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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】評価システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20240603BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240603BHJP
   A61B 5/0533 20210101ALI20240603BHJP
【FI】
A61B5/16 110
A61B5/00 N
A61B5/0533
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020040220
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021137502
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】517350355
【氏名又は名称】株式会社スキノス
(73)【特許権者】
【識別番号】593199714
【氏名又は名称】大橋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 英哉
(72)【発明者】
【氏名】大橋 俊夫
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-076209(JP,A)
【文献】特開2008-246053(JP,A)
【文献】高橋理沙,外4名,自動車運転認知行動評価装置による手掌部発汗反応 -高齢者と若年者の比較-,発汗学,2012年04月01日,Vol.19, No.1,pp.21-23,<URL:https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/record/21941/files/23300245_06.pdf>,ISSN:1340-4423
【文献】橋本芳宏,外5名,精神性発汗量変化に現われる刺激の強度の同定,発汗学,1996年04月,Vol.3, No.1,pp.11-14,ISSN:1340-4423
【文献】坂口正雄,外4名,2チャネルディジタル表示発汗計の応用 -ヒト各部位の発汗量計測-,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会,2000年09月22日,Vol.100, No.330,pp.31-36,ISSN:0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神性発汗を計測する精神性発汗計測センサと、
前記精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測するパラメータ計測センサと、
精神性発汗を誘発するイベントトリガ手段と、
前記イベントトリガ手段を介した刺激に対する反応を、前記精神性発汗計測センサの計測値に基づき評価する機能、及び、前記評価の信頼性を判定する機能、を有する演算装置を備え、
前記パラメータが、皮膚血流、皮膚圧、皮膚電位及び脳波からなる群から選択される少なくとも1つである、評価システム。
【請求項2】
前記パラメータの基準値を記憶する記憶装置を有し、
前記判定を、前記基準値と前記パラメータ計測センサの計測値を対比して行う、請求項1に記載の評価システム。
【請求項3】
前記演算装置が、前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値を決定する機能、及び、前記精神性発汗計測センサの計測値由来のデータと前記閾値を対比する機能を有する、請求項1又は2に記載の評価システム。
【請求項4】
前記演算装置が、前記パラメータの基準値を調整する機能を備える、請求項2に記載の評価システム。
【請求項5】
前記イベントトリガ手段が、ストレス評価を行うストレス評価手段である、請求項1~4の何れかに記載の評価システム。
【請求項6】
前記イベントトリガ手段が、危険認知能力評価を行う危険認知能力評価手段である、請求項1~4の何れかに記載の評価システム。
【請求項7】
前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値及び/又は前記精神性発汗計測センサの感度を、被験者に合わせて補正する補正手段を有する、請求項3に記載の評価システム。
【請求項8】
前記演算装置の演算結果を出力する出力装置を備える、請求項1~7の何れかに記載の評価システム。
【請求項9】
前記演算装置の演算結果の再現性を確認する演算装置再現性確認手段を備える、請求項1~8の何れかに記載の評価システム。
【請求項10】
前記精神性発汗計測センサが、空気供給手段と、開口部が被験者の皮膚面に密着された状態で当該皮膚面から放散された発汗と前記空気供給手段から供給された空気とを内部空間で混合させるカプセルと、前記カプセルの内部空間で前記発汗と前記空気供給手段から供給された空気とが混合された混合気体を前記カプセルの外に排気させる排気通路と、前記空気供給手段から前記カプセルに供給される空気の湿度と前記排気通路から排気される混合気体の湿度の差に基づいて、前記皮膚面の発汗量を計測する計測手段を備える、請求項1~9の何れかに記載の評価システム。
【請求項11】
パラメータ計測センサと、イベントトリガ手段と、精神性発汗計測センサと、演算装置と、記憶装置を含む評価システムの作動方法であって、
前記パラメータ計測センサが、精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測する工程と、
前記イベントトリガ手段が、刺激により精神性発汗を誘発する工程と、
前記精神性発汗計測センサが、前記イベントトリガ手段を介した刺激で誘発された精神性発汗を計測する工程と、
前記演算装置が、前記イベントトリガ手段を介した刺激に対する反応を、前記精神性発汗計測センサの計測値由来のデータに基づき評価する工程と、
前記演算装置が、前記評価の信頼性を判定する工程を有し、
前記パラメータが、皮膚血流、皮膚圧、皮膚電位及び脳波からなる群から選択される少なくとも1つである、評価システムの作動方法。
【請求項12】
前記記憶装置が、前記パラメータの基準値を記憶する工程を有し、
