(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】複合体、その製造方法、それを用いたアノード電極材料、および、それを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20240603BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240603BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240603BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
C01B32/05
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 E
(21)【出願番号】P 2020115268
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-03-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年1月14日公開 Nano Energy vol.70,2020,104444 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2211285519311619 http://doi:10.1016/j.nannoen.2019.104444
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】唐 捷
(72)【発明者】
【氏名】ガオ レンシェン
(72)【発明者】
【氏名】秦 禄昌
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110729472(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107359326(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108417813(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0190571(US,A1)
【文献】特表2020-514231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/02
C01B 32/05
H01M 4/38
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体の製造方法であって、
前記複合体は、コバルト(Co)を含有し、ゼオライト様イミダゾレート構造体に基づく多孔質炭素支持体と、前記多孔質炭素支持体内に支持されたシリコン(Si)粒子とを含み、前記炭素(C)に対する前記Siの原子比(Si/C)は、0.36以上0.39以下の範囲であり、前記Coの含有量は、37質量%以上40質量%以下の範囲であり、
高分子分散剤で被覆されたシリコン(Si)粒子と、イミダゾールまたはその誘導体と、Coの塩とを溶媒中で混合することと、
前記混合することによって得られた混合物を100℃より高く140℃以下の温度範囲で水熱合成することと、
前記水熱合成で得られた生成物を焼成することと
を包含する
、製造方法。
【請求項2】
前記高分子分散剤は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、および、ゼラチンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求
項1に記載
の製造方法。
【請求項3】
前記水熱合成することは、110℃以上130℃以下の温度範囲で行う、請求
項1または2に記載
の製造方法。
【請求項4】
前記焼成することは、700℃以上900℃以下の温度範囲で行う、請求
項1~3のいずれかに記載
の製造方法。
【請求項5】
前記イミダゾールまたはその誘導体は、2-メチルイミダゾールまたはその誘導体である、請求
項1~4のいずれかに記載
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体、その製造方法、それを用いたアノード電極材料、および、それを用いたリチウムイオン二次電池に関し、詳細には、シリコン(Si)粒子を含有する複合体、その製造方法、それを用いたアノード電極材料、および、それを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池のアノード電極材料として、大きな比容量および容積容量、低い作動電位、豊富な資源によりSiが注目されている。しかしながら、Siは、リチウム(Li)イオンの挿入と脱離とに伴い体積変化が大きいため、分解が進み、サイクル寿命が短いという問題がある。また、SiとLiとの合金化/脱合金化プロセスでSiの機械的破壊によって、急激かつ不可逆的な容量減少が生じるという問題がある。さらに、Liの脱離によるSi表面の固体電解質界面(SEI)層が破壊され、Siの新しい表面が電解液に露出し、SEI層が形成される。充放電を繰り返すことによりSEI層が厚くなる。
【0003】
このような大きな体積変化に係る問題に対して、フェノール樹脂で被覆されたSi粒子を用いる技術が開発された(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、フェノール樹脂で被覆されたSi粒子をゼオライト様イミダゾール構造体としてZIF-67に埋め込み、それを炭化することによって、炭素膜で被覆されたSi粒子が埋め込まれたZIF-67由来炭化物からなる複合体が製造された。非特許文献1は、この複合体をリチウムイオン電池のアノード電極に使用したところ、サイクル特性およびレート特性が改善したことを報告する。しかしながら、実用化に際しては、さらなる特性向上が求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Niantao Liuら,Energy Storage Materials,Volume 18,March 2019,Pages 165-173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上から、本発明の課題は、リチウムイオン二次電池のアノード電極に使用できるシリコン粒子を用いた複合体、その製造方法、それを用いたアノード電極材料、および、それを用いたリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による複合体は、コバルト(Co)を含有し、ゼオライト様イミダゾレート構造体に基づく多孔質炭素支持体と、前記多孔質炭素支持体内に支持されたシリコン(Si)粒子とを含み、前記炭素(C)に対する前記Siの原子比(Si/C)は、0.36以上0.39以下の範囲であり、前記Coの含有量は、37質量%以上40質量%以下の範囲であり、これにより上記課題を解決する。
