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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-30
(45)【発行日】2024-06-07
(54)【発明の名称】管理土圧の設定システム
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
E21D9/093 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023107921
(22)【出願日】2023-06-30
【審査請求日】2023-11-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509098478
【氏名又は名称】岩崎 好規
(73)【特許権者】
【識別番号】510132576
【氏名又は名称】株式会社地域地盤環境研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000207780
【氏名又は名称】大豊建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 好規
(72)【発明者】
【氏名】長屋 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高広
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宣
(72)【発明者】
【氏名】大久保 健治
(72)【発明者】
【氏名】平形 和広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元治
(72)【発明者】
【氏名】奥田 和男
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-207492(JP,A)
【文献】特開2003-013687(JP,A)
【文献】特開2008-031703(JP,A)
【文献】特開2002-147170(JP,A)
【文献】特開2021-067059(JP,A)
【文献】特開2006-233677(JP,A)
【文献】特開2021-188294(JP,A)
【文献】実開昭60-032493(JP,U)
【文献】特開2017-014878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機における管理土圧の設定システムであって、
チャンバー内の泥土圧を計測する圧力計と、
前記チャンバー内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段と、
切羽のトンネル縦断方向で坑口方向への変位を計測する変位計測手段と、
掘進停止時に計測される減圧過程の泥土圧とその変化過程に対応して計測された切羽の変位に基づいて、泥土圧-変位グラフから降伏点土圧を求める、解析部と、
求めた降伏点土圧に基づいて、管理土圧を設定する設定部と、
を備える、管理土圧の設定システム。
【請求項2】
シールド掘進機における管理土圧の設定システムであって、
チャンバー内の泥土圧を計測する圧力計と、
前記チャンバー内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段と、
切羽の変位を計測する変位計測手段と、
計測された泥土圧と計測された切羽の変位に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部と、
解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部と、を備え、
前記シールド掘進機の停止時に、前記泥土圧変化手段によって前記チャンバー内の泥土圧が減圧されることで、前記解析部によって地盤の変形から主働土圧が求められるようになっている、管理土圧の設定システム。
【請求項3】
前記泥土圧変化手段としてのスクリューコンベアを回転させることで、前記チャンバー内の泥土圧が減圧され、前記解析部は、計測された泥土圧と計測された切羽の変位に基づいて地盤の降伏点を解析することで主働土圧を求める、請求項2に記載された、管理土圧の設定システム。
【請求項4】
