(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ジグソーパズル作成セット
(51)【国際特許分類】
B44C 1/175 20060101AFI20240603BHJP
A63F 9/10 20060101ALI20240603BHJP
B44C 1/165 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B44C1/175 A
A63F9/10 G
B44C1/165 A
(21)【出願番号】P 2024509118
(86)(22)【出願日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2023039784
【審査請求日】2024-02-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521158060
【氏名又は名称】株式会社コシバアンドアソシエイツ
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【氏名又は名称】越場 隆
(72)【発明者】
【氏名】越場 澄子
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-208581(JP,A)
【文献】特開2019-55181(JP,A)
【文献】特開2017-13234(JP,A)
【文献】特開平8-216599(JP,A)
【文献】特開2005-66862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/175
A63F 9/10
B44C 1/165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性の支持体(s)上に剥離層(r)を介して転写層(i)を有する水転写紙(T)を用意し、転写層(i)上に印刷機を用いて画像(g)を印刷し、印刷された画像(g)が切断済みジグソーパズル(P)の表面と対抗する状態で水転写紙(T)を切断済みジグソーパズル(P)の表面上に配置し、水転写紙(T)の支持体(s)の背面上に水を供給し、水転写紙(T)を切断済みジグソーパズル(P)の表面に向って押圧し、所定時間経過後に上記剥離層(r)の所で切断済みジグソーパズル(P)から支持体(s)を剥離することで印刷された画像(g)を切断済みジグソーパズル(P)の表面上に転写する工程を含む切断済みジグソーパズル(P)上に後印刷する方法において、
上記転写層(i)を易破断材料で形成し、「疑似水中環境」を作り出に必要十分な量の水を吸収させた含水性弾性シート(W)を水転写紙(T)上に配置し、それに押圧力を加えて水転写紙(T)に水を供給することを特徴とする方法。
【請求項2】
切断済みジグソーパズル(P)がその表面上にインク定着層(m)を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プレート(1)を使用して含水性弾性シート(W)に押圧力を加える請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1枚の基材を個々のピースの形に切断して得られる白紙の切断済みジグソーパズル(P)と、透水性の支持体(s)上に剥離層(r)を介して転写層(i)を有する水転写紙(T)とを含むジグソーパズル作成セットにおいて、
上記転写層(i)が易破断材料から成り、押圧力が加えた時に「疑似水中環境」を作り出して水転写紙(T)に必要十分な量の水を供給できる含水性弾性シート(W)をさらに含むことを特徴とするジグソーパズル作成セット。
【請求項5】
切断済みジグソーパズル(P)の表面上にインク定着層(m)をさらに有する請求項4に記載のジグソーパズル作成セット。
【請求項6】
含水性弾性シート(W)に押圧力を加えるためのプレート(1)をさらに含む請求項4に記載のジグソーパズル作成セット。
【請求項7】
易破断材料から成る転写層(i)を有し且つ手で破断/分離ができない連続フィルムの層および/または手で破断/分離ができない連続フィルムから成る材料を含まない水転写紙(T)の、請求項1に記載の方法での使用。
【請求項8】
請求項1に記載の方法または請求項4に記載のジグソーパズル作成セットで使用するための、切断済みジグソーパズル(P)と、易破断材料から成る転写層(i)を有する水転写紙(T)と、この水転写紙(T)に水を供給するための含水性弾性シート(W)との組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用プリンターで水転写シート上に印刷した画像、例えば写真を白紙の切断済みジグソーパズル上に転写してプライベートのジグソーパズルを作成する方法と、その方法に用いるジグソーパズル作成セットとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンター等の家庭用プリンターを用いて写真、デザイン画等のプライベート画像を白紙のジグソーパズル基板上に印刷するオンデマンド型のジグソーパズル作成方法は古くから知られている。このオンデマンド型ジグソーパズルの作成方法には、白紙のジグソーパズル基材上に画像を先に印刷し、その後にジグソーパズル基材を各ピースに切断する「先印刷法」と、先にジグソーパズル基材を各ピースに切断し、切断されたジグソーパズル基材上に印刷を行う「後印刷法」の2つの方式がある。
【0003】
「先印刷法」ではジグソーパズル基材上に画像を直接印刷するか、画像を印刷した高品質の紙をジグソーパズル基材に貼付した後にカッターを用いてジグソーパズル基材を各ピースにカッティングするので、高品質な画像の印刷が可能で、高品質のジグソーパズルを作ることができる。オンデマンド型ジグソーパズルの多くはこの方法で作られている。しかし、この先印刷法ではカッティング操作にトムソン刃を備えた専用切断機械、例えば数十トンのプレス機械が必要なため、一般の人が「先印刷法」を採用することはできない。
【0004】
「後印刷法」はカッティング操作が既に終わっている白紙のジグソーパズル基材(以下「切断済みジグソーパズルP」という)上に画像を印刷する方法であり、家庭用インクジェットプリンターで実施できるため古くから知られ、多くの特許が出されている。しかし、家庭用プリンターで印刷できる厚紙の厚さは最大で約0.3mm程度であるが、切断済みジグソーパズルPの厚さは一般に0.5mm~数mmであるため、家庭用プリンターで切断済みジグソーパズルP上に直接印刷をすることはできない。そのため、例えば[特許文献1](特開平10-137441号公報)や[特許文献2](特許第5271323号明細書)に記載の後印刷法では、専用印刷機械を使用して切断済み基材の表面上にインクジェット印刷している。しかし、これらの方法は専用印刷機械を必要とするので家庭では使えない。
【0005】
そのため、「後印刷法」では「転写法」が広く使われる。この「転写法」では転写紙上に画像を印刷し、得られた印刷画像を切断済みジグソーパズルP上に転写する。「転写法」には湿式と乾式があり、スライド転写、アイロン転写等の方法があり、デカール、タトーの分野や陶器や工業製品の印刷の分野で広く使用されている。ジグソーパズルの分野では一般の人が家庭で実施するのに適した「水転写紙」を用いた「後印刷法」が公知である。
【0006】
例えば、[特許文献3](特開2011-101753号公報)および[特許文献4](特開2018202815号公報)に記載の「水転写紙」を用いた「後印刷法」では、パズルピース表面に吸水性の支持体、水溶層、透明な薄膜樹脂コート層及び反転絵柄を形成した像担持層を順次有する絵柄貼着紙を貼り付け、絵柄貼着紙の支持体を剥離し、薄膜樹脂コート層に残存する水溶層の水溶性物質を除去し、薄膜樹脂コート層をパズルピース表面に貼り付けた状態で加熱押圧してカット溝凹部にまで入り込ませる。
【0007】
しかし、[特許文献3]や[特許文献4]に記載の方法では、転写後に「ナイフで薄膜樹脂コート層と像担持層のみをジグソーパズルのカット溝凹部に沿って切断して絵柄を有する個々の絵柄パズルピースに分離する」必要がある(特許文献4の[0041][
