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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】電気式連続型焼付炉
(51)【国際特許分類】
   B05C 9/14 20060101AFI20240603BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240603BHJP
   F27B 9/30 20060101ALI20240603BHJP
   F27D 7/04 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B05C9/14
F27D17/00 104G
F27B9/30
F27D17/00 105A
F27D7/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022209914
(22)【出願日】2022-12-27
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】520498413
【氏名又は名称】株式会社エス.ケーガス
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】坂本 享司
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特許第7078299(JP,B1)
【文献】特開2001-310150(JP,A)
【文献】国際公開第2014/049692(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0038353(US,A1)
【文献】特開2005-083689(JP,A)
【文献】特開平06-142601(JP,A)
【文献】特開昭58-179789(JP,A)
【文献】特開昭62-152564(JP,A)
【文献】特許第7287719(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 7/00-21/00
F27B 9/00- 9/40
F27D 7/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給源と、該ガス供給源にて生成された不活性ガスを焼付温度へ加熱し焼付炉内へ送気する加熱ヒータと、搬入口から搬出口へワークを搬送する搬送手段を備えた焼付炉と、VOC除去装置と、で構成され、搬入口及び搬出口の高さが焼付炉よりも下部に備えられ搬送路に傾斜が設けられた電気式連続型焼付炉であって、
焼付炉内には、加熱ヒータにて加熱された不活性ガスを該焼付炉内へ放出する複数の噴出口と、該焼付炉内下部の排ガスを吸引しVOC除去装置へ送気する吸入口と、が備えられ、
該吸入口は、搬入口及び搬出口より上方に形成された焼付炉下方に設置され、
VOC除去装置は、焼付炉から送気された排ガスを流入させる流入孔と、ガス供給源にて生成された不活性ガスを流入させる供給孔と、排ガスを高温に加熱させVOCの分解処理を行う高温電気ヒータと、該高温電気ヒータから送気された清浄且つ高温な排ガスと供給孔から流入した不活性ガスとの熱交換を行う熱交換器と、該熱交換器により高温となった不活性ガスを加熱ヒータへ送気する流出孔と、清浄な排ガスを利用機器へ送気させる送気管と接続される送気孔と、から成ることを特徴とする電気式連続型焼付炉。
【請求項2】
前記焼付炉内の天井に、シーリングファンが備えられていることを特徴とする請求項1に記載の電気式連続型焼付炉。
【請求項3】
前記送気管に、塵埃除去装置が接続されていることを特徴とする請求項1に記載の電気式連続型焼付炉。
【請求項4】
前記焼付炉が、一端が閉塞され他端が開放されており、搬入口及び搬出口が同一箇所に設けられていると共に、該焼付炉内の搬送路がコの字状であることを特徴とする請求項1に記載の電気式連続型焼付炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気加熱された加熱空気を使用して焼付を行う電気式連続焼付炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従前より、金属製の事務機器や自動車の部品等の焼付用塗料を塗った物品(以下ワークと呼ぶ)の焼付加工は、焼付温度に加熱する熱源を備えた焼付装置により行われている。