前記変位計測手段として、切羽まで到達する探査治具と、前記探査治具の変位を計測する変位センサと、を有する、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載された、管理土圧の設定システム。
【請求項5】
前記変位計測手段として、多段式傾斜計及び/又は層別沈下計が、掘進予定の地盤内にあらかじめ設置されている、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載された、管理土圧の設定システム。
【請求項6】
前記解析部は、
解析された地盤の変形特性に基づいて、地盤の力学定数を逆解析によって推定し、当該地盤の力学定数を用いてFEMモデルを更新するとともに、
更新されたFEMモデルを用いて、周辺の地盤及び/又は構造物への影響を予測するようになっている、請求項4に記載された、管理土圧の設定システム。
【請求項7】
前記解析部は、
解析された地盤の変形特性に基づいて、地盤の力学定数を逆解析によって推定し、当該地盤の力学定数を用いてFEMモデルを更新するとともに、
更新されたFEMモデルを用いて、周辺の地盤及び/又は構造物への影響を予測するようになっている、請求項5に記載された、管理土圧の設定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機において使用されるチャンバー内泥土圧の管理土圧設定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、土圧式シールドにおけるチャンバー内泥土圧の管理は、切羽の安定を保持しながら周辺地盤の変形や沈下等を生じさせないようにシールドを掘進させるために不可欠なものであり、適正な管理を行うことで周辺地盤の変位を抑制することができる。
【0003】
土圧式シールドでは、チャンバー内泥土圧の管理土圧は、以下の範囲に設定されている。
(受働土圧+水圧)>チャンバー内泥土圧(管理土圧)>(主働土圧+水圧)
チャンバー内泥土圧が上記範囲内に保持されていれば、切羽の安定は理論上確保されるが、チャンバー内泥土圧が高くなることで、カッタートルクやジャッキ推力の増大を招き、施工上非効率となることから、切羽の安定が確保される範囲で管理土圧を低く設定することが望ましい。そこで、下限値については(主働土圧+水圧)にプラスαを加えた値を、上限値については前記下限値(主働土圧+水圧+α)に施工変動幅を更に考慮した値、または(静止土圧+水圧)を設定することが一般的である。
なお、ここで言う受働土圧、主働土圧および静止土圧とは、土粒子間で伝達される有効土圧の事を示し、間隙水圧を含まない。一方、チャンバー内泥土圧とは、チャンバー内の土粒子および間隙水を一体と考えた全土圧の事であり、間隙水圧を含む。
【0004】
従来の土圧式シールドにおけるチャンバー内泥土圧の管理手法には、以下に示す1)の方法と2)の方法がある。
1)事前の土質調査により推定される対象地盤の土質定数(φ、C、γ等)、地下水位や上載荷重から土圧の算定式を用いて、主働土圧、受働土圧や静止土圧などを算定し、その数値を基に、チャンバー内泥土圧の上限値と下限値を設定して管理する方法(例えば、特許文献1参照)。
2)シールドの停止時に測定される停止時チャンバー内泥土圧を基に、管理土圧を設定する方法(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-233372号公報
【文献】「シールドトンネル工事の安全・安心な施工に関するガイドライン」シールドトンネル施工技術検討会、令和3年12月、P.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
・管理手法 1)の課題:
事前の土質調査は通常ボーリングにより実施されるが、その頻度は路線延長に対して200(m)間隔程度で行われることが多い。したがって、調査地点の間で土質条件等が変化する場合には、適正な管理土圧を算定できないことがある。また、土圧の算定式自体が2次元に簡略化された力のつり合いだけに基づく理論的なものであることから、必ずしも実際の3次元状態のシールド切羽地盤の土圧を正確に算定できているとは限らない。
【0007】
・管理手法 2)の課題:
シールドの停止時に測定される停止時泥土圧は、シールド自体が動くことがなく、かつ、カッタヘッドに面板がない場合は、切羽に作用する土圧を比較的正確に反映していると考えられるが、これらの条件が維持されない場合には、停止時泥土圧が地盤の静止土圧又は主働土圧プラス水圧を表しているとは限らない。
【0008】
