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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】コイルの製造方法およびコイル
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20240603BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20240603BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B23K20/00 350
H02K15/04 A
H02K3/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020035504
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021137827
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】311009376
【氏名又は名称】株式会社アスター
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】本郷 武延
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-254001(JP,A)
【文献】国際公開第2020/017394(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0241131(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
H02K 15/04
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の複数の平導体を帯長手方向の端面同士で突き合わせて押圧し、仮想軸の回りに1周させた領域(以下「1周分領域」という。)を該仮想軸の方向に複数重なるように連続させた螺旋構造体を形成する工程と、
射出成型により複数の前記1周分領域の間に前記平導体を直接覆う絶縁層を形成する工程と、
を有することを特徴とするコイルの製造方法。
【請求項2】
前記複数の1周分領域の間を離間させる成形を行った後、前記絶縁層を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項3】
前記複数の1周分領域の間を離間させる成形と同時に、前記絶縁層を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項4】
前記複数の1周分領域の各周を前記絶縁層により一体的に覆う、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のコイルの製造方法。
【請求項5】
前記螺旋構造体の全体を前記絶縁層により覆う、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のコイルの製造方法。
【請求項6】
帯状の複数の平導体を帯長手方向の端面同士で突き合わせて押圧し、仮想軸の回りに1周させた領域(以下「1周分領域」という。)を該仮想軸の方向に複数重なるように連続させてなる螺旋構造体と、
少なくとも複数の前記1周分領域の間に設けられ、前記平導体を直接覆う射出成型樹脂層と、
を有することを特徴とするコイル。
【請求項7】
前記複数の1周分領域の周回の中心が前記螺旋構造体の螺旋の軸中心と一致するように変形した後、前記絶縁層を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板を加圧・変形させることにより接合するコイルの製造方法およびコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
モータの構成要素である固定子(ステータ)は、コア(ステータコア)の周囲にコイルが配設されるが、モータの低損失化および小型化を図る上で、コア内のコイルの占積率を向上させることが重要となっている。
【0003】
コア内の占積率の向上が可能なコイルとして、例えばU字(コの字)状に打ち抜いた平導体の端面同士を冷間圧接により接合してコイルの1周分領域を形成し、これを螺旋状に連続させて形成したコイルおよびその製造装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、コア内の占積率の向上および放熱性の向上が可能で、平導体の接合(継ぎ合わせ)による螺旋構造でありながら接合部における特性劣化が生じない、良質なコイルを提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許5592554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のコイル製造装置においては、良質なコイルを量産するための技術について検討が十分になされているとは言えず、生産性の向上の観点において改良の余地があった。
【0007】
本発明は、コア内の占積率の向上および放熱性の向上が可能な良質なコイルの量産が可能なコイルの製造方法およびコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の手段によって、上記課題を解決したものである。
【0009】
本発明は、帯状の複数の平導体を帯長手方向の端面同士で突き合わせて押圧し、仮想軸の回りに1周させた領域(以下「1周分領域」という。)を該仮想軸の方向に複数重なるように連続させた螺旋構造体を形成する工程と、射出成型により複数の前記1周分領域の間に前記平導体を直接覆う絶縁層を形成する工程と、を有することを特徴とするコイルの製造方法に係るものである。