図29]参照)。しかし、ナイフを使用すると切断部が不均一なナイフ切断線となり、各ピースをきれいに分離することは困難であり、一般の人がきれいなジグソーパズルを作るのは難しい。
【0008】
また、市販の水転写紙の多くは陶器や工業製品、タトー、OHP等の用途に使用される水転写紙であるため、転写画像のゆがみ防止等の理由で水転写紙中にPETやPE等のフィルム層(連続膜)が含まれている。そのため、市販の水転写紙をジグソーパズルに利用する場合には特許文献3、4に記載のように上記連続膜をナイフで切断する作業が必要になる。
【0009】
すなわち、「後印刷法」と「水転写法」とを組合せた場合の基本的な課題/欠点(1)は、印刷画像を含む薄膜樹脂コート層や像担持層が連続薄膜として残り、その連続薄膜の切断作業が必要になる、という点にある。
【0010】
また、「水転写法」は画像をきれいに転写する操作が難しいという別の課題/欠点(2)もある。すなわち、転写層は極めて薄く、強度がないため、転写膜を支持体から剥がす操作が難しく、転写膜を支持層から剥がす時に転写画像が歪んだり、転写膜の一部が破断したり、転写膜に気泡が入ったりして均一な転写を行うのが困難である。
【0011】
「後印刷法」と「転写法」とを組合せた方法は上記の課題/欠点(1)と(2)のためにあまり実用化されていない。本発明者は、上記課題/欠点を解決するための実験を繰り返し、これらの課題/欠点を克服できることを確認し、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平10-137441号公報
【文献】特許第5271323号明細書
【文献】特開2011-101753号公報
【文献】特開2018202815号公報
【文献】特開201713234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、従来法の上記課題/欠点(1)および(2)を解消して誰でも簡単にプライベートジグソーパズルを製作できるようにするプライベートジグソーパズルの製作方法を提供する。
本発明の他の観点から、本発明は、「後印刷法」と「水転写法」とを組合せた場合の印刷画像の切断作業をカッターを使用せずに、手で行うことができるようにすることにある。
本発明が解決しようとするさらに他の課題は、転写膜を支持体から剥がす操作を容易、確実にして歪みや破断のない均一な転写画像が得られるようにすることにある。
本発明は、家庭用インクジェット印刷機を用いて印刷した写真、デザイン画等のプライベート画像を水転写法で切断済みジグソーパズル上に転写する操作を一般の人が簡単に行えるようにする方法と、この方法を実施するためのジグソーパズル作成セットを提供する。
【0014】
以下の本明細書では構成要素の後に参照記号をカッコ( )中に記載するが、この参照記号は本発明の理解を容易にするためのもので本発明を特定構造に限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の第1の対象は、透水性の支持体(s)上に剥離層(r)を介して転写層(i)を有する水転写紙(T)を用意し、転写層(i)上に印刷機を用いて画像(g)を印刷し、印刷された画像(g)が切断済みジグソーパズル(P)の表面と対抗する状態で水転写紙(T)を切断済みジグソーパズル(P)の表面上に配置し、水転写紙(T)の支持体(s)の背面上に水を供給し、水転写紙(T)を切断済みジグソーパズル(P)の表面に向って押圧し、所定時間経過後に上記剥離層(r)の所で切断済みジグソーパズル(P)から支持体(s)を剥離することで印刷された画像(g)を切断済みジグソーパズル(P)の表面上に転写する工程を含む切断済みジグソーパズル(P)上に後印刷する方法において、
上記転写層(i)を易破断材料で形成し、「疑似水中環境」を作り出すのに必要十分な量の水を吸収させた含水性弾性シート(W)を水転写紙(T)上に配置し、それに押圧力を加えて水転写紙(T)に水を供給することを特徴とする方法にある。
【0016】
本発明の第2の対象は、1枚の基材を個々のピースの形に切断して得られる白紙の切断済みジグソーパズル(P)と、透水性の支持体(s)上に剥離層(r)を介して転写層(i)を有する水転写紙(T)とを含むジグソーパズル作成セットにおいて、
上記転写層(i)が易破断材料から成り、押圧力が加えた時に「疑似水中環境」を作り出して水転写紙(T)に必要十分な量の水を供給できる含水性弾性シート(W)をさらに含むことを特徴とするジグソーパズル作成セットにある。
【0017】
本発明の第3の対象は、易破断材料から成る転写層(i)を有し且つ手で破断/分離ができない連続フィルムの層および/または手で破断/分離ができない連続フィルムから成る材料を含まない水転写紙(T)の上記方法での使用にある。
【0018】
本発明の第4の対象は、上記方法または上記ジグソーパズル作成セットで使用するための、切断済みジグソーパズル(P)と、易破断材料から成る転写層(i)を有する水転写紙(T)と、この水転写紙(T)に水を供給するための含水性弾性シート(W)との組み合わせにある。
【0019】
上記で「転写層が易破断材料から成る」とは、乾燥後に得られる転写画像の膜(画像を含む転写層)が手で簡単に破断、分離ができる材料で作られていることを意味する。換言すれば、「転写画像の膜が手で簡単に破断、分離ができない連続フィルムの層を有しない」、および/または、「転写操作中または転写操作後に転写画像膜を手で破断、分離ができない連続フィルムと成る材料を含まない、および/または、形成しない」ことを意味する。従来法の上記課題/欠点(1)は転写層(i)を易破断材料にすることで解決できる。
【0020】
転写操作を水中で行うスライド転写、水圧転写の分野では水転写紙(T)の転写は水中で行われるが、紙のジグソーパズル基板は水中ではふやけて基板として使用できなくなるため、水中でのスライド転写方法を紙のジグソーパズル基板に適用できない。本発明者は水転写紙に多量の水を供給することがきれいな転写、均一な転写操作を行うのに必須であり、「疑似水中環境」を形成することで上記課題/欠点(2)が解決できることを見い出した。
この「疑似水中環境」を形成するとは、スライド転写に類似した水中環境、すなわち水転写紙(T)が水の中に存在する環境と疑似の環境を実現することを意味する。本発明では、含水性弾性シート(W)を用い、それに押圧力を加えることでスライド転写の場合と類似の環境すなわち「疑似水中環境」を作り出して必要十分な量の水を転写層(i)に供給する。それによって誰でも転写操作を容易に行うことができ、画像をきれいに転写できる。
【0021】
本発明の好ましい実施例ではプレート(1)を使用して含水性弾性シート(W)に押圧力を加える。このプレート(1)は切断済みジグソーパズル(P)を支持するための容器(C)の一部にすることができる。プレート(1)はプラスチック板、金属板、木板等の任意の材料で作るこができる。
【0022】
本発明の好ましい他の実施例では、切断済みジグソーパズル(P)はその表面上にインク定着層(m)を有する。このインク定着層(m)は上記課題/欠点(2)をさらに確実に解決するために使用される。すなわち、画像(g)を含む転写層(i)が剥離層(r)の所で支持体(s)から分離して切断済みジグソーパズル(P)の表面上に移る転写時に、上記インク定着層(m)は転写層(i)の移動(転写)を確実にする。この場合、インク定着層(m)の切断済みジグソーパズル(P)の表面との間の接着力が転写層(i)と剥離層(r)との間の接着力よりも大きくなる材料を選択するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明方法を実施するためのジグソーパズル作成セットを示し、(i)はその構成の概念的斜視図、(ii)はその構成の概念的断面図。
【
図2】本発明方法の実施工程(1)~(8)の説明図。
【
図3】本発明のジグソーパズル作成セットの好ましい実施例の説明図。
【
図4】本発明で好ましく使用される切断済みジグソーパズル(P)の2つの実施例を示し、(a)は「軽量積層体のジグソーパズル」、(b)は「透明プラスチックジグソーパズル」をそれぞれ示す。
【