そこで、本発明は、仮定や推定による管理土圧の設定ではなく、チャンバー内泥土圧と切羽付近の変位関係を直接計測することで管理土圧を設定する、シールド掘進機の管理土圧の設定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のシールド掘進機における管理土圧の設定システムは、チャンバー内の泥土圧を計測する圧力計と、前記チャンバー内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段と、切羽の変位を計測する変位計測手段と、計測された泥土圧と計測された切羽の変位に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明のシールド掘進機における管理土圧の設定システムは、チャンバー内の泥土圧を計測する圧力計と、チャンバー内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段と、切羽の変位を計測する変位計測手段と、計測された泥土圧と計測された切羽の変位に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部と、を備えている。このような構成であるため、仮定や推定による管理土圧の設定ではなく、チャンバー内の泥土圧と切羽変位の関係を直接計測することで管理土圧を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】シールド掘進機の内部構造を説明する断面図である。
図2】探査治具と計測センサの構成について説明する断面図である。
図3】機内計測式の切羽変位計測方法の説明図である。(a)は掘進中の説明図であり、(b)は探査治具の挿入の説明図であり、(c)は変位計測中の説明図である。
図4】事前設置式の切羽変位計測方法の説明図である。(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
図5】管理土圧の設定システムの手順について説明するフローチャートである。
図6】減圧試験による泥土圧-水平変位の関係を示したグラフである。
図7】FEMモデルの概念を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成要素は例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、以下では、土圧式シールド1を例として説明するが、他の形式のシールド掘進機であっても本発明を適用できる。
【実施例
【0013】
(シールド掘進機の構成)
図1は、本発明の実施例を示す縦断側面図である。本実施例のシールド掘進機としての土圧式シールド1は、図1に示すように、スキンプレート(シールド本体筒)2と、隔壁3と、カッタヘッド5と、カッタ回転軸10と、カッタ駆動部12と、チャンバー16と、排土装置17と、シールド推進ジャッキ18と、作泥土材供給配管21と、圧力計22と、水圧計23と、操作室内部等に配置された解析部41及び設定部42を含む制御部40を備えている。
【0014】
カッタヘッド5は、カッタスポーク51と、カッタスポーク51の前面に設けられた複数のカッタビット52、・・・と、カッタスポーク51の前面中央部に設けられたフィッシュテールビット53と、カッタスポーク51の背面に設けられた複数の撹拌翼54、・・・とを有している。カッタヘッド5はカッタ回転軸10に一体に取り付けられている。
【0015】
カッタ回転軸10は、隔壁3に設けられた軸受11と、後述のギアボックス13の後部に設けられた軸受とに回転自在に支持されている。カッタ回転軸10はカッタ駆動部12に連結されている。カッタ駆動部12は、隔壁3の背面側に設置されたギアボックス13と、ギアボックス13に接続された回転駆動源14と、回転駆動源14の出力軸とカッタ回転軸10の間に介在する減速歯車(ギアボックス13内に配置;図示省略)とを有している。
【0016】
チャンバー16は、スキンプレート2のフード部2aと、隔壁3と、切羽Fに囲まれた空間にて形成されている。排土装置17としては、例えばスクリューコンベアが用いられる。排土装置17における泥土取り込み口は、チャンバー16に臨むように開口・設置されている。そして、本実施例では、排土装置17は、泥土圧変化手段としての機能も備えている。
【0017】