従来の焼付装置に使用する熱源には、重油や灯油等を使用した油バーナ、LPGや都市ガスを使用したガスヒータ等が利用されており、燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素等の温室効果ガスの排出が問題となっている。
そこで、温室効果ガスの排出が低減可能な熱源を使用して焼付加工を行う焼付炉が求められていた。
【0003】
上記問題に対し、本出願人は、電気ヒータにて連続焼付が可能な技術を開発し、特許第7078299号公報(特許文献1)に記載の技術提案を行っている。かかる技術提案によれば、膜状のガスの流れで遮蔽された出入口を潜って、焼付室内に塗装したワークを連続的に搬送させつつ、電気ヒータによって加熱された不活性ガスが焼付室内で均質且つ分散して噴出されることで、高品質の焼付塗装製品を得ることができる、といった優れた効果を奏するものであった。
【0004】
しかしながら、特許文献1にかかる技術提案によれば、汚染ガスを排出するガス導出管が焼付炉の後部側に備えられているため、焼付炉の前部から中部で発生した汚染ガスが、焼付炉内へ導入された不活性ガスの噴出により拡散してしまい、ワークの焼付に支障をきたしてしまうおそれも想定し得るものであった。
【0005】
本出願人は、以上のような従来における連続型焼付炉内にて滞留する汚染ガスの回収方法や、汚染ガスの無害化といった問題に着目し、焼付炉下部に滞留した汚染ガスを回収して無害化した後に排出できないものかという着想のもと、回収した汚染ガスに含まれる汚染物質を高温電気ヒータの加熱により無害化して排出すると共に、高温化した排ガスを焼付炉内へ送気される不活性ガスの一次加熱用熱源として利用可能な焼付炉を開発し、本発明にかかる「電気式連続型焼付炉」の提案に至るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第7078299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、回収した汚染ガスに含まれる汚染物質を高温電気ヒータの加熱により無害化して排出すると共に、高温化した排ガスを焼付炉内へ送気される不活性ガスの一次加熱用熱源として利用可能な電気式連続型焼付炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、ガス供給源と、該ガス供給源にて生成された不活性ガスを焼付温度へ加熱し焼付炉内へ送気する加熱ヒータと、搬入口から搬出口へワークを搬送する搬送手段を備えた焼付炉と、VOC除去装置と、で構成され、搬入口及び搬出口の高さが焼付炉よりも下部に備えられ搬送路に傾斜が設けられた電気式連続型焼付炉であって、焼付炉内には、加熱ヒータにて加熱された不活性ガスを該焼付炉内へ放出する複数の噴出口と、該焼付炉内下部の排ガスを吸引しVOC除去装置へ送気する吸入口と、が備えられ、VOC除去装置は、焼付炉から送気された排ガスを流入させる流入孔と、ガス供給源にて生成された不活性ガスを流入させる供給孔と、排ガスを高温に加熱させVOCの分解処理を行う高温電気ヒータと、該高温電気ヒータから送気された清浄且つ高温な排ガスと供給孔から流入した不活性ガスとの熱交換を行う熱交換器と、該熱交換器により高温となった不活性ガスを加熱ヒータへ送気する流出孔と、清浄な排ガスを利用機器へ送気させる送気管と接続される送気孔と、から成る手段を採る。
【0009】
また、本発明は、前記焼付炉内の天井に、シーリングファンが備えられている手段を採る。
【0010】
さらに、本発明は、前記送気管に、塵埃除去装置が接続されている手段を採る。
【0011】
またさらに、本発明は、前記焼付炉が、一端が閉塞され他端が開放されており、搬入口及び搬出口が同一箇所に設けられていると共に、該焼付炉内の搬送路がコの字状である手段を採る。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる電気式連続型焼付炉によれば、焼付炉下部の排ガスを吸引しVOC除去装置へ送気することにより、ワークの焼付工程中においても焼付炉内の不活性ガスを清浄に保つことが可能になる、といった優れた効果を奏する。