図5】本発明のジグソーパズル作成セットを用いて得られる半製品(SP)を手(H)で破断・分離する操作の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明を説明するが、各図で部材の寸法は説明のために拡大、縮小してあり、相対寸法は実際のものとは相違する。
【0025】
[
図1]の(i)に示すように、本発明方法で使用するジグソーパズル作成セットは切断済みジグソーパズル(P)と、水転写紙(T)と、含水性弾性シート(W)とを含む。水転写紙(T)は、(ii)の断面図に示すように、透水性の支持体(s)上に透水性の剥離層(r)を介して転写層(i)を有する。この図では転写層(i)上に画像(g)が既に印刷された状態を示している。本発明では転写層(i)が易破断材料から成ることが必要である。
【0026】
[
図2]は本発明方法の工程(1)~(8)の説明図である。[
図2]の最初の工程(1)では、印刷すべき画像(g')、例えば、写真画像をコンピユータ(PC)に取込み、画像編集して切断済みジグソーパズル(P)の寸法と同じ寸法の画像にする。この時、特に文字を含む画像の場合、印刷画像を左右反転させることで最終的に得られる画像(g)を元の画像(g')と同じ向きにするのことができる。
【0027】
[
図2]の工程(2)では、プリンター(Q)を使用してコンピユータ(PC)で編集した画像を水転写紙(T)上に印刷する。印刷機(Q)は例えば家庭用インクジェットプリンターにすることができる。印刷するインクは顔料系でも染料系でもよい。他の印刷装置、例えばゼログラフィ装置、レーザープリント装置、グラビア印刷装置、オフセット印刷機等を用いても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0028】
工程(2)の右下側に示した図は、プリンター(Q)で印刷された画像(g)を有する水転写紙(T)の断面構造で、印刷済み水転写紙(T)は透水性の支持体(s)上に透水性の剥離層(r)を介して転写層(i)を有し、転写層(i)上には画像(g)が印刷されている。本発明では転写層(i)が易破断材料から成ることが必要である。
【0029】
[
図2]の工程(3)では、画像(g)がジグソーパズル(P)の上側表面と対向する状態で、印刷済み水転写紙(T)を切断済みジグソーパズル(P)の上に重ね、その上に含水性弾性シート(W)を載置して、含水性弾性シート(W)/水転写紙(T)/切断済みジグソーパズル(P)の集合体とする。この場合、含水性弾性シート(W)には予め必要十分な量の水を吸収させるが、ユーザーが水の量を計測する必要はない。含水性弾性シート(W)の材質と厚さを選択することで必要十分な水の量は確保される。必要な水の量は実験で決定できる。含水性弾性シート(W)は市販の吸水材料、例えば脱水シート、吸水クロス、吸水マット、乾燥マット、キッチンクロ、セルローススポンジ、吸水スポンジ、水取りスポンジ等の名称で市販されているシートが好ましく使用できる。
【0030】
[
図2]の工程(4)で、含水性弾性シート(W)に圧力(矢印)を加えて含水性弾性シート(W)/水転写紙(T)/切断済みジグソーパズル(P)の集合体を圧縮し、含水性弾性シート(W)から水転写紙(T)に必要十分な量の水を供給して「疑似水中環境」を形成する。押圧状態は一定時間、例えば30秒~3分間維持する。この時、含水性弾性シート(W)の上に平らなプレート(1)を配置して均一な押圧状態を維持するのが好ましい。本発明の好ましい実施例([
図3]参照)では容器(C)を2枚のプラスチックプレート(1、2)で構成し、上記組立体を2枚のプラスチックプレート(1、2)の間に挟持して押圧する。含水性弾性シート(W)から押し出される余分な水(d)を吸収するために切断済みジグソーパズル(P)の下に吸水材料(図示せず)を配置することもできる。
【0031】
[
図2]の工程(5)で、所定時間の押圧状態を終えた後に、含水性弾性シート(W)を取り除く。水転写紙(T)は十分な量の水を含んだ状態で切断済みジグソーパズル(P)の表面上に付着しており、転写層(i)は切断済みジグソーパズル(P)側に完全に接着(転写)された状態にある。
【0032】
[
図2]の工程(6)は、支持体(s)を手(H)の指を使ってゆっくりと剥がす(剥離する)工程で、水転写操作後の水転写紙(T)の支持体(s)の端縁部を指で摘まみ、それをゆっくりと水転写紙(T)の転写層(i)から剥がす。それによって画像(g)を含む転写層(i)が剥離層(r)の所で支持体(s)から分離され、切断済みジグソーパズル(P)の表面上に転写される。この工程(6)の操作では、支持体(s)を剥がす時に転写層(i)が破れないように慎重に行う必要があるが、本発明では含水性弾性シート(W)に供給された必要十分な量の水が転写層(i)に供給され、強い力で押圧され、確実に転写されているので、転写層(i)を支持体(s)から均一かつ容易に剥がすことができる。
【0033】
剥離操作後、転写層(i)が乾燥するまでそのままの状態を維持する。通常、1~5分程度でほぼ乾燥するが、一般には30分~数時間放置して完全に乾燥させる。
【0034】
[
図2]の工程(7)は乾燥後に得られる半製品(SP)を示し、左上の図は半製品(SP)の正面図、右下の図はその断面図である。この半製品(SP)では画像(g)を含む転写層(i)が切断済みジグソーパズル(P)の表面上に転写されている。この乾燥した半製品(SP)では転写層(i)はまだ連続層を形成している。
【0035】
[
図2]の工程(8)は乾燥した半製品(SP)を各ピースに分割する操作すなわち連続層の転写層(i)を分離する操作の概念図である。この工程(8)では互いに隣接するピースに基本的に曲げおよび上下移動を加えることで個々のピースに分離できる。実際には、隣接するピース(a、b)を手(H)で互いに折り曲げる(右下の図参照)ことで表面上に接着している転写層(i)は破断する。転写層(i)の厚さは通常1~15μm程度であるので、この分離操作中に隣接するピース間で転写層(i)は自然に破断される。各ピースを指で軽く曲げることで簡単に破断でき、破断面が目立つこともない。これは転写層(i)が易破断材料から成ることを特徴とする本発明方法で可能になったことである。工程(8)は一般に転写層(i)が乾燥してから行うが、完全に乾燥するのを待たずに、乾燥前、乾燥中に行うこともできる。
【0036】
[
図3]は本発明のジグソーパズル作成セットの好ましい実施例の説明図である。[
図3]の(i)は本発明で好ましく用いられる容器(C)の中に切断済みジグソーパズル(P)をセット(収容)した状態を示す概念的斜視図で、この実施例では容器(C)はヒンジ結合された2枚の透明プラスチックのプレート(1,2)から成る。切断済みジグソーパズル(P)は容器(C)の下側プレート(2)上に固着されたフレーム(F)内に収容される。容器(C)の上側プレート(1)の表面側にも装飾用の表面フレーム(FF)が固着されている。(i)の状態で、白紙の切断済みジグソーパズル(P)を「ホワイトパズル(無地パズル)」として遊ぶこともできる。
【0037】
[
図3]の(ii)では、切断済みジグソーパズル(P)上に所望画像(g)が印刷された水転写紙(T)を、印刷画像(g)が切断済みジグソーパズル(P)と対向する状態で、載せる。印刷画像(g)は一般に印刷後の約1~5分でほぼ乾燥するので、(ii)の操作は印刷画像(g)が十分に乾燥した後に行うのが好ましい。
【0038】
次に、上記含水性弾性シート(W)に「疑似水中環境」を作り出に必要十分な量の水を予め吸収させた後に、その含水性弾性シート(W)を水転写紙(T)上に載せる。[
図3]の(ii)は容器(C)に収容した切断済みジグソーパズル(P)の上に水転写紙(T)と含水性弾性シート(W)とを順次載せた状態を示している。
【0039】
[
図3]の(iii)は(ii)の工程後に容器(C)の上側プレート(1)を閉じる時の概念的断面図である。
[
図3]の(iv)では、矢印で示す押圧力を加えて、含水性弾性シート(W)を容器(C)の2枚のプレート(1、2)間で押圧、圧縮する。これによって含水性弾性シート(W)に吸収されていた水が押し出され、水転写紙(T)の透水性の支持体(s)および剥離層(r)を通って転写層(i)に水が供給される。本発明ではこの状態を「疑似水中環境」という。この時に供給される水の量はスライド転写時に水転写紙(T)に供給される水の量以上になる。