前記原子比(Si/C)は、0.365以上0.375以下の範囲であってもよい。
前記シリコン粒子の粒径は、40nm以上130nm以下の範囲であってもよい。
前記Coの含有量は、37原子%以上39原子%以下の範囲であってもよい。
前記多孔質炭素支持体の粒径は、0.3μm以上2μm以下の範囲であってもよい。
前記多孔質炭素支持体は、ZIF-67の炭化物であってもよい。
前記多孔質炭素支持体は、窒素(N)をさらに含有してもよい。
前記Nの含有量は、2原子%以上5原子%以下の範囲であってもよい。
前記多孔質炭素支持体は、酸素(O)をさらに含有してもよい。
前記Oの含有量は、5原子%以上15原子%以下の範囲であってもよい。
組成式CaSibCocNdOeで表され、a+b+c+d+e=1とすると、原子比のパラメータa~eは、
0.6≦a≦0.9
0.01≦b≦0.1
0.01≦c≦0.05
0≦d≦0.1
0≦e≦0.3
を満たしてもよい。
240m2/g以上300m2/g以下の範囲のBET比表面積を有してもよい。
1nm以上10nm以下の範囲の中心細孔直径を有してもよい。
本発明による上記複合体の製造方法は、高分子分散剤で被覆されたシリコン(Si)粒子と、イミダゾールまたはその誘導体と、Coの塩とを溶媒中で混合することと、前記混合することによって得られた混合物を100℃より高く140℃以下の温度範囲で水熱合成することと、前記水熱合成で得られた生成物を焼成することとを包含し、これにより上記課題を解決する。 前記高分子分散剤は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、および、ゼラチンからなる群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
前記水熱合成することは、110℃以上130℃以下の温度範囲で行ってもよい。
前記焼成することは、700℃以上900℃以下の温度範囲で行ってもよい。
前記イミダゾールまたはその誘導体は、2-メチルイミダゾールまたはその誘導体であってもよい。
本発明のアノード電極材料は、上記複合体を含有し、これにより上記課題を解決する。
本発明によるリチウムイオン二次電池は、アノード電極と、カソード電極と、前記アノード電極および前記カソード電極の間に位置する電解質とを備え、前記アノード電極は、上記アノード電極材料からなり、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合体は、コバルト(Co)を含有し、ゼオライト様イミダゾレート構造体に基づく多孔質炭素支持体と、その中に支持されたシリコン(Si)粒子とを含む。Si粒子は炭素膜で被覆されていないか、被覆されていても単層からなる極めて薄い炭素膜で被覆されているため、Si本来の大きな比容量を達成できる。特に、特定のSi/Cの原子比、および、特定のCo含有量を満たすことにより、優れたサイクル特性およびレート特性が得られ、アノード電極材料として機能し得る。さらに、このようなアノード電極材料を用いれば、優れたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【0008】
本発明の複合体の製造方法は、高分子分散剤で被覆されたシリコン(Si)粒子と、イミダゾールまたはその誘導体と、Coの塩とを溶媒中で混合することと、それよって得られた混合物を水熱合成することと、それによって得られた生成物を焼成することとを包含する。所定温度で水熱合成することにより、Si粒子が溶媒中で良好に分散し、攪拌された状態で、イミダゾレート構造体が形成されるので、イミダゾレート構造体内にSi粒子を支持させることができる。このような生成物を焼成することにより、上述の複合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明の複合体の製造工程を示すフローチャート
【
図3】本発明のリチウムイオン二次電池を模式的に示す図
【
図4】例1の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図
【
図5】例2の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図
【
図6】例3の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図
【
図7】例4の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図
【
図8】例2および例5の中間生成物のXRDパターンを示す図
【
図10】例2の試料の異なる倍率のTEM像を示す図
【
図19】例2の電池のサイクリックボルタンメトリ(CV)特性を示す図
【
図20】例2の電池のガルバノスタット充放電曲線を示す図
【
図21】例2の電池のガルバノスタット充放電曲線の電流密度依存性を示す図
【
図22】例2の電池および例5の電池のレート特性を示す図
【
図24】例2の電池および例6の電池のサイクル特性を示す図
【
図26】例2の電池および例6の電池のナイキストプロットを示す図
【
図28】例1の電池および例3の電池のサイクル特性を示す図
【
図29】例2の電池の充放電前および充放電(100サイクル)後のTEM像を示す図
【
図30】例2の電池の充放電前および充放電(400サイクル)後のSEM像を示す図
【
図31】例2の電池の種々の掃引速度におけるCV曲線(A)と、ピーク電流と掃引速度との関係(B)とを示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の複合体およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明の複合体を模式的に示す図である。
【0012】
本発明の複合体100は、コバルト(Co)を含有し、ゼオライト様イミダゾレート構造体に基づく多孔質炭素支持体110と、その中に支持されたシリコン(Si)粒子120とを含む。本願明細書において支持されるシリコン粒子は2以上のシリコン粒子を意図する。多孔質炭素支持体110は、主として炭素からなり、後述する所定量のCoを含有し、シリコン粒子120を内包可能である。
