つ以上のカメラにより構成される場合には、そのうちの一部が測定光学系112の中に配置されていてもよい。
【0048】
測定光学系112は、被検眼Eの特性を測定するための構成を備える。測定光学系112は、上記アライメント光学系106のほか、対物レンズ110及びミラー104を介して被検眼Eに視標を投影したり、対物レンズ110及びミラー104を介して被検眼Eに対して測定光を投影するための投影光学系と、反射光を受光する受光光学系113を備える。
【0049】
図3は、本実施形態に係る眼科装置を示すブロック図である。
【0050】
(プロセッサ120)
プロセッサ120は、各種の情報処理を実行する。本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。
【0051】
プロセッサ120は、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。記憶回路や記憶装置の少なくとも一部がプロセッサ120に含まれていてよい。また、記憶回路や記憶装置の少なくとも一部がプロセッサ120の外部に設けられていてよい。プロセッサ120により実行可能な処理については後述する。プロセッサ120は、制御部122と、記憶部124と、データ処理部126とを含む。
【0052】
(制御部122)
制御部122は、眼科装置10の各部の制御を実行する。特に、制御部122は、検眼部100L及び100R、第1駆動部20及び第2駆動部22を制御する。制御部122により実行可能な制御については後述する。
【0053】
(記憶部124)
記憶部124は、各種のデータを記憶する。記憶部124としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気ディスクを含む装置、eMMC(embedded Multi Media Card)、SSD(Solid State Drive)等のフラッシュメモリを含む装置等を用いることができる。記憶部124に記憶されるデータとしては、測定光学系112の受光光学系により取得されたデータ(測定データ、撮影データ等)や、被検者及び被検眼Eに関する情報などがある。記憶部124には、眼科装置10を動作させるための各種のコンピュータプログラム及びデータが記憶されていてよい。記憶部124には、後述の処理において使用及び参照される各種のデータが記憶される。記憶部124は、前述の記憶回路や記憶装置を含む。
【0054】
(データ処理部126)
データ処理部126は、各種のデータ処理を実行する。特に、データ処理部126は、ステレオカメラ108により取得された撮影画像を解析する。
【0055】
(検眼部100)
検眼部100L及び100Rには、被検眼Eの測定や撮影を行うための構成と、その準備を行うための構成とが格納されている。前者は測定光学系を含み、後者はアライメント光学系を含む。検眼部100L及び100Rは、測定光学系112のフォーカシングを行うための構成などを備えていてもよい。また、検眼部100L及び100Rは、被検眼Eの前眼部を照明するための光源(前眼部照明光源)を備えてもよい。
【0056】
(測定光学系112)
測定光学系112(眼特性測定部)は、被検眼Eの特性を測定するための構成を備える。測定光学系112は、眼科装置10が提供する機能(測定機能、撮影機能等)に応じた構成を備える。例えば、測定光学系112には、上記アライメント光学系106のほか、光源、光学素子(光学部材、光学デバイス)、アクチュエータ、機構、回路、表示デバイス、受光素子、イメージセンサなどが設けられる。測定光学系112の構成は従来の眼科装置のそれと同様であってよい。測定光学系112は、対物レンズ110及びミラー104を介して被検眼Eに視標像を投影したり、対物レンズ110及びミラー104を介して被検眼Eに対して測定光を投影したり、受光光学系113により反射光を受光することが可能となっている。測定光学系112は、例えば、被検眼の眼屈折力を他覚的に測定する機能を有する場合、公知のレフラクトメータの光学系が配置される。
【0057】