【0040】
切断済みジグソーパズル(P)、水転写紙(T)および含水性弾性シート(W)の集合体が容器(C)の2枚のプレート(1、2)間に配置されているので、容器(C)を任意の場所に持ち運ぶことができる。従って、上記集合体を収容した容器(C)を押圧手段すなわちウエイト、例えば厚い本(百科辞典等)、家具〈例えば椅子〉、花瓶、食器等の下に入れるだけで押圧、圧縮操作ができ、専用の押圧手段を準備する必要はない。この押圧、圧縮操作は通常、1分程度で十分である。供給された水の大部分は支持体(s)、転写層(i)および切断済みジグソーパズル(P)に吸収され、余分な水(d)は水転写紙(T)の外周部分から押し出され、容器(C)の下側プレート(2)上に保持され、一部はフレーム(F)に吸収される。
【0041】
[
図3]の(v)では、押圧、圧縮操作の終了後に支持体(s)を手(H)の指を使ってゆっくりと剥がして剥離層(r)の所で支持体(s)から画像(g)を含む転写層(i)が分離させる。その後、転写層(i)を乾燥させる。
【0042】
最後に、[
図3]の(vi)に示すように、乾燥後に得られる半製品(SP)を手(H)で破断・分離する。
【0043】
[
図4]は本発明で好ましく使用される切断済みジグソーパズル(P)の2つの実施例を示し、(a)の実施例は「軽量積層体のジグソーパズル」、(b)の実施例は「透明プラスチックジグソーパズル」である。
【0044】
「軽量積層体のジグソーパズル」
(a)の実施例の「軽量積層体のジグソーパズル」は発泡材料および/または弾性体から成るコア(10)と、このコア層(10)の少なくとも片面上に接着された少なくとも一枚、好ましくは表裏2枚の表面層(11、12)とを有する。表面層(11、12)は一般に紙の層で、印刷に適した任意の紙、例えば上質紙、グラビア紙、ケント紙、和紙等の紙にすることができる。この表面層(11、12)上にはインク定着層(m)を形成するのが好ましい。
ジグソーパズルを発泡体で作ること自体は古くから知られており、下記の文献が参照できる。
【文献】実開昭62-1686号公報
【文献】特表2004507335号公報
【文献】特開平2224776号公報
【0045】
本発明で使用する切断済みジグソーパズル(P)は上記軽量積層体をトムソン刃で切断して作ることができる。切断操作にカッティングマシンまたはレーザカッティングマシンを用いることもできる。切断済みジグソーパズル(P)の各ピース(p)は切断線(13)によって互いに分離されている。トムソン刃を用いて切断した場合には、[
図4](a)の拡大部分断面図に示すように、切断線(13)部分のピース間切断部のトムソン刃挿入側に凹部(14)ができ、その反対側は平坦(15)であるか、表面からわずかに突出した突出エッジになる。表裏両面(11、12)上にそれぞれ別の画像を形成(転写)することができる。
【0046】
コア層(10)は発泡倍率が1~3程度の低発泡のポリエチレン(PE)の発泡体または弾性体から成る。この発泡体または弾性体は切断後に切断済みジグソーパズル(P)がバラバラにならない状態で手で持ち上げることができる。上記の発泡体または弾性体はポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、EVA、PET、ポリ塩化ビニル(PVC)またはEPDMの発泡体またはシリコンラバーにすることができ、セルロース材料の発泡体でもよい。発泡体は軟質または硬質の発泡体でも、弾性発泡体でもよい。ポリスチレン(PS)の発泡体コア、例えば、いわゆる「スチレンペーパ」は軽量であるが、隣接ピース間を互いに保持する保持力は無い。これに対して低発泡のポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)の発泡体コアは重量感、隣接ピース保持力に優れている。弾性発泡体、例えばEVAの発泡体は軽量感に優れているが、隣接ピースを保持する力は弱い。
【0047】
発泡体のコア層(10)を使用することでジグソーパズルを大幅に軽量化できる。ジグソーパズルのピースとして一定の重量感やフィット感が要求される場合には発泡体の材質、発泡倍率を調節し、充填材やゴム弾性体等の添加材料を追加するか、これらの材料を含む追加の層をさらに積層するのが好ましい。さらに、上記発泡体のコアを例えば発泡セルロース材料にすることで軽量積層体の全ての層(10、11、12)をセルロース等の再生可能材料とすることができ、グリーンなジグソーパズル製品にすることもできる。
【0048】
「透明プラスチックジグソーパズル」
[
図4]の(b)の実施例の「透明プラスチックジグソーパズル」は神田昌秀氏の特許第7283753号に記載のもので、手で吊り下げることができるという特徴がある。この透明プラスチックジグソーパズルは(i)透明なプラスチックシ-トから成るジグソーパズル本体層(100)と、(ii)ジグソーパズル本体層(100)の上側および/または下側に配置される透明な二軸延伸ポリプロピレン(OPP)または高密度ポリエチレン(HDPE)から成る透明表面層(111、112)と、(iii)上記ジグソーパズル本体層(100)と各透明表面層(111、112)との間に配置される無延伸ポリプロピレン(CPP)または低密度ポリエチレン(LDPE)から成る熱積層用中間層(113)とで構成される。この透明プラスチックジグソーパズルの詳細は上記の特許を参照されたい。
【0049】
[
図5]は半製品(SP)の破断・分離操作の一例を示す説明図である。本発明では半製品(SP)の転写層(i)が破断可能な材料からなるので、破断・分離操作は半製品(SP)の任意の箇所から手(H)で簡単に行える。
[
図5]の(1)は半製品(SP)を手(H)で最初に2つの部分a、bに分離する場合の例を示す。[
図5]の(2)は2つの部分a、bを上下方向に互いに折り曲げた状態を示し、(3)は2つの部分a、bが分離された状態を示す。(2)と(3)の操作は2つの部分a、bを上下方向に互いに折り曲げる操作を数回繰り返すことで簡単にできる。
【0050】
[
図5]の(4)と(5)は上記の操作を繰り返して部分bを部分aと部分bとに分離する場合を示している。
[
図5]の(6)と(7)は上記の操作を繰り返して部分b2を2つの部分b21とb22に分離さらに細かく分離する場合を示している。
同様な操作を繰り返すことで半製品(SP)全体を分離する。本発明では転写層(i)が易破断材料から成るので、この操作は容易にでき、転写層(i)は各ピースの切断線の所できれいに破断される。
【0051】
分離操作時には、分離した各ピースは各ピースを元の位置に嵌め戻して元の画像(g)を有するジグソーパズルにして展示、譲渡、保存するか、分離操作と同時に各ピースをバラバラにしてジグソーパズルとして直ちに遊ぶことができる。
【0052】
以下、本発明の構成要素についてさらに詳細に説明する。
水転写紙(T)
「水転写紙(T)」は基本的に[
図1]の(ii)の断面に示す層構成をしており、支持体(s)上に剥離層(r)を介してインク受容層を含む転写層(i)を有している(この図には印刷工程で形成されるインク画像(g)も示してある)。水転写紙(T)に水が供給され、押圧力が加えられると、剥離層(r)の所でインク受容層を含む転写層(i)が支持体(s)から分離され、切断済みジグソーパズル(P)上に転写される。
【0053】
水転写紙(T)の構成自体は周知であり、その構造、組成については多数の特許が存在し、例えば下記特許文献が参照できる。
【文献】特開3-227700号公報
【文献】特許第3842835号明細書
【文献】特開平1159092号公報
【文献】特開平1178389号公報
【文献】特許第6074563号明細書
【0054】