【0013】
多孔質炭素支持体110は、ゼオライト様イミダゾレート構造体(Zeolitic Imidazolate Framework:ZIF)の炭化物である。ゼオライト様イミダゾレート構造体は、金属有機構造体(Metal-Organic Framework:MOF)を骨格とする材料の一種であり、金属がCoであり、有機架橋配位子がイミダゾール置換基からなるゼオライトのような3次元ミクロポーラス材料である。
【0014】
このようなZIFには、細孔径の違い、イミダゾール置換基の種類によって、ZIF-7、ZIF-22、ZIF-8、ZIF-67、ZIF-69、ZIF-71、ZIF-78、ZIF-90、ZIF-95等が知られている。中でも、細孔径および収率の観点から、ZIF-67、すなわち、Coイオンを2-メチルイミダゾールが架橋したソーダライト型結晶構造が好ましい。ZIF-67の炭化物であることは、簡易的には、多孔質炭素多孔体110の形状が、12面体であることから判断してもよい。
【0015】
また、本発明の複合体100において、シリコン粒子120は、炭素膜で被覆されていないか、または、単層の炭素膜で被覆されている。これにより、Si本来の大きな比容量を達成できる。なお、本願明細書において、シリコン粒子120が炭素膜で被覆されていない、または、単層の炭素膜で被覆されていることは、電子顕微鏡観察、X線回折、X線光電子分光法、シリコン粒子の粒径などの結果を総合的に判断できるが、簡易的には、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などの電子顕微鏡観察において、炭素膜が実質確認されなければれば、シリコン粒子120は炭素膜で被覆されていない、または、単層の炭素膜で被覆されていると判断してよい。詳細は実施例にて説明する。
【0016】
さらに、本発明の複合体100において、Coの含有量は、複合体全体に対して、37質量%以上40質量%以下の範囲であり、炭素(C)に対するSiの原子比(Si/C)は0.36以上0.39以下の範囲である。本願発明者らは、特定のCo含有量とSi/C原子比とを満たすことにより、優れたサイクル特性およびレート特性が得られ、アノード電極材料として機能し得ることを見出した。各元素の含有量は、光電子分光装置を用いたXPSスペクトルから算出される。
【0017】
Coの含有量は、好ましくは、37原子%以上39原子%以下の範囲である。この範囲であれば、さらに優れたサイクル特性およびレート特性が得られ得る。
【0018】
Si/C原子比は、好ましくは、0.365以上0.375以下の範囲である。この範囲であれば、さらに優れたサイクル特性およびレート特性が得られ得る。
【0019】
シリコン粒子120の粒径は、好ましくは、40nm以上130nm以下の範囲である。この範囲であれば、上記Si/C原子比を満たしつつ、シリコン粒子120を多孔質炭素支持体110内に支持させることができる。シリコン粒子120の粒径は、より好ましくは、90nm以上110nm以下の範囲である。これによりサイクル特性およびレート特性に優れた複合体が得られる。本願明細書において、シリコン粒子120の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察された画像において無作為に選んだ粒子100点の粒径を測定し、その平均粒径とする。
【0020】
多孔質炭素支持体110の粒径は、好ましくは、0.3μm以上2μm以下の範囲である。この範囲であれば、シリコン粒子120を内包し、支持できる。多孔質炭素支持体110の粒径は、より好ましくは、0.36μm以上1.2μm以下の範囲である。この範囲であれば、優れたサイクル特性およびレート特性を有するアノード電極材料となり得る。本願明細書において、多孔質炭素支持体110の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された画像において無作為に選んだ粒子100点の粒径を測定し、その平均粒径とする。
【0021】
多孔質炭素支持体110は、窒素(N)をさらに含有してもよい。多孔質炭素支持体110中の窒素は、原料中に含有される窒素であってもよい。これにより、多孔質炭素支持体110が安定化する。含有される窒素の量は、2原子%以上5原子%以下の範囲である。この範囲であれば、アノード電極材料として機能する。含有される窒素の量は、好ましくは、4原子%以上5原子%以下の範囲である。
【0022】
多孔質炭素支持体110は、酸素(O)をさらに含有してもよい。多孔質炭素支持体110中の酸素は、製造時に導入されよい。これにより、多孔質炭素支持体110が安定化する。含有される酸素の量は、5原子%以上15原子%以下の範囲である。この範囲であれば、アノード電極材料として機能する。含有される酸素の量は、好ましくは、8原子%以上12原子%以下の範囲である。
【0023】
本発明の複合体100は、炭素(C)、シリコン(Si)、コバルト(Co)、必要に応じて窒素(N)、必要に応じて酸素(O)を含有し、組成式CaSibCocNdOeで表され、a+b+c+d+e=1とすると、原子比のパラメータa~eは、好ましくは、以下を満たす。
0.6≦a≦0.9
0.01≦b≦0.1
0.01≦c≦0.05
0≦d≦0.1
0≦e≦0.3
これにより、本発明の複合体100は、シリコン粒子120を多孔質炭素支持体110内に支持し、安定化し得る。
【0024】
より好ましくは、パラメータa~eは以下を満たす。
0.75≦a≦0.85
0.02≦b≦0.04
0.015≦c≦0.02
0.04≦d≦0.06
0.08≦e≦0.15
この範囲であれば、本発明の複合体100は、優れたサイクル特性およびレート特性を有するアノード電極材料となり得る。
【0025】
本発明の複合体100は、240m2/g以上300m2/g以下の範囲のBET(Brunauer-Emmett-Teller法)比表面積を有する。これにより、リチウムイオンの挿入・脱離を可能とし、充放電を促進する。本発明の複合体100は、より好ましくは、250m2/g以上280m2/g以下の範囲のBET比表面積を有する。この範囲であれば、優れたサイクル特性およびレート特性を有するアノード電極材料となり得る。
【0026】
本発明の複合体100の中心細孔直径は、好ましくは、1nm以上10nm以下の範囲である。中心細孔直径は、Barrett-Joyner-Halenda法により求めた細孔径分布曲線から求められる。中心細孔直径が上記範囲内であれば、リチウムイオンの挿入・脱離を可能とし、充放電を促進する。本発明の複合体100の中心細孔直径は、より好ましくは、1nm以上4nm以下の範囲である。この範囲であれば、優れたサイクル特性およびレート特性を有するアノード電極材料となり得る。
