IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 石川県の特許一覧 ▶ 高松機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-加工工具 図1
  • 特許-加工工具 図2
  • 特許-加工工具 図3
  • 特許-加工工具 図4
  • 特許-加工工具 図5
  • 特許-加工工具 図6
  • 特許-加工工具 図7
  • 特許-加工工具 図8
  • 特許-加工工具 図9
  • 特許-加工工具 図10
  • 特許-加工工具 図11
  • 特許-加工工具 図12
  • 特許-加工工具 図13
  • 特許-加工工具 図14
  • 特許-加工工具 図15
  • 特許-加工工具 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】加工工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/00 20060101AFI20240603BHJP
   B23B 29/02 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B23B27/00 C
B23B29/02 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020172973
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064382
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591040236
【氏名又は名称】石川県
(73)【特許権者】
【識別番号】591014835
【氏名又は名称】高松機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】宮川 広康
(72)【発明者】
【氏名】高野 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】廣崎 憲一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇太
(72)【発明者】
【氏名】二輪 聡
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147367(JP,A)
【文献】国際公開第2012/084688(WO,A1)
【文献】特開2022-012157(JP,A)
【文献】特開2020-131318(JP,A)
【文献】特開2001-200330(JP,A)
【文献】特開平03-221303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23P 5/00-17/06
B23P 23/00-25/00
C21D 6/00-6/04
B23C 1/00-9/00
B23Q 11/00-13/00
B23K 26/00-26/70
B22F 3/105
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置の工具取付部に取り付けられる取付支持部、前記取付支持部から延びるシャンク部及び前記シャンク部の先端部に設けられた切れ刃取付部を有する工具本体と、前記工具本体の前記切れ刃取付部に取り付けられた加工用チップとを備えた加工工具において、
前記シャンク部は、ソリッド構造であるソリッド構造部と、ラティス構造であるラティス構造部と、中空空間である中空構造部とから構成され、前記シャンク部の前記ラティス構造部の体積は、前記シャンク部の前記ソリッド構造部及び前記ラティス構造部の合計体積の20~40%であり、
また、前記シャンク部の軸方向中心部を基準として前記切れ刃取付部側である前部において、前記ソリッド構造部の体積が20~40%、前記ラティス構造部の体積が25~45%、前記中空構造部の体積が25~45%であることを特徴とする加工工具。
【請求項2】
前記シャンク部は、軸方向中心部を基準にして前記取付支持部側のシャンク後部と、前記軸方向中心部を基準にして前記切れ刃取付部側のシャンク前部とから構成され、前記シャンク前部の重量は、前記シャンク後部の重量の60%以下であることを特徴とする請求項に記載の加工工具。
【請求項3】
前記シャンク前部における前記ラティス構造部の体積は、前記シャンク前部における前記ソリッド構造部及び前記ラティス構造部の合計体積の40%以上であり、前記シャンク前部においては、前記ソリッド構造部及び前記ラティス構造部の合計体積のうち前記ラティス構造部の体積が占める割合は、前記切れ刃取付部に向けて漸増していることを特徴とする請求項に記載の加工工具。