前記演算装置が、前記判定を、前記基準値と前記パラメータ計測センサの計測値を対比して行う、請求項11に記載の評価システムの作動方法。
【請求項13】
前記演算装置が、前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値を決定し、前記記憶装置が、前記閾値を記憶する工程を有し、
前記演算装置が、前記評価を、前記記憶装置に記憶した前記精神性発汗の閾値と、前記精神性発汗計測センサの計測値由来のデータを対比して行う、請求項11又は12に記載の評価システムの作動方法。
【請求項14】
前記精神性発汗計測センサが、前記精神性発汗を計測する工程で、前記精神性発汗を連続的に複数回計測し、
前記演算装置が、前記連続的に複数回計測した計測値の変化により、前記刺激に対する反応を評価する、請求項11~13の何れかに記載の評価システムの作動方法。
【請求項15】
前記演算装置が、前記基準値と前記パラメータ計測センサの計測値を対比し、前記計測値が前記基準値の範囲から外れる場合、エラー情報を出力する工程を有する、請求項12に記載の評価システムの作動方法。
【請求項16】
前記エラー情報では、前記精神性発汗のゆらぎが大きく、前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗が、常態の被験者において前記刺激により誘発される精神性発汗とは異なることを警告する、請求項15に記載の評価システムの作動方法。
【請求項17】
前記演算装置が、前記基準値の調整、及び/又は精神性発汗計測センサの感度の調整を、被験者のパーソナルデータ、前記パラメータ計測センサの計測値、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値、からなる群から選択される少なくとも1つを用いて行う、請求項12に記載の評価システムの作動方法。
【請求項18】
前記演算装置が、前記閾値の算出及び/又は調整を、被験者のパーソナルデータ、前記パラメータ計測センサの計測値、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値、からなる群から選択される少なくとも1つを用いて行う、請求項13に記載の評価システムの作動方法。
【請求項19】
前記イベントトリガ手段が、ストレス評価を行うストレス評価手段であって、
前記各工程によってストレス評価を行う、請求項11~18の何れかに記載の評価システムの作動方法。
【請求項20】
前記イベントトリガ手段が、危険認知能力評価を行う危険認知能力評価手段であって、
前記各工程によって危険認知能力評価を行う、請求項11~18の何れかに記載の評価システムの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神性発汗の計測を伴う評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
発汗はその要因により、精神性発汗、温熱性発汗、味覚性発汗などに分類される。
精神性発汗、温熱性発汗、味覚性発汗とは、それぞれ順に、緊張した時や興奮した時に手のひらや足の裏に汗をかく現象、暑い時や運動した時に全身から汗をかく現象、刺激のあるものを食べたときに汗をかく現象、を意味する。
このうち、精神性発汗は、より具体的には、緊張や興奮によって交感神経が活発になり、手足の末端神経に発汗を促す現象を意味する。
【0003】
精神性発汗は、日常生活における様々な刺激で誘発され、ドキッとした時に微量ながらも瞬時に誘発されること、すなわち、刺激に対する感度が高いことが知られている。ヒトの覚醒中、その掌が常時に湿っているのは、この精神性発汗の感度の高さによる。
このような精神性発汗の感度の高さを利用する技術として、精神性発汗の量を生物学的指標として使用しながら、被験者の性格や、その検査時の自我状態を的確に評価する心の健康評価装置が開示されている(特許文献1)。また、運転シミュレータによって運転者の運転能力評価を行う際に、運転注意状況(黄色信号、子供の集団など)の映像に対する運転者の精神性発汗の量に基づき、運転者が危険性を正確に認知、予測しているかを把握することができる認知行動評価装置が開示されている(特許文献2)。
【0004】
特許文献1は、心の健康を評価する従来手法に精神性発汗に関するデータを組み合わせて評価精度の向上を図るものであり、特許文献2は、運転能力を評価する従来手法に精神性発汗に関するデータを組み合わせて評価精度の向上を図るものであるが、精神性発汗は、個人差、環境、ストレス等の各種要因によってゆらぎやすく、安定して高精度の評価を行うことは難しいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2512695号公報
【文献】特許第5366248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、精神性発汗の計測を伴う評価システムであって、安定して高精度の評価を行うことができる評価システムの提供を目的とする。
本発明の評価システムにおける「評価」とは、特許文献1のような「心の健康評価」や、特許文献2のような「認知行動評価」を含め、精神性発汗の計測を伴う評価を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[11]の評価システム及び[12]~[21]の評価方法を提供する。
【0008】
[1] 精神性発汗を計測する精神性発汗計測センサと、前記精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測するパラメータ計測センサと、精神性発汗を誘発するイベントトリガ手段と、前記イベントトリガ手段を介した刺激に対する反応を、前記精神性発汗計測センサの計測値に基づき評価する機能、及び、前記評価の信頼性を判定する機能、を有する演算装置を備える、評価システム。
[2] 前記パラメータの基準値を記憶する記憶装置を有し、前記判定を、前記基準値と前記パラメータ計測センサの計測値を対比して行う、[1]に記載の評価システム。
[3] 前記演算装置が、前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値を決定する機能、及び、前記精神性発汗計測センサの計測値由来のデータと前記閾値を対比する機能を有する、[1]又は[2]に記載の評価システム。