【0027】
次に、本発明の複合体の製造方法について説明する。
図2は、本発明の複合体の製造工程を示すフローチャートである。
【0028】
本発明の複合体は以下のステップS210~S230によって製造される。
各ステップについて詳述する。
ステップS210:高分子分散剤で被覆されたシリコン(Si)粒子と、イミダゾールまたはその誘導体と、コバルト(Co)の塩とを溶媒中で混合する。
ステップS220:ステップS210により得られた混合物を100℃より高く140℃未満の温度範囲で水熱合成する。
ステップS230:ステップS220により得られた生成物を焼成する。
【0029】
ステップS210において、シリコン粒子は、市販のシリコン粒子を使用でき、好ましくは、40nm以上130nm以下の範囲の粒径を有するシリコン粒子である。
【0030】
ステップS210において、高分子分散剤は、好ましくは、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、および、ゼラチンからなる群から選択される少なくとも1つを含む。これらは、Si粒子を被覆し、溶媒中での分散性に優れる。中でも、高分子分散剤は、より好ましくは、ポリビニルピロリドンである。なお、高分子分散剤で被覆したSi粒子は、上述の高分子分散剤を溶解させたエタノール等の溶媒に分散・攪拌(例えば、5時間~15時間)し、遠心分離することによって得られる。
【0031】
ステップS210において、イミダゾールまたはその誘導体とは、置換基を有するまたは有しないイミダゾール、イミダゾール上の2、4または5位の少なくとも1つ以上の炭素原子上で炭素数が1~6個(例えば、炭素数が1~4個、1~3個)のアルキル基、ハロゲン基およびニトロ基からなる群から選ばれる1~3個の置換基を有するか、または、イミダゾール上の4および5位の隣接する置換基が一緒になって、置換基を有していてもよい縮合環式の5もしくは6員の芳香族炭素環または芳香族ヘテロ環を形成していてもよい、イミダゾールを意味する。
【0032】
炭素数が1~6個のアルキル基は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、ネオブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどである。中でも、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピルがより好ましく、メチル、エチルがより一層好ましく、メチルが特に好ましい。ハロゲン基としては、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨードがあり、クロロが好ましい。
【0033】
縮合環式の5もしくは6員の芳香族炭素環は、例えば、ベンゾ基がある。縮合環式の5もしくは6員の芳香族ヘテロ環は、例えば、酸素、窒素および硫黄原子からなる群から少なくとも1種選択されるヘテロ原子を含有した、フロ基、チオフェノ基、ピロロ基、イミダゾロ基、ピラゾロ基、イソオキサゾロ基、テトラゾロ基、ピリド基、ピラジノ基、ピリミジノ基、ピリダジノ基等がある。
【0034】
中でも、イミダゾールまたはその誘導体は、好ましくは、2-メチルイミダゾールである。市販されており、入手が容易であり、既存の方法によって合成も可能である。
【0035】
Coの塩は、Coの無機塩または有機塩を意味し、好ましくは、Coの無機塩である。Coの無機塩は、例えば、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、フッ化物塩、臭化物塩、塩化物、要化物塩などの無機ハロゲン化物塩、アセチルアセトナート塩であり得る。
【0036】
ステップS210において、より好ましくは、高分子分散剤で被覆されたシリコン粒子をメタノール等の溶媒に再分散させ、これにイミダゾールまたはその誘導体を添加する。この混合液に、Coの塩をメタノール等の溶媒に溶解させた溶液を添加する。この手順により、高分子分散剤で被覆されたシリコン粒子が良好に分散した混合物(種溶液)となる。
【0037】
ステップS220において、ステップS210で得られた混合物を100℃より高く140℃未満の温度範囲で水熱合成する。水熱合成は、高温高圧の熱水の存在下で行われる反応であるが、混合物をオートクレーブ等の耐熱容器に移し、密閉した状態で、上記温度範囲で加熱すればよい。100℃以下および140℃以上の温度では、シリコン粒子を十分に支持できない。これにより、高分子分散剤で被覆されたシリコン粒子を内部に支持したコバルト-有機構造体(すなわち、ゼオライト様イミダゾレート構造体)となる。特に、ステップS210においてイミダゾールまたはその誘導体として2-メチルイミダゾールまたはその誘導体を用いた場合には、ZIF-67となる。
【0038】
ステップS220において、さらに好ましくは、水熱合成は、110℃以上130℃以下の温度範囲で、2時間以上10時間以下の時間行われる。これにより、高分子分散剤で被覆されたシリコン粒子を内包した状態でコバルト-有機構造体を効率的に生成できる。
【0039】
水熱合成後、反応物を遠心分離し、エタノール等で数回洗浄し、真空中で乾燥させてもよい。
【0040】
ステップS230において、ステップS220により得られた生成物(分子分散剤で被覆されたシリコン粒子内包コバルト-有機構造体)を焼成し、炭化する。このようにして、
図1を参照して説明した複合体が得られる。
【0041】
ステップS230において、焼成は、有機物が炭化される限り温度に制限はないが、好ましくは、700℃以上900℃以下の温度で行われる。この範囲であれば、有機物が炭化される。焼成は、好ましくは、窒素雰囲気、アルゴン、キセノン等の希ガス雰囲気で行われる。焼成時間は、例示的には、1時間以上10時間以下、好ましくは、2時間以上5時間以下の間である。
【0042】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の複合体を含有するアノード電極材料を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
図3は、本発明のリチウムイオン二次電池を模式的に示す図である。
【0043】
本発明のリチウムイオン二次電池300は、少なくとも、カソード電極310とアノード電極320と電解質330とを備えるが、
図3では、カソード電極310およびアノード電極320が電解質330に浸漬している様子を示す。
【0044】