【請求項4】
前記切れ刃取付部側から前記シャンク部を見て、前記シャンク前部をその中心軸を中心として加工工具の切込み方向を基準に反時計方向に4分割して第1~第4領域としたときに、前記第1領域においては、前記ラティス構造部の体積が最も大きく、前記第2領域においては、前記中空構造部の体積が最も大きく、前記第3領域においては、前記ソリッド構造部の体積が最も大きく、前記第4領域においては、前記ラティス構造部の体積が最も大きいことを特徴とする請求項に記載の加工工具。
【請求項5】
前記切れ刃取付部側から前記シャンク部を見て、前記シャンク前部をその中心軸を中心として加工工具の切込み方向を基準に反時計方向に4分割して第1~第4領域としたときに、前記第1領域においては、前記ソリッド構造部の体積が20~40%で、前記ラティス構造部の体積が30~50%であり、前記第2領域においては、前記ソリッド構造部の体積が0~20%で、前記ラティス構造部の体積が10~30%であり、前記第3領域においては、前記ソリッド構造部の体積が40~60%で、前記ラティス構造部の体積が30~50%であり、前記第4領域においては、前記ソリッド構造部の体積が20~40%で、前記ラティス構造部の体積が30~50%であることを特徴とする請求項に記載の加工工具。
【請求項6】
前記シャンク部における前記ソリッド構造部と前記ラティス構造部との境界面は、自由曲面形状であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の加工工具。
【請求項7】
前記シャンク部における前記ソリッド構造部、前記ラティス構造部及び前記中空構造部を含む形状は、トポロジー最適化解析を用いて導出し、前記トポロジー最適化解析において、びびり振動を励起する加工工具の振動モードにおける切込み方向の振幅を最小化することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の加工工具。
【請求項8】
前記シャンク部の前記ラティス構造部を構成する各ラティス構造は、固体占有率が30~70%であり、その格子間隔は0.5~5.0mmであることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の加工工具。
【請求項9】
前記シャンク部の内部には、前記切れ刃取付部側に液体を送給するための液体流路が設けられ、前記ラティス構造部は前記液体流路の一部を構成することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の加工工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状物の内周面を切削加工する際に用いるボーリングバーなどの加工工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、円筒状物の内周面を切削加工するときには、加工工具としてボーリングバーが用いられている。このボーリングバーは、例えばNC旋盤などの加工装置の工具取付部に取り付けられる取付支持部と、この取付支持部から延びるシャンク部と、このシャンク部の先端部に設けられた切れ刃取付部とを備え、この切れ刃取付部に加工用チップが取り付けられる。このようなボーリングバーを用いた場合、シャンク部が取付支持部から突出しているので、加工用チップを円筒状物の内側奥部まで挿入することが可能となり、従って、加工用チップによって、円筒状物の内周面を切削加工することができる。
【0003】
しかし、このようなボーリングバーを用いた加工では、切削加工時の切削抵抗によってびびり振動(自励振動現象)が発生しやすくなり、特に細長い円筒状物の内周面を加工する場合においては、加工工具のシャンク部も細長くなり、びびり振動がより発生しやすくなる。
【0004】
そこで、このびびり振動を抑えるようにした構造のボーリングバーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このボーリングバーにおいては、シャンク部の基部側に一対の第1窪み面が設けられ、その先端側に第2窪み面が設けられ、一対の第1窪み面は、第1軸方向に向いて互いに背向配置され、また一対の第2窪み面は、第2軸方向に向いて互いに背向配置されている。尚、切れ刃の径方向の外端とシャンク部の中心軸とを通る軸を基準軸としたときに、第1軸とは、シャンク部の中心軸を通り且つこの基準軸との間に所定の傾斜角を形成して延びる軸であり、第2軸とは、シャンク部の中心軸を通り且つ第1軸に直交して延びる軸である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-167347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このボーリングバーにおいても、シャンク部がソリッド構造(中実構造)であるために、加工時に発生するびびり振動を効果的に抑えることが難しいという問題がある。即ち、このびびり振動を抑えるためには、加工時(例えば、切削加工時)に発生する加工抵抗(切削抵抗)の背分力方向における振動振幅を小さくして加工抵抗の変動を少なくし、この振動振幅の増幅を抑える必要があり、ソリッド構造では、このような条件を満たすボーリングバーを製作するのが容易でない。