また、VOC除去装置内に高温電気ヒータが配設されていることにより、焼付炉内から吸引された排ガスを、排ガス中のVOCが無害化された高温の排ガスにすることが可能となる。
さらに、VOC除去装置内に熱交換器が配設されていることにより、高温の排ガスとガス供給源にて生成された常温の不活性ガスが熱交換され、高温の不活性ガスとして加熱ヒータ及び焼付炉へ送気することが可能となるため、不活性ガスに対し、常温から高温に加熱するために必要な熱源の有効利用に資する。
【0013】
また、本発明にかかる電気式連続型焼付炉によれば、搬入口及び搬出口の高さが焼付炉よりも下部に備えられることにより、高温の不活性ガスが上部に備えられた焼付炉全体に滞留することで高温の空気層を形成するため、下部に備えられている搬入口及び搬出口側からの外気侵入を防ぐことが可能となる、といった優れた効果を奏する。
【0014】
さらに、本発明にかかる電気式連続型焼付炉によれば、焼付炉の天井にシーリングファンが備えられていることにより、焼付炉内の空気が撹拌されることで、焼付温度の均一化に資すると共に、該焼付炉の天井から下部へ向けた風流の形成により、焼付炉内にて発生した汚染ガスの拡散を抑制することが可能となる、といった優れた効果を奏する。
【0015】
またさらに、本発明にかかる電気式連続型焼付炉によれば、送気管に塵埃除去装置が接続されることにより、排ガス中に含有される塵埃や水蒸気といった異物の除去を行うことが可能となり、後段に接続された利用機器への清浄な排ガスの送気に資する、といった優れた効果を奏する。
【0016】
さらにまた、本発明にかかる電気式連続型焼付炉によれば、焼付炉の搬入口及び搬出口が同一箇所に設けられ、該焼付炉内の搬送路がコの字状であることにより、焼付炉の全長を半分程度にすることが可能となり、焼付工程における設備の省スペース化に資すると共に、外気の侵入経路が一箇所になるため外気との遮蔽層形成が容易となる、といった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明にかかる電気式連続型焼付炉の実施形態を示す説明図である。
図2】本発明にかかる電気式連続型焼付炉の他の実施形態を示す説明図である。
図3】本発明にかかる電気式連続型焼付炉の他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかる電気式連続型焼付炉は、搬入口及び搬出口の高さが焼付炉よりも下部に備えられ搬送路に傾斜が設けられた電気式連続型焼付炉において、VOC除去装置へ送気された排ガスを高温電気ヒータにて無害化すると共に、高温化した排ガスを焼付炉内へ送気される不活性ガスの一次加熱用熱源として利用することを最大の特徴とする。
以下、本発明にかかる電気式連続型焼付炉の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0019】
尚、本発明にかかる電気式連続型焼付炉は、以下に述べる実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、すなわち同一の作用効果を発揮できる形状や寸法、材質等の範囲内で適宜変更することができるものである。
【0020】
図1は、本発明にかかる電気式連続型焼付炉の実施形態を示す説明図である。図2は、本発明にかかる電気式連続型焼付炉の実施形態を示す説明図であり、具体的には、搬入口及び搬出口が同一箇所に設けられた場合の実施態様を示している。図3は、本発明にかかる電気式連続型焼付炉の実施形態を示す説明図であり、(a)は塵埃除去装置の後段に分岐点を設け吸入口に接続された配管と合流させた状態、(b)は塵埃除去装置の後段に分岐点を設けガス供給源に接続された配管と合流させた状態を示している。
本発明にかかる電気式連続型焼付炉1は、ガス供給源2と、加熱ヒータ3と、焼付炉4と、で構成されている。また、本発明で焼付対象とするワークWには特に限定はなく、例えば、焼付用の塗料が塗られた金属製の事務機器や自動車の部品、飲料缶等が考え得る。なお、電気式連続型焼付炉1における各装置間には、当然に配管が設けられている。該配管に使用される素材には特に限定はなく、送気されるガスの温度に耐え得る素材が適宜使用されることとなる。