カソード電極310は、代表的にはLiMO
2(Mは、Ni、Co、Mn、Fe、Ti、Zr、Al、Mg、CrおよびVからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表されるLi金属酸化物が知られているが、既存のリチウムイオン二次電池に適用されるカソード電極用の材料が適用される。アノード電極320は、実施の形態1で説明した本発明の複合体(
図1)を含有するアノード電極材料からなる。
【0045】
電解質330は、リチウムイオン二次電池に使用される既存の電解質であれば特に制限はないが、例示的には、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiPOF2、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CF2SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)およびLiN(CF3CF2CO)2からなる群から少なくとも1つ選択される物質を含有する。中でも、LiPF6は、導電性が高いため、好ましい。
【0046】
リチウムイオン二次電池300は、さらに、カソード電極310とアノード電極320との間にセパレータ340を有し、これらカソード電極310およびアノード電極320を隔離している。
【0047】
セパレータ340の材料は、例えば、フッ素系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン系高分子およびこれらの誘導体、セルロース、紙、および、不織布から選ばれる材料である。
【0048】
リチウムイオン二次電池300では、上述のカソード電極310、アノード電極320、電解質330およびセパレータ340がセル350に収容されている。また、カソード電極310およびアノード電極320は、それぞれ、既存の集電体を有していてもよい。
【0049】
このようなリチウムイオン二次電池300は、チップ型、コイン型、ボタン型、モールド型、パウチ型、ラミネート型、円筒型、角型等のキャパシタであってもよく、さらに、これらを複数接続したモジュールで使用されてもよい。
【0050】
このように本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の複合体を含有するアノード電極材料を用いるので、リチウムイオンの挿入・脱離による体積膨張が抑制され、高いサイクル特性およびレート特性を達成できる。柔軟性に優れ、Liイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化に追従できる。その結果、リチウムイオン二次電池の長寿命を可能にする。
【0051】
また、アノード電極において、本発明の複合体中のシリコン粒子は実質的に炭素膜によって被覆されていないので、大きな容量のリチウム二次イオン電池を提供できる。このような本発明のリチウムイオン二次電池は、ノートパソコン、携帯電話等のポータブル電子機器等に利用され得る。
【0052】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0053】
[高分子分散剤被覆シリコン粒子]
粒径100nmのシリコン粒子5g(Sigma-Aldrich製)を、ポリビニルピロリドン30mLを含有するエタノール溶液に均一に分散させ、12時間攪拌させた。その後、遠心分離し、高分子分散剤被覆シリコン粒子を得た。
【0054】
[例1~例3]
例1~例3では、
図2に示す方法を実施し、複合体を製造した。詳細には、高分子分散剤被覆シリコン粒子と、2-メチルイミダゾールと、コバルト(Co)の硝酸塩とをメタノール中で混合(
図2のステップS210)し、これを100℃(例1)、120℃(例2)、140℃(例3)の温度で水熱合成(
図2のステップS220)し、得られた生成物を焼成(
図2のステップS230)した。
【0055】
詳細に説明する。表1に示すように、高分子分散剤被覆シリコン粒子5gを100mLのメタノールに再分散させ、2-メチルイミダゾール1.848gを添加した(混合液Aと称する)。コバルト硝酸塩水和物(Co(NO3)2・6H2O)1.638gを100mLのメタノールに溶解させた(混合液Bと称する)。混合液Bを混合液Aに一気に添加し、種溶液を得た。種溶液は濃い紫色の溶液であった。
【0056】
種溶液を300mLのテフロン(登録商標)製内筒容器付きの水熱合成用ステンレス製反応器に移し、100℃(例1)、120℃(例2)、140℃(例3)で4時間、水熱合成した。室温まで放冷し、生成物を遠心分離し、エタノールで複数回洗浄後、真空中で8時間乾燥させた。以降では、水熱合成後、かつ、焼成前の生成物を例1~例3の中間生成物と称する。例1~例3の中間生成物を、電界放出形走査電子顕微鏡(SEM、JSM-6500F、日本電子株式会社製)により観察した。結果を
図4~
図6に示す。例1~例3の中間生成物に粉末X線回折測定(XRD、全自動多目的X線回折装置SmartLab、株式会社リガク製)を行った。Cu-Kα線の特性X線(波長λ=1.5418Å)を用いた。結果を
図8に示す。
【0057】
中間生成物を雰囲気炉に設置し、昇温速度3℃/分で800℃まで昇温させ、アルゴン雰囲気中、3時間焼成し、炭化させ、最終生成物(試料)を得た。以降では、焼成後の最終生成物を例1~例3の試料と称する。例1~例3の試料をSEMにより観察し、粒径分布を求めた。結果を
図9および
図13に示す。例1~例3の試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、JEM-2100F、日本電子株式会社製)により観察した。結果を
図10~
図12に示す。
【0058】
例1~例3の試料についてXRD測定を行った。結果を
図14に示す。例1~例3の試料のラマンスペクトルをラマン分光装置(Raman Plus、ナノフォトン株式会社製)を用いて測定した。結果を
図15および表2に示す。測定には波長532nmのレーザ光を用いた。例1~例3の試料について光電子分光装置(XPS、Quantera SXM、アルバック・ファイ株式会社製)を用いてXPSスペクトルを測定した。結果を
図16に示す。例1~例3の試料について比表面積/細孔径分布測定装置(Autosorb iQ、Quantachrome Instruments)を用いて窒素吸脱着等温線および細孔径分布を測定した。結果を
図17、
図18および表3に示す。
【0059】
例1~例3の試料をアノード電極材料に用い、CR2032コイン型電池セルを製造し、電気化学特性を評価した。