水転写紙(T)の構造は本発明の対象ではないので、その詳細な説明は省略する。ここでは、水転写シートは基本的に水透過性の支持体(s)上に剥離層(r)を介してインク受容層を含む転写層(i)を有する構造であることを理解していれば十分である。「転写層(i)」は、反転印刷された画像を保持し、切断済みジグソーパズル(P)上にその画像を転写するのに使用される層で、一般には剥離層(r)を介して透水性の支持体(s)上に形成され基本的に透明な層である。転写層(i)は一般にインク受容層を含む複数の層から成る。転写層(i)またはインク受容層の各層の材料を異なる特性(分子量や種類等)の異なる同じ材料にすることもできる。本明細書では転写層、インク受容層という用語を厳密に分けて使用してはいない。以下の説明ではインク受容層を単に「転写層(i)」と記載することがある。
【0055】
水転写紙(T)の支持体(s)は透水性材料のシート、例えば紙、セルロースで作ることができる。支持体(s)はその表面上に供給された水分が支持体(s)を通過して裏側の剥離層(r)まで到達できる透水性が必要である。また、吸水状態でも溶解したり崩壊したり破れたりせずに形状を維持する耐水性が必要で、吸水時の寸法安定性が優れたものが好ましい。これらの特性を備えた材料として、目付量50~150g/m 2 の紙が使用できる。ポリイミドエポキシなどの湿潤補強材を配合した紙が有用である。通常のパルプ紙以外にも、同様な機能を有する合成紙や合成樹脂シートを用いることもできる。
【0056】
支持体(s)には通常の剥離処理をして剥離層(r)を形成する。剥離処理に用いる材料は転写層(i)の材料とその特性に合わせてシリコン、ポリプロピレン、ポリエステル等から選択する。剥離処理を施す支持体(s)の面には目止め処理をするのが好ましい。目止め処理をすることで液状剥離材が基材層の内部に浸透し難くなり、支持体(s)の表面に適切な剥離処理を施すことができる。目止め材は支持体(s)の透水性を阻害せずに液状剥離材の透過を阻止する材料が好ましく、炭酸カルシウムやカオリン、クレー等を用いることができる。「剥離層(r)」は水分との接触によって接着力が弱くなる層で、水溶性の接着性材料、例えば澱粉、CMC、水溶性オレフィン樹脂、ポリビニルアルコール、糊、デキストリン、水溶性ウレタン、保水剤等を含むこともできる。塗工量は一般に5~50g/m2(湿潤状態)である。
【0057】
本発明の好ましい実施例では、支持体(s)は透水性材料のシート、例えば紙、セルロースまたは不織布のシートから成り、剥離層(r)は水溶性高分子、例えばポリビニルアルコール、糊、デキストリンまたは水溶性ウレタンから成り、上記インク受容層がポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそのエステル類、塩類およびその共重合物、ポリヒドロキシエチルメタアクリレートおよびその共重合体、ポリ酢酸ビニル共重合体、デンプン類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体の中から選択される材料である。
【0058】
転写層(i)のインク受容層は表面に印刷画像が形成される層で、形成された印刷インク画像(g)を吸収保持して定着させる機能を備えている。インク受理層は転写後に印刷画像の上を覆うので透明である必要があり、また、インク受容層は水分との接触によって接着力、タック性を生じ、切断済みジグソーパズル(P)上に印刷インク画像(g)を固定させるものでなければならない。しかし、印刷機中に接着力、粘着力が生じると水転写紙が印刷機に付着し、印刷トラブルの原因となるので、インク受容層の材料の選定には注意が必要である。このインク受容層は一般にポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそのエステル類、塩類およびその共重合物、エチレン-酢酸ビニル共重合物、ポリヒドロキシエチルメタアクリレートおよびその共重合体、デンプン類、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体の中から選択される水溶性高分子を含む。インク受理層の透明性を損なわない限り、微粒子にしたシリカ、酸化アルミニウム、 炭酸カルシウムなどのインク吸着成分を添加することもできる。さらに、にじみ防止、定着性向上、耐ブロッキング性、耐擦過性等のために各種の添加剤を添加できる。
【0059】
転写層(i)またはインク受容層をポリオレフインのエマルジョンを塗布し、乾燥して形成することもできる。エマルジョン中には必要に応じて他の成分、例えばウレタン樹脂、シリコーン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂の樹脂や、シリカ等の充填または処理剤、界面活性剤等の添加剤をさらに含むことができる。
【0060】
転写紙で一般的に使用されている添加剤、例えば、粘着性付与剤、ワックス、可塑剤、充填剤、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、浸透剤、酸化防止剤、防腐剤等をインク受容層(i)にさらに添加することもできる。インク受容層(i)の厚さは一般に15~100g/m2(湿潤状態)、通常1~15μm、好ましくは3~10μm程度である。剥離層(r)と転写層(i)またはインク受容層を異なる特性の同じ材料で作ることもできる。
【0061】
いずれの場合でも、本発明では転写層(i)は易破断材料から成る必要があり、転写層(i)またはインク受容層は破断が不可能な強固な保護膜を形成する材料を含んではならない。そうした水転写紙は市販の製品の中から見い出すことができる。本発明で使用可能な易破断材料から成る転写層(i)を有する水転写紙としては(株)和紙のイシカワ社の「水転写紙」と(株)プラス社の「インクジェット用紙デコレーション用水転写シート」を挙げることができる
【0062】
切断済みジグソーパズル(P)
「切断済みジグソーパズル(P)」とは、1枚の基材を個々のピースの形に切断して得られる1枚の白紙のジグソーパズルのシート(バラバラのしていない状態)を意味する。切断方法としては一般にはトムソン刃を備えたプレス機械、カッティングマシンまたはレーザカッティングマシンが用いられる。一般の紙製のジグソーパズルはトムソン刃を用いてプレス機械で厚紙を各ピースに剪断して作られる。カッティングマシンまたはレーザカッティングマシンはトムソン刃で切断するのが容易でないハート形、星形、円形等のピース形状を簡単かつニーズに応じて迅速に製作できるので、顧客の要望に応じたカスタムジグソーパズルを少量生産するのに適している。
【0063】
「切断済みジグソーパズル(P)」の基材は単層または複数層にすることができ、基材の材料は任意である。例えば、紙(例えば厚紙)、不織布、繊維、木材、ガラス、金属、プラスチックにすることができる。単層のジグソーパズルとして厚紙をトムソン刃で切断したいわゆる「ホワイトジグソーパズル」すなわち無地のジグソーパズルを「切断済みジグソーパズル(P)」として利用できる。
【0064】
[
図4]の(a)の実施例の積層体から成る切断済みジグソーパズル(P)の表面層(11、12)は転写能に優れた材料であれば任意の材料が選択でき、一般には紙、不織布またはプラスチック材料のシートが用いられる。表面層(11、12)は高品質紙、例えば光沢紙、コート紙、グラビア紙等にすることができる。コア層(10)は発泡体で作ることで、表面層の紙に供給した水をコアの発泡体が吸収して水転写インキの乾燥が速くなる。また、切断済みジグソーパズル(P)が水を吸って変形するのを防止できる。
【0065】
[
図4]の(b)の実施例の透明なプラスチックジグソーパズルを「切断済みジグソーパズル(P)」として使用できる。この透明なプラスチックジグソーパズルは透明なプラスチック材料、例えばアクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンデレフタレート(PET)、ポリスチレン、塩化ビニル、ABS樹脂等の任意の材料が使用できる。本発明の好ましくは実施例では透明なプラスチックジグソーパズルとして上記特許第7283753号に記載の無地の透明プラスチックジグソーパズルが好ましくは使用できる。
【0066】
「切断済みジグソーパズル(P)」として白紙の「ピクチャーパズル」(図示せず)も使用できる。このピクチャーパズルは支持用台紙の上に載置した上側基板をジグソーパズルの各ピースと外周フレームとに切断、分離したもので、幼児用ジグソーパズルとして広く使用されている。また、「ホワイトパズル」(図示せず)ともよばれる白紙のピクチャーパズルも本発明の「切断済みジグソーパズル(P)」として使用できる。これらのジグソーパズルは紙製であり、水で破損するので、含水性弾性シート(W)から供給する水の量は慎重に調節する必要がある。