測定光学系112は、検査に付随する機能を提供するための構成を備えていてよい。例えば、被検眼Eを固視又は雲霧させるための視標を呈示する固視光学系が設けられていてよい。
【0058】
(アライメント光学系106)
アライメント光学系106は、光源と、投光レンズとを含んでおり、光束を被検眼Eに投影する。アライメント光学系106に含まれる光源は、測定光学系112内に配置され対物レンズ110の光軸に沿って被検眼Eの角膜に平行光束を投影する。それにより、アライメントのための指標が被検眼Eの角膜に投影される。この指標は、角膜表面反射による虚像(プルキンエ像)として検出される。指標を用いたアライメントは、測定光学系112の光軸方向における光軸方向アライメントを少なくとも含む。指標を用いたアライメントは、X方向及びY方向におけるXYアライメントを含んでもよい。
【0059】
なお、本実施形態では、測定光学系112の光軸は、ミラー104によって折り曲げられており、測定光学系112のミラー104に対する鏡像の位置では、測定光学系112の光軸がZ軸と略一致するように構成されている。このため、測定光学系112の光軸方向におけるアライメントは、Zアライメントに相当する。以下の説明では、測定光学系112の光軸方向におけるアライメントをZアライメントという。
【0060】
Zアライメントは、ステレオカメラ108により実質的に同時に得られる2以上の撮影画像を解析することによって実行される。XYアライメントは、ステレオカメラ108により得られた2以上の撮影画像を解析することによって実行される。
【0061】
XYアライメントは、2以上の撮影画像に描出されたプルキンエ像(指標像)のXY方向における位置に基づき実行される。XYアライメントは、アライメントのズレの許容範囲(アライメントマーク)内に指標像を誘導するように検眼部100Rを手動又は自動で移動させることにより実行される。
【0062】
マニュアルアライメントの場合、制御部122は、2以上の撮影画像とアライメントマークとをUI200(タッチパネルディスプレイ202)に表示させる。操作者は、UI200を操作して第1駆動部20により検眼部100Rを移動させ、アライメントのズレの許容範囲(アライメントマーク)内に指標像を移動させる。
【0063】
オートアライメントの場合、データ処理部126は、アライメントマークに対する指標像の変位を算出する。制御部122は、データ処理部126によって算出された変位をキャンセルするように検眼部100RをXY方向に移動させる。
【0064】
(ステレオカメラ108)
ステレオカメラ108は、検眼部100Rにおいて、相互に異なる箇所に取り付けられた2以上のカメラを含む。ステレオカメラ108の各カメラは、例えば、所定のフレームレートで動画撮影を行うビデオカメラである。各カメラは、ミラー104による反射光を受光して被検眼Eの前眼部を異なる方向から実質的に同時に撮影する。
【0065】
図2に示す例では、2のカメラ108A及び108Bが設けられている。また、カメラ108A及び108Bはそれぞれ、測定光学系112の光路から外れた位置に配置されている。
【0066】
なお、カメラ108A及び108Bは、測定光学系112の光路よりも下方(-Y側)に設けてもよい。それにより、被検眼Eの前眼部(例えば、角膜)に投影された光束(指標)の反射光が睫毛や瞼にケラレにくくなる。
【0067】
ステレオカメラ108に含まれるカメラの個数は2以上の任意の個数であってよいが、異なる2方向から実質的に同時に被検眼Eの前眼部を撮影可能な構成であればよい。また、ステレオカメラ108に含まれるカメラのうちの1つが測定光学系112と同軸に配置されていてもよい。
【0068】
ここで、「実質的に同時」とは、ステレオカメラ108の2以上のカメラによる撮影において、眼球運動を無視できる程度の撮影タイミングのズレを許容することを意味する。ステレオカメラ108の2以上のカメラにより被検眼Eの前眼部を異なる方向から実質的に同時に撮影することで、被検眼Eが同じ位置(向き)にあるときの2以上の撮影画像を取得することが可能になる。
【0069】