【0060】
具体的には、各アノード電極材料と、カーボンブラックと、バインダとしてポリビニルアルコールとを、N-メチルピロリドン(NMP)中で、質量比7:2:1で混合し、電極スラリとした。電極スラリを直径15mmの円形の銅箔に塗布し、真空雰囲気中、90℃で12時間乾燥させた。これにより、銅箔が集電体として機能するアノード電極を構成した。アノード電極内に含有される各試料の質量は1~2mgであった。カソード電極(カウンタ電極)としてLi箔を用いた。
【0061】
ステンレス製のセル内に多孔性のセパレータとしてポリプロピレン(PP)メンブレン(Celgard2400)をこれら電極間に配置し、電解質として炭酸エチレンと炭酸ジエチルとの混合物(1:1、v/v)中に1MLiPF6を充填し、コイン型電池セルを製造した。なお、電池セルの組み立ては、Arガスで充填されたグローブボックス内で行った。例1~例3の試料をアノード電極に用いた電池を、それぞれ、例1~例3の電池と呼ぶ。
【0062】
電池セルの電気化学測定を、VMP3電気化学ステーション(Biologic)を用いて行った。室温において、サイクリックボルタンメトリ(CV)測定、サイクル特性、レート特性、電気化学インピーダンス(EIS)測定を行った。サイクル特性およびレート特性は、種々の電流密度で電圧幅0.005V~3.0VvsLi/Li+で行った。EIS測定は、AC振幅10mV、周波数幅100mHz~200kHzで行った。測定後の電極の断面の様子をSEM観察した。これらの結果を
図19~
図22、
図24、
図26~
図31および表4に示す。
【0063】
[例4]
例4は、例1~例3において、水熱合成に代えて25℃で12時間のエージングを行った以外は、例1~例3と同様であった。焼成前の例4の試料のSEM像を
図7に示す。
【0064】
[例5]
例5は、例2において、高分子分散剤被覆シリコン粒子を用いない以外は、例2と同様であった。すなわち、例5の試料はZIF-67の炭化物であった。例1~例3と同様に、例5の試料をアノード電極材料に用い、CR2032コイン型電池セルを製造し、電気化学特性を評価した。結果を
図22および表4に示す。
【0065】
[例6]
例6は、高分子分散剤で被覆される前のシリコン粒子をアノード電極に用い、例1~例3と同様に、CR2032コイン型電池セルを製造し、電気化学特性を評価した。結果を
図23および表4に示す。
【0066】
分かりやすさのために、例1~例5の試料の合成条件を表1に示す。
【0067】
【0068】
図4は、例1の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図である。
図5は、例2の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図である。
図6は、例3の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図である。
図7は、例4の中間生成物の異なる倍率のSEM像を示す図である。
【0069】
図4~
図7によれば、いずれの中間生成物も12面体の構造体を有し、ZIF-67が形成されたことが示唆された。
図4、
図6および
図7によれば、多面体以外に微粒子が確認され、ZIF-67内に支持・被覆されないシリコン粒子が多数存在した。一方、
図5によれば、多面体以外の微粒子は確認されず、すべてのシリコン粒子がZIF-67内に支持されたことが分かった。
【0070】
図8は、例2および例5の中間生成物のXRDパターンを示す図である。
【0071】
図8によれば、例2の中間生成物のXRDパターンは、例5の中間生成物(すなわちZIF-67)のそれと一致した。このことから、例2の中間生成物は、高分子分散剤被覆シリコン粒子を内部に支持したZIF-67の複合体であることが分かった。図示しないが、例1、例3の中間生成物もZIF-67の生成を示した。
【0072】
図9は、例2の試料の異なる倍率のSEM像を示す図である。
図10は、例2の試料の異なる倍率のTEM像を示す図である。
図11は、例2の試料のHRTEM像を示す図である。
図12は、例2の試料の元素マッピングを示す図である。
【0073】
図9に示すように、例2の試料は、焼成後も12面体の構造体の形状を維持した。
図5と比較すると、例2の試料の表面は粗く、多孔質であった。これは、焼成によりZIF-67中の有機鎖が除去されたためと考える。このことから、ZIF-67は燃焼により、多孔質炭素支持体となったことを示唆する。
【0074】
図10(A)によれば、例2の試料は、多孔質炭素支持体内にシリコン粒子を内包した複合体であることが分かった。
図10(B)によれば、例2の試料は、密になった炭素殻(カーボンシェル)を有し、Co(111)の結晶面距離(0.23nm)が確認された。このことから、例2の試料は、コバルト(Co)粒子を含有する炭素殻を有することが分かった。シリコン粒子の粒径を測定したところ、平均粒径は、100nmであり、原料に用いたシリコン粒子の粒径と同じであった。
【0075】
図12は、
図11に四角で示す領域のC、CoおよびSiの元素マッピングを示す。
図12は、グレースケールで示すが、明るく示される領域に元素が存在することを示す。
図12によれば、例2の試料全体にCおよびCoが分散して位置したが、Siは内部にのみ位置した。このことからも、例2の試料は、Coを含有する多孔質炭素支持体と、その内部に支持されたシリコン粒子とを含む複合体であることが確認された。また、
図11のHRTEM像と
図12の元素マッピングから、シリコン粒子は、実質的に炭素膜に被覆されていないことが分かった。
【0076】
以上から、
図2に示す本発明の方法を実施することにより、Coを含有する多孔質炭素支持体と、その内部に支持されたシリコン粒子とを含有する複合体が得られることが示された。特に、100℃より高く140℃未満の温度範囲で水熱合成することにより、シリコン粒子が多孔質炭素支持体内に支持されることが示された。
【0077】
図13は、焼成後の例2の試料の粒径分布を示す図である。
【0078】
図13によれば、例2の試料は、平均0.64μmの直径を有することが分かった。このことからも、例2の試料は、内部に直径100nmのシリコン粒子を含有することが示された。
【0079】
図14は、焼成後の例2の試料のXRDパターンを示す図である。
【0080】
図14には、Si粒子およびCo金属のXRDパターンを併せて示す。