【0007】
このようなびびり振動の問題は、ボーリングバーだけでなく、その他の加工工具においても同様に発生するおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、加工抵抗の背分力方向における振動振幅を小さくすることで加工抵抗の変動を少なくし、これにより、びびり振動の発生を抑えることができる加工工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の加工工具は、加工装置の工具取付部に取り付けられる取付支持部、前記取付支持部から延びるシャンク部及び前記シャンク部の先端部に設けられた切れ刃取付部を有する工具本体と、前記工具本体の前記切れ刃取付部に取り付けられた加工用チップとを備えた加工工具において、
前記シャンク部は、ソリッド構造であるソリッド構造部と、ラティス構造であるラティス構造部と、中空空間である中空構造部とから構成され、前記シャンク部の前記ラティス構造部の体積は、前記シャンク部の前記ソリッド構造部及び前記ラティス構造部の合計体積の20~40%であり、
また、前記シャンク部の軸方向中心部を基準として前記切れ刃取付部側である前部において、前記ソリッド部の体積が20~40%、前記ラティス構造部の体積が25~45%、前記中空構造部の体積が25~45%であることを特徴とする。
【0010】
このような加工工具においては、加工工具のシャンク前部の重量が、シャンク後部の重量の60%以下であることが好ましく、このように構成することにより、シャンク前部の重量が軽くなり、シャンク部の動剛性をより大きくすることができる。
【0011】
また、シャンク前部におけるラティス構造部の体積は、シャンク前部におけるソリッド構造部及びラティス構造部の合計体積の40%以上であり、このシャンク前部においては、ラティス構造部の体積が占める割合は、切れ刃取付部に向けて漸増していることが好ましく、このように構成することにより、シャンク前部においては切れ刃取付部側ほど軽量になり、シャンク部の動剛性を高めることができる。
【0012】
更に、この加工工具においては、切れ刃取付部側からシャンク部を見て、シャンク前部の中心軸を中心として切込み方向を基準に反時計方向に4分割して第1~第4領域としたときに、第1領域においては、ラティス構造部の体積が最も大きく、第2領域においては、中空構造部の体積が最も大きく、第3領域においては、ソリッド構造部の体積が最も大きく、第4領域においては、ラティス構造部の体積が最も大きくするのが好ましく、また、第1領域においては、ソリッド構造部の体積が20~40%で、ラティス構造部の体積が30~50%であり、第2領域においては、ソリッド構造部の体積が0~20%で、ラティス構造部の体積が10~30%であり、第3領域においては、ソリッド構造部の体積が40~60%で、ラティス構造部の体積が30~50%であり、第4領域においては、ソリッド構造部の体積が20~40%で、ラティス構造部の体積が30~50%であるのが好ましく、これらのように構成することにより、加工抵抗(その主分力、背分力及び送り分力)に対して充分な強度を有するものを提供することができる。
【0013】
更にまた、シャンク部におけるソリッド構造部とラティス構造部との境界面は、自由曲面形状であるのが好ましく、このように構成することにより、ソリッド構造部及びラティス構造部を最適な配置にすることができ、またシャンク部におけるソリッド構造部、ラティス構造部及び中空構造部を含む形状は、トポロジー最適化解析を用いて導出し、トポロジー最適化解析において、びびり振動を励起する加工工具の振動モードにおける切込み方向の振幅を最小化するようにすることにより、びびり振動の発生の少ない加工工具を提供することができる。
【0014】