また、ステレオカメラ108による撮影は動画撮影でも静止画撮影でもよいが、本実施形態では動画撮影を行う場合について説明する。動画撮影の場合、撮影開始タイミングを合わせるよう制御したり、フレームレートや各フレームの撮影タイミングを制御したりすることにより、各カメラにより「実質的に同時」に被検眼Eの前眼部を撮影することができる。一方、静止画撮影の場合、ステレオカメラ108に含まれる各カメラの撮影タイミングを合わせるよう制御することにより、各カメラにより「実質的に同時」に被検眼Eの前眼部を撮影することができる。
【0070】
(顔支持部24)
顔支持部24は、被検者の顔を支持するための部材を含む。例えば、顔支持部24は、被検者の額が当接される額当てと、被検者の顎が載置される顎受けとを含む。なお、顔支持部24は、額当て及び顎受けのいずれか一方のみを備えてもよく、これら以外の部材を備えてもよい。
【0071】
(第1駆動部20及び第2駆動部22)
第1駆動部20は、制御部122による制御を受けて検眼部100L及び100Rを移動する。第1駆動部20は、検眼部100L及び100Rを3次元的にそれぞれ移動可能である。第1駆動部20は、例えば、従来と同様に、検眼部100L及び100RをX方向に移動させるための機構と、Y方向に移動させるための機構と、Z方向に移動させるための機構とを含む。また、第1駆動部20は、検眼部100L及び100RのZ軸を含む平面(水平面、垂直面等)内で検眼部100L及び100Rをそれぞれ回動させる回動機構を含んでもよい。
【0072】
第2駆動部22は、制御部122による制御を受けて顔支持部24を移動する。第2駆動部22は、顔支持部24を3次元的に移動可能である。第2駆動部22は、例えば、被検者の額もしくは顎の双方、少なくともいずれか一方を保持する顔支持部24をX方向に移動させるための機構と、Y方向に移動させるための機構と、Z方向に移動させるための機構とを含む。また、第2駆動部22は、顔支持部24(又はそれに含まれる部材)の向きを変更するための回動機構を含んでもよい。顔支持部24に複数の部材が設けられている場合、第2駆動部22は、これら部材を個別に移動するよう構成されてよい。例えば、第2駆動部22は、額当てと顎受けとを個別に移動するよう構成されてよい。なお、眼科装置10は、第1駆動部20及び第2駆動部22のいずれか一方のみを備えていてもよいし、両方を備えていてもよい。
【0073】
ユーザインターフェイス(UI200)は、情報の表示、情報の入力、操作指示の入力など、眼科装置10とそのユーザとの間で情報をやりとりするための機能を提供する。UI200は、出力機能と入力機能とを提供する。出力機能を提供する構成の例として、フラットパネルディスプレイ等の表示装置、音声出力装置、印刷出力装置、記録媒体への書き込みを行うデータライタなどがある。入力機能を提供する構成の例として、操作レバー
、ボタン、キー、ポインティングデバイス、マイクロフォン、データライタなどがある。また、UI200は、情報の入出力を行うためのグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)を含んでもよい。
【0074】
本実施形態では、UI200は、出力機能と入力機能とが一体化されたタッチパネルディスプレイ202と、コントローラ204を備える。
【0075】
(データ処理部126の詳細)
データ処理部126の詳細について説明する。データ処理部126は、指標像検出部128と、位置特定部130とを備える。
【0076】
(指標像検出部128)
指標像検出部128は、ステレオカメラ108により実質的に同時に得られた2以上の撮影画像を解析することにより、各撮影画像に描出された指標像を検出する。
【0077】
カメラ108A及び108Bが動画撮影を行う場合、指標像検出部128は、各フレームから指標像を検出する。指標像検出部128は、撮影画像の画素値を解析することによって指標像を検出する。撮影画像が輝度画像である場合、指標像検出部128は、撮影画像における輝度値の分布に基づいて、指標像に相当する画像領域(画素)を特定する。この処理は、例えば、既定閾値よりも高い輝度値を有する画素を選択する処理を含む。撮影画像がカラー画像である場合、指標像検出部128は、例えば、既定閾値よりも高い輝度値を有する画素を選択する処理、又は、所定の色を表す画素を選択する処理を含む。