図14によれば、例2の試料は、28.6°、47.5°、56.4°に回折ピークを有した。これらの回折ピークは、それぞれ、Siの(111)、(220)、(311)の回折ピークに一致した。例2の試料は、さらに、44.2°、51.5°、75.9°に回折ピークを有した。これらの回折ピークは、それぞれ、Coの(111)、(200)、(220)の回折ピーク(ICSD No.01-077-7451)に一致した。例2の試料は、さらに、アモルファス炭素を示す27°近傍にブロードなピークを有した。このことからも、
図2のステップS230の焼成によって、有機物はアモルファス炭素に炭化されたことが分かった。図示しないが、例5の試料のXRDパターンも、Siの回折ピークを有しない以外は、例2の試料のそれと同様であり、燃焼によりアモルファス炭素となることが分かった。
【0081】
図15は、焼成後の例2の試料のラマンスペクトルを示す図である。
【0082】
図15によれば、例2の試料は、波数520cm
-1、677cm
-1および945cm
-1に明瞭なピークを示した。これらの波数520cm
-1および945cm
-1のピークはSi-Siの結合に基づくピークであり、677cm
-1のピークはCoのピークであった。また、例2の試料は、波数1360cm
-1および1580cm
-1に炭素のDバンドおよびGバンドに基づくピークを示した。このような炭素のDバンドおよびGバンドの存在は、例2の試料が導電性に優れることを示唆する。さらに、炭素のDバンドおよびGバンドの存在により、例2の試料中の炭素は無秩序なグラフェン様構造を有しており、Liイオンが拡散可能なパスを多く有しており、リチウム二次電池のアノード電極として有利であることが分かった。
【0083】
図16は、焼成後の例2の試料のXPSスペクトルを示す図である。
【0084】
図16によれば、例2の試料は、C、CoおよびSiに加えて、窒素(N)および酸素(O)を含有することが分かった。さらに、例2の試料中のC、O、N、SiおよびCoの含有量(原子%)は、それぞれ、80.4原子%、10.6原子%、4.2原子%、3.0原子%および1.7原子%であった。この結果は、原料組成から換算し、多孔質炭素支持体内のシリコン粒子は、表面が炭素膜で覆われていないか、または、覆われていたとしても単層の炭素膜を有するにすぎないことを示唆する。例1および例3の試料では、多孔質炭素支持体内に支持されるシリコン粒子が少ないため、Siの含有量は1原子%未満であった。表2には、XPSから求めたSi/Cの原子比とCoの質量%とを示す。
【0085】
【0086】
例2の試料は、炭素(C)、シリコン(Si)、コバルト(Co)、窒素(N)および酸素(O)を含有し、組成式CaSibCocNdOeで表され、a+b+c+d+e=1とすると、原子比のパラメータa~eは、以下を満たす複合体であった。
0.75≦a≦0.85
0.02≦b≦0.04
0.015≦c≦0.02
0.04≦d≦0.06
0.08≦e≦0.15
【0087】
図17は、焼成後の例2の試料の窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0088】
図17によれば、例2の試料の窒素吸脱着等温線のIUPAC分類は、IV型に分類され、例2の試料は、細孔径1nm~50nmの範囲のメソポアを有する多孔体であることが分かった。
【0089】
図18は、焼成後の例2の試料の細孔径分布を示す図である。
【0090】
図18は、
図17の窒素吸脱着等温線からBarrett-Joyner-Halenda(BJH)モデルにより算出した細孔径分布である。
図18によれば、例2の試料は、1nm以上4nm以下の中心細孔直径を有することが分かった。このように、例2の試料はメソポアを多数有するため、アノード電極材料に用いれば、電極と電解液とが十分に接触し、電解液の浸透を促進し、リチウムイオンの拡散距離を低減できる。
【0091】
例1~例3の試料の比表面積および細孔容積を表3にまとめて示す。
【0092】
【0093】
図19は、例2の電池のサイクリックボルタンメトリ(CV)特性を示す図である。
【0094】
図19には、0.01V~V(vsLi/Li
+)の範囲を0.1mVs
-1で掃引した際の最初の4サイクル時の典型的なアクティベーションのCV特性を示す。最初のリチエーション(Liの挿入)プロセスでは、1Vから0.4Vにわたってブロードなカソードピーク電位を示したが、2回目以降のサイクルでは消失した。この不可逆的な結果は、電極の表面に安定なSEI膜が形成されたためである。デリチエーション(Liの脱離)プロセスにおいて、0.3Vと0.5Vの2つのアノードピーク電位が見られた。これは、アモルファスLi
xSi(1<x<3.75)からSiへの相変化に起因する。例2の試料中の電解液とシリコン粒子との間の素早くかつ十分な接触により、アクティベーション時のアノードピークにおける電流値の増大を小さく抑えることができた。
【0095】
図20は、例2の電池のガルバノスタット充放電曲線を示す図である。
【0096】
図20に示す傾向から、電流密度0.5Ag
-1において3592mAhg
-1の高い比容量が得られた。1回目のガルバノスタット充放電曲線から初期クーロン効率(ICE)を算出したところ、70%であった。一方、原料に用いたシリコン粒子そのものからなるアノード電極のそれは、36%であった。例2の試料は、リチウム二次電池のアノード電極材料として有効であることが示された。
【0097】
【0098】
表4には他の電池の初期クーロン効率および比容量を併せて示す。例2の電池は、非特許文献1と同様に高い初期クーロン効率を有しつつ、非特許文献1よりも劇的に大きな比容量を有することが分かった。このような違いは、製造時に高分子分散剤を用い、所定温度の水熱合成を得て焼成することにより、炭素膜で覆われていないか、または、単層の炭素膜で覆われたシリコン粒子を内部に支持した多孔質炭素支持体からなる複合体となるため、シリコン本来の特性を発揮できるためである。また、例2の電池は、例1および例3の電池と比較して、クーロン効率および比容量ともに高かった。このような違いは、水熱合成時の温度条件が影響しており、炭素膜で被覆されることなくシリコン粒子を多孔質炭素支持体内に多く支持させることが重要といえる。
【0099】
図21は、例2の電池のガルバノスタット充放電曲線の電流密度依存性を示す図である。
【0100】
図21によれば、電流密度0.2Ag
-1において、比容量は3714mAhg
-1であり、Si本来の比容量を大幅に増大できることが分かった。電流密度を5Ag
-1まで増大すると、例2の電池の比容量は減少したものの、1237mAhg
-1を維持した。
【0101】
図22は、例2の電池および例5の電池のレート特性を示す図である。