さらに、スキンプレート2のテール部2bには、セグメント90を組み立てるためのエレクター15が設置されている。さらに、シールド推進ジャッキ18は、スキンプレート2の内部において、円周方向に所要の間隔をおいて複数基設置されている。この他、スキンプレート2の後端部には、テールシール19が設けられている。
【0018】
そして、本実施例のシールド掘進機としての土圧式シールド1は、切羽又は切羽周辺の変位を計測する変位計測手段6、7をさらに備えている。ここでは、まず図2図3を用いて、機内から切羽の変位を計測する機内計測式の変位計測手段6について説明し、次に図4を用いて、地上から事前に計器を設置する事前設置式の変位計測手段7について説明する。
【0019】
機内計測式の変位計測手段6は、図2に示すように、隔壁3を貫通して先端61aが切羽Fまで到達する十分な長さを有する棒状の探査治具61と、この探査治具61を把持/開放することでジャッキ62、62の伸縮に伴って探査治具61を移動/開放させる油圧チャック63と、探査治具61の末端にこれと一体に取り付けられる検知部64と、検知部64のスライド移動をサポートするガイド65と、検知部64との距離を計測することで探査治具61の変位量を計測する変位センサ66と、探査治具61の止水装置67と、止水用のバルブ68、68と、から構成されている。
【0020】
したがって、油圧チャック63で探査治具61を把持した状態では、ジャッキ62、62が伸びると探査治具61は後退し、ジャッキ62が縮むと探査治具61は前進するようになっている。そして、油圧チャック63を開放した状態では、探査治具61は自由な状態となる。したがって、開放状態(探査治具61は自由に移動できる)では、探査治具61の先端61aが切羽Fと接触していれば、切羽Fの変位に合わせて探査治具61が(トンネル縦断方向に)移動する。後述するように、本発明では、チャンバー16内の泥土圧を減圧することによって切羽Fが微小にせり出すため、探査治具61はトンネル縦断方向で坑口方向に移動することになる。
【0021】
次に、図2図3(a)-(c)を用いて、本実施例の減圧試験における、探査治具61と変位センサ66を有する変位計測手段6の操作手順について説明する。
1.シールド掘進時は、探査治具61は隔壁3位置まで縮めた状態となっている(図3(a))。
2.シールド停止後、油圧チャック63で探査治具61を把持して先端61aが切羽F面に接する位置までスライドさせる(図3(b)参照)。ジャッキ62は縮められる。
3.探査治具61の先端61aを切羽Fに押し当てたら油圧チャック63を開放する。
4.排土手段を微速に稼働させ、チャンバー16内の泥土圧を少しずつ減圧する。
5.減圧に伴って切羽Fが変位するとその変位により探査治具61がシールド内に押される(図3(c)参照)。
6.探査治具61には、シールド内に計測装置(検知部64、変位センサ66)が取り付けられている。変位量は検知部64を通して変位センサ66で計測される。
7.変位センサ66から計測値がPCへ送られる。同時に隔壁3に設けた圧力計22によりチャンバー16内泥土圧が計測される。
8.上記の手順によりチャンバー16内泥土圧と切羽F変位量の関係を求める。
9.切羽変位における遷移領域(降伏点を含む)の全部もしくは一部が明らかになった時点で、減圧試験を停止する。
10.例えば、排土手段を逆転し泥土を戻してチャンバー16内泥土圧を初期の状態まで増圧する。
11.油圧チャック63で探査治具61を把持して、ジャッキ62操作により引き戻し探査治具61を隔壁3位置まで縮める(図3(a))。ジャッキ62は伸ばされる。
【0022】
上述した機内計測式の変位計測手段6の構成のうち、変位を計測する構成については、地上から事前に設置する、事前設置式の多段式傾斜計(又は層別沈下計)71-74、75-78に代えることもできる。すなわち、事前設置式の変位計測手段7は、図4に示すように、地表から所定の深さ位置に複数の多段式傾斜計71-74、75-78が設置される。設置位置としては、例えば、トンネル掘進予定位置の切羽近傍に加えて、その直上や左右にずれた位置(及びその直上)まで含まれることが好ましい。
【0023】
つまり、事前に地上から多段式傾斜計71-74や層別沈下計などをシールド通過予定の断面内にあらかじめ設置し、計測装置直前でシールド掘進を一時停止させ、減圧試験を実施することで地盤の変位を計測することが可能となる。これらの多段式傾斜計71-74は、シールド通過予定箇所に所定の間隔で埋設されることが好ましい。この場合、従来のボーリング間隔(200(m))よりも狭い間隔で埋設することが好ましい。