また、帯状の複数の平導体を帯長手方向の端面同士で突き合わせて押圧し、仮想軸の回りに1周させた領域(以下「1周分領域」という。)を該仮想軸の方向に複数重なるように連続させてなる螺旋構造体と、
少なくとも複数の前記1周分領域の間に設けられ、前記平導体を直接覆う射出成型樹脂層と、
を有することを特徴とするコイルに係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コア内の占積率の向上および放熱性の向上が可能な良質なコイルの量産が可能なコイルの製造方法およびコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るコイル製造方法によって製造されるコイルの外観を示す図であり、(A)平面図、(B)側面図、(C)側面図である。
図2】本実施形態に係るコイル片について説明する図であり、(A)平面図、(B)断面図、(C)断面図、(D)~(G)平面図である。
図3】本実施形態に係るコイル製造方法の処理の流れを示すフロー図である。
図4】本実施形態に係るコイル片について説明する平面図である。
図5】本実施形態に係る接合工程の処理の流れを示すフロー図である。
図6】本実施形態に係るコイル製造方法を説明するためのコイル片の側面概要図である。
図7】本実施形態に係るコイル製造方法を説明するための螺旋構造体の側面概要図図である。
図8】本実施形態に係るコイル製造方法を説明するための螺旋構造体の断面概要図図である。
図9】本実施形態に係るコイル製造方法を説明するためのコイルの概要図であり、(A)平面図、(B)断面図、(C)側面図である。
図10】本実施形態に係るコイル製造方法の変形例を説明するフロー図である。
図11】本実施形態に係るコイル製造方法の変形例を説明するコイルの概要図であり、(A)断面図、(B)断面図、(C)側面図、(D)側面図、(E)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態のコイルの製造方法によって製造されたコイル10の概要を説明する外観図であり、同図(A)が螺旋構造のコイル10を螺旋の軸方向から見た平面図であり、同図(B)が螺旋構造の短辺SS(同図(A)の例えば左)方向から見た側面図であり、同図(C)が螺旋構造の長辺LS(同図(A)の例えば下)方向から見た側面図である。
【0014】
なお、本図及び以降の各図において、一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。
そして、本図及び以降の各図において、部材の大きさ、形状、厚み等を適宜誇張して表現する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のコイル10は、平導体(コイル片C)により螺旋構造を形成したものであり、一例としてモータを構成するステータ(固定子)に取り付けられる。より具体的には、周回する螺旋構造の軸中心SCが略一致するように(周回部分がコイル10の螺旋軸方向に略重畳するように)巻回された、所謂、集中巻きのコイルである。
【0016】
また、コイル10は、それぞれ直線部分(直線部STR)を有する帯状の複数の平導体(コイル片)Cを連続して接続し、螺旋構造体50を形成した(完成した状態では平導体Cが巻回された構成となる)エッジワイズコイルである。
【0017】
図1(A)に示すように螺旋構造体50の1周分の領域(同図(A)に大破線矢印で示す領域、以下、1周分領域CRという。)は、巻回の角部TNが略直角であり、螺旋構造体50の軸方向から見た平面視において少なくとも内周側(図1(A)では内周側および外周側のいずれも)が(略)矩形状となる。またこのコイル10を構成する平導体Cを、以下の説明ではコイル片Cとも称する。
【0018】
コイル10は、詳細な図示は省略するが、螺旋構造の平導体Cの周囲に絶縁樹脂60を付着させている。絶縁樹脂60は螺旋の進行方向に沿って、コイル10の一端ST側から他端ET側まで連続して設けられており、螺旋構造体50の1周分CRがそれぞれ絶縁樹脂60によって絶縁されている。なお、コイル10の一端STと他端ETは、他の部材との接続部(端子)であり、絶縁樹脂60は設けられていなくてもよい。
【0019】
図2を参照して、コイル10を構成する平導体Cについて説明する。図2は、本実施形態のコイル10を構成する平導体Cの一例を示す図であり、同図(A)が平導体Cの平面(上面)図であり、同図(B)および同図(C)は同図(A)のY-Y線断面を拡大した図である。また、同図(D)~同図(G)は平導体Cの形状の一例を示す平面(上面)図である。
【0020】
コイル10は、帯状の複数の平導体Cをそれらの直線部STRにおいて帯長手方向BL(破線矢印で示す螺旋進行方向)に沿ってつなぎ合わせたものである。より具体的には、図2に示す平導体Cの帯長手方向BL(螺旋進行方向)の端面TS同士を突き合わせて押圧(圧接、例えば、冷間圧接)し、所望の巻き数となるように連続させて螺旋構造体50としたものである。
【0021】
図2(A)~同図(C)に示すように本実施形態の平導体(コイル片)Cは、所定方向に長い帯状(テープ状)の導体であり、対向する2つの幅広面WSと、対向する2つの幅狭面WTを有する。また、帯長手方向BLに直交する断面(同図(A)のY-Y線断面)が同図(B)に示すように矩形状または、同図(C)に示すように角丸矩形状の導体である。以下の説明では平導体Cの一例として帯長手方向BLに直交する断面が、同図(B)に示すように(略)矩形状の平導体Cを例に説明する。
【0022】
具体的に本実施形態の平導体(コイル片)Cは、複数を連続させることで螺旋構造体50を構成可能である。また、本実施形態の螺旋構造体50の1周分領域CRは1以上のコイル片Cによって構成される。