図23は、例6電池のレート特性を示す図である。
【0102】
図23によれば、シリコン粒子からなるアノード電極を用いた例6の電池の比容量は、1636.8mAhg
-1から43.1mAhg
-1まで急激に減少した。
図22に示すように、シリコン粒子を含有しない例5の電池のレート特性は、Liイオンの貯蔵に多孔質構造が寄与しているものの、どの電流密度においても比容量は低かった。
【0103】
一方、
図22に示すように、例2の電池のレート特性は、大きな電流密度でも素早い応答を示し、大きな比容量を示した。このことは、多孔質炭素支持体内にシリコン(Si)粒子が支持された複合体がアノード電極に有効であることを示す。
【0104】
図24は、例2の電池および例6の電池のサイクル特性を示す図である。
図25は、例5の電池のサイクル特性を示す図である。
【0105】
図25によれば、例5の電池の1サイクルの放電容量および充電容量は、500mAg
-1において、それぞれ、369mAhg
-1および170mAhg
-1であった。さらに、例5の電池の可逆容量は、15サイクル以降、約120mAhg
-1で安定であった。
【0106】
図24によれば、シリコン粒子からなるアノード電極を用いた例6の電池の場合、充放電プロセス時に急激に容量が低下するが、例2の電池に示すように、シリコン粒子を多孔質炭素支持体で支持することにより、顕著に比容量が増大した。さらに、例2の電池のクーロン効率は、2サイクルで91%まで増加し、2サイクルから350サイクルまでの平均クーロン効率は、99.8%であった。例2の電池の可逆容量は、350サイクル以降であっても1977.5mAhg
-1の高い値を維持した。
【0107】
このことからも、多孔質炭素支持体にシリコン粒子を支持することが、Liの貯蔵に有利であり、さらに支持されたシリコン粒子が炭素被膜で被覆されていないため、優れたレート特性を示すことが分かった。
【0108】
図26は、例2の電池および例6の電池のナイキストプロットを示す図である。
【0109】
例2の電池も例6の電池も、高周波数側にて半円を、低周波数側にてスロープを示し、同様の傾向を示した。半円形状は、電極と電解質との間の界面での電荷移動抵抗に起因し、スロープ形状は、Liイオンの拡散に係るWarburgインピーダンスに起因する。しかしながら、例2の電池における電荷移動は、例6の電池のそれより劇的に改善され、シリコン粒子が多孔質炭素支持体によって支持されたことにより、早い応答を可能にした。
【0110】
このことからも、多孔質炭素支持体にシリコン粒子を支持することが、導電性の向上に有利であり、さらに支持されたシリコン粒子が炭素被膜で被覆されていないため、Liイオンの素早い電荷移動チャネルを提供することが分かった。
【0111】
図27は、例2の電池の別のサイクル特性を示す図である。
図28は、例1の電池および例3の電池のサイクル特性を示す図である。
【0112】
図27は、最初の5サイクルを500mAg
-1の電流密度で、それ以降のサイクルを5000mAg
-1の電流密度で測定した結果である。最初のサイクルにおいて、シリコン粒子の高いリチエーションにより比容量がわずかに減少し、体積変化や可逆容量の減少が生じた。1000サイクル後も、例2の電池は、820mAhg
-1の高い可逆容量を維持した。この値は、市販品であるグラファイトアノード電極(372mAhg
-1)の2倍以上であった。例2の電池の平均クーロン効率は、99.4%であった。
【0113】
図28には
図27に示す例2の電池のサイクル特性の結果を併せて示す。
図28によれば、例1および例3の電池のサイクル特性は、例2の電池のそれよりも悪かった。このことからも、多孔質炭素支持体内にシリコン粒子をより多く支持することが、レート特性およびクーロン効率の改善に有効であることが分かった。
【0114】
図29は、例2の電池の充放電前および充放電(100サイクル)後のTEM像を示す図である。
図30は、例2の電池の充放電前および充放電(400サイクル)後のSEM像を示す図である。
【0115】
図29(A)は、充放電前の例2の電池のアノード電極のTEM像であり、
図29(B)は、1000mAg
-1で充放電(100サイクル)後の例2の電池のアノード電極のTEM像である。
図30(A)および(B)は、それぞれ、充放電前の例2の電池のアノード電極の表面および断面のSEM像であり、
図30(C)および(D)は、それぞれ、1000mAg
-1で充放電(400サイクル)後の例2の電池のアノード電極の表面および断面のSEM像である。
【0116】
図29(B)によれば、充放電後もアノード電極では、多孔質炭素支持体内に空間を有し、複合体が機械的に破壊することなく構造を維持することが分かった。
図30(A)と(C)とを比較すると、充放電後もアノード電極の表面には、明瞭なクラックや粉砕は見られなかった。一方、
図30(B)と(D)とを比較すると、例2の電池のアノード電極の厚さの増大は、わずか4.4μmであり、体積の増大は17.7%であった。
【0117】
このように、多孔質炭素支持体内にシリコン粒子を支持することによって、機械的強度が増し、長期間の充放電を行っても、体積変化を抑制し、安定性に優れることが分かった。
【0118】
図31は、例2の電池の種々の掃引速度におけるCV曲線(A)と、ピーク電流と掃引速度との関係(B)とを示す図である。
【0119】
図31(A)によれば、掃引速度を0.1mVs
-1から1mVs
-1まで増加させても、CV曲線に大きな変化はなく、ブロードなピークが維持された。図示しないが、掃引速度を10mVs
-1まで増大させたところ、明らかにひずみやピークシフトが見られた。
【0120】
図31(B)によれば、掃引速度が大きくなると、ピーク電流は外挿線からわずかにずれたが、ほぼ外挿線に一致した。このことから、例2の電池のアノード電極は、優れた電気学的機能を有することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の複合体をアノード電極材料としてリチウムイオン二次電池のアノード電極に用いれば、Liイオンの挿入・脱離による体積膨張が抑制され、高いサイクル特性およびレート特性を有する長寿命のリチウムイオン二次電池を提供できる。また、シリコンによる高容量のリチウムイオン二次電池を提供でき、ノートパソコン、携帯電話等のポータブル電子機器等に有利である。
【符号の説明】
【0122】
100 複合体
110 多孔質炭素支持体
120 シリコン粒子
300 リチウムイオン二次電池
310 カソード電極
320 アノード電極
330 電解質
340 セパレータ
350 セル