更に、シャンク部のラティス構造部の各ラティス構造は、固体占有率が30~70%であり、その格子間隔は0.5~5.0mmであるのが好ましく、このようなラティス構造を採用することにより、シャンク部の強度を保つことができ、またシャンク部のラティス構造部を液体流路の一部とすることによって、例えば加工液の通路としての専用の流路を設けることなく、加工液などの流路として利用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の加工工具によれば、加工工具のシャンク部は、ソリッド構造部、ラティス構造部及び中空構造部とから構成され、このシャンク部のラティス構造部の体積は、シャンク部のソリッド構造部及びラティス構造部の合計体積の20~40%であるので、このソリッド部の強度を保ちながら軽量化することができ、これによって、シャンク部の動剛性を高めることができ、その結果、加工時のびびり振動の発生を抑えることができる。このラティス構造部が40%を超えると強度が低下するおそれがあり、また20%以下であると充分に質量を減らせず、結果として動剛性を高めることができない。
また、シャンク部の軸方向中心部を基準として切れ刃取付部側である前部において、ソリッド部の体積が20~40%、ラティス構造部の体積が25~45%、中空構造部の体積が25~45%であるので、軽量化を図りながら加工抵抗に対して充分な強度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従う加工工具をNC旋盤に取り付けた状態を示す図。
図2図1の加工工具を示す平面図。
図3図2の加工工具を示す縦端面図。
図4図4(a)は、図3におけるA-A線によるシャンク部の端面図、図4(b)は、図3におけるB-B線によるシャンク部の端面図、図4(c)は、図3におけるC-C線によるシャンク部の端面図。
図5図5(a)は、シャンク部の突き出し位置P1における端面図、図5(b)は、シャンク部の突き出し位置P2における端面図、図5(c)は、シャンク部の突き出し位置P3における端面図。
図6】シャンク部の突き出し位置とラティス構造部の体積割合との関係を示す図。
図7】シャンク部における第1~4領域を説明するための図。
図8】第1~第4領域におけるソリッド構造部、ラティス構造部及び中空構造部の割合を示す図。
図9】シャンク部における切込み方向の振幅を説明するための図。
図10】シャンク部のラティス構造部における一つのラティス構造を示す斜視図。
図11】加工工具のシャンク部の最適化を説明するための図。
図12】実施例の加工実験において発生したびびり振動を示し、図12(a)は、L=54mmであるときの振動を示す図、図12(b)は、L=60mmであるときの振動を示す図、図12(c)は、L=66mmであるときの振動を示す図、図12(d)は、L=72mmであるときの振動を示す図。
図13】比較例1の加工実験において発生したびびり振動の大きさを示し、図13(a)は、L=36mmであるときの振動を示す図、図13(b)は、L=42mmであるときの振動を示す図、図13(c)は、L=48mmであるときの振動を示す図、図13(d)は、L=52mmであるときの振動を示す図。
図14】比較例2の加工実験において発生したびびり振動の大きさを示し、図14(a)は、L=54mmであるときの振動を示す図、図14(b)は、L=60mmであるときの振動を示す図、図14(c)は、L=66mmであるときの振動を示す図。
図15】実施例並びに比較例1及び2の加工実験における加工工具のL/Dと加工時の加速度のRMS値を示す図。
図16】実施例並びに比較例1及び2の加工実験の結果をまとめたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う加工工具の一実施形態について説明する。尚、この実施形態では、加工工具として円筒状物の内周面の加工(所謂、中ぐり加工)に用いるボーリングバーに適用して説明するが、ボーリングバー以外の他の加工工具にも同様に適用することができる。
【0018】
図1において、加工装置の一例としての図示のNC旋盤は旋盤本体2を備え、この旋盤本体2の一端側(図1において左側)に主軸部4が設けられている。この主軸部4に主軸(図示せず)が回転自在に支持され、この主軸にはチャック手段6が装着され、加工すべき加工物(図示せず)は、このチャック手段6に着脱自在に装着される。
【0019】
この旋盤本体2の他端側には、往復テーブル12がZ軸方向(図1において左右方向)に移動自在に配設され、この往復テーブル12には、支持テーブル14がX軸方向(図1において紙面に対して垂直な方向)に移動自在に装着され、この支持テーブル14には、タレット16が取り付けられている。タレット16は、支持テーブル14に取り付けられた支持台18と、この支持台18に所定回転角度毎に回転自在に支持されたタレット本体20とを備えている。タレット本体20は多角形状(例えば、八角形状)であり、このタレット本体20の多角形状の各面に対応して工具取付部22が設けられている。この実施形態では、工具取付部22の一つに、工具保持具24を介して加工工具26(本発明に従う加工工具の一実施形態のもの)が取り付けられている。
【0020】