[4] 前記演算装置が、前記パラメータの基準値を調整する機能を備える、[1]~[3]の何れかに記載の評価システム。
[5] 前記イベントトリガ手段が、ストレス評価を行うストレス評価手段である、[1]~[4]の何れかに記載の評価システム。
[6] 前記イベントトリガ手段が、危険認知能力評価を行う危険認知能力評価手段である、[1]~[4]の何れかに記載の評価システム。
[7] 前記パラメータが、皮膚温、体温、皮膚血流、室温、皮膚圧、皮膚電位及び脳波からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]~[6]の何れかに記載の評価システム。
[8] 前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値及び/又は前記精神性発汗計測センサの感度を、被験者に合わせて補正する補正手段を有する、[3]~[7]の何れかに記載の評価システム。
[9] 前記演算装置の演算結果を出力する出力装置を備える、[1]~[8]の何れかに記載の評価システム。
[10] 前記演算装置の演算結果の再現性を確認する演算装置再現性確認手段を備える、[1]~[9]の何れかに記載の評価システム。
[11] 前記精神性発汗計測センサが、空気供給手段と、開口部が被験者の皮膚面に密着された状態で当該皮膚面から放散された発汗と前記空気供給手段から供給された空気とを内部空間で混合させるカプセルと、前記カプセルの内部空間で前記発汗と前記空気供給手段から供給された空気とが混合された混合気体を前記カプセルの外に排気させる排気通路と、前記空気供給手段から前記カプセルに供給される空気の湿度と前記排気通路から排気される混合気体の湿度の差に基づいて、前記皮膚面の発汗量を計測する計測手段を備える、[1]~[10]の何れかに記載の評価システム。
【0009】
[12] パラメータ計測センサを用いて、精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測する工程と、イベントトリガ手段を介した刺激により精神性発汗を誘発する工程と、精神性発汗計測センサを用いて、前記イベントトリガ手段を介した刺激で誘発された精神性発汗を計測する工程と、前記イベントトリガ手段を介した刺激に対する反応を、前記精神性発汗計測センサの計測値由来のデータに基づき評価する工程と、前記評価の信頼性を判定する工程を有する、評価方法。
[13] 前記パラメータの基準値を記憶装置に記憶する工程を有し、前記判定を、前記基準値と前記パラメータ計測センサの計測値を対比して行う、[12]に記載の評価方法。
[14] 前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値を決定し、記憶装置に記憶する工程を有し、前記評価を、前記記憶装置に記憶した前記精神性発汗の閾値と、前記精神性発汗計測センサの計測値を対比して行う、[12]又は[13]に記載の評価方法。
[15] 前記精神性発汗を計測する工程で、前記精神性発汗を連続的に複数回計測し、前記刺激に対する反応を評価する工程で、前記連続的に複数回計測した計測値の変化により、前記刺激に対する反応を評価する、[12]~[14]の何れかに記載の評価方法。
[16] 前記基準値と前記パラメータ計測センサの計測値を対比し、前記計測値が前記基準値の範囲から外れる場合、エラー情報を出力する工程を有する、[13]に記載の評価方法。
[17] 前記エラー情報では、前記精神性発汗のゆらぎが大きく、前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗が、常態の被験者において前記刺激により誘発される精神性発汗とは異なることを警告する、[16]に記載の評価方法。
[18] 前記基準値の調整、及び/又は精神性発汗計測センサの感度の調整を、被験者のパーソナルデータ、前記パラメータ計測センサの計測値、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値、からなる群から選択される少なくとも1つを用いて行う、[13]に記載の評価方法。
[19] 前記閾値の算出及び/又は調整を、被験者のパーソナルデータ、前記パラメータ計測センサの計測値、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値、からなる群から選択される少なくとも1つを用いて行う、[14]に記載の評価方法。
[20] 前記イベントトリガ手段が、ストレス評価を行うストレス評価手段であって、前記各工程によってストレス評価を行う、[12]~[19]の何れかに記載の評価方法。
[21] 前記イベントトリガ手段が、危険認知能力評価を行う危険認知能力評価手段であって、前記各工程によって危険認知能力評価を行う、[12]~[19]の何れかに記載の評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、精神性発汗の計測を伴う評価システムであって、安定して高精度の評価を行うことができる評価システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る評価システムの構成を説明する図である。
図2】一実施形態に係る評価システムを構成する精神性発汗計測センサの構成を説明する図である。
図3】一実施形態に係る評価方法のフロー図である。
図4】他の実施形態に係る評価方法のフロー図である。
図5】更に他の実施形態に係る評価方法のフロー図である。
図6】シミュレータを用いた自動車模擬運転での危険認知能力評価プロセスの一部を説明する図である。
図7】更に他の実施形態に係る評価方法のフロー図である。
図8】更に他の実施形態に係る評価方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の評価システムを詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[精神性発汗の計測を伴う評価システム]
本発明の評価システムは、精神性発汗を計測する精神性発汗計測センサ1と、精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測するパラメータ計測センサ100と、精神性発汗を誘発するイベントトリガ手段200と、イベントトリガ手段200を介した刺激に対する反応を精神性発汗計測センサの計測値由来のデータに基づき評価する機能、及び、前記評価の信頼性を判定する機能、を有する演算装置19を備える。