【0024】
この他、土圧式シールド1は、制御部40をさらに備えている。制御部40は、例えば、メモリ、CPU、SSDなどを有する汎用のパーソナルコンピュータである。制御部40では、土圧式シールド1の管理土圧が設定されて掘進を制御する。すなわち、掘進中は、シールド推進ジャッキ18によって土圧式シールド1を前進させつつ、泥土圧変化手段としての排土装置17(スクリューコンベア)によって泥土を排出することで泥土圧を変化させ、同時に圧力計22によって泥土圧を計測している。さらに、水圧計23によって、水圧が計測されている。なお、後述する解析部41及び設定部42の機能は、土圧式シールド1の掘進を制御する制御部40とは別個の制御部(演算装置;パーソナルコンピュータ)で実行することももちろん可能である。この意味で、制御部は「演算部」と称することもできる。
【0025】
そして、本実施例の制御部40は、計測された泥土圧と計測された切羽の変位(例えば水平変位)に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部41としての機能と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部42としての機能と、をさらに有している。なお、制御部40には、通信ケーブル43を介して、圧力計22からの泥土圧値、水圧計23からの水圧値、及び、変位センサ66からの入力値(変位)が入力される他、キーボードやマウスといった入力手段が接続されている。さらに、制御部40には、出力手段としてモニタや別の掘進管理用のPCなどが接続されている。解析部41と設定部42の機能については、次に説明する制御フローにおいて説明する。
【0026】
そして、上述した圧力計22と、泥土圧変化手段としての排土装置17と、変位計測手段6(7)と、解析部41及び設定部42を含む制御部40と、によって、本発明の管理土圧の設定システムSが構成されている。この他、水圧計23を備える。
【0027】
(作用)
次に、図5図7を用いて、本実施例の管理土圧の設定システムSのフローについて説明する。図5に示すように、管理土圧の設定システムSのフローは、以下のステップS1~S14を実行することによって実現される。
【0028】
・初期値の処理(ステップS1)
はじめに、ボーリング試験等によって設定されている初期算定土圧に基づいて(ステップS1)、管理土圧の初期値を設定する(ステップS2)。そして、この管理土圧の初期値にしたがって、シールドを掘進していく(ステップS3)。つまり、シールドが掘進を開始して初期の段階(減圧試験実施前)では、事前土質調査による土質定数から算出した理論土圧を基に管理土圧を設定する。または、3D-FEMモデルに事前土質調査による地盤の力学定数を与え、土圧と地盤の変位関係から管理土圧を設定する。
【0029】
・減圧試験(ステップS4~S8)
次に、シールド掘進機が停止している状態で、チャンバー内泥土圧を減圧する(ステップS4)。すなわち、セグメント90の組立時などの掘進停止時において、スクリューコンベアを微速で回転させることでチャンバー16内の泥土を徐々に排出し減圧していく。減圧中には圧力計22により泥土圧を計測する。同時に、水圧計23によって水圧を計測する。さらに、減圧中には変位計測手段6、7によって切羽Fの変位を直接に計測する(ステップS5)。計測された泥土圧と切羽の変位(例えば水平変位)に基づいて、変形特性を把握する(ステップS6)。すなわち、泥土圧-切羽変位をグラフ上にプロットし変形特性を求める。変形特性が把握されれば、逆解析によって(ステップS7)、地盤の力学定数が解析される(ステップS8)。
【0030】
・3D-FEMモデル解析(ステップS9~S12)
そして、減圧試験によって解析された地盤の力学定数を用いて、図7に示すような、3D-FEM解析が実行される(ステップS9)。そして、この3D-FEMモデル解析によって、周辺地盤・隣接構造物への影響が予測される(ステップS10)。
【0031】
すなわち、減圧試験によって対象地盤の変形特性が明らかになれば、ボーリング調査などから想定されている地盤構成や測定されている水圧などの原位置の境界条件に基づく地盤モデルに対する逆解析によって(ステップS7)、地盤の力学定数が計算される(ステップS8)。このように計算された地盤の力学定数を用いて、図7に示すような、3D-FEM解析が実行される(ステップS9)。
【0032】