【0078】
(位置特定部130)
位置特定部130は、ステレオカメラ108により実質的に同時に取得された2以上の撮影画像から検出された2以上の指標像に基づいて、被検眼Eの位置を特定する。
【0079】
位置特定部130は、少なくとも、Z方向における被検眼Eと測定光学系112との間の距離を算出する。この算出結果に基づきZアライメントが実行される。さらに、位置特定部130は、XY方向における被検眼Eと測定光学系112との間の変位を算出してもよい。この算出結果に基づきXYアライメントが実行される。
【0080】
次に、本実施形態に係る位置特定部130が実行する処理について、
図4から
図6を参照して説明する。
【0081】
図4は、カメラ108A及び108Bをミラー104に対してそれぞれ鏡映変換した状態を示している。以下では、鏡映変換後のカメラ108A´及び108B´を用いて説明する。
【0082】
図5は、被検眼Eと鏡映変換後のカメラ108A´及び108B´との間の位置関係を示す上面図であり、
図6は、側面図である。
【0083】
XY方向におけるカメラ108A´及び108B´の間の距離(基線長)を「B」で表す。カメラ108A´及び108B´の基線と、指標像Pとの間の距離(指標像距離)を「H」で表す。各カメラ108A´及び108B´と、その画面平面との間の距離(画面距離)を「f」で表す。一般に、指標光束を被検眼Eに対して平行光束として投射した場合、指標像(プルキンエ像)Pは、被検眼Eの角膜曲率半径の2分の1だけ角膜表面から+Z方向に変位した位置に形成される。
【0084】
このような配置状態において、カメラ108A´及び108B´による撮影画像の分解
能は次式で表される。ここで、Δpは画素分解能を表す。
【0085】
XY方向の分解能:ΔXY=H×Δp/f
Z方向の分解能:ΔZ=H×H×Δp/(B×f)
位置特定部130は、カメラ108A´及び108B´の位置(既知)と、2つの撮影画像において指標像Pの位置とに対して、
図5及び
図6に示す配置関係を考慮した公知の三角法を適用することにより、指標像Pの位置、つまり、被検眼Eの位置を特定する。特定される位置は、少なくともZ方向の位置を含み、XY方向の位置を更に含んでもよい。
【0086】
位置特定部130により特定された被検眼Eの位置は制御部122に送られる。制御部122は、被検眼EのZ位置に基づいて、Z方向における被検眼Eと測定光学系112との間の距離を作動距離に一致させるように第1駆動部20及び第2駆動部22の少なくとも一方を制御する。さらに、制御部122は、被検眼EのXY位置に基づいて、測定光学系112の光軸と被検眼Eの軸とを一致させるように第1駆動部20及び第2駆動部22の少なくとも一方を制御する。なお、作動距離(ワーキングディスタンス)とは、測定光学系112による測定を行うための被検眼Eと測定光学系112との間の既定の距離を意味する。
【0087】
以上のように、位置特定部130は、指標像P(プルキンエ像)の位置を被検眼Eの位置(その近似位置)として求めることができる。さらに、位置特定部130は、特定された指標像Pの位置と、別途に測定された角膜曲率半径とに基づいて、被検眼Eの角膜(頂点)の位置を求めることが可能である。XYZアライメントが合っている状態において、角膜頂点は、指標像Pから角膜曲率半径の2分の1だけ-Z方向に変位した位置に配置されていると考えられる。したがって、角膜曲率半径の2分の1の値を指標像PのZ座標値から減算することにより、角膜頂点のZ座標値(それを含むXYZ座標値)を求めることができる。
【0088】
角膜曲率半径は平均的な角膜曲率r8mmとすることができるが、被検眼の角膜曲率半径が取得可能であれば、実際の値を用いることもできる。
【0089】
角膜曲率半径の測定は、ケラトメータや角膜トポグラファを用いて行われる。角膜曲率半径を測定する機能を眼科装置10が備えていない場合、過去に得られた角膜曲率半径の測定値が眼科装置10に入力される。位置特定部130は、この測定値を用いて角膜頂点位置を求める。一方、角膜曲率半径を測定する機能を眼科装置10が備えている場合、例えば、アライメントを実行した後に角膜曲率半径を測定し、得られた測定値を利用して再度アライメントを行うことができる。また、角膜曲率半径を測定する機能を眼科装置10が備えている場合であっても、過去に得られた角膜曲率半径の測定値を利用することも可能である。