図1に示す実施形態のように、上記構成の他に、前記パラメータの基準値や前記イベントトリガ手段200を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値を記憶する記憶装置18、演算装置19による演算結果を表示する出力装置20、被験者の個人データ等を入力する入力装置22を備えることもできる。
演算装置19は、上記機能の他に、前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値を決定する機能、前記精神性発汗計測センサの計測値由来のデータと前記閾値を対比する機能、前記パラメータの基準値を調整する機能を備えることもできる。
【0014】
(精神性発汗計測センサ1)
精神性発汗計測センサ1は、精神性発汗を計測する機能を有するものであれば特に限定されない。例えば、図2に示すように、皮膚面SKに着接される開口部2を有する筐体カプセル3であって、該筐体カプセル3の内部に自然空気を吸気するための吸気孔4と、前記開口部2に連通して前記皮膚面SKの汗を放散させると共に、放散した前記汗及び前記自然空気が混合して混合空気となる混合室5と、前記混合室5から前記混合空気を排気するための排気孔6を有する筐体カプセル3と、前記自然空気の湿度を計測するための第1の湿度センサ7と、前記混合空気の温湿度を計測するための第2の湿度センサ8を備える精神性発汗計測センサ1を使用することができる。図2に示す精神性発汗計測センサ1は、更に、自然空気を排出する送風部13を、第1湿度センサの上流に備える。
図2に示す形態の精神性発汗計測センサ1は、精神性発汗の量を定量的に計測するものであるが、その他の実施形態として、手のひら若しくは足の裏の電気抵抗や電位を計測するなど、精神性発汗の出現を電気的な手法で計測するものを用いることもできる。
精神性発汗計測センサ1が精神性発汗の量を定量的に計測するものの場合、「精神性発汗の閾値」とは、定量的に計測された精神性発汗の計測値の閾値を意味し、精神性発汗計測センサ1が精神性発汗の出現を電気的な手法で計測するものの場合、「精神性発汗の閾値」とは、電気的な手法で計測された精神性発汗の計測値の閾値を意味する。
【0015】
<送風部13>
送風部13が筐体カプセル3の外部にある場合、例えば、コンプレッサを送風部13として使用することができる。コンプレッサは自然空気を吸入したうえ、自然空気を送出する。コンプレッサから送出された自然空気は、フレキシブルパイプ14を経由して、筐体カプセル3の混合室5に供給される。送風部13が筐体カプセル3の内部にある場合、送風部13は混合室5の上流に配置することが好ましい。混合室5の上流に配置された送風部13は、吸気孔4から自然空気を吸気して、混合室5に送風する。例えば、電動のエアーファン、エアーポンプ又はエアーブロワを送風部13として使用することができる。
【0016】
<筐体カプセル3>
筐体カプセル3の形態は特に限定されないが、例えば、上端が閉じられた略筒状(一例として略円筒状)に形成することができる。
筐体カプセル3の素材も特に限定されないが、例えば、合成樹脂によって形成することができる。
【0017】
筐体カプセルの内部に自然空気を吸気するための吸気孔4は、筒状の筐体カプセル3の内径よりも小径(小さいサイズ)である。
【0018】
筐体カプセル3は、下端(皮膚面SK側)に、皮膚面SKに着接(貼付)される開口部2を有する。
開口部2の開口面積は、限定されないが、例えば、1cmとすることができる。皮膚面SKの発汗量の単位をmg/cm・minで表す場合、開口部2の開口面積が1cmであれば、発汗量の計測値を面積で除算して換算することなくそのまま使用することができる。
筐体カプセル3の皮膚面SKへの貼付は、開口部2の周辺部に例えば両面テープ、接着剤又は粘着剤を付して行うことができる。
【0019】
筐体カプセル3は、内側に、前記開口部2に連通する混合室5を有する。
混合室5は、皮膚面SKに着接された状態で皮膚面SKの汗を放散させると共に、放散した汗と自然空気とを混合させる空間としての機能を有する。
【0020】
混合室5から前記混合空気を排気するための排気孔6は、筒状の筐体カプセル3の内径よりも小径(小さいサイズ)である。
【0021】
<第1の湿度センサ7>
第1の湿度センサ7は、送風部13の送風する自然空気の湿度を計測する機能を備える。
図2の実施形態では、筐体カプセル3の外部にあるボックス15の内部に、第1の湿度センサ7が配設されている。本実施形態において、第1の湿度センサ7は、送風部13であるコンプレッサから送出され、ボックス15の内部に供給された自然空気の絶対湿度を計測する。
絶対湿度を計測する第1の湿度センサ7の代わりに、ボックス15の内部に、相対湿度センサと温度センサを配設して、ボックス15の内部に流れてきた自然空気の絶対湿度を求めることもできる。温度センサと湿度センサとが一体的に形成されたものを用いてもよい。
【0022】
<第2の湿度センサ8>
第2の湿度センサ8は、前記混合空気の湿度を計測する機能を備える。
図2の実施形態では、筐体カプセル3の外部にあるボックス16の内部に、第2の湿度センサ8が配設されている。本実施形態において、第2の湿度センサ8は、筐体カプセル3から排気され、ボックス16の内部に供給された混合空気の絶対湿度を計測する。
絶対湿度を計測する第2の湿度センサ8の代わりに、ボックス16の内部に、相対湿度センサと温度センサを配設して、ボックス16の内部に流れてきた自然空気の絶対湿度を求めることもできる。温度センサと湿度センサとが一体的に形成されたものを用いてもよい。
【0023】
<回路構成>
図2に示す実施形態では、第1の湿度センサ7、第2の湿度センサ8が、それぞれフィルタ回路F1、F2と電気的に接続されている。フィルタ回路F1及びF2は、前記の各センサから出力された上記検知信号を入力すると、それぞれの検知信号に含まれる雑音成分を除去したあと、所定の増幅率で検知信号を増幅する。
フィルタ回路F1、F2の出力側に差動増幅器DA1が接続されている。
フィルタ回路F1の出力側は差動増幅器DA1の反転入力端子(-)に接続されている。
フィルタ回路F2の出力側は差動増幅器DA1の非反転入力端子(+)に接続されている。