【0023】
すなわち、コイル片Cは、直線部STRのみからなる形状(同図(A))、または少なくとも一つの直線部STRと少なくとも1つの角部TNを有する形状(同図(D)~同図(G))を有している。ここで、角部TNは、帯長手方向BLの延在方向を変化させるように曲折した部位(方向変換部)である。
【0024】
同図(D)~同図(G)に示すように角部TNを有する平導体(コイル片)Cの場合、連続させた場合に螺旋形状となるように、帯長手方向BLに沿って同一方向(常に右方向、または左方向)に曲折しているものとする。また角部TNを有するコイル片Cの場合、少なくとも1つ(好適には全て)角部TNは、非湾曲(例えば、略直角)形状であることが望ましい。
【0025】
また、以下の説明において、複数のコイル片(平導体)Cを連続(接続)させた螺旋構造体50であって、所定巻き数のコイル10として完成する以前の螺旋構造体50(コイル片Cを引き続き接続する予定の螺旋構造体50)もコイル片Cに含まれるものとする。つまり、以下の説明において、コイル片Cには、図2に示すような直線状、または帯長手方向において同一方向に角部TNを有する最小単位のコイル片(接続前のコイル片)と、該最小単位のコイル片Cを複数接続し且つ、コイル10(螺旋構造体50)の1周分領域CRに満たないコイル片、あるいはコイル10(螺旋構造体50)の1周分領域CRより長い螺旋構造が形成されたコイル片とが含まれる。また、説明の便宜上、これらの区別が必要な場合には、最小単位のコイル片を単位コイル片C0(C01、C02、C03・・・C0N)といい、単位コイル片C0を複数接続したものであってコイル10(完成予定の螺旋構造体50)となる以前のコイル片Cの接合体を接合コイル片CC(CC1,CC2…、CCN)といい、所定の巻き数となった完成予定(完成状態)の螺旋構造体50をコイル10という。
【0026】
コイル片C(単位コイル片C0)は一例として、銅板(例えば、厚さ0.1mm~5mmなどの板状の無酸素銅(酸化物を含まない99.95%以上の高純度銅))の打ち抜き加工などによって、直線状あるいは、略直角の(非湾曲の)方向変換部(角部)TNを有する形状に構成される。つまり単位コイル片C0は、平面視(上面視)において、角部TNがない直線上(I字状)(同図(A))、1つの角部TNを有するL字状(同図(D))、2つの角部TNを有するU字状(コ字状)(同図(E))、3つの角部TNを有する略C字状(同図(F))、4つの角部TNを有するC字状(同図(G))または略O字状のものがある。なお、以下の説明においてU字状、(略)C字状、略O字状と称するが、いずれも全ての角部TN(角部)は略直角の形状であるとする。コイル10を製造する複数のコイル片Cは、図2のいずれかの形状(複数のコイル片Cが全て同一形状)であってもよいし、図2に示す複数の形状の組み合わせのいずれであってもよい。
【0027】
図3は、本実施形態のコイルの製造方法に係る処理(コイル製造処理)の流れの一例を示すフロー図である。
【0028】
コイルの製造方法は、例えば、接合工程と、中間成形工程と、焼鈍工程と、絶縁工程と、成形工程とを有する。本実施形態のコイル製造方法による処理(コイル製造処理)の流れは、一例として同図に示すように、接合工程(ステップS1)、中間成形工程(ステップS3)、焼鈍工程(ステップS5)、絶縁工程(ステップS7)、および成形工程(ステップS9)をこの順で行う。以下順次説明する。
【0029】
<接合工程>
まず、図3のステップS1に示す接合工程について説明する。接合工程では、連続させると螺旋構造体50となり得る帯状の複数の平導体(コイル片)Cを準備し、一の平導体Cの帯長手方向BLの一の端面TSと、他の平導体Cの帯長手方向BLの一の端面TSとを突き合わせて押圧し、螺旋構造体50を形成する。
【0030】
まず、図4を参照して準備するコイル片Cについて説明する。ここでは一例として、複数のコイル片Cは図2(E)に示すU字状(コの字状)のコイル片Cであるとする。図4(A)および同図(B)は、2つのコイル片C(C1,C2)の平面(上面)図であり、同図(C)は本接合工程においてそれぞれのコイル片Cの一方の端面TS同士を圧接して接合部CPを形成した状態を示す平面図である。ここで便宜上、コイル片C1,C2と表記するが両者は(略)同一形状のコイル片Cを端面TS1、TS2を中心として表裏反転させたものである。
【0031】
同図(A)に示すように2つのコイル片C(C1,C2)は、いずれも破線矢印で示す帯長手方向BLの端面TS(TS0、TS1,TS1´、TS2)を有し、同図(B)に示すように帯長手方向BLに端面TS同士(端面TS1と端面TS2、端面TS0と端面TS1´)を当接させて仮想状態の螺旋構造体(以下、「仮想螺旋構造体50´」という。)を形成可能である。この仮想螺旋構造体50´は、同図(B)に大破線矢印で示す螺旋進行方向の仮想的な1周分の領域(以下、「仮想1周分領域CR´」という。)の長さが、同図(C)に示す2つのコイル片Cを接合した接合コイル片CC(コイル10、螺旋構造体50も同様)の1周分領域CR(大破線矢印で示す)の長さよりも圧接の押圧量だけ長くなるように設定されている。
【0032】
具体的に、同図(A)を参照して、コイル片C1の端面TS1とコイル片C2の端面TS2を当接させた仮想1周分領域CR´(同図(B))の長さが、端面TS1、TS2同士を圧接した接合コイル片CCの1周分領域CR(同図(C))の長さよりも圧接の押圧量だけ長くなるように設定されている。つまり、それぞれのコイル片Cは、各コイル片Cの帯長手方向BLの距離を合計した総距離となる準備長さが、コイル10の螺旋長手方向の完成長さと比較して余裕分だけ長くなるように設定されており、余裕分は、複数のコイル片Cの全てを冷間圧接した場合に、押圧によって短縮する短縮総距離に設定されている。
【0033】