次に、図2図8を参照して、加工工具26の一実施形態について説明する。図示の加工工具26は、加工物としての円筒状物(図示せず)の内周面を切削加工する際に用いられるものである。例えば、図1のNC旋盤を用いて加工するときには、円筒状物はチャック手段6に取り付けられ、また加工工具26はタレット16の工具取付部22に工具保持具24を介して取り付けられ、所定方向に回転する加工物(円筒状物)の内周面に加工工具26を作用させて切削加工(所謂、中ぐり加工)を行う。
【0021】
この加工工具26(この実施形態では、「ボーリングバー」とも称する。)は棒状の工具本体28を備え、この工具本体28は、取付支持部30(参照番号31で示す領域)と、この取付支持部30から延びるシャンク部32(参照番号33で示す領域)と、このシャンク部32の先端部に設けられた切れ刃取付部34(参照番号35で示す領域)とを備えている。
【0022】
取付支持部30は、例えばタレット16の工具取付部22に取り付けられた工具保持具24(図1参照)に取り付けられ、この取付支持部30は充分な強度を確保するためにソリッド構造(中実構造)で構成される。この取付支持部30は、外形が略円筒状に形成される。
【0023】
シャンク部32は、ソリッド構造(中実構造)、ラティス構造(格子状構造)及び中空構造(空間構造)から構成され、このような構造にすることにより、加工の際に発生する振動振幅の周波数応答を小さくすることができる。このシャンク部32についても、その外形が取付支持部30から連続して続く略円筒状に形成される。
【0024】
また、切れ刃取付部34は、取付支持部30と同様に、ソリッド構造から構成され、加工の際の切込み方向(矢印36で示す方向)に対して所定の角度をもって平らに拡がる取付面38が設けられ、この取付面38に取付ねじ(図示せず)などによって加工用チップ40(例えば、切削用チップ)が取り付けられ、加工物に対する加工は、この工具本体28に取り付けられた加工用チップ40によって行われる。
【0025】
次いで、この加工工具26のシャンク部32の構成について説明する。このシャンク部32においては、図3及び図4から理解されるように、ラティス構造部42(ラティス構造による部位)の体積は、ラティス構造部42及びソリッド構造部44(ソリッド構造による部位)の合計体積の15~85%の割合となるように設けられ、このラティス構造部42の体積割合は20~40%であるのが好ましい。ラティス構造部42の体積が小さくなる(例えば、これらの合計体積の15%より小さくなる)と、ラティス構造を採用したことによる軽量化の効果が少なく、またラティス構造部42の体積が大きくなる(例えば、これらの合計体積の85%より大きくなる)と、ラティス構造部42の占める割合が大きくなり、シャンク部32の強度が低下するおそれがある。尚、参照番号46は、中空構造部(中空構造による部位)である。
【0026】
このシャンク部32では、その軸方向(図2及び図4において左右方向、図3において紙面に対して垂直な方向)中心部(即ち、軸方向の中心線E)を基準にして、切れ刃取付部34側のシャンク前部50(参照番号51で示す領域)の重量は、取付支持部30側のシャンク後部52(参照番号53で示す領域)の重量の60%以下であるのが好ましく、例えば40~60%であるのが好ましく、このように構成することにより、シャンク前部50の重量がシャンク後部52の重量に比して4割程度軽くなり、この軽量化によって、シャンク部32の動剛性を高めてびびり振動の発生を抑えることができる。
【0027】
このシャンク部32については、図3図6を参照して理解される如く、シャンク前部50におけるラティス構造部42の体積は、このシャンク前部50におけるソリッド構造部44及びラティス構造部42の合計体積の40%以上であるのが好ましく、例えば40~70%であるのが好ましく、このように構成することにより、シャンク前部50の強度を維持しながらその軽量化を図ることができる。
【0028】
図4(a)は、図3におけるA-A線によるシャンク部32の端面図であり、図4(b)は、図3におけるB-B線によるシャンク部32の端面図であり、図4(c)は、図3におけるC-C線によるシャンク部32の端面図であり、これら図4(a)~(c)から理解されるように、シャンク部32のシャンク前部50の前端側の方がよりラティス構造部42が多く設けられている。尚、矢印36で示す切込み方向を基準にして、図4(a)のA-A線のシャンク部32の端面は、図3において反時計方向に36度の角度位置におけるものであり、図4(b)のB-B線のシャンク部32の端面は、図3において反時計方向に81度の角度位置におけるものであり、また図4(c)のC-C線によるシャンク部32の端面は、図3において反時計方向に126度の角度位置におけるものである。
【0029】