この構成により、差動増幅器DA1は、第1の湿度センサ7により検知された自然空気の絶対湿度に対応した信号と、第2の湿度センサ8により検知された混合空気の絶対湿度に対応した信号との差の信号を出力する。差動増幅器DA1から出力される信号は、皮膚面SKから混合室5に放散された発汗量に対応している。
差動増幅器DA1から出力された信号が、演算装置19に入力されると、演算装置19は、それぞれの入力信号に基づいて皮膚面SKから混合室5に放散された実際の発汗量を計算する。前記計算により得られた発汗量は、前記出力装置20に表示することができる。
【0024】
(パラメータ計測センサ100)
パラメータ計測センサ100は、精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測する機能を有するものであれば特に限定されない。
精神性発汗のゆらぎの要因となる事象として、例えば、「皮膚温度、体温、皮膚血流量」、「室温」、「皮膚の圧迫」、「覚醒水準(眠気)」を例示することができ、前記パラメータは、皮膚温、体温、皮膚血流、室温、皮膚圧、皮膚電位及び脳波からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
パラメータ計測センサ100による計測結果は、演算装置19に送信される。
【0025】
<皮膚温センサ、体温センサ、皮膚血流センサ、室温センサ>
前記パラメータとして皮膚温を計測する場合、皮膚表面の温度を計測する機能を有する皮膚温センサがパラメータ計測センサ100となり、例えば、サーミスタ、熱電対、サーモパイル等を使用することができる。
前記パラメータとして体温を計測する場合、体温を計測する機能を有する体温センサがパラメータ計測センサ100となり、例えば、体温計を使用することができる。
前記パラメータとして皮膚血流を計測する場合、皮膚血流を計測する機能を有する皮膚血流センサがパラメータ計測センサ100となり、例えば、レーザードップラー型皮膚血流センサを使用することができる。
前記パラメータとして室温を計測する場合、室温センサがパラメータ計測センサ100となり、例えば、室温計等を使用することができる。
【0026】
ヒトは体内で常に熱を産生しており、暑いときには積極的な放熱を行い、寒いときには極力放熱をしないよう調節される。熱放散の機構の一つとして皮膚血流によるものがあり、暑いときには深部で暖められた血液を末梢の皮膚に送ることで放熱を行うため、皮膚血流量が増え皮膚温が上昇し、寒いときには皮膚に送る血液を減らし放熱を抑制するため、皮膚血流量が低下し、皮膚温も低下する。このような、体温調節機構は精神性発汗に影響を与えることから、精神性発汗は一般的に快適とされる温度(20℃~26℃)で測定する必要がある。簡単には、測定環境の温度でゆらぎ要因を評価しても良いが、個人差を加味し生体情報から評価するのが望ましく、皮膚温が簡便ある。例えば、手のひらの皮膚温は快適環境で30℃程度である。
例えば、皮膚温、体温、皮膚血流、室温の少なくとも何れかが所定値以下の「低温状態」の場合は、その情報を出力して注意を促すことができる。
【0027】
<皮膚圧センサ>
前記パラメータとして皮膚圧を計測する場合、皮膚に加わる圧力を計測する機能を有する皮膚圧センサがパラメータ計測センサ100となりうる。
皮膚を圧迫することにより、発汗反応が抑制されることが知られている。例えば、皮膚圧が、所定値以上の「高圧状態」の場合、その情報を出力して注意を促すことができる。
椅子の背もたれに体を預けるように背部を圧迫したことにより、有意に精神性発汗が減少するというデータもある。皮膚圧センサは精神性発汗の測定部位だけでなく、圧力が掛かる可能性のある皮膚の各部位に設置するのが望ましい。
【0028】
<皮膚電位センサ>
前記パラメータとして皮膚電位を計測する場合、皮膚電気活動を計測する機能を有する皮膚電気活動センサがパラメータ計測センサ100となりうる。
皮膚電気活動(Electro Dermal Activity、以下EDA)は、精神活動状態を示すパラメータとして知られている。EDAは一般に、エクリン汗腺の活動による電気現象が表皮や汗腺管等の状態によって修飾されて出現すると言われており、発汗現象と深い関わりがあると考えられている。
EDAは、皮膚電位(skin potential activity: SPA)と皮膚コンダクタンス(skin conductance activity: SCA)に大別され、皮膚電位活動(SPA)は皮膚電位水準(skin potential level: SPL)と皮膚電位反射(skin potential reflex: SPR)に区別される。
皮膚電位水準(SPL)は皮膚電位活動(SPA)の直流成分であり、SPLは一般に、覚醒水準が高いとき(興奮しているとき)は陰性に高い値を示す。一方、眠気を催した状態や
リラックスした状態ではSPLが陽性方向に傾く。
皮膚電位反射(SPR)は皮膚電位活動(SPA)の交流成分であり、痛覚、触覚、聴覚、視覚など外部環境変化による刺激や深呼吸・身体の動き、暗算や考え事をしてもSPRが頻発する。SPRの振幅は刺激の強さとほぼ直線的な関係があると言われている。
皮膚電気活動は発汗神経活動の機能を反映していると考えられ、皮膚電気活動を観測することで精神性発汗を定性的に知ることができる。
皮膚電気活動センサとしては、Ag-AgCl電極などを使用し、有毛部と無毛部の電位差を計測することで実現できる。
一般的な計測方法において通常の覚醒水準の場合、SPLは-25mV程度と言われており、例えば、SPLが-10mVよりもゼロに近い「低覚醒水準」の場合は、その情報を出力して注意を促すことができる。
【0029】
<脳波センサ>
前記パラメータとして脳波を計測する場合、脳波を計測する機能を有する脳波センサがパラメータ計測センサ100となりうる。
脳波のうち8~13Hzのα波はリラックスしたときに増加する成分であると言われており、α波の増加とSPLがゼロに近づく現象が同期しておこる現象が確認されている。すなわち、例えば、α波の増加が著しい場合、「低覚醒水準」として、その情報を出力して注意を促すことができる。
まどろんだり、うとうとしたりする状態では低電位で2~7Hzの波が検出されることが知られているので、それを指標にしても良い。このような覚醒度の低い状態では、精神性発汗が抑制される可能性が高い。
【0030】
(イベントトリガ手段200)
イベントトリガ手段200は、精神性発汗を誘発する機能を有するものであり、ストレス評価を行うストレス評価手段や、危険認知能力評価を行う危険認知能力評価手段を例示することができる。