図5は、図3のステップS1に示す接合工程の処理の流れの一例を示すフロー図である。接合工程はより詳細には例えば、曲げ工程(ステップS12)と、圧接工程(ステップS13)と、バリ取り工程(ステップS14)を有する。
【0034】
接合処理は、まず、所定の巻き数T(完成形のコイル10としての巻き数T)であるか否かを判定し(ステップS11)、所定の巻き数Tに達している場合は処理を終了し、そうでない場合は曲げ工程を行う(ステップS12)。曲げ工程の後に圧接工程を行い(ステップS13)、引き続きバリ取り工程を行う(ステップS14)。バリ取り工程の後は1周分領域CRが完成したか否かを判定し(ステップS15)、完成していない場合には次のコイル片Cの曲げ工程を行う(ステップS12)。1周分領域CRが完成している場合には、巻き数Tを加算し(ステップS16)、巻き数Tの判定(ステップS11)に戻る。
【0035】
ここで、1周分領域CRが完成しているか否かの判定(ステップS15)は、例えば、処理するコイル片Cの数で判定する。例えば、図4に示すように同一形状のコイル片Cを複数接合して螺旋構造体50とする場合、1周分領域CRを構成するコイル片Cの数は特定される(この例では2個のコイル片Cで1周分領域CRが完成する)。したがって、処理するコイル片Cの数を監視することで1周分領域CRを判定できる。なお、これに限らず、例えば画像取得などにより圧接工程後のコイル片C(接合コイル片CC)の外観(あるいは重量など)に基づき1周分領域CRを判定してもよい。
【0036】
以下、図6も参照して主要な工程について更に説明する。図6は、コイル片C(接合コイル片CC)の側面図(図2(E)の左方または右方から見た側面図)である。
【0037】
<曲げ工程>
曲げ工程(図5のステップS12)では、各コイル片Cについて、螺旋進行方向に沿う一部分が他の部分に対して傾斜するように折り曲げて折れ部B0を形成する。この曲げ工程は、コイル片Cの圧接の前に行う。図6(A)は、変形前のコイル片Cの側面図であり、同図(B)が折れ部B0を形成した後のコイル片Cである。
【0038】
同図(A)に示すように変形前のコイル片Cは、平板から打ち抜かれたままの平板状のコイル片Cであって、コイル片Cの全体の領域が意図的に変形されることなく、略同一平面内に存在している。ここで、螺旋構造体50の第1周目の1周分領域CRを構成するコイル片C(C1、C2)はいずれも単位コイル片C0(C01,C02)である。
【0039】
そして曲げ工程では、コイル片C(C1、C2)のそれぞれについて、接合(圧接)前に、螺旋構造体50の1周分領域CRを構成する予定の対向する2辺(例えば、長辺LSを構成する長辺領域LS1、LS2、図4(A)、図4(C)参照)のうち一方(例えば、長辺領域LS2)を他方(例えば、長辺領域LS1)に対して傾斜するように折り曲げて(曲げ加工を行い)、図6(B)に示すように折れ部B0を形成する。なお、この例ではコイル片C1,C2は同一形状であるので、折れ部B0の形成態様(位置や曲げの角度αなど)も同様である。
【0040】
より詳細には、例えば、コイル片Cの一方の長辺領域LS1と短辺SSとが略同一平面(以下、基準面SF0と称する)内に位置し、当該基準面SF0を水平に保持した場合に、折れ部B0を境界として他方の長辺領域LS2が基準面SF0に対して傾斜するように折り曲げられる。他方の長辺領域LS2は、その短辺SS側の端部T1よりも他方(短辺SSから離れる方)の端部T2が、基準面SF0よりも下方(または上方)に位置するように、換言すると基準面SF0(一方の長辺領域LS1)と他方の長辺領域LS2の成す角が角度αとなるように、折れ部B0の位置からコイル片Cを折り曲げる。
【0041】
このように、本実施形態の曲げ工程では、コイル10の1周分領域CRを構成する予定の、コイル片C1、C2のそれぞれについて、長辺側の対向する2辺(長辺領域LS1,LS2)の一方が他方に対して傾斜するように折り曲げる。
【0042】
なお、上記の例における一方の長辺領域LS1と他方の長辺領域LS2は、説明の便宜上称呼を異ならせているに過ぎない。すなわち、長辺領域LS1、LS2を入れ替えても同様であり、折れ部B0は、一方の長辺領域LS1と他方の長辺領域LS2の成す角が概ね所定の角度αとなるように変形されればよい。
【0043】
<圧接工程>
圧接工程(図5のステップS13)では、図6(C)に示すように、折り曲げられたコイル片C1(単位コイル片C01)の一方の端面TS1と、折り曲げられたコイル片C2(単位コイル片C02)の一方の端面TS2同士を帯長手方向BLに沿って押圧し、接続(冷間圧接)して接合コイル片CC1を形成する(図6(D))。このようにして接合した1周分領域CRの接合コイル片CC1の平面(上面)図が図4(C)である。なお、コイル10は、この1周分領域CRを所定数連続させて形成するため、図4(C)において他方の端面TS0、TS1´同士は接合されておらず、この状態での1周分領域CRは例えば接合部CPの対向位置において非連続となっている。
【0044】
この圧接工程では、単位コイル片C01と単位コイル片C02のそれぞれの直線部分において端面TS1,TS2同士を帯長手方向BLの距離を短縮させながら継ぎ合わせ押圧する(図4(B),同図(C)参照)。既に述べているように、複数のコイル片C(単位コイル片C0)により形成される仮想螺旋構造体50´は、仮想1周分領域CR´の長さが、1周分領域CRの長さよりも圧接の押圧量だけ長くなるように設定されており、圧接工程ではコイル片C同士を押圧して、仮想1周分領域CR´の長さを螺旋構造体50の1周分領域CRの長さに一致させる。
【0045】
この例では、単位コイル片C01(コイル片C1)の長辺領域LS2と単位コイル片C02(コイル片C2)の長辺領域LS2において、両者の端面TS1,TS2同士を押圧する場合を例示しているが、コイル片Cの形状によっては、短辺SSにおいて端面TS同士を押圧してもよい。