このシャンク部32のシャンク前部50では、図4及び図5から理解されるように、ソリッド構造部44及びラティス構造部42の合計体積のうちラティス構造部42の占める割合は、切れ刃取付部34側(即ち、先端側)に向けて漸増するように構成するのが好ましく、このように構成することにより、シャンク前部50の強度低下を抑えながら軽量化を図ることができる。
【0030】
この実施形態では、図5(a)は、シャンク部32の突き出し位置の0.6倍の部位P1(換言すると、シャンク前部50の1/5の部位)の端面図であり、図5(b)は、シャンク部32の突き出し位置の0.75倍の部位P2(換言すると、シャンク前部50の1/2の部位)の端面図であり、図5(c)は、シャンク部32の突き出し位置の0.9倍の部位P3(換言すると、シャンク前部50の4/5の部位)の端面図であり、部位P3においては、中間構造(空間構造)である空間構造部46の割合が大きく、大きな内部空間が存在するようになる。
【0031】
図6は、この加工工具26のシャンク部32のシャンク前部50におけるシャンク部32の突き出し位置とラティス構造部42の体積割合(ソリッド構造物44及びラティス構造部42の合計体積に対するラティス構造部42の体積割合)を示しており、シャンク前部50の基部(例えば、シャンク部32の突き出し位置の0.55倍の部位)においてはラティス構造部42の体積割合が約30%程度であるが、その先端側(例えば、その突き出し位置の0.95倍の部位)においてはこの体積割合が約80%程度に増加し、この体積割合の増加は、先端側(即ち、切れ刃取付部34側)に向けて漸増するように構成されている。
【0032】
この加工工具26においては、シャンク前部50に関連して、更に、次のように構成するのが好ましい。図7及び図8を参照して、切れ刃取付部34側からシャンク部32を見たときに、シャンク前部50をその中心軸Oを中心として切込み方向を基準に反時計方向に4分割し、0~90度の範囲を第1領域Z1、90~180度の範囲を第2領域Z2、180~270度の範囲を第3領域Z3、270度から360度の範囲を第4領域Z4とする。このように第1~第4領域Z1~Z4としたときに、第1領域Z1においては、ラティス構造部42の体積が最も大きく、第2領域Z2においては、中空構造部46の体積が最も大きく、第3領域Z3においては、ソリッド構造部44の体積が最も大きく、第4領域Z4においては、ラティス構造部42の体積が最も大きくなるように構成するのが好ましく、このように構成することにより、軽量化を図りながら加工抵抗(その主分力、背分力及び送り分力)に対して充分な強度を有する構造とすることができる。
【0033】
また、このシャンク部32のシャンク前部50においては、ソリッド構造部44、ラティス構造部42及び中空構造部46の体積割合を、図8に示す配分割合となるように構成するのが好ましい。即ち、上述の4分割した第1~第4領域Z1~Z4に関し、第1領域Z1においては、ソリッド構造部44の体積が20~40%で、ラティス構造部42の体積が30~50%で、ラティス構造部42の割合の方が大きくなるように構成するのが好ましく、第2領域Z2においては、ソリッド構造部44の体積が0~20%で、ラティス構造部42の体積が10~30%で、ラティス構造部42の割合の方が大きくなるように構成するが、このラティス構造部42の割合よりも更に中空構造部46の割合の方が大きくなるように構成するのが好ましい。
【0034】
また、第3領域Z3においては、ソリッド構造部44の体積が40~60%で、ラティス構造部42の体積が30~50%で、ソリッド構造部44の割合の方が大きくなるように構成するのが好ましく、更に第4領域Z4においては、ソリッド構造部44の体積が20~40%で、ラティス構造部42の体積が30~50%で、ラティス構造部42の割合の方が大きくなるように構成するのが好ましい。このように構成しても、上述したと同様に、軽量化を図りながら加工抵抗(その主分力、背分力及び送り分力)に対して充分な強度を有する構造とすることができる。
【0035】
このシャンク部32では、図3図5及び図7に示すように、ソリッド構造部44(中実構造部)とラティス構造部42(格子状構造部)との境界面は自由面形状となっており、このように構成することにより、ソリッド構造部44とラティス構造部42との境界が単純な形状とならず、これによって、最適に配置されたソリッド構造部44及びラティス構造部42を有する加工工具として提供することができる。
【0036】
この加工工具26のシャンク部32(ラティス構造を有する部分)の形状は、トポロジー最適化解析を用いて導出するのが好ましく、このような解析方法を用いることにより、比較的容易に最適化形状を導き出すことができる。そして、このトポロジー最適化解析を用いる際に、図9に示すように、加工工具26の切込み方向36の振幅(図9において両矢印62で示す方向の振幅)が最小化されるようにするのが好ましく、このように解析処理することにより、加工工具26のシャンク部32は、例えば、上述したような構造となる。