【0021】
(ガス供給源)
ガス供給源2は、VOC除去装置5及び加熱ヒータ3を介して焼付炉4内へ供給されるガスを生成するための装置である。
ガス供給源2にて生成されるガスについては、ワークWへ使用される焼付塗料が酸化による変色等を起すことのない不活性ガスを使用する。例えば、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスが使用可能であるが、窒素ガスを使用する場合には、窒素ガス製造機で製造し、これをガス供給源2とすることができる。なお、ガス供給源2として使用される装置の構造については、特に限定するものではなく、従来公知の技術を有した装置を用いれば良い。
ガス供給源2にて生成された不活性ガスは、VOC除去装置5に備わった熱交換器21における熱交換によって加熱された後、加熱ヒータ3にて適切な焼付温度に調整され、焼付炉4内へ送気されることとなる。
【0022】
(加熱ヒータ)
加熱ヒータ3は、ガス供給源2にて生成された不活性ガスを焼付温度まで加熱し、配管を介して焼付炉4内へ流入させるものである。
加熱ヒータ3は、電気によって加熱が行われるヒータであり、熱交換器21における熱交換で高温になったガスを、ワークWの焼付加工に適した温度まで自動もしくは手動にて加熱を行うものである。なお、加熱ヒータ3として使用される装置の構造については特に限定はなく、従来公知の装置を用いれば良い。また、加熱ヒータ3に設定される温度についても、焼付塗装に使用される塗料によって決定されれば良く、例えば、アクリル系の塗料を使用する場合は140℃から180℃の間で決定される。
なお、図示してはいないが、焼付炉4へ流入させるガスの圧力を安定させるため、配管の適宜位置にブロア16を設けても良い。
【0023】
(焼付炉)
焼付炉4は、加熱ヒータ3にて温度調整された高温ガスを使用して、ワークWに対し焼付加工を行うものである。
焼付炉4は、焼付するワークWに適する大きさの焼付領域を有し、該焼付炉4の前後に、ワークWの移動・出入に支障がない程度に開口した搬入口12及び搬出口13を夫々備えると共に、該焼付炉4内には、一乃至複数の噴出口10及び吸入口11が設けられている。
ワークWの焼付工程において、焼付領域内の高温ガスは、高温によって変化した溶剤由来物質が含有されることで汚染されていくため、図1に図示したように、汚染された高温ガスを吸入可能な一乃至複数の吸入口11が設けられる。
また、焼付炉4には、ワークWを並べて連続的に支持しつつ、搬入口12及び搬出口13を介して焼付炉4の焼付領域内外を搬送する搬送手段14が当然に備えられる。該搬送手段14におけるワークWの支持方法については特に限定はなく、ワークWの形状や焼付態様に応じて、ベルトコンベアや吊下げ式の移動機等を選択することとなる。
【0024】
図示してはいないが、焼付炉4内の焼付領域に温度センサを設ける態様も考え得る。この態様を採ることで、検知された温度により加熱ヒータ3の加熱温度を制御し、焼付領域内の高温ガスが一定の焼付温度に維持されるよう手動又は自動で調整することも可能となる。
また、焼付領域に圧力センサを設ける態様も好適である。この態様を採ることで、検知された圧力によりガス供給源2の不活性ガス生成量を制御し、焼付領域内の高温ガスが一定の圧力に維持されるよう手動又は自動で調整することも可能となる。
さらに、焼付領域両端部近傍に酸素濃度計を設ける態様も考え得る。この態様を採ることにより、該焼付領域内への外気侵入を把握しワークWへの酸化現象を防ぐことが可能となり、一定以上の酸素濃度が検出された場合、警告灯等による報知や、焼付炉4自体の稼働を停止させ、外気侵入箇所の確定や、充填されている不活性ガスの入れ替え、といった対策が実行可能となる。
【0025】
(搬入口・搬出口)
搬入口12は、ワークWを焼付炉4の焼付領域内へ搬入するための入口であり、また、搬出口13は、ワークWを焼付炉4の焼付領域外へ搬出するための出口である。
搬入口12及び搬出口13の大きさや形状は特に限定はなく、ワークWの形状や種類によって適宜決定されることとなるが、少なくともワークW以上の大きさを有してワークWの移動・出入に支障がない程度に開口した態様となる。