【0046】
ここで、1箇所の接合部CPの形成においては、コイル片C同士を1度の押圧で冷間圧接してもよいし、複数回の押圧を繰り返して冷間圧接してもよい。複数回の押圧を繰り返すことすることで接合面を安定させることができる。例えば、1箇所の接合部CPの冷間圧接において、1回の押圧時間を短く(例えば、5秒以内など)、押圧回数を多く(例えば、3回~10回程度)し、さらに押圧の間隔(N回目とN+1回目の押圧の間隔)を接合箇所が酸化しない程度に短くして押圧を行う。
【0047】
より具体的には、圧接工程における1回の押し込み量(圧縮量)はコイル片C1、コイル片C2ともに例えば、約0.5mm程度である。そして、1箇所の接合部CPについて、例えば1回につき5秒以内の押圧を、3回から10回程度繰り返し行い、約1mm以上(好ましくは1.5mm以上、具体的には約2mm程度)圧縮させる。これにより、安定した接合面が得られる。
【0048】
<バリ取り工程>
図6(D)に示すように、2つのコイル片C1,C2を冷間圧接した(接合コイル片CC1を形成した)後は、接合部CPに押し出しによるバリ55が生じる。このバリ55が残存したままでは、次の圧接の際に圧接の装置などと干渉する恐れが生じる。バリ取り工程(図5のステップS14)ではこのバリ55を除去する。
【0049】
バリ55は、接合部CPにおいて接合コイル片CC1の幅広面WSに対して略直交するように垂直方向上下に生成される。バリ55の除去は、例えば鋏などの切り取り手段による切り取りや、鋸刃やブラストなどによる削り取り(研削、研磨)などで行う。また、バリ55を除去した後に、例えば磨きなどの表面仕上げ処理を行ってもよい。さらに、バリ55は、部分的な溶解などによって除去してもよい。また、接合コイル片CC1の幅広面WSに対して略直交するように垂直方向上下に生成されるバリ55を、1回のバリ取り工程で同時に除去してもよいし、例えば、上方と下方を複数回に分けて除去してもよい。このようにして、バリ55が除去された接合コイル片CC1が得られる(図6(E))。
【0050】
本実施形態では1箇所の接合部CPを形成する毎にバリ55を除去し、バリ55を除去した後の接合コイル片CC1(同図(E))に、新たなコイル片C(新たに継ぎ足す単位コイル片C03)を圧接する。すなわち、新たな単位コイル片C03について曲げ工程(図5のステップS12)により折れ部B0を形成し(図6(F))、図6(G)に示すように新たな単位コイル片C03とバリ55を除去した接合コイル片CC1とを圧接し、新たな接合コイル片CC2を形成する。この例では、単位コイル片C03の長辺領域LS1の端面TSと、接合コイル片CC1の、例えば単位コイル片C02であった側の長辺領域LS1の端面TSとを圧接する。そして、新たな接合部CPに生成されたバリ55を除去する(図6(H))。
【0051】
さらに新たなコイル片C(新たに継ぎ足す単位コイル片C04)について曲げ加工を行い(図6(I))、単位コイル片C04と接合コイル片CC2を圧接する(図6(J))。この例では、単位コイル片C04の長辺領域LS2の端面TSと、接合コイル片CC2の、例えば単位コイル片C03であった側の長辺領域LS2の端面TSとを圧接する。その後、バリ55を除去して接合コイル片CC3とする(図6(K))。
【0052】
以降同様に、新たなコイル片C(新たに継ぎ足す単位コイル片C0N)について曲げ加工を行い、単位コイル片C0Nと接合コイル片CCN-1を圧接し、バリ55を除去して接合コイル片CCNを形成する工程を繰り返し、所定巻き数の螺旋構造体50を得る。
【0053】
なお、折れ部B0の構成(形成位置や、折れ部B0の角度αなど)は、コイル片Cの形状、圧接装置の構成、コイル片Cの圧接量(押圧量)などに応じて適宜選択される。
【0054】
<中間成形工程>
次に、図3のステップS3に示す中間成形工程について説明する。図7は、所定の巻き数分、コイル片Cを圧接した螺旋構造体50を示す側面概要図である。同図(A)、同図(B)は、全ての圧接工程を終了した直後の螺旋構造体50を示し、同図(C)、同図(D)は中間成形後の螺旋構造体50を示す。
【0055】
圧接工程の終了直後の螺旋構造体50は同図(A)に示すような形状、例えば、対向する長辺LSのうち一方の長辺LSが螺旋の軸(破線で示す)に対して略垂直となる形状になっている。なお、同図(A)に示す形状に限らず、例えば、同図(B)に示すように対向する長辺LSのいずれもが螺旋の軸に対して傾斜する形状であってもよい。
【0056】
同図(A)、同図(B)に示すように、各コイル片Cには、圧接装置との干渉を回避するため折れ部B0が形成されており、圧接工程の終了直後は1周分領域CR同士の間に大きな(概ねの距離g1)の隙間Gが生じている。なお、それぞれの隙間Gの距離g1は厳密に等しい値ではなく、加工時の歪や螺旋構造体50の自重により伸縮し、ばらつきが生じている。
【0057】
中間成形工程では、この隙間Gの距離g1を縮小するよう、螺旋構造体50を螺旋の軸方向に変形(弾性変形および/または塑性変形)させて全体的に圧縮する。中間成形により各1周分領域CRの隙間Gは概ね距離g2(<g1)に縮小される(同図(C)、同図(D))。なおこの中間成形工程では、同図(C)に示すように、折れ部B0を残したまま距離g2に縮小してもよいし、同図(D)に示すように折れ部B0が(略)平面に戻るように(折り曲げがなくなるように)変形しつつ距離g2に縮小してもよい。また、後に最終的な成形工程を行うため、この距離g2も厳密に等しい値でなくてもよい。なお、距離g2はそれぞれの1周分領域CRが密着することなく、適度に離間する距離である。この適度に離間とは、後の絶縁工程において、各1周分領域CRが十分に絶縁可能となる距離である。
【0058】