【0067】
ジグソーパズルの厚さに制限はないが、一般には0.5mm~50mm程度、一般には0.5~20mmである。ジグソーパズルのピース数および各ピースの寸法は用途に応じて適宜選択できるが、本発明のジグソーパズルセットは家庭用インクジェットプリンター等で印刷可能な「ハガキ」サイズ、グリーティングカードサイズ、CDサイズ、B5版、A4版等の大きさ、さらにそれ以上の寸法にすることもできる。本発明方法を利用すれば家庭用インクジェットプリンターで印刷できないB4版以上の大きなジグソーパズルを作ることもできる。その場合にはB4版以上の大きな一枚の画像を画像ソフトを用いて複数に分割し、分割した各単位画像を互いに平行に並べた複数の切断済みジグソーパズル(P)の対応部分の上に印刷すればよい。その場合、互いに隣接する分割画像の端縁部をダブって印刷し、隣接分割画像が連続するように端縁部をカットし、転写時に隣接分割画像が連続するように配置すればよい。画像の大きさには制限がなく、単位画像の数を増やすことでB1版以上、A1版以上の大きな画像のジグソーパズルを作ることもできる。また、独立した複数の画像(不連続画像)を並べて1枚のジグソーパズルにすることもできる。
【0068】
含水性弾性シート(W)
本発明で使用する「含水性弾性シート(W)」はスライド転写や水圧転写と類似の環境すなわち「疑似水中環境」を作りだすために使用される。この含水性弾性シート(W)とは所定量の水を吸収可能な親水性シートを意味し、一般には多孔質体である。この含水性弾性シート(W)は所定量の水を吸収し、押圧力が加えられた時にその水を排出できる親水性の任意の材料で作ることができる。親水性の多孔質シートは例えば吸水紙、吸水セルロース、吸水スポンジ等で構成でき、さらに、脱水シート、吸水クロス、吸水マット、乾燥マット、キッチンクロ、セルローススポンジ、吸水スポンジ、水取りスポンジ等の名称で市販のシートが使用できる。大面積、例えばB4以上の寸法の切断済みジグソーパズル(P)の場合には多孔質弾性体、例えば吸水弾性スポンジを使用するのが好ましい。
【0069】
含水性弾性シート(W)の容積は転写操作に必要十分な量の水が供給できるように決定される。転写操作に必要な水の量は転写層(i)を完全且つ均一に転写させるのに必要な水の量である。水の量が不足すると完全且つ均一な転写ができない。水の量が過剰になっても転写に悪影響は与えないが、余分な水で作業空間を汚すことになる。従って、実際には、ジグソーパズル作成セットを利用する使用者が含水性弾性シート(W)に水を含ませ、軽く絞った状態で転写操作に必要な水の量となるように、含水性弾性シート(W)の容積を決定するのが好ましい。この容積は実験によって簡単に決定できる。通常は、水を含ませた含水性弾性シート(W)の上端部をつまんで吊り下げた時に水が滴下しない状態にすればよい。含水性弾性シート(W)の寸法は、転写操作に必要な量の水が水転写紙の全面に均一に供給できる限り、特に限定されないが、一般には切断済みジグソーパズル(P)の寸法とほぼ同じ寸法にするのが好ましく、それより大きくすることもできる。
【0070】
含水性弾性シート(W)から供給された水は、押圧力が加えられた時に切断済みジグソーパズル(P)に向かって上記支持体(s)および剥離層(r)を通して浸透し、転写層(i)に達する。本発明の好ましい実施例では、2枚のプレート(1、2)の間に含水性弾性シート(W)/水転写紙(T)/切断済みジグソーパズル(P)の集合体を挟み、それを重量物の下側に置くことで必要な押圧力を加えることができる。
【0071】
含水性弾性シート(W)に加える押圧力とその継続時間は実験によって簡単に決定できる。押圧力は切断済みジグソーパズル(P)の寸法に依存し、通常は数kg以下、一般には5kg以下の力でよく、押圧の時間は一般に1分~3分程度で十分である。剥離層(r)に供給される水の量が適量で且つ所定の押圧力が加われば、印刷画像(g)を含む転写層(i)は剥離層(r)の所で水転写紙(T)から確実に分離し、切断済みジグソーパズル(P)の表面上に移る。
【0072】
含水性弾性シート(W)を多層構造の積層体、例えば下記積層体(図示せず)の形にすることもできる:
(a)吸水性シート(1)と多孔質体(2)とを積層した2層構造の積層体、
(b)含水コアシ-ト(1)とそれを内部に収容または間に挟持する多孔質カバー(2)とで構成される積層体。
(a)の場合には、吸水性シート(1)と例えば独立気泡または連続気泡のスポンジシートの多孔質体(2)との2層構造の積層体にし、吸水性シート(1)に必要十分な量の水を吸収させ、スポンジシート(2)は基本的に弾性押圧手段として機能させる。(b)の場合には、必要十分な量の水を吸収させた含水コアシ-ト(1)を例えば連続気泡のスポンジシートの多孔質カバー(2)の内部に収容するか、または、多孔質カバー(2)のシートの間に挟さんで含水性弾性シート(W)とする。
【0073】
変形例では、含水性弾性シート(W)に供給する水をユーザーが用意する必要を無くすこともできる。これは水の吸収操作を避けたい場合、水の汚染を少なくしたい場合に有利である。この場合には、水を既に吸収させた含水性弾性シート(W)を耐水密封容器、例えばプラスチック袋や樹脂をラミネートしたアルミシートからなるパウチ(袋)の中に保管し、それを使用時にパウチを開封して取り出して使用する。
【0074】
切断済みジグソーパズル(P)の下側に吸水シートを敷いて、作業テーブルが水で濡れないようにすることもでき、さらに、この吸水シートの下側および/または含水性弾性シート(W)の上側に耐水シート、例えばプラスチックフィルムやシートを配置して、作業テーブルおよび/または押圧力を加えるための重量物が水で濡れないようにすることもできる。また、含水性弾性シート(W)からの余分な水(d)を容器(C)中に蓄えることもできる。
【0075】
インク定着層(m)
転写されたインク画像(g)の転写品質は切断済みジグソーパズル(P)の表面層、例えば上記軽量積層体の表面層(11、12)の性質に大きく依存する。表面層(11、12)が水を撥く性質のある材料の層である場合には、きれいな画像を転写するのは難しい。また、表面層(11、12)が光沢紙、コート紙、グラビア紙等から成る場合も転写層またはインク受容層(i)を切断済みジグソーパズル(P)の表面上に完全、確実に転写するのは難しい。また、転写操作が確実に行われたとしても、転写層またはインク受容層(i)の接着力が弱いと、パズルのピースを嵌め合わせて遊ぶ時に応力が集中する部分で転写層(i)の一部がパズルから剥がれる危険もある。
【0076】
そのため、本発明では「インク定着層(m)」を使用するのが好ましい。インク定着層(m)を使用することで一般のユーザーがインクジェットプリンター等で印刷した印刷転写層(i)を種々の表面特性を有する紙の表面層(11、12)上に確実に転写することが可能になる。このインク定着層(m)は切断済みジグソーパズル(P)の表面上に転写された画像を正確、確実に固定するための定着剤の層である。インク定着層(m)は切断済みジグソーパズル(P)の表面層(11、12)の片面および/または両面に形成できる。
【0077】
インク定着層(m)は剥離層(r)の所で転写層(i)を確実に分離して切断済みジグソーパズル(P)の表面上に確実に固定させる役目をするものである。このインク定着剤の材料は転写層(i)の材料に依存する。本発明ではインク定着剤として安価に入手可能な水溶性の接着性材料、例えば澱粉、CMC、水溶性オレフィン樹脂、ポリビニルアルコール、糊、デキストリン、水溶性ウレタンおよびこれらの混合物の中から選択される接着剤を使用できる。さらに、溶剤に溶解させたゴム成分をインク定着剤に含ませることもできる。インク定着剤は転写画像の品質に大きな影響を与えるので、その組成、塗装量は慎重に選択する必要がある。インク定着層(m)の塗工量は実験によって当業者が決定できる。
【0078】