【0031】
<ストレス評価手段>
ストレス評価手段としては、例えば、画面に「会社や上司に不満はありますか」等のストレス状況を思い起こさせる質問を提示したり、「上司や顧客からの問い合わせ」等のストレスを感じる可能性がある映像を提示して、これらの質問や映像に対する被験者の反応を評価するストレス評価装置を例示することができる。
【0032】
<危険認知能力評価手段>
危険認知能力評価手段としては、例えば、シミュレータを用いた自動車模擬運転中に、危険状況(人の飛び出しなど)や注意状況(黄色信号、子供の集団など)映像を提示して、これら映像に対する被験者の反応を評価する危険認知能力評価装置を例示することができる。
【0033】
[上記評価システムを用いた評価方法]
本発明の評価方法は、図3に示すように、パラメータ計測センサを用いて、精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測する工程(ST3´)と、イベントトリガ手段を介した刺激により精神性発汗を誘発する工程(ST1)と、精神性発汗計測センサを用いて、前記イベントトリガ手段を介した刺激で誘発された精神性発汗を計測する工程(ST2)と、前記イベントトリガ手段を介した刺激に対する反応を、前記精神性発汗計測センサの計測値由来のデータに基づき評価する工程(ST4)と、前記精神性発汗計測センサの計測値に基づく評価の信頼性を判定する工程(ST5´)を有する。
ここで(ST4)の「精神性発汗計測センサの計測値由来のデータ」とは、精神性発汗計測センサの計測値データ自体の他、計測値データに対しベースラインの排除や、適宜の演算処理を行ったデータも含むことを意味する。
【0034】
(ST4)では、イベントトリガ手段を介した刺激により発汗量が増加したことをもって「反応有り」と評価する。例えば、イベントトリガ手段を介した刺激の提示前の数秒間の発汗量の積算と、前記刺激の提示後の数秒間を比較し、後者が大きければ「反応有り」と評価できる。また、前記刺激の提示後に微分値がプラスの値を取ったことをもって「反応有り」と評価しても良い。また、精神性発汗計測センサの計測値のトレンドから判定する方法も同義であるから、精神性発汗計測センサの計測値の数秒間の移動平均線と計測値がクロスしたポイントを「反応有り」と評価することもできる。
【0035】
(ST5´)では、例えば、事前に記憶装置に記憶した「パラメータの基準値」と、「パラメータ計測センサの計測値」を対比し、パラメータ計測センサの計測値が、パラメータの基準値の範囲にない場合には、その条件下で測定して得られた精神性発汗計測センサの計測値は、ゆらぎが大きい計測値であると判定する。すなわち、その条件下では、イベントトリガ手段を介した刺激に対する精神性発汗の発汗量が、ゆらぎの小さい常態下で誘発される精神性発汗の発汗量とは異なる可能性が高いため、前記精神性発汗計測センサの計測値に基づく評価の信頼性が低く、正確な評価が行えない(評価不可)と判定する。
【0036】
図4に示す実施形態は、(ST1´)~(ST6´)の準備プロセスと、(ST0)~(ST4)の評価プロセスからなる。
以下、各工程について説明する。
【0037】
(ST1´)では、被験者のパーソナルデータ(年齢、性別等)を、入力装置22を介して入力し、記憶装置18に記憶させる。
【0038】
(ST2´)では、被験者にパラメータ計測センサ100及び精神性発汗計測センサ1を装着させる。
【0039】
(ST3´)では、パラメータ計測センサ100を用いて精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータを計測する。前記のように、パラメータは、皮膚温、体温、皮膚血流、室温、皮膚圧、皮膚電位及び脳波からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。パラメータ計測センサ100による計測結果は、演算装置19に送信される。
【0040】
(ST4´)では、(ST3´)の計測結果を使用して、任意の数値の加減乗除算、任意区間の平均、任意区間の微分・積分処理、オフセット調整、周波数解析などの演算処理が行われる。複数の演算処理を行うこともできる。
【0041】
(ST5´)では、精神性発汗計測センサの計測値に基づく評価の信頼性を判定する。
(ST5´)では、例えば、シミュレータを用いた自動車模擬運転での危険認知能力評価において、精神性発汗のゆらぎの要因となるパラメータである「室温」と「皮膚電位」を計測する。室温が25.1℃±0.3℃であり適温で、皮膚電位は-10mVを下回らないことを確認してから、イベントトリガ手段として、「前方より人の飛び出し」「対向車発見」「自転車追い越し」などの場面を映像として流しながら模擬運転(ハンドル操作、アクセル・ブレーキ操作)を行ってもらい、模擬運転時の精神性発汗を計測する。室温が低温及び/又は皮膚電位が―10mVを下回る場合、その被験者の常態での精神性発汗の発汗量よりも抑制されている可能性が大きく、正確に計測されない可能性が高い。よって、そのパラメータの状態では正確な評価が行えない(評価不可)と判定する。前記判定結果は、「計測エラー」等の形で、出力装置に表示してもよい。
ST5´の評価の結果、その条件下では、精神性発汗計測センサの計測値に基づく評価から正確な情報が得られない(評価不可)と判定した場合、その判定結果を「計測エラー」等の形で、出力する工程(ST5´―a)を有することが好ましい。
(ST5´―a)では、「部屋の温度を適切にする」、「装着状態を確認する」などの具体的な改善処置を指示することが好ましい。例えば、パラメータ計測センサの計測値が「覚醒度が低い(すなわち、発汗が抑制される)」ことを示している場合、覚醒を促した後に、次工程に進むことが好ましい。
【0042】
(ST6´)では、精神性発汗を誘発するイベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値を決定し、記憶装置に記憶する。
前記イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値の決定は、被験者のパーソナルデータ、前記パラメータ計測センサの計測値、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値、からなる群から選択される少なくとも1つを用いて行うことが好ましい。
テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値を用いて前記閾値の決定を行う場合、例えば、「テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値の30%を閾値とする」などのルールに従って、前記閾値の決定を行うことができる。
被験者のパーソナルデータとテスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値を用いて前記閾値の決定を行う場合、例えば、被験者の年齢、性別を加味して、「発汗量が多い若年者の場合、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値の30%、発汗量が少ない高齢者の場合、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値の30%とする」などのルールに従って、前記閾値の決定を行うことができる。
前記イベントトリガ手段を介した刺激の直後に精神性発汗の測定値の瞬時値が閾値を上回ったことをもって、イベントトリガ手段を介した刺激により精神性発汗が誘発されたことを判断することもできる。
精神性発汗は皮膚交感神経の活動を反映するもので、(1)連続的に測定される発汗量の最大値や微分値は、神経活動の強さを表し、(2)連続的に測定される発汗量の平均値や積分値は、発汗の拍出量を表し、(3)連続的に測定される発汗量の周波数は、神経活動の頻度を表す。前記(1)~(3)のいずれも、イベントトリガ手段により誘発される精神性発汗の評価に活用することができる。ただし、前記精神性発汗センサは、湿度センサに供給する空気の流量や湿度センサの特性により応答性が変化するものであり、前記(1)や前記(3)は機器の特性により影響を受けやすいため、まずは、前記(2)「連続的に測定される発汗量の平均値や積分値」を検討することが望ましい。一方で、自動車運転中の危険認知の評価のように、次々と刺激が提示されるような場合、前記(2)は、誘発される発汗量が積み上がってしまうことがあるため、前記(1)や前記(3)の処理を行うことが望ましい。
前記精神性発汗の閾値は、前記(1)、前記(2)、前記(3)のような、演算処理をされた数値に対して設定することができる。
【0043】
テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値を用いて前記閾値の決定を行う場合、図5の(ST51´)~(ST55´)の各工程を追加することが好ましい。
(ST51´)では、被験者にテスト刺激を与える。ハンドグリップや深呼吸、暗算、数字の逆唱などをテスト刺激として用いることができる。各テスト刺激による精神性発汗の基準値を事前に記憶装置に記憶しておくことが好ましい。
(ST52´)では、(ST2´)で装着した精神性発汗計測センサ1を用いて、テスト刺激により誘発される精神性発汗を計測する。
(ST53´)では、(ST52´)の計測結果を使用して、任意の数値の加減乗除算、任意区間の平均、任意区間の微分・積分処理、オフセット調整、周波数解析などの演算処理が行われる。複数の演算処理を行うこともできる。
(ST54´)では、記憶装置に記憶した前記テスト刺激による精神性発汗の基準値と前記精神性発汗計測センサの計測値を対比する。
(ST55´)では、(ST54´)での対比結果に基づいて前記精神性発汗計測センサの感度調整を行う。例えば、前記精神性発汗計測センサの計測値を、ある値とするよう、任意の数値を乗除算して、テスト刺激を与えた際に誘発される精神性発汗の値を100%として、イベントトリガ手段を介した刺激で誘発される精神性発汗を%表示することができる。
前記精神性発汗計測センサの感度調整のために、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値と前記パラメータ計測センサの計測値を併用してもよい。例えば、パラメータ計測センサの計測値が「覚醒度が低い(すなわち、発汗が抑制される)」ことを示している場合、前記精神性発汗計測センサの感度を高く調整することができる。
【0044】
前記のように精神性発汗は、個人差、環境、ストレス等の各種要因によってゆらぎやすいという特徴を有するが、(ST6´)及び/又は(ST55´)において、被験者のパーソナルデータ、前記パラメータ計測センサの計測値、テスト刺激により誘発される精神性発汗の計測値、からなる群から選択される少なくとも1つを用いて、精神性発汗の閾値の決定及び/又は前記精神性発汗計測センサの感度調整を行うことにより、これらの「ゆらぎ」を効果的に排除することができる。
【0045】
前記のように、図4に示す実施形態は、(ST1´)~(ST6´)の準備プロセスと、(ST0)~(ST4)の評価プロセスからなり、前記(ST1´)~(ST6´)の準備プロセスを経た後、(ST0)で、イベントトリガ手段200の準備を整えて、評価プロセス((ST0)~(ST4))を開始する。
【0046】
(ST1)では、イベントトリガ手段200(ストレス評価手段、危険認知能力評価手段等)を用いて、精神性発汗を誘発する。
【0047】
(ST2)では、精神性発汗計測センサ1を用いて、イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗を計測する。
【0048】
(ST3)では、(ST2)の計測結果を使用して、任意の数値の加減乗除算、任意区間の平均、任意区間の微分・積分処理、オフセット調整、周波数解析、最大値の算出などの演算処理が行われる。複数の演算処理を行うこともできる。
一般的に覚醒中は、常に精神性発汗が生じており、精神的刺激を加えないと一定の値(ベースライン)に落ち着く。イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗(=提示される刺激に対する反応)を評価する上で、このベースラインは不要であるためオフセット調整が有効である。
【0049】
(ST4)では、事前に記憶装置に記憶した「イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される精神性発汗の閾値」と、「精神性発汗計測センサの計測値由来のデータ」を対比し、精神性発汗計測センサの計測値由来のデータが、前記閾値を超える場合は、前記刺激に対して「反応有り」と評価する。