また、焼付炉4の形状によっては、図2に図示したような、搬入口12及び搬出口13が同一箇所に設置される態様も考え得る。この態様を採る場合、搬入口12及び搬出口13が一の開口部において、ワークWが接触しない程度に隣接して配設されることとなる。
【0026】
(噴出口)
噴出口10は、加熱ヒータ3にて加熱された高温ガスを噴出することで、焼付領域内の温度を焼付加工に適した温度に保持するものである。
噴出口10は、焼付炉4領域の内壁にて長手方向に延伸された配管に複数設けられ、加熱ヒータ3にて温度調整された高温ガスを夫々の噴出口10から焼付領域内へ噴出することとなる。噴出口10の設置位置に関して特に限定はないが、天面部や側面部、もしくは底面部等に配設されることで一乃至複数方向からワークWに対して高温ガスを噴出させることが可能となる。また、噴出口10の形状は特に限定はしないが、焼付領域内へ分散状態にガスを噴出させる形状が好適である。さらに、噴出口10の数についても特に限定しないが、図1及び図2に図示したような天面部に等間隔に設ける態様や、図示してはいないが、天面部と側面部に等間隔で設けた噴出口10を交互に設置する態様を採ることで、焼付領域内において複数の渦状気流が発生するため、ワークW表面が渦状気流により覆われつつ焼付温度まで上昇させることが可能となる。
【0027】
(吸入口)
吸入口11は、焼付領域内下部に滞留するVOC(揮発性有機化合物)が含有された高温ガスを吸入し、汚染ガスとしてVOC除去装置5へ送気するものである。
焼付加工が行われる焼付領域内では、ワークWを連続して焼付することで、溶剤が高温で変化した溶剤由来物質であるVOC等の汚染物質(以降、単に「汚染物質」という場合がある。)が不活性ガスと混合し、汚染されたガス(以降、「汚染ガス」という。)が発生してしまう。この汚染ガスは、焼付領域内に充填されている不活性ガスよりも比重が高くなるため、焼付炉4の下方に滞留することとなる。
吸入口11は、焼付炉4下方に備えられることにより、汚染物質を含み焼付領域の下方に滞留してしまった汚染ガスを吸入し、汚染物質を分解・除去可能なVOC除去装置5へ送気することで、焼付炉4内の汚染を防ぐものである。
吸入口11の設置箇所や設置数について特に限定はしないが、図1に図示したように、不活性ガス中の汚染物質濃度が上昇しやすい焼付領域内の所定箇所、例えば、略中央部分近傍やワークWの焼付が終了する室内後部に、汚染ガスを吸入可能な複数の吸入口11を等間隔に設ける態様が望ましい。また、該吸入口11と接続される配管を一の配管に纏め、吸入口11から吸入した汚染ガスを合流させた後に、配管の合流地点近傍に備えたブロア16によって汚染ガスの流速を増加させ、後段に配設される高温電気ヒータ20へ送気させる態様も好適である。
吸入口11による吸入量は、噴出口10による噴出量と同量もしくは同量以下とすることで、焼付領域内に充填されている不活性ガスが常時充満している状態を維持することが可能となり、さらに、焼付領域に充填される不活性ガスの余剰分によって、焼付領域から焼付炉4の開口部分である搬入口12及び搬出口13へ向けた気流が形成されることとなり、外気侵入が防止できるといった優れた効果も発揮し得る。
【0028】
(シーリングファン)
シーリングファン15は、焼付領域内の不活性ガスを撹拌すると共に、焼付領域上方から下方に向けた気流を形成するものである。
シーリングファン15は、プロペラ形状を有し、焼付領域の天井に設置される。シーリングファン15の大きさや数、設置箇所について特に限定はなく、焼付領域の距離や高さを考慮し適宜決定される。
シーリングファン15の回転によって焼付領域内の不活性ガスを撹拌することで、該焼付領域内に充填されている高温の不活性ガスの温度を均一化すると共に、該焼付炉の天井から下部へ向けた風流の形成により、焼付炉内にて発生した汚染ガスの拡散を抑制することが可能となる
【0029】
(遮蔽手段)