【0090】
(瞳孔状態計測部132)
次に、瞳孔状態の計測方法について、
図7を参照して説明する。
図7は、被検眼Eを撮影した画像を示す図である。
【0091】
図7に示すように、本実施形態では、まず、瞳孔状態計測部132は、ステレオカメラ108により撮影された画像のうち、少なくとも1つの画像から瞳孔縁L1を検出し、瞳孔E1の境界座標を算出する。瞳孔縁L1は、例えば、被検眼Eの画像における瞳孔E1と虹彩E2との間の明度の差に基づいて検出することが可能である。
【0092】
本実施形態では、ステレオカメラ108により撮影した画像を用いているため、瞳孔E1の境界座標を算出する際には、各カメラ108A及び108Bの見込み角を考慮する。
図2及び
図4に示す例では、各カメラ108A及び108Bは、眼の正面方向に対して水平方向(X方向)に略対称に離れて配置されているため、X方向の見込み角に起因する眼の像の変形(歪み)を除去するために、例えば、正方形を斜め方向から見込むことにより得られた台形(又は四辺形)の画像を正方形に変換する射影変換を行う。
【0093】
また、睫毛等によるケラレ防止のために、被検眼Eの正面方向に対して各カメラ108A及び108BがY方向にずらして配置されている場合には、Y方向についても同様の変換を行う。
【0094】
なお、X方向に対する射影変換とY方向に対する射影変換は、個別に行ってもよいし、両射影変換を合わせた合成変換としてもよい。
【0095】
次に、瞳孔状態計測部132は、瞳孔の境界座標を楕円近似して、瞳孔近似楕円の中心、長径及び短径を算出する。まず、瞳孔状態計測部132は、瞳孔の境界座標から、最小自乗法により、楕円の一般式[数1]における係数a、b、c、d及びhを求める。
【0096】
【0097】
次に、瞳孔状態計測部132は、楕円の一般式[数1]における係数から、瞳孔近似楕円の中心座標を[数2]により求める。
【0098】
【0099】
次に、瞳孔状態計測部132は、[数3]により楕円のX軸に対する傾き角θを求め、瞳孔近似楕円の長軸及び短軸の軸長を求める。瞳孔近似楕円において、X軸に対してθ傾いている軸(以下、X方向の軸という。)の軸長Ax、及びX軸方向の軸に直交する軸(以下、Y方向の軸という。)の軸長Ayは、[数4]により求められる。
【0100】
【0101】
【0102】
併せて、瞳孔状態計測部132は、アライメント指標により得られる角膜頂点(アライメント基準位置)に対する瞳孔中心の変位量を算出する。
【0103】
次に、瞳孔状態計測の処理の流れについて、
図8を参照して説明する。
図8は、本発明の一実施形態に係る瞳孔状態計測方法を示すフローチャートである。
【0104】
図8に示す例では、瞳孔状態計測部132が、他覚測定中に瞳孔径の計測を複数回繰り返し行う例について説明するが、本発明はこれに限定されない。例えば、瞳孔径の計測は1回だけであってもよく、この場合、瞳孔径の基準値との比較により縮瞳の有無及び偏心の有無を判定するようにしてもよい。また、瞳孔径及び偏心の計測結果は、検眼士が視認可能な形式で出力されるようにしてもよいし、制御部122により、縮瞳又は偏心が自動的に検出されるようにしてもよい。
【0105】
図8に示すように、アライメント完了後、まず、UI200により、被検眼Eの屈折力の他覚測定の指示の入力が受け付けられると(ステップS1)、他覚的屈折力測定が開始されるとともに(ステップS10:屈折力測定工程)、被検眼Eの瞳孔状態の計測が開始される(ステップS20からS32)。この他覚的屈折力測定及び瞳孔状態の計測は、UI200からの終了指示の入力(ステップS12のYes及びステップS28のYes)、又は他覚的屈折力測定の終了(ステップS14のYes及びステップS30のYes)により終了する。
【0106】