上記インク定着層(m)の材料は、切断済みジグソーパズル(P)の表面と転写層(i)の間の接着力が転写層(i)と剥離層(r)との間の接着力よりも大きくなるものを選択するのが好ましい。そのためにはインク定着層(m)と剥離層(r)の材料を変えるか、同じ材料で組成、性質等を変えることができる。例えば、インク定着層(m)と剥離層(r)とで異なる種類のポリビニルアルコールを使用するか、インク定着層(m)と剥離層(r)の材料を互いに変えることができ、それぞれを澱粉、デキストリン、ポリビニルアルコール等の中から選択することができる。
【0079】
「切断済みジグソーパズル(P)」としてプラスチックジグソーパズルを使用する場合([
図4]の(b)参照)、透明なプラスチックジグソーパズルの透明表面層はポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂等からなり、これらの表面層は撥水性であるため、親水性の水転写紙(T)を使用して画像をその表面層上に転写することは困難であり、例え、転写ができたとしても、テープ剥離試験で転写層が簡単に剥離する。従って、プラスチックジグソーパズルを使用した場合には、切断済みジグソーパズル(P)の表面処理を行う必要がある。この表面処理によって破断が困難なる層が形成されないことが重要であるので、表面処理は物理的処理、特にプラズマ処理が好ましい。化学的処理の場合には、それで形成される層が易破断材料から成ることが必要である。
【0080】
この表面処理は公知の任意の方法、例えば、物理的処理、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、フッ素処理、酸化ケイ素膜形成処理や、化学的処理、特にマレイン酸変性プライマー処理、モノマー処理、プライマー塗布、塗装処理等で行うことができる。特に、切断済みジグソーパズル(P)がプラスチック材料である場合には、上記のインク定着層(m)としてプラスチック材料用プライマーを使用できる。このプラスチック材料用プライマーはプラスチック材料に応じたものが市販されている。実際には市販のアクリル系のプライマー層を塗布し、必要であればさらに親水性向上処理をすればよい。
【0081】
本発明方法を使用することによって、「後印刷法」と「水転写法」とを組み合わせた時の従来法の欠点、特に転写層の切断作業が必要であるという欠点が解消できる。本発明では転写層が手で破断できない連続フィルムを含まないことが必要であるが、転写後にその破断できない連続フィルムを切断済みジグソーパズル(P)から簡単に除去できる場合を排除するものではない。例えば、破断できない連続フィルムを転写操作の補助のために使用しても、破断前にそれを簡単に除去できる限り、本発明の範囲を逸脱するものではない。水転写層が「破断できない連続フィルムを含まない、または、形成しない」の判断は、水転写紙(T)の転写層をジグソーパズル側に実際に転写した後に、ジグソーパズルの各ピースを手で簡単且つきれいに分離できるか否かで判断する。すなわち、ジグソーパズルの各ピース上に転写した後の転写層をカッター等を使用して分離する必要のある場合には易破断材料から成る層ではないと判断する。
【0082】
容器(C)
本発明の好ましい実施例で使用される容器(C)([
図3]の(iii)参照)は2枚のプラスチックのプレート(1、2)で構成でき、その少なくとも一枚、特にジグソーパズの画像の表面を覆うプラスチックプレート(1)は透明プラスチックプレートにするのが好ましい。この容器(C)は完成品のジグソーパズルを保持し、スタンド(図示せず)に立てて展示、鑑賞するのに利用できる。このプラスチックプレート(1、2)は任意の透明なプラスチックプレートトにすることができ、その厚さは0.3~5mm程度であり、透明なポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)およびこれらの共重合体、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂等から任意に選択できる。ABS,ポリアミド、ポリアセタール、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂を使用することもできる。2枚のプラスチックプレートト(1、2)はヒンジ(3)を介して互いに連結することができる。ヒンジ(3)は透明粘着テープにするか、2枚のプラスチックプレート(1、2)と一体成形できる。例えば、熱成形で1枚のプラスプレートの中央部分に薄いヒンジ部分を形成するか、カッターで複数のノッチを形成でぃてヒンジにすることもできる。さらに、ヒンジ(3)を2枚のプラスチックプレートと一緒に射出成形、異形断面押出成形、加熱加工、切断加工等で作ることもできる。また、特にA4版以上のジグソーパズルの場合には、2枚のプラスチックプレート(1、2)を連結せずに、別々に使用してもよい。容器(C)をプラスチックプレート以外の金属板、木板等の任意の材料で作ることもできる。
【0083】
[
図3]の(i)~(vi)に示すように、下側のプラスチックプレート(2)にフレーム(F)を付け、その中に切断済みジグソーパズル(P)を収容することができる。フレーム(F)は切断済みジグソーパズル(P)の外周を取り囲む寸法にし、プラスチックプレート(2)に固着するのが好ましい。フレーム(F)はプラスチック材料、繊維材料、紙等の任意の材料で作ることたができ、特に、発泡弾性体で作ることもできる。フレーム(F)は水転写紙(T)および含水性弾性シート(W)を設置する時の位置決めジグの役目もする。さらに、プラスチック板(1)の表面上に装飾用の表面フレーム(FF)を取り付けることもできる。この表面フレーム(FF)は容器(C)中に収容した完成品のジグソーパズルを立体的に見せるため装飾フレームで、任意の材料、例えば、厚さが1~5mm程度の厚紙、プラスチック板、発泡シート等で作ることができる。表面フレーム(FF)の内側端縁部に45度の傾斜面を形成し、表面フレーム(FFの表面上に装飾テープ、例えば紙やプラスチックのカラーテープ、ベルベットやサテンの布テープ、インド刺繍リボンを張付けることもできる。
【0084】
以下、本発明方法の実施例を説明するが、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1
転写シート用の支持体(s)の表面上に炭酸カルシウムで目止め処理を行い、さらにシリコン溶液を塗布して剥離層(r)を形成した。この剥離層(r)の表面上にケン化度50モル%、平均重合度1000のポリビニルアルコール(PVA)のインク受理層を約15μmの厚さに塗布して転写層(i)を形成し、乾燥して水転写紙(T)とした。このPVA層は本発明の易破断材料からなる層である。
切断済みジグソーパズル(P)は低発泡ポリエチレン(PE)積層板([
図4]の実施例(a)参照)である。この切断済みジグソーパズル(P)はポリエチレンの低発泡シート(発泡倍率1.5倍、厚さ2.5mm)の両面上に接着剤で上質紙(厚さ0.25mm)を貼り付けて得られる低発泡PE積層板をトムソン刃を有する型で「はがき」サイズ(寸法:10×約15cm)のジグソーパズルにし、それを各ピースに切断したものである。
【0086】
水転写紙(T)の転写層(i)上に、家庭用インクジェット印刷機EPSON805Aを用いて写真を印刷し、印刷後のカラーのインク画像(g)を1分間放置して乾燥させた。
【0087】
この実施例では[
図3]の方法で転写を行った。すなわち、乾燥後のインク画像(g)有する転写層(i)を切断済みジグソーパズル(P)の表面上(11、12)(どちらの面でもよい)に置き、その上に水を含ませ含水性弾性シート(W)をさらに置いた。使用した含水性弾性シート(W)は厚さが3mmのPVA吸水マット(寸法:10×15cm)で、吸収させた水の量は吸水マットを吊り下げた時に水が滴り落ちない量であり、吸水マットを絞った時に約50gの水が吸水マット中に含まれていた。次いで、含水性弾性シート(W)の上に底が平らな花瓶(重量は約2kg)を載せ、約1分間押圧力を加えた。その後、含水性弾性シート(W)を取り外し、水転写紙(T)の支持体(s)の端縁部をつまんで水転写紙(T)をゆっくりと剥離する。この剥離操作で転写層(i)は剥離層(r)から離れて、インク画像(g)を含む印刷転写層が切断済みジグソーパズル(P)上に転写される。含水性弾性シート(W)を使用したことで転写操作が圧倒的に容易になり、転写ミスはなかった。