解析の結果、地表面沈下量などが許容変位量以下となるか等の判断によって、有害影響の有無が判定される(ステップS11)。そして、有害であれば(ステップS11の「有」)、管理土圧が変更されて(ステップS12)、解析をやり直す(ステップS9~S11)。一方、無害であれば(ステップS11の「無」)、ステップS2に戻って次の位置・時刻において、管理土圧の設定システムSが実行される。
【0033】
ここにおいて、力学定数とは、例えば、ヤング率、ポアソン比、内部摩擦角、粘着力などである。この現場挙動に基づいて得られた地盤特性によるFEMモデルを採用してシミュレーションを行うことにより、合理的な挙動シミュレーションが可能となる。以上のような現場挙動に基づく合理的なシミュレーションにより、地表面沈下や隣接構造物への影響などが事前に、かつ、より正確に予測可能となり、周辺への影響を最小とする、あるいは地盤変位等の規制値に対応した管理土圧を設定することができる。
【0034】
・解析と設定(ステップS13~S14)
他方で、地盤の変形特性が把握されれば、図6に示すような、泥土圧-変位グラフから、降伏点土圧が解析によって求められる(ステップS13)。すなわち、制御部40の解析部41は、急激に勾配が大きくなる点を求め、この点を降伏点とみなし、主働土圧を求める。例えば、弾性領域の複数のプロットから最小二乗法で近似直線を求め、塑性領域の複数のプロットから最小二乗法で近似直線を求め、これらの交点を降伏点とすることができる。あるいは、移動平均から大きく外れたプロットが連続して出現したことをもって遷移領域に入ったことを推定することができる。そして、近隣に建物が存在している等の理由によって、3D-FEMモデル解析が必要な場合には(ステップS14の「要」)、3D-FEM解析によって、周辺地盤・隣接構造物への影響が予測される(ステップS10)。3D-FEMモデル解析が不要な場合には(ステップS14の「不要」)、主働土圧に基づいて管理土圧が再設定される(ステップS2)。具体的には、掘進時におけるチャンバー16内の管理土圧は、主働土圧プラス水圧を下回らないようにすることが必要となるので、求めた主働土圧+水圧にプラスα(0~20kN/m)を加えた値を管理土圧の下限値とする。他方、管理土圧の上限値は、主働土圧(降伏点土圧)から逆算されたC、φを用いて理論的に計算しても良いし、上記下限値に施工変動幅を更に考慮した値としても良い。他方、3D-FEMモデル解析が必要な場合には(ステップS14の「要」)、3D―FEMモデル解析が実行される(ステップS9)。
【0035】
このようにして、観測されているデジタル数値(観測値)とモデル地盤によって解析から求められるデジタル数値(解析値)を照合させて、モデル修正を常に行いながらシールド切羽進行に伴う地盤の変化に整合するモデル地盤の構築が実現されるようになっている(いわゆる「デジタルツイン」)。
【0036】
(効果)
次に、本実施例の管理土圧の設定システムSの奏する効果を列挙しながら説明する。
【0037】
(1)上述してきたように、本実施例の管理土圧の設定システムSは、シールド掘進機としての土圧式シールド1における管理土圧の設定システムSであって、チャンバー16内の泥土圧を計測する圧力計22と、チャンバー16内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段としての排土装置17と、切羽Fの変位を計測する変位計測手段6、7と、計測された泥土圧と計測された切羽の変位に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部41と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部42と、を備えている。このような構成であるため、管理土圧の設定システムSであれば、仮定や推定による管理土圧の設定ではなく、チャンバー内の泥土圧と切羽の変位の関係を直接計測することで管理土圧を設定できる。
【0038】
(2)また、シールド掘進機の停止時に、泥土圧変化手段としての排土装置17によって泥土を若干排出することによりチャンバー16内の泥土圧が減圧されることで、解析部41によって地盤の変形から主働土圧が求められるようになっている。したがって、シールド掘進機の掘進停止時-例えばセグメント組立時-にチャンバー16内を微小に減圧して切羽Fをチャンバー16側に僅かに変位させて、泥土圧と切羽変位量の関係グラフにおける遷移領域から降伏点を解析することで主働土圧を直接求めることができる。