閾値を設けることにより、些細な心の動きや電気的ノイズを除去することができる。発汗の増加量(反応量)がある一定以上であるとき、閾値を設けることが有効である。
閾値<精神性発汗計測センサの計測値由来のデータの場合、「イベントトリガ手段を介した刺激による精神性発汗の誘発あり」との判定を行い、「イベントトリガ手段を介した刺激への反応あり」を確定する(ST41)。確定後、イベントトリガ手段に応じて、例えば、「自動車の運転時において適切に危険状況及び注意状況を認知することができる」「職場でのストレス要因として『A、B,C・・』が挙げられる」等の出力が行われる。
閾値>精神性発汗計測センサの計測値由来のデータの場合、「イベントトリガ手段を介した刺激による精神性発汗の誘発なし」との判定を行い、「イベントトリガ手段を介した刺激への反応なし」を確定する(ST42)。確定後、イベントトリガ手段に応じて、例えば、「自動車の運転時において適切に危険状況及び注意状況を認知することができない」「職場でのストレス要因は特にない」等の出力が行われる。
具体例として、図6に、シミュレータを用いた自動車模擬運転での危険認知能力評価プロセスの一部を示している。図6の上段(a)は、イベントトリガ手段に、「前方より人の飛び出し」「対向車発見」「自転車追い越し」などの場面を映像として流しながら模擬運転(ハンドル操作、アクセル・ブレーキ操作)を行ってもらい、模擬運転時の精神性発汗を計測して得られる計測値データである。図6の上段(a)に示すように、若年者に比べ、高齢者の発汗量は極端に小さいことが分かる。これは、加齢による精神性発汗の低下によるものである。図6の中段(b)は、ベースラインを排除した後、ハンドグリップテスト時の発汗量を100%として、それに対する割合で表示したデータである。図6の下段(c)は、図6の中段(b)を微分して得た波形データである。若年者は1、高齢者は0.5を閾値として定め、図6の下段(c)の波形データが、前記閾値を上回った時に“反応あり(危険を認知した)”と評価する。
【0050】
イベントトリガ手段200を介した刺激により精神性発汗が誘発される以前の発汗量が既に多い場合には過緊張状態であり、イベントトリガ手段200を介した刺激により誘発される精神性発汗であるか、そもそもの過緊張状態が影響しているのか区別できないため、発汗量が安定した後、精神性発汗の評価をすることが好ましい。具体的には、(ST1)の前工程として、図7の(ST1´´)~(ST3´´)の各工程を追加することが好ましい。
(ST1´´)では、精神性発汗計測センサ1を用いて、イベントトリガ手段を介した刺激により誘発される以前の精神性発汗を計測する。
(ST2´´)では、(ST1´´)の計測結果を使用して、任意の数値の加減乗除算、任意区間の平均、任意区間の微分・積分処理、オフセット調整、周波数解析などの演算処理が行われる。複数の演算処理を行うこともできる。
(ST3´´)では、記憶装置に記憶したイベントトリガ手段を介した刺激により誘発される以前の精神性発汗の基準値と、前記精神性発汗計測センサ1の計測値を対比して、前記計測値が前記基準値を上回る場合は、(ST1)に移行せず、(ST1´´)~(ST3´´)を繰り返して、精神性発汗の計測値が基準値内に収まり、発汗量が安定した状態となったことを確認した上で、イベントトリガ手段を介した刺激に対する精神性発汗の評価を行うことが好ましい。
精神性発汗は個人差が大きくみられる現象であり、ここで精神性発汗の基準値とは、被験者における基準値を意味する。
【0051】
長時間の計測を行う場合は、疲労等の影響により覚醒度が低下したり、体温が変動している可能性があるため、(ST4)の対比結果が「精神性発汗の閾値>精神性発汗計測センサの計測値」のとき、(ST42)の確定前に、図8の(ST41´)~(ST43´)の各工程を追加することが好ましい。
(ST41´)では、パラメータ計測センサ100によって、パラメータ(覚醒度や体温等)の評価を行う。
(ST42´)では、記憶装置に記憶した前記パラメータの基準値と前記パラメータ計測センサの計測値を対比して、被験者の覚醒度や体温が、基準値の範囲内にあるか否かを判定する。
(ST43´)では、(ST42´)で基準値の範囲内にないとの判定を得た場合、基準値から外れたパラメータに影響を及ぼす因子の調整(例えば、覚醒を促す、室温を調整する)、及び/又は、精神性発汗計測センサの感度の再調整、及び/又は、精神性発汗の閾値の再調整等を行い、再度、(ST1)~(ST4)の工程で評価を継続する。
【0052】
イベントトリガ手段を介した刺激に対する発汗量の計測は、たまたま反応があった/なかったという可能性がある。評価精度をより高めるためには、同種のイベントトリガ手段を介した刺激に対する発汗量の計測を複数回行い、再現性を確認することが好ましい。具体的には、(ST41)(ST42)での評価確定の前工程として、図8の(ST51)~(ST61)又は(ST52)~(ST62)の再現性確認工程を追加することが好ましい。
(ST61)(ST62)で、再現性なしとの判断の場合、(ST1´´)に戻って、再度、(ST1´´)~(ST3´´)及び(ST1)~(ST4)を含む工程で評価を継続することが好ましい。
なお、再現性の確認は、短期間に連続して行わず、数日間かけて確認を行っても良い。再現性の確認を後日改めて行う場合には、現時点での計測結果を対応するイベントトリガ手段を介した刺激とともに、記憶装置に記録しておくことができる。再現性の確認を後日改めて行う場合には、センサの付け直しや環境の変動などが考えられるため、(ST2´)に戻って、再度(ST2´)~(ST6´)及び(ST1)~(ST4)を含む工程で評価を継続することが好ましい。
【0053】
上記構成からなる評価システムによれば、精神性発汗計測センサを利用して行われるストレス評価や、運転時における認知行動評価等において、安定して高精度の評価を行うことができる。
【符号の説明】
【0054】
1 精神性発汗計測センサ
2 開口部
3 筐体カプセル
4 吸気孔
5 混合室
6 排気孔
7 第1の湿度センサ
8 第2の湿度センサ
13 送風部
14 フレキシブルパイプ
15 ボックス
16 ボックス
17 フレキシブルパイプ
18 記憶装置
19 演算装置
20 出力装置
21 制御装置
22 入力装置
100 パラメータ計測センサ
200 イベントトリガ手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8