【0088】
印刷転写層(i)が乾燥するまで放置する。印刷転写層(i)は約10分後にはほぼ乾燥し、約1時間後には切断済みジグソーパズル(P)に確実に接着し、セロハンテープ剥離試験でも剥離しなかった。
【0089】
乾燥させたジグソーパズルを隣接するピースの境界線(13)の所で数回上下に曲げると転写層(i)は簡単に破断し、隣接するピース(p)を分離できる。この実施例1の印刷転写層(i)は易破断材料のPVA層で、指で軽く曲げるだけで、印刷転写層(i)は破断でき、破断面もきれいであった。
【0090】
実施例2
水転写紙(T)を(株)和紙のイシカワ社から市販の「水転写紙」(水転写紙2という)に代えた。この転写紙2の転写層(i)は、手で簡単に破断、分離ができない連続フィルムの層および/または手で簡単破断、分離ができない連続フィルムと成る材料を含まないので、易破断材料から成る転写層(i)である。
実施例1と同じ操作を繰り返した。印刷転写層(i)は指で簡単に破断でき、各ピースの破断部分で印刷転写層(i)の画像が失われることもなかった。
【0091】
比較例1
水転写紙(T)を市販の下記転写紙3~9に代えた:
転写紙3 エーワン社の「転写シール」
転写紙4 サンリユウ社の「転写紙」
転写紙5 ミラクル工業者の「ミラクルシート」
転写紙6 ポリマークケミカル社の「無地転写紙」
転写紙7 SUNNYSCPA社の「Tappoo Paper」
転写紙8 SUNNYSCPA社の「Inkjet Waterslide decal paper」
転写紙9 Transourdream社の「インクジェット用水転写シート」
これらの転写紙3~9を使用して実施例1と同じ操作を繰り返したが、転写後に得られる印刷転写層は手で破断できなかった。これらの転写紙3~9は連続層を含むため、本発明の易破断材料から成る転写層(i)ではない。
【0092】
実施例3
実施例1と同じ操作を繰り返したが、切断済みジグソーパズル(P)として、その表面上にインク定着層(m)を形成させたものを使用した。このインク定着層(m)はポリビニルアルコール(PVA)+デキストリン(50:50)の10%水溶液を切断済みジグソーパズル(P)の表面上に塗布し、乾燥させて形成した。
このインク定着層(m)で表面処理した切断済みジグソーパズル(P)を使用することで、切断済みジグソーパズル(P)の転写ミスがほぼ無くなった。
【0093】
実施例4
実施例1と同じ操作を繰り返したが、水転写紙(T)を下記方法で作成した。すなわち、片面クレーコート耐水紙(120g/m2)の支持体(s)上にシリコン剥離層を塗布し、その上にシリカ微粒子をポリビニルアルコール(PVA)で結着した中間層(厚み約lμm)を塗布し、その上に重合度約1000のカチオン変性ポリビニルアルコール90部とエチレングリコール10部を混合したインク受容層(乾燥厚み約10μm)を形成して易破断材料からなる層とした。
転写結果は実施例1と同様で、印刷層はピース間できれいに分断され、各ピースのエッジの部分にギザギザができることはなかった。
【0094】
実施例5
実施例1と同じ操作を繰り返したが、水転写紙(T)を下記方法で作成した。すなわち、支持材料として片面クレーコート耐水紙(120g/m2)を用い、この支持材料にシリコン系剥離層を塗布し、その上にインク受理層としてのポリビニルアルコー ル(ケン化度50モル%、平均重合度1000)を塗布した(55g/m2)。
転写結果は実施例1と同様で、印刷層はピース間できれいに分断され、各ピースのエッジの部分にギザギザができることはなかった。
【0095】
実施例6
「切断済みジグソーパズル(P)」として特許第7283753号に記載の透明プラスチックジグソーパズルを使用した。この透明プラスチックジグソーパズルの表面層はポリプロピレン(PP)製であるため、実施例1~5で使用した水転写紙(T)の転写層は弾かれて転写ができない。そのため、この実施例6では表面処理をした。実際には「切断済み透明プラスチックジグソーパズル(P)」のポリプロピレン(PP)表面をプラズマ処理し、その表面層上に市販のプラスチック用プライマー(マレイン酸変性樹脂溶液)をさらに塗布した。表面処理後に、平均重合度1000のポリビニルアルコール(PVA)のインク受理層を塗布した。
得られた切断済み透明プラスチックジグソーパズルで実施例3と同様な操作で転写操作を行った。転写結果は実施例1と同様で、印刷層はピース間できれいに分断され、各ピースのエッジの部分にギザギザができることはなく、テープ剥離テストでも印刷層がポリプロピレン(PP)表面層から剥離することはなかった。
【0096】
実施例7
「切断済みジグソーパズル(P)」として市販の白紙(無地)の「ピクチャーパズル」のを使用した。この「ピクチャーパズル」の表面層は上質紙である。この表面上質紙の上にインク受理層としてPVAの水溶液を塗布し、乾燥させて表面処理層とした。この実施例では「切断済みジグソーパズル(P)」が紙であるため、紙の劣化を防止するために含水性弾性シート(W)の材質をマイクロファイバー繊維に代えて含水量を少なくした。
この実施例の場合でも含水性弾性シート(W)を使用することで転写操作が圧倒的に容易になり、転写画像の破断は見られなった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のジグソーパズルは老人の脳の衰えを防止する手段あるいは認知症の進行を遅らせる手段として有用である。昔の思い出の写真、家族写真等をジグソーパズルに印刷・転写し、ジグソーパズルとして遊ぶことによって脳の記録を呼び起こさせ、手と脳とを活動させることで認知症の進行を遅らせることが期待できる。
【0098】
本発明のジグソーパズルはペットの記念写真を印刷したジグソーパズル、孫の成長を両親に見せるためのジグソーパズル、家族、友人、グループ間で写真や情報を交換するジグソーパズルとして使用できる。例えば、親子間、恋人同士、サークル仲間等の間でプライペート写真や情報をジグソーパズルにして送ることができる。
【0099】
本発明のジグソーパズルは学童の学習玩具や学生の教育手段として使用できる。教師や親が所望の画像をジグソーパズルに印刷・転写することで、ジグソーパズルとして遊ぶ時の反復記憶作用を利用して学童の暗記を助けることができ、知育玩具としても使用できる。
【0100】
本発明のジグソーパズルは反復記憶作用を必要とする他の分野で脳の反復記憶作用を活性化させるのに有用である。
【0101】
切断済みジグソーパズル(P)は画像が印刷されていない無地のジグソーパズルすなわち「ホワイトパズル」としても使用できる。「ホワイトパズル」として印刷・転写することで、「ホワイトパズル」と「自分パズル」の2回楽しむことができる。また、本発明のジグソーパズル作成セットを「ホワイトパズル」の状態で相手先に送り、相手先で好きな画像を印刷・転写してもらうこともできる。
【符号の説明】
【0102】
P 切断済みジグソーパズル
T 水転写紙
W 含水性弾性シート
g 画像
m インク定着層
s 支持体
r 剥離層
p ピース
F フレーム
FF 表面フレーム
1、2 プレート
【要約】
透水性の支持体(s)上に剥離層(r)を介して転写層(i)を有する水転写紙(T)を用意し、転写層(i)上に印刷機を用いて画像(g)を印刷し、水転写紙(T)を、印刷された画像(g)が切断済みジグソーパズル(P)の表面と対抗する状態で、切断済みジグソーパズル(P)の表面上に配置し、水転写紙(T)の支持体(s)の背面上に水を供給し、水転写紙(T)を切断済みジグソーパズル(P)の表面に向って押圧し、所定時間経過後に上記剥離層(r)の所で切断済みジグソーパズル(P)から支持体(s)を剥離することで印刷された画像(g)を切断済みジグソーパズル(P)の表面上に転写する工程を含む切断済みジグソーパズル(P)上に後印刷し、転写する方法の改良。
上記転写層(i)を易破断材料で形成し、「疑似水中環境」を作り出に必要十分な量の水を吸収させた含水性弾性シート(W)を水転写紙(T)上に配置し、それに押圧力を加えて水転写紙(T)に水を供給する。
【選択図】
図1