この中間成形により、螺旋構造体50の全体の長さ(螺旋の軸方向の長さLT´)が短縮され、長さLTになる。つまり、中間成形工程は、隙間Gの距離g2を維持しつつ螺旋構造体50の全体の長さを縮小する成形を行う。
【0059】
<焼鈍工程>
次に、図3のステップS5に示す焼鈍工程について説明する。金属材料(例えば銅板)からなる螺旋構造体50は、コイル片Cの曲げ工程や、圧接工程などの加工硬化により内部の歪や残留応力が生じている。そこでこれらの歪や残留応力を取り除き、組織を軟化し加工性を向上させるために焼鈍(焼きなまし、アニーリング)を行う。一例として、熱処理炉(連続焼鈍炉)に複数の螺旋構造体50を投入し、無酸素雰囲気で(必要に応じて不活性ガスを導入して)適切な温度(例えば、再結晶温度以上)に加熱、所定時間保持し、炉中で徐冷する。焼鈍により螺旋構造体50を構成する金属材料は内部応力のない組織となり、軟化する。また焼鈍によって螺旋構造体50は塑性変形し易い状態になる。あるいは、焼鈍によって螺旋構造体50の塑性係数を制御する(螺旋構造体50の弾性限界を低くする)ともいえる。焼鈍後は、螺旋構造体50(の金属材料)は軟化するが、螺旋構造体50に対して外力を加えていない場合、その形状は維持される。
【0060】
既に述べているように圧接工程では圧接を良好に行うために螺旋構造体50の1周分領域CRの隙間Gを十分(距離g1)に保しているが、中間成形工程によって隙間Gを距離g2に低減し、螺旋構造体50の全体の長さを縮小(長さLT)している。これにより、本焼鈍工程における炉内での個々の螺旋構造体50の占有面積を低減でき、炉に収容可能な螺旋構造体50の数を増加させることができる。
【0061】
<絶縁工程>
次に、図3に示すステップS7の絶縁工程について説明する。絶縁工程では、螺旋構造体50において重畳した状態にある複数の1周分領域CRの間を絶縁する。図8は、絶縁工程終了後の螺旋構造体50を示す概要図であり、図1(A)のX-X線に対応する断面図である。
【0062】
絶縁工程は一例として、各1周分領域CRを絶縁樹脂60で被膜することにより行う。具体的には、螺旋構造体50を、例えば絶縁性の樹脂を含有した溶液に浸漬し、例えば電着などによって絶縁樹脂60で被覆する。螺旋構造体50は、隙間G(距離g2)が形成されているため、絶縁樹脂60は各1周分領域CR間の隙間Gにも入り込み、螺旋進行方向に沿って一端側から他端側まで、コイル片Cを連続させた平導体の周囲が連続して絶縁樹脂60で覆われる。これにより、同図(A)に示すように、螺旋構造体50において重畳する複数の1周分領域CRは互いに絶縁される。
【0063】
つまり、ステップS3の中間成形工程では隙間Gの距離g1を距離g2に縮小するが、本絶縁工程において、それぞれの1周分領域CRの周囲が確実に絶縁され、且つ巻き数分の全ての1周分領域CR(螺旋構造体50)が連続して絶縁されるように、隙間Gの距離g2は確保される。
【0064】
なお、絶縁樹脂による被膜は浸漬に限らず、液状の絶縁樹脂60を螺旋構造体50に吹き付けるなどして被膜するものであってもよい。
【0065】
また、焼鈍工程の後に(軟化した状態で)、絶縁樹脂60の被膜に必要な形状に螺旋構造体50を変形(例えば隙間Gの距離g2の拡張/縮小など)させてもよい。
【0066】
従来では、コイルの完成長さ分の長尺の丸導線(または平導体)を絶縁樹脂で被覆した後、これを巻回して螺旋構造を形成していた。しかしこの場合、巻回の湾曲部分の外周付近では絶縁樹脂が伸張されて被覆厚が薄くなり、耐圧劣化の要因となっていた。これに対し本実施形態では、螺旋構造体50を形成後、各1周分領域CR間に隙間Gがある状態で全体的に絶縁処理を行う。つまり螺旋構造体50を構成する平導体Cは、螺旋構造の一端ST側から他端ET側まで螺旋進行方向に沿って連続してその周囲を略均一に絶縁樹脂60で被覆することができ、絶縁樹脂60の膜厚の均一性を高めることができる。
【0067】
<成形工程>
次に、図3に示すステップS9の成形工程について説明する。図9(A)は絶縁工程が終了した直後の螺旋構造体50の外観を示す平面図(図1(A)に対応する平面図)であり、同図(B)は図8に対応する断面図(図1(A)のX-X線断面図)である。また、同図(C)は、図1(B)に対応する側面図である。
【0068】
成形工程は、螺旋構造体50を所望の形状に成形しコイル10として完成させる工程(最終成形工程)である。上述の製造工程中において、図9(A)に破線で示すようにそれぞれの1周分領域CRは、その周回の中心が螺旋構造体50の螺旋の軸中心SCからずれている場合がある。成形工程では、各1周分領域CRの周回の中心が螺旋構造体50の螺旋の軸中心SCに一致するよう矢印のごとく変形(弾性変形および/または塑性変形)してアライメント調整を行う。
【0069】
さらに、螺旋の軸方向に変形(弾性変形および/または塑性変形)し、折れ部B0を平坦化(折り曲げがなくなるように平坦化)する(図7(D)参照)。なお、中間成形工程で折れ部B0を平坦化している場合には、成形工程での折れ部B0の平坦化を省略してもよいが、最終形状として重ねて平坦化を行ってもよい。
【0070】
また、図9(B)に示すように、1周分領域CR間の隙間Gを、コイル10として所望される距離g3に変形する。図9(B)に示す例では、1周分領域CR間の隙間Gがほぼ0(g3≒0)になる(各1周分領域CRが密着する)構成を示しているが、最終成形として各1周分領域CR間に所定の距離g3(>0)隙間Gが生じるように成型してもよい。
【0071】
さらに、例えばステータコアに取り付けるコイル10の場合には、装着するステータコアの形状に合わせて、必要に応じて、螺旋構造体50の全体形状を成形してもよい。例えば、同図(C)に示すように、螺旋構造体50の軸中心SC方向(ステータコアの径方向)に凹状または凸状となるように、螺旋構造体50の内周端部が外周端部と非同一面となる湾曲状に成形してもよい。以上のようにして本発明のコイル10(図1参照)が製造される。