【0039】
(3)さらに、土圧変化手段としての排土装置(スクリューコンベア)17を回転させることで、チャンバー16内の泥土圧が減圧され、解析部41は、計測された泥土圧と計測された切羽Fの変位に基づいて地盤の降伏点を解析することで主働土圧を求めるようになっているため、既存の機械設備を利用しつつ、きわめてシンプルな手法によって、主働土圧を直接に求めることができる。
【0040】
(4)また、変位計測手段6として、隔壁3を貫通して切羽Fまで到達する探査治具61と、隔壁3よりも坑口側において探査治具61の変位を計測する変位センサ66と、を有している。このため、探査治具61と変位センサ66によって、機内から切羽Fの変位を直接に計測できる。このため、変位センサ66自体は汚れにくく、故障しにくい。なお、変位計測手段6は探査治具や変位センサー等を隔壁前方のチャンバー16内に設置することで、隔壁3を貫通させない構造としても良い。
【0041】
(5)さらに、変位計測手段7として、多段式傾斜計及び/又は層別沈下計71-78が、掘進予定の地盤内にあらかじめ設置されているため、切羽Fの周辺に加えて、地表面近くの計測点まで広い領域の変位を直接計測できる。
【0042】
(6)加えて、解析部41は、解析された地盤の変形特性に基づいて、地盤の力学定数を逆解析によって推定し、推定された地盤の力学定数を用いてFEMモデルを更新するとともに、更新されたFEMモデルを用いて、周辺の地盤及び/又は構造物への影響を予測するようになっている。このため、完全なリアルタイムではないものの、リアルタイム更新に近い、従来よりも大幅に細かい間隔でFEMモデルを更新することで、地盤の特性を実際の特性に大きく近づけることができる。このため、FEMモデルによる予測・影響評価をきわめて高い精度で実現できる。
【0043】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0044】
例えば、実施例では、探査治具61が隔壁3を貫通して切羽Fまで到達する例について説明したが、これに限定されるものではなく、探査治具61はチャンバー16内で進退移動可能に構成されていれば、隔壁3を貫通しなくてもよい。また、実施例では、水圧計23が隔壁3に取付けられているが、これに限定されるものではなく、例えばスキンプレート2やカッタヘッド5等に取付けても良い。
【0045】
また、実施例では、制御フローにおいて3D―FEMモデル解析の「要/不要」で工程を分けたが、これに限定されるものではなく、常に3D―FEMモデル解析を実施するように構成することももちろんできる。
【符号の説明】
【0046】
1 :土圧式シールド
2 :スキンプレート
2a :フード部
2b :テール部
3 :隔壁
5 :カッタヘッド
6 :変位計測手段
7 :変位計測手段
10 :カッタ回転軸
11 :軸受
12 :カッタ駆動部
13 :ギアボックス
14 :回転駆動源
15 :エレクター
16 :チャンバー
17 :排土装置
18 :シールド推進ジャッキ
19 :テールシール
21 :作泥土材供給配管
22 :圧力計
23 :水圧計
40 :制御部
41 :解析部
42 :設定部
43 :通信ケーブル
51 :カッタスポーク
52 :カッタビット
53 :フィッシュテールビット
54 :撹拌翼
61 :探査治具
61a :先端
62 :ジャッキ
63 :油圧チャック
64 :検知部
65 :ガイド
66 :変位センサ
67 :止水装置
68 :バルブ
71-78 :多段式傾斜計(又は層別沈下計)
90 :セグメント
S :管理土圧の設定システム
F :切羽
【要約】
【課題】仮定や推定による管理土圧の設定ではなく、チャンバー内の泥土圧と切羽変位の関係を直接計測することで管理土圧を設定する、シールド掘進機の管理土圧の設定システムを提供する。
【解決手段】シールド掘進機としての土圧式シールド1における管理土圧の設定システムである。管理土圧の設定システムは、チャンバー16内の泥土圧を計測する圧力計22と、チャンバー16内の泥土圧を変化させる泥土圧変化手段としての排土装置17と、切羽Fの変位を計測する変位計測手段6、7と、計測された泥土圧と計測された切羽の変位に基づいて地盤の変形特性を解析する解析部41と、解析された変形特性に基づいて、管理土圧を設定する設定部42と、を備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7