瞳孔状態計測部132は、他覚的屈折力測定(ステップS10)として、所定時間(例えば、1~数ミリ秒)ごとに、被検眼Eの瞳孔状態を計測する(ステップS20~S30)。
【0107】
ステップS20において、まず、瞳孔状態計測部132は、被検眼Eの前眼部をカメラ108A及び108Bにより撮影して(撮影工程)、各カメラ108A及び108Bの見込み角に応じた射影変換を前眼部画像に適用する。次に、瞳孔状態計測部132は、射影変換後の前眼部画像から瞳孔の境界座標を求め、瞳孔を楕円近似して、[数1]から[数5]により瞳孔状態を計測する(計測工程)。瞳孔状態計測部132は、瞳孔径及び偏心量の計測結果を記憶部124に記憶させる(ステップS22)。
【0108】
次に、制御部122は、瞳孔状態の変化に関する報知を行うかどうかを判定する判定部として機能する(ステップS24)。ステップS24では、制御部122は、例えば、(1)被検眼の少なくとも1つの経線における瞳孔径が第1の閾値以下である場合、あるいは、(2)短径方向の瞳孔径が第1の閾値以下である場合に、報知を行うと判定するようにしてもよい。また、ステップS24では、制御部122は、例えば、(3)アライメント基準位置に対する被検眼の瞳孔の中心の偏心(ズレ)が基準値(第2の閾値)を超える場合に、報知を行うと判定するようにしてもよい。ここで、第1及び第2の閾値は、例えば、測定光学系112から被検眼に照射される測定光束の径等に基づいて決定することができる。なお、報知を行うかどうかの条件については、上記(1)から(3)に限定されるものではない。
【0109】
報知させると判定された場合には(ステップS24のYes)、報知が行われ(ステップS26)、ステップS28に進む。ステップS26における報知は、さまざまな手段により実施可能であるが、例えば、UI200の表示画面における表示により行うようにしてもよいし、スピーカからの音声を用いて行うようにしてもよい。
【0110】
他覚的屈折力測定中において、瞳孔状態の計測は、所定時間(例えば、被検眼Eの運動の間隔、数ミリ秒)ごとに繰り返し実行される(ステップS32)。そして、UI200から終了指示の入力がされるか(ステップS12のYes及びステップS28のYes)、又は他覚的屈折力測定の終了(ステップS14のYes及びステップS30のYes)により終了する。終了時には、屈折力の測定結果が、瞳孔状態の計測結果(瞳孔状態の変化履歴)とともに記憶部124に記憶される(ステップS2:記憶工程)。
【0111】
本実施形態では、他覚的屈折力測定中に、瞳孔状態の計測結果に基づいて報知を行うようにしたが、他覚的屈折力測定の開始前に、被検眼の瞳孔状態を計測して、その計測結果に基づいて、制御部122が、測定光学系112による他覚的屈折力の測定を中止するようにしてもよい。この場合、測定中止の旨を報知するようにしてもよいし、報知後に、検眼士等からの操作入力を受け付けた上で、測定を中止するようにしてもよい。例えば、
図8において、ステップS10の開始前に、ステップS20からS32のサイクルを少なくとも1回実行するようにしてもよい。なお、測定中止の判定基準は、ステップS24と同様にしてもよい。
【0112】
本実施形態によれば、他覚測定中の被検眼における瞳孔状態の計測を行って、他覚測定による屈折力の測定結果と、他覚測定中における瞳孔状態の変化履歴とを関連づけて保存することが可能にある。これにより、他覚測定中の瞳孔状態を検出することができるので、他覚測定による屈折力の測定結果の正確性を担保することが可能になる。また、本実施形態によれば、他覚測定においてエラーが発生した場合に、瞳孔状態の計測結果からエラーの原因を究明することが可能になる。さらに、本実施形態によれば、アライメント用に設けられた2つのカメラ108A及び108Bを用いて瞳孔状態を計測することにより、装置の簡略化、小型化及びコスト削減を実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0113】
10 眼科装置
20 第1駆動部
22 第2駆動部
24 顔支持部
100、100L、100R 検眼部
104 ミラー(偏向部材)
106 アライメント光学系
108A、108B カメラ
120 プロセッサ