【0072】
<変形例>
以下、本実施形態の変形例について説明する。図10は、本実施形態の変形例によるコイル製造方法の処理の流れを示すフロー図である。また、図11は、本実施形態の変形例によるコイル10を示す概要図である。
【0073】
まず、図3のステップS3に示した中間成形工程は、焼鈍工程(ステップS5)の後に行ってもよい。すなわち、コイルの製造方法は、図10(A)に示すように、接合工程、焼鈍工程、中間成形工程、絶縁工程、成形工程をこの順に行うものであってもよい。例えば、コイル10と巻き数や、サイズ、折れ部B0の構成などによって、焼鈍工程の前に(炉内スペースの有効活用を目的として)螺旋構造体50を圧縮させなくてもよい場合などがある。その場合は、焼鈍工程の後に中間成形工程を行ってもよく、その場合の中間成形工程では、絶縁工程に適した形状に成形(変形)を行う。
【0074】
また、中間成形工程は、焼鈍工程の前および後に行ってもよい。すなわち、コイルの製造方法は、図10(B)に示すように、接合工程、第1中間成形工程、焼鈍工程、第2中間成形工程、絶縁工程、成形工程をこの順に行うものであってもよい。この場合第1中間成形工程は、焼鈍工程に適した形状に変形(例えば、螺旋構造体50の圧縮など)を行い、焼鈍工程の後に、絶縁工程に適した形状に成形(変形)を行う。
【0075】
また、中間成形工程は行わなくてもよい。すなわち、コイルの製造方法は、図10(C)に示すように、接合工程、焼鈍工程、絶縁工程、成形工程をこの順に行うものであってもよい。例えば、コイル10と巻き数や、サイズ、折れ部B0の構成などによって、焼鈍工程の前に(炉内スペースの有効活用を目的として)螺旋構造体50を圧縮させなくてもよい場合などがある。また、焼鈍工程によって軟化させ、最終的には成形工程によってコイル10として所望の形状に成形(変形)を行うので、中間成形工程を行わなくてもよい。
【0076】
また、絶縁工程と成形工程を同時に、あるいは成形工程の後に絶縁工程を行うものであってもよい。すなわち、すなわち、コイルの製造方法は、図10(D)に示すように、接合工程、焼鈍工程、絶縁・成形工程(絶縁と成形の工程は順不同)をこの順に行うものであってもよい。絶縁樹脂の付着、形成方法によっては、絶縁工程と成形工程を同時に、あるいは成形工程の後に絶縁工程を行うと好適な場合がある。
【0077】
絶縁工程は、複数の1周分領域CRを互いに絶縁する処理を行えばよく、絶縁樹脂による被膜に限らず、例えば、射出成形(インジェクションモールド)などの樹脂の加工方法により各1周分領域CRの周囲に絶縁樹脂層を形成することにより絶縁するものであってもよい。この場合、射出成形により螺旋構造体50の形状は固定されるため、絶縁工程は成形工程の後、または成形工程と同時に行う。
【0078】
図11(A)、同図(B)は、射出成形により絶縁樹脂層61を形成したコイル10の概要図であり、図9(B)に対応する断面図である。例えば、成形工程により、コイル10として所望の最終形状に成形したのち、射出成形により各1周分領域CRの周囲に絶縁樹脂層61を形成する。あるいは、成形工程により、コイル10として所望の最終形状に成形しながら、射出成形により各1周分領域CRの周囲に絶縁樹脂層61を形成する。
【0079】
同図(A)は、射出成形に際し、1周分領域CR間を互いに絶縁するとともに螺旋構造体50を一体的に絶縁樹脂層61で覆う(付着する)金型を用いた場合の一例である。また、同図(B)は、1周分領域CR毎に絶縁樹脂層61で覆う(付着する)金型を用いた場合の一例である。
【0080】
図11(C)は、他の変形例に係る図1(C)に対応するコイル10の側面図である。同図に示すように、コイル10は、完成した状態で、それぞれの1周分領域CRの間に、所定の距離g4の隙間G´を維持する構成であってもよい。この場合の隙間G´は完成形として確保され、例えば、ステータに取り付ける場合にも変形されずに距離g4が維持(確保)される。具体的には、隙間G´は例えば、スペーサ11を設けることによって所定の距離g4が確保される。
【0081】
完成したコイル10の1周分領域CR間に隙間G´が維持されることで、コイル10の内部(1周分領域CR)間を冷却することができ、放熱性を向上させてコイル10の特性を高めることができる。
【0082】
つまり距離g4は、流体(例えば空気や冷媒などの液体)が流通可能な程度とし、例えば、距離g1、g2のいずれよりも小さい距離とするが、距離g1~g3のいずれかと同一でもよいし異なってもよい。
【0083】
スペーサ11は例えば、コイル10の製造工程中においてコイル片Cの一部を利用して形成する。具体的には、例えば、図5に示す接合工程のバリ取り工程(ステップS14)において、除去するバリ55の一部を接合部CPにおいて凸状となるように残存させてスペーサ11にするとよい。
【0084】
また、図11(D)に示すように、中間成形工程や成形工程において、折れ部B0を完全に平坦化せず、残存させることにより所定の距離g4の隙間G´を確保するためのスペーサ11としてもよい。また、成形工程において折れ部B0を平坦化するが、(物理的なスペーサ11は設けずに)隙間G´を維持してもよい。
【0085】
あるいはスペーサ11は、コイル10以外の(コイル10とは別体の)他の部品であってもよい。例えば、同図(E)に示すような別途の部品としてのスペーサ11を準備し、成形工程(図3のステップS9)に際し、1周分領域CR間にスペーサ11を挿入し、成形する。
【0086】
あるいはまた、絶縁工程(例えば図3のステップS7など)において射出成形を行う場合には、距離g4の隙間G´が確保できるような金型を用いてもよい。この場合1周分領域CR毎にそれぞれ絶縁樹脂層61を付着可能な金型を用いるとよい(図11(B)参照)。