【0037】
このことを図11を参照して説明すると、最適化しない場合(換言すると、従来の構造の加工工具を用いた場合)、加工工具のシャンク部全体がソリッド構造であるために、加工時に発生するびびり振動は曲線Qで示すように、加工抵抗により生じる背分力方向の振動振幅が大きく、それに伴い、更に加工抵抗の変動も大きくなり、振動振幅が増幅し、びびり振動に発展しやすくなる傾向にある。これに対して、トポロジー最適化解析を用いて最適化した場合(換言すると、上述した実施形態の加工工具26を用いた場合)、加工工具26のシャンク部32がソリッド構造(ソリッド構造部44)、ラティス構造(ラティス構造部42)及び中空構造(中空構造部46)を含んでいるので、加工時に発生するびびり振動は曲線Rで示すように、加工抵抗により生じる背分力方向の振動振幅が小さく、従って振動振幅が増幅し難くなる傾向にあり、その結果、上述した加工工具26では、びびり振動の発生を抑えることができる。
【0038】
このシャンク部32のラティス構造については、それ自体周知の種々のラティス構造を採用することができ、例えば、図10に示す構造を採用するようにしてもよい。ラティス構造部42を構成する一つのラティス構造70(格子状構造)は、各ラティス構造70の基準となる基準立方体72の天面74及び底面76の中央部に上接続面78及び下接続面80が設けられ、上下方向に隣接する一対のラティス構造70は、上側のラティス構造70の下接続面80と下側のラティス構造70の上接続面78により接合される。また、基準立方体70の側面82には一対の横接続面84,86が設けられ、これら横接続面84,86と上接続面78とは上傾斜格子状部88,90により接続されているとともに、これら一対の横接続面84,86と下接続面80とは下傾斜格子状部92,94により接続されている。
【0039】
基準立方体72の一つの側面82の横接続面84,86について説明したが、他の三つの側面96,98,100についても同様に構成されており、従って、横方向に隣接するラティス構造70は、例えば一方のラティス構造の側面82の一対の横接続面84,86と例えば他方のラティス構造70の対向する側面98の横接続面(図示せず)により接合される。
【0040】
隣接するラティス構造70は、上述したようにして上下方向及び横方向に接合されるので、このラティス構造70の集合体(ラティス構造部42)は、このラティス構造70を三次元的に結合されたものとなる。
【0041】
このラティス構造70の各々は、固体占有率が30~70%であるのが好ましく、その固体占有率が30%より小さくすると、ラティス構造物42の強度が低下するおそれがあり、またその固体占有率が70%より大きくなると、ソリッド構造に近くなり、充分な軽量化を図ることが難しくなる。尚、この実施形態のラティス構造70における固体占有率を説明すると、この固体占有率とは、基準立方体70の体積に対するラティス構造の格子状部(上傾斜格子状部88,90及び下傾斜格子状部92,94)の占める割合をいう。
【0042】
また、各ラティス構造70の格子間隔は、0.5~5.0mmであるのが好ましく、小さい部材であると格子間隔も小さくなり、この加工工具26のようなものであると1.0~3.0mm程度とするのが好ましい。
【0043】
この加工工具26においては、シャンク部32内のラティス構造部42及び中空構造部46を加工液などの液体を切れ刃取付部34(これに取り付けられた加工用チップ40)に向けて送給する液体流路として用いることができる。この場合、ラティス構造部42の連続した隙間が液体流路の一部として機能し、専用の液体流路を設けることなく、加工液などの液体を切れ刃取付部34に向けて送給し、加工工具26による加工域に加工液などを供給することができる。
【0044】
以上、本発明に従う加工工具の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0045】
この加工工具による効果を確認するために加工実験を行った。この実験の加工装置として高松機械工業株式会社が製造販売するNC旋盤(櫛刃型6インチNC旋盤、型式:TOP-TURNII)を用い、このNC旋盤の櫛刃型工具取付テーブルに工具ホルダを介して加工工具を取り付けて加工実験を行った。実施例の加工工具のシャンク部を鉄鋼粉末(所謂、鉄鋼材の粉末)を用いて3Dプリンタで製作した。加工工具のシャンク部は、上述した形態であり、ラティス構造部、ソリッド構造部及び中空構造部を有するものであった。
【0046】