搬入口12及び搬出口13は常時開放状態であるため、開口部分より大気が流入し焼付炉4に充填されている不活性ガスの温度を低下させる他、大気に含まれる酸素によりワークWの焼付時に酸化してしまう等、ワークWの焼付品質に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、搬入口12及び搬出口13の開口部近傍に、例えば、焼付炉内外に搬送されるワークWと連動し自動的に開閉動作を行う自動開閉扉を設けたり、図2に図示したような焼付領域の内外を仕切るエアカーテンを形成する遮蔽手段17を設けたりする態様が好適である。
図2に図示した態様を採る場合、遮蔽手段17から略垂直上且つ膜状に放出されるガスをガス供給源2にて供給され加熱ヒータ3を経由した高温の不活性ガスにすることで、搬入口12及び搬出口13の開口部分からの外気侵入を防ぐと共に、焼付炉4内に充填された不活性ガスの温度低下も防ぐことが可能である。また、遮蔽手段17の設置箇所については、特に限定はないが、図示したような開口部の天面側や底面側から垂直一方向に放出可能な箇所や、開口部の天面側及び底面側の上下に夫々備え、上下二方向から垂直に放出可能な箇所等が考え得る。
【0030】
(VOC除去装置)
VOC除去装置5は、吸入口11から吸入した汚染ガスに含有されるVOCを高温に加熱することで分解し無害化すると共に、高温となり無害化された汚染ガス(以降、「排ガス」という。)と、ガス供給源2から供給された不活性ガスとの熱交換を行うものである。
VOC除去装置5は、中空部を有する箱状体であり、吸入口11によって焼付領域から吸入された汚染ガスをVOC除去装置5内へ流入させる流入孔22と、該流入孔22から流入した汚染ガスを高温に加熱することで汚染ガスに含有されたVOCを分解する高温電気ヒータ20と、ガス供給源2から供給される不活性ガスをVOC除去装置5内へ流入させる供給孔23と、該供給孔23から流入した常温の不活性ガスと高温電気ヒータ20にて高温となった排ガスを熱交換する熱交換器21と、該熱交換器21にて熱交換し高温となった不活性ガスを加熱ヒータ3へ送気する流出孔24と、該熱交換器21にて熱交換し温度が低下した排ガスを後段に送気する送気孔25が夫々備えられている。
【0031】
(流入孔)
流入孔22は、吸入口11から吸入された汚染ガスを高温電気ヒータ20へ流入させる孔である。
流入孔22の径の大きさは特に限定はないが、汚染ガスが送気される配管と同径以上の大きさとすることで、汚染ガスの圧力を損じることなく高温電気ヒータ20へ流入させることが可能となる。
【0032】
(高温電気ヒータ)
高温電気ヒータ20は、流入孔22からVOC除去装置5内へ流入した汚染ガスを高温に加熱することで、汚染ガスに含有されるVOCを分解し無害化するものである。
高温電気ヒータ20は、吸入口11にて吸入し配管を介して流入孔22から流入させた汚染ガスを、電気ヒータによって高温に加熱することで、VOCを分解し汚染ガスを無害化させた排ガスにするものである。高温電気ヒータ20として使用される装置の構造については特に限定はなく、従来公知の技術を有した装置を用いれば良い。また、高温電気ヒータ20に設定される温度については、焼付炉4から排出される汚染ガス内のVOCを分解させるため、電気ヒータにて800度から900度近傍まで加熱する態様が好ましい。この態様を採ることにより、汚染ガス中のVOCは水と二酸化炭素に分解されるため、無害化された高温の排ガスとして後段の熱交換器21へ送気されることとなる。
【0033】
(供給孔)
供給孔23は、ガス供給源2によって生成された不活性ガスを、熱交換器21へ送気させるものである。
供給孔23の径の大きさは特に限定はないが、ガス供給源2から送気される不活性ガスの配管と同径以上の大きさとすることで、不活性ガスの圧力を損じることなく熱交換器21へ流入させることが可能となる。
【0034】
(熱交換器)
熱交換器21は、高温電気ヒータ20から送気された高温の排ガスと、供給孔23から流入された常温の不活性ガスとの熱交換を行うものである。
熱交換器21は、高温電気ヒータ20から送気された高温の排ガスと、ガス供給源2にて生成され供給孔23を介して送気された常温の不活性ガスを夫々熱交換器21内に流入させ、高温の排ガスが有する熱エネルギーを常温の不活性ガスへ移動させることにより高温の排ガスの温度を低下させると共に、常温の不活性ガスの温度を上昇させる装置である。
熱交換器21の構造については従来公知の技術を使用すれば良く、例えば、コイル形状やUチューブ形状等を使用した二重管方式を使用する態様等が考え得る。