【0087】
本実施形態によれば、打ち抜き等により略直角の角部TNを有するコイル片Cを形成し、それらを連続して圧接してコイル10を形成する。つまりコイル片Cの略直角の角部TNは、コイル10の角部となる。つまり、本実施形態によれば、1周分領域CRの内周側および外周側の角部が略直角のコイル10を製造することができる。従来では、長尺の平導体を巻回して平導体によるコイルを製造していたが、巻回では少なくともコイルの内周側の角部は湾曲した形状となることは不可避であり、ステータに取り付けた場合の占積率の向上や放熱性の向上などに限界があった。
【0088】
しかし本実施形態によれば、ステータに取り付けた場合の占積率を向上させることができ、また余分な空間を廃することで放熱性を向上させることができる。
【0089】
特に、コイル片C同士の接合部CPは、角部TN(角部)を避けて直線部分に設けられる。すなわち、コイル片の直線部分を利用して、圧接を行っている。この結果、角部TNの形状精度を向上させることができ、例えば、打ち抜き加工において直角(略直角)に形成したままの角部を維持できる。
【0090】
また、圧接工程ではコイル片Cの端面TS同士の圧接には大きな荷重がかかるが、焼鈍工程とその後の成形工程により、不要な歪みや残留応力を排除したコイル10を得ることができる。
【0091】
また、完成品のコイル10として必要な巻き数の螺旋構造体50を形成したのち、各1周分領域CR間の隙間Gを必要十分に維持した状態で絶縁工程を行う(絶縁処理を行う)ため、各1周分領域CRをそれぞれ確実に、且つ、角部においても均一に絶縁する(絶縁樹脂の被膜の形成、あるいは絶縁樹脂層の付着を行う)ことができ、高耐圧化を図ることができる。
【0092】
以上、本発明は、上述した実施形態に限定せず、様々な実施形態で構成することができる。
【0093】
例えば、上述の実施形態では、コイル片CがU字状の場合を例に説明したが、コイル片Cは、図2に示す他の形状であってもよい。
【0094】
また、上述の実施形態では、コイル片Cを1片ずつ、接合の前に曲げ工程において変形(折れ部B0を形成)し、圧接工程で圧接する構成を説明した。しかしこれに限らず、曲げ工程では、予め必要な巻き数分のコイル片Cを全数変形(折れ部B0を形成)した後、変形後の複数のコイル片Cを用いて、圧接工程にて圧接するように構成してもよい。
【0095】
また、上記の実施形態では圧接工程において1箇所の接合部CPを形成する毎にバリ取り工程にてバリ55を除去し、次のコイル片Cとの圧接を行う例を示した。しかしこれに限らず、完成予定の螺旋構造体50のうち、複数個所(または全て)の接合部CPを形成したのち、各接合部CPに生じた複数のバリ55を除去するようにしてもよい。その際、N回の圧接工程の後に1回のバリ取り工程で複数(N箇所)のバリ55を纏めて(一括して)除去するようにしてもよいし、N回の圧接工程の後に複数回(例えば2回~N回以上)のバリ取り工程を行い、複数(N箇所)のバリ55を除去するようにしてもよい。
【0096】
また、1つのコイル片Cは、一枚の銅板を打ち抜き加工により構成したものに限らず、複数の細平導体(例えば帯長手方向BLに直交する断面形状(図2(B)、同図(C)に対応する断面形状)が正方形の平導体)を、螺旋構造体50の帯短手方向BS(螺旋進行方向に直交する方向)に並列配置してなるものであってもよい。
【0097】
また、コイル片Cは、打ち抜き加工により構成したものに限らず、例えば丸線(丸導線)をプレスにより平導体に変形したものであってもよい。
【0098】
また、複数のコイル片Cは、螺旋進行方向に沿って、コイル片Cの帯短手方向BSの幅が異なる(順次大きく(または小さく)なる)ものであってもよい。この場合、螺旋進行方向における任意の位置の、螺旋進行方向に直交する断面積(例えば、図2(B)に対応する断面積)が互いに等しくなるように、コイル片Cの厚み(螺旋の軸方向の厚み)は、コイル片Cの帯短手方向BSの幅に応じて異ならせるとよい。このようにして形成したコイル10は、図1(B)に示す外観形状が、四角錐台形状となる。
【0099】
さらにまた、圧接する2つのコイル片Cは、その端面TSの形状が異なるものであってもよい。例えば端面TSの形状として幅(帯短手方向BSの長さ)が異なるコイル片C同士を圧接する構成であってもよいし、厚み(幅面W間の長さ)が異なるコイル片C同士を圧接する構成であってもよいし、幅と厚みが異なるコイル片C同士を圧接する構成であってもよい。
【0100】
また、複数のコイル片Cは平導体と丸線により構成されてもよい。つまり、平導体により構成されたコイル片Cと丸線により構成されたコイル片Cを圧接する構成であってもよい。
【0101】
また、コイル片Cの一部または全部の角部TNは、内周側が略直角であり、外周側が湾曲部を有する形状であってもよい。また、コイル片Cの一部または全部の角部TNは、内周側において少なくとも一部に湾曲部を有する形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、平導体を用いたコイル(平角コイル、エッジワイズコイル)を製造する場合などに用いることができる。
【符号の説明】
【0103】
10 コイル
11 スペーサ
50 螺旋構造体
50' 仮想螺旋構造体
55 バリ
60 絶縁樹脂
61 絶縁樹脂層
B0 折れ部
BL 帯長手方向
BS 帯短手方向
C 平導体(コイル片)
C0 単位コイル片
CC 接合コイル片
CP 接合部
CR 1周分領域
CR' 仮想1周分領域
G 隙間
LS 長辺
LS1、LS2 長辺領域
SS 短辺
SC 軸中心
STR 直線部
T 巻き数
T1 端部
T2 端部
TN 角部
TS、TS0、TS1、TS2 端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11