このシャンク部のシャンク前部の構造比率は、次の通りであった。シャンク前部の第1領域においては、ソリッド構造部31%、ラティス構造部38%、中空構造部31%であり、その第2領域においては、ソリッド構造部12%、ラティス構造部16%、中空構造部72%であり、その第3領域においては、ソリッド構造部47%、ラティス構造部40%、中空構造部13%であり、その第4領域においては、ソリッド構造部34%、ラティス構造部38%、中空構造部28%であった。
【0047】
被削材としてS45C(直径53~59mm、長さ88mm)を用い、この加工実験において、加工物の回転数:486rpm(加工物の直径60mmで周速度90m/minとなるように調整した)、送り速度:0.15mm/rev、切込み量:0.2mm、切込む場所:加工物の外周、ドライ加工の切削加工条件でもって切削加工した。
【0048】
実施例においては、加工工具の突き出し量Lを変化させ、L=54mm(L/D=4.5)、L=60mm(L/D=5.0)、L=66mm(L/D=5.5)及びL=72mm(L/D=6.0)のときに発生した振動を記録した。尚、L/Dは、直径(Dmm)に対する長さ(Lmm)の比率(長さ/直径)であり、また加工工具の突き出し量とは、刃先から支持治具(工具ホルダー)までの距離である。この加工実験において切削加工時に発生した振動(びびり振動など)は、ブリューエル・ケアー社製の振動測定器(型番:4507 B 001)を用いて計測した。
【0049】
実施例1の加工実験結果は、図12図15及び図16に示す通りであり、L=54mm及びL=60mmであるときには、図12(a)及び図12(b)で示すように、発生する振動は小さかったが、L=66mm及びL=72mmと突き出し量を大きくすると、図12(c)及び図12(d)で示すように、発生する振動が大きく増幅され、びびり振動が発生した。
【0050】
比較例1として、一般的な鋼製シャンク部を備えた加工工具を用い、実施例と同じ切削加工条件でもって同じ加工物を切削加工し、この切削加工時に発生した振動(びびり振動など)を上述の振動測定器(型番:4507 B 001)を用いて計測した。
【0051】
この比較例1においては、加工工具の突き出し量Lを変化させ、L=36mm(L/D=3.0)、L=42mm(L/D=3.5)、L=48mm(L/D=4.0)及びL=52mm(L/D=4.5)のときに発生した振動を記録した。
【0052】
比較例1の加工実験結果は、図13図15及び図16に示す通りであり、L=36mm及びL=48mmであるときには、図13(a)及び図13(c)で示すように、発生する振動は小さかったが、L=42mm及びL=52mmであるときには、図13(b)及び図13(d)で示すように、発生する振動が大きく増幅され、びびり振動が発生し、L=42mmとL=52mmのときに二つの大きな山となってびびり振動が発生した。
【0053】
また、比較例2として、超硬合金製シャンク部を備えた加工工具を用い、実施例と同じ切削加工条件でもって同じ加工物を切削加工し、この切削加工時に発生した振動(びびり振動など)を上述の振動測定器(型番:4507 B 001)を用いて計測した。
【0054】
この比較例2においても、加工工具の突き出し量Lを変化させ、L=54mm(L/D=4.5)、L=60mm(L/D=5.0)及びL=66mm(L/D=5.5)のときに発生した振動を記録した。
【0055】
比較例2の加工実験結果は、図14図16に示す通りであり、L=54mm及びL=60mmであるときには、図14(a)及び図14(b)で示すように、発生する振動は小さかったが、L=66mmであるときには、図14(c)で示すように、発生する振動が大きく増幅され、びびり振動が発生した。
【0056】
実施例並びに比較例1及び2の実験結果をまとめると、図15及び図16に示す通りである。比較例1では加工工具の突き出し量が42mm(L/D=3.5)付近でもびびり振動が発生するが、実施例の加工工具では加工工具の突き出し量が66mm付近までびびり振動が発生せず、びびり振動が発生するこの突き出し量は、比較例2とほぼ同様であり、実施例の加工工具(即ち、ラティス構造を有する鉄鋼製シャンク部を備えたものは、超硬合金製シャンク部を備えたものとほぼ同等の動剛性特性を有し、びびり振動の発生を抑えることができることを確認できた。
【符号の説明】
【0057】
2 旋盤本体
16 タレット
24 工具保持具
26 加工工具
28 工具本体
30 取付支持部
32 シャンク部
34 切れ刃取付部
40 加工用チップ
42 ラティス構造部
44 ソリッド構造部
46 中空構造部
50 シャンク前部
52 シャンク後部
70 ラティス構造

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16