なお、高温の排ガスにおける熱交換器21からの排出温度は、後段に配設される異物除去装置30にて使用される吸着剤やフィルタの耐熱温度や吸着効率をもとに決定されるため、例えば、大気と熱交換が可能な熱交換器を増設し、排ガスの排出温度をさらに低下させる態様も考え得る。
【0035】
(流出孔)
流出孔24は、熱交換器21による熱交換により高温となった不活性ガスを、加熱ヒータ3に送気するものである。
流出孔24の径の大きさに限定はないが、供給孔23と同径以上の大きさとすることで、不活性ガスの圧力を損じることなく加熱ヒータ3へ流入させることが可能となる。
加熱ヒータ3へ流入した高温の不活性ガスは、焼付炉4内にて使用される不活性ガスとして必要な温度に調整され、送気されることとなる。
【0036】
(送気孔)
送気孔25は、熱交換器21による熱交換により温度の低下した排ガスを、異物除去装置30に送気するものである。
送気孔25の径の大きさに限定はないが、流入孔22と同径以上の大きさとすることで、排ガスの圧力を損じることなく異物除去装置30へ流入させることが可能となる。
【0037】
(異物除去装置)
異物除去装置30は、熱交換器21にて温度の低下した排ガス中に残留する塵埃等の不純物や水蒸気といった異物(以下、単に「異物」という場合がある。)を分離・除去するものである。
異物除去装置30は、焼付炉4から排出される汚染ガス中に含有された塵埃等の不純物やVOC等の有害物質のうち、高温電気ヒータ20による高温で除去しきれなかった物質やVOCの分解によって生じた水蒸気の分離・除去を行い、後段へ送気させることとなる。異物除去装置30の構造は特に限定しないが、例えば、排ガス中の水蒸気を除去するエアドライヤと、遠心分離機構を利用した塵埃・水分除去フィルタと、活性炭やゼオライト等を使用した吸着剤を中空部へ充填した異物除去フィルタへ排ガスを送気し通過させる態様が考え得る。この態様を採ることにより、排ガス中の異物が除去されることで清浄な排ガスとして後段に送気可能となり、前処理用乾燥炉等の装置に使用可能となる。
【0038】
図3に図示したように、異物除去装置30を経由して清浄となった排ガスは、後段の装置へ送気する配管を分岐させ、電気式連続型焼付炉1として配設されている配管と接続し合流させることで、使用されるガスの一部を電気式連続型焼付炉1内で循環させる態様も考え得る。例えば、(a)に図示したような吸入口11から吸入された汚染ガスと合流させる態様や、(b)に図示したようなガス供給源2から送出される不活性ガスと合流させる態様が考え得る。これらの態様を採ることにより、電気式連続型焼付炉1全体で使用されるガスの使用量の一部を清浄な排ガスで賄うことが可能となり、不活性ガスの新規生成量の減少に資するといった優れた効果を奏する。
【0039】
以上の構成要素から成る電気式連続型焼付炉1について、その主な動作及び作用を説明する。
(ガス主体)
まず、ガス供給源2にて生成された不活性ガスは、熱交換器21を経由した後に、必要に応じて加熱ヒータ3にて高温に加熱されて高温ガスとなり、焼付炉4内の噴出口10へ送気される。
噴出口10に送気された高温ガスは、焼付炉4の焼付領域内へ搬送されたワークWへ吹出されることで焼付加工を行った後、汚染ガスとして吸入口11から吸入されることとなる。そして、吸入された汚染ガスは、VOC除去装置5内に配設された高温電気ヒータ20の加熱によってVOCが分解された後、熱交換器21を介すことでガス供給源2から送気される不活性ガスとの熱交換が行われ、温度が低下する。その後、排ガスは、異物除去装置30によって塵埃や水分等の分離・除去が行われ、清浄な排ガスとして後段に配設された利用機器へ送気されることとなる。
【0040】
(ワーク主体)
図1に示すように、搬入口12側と搬出口13側とは前後対称の構造とするので、以下搬入口12側の方を詳述し、搬出口13側は簡略に説明する。
まず、搬送手段14によるワークWの搬送により搬入口12から焼付炉4の焼付領域内に侵入する。この際、搬入口12が焼付炉4よりも下部に設けられていると共に、焼付領域内において高温ガスが常時供給されていることにより、焼付領域側から搬入口12へ向けた気流が発生するため、ワークWは高温ガスを周囲に纏わせた状態で搬送手段14の傾斜を上昇し、焼付炉4内へ搬送されていくこととなる。
焼付領域内においてワークWは、複数の噴出口10から吹出される高温ガスによって焼付加工が行われ、焼付加工が終了したワークWは、搬出口13へ向けて搬送される。
搬出口13も搬入口12同様、焼付炉4よりも下部に設けられているため、ワークWは高温ガスを周囲に纏わせた状態から徐々に冷却されつつ搬送手段14の傾斜を下降し、その後搬出口13から搬出され後段の装置へ搬送されることとなる。
【0041】
以上、本発明にかかる電気式連続型焼付炉1の主要動作及び作用について説明したが、本発明は上記実施形態で示した構造態様に限定されるものではない。例えば、熱交換器21の後段に別の熱交換器を配設し、高温の排ガスとガス供給源2にて生成された常温の不活性ガスを熱交換させることで、排ガスの温度を更に低下させると共に、常温よりも高温且つ焼付領域よりも低温の不活性ガスを遮蔽手段17として設置したエアカーテンから噴出させ、ワークWの温度を段階的に変化させることが可能となる。
なお、電気式連続型焼付炉1には、各計器類(温度計、風圧計、風速計、風量計、窒素濃度計、ワーク搬送速度計等)が必要に応じて備えられる。例えば、温度計であれば、焼付炉4内や、熱交換器21の排出側の他にも、焼付工程中や搬入・搬出時におけるワークW自体の温度計測等にも使用され、夫々の測定値によって、適正温度に向けた加熱ヒータ3によるガス温度調整や温度異常検出に伴う警報発出等が行われることとなる。
【0042】
以上の通り、本発明にかかる電気式連続型焼付炉1によれば、ガス供給源2にて生成した不活性ガスは、熱交換器21及び加熱ヒータ3によって加熱されることで高温ガスとして焼付炉4内に送気され、該焼付炉4に備えられた噴出口10から吹出されることで焼付領域内へ搬入されたワークWの焼付加工を行いつつ、高温ガスの一部が焼付加工時に発生した汚染物質を含有した汚染ガスへ変化し焼付領域下部に滞留し、吸入口11から吸引されることで高温電気ヒータ20へ送気され、該高温電気ヒータ20による高温加熱によって汚染ガス中のVOCが分解及び無害化された後、高温の排ガスとして熱交換器21へ流入することで、ガス供給源2にて生成された常温の不活性ガスと熱交換を行う電気式連続型焼付炉1を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明にかかる電気式連続型焼付炉は、電気ヒータによってワークへの加熱焼付加工及び焼付加工時に発生したVOCの無害化を行うものであるが、加熱対象は金属製品に限らず、VOCの発生が考え得る印刷施設や接着剤使用施設における焼付工程の設備に応用することも可能である。したがって、本発明にかかる「電気式連続型焼付炉」の産業上の利用可能性は大であると思料する。
【符号の説明】
【0044】
1 電気式連続型焼付炉
2 ガス供給源
3 加熱ヒータ
4 焼付炉
5 VOC除去装置
10 噴出口
11 吸入口
12 搬入口
13 搬出口
14 搬送手段
15 シーリングファン
16 ブロア
17 遮蔽手段
20 高温電気ヒータ
21 熱交換器
22 流入孔
23 供給孔
24 流出孔
25 送気孔
30 異物除去装置

【要約】      (修正有)
【課題】回収した汚染ガスに含まれる汚染物質を高温電気ヒータの加熱により無害化して排出し、高温化した排ガスを焼付炉内へ送気される不活性ガスの一次加熱用熱源として利用可能な電気式連続型焼付炉を提供する。
【解決手段】ガス供給源と加熱ヒータと焼付炉とVOC除去装置で構成され、焼付炉内には、加熱ヒータで加熱された不活性ガスを焼付炉内へ放出する噴出口と焼付炉内下部の排ガスを吸引しVOC除去装置へ送気する吸入口が備えられ、VOC除去装置は焼付炉から送気された排ガスを流入させる流入孔とガス供給源にて生成された不活性ガスを流入させる供給孔と排ガスを高温に加熱させVOCの分解処理を行う高温電気ヒータと高温電気ヒータから送気された高温な排ガスと不活性ガスと熱交換を行う熱交換器と熱交換により高温となった不活性ガスを加熱ヒータへ送気する流出孔と清浄な排ガスを利用機器へ送気させる送気管と接続される